以下、本発明の一実施形態に係る排気浄化装置について、図1から図10を参照して説明する。本実施形態の排気浄化装置は、内燃機関、例えば車両に搭載されたディーゼルエンジンの排気を浄化する装置である。車両は、自家用の乗用自動車、あるいはトラックやバスなどの事業用自動車のいずれであってもよく、用途や車種は特に問わない。また、ディーゼルエンジンが搭載された車両のみならず、車両としては、例えばガソリンエンジンが搭載された自動車やハイブリッド自動車であっても構わない。
図1は、本実施形態の排気浄化装置1の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、排気浄化装置1は、エンジン2の燃焼室21から排出される排気を浄化する構成となっている。
エンジン2の燃焼室21には、吸気弁22を開いて吸気通路3から吸気が吸入される。燃焼室21への吸気量は、吸気絞り弁23の開閉によって調整される。次いで、加熱圧縮された吸気にインジェクタ24から燃料(軽油)が噴射されると、燃料が発火し、空気と燃料を含む混合気が燃焼室21で燃焼する。混合気の燃焼により、燃焼室21内でピストン25が往復運動し、このエネルギーがピストン25に連結されたクランクシャフト26の回転運動に変換されて出力される。燃焼後の混合気(排気)は、排気弁27を開いて燃焼室21から排気通路4を通して排出され、排気浄化装置1で浄化された後に大気中へ放出される。
エンジン2は、排気通路4から分岐して排気を燃焼室21へ循環させる排気循環路5を有している。循環気(以下、EGRガスという)は、排気循環路5に設けられたEGRクーラやターボチャージャ(いずれも図示省略)などを経由し、EGR弁6の開閉によって吸気通路3の最下流などに導入される。
排気浄化装置1は、本体部10と、酸化触媒12と、排気フィルタ(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ)13を備えている。本体部10は、排気を通流させる通気路11を内部に有する略筒状の構造体であり、燃焼室21と繋がる排気通路4の途中もしくは終端に配置され、排気通路4の一部を構成している。酸化触媒12と排気フィルタ13は、燃焼室21から排出された排気に含まれる微粒子(PM)を除去して排気を浄化するための部材であり、酸化触媒12を排気の流れの上流側(図1においては、左側)、排気フィルタ13を下流側(同、右側)に位置付けてそれぞれ通気路11に配置されている。PMは、粒子状物質の総称であるが、本実施形態では便宜上、炭素成分(C)と可溶性有機成分(SOF)の2つを成分として構成されているものとして扱う。したがって、PM、C、SOFのうちの2つの量が推定できれば、残りの1つの推定量を算出することができる。
酸化触媒12は、排気中に含まれる炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を酸化除去するとともに、一酸化窒素(NO)を酸化して二酸化窒素(NO2)を生成させる。また、酸化触媒12は、PMに含まれるSOF、具体的には燃焼室21で燃焼されなかった燃料(軽油)やエンジンオイルの燃え残りを酸化させて除去する。したがって、排気浄化装置1に流入した排気は、通気路11において酸化触媒12と接することでPMに含まれるSOFの量が減少し、排気フィルタ13へ向けて流れていく。その際、SOFの酸化反応で生じる反応熱によって排気の温度が上昇する(後述する第1状態の排気EG1よりも第2状態の排気EG2の方が高温となる)。
