特許文献1に開示された技術によれば、FeCo相が混在するR−T−B系焼結磁石を構成することで、着磁性が改善される。しかし、この技術では、FeCo相が主相粒子と同程度の大きさを持つことや、粒界相として偏析して存在することから、保磁力HcJの低下が避けられない。
また、特許文献2では、粒界に金属元素を偏在させたR−T−B系焼結磁石によって、着磁性を改善するとしているが、この方法が適用できる主相粒子の平均粒径は3.5μm〜5.0μmと大きく、高い保磁力HcJを得るために主相粒子の平均粒径をさらに微細にした場合には、着磁性を改善できない。
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、主相粒子の平均粒径が3.5μm以下のR−T−B系焼結磁石であっても、高い保磁力HcJを維持しつつ、着磁性の良好なR−T−B系焼結磁石を提供することを目的とする。
上述した課題を解決するため、本発明者らは、R−T−B系焼結磁石において、粒径が1.5μm以下である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNs(%)、粒径が1.5μm超である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNl(%)としたとき、Ns>Nlとすることにより、保磁力HcJを低下させることなく、着磁性を改善できることを見出した。
すなわち本発明は、R−T−B系焼結磁石において、R2T14B型結晶からなる主相粒子を含み、粒径が1.5μm以下である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNs(%)、粒径が1.5μm超である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNl(%)としたとき、Ns>Nlであることを特徴とする。
本発明によれば、主相粒子を含むR−T−B系焼結磁石において、特に着磁性が悪いと考えられる微細な主相粒子の着磁性を改善する。
まず、主相粒子の内部に生成された軟磁性相は、初磁化過程において容易に磁化され、前記軟磁性相を起点に主相粒子内部に磁区が生成する。そこで、微細な主相粒子においては、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合を多く出現させることで、微細な主相粒子の着磁が容易になり、着磁性が改善されると推測する。
その一方で、減磁過程においては、軟磁性相が生成されている前記主相粒子は、低磁場で軟磁性相が起点となり磁化反転が進む。しかしながら、軟磁性相が生成されていない主相粒子には磁化反転の起点がない。さらに、粒界相により、それら主相粒子は隔てられているため、粒子間の磁化反転の伝播が抑制され、軟磁性相が生成されていない主相粒子では磁化反転が進まない。すなわち、粒径の大きな主相粒子においては、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合を少なく抑えることで、磁化反転の伝播が制限される。
ここで保磁力HcJは、概ね全主相粒子の体積の半分に磁化反転が伝搬したときに印加されている外部磁場と一致する。すなわち、粒径が1.5μm超である主相粒子は体積が大きく、さらに主相粒子内部に軟磁性相を含まないことにより、全主相粒子の体積の半分に磁化反転が伝搬することが制限でき、結果として保磁力HcJの低下が抑制される。
好ましくは、前記粒径が1.5μm超である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNl(%)は0.00≦Nl≦3.00である。
本発明によれば、前記粒径が1.5μm超である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合Nl(%)を0.00≦Nl≦3.00とすることで、保磁力HcJ低下をより抑制したR−T−B系焼結磁石を得ることができる。
好ましくは、前記粒径が1.5μm以下である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNs(%)は0.50≦Ns≦10である。
本発明によれば、前記粒径が1.5μm以下である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合Ns(%)を0.50≦Ns≦10とすることで、着磁性のより良好なR−T−B系焼結磁石を得ることができる。
好ましくは、前記主相粒子の平均粒径は2.5μm以下である。
