上記の通り従前においても、ポンプにおけるガスロックは課題視されており、当該ガスロックの発生を検出する手法も種々提案されている。特に引用文献2では、詰まりによる閉塞やエアロックなどの異常の発生を、集音器、振動センサまたは圧力センサによって検出する事が提案されている。
しかしながら、集音器によって異常を検出する為には、異常時の音を正確に集音しなければならない。この為、周囲において機械の動作音や会話等が発生している場合には、異常時の音を正確に集音できないという課題が生じる。そこで本発明は、周囲環境の影響を受ける事の無いガスロック検出装置及び此れを使用したポンプ装置を提供する事を第1の課題とする。
また、振動センサによって異常を検出する場合であっても、この異常はポンプの吸込み口もしくは吐出口近傍で流体流れの変化を取得するものである事から、相当に多くの水流が無ければ当該異常を検出できないものとなっていた。一方で、薬液の送給等に使用されるポンプの場合には、流量が少ない事からポンプの吸込み口もしくは吐出口近傍における振動を振動センサによって検知するのは困難である。そこで本発明や、薬液の送給等の様に流量が少ない場合であっても、ガスロック状態を正確に検知する事の出来るガスロック検出装置及び此れを使用したポンプ装置を提供する事を第2の課題とする。
更に圧力センサによって異常を検出する為には、移送ライン内に圧力センサを設置しなければならず、移送管内に設置した圧力センサが移送流体の抵抗になってしまう事が危惧された。移送ラインに設置した検知センサが抵抗になってしまった場合には、送給自体が滞る事も考えられることから、望ましくない。また、定量ポンプにおいては送給量を正確にする為に、当該移送ラインにセンサなどの異物を設置するのは望ましくない。そこで本発明では、移送ラインに設置する事なく、ガスロック状態を正確に検知する事の出来るガスロック検出装置及び此れを使用したポンプ装置を提供する事を第3の課題とする。
そして次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の殺菌水を送給する際には、溶液中からガスが発生し、これがガスロックを生じさせることが懸念されている。特に衛生状態が要求される医療施設や食品製造、又は販売施設などでは殺菌水の送給がガスロックによって停止した場合には、衛生管理上の問題が生じる。そこで本発明は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等のようにガスが発生しやすい薬液を送給する際にガスロックが発生した場合には、ガスロックの発生を迅速に検知できるガスロック検出装置を提供し、更にガスロックが発生した場合には、薬液の無駄を生じさせることなく復旧できるようにしたポンプ装置を提供する事を第4の課題とする。
上記課題の少なくとも何れかを解決するべく鋭意研究を行った結果、本発明者はガスロック時におけるポンプの動作音の違いに着目し、本発明を完成するに至ったものである。即ち本発明は、ガスロック時におけるポンプの動作音の違いを振動として取得することにより、ガスロック状態を検知する事に成功したものである。
而して本発明では、液体を移送するポンプにおけるガスロック状態を検知する為のガスロック検出装置であって、ポンプ作動時における振動伝達部分に設置される検出部と、この検出部の信号を取得してガスロック状態を判断する検出回路とからなり、前記検出部は、圧電素子を用いて構成されており、前記検出回路は、検出部から取得した信号における周波数ごとの出力からガスロック状態を判断する事を特徴とする、ガスロック検出装置を提供する。
上記ポンプは往復動式ポンプや回転式ポンプなど様々なポンプが使用であるが、少なくとも、ガスロック時において動作音が変化する必要がある。例えばダイヤフラムポンプにおいては、ダイヤフラムが動作するポンプヘッド内にガスが混入した場合には、当該ダイヤフラムの動作音が大幅に変化する事から、本発明を好適に使用する事ができる。また、当該ダイヤフラムポンプは、前記した殺菌水などの薬液を一定量ずつ送給する定量ポンプとして使用されており、当該薬液はガスが発生しやすい事を鑑みれば、特に次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の薬液を送給するダイヤフラム式電磁定量ポンプで使用した場合に望ましい効果が得られる。同様に、上下水道、工業用水、産業廃水等の凝集剤として用いられるポリ塩化アルミニウム、及び次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHを調整する為の塩酸を供給する場合にも有効である。
