JP6634974B2 - 酸化ニッケルの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、酸化ニッケルの製造方法に関するものであり、水酸化ニッケルを流動焙焼炉を用いて焙焼して酸化ニッケルを製造する酸化ニッケルの製造方法に関する。
一般的に、流動焙焼炉は、原料単独、もしくは流動媒体を用いてガスを供給しながら焙焼対象の粒状の原料をあたかも流体のように浮遊させることによって媒体との混合状態をつくり上げ、効率的に焙焼する装置である。焙焼対象の原料と流動媒体とを混合させた状態で焙焼することにより原料と流動媒体とが衝突しながら焙焼が進み、また、原料が流動層内に比較的長時間滞留できるため、効率的に焙焼することができる。
このような流動焙焼炉を用いて供給した原料に対する焙焼を確実に行うためには、ガスの流速を、原料(以下、「被焙焼物」と称する)と流動媒体との混合物の空塔速度が、最小流動化速度以上、終末速度未満の範囲となるように制御して供給する必要がある。ここで、空塔速度とは、ガス流量/炉断面積で求められる実速度であり、最小流動化速度とは、粉体(被焙焼物と流動媒体との混合物)が流動する最小の速度であり、終末速度とは、流動層から粉体が上昇して飛び出し始める速度をいう。
すなわち、ガスの流速が、原料と流動媒体との混合物の最小流動化速度未満であると、原料が流動化しないために焙焼が均一に進まず、原料の凝集が発生する等の問題が生じる。一方で、ガスの流速がその混合物の終末速度以上であると、流速が速すぎて原料や流動媒体がガスと共に流されてしまい、効果的に焙焼を施すことができないという問題や収率が大きく低下するという問題が生じる。つまり、流動焙焼においては、ガス流量を適切な範囲内で制御して、原料を焙焼に足る時間、流動層内で流動化させることが必要となる。
また、流動焙焼においては、焙焼した原料の回収方法も重要となる。連続的に焙焼するためには原料を連続的に投入する必要があるが、原料を連続投入した場合、焙焼中の原料と焙焼されていない原料とが混ざってしまい、効率的に焙焼を行うことができず、また、実質的に焙焼が完了した原料だけを回収することが困難となる。原料投入口と原料回収口とを離して原料が投入口から回収口へ向かうようにする場合もあるが、流動焙焼の場合には、粒状の原料が流体の如く流動化しているため、投入直後の焙焼されていない原料と、暫く炉内を浮遊して焙焼が進んだ原料とがすぐに混ざってしまい、焙焼が完了した原料だけを回収することはできず、どうしても焙焼が不十分な原料も混合した状態で回収されてしまう。これにより、品質的に低いものが回収され、また、焙焼効率も悪くなってしまうというのが実情である。
例えば、特許文献1には、鋳物古砂再生用の乾式再生機で発生したダストを集じんして得た古砂ダストを、珪砂をベース砂として底部に収容した流動焙焼炉の焙焼室内に供給し、その焙焼室内において流動焙焼させ、焙焼室内に形成される流動層の上部位置に開口する溢流口からオーバーフローさせて、再生処理ダストとして回収する技術が開示されている。また、シュートの投入口部に設けた圧縮空気吹込管で、その先端に形成したノズルから圧縮空気がシュートの出口に向って吹き込まれるようになっていることも開示されている。すなわち、古砂ダストをシュートに向かって圧縮空気を吹き込みながら炉内に供給し、溢流口から古砂ダストをオーバーフローさせて回収している。
しかしながら、特許文献1の技術では、古砂ダストの供給高さ位置と溢流口(回収口)の高さ位置とがほとんど同じであることから、流動化している古砂ダストについて、焙焼されたものだけが溢流口からオーバーフローして回収されているとは考えられない。すなわち、流動化している焙焼中の古砂ダストの中に、次々に焙焼されていない古砂ダストが供給されていくわけであるから、溢流口から回収されている古砂ダストには焙焼が不十分な古砂ダストがかなりの割合で混ざっていると考えるのが自然である。
したがって、特許文献1に開示の方法で、可能な限り焙焼が進んだ古砂ダストを回収するためには、古砂ダストの供給速度を極力遅くする必要があり、非常に効率の悪い処理となってしまうことは明白である。
