JP6665538B2 - 鋼材伸線装置および鋼材伸線方法 - Google Patents

鋼材伸線装置および鋼材伸線方法 Download PDF

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Description

本発明は、鋼材伸線装置および鋼材伸線方法に関し、さらに詳しくは、鋼材の表層部を除去しながら伸線を行う鋼材伸線装置、およびそれを用いた鋼材伸線方法に関するものである。
線材状の鋼材に対して、2次加工の工程の1つとして、歪みの付与を目的とした伸線加工が行われる。伸線加工を行う前には、表面の傷や、酸化物等の介在物を除去する目的で、鋼材の表層部の組織を除去する皮削が行われる。また、伸線加工に際して、潤滑性を得る等の目的で、皮削後の鋼材に対して、シュウ酸塩に代表される有機物の被覆層を形成する被膜が行われることが多い。このように、皮削や被膜、伸線等の工程を段階的に行う鋼材の製造方法は、例えば下記の特許文献1に開示されている。
特開2008−169405号公報
長尺状の線材に対して所定の加工を行う際に、通常は、コイル状に巻き取った線材を端部から繰り出して、加工を施し、再度コイル状に巻き取るという方法が採られる。上記特許文献1に記載されるように、皮削や被膜、伸線等の複数の工程を順次実施する場合、コイル状に巻かれた線材に対して最初の工程を実施してコイル状に巻き取り、そのコイル状に巻かれた線材に対して二番目の工程を実施してコイル状に巻き取り、…というように、1つの工程を実施するごとに、線材をコイル状に巻き取ることになる。すると、複数の工程を実施するために、何度もコイルの巻き取りが必要となり、工程が煩雑になるのみならず、巻き取りを行うごとに、線材の表面に傷が形成される可能性が生じる。すると、皮削工程において表面の傷を除去したとしても、伸線工程に至る前に、線材に新たな傷が生じてしまう可能性がある。
本発明が解決しようとする課題は、簡素な構成により、表面の傷を除去した状態の線材状の鋼材に対して伸線を行うことができる鋼材伸線装置、およびそのような鋼材伸線方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明にかかる鋼材伸線装置は、線材として形成された鋼材を、所定の移動速度で軸線に沿って移動させながら、前記鋼材を伸線し、前記鋼材に歪みを付与する伸線部と、前記鋼材の表層部を除去して、前記移動速度と等しい速度で前記伸線部に供給する皮削部と、を有することを要旨とする。
ここで、前記伸線部は、前記鋼材を伸線する伸線ダイスと、前記伸線ダイスに導入される前記鋼材の表面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部と、を有するとよい。
この場合に、前記潤滑剤供給部は、プレッシャーダイスよりなるとよい。
さらに、前記伸線部は、前記伸線ダイスを冷却する冷却部を有するとよい。
また、前記皮削部においては、カッターを用いた切削により、前記鋼材の表層部を除去するとよい。
一方、本発明にかかる鋼材伸線方法は、上記のような鋼材伸線装置を用いて、線材として形成された鋼材に対して、表層部を除去するともに、伸線を行うことを要旨とする。
ここで、前記皮削部はカッターよりなり、前記皮削部における切削抵抗および前記伸線部における引き抜き抵抗を考慮して、前記カッターのすくい角および刃先の形状、前記伸線部における前記鋼材の移動速度を設定するとよい。
上記発明にかかる鋼材伸線装置は、伸線部に加えて皮削部を備えており、皮削部において表層部の除去(皮削)を行った状態で、鋼材が伸線部に供給される。伸線部における鋼材の移動速度と皮削部から伸線部への鋼材の供給速度が等しいので、皮削と伸線を一連の工程として連続的に行うことができる。よって、皮削と伸線の間に、鋼材の巻き取りを行う必要がなく、皮削から伸線に至る部位の構成が簡素になるとともに、巻き取りによって皮削後の鋼材の表面に傷が発生する可能性が排除される。これにより、高い生産性をもって、表面品質の良好な鋼材を製造することができる。