そして本発明にかかるガスロック検出装置は、上記ポンプが作動している時の振動伝達部分に設置される検出部を備えている。当該振動伝達部分は、当該ポンプの動作時における振動が伝達される任意の部分であってよく、当該ポンプの筐体であっても良い。但し、ダイヤフラムポンプであれば、送給動作するダイヤフラムの近傍又は当該ダイヤフラムを動作させる駆動部近傍に設置するのが望ましい。動作時の振動をより確実に取得する為である。
前記検出部は、本発明においては圧電素子を用いて形成する。かかる圧電素子は、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛等からなる圧電体を使用し、当該圧電体に加えられた力を電圧に変換する為に使用するものであり、圧電効果を利用した受動素子である。かかる圧電素子は、薄手の圧電素子と金属板を貼り合わせた構造のモノモルフ型、2枚の圧電素子を貼り合わせたバイモルフ型、多数の圧電素子を重ねて棒状にしたもので、厚み方向の変位を利用する積層型の何れであっても良い。
上記圧電素子からなる検出部を、ポンプ作動時における振動伝達部分に設置することにより、当該ポンプの動作部分の振動を圧電素子によって電気信号に変換することができる。この電気信号は、圧電素子が受ける振動について、周波数ごとの出力として取得できる。そして圧電素子からなる検出部により、ポンプ作動時の振動を周波数ごとの出力として取得することができ、これによりガスロック状態を検出することができる。
上記圧電素子から発生する電気信号は、検出回路に出力される。この検出回路では、検出部から取得した電気信号によってガスロック状態を判断することができる。具体的には、ガスロックが発生した時の振動で出力される電気信号(例えば特定の周波数における出力)を検知することで、ガスロックが発生していると判断する事ができる。特にダイヤフラム式の電磁定量ポンプの場合には、600Hz以上、800Hz以下の周波数、望ましくは約700Hzの周波数における出力が所定の値以上になった時にガスロックが発生していると検知する事ができる。
そしてこの検出回路は、当該ガスロックが発生している状態が、所定時間又は所定回数発生している場合に、動作異常信号を出力する動作異常信号出力手段を伴って構成する事ができる。例えば、ダイヤフラム10回動作し、10回連続してガスロック状態を検知した時に動作異常信号を出力するように構成する事もできる。即ち、ポンプヘッド内にガスが混入したとしても、ダイヤフラムの動作によって、これが排出されれば、ポンプはその後正常に動作する事ができる。そこで、このような正常動作を行う場合にまで、ガスロック信号を出力したのでは、実際の運用において支障が生じる。そこで、複数回ダイヤフラムが動作した場合であっても、ガスがポンプヘッド内から排出されない場合、即ち、複数回連続してガスロックを示す信号が出力される場合に限って、動作異常信号(ガスロック発生信号)を出力することが望ましい。このガスロックを示す信号を出力するまでのガスロックの検知信号の取得時間及び/又は取得回数は、使用するポンプの種類、送給量、用途等の各種状況に応じて適宜調整する事ができる。
かかる動作異常信号(ガスロック発生信号)を出力し、これをポンプの動作を管理する制御装置に出力すれば、例えば警報を発したり、ガスロックを解消できるようにポンプを動作させたり、或いは別途設けたガスロックを解消する機器を動作させることが出来る。これにより、ポンプのガスロックを解消し、円滑かつ安定した動作を実現する事ができる。
そして本発明では、上記ガスロック検出装置を使用したポンプを提供する事により、ガスロックの発生を迅速に確認する事の出来るポンプ装置を提供する。
即ち、前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、本発明ではガスロック検出装置を備えるポンプ装置であって、当該ガスロック検出装置は、上記本発明にかかるガスロック検出装置であり、前記ポンプはダイヤフラム式電磁定量ポンプであって、前記ガスロック検出装置の検出部は、ダイヤフラム式電磁定量ポンプにおけるポンプヘッドの近傍に設けられることを特徴とするポンプ装置を提供する。
ダイヤフラム式ポンプにおいては、ガスロックの発生による動作不良の問題が多く、本発明によるポンプ装置によれば、当該ガスロックの発生を迅速に検知し、対応する事ができる。そして、本発明にかかるガスロック検出装置は、ダイヤフラムの動作時に発生する音(即ち振動)の変化によってガスロックを検知するものである。よって、当該ガスロック検出装置における検出部を、当該ダイヤフラムの動作音が発生するポンプヘッド近傍に設置することにより、当該ガスロックによる動作不良をより正確に検出する事ができる。
