JP6632276B2 - 定着筋の定着方法 - Google Patents

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Description

本発明は、定着筋の定着方法に関するものである。
一般に、建築構造の増改築、補修・補強の分野においては、鉄筋コンクリート製の建築構造物の構造躯体に、新たな構造躯体を増築することが行われている。この場合、既存の構造躯体と新たな構造躯体を接合して、相互に応力を伝達する手段として、あと施工アンカーが多く用いられている。
あと施工アンカーの一端は、既存のコンクリート躯体にドリルなどで開設した孔内に挿入されて、既存のコンクリート躯体に定着される。他端は、既存のコンクリート躯体から突出しており、これに新たな構造躯体の鉄筋やコンクリートが接合される。このようにして、既存の構造躯体と新たな構造躯体は接合される。
躯体間の接合において、構造躯体に作用する力を、既存の構造躯体と新たな構造躯体との間で伝達させるために、接着系あと施工アンカーが多用されている。接着系あと施工アンカーにおいては、既存躯体に穿孔した孔にあと施工アンカーと接着剤を設置し、接着剤を硬化させることにより、あと施工アンカーが既存コンクリートに定着される。これにより、アンカーと既存コンクリート間で応力が伝達される。この先行技術としては、以下の特許文献1−3が知られている。
特許文献1には、図12に示すような、あと施工アンカー用カプセルが開示されている。カプセル100には、接着剤が封入されている。カプセル100は、構造躯体に開設された孔101に挿入された後、ハンマーなどによって、アンカー部材102が挿入されることで、破砕される。カプセル100内部の接着剤は、孔101とアンカー部材102との間に充填されて硬化することで、アンカー部材102が構造躯体に定着されている。接着剤としては、樹脂組成物が使用されている。
特許文献2には、コンクリート構造物の表面に孔を開設して、一定の値の膨張圧を有する充填材を充填し、アンカー筋を挿入する、あと施工アンカー工法が開示されている。充填材としては、充填材を膨張させて圧力を発生させるために、セメントなどの無機系充填材に対して特殊に膨張材を配合したものが使用されている。
特許文献3には、図13に示すような、合成樹脂アンカー工法が開示されている。本方法においては、構造躯体に開設された孔110に合成樹脂111を充填した後、先端にナット113が螺合されたアンカー112が挿入されている。
一般に、上記のような接着系あと施工アンカーは、既存の構造躯体と新たな構造躯体との間に、主としてせん断力を伝達するために用いられている。せん断力を伝達するためには、あと施工アンカーの定着長さ、すなわち、あと施工アンカーが孔に挿入されて、接着剤により定着される部分の長さは、あと施工アンカーの径の7〜10倍程度あれば十分であり、したがって、あと施工アンカーは、一般には、径の7〜10倍程度の深さだけ、孔に挿入されて、定着されている。
また、穿孔される孔の径は、接着剤の使用量を減らすため、図12に示されるように極力小さく、あと施工アンカーの径と概ね同じ程度であるように、穿孔されるのが通常である。
特開2010− 13902号公報 特開2015− 40407号公報 特開昭57− 66251号公報
上記のように、あと施工アンカーの定着長さが径の7〜10倍程度しかない場合には、既存の構造躯体と新たな構造躯体との間に作用する引張力に対しては、十分に対抗することができない。このような構造において、大きな引張力が構造躯体間に作用すると、あと施工アンカーの定着部近辺のコンクリートが、付着破壊、あるいはコーン状破壊により破壊される。コンクリートが破壊されると、以降は、既存の構造躯体と新たな構造躯体との間に力が伝達されなくなる。すなわち、既存の構造躯体と新たな構造躯体との間に作用する引張力に十分に対抗するためには、定着長さをより長くして引張力をコンクリートに十分に伝達させて、引張力が作用したときにコンクリートが破壊されることなく、鉄筋が降伏して伸びるように設計しなくてはならない。
十分な付着性能を確保するためには、上記のように、通常よりも深く孔を開設して、この深い孔に、接着剤を充填する必要があるが、このとき、定着長さの全長にわたって、接着剤が、空隙がないように、確実に充填されなければならない。しかし、孔を深くした場合、図12に示されているような、カプセル100を挿入する方法によって、長い孔の中全体に接着剤を確実に充填することは容易ではない。特に、紙等のフィルムで密封されているカプセル100を挿入する方法においては、カプセル100が破砕された後に、カプセル100の外容器を構成して接着剤を包む紙や布などの物質が孔内に残留するため、これによって接着剤の十分な充填が妨げられ、施工が確実でなくなる可能性もある。また、接着剤を孔の中に直接注入する場合であっても、上記のように、孔の径が小さく、孔壁とあと施工アンカー間の隙間が小さい場合は、長い孔の中に接着剤を確実に充填することは容易ではない。すなわち、引張力への十分な対抗と、施工の容易性を両立させることは困難である。
また、孔壁の付着強度を高く確保し、施工の確実性を向上させるために、上記の特許文献1、3に開示されているように、接着剤として有機系材料を用いることが多いが、有機系材料は高価である。特許文献2は、無機系材料を使用しているが、有機系材料と比較すると孔壁における付着強度が低くなるため、上記のように、接着剤を膨張させて圧力を発生させるために、無機系材料に対して特殊に膨張材を配合している。このため、上記のような方法においては、材料費が嵩むという問題がある。