ここで、伸線部が、鋼材を伸線する伸線ダイスと、伸線ダイスに導入される鋼材の表面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部と、を有する場合には、伸線ダイスによる鋼材の伸線において、高い潤滑効果が得られるので、伸線部で発生する抵抗に起因する鋼材の断線を抑制することができる。また、伸線された鋼材の表面品質を高くすることができる。
この場合に、潤滑剤供給部が、プレッシャーダイスよりなれば、高い強制潤滑効果が得られるので、鋼材の断線を特に効果的に抑制することができる。
さらに、伸線部が、伸線ダイスを冷却する冷却部を有する場合には、伸線中に伸線ダイスでの発熱を小さく抑えることができる。それにより、潤滑剤の加熱による潤滑効果の低減等、発熱によって生じる影響を抑えることができる。
また、皮削部において、カッターを用いた切削により、鋼材の表層部を除去する場合には、簡素な構成で、皮削を効果的に行うことができる。
一方、上記発明にかかる鋼材伸線方法においては、上記のような鋼材伸線装置を用いることで、皮削と伸線を一連の工程として連続的に行うことができ、皮削と伸線の間に、鋼材の巻き取りを行う必要がない。よって、皮削から伸線に至る工程が簡素になるとともに、巻き取りによって皮削後の鋼材の表面に傷が発生する可能性が排除され、高い生産性と表面品質が達成される。
ここで、皮削部がカッターよりなり、皮削部における切削抵抗および伸線部における引き抜き抵抗を考慮して、カッターのすくい角および刃先の形状、伸線部における鋼材の移動速度を設定する場合には、皮削部および伸線部における抵抗に起因する断線を抑制しながら、皮削と伸線の連続工程を実行しやすくなる。
本発明の一実施形態にかかる鋼材伸線装置の概略を示す図である。 上記伸線装置の伸線部の構成を示す概略断面図である。 上記伸線装置の皮削部におけるカッターの状態を示す概略断面図である。
以下に、本発明の一実施形態にかかる鋼材伸線装置および鋼材伸線方法について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態にかかる鋼材伸線装置および鋼材伸線方法において加工の対象とするのは、長尺状の線材として構成された鋼材である。材料となる鋼材に対して、表層部の組織を除去する皮削を行ったうえで、伸線を行い、鋼材を縮径する。対象となる鋼種は特に限定されるものではないが、伸線によって歪みを付与することで、硬さ等、材料特性が向上されるものであることが好ましい。例えば、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系の各種冷間鍛造用ステンレス鋼を、好適な加工対象として挙げることができる。鋼材は、圧延歪みを除去する等の目的で、軟化焼鈍を経た状態で、本実施形態にかかる鋼材伸線装置および鋼材伸線方法による加工に供することが好ましい。通常、このような線材状の鋼材は、コイル状に巻かれている。
<鋼材伸線装置の概要>
図1に、本実施形態にかかる鋼材伸線装置1の概略を示す。鋼材伸線装置1は、本体部として、伸線部10を有する。伸線部10においては、線材として構成された鋼材Wを伸線する。伸線により、鋼材Wが縮径され、鋼材Wに歪みが付与される。そして、本鋼材伸線装置1は、伸線部10の前段に皮削部20を有する。皮削部20においては、鋼材Wの表層部を除去する皮削を行い、表層部に形成された傷や、酸化物等のスケールを除去する。ここでは、伸線部10、皮削部20とも、2段で設けている。伸線部10および皮削部20の詳細な構成については、後に説明する。
本鋼材伸線装置1はさらに、鋼材Wを順に送るために、鋼材供給装置30と鋼材巻き取り装置35、通線装置40を備える。鋼材供給装置30は、コイル状に巻かれた鋼材Wを、通線装置40を経て皮削部20および伸線部10に向けて送り出す。一方、鋼材巻き取り装置35は、皮削部20および伸線部10にて加工を受けた鋼材Wを、コイル状に巻き取る。通線装置40は、ピンチロール41および矯正ロール42を備え、コイル状に巻かれていた鋼材Wを直線状に矯正したうえで、皮削部20および伸線部10に送る役割を果たす。