そして上記本発明にかかるポンプ装置では、前記検出部は、前記ダイヤフラム式電磁定量ポンプの振動を直接、または空間や導体を通じて間接的に取得する事ができる。検出部は、少なくともダイヤフラム、又はこれを動作させる動力部の音(振動)を取得する事から、当該振動が直接伝わるように設置するのが望ましいが、当該振動を伝達する金属その他の剛体を介して取得するように設置しても良く、更に当該振動を音として取得するように構成する事もできる。但し、ポンプの動作時の振動を音として、空間を介して取得する場合には、周囲の雑音が混入する事の無いように設置する必要がある。また、当該音(振動)は、ガスロック時におけるダイヤフラムの動作音の違いを検出するものである事から、ダイヤフラム、又はこれを動作させる動力部の音を取得するように構成する。これにより、当該検出部を、ポンプ本体から離間させて設置する事もできる。
そして上記本発明にかかるポンプ装置は、その設置部に、動作時の振動を吸収するクッション部材を設けることが望ましい。即ち、当該ポンプ装置を架台その他の平坦な部分に設置する際には、ポンプ装置の設置面に、ゴムやスポンジ等の弾性材料からなるクッション部材を設けるのが望ましい。かかるクッション部材を設ける事により、当該ポンプ装置の作動音が、架台などの設置面で反響する事が無くなり、当該ポンプ装置におけるダイヤフラム、又はこれを動作させる動力部の音又は振動を正確に取得する事ができる。
なお、本発明にかかるガスロック検出装置は、ガスロック状態を検出するのに最適であるが、その他の動作異常、例えばポンプの故障等を検知する為の装置としても使用する事ができる。また液体を移送するポンプ以外の機器で動作異常などを検知するために使用することもでき、さらに検出部として圧電素子以外(望ましくは周波数ごとの出力を検知できるもの)の部材を使用することもできる。
そして本発明では、上記ガスロック検出装置でも実施可能な、液体移送ポンプにおけるガスロックの検出方法を提供する。
即ち、液体を移送するポンプにおけるガスロック状態を検知するガスロック検出方法であって、ポンプ作動時における振動伝達部分に、圧電素子からなる検出部を設置するとともに、当該検出部から取得した信号における周波数ごとの出力から、検出回路でガスロック状態を判断する事を特徴とする、ガスロック検出方法である。
上記本発明のガスロック検出装置は、液体を移送するポンプにおけるガスロック状態を検知する為のガスロック検出装置であって、ポンプ作動時における振動伝達部分に設置される検出部と、この検出部の信号を取得してガスロック状態を判断する検出回路とからなり、前記検出部は、圧電素子を用いて構成されており、前記検出回路は、検出部から取得した信号における周波数ごとの出力からガスロック状態を判断するように構成している。
かかるガスロック検出装置は、検出部はポンプ作動時における振動を検出する事から、吸込み口もしくは吐出口近傍に集音器などを設置する必要が無く簡易に設置する事ができる。また当該設置部周囲における機械の動作音や会話等による悪影響を受ける事は無い為、ガスロックの発生を正確に検知する事ができる。よって本発明により、周囲環境の影響を受ける事の無いガスロック検出装置及び此れを使用したポンプ装置が実現する。
また、この振動の検出には圧電素子を使用している事から、微細な振動であっても正確に取得する事ができる。この為、振動センサによって異常を検出する場合とは異なり、音として検知できるような振動の違いを正確に取得する事ができる。よって本発明によれば、薬液の送給等の様に流量が少ない場合であっても、ガスロック状態を正確に検知する事の出来るガスロック検出装置及び此れを使用したポンプ装置を提供する事ができる。
更に前記検出部は、流体の移送ラインに設置する事なく、ガスロック状態を検出する事ができる。よって圧力センサによって異常を検出する場合と異なり、移送ライン内に圧力センサを設置し、これが移送流体の抵抗になってしまうおそれを無くすことが出来る。よって定量ポンプにおける送給量を一定にし、信頼性の高いガスロック検出装置とすることができる。したがって本発明によれば、移送ラインに設置する事なく、ガスロック状態を正確に検知する事の出来るガスロック検出装置及び此れを使用したポンプ装置を提供する事ができる。
そして衛生状態が要求される医療施設や食品製造、又は販売施設などでは殺菌水として次亜塩素酸ナトリウム水溶液等を使用する場合であっても、当該次亜塩素酸ナトリウム水溶液等から発生するガスによるガスロックを迅速に検知する事ができる。よって本発明によれば、ガスロックが発生した場合には、ガスロックの発生を迅速に検知でき、更にガスロックが発生した場合には、薬液の無駄を生じさせることなく復旧できるようにしたポンプ装置を提供する事ができる。
以下、本実施の形態にかかるガスロック検出装置10と、これを設置したポンプ装置50を、図面を参照しながら説明する。本実施の形態にかかるガスロック検出装置10と、これを設置したポンプ装置50は、特に薬液を投入するのに適したダイヤフラム式電磁定量ポンプ40での具体例を示している。