排気フィルタ13は、排気(本実施形態では、燃焼室21から排出された後、酸化触媒12でSOF量が減少した排気)に含まれるPMを捕集して除去する。排気フィルタ13の構成は特に限定されないが、例えば炭化ケイ素やコージライトなどを素材とした多孔質セラミックからなるウォールフロー型のフィルタとして構成することができる。排気フィルタ13の排気との接触部位は、酸化触媒でコーティングされている。したがって、排気浄化装置1の通気路11で酸化触媒12と接した排気は、排気フィルタ13を通過することでPMが酸化除去および捕集され、浄化された状態で排気浄化装置1から流出される。ただし、捕集されたPMが排気フィルタ13に堆積していくため、排気フィルタ13に目詰まりが生じて排気圧が徐々に増大していく。このため、捕集されたPMを適宜燃焼させて排気フィルタ13から取り除き、PMを適正に捕集することが可能な状態に排気フィルタ13を再生させねばならない。なお、酸化触媒12における酸化反応により生成されたNO2による酸化反応によっても、捕集されたPMは、一部が燃焼して排気フィルタ13から取り除かれる。
排気浄化装置1は、排気フィルタ13の再生を制御する制御部7を備えている。制御部7は、CPU、メモリ、入出力回路などを備えたマイクロコンピュータとして構成されている。制御部7は、各種データを入出力回路により読み込み、メモリから読み出したプログラムを用いてCPUで演算処理し、処理結果に基づいて所定の制御を行う。制御部7は、例えばエンジンコントロールユニット(ECU)に含めて構成すればよいが、ECUとは別途に構成してもよい。
図1に示すように、制御部7は、具体的な制御を実行するため、昇温制御部71および捕集量推定部72を備えている。さらに、捕集量推定部72は、炭素成分(C)燃焼熱量推定部73、可溶性有機成分(SOF)燃焼熱量推定部74、および微粒子(PM)燃焼熱量推定部75を備えている。これらの昇温制御部71、捕集量推定部72、C燃焼熱量推定部73、SOF燃焼熱量推定部74、およびPM燃焼熱量推定部75は、例えばプログラムとしてメモリに格納されている。なお、かかるプログラムをクラウド上に格納し、制御部7をクラウドと適宜通信させて所望のプログラムを利用可能とする構成であってもよい。この場合、制御部7は、クラウドとの通信モジュールなどを備えた構成とする。
排気フィルタ13の再生にあたって、昇温制御部71は、排気フィルタ13を通過する排気の温度を上昇させる昇温制御を実施する。排気温度の上昇により、排気フィルタ13に捕集されたPMが燃焼して除去される。再生させる排気フィルタ13は、PMが捕集されて堆積した状態となっており、捕集量推定部72は、排気フィルタ13が捕集したPMの捕集量(以下、PM捕集量という)を推定する。PMの燃焼態様は、PMの成分によって異なるため、捕集量推定部72は、排気フィルタ13が捕集したPMに含まれる成分ごとの捕集量、具体的には、PMに含まれるCおよびSOFの捕集量(以下、C捕集量およびSOF捕集量という)をそれぞれ推定する。そして、捕集量推定部72は、PM捕集量、およびPMに含まれる成分ごとの捕集量(C捕集量とSOF捕集量)を燃焼させた際に生じる燃焼熱量を推定する。具体的には、C燃焼熱量推定部73がC捕集量の燃焼熱量(以下、C燃焼熱量という)、SOF燃焼熱量推定部74がSOF捕集量の燃焼熱量(同、SOF燃焼熱量という)、およびPM燃焼熱量推定部75がPM捕集量の燃焼熱量(同、PM燃焼熱量)をそれぞれ推定する。
昇温制御部71は、捕集量推定部72で推定したPM捕集量のPMに含まれる成分に基づいて排気温度の昇温制御を開始する。具体的には、捕集量推定部72のC燃焼熱量推定部73、SOF燃焼熱量推定部74、およびPM燃焼熱量推定部75でそれぞれ推定したC燃焼熱量、SOF燃焼熱量、およびPM燃焼熱量に基づいて、昇温制御部71は、排気温度の昇温制御を開始する。