本発明によれば、前記主相粒子の平均粒径は2.5μm以下とすることで、着磁性がさらに良好なR−T−B系焼結磁石を得ることができる。
好ましくは、前記軟磁性相は、FeまたはCoの1種類以上を含有する軟磁性相である。
本発明によれば、前記軟磁性相をFeまたはCoの1種類以上を含有する軟磁性体とすることで、保磁力HcJを低下させることなく、着磁性のより良好なR−T−B系焼結磁石を得ることができる。
以上のように、本発明によれば、R−T−B系焼結磁石において、粒径が1.5μm以下である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNs(%)、粒径が1.5μm超である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNl(%)としたとき、Ns>Nlとすることにより、保磁力HcJを低下させることなく、着磁性の良好なR−T−B系焼結磁石を得ることができる。
なお、本発明の効果は、R−T−B系焼結磁石において、粒径が1.5μm以下である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNs(%)、粒径が1.5μm超である主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成されている主相粒子の割合をNl(%)としたとき、Ns>Nlとすることによりなされるものであり、例えば希土類元素Rがいかなる希土類元素Rであったとしても、何ら本発明の効果を妨げるものではない。
以下、本発明を、実施の形態に基づいて、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせても良いし、適宜選択して用いてもよい。
図1で示すように、本実施形態のR−T−B系焼結磁石10は、軟磁性相4が生成されているR2Fe14B型結晶からなる主相粒子1、軟磁性相が生成されていないR2Fe14B型結晶からなる主相粒子2、粒界相3を含む。さらに、Rリッチ相等の副相を含んでいても良い。また、主相粒子1の内部には軟磁性相4が生成されている。
ここで、Rは希土類元素の少なくとも1種、TはFe又はFe及びCoを含む1種以上の遷移金属元素である。
このR−T−B系焼結磁石10は、希土類元素Rを25〜35wt%含有する。Rの量が25wt%未満であると、粒界相3を構成するRリッチ相など、保磁力HcJ向上に効果的な相が十分に生成されず、保磁力HcJが低下する。一方、Rの量が35wt%を超えると、R2T14B型結晶からなる主相であるR2T14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度Brが低下する。
このR−T−B系焼結磁石10は、Bを0.75〜1.1wt%含有する。Bが0.75wt%未満の場合には、R2T17相に代表される異相が発生してしまい、高い保磁力HcJを得ることができない。一方で、Bが1.1wt%を超えると、RT4B4相に代表される異相が発生してしまい、やはり高い保磁力HcJを得ることができない。
このR−T−B系焼結磁石10は、Coを4.0wt%以下含有することができる。Coは、Feと同様の相を形成するが、キュリー温度Tcの向上、粒界相3の耐食性向上に効果がある。
このR−T−B系焼結磁石10は、他の元素の含有を許容する。例えば、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge、Al、Cu等の元素を、適宜含有させることができる。一方で、O、N、Cなどの不純物元素は、その含有量を極力低減させることが望ましい。特に、磁気特性を低下させるOは、その含有量を5000ppm以下、さらには3000ppm以下とすることが望ましい。Oの含有量が多いと、非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させる。
好ましくは、R−T−B系焼結磁石の主相粒子の平均粒径は2.5μm以下である。これにより、着磁性がさらに良好なR−T−B系焼結磁石を得ることができる。さらに好ましくはR−T−B系焼結磁石の主相粒子の平均粒径は2.0μm以下である。
このR−T−B系焼結磁石10の主相粒子内に存在する軟磁性相は、直径30nm以上でFeまたはCoの1種類以上を含有する相である。軟磁性相を構成する軟磁性体は保磁力が20Oe以下であるものとする。
以下、本実施形態におけるR−T−B系焼結磁石の製造方法の好適な例について説明する。