図1は、市販されているダイヤフラム式電磁定量ポンプ40に、ガスロック検出装置10を設置したポンプ装置50を示す側面図である。このダイヤフラム式電磁定量ポンプ40は、薬液を送水する為の吸込口41と吐出口42を備えた送給ライン48と、送給ライン48で薬液を移送する為の動作部分(図示せず)とからなる。この動作部分は筐体43の内部に収容されており、電気式で往復運動するソレノイド機構と、このソレノイド機構によって往復動作するダイヤフラム44とを含んで構成されている。
ここで、ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40は、例えば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の薬液を送給する場合に用いられる。本実施形態において、一例として、薬液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液が用いられる場合、ポンプの最大吐出量が、30〜60mL/minであり、ダイヤフラムの有効径が、10〜15mmのポンプが用いられる。また、一例として、ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40に接続されるホースは内径と外径がそれぞれ4mmと9mmのものが好適に用いられる。このような、ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40により比較的小さい流量の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を送給するシステムを採用する場合には、移送ライン内に圧力センサ等の異物を配置せずにガスロック状態を検知可能であることが好ましい。このことにより、ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40は、流体の抵抗の上昇を抑制することが可能となる。
ガスロック検出装置10は、検出部11と、検出回路30を含んで構成される。図1(A)の実施形態では、ガスロック検出装置10を構成する検出部11を、当該ソレノイド機構が収容されている筐体43の外側に設置している。そして、この検出部11から出力される電気信号は、検出回路30に入力されている。その結果、当該ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の動作時の振動は、直接、ピエゾ素子からなる検出部11に伝わり、この振動によって検出部11では電気信号を生じさせ、これを検出回路30に出力する事ができる。ここで、当該ソレノイド機構は、図1(A)中の矢印が示す方向に往復動の駆動をする。筐体43は、当該ソレノイド機構の往複動の駆動に沿う方向に配置された4つの面と、該4つの面を繋ぐ2つの面からなる略直方体の形状からなる。ここで、該2つの面は、後述する送給ライン48が配置される面と、当該送給ライン48が配置される面と対向する面から構成される。
また図1(B)の実施形態は、前記ピエゾ素子からなる検出部11を、送給ライン48であって、前記ダイヤフラム44の近傍に設置している。図1(C)の実施の形態では、ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の筐体43における脚部46の側面に前記ピエゾ素子からなる検出部11を設置している。これらの位置に検出部11を設置した場合であっても、ダイヤフラム44の動作音(又は動作時の振動)、又はソレノイド機構など当該ダイヤフラム44を動作させる機構の動作音(又は動作時の振動)は、当該検出部11に直接入力される。ピエゾ素子からなる検出部11は、この動作音又は振動により、これに応じた電気信号を出力させることから、当該ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の動作音又は振動によってガスロック状態を検出する事ができる。
なお、ガスロック検出装置10における検出部11は、当該ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40における動作時の振動が伝わる場所であれば任意の場所に設置する事ができ、前記図1(A)(B)及び(C)に示した場所に制限されるものではない。但し、筐体43内に設置する場合には、当該ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の動作時における振動が相互に干渉しない場所、即ち閉じた空間以外である事が望ましい。動作時の振動が緩衝した場合には、ガスロック状態の正確な検出が困難になることが危惧される為である。
