JP6644049B2 - フレッシュタイプのパスタフィラータチーズ及びその製造方法 - Google Patents
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Description
「パスタフィラータ」とは、もともとはイタリア南部独特のチーズの製法の名称であり、乳が凝集した状態にあるカード(イタリア語で「パスタ」)に湯を注いで練り、弾力が出てきたところで引きちぎり、成形するというものである。このような製法により製造されるチーズは、弾力のある繊維状の(糸状に裂ける)組織(イタリア語で「フィラータ」)を有する。
しかしながら、牛乳を用いて上記の製法によってパスタフィラータチーズを製造する場合には、製品が硬くパサパサとした食感になりがちであるという問題があった。
そこで、本発明は、軟らかい食感を有するフレッシュタイプのパスタフィラータチーズを製造する新規な技術を提供することを課題とする。また本発明は、外観が滑らかなフレッシュタイプのパスタフィラータチーズを製造することをさらなる課題とする。
本発明の製造方法によれば、軟らかい食感を有するフレッシュタイプのパスタフィラータチーズを製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、コク味が豊かで外観も滑らかなフレッシュタイプのパスタフィラータチーズを製造することができる。
このような形態によれば、加熱工程と混練工程とにカードからの脂肪分を含む固形分の流出を防ぐことができる。
このような原料乳を用いることにより、コク味が強く、軟らかい食感のフレッシュタイプのパスタフィラータチーズを製造することができる。
なお、従来の製造方法により、このような脂肪分が高い原料乳を使用して、軟らかい食感を有し、かつ外観にも優れたフレッシュタイプのパスタフィラータチーズを製造することは困難であったことから、本発明は、特に脂肪/蛋白質比が1.5以上のような高いF/P比の原料乳を用いる場合に有用である。
このようなパスタフィラータチーズは、コク味が強く、軟らかい食感を有する。また、外観も滑らかであり、高品質である。
このようなパスタフィラータチーズは、コク味が強く、軟らかい食感を有し、嗜好性に優れる。
このようなパスタフィラータチーズは、極めてコク味が強く、軟らかい食感を有し、嗜好性に優れる。
このようなパスタフィラータチーズは、極めて軟らかい食感を有し、嗜好性に優れる。
本発明のフレッシュタイプのパスタフィラータチーズは、従来の製品にはない軟らかい食感を有し、嗜好性に優れる。
本明細書において、乳、乳製品に関する分類、及び製品中の成分の測定方法は、特に断らない限り、『乳及び乳製品の成分規格等に関する省令』(以下、「乳等省令」という。)に基づくものである。
本明細書において、「%」パーセントについての表示、脂肪と蛋白質の比率についての表示は、特に断らない限り、質量による表示である。
本発明において「フレッシュタイプ」のチーズとは、一定の温度及び湿度で発酵させるといった熟成を経ずに、水やホエイ液等の液体に浸漬されたチーズ、又はそのような熟成を経ずに、真空パックされたチーズをいう。本発明にいうフレッシュタイプのパスタフィラータチーズには、代表的なものとしてモッツァレラチーズ、及びストリングチーズが含まれる。
本発明の製造方法において用いられる原料乳(チーズ製造のための原料に用いられる乳)としては、パスタフィラータチーズを製造するのに通常用いられる牛由来の原料乳を用いることができ、具体的には生乳、牛乳、成分調整牛乳を用いることができる。成分調整牛乳としては、生乳、牛乳に対して乳脂肪分を高めたものが好ましく用いられる。
上記のような脂肪/蛋白質比の原料乳は、具体的には、生乳又は牛乳とクリームを混合する、あるいは、生乳又は牛乳から乳蛋白質を一部除去する、ことにより調製することができる。さらに、特定の原料乳に脱脂乳や脱脂濃縮乳を添加して調製することも可能である。
本発明における原料乳は、常法により殺菌等の処理が行われ、次の工程に供される。例えば、プレート式熱交換機を用い、HTST法で71〜75℃、15秒殺菌を行うことができる。
