JP6613591B2 - 超音波衝撃処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、溶接部を有する鋼構造物、例えば、自動車、家電・重電分野などの部品等に利用される鋼構造物において溶接止端部の疲労強度を向上させる技術に関し、特に、疲労特性を向上するための超音波衝撃処理に関する。
溶接部を有する鋼構造物の溶接止端部に繰返し荷重が作用すると、疲労き裂が発生して破壊に至ることがある。このような溶接止端部の疲労破壊が問題となっている。
従来から溶接止端部の疲労特性を向上させる方法の一つとして、グラインダーをかけて溶接部を平滑化することにより溶接部における応力集中を低減する手法が、例えば、特許文献1に開示されている。
また、溶接部等の疲労強度向上を目的とした超音波衝撃処理(以下、UIT処理ともいう)が近年開発された。
例えば、超音波衝撃処理を溶接部および機械加工穴に適用することにより疲労強度を向上させる方法が特許文献2に開示されている。また、突合せ溶接継手の溶接止端部近傍を超音波打撃処理することにより突合せ溶接継手の疲労強度を向上する方法が、本発明者らによる特許文献3に開示されている。また、超音波衝撃処理を止端部から離して適用することにより疲労強度を向上させる方法が特許文献4に開示されている。
超音波衝撃処理とは、超音波発生機から発生した数十kHzの超音波振動をピン等の工具を介して対象物に押し当てて、塑性変形により表面形状を改善しつつ、同時に表面近傍の残留応力の改善を行う処理である。
これにより、表面形状の改善による溶接構造物における応力集中を低減しつつ、同時に溶接部表面近傍の残留応力の改善によるダブル効果で疲労強度は大きく向上した。ところで、超音波衝撃処理によって、表面形状の改善による応力集中の低減と表面近傍の残留応力改善の他に、表面加工硬化が起こる。しかし、従来、この表面加工硬化の疲労強度向上への寄与が十分に得られていなかった。
超音波衝撃装置より溶接止端部に超音波衝撃を与えた場合に、止端部の金属がピンの衝撃により塑性流動し、断面でみると折れこみ疵が生じていることがある。この折れこみ疵を発生させないために、ピンの先端部の曲率半径を2.0mm未満とする溶接止端部の超音波衝撃処理方法が、特許文献5に開示されている。
特許文献6には、フランジガセット端部の溶接部のフランジ側止端の形状を改善する目的で、亀裂がある場合にグラインダーで亀裂を消した後に、超音波衝撃処理を実施する桁構造の疲労補強工法が開示されている。しかし、グラインダー処理部の曲率半径や超音波衝撃を施すピンの先端部の曲率半径についての記載は無い。
特開2010−29897号公報 米国特許第6338765号 特開2010−142870号公報 特開2012−11462号公報 特開2007−283355号公報 特開2004−167516号公報
しかしながら、上記説明した特許文献1〜4に記載の技術による表面加工硬化や疲労強度の向上には更なる改良の余地があった。そこで、例えば特許文献5に開示された技術によれば、疲労特性の向上に一定の効果がみられた。しかし、より大きな応力が繰返し作用する条件においては、その効果は十分ではなかった。
また、特許文献6に記載の技術ではフランジガセットを有する構造についての効果は確認できるものの、溶接部を有する一般的な構造物についての効果は確認されていない。
このような事情に鑑み、本発明は、溶接止端部の超音波衝撃処理における表面加工硬化による表面強度の向上を疲労強度向上に結びつけることにより、より大きな応力が繰返し作用する条件においても溶接止端部の疲労特性を向上させることを目的とする。
上記の課題を解決するため、本発明者らは、超音波衝撃処理を行うことにより、表面加工硬化により表面強度が向上しているものの、その効果が疲労強度の向上に結び付いていない原因を鋭意検討した。そのため、表面近傍の深さ方向の硬度分布および組織観察を行い、次のようなことを突き止めた。