次に、図1のダイヤフラム式電磁定量ポンプ40に対する検出部11の配置と検出感度との関係について説明する。ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の動作音は、ソレノイド機構の動作の際に発生する。そのため、図1(B)のように、検出部11は、ダイヤフラム44に対して比較的近い位置に配置される場合に、動作音の検出感度を向上することができる。特に、ダイヤフラム44の動作音は、ソレノイドの駆動方向(往復動駆動の方向)と同じ向きに進行する波として発生する。そして、当該動作音に起因する波は、ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の筐体43に振動として伝わるとともに、空気中に放出される。そのため、図1(A)または(B)のように、ソレノイド機構の駆動方向から見て、筐体43と投影的に重なる領域に検出部11を配置することが好ましい。換言すると、検出部48が、筐体43における1つの面であって、送給ライン48が配置される面と該送給ライン48が配置される面と対向する面のうち少なくともいずれか一方の面に配置されている。当該配置により、検出部11は検出感度をより向上させることができる。この場合において、検出部11は、その一端が少なくとも筐体43に対して直接的或いは間接的に接触することでさらに検出感度を向上することができる。
ここで、図2を参照しながら、ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40におけるガスロック状態を説明する。即ち、図2(A)に示す様に、ダイヤフラム44が上死点(最前位置)にあるときにポンプヘッド45内に気泡Gが混入した場合、次にダイヤフラム44が後方に移動すると、図2(B)に示す様にポンプヘッド45内部に負圧が発生し、混入した気泡Gを広げる。そしてこの気泡Gの拡大と同時に発生する負圧を解消するために、吸込口41から薬液が吸引され、気泡Gの圧力と大きさは元に戻ることができる。しかし、次にダイヤフラム44が前方に移動したとしても気泡Gが圧縮されることになる。この時のポンプヘッド45の内圧が、吐出口42側の逆止弁47を押さえつけている力よりも小さければ、逆止弁47がポンプヘッド45のフタや栓として作用してしまい、ダイヤフラム44が前後に移動しても中の気泡Gは膨らんだり縮んだりするだけで、内部の気泡Gや液が排出できずにガスロック状態となる。したがって、このようなガスロックが発生した状態では、ポンプヘッド45内にガスが存在する事になり、これによって、当該ダイヤフラム44の動作時における音(振動)が、正常動作時と異なることになる。
そこで本実施の形態にかかるガスロック検出装置10では、この音として識別できる動作時の振動を前記検出部11によって電気信号に変換し、これを検出回路30に送る事で、ガスロック発生による動作異常を検出するものである。
図3に基づいて、このガスロック発生の検出原理を説明する。この図3は周波数ごとの出力を示しており、鎖線は正常な動作における各周波数ごとの出力であり、実線はガスロック状態における各周波数ごとの出力である。この2つを比較すれば、700Hz近傍における出力において、ガスロックが発生した時に、大幅に出力が上昇する事が確認できる。そこで本実施の形態では、この700Hz近傍における出力を監視し、30dB以上、望ましくは35dBの出力があった時にガスロックが発生したものと判断する事ができる。但し、この監視する周波数は使用するダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の種類や、ポンプヘッド45の大きさ、或いはソレノイドの種類に応じて任意に変更する事も可能である。よって、実施の場面では、設置したポンプについて正常動作時の周波数と出力、及びガスロック状態における周波数と出力を確認した上で、両者の際が最も多く出現する周波数において、その出力を監視すればよい。かかる動作時における振動の周波数ごとの出力に基づいたガスロックの判断は、前記検出回路30によって行う事ができる。なお、ガスロック状態の判定に用いる周波数は、上述の周波数の帯域に限られるわけでなく、電磁定量ポンプの大きさ、ソレノイドの往復運動のストローク、圧電素子の配置に応じて切り替えることが望ましい。
図4は本実施の形態にかかるガスロック検出装置10を示す回路図である。この図において、ピエゾ素子からなる検出部11はダイヤフラム式電磁定量ポンプ40に設置され、その動作振動に応じた電気信号(即ち、運転時パルス振動信号)を出力する。この検出部11から送られてくる電気信号(即ち、運転時パルス振動信号)は、検出回路30における増幅回路31によって、当該信号は増幅される。この増幅された信号は、帯域(周波数)をもっており、フィルタ回路32によって、必要な帯域のみを抽出する。抽出した帯域は、そのまま増幅されたトリガー回路33と、ある帯域がさらにガスロック発生時のみ大きく変化するレベル検知回路34とに分岐される。そして、このトリガー回路33とレベル検知回路34とは、夫々の演算回路でA/D変換され、これによりガスロックの発生を検知する。そして出力回路35から、このガスロックの発生を、他の制御手段に出力する事ができる。このガスロック発生信号を出力する回路は、警報を発する回路、ガスロックを解消する装置の制御回路、或いはダイヤフラム式電磁定量ポンプ40のポンプ動作を制御する回路であって良い。特にポンプ動作を制御する回路に出力する場合、当該回路はポンプを高速に動作させることにより、強制的にポンプヘッド45内のガスを排出するように動作することができる。
