JP5454658B2 - ロングレールの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ロングレール及びその製造方法に関する。特に本発明は、従来と比較して疲労強度が向上したロングレール及びその製造方法に関する。
レールの中で最も損傷の起こりやすく、保守コストがかかる部分はレールの継目部である。また継目部は列車通過時に生じる騒音・振動の主要な発生源となる。旅客鉄道の高速化や貨物鉄道の高積載化が国内外で進められているため、上記問題点を有するレール継目を溶接によって連続化してロングレールする技術が一般化している。
主なレールの溶接方法の一つに、エンクローズアーク溶接(例えば特許文献1参照)がある。エンクローズアーク溶接は作業者がレールをマニュアルでアーク溶接する方法であり、機動性が高いため、軌道現地での溶接方法として多用されている。エンクローズアーク溶接によって形成されるビードは溶接後に研磨除去される。
一方、列車の通過の際にレールには曲げ荷重が加わり、レール底部には引張応力が生じる。この応力は車輪の通過ごとに発生するため、レールには高い疲労強度が必要となる。レールの溶接部は断面形状や材質の変化が生じる為、他の部分と比較して疲労強度が低下する場合が多い。レールの溶接部の疲労強度を向上させる技術としては、例えば特許文献2のようにショットピーニングを用いる方法やハンマーピーニング、グラインダー処理、TIGドレッシングを用いる方法がある。
前記ショットピーニングは直径数mmの鋼球を材料に打ち付けて材料表層を塑性変形させて加工硬化させ、残留応力を圧縮化することで疲労強度を向上することができる。しかし、その処理には鋼球を投射、回集、粉塵防止のための大掛かりな設備が必要となり、大型の溶接部には適用が制限される。加えて投射材の摩滅、損壊を補給する必要があり、そのためのランニングコストが必要となる。
また、前記ハンマーピーニングは工具の先端を材料に打撃して溶接部に塑性変形を与えて、圧縮応力を導入するとともに、塑性変形により応力集中を低減することで疲労強度が向上すると言われている。しかし打撃時の振動が大きく、作業者への負担が大きいことに加え、細かいコントロールが難しく、処理むらが生じやすい。例えば非特許文献1によると、処理条件によっては加工によって生じるシワ状の溝部が影響し、疲労強度の向上効果は小さいことが示されている。
また、前記グラインダー処理はビード止端部を滑らかにすることで応力集中を下げることにより、確実な疲労強度の向上効果が期待できるが、削りすぎた場合は溶接部の肉厚が不足して強度低下を招くことから、処理に熟練を要し、作業に長時間を要するという欠点がある。
また、前記TIGドレッシングは、溶接ビードの止端部をタングステン電極から発生するアークで再溶融させて、滑らかな形状に再凝固させて、応力集中を軽減することにより疲労強度を向上するものである。しかし、レールなどの難溶接材料では高い熟練技能と、厳格な施工管理が必要となる。
特開平6−292968号公報 特開平3−249127号公報 ・・・・三木、穴見、谷、杉本、「溶接止端部改良による疲労強度向上」、溶接学会論文集、Vol.17,No.1,P111-119(1999)
ロングレールの耐久性を向上させる為には、溶接部の疲労強度をさらに向上させることが必要である。また、上述した溶接部の疲労強度を向上させる従来技術であるショットピーニング、ハンマーピーニング、グラインダー処理、TIGドレッシングに比べてより効果的に疲労強度の向上を実現することが要求される。
本発明は上記のような従来技術の課題を考慮してなされたものであり、その目的は、従来と比較して疲労強度が向上したロングレール及びその製造方法を提供することにある。
レールの溶接部に対して疲労試験を行うと、溶接部に形成されたビードの止端部に疲労亀裂が発生し、この疲労亀裂を起点として破断が生じる。本発明は、ビードの止端部に疲労亀裂が生じにくくすることにより、レールの溶接部の疲労強度を向上させるものである。
すなわち本発明の要旨は以下の通りである。
(1)少なくとも2本のレールをエンクローズアーク溶接し、溶接部に形成されたビードの止端部、及び前記ビードの不連続部分に超音波ピーニング処理を行うロングレールの製造方法であって、前記超音波ピーニング処理に用いる打撃用部材を、5mm/秒以上10mm/秒以下の速度で前記止端部及び前記不連続部分に沿って3パス以上移動させることを特徴とするロングレールの製造方法。