また、排気浄化装置1は、排気通路4を流れる排気の温度を測定する温度測定部8を備えている。本実施形態において、排気浄化装置1には、2つの温度センサ8a,8bが温度測定部8として備えられている。第1の温度センサ8aは、排気通路4の酸化触媒12の上流(具体的には、通気路11よりも上流)で排気の温度を測定している。第2の温度センサ8bは、排気通路4の酸化触媒12の下流かつ排気フィルタ13の上流(すなわち、通気路11における酸化触媒12と排気フィルタ13の間)で排気の温度を測定している。さらに、排気浄化装置1は、排気フィルタ13の上流側と下流側での排気の差圧を測定する差圧測定部(一例として、差圧センサ)9を備えている。温度センサ8a,8bで測定された温度データ、および差圧センサ9で測定された差圧データは、例えば通信ケーブルなどを介して制御部7に送られる。
排気浄化装置1は、例えばエンジン2が所定条件(所定時間や所定速度など)で継続して運転され、排気フィルタ13の再生開始要件を満たした場合、排気フィルタ13の再生を開始する。本実施形態では、C燃焼熱量、SOF燃焼熱量、およびPM燃焼熱量がこれらに対応する複数の閾値以上であるか否かを昇温制御部71で判定している。C燃焼熱量、SOF燃焼熱量、およびPM燃焼熱量は、上述のとおり捕集量推定部72のC燃焼熱量推定部73、SOF燃焼熱量推定部74、およびPM燃焼熱量推定部75でそれぞれ推定される。そして、かかる判定結果に基づいて、昇温制御部71は、排気の温度を上昇させる。
本実施形態においては、排気の温度を上昇させるためのかかる閾値として、第1の閾値と第2の閾値の2つが設定されている。第1の閾値と第2の閾値は、第1の閾値が第2の閾値よりも大きな値に設定され、いずれもプログラムの読み込みパラメータの一つとして制御部7のメモリに格納されている。なお、例えば第1の閾値と第2の閾値をプログラムとともにクラウド上に格納し、制御部7をクラウドと適宜通信させてプログラムおよびこれらの閾値を利用可能とする構成であってもよい。この場合、制御部7は、クラウドとの通信モジュールなどを備えた構成とする。
第1の閾値は、排気フィルタ13が溶け出す(溶損する)熱量よりも小さな熱量の値に設定されている。排気フィルタ13が溶け出す熱量よりも小さな熱量とは、排気フィルタ13が溶損してしまう熱量に達するまでにある程度の余裕を持たせた熱量として定義するものであり、排気フィルタ13の材質などに応じて予め設定される。すなわち、PM燃焼熱量が第1の閾値以下である場合には、PMを燃焼させた際に排気フィルタ13が溶損してしまうことを防ぐことができる。本実施形態では、第1の閾値をPM燃焼熱量、SOF燃焼熱量、およびC燃焼熱量に共通する閾値として用いている。すなわち、第1の閾値は、PM燃焼熱量、SOF燃焼熱量、およびC燃焼熱量に基づいて排気フィルタ13の再生開始要否(昇温制御部71で排気の昇温制御を行うか否か)を判定するための微粒子(PM)閾値、可溶性有機成分(SOF)閾値、および炭素成分(C)閾値の全てを包含する(全てで一致する)閾値となっている。
これに対し、第2の閾値は、排気フィルタ13で捕集されたPMに含まれるCが着火するために必要な熱量(以下、C着火熱量という)の値に設定されている。すなわち、第2の閾値は、Cの着火閾値として設定されている。C着火熱量は、PMに含まれるCの物性により予め定められており、着火させるCの量にかかわらず所定値となる。例えば、Cの燃焼温度(発火点)は600℃程度であるのに対し、SOFの燃焼温度(発火点)は300℃から400℃程度であるので、SOFはCよりも低温で着火しやすい。このため、SOF燃焼熱量が第2の閾値であるC着火熱量に達すると、SOFに続いてCを燃焼させること、すなわち排気フィルタ13で捕集されたPMを燃焼させることができる。