また、この検出回路30では、更に前記したガスロックの発生信号をカウントし、連続して所定時間又は所定回数検知した場合にのみ、ガスロックによる動作不良を示す信号を出力回路35から出力するように構成する事もできる。一例として、ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40によりダイヤフラムを10回動作させた場合に、検出回路30が、10回連続してガスロック状態を検知した場合に動作異常信号を出力するように構成する事もできる。これにより、ポンプヘッド45内に混入したガスが、通常動作において排出可能な場合には異常信号を出力する事なく、当該ポンプの動作が不適切な場合にのみ、動作不良の信号を出力可能なガスロック検出装置10及び此れを使用したポンプ装置50とする事ができる。
即ち、ポンプ装置50は、ポンプヘッド内にガスが混入したとしても、ダイヤフラムの動作によって、これが排出されれば、その後正常動作に復帰する事ができる。そこで、このような正常動作を行う場合にまで、動作異常信号としてガスロック信号を外部機器に出力すると、生産性が低下する恐れがある。そこで、トリガー回路33またはレベル検知回路34は、複数回ダイヤフラムが動作した場合であっても、ガスがポンプヘッド内から排出されない場合、即ち、複数回連続してガスロックを示す信号が出力される場合に限って、動作異常信号(ガスロック発生信号)を出力することが望ましい。
なお、このガスロックを示す信号を出力するまでのガスロックの検知信号の取得時間及び/又は取得回数は、使用するポンプの種類、送給量、用途等の各種状況に応じて適宜調整する事ができる。さらに、かかる動作異常信号(ガスロック発生信号)を出力し、これをポンプの動作を管理する制御装置に出力すれば、例えば警報を発したり、ガスロックを解消できるようにポンプを動作させたり、或いは別途設けたガスロックを解消する機器を動作させることが出来る。これにより、ポンプのガスロックを解消し、円滑かつ安定した動作を実現する事ができる。
次に、図5を用いて、本実施形態における検出装置10の動作を示すフローチャートを説明する。
S501において、検出部11は、ポンプの動作時の振動に応じた電気信号を取得し増幅回路31へ出力する。ここで検出部11が取得する信号は、図3に示すように所定の周波数帯域を有している。
S502において、増幅回路31は、検出部11から取得された電気信号を増幅する。増幅回路31が増幅した電気信号をフィルタ回路32へ出力する。
S503において、フィルタ回路32は、増幅回路31で増幅された電気信号に対してフィルタリング処理をする。フィルタ回路32は、フィルタリング処理をおこなった処理後の電気信号をレベル検知回路34に出力する。ここで、フィルタリング処理は、電気信号から検出部11が感度を有する所定の周波数帯域のみを抽出するバンドパスフィルタが用いられる。なお、当該フィルタリング処理は、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、またはこれらの組み合わせであってもよい。また、フィルタリング処理は、アナログ信号をそのままフィルタリングするものであってもよいし、デジタル化した信号に対してデジタルフィルタを行ってもよい。
S504において、レベル検知回路34は、当該処理後の電気信号としきい値とを比較する。ここで、しきい値は、例えば、周波数700Hzにおける電気信号の出力が30dBの値とする。レベル検知回路34は、当該処理後の電気信号の値がしきい値と同じかそれよりも大きい場合に、出力回路35に対してガスロック検知信号を出力する。レベル検知回路34は、当該処理後の電気信号の値がしきい値よりも小さい場合には、繰り返し同判定処理を繰り返す。
なお、ここで用いられるしきい値は、上記の例に限られるものではない。例えば、レベル検知回路34は、正常動作時の信号(図3中破線)とガスロック時の動作時の信号(図3中実線)との差に基づいてしきい値を設定してもよい。例えば、レベル検知回路34は、周波数700Hzの出力差が15dBと同じかそれよりも大きい場合に、出力回路35に対してガスロック検知信号を出力してもよい。この場合、レベル検知回路34は、あらかじめ正常時の出力信号を記憶しておいてもよい。また、レベル検知回路34が判定処理に用いる周波数は、単一の周波数(例えば、700Hz)または、複数の独立した周波数(例えば、700Hz、3kHz、10kHz)、または特定の帯域(例えば、500〜700Hz)を有するものやこれらの組み合わせにより判定してもよい。
