以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池における下記(A)〜(I)の規定は、いずれも高容量の電池とするための要素である。
(A)正極が有する正極活物質層の空隙率が50%以下
(B)正極が有する正極活物質層の密度が2.5g/cm3以上
(C)正極の集電体上に存在する一の正極活物質層の量が5mg/cm2以上
(D)正極の集電体上に存在する一の正極活物質層の厚みが50μm以上
(E)負極が有する負極活物質層の空隙率が50%以下
(F)負極が有する負極活物質層の密度が1.1g/cm3以上
(G)負極の集電体上に存在する一の負極活物質層の量が7mg/cm2以上
(H)負極の集電体上に存在する一の負極活物質層の厚みが50μm以上
(I)(単位面積あたりの電池容量)/((単位面積あたりの正極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりの負極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりのセパレータの空隙体積)+(単位面積あたりの他の電極層の空隙体積))が232mAh/cm3以上
正極と負極の双方を高容量とするためには、正極の集電体上に存在する正極活物質層が前記(A)〜(D)のいずれかを満足し、かつ、負極の集電体上に存在する負極活物質層が前記(E)〜(H)のいずれかを満足すればよい。
正極に関して、正極活物質層は前記(A)〜(D)のいずれかを満足すればよいが、前記(A)〜(D)のうち2つを満足するのが好ましく、前記(A)〜(D)のうち3つを満足するのがより好ましく、前記(A)〜(D)のすべてを満足するのがさらに好ましい。
(A)で規定する空隙率は、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。
(A)で規定する空隙率が小さいほど、正極活物質層に成分が密に充填されていることになる。敢えて(A)で規定する空隙率の下限値を例示すると、10%、15%、20%を挙げることができる。
(A)で規定する空隙率は、正極活物質層に含まれる成分の質量比及び真密度、並びに、正極活物質層の質量及び体積から算出することができる。なお、本明細書で説明する他の空隙率についても同様である。
(B)で規定する密度は、2.6g/cm3以上が好ましく、2.7g/cm3以上がより好ましく、2.8g/cm3以上がさらに好ましい。敢えて(B)で規定する密度の上限値を例示すると、3.5g/cm3、4.0g/cm3、4.5g/cm3を挙げることができる。なお、例えば、正極活物質の1種であるLiNi5/10Co2/10Mn3/10O2の真密度は4.8g/cm3である。
(C)の「正極の集電体上に存在する一の正極活物質層の量」とは、正極の集電体に接して存在する一つの正極活物質層に関する規定であり、正極の集電体の片面1平方センチメートルの面積上に存在する正極活物質層の質量を意味する(以下、「正極の目付け量」ということがある。)。正極の目付け量は、10mg/cm2以上が好ましく、15mg/cm2以上がより好ましい。敢えて、正極の目付け量の上限を例示すると、30mg/cm2、40mg/cm2、50mg/cm2を挙げることができる。好適な正極の目付け量の範囲として、10〜50mg/cm2、15〜40mg/cm2、18〜35mg/cm2、20〜30mg/cm2、23〜27mg/cm2を例示できる。
(D)の「正極の集電体上に存在する一の正極活物質層の厚み」とは、正極の集電体に接して存在する一つの正極活物質層に関する規定であり、正極の集電体の片面上に存在する正極活物質層の厚みを意味する(以下、単に「正極活物質層の厚み」ということがある。)。正極活物質層の厚みは、60μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。敢えて、正極活物質層の厚みの上限を例示すると、150μm、300μm、500μmを挙げることができる。
負極に関して、負極活物質層は前記(E)〜(H)のいずれかを満足すればよいが、前記(E)〜(H)のうち2つを満足するのが好ましく、前記(E)〜(H)のうち3つを満足するのがより好ましく、前記(E)〜(H)のすべてを満足するのがさらに好ましい。
(E)で規定する空隙率は、45%以下が好ましい。(E)で規定する空隙率が小さいほど、負極活物質層に成分が密に充填されていることになる。敢えて(E)で規定する空隙率の下限値を例示すると、20%、25%、30%を挙げることができる。
(F)で規定する密度は、1.2g/cm3以上が好ましく、1.3g/cm3以上がより好ましい。敢えて(F)で規定する密度の上限値を例示すると、1.6g/cm3、1.8g/cm3、2.0g/cm3を挙げることができる。なお、例えば、負極活物質の1種である黒鉛の真密度は2.25g/cm3である。
(G)の「負極の集電体上に存在する一の負極活物質層の量」とは、負極の集電体に接して存在する一つの負極活物質層に関する規定であり、負極の集電体の片面1平方センチメートルの面積上に存在する負極活物質層の質量を意味する(以下、「負極の目付け量」ということがある。)。負極の目付け量は、8mg/cm2以上が好ましく、10mg/cm2以上がより好ましい。敢えて、負極の目付け量の上限を例示すると、15mg/cm2、20mg/cm2、30mg/cm2を挙げることができる。好適な負極の目付け量の範囲として、8〜30mg/cm2、9〜20mg/cm2、10〜15mg/cm2、10〜13mg/cm2を例示できる。
(H)の「負極の集電体上に存在する一の負極活物質層の厚み」とは、負極の集電体に接して存在する一つの負極活物質層に関する規定であり、負極の集電体の片面上に存在する負極活物質層の厚みを意味する(以下、単に「負極活物質層の厚み」ということがある。)。負極活物質層の厚みは、70μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。敢えて、負極活物質層の厚みの上限を例示すると、150μm、300μm、500μmを挙げることができる。
(I)は、正極又は負極の単位面積あたりの電池容量を、正極集電体と負極集電体の間における、正極、負極及びセパレータに存在する空隙体積で除した値(以下、「(I)値」ということがある。)の大小を規定したものである。(I)値は、正極活物質層と負極活物質層とセパレータと他の電極層の空隙体積の合計値が小さくなれば大きくなる値であり、エネルギー密度とも相関するパラメータであるといえる。正極、負極及びセパレータに存在する空隙体積とは、正極、負極及びセパレータのみかけの体積のうち、電解液が占めることのできる空間である。したがって、(I)値が大きいリチウムイオン二次電池ほど、相対的に少ない電解液量で電極間のリチウムイオンを輸送しているといえる。また、(I)値が大きいリチウムイオン二次電池ほど、電解液の単位体積あたりの電解液のリチウムイオン輸送能力が優れているといえる。
(I)において、電池容量とは、リチウムイオン二次電池が十分に充放電を繰り返すことのできる最大充電容量又は最大放電容量を意味する。例えば、実使用において想定される最大容量で充電したリチウムイオン二次電池を、十分に低いレートで放電させた放電容量を測定して、上記電池容量とする。
(I)において、「単位面積あたりの電池容量」とは、電池容量を、集電体に接している活物質層の面の面積で除した値を意味する。放電容量を電池容量とするのであれば、「単位面積あたりの電池容量」とは、電池容量を、集電体に接している正極活物質層の面の面積で除した値を意味する。
(I)において、「単位面積あたりの正極活物質層の空隙体積」とは、集電体に接している正極活物質層の面の1平方センチメートルの面積を底面とし、正極活物質層の厚みを高さとする直方体における空隙体積を意味する。同様に「単位面積あたりの負極活物質層の空隙体積」とは、集電体に接している負極活物質層の面の1平方センチメートルの面積を底面とし、負極活物質層の厚みを高さとする直方体における空隙体積を意味する。
(I)において、「単位面積あたりのセパレータの空隙体積」とは、活物質層又は次段落で説明する「他の電極層」に接しているセパレータの面の1平方センチメートルの面積を底面とし、セパレータの厚みを高さとする直方体における空隙体積を意味する。
(I)において、「他の電極層」とは、正極集電体と負極集電体の間に存在する、正極活物質層、負極活物質層及びセパレータ以外の、電極層を意味する。本発明のリチウムイオン二次電池には、「他の電極層」が存在してもよいし、存在しなくてもよい。通常、「他の電極層」は、正極集電体もしくは負極集電体、又は、正極活物質層もしくは負極活物質層の表面に形成されて、正極又は負極を構成する。「単位面積あたりの他の電極層の空隙体積」とは、集電体又は活物質層に接している「他の電極層」の面の1平方センチメートルの面積を底面とし、「他の電極層」の厚みを高さとする直方体における空隙体積を意味する。
(I)値は、300mAh/cm3以上が好ましく、400mAh/cm3以上がより好ましく、500mAh/cm3以上がさらに好ましい。(I)値の上限を敢えて述べると、750mAh/cm3、800mAh/cm3、900mAh/cm3を例示できる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記(A)〜(I)の複数を満足するのが好ましく、そのすべてを満足するのがより好ましい。
次に、本発明のリチウムイオン二次電池が具備する電解液(以下、本発明の電解液ということがある。)について説明する。本発明の電解液は、上記一般式(1)で表されるリチウム塩を含む電解質と、上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートを含む有機溶媒とを含み、かつ、前記リチウム塩に対し前記鎖状カーボネートがモル比3〜6で含まれる。
上記一般式(1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
一般式(1)で表されるリチウム塩は、下記一般式(1−1)で表されるものが好ましい。
(R3X2)(R4SO2)NLi 一般式(1−1)
(R3、R4は、それぞれ独立に、CnHaFbClcBrdIe(CN)f(SCN)g(OCN)hである。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、R3とR4は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
X2は、SO2、C=O、C=S、RcP=O、RdP=S、S=O、Si=Oから選択される。
Rc、Rdは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、Rc、Rdは、R3又はR4と結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(1−1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言の意味は、上記一般式(1)で説明したのと同義である。
上記一般式(1−1)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(1−1)で表される化学構造の、R3とR4が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
一般式(1)で表されるリチウム塩は、下記一般式(1−2)で表されるものがさらに好ましい。
(R5SO2)(R6SO2)NLi 一般式(1−2)
(R5、R6は、それぞれ独立に、CnHaFbClcBrdIeである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、R5とR6は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
上記一般式(1−2)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(1−2)で表される化学構造の、R5とR6が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
また、上記一般式(1−2)で表される化学構造において、a、c、d、eが0のものが好ましい。
一般式(1)で表されるリチウム塩は、(CF3SO2)2NLi(以下、「LiTFSA」ということがある。)、(FSO2)2NLi(以下、「LiFSA」ということがある。)、(C2F5SO2)2NLi、FSO2(CF3SO2)NLi、(SO2CF2CF2SO2)NLi、(SO2CF2CF2CF2SO2)NLi、FSO2(CH3SO2)NLi、FSO2(C2F5SO2)NLi、又はFSO2(C2H5SO2)NLiが特に好ましい。