図2および図3には、排気浄化装置1における排気フィルタ13の再生制御のフローを示す。以下、排気フィルタ13の再生制御の具体例およびその作用について、図2および図3に示すフローに従って説明する。図2は、排気フィルタ13の再生を開始するか否かを判定するための前処理を示す制御フロー図であり、図3は、排気フィルタ13の再生を開始するか否かの判定処理およびその後処理を示す制御フロー図である。
排気浄化装置1は、例えばエンジン2が所定条件(所定時間や所定速度など)で継続して運転された際に、排気フィルタ13の再生を開始するか否かを次のように判定する。この場合、図2に示すように、捕集量推定部72は、第1の温度センサ8aおよび第2の温度センサ8bで測定された排気の温度に基づいて、排気フィルタ13のPM捕集量、C捕集量、およびSOF捕集量をそれぞれ推定する。
これらのPM捕集量、C捕集量、およびSOF捕集量を推定するにあたって、捕集量推定部72は、エンジン2の回転数とトルクとの関係を示す既知のマップ(図示省略)により、燃焼室21から排出されてDOC12と接する前の排気(図1において矢印EG1で示す。以下、第1状態の排気EG1という)に含まれるPM量とSOF量を、まずそれぞれ推定する(S201)。推定されたPM量からSOF量を減ずることで、第1状態の排気EG1に含まれるCの推定量が算出される。この場合、捕集量推定部72は、例えばエンジン回転数センサなどが検出した回転数データを読み込み、かかるマップを参照して第1状態の排気EG1に含まれるPM量、SOF量およびC量をそれぞれ推定する。かかるマップは、制御部15のメモリ、あるいはクラウド上に格納されている。
酸化触媒12における排気のSOF浄化率は、酸化触媒12と接する排気の温度によって推定することができる。このため、捕集量推定部72では、第1状態の排気EG1の温度により、酸化触媒12における第1状態の排気EG1のSOF浄化率を推定する(S202)。制御部7のメモリ、あるいはクラウド上には、第1状態の排気EG1の温度と、酸化触媒12における第1状態の排気EG1のSOF浄化率との関係を示す既知のマップ(図示省略)が格納されている。第1状態の排気EG1の温度は、第1の温度センサ8aで測定されている。
そして、推定した浄化率を用いて、第1状態の排気EG1が酸化触媒12と接して浄化された排気(図1において矢印EG2で示す。以下、第2状態の排気EG2という)のPM量およびSOF量を、捕集量推定部72においてそれぞれ推定する(S203)。
例えば、測定された第1状態の排気EG1の温度に対する酸化触媒12のSOF浄化率(酸化触媒12での酸化反応により除去されるSOFの割合)をα1とすれば、第1状態の排気EG1に含まれるSOF量(X)のうちのX*α1が、酸化触媒12によって酸化除去される。したがって、X*(1−α1)のSOFが除去されずに残存し、第2状態の排気EG2に含まれていることになる。すなわち、第2状態の排気EG2に含まれているSOF量は、X*(1−α1)と算出できる。
一方、第1状態の排気EG1が酸化触媒12で浄化された後であっても、第2状態の排気EG2に含まれているCの量は変わらない。したがって、このC量に第2状態の排気EG2のSOF量を加えることで、第2状態の排気EG2に含まれているPMの量を算出できる。
排気フィルタ13における排気のSOF浄化率は、排気フィルタ13を通過する排気の温度によって推定することができる。このため、捕集量推定部72では、第2状態の排気EG2の温度により、排気フィルタ13における第2状態の排気EG2のSOF浄化率を推定する(S204)。制御部7のメモリ、あるいはクラウド上には、第2状態の排気EG2の温度と、排気フィルタ13における第2状態の排気EG2のSOF浄化率との関係を示す既知のマップ(図示省略)が格納されている。第2状態の排気EG2の温度は、第2の温度センサ8bで測定されている。