S505において、出力回路35は、ガスロック検知回数を取得する。具体的には、出力回路35は、レベル検知回路34からガスロック検知信号が入力された回数をカウントする。出力回路35は、ガスロック検知回数が所定の回数と同じかそれよりも大きい場合に、動作不良を示す信号(動作不良信号)を外部機器に出力する(S506)。S506において、出力回路35は、ガスロック検知回数に応じて、外部機器に対して、ガスロック検知信号を出力するか、あるいは、動作不良を示す信号を出力するかを選択的に切り替えるように制御してもよい。例えば、出力回路35は、ガスロック検知信号を1回でも取得する外部機器に対してガスロック信号を出力する。例えば、外部機器としてポンプ装置50が設定された場合に、ポンプ装置50は、出力回路35からガスロック信号を取得すること、あるいは当該信号の取得回数に応じてソレノイドの駆動速度を切り替えてもよい。また、ポンプ装置50が、正常動作、ガスロック状態、動作不良状態のいずれの状態であるか否かをユーザに対して識別可能な態様で報知してもよい。
なお、上記の実施の形態に関連し、前記ダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の設置部となる脚部46の下面には、緩衝材(例えば、ゴムからなるクッション)を設ける事もできる。これにより、当該ポンプの動作時の振動が干渉する事なくなり、検出部11は正確に動作時の振動を取得する事ができる。本実施形態におけるポンプ装置は、その設置部に、動作時の振動を吸収するクッション部材を設けることが望ましい。即ち、当該ポンプ装置を架台その他の平坦な部分に設置する際には、ポンプ装置の設置面に、ゴムやスポンジ等の弾性材料からなるクッション部材を設けるのが望ましい。かかるクッション部材を設ける事により、当該ポンプ装置の作動音が、架台などの設置面で反響する事が無くなり、当該ポンプ装置におけるダイヤフラム、又はこれを動作させる動力部の音又は振動を正確に取得する事ができる。
また、上記の実施の形態では、検出部11をダイヤフラム式電磁定量ポンプ40の筐体43や送給ライン48に設置しているが、これらから僅かに離間させて設置しても良い。この場合には、当該検出部11を構成するピエゾ素子は、空気を伝達媒体として、ポンプの動作時の振動を取得する事ができる。
上記図面に示したガスロック検出装置10及び此れを用いたポンプ装置50は、1つの実施の形態を示したものである事から、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更する事ができる。特に、ガスロック検出装置10における検出部11の設置場所、及びガスロック状態を検出する為の周波数は、使用の場面において適宜変更する事が可能である。また送給する液体も次亜塩素酸ナトリウム水溶液に限ることなく、ポリ塩化アルミニウム水溶液、塩酸などの各種薬液を送給する為のポンプとして、特に望ましくは一定量を送給する定量ポンプとして好適に使用する事ができる。
以上、本実施形態におけるガスロック検出装置は、ガスロック時におけるポンプの動作音の違いを振動として取得することにより、ガスロック状態を検知するものである。
なお、上記ポンプは往復動式ポンプや回転式ポンプなど様々なポンプが使用であるが、少なくとも、ガスロック時において動作音が変化する必要がある。例えばダイヤフラムポンプにおいては、ダイヤフラムが動作するポンプヘッド内にガスが混入した場合には、当該ダイヤフラムの動作音が大幅に変化する事から、本実施形態の構成を好適に使用する事ができる。また、当該ダイヤフラムポンプは、前記した殺菌水などの薬液を一定量ずつ送給する定量ポンプとして使用されており、当該薬液はガスが発生しやすい事を鑑みれば、特に次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の薬液を送給するダイヤフラム式電磁定量ポンプで使用した場合に望ましい効果が得られる。同様に、上下水道、工業用水、産業廃水等の凝集剤として用いられるポリ塩化アルミニウム、及び次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHを調整する為の塩酸を供給する場合にも有効である。
さらに、上述した振動伝達部分は、当該ポンプの動作時における振動が伝達される任意の部分であってよく、当該ポンプの筐体であっても良い。但し、ダイヤフラムポンプであれば、送給動作するダイヤフラムの近傍又は当該ダイヤフラムを動作させる駆動部近傍に設置するのが望ましい。動作時の振動をより確実に取得する為である。