本発明の電解液における一般式(1)で表されるリチウム塩は1種類を採用しても良いし、複数種を併用しても良い。
本発明の電解液における電解質には、一般式(1)で表されるリチウム塩以外に、リチウムイオン二次電池などの電解液に使用可能である他の電解質が含まれていてもよい。
他の電解質として、LiXO4、LiAsX6、LiPX6、LiBX4、LiB(C2O4)2を例示できる(ただし、Xはそれぞれ独立にF、Cl、Br、I又はCNを意味する。)が好ましい。LiXO4、LiAsX6、LiPX6、LiBX4の好適な一態様として、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiBFy(CN)z(ただし、yは0〜3の整数、zは1〜4の整数であり、y+z=4を満たす。)をそれぞれ例示できる。
本発明の電解液には、本発明の電解液に含まれる全電解質に対し、一般式(1)で表されるリチウム塩が、70質量%以上若しくは70モル%以上で含まれるのが好ましく、80質量%以上若しくは80モル%以上で含まれるのがより好ましく、90質量%以上若しくは90モル%以上で含まれるのがさらに好ましく、95質量%以上若しくは95モル%以上で含まれるのが特に好ましい。本発明の電解液に含まれる電解質すべてが一般式(1)で表されるリチウム塩であってもよい。
一般式(1)で表されるリチウム塩の化学構造には、SO2が含まれている。そして、本発明のリチウムイオン二次電池の充放電により、一般式(1)で表されるリチウム塩の一部が分解して、二次電池の正極及び/又は負極の表面にS及びO含有被膜が形成される。S及びO含有被膜はS=O構造を有すると推定される。当該被膜により電極が被覆されるため、電極及び電解液の劣化が抑制され、その結果、本発明のリチウムイオン二次電池の耐久性が向上すると考えられる。
本発明の電解液においては、従来の電解液に比べて、リチウム塩のカチオンとアニオンとが近くに存在し、アニオンはカチオンからの静電的な影響を強く受けることで従来の電解液に比べ還元分解され易くなると考えられる。従来の電解液を用いた従来の二次電池においては、電解液に含まれるエチレンカーボネート等の環状カーボネートが還元分解されて生成する分解生成物によって、SEI被膜(Solid Electrolyte Interphase)が構成されていた。しかし、上述したように、本発明のリチウムイオン二次電池に含まれる本発明の電解液においては、アニオンが還元分解されやすく、また、従来の電解液に比べ高濃度にリチウム塩を含有するために電解液中のアニオン濃度が高い。このため、本発明のリチウムイオン二次電池におけるSEI被膜、つまりS及びO含有被膜には、アニオンに由来するものが多く含まれると考えられる。また、本発明のリチウムイオン二次電池においては、エチレンカーボネート等の環状カーボネートを用いることなく、SEI被膜を形成することができる。
S及びO含有被膜は負極表面にのみ形成されても良いし、正極表面にのみ形成されても良い。S及びO含有被膜は負極表面及び正極表面の両方に形成されるのが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池は電極にS及びO含有被膜を有し、当該S及びO含有被膜はS=O構造を有するとともに多くのリチウムイオンを含むと考えられる。そして、S及びO含有被膜に含まれるリチウムイオンは電極に優先的に供給されると考えられる。よって、本発明の二次電池においては、電極近傍に豊富なリチウムイオン源を有するため、この点においても、リチウムイオンの輸送速度が向上すると考えられる。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池においては、本発明の電解液と電極のS及びO含有被膜との協働によって、優れた電池特性が発揮されると考えられる。
本発明の電解液は、一般式(2)で表される鎖状カーボネートを含む有機溶媒を含む。
R20OCOOR21 一般式(2)
(R20、R21は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCnHaFbClcBrdIe、又は、環状アルキルを化学構造に含むCmHfFgClhBriIjのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m−1=f+g+h+i+jを満たす。)
上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。
上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートのうち、下記一般式(2−1)で表されるものが特に好ましい。
R22OCOOR23 一般式(2−1)
(R22、R23は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCnHaFb、又は、環状アルキルを化学構造に含むCmHfFgのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、f、gはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b、2m−1=f+gを満たす。)
上記一般式(2−1)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。
上記一般式(2−1)で表される鎖状カーボネートのうち、ジメチルカーボネート(以下、「DMC」ということがある。)、ジエチルカーボネート(以下、「DEC」ということがある。)、エチルメチルカーボネート(以下、「EMC」ということがある。)、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、フルオロメチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートが特に好ましい。
以上で説明した鎖状カーボネートは1種類を電解液に用いても良いし、複数を併用しても良い。鎖状カーボネートの複数を併用することで、電解液の低温流動性や低温でのリチウムイオン輸送性などを好適に確保することができる。
本発明の電解液における有機溶媒には、上記鎖状カーボネート以外に、リチウムイオン二次電池などの電解液に使用可能である他の有機溶媒(以下、単に「他の有機溶媒」ということがある。)が含まれていてもよい。
本発明の電解液には、本発明の電解液に含まれる全有機溶媒に対し、上記鎖状カーボネートが、70質量%以上若しくは70モル%以上で含まれるのが好ましく、80質量%以上若しくは80モル%以上で含まれるのがより好ましく、90質量%以上若しくは90モル%以上で含まれるのがさらに好ましく、95質量%以上若しくは95モル%以上で含まれるのが特に好ましい。本発明の電解液に含まれる有機溶媒すべてが上記鎖状カーボネートであってもよい。
なお、上記鎖状カーボネート以外に他の有機溶媒を含む本発明の電解液は、他の有機溶媒を含まない本発明の電解液と比較して、粘度が上昇する場合や、イオン伝導度が低下する場合がある。さらに、上記鎖状カーボネート以外に他の有機溶媒を含む本発明の電解液を用いた二次電池は、その反応抵抗が増大する場合がある。
他の有機溶媒を具体的に例示すると、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート等のイソシアネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のエステル類、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン等のエポキシ類、オキサゾール、2−エチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン等のオキサゾール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等のニトロ類、フラン、フルフラール等のフラン類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状エステル類、チオフェン、ピリジン等の芳香族複素環類、テトラヒドロ−4−ピロン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等の複素環類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類を挙げることができる。
一般式(2)で表される鎖状カーボネートは、従来の電解液に用いられてきたエチレンカーボネート等の環状カーボネートと比較して、極性が低い。それゆえに、鎖状カーボネートと金属イオンとの親和性は、環状カーボネートと金属イオンとの親和性と比較して、劣ると考えられる。そうすると、本発明の電解液が二次電池の電解液として用いられた際には、二次電池の電極を構成するアルミニウムや遷移金属は、本発明の電解液にイオンとして溶解するのが困難であるといえる。
ここで、従来の一般的な電解液を用いた二次電池においては、正極を構成するアルミニウムや遷移金属は、特に高電圧充電環境下において高酸化状態となり、陽イオンである金属イオンとして電解液に溶解し(アノード溶出)、そして、電解液中に溶出した金属イオンは静電気的引力に因り電子リッチな負極に引き寄せられて、負極上で電子と結合することで還元され、金属として析出する場合があることが知られている。このような反応が起こると、正極の容量低下や負極上での電解液分解などが生じ得るため、電池性能が低下することが知られている。しかし、本発明の電解液には前段落に記載の特徴があるため、本発明の電解液を用いた二次電池においては、正極からの金属イオン溶出及び負極上の金属析出が抑制される。
本発明の電解液においては、一般式(2)で表される鎖状カーボネートが一般式(1)で表されるリチウム塩に対し、モル比3〜6で含まれる。本発明の電解液のイオン伝導度は、モル比が上述の範囲内であれば好適である。本明細書でいう上記モル比とは、前者を後者で除した値、すなわち、(本発明の電解液に含まれる一般式(2)で表される鎖状カーボネートのモル数)/(本発明の電解液に含まれる一般式(1)で表されるリチウム塩のモル数)の値を意味する(以下、単に「鎖状カーボネート/リチウム塩のモル比」と略す場合がある。)。本発明の電解液における、より好適なモル比として、4〜5.5の範囲内、3.2〜4.8の範囲内、3.5〜4.5の範囲内を例示できる。なお、従来の電解液は、有機溶媒と電解質とのモル比が概ね10程度である。
本発明の電解液においては、リチウム塩の濃度が従来の電解液と比較して高濃度となる。さらに、本発明の電解液においては、多少のリチウム塩濃度の変動に対してイオン伝導度の変動が小さい、すなわち、堅牢性に優れるとの利点を有する。しかも、上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートは、酸化及び還元に対する安定性に優れている。加えて、上記一般式(2)で表される鎖状カーボネートは、自由回転可能な結合が多く存在し、柔軟な化学構造であるため、当該鎖状カーボネートを用いた本発明の電解液が高濃度のリチウム塩を含む場合であっても、その粘度の著しい上昇は抑えられ、高いイオン伝導度を得ることができる。
加えて、本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、リチウム塩と有機溶媒の存在環境が異なっているといえる。そのため、本発明の電解液を具備するリチウムイオン二次電池においては、電解液中のリチウムイオン輸送速度の向上、電極と電解液の界面における反応速度の向上、二次電池のハイレート充放電時に起こる電解液のリチウム塩濃度の偏在の緩和、電極界面における電解液の保液性の向上、電極界面で電解液が不足するいわゆる液枯れ状態の抑制などが期待できる。さらに、本発明の電解液においては、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、本発明の電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。