本実施形態のR−T−B系磁石の製造において、まず、所望の組成を有するR−T−B系焼結磁石が得られるような原料合金を準備する。原料合金は、真空又は不活性ガス中、望ましくはAr雰囲気中でストリップキャスト法、その他公知の溶解法により作製することができる。
原料合金は、粉砕工程に供される。粉砕工程には、第一の粉砕工程、第一の粉砕工程後熱処理工程、第二の粉砕工程、第三の粉砕工程がある。第一の粉砕工程では、原料合金を水素化することで不均一にし、その後脱水素することで再結合させるという方法で、原料合金の粉砕を行うことができる。原料合金の脱水素処理は、希土類焼結磁石として不純物となる水素を減少させることを目的として行われる。この脱水素処理によりNd2Fe14Bとして再結合することで、粉砕されたNd2Fe14B組織が得られる。水素化及び脱水素処理の温度は、本実施形態においては500〜700℃とする。保持時間は、保持温度との関係、原料合金の厚さ等によって変わるが、本実施形態においては30分〜4時間とする。この脱水素処理の温度、及び保持時間を適切に制御することにより、軟磁性相の析出を制御することができる。脱水素処理は、真空中又はArガスフローにて行う。条件を適切に制御することにより、一次粒子の平均粒径が0.5μm程度であり、かつ軟磁性相の析出量の異なる第一の粉砕粉を得る。
次に、第一の粉砕工程で析出した軟磁性相を主相粒子内に取り込むため、第一の粉砕粉を坩堝に入れ、真空中にて700〜800℃で4〜12時間、熱処理を行う。前記熱処理工程を第一の粉砕工程後熱処理工程と呼ぶ。これにより第一の粉砕工程後熱処理粉を得る。これにより粉砕粉は粒成長し、その際に軟磁性相が主相粒子内に取り込まれる。
次に、得られた第一の粉砕工程後熱処理粉は、第二の粉砕工程に供される。ここでの粉砕は、ボールミル、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用いた機械的な方法により行われ、不活性ガス雰囲気中にて行うことが望ましい。
第二の粉砕工程後、得られた第二の粉砕粉を、第三の粉砕工程に供し、第三の粉砕粉とする。この粉砕には主にジェットミルが用いられる。ジェットミルは、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粉砕粉末を加速し、粉砕粉末同士の衝突、ターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。条件を適切に制御することにより、平均粒径の異なる粉砕粉を得る。
第三の粉砕工程後、得られた平均粒径の異なる第三の粉砕粉は所定の割合で混合されたのち、磁場中成形に供される。
磁場中成形における成形圧力は、0.3〜3ton/cm2(30〜300MPa)の範囲とすればよい。成形圧力は、成形開始から終了まで一定であってもよく、漸増または漸減してもよく、あるいは不規則変化してもよい。成形圧力が低いほど微粉の結晶配向性は良好となるが、成形圧力が低過ぎると、成形体の強度が不足してハンドリングに問題が生じるので、この点を考慮して上記範囲から成形圧力を選択する。磁場中成形で得られる成形体の最終的な相対密度は、通常、40〜60%である。
印加する磁場は、10〜20kOe(800〜1600kA/m)程度とすればよい。印加する磁場は、静磁場に限定されず、パルス状の磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。
次いで、成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度及び焼結時間は、組成、粉砕方法、平均粒径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、例えば850〜1030℃で4〜12時間行えばよい。
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力HcJを制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行なう場合には、800℃近傍、600℃近傍で、所定時間の保持が有効である。時効処理を1段で行なう場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。いずれの場合においても、保磁力HcJが増大する効果が得られる。
以上、本発明を好適に実施するための形態を説明したが、これに限定されない。例えば、本発明の構造は、希土類量の異なる2合金を混合し、所定の成形、焼結することによっても得られる。その際、主相粒子内に軟磁性相を発生させるため、少なくとも一方の合金ではFe、Coの多い組成とする。