そして、推定した浄化率を用いて、排気フィルタ13に捕集されたPMの量(PM捕集量)、PM捕集量に含まれるSOFおよびCの量(SOF捕集量およびC捕集量)を、捕集量推定部72においてそれぞれ推定する(S205)。
例えば、測定された第2状態の排気EG2の温度に対する排気フィルタ13のSOF浄化率(排気フィルタ13での酸化反応により除去されるSOFの割合)をα2とすれば、第2状態の排気EG2に含まれるSOF量(X*(1−α1))のうちのX*(1−α1)*α2が、排気フィルタ13によって酸化除去される。すなわち、X*(1−α1)*α2のSOFが排気フィルタ13で酸化除去されるので、排気フィルタ13におけるSOF捕集量は、X*(1−α1)*(1−α2)と算出できる。
第2状態の排気EG2が排気フィルタ13を通過することで、第2状態の排気EG2に含まれるCはすべて排気フィルタ13で捕集されたものと推定できる。したがって、このC量(つまり、第1状態の排気EG1に含まれていたCの量)にSOF捕集量を加えることで、排気フィルタ13のPM捕集量を算出する。
すでにPM捕集量およびSOF捕集量が算出されている場合、捕集量推定部72は、これらの既算出値に新たに算出した値をそれぞれ加えて積算し、その積算値を、現時点におけるPM捕集量およびSOF捕集量として推定する。PM捕集量およびSOF捕集量が既算出されていない(つまり、これらが初期値である)場合、捕集量推定部72は、新たに算出した値を、現時点におけるPM捕集量およびSOF捕集量として推定する。
PM捕集量の推定時のとおり、第2状態の排気EG2が排気フィルタ13を通過することで、第2状態の排気EG2に含まれるCは、すべて排気フィルタ13で捕集されたものと推定できる。したがって、現時点におけるC捕集量は、現時点におけるPM堆積量からSOF捕集量を減ずることにより推定する。あるいは、第2状態の排気EG2に含まれるCの量(第1状態の排気EG1に含まれていたCの量)の初期値もしくは積算値を、現時点におけるC捕集量として推定してもよい。
なお、本実施形態では、温度センサ8a,8bの温度データを用いてPM捕集量およびSOF捕集量を推定しているが、推定方法はこれに限定されない。例えば、差圧センサ9で測定した排気フィルタ13の上流側と下流側での排気の差圧データを用いて、PM捕集量を推定してもよい。あるいは、車両の走行距離やPM捕集量を直接検出するセンサなどを用いて、PM捕集量を推定しても構わない。
このように排気フィルタ13の現時点におけるPM捕集量、SOF捕集量、およびC捕集量を推定することで、捕集量推定部72は、PM燃焼熱量、SOF燃焼熱量、およびC燃焼熱量をそれぞれ推定する(S206)。具体的には、PM燃焼熱量推定部75がPM燃焼熱量、SOF燃焼熱量推定部74がSOF燃焼熱量、そしてC燃焼熱量推定部73がC燃焼熱量をそれぞれ推定する。SOF燃焼熱量推定部74は、単位量あたりのSOFの熱量にSOF捕集量を乗じることで、SOF燃焼熱量を推定する。単位量あたりのSOFの熱量は、排気フィルタ13に捕集されたPMに含まれるSOFの物性により予め定められている。同様に、C燃焼熱量推定部73は、単位量あたりのCの熱量にC捕集量を乗じることで、C燃焼熱量を推定する。単位量あたりのCの熱量は、排気フィルタ13に捕集されたPMに含まれるCの物性により予め定められている。そして、PM燃焼熱量推定部75は、SOF燃焼熱量にC燃焼熱量を加えることで、PM燃焼熱量を推定する。