本発明の電解液中において、隣り合うリチウムイオン間の距離は極めて近い。そして、二次電池の充放電時にリチウムイオンが正極と負極との間を移動する際には、移動先の電極に直近のリチウムイオンが先ず当該電極に供給される。そして、供給された当該リチウムイオンがあった場所には、当該リチウムイオンに隣り合う他のリチウムイオンが移動する。つまり、本発明の電解液中においては、隣り合うリチウムイオンが供給対象となる電極に向けて順番に一つずつ位置を変えるという、ドミノ倒し様の現象が生じていると予想される。このため、充放電時のリチウムイオンの移動距離は短く、その分だけリチウムイオンの移動速度が高いと考えられる。そして、このことに起因して、本発明の電解液を有する二次電池の反応速度は高いと考えられる。
本発明の電解液の密度d(g/cm3)について述べる。なお、本明細書において、密度とは20℃での密度を意味する。本発明の電解液の密度d(g/cm3)は好ましくは1.0≦dであり、1.1≦dがより好ましい。
参考までに、代表的な有機溶媒の密度(g/cm3)を表1に列挙する。
本発明の電解液の粘度η(mPa・s)について述べると、3<η<50の範囲が好ましく、4<η<40の範囲がより好ましく、5<η<30の範囲がさらに好ましい。
また、電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)は高ければ高いほど、電解液中でイオンが移動し易い。このため、このような電解液は優れた電池の電解液となり得る。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)について述べると、1≦σであるのが好ましい。本発明の電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)につき、あえて、上限を含めた好適な範囲を示すと、2≦σ<100の範囲が好ましく、3≦σ<50の範囲がより好ましく、4≦σ<30の範囲がさらに好ましい。
本発明の電解液をポリマーや無機フィラーと混合し混合物とすると、当該混合物が電解液を封じ込め、擬似固体電解質となる。擬似固体電解質を電池の電解液として用いることで、電池における電解液の液漏れを抑制することができる。
上記ポリマーとしては、リチウムイオン二次電池などの電池に使用されるポリマーや一般的な化学架橋したポリマーを採用することができる。特に、ポリフッ化ビニリデンやポリヘキサフルオロプロピレンなど電解液を吸収しゲル化し得るポリマーや、ポリエチレンオキシドなどのポリマーにイオン導電性基を導入したものが好適である。
具体的なポリマーとしては、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリグリシドール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリクロトン酸、ポリアンゲリカ酸、カルボキシメチルセルロースなどのポリカルボン酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、無水マレイン酸とグリコール類を共重合した不飽和ポリエステル、置換基を有するポリエチレンオキシド誘導体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を例示できる。また、上記ポリマーとして、上記具体的なポリマーを構成する二種類以上のモノマーを共重合させた共重合体を選択しても良い。
上記ポリマーとして、多糖類も好適である。具体的な多糖類として、グリコーゲン、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、アミロペクチン、キシログルカン、アミロースを例示できる。また、これら多糖類を含む材料を上記ポリマーとして採用してもよく、当該材料として、アガロースなどの多糖類を含む寒天を例示することができる。
上記無機フィラーとしては、酸化物や窒化物などの無機セラミックスが好ましい。
無機セラミックスはその表面に親水性及び疎水性の官能基を有している。そのため、当該官能基が電解液を引き付けることにより、無機セラミックス内に伝導性通路が形成され得る。さらに、電解液に分散した無機セラミックスは前記官能基により無機セラミックス同士のネットワークを形成し、電解液を封じ込める役割を果たし得る。無機セラミックスのこのような機能により、電池における電解液の液漏れをさらに好適に抑制することができる。無機セラミックスの上記機能を好適に発揮するために、無機セラミックスは粒子形状のものが好ましく、特にその粒子径がナノ水準のものが好ましい。
無機セラミックスの種類としては、一般的なアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、リチウムリン酸塩などを挙げることができる。また、無機セラミックス自体にリチウム伝導性があるものでも良く、具体的には、Li3N、LiI、LiI−Li3N−LiOH、LiI−Li2S−P2O5、LiI−Li2S−P2S5、LiI−Li2S−B2S3、Li2O−B2S3、Li2O−V2O3−SiO2、Li2O−B2O3−P2O5、Li2O−B2O3−ZnO、Li2O−Al2O3−TiO2−SiO2−P2O5、LiTi2(PO4)3、Li−βAl2O3、LiTaO3を例示することができる。
無機フィラーとしてガラスセラミックスを採用してもよい。ガラスセラミックスはイオン性液体を封じ込めることができるので、本発明の電解液に対しても同様の効果を期待できる。ガラスセラミックスとしては、xLi2S−(1−x)P2S5(ただし、0<x<1)で表される化合物、並びに、当該化合物のSの一部を他の元素で置換したもの、及び、当該化合物のPの一部をゲルマニウムに置換したものを例示できる。
また、本発明の電解液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の添加剤を加えてもよい。公知の添加剤の一例として、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)、エチルビニレンカーボネート(EVC)に代表される不飽和結合を有する環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート及びエリスリタンカーボネートに代表されるカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物に代表されるカルボン酸無水物;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトンに代表されるラクトン;1,4−ジオキサンに代表される環状エーテル;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィドに代表される含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシンイミドに代表される含窒素化合物;モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩に代表されるリン酸塩;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタンに代表される飽和炭化水素化合物;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフランに代表される不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。
次に、正極、負極、セパレータについて説明する。
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。正極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
具体的には、正極集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、AL−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、メッシュなどの面を把握できる形状が好ましい。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。例えば、正極活物質として、層状化合物のLiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル構造の金属酸化物、及びスピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、電荷担体(例えば充放電に寄与するリチウムイオン)を含まないものを用いても良い。例えば、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS2などの金属硫化物、V2O5、MnO2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウム等の電荷担体を含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予め電荷担体を添加しておく必要がある。電荷担体は、イオンの状態で添加しても良いし、金属等の非イオンの状態で添加しても良い。例えば、電荷担体がリチウムである場合には、リチウム箔を正極及び/又は負極に貼り付けるなどして一体化しても良い。
具体的な正極活物質として、層状岩塩構造のLiNi5/10Co2/10Mn3/10O2、LiNi5/10Co3/10Mn2/10O2、LiNi6/10Co2/10Mn2/10O2、LiNi50/100Co35/100Mn15/100O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi5/10Mn5/10O2、LiNi75/100Co10/100Mn15/100O2、LiMnO2、LiNiO2、及びLiCoO2を例示できる。他の具体的な正極活物質として、Li2MnO3−LiCoO2を例示できる。
具体的な正極活物質として、スピネル構造のLixAyMn2-yO4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素、0<x≦2.2、0≦y≦1)を例示できる。より具体的には、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4を例示できる。
具体的な正極活物質として、LiFePO4、Li2FeSiO4、LiCoPO4、Li2CoPO4、Li2MnPO4、Li2MnSiO4、Li2CoPO4Fを例示できる。
高容量及び耐久性などに優れる点から、正極活物質として、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Zr、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3) で表されるリチウム複合金属酸化物を採用することが好ましい。
上記一般式において、b、c、dの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b<1、0<c<1、0<d<1であるものが良く、また、b、c、dの少なくともいずれか一つが10/100<b<90/100、10/100<c<90/100、5/100<d<70/100の範囲であることが好ましく、20/100<b<80/100、12/100<c<70/100、10/100<d<60/100の範囲であることがより好ましく、30/100<b<70/100、15/100<c<50/100、12/100<d<50/100の範囲であることがさらに好ましい。 抵抗低減の点を考慮すると、dは5/100<d<25/100の範囲であることが好ましく、10/100<d≦20/100の範囲であることがより好ましい。
a、e、fについては、上記一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a≦1.5、0≦e<0.2、1.8≦f≦2.5、より好ましくは0.8≦a≦1.3、0≦e<0.1、1.9≦f≦2.1をそれぞれ例示することができる。
また、正極活物質の平均粒子径は、1〜20μmの範囲内が好ましく、2〜15μmの範囲内がより好ましく、3〜10μmの範囲内がさらに好ましい。なお、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。
正極活物質は、BET比表面積が0.1〜5m2/gの範囲のものが好ましく、0.2〜3m2/gの範囲のものがより好ましく、0.3〜2m2/gの範囲のものがさらに好ましく、0.5〜1m2/gの範囲のものが特に好ましく、0.7〜0.9m2/gの範囲のものが最も好ましい。BET比表面積が大きな正極活物質を用いると、正極活物質と電解液の界面で生じる反応抵抗が小さくなることが期待されるが、正極活物質と導電助剤との接触面積が減少し、電子の移動に伴う抵抗が増加する虞がある。逆に、BET比表面積が小さな正極活物質を用いると、正極活物質と導電助剤との接触面積が増大し電子の移動に伴う抵抗が減少することが期待されるが、正極活物質と電解液の界面で生じる反応抵抗が大きくなる虞がある。