鋼材巻き取り装置35によって鋼材Wが巻き取られることで、鋼材Wが軸線に沿った移動方向Dに移動され、軸線に沿った各部位が、皮削部20、伸線部10を順に通過して、それぞれにおいて、皮削および伸線の処理を受ける。鋼材Wの移動速度は、鋼材巻き取り装置35における巻き取り速度によって定められる。鋼材Wは、伸線部10を通過する移動速度と同じ速度で、前段の皮削部20を通過し、皮削を受けて、その速度で皮削部20から伸線部10に供給される。
本鋼材伸線装置1においては、線材として形成された鋼材Wに対して、皮削部20および伸線部10を所定の移動速度で通過させながら、加工を行うので、連続的に皮削と伸線を行うことができる。皮削と伸線の間に、鋼材Wの巻き取りを行わないので、鋼材伸線装置1の構成が簡素になっている。また、皮削部20において表層部の傷を除去した状態の鋼材Wに対して、巻き取り工程や、巻き取ったコイル体の運搬工程等に起因して、傷が形成される可能性を排除した状態で、伸線に供することができる。その結果、高い生産性をもって、傷やスケールの少ない、高い表面品質を有する鋼材Wを製造することができる。
本鋼材伸線装置1は、皮削部20における皮削と、伸線部10における伸線を、間に鋼材Wの巻き取りや運搬を挟まずに、連続的に実施できるものであればよく、皮削部20および伸線部10以外にも、加工や検査を行う部位を備えていてもよい。
<伸線部の構成>
本鋼材伸線装置1の本体部である伸線部10は、伸線によって鋼材Wを縮径し、歪みを付与するものである。本鋼材伸線装置1においては、伸線部10が2段に設けられているが、2段とも同様の構成を有している。各伸線部10は、図2のように、伸線ダイス11を有する。そして、潤滑剤供給部12と、冷却部13と、をさらに有することが好ましい。
伸線ダイス11は、鋼材Wを引き抜きによって伸線するものであり、従来一般に線材の伸線に用いられてきたのと同様の伸線ダイスを利用することができる。伸線部10においては、鋼材Wの特性の調整に効果を有する歪みを付与できる程度にまで、鋼材Wの線径が圧縮される。本鋼材伸線装置1においては、伸線ダイス11を備えた伸線部10を2段設けることにより、高い減面率を実現可能であり、さらに高い減面率が所望される場合には、伸線部10の段数をさらに増やせばよい。
潤滑剤供給部12は、伸線ダイス11の前段側に設けられ、伸線ダイス11に導入される鋼材Wの表面に、潤滑剤を供給する。潤滑剤供給部12は、移動方向Dに移動される鋼材Wの表面の各部に、連続的に潤滑剤を供給するものである。潤滑剤供給部12は、強制潤滑効果に優れたプレッシャーダイスより構成されることが好ましい。プレッシャーダイスは、圧力を利用して、鋼材Wが挿入された内部空間に潤滑剤を引き込むことで、鋼材Wの表面に潤滑剤を強制的に供給する。図2に矢印で示したように、プレッシャーダイスから鋼材Wの表面に供給された潤滑剤は、プレッシャーダイスと伸線ダイス11の間の差圧により、伸線ダイス11と鋼材Wの間の空隙に充填され、伸線ダイス11における伸線工程において、潤滑効果を与える。これにより、伸線ダイス11と鋼材Wとの間の摩擦によって生じる引き抜き抵抗が低減される。その結果、鋼材伸線装置1の伸線部10や、伸線部10から鋼材巻き取り装置35に至る部位で、鋼材Wに断線が発生する可能性を低減することができる。さらに、鋼材Wの表面における品質異常を低減し、高い表面品質を得ることができる。潤滑剤としては、伸線において高い潤滑効果を得る観点から、湿式潤滑剤よりも、乾式潤滑剤を用いることが好ましい。プレッシャーダイス以外に、潤滑剤供給部12を構成しうる部材としては、スプレーやオイルポンプ等を挙げることができる。
冷却部13は、伸線ダイス11に接触して設けられ、冷媒を用いて、伸線ダイス11を冷却する。伸線ダイス11においては、引き抜きによって伸線を行う際に、鋼材Wとの摩擦により、発熱が起こる。すると、熱の影響で、鋼材Wの特性の変化等の影響が起こる可能性がある。特に、潤滑剤供給部12から供給された潤滑剤が加熱されると、溶融等により、潤滑剤の潤滑性能が低下してしまう可能性がある。そこで、冷却部13を設けて伸線ダイス11を冷却することで、潤滑剤の潤滑性能等に対する発熱による影響を緩和し、伸線の効率や伸線によって得られる鋼材Wの品質を、一定に維持しやすくなる。