更に、接着剤と孔壁との間の付着強度を、少なくともあと施工アンカーと接着剤との間の付着強度よりも高くしようとすると、上記のように、孔の径があと施工アンカーの径と概ね同じ程度となるように、孔を穿孔する場合には、単位面積当たりの孔壁の付着強度は、あと施工アンカーと同等の付着強度が必要となる。したがって、高い付着強度を実現するために、孔壁表面が凹凸を有するように、ハンマードリルなどで孔を開設するのが一般であるが、ハンマードリルは使用時に大きな騒音を発するという問題がある。他方、騒音を小さくするためにコアドリルを使用すると、孔壁表面が滑らかとなり、十分な付着強度を確保できない。このように、従来の施工方法においては、施工時の騒音の低減と、引張力への十分な対抗を両立させることが困難である。
本発明が解決しようとする課題は、引張力への対抗力が高く、施工コストが低減可能な、定着筋の定着構造及び定着方法を提供することである。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、鉄筋コンクリート製の既存構造躯体に、新たな構造躯体を増築する際に適用される、定着筋の定着構造であって、前記既存構造躯体のコンクリートに設けられた孔に、定着筋が挿入され、該定着筋が、前記孔と定着筋との間隙に注入方式により充填された充填材によって定着されており、前記孔の深さは、前記定着筋の径dの15倍以上であり、前記孔の径Hは、H≧τbsu(c)/τbhu×dまたはH≧K×dを満たし(ただし、τbsu(c)は前記定着筋周長におけるコンクリートに対する単位面積あたりの付着強度、τbhuは前記孔の壁面における単位面積あたりの付着強度、Kは前記定着筋表面のコンクリートに対する付着抵抗と前記孔の壁面における付着抵抗の比である)、前記充填材は、前記既存構造躯体のコンクリートよりも圧縮強度が高い無機系材料である、定着筋の定着構造を提供する。
上記のような構成によれば、孔の深さが定着筋の径dの15倍以上深くなるようにして、定着長さを十分に長くしている。また、孔の径Hは、τbsu(c)/τbhu×dまたはK×d以上の値を有している。更に、充填材として既存構造躯体のコンクリートよりも圧縮強度が高いものを使用している。本発明は、これらの条件を満たすことにより、大きな引張力が発生した際に、定着筋と充填材との間に、また、充填材と孔壁との間に、付着破壊を発生させず、その代わりに定着筋が降伏して伸びる構造を実現している。一旦付着破壊が発生すると、以降は破壊された部位の定着筋は、荷重を維持することができないが、降伏して伸びた鉄筋は荷重を維持し続けることが可能である。したがって、従来の構造よりも確実に引張力を伝達し続けることが可能である。
また、孔壁と定着筋の間に十分な間隙が設けられる程度に、孔の径Hは十分に大きくなっている。これにより、充填材を密実に充填することが可能となり、施工が容易となる。
また、充填材として無機系材料を使用している。上記のような構成は、上述したように高い定着性能を有しているため、充填材を膨張させて圧力を発生させるために、無機系材料に対して、膨張材を特殊に配合する必要がない。これにより、材料費を低減することが可能である。特に、孔に充填材を充填した後に定着筋を挿入する場合を考えると、高価な充填材を使用する際には、定着筋により押しだされて孔から溢れ出る無駄な充填材がないように、孔への充填量を正確に計算する必要があるし、充填量を懸念するあまり充填量が少なくなり、充填材が密実に充填されない可能性もある。安価な無機系材料を使用することによって、このような懸念をなくし、施工を容易にすることも可能である。
したがって、上記の構成によって、確実な引張力の伝達、施工の容易性、及び材料費の低減を両立させることが可能である。
また、孔への充填材の充填が、充填材が封入されたカプセルを挿入するカプセル方式ではなく、充填材を孔の中に直接注入する注入方式によって行われるため、孔が深い場合であっても、孔の中全体に確実に充填材を充填することが可能であり、また、カプセル方式の場合に生じ得た、カプセルを構成する物質の孔内への残留をなくすことが可能となる。これによって、施工を確実にし、かつ、引張力の伝達性能を更に高めることができる。
更に、孔の径Hは、τbsu(c)/τbhu×dまたはK×d以上の、十分な大きさを有しているため、孔壁の表面積が大きくなり、単位面積当たりで負担すべき付着強度が小さくなる。したがって、孔壁表面が凹凸を有さずとも、定着構造全体で十分に強い付着性能を実現することができるため、穿孔にコアドリルを使用することが可能となり、施工時の騒音を低減することができる。
前記定着筋の挿入端に、該定着筋の径dよりも大きな定着具が接合されていてもよい。
このような構成によれば、定着具によって定着性能を更に向上させることができるため、定着長さを短くすることが可能となる。すなわち、定着具や充填材の量を低減することができるため、材料費を更に低減することが可能となる。
また、孔に充填材を充填した後に定着筋を挿入する場合には、孔への挿入時に、定着具が孔内に充填された充填材に圧力をかけることにより、孔内に充填材を密実に充填することが可能となる。したがって、付着性能を向上させ、更に確実に引張力を伝達することが可能である。