次いで、図3に示すように、排気フィルタ13の再生を開始するか否かの判定処理が昇温制御部71により行われる。排気フィルタ13の再生開始の可否判定にあたって、昇温制御部71は、PM燃焼熱量が第1の閾値を超えているか否かを判定する(S207)。この場合、例えばSOF燃焼熱量およびC燃焼熱量がいずれも第1の閾値を超えていなくとも、両者の合計が第1の閾値を超えていれば、PM燃焼熱量は第1の閾値を超えていることになる。また、SOF燃焼熱量もしくはC燃焼熱量が第1の閾値を超えていれば、PM燃焼熱量も必然的に第1の閾値を超える。したがって、S207の条件判定は、PM燃焼熱量が第1の閾値を超えている場合のみならず、SOF燃焼熱量もしくはC燃焼熱量が単独で第1の閾値を超えている場合も肯定される。なお、本実施形態では、PM燃焼熱量が第1の閾値を超えているか否かを判定しているが、PM燃焼熱量が第1の閾値以上であるか否かを、昇温制御部71で判定するようにしてもよい。
PM燃焼熱量が第1の閾値を超えていない、つまりPM燃焼熱量が第1の閾値以下である場合、昇温制御部71は、排気フィルタ13の再生を開始(実施)しない。例えば、PM、SOF、およびCの各燃焼熱量が図4および図5に示す状態となっている場合は、これに相当する。この場合、以降はS201からの制御が繰り返される。なお、PM燃焼熱量が第1の閾値を超えていなければ、SOF燃焼熱量もしくはC燃焼熱量が単独で第1の閾値を超えることはない。
これに対し、PM燃焼熱量が第1の閾値を超えている場合、昇温制御部71は、SOF燃焼熱量が第2の閾値以上であるか否かを判定する(S208)。なお、本実施形態では、SOF燃焼熱量が第2の閾値以上であるか否かを判定しているが、SOF燃焼熱量が第2の閾値を超えているか否かを、昇温制御部71で判定するようにしてもよい。
SOF燃焼熱量が第2の閾値以上である場合、昇温制御部71は、排気フィルタ13に捕集されたPMが燃焼可能な温度(以下、PM燃焼可能温度という)まで、排気フィルタ13を通過する排気(第2状態の排気EG2)の温度を上昇させる(S209)。例えば、PM、SOF、およびCの各燃焼熱量が図6から図8に示す状態となっている場合は、これに相当する。この場合、SOF捕集量のSOFが燃焼すると、C燃焼熱量に関わらず(具体的には、C燃焼熱量が第1の閾値を超えているか否かによらず)、SOF燃焼熱量によってC捕集量のCを着火させることができる。したがって、第2状態の排気EG2の温度をPM燃焼可能温度まで上昇させることで、排気フィルタ13に捕集されたPM(PM捕集量のすべて)を燃焼させることができる。
その際、昇温制御部71は、第2の温度センサ8bで測定された温度データを読み込み、第2状態の排気EG2の温度がPM燃焼可能温度まで達していることを確認する。例えば、SOFの燃焼温度は300℃から400℃程度、Cの燃焼温度は600℃程度であるので、PMの燃焼可能温度は300℃から600℃程度となる。したがって、第2状態の排気EG2の温度をSOFの燃焼温度まで上昇させ、SOF捕集量のSOFを燃焼させると、SOF燃焼熱量によってC捕集量のCが着火して燃焼するため、第2状態の排気EG2の温度がPMの燃焼可能温度まで上昇する。
第2状態の排気EG2の温度を上昇させるためには、例えば、燃料のポスト噴射や吸気絞りなどを行えばよい。この場合、昇温制御部71は、インジェクタ4や吸気絞り弁23などの動作を制御することで、通気路11への燃料の送り量や燃焼室21への吸気量などを適宜調整する。また例えば、昇温制御部71は、EGR弁6などの動作を制御し、EGRガスを適宜導入して酸素濃度の調整を行う。