特に、本鋼材伸線装置1においては、皮削部20における皮削工程と伸線部10における伸線工程を連続的に実施しており、伸線部10における引き抜き抵抗のみならず、皮削部20における切削抵抗が鋼材Wの断線の原因となりうる。具体的には、単位面積当たりの切削抵抗と引き抜き抵抗の和が、伸線後の鋼材Wの材料強度を上回れば、伸線部10と鋼材巻き取り装置35の間で、断線が起こる可能性が高まる。そこで、断線の可能性を低減するために、切削抵抗と引き抜き抵抗の両方を低く抑えておくことが重要であり、皮削部20を有さない従来一般のような伸線装置と比較して、上記のように、伸線部10に潤滑剤供給部12や冷却部13を設けて引き抜き抵抗を低減することの断線防止への効果が大きい。
さらに、本鋼材伸線装置1においては、皮削部20と伸線部10を同じ移動速度で鋼材Wが通過するので、皮削と伸線を同じ速度で実施する必要があるが、一般に、伸線ダイス11を用いた伸線を良好な条件で実施できる速度は、カッターを用いた皮削を良好な条件で実施できる速度よりも遅い傾向がある。特に、カッターを用いた皮削においては、高速で行うほど、切削抵抗を低減することができ、好ましい。そこで、高速で行う皮削に速度を揃える観点から、伸線部10での伸線を、単独で伸線のみを行う場合よりも高速で行うことが好ましいが、伸線速度を上げるほど引き抜き抵抗が高くなり、発熱量が大きくなってしまう。しかし、上記のように、伸線部10に潤滑剤供給部12と冷却部13を設けておくことで、引き抜き抵抗による断線を回避しながら、伸線の高速化を図りやすくなる。
特許文献1に示されるように、皮削工程と伸線工程の間に、被膜を実施する場合には、被膜の潤滑作用により、伸線工程における引き抜き抵抗を低減することができる。しかし、本鋼材伸線装置1においては、皮削部20において皮削を受けた鋼材Wが直接伸線部10に供給され、間に被膜が行われない。しかし、上記のように、伸線部10に潤滑剤供給部12を設けて、鋼材Wの表面に潤滑剤を供給すること、さらには冷却部13を設けて潤滑剤の加熱を防止することで、被膜を行わなくても、伸線工程において、高い潤滑性能が得られる。その結果、引き抜き抵抗を低減することができ、鋼材Wの断線を防止しやすくなる。なお、伸線工程における潤滑だけでなく、伸線工程および他の工程を経た後の冷間鍛造工程における成形性向上等、他の目的から被膜を必要とする場合には、本鋼材伸線装置1における伸線よりも後の段階で、別途被膜を行えばよい。
<皮削部の構成>
本鋼材伸線装置1の皮削部20は、鋼材Wの表層部を除去し、表層部に形成された傷やスケールを除くものである。本鋼材伸線装置1においては、皮削部20を2段に設けており、2段とも同様の構成を有している。
皮削部20は、構成の簡略性と皮削の効率の観点から、超硬合金製フライスカッター等のカッターよりなり、鋼材Wの表層部の組織を切削するものであることが好ましい。例えば、鋼材Wを収容する皮削用ダイスの内周面に、鋼材Wの全周を囲むようにカッターを設けておき、皮削用ダイスを通過する鋼材Wの全周を同時に切削する形態を挙げることができる。この場合には、鋼材Wを移動方向Dに移動させながら、鋼材Wの表面の全域を、効率的に皮削することができる。あるいは、鋼材Wの全周のうち一部に相当する領域にカッターを設け、鋼材Wの移動速度よりも高速で、皮削用ダイスを鋼材Wの軸線の周りに回転させるようにしてもよい。
カッターの他に、皮削部20において鋼材Wの表層部の除去に使用できる部材としては、旋盤やグラインダを挙げることができるが、これらの場合には、カッターを用いる場合と比べて、皮削の効率が低くなるうえ、鋼材Wの全周を同時に皮削する構成にすることが困難である。また、旋盤の場合には鋼材Wを、グラインダの場合には鋼材Wまたは砥石を、鋼材Wの軸線の周りに回転させる必要があり、鋼材伸線装置1の全体構成が複雑化してしまう。