前記孔の壁面は粗面処理されていてもよい。
このような構成によれば、付着性能を向上させ、更に確実に引張力を伝達することが可能である。
また、本発明は、鉄筋コンクリート製の既存構造躯体に、新たな構造躯体を増築するに際し、前記既存構造躯体のコンクリートに孔を設けること、前記孔に定着筋を挿入すること、前記孔と定着筋との間隙に注入方式により充填材を充填すること、を含む、定着筋の定着方法であって、前記孔の深さは、前記定着筋の径dの15倍以上であり、前記孔の径Hは、H≧τbsu(c)/τbhu×dまたはH≧K×dを満たし(ただし、τbsu(c)は前記定着筋周長におけるコンクリートに対する単位面積あたりの付着強度、τbhuは前記孔の壁面における単位面積あたりの付着強度、Kは前記定着筋表面のコンクリートに対する付着抵抗と前記孔の壁面における付着抵抗の比である)、前記充填材は、前記既存構造躯体のコンクリートよりも圧縮強度が高い無機系材料である、定着筋の定着方法を提供する。
上記のような構成によれば、孔の深さが定着筋の径dの15倍以上深くなるようにして、定着長さを十分に長くしている。また、孔の径Hは、τbsu(c)/τbhu×dまたはK×d以上の値を有している。更に、充填材として既存構造躯体のコンクリートよりも圧縮強度が高いものを使用している。本発明は、これらの条件を満たすことにより、大きな引張力が発生した際に、定着筋と充填材との間に、また、充填材と孔壁との間に、付着破壊を発生させず、その代わりに定着筋が降伏して伸びる構造を実現している。一旦付着破壊が発生すると、以降は破壊された部位の定着筋は、荷重を維持することができないが、降伏して伸びた鉄筋は荷重を維持し続けることが可能である。したがって、従来の構造よりも確実に引張力を伝達し続けることが可能である。
また、孔壁と定着筋の間に十分な間隙が設けられる程度に、孔の径Hは十分に大きくなっている。これにより、充填材を密実に充填することが可能となり、施工が容易となる。
また、充填材として無機系材料を使用している。上記のような構成は、上述したように高い定着性能を有しているため、充填材を膨張させて圧力を発生させるために、無機系材料に対して、膨張材を特殊に配合する必要がない。これにより、材料費を低減することが可能である。特に、孔に充填材を充填した後に定着筋を挿入する場合を考えると、高価な充填材を使用する際には、定着筋により押しだされて孔から溢れ出る無駄な充填材がないように、孔への充填量を正確に計算する必要があるし、充填量を懸念するあまり充填量が少なくなり、充填材が密実に充填されない可能性もある。安価な無機系材料を使用することによって、このような懸念をなくし、施工を容易にすることも可能である。
したがって、上記の構成によって、確実な引張力の伝達、施工の容易性、及び材料費の低減を両立させることが可能である。
また、孔への充填材の充填が、充填材が封入されたカプセルを挿入するカプセル方式ではなく、充填材を孔の中に直接注入する注入方式によって行われるため、孔が深い場合であっても、孔の中全体に確実に充填材を充填することが可能であり、また、カプセル方式の場合に生じ得た、カプセルを構成する物質の孔内への残留をなくすことが可能となる。これによって、施工を確実にし、かつ、引張力の伝達性能を更に高めることができる。
更に、孔の径Hは、τbsu(c)/τbhu×dまたはK×d以上の、十分な大きさを有しているため、孔壁の表面積が大きくなり、単位面積当たりで負担すべき付着強度が小さくなる。したがって、孔壁表面が凹凸を有さずとも、定着構造全体で十分に強い付着性能を実現することができるため、穿孔にコアドリルを使用することが可能となり、施工時の騒音を低減することができる。
本発明によれば、引張力への対抗力が高い定着筋の定着構造及び定着方法を、提供することが可能となる。
好ましい様態では、施工コストの低減が可能である。
本発明の第1の実施形態として示した定着筋の定着構造の、一部断面視した側面図である。 本発明の第1の実施形態として示した定着筋の定着構造において、定着長さと定着筋の径との関係の一例を示した表である。 本発明の第1の実施形態として示した定着筋の定着構造における、付着強度の説明図である。 本発明の第1の実施形態として示した定着筋の定着構造における、付着強度の説明図である。 本発明の第1の実施形態として示した定着筋の定着方法を示す、一部断面視した側面図である。 本発明の第2の実施形態として示した定着筋の定着構造の、一部断面視した側面図である。 本発明の第2の実施形態として示した定着筋の定着方法を示す、一部断面視した側面図である。 本発明の第2の実施形態として示した定着筋の定着方法において使用する型枠を示す斜視図である。 定着筋の定着構造の実験に用いた試験装置への、定着筋の設置状況を示す説明図である。 定着筋の定着構造の実験結果を示すグラフである。 定着筋の定着構造の実験結果を示す表である。 従来の定着筋の定着構造を示す説明図である。 従来の定着筋の定着構造を示す説明図である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態として示した定着筋の定着構造1の、一部断面視した側面図である。定着筋の定着構造1は、鉄筋コンクリート製の既存構造躯体3に、新たな構造躯体を増築する際に適用される。