これらの制御は、排気フィルタ13に捕集されたPMが完全に燃焼され、排気フィルタ13から除去されるまで所定時間(例えば20分から30分間程度)に亘って継続される(S210)。昇温制御部71は、例えば、差圧センサ9で測定した排気フィルタ13の上流側と下流側での排気の差圧データを用いて、排気フィルタ13からPMが除去されたか否かを判定する。差圧センサ9で測定された差圧が所定の基準値よりも小さければ、排気フィルタ13に目詰まりが生じておらず、圧損もないものとして、排気フィルタ13からPMが除去されたと判定できる。
PM燃焼可能温度での所定時間の燃焼後、排気フィルタ13に捕集されたPMが除去されると、昇温制御部71は、第2状態の排気EG2の温度制御を停止させ、第2状態の排気EG2の温度をもとの温度へ戻す(S211)。例えば、インジェクタ4や吸気絞り弁23、EGR弁6などの動作を制御し、燃料のポスト噴射や吸気絞りを停止させるとともに、EGRガスの導入を再開させる。これにより、第2状態の排気EG2の温度は、次第に上昇前(排気フィルタ13の再生開始前)の状態まで低下する。
また、昇温制御部71は、PM捕集量、SOF捕集量、およびC捕集量を初期値にリセット(例えば、パラメータをゼロクリア)する(S212)。併せて、PMの燃焼時間を初期値にリセット(例えば、タイマーをゼロクリア)するとともに、排気フィルタ13の再生を実施するか否かの前提要件であるエンジン2が継続運転されていることの所定条件を初期値にリセット(例えば、フラグを解除)する。
一方、PM燃焼可能温度での所定時間の燃焼後、排気フィルタ13に堆積しているPMが除去されていない場合(S210)、昇温制御部71は、第2状態の排気EG2の温度をPM燃焼可能温度に維持して、PMの燃焼を継続させる(S209)。
S208において、SOF燃焼熱量が第2の閾値以上ではない、つまりSOF燃焼熱量が第2の閾値に達していない場合、昇温制御部71は、C燃焼熱量が第1の閾値を超えているか否かを判定する(S213)。なお、本実施形態では、C燃焼熱量が第1の閾値を超えているか否かを判定しているが、C燃焼熱量が第1の閾値以上であるか否かを、昇温制御部71で判定するようにしてもよい。
C燃焼熱量が第1の閾値を超えている場合、昇温制御部71は、PM燃焼可能温度まで第2状態の排気EG2の温度を上昇させる(S209)。例えば、PM、SOF、およびCの各燃焼熱量が図9に示す状態となっている場合は、これに相当する。この場合、C燃焼熱量が単独で第1の閾値を超えているので、昇温制御部71は、SOF燃焼熱量にかかわらず、PM燃焼可能温度(具体的には、排気フィルタ13に捕集されたCが燃焼可能な温度)まで第2状態の排気EG2の温度を上昇させ、排気フィルタ13に捕集されたPM(PM捕集量のすべて)を燃焼させる。
これに対し、C燃焼熱量が第1の閾値を超えていない、つまりC燃焼熱量が第1の閾値以下である場合、昇温制御部71は、排気フィルタ13の再生を開始(実施)しない。例えば、PM、SOF、およびCの各燃焼熱量が図10に示す状態となっている場合は、これに相当する。この場合、PM燃焼熱量が第1の閾値を超えているにも関わらず、SOF燃焼熱量が第2の閾値、つまりC着火熱量に達していない。このため、SOF捕集量のSOFを燃焼させたとしても、SOF燃焼熱量によってC捕集量のCを着火させることができない。また、C燃焼熱量が第1の閾値を超えていないため、C捕集量のCを燃焼させたとしても、その際に生じる熱量(C燃焼熱量)は、排気フィルタ13の溶損熱量よりも小さな熱量(第1の閾値)と比べてさらに小さくなる。したがって、排気フィルタ13の再生を見送っている。以降は、S201からの制御が繰り返される。