また、特許文献2には、金属鉄源を流動焙焼炉で酸化焙焼する工程と、焙焼炉の溢流口より排出された粗粒子の酸化層を剥離する工程と、剥離工程後の酸化鉄と金属鉄粉を流動焙焼炉に循環する工程と、生成した微粉酸化鉄を焙焼ガスと共に流出させて焙焼ガス中より捕捉回収する工程とからなる高品位酸化鉄の製造方法が開示されている。
しかしながら、特許文献2には、微粉酸化鉄を焙焼ガスと共に流出させて焙焼ガス中より捕捉回収すると記載されているものの、具体的にどのように微粉酸化鉄を焙焼ガスと共に流出させるかについては明確に示されていない。すなわち、微粉酸化鉄と焙焼ガスとをどのように効率的に分離し、微粉酸化鉄を捕捉回収するかについては全く不明である。
また、特許文献2には、剥離酸化皮膜を流動焙焼炉排ガスに随伴させて炉外に排出させることも開示されているが、どうような方法で流動焙焼炉排ガスに随伴させ炉外に排出させるのかについても不明確である。
さて、酸化ニッケル(NiO)は、近年電池等の材料として多用されており、例えば、硫酸ニッケル(NiSO)等の塩を含有する水溶液にアルカリを添加し中和して水酸化ニッケル(Ni(OH))を得て、その水酸化ニッケルを焙焼して製造することができる。ところが、得られた酸化ニッケルに含まれる不純物、特に原料に起因する硫黄品位が高いと、それを用いて製造した電池等の特性を大きく低下させる等の悪影響を及ぼすことが知られており、均一かつ確実に焙焼処理を施して製造することが欠かせない。具体的には、不純物として硫黄の場合、その含有量を概ね100ppm未満にまで低減することが必要とされる。
しかしながら、流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを工業的に焙焼しようとする場合、炉内で均一な焙焼を進行させることは、高品質の酸化ニッケルを製造する上で欠かせないことであり、焙焼後の酸化ニッケルを連続的に取り出して回収することについても非常に重要であるにも関わらず、上述したように、そのような焙焼処理は容易ではない。そして、均一な焙焼が行われ難いことにより、硫黄品位が部分的に上昇したり、生産効率が低下したりする等、焙焼処理方法として流動焙焼法を有効に活用することができていない。
特開2000−42515号公報 特開昭61−236616号公報
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを製造するにあたり、流動焙焼炉を用いて焙焼することによって不純物を低減し、特に低硫黄品位の酸化ニッケルを効率よく製造することができる方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、流動焙焼炉を用いて焙焼を行い、その流動焙焼炉にて得られた焙焼物である酸化ニッケルを回収するに際して、焙焼時に供給するガス流量よりも多い量のガスを供給することにより、酸化ニッケルを効率的に回収することができ、しかも硫黄品位の低い酸化ニッケルとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1)本発明の第1の発明は、水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを製造する酸化ニッケルの製造方法であって、流動焙焼炉を用いてガスを供給しながら前記水酸化ニッケルを焙焼し、該流動焙焼炉にて焙焼して得られる酸化ニッケルを回収する際に、焙焼時に供給するガス流量よりも多い流量のガスを供給する、酸化ニッケルの製造方法である。
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、焙焼時に供給するガス流量の1.2倍以上2.5倍以下の流量のガスを供給しながら、焙焼して得られる酸化ニッケルを回収する、酸化ニッケルの製造方法である。
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、焙焼時における焙焼温度が800℃以上1200℃以下である、酸化ニッケルの製造方法である。