正極活物質層中に、正極活物質は70〜100質量%の範囲内で含まれるのが好ましく、80〜99質量%の範囲内で含まれるのがより好ましく、88〜98質量%の範囲内で含まれるのがさらに好ましく、92〜97質量%の範囲内で含まれるのが特に好ましい。
以下、正極及び負極の両者についての結着剤及び導電助剤の説明をする。
結着剤は、活物質や導電助剤などを集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーを負極の結着剤として具備する本発明のリチウムイオン二次電池は、より好適に容量を維持できる場合がある。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸などの分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p−スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、化学構造でいうと、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する方法や、ポリマーにカルボキシル基を付与する方法などで製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。
上記の酸モノマーから選ばれる二種以上の酸モノマーを重合してなる共重合ポリマーを結着剤として用いてもよい。
また、例えば特開2013―065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体のカルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを結着剤として用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造が結着剤にあることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどを結着剤がトラップし易くなると考えられている。さらに、当該ポリマーは、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてモノマーあたりのカルボキシル基が多いため、酸性度が高まるものの、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、当該ポリマーを結着剤として用いた負極をもつ本発明のリチウムイオン二次電池は、初期効率が向上し、入出力特性が向上する。
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。活物質中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.01〜1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると負極活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
また、繊維状、鱗片状、板状などの形状(以下、これらの形状をまとめて「非球状」ということがある。)の導電助剤を用いること、又は、非球状の導電助剤を他の導電助剤と併用することが好ましい。非球状の導電助剤であれば、球状の導電助剤と比較して、長い導電経路を確保できる。そのため、活物質層の厚みが厚いことを規定する本発明のリチウムイオン二次電池の一態様においては、非球状の導電助剤を採用することで、より好適な充放電が可能となる。
非球状の導電助剤の平均粒子径としては、1〜30μmの範囲内が好ましく、2〜20μmの範囲内がより好ましい。なお、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。また、非球状とは、導電助剤をX軸、Y軸、Z軸の3次元で表したときに、各軸方向の長さa、b、cにおいて、最小の長さに対する最長の長さの比が2以上であることを意味する。
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
負極の集電体は、正極で説明したもののうち適切なものを採用すればよい。
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb2O5、TiO2、Li4Ti5O12、WO2、MoO2、Fe2O3等の酸化物、又は、Li3−xMxN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
高容量化の可能性の点から、好ましい負極活物質として、黒鉛、ケイ素系材料、錫系材料を挙げることができる。
より具体的な負極活物質として、G/D比が3.5以上の黒鉛を例示できる。G/D比とは、ラマンスペクトルにおけるG−bandとD−bandのピークの比である。黒鉛のラマンスペクトルにおいては、G−bandが1590cm−1付近に、D−bandが1350cm−1付近にそれぞれピークとして観察される。G−bandはグラファイト構造に由来し、D−bandは欠陥に由来する。したがって、G−bandとD−bandの比であるG/D比が高いほど欠陥が少なく結晶性の高い黒鉛であることを意味する。以下、G/D比が3.5以上の黒鉛を高結晶性黒鉛、G/D比が3.5未満の黒鉛を低結晶性黒鉛と呼ぶことがある。
高結晶性黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれも採用できる。形状による分類法では、鱗片状黒鉛、球状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などを採用できる。また黒鉛の表面を炭素材料などで被覆したコート付き黒鉛も採用できる。
具体的な負極活物質として、結晶子サイズが20nm以下、好ましくは5nm以下の炭素材料を例示できる。結晶子サイズが大きいほど、原子がある規則に従い周期的かつ正確に配列している炭素材料であることを意味する。一方、結晶子サイズが20nm以下の炭素材料は、原子の周期性、及び配列の正確性に乏しい状態にあるといえる。例えば炭素材料が黒鉛であれば、黒鉛結晶の大きさが20nm以下であるか、歪み、欠陥、不純物等の影響によって黒鉛を構成する原子の配列の規則性が乏しい状態となることで、結晶子サイズは20nm以下になる。
結晶子サイズが20nm以下の炭素材料としては、いわゆるハードカーボンである難黒鉛化性炭素や、いわゆるソフトカーボンである易黒鉛化性炭素が代表的である。
炭素材料の結晶子サイズを測定するには、CuKα線をX線源とするX線回折法を用いればよい。当該X線回折法により、回折角2θ=20度〜30度に検出される回折ピークの半値幅と回折角を基に、次のシェラーの式を用いて、結晶子サイズを算出できる。
L=0.94 λ /(βcosθ)
ここで、
L:結晶子の大きさ
λ:入射X線波長(1.54Å)
β:ピークの半値幅(ラジアン)
θ:回折角
具体的な負極活物質として、ケイ素を含む材料を例示できる。より具体的には、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiOx(0.3≦x≦1.6)を例示できる。SiOxにおけるSi相は、リチウムイオンを吸蔵及び放出でき、二次電池の充放電に伴って体積変化する。ケイ素酸化物相はSi相に比べて充放電に伴う体積変化が少ない。つまり、負極活物質としてのSiOxは、Si相により高容量を実現するとともに、ケイ素酸化物相を有することにより負極活物質全体の体積変化を抑制する。なお、xが下限値未満であると、Siの比率が過大になるため、充放電時の体積変化が大きくなりすぎて二次電池のサイクル特性が低下する。一方、xが上限値を超えると、Si比率が過小になってエネルギー密度が低下する。xの範囲は0.5≦x≦1.5であるのがより好ましく、0.7≦x≦1.2であるのがさらに好ましい。
なお、上記したSiOxにおいては、リチウムイオン二次電池の充放電時にリチウムとSi相のケイ素とによる合金化反応が生じると考えられている。そして、この合金化反応がリチウムイオン二次電池の充放電に寄与すると考えられている。後述するスズを含む負極活物質についても、同様に、スズとリチウムとの合金化反応によって充放電できると考えられている。
具体的な負極活物質として、スズを含む材料を例示できる。より具体的には、Sn単体、Cu−SnやCo−Snなどのスズ合金、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物を例示できる。アモルファススズ酸化物としてはSnB0.4P0.6O3.1を例示でき、スズケイ素酸化物としてはSnSiO3を例示できる。
上記したケイ素を含む材料、及び、スズを含む材料は、炭素材料と複合化して負極活物質とすることが好ましい。複合化に因り、特にケイ素及び/又はスズの構造が安定し、負極の耐久性が向上する。上記複合化は、既知の方法で行なえば良い。複合化に用いられる炭素材料としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等を採用すればよい。黒鉛は、天然黒鉛でもよく、人造黒鉛でもよい。
具体的な負極活物質として、Li4+xTi5+yO12(−1≦x≦4、−1≦y≦1))などのスピネル構造のチタン酸リチウム、Li2Ti3O7などのラムスデライト構造のチタン酸リチウムが例示できる。
具体的な負極活物質として、長軸/短軸の値が1〜5、好ましくは1〜3である黒鉛を例示できる。ここで、長軸とは、黒鉛の粒子の最も長い箇所の長さを意味する。短軸とは、前記長軸に対する直交方向のうち最も長い箇所の長さを意味する。当該黒鉛には、球状黒鉛やメソカーボンマイクロビーズが該当する。球状黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素などの炭素材料であって、形状が球状又はほぼ球状であるものをいう。
球状黒鉛は、黒鉛を比較的破砕力の小さい衝撃式粉砕機で粉砕して薄片とし、当該薄片を圧縮球状化して得られる。衝撃式粉砕機としては、例えばハンマーミルやピンミルを例示できる。上記ミルのハンマー又はピンの外周線速度を50〜200m/秒程度として、上記作業を行うことが好ましい。上記ミルに対する黒鉛の供給や排出は、空気等の気流に同伴させて行うことが好ましい。
黒鉛は、BET比表面積が0.5〜15m2/gの範囲のものが好ましく、2〜12m2/gの範囲のものがより好ましい。BET比表面積が大きすぎると黒鉛と電解液との副反応が加速する場合があり、BET比表面積が小さすぎると黒鉛の反応抵抗が大きくなる場合がある。
また、黒鉛の平均粒子径は、2〜30μmの範囲内が好ましく、5〜20μmの範囲内がより好ましい。なお、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。
負極活物質層中に、負極活物質は90〜100質量%の範囲内で含まれるのが好ましく、95〜99.5質量%の範囲内で含まれるのがより好ましく、96〜99質量%の範囲内で含まれるのがさらに好ましく、97〜98.5質量%の範囲内で含まれるのが特に好ましい。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含むスラリー状の組成物を調製し、これを集電体の表面に塗布後、乾燥して電極とする。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。また、上記スラリー状の組成物には、分散剤を添加してもよい。活物質層は集電体の片面に形成させてもよいが、集電体の両面に形成させるのが好ましい。電極密度を高めるべく、乾燥後の電極を圧縮するのが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池の電極を製造するには、上記(A)〜(I)の規定に合致させるべく、スラリー状の組成物の塗布量や電極に対する圧縮圧力を適切に設定するとよい。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