次いで、原料乳からカードを調製する。カードの調製は常法により行うことができる。すなわち、殺菌後冷却した原料乳にスターターを添加して発酵させた後、凝乳酵素(レンネット)を加えて凝固させる。スターターとしては、通常乳酸菌が用いられる。凝乳酵素の添加・混合と、一定時間の静置とにより、カードが形成されたら、これを例えば2〜5cm四方にカッティングする。カッティングしたカードを撹拌、静置することにより、カードからホエイを排出する。
続いて、カードを堆積し、カードのpHが5.0〜5.8となるまで、好ましくはpH5.1〜5.4となるまで、さらに好ましくはpH5.2〜5.3となるまで発酵が進んだら、カードを例えば1〜3cm四方にカッティングする。
次いで、カードをジュール加熱(通電加熱、オーミック加熱ともいう。)する。ジュール加熱とは、対象物に通電することによって生ずるジュール熱により対象物を加熱する方法をいう。
加熱工程では、カードの温度が50〜80℃となるように、好ましくは55〜75℃となるように、さらに好ましくは60〜70℃となるように行うことが好ましい。ジュール加熱の加熱方式である内部加熱方式又は自己発熱方式は、ジュール加熱と、マイクロ波加熱とに分類されるが、本発明における加熱工程ではジュール加熱を用いることが好ましい。ジュール加熱を採用することにより、マイクロ波加熱に比して、より均一な加熱が可能であり、オイルオフの発生を効果的に抑制することができる。
本発明において、カードのジュール加熱は、既存のジュール加熱機を用いることができる。本発明において用いられるジュール加熱機は、バッチ式及び連続式のいずれをも用いることができる。
連続式のジュール加熱機は、例えば、カードの流路となるパイプと、パイプ内側に、流れる方向に所定間隔をおいて配置された2以上の環状電極で構成される。この場合には、パイプ内にカードを供給し、移送することにより、カード中の水分に通電させてカードにジュール熱を生じさせて、カードを加熱することができる。
カードの温度は、ジュール加熱機出口に設置された温度センサーを用いて、カードの表面温度を測定して管理することができる。
ジュール加熱によれば、温湯を用いた加熱より短時間で均一に加熱を行うことが可能となる。
加熱されたカードは、次いで混練される。混練は、カードを延伸することにより、パスタフィラータチーズ特有の繊維状の組織を形成するように行われる。
混練工程では、通常カードの混練に用いられる混練機を用いて行うことができる。なお、チーズの混練及び成形を連続的に行うことができる成形機も知られているので、これを用いて混練と成形とを同一装置内で実施することもできる。また、混練したカードの流路となるパイプ内にオーガスクリュー等を設けることにより、カードを移送しながら混練することもできる。
混練工程では、カードを前工程の加熱温度に保持して行うことが好ましい。
混練工程では、組織に所望の弾力がある繊維状の組織となるまで行えばよい。その時間は、通常1〜2分である。
混練されたカードは、球形などの所望の形状に成形される。成形工程では、チーズの成形に通常使用される成形機を用いて行うことができる。中でも好ましくは、チーズをモールドに入れ、形を整えるモールダー(モールダー成形機)を用いることができる。
パスタフィラータチーズの1個当たりの重量は特に制限されないが、通常5〜200gであり、好ましくは50〜200gであり、特に好ましくは80〜120gである。
次いで、成形品を冷却して、フレッシュタイプのパスタフィラータチーズが完成する。冷却工程では、通常、10〜20℃である液中に、好ましくは13〜17℃である液中に投入することにより行うことができる。冷却に用いる液は、水であっても、塩水であっても、その他の塩類を含む水溶液であっても良いし、パスタフィラータチーズの保存性を高める成分を含むものであってもよい。
本発明の製造方法により製造されるフレッシュタイプのパスタフィラータチーズは、従来にはない軟らかい食感を有しており、例えば、10℃での硬度が、3.8×104 N/m2以下である。
また、本発明の製造方法により製造されるフレッシュタイプのパスタフィラータチーズは、表面が滑らかである。すなわち、本発明の製造方法により製造されるパスタフィラータチーズは、従来の製造方法により製造されるチーズと異なる組織を形成しているといえる。