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記流動焙焼炉を用いた焙焼に際しては、流動媒体として、焙焼して得られる酸化ニッケルの終末速度よりも速い終末速度を有するものを使用し、焙焼して得られる酸化ニッケルを回収する際には、該酸化ニッケルの終末速度以上、前記流動媒体の終末速度未満の範囲のガス流速でガスを供給する、酸化ニッケルの製造方法である。
本発明によれば、低硫黄品位の酸化ニッケルを効率よく製造することができる。
流動焙焼炉を備えた流動焙焼装置の構成の一例を模式的に示す図である。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
本実施の形態に係る酸化ニッケルの製造方法は、流動焙焼炉を用いて、原料である水酸化ニッケルを流動焙焼することによって酸化ニッケルを得る方法である。流動焙焼炉を用いた流動焙焼法では、流動媒体を用いてガスを供給しながら焙焼対象である水酸化ニッケルを浮遊させることによって媒体との混合状態をつくり上げて焙焼する方法である。このような流動焙焼により処理することで、連続的にかつ効果的に、被焙焼物である水酸化ニッケルを焙焼することができ、高い生産性で酸化ニッケルを製造できる。
そして、本実施の形態に係る製造方法では、水酸化ニッケルを焙焼した後、流動焙焼炉にて得られた焙焼物である酸化ニッケルを回収するに際して、焙焼時に供給するガス流量よりも多い流量でガスを供給しながら回収する。このような処理を行うことで、酸化ニッケルを効率的に回収することができ、しかも、硫黄品位が低く、品質のばらつきのない酸化ニッケルを安定的に得ることができる。
なお、本実施の形態においては、流動焙焼により水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを製造する方法について示すが、被焙焼物(原料)として水酸化ニッケルに対する焙焼だけでなく、その他の原料に対する焙焼処理にも応用することができ、不純物品位の低い高品質な焙焼物を効率的に製造することが可能である。
≪原料(水酸化ニッケル)について≫
酸化ニッケルの製造方法において、流動焙焼による焙焼の対象となる原料は水酸化ニッケルである。原料の水酸化ニッケルとしては、Ni(OH)を主成分としているものであればよく、特に限定されない。
例えば、電池材料の原料として使用するための酸化ニッケル(NiO)は、電池特性を低下させ得る硫黄が極力含まれないものであることが好ましい。したがって、その酸化ニッケルを製造するための原料である水酸化ニッケルにおいても、硫黄やその他の不純物成分の含有量が少ないものであることが好ましいが、比較的揮発し易く、流動焙焼処理よって除去できる成分であれば、含まれていてもよい。
ここで、本実施の形態に係る製造方法では、流動焙焼炉から回収するまでの処理過程において、原料に含まれる硫黄を効率的に飛ばして除去することができ、硫黄品位の低く高品質な酸化ニッケルを安定的に製造することができる。このため、原料の水酸化ニッケルとしては、硫黄が含まれるものであってもよく、また、その他の不純物成分についても同様であり、比較的揮発し易い成分であって流動焙焼処理よって除去できる成分であれば、含まれていてもよい。
また、水酸化ニッケルの粒径についても、特に限定されない。その中でも、平均粒径が数μm〜数100μmである水酸化ニッケルでは、粒子の内部まで比較的短時間で均一に焙焼することができるため好ましい。なお、平均粒径が1mmを超えるような粗粒になると、内部まで均一に焙焼するのに時間がかかる上、部分的に焙焼の進み方に偏りが生じて不均一になる可能性があり、このような場合には焙焼時間が長くなることがある。
≪流動焙焼処理について≫
(1)流動焙焼炉の構成