セパレータは適切な空隙を有するものが良く、その空隙率は20〜50%が好ましく、30〜45%がより好ましい。また、セパレータの厚みは、10〜40μmが好ましく、15〜30μmがより好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池には、正極活物質層、負極活物質層及びセパレータ以外の電極層である「他の電極層」が具備されていてもよい。「他の電極層」として、セラミックス及び結着剤を含むセラミックス含有層を例示できる。セラミックス含有層は、正極活物質層又は負極活物質層の表面に形成されて、正極又は負極を構成するのが好ましい。セラミックス含有層は、形成される活物質層の表面の一部を被覆していてもよいが、形成される活物質層の表面すべてを被覆しているのが好ましい。
セラミックスとしては、Al2O3、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO、SiC、AlN、BN、CaCO3、MgCO3、BaCO3、タルク、マイカ、カオリナイト、CaSO4、MgSO4、BaSO4、CaO、ZnO、ゼオライトを例示できる。セラミックス含有層には、1種又は複数種のセラミックスが含まれる。
セラミックスの形態としては粉末が好ましい。セラミックス粉末の粒径としては、平均粒子径が0.1〜10μmのものが好ましく、0.2〜5μmのものがより好ましく、0.3〜3μmのものが特に好ましい。平均粒子径が小さすぎると、電荷担体が通過できる空間をセラミックス含有層に形成するのが困難になる場合がある。平均粒子径が大きすぎるとセラミックス含有層の厚みが増加するため、厚みの増加に因り生じる抵抗がリチウムイオン二次電池の出力に悪影響を与える恐れがある。なお、平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。
セラミックス含有層用の結着剤としては、活物質層についての説明で述べた結着剤を例示できる。また、セラミックス含有層用の結着剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、及び、スチレン−アクリル酸共重合体などの(メタ)アクリル系樹脂、並びにこれらの誘導体も例示できる。
セラミックス含有層におけるセラミックスと結着剤との質量比の範囲としては80:20〜99:1、90:10〜98:2、95:5〜97:3を例示できる。セラミックス含有層において結着剤の配合量が少なすぎると、活物質層に対するセラミックス含有層の結着力の低下、又は、セラミックス含有層中のセラミックス間の結着力の低下によるセラミックス含有層の崩壊の恐れがあるので好ましくない。加えて、セラミックス含有層全体の柔軟性が失われ、電極に加わる圧力でセラミックス含有層が割れる虞があるので好ましくない。セラミックス含有層において結着剤の配合量が多すぎると、セラミックス含有層自体の硬度が低下する懸念があるし、正極及び負極間の電荷担体の移動経路の距離が増加すること、及び移動経路が閉塞されて移動経路自体の数が減少することも懸念されるので好ましくない。
セラミックス含有層の厚みは特に制限が無いが、0.1〜20μmが好ましく、0.5〜15μmがより好ましく、1〜12μmが特に好ましい。
活物質層の表面にセラミックス含有層を設けるには、例えば、セラミックス及び結着剤を溶剤に分散させてセラミックス含有層形成用組成物を調製する工程、及び、当該セラミックス含有層形成用組成物を活物質層の表面に塗布する工程を実施した後、乾燥工程を実施すれば良い。セラミックス含有層形成用組成物の調製に用いる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、エタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。塗布工程では、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。乾燥工程は、常圧条件で行っても良いし、真空乾燥機を用いた減圧条件下で行っても良い。乾燥温度は結着剤が分解しない範囲内で適宜設定すればよく、上記溶剤の沸点以上の温度が好ましい。乾燥時間は塗布量及び乾燥温度に応じ適宜設定すればよい。
本発明のリチウムイオン二次電池の具体的な製造方法について述べる。 正極及び負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。正極の集電体及び負極の集電体から外部に通ずる正極端子及び負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に本発明の電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
一般に、リチウムイオン二次電池における正極、セパレータ及び負極の状態としては、平板状の正極、平板状のセパレータ及び平板状の負極が積層されている積層型と、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型とが存在する。捲回型のリチウムイオン二次電池では、電極の活物質層に対して曲げる力が加わり、活物質層には曲げ応力が生じる。ここで、上記(A)〜(I)の規定を満足する本発明のリチウムイオン二次電池の活物質層は、捲回型にて生じる曲げる力に耐久できる曲げ応力を十分に確保できるとはいえない。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池は、平板状の正極、平板状のセパレータ及び平板状の負極が積層されている積層型であるのが好ましい。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、集電体の両面に活物質層が形成された正極、セパレータ及び集電体の両面に活物質層が形成された負極を、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極との順に繰り返して、多数層が積層されたものが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでないが、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例及び比較例などを示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
(製造例1−1)
ジメチルカーボネートに(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が3.0mol/Lである製造例1−1の電解液を製造した。製造例1−1の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3で含まれる。
(製造例1−2)
ジメチルカーボネートに(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.7mol/Lである製造例1−2の電解液を製造した。製造例1−2の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3.5で含まれる。
(製造例1−3)
ジメチルカーボネートに(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.4mol/Lである製造例1−3の電解液を製造した。製造例1−3の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比4で含まれる。
(製造例1−4)
ジメチルカーボネートに(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.0mol/Lである製造例1−4の電解液を製造した。製造例1−4の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比5で含まれる。
(製造例2−1)
ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.9mol/Lである製造例2−1の電解液を製造した。製造例2−1の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3で含まれる。
(製造例2−2)
ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを7:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.9mol/Lである製造例2−2の電解液を製造した。製造例2−2の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3で含まれる。
(製造例2−3)
ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.4mol/Lである製造例2−3の電解液を製造した。製造例2−3の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比4で含まれる。
(製造例3)
エチルメチルカーボネートに(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.2mol/Lである製造例3の電解液を製造した。製造例3の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3.5で含まれる。
(製造例4)
ジエチルカーボネートに(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.0mol/Lである製造例4の電解液を製造した。製造例4の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3.5で含まれる。
(製造例5−1)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.9mol/Lである製造例5−1の電解液を製造した。製造例5−1の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3で含まれる。
(製造例5−2)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.6mol/Lである製造例5−2の電解液を製造した。製造例5−2の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比3.6で含まれる。
(製造例5−3)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.4mol/Lである製造例5−3の電解液を製造した。製造例5−3の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比4で含まれる。
(製造例5−4)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、さらに、ビニレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニルを加えて、(FSO2)2NLiの濃度が2.4mol/Lであり、ビニレンカーボネートが1.0質量%、シクロヘキシルベンゼンが1.4質量%、ビフェニルが1.6質量%で含まれる製造例5−4の電解液を製造した。製造例5−4の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比4で含まれる。
(製造例5−5)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、さらに、ビニレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニルを加えて、(FSO2)2NLiの濃度が2.4mol/Lであり、ビニレンカーボネートが1.9質量%、シクロヘキシルベンゼンが1.5質量%、ビフェニルが1.5質量%で含まれる製造例5−5の電解液を製造した。製造例5−5の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比4で含まれる。
(製造例5−6)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを9:1のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、さらに、ビニレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニルを加えて、(FSO2)2NLiの濃度が2.4mol/Lであり、ビニレンカーボネートが2.8質量%、シクロヘキシルベンゼンが1.4質量%、ビフェニルが1.6質量%で含まれる製造例5−6の電解液を製造した。製造例5−6の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比4で含まれる。