皮削部20を構成するカッター21は、鋼材Wの表面に垂直に近い角度に立てるよりも、刃先22を鋼材Wの移動方向Dに倒す方が好ましい。具体的には、図3に示すように、カッター21のすくい角αを大きくし、カッター21を鋼材W表面に対して倒すことで、切削抵抗を低減することができる。すると、鋼材伸線装置1において、皮削部20およびそれより後段の部位での鋼材Wの断線を抑制することができる。ただし、すくい角αを大きくしすぎると、切削の効率が低下するうえ、刃先22の損傷も起きやすくなる。そこで、切削効率を維持し、刃先22の損傷を回避しながら、切削抵抗の低減に効果を有する範囲として、すくい角αを設定すればよい。
すくい角αを大きくすれば、刃先22の損傷が起こりやすくなる。しかし、刃先22の表面を調整し、図3中に点線で示したように、曲面形状に丸めておけば、すくい角αを大きくしても、刃先22の損傷を低減することができる。曲率等、具体的な曲面形状は、カッター21の材質や形状等を考慮して、十分に刃先22の損傷を低減できるように定めればよい。
上記のように、本鋼材伸線装置1においては、皮削と伸線を連続的に行うため、皮削部20における切削抵抗と伸線部10における引き抜き抵抗の両方が断線に繋がりうる。よって、切削抵抗と引き抜き抵抗の両方を低減することが、断線の防止に重要である。特に切削抵抗は、皮削部20のみならず、伸線部10等、皮削部20よりも後段の部位における断線にも影響する。具体的には、単位面積当たりの切削抵抗が皮削後の鋼材Wの材料強度よりも大きければ、皮削部20と伸線部10の間で断線が起こる可能性が高くなる。加えて、上述のとおり、単位面積当たりの切削抵抗と引き抜き抵抗の和が伸線後の鋼材Wの材料強度よりも大きければ、伸線部10と鋼材巻き取り装置35の間で断線が起こる可能性が高くなる。そこで、上記のように、カッター21のすくい角αを大きくすすること、さらに、切削速度つまり鋼材Wの移動速度を速くすることで、切削抵抗を小さく抑えることができる。その結果、鋼材伸線装置1全体における断線の可能性を低減することができる。
上記のように、本鋼材伸線装置1においては、皮削部20を2段に設けている。これにより、鋼材Wの各部を鋼材伸線装置1に一度通すだけで、表層部の組織を十分に除去することができる。従来一般のように、皮削工程と伸線工程を独立に実施する場合には、皮削後の鋼材Wに対して、渦流探傷装置等を用いて表面の傷を検査し、傷が多ければ、再度皮削を行ってから、伸線工程に供することが可能である。しかし、本鋼材伸線装置1においては、皮削と伸線を連続的に行うので、皮削後かつ伸線前の鋼材Wにおいて、皮削が十分でなかったとしても、皮削をやり直すことはできない。そこで、皮削を2段で行い、十分に鋼材Wの表層部の組織を除去しておくことで、皮削が不十分となる可能性を低減することができる。
<鋼材伸線装置の運転方法>
以上のように、本鋼材伸線装置1においては、皮削部20における皮削と伸線部10における伸線を連続的に実施することができ、皮削部20におけるカッター21のすくい角αの大傾角化や伸線部10における潤滑剤供給部12および冷却部13の使用により、加工中に鋼材Wに与えられる抵抗を低減し、断線の可能性を抑制しながら、良好な表面品質の鋼材Wを得ることができる。ただし、皮削部20における切削抵抗は、鋼材Wを移動方向Dに高速で移動させるほど低くなる一方で、伸線部10における引き抜き抵抗は、鋼材Wを高速で移動させるほど高くなりやすい。
そこで、皮削部20および伸線部10において、同じ速度で鋼材Wを通過させ、切削抵抗および引き抜き抵抗の両方を過度に上昇させることなく、良好な条件での皮削と伸線を両立できるように、鋼材伸線装置1の運転条件を設定する必要がある。具体的には、皮削部20における切削抵抗および伸線部10における引き抜き抵抗を考慮し、これらの抵抗が鋼材Wに断線を発生させるほど大きくならないようにして、皮削部20におけるカッター21のすくい角αや刃先22の形状、皮削部20および伸線部10を通って鋼材Wを移動させる移動速度をはじめとする各種運転条件を設定すればよい。