コク味という用語は広範に用いられているが、特に乳製品のコク味については、乳脂肪感やクリーミー感がコク味として表現されている(参考文献:日本味と匂学会誌、第16巻、第3号、2009年12月、第637−640頁)。チーズにおいても、乳脂肪を多く含むほど、コク味が強く、濃厚な味が得られるとされている。
本発明の製造方法により製造されるフレッシュタイプのパスタフィラータチーズは、カードの加熱工程でジュール加熱を利用することにより、効果的にカード中に脂肪分が維持されるため、従来のフレッシュタイプのパスタフィラータチーズに比して、濃厚なコク味を有する点で優れている。
すなわち、本発明のパスタフィラータチーズの脂肪含量は、25質量%以上であり、好ましくは27質量%以上である。本発明のパスタフィラータチーズの脂肪含量の上限は、32質量%を目安にすることができる。
また、本発明のパスタフィラータチーズにおける固形分中の脂肪含量は、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、中でも好ましくは62質量%以上、特に好ましくは65質量%以上である。固形分中の脂肪含量の上限は、72質量%を目安にすることができる。
また、本発明のパスタフィラータチーズの脂肪/蛋白質比は、好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは1.6以上であり、特に好ましくは1.8以上である。
このような固形分の組成を有するパスタフィラータチーズは、極めて軟らかい食感を有し、嗜好性に優れる。
また、本発明のパスタフィラータチーズにおける水分量は、好ましくは50〜60質量%であり、さらに好ましくは、52〜58質量%である。
また、本発明のパスタフィラータチーズは、製造後1日以内では、10℃での硬度が好ましくは3.5×104 N/m2以下であり、さらに好ましくは3.0×104 N/m2以下である。
このような硬度のフレッシュタイプのパスタフィラータチーズは、従来にはなかったものであり、新たな嗜好性が提供される。
本発明における硬度は、例えば3cm×3cm×高さ2cmのサンプルを用い、レオメーターを用いて、品温10℃で、直径8mmの円柱型のプランジャーを1.0mm/sでサンプルに1.5cm差し込み、破断強度を測定することにより測定することができる。
本発明のパスタフィラータチーズは、本明細書において開示された本発明の製造方法により製造することができる。
(1)原料乳の調製
生乳とクリームを混合することにより、F/P比が、それぞれ1.2、1.5、1.8、2.2、及び2.5である5種類の原料乳を調製した。各原料乳を100L調製し、プレート式熱交換機を使用して、HTST法で75℃、15秒の加熱処理条件で殺菌した。
殺菌した各原料乳を、38℃まで冷却してから、スターターを所定量添加し、均一に混合して、1時間発酵させた。
発酵後、得られた発酵液に、レンネットを添加して均一に混合し、30分間静置してカードを形成した。得られたカードを2cm四方の立方体にカッティングした。その後、ホエイ排出を行った。
レンネット添加からホエイの全量排出までは、約4時間で行った。さらに、カッティングしたカードは、約1時間撹拌し、その後静置した。
ホエイ排出後、カードを38℃に保温しながら堆積し、pHを5.3に到達させた。得られたカードを、1cm四方の立方体にカットした。
各原料乳から調製したカードを用いて、以下の各方法により各種のチーズを製造した。実施例1〜4、対照例1、対照例2、比較例1における、原料乳のF/P比、加熱方法等の条件は、表1に記載されるとおりである。
カードをジュール加熱機へ搬送し、カードの温度が65℃に達するまで加熱した。加熱には、バッチ式ジュール加熱機(株式会社フロンティアエンジニアリング社製)を用いた。加熱したカードを混練し、モールダー(モールダー成型機)を用いて100gの球形に成形してチーズを得た。なお、混練には、混練機(ミニコンパクト:Minicompact、CMT社製)を用いた。
成形したチーズを15℃の水に投入して冷却した。冷却後の球形のチーズを試験に供する試料とした。