(製造例5−7)
ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを72:28のモル比で混合した混合溶媒に、(FSO2)2NLiを溶解させて、さらに、ビニレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニルを加えて、(FSO2)2NLiの濃度が2.0mol/Lであり、ビニレンカーボネートが2.8質量%、シクロヘキシルベンゼンが1.4質量%、ビフェニルが1.6質量%で含まれる製造例5−7の電解液を製造した。製造例5−7の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比5で含まれる。
(比較製造例1−1)
ジメチルカーボネートに(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が4.5mol/Lである比較製造例1−1の電解液を製造した。比較製造例1−1の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比1.6で含まれる。
(比較製造例1−2)
ジメチルカーボネートに(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が3.9mol/Lである比較製造例1−2の電解液を製造した。比較製造例1−2の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比2で含まれる。
(比較製造例1−3)
ジメチルカーボネートに(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が1.0mol/Lである比較製造例1−3の電解液を製造した。比較製造例1−3の電解液においては、鎖状カーボネートがリチウム塩に対し、モル比11で含まれる。
(比較製造例2)
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に、電解質であるLiPF6を溶解させて、LiPF6の濃度が1.0mol/Lである比較製造例2の電解液を製造した。比較製造例2の電解液においては、有機溶媒が電解質に対し、モル比が概ね10で含まれる。
(比較製造例3)
ジエチルカーボネート及びエチレンカーボネートを7:3の体積比で混合した混合溶媒に、電解質であるLiPF6を溶解させて、LiPF6の濃度が1.0mol/Lである比較製造例3の電解液を製造した。比較製造例3の電解液においては、有機溶媒が電解質に対し、モル比が概ね10で含まれる。
表2に製造した電解液の一覧を示す。
表2及び以下の表における略号の意味は以下のとおりである。
LiFSA:(FSO2)2NLi
DMC:ジメチルカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
EC:エチレンカーボネート
(参考評価例1:イオン伝導度)
製造例1−1、製造例1−4、比較製造例1−1、比較製造例1−2、比較製造例1−3及び比較製造例3の電解液のイオン伝導度を以下の条件で測定した。結果を表3に示す。また、製造例1−1、製造例1−4、比較製造例1−1、比較製造例1−2及び比較製造例1−3の電解液の結果を図1にグラフで示す。
イオン伝導度測定条件
Ar雰囲気下、白金極を備えたセル定数既知のガラス製セルに、電解液を封入し、30℃、1kHzでのインピーダンスを測定した。インピーダンスの測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
本発明の電解液は、いずれも好適なイオン伝導性を示した。また、図1の鎖状カーボネート/リチウム塩のモル比とイオン伝導度との関係から、イオン伝導度の極大値が、鎖状カーボネート/リチウム塩のモル比3〜6の範囲内にあることが示唆される。一方、有機溶媒としてECを含み、金属塩としてLiPF6を含む従来の電解液は、イオン伝導度が有機溶媒/金属塩のモル比10程度で極大化し、モル比を下げるとイオン伝導度が急激に低下することが知られている。つまり、本発明の電解液は、従来の電解液に比べて、高いリチウムイオン濃度領域においても優れたイオン伝導度を有する。
(参考評価例2:密度)
電解液の20℃における密度を測定した。結果を表4に示す。なお、表の空欄は未測定を意味する。
(参考評価例3:粘度)
製造例1−1、製造例1−4、比較製造例1−1、比較製造例1−2及び比較製造例1−3の電解液の粘度を以下の条件で測定した。結果を表5に示す。
粘度測定条件
落球式粘度計(AntonPaar GmbH(アントンパール社)製 Lovis 2000 M)を用い、Ar雰囲気下、試験セルに電解液を封入し、30℃の条件下で粘度を測定した。
電解液の粘度が低すぎると、そのような電解液を具備する蓄電装置が破損した際には、電解液が大量に漏れるとの懸念がある。他方、電解液の粘度が高すぎると、電解液のイオン伝導特性が低下する懸念や、蓄電装置製造時に電極やセパレータ等への電解液の浸透性が劣るため生産性が低下する懸念がある。鎖状カーボネート/リチウム塩のモル比が3〜6程度の電解液では、粘度が低すぎることもなく高すぎることもないことがわかる。
(参考評価例4:低温保管試験)
製造例1−1、製造例1−3、製造例1−4、比較製造例1−2及び比較製造例1−3の電解液をそれぞれ容器に入れ、不活性ガスを充填して密閉した。これらを−20℃の冷凍庫に2日間保管した。保管後に各電解液を観察した。結果を表6に示す。
鎖状カーボネート/リチウム塩のモル比の値が大きくなるほど、すなわち従来の値に近づくほど、低温で凝固しやすくなることがわかる。なお、製造例1−4の電解液は−20℃で2日間保管することで凝固したものの、従来の濃度の電解液である比較製造例1−3の電解液と比較すると、凝固しがたいといえる。
(参考評価例5:DSC測定)
製造例1−1の電解液をアルミニウム製のパンに入れ、該パンを密閉した。空の密閉パンを対照として、窒素雰囲気下、以下の温度プログラムで示差走査熱量分析を行った。示差走査熱量測定装置としてはRigaku DSC8230を使用した。
温度プログラム
室温から70℃まで5℃/min.で昇温して10分間保持 → −120℃まで5℃/min.で降温して10分間保持 → 70℃まで3℃/min.で昇温
−120℃から70℃まで3℃/min.で昇温したときの、DSC曲線を観察した。製造例1−4の電解液、比較製造例1−3の電解液、DMCについても、同様に示差走査熱量分析を行った。図2にそれぞれのDSC曲線の重ね書きを示す。
図2のDMC、及び、比較製造例1−3の電解液のDSC曲線からは、0〜10℃付近に融解ピークが観察された。他方、製造例1−1及び製造例1−4のDSC曲線からは、融解ピークが明確に観察されなかった。この結果は、鎖状カーボネート/リチウム塩のモル比が3〜6程度の電解液が低温環境下で凝固や結晶化をされ難いことを示唆している。そのため、本発明の電解液は、低温環境下において、イオン伝導度の低下をある程度抑制できると推察される。なお、本発明の電解液において、低温環境下での使用を重視する場合は、鎖状カーボネートとして融点が4℃付近のDMCのみではなく、融点が−55℃付近のEMCや融点が−43℃付近のDECを併用することが好ましい。
(参考評価例6:DSC測定<2>)
製造例2−3の電解液をアルミニウム製のパンに入れ、該パンを密閉した。空の密閉パンを対照として、窒素雰囲気下、以下の温度プログラムで示差走査熱量分析を行った。示差走査熱量測定装置としてはDSC Q2000(TAインスツルメント製)を使用した。
温度プログラム
室温から−75℃まで5℃/min.で降温して10分間保持 → 70℃まで5℃/min.で昇温
−75℃から70℃まで5℃/min.で昇温したときの、DSC曲線を観察した。製造例5−3の電解液、比較製造例2の電解液についても、同様に示差走査熱量分析を行った。図3にそれぞれのDSC曲線の重ね書きを示す。
図3において、比較製造例2の電解液のDSC曲線からは、−50〜−20℃付近に融点に由来すると推定される吸熱ピークが観察された。他方、製造例2−3及び製造例5−3のDSC曲線からは、吸熱ピークが観察されなかった。鎖状カーボネートを併用した本発明の電解液においても、低温環境下で凝固や結晶化がされ難いことが裏付けられた。したがって、本発明の電解液を用いた二次電池は、著しい低温条件下であっても好適に作動すると推測される。
(実施例1)
製造例5−2の電解液を用いた実施例1のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
正極活物質であるLiNi5/10Co3/10Mn2/10O2を94質量部、導電助剤であるアセチレンブラック3質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極集電体として厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極板とした。
なお、正極活物質層の空隙率は26%であり、密度は2.98g/cm3であった。正極の目付け量は18.2mg/cm2であり、正極活物質層の厚みは60μmであった。
負極活物質として球状黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極板とした。
なお、負極活物質層の空隙率は30%であり、密度は1.33g/cm3であった。負極の目付け量は9.7mg/cm2であり、負極活物質層の厚みは73μmであった。
セパレータとして、厚さ24μm、空隙率40%のポリプロピレン製多孔質膜を準備した。
正極板と負極板とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を製造例5−2の電解液とともに角型の電池ケースに収容して、電池ケースを密閉し、実施例1のリチウムイオン二次電池を製造した。なお、実施例1のリチウムイオン二次電池の電池容量は2.73mAh/cm2であった。
(実施例2)
正極板の製造において、正極活物質であるLiNi5/10Co3/10Mn2/10O2を90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック8質量部及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン2質量部を用い、さらに、正極活物質層の空隙率が42.8%、正極活物質層の密度が2.6g/cm3、正極の目付け量が5.5mg/cm2及び正極活物質層の厚みが21μmである正極、負極活物質層の空隙率が48.9%、負極活物質層の密度が1.12g/cm3、負極の目付け量が4.2mg/cm2及び負極活物質層の厚みが37μmである負極、並びに、セパレータとして、厚さ20μm、空隙率46%のポリプロピレン製多孔質膜を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2のリチウムイオン二次電池を製造した。なお、実施例2のリチウムイオン二次電池の電池容量は0.84mAh/cm2であった。
(比較例1)
比較製造例2の電解液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1のリチウムイオン二次電池を製造した。なお、比較例1のリチウムイオン二次電池の電池容量は2.73mAh/cm2であった。
(比較例2)
比較製造例2の電解液を用いた以外は、実施例2と同様の方法で、比較例2のリチウムイオン二次電池を製造した。なお、比較例2のリチウムイオン二次電池の電池容量は0.84mAh/cm2であった。
実施例1〜2、比較例1〜2のリチウムイオン二次電池の一覧を表7に示す。
表中の空隙体積とは(単位面積あたりの正極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりの負極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりのセパレータの空隙体積)の値である。
(評価例1:放電レート特性)
実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、放電電流(放電レート)毎の放電容量を評価した。
各リチウムイオン二次電池に対し、一定電流での充放電(活性化処理)を行った後、0.33Cレートで電圧3.9Vまで充電を行った。電圧3.9Vの各リチウムイオン二次電池に対し、電圧2.9Vまで、25℃で、0.3Cレート、1Cレート、2Cレート、3Cレート、4Cレート、5Cレート、8Cレート、10Cレートでの放電をそれぞれ行った。0.3Cレートでの電圧2.9Vまでの放電容量を100%とし、これに対する各レートでの放電容量の割合を算出した。