定着筋の定着構造1においては、既存構造躯体3のコンクリートCに設けられた孔4に、定着筋2が挿入され、定着筋2が、孔4と定着筋2との間隙に充填された充填材5によって定着されている。
定着筋2、すなわちあと施工アンカーとしては、異形鉄筋を使用するのが好適であるが、定着筋2表面への、充填材5の付着が確実になされるものであれば、鋼材以外であっても構わない。
定着筋2の挿入端には、定着筋2の径dよりも大きな、例えば、定着筋2の径dの1.5〜2倍程度の大きさの、定着具2aが接合されている。定着具2aは円形のプレートである。定着具2aとしては、鋼材を使用するのが望ましい。定着具2aは、定着筋2に対して、摩擦圧接や溶接などで接合されているが、定着筋2の引張力が定着具2aに確実に伝達されるものであれば、他の接合方法を用いて接合されていてもよい。
充填材5は、既存構造躯体3のコンクリートCよりも圧縮強度が高い、例えばモルタル、コンクリートなどの、無機系材料である。充填材5は、無機系材料であればどのような材質であっても構わないが、硬化前の特性として、チクソトロピー性(揺変性)が優れているものが望ましい。チクソトロピー性に優れている物質は、力が加えられない状態では形状が変化せず、力が加わった場合に形状が変化する。後述のように、本第1の実施形態においては、孔4には、充填材5を孔4の中に直接注入する注入方式によって充填材5を充填した後に、定着筋2が挿入される。このような施工方法の場合において、チクソトロピー性に優れた充填材5を使用することで、定着筋2挿入後に、充填材5が孔4内に密実に充填された状態にすることができる。
本第1の実施形態における定着筋の定着構造1は、上記に加えて、孔4の深さと径に関し、次のような特徴を備えている。すなわち、孔4の深さは、定着筋2の径dの15倍以上であり、孔4の径Hは、H≧τbsu(c)/τbhu×dまたはH≧K×dを満たしている(ただし、τbsu(c)は定着筋2周長におけるコンクリートCに対する単位面積あたりの付着強度、τbhuは孔2の壁面における単位面積あたりの付着強度、Kは定着筋2表面のコンクリートCに対する付着抵抗と孔4の壁面における付着抵抗の比である)。
まず、孔4の深さについて、説明する。以降、既存のコンクリートに孔を開設して鉄筋を挿入するのではなく、予め配設された鉄筋を埋設するようにコンクリートを打設して硬化させた場合の鉄筋を、先付鉄筋と称する。本第1の実施形態における定着筋の定着構造1における、孔4の深さは、以下既往の設計手法から説明するように、先付と同様に引張力が作用したときにコンクリートが破壊されることなく、鉄筋が降伏するためには、鉄筋径の15倍以上の定着長さが必要となる。
異形鉄筋による引張鉄筋の必要定着長さlabを求めるための、次の式が知られている(社団法人日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説」、2010年版、229ページ)。
Figure 0006632276
ここで、Sは必要定着長さの補正係数、σは仕口面における鉄筋の応力度、dは異形鉄筋の呼び名に用いた数値、fは付着割裂の基準となる強度、αは横補強筋で拘束されたコア内に定着する場合は1.0、それ以外の場合は1.25とする係数である。σを異形鉄筋の規格降伏点とすることで、鉄筋の降伏を確保される。
また、接着系アンカーボルトの強度算定用埋込み長さlceに関する、次の式が知られている(社団法人日本建築学会「各種合成構造設計指針・同解説」、2010年版、252―253ページ)。
Figure 0006632276
ここで、pa1は接着系アンカーボルトの降伏により決まる場合のアンカーボルト1本当たりの許容引張力、pa3は接着系アンカーボルトの付着力により決まる場合のアンカーボルト1本当たりの許容引張力、Φ、Φは低減係数、σpaは接着系アンカーボルトの引張強度、scaは接着系アンカーボルトの断面積、τはへり空き及びアンカーボルトのピッチを考慮した接着系アンカーボルトの引張力に対する付着強度、dは接着系アンカーボルトの径である。σpaをアンカーボルトの規格降伏点の1.25倍に割増して算出したpa1よりもpa3が上回る耐力となる埋め込み長さlceとすることで鉄筋の降伏を確保している。
図2(a)、(b)は、それぞれ、上記数1、数2に基づいて、本発明の第1の実施形態として示した定着筋の定着構造1において、定着筋2の定着長さと径との関係を検討した結果を示す表である。図2に示される各々の値は、定着筋2の定着長さを、定着筋2の径で除算した値である。図2からわかるように、定着長さ、すなわち孔4の深さは、定着筋2の径の15倍以上必要である。ここでは数1においてはα=1.0、S=1.25とし、数2においては、τは、基本平均付着強度τbavgの0.5倍(=0.5・τbavg=0.5×10√(F/21)、F:コンクリート圧縮強度)として検討した結果である。
孔4の深さは、長いほど付着強度が高くなるが、長くなればそれだけ鉄筋や充填材を多く要するため、定着筋2の径の52倍以下とするのが望ましい。
次に、孔4の径について、説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態として示した定着筋の定着構造1における、付着強度の説明図である。図3(a)は、先付鉄筋2Aに関する付着強度を示している。この場合、先付鉄筋2Aに引張力Tが作用すると、先付鉄筋2Aに付着しているコンクリートCに応力が発生している。先付の場合の、先付鉄筋2A表面における単位面積あたりの、先付鉄筋2AとコンクリートCとの間の付着強度をτbsu(c)とする。