すなわち、溶接止端部UIT処理によって溶接金属および母材に生じた塑性流動により、元の溶接止端部の谷線からUIT処理部表面までの領域に、疲労強度に悪影響しない程度の微小なおれ込み傷が存在していることが観察された。そして、その傷が原因で、最表層のUIT処理により加工硬化した領域よりも内部から疲労き裂が発生していることがわかった。この観察結果から、UIT処理を行うと、表面加工硬化により表面強度が向上しているものの、その強度向上効果が疲労強度の向上に結び付いていないとの結論に至ったのである。
本発明者らは上記知見に基づいて、UIT処理部表面に微小なおれ込み傷を発生させず、表面加工硬化を疲労強度向上に結びつける方法について、鋭意検討した。その結果なされた本発明は、以下の通りである。
(1)溶接部を有する鋼構造物の溶接止端部の疲労強度を、超音波衝撃を用いて向上させる超音波衝撃処理方法であって、前記鋼構造物の溶接止端部をグラインダー処理することによって溶接止端部の曲率半径を広げる工程と、前記グラインダー処理後において前記溶接止端部直上の鋼材の表面を、先端部の曲率半径が1mmより大きく、かつ前記グラインダー処理した溶接止端部の曲率半径r[mm]未満であるピンで超音波衝撃処理を施し、前記溶接止端部に沿った方向に加工帯を形成する工程、とを有する超音波衝撃処理方法(但し、前記グラインダー処理した溶接止端部のフランク角が100°より大きい場合を除く)
(2)前記超音波衝撃処理を施すピンの先端部の曲率半径が、0.7×r[mm]以上であることを特徴とする、(1)に記載の超音波衝撃処理方法。

本発明によれば、溶接部を有する鋼構造物、特に非常に大きな溶接部を有する実鋼構造物において、溶接止端部に超音波衝撃処理を行う方法において、これまでに実現していた表面形状の改善による溶接構造物における応力集中の低減と、溶接部表面近傍の残留応力の改善のダブル効果に加え、表面加工硬化を合わせたトリプル効果により、溶接止端部の疲労特性をさらに大きく向上させることができる。
特に、溶接止端部に対する超音波衝撃処理による表面加工硬化を疲労強度向上に効率的に結びつけることが可能となり、従来に比べ信頼性の向上した鋼構造物を実現することが可能となる。
従来のUITにおいて、溶接止端部の曲率半径よりも大きい曲率半径のピンで溶接止端部を超音波処理することにより、溶接ままでのもとの溶接止端部からUIT処理後の表層までの領域に、微小なおれ込み傷が生成するメカニズムを示す模式図である。 従来のUITにおいて、溶接止端部の曲率半径よりも大きい曲率半径のピンで溶接止端部を超音波処理することにより、溶接ままでのもとの溶接止端部からUIT処理後の表層までの領域に、微小なおれ込み傷が生成した場合の、溶接止端部周辺の断面を示す図である。 本発明のUITにおいて、UIT処理前の曲率半径よりも小さい曲率半径のピンで溶接止端部を超音波処理することにより、溶接ままでのもとの溶接止端部からUIT処理後の表層までの領域に、微小なおれ込み傷がしなかった場合の、溶接止端部周辺の断面を示す図である。 試験No3〜5(本発明3、4、比較例1)に関して、ピン先端の曲率半径と繰返し寿命回数Nとの関係を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
本発明者らは、従来の超音波衝撃処理によれば、表面形状の改善による溶接構造物における応力集中を低減しつつ、同時に溶接部表面近傍の残留応力の改善によるダブル効果で疲労強度は大きく向上しており、また、表面加工硬化により表面強度が向上しているものの、この表面加工硬化の疲労強度への向上効果が十分に得られていない理由について鋭意検討した。以下、本検討について説明する。
ここでは、板厚16mmの溶接用圧延鋼板SM490(降伏強度YP=345MPa、引張強さ=531MPa)を供試材とし、これらの鋼板を溶接した十字溶接継手について溶接止端部への超音波衝撃処理の有りの試験体と無しの試験体をそれぞれ用意し、それぞれの試験体について溶接止端部に繰返し作用する荷重を掛けて疲労試験を行った。溶接継手の疲労特性は、試験体が破断するまで加えた荷重の繰り返し回数を判定することにより実施した。また、500万回を超えても破断しない場合は試験を中断した。また、破断した試料については断面を詳細に調査し、疲労き裂の発生深さを詳細に調査した。