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1として、組成が32.5wt%Nd−1.00wt%B−0.50wt%Co−0.06wt%Cu−0.20wt%Al−Fe.balとなるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
得られた原料合金薄板を第一の粉砕工程に供し、500〜700℃、保持時間30分〜4時間で水素化、及び脱水素処理を行うことで、軟磁性相の析出量の異なるA、B、Cの3種類の第一の粉砕粉を得た。その後、各々の第一の粉砕粉を坩堝に入れ、真空中にて700℃で12時間、熱処理を行った。その後、スタンプミルにより第二の粉砕を行った後、潤滑剤を添加した。次いで、ジェットミルを使用し、粉砕原料の供給圧を適宜変更した上で高圧窒素ガス雰囲気中において第三の粉砕を行い、軟磁性相の析出量が異なるそれぞれの第一の粉砕粉から、平均粒径が1.5μm(A1、B1、C1)および3.5μm(A2、B2、C2)である計6種類の第三の粉砕粉を得た。第一の粉砕工程、第一の粉砕工程後熱処理工程、得られた第三の粉砕粉の関係を表1に示す。
続いて、作製した第三の粉砕粉の内、(A1、B1、C1)から選ばれる1種類と、(A2、B2、C2)から選ばれる1種類を重量比で1:1の割合で混合した後、金型に投入し、磁場中成形した。具体的には、15kOeの磁場中で140MPaの圧力で成形を行い、20mm×18mm×13mmの成形体を得た。磁場方向はプレス方向と垂直な方向とした。得られた成形体を950℃で4時間焼結した。その後、800℃および600℃でそれぞれ1時間の時効処理を行い、焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号1〜5を付与した。それぞれに対応する、選択した第三の粉砕粉の組み合わせを表2に示す。
一方、同様の方法にて原料合金薄板を溶解、鋳造後、第一の粉砕及び熱処理を行うことなく、スタンプミルにより第二の粉砕を行った。潤滑剤を添加した後、さらに同様の方法で第三の粉砕を行い、平均粒径が1.5μmおよび3.5μmの2種類の第三の粉砕粉を得た。これら2種類の第三の粉砕粉を重量比で1:1の割合で混合した後、金型に投入し、同様の方法で磁場中成形した、得られた成形体を同様の方法で焼結、さらに時効処理を行い、焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号6を付与した。
得られた焼結体の初磁化曲線を、BHトレーサーにて測定した。初磁化曲線において、H=1kOeでの磁化の値M(1kOe)とH=20kOeでの磁化の値M(20kOe)の比、M(1kOe)/M(20kOe)を着磁率と定義した。さらに保磁力HcJも同じく測定した。試料番号6に対する試料番号1〜5の着磁率及びHcJの変化を算出し、良好なものから順に◎、○、×として表2に示す。着磁率については、試料番号6に対して改善率が4%以上のものを◎、2%以上4%未満のものを○、2%未満のものを×とした。同じく、保磁力HcJについては、試料番号6に対して低下率が5%以下のものを◎、5%超10%以下のものを○、10%超のものを×とした。
主相粒子内に存在する軟磁性相は、以下の方法で分析することができる。具体的な例として、体心立方構造を持つFeを含む軟磁性体の場合について説明する。
着磁率、および保磁力HcJ測定後の焼結体を熱消磁した後、エポキシ系樹脂に樹脂埋めし、これらを研磨して、それぞれの焼結体の研磨断面を得た。このとき、R−T−B系焼結磁石の配向方向に対して垂直な面が得られる方向に研磨した。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて上記研磨面を観察し、反射電子組成像(COMPO)により、R2T14B型結晶からなる主相、及び粒界相などの主相以外の相を確認した。さらにエネルギー分散型X線分光法(EDX)から、それぞれの焼結体の主相粒子内にFe濃度がR2T14B型結晶からなる主相よりも相対的に高い相(Feリッチ相)が生成されていること確認した。さらに、前記焼結体を薄片加工し、高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察を行ったところ、前記Feリッチ相は体心立方構造を持つFe化合物であることを確認した。さらに、この化合物の電子線ホログラフィーによる磁束分布の解析から、この体心立方構造を持つFe化合物が保磁力HcJが20Oe以下のFeを主成分とする軟磁性相であることを確認した。試料番号6では、主相粒子内に軟磁性相は確認されなかった。すなわち、試料番号6は従来磁石であり、良好な着磁率が得られていない。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、それぞれの焼結体の研磨された断面を22μm×16μmの20視野以上について観察し、直径30nm以上のFeを主成分とする軟磁性相を含む主相粒子の個数と軟磁性相を含まない主相粒子の個数を計測した。さらに、軟磁性相を含むかどうかにかかわらず、インターセプト法により主相粒子の粒径を算出した。主相粒子の平均粒径、及び粒径ごとの軟磁性相を含む主相粒子の割合を表2に示す。