図3(b)、(c)は、本第1の実施形態に関して図1に示されたような、既存のコンクリートCに孔4を開設し、定着筋2B、2Cをそれぞれ挿入して定着させた場合に関する付着強度を示している。この場合、定着筋2B、2Cに引張力Tが作用すると、定着筋2B、2Cに付着している充填材5、及び、充填材5が付着しているコンクリートCの孔壁に応力が発生している。図3(b)に示すような、定着筋2B表面における単位面積あたりの、定着筋2Bと充填材5との間の付着強度をτbsu(g)とする。また、図3(c)に示すような、孔壁表面における単位面積あたりの、充填材5とコンクリートCの孔壁との間の付着強度をτbhuとする。
定着筋2に引張力Tが作用すると、定着筋2表面と孔壁表面には付着力が生じる。図4(a)は、定着筋表面における単位面積当たりの付着応力度τと、孔壁表面における単位面積当たりの平均付着応力度τの関係を、モデル化した図である。
定着筋2の周囲には充填材5が付着しており、また、充填材5の周囲にはコンクリートCが付着しているため、これらの付着作用によって、引張力TがコンクリートCに伝達される。定着筋2の、埋設深度が浅い部位、例えばコンクリートCの表面近傍においては、コンクリートC表面から当該埋設深度までの間には殆ど充填材5とコンクリートC間での付着作用が存在せず、定着筋2の付着域が短いため、引張力Tは殆ど伝達されていない。しかし、埋設深度が深くなると、コンクリートC表面から当該埋設深度までの間で定着筋2と充填材5、及び充填材5とコンクリートCの間の付着作用によって、既に埋設深度に応じた引張力が付着作用で伝達されている。したがって、定着筋2の当該埋設深度の部位が支持すべき引張力は、定着筋2の、コンクリートCの表面近傍の部位よりも、少なくなる。
図4(b)は、図4(a)の深さh―h間を拡大したものである。h、hにおける、定着筋2が負担すべき荷重をそれぞれT、Tとすると、TはTよりΔT大きい値となっている。すなわち、h―h間の付着によって、ΔTの引張力が、充填材5を介してコンクリートCに伝達されている。
上記のように、定着筋2のある単位長さにおいて、当該長さにおいて負担されるべき引張力は、定着筋2から充填材5に伝達され、更にコンクリートCに伝達されるため、孔4の径をH、定着筋2の径をdとすると、定着筋2と充填材5、及び、充填材5とコンクリートCの、それぞれの間の付着応力に関して、次の式が成立する。
Figure 0006632276
定着筋の定着構造1の全体の強度を、先付鉄筋の場合よりも強くするために、本第1の実施形態においては、定着筋2の単位長さあたりの付着強度が、先付鉄筋の場合における単位長さあたりの付着強度よりも強くなるように、孔4の径Hを決定する。これにより、先付鉄筋と同等以上の付着強度を、先付鉄筋の場合よりも短い定着長さで、実現することが可能となる。
定着筋2の先端に、定着具が設置されていない場合を検討する。
まず、定着筋2表面における単位面積あたりの付着強度τbsu(g)に関しては、上記のように定着筋の定着構造1において、充填材5として、コンクリートCよりも圧縮強度が高い材料を使用しているため、先付鉄筋における単位面積あたりの付着強度τbsu(c)よりも強くなっている。したがって、先付鉄筋と定着筋2の径が同じだとすると、定着筋2表面における単位長さあたりの付着強度は、先付鉄筋表面における単位長さあたりの付着強度よりも高くなる。
次に、孔壁表面における単位面積あたりの付着強度τbhuに関して検討する。孔壁表面における単位長さあたりの付着強度は、上記のように、先付鉄筋における単位長さあたりの付着強度よりも強い必要がある。したがって、数3を基にした、次の式が成立する。
Figure 0006632276
数4を変形することにより、次の式が導出される。
Figure 0006632276
すなわち、孔4の径Hは、定着筋2の径dの(τbsu(c)/τbhu)倍あれば、定着筋2の単位長さあたりの付着強度が、先付鉄筋の場合における単位長さあたりの付着強度よりも強くなることがわかる。
また、定着筋2表面における付着強度は、定着筋2が異形鉄筋の場合には、その節高さと間隔に影響されるし、孔壁表面における付着強度は、孔壁の粗面粗さに影響される。このような、主に表面の凹凸によって決定される、定着筋表面の付着抵抗力の係数をk、孔壁表面の付着抵抗力の係数をkとする。更に、付着強度は、モルタル、コンクリートなどの材料強度の平方根に比例することが、一般に知られている。コンクリート強度をσとすると、上記のk、kにより、τbsu(c)、τbhuは、次式のように表すことも可能である。
Figure 0006632276
Kを、定着筋表面と孔壁表面の付着抵抗の比(k/k)とすると、数5と数6から、次式が導出される。
Figure 0006632276
すなわち、孔4の径Hは、定着筋2の径dのK(=k/k)倍あればよいことがわかる。