疲労き裂の発生箇所の深さと表面からの硬度分布の関係を調査した。その結果、超音波処理有の試料においては無しの試料に比べて、き裂の発生箇所の表面からの深さはより深いところから発生していること、またそのき裂の発生箇所の硬度は超音波処理前の溶接後の硬度と同じであることを見出した。このように、溶接止端部への超音波処理により、き裂の発生箇所は溶接ままの場合に比べ深い位置にシフトし、その位置は超音波衝撃処理により、表面加工硬化により表面強度が向上している領域よりもより深い位置であるため、この表面加工硬化の疲労強度への向上効果が得られていない理由であるとの結論に達した。
そこで、本発明者らは、超音波処理を行っても、疲労き裂が発生する箇所が深くならないようにする方法について実験を行って検討した。以下、その方法について説明する。
まず、超音波処理した場合に、疲労き裂が発生する箇所が深くなるメカニズムについて検討した。溶接止端部の曲率半径よりも大きい曲率半径のピンで溶接止端部を超音波処理した場合、図1に示すように、超音波処理の初期には、母材1と溶接金属2と超音波処理するピン(PIN)の間に空間3が存在する。この場合、この空間に、母材溶接止端部UIT処理によって母材1および溶接金属2のそれぞれに図1に示す方向(図中矢印参照)に生じる塑性流動により、溶接ままでの溶接止端部(元の溶接止端部)4の谷線からUIT処理部後の溶接止端部表面までの領域に、疲労強度に悪影響しない程度の微小なおれ込み傷が発生し、その傷の存在により、最表層のUIT処理により加工硬化した領域よりも内部から疲労き裂が発生していることが、疲労き裂が発生する箇所が深くなる原因と推定した。
溶接止端部の曲率半径よりも大きい曲率半径のピンで溶接止端部を超音波処理した場合について、元の溶接止端部周辺について断面を切りだし、組織観察した結果を図2に示す。図2によれば、溶接止端部表面から150μm程度の深さまでの領域に、微小なおれ込み傷が発生していることがわかる。これは、図1の右図に模式的に示したものに対応する。
そこで、超音波処理の初期には、母材1と溶接金属2と超音波処理するピンの間に空間3が存在しないようにする超音波処理法について検討した。空間3が存在しないためには、超音波処理する時点で、処理部の溶接止端部の曲率半径よりも小さい曲率半径のピンで超音波処理する必要がある。
しかし、溶接ままの溶接止端部の曲率半径は通常、非常に小さく、それよりも小さい曲率半径のピンで超音波処理した場合には、処理した溶接止端部の応力集中係数がより大きくなってしまうため、疲労寿命向上には形状の効果の観点からは最良ではない。そこで、溶接ままの溶接止端部を一旦グラインダー処理(研削処理)にて曲率半径を大きくした後に、グラインダー処理後の曲率半径よりも小さな曲率半径のピンで超音波処理し、超音波処理の初期には、母材1と溶接金属2と超音波処理するピンの間に空間3が存在しない状況で超音波処理を施すことを検討した。
グラインダー処理を実施し、グラインダー処理部の曲率半径をレーザー変位計で計測し、曲率半径を実測後、この曲率半径よりも小さい曲率半径のピンで溶接止端部を超音波処理した場合について、元の溶接止端部周辺について断面を切りだし、組織観察した結果を図3に示す。図3によれば、溶接ままでの溶接止端部(元の溶接止端部)4の谷線からUIT処理部後の溶接止端部表面までの領域に、疲労強度に悪影響しない程度の微小なおれ込み傷が発生していないことがわかる。
以上のような知見に基づき、溶接後、溶接止端部をグラインダー処理した後、グラインダー処理した溶接止端部の曲率半径r[mm]を計測した後、さらにグラインダー処理した溶接止端部直上に超音波処理を施すことにより、これまでに実現していた表面形状の改善による溶接構造物における応力集中を低減しつつ、同時に溶接部表面近傍の残留応力の改善によるダブル効果に加え、表面加工硬化を合わせたトリプル効果により、溶接止端部の疲労特性をさらに大きく向上させることができることを見出した。
ここで、超音波処理を施すためのピンの先端部の曲率半径は、1mmより大きくr[mm]未満であることが好ましい。ピンの先端部の曲率半径が、1mm以下となると、処理した溶接止端部の応力集中係数が大きくなり、疲労特性が、従来の表面形状の改善効果と表面近傍の残留応力の改善のダブル効果のみの場合と同程度がそれ以下に低下してしまう。また、ピンの先端部の曲率半径が、r[mm]以上であると、図2に示したようにおれ込み傷が発生し、表面加工硬化を合わせたトリプル効果が得られなくなる。