このように、本実施形態によれば、排気フィルタ13に堆積しているPMを燃焼させるために排気の温度を上昇させるか否か(別の捉え方をすれば、排気フィルタ13の再生の開始タイミング)を、第1の閾値と第2の閾値に基づいて判定することができる。すなわち、PM燃焼熱量、SOF燃焼熱量およびC燃焼熱量に対応して第1の閾値を設定するとともに、SOF燃焼熱量に対応して第2の閾値を設定することができる。排気フィルタ13に捕集されたPMに含まれるSOFとCの燃焼熱量(SOF燃焼熱量とC燃焼熱量)は、PMの成分(SOF捕集量とC捕集量)に応じて変動する。したがって、本実施形態では、排気フィルタ13に捕集されたPMの成分を考慮して、排気フィルタ13の再生制御、具体的には再生開始の要否判断を行うことができる。
例えば、従来においては、排気フィルタに捕集されたPMの燃焼熱量(SOF燃焼熱量およびC燃焼熱量)、つまりPMの成分に関わらず、PM捕集量が一つの閾値を超えた時に排気フィルタの再生(排気温度の上昇などによるPMの燃焼)が行われていた。これに対し、本実施形態では、再生を開始(排気の温度を上昇)させるか否かの閾値を、PMの成分(PM燃焼熱量、SOF燃焼熱量、およびC燃焼熱量)に応じて複数(本実施形態では2つ)設定することができるので、より柔軟に排気フィルタ13の再生を行うことができる。
また、本実施形態によれば、PM燃焼熱量が第1の閾値を超えていない場合に加えて、例えばPM燃焼熱量が第1の閾値を超えている場合であっても、SOF燃焼熱量が第2の閾値に達しておらず、C燃焼熱量が第1の閾値を超えていない場合には、排気フィルタ13の再生を見送ることができる。したがって、PM燃焼熱量(換言すれば、PM捕集量)に余裕を持たせて、排気フィルタ13の再生を開始させることができる。これにより、排気フィルタ13の再生を開始させるまでの時間を従来よりも延ばすことができる。
このように本実施形態によれば、再生の開始(実施)タイミングをPMの成分(SOF燃焼熱量とC燃焼熱量)を考慮して最適化することができるので、排気フィルタ13の再生回数の低減や総再生時間の短縮を図ることが可能となる。この結果、エンジン2の燃費改善や燃費向上にも寄与することができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。このような新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
本実施形態では、上述したように、排気フィルタ13が溶損する熱量よりも小さな熱量の値として、第1の閾値をPM燃焼熱量、SOF燃焼熱量、およびC燃焼熱量に共通する閾値として用いている。すなわち、第1の閾値は、PM燃焼熱量、SOF燃焼熱量、およびC燃焼熱量に基づいて排気フィルタ13の再生開始要否を判定するためのPM閾値、SOF閾値、およびC閾値の全てを包含する(全てで一致する)閾値としている。
これに替えて例えば、第1の閾値を、それぞれ異なる値に設定されたC閾値、SOF閾値、およびPM閾値の3つに分けてもよい。一例として、C閾値は、Cを単独で燃焼させた際に排気フィルタ13を溶損させるおそれのある燃焼熱量の値に設定する。同様に、SOF閾値は、SOFを単独で燃焼させた際に排気フィルタ13を溶損させるおそれのある燃焼熱量の値に設定する。そして、PM閾値は、PM(CおよびSOF)を燃焼させた際に排気フィルタ13を溶損させるおそれのある燃焼熱量の値に設定する。CよりもSOFを燃焼させた場合の方が急激な燃焼は起き難く、SOFよりもPMを燃焼させた場合の方が急激な燃焼はさらに起き難い。このため、C閾値よりもSOF閾値を大きく、SOF閾値よりもPM閾値をさらに大きな設定とすることができる。
このように第1の閾値をC閾値、SOF閾値、およびPM閾値に細分化することで、より一層柔軟に排気フィルタ13の再生を行うことが可能となる。