例えば、孔壁表面が平滑で、単位面積当たりの付着強度が低い場合に、適している孔4の径について説明する。孔壁表面と定着筋2表面の付着抵抗力が、丸鋼と異形鉄筋程度の大きな差がある場合において、異形鉄筋と丸鋼のそれぞれの、コンクリートに対する許容付着応力度は、Fをコンクリートの設計基準強度とすると、(1/10)×F、(6/100)×Fであることから(社団法人日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説」、2010年版、53ページ)、定着筋表面と孔壁表面の付着抵抗の比(k/k)は1.7となる。したがって、この場合において、孔4の径Hは、定着筋2の径dの1.7倍以上あればよいことがわかる。
定着筋2の先端に、定着具が設置されている場合においては、定着具による支圧抵抗が得られるため、定着筋の定着構造1の全体の強度は、定着筋2表面の付着強度ではなく、孔壁4表面の付着強度によって決定される。したがって、数5または数7を満たすように、孔4の径を設計することにより、定着具がない場合よりも容易に、定着筋の定着構造1の全体の強度を先付鉄筋の場合よりも強くすることができる。
孔4の径Hは、大きくなり過ぎると穿孔作業が手間となるため、定着筋2の径dの2倍以下であることが望ましい。
次に、図5を用いて、本発明の第1の実施形態として示した定着筋の定着方法を説明する。本方法は、鉄筋コンクリート製の既存構造躯体3に、新たな構造躯体を増築するに際し、既存構造躯体3のコンクリートCに孔4を設けること、孔4に定着筋2を挿入すること、孔4と定着筋2との間隙に注入方式により充填材5を充填すること、を含んでいる。本方法において、孔4の深さは、定着筋2の径dの15倍以上であり、孔4の径Hは、H≧τbsu(c)/τbhu×dまたはH≧K×dを満たし(ただし、τbsu(c)は定着筋2周長におけるコンクリートCに対する単位面積あたりの付着強度、τbhuは孔4の壁面における単位面積あたりの付着強度、Kは定着筋2表面のコンクリートCに対する付着抵抗と孔4の壁面における付着抵抗の比である)、充填材5は、既存構造躯体3のコンクリートCよりも圧縮強度が高い無機系材料である。
まず、図5(a)に示すように、既存構造躯体3の表面に、ドリル10等を使用して孔4を開設する。開設された孔4を図5(b)に示す。
次に、図5(c)に示すように、ポンプ11により、モルタル、コンクリートなどの充填材5を、孔4に直接充填する。充填材5が充填された孔4を図5(d)に示す。充填材5は、既存構造躯体3の表面まで緊密に充填されている。
最後に、図5(e)に示すように、定着筋2を、充填材5が充填された孔4に位置付けた後、孔4に挿入する。定着筋2が挿入された状態を図5(f)に示す。
次に、上記の定着筋の定着構造1の作用、効果について説明する。
図4に示されるように、地震時に、定着筋2に大きな引張力Tが作用すると、定着筋2と充填材5との間、及び、充填材5とコンクリートCとの間に応力が発生する。
このとき、充填材5はコンクリートCよりも圧縮強度が高い材料を使用しているため、定着筋2表面における単位面積あたりの付着強度τbsu(g)は、先付鉄筋における単位面積あたりの付着強度τbsu(c)よりも強くなっている。定着筋2表面の付着強度は、定着具2aによる支圧抵抗によって、更に支えられる。
また、孔壁表面における単位面積あたりの付着強度τbhuは、孔4の径Hが上記の数5または数7を満たしている。したがって、定着筋2の単位長さあたりの付着強度が、先付鉄筋の場合における単位長さあたりの付着強度よりも強くなっている。
更に、定着筋2の定着長さは、定着筋2の径の15倍以上あるので、引張力Tは定着筋2の充填材5を介した付着によって十分に伝達される。
すなわち、定着筋の定着構造1においては、大きな引張力が発生した際に、定着筋2と充填材5との間に、また、充填材5と孔壁との間に、付着破壊を発生させず、その代わりに定着筋2が降伏して伸びる構造を実現している。一旦付着破壊が発生すると、以降は破壊された部位の定着筋は、荷重を維持することができないが、降伏して伸びた鉄筋は荷重を維持し続けることが可能である。したがって、従来の構造よりも確実に引張力を伝達し続けることが可能である。
また、孔壁と定着筋2の間に十分な間隙が設けられる程度に、孔4の径Hは十分に大きくなっている。これにより、充填材5を密実に充填することが可能となり、施工が容易となる。
また、充填材5として無機系材料を使用している。定着構造1は、上述したように高い定着性能を有しているため、充填材5を膨張させて圧力を発生させるために、無機系材料に対して、膨張材を特殊に配合する必要もない。これにより、材料費を低減することが可能である。特に、孔4に充填材5を充填した後に定着筋2を挿入する場合を考えると、高価な充填材5を使用する際には、定着筋2により押しだされて孔4から溢れ出る無駄な充填材5がないように、孔4への充填量を正確に計算する必要があるし、充填量を懸念するあまり充填量が少なくなり、充填材5が密実に充填されない可能性もある。安価な無機系材料を使用することによって、このような懸念をなくし、施工を容易にすることも可能である。
したがって、定着筋の定着構造1の構成によって、確実な引張力の伝達、施工の容易性、及び材料費の低減を両立させることが可能である。
また、定着具2aによって定着性能を更に向上させることができるため、向上した定着性能に相当する分だけ、定着長さを短くすることが可能となる。すなわち、定着具2や充填材5の量を低減することができるため、材料費を更に低減することが可能となる。