(2)前記超音波ピーニング処理を行った後、レール頭部に位置するビードを除去し、かつレール柱部及び足部に位置するビードを除去しないことを特徴とする上記(1)に記載のロングレールの製造方法。
(3)荷重繰り返し回数200万回での疲労限界が、前記超音波ピーニング処理を行わない非処理材と比較して30MPa以上高いことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のロングレールの製造方法。
本発明によれば、ビードの止端部に疲労亀裂が生じにくくすることにより、レールの溶接部の疲労強度を向上させることができる。
まず図1を用いてロングレールの形状について説明する。図1(A)はロングレールの長手方向の側面図であり、図1(B)は図1(A)のA−A´断面図である。本図に示すロングレールは、少なくとも2本のレールをエンクローズアーク溶接することにより製造される。このためロングレールには溶接部11が含まれる。溶接部11にはビード10が形成されている。以下、足部3の裏側をレール足裏3aとし、表側をレール足表3bとする。レール足裏3aの範囲はレール底面の直線部、レール足表3bは足部3の表面側の直線部及び足部3と柱部2の間の曲線部を含むこととする。
図2(A)及び図3(A)は、それぞれロングレールの斜視図である。レールは、車輪との接触が生じるレール上部である頭部1、枕木に接地するレール下部である足部3、頭部1と足部3の中間の垂直部分である柱部2を有する。
列車が通過する際、レールには車輪の通過ごとに曲げ荷重が作用し、レールには引張応力が生じる。レールの残留応力が圧縮応力になっている場合、曲げ荷重によって生じる応力は残留応力によって相殺され、実効応力は小さくなる。逆にレールの残留応力が引張応力になっている場合、実効応力は、曲げ荷重によって生じる応力と残留応力の相乗効果によって大きくなる。
なお、図2(A)及び図3(A)において、足部3及び頭部1は長手方向に切断されており、ビード10の断面が示されている。
図2(B)は図2(A)の足部3の長手方向の断面を示す図であり、図3(B)は図3(A)の足部3の長手方向の断面を示す図である。エンクローズアーク溶接において、ビード10の表面には、止端部10aすなわちビード10とレール本体の境界部分、及び不連続部分10bすなわちビード10内における境界部分が形成されている。車輪の通過によって生じる応力はビード10の止端部10a及び不連続部分10bに集中する。このため、エンクローズアーク溶接によって製造されたロングレールの疲労破壊は、足部3のビード10の止端部10a又は不連続部分10bを起点にする場合がほとんどである。特に溶接部11のうち足表3bは、部位ごとの熱履歴の差に起因して、残留応力が引張応力になっているため、足表3bに位置するビード10の止端部10aの表面は、破壊起点になりやすい。
以上のことから、エンクローズアーク溶接によって製造されたロングレールの溶接部11の疲労強度を向上させる為には、足部3のビード10の止端部10a及び不連続部分10bの表面の疲労強度を増加させて亀裂を入りにくくすること、足部3の止端部10a及び不連続部分10bへの応力集中を緩和すること、並びに足部3の止端部10a及び不連続部分10bの残留応力を中立又は圧縮方向にすること、の3点が効果的である。
パーライト組織のラメラー構造はセメンタイトラメラーとフェライトラメラーの層状構造となっている。ラメラー間隔は試料を鏡面研磨した後、1〜10%硝酸アルコール溶液(ナイタール)などでラメラー構造を現出させることで観察することができる。本発明においてラメラー間隔は、図11に示すように、継手の長手方向を含みビード方向に直角な断面内において測定する。ラメラー間隔Lは図12のA部断面の拡大図に示すように、セメンタイトラメラー50もしくはフェライトラメラー52の中心間隔である。ラメラーの向きと表面40の角度θは、図12に示すように、測定部位におけるラメラー方位と、測定部位に最も近い表面に平行な線との角度として測定する。