図4は、実施例1のリチウムイオン二次電池の各放電レートに対する、放電容量と電圧との関係をグラフにしたものである。図4のグラフの曲線は、上から、0.3Cレート、1Cレート、2Cレート、3Cレート、4Cレート、5Cレートのものである。
図5は、比較例1のリチウムイオン二次電池の各放電レートに対する、放電容量と電圧との関係をグラフにしたものである。図5のグラフの曲線は、上から、0.3Cレート、1Cレート、2Cレート、3Cレート、4Cレート、5Cレートのものである。
図6は、実施例1及び比較例1のリチウムイオン二次電池につき、各電流レートにおいてカットオフ電圧までに取り出せる放電容量の割合を示したものである。
図4及び図5から、放電レートが高くなると放電容量の低下が観察されるが、実施例1のリチウムイオン二次電池の放電容量の低下の程度は、比較例1のリチウムイオン二次電池よりも小さいことが分かる。また、図6からは、比較例1のリチウムイオン二次電池の放電容量が、4Cレートを超えたあたりから急激に低下することが分かる。かかる急激な低下は、電解液におけるリチウムイオンの拡散抵抗、つまり活物質に対する電解液のイオン供給量が寄与していると考えられる。他方、実施例1のリチウムイオン二次電池には、比較例1で観察された急激な放電容量の低下が観察されなかった。本発明のリチウムイオン二次電池は、高リチウムイオン濃度で且つ高イオン伝導度を示す本発明の電解液を具備するので、高レートの放電においても、活物質に対し電解液からのリチウムイオンの供給速度及び供給量が十分であり、好適な放電容量を示すことが裏付けられた。
また、実施例2及び比較例2のリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、放電速度毎の放電容量を評価した。
各リチウムイオン二次電池に対し、一定電流での充放電(活性化処理)を行った後、0.33Cレートで電圧3.9Vまで充電を行った。電圧3.9Vの各リチウムイオン二次電池に対し、電圧2.9Vまで、25℃で、1Cレート、3Cレート、10Cレート、30Cレートでの放電をそれぞれ行った。1Cレートでの電圧2.9Vまでの放電容量を100%とし、これに対する各レートでの放電容量の割合を算出した。
図7は、実施例2及び比較例2のリチウムイオン二次電池につき、各電流レートにおいてカットオフ電圧までに取り出せる放電容量の割合を示したものである。
図7から、実施例2のリチウムイオン二次電池が比較例2のリチウムイオン二次電池よりも、高レートにおいて優れた放電容量を示すことがわかる。また、表7と図6及び図7の結果から、優れた放電容量を示すとの本発明のリチウムイオン二次電池の効果は、正極活物質層の空隙率が低いほど、正極活物質層の密度が高いほど、正極の目付量が多いほど、正極活物質層の厚みが厚いほど、負極活物質層の空隙率が低いほど、負極活物質層の密度が高いほど、負極の目付量が多いほど、負極活物質層の厚みが厚いほど、及び/又は、(I)値が高いほど、顕著に表れるといえる。
(実施例3)
製造例5−3の電解液を用いた実施例3のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
正極活物質であるLiNi50/100Co35/100Mn15/100O2を94質量部、導電助剤であるアセチレンブラック2質量部、導電助剤である鱗片状黒鉛1質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部、及び若干量の分散剤を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極集電体として厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。アルミニウム箔の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が集電体の両面に形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極板とした。
なお、正極活物質層の空隙率は27%であり、密度は3.0g/cm3であった。正極の目付け量は18.64mg/cm2であり、正極活物質層の厚みは62μmであった。また、正極活物質の平均粒子径(D50)は6.0μmであり、BET比表面積は0.7m2/gであった。
負極活物質として黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布し、これを乾燥して水を除去した。銅箔の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が集電体の両面に形成された銅箔を得た。これを負極前駆板とした。
なお、負極活物質層の空隙率は37%であり、密度は1.4g/cm3であった。負極の目付け量は9.90mg/cm2であり、負極活物質層の厚みは71μmであった。また、負極活物質の平均粒子径(D50)は11μmであり、BET比表面積は3.9m2/gであった。
セラミックスであるAl2O3を96質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデンを4質量部、及び適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合し、スラリー状のセラミックス含有層形成用組成物を製造した。負極前駆板における負極活物質層の表面に、セラミックス含有層形成用組成物を膜状になるように塗布した。セラミックス含有層形成用組成物が塗布された負極前駆板を乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去して、セラミックス含有層を形成させた。負極前駆板の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、両面にセラミックス含有層が形成された負極前駆板をプレスし接合物を得た。得られた接合物を加熱乾燥して、負極集電体の両面に、負浴活物質層及びセラミックス含有層が形成された負極板を製造した。
セパレータとして、厚さ24μm、空隙率40%のポリプロピレン製多孔質膜を準備した。
正極板、セパレータ、負極板、セパレータ、正極板、セパレータ、負極板との順に繰り返し積層して、数十層の積層体とした。この積層体と製造例5−3の電解液を角型の電池ケースに収容して、電池ケースを密閉し、実施例3のリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例3)
比較製造例2の電解液を用いた以外は、実施例3と同様の方法で、比較例3のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例4)
製造例5−5の電解液を用いた実施例4のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
正極活物質であるLiNi50/100Co35/100Mn15/100O2を94質量部、導電助剤であるアセチレンブラック3質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部、若干量の分散剤、及び適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。正極集電体として厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。アルミニウム箔の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が集電体の両面に形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極板とした。
なお、正極活物質層の空隙率は30.1%であり、密度は2.9g/cm3であった。正極の目付け量は18.89mg/cm2であり、正極活物質層の厚みは65.1μmであった。
負極活物質として黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布し、これを乾燥して水を除去した。銅箔の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が集電体の両面に形成された銅箔を得た。これを負極前駆板とした。
なお、負極活物質層の空隙率は42.8%であり、密度は1.28g/cm3であった。負極の目付け量は10.5mg/cm2であり、負極活物質層の厚みは82μmであった。
セラミックスであるAl2O3を96質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデンを4質量部、及び適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合し、スラリー状のセラミックス含有層形成用組成物を製造した。負極前駆板における負極活物質層の表面に、セラミックス含有層形成用組成物を膜状になるように塗布した。セラミックス含有層形成用組成物が塗布された負極前駆板を乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去して、セラミックス含有層を形成させた。負極前駆板の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、両面にセラミックス含有層が形成された負極前駆板をプレスし接合物を得た。得られた接合物を加熱乾燥して、負極集電体の両面に、負浴活物質層及びセラミックス含有層が形成された負極板を製造した。
セパレータとして、厚さ24μm、空隙率40%のポリプロピレン製多孔質膜を準備した。
正極板、セパレータ、負極板、セパレータ、正極板、セパレータ、負極板との順に繰り返し積層して、数十層の積層体とした。この積層体と製造例5−5の電解液を角型の電池ケースに収容して、電池ケースを密閉し、実施例4のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例3、比較例3及び実施例4のリチウムイオン二次電池の一覧を表8に示す。
表中、負極層とは、負極活物質層及びセラミックス含有層を意味する。また、空隙体積とは(単位面積あたりの正極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりの負極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりのセパレータの空隙体積)+(単位面積あたりのセラミックス含有層の空隙体積)の値である。
(評価例2:低温充電特性)
−20℃、15A(0.33C)にて、電圧3.90Vまで、実施例3、比較例3、実施例4のリチウムイオン二次電池に充電を行った。実施例3及び比較例3の結果を図8に示し、実施例4の結果を図9に示す。なお、図8及び図9のX軸は充電容量であり、Y軸は金属リチウムに対する負極の電位である。
比較例3のリチウムイオン二次電池においては、電圧3.90Vの充電状態にて、負極の電位が金属リチウムに対して負の値となった。これは、負極にリチウムが析出した状態を意味する。他方、実施例3及び実施例4のリチウムイオン二次電池においては、電圧3.90Vの充電状態であっても、負極の電位が金属リチウムに対して正の値を維持しており、所望の充電を達成できたといえる。本発明のリチウムイオン二次電池は、低温環境下であっても、好適に充電容量を維持できることが裏付けられた。
(実施例5)
正極の目付け量などのパラメータ及び負極の目付け量などのパラメータを変えた上で、セパレータとして厚さ12μm、空隙率46%のポリプロピレン製多孔質膜を用い、さらに、製造例5−6の電解液を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、実施例5のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例6)
製造例5−7の電解液を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、実施例6のリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例4)
比較製造例2の電解液を用いた以外は、実施例6と同様の方法で、比較例4のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例5、実施例6及び比較例4のリチウムイオン二次電池の一覧を表9に示す。