さらに、グラインダー処理した溶接止端部の曲率半径をr[mm]とし、0.7×r[mm]以上r[mm]未満の曲率半径の先端部を有すピンで超音波処理することにより、特に顕著な疲労特性向上効果を得ることができる。ピンの先端部の曲率半径を0.7×r[mm]以上とすると、処理した溶接継手の疲労特性において、疲労試験での疲労寿命が500万回を超えることが確認されているからである。なお、この疲労試験については、後述する実施例において詳細に説明する。
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
(実施例1)
十字溶接継手を下記鋼材にて作製し、各種条件での同継手材の疲労試験による寿命評価を行い、本発明の効果を検証した。
鋼材として、50k鋼(SM490、降伏強度YP=345MPa、引張強さTS=531MPa)を用い、板厚16mm×幅100mm×長さ700mmの板の中央両面に、同材からなる板厚16mm×幅100mm×高さ40mmの縦板を荷重非伝達十字継手形状に配置し、SMAW:被覆アーク溶接(50k鋼用溶材JIS
Z 3211 D4316)もしくはFCAW:フラックス入りアーク溶接(50k鋼用JIS Z 3313 YFW−C50DR)、シールドガス:炭酸ガス、予熱なし、入熱15〜20kJ/cmの条件にて脚長7mmにて隅肉溶接し十字溶接継手を作製し、供試体とした。
溶接後の供試体について、7体に対し溶接止端部をグラインダー処理(先端曲率半径5mmのバーグラインダーを使用、母材の削り込み深さ0.5mm以内を目安に処理)した。
このうちの6体に対して、溶接後溶接止端部をグラインダー処理した後、グラインダー処理した溶接止端部の曲率半径をレーザー変位計で計測した。
さらにグラインダー処理した溶接止端部直上に超音波処理を施した。超音波処理の方法は、共振周波数27kHz、振幅30μm、ピン直径φ5mm、ピン先端曲率半径1.0mm、1.5mm、2.0mm、3.0mm、4.0mm、5.0mm、処理速度は30cm/分とした。
溶接ままの供試体1体に対して、溶接止端部直上に超音波衝撃処理を施した。処理条件は、共振周波数27kHz、振幅30μm、ピン直径φ5mm、ピン先端曲率半径3.0mm、処理速度は30cm/分とした。溶接止端部の谷線が処理溝の形成により完全に消えていることを確認した。
溶接ままの供試体1体と、溶接ままの供試体に溶接止端部直上を超音波衝撃処理を行った供試体2体、溶接後溶接止端部直上をグラインダー処理のみ行った供試体1体、溶接後溶接止端部直上をグラインダー処理した後、さらにグラインダー処理した溶接止端部直上を超音波処理した供試体6体、合計10の供試体に対して疲労試験を行った。疲労試験は、軸力の引張−引張の試験とし、応力範囲ΔS=220MPa、応力比R=0.1、周波数10Hzの条件にて試験体が破断するまでの繰返し寿命回数Nを評価した。
疲労試験体作製条件、疲労試験において試験体が破断するまでの繰返し寿命回数Nを表1に示す。なお、各供試体(試験体)をNo1〜10とし、以下のような条件にて処理を行った。
試験No1〜4(本発明1〜4)では、溶接後、溶接止端部をグラインダー処理した後に、グラインダー処理した溶接止端部の曲率半径を計測した後、グラインダー処理した溶接止端部直上にピン先端曲率半径が、4、3、2、1.5mmのピンを用いて超音波処理した。
試験No5〜6(比較例1、2)では、溶接後、溶接止端部をグラインダー処理した後、ピン先端曲率半径がそれぞれ、1および5mmのピンを用いて超音波処理した。
試験No7(比較例3)では、溶接後、グラインダー処理なしで、溶接止端部直上を、ピン先端曲率半径が3mmのピンで超音波衝撃処理をした。
試験No8(比較例4)では、溶接後、グラインダー処理なしで、溶接止端部直上を、ピン先端曲率半径が1mmのピンで超音波衝撃処理をした。
試験No9(比較例5)では、溶接後、溶接止端部をグラインダー処理のみ施した。
試験No10(比較例6)では、溶接ままの試験体を疲労試験した。