ビード10の止端部10aの表面の疲労強度を増加させる為には、これらの部分の表面から50μm以内の組織が含んでいるパーライトの60%以上のラメラ−を、止端部10aの表面に対して垂直な断面(例えばレールの長手方向の断面)において表面に対して±45°以下の角度にすることが有効である。これは、一般的なパーライトのラメラーの配向方向がランダムであるのに対して、パーライトの半分以上のラメラーの配向方向が、応力が加わる方向に対して直角に近くなり、組織の強度に異方性を持たせることができるためである。なお、ビード10の止端部10aの表面から50μm以内の組織は、ほとんどがパーライトであるが、初析フェライトや残留している場合や、溶接金属が止端部10aにかぶっている場合はフェライトまたはベイナイトが含まれる場合もある。
この場合、止端部10a及び不連続部分10bの表面から50μm以内に位置するパーライトの40%以上のラメラーを表面に対して±15°以下の角度にすると、特に疲労強度が向上する。
また、止端部10a及び不連続部分10bの表面から50μm以内のパーライトの10%以上のラメラー間隔(隣り合う2つのフェライト相の中心間隔)が70nm以下である場合も硬度が上昇する(例えばHv50以上)為、特に疲労強度が向上する。この場合、止端部10a及び不連続部分10bの表面から50μm以内に位置するパーライトの5%以上のラメラー間隔が50nm以下である場合、さらに疲労強度が向上する。
止端部10a及び不連続部分10bへの応力集中を緩和するためには、止端部10a及び不連続部分10bの断面の曲率半径を1.5mm以上にして止端部10a及び不連続部分10bの表面形状を滑らかにすることが有効である。
止端部10a及び不連続部分10bの表面を上記した組織にし、止端部10a及び不連続部分10bの断面の曲率半径を上記した値にし、かつ、止端部10a及び不連続部分10bの残留応力を中立又は圧縮方向にする方法としては、止端部10a及び不連続部分10bに超音波ピーニング処理(UIT:Ultrasonic Impact Treatment)を行う方法がある。これにより、荷重繰り返し回数200万回での溶接部の疲労限界を、非処理材と比較して50MPa以上増加させ、300MPa以上にすることができる。なお、超音波ピーニング処理を行う領域は、柱部2及び足部3に位置する止端部10a及び不連続部分10bの全部であってもよいが、一部であっても良い。後者の場合、少なくとも足部3に位置する止端部10a及び不連続部分10bの全部を含む必要がある。
超音波ピーニング処理は、打撃用部材(例えばピン形状)を振幅10μm〜100μm、周波数15kHz以上(好ましくは20kHz)で振動させ、この打撃用部材の先端で被処理部の表面を打撃する処理である。超音波ピーニング処理は、一回一回の打撃エネルギーはハンマーピーニングより小さくショットピーニングより大きい。また、超音波ピーニング処理は非常に多くの回数の打撃を表面に与える。このため、超音波ピーニング処理を行うことにより、ハンマーピーニング及びショットピーニングにはない効果を得ることができる。
なお、超音波ピーニング処理の周波数が20kHz未満の場合(特に15kHz未満の場合)、振動周波数が可聴音域になる為、作業者や環境への影響が生じる。超音波ピーニング処理の周波数は高くなるほど加工エネルギーが大きくなるため好ましいが、超音波ピーニング処理の工具の製造費用を考えると、60kHzが上限になる。
また、超音波ピーニング処理の振幅が10μm未満の場合、加工エネルギーが小さくなり処理時間が長くなる為、好ましくない。また振幅が100μm超の場合、超音波ピーニング処理の工具が大型化し、また処理効率の向上も多くない為、好ましくない。
超音波ピーニング処理により上記した効果を得るためには、打撃用部材を、5mm/秒以上20mm/秒以下の速度で止端部10aに沿って少なくとも3パス以上移動させるのが好ましい。2パス以下の場合、処理が不十分な部分(例えばビード10とレール本体の境界線が残存する領域)が残ってしまい、この不十分な部分を起点として疲労亀裂が生じる可能性がある。なお、超音波ピーニング処理のパス回数が6回までは、回数を増やすごとに疲労強度が増加するが、7回以上にしても疲労強度はほとんど増加しない。このため、超音波ピーニング処理のパス回数は6回以下であるのが好ましい。
また打撃用部材の直径は2mm以上5mm以下であるのが好ましい。打撃用部材の直径が2mm未満である場合は1パスにおける加工面積が小さくなり、止端部10aの断面の曲率半径を1.5mm以上にすることが難しくなる。一方、打撃用部材の直径が5mm超の場合は、加工エネルギーが分散されて処理効率が低下してしまう為、好ましくない。