そして、ポンプ装置において、検出部は、ダイヤフラム式電磁定量ポンプの振動を直接、または空間や導体を通じて間接的に取得する事ができる。検出部は、少なくともダイヤフラム、又はこれを動作させる動力部の音(振動)を取得する事から、当該振動が直接伝わるように設置するのが望ましいが、振動を伝達する金属その他の剛体を介して取得するように設置しても良く、更に当該振動を音として取得するように構成する事もできる。但し、ポンプの動作時の振動を音として、空間を介して取得する場合には、周囲の雑音が混入する事の無いように設置する必要がある。また、当該音(振動)は、ガスロック時におけるダイヤフラムの動作音の違いを検出するものである事から、ダイヤフラム、又はこれを動作させる動力部の音を取得するように構成する。これにより、当該検出部を、ポンプ本体から離間させて設置する事もできる。
さらに、検出部は、流体の移送ラインに設置する事なく、ガスロック状態を検出する事ができる。よって圧力センサによって異常を検出する場合と異なり、移送ライン内に圧力センサを設置し、これが移送流体の抵抗になってしまうおそれを無くすことが出来る。よって定量ポンプにおける送給量を一定にし、信頼性の高いガスロック検出装置とすることができる。したがって本実施形態によれば、移送ラインに設置する事なく、ガスロック状態を正確に検知する事の出来るガスロック検出装置及び此れを使用したポンプ装置を提供する事ができる。
さらに、上述した検出部は、圧電素子を用いて形成する。かかる圧電素子は、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛等からなる圧電体を使用し、当該圧電体に加えられた力を電圧に変換する為に使用するものであり、圧電効果を利用した受動素子である。かかる圧電素子は、薄手の圧電素子と金属板を貼り合わせた構造のモノモルフ型、2枚の圧電素子を貼り合わせたバイモルフ型、多数の圧電素子を重ねて棒状にしたもので、厚み方向の変位を利用する積層型の何れであっても良い。
さらに、上述した圧電素子からなる検出部を、ポンプ作動時における振動伝達部分に設置することにより、当該ポンプの動作部分の振動を圧電素子によって電気信号に変換することができる。この電気信号は、圧電素子が受ける振動について、周波数ごとの出力として取得できる。
このように、振動の検出には圧電素子を使用している事から、微細な振動であっても正確に取得する事ができる。この為、振動センサによって異常を検出する場合とは異なり、音として検知できるような振動の違いを正確に取得する事ができる。よって本発明によれば、薬液の送給等の様に流量が少ない場合であっても、ガスロック状態を正確に検知する事の出来るガスロック検出装置及び此れを使用したポンプ装置を提供する事ができる。
さらに、上記圧電素子から発生する電気信号は、検出回路に出力される。この検出回路では、検出部から取得した電気信号によってガスロック状態を判断することができる。具体的には、ガスロックが発生した時の振動で出力される電気信号を検知することで、ガスロックが発生していると判断する事ができる。特にダイヤフラム式の電磁定量ポンプの場合には、600Hz以上、800Hz以下の周波数、望ましくは約700Hzの周波数における出力が所定の値以上になった時にガスロックが発生していると検知する事ができる。
このため、かかるガスロック検出装置は、検出部はポンプ作動時における振動を検出する事から、吸込み口もしくは吐出口近傍に集音器などを設置する必要が無く簡易に設置する事ができる。また当該設置部周囲における機械の動作音や会話等による影響を受ける事を抑制でき、ガスロックの発生の検知精度を向上する事ができる。よって本実施形態のガスロック検出装置により、周囲環境の影響を受けにくいガスロック検出装置及び此れを使用したポンプ装置が実現する。
なお、本実施形態にかかるガスロック検出装置は、ガスロック状態を検出するのに最適であるが、その他の動作異常、例えばポンプの故障等を検知する為の装置としても使用する事ができる。
そして衛生状態が要求される医療施設や食品製造、又は販売施設などでは殺菌水として次亜塩素酸ナトリウム水溶液等を使用する場合であっても、当該次亜塩素酸ナトリウム水溶液等から発生するガスによるガスロックを迅速に検知する事ができる。よって本発明によれば、ガスロックが発生した場合には、ガスロックの発生を迅速に検知でき、更にガスロックが発生した場合には、薬液の無駄を生じさせることなく復旧できるようにしたポンプ装置を提供する事ができる。
以上、実施形態に基づいて詳述してきたが、これらの特定の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明の範疇に含まれる。さらに、上述した実施形態は一実施の形態を示すものにすぎず、上述した実施形態から容易に想像可能な発明も本発明の範疇に含まれる。