また、孔4への充填材5の充填が、充填材5が封入されたカプセルを挿入するカプセル方式ではなく、図5に示されるように、充填材5を孔4の中に直接注入する注入方式によって行われるため、孔4が深い場合であっても、孔4の中全体に確実に充填材5を充填することが可能であり、また、カプセル方式の場合に生じ得た、カプセルを構成する物質の孔4内への残留をなくすことが可能となる。これによって、施工を確実にし、かつ、引張力の伝達性能を更に高めることができる。
孔4に充填材5を充填した後に定着筋2を挿入する場合には、孔4への挿入時に、定着具2aが孔4内に充填された充填材5に圧力をかけることにより、孔4内に充填材5を密実に充填することが可能となる。したがって、付着性能を向上させ、更に確実に引張力を伝達することが可能である。
更に、孔4の径Hは、τbsu(c)/τbhu×dまたはK×d以上の、十分な大きさを有しているため、孔壁の表面積が大きくなり、単位面積当たりで負担すべき付着強度が小さくなる。したがって、孔壁表面が凹凸を有さずとも、定着構造全体で十分に強い付着性能を実現することができるため、穿孔にコアドリルを使用することが可能となり、施工時の騒音を低減することができる。
次に、図6から図8を用いて、本発明の第2の実施形態として示した定着筋の定着構造20を説明する。定着筋の定着構造20の、第1の実施形態として示した定着筋の定着構造1との差異は、充填材5が、既存構造躯体3の表面から外方に突出した増打部21を備えている点である。
増打部21は、孔4の開口部を介して孔4内の充填材5と連続するように、充填材5と同じ物質で形成されている。増打部21は、肉厚の円形形状を成しており、孔4の径方向外側に張出すように、孔4の径より大きな径を有している。増打部21の中心は、定着筋2により挿通されている。
次に、図7を用いて、本発明の第2の実施形態として示した定着筋の定着方法を説明する。
定着筋の定着構造20は、図7(a)から図7(e)に示される、孔4の開設から、定着筋2の位置づけまでの工程においては、図5を用いて説明した、第1の実施形態として示した定着筋の定着方法と同様に形成される。
本第2の実施形態においては、図7(e)において定着筋2を、充填材5が充填された孔4に位置付けた後、図7(f)に示されるように、型枠22を定着筋2の周りに設置する。
型枠22は、小径の円筒形状を有する把持部22a、大径の円筒形状を有する増打部形成部22b、及び、把持部22aと増打部形成部22bを接続する円板形状の板部22cを備えている。
把持部22aの内周は、定着筋2の径と同程度の径を有している。増打部形成部22bの内周は、増打部21の径と同程度の径を有している。把持部22aと増打部形成部22bは、それぞれ板部22cの反対側の表面に、各部材の中心が同一軸線A上に位置するように、接続されている。板部22cの中央は、把持部22aの内周に沿って切り抜かれた形状を有しており、これにより、把持部22aの内部空間と、増打部形成部22bの内部空間は連通している。
型枠22は、図8に示されるように、中心線を通る平面で、第1型枠23と第2型枠24に2分割されている。型枠22は、木、金属、プラスチックなどの材質で形成されている。
図7(f)においては、第1、第2型枠23、24が定着筋2を挟み込んで、把持部22aの内側表面が定着筋2の外表面に接触するように、第1、第2型枠23、24を向い合せて設置することにより、型枠22を形成している。増打部形成部22bの端部は、既存構造躯体3の表面に接触するように、型枠22は設置されている。
次に、図7(f)に示されるように、片手で定着筋2を、他方の手で把持部22aを、それぞれ把持したうえで、図7(g)に示されるように、定着筋2を孔4の内部に押し込む。このとき、孔4から溢れ出た充填材5によって、増打部形成部22bと板部22cの内側表面と、既存構造躯体3の表面によって形成された空間が充填される。
最後に、図7(h)に示されるように、充填材5の硬化後に、型枠22を脱型する。
次に、上記の定着筋の定着構造20の作用、効果について説明する。
定着筋の定着構造20においては、孔4の開口部の定着筋2の周囲に増打部21を設けたため、充填材5が流出して充填材5の充填が多少不十分となっても、この充填材5の充填が不十分となる部分は増打部21に生じることになるので、定着筋2の定着長の算定には影響しない。したがって、定着筋2に必要な定着長さを容易かつ確実に確保して、高い定着耐力を実現することが可能である。
本第2の実施形態が、確実に引張力を伝達する、施工が容易である、施工時の騒音を低減することができるなどの、上記第1の実施形態が有する様々な効果を同様に奏することは、いうまでもない。
次に、上記第1及び第2の実施形態として示した定着筋の定着構造1、20の変形例を説明する。本変形例と、定着構造1、20との差異は、孔の壁面は粗面処理されていることである。
孔壁表面を粗面処理することにより、定着性能を更に向上させることができるため、向上した定着性能に相当する分だけ、定着長さを短くすることが可能となる。すなわち、定着具や充填材の量を低減することができるため、材料費を更に低減することが可能となる。
本変形例が、確実に引張力を伝達する、施工が容易である、施工時の騒音を低減することができるなどの、上記第1及び第2の実施形態が有する様々な効果を同様に奏することは、いうまでもない。
次に、本発明に関して参考になる技術事項について説明する。