実施例の製造方法の各工程を図1に示す。
カードを85℃の湯(練り湯)30L中に維持して、混練を行った。混練はカードの温度が60℃に達するまで行った。本対照例において、混練には、混練機(ミニコンパクト:Minicompact、CMT社製)を用いた。混練後のカードを、モールダーを用いて100gの球形に成形した。
成形したチーズを15℃の水に投入して冷却し、チーズを得た。
ただし、対照例2では、カードが練り湯に溶けてしまい、混練、成形を行うことは不可能であった。
カードに、約135℃の水蒸気を噴霧しながら、混練を行った。混練は、ブレンテック社製のツインスクリュークッカーを用い、カードの温度が60℃に達するまで行った。混練工程の後のカードを、モールダーを用いて100gの球形に成形した。
成形したチーズを15℃の水に投入して冷却し、チーズを得た。
混練工程において、混練におけるカードからの脂肪分の流出(オイルオフ)とカード組織の状態について観察し、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
〇:カードからのオイルオフは確認されない。
△:カードからのオイルオフが確認されるが、カード組織は保持されている。
×:カード組織が崩壊した。
製造した直後のチーズの組成を表1に示す。また、チーズの外観について、滑らかであるか、肌荒れを有する(ざらついている)か、を併せて表1に示す。
なお、チーズの全固形分は混砂乾燥法に従って測定し、原料乳の脂肪分についてはレーゼゴットリーブ法に従って測定し、チーズ製品の脂肪分については酸アンモニア分解法に従って測定した。
製造したチーズの保存開始後1日後に、各試料を2つずつ取り出し、硬度を測定した。
硬度の測定は、各試料から3cm×3cm×高さ2cmのサンプルを切り出し、レオメーター((株)山電製;RE−3305RHEONER)を用いて、品温10℃で、直径8mmの円柱型のプランジャーを、1.0mm/sでサンプルに1.5cm差し込み、破断強度を測定し、平均値を算出した。結果を表1に示す。
一方、温湯を用いて加熱した従来の方法のうち、F/P比が1.8である対照例2は、混練ができず、カードが温湯に溶けてしまった(カード組織の崩壊)。
また、水蒸気加熱を用いて加熱した従来の方法(比較例1)では、オイルオフが確認され、製造されたチーズは硬いものであった。
これらの結果より、加熱工程においてジュール加熱を採用することにより、F/P比が1.5以上であるような高いF/P比の原料乳を用いた場合であっても、脂肪分の流出(オイルオフ)を抑制してパスタフィラータチーズを製造することができることが判明した。
さらに、各実施例のチーズは、従来の製品(比較例1、対照例1)よりも、硬度が顕著に小さいものであった。
すなわち、各実施例のチーズは、従来の製品(比較例1、対照例1)に比して明らかに脂肪分が多く、軟らかい物性を有することが判明した。
そのため、各実施例のチーズの食感は、従来の製品(比較例1、対照例1)では実現しえない軟らかさを有し、嗜好性に極めて優れていた。
一方、比較例1のチーズは表面に荒れが発生していた。
すなわち、外観の良好さを達成するという観点からも、各実施例に基づく本発明の製造方法が優れていることが判明した。
このように、フレッシュタイプのパスタフィラータチーズを製造する際のカードの加熱手段としては、ジュール加熱を採用することが良く、これにより、これまでにはない軟らかく滑らかな組織を有し、濃厚なコク味を持つチーズを製造することができることが判明した。
Claims (3)
- 原料乳から調製したカードをジュール加熱する加熱工程、及び加熱したカードを混練する混練工程、を含むフレッシュタイプのパスタフィラータチーズの製造方法。
- 前記加熱工程の後に混練工程が行なわれ、加熱工程と混練工程とが、カードを水中、温湯中、又は水蒸気中に維持させずに行われる、請求項1に記載のフレッシュタイプのパスタフィラータチーズの製造方法。
- 前記原料乳の脂肪/蛋白質比が1.5以上である、請求項1又は2に記載のフレッシュタイプのパスタフィラータチーズの製造方法。
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