また打撃用部材の先端の曲率半径は1mm以上4mm以下であるのが好ましい。曲率半径が1mm未満の場合は、止端部10aの断面の曲率半径を1.5mm以上にすることが難しくなる。また、打撃用部材の先端の曲率半径が4mm超の場合、止端部10aの表面を滑らかにするために必要な処理面積が広がってしまい、処理効率が低下してしまう為、好ましくない。
なお、ビード10の止端部10a及び不連続部分10bに超音波ピーニング処理を行うと、ビード10を除去しなくても、超音波ピーニング処理をせずにビード10をグラインダー等で除去する従来方法と比較して溶接部11の疲労強度が高くなる。超音波ピーニング処理を行う為に必要な労力及び技能レベルは、ビード10をグラインダー等で研磨除去するために必要な労力及び技能レベルと比較して低くてすむ。また超音波ピーニング処理を溶接直後に行う必要がない。従来、エンクローズアーク溶接は作業時間を確保できない線区では適用が制限されてきたが、本発明によってこの制限を緩和することが出来る。
超音波ピーニングを行う温度について以下に説明する。鋼材温度が500℃以上では鋼材の降伏点が極端に低く、超音波ピーニング処理によって著しく深い凹みが生じ、溶接部の応力集中が大きくなる。また、高温では回復現象が起こるため、加工による残留応力の圧縮化効果は得られない。温度の低下とともに鋼材の降伏点は回復し、300℃以下では室温の状態の80%〜90%、100℃では室温の状態の90%以上となり、回復現象も起きにくくなる。したがって必要以上に深い凹みの発生を避け、残留応力の圧縮化効果を得るためには材料温度は300℃以下、さらに望ましくは、100℃以下で処理を行うことが望ましい。
一方、鋼材温度がさらに低下するに従って、鋼材の靭性、延性は低下していく。このため、周囲温度が−20℃を下回ると、超音波ピーニング処理部に加工による亀裂発生の懸念があるため、−20℃以上の温度で処理を行うことが望ましい。
疲労強度の評価試験は3点曲げ方式で行った。1mの距離でセットした台座の中心に1.5mに切断したレール溶接部を正立させた姿勢で置き、その中心部にレール頭部から押し治具で荷重を与えた。台座および押し治具のレールに接する部位の曲率半径は100mmRとした。付与する荷重はレール足裏に歪ゲージを接着し、その指示値が設定応力となるように調整した。試験応力は最低応力を3kgf/mmとし、試験する応力範囲に応じて最大応力を設定した。
荷重繰返し速度は5Hzとし、溶接部が破断した時点で試験を終了した。また、荷重繰返し回数が200万回まで非破断であった場合は、そこで試験を終了した。
(参考例)
まず参考例について説明する。テルミット溶接法を用いてロングレールを製造し、このロングレールの溶接部に形成されたビードの止端部に、上記した条件で超音波ピーニング処理を行うことにより、複数の試料を作製した。複数の試料相互間は、超音波ピーニング処理の処理回数が異なっているが、他の作製条件は同じである。また、比較例として溶接まますなわち超音波ピーニング処理を行わないロングレールを作製した。
図4(A)は、超音波ピーニング処理のパス回数が3回の試料における、ビード止端部の組織を示す断面SEM写真であり、図4(B)は図4(A)のビード止端部の表面部分を拡大した断面SEM写真である。この断面は、ビード止端部の表面に対して垂直な断面であり、レールの長手方向の断面である。本図から明らかなように、超音波ピーニング処理を所定量以上行うことにより、ビード止端部の表面部分の組織がパーライトとなり、該パーライトの多くのラメラーが表面に対して±45°以下の角度になった。
また、超音波ピーニング処理のパス回数が5回である試料1、及びパス回数が3回である試料2それぞれで、ビード止端部の表面から深さ50μmの範囲内において、ラメラー配向角度が±45°以下及び±15°以下の角度となっている領域それぞれの厚みを測定し(表1)、かつラメラー間隔が100nm以下、70nm以下、及び50nm以下となっている領域それぞれの厚みを測定した(表2)。これらの測定には断面SEM写真を用いた。なお、各表は、それぞれの領域の厚みが深さ50μmの範囲内でどの程度の割合を占めるかを示す数値も含んでいる。
試料1において、ラメラー配向角度が±45°以下及び±15°以下の角度となっている領域の厚みは、それぞれ40μm及び30μmであり、試料2において、ラメラー配向角度が±45°以下及び±15°以下の角度となっている領域の厚みは、それぞれ33μmであった。