図1は、流動焙焼炉を備えた流動焙焼装置の構成の一例を模式的に示す図である。本実施の形態に係る酸化ニッケルの製造方法においては、例えば図1に示すような流動焙焼装置1を用いて水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを製造する。なお、流動焙焼装置1としては、炉の下方からガスを流して流動焙焼を行うことができ、焙焼して得られた材料(酸化ニッケル)を上方に向かって気流搬送して回収することができる設備を備えるものであれば、図1に例示するものに限定されない。
流動焙焼装置1は、図1に示すように、少なくとも、流動焙焼が行われる炉本体11と、炉本体11の下方に位置しガスを導入するガス導入管12と、炉本体11の上方に位置し焙焼して得られた焙焼物(酸化ニッケル)を回収する回収サイクロン13とを備える。なお、図1中の「X」は、被焙焼物(原料)の水酸化ニッケルを表す。
[炉本体]
炉本体11は、例えば円筒形状を有し、流動焙焼を行う焙焼室を構成するものである。この炉本体11の内部において、原料である水酸化ニッケルと流動媒体との混合物がガスにより浮遊流動化して流動層を形成する。より具体的に、炉本体11は、炉本体上部11Aと、炉本体下部11Bとに分けられる。
炉本体上部11Aは、原料(被焙焼物)である水酸化ニッケルを投入する原料投入管14が設けられている。炉本体上部11Aにおいては、原料投入管14から投入された水酸化ニッケルを炉本体11の下方から供給されるガスにより浮遊させ、流動媒体との混合状態で焙焼処理が行われる。
炉本体下部11Bは、炉本体11の下方から供給されるガスを整流するための固定層(整流層)21と、固定層21上に形成された流動媒体層22とにより構成されている。
固定層21は、ビーズ形状等の形状を有するアルミナ、シリカ、ムライト等の無機化合物により構成され、その下方から供給されるガスを整流する。
流動媒体層22は、原料の水酸化ニッケルと共に混合状態を形成して流動焙焼するための媒体(流動媒体)により構成されている。その流動媒体としては、被焙焼物である水酸化ニッケルと反応しないものであって、その被焙焼物と同等あるいはそれよりも速い最小流動化速度を有する媒体であることが好ましい。例えば、固定層21を構成する化合物と同様に、アルミナ、シリカ、ムライト等の無機化合物を用いることができる。
流動媒体として、被焙焼物と同等の最小流動化速度のものを用いることにより、混合状態が良好なものとなり、焙焼効率が向上する。また、流動媒体としては、その終末速度が、焙焼して得られる焙焼物(酸化ニッケル)の終末速度よりも速いものであることが好ましい。詳しくは後述するが、流動媒体の終末速度が焙焼物である酸化ニッケルの終末速度より速いものであれば、回収時に、酸化ニッケルの終末速度以上、流動媒体の終末速度未満の範囲のガス流速でガスを供給することによって、酸化ニッケルのみを選択的に気流搬送することができ、これにより、酸化ニッケルのみを効率的に回収することができる。
なお、流動媒体の粒径としては、特に限定されないが、過度に大きいと流動化することができず、一方、過度に小さいと原料の水酸化ニッケルとの衝突が有効に生じず、またそれ自体が飛散し易くなり取り扱いが困難となる。例えば、球形の流動媒体である場合には、その直径が、0.05mm〜1mm程度のものが好ましく、0.1mm〜0.5mm程度のものがより好ましい。
炉本体11においては、例えばその下部(炉本体下部11Bの付近)にヒーター15が包囲して設けられ、炉本体11の内部が所定の焙焼温度となるように加熱する。なお、ヒーター15は、所望の焙焼温度にまで加熱制御可能なものであれば、特に限定されない。
[ガス導入管]
ガス導入管12は、被焙焼物である水酸化ニッケルと流動媒体とを、炉本体11(炉本体下部11B)の付近(ヒーター15により加熱されている空間)で浮遊させるためのガスを導入するための配管である。また、焙焼して得られた焙焼物である酸化ニッケルを回収する際にも、このガス導入管12からガスを導入し、そのガスによって酸化ニッケルを気流搬送して回収する。なお、図1中の矢印は、ガスの流れを示している。