表2より、試料番号1〜3、5では、粒径が1.5μm以下の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Ns(%)、粒径が1.5μm超の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Nl(%)としたとき、Ns>Nlの関係にある。このとき、着磁率と保磁力HcJの少なくともいずれか一方は○以上の結果であり、保磁力HcJを維持しつつ、着磁性が改善していることがわかる。
さらに試料番号2、3、5では、Ns>Nlの関係にあり、さらに0.00≦Nl≦3.00となっている。このとき、着磁率が改善している一方で保磁力HcJは○以上と低下が抑えられており、保磁力HcJをさらに維持しつつ、着磁性が改善していることがわかる。
さらに試料番号2、3では、Ns>Nlおよび0≦Nl≦3.00の関係にあり、さらに0.50≦Ns≦10となっている。このとき、着磁率と保磁力HcJが共に○以上の結果であり、保磁力HcJをさらに維持しつつ、着磁性がより改善していることがわかる。
一方、試料番号4ではNs>Nlの関係は成立せず、このとき着磁率と保磁力HcJが共に×となり、保磁力HcJは大きく低下しており、さらに着磁性の改善が小さいことがわかる。
(実施例2)
実施例2として、組成が31.5wt%Nd−0.75wt%B−1.00wt%Co−0.60wt%Cu−0.30wt%Al−1.00wt%Ga−0.30wt%Zr−Fe.balとなるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
その後、実施例1と同様の方法で、軟磁性相の析出量の異なるD、Eの2種類の第一の粉砕粉を得た。さらに実施例1と同様の方法で、平均粒径が1.5μm(D1、E1)および3.5μm(D2、E2)である計4種類の第三の粉砕粉を得た。第一の粉砕工程、第一の粉砕工程後熱処理工程、得られた第三の粉砕粉の関係を表3に示す。
続いて、作製した第三の粉砕粉の内、(D1、E1)から選ばれる1種類と、(D2、E2)から選ばれる1種類を重量比で1:1の割合で混合した粉を金型に投入し、実施例1と同様の方法で焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号7〜8を付与した。それぞれに対応する、選択した第三の粉砕粉の組み合わせを表4に示す。
一方、同様の方法にて原料合金薄板を溶解、鋳造後、第一の粉砕及び熱処理を行うことなく、スタンプミルにより第二の粉砕を行った。潤滑剤を添加した後、さらに同様の方法で第三の粉砕を行い、平均粒径が1.5μmおよび3.5μmの2種類の第三の粉砕粉を得た。これら2種類の第三の粉砕粉を重量比で1:1の割合で混合した後、金型に投入し、同様の方法で磁場中成形した、得られた成形体を同様の方法で焼結、さらに時効処理を行い、焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号9を付与した。
その後、実施例1と同様の方法で着磁率と保磁力HcJも同じく測定した。試料番号9に対する試料番号7〜8の着磁率及び保磁力HcJの変化を算出し、実施例1と同様の基準により◎、○、×と評価した。さらに実施例1と同様の方法で、直径30nm以上のFeを主成分とする軟磁性相を含む主相粒子の個数と前記軟磁性相を含まない主相粒子の個数を計測した。合わせて、軟磁性相を含むかどうかにかかわらず、全ての主相粒子の粒径をインターセプト法により主相粒子の粒径を算出した。主相粒子の平均粒径、及び粒子径ごとの軟磁性相を含む主相粒子の割合を表4に示す。試料番号9では、主相粒子内に軟磁性相は確認されなかった。すなわち、試料番号9は従来磁石であり、良好な着磁率が得られていない。