また、試料1において、ラメラー間隔が100nm以下、70nm以下、及び50nm以下となっている領域の厚みは、それぞれ9μm、8μm、及び5μmであり、試料2において、ラメラー間隔が100nm以下、70nm以下、及び50nm以下となっている領域の厚みは、それぞれ25μm、20μm、及び18μmであった。
また、試料1の硬度、残留応力、加工深さ、及び疲労強度は、Hv410、180〜200MPa、100〜200μm、及び300MPaであり、試料2の硬度、残留応力、加工深さ、及び疲労強度は、Hv520、180〜200MPa、100〜200μm、及び300MPaであった。
図5は、ビード止端部の表面から深さ50μmの範囲に位置するパーライトにおいて、ラメラー配向角度が±45°以下の角度となっている組織の比率及び±15°以下の角度となっている組織の比率と、超音波ピーニング処理のパス回数との関係を示すグラフである。上記した組織の比率は、断面SEM写真を目視で観察することにより算出した。
超音波ピーニング処理のパス回数が2回以下の場合は、ラメラー配向角度が±45°以下の角度となっている組織の比率は60%未満であり、またラメラー配向角度が±15°以下の角度となっている組織の比率は40%未満であった。これに対し、パス回数が3回以上になった場合、ラメラー配向角度が±45°以下の角度となっている組織の比率は70%以下になった。特にラメラー配向角度が±15°以下の角度となっている組織の比率は65%前後と、急激に上昇した。
これらのことから、超音波ピーニング処理を一定以上行うことにより、ビード止端部の表面から深さ50μmの範囲に位置するパーライトにおいて、パーライトの60%以上のラメラーを表面に対して±45°以下の角度にし、かつ40%以上のラメラーを表面に対して±15°以下の角度にできることが示された。
図6は、ビード止端部の表面から深さ50μmの範囲に位置するパーライトにおいて、ラメラー間隔が100nm以下、70nm以下、及び50nm以下となっている領域の比率と、超音波ピーニング処理のパス回数との関係を示すグラフである。上記した組織の比率は、断面SEM写真を目視で観察することにより算出した。
超音波ピーニング処理のパス回数が2回以下の場合、ラメラー間隔が100nm以下、70nm以下、及び50nm以下となっている領域の比率は、それぞれ20%未満、8%未満、及び5%未満であった。これに対し、パス回数が3回以上になった場合、ラメラー間隔が100nm以下、70nm以下、及び50nm以下となっている領域の比率は、それぞれ45%超、35%超、及び25%超であった。
これらのことから、超音波ピーニング処理を一定以上行うことにより、ビード止端部の表面から深さ50μmの範囲に位置するパーライトの10%以上を、ラメラー間隔が70nm以下にし、かつ5%以上をラメラー間隔が50nm以下にできることが示された。
図7(A),(B),(C)は、ビード止端部の表面下50μmのビッカース硬度Hv(図7(A))、ビード止端部の表面のレール長手方向の残留応力(図7(B))、及びビード止端部の加工深さ(図7(C))それぞれが超音波ピーニング処理のパス回数によってどのように変化するかを示すグラフである。ビッカース硬度Hv測定時の押下力は100Nであり、残留応力は歪ゲージを用いた切り出し法により測定した。また加工深さは、超音波ピーニング処理によって形成された凹みの深さであり、加工深さが深いとビード止端部の曲率半径が大きくなり、かつ滑らかになる。
超音波ピーニング処理のパス回数が6回以下の場合は、パス回数が増加するにつれてビッカース硬度Hvが増加し、残留応力が引張方向から圧縮方向に変化し、かつ加工深さが大きくなっていた。そしてビード止端部の曲率半径は1.5mm以上になった。しかしパス回数が7回以上になっても6回の場合と比較してビッカース硬度、残留応力、及び加工深さのいずれも変化がほとんど無かった。
図8は、ロングレールの溶接部の疲労試験結果を示すグラフであり、縦軸に応力振幅を、横軸に破断回数を示している。溶接方法はテルミット溶接である。超音波ピーニング処理のパス回数が6回以下の場合は、いずれの応力振幅においても破断回数は増加しているが、パス回数が7回を超えても破断回数の増加はほとんどなかった。具体的には、比較例すなわち超音波ピーニング処理を行わない試料における溶接部の200万回疲労強度は230MPaであったのに対して、超音波ピーニング処理のパス回数が1回、3回、6回、及び12回それぞれの試料における溶接部の200万回疲労強度は、それぞれ240MPa、270MPa、300MPa、及び305MPaであった。