表1に示すように、溶接ままの試験No10(比較例6)では繰返し寿命回数Nが93289回であるのに対し、グラインダー処理のみを施した試験No9(比較例5)では、繰返し寿命回数Nが236321回とグラインダー処理により疲労寿命が向上していることがわかる。これはグラインダー処理により溶接止端部の曲率半径が溶接ままに比べ大きくなり、応力集中を低減したことによると考えられる。さらに、グラインダー処理なしで、溶接止端部直上を超音波処理した試験No7(比較例3)および試験No8(比較例4)では、繰返し寿命回数Nがそれぞれ、2304956回、1459302回と疲労寿命はグラインダー処理のみの場合よりも向上していることがわかる。これは、超音波処理により、表面形状の改善による溶接止端部の応力集中を低減しつつ、同時に溶接止端部の残留応力を改善したことによると考えられる。しかし、本発明の表面加工硬化による効果は得られていない。尚、ピン先端の曲率半径が大きい試験No7の方が、疲労寿命が良好であるのは、形状効果が試験No7の方が大きいからであると考えられる。
試験No1〜6は、超音波処理前のグラインダー処理の有無、および超音波処理するときのピン先端の曲率半径以外の試験条件が試験No7と同一である。グラインダー処理をせず、溶接止端部直上を超音波衝撃処理した試験No7(比較例3)の繰返し寿命Nが2304956回に対し、試験No1〜4(本発明1〜4)は、Nがそれぞれ、500万回未破断、500万回未破断,4150096回、3326434回であり、溶接後そのまま溶接止端部直上を超音波衝撃処理した試験No7(比較例3)および試験No8(比較例4)と比べ、疲労寿命が大きく向上していることが分かる。これは、表面形状の改善による溶接構造物における応力集中を低減しつつ、同時に溶接部表面近傍の残留応力の改善に加え、表面加工硬化を合わせたトリプル効果により、溶接止端部の疲労特性をさらに大きく向上したことによると考えられる。
また、図4は、これら供試体のうち試験No3〜5(本発明3、4、比較例1)に関して、ピン先端の曲率半径と繰返し寿命回数Nとの関係を示すグラフである。図4に示すように、溶接止端部の曲率半径r[mm]未満の範囲においては、ピン先端の曲率半径が大きくなる程、繰返し寿命回数Nも大きい値となっていることが分かる。この結果から、ピンの曲率半径は例えば1mm超であることが好ましいことが分かる。
試験No5(比較例1)は、グラインダー処理した後に、超音波処理したものであるが、超音波処理するときのピン先端の曲率半径が小さすぎて、超音波処理後の溶接止端部の形状の改善効果が十分でないため、十分な疲労寿命が得られていない。
試験No6(比較例2)は、グラインダー処理した後に、超音波処理したものであるが、超音波処理するときのピン先端の曲率半径がグラインダー処理後の溶接止端部よりも大きいことにより、十分な疲労寿命が得られていない。
(実施例2)
十字溶接継手を下記鋼材にて作製し、各種条件での同継手材の疲労試験による寿命評価を行い、本発明の効果を検証した。
鋼材として、50k鋼(SM490、降伏強度YP=345MPa、引張強さTS=531MPa)を用い、板厚16mm×幅100mm×長さ700mmの板の中央両面に、同材からなる板厚16mm×幅100mm×高さ40mmの縦板を荷重非伝達十字継手形状に配置し、SMAW:被覆アーク溶接(50k鋼用溶材JIS
Z 3211 D4316)もしくはFCAW:フラックス入りアーク溶接(50k鋼用JIS Z 3313 YFW−C50DR)、シールドガス:炭酸ガス、予熱なし、入熱15〜20kJ/cmの条件にて脚長7mmにて隅肉溶接し十字溶接継手を作製し、供試体とした。
溶接後の供試体について、4体に対し溶接止端部をグラインダー処理(先端曲率半径3mmのバーグラインダーを使用、母材の削り込み深さ0.3mm程度を目安に処理)した。
上記グラインダー処理した4体に対し、溶接後溶接止端部をグラインダー処理した後、グラインダー処理した溶接止端部の曲率半径をレーザー変位計で計測した。
さらにグラインダー処理した溶接止端部直上に超音波処理を施した。超音波処理の方法は、共振周波数27kHz、振幅30μm、ピン直径φ5mm、ピン先端曲率半径1.0mm、2.0mm、3.0mm、4.0mm、処理速度は30cm/分とした。