表4より、試料番号7では、粒径が1.5μm以下の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Ns(%)、粒径が1.5μm超の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Nl(%)としたとき、Ns>Nlの関係がある。このとき、着磁率と保磁力HcJが共に◎という結果であり、保磁力HcJを維持しつつ、着磁性が改善していることがわかる。
一方、試料番号8では、Ns>Nlの関係は成立せず、保磁力HcJは大きく低下しており、さらに着磁性の改善が小さいことがわかる。
(実施例3)
実施例3として、組成が23.7wt%Nd−7.00wt%Pr−0.10wt%Dy−0.87wt%B−1.50wt%Co−1.00wt%Cu−0.10wt%Al−0.50wt%Ga−0.20wt%Zr−Fe.balとなるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
その後、実施例1と同様の方法で、軟磁性相の析出量の異なるF、Gの2種類の第一の粉砕粉を得た。さらに実施例1と同様の方法で、平均粒径が1.5μm(F1、G1)および3.5μm(F2、G2)である計4種類の第三の粉砕粉を得た。第一の粉砕工程、第一の粉砕工程後熱処理工程、得られた第三の粉砕粉の関係を表5に示す。
続いて、作製した第三の粉砕粉の内、(F1、G1)から選ばれる1種類と、(F2、G2)から選ばれる1種類を重量比で1:1の割合で混合した粉を金型に投入し、実施例1と同様の方法で焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号10〜11を付与した。それぞれに対応する、選択した第三の粉砕粉の組み合わせを表6に示す。
一方、同様の方法にて原料合金薄板を溶解、鋳造後、第一の粉砕及び熱処理を行うことなく、スタンプミルにより第二の粉砕を行った。潤滑剤を添加した後、さらに同様の方法で第三の粉砕を行い、平均粒径が1.5μmおよび3.5μmの2種類の第三の粉砕粉を得た。これら2種類の第三の粉砕粉を重量比で1:1の割合で混合した後、金型に投入し、同様の方法で磁場中成形した、得られた成形体を同様の方法で焼結、さらに時効処理を行い、焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号12を付与した。
その後、実施例1と同様の方法で着磁率と保磁力HcJも同じく測定した。試料番号12に対する試料番号10〜11の着磁率及び保磁力HcJの変化を算出し、実施例1と同様の基準により◎、○、×と評価した。さらに実施例1と同様の方法で、直径30nm以上のFeを主成分とする軟磁性相を含む主相粒子の個数と軟磁性相を含まない主相粒子の個数を計測した。合わせて、軟磁性相を含むかどうかにかかわらず、全ての主相粒子の粒径をインターセプト法により主相粒子の粒径を算出した。主相粒子の平均粒径、及び粒子径ごとの軟磁性相を含む主相粒子の割合を表6に示す。試料番号12では、主相粒子内に軟磁性相は確認されなかった。すなわち、試料番号12は従来磁石であり、良好な着磁率が得られていない。
表6より、試料番号10では、粒径が1.5μm以下の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Ns(%)、粒径が1.5μm超の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Nl(%)としたとき、Ns>Nlの関係がある。このとき、着磁率と保磁力HcJが共に◎という結果であり、保磁力HcJを維持しつつ、着磁性が改善していることがわかる。
一方、試料番号11では、Ns>Nlの関係は成立せず、保磁力HcJは大きく低下しており、さらに着磁性の改善が小さいことがわかる。
(実施例4)
実施例4として、組成が25.5wt%Nd−8.00wt%Pr−1.10wt%B−0.30wt%Co−0.15wt%Cu−0.40wt%Al−0.15wt%Ga−1.00wt%Zr−Fe.balとなるように、原料となる金属あるいは合金をそれぞれ配合し、ストリップキャスト法により原料合金薄板を溶解、鋳造した。
その後、実施例1と同様の方法で、軟磁性相の析出量の異なるH、Iの2種類の第一の粉砕粉を得た。さらに実施例1と同様の方法で、平均粒径が1.5μm(H1、I1およびと3.5μm(H2、I2)である計4種類の第三の粉砕粉を得た。第一の粉砕工程、第一の粉砕工程後熱処理工程、得られた第三の粉砕粉の関係を表7に示す。
続いて、作製した第三の粉砕粉の内、(H1、I1)から選ばれる1種類と、(H2、I2)から選ばれる1種類を重量比で1:1の割合で混合した粉を金型に投入し、実施例1と同様の方法で焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号13〜14を付与した。それぞれに対応する、選択した第三の粉砕粉の組み合わせを表8に示す。