ガス導入管12は、炉本体下部11Bの下方(底部)に設けられており、導入されたガスは炉本体下部11Bを構成する固定層21にて整流され、流動媒体層22を構成する流動媒体を炉本体下部11B付近のヒーター15で加熱されている内部空間に浮遊流動させる。また、導入されたガスは、その炉本体上部11Aに設けられた原料投入管14より投入された原料を、その空間内に浮遊流動させる。
ガス導入管12においては、被焙焼物である水酸化ニッケルと流動媒体との混合物の最小流動化速度以上、終末速度未満の流速でガスを炉本体11に供給することが好ましい。このように、供給するガスの流速を被焙焼物と流動媒体との混合物の最小流動化速度以上とすることで、効果的に被焙焼物を流動化させて焙焼を施すことができ、また、ガスの流速を終末速度未満とすることで、そのガスにより被焙焼物が飛ばされることを防ぎながら、均一な焙焼を施すことができる。
供給するガスの流速は、流動焙焼時と焙焼後の回収時とでそれぞれ適切な範囲に制御することが好ましい。例えば、使用する流動媒体の種類によっても異なるが、被焙焼物である水酸化ニッケルの終末速度よりも速い終末速度を有する流動媒体を用いて焙焼を行った場合には、焙焼後の回収時において、焙焼物の終末速度以上、流動媒体の終末速度未満の範囲にガス流速を制御してガスを供給することで、焙焼により得られた焙焼物である酸化ニッケルのみを効率的に気流搬送させて回収することができる。
また、供給するガスの種類は、特に限定されるものではなく、焙焼する原料の量や反応性、求められるガス流速等に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、空気(圧縮空気)、酸素、窒素等の不活性ガスを用いることができる。
また、供給するガスの流量についても、流動焙焼時と焙焼後の回収時とでそれぞれ適切な範囲に制御することが好ましい。特に、本実施の形態に係る酸化ニッケルの製造方法においては、詳しくは後述するが、焙焼時に供給するガス流量よりも多い流量のガスを供給して、焙焼物である酸化ニッケルを回収する。
[回収サイクロン]
回収サイクロン13は、炉本体11の上方に位置し、炉本体11内で流動焙焼して得られた焙焼物である酸化ニッケルを回収する。回収サイクロン13としては、回収時におけるガス供給により、酸化ニッケルを効率的に回収できるものであれば特に限定されない。
回収サイクロン13には、例えば、回収した酸化ニッケルを取り出す取出口(排出口)に、篩等の分級装置を設けることができる。これにより、回収サイクロン13に、回収対象である酸化ニッケルと共に流動媒体が一緒に回収されてしまった場合でも、その粒径の違いを利用して簡易に分級することができ、酸化ニッケルのみを選択的に回収できる。
また、回収サイクロン13の先端部には、ガス排気管16が設けられている。上述したように、回収サイクロン13により回収された焙焼物の酸化ニッケルは、その取出口を介して回収される一方で、回収時にガス導入管12から導入された所定量のガスは、ガス排気管16を介して排出される。排出されたガスは、回収することによって再利用することもできる。なお、図1中の矢印は、ガスの流れを示している。
(2)流動焙焼処理
流動焙焼処理においては、例えば、固定層21をアルミナにより構成し、また流動媒体として球状のアルミナを用いて、所定の流速、流量のガスをガス導入管12を介して炉本体11の下方から供給しながら、炉本体11の内部に原料である水酸化ニッケルを投入して、その水酸化ニッケルと流動媒体とを浮遊流動化させることによって行う。なお、固定層21を構成する化合物や流動媒体等は、あくまでも一例であり、これに限定されるものではない。
流動焙焼は、上述したように、被焙焼物である水酸化ニッケルと流動媒体との混合物の最小流動化速度以上、終末速度未満の流速でガスを供給することによって行う必要がある。このような流速の範囲でガスを供給することで、被焙焼物と流動媒体とが良好に混合された状態となり、均一で、ばらつきのない焙焼が効率的に進行する。