また、鋼材伸線装置1の起動時においても、皮削部20および伸線部10の運転速度に留意して、運転時条件を定めることが好ましい。つまり、皮削部20も伸線部10も、起動時には、設定された運転速度に達するまでに、ある程度の時間を要するが、皮削部20で皮削を受けた鋼材Wの始端が伸線部10に導入されるまでに、皮削部20における皮削の速度を、伸線部10における伸線の速度と同じになるようにしておくことが好ましい。これにより、鋼材伸線装置1の起動時から、円滑に、皮削と伸線の連続工程を進めることができる。
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
<皮削試験:皮削部におけるカッターのすくい角の影響>
まず、皮削部におけるカッターのすくい角が皮削工程に与える影響を調べるため、伸線部を備えず、鋼材を移動方向に移動させるための各装置の他は、カッターを用いた皮削部のみを1段備えた皮削装置を使用して、皮削試験を行った。鋼材としては、フェライト系ステンレス鋼の線材に、焼鈍を施したものを用いた。カッターは、超硬合金製のものを用い、刃先は丸めておいた。
カッターのすくい角を、基準角度aを基準として変化させるとともに、皮削速度(鋼材の移動速度)を基準速度sを基準として変化させながら、皮削を行った。そして、鋼材全体を正常に皮削できた場合を「A」、鋼材の一部が正常に皮削できなかった場合を「B」、鋼材全体が正常に皮削できなかったか、断線等によって作業が不可能であった場合を「C」として、皮削特性に関して、評価を行った。下の表1に、評価結果を示す。
Figure 0006665538
表1によると、カッターのすくい角が大きくなるほど、皮削特性が向上していることが分かる。切削抵抗の増大に起因して、皮削速度が遅くなるほど皮削特性が低下するが、すくい角が2.14a以上、さらには2.86aである場合に、皮削速度が遅い場合にも、良好な皮削特性が得られている。
<伸線試験:伸線部におけるプレッシャーダイスおよび冷却部の影響>
次に、伸線部におけるプレッシャーダイスおよび冷却部の有無が、伸線特性に与える影響を調べるため、皮削部を備えず、鋼材を軸線方向に移動させるための各装置の他は、伸線ダイスを用いた伸線部のみを1段備えた伸線装置を使用して、伸線試験を行った。鋼材としては、上記皮削試験に用いたのと同様の鋼材に、別途皮削を施しておいたものを使用した。比較のため、さらにシュウ酸塩を用いて被膜処理を行った鋼材も準備した。
プレッシャーダイス(PD)および冷却部をそれぞれ備えた場合と備えない場合について、基準速度sを基準として伸線速度を変化させながら、伸線を行った。プレッシャーダイスから供給する潤滑剤としては、乾式潤滑剤を用いた。鋼材全体を正常に伸線できた場合を「A」、鋼材の一部が正常に伸線できなかった場合を「B」、鋼材全体が正常に伸線できなかったか、断線等によって作業が不可能であった場合を「C」として、伸線特性に関して、評価を行った。表2に、被膜処理を行わない場合の結果を示し、表3に、被膜処理を行った場合の結果を示す。なお、ここで伸線速度の基準として使用している基準速度sは、上記の皮削試験で皮削速度に関して使用した基準速度sと同一である。
Figure 0006665538
Figure 0006665538
表2に示した、被膜を行っていない場合においては、冷却部もプレッシャーダイスも用いないと、全速度領域において、良好な伸線を行えなくなっている。これに対し、冷却部かプレッシャーダイスのいずれか一方を用いることで、低速度領域においては、良好な伸線を行えるようになっている。この際の伸線特性は、表3の被膜を行った場合において、冷却部もプレッシャーダイスも用いない場合と、少なくとも同程度には高くなっており、冷却部およびプレッシャーダイスの一方の使用が、被膜と同程度の潤滑性を与えることが分かる。さらに、冷却部とプレッシャーダイスの両方を使用することで、試験を行った全速度領域において、被膜を行わなくても、良好な皮削を行えるようになっている。
<皮削と伸線の連続工程の試験>