定着筋の定着構造に関して、実験を行った。図9に試験装置を示す。図9(a)は鉄筋2Aが先付されている場合、(b)、(c)は、コンクリートCに開設された孔4に定着筋2B、2Cが挿入されて充填材5で定着されている場合であって、(b)は定着筋2Bの先端に定着具2aがない場合、(c)は定着具2aがある場合である。図9(a)(b)、(c)をそれぞれ、「先付」、「定着具無」、「定着具有」と呼称して区別する。
図9(a)、(b)、(c)の全ての場合において、孔4の径は55mmであり、先付鉄筋2A、及び、定着筋2B、2Cの径は32mmである。また、先付鉄筋2A、及び、定着筋2B、2Cの定着長さは、装置の都合上、先付鉄筋2A、及び、定着筋2B、2Cの径の7倍、すなわち224mmという、上記の実施形態で示した条件よりは短い長さで実験を行っている。孔4は、削岩機によって開設されており、孔壁の凹凸は大きく、孔壁面での付着強度は確保しやすい状況になっている。
図10(a)、(b)は、それぞれ、先付鉄筋2A、及び、定着筋2B、2Cの先端、すなわち孔4内に埋設された紙面下方向の端部の変位δと、先付鉄筋2A、及び、定着筋2B、2Cの孔4から突出している部位の、引張荷重が付与されている部位の変位δの、荷重との関係を表すグラフである。また、図11は、図9(a)、(b)、(c)の各々の定着構造の付着強度、及び、これらの定着構造が破壊された状態を示す表である。
「先付」においては、単位面積当たりの付着強度τbsu(c)は12.4〜13.6N/mm(k=2.36〜2.59)となっている。また、「定着具有」において、孔壁における単位面積当たりの付着強度τbhuの最小値は9.9N/mm(k=1.89)であり、最大値は13.8N/mm(k=2.63)を超える値となっている。
数5及び数7により決定される孔4の径Hの下限は、τbsu(c)及びkに関しては最大値を、τbhu及びkに関しては最小値を、それぞれとった場合に、最大の値となる。「定着具有」の場合、孔4の径Hの下限は、数5によると、(13.6/9.9)×32≒44mmとなる。また、数7によると、(2.59/1.89)×32≒44mmとなる。本実験における孔4の径Hである55mmは、44mmを超えた値となっている。すなわち、「定着具有」の場合の付着は、「先付」の場合の強度以上となっている。
また、定着筋2周辺の単位面積当たりの付着強度τbsu(g)に関しては、「定着具無」の場合は13.6〜14.7N/mm、及び、「定着具有」の場合は17.6〜24.6N/mmとなっており、これらは共に、「先付」の場合の単位面積当たりの付着強度τbsu(c)12.4〜13.6N/mmよりも大きな値となっている。
以上より、「定着具無」、「定着具有」の場合共に、定着構造全体として、「先付」の場合よりも高い付着強度を示している。
本実験においては、図11に示されるように、「定着具無」の全ての実験と、「定着具有」の一部の実験においては、鋼材が降伏せずに、定着筋表面あるいは孔壁表面の付着が破壊されて、実験が終了している。これは、上記のように、孔4の深さとして、上記の実施形態で示した下限である、定着筋2の径dの15倍よりも、短い値を採用したためである。実際の施工においては、孔4の深さは、定着筋2の径dの15倍以上の値とすべきである。
なお、本発明の定着筋の定着構造及び定着方法は、図面を参照して説明した上述の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、定着具2aは必ずしも設置されなくてもよい。上記の実施形態において説明したように、数5、及び数7に記載の条件は、定着具2aがない場合に基づいているからである。ただし、定着具2aが設置された方が、定着性能を更に向上させることができるため、向上した定着性能に相当する分だけ、定着長さを短くすることが可能となる。
また、定着具2aが設置されたとしても、その形状は円形に限られない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
1、20 定着筋の定着構造
2 定着筋
3 既存構造躯体
4 孔
5 充填材
21 増打部
22 型枠

Claims (3)

  1. 鉄筋コンクリート製の既存構造躯体に、新たな構造躯体を増築するに際し、
    前記既存構造躯体のコンクリートに孔を設けること、
    記孔注入方式により充填材を充填すること、
    前記孔に定着筋を挿入すること、を含む、定着筋の定着方法であって、
    前記孔の深さ、前記定着筋の直径dの15倍以上となるように決定し
    前記孔の直径、以下の式(1)または(2)を用いて算出して決定し
    H≧τbsu(c)/τbhu×d (1)
    H≧K×d (2)
    (ただし、τbsu(c)は前記定着筋周長におけるコンクリートに対する単位面積あたりの付着強度、τbhuは前記孔の壁面における単位面積あたりの付着強度、Kは前記定着筋表面のコンクリートに対する付着抵抗と前記孔の壁面における付着抵抗の比である。)
    前記充填材として、前記既存構造躯体のコンクリートよりも圧縮強度が高い無機系材料を使用する、定着筋の定着方法。
  2. 前記定着筋の挿入端に、該定着筋の直径dよりも大きな定着具が接合されている、請求項1に記載の定着筋の定着方法。
  3. 前記孔の壁面は粗面処理されている、請求項1または2に記載の定着筋の定着方法。
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