流動焙焼時における焙焼温度としては、特に限定されないが、概ね800℃以上1500℃以下とすることが好ましく、850℃以上1200℃以下とすることがより好ましい。焙焼温度が800℃未満であると、焙焼処理に時間がかかってしまい、また温度が低いために均一な焙焼ができなくなる可能性がある。一方で、焙焼温度が1500℃を超えても、単に温度が高いだけで熱エネルギーが高くなってコスト高となり、炉体の寿命が短くなる可能性もある。また、焙焼温度を、より好ましく850℃以上1200℃以下とすることによって、より一層効率的に、かつ均一に焙焼処理を施すことができるとともに、ランニングコストも有効に抑えることができる。
なお、焙焼温度は、炉本体11の下方(炉本体下部11Bの付近)に包囲して設けられたヒーター15により、炉本体11の内部を加熱して調整することができる。
また、焙焼時間としては、特に限定されないが、短すぎると焙焼が不十分になって品質や純度が低下してしまう可能性がある。一方で、必要以上に焙焼時間が長すぎると、焙焼温度を維持するための熱エネルギーや供給するガスが無駄となり、効率的な処理を行うことができなくなる。具体的には、焙焼時間としては装置の大きさや構造等に依存するものの、概ね5分以上60分以下とすることが好ましく、10分以上30分以下とすることがより好ましく、15分以上25分以下とすることが特に好ましい。このような範囲の焙焼時間で処理することによって、より効率的に、均一な焙焼を行うことができる。
≪回収処理について≫
流動焙焼によって水酸化ニッケルを焙焼したのち、得られた焙焼物である酸化ニッケルを流動焙焼炉から回収する。上述したように、酸化ニッケルの回収は、例えば、図1に示すように、流動焙焼炉の炉本体11の後段に連続して設けられた回収サイクロン13によって回収することができる。
そして、その酸化ニッケルの回収においては、焙焼時と同様に、炉本体11のガス導入管12から所定量のガスを供給し、そのガスによって、炉本体11から回収サイクロン13に向けて焙焼物である酸化ニッケルを気流搬送する。このように、ガスを供給して気流搬送することで、回収物中における酸化ニッケルの含有割合を高めて、効率的に回収することができる。
このとき、本実施の形態においては、焙焼時に供給するガスの流量よりも多い流量でガスを供給して回収する。このように、被焙焼物である水酸化ニッケルと流動媒体とが良好な状態で流動化して焙焼された後、得られた焙焼物である酸化ニッケルを回収する際には、焙焼時よりもガスの流量を上げることによって、酸化ニッケルのみを効率的に気流搬送させて回収することができ、回収物中における酸化ニッケルの含有割合をさらに高めることができるとともに、硫黄の含有量も低減させることができる。
具体的には、焙焼時に供給するガスの流量の1.1倍以上2.7倍以下の量のガスを供給しながら、酸化ニッケルを回収することが好ましい。回収時のガス流量が、焙焼時のガス流量の1.1倍未満であると、回収率が低下する可能性があり、一方で、焙焼時のガス流量の2.7倍を超えると、そのガス流量が大きくなるにつれて回収率が低下傾向になるとともに、回収物中における酸化ニッケルの含有割合が低下する可能性がある。
ここで、「回収率」とは、流動焙焼するために投入した水酸化ニッケルの全てが酸化ニッケルになったときの重量から硫黄の含有量を引いた重量に対する、回収した試料の重量の百分率をいう。また、「回収物中における酸化ニッケルの含有割合(含有率)」とは、回収した試料中における酸化ニッケルと水酸化ニッケルとの合計含有量に対する、酸化ニッケルの含有量の割合をいう。したがって、この酸化ニッケルの含有率が高いことは、回収物中に焙焼が不十分な原料(未焙焼原料)をほとんど含まず、焙焼が完了して得られた酸化ニッケルを選択的に回収できたことを意味する。
また、好ましくは、焙焼時に供給するガスの流量の1.2倍以上2.5倍以下の量、より好ましくは1.5倍以上2.0倍以下の量のガスを供給しながら、酸化ニッケルを回収する。このように、好ましくは焙焼時のガス流量の1.2倍以上2.5倍以下の量、より好ましくは1.5倍以上2.0倍以下の量のガスを供給することによって、回収率も高い割合(例えば98%以上)としながら、その回収した回収物中における酸化ニッケルの含有割合も一層に高めることができ、硫黄の含有量もさらに低減させることができる。