一方、同様の方法にて原料合金薄板を溶解、鋳造後、第一の粉砕及び熱処理を行うことなく、スタンプミルにより第二の粉砕を行った。潤滑剤を添加した後、さらに同様の方法で第三の粉砕を行い、平均粒径が1.5μmおよび3.5μmの2種類の第三の粉砕粉を得た。これら2種類の第三の粉砕粉を重量比で1:1の割合で混合した後、金型に投入し、同様の方法で磁場中成形した、得られた成形体を同様の方法で焼結、さらに時効処理を行い、焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号15を付与した。
その後、実施例1と同様の方法で着磁率と保磁力HcJも同じく測定した。試料番号15に対する試料番号13〜14の着磁率及び保磁力HcJの変化を算出し、実施例1と同様の基準により◎、○、×と評価した。さらに実施例1と同様の方法で、直径30nm以上のFeを主成分とする軟磁性相を含む主相粒子の個数と軟磁性相を含まない主相粒子の個数を計測した。合わせて、軟磁性相を含むかどうかにかかわらず、全ての主相粒子の粒径をインターセプト法により主相粒子の粒径を算出した。主相粒子の平均粒径、及び粒子径ごとの軟磁性相を含む主相粒子の割合を表6に示す。試料番号15では、主相粒子内に軟磁性相は確認されなかった。すなわち、試料番号15は従来磁石であり、良好な着磁率が得られていない。
表6より、試料番号13では、粒径が1.5μm以下の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Ns(%)、粒径が1.5μm超の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Nl(%)としたとき、Ns>Nlの関係がある。このとき、着磁率と保磁力HcJが共に◎という結果であり、保磁力HcJを維持しつつ、着磁性が改善していることがわかる。
一方、試料番号14では、Ns>Nlの関係は成立せず、保磁力HcJは大きく低下しており、さらに着磁性の改善が小さいことがわかる。
(実施例5)
実施例5として、実施例1と同様に第三の粉砕粉B1とB2を、重量比で1:1の割合で混合した粉を金型に投入し、磁場中成形をした。その後、980と1030℃で8時間焼結した。その後、800℃および600℃でそれぞれ1時間の時効処理を行い、焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号16〜17を付与した。
一方、同様の方法にて原料合金薄板を溶解、鋳造後、第一の粉砕及び熱処理を行うことなく、スタンプミルにより第二の粉砕を行った。潤滑剤を添加した後、さらに同様の方法で第三の粉砕を行い、平均粒径が1.5μmおよび3.5μmの2種類の第三の粉砕粉を得た。これら2種類の第三の粉砕粉を重量比で1:1の割合で混合した後、金型に投入し、同様の方法で磁場中成形した、得られた成形体を同様の方法で焼結、さらに時効処理を行い、焼結体を得た。得られた焼結体に対し、試料番号18〜19を付与した。
その後、実施例1と同様の方法で着磁率と保磁力HcJも同じく測定した。試料番号18に対する試料番号16、試料番号19に対する試料番号17の着磁率及び保磁力HcJの変化をそれぞれ算出し、実施例1と同様の基準により◎、○、×と評価した。さらに実施例1と同様の方法で、直径30nm以上のFeを主成分とする軟磁性相を含む主相粒子の個数と軟磁性相を含まない主相粒子の個数を計測した。合わせて、軟磁性相を含むかどうかにかかわらず、全ての主相粒子の粒径をインターセプト法により主相粒子の粒径を算出した。主相粒子の平均粒径、及び粒子径ごとの軟磁性相を含む主相粒子の割合を表9に示す。試料番号18〜19では、主相粒子内に軟磁性相は確認されなかった。すなわち、試料番号18〜19は従来磁石であり、良好な着磁率が得られていない。
表9より、試料番号16では、粒径が1.5μm以下の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Ns(%)、粒径が1.5μm超の主相粒子中で、内部に軟磁性相が生成している割合Nl(%)としたとき、Ns>Nlの関係にある。このとき、着磁率と保磁力HcJが共に○以上の結果であり、保磁力HcJを維持しつつ、着磁性が改善していることがわかる。
一方、試料番号17では、Ns>Nlの関係はみたすものの、主相粒子の平均粒径が2.5μm超と大きく、保磁力HcJを維持しつつも着磁率の改善の効果が小さい。