次に、皮削と伸線の連続工程が問題なく実行できるかどうかを確認するため、上記の皮削試験で用いた皮削部と、伸線試験で用いた伸線部を連結し、皮削と伸線を連続で行った。鋼材としては、上記皮削試験と同様のものを使用した。
鋼材の移動速度としては、皮削試験と伸線試験の両方で良好な結果を得られた4.50sを採用した。そして、皮削部のカッターのすくい角を、基準角度aを基準として変化させるとともに、伸線部における冷却部およびプレッシャーダイス(PD)の有無を選択して、皮削と伸線の連続加工を実施した。鋼材全体を正常に加工できた場合を「A」、鋼材の一部が正常に加工できなかった場合を「B」、鋼材全体が正常に加工できなかったか、断線等によって作業が不可能であった場合を「C」として、評価を行った。下の表4に、評価結果を示す。
Figure 0006665538
表4に示した結果によると、皮削部のカッターのすくい角を大きくし、伸線部に冷却部とプレッシャーダイスの両方を用いるようにすれば、皮削と伸線の連続加工を、良好に実施することが可能となっている。このことは、鋼材の移動速度を定めたうえで、皮削部のカッターのすくい角、伸線部における冷却部および潤滑剤供給部(プレッシャーダイス)の有無を試験等に基づいて適切に定めれば、被膜を用いないで、皮削と伸線を連続して同じ速度で実施することができることを示している。
以上、本発明の実施形態および実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態および実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。
1 鋼材伸線装置
10 伸線部
11 伸線ダイス
12 潤滑剤供給部(プレッシャーダイス)
13 冷却部
20 皮削部
21 カッター
22 カッターの刃先
30 鋼材供給装置
35 鋼材巻き取り装置
40 通線装置
D 移動方向
W 鋼材
α すくい角

Claims (7)

  1. 線材として形成された鋼材を、所定の移動速度で軸線に沿って移動させながら、前記鋼材を伸線し、前記鋼材に歪みを付与する伸線部と、
    前記鋼材の表層部を除去して、前記移動速度と等しい速度で前記伸線部に供給する皮削部と、を有し、
    前記皮削部は、前記鋼材の全周を囲むように設けられて前記鋼材の全周を同時に切削するカッターを備え、
    前記伸線部は、前記鋼材を伸線する伸線ダイスと、前記伸線ダイスを冷却する冷却部と、を備えることを特徴とする鋼材伸線装置。
  2. 前記伸線ダイスに導入される前記鋼材の表面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部を有することを特徴とする請求項1に記載の鋼材伸線装置。
  3. 前記潤滑剤供給部は、プレッシャーダイスを備え、前記プレッシャーダイスと前記伸線ダイスの間の空間に引き込んだ前記潤滑剤を、前記鋼材の表面に供給するように構成されたことを特徴とする請求項2に記載の鋼材伸線装置。
  4. 前記鋼材の始端が前記伸線部に導入されるまでに、前記皮削部における皮削速度が、前記伸線部における伸線速度と同じになるように構成されたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の鋼材伸線装置。
  5. 前記冷却部は、前記伸線ダイスに接触して設けられ、冷媒により、前記伸線ダイスを冷却することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の鋼材伸線装置。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の鋼材伸線装置を用いて、線材として形成された鋼材に対して、表層部を除去するともに、伸線を行うことを特徴とする鋼材伸線方法。
  7. 前記皮削部における切削抵抗および前記伸線部における引き抜き抵抗を考慮して、前記カッターのすくい角および刃先の形状、前記伸線部における前記鋼材の移動速度を設定することを特徴とする請求項6に記載の鋼材伸線方法。
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