さらに、回収の操作も含めた流動焙焼処理においては、流動媒体として、焙焼物である酸化ニッケルの終末速度よりも速い終末速度を有するものを選定して焙焼を行い、回収時には、その酸化ニッケルの終末速度以上、流動媒体の終末速度未満の範囲のガス流速でガスを供給することが好ましい。このことによって、焙焼物である酸化ニッケルのみを効果的に気流搬送することができ、酸化ニッケルのみをより選択的に回収することができる。すなわち、回収物中における酸化ニッケルの含有割合を向上させることができるとともに、硫黄の含有量をさらに低減させることができる。
なお、流動媒体の最小流動化速度や終末速度は、材質、サイズ、形状等に依存するため、それらの性質を含めて所望とする終末速度を有する媒体を選定することが好ましい。
以上のように、本実施の形態に係る酸化ニッケルの製造方法は、流動焙焼炉を用いて水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケルを得る方法であり、その流動焙焼炉にて水酸化ニッケルを焙焼して得られた酸化ニッケル(焙焼物)を回収する際に、焙焼時に供給するガス流量よりも多い流量のガスを供給することを特徴としている。このように、焙焼して得られた焙焼物を回収する際に、そのガス流量を焙焼時とは変えるという簡易な制御だけで、その焙焼物のみを選択的に回収することができ、極めて効率的に品質のばらつきがない酸化ニッケルを製造することができる。
すなわち、水酸化ニッケルに対する焙焼処理の終了後に速やかにガス流量を大きくして焙焼物である酸化ニッケルを回収し、その後、ガス流量を焙焼時のレベルに戻し、再び水酸化ニッケルを投入して焙焼する。このようなサイクルを繰り返すことによって、流動焙焼炉を停止することなく、連続的に操業することができる。
また、仮に被焙焼物である水酸化ニッケルが流動層(炉本体11の内部)に残ったとしても問題はなく、再度の連続的な操作で焙焼されるようになるため、焙焼が不十分な原料が回収されることを効果的に防ぐことができる。
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
<原料>
焙焼対象の原料(被焙焼物)として、水酸化ニッケル(Ni(OH))を準備した。水酸化ニッケルは、平均粒径が25.0±1.0μmのものであり、真空中で150℃、3時間の真空加熱処理を行って、含有水分を実質的に除去した。また、その水酸化ニッケルについて分析したところ、硫黄分が2.0±0.1%の割合で含まれるものであることが確認された。なお、その他の不可避的に含まれる成分は、含有量が少なく実質的に無視できる程度であった。
<焙焼処理>
(実施例1〜17:流動焙焼による焙焼)
流動焙焼炉を用いて原料の水酸化ニッケルを焙焼し、焙焼物である酸化ニッケル(NiO)を回収する処理を行った。具体的に、流動焙焼炉としては、新島ネオライト工業株式会社製の装置を用い、焙焼炉の炉心の内径は直径150mmで、有効な均熱帯は高さ方向で約30cmであり、その範囲で流動焙焼を行った。
流動焙焼炉においては、先ず固定層としてアルミナを装入して炉の底部にセットした後、流動媒体として直径0.10mmの球状アルミナを投入した。そして、焙焼炉の底部より空気を流しながら、ヒーターにより所定の焙焼温度まで昇温した。焙焼時においては、全てのサンプルに対する処理に同量の流量の空気を流し、その焙焼時における空気の流量の値を1.0として焙焼時の流量を相対的に表現した。焙焼温度は、それぞれのサンプルの条件に合わせて810℃〜1200℃とし、温度が設定温度まで達して安定した段階で、原料の水酸化ニッケルを投入し、20分間の焙焼時間で焙焼した。
焙焼の終了後、空気の流量を1.1〜2.7倍(焙焼時の空気流量1.0に対して)に上げて、そのガスと共に焙焼物である酸化ニッケルの回収を行った。
(比較例1〜5:静置焙焼による焙焼)
比較例1〜5では、バッチ式電気炉を用いて、水酸化ニッケルを静置させた状態で焙焼した。このとき、実施例1と同じ流量の空気を流して焙焼した。なお、焙焼温度は800℃〜1200℃とし、20分間の焙焼時間で焙焼した。