表中、負極層とは、負極活物質層及びセラミックス含有層を意味する。また、空隙体積とは(単位面積あたりの正極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりの負極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりのセパレータの空隙体積)+(単位面積あたりのセラミックス含有層の空隙体積)の値である。
(評価例3:放電レート特性)
実施例6及び比較例4のリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、放電電流(放電レート)毎の放電容量を評価した。
各リチウムイオン二次電池に対し、一定電流での充放電(活性化処理)を行った後、各リチウムイオン二次電池の電圧を4.1Vに調整し、電圧2.9Vまで、20℃で1Cレートでの放電をそれぞれ行った。ここで測定された各リチウムイオン二次電池の放電容量をそれぞれのリチウムイオン二次電池の基準容量として、電圧3.9Vから電圧2.9Vまでの各リチウムイオン二次電池の放電容量の割合を算出した。
さらに、各リチウムイオン二次電池に対して、0.33Cレートで電圧3.9Vまで充電を行った。そして、電圧3.9Vの各リチウムイオン二次電池に対して、電圧2.9Vまで、20℃で、2Cレート、3Cレート、4Cレート、5Cレート、6Cレートでの放電をそれぞれ行い、レート毎の放電容量を測定した。上述した基準容量に対する各放電容量の割合を算出した。
以上の結果を図10に示す。
図10から、放電レートが高くなると放電容量の低下が観察されるが、実施例6のリチウムイオン二次電池の放電容量の低下の程度は、比較例4のリチウムイオン二次電池よりも小さいことが分かる。評価例1でも述べたとおり、本発明のリチウムイオン二次電池は、高リチウムイオン濃度で且つ高イオン伝導度を示す本発明の電解液を具備するので、高レートの放電においても、活物質に対し電解液からのリチウムイオンの供給速度及び供給量が十分であり、好適な放電容量を示すことが裏付けられたといえる。
(実施例7)
製造例5−4の電解液を用いた実施例7のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
正極活物質であるLiNi6/10Co2/10Mn2/10O2を94質量部、導電助剤であるアセチレンブラック3質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部、及び適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。正極集電体として厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が集電体に形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極板とした。
なお、用いた正極活物質のBET比表面積は0.48m2/gであり、正極活物質の粒度分布がD10は5.1μm、D50は6.7μm、D90は9.2μmであった。
負極活物質として黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布し、これを乾燥して水を除去した。その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が集電体に形成された銅箔を得た。これを負極板とした。
セパレータとして、厚さ16μm、空隙率50%のポリプロピレン製多孔質膜を準備した。
正極板と負極板とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を製造例5−4の電解液とともに袋状のラミネートフィルムに収容して密閉し、実施例7のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例8)
BET比表面積が0.80m2/gであり、粒度分布がD10は4.5μm、D50は6.4μm、D90は9.6μmであるLiNi6/10Co2/10Mn2/10O2を正極活物質として用いた以外は、実施例7と同様の方法で、実施例8のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例9)
BET比表面積が0.99m2/gであり、粒度分布がD10は4.4μm、D50は5.8μm、D90は7.6μmであるLiNi6/10Co2/10Mn2/10O2を正極活物質として用いた以外は、実施例7と同様の方法で、実施例9のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例7〜実施例9のリチウムイオン二次電池の一覧を表10に示す。
表中の空隙体積とは(単位面積あたりの正極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりの負極活物質層の空隙体積)+(単位面積あたりのセパレータの空隙体積)の値である。以後の表についても同様である。
(評価例4:出力特性)
実施例7〜実施例9のリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、出力を評価した。
SOC50%に調整した実施例7〜実施例9の各リチウムイオン二次電池につき、25℃での条件下、1Cレート、2Cレート、3Cレート、4Cレート、5Cレート及び6Cレートでそれぞれ10秒間放電した。これらの結果から、SOC50%に調整した各リチウムイオン二次電池を10秒間放電させた場合に3Vとなる電流値を算出し、当該電流値と電圧から出力値を算出した。結果を図11に示す。
図11から、正極活物質のBET比表面積が出力特性に影響を与えること、及び、本発明のリチウムイオン二次電池において、出力特性が最大となる正極活物質のBET比表面積は0.7〜0.9m2/gの範囲内にあることがわかる。
(実施例10)
製造例5−4の電解液を用いた実施例10のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
正極活物質であるLiNi6/10Co2/10Mn2/10O2を94質量部、導電助剤であるアセチレンブラック3質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部、及び適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。正極集電体として厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が集電体に形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極板とした。正極の目付量は26.5mg/cm2であった。
負極活物質として黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布し、これを乾燥して水を除去した。その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が集電体に形成された銅箔を得た。これを負極板とした。負極の目付量は12.39mg/cm2であった。
セパレータとして、厚さ16μm、空隙率50%のポリプロピレン製多孔質膜を準備した。
正極板と負極板とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を製造例5−4の電解液とともに袋状のラミネートフィルムに収容して密閉し、実施例10のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例11〜実施例25)
正極の目付量などのパラメータ及び負極の目付量などのパラメータを変えたこと以外は、実施例10と同様の方法で、実施例11〜実施例25のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例10〜実施例25のリチウムイオン二次電池の一覧を表11〜表14に示す。
(評価例5:出力特性)
実施例10〜実施例25のリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、出力を評価した。
SOC15%に調整した実施例10〜実施例25の各リチウムイオン二次電池につき、25℃での条件下、1Cレート、2Cレート、3Cレート、4Cレート、5Cレート及び6Cレートでそれぞれ10秒間放電した。これらの結果から、SOC15%に調整した各リチウムイオン二次電池を10秒間放電させた場合に2.5Vとなる電流値を算出し、当該電流値と電圧から出力値を算出した。結果を表15に示し、正極の目付量と出力の関係を図12に、負極の目付量と出力の関係を図13に示す。
図12から、出力特性が最大となる正極の目付量は23〜27mg/cm2の範囲内にあるといえる。また、図13から、出力特性が最大となる負極の目付量は10〜13mg/cm2の範囲内にあるといえる。
(実施例26)
製造例5−4の電解液を用いた実施例26のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
正極活物質であるLiNi50/100Co35/100Mn15/100O2を94質量部、導電助剤であるアセチレンブラック3質量部、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部、及び適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。正極集電体として厚み15μmのJIS A1000番系に該当するアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。アルミニウム箔の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が集電体の両面に形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極板とした。
負極活物質として黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布し、これを乾燥して水を除去した。銅箔の逆側の面にも同様の作業を行った。その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が集電体の両面に形成された銅箔を得た。これを負極板とした。
セパレータとして、厚さ25μm、空隙率47%のポリプロピレン製多孔質膜を準備した。
正極板、セパレータ、負極板、セパレータ、正極板、セパレータ、負極板との順に繰り返し積層して、数十層の積層体とした。この積層体と製造例5−4の電解液を角型の電池ケースに収容して、電池ケースを密閉し、実施例26のリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例5)
比較製造例2の電解液を用いた以外は、実施例26と同様の方法で、比較例5のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例27)
正極活物質としてLiNi5/10Co2/10Mn3/10O2を用い、正極の目付量などのパラメータ及び負極の目付量などのパラメータを変えたこと以外は、実施例26と同様の方法で、実施例27のリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例6)
比較製造例2の電解液を用いた以外は、実施例27と同様の方法で、比較例6のリチウムイオン二次電池を製造した。
実施例26、比較例5、実施例27、比較例6のリチウムイオン二次電池の一覧を表16に示す。
(評価例6:低温出力特性)
実施例26、比較例5、実施例27、比較例6のリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、低温出力特性を評価した。
SOC25%に調整した各リチウムイオン二次電池につき、−20℃での条件下、30W、35W、40W、70W、80W、90W、120W、130W、140Wでそれぞれ2.9V到達まで放電した。これらの結果から、SOC25%に調整した各リチウムイオン二次電池を3分間放電させた場合に2.9Vとなる電力値を算出し、その値を出力値とした。結果を表17に示す。
表17の結果から、本発明の電解液を具備する本発明のリチウムイオン二次電池が、低温条件下においても優れた出力特性を示すことが裏付けられたといえる。