溶接後溶接止端部直上をグラインダー処理した後、さらにグラインダー処理した溶接止端部直上を超音波処理した供試体4体の供試体に対して疲労試験を行った。疲労試験は、軸力の引張−引張の試験とし、応力範囲ΔS=220MPa、応力比R=0.1、周波数10Hzの条件にて試験体が破断するまでの繰返し寿命回数Nを評価した。
疲労試験体作製条件、疲労試験において試験体が破断するまでの繰返し寿命回数Nを表2に示す。なお、各供試体(試験体)をNo11〜14とし、以下のような条件にて処理を行った。
試験No11〜14では、溶接後、溶接止端部をグラインダー処理した後に、グラインダー処理した溶接止端部の曲率半径を計測した後、グラインダー処理した溶接止端部直上にピン先端曲率半径が、4、3、2、1mmのピンを用いて超音波処理した。
試験No11〜14は、超音波処理前のグラインダー処理の有無、および超音波処理するときのピン先端の曲率半径以外の試験条件が試験No7と同一である。グラインダー処理をせず、溶接止端部直上を超音波衝撃処理した試験No7(比較例3)の繰返し寿命Nが2304956回に対し、試験No11、12(本発明5、6)は、Nがそれぞれ、500万回未破断、3901090回,であり、溶接後そのまま溶接止端部直上を超音波衝撃処理した試験No7(比較例3)および試験No8(比較例4)と比べ、疲労寿命が大きく向上していることが分かる。これは、表面形状の改善による溶接構造物における応力集中を低減しつつ、同時に溶接部表面近傍の残留応力の改善に加え、表面加工硬化を合わせたトリプル効果により、溶接止端部の疲労特性をさらに大きく向上したことによると考えられる。
試験No13(比較例7)は、グラインダー処理した後に、超音波処理したものであるが、超音波処理するときのピン先端の曲率半径が小さすぎて、超音波処理後の溶接止端部の形状の改善効果が十分でないため、十分な疲労寿命が得られていない。
試験No14(比較例8)は、グラインダー処理した後に、超音波処理したものであるが、超音波処理するときのピン先端の曲率半径がグラインダー処理後の溶接止端部よりも大きいことにより、十分な疲労寿命が得られていない。
以上説明した実施例の結果から、試験No1〜4、11、12(本発明1〜6)においては、疲労寿命が大きく向上しているのに対し、試験No5〜10、13、14においては、疲労寿命が十分に得られていないことが分かる。即ち、表面形状の改善による溶接構造物における応力集中を低減しつつ、同時に溶接部表面近傍の残留応力の改善に加え、表面加工硬化を合わせたトリプル効果により、従来に比べ疲労寿命が大きく向上した溶接部を有する鋼構造物が実現されることが分かる。
本発明は、溶接部を有する鋼構造物、例えば、自動車、家電・重電分野などの部品等に利用される鋼構造物において溶接止端部の疲労強度を向上させる技術に適用され、特に、疲労特性を向上するための超音波衝撃処理に有用である。
1…鋼板(母材)
2…溶接金属(溶接ビード)
3…溶接止端部の曲率半径よりも大きい曲率半径のピンで溶接止端部を超音波処理する場合に生じる空間(隙間)
4…溶接ままでの溶接止端部

Claims (2)

  1. 溶接部を有する鋼構造物の溶接止端部の疲労強度を、超音波衝撃を用いて向上させる超音波衝撃処理方法であって、
    前記鋼構造物の溶接止端部をグラインダー処理することによって溶接止端部の曲率半径を広げる工程と、
    前記グラインダー処理後において前記溶接止端部直上の鋼材の表面を、先端部の曲率半径が1mmより大きく、かつ前記グラインダー処理した溶接止端部の曲率半径r[mm]未満であるピンで超音波衝撃処理を施し、前記溶接止端部に沿った方向に加工帯を形成する工程、とを有する超音波衝撃処理方法(但し、前記グラインダー処理した溶接止端部のフランク角が100°より大きい場合を除く)。
  2. 前記超音波衝撃処理を施すピンの先端部の曲率半径が、0.7×r[mm]以上であることを特徴とする、請求項1に記載の超音波衝撃処理方法。
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