焙焼の終了後、速やかに室温まで冷却して試料を回収した。
(比較例6:流動焙焼による焙焼)
比較例6では、実施例1と同様に流動焙焼炉を用いて焙焼温度を1000℃として処理を行った。ただし、焙焼の終了後、空気の流量を1.0(焙焼時の空気流量1.0に対して)として、そのガスと共に焙焼物である酸化ニッケルの回収を行った。
<評価>
実施例、比較例のそれぞれの処理において、焙焼により得られた試料の回収率、回収物中における酸化ニッケルの含有量の割合、及び、回収物中における硫黄の含有量について評価した。表1に、評価結果を示す。なお、評価方法は以下の通りである。
[焙焼により得られた試料の回収率]
焙焼により得られた試料の回収率は、下記の(1)式により算出した。
回収率(%)=回収した試料重量÷(投入したNi(OH)が全てNiOになったときの重量−硫黄の含有量)×100 ・・・(1)式
[回収物中における酸化ニッケルの含有量の割合]
回収物中における酸化ニッケルの含有量の割合は、回収物中に含まれる酸化ニッケル(NiO)と水酸化ニッケル(Ni(OH))の含有量をそれぞれ算出し、それぞれの含有量の合計値に対するNiO含有量の割合(重量%)として算出した。
[回収物中における硫黄の含有量]
回収物中における硫黄の含有量は、硫黄分析装置(三菱化学株式会社製,型式:TOX−100)を用いて測定した。
Figure 0006634974
表1に示すように、流動焙焼炉を用いて焙焼し、焙焼物である酸化ニッケルの回収に際しては、焙焼時に供給したガス(空気)の流量よりも多い流量でガスを供給して処理した実施例1〜17では、回収率は全て95%以上の高い値を示し、その回収物中における酸化ニッケルの含有割合も全て99%以上であり、焙焼が十分効果的に行われたことが分かり、また回収においても得られた酸化ニッケルのみを選択的に回収することができたことが分かる。さらに、ほとんどが酸化ニッケルである回収物中の硫黄の含有量も極めて少なく、硫黄品位が低い高品質な酸化ニッケルを得ることができた。
一方、流動焙焼を行わず、バッチによる焙焼処理を行い、その後焙焼物を回収する処理を行った比較例1〜5では、電気炉からそのまま焙焼物を回収したことにより回収率は高かったものの、その回収物中に含まれる酸化ニッケルの含有割合は95%未満と低いものであった。また、回収物中における硫黄の含有量についてもいずれも400ppm以上と高いものであり、品質も悪いものであった。
また、流動焙焼炉を用いて焙焼処理を行ったものの、回収時にガス流量を増やさなかった比較例6では、焙焼して得られた酸化ニッケルをほとんど回収できなかった。そして、回収量が非常に少なかったため、成分分析を行うことができなかった。なお、僅かに回収できたのは、流動焙焼時には炉内が乱流状態になるため、部分的ではあるが流速が速い箇所ができ、これにより酸化ニッケルが僅かに流送されて回収されたためと考えられる。
1 流動焙焼装置
11 炉本体
11A 炉本体上部
11B 炉本体下部
12 ガス導入管
13 回収サイクロン
14 原料投入管
15 ヒーター
16 ガス排気管
21 固定層
22 流動媒体層

Claims (1)

  1. 硫黄を含む水酸化ニッケルを焙焼することによって、硫黄の含有量の低減した、電池材料用の酸化ニッケルを製造する酸化ニッケルの製造方法であって、
    流動媒体として焙焼して得られる酸化ニッケルの終末速度よりも速い終末速度を有するものを使用した流動焙焼炉を用いて、ガスを水酸化ニッケルと前記流動媒体との混合物の最小流動化速度以上、終末速度未満の流速で供給しながら、水酸化ニッケルを800℃以上1200℃以下で10分以上30分以下焙焼し、前記流動焙焼炉にて焙焼して得られる酸化ニッケルを回収する際に、焙焼時に供給するガス流量の1.2倍以上2.5倍以下の流量のガスを、酸化ニッケルの終末速度以上、前記流動媒体の終末速度未満の流速で供給する
    酸化ニッケルの製造方法。
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