このことから、テルミット溶接法を用いて製造されたロングレールにおいて、溶接部のビード止端部に所定量以上の超音波ピーニング処理を行うことにより、ビード止端部の表面から50μm以内の組織がパーライトを含み、該パーライトの60%以上のラメラーが前記表面に対して±45°以下の角度を成すようになり、レール長手方向の応力が中立又は圧縮方向になり、かつビード止端部の曲率半径が1.5mm以上になることが示された。その結果、溶接部の疲労強度が向上することが示された。また、超音波ピーニング処理のパス回数が3回を超えると比較例すなわち非処理材と比較して200万回疲労強度が30MPa以上増加し、6回を超えると非処理材と比較して200万回疲労強度が60MPa以上増加することが示された。
(実施例1)
エンクローズアーク溶接法を用いてロングレールを製造し、このロングレールの溶接部に形成されたビードの止端部及び不連続部分に、上記した条件で超音波ピーニング処理を行うことにより、複数の試料を作製した。複数の試料相互間は、超音波ピーニング処理の処理回数が異なっているが、他の条件は同じである。また、比較例として、超音波ピーニング処理を行わずにビードを除去したロングレールを作製した。
図9は、ロングレールの溶接部の疲労試験結果を示すグラフであり、縦軸に応力振幅を、横軸に破断回数を示している。超音波ピーニング処理のパス回数が6回以下の場合は、いずれの応力振幅においても破断回数は増加しているが、パス回数が7回を超えても破断回数の増加はほとんどなかった。また、比較例における溶接部の200万回疲労強度は280MPaであったのに対して、超音波ピーニング処理のパス回数が1回、3回、6回、及び12回それぞれの試料における溶接部の200万回疲労強度は、それぞれ290MPa、320MPa、360MPa、及び375MPaであった。
このことから、エンクローズアーク溶接法を用いて製造されたロングレールにおいて、溶接部のビード止端部及び不連続部分に所定量以上の超音波ピーニング処理を行うことにより、参考例と同様の作用によりロングレールの溶接部の疲労強度が向上することが示された。また、超音波ピーニング処理のパス回数が3回を超えると比較例すなわち非処理材と比較して200万回疲労強度が30MPa以上増加し、6回を超えると非処理材と比較して200万回疲労強度が80MPa以上増加することが示された。また、ビードを除去する労力と比較して超音波ピーニング処理を行う労力は小さかった。
(実施例2)
エンクローズアーク溶接法を用いてロングレールを製造し、このロングレールの溶接部に形成されたビードの止端部及び不連続部分に、上記した条件で超音波ピーニング処理(UIT処理)を3パス行い、さらにビードを研磨除去した。また、比較例として、エンクローズアーク溶接法を用いてロングレールを製造し、このロングレールの溶接部に形成されたビードをそのまま残した試料と、ビードをグラインダーで研磨除去した試料をそれぞれ作製した。
図10は、これらの試料における溶接部の疲労試験結果を示すグラフである。なお、比較のために、実施例1のパス回数が3回の試料における溶接部の疲労試験結果も示す。エンクローズアーク溶接法において、ビードを除去した試料は、ビードを除去しない試料と比較して溶接部の疲労強度は高い。しかし、ビードの止端部及び不連続部分に超音波ピーニング処理を行うと、ビードを除去しなくても、ビードを除去した場合と比較して疲労強度を高くなることが示された。なお、ビードの止端部及び不連続部分に超音波ピーニング処理を行ったうえでビードを研磨除去した場合、疲労強度が少し向上した。
(実施例3)
表3は、エンクローズアーク溶接法を用いて製造されたロングレールに本発明を適用した場合(参考例A1〜A21、発明例A22〜A24)と適用しなかった場合(比較例A1〜A10)の200万回疲労限界(MPa)を示している。参考例A1〜A21、発明例A22〜A24は、いずれも200万回疲労限界が310MPa以上であった。以下、詳細に説明するが、この説明において、組織、ラメラ−比率、及びパーライト比率は、ビード止端部の表面から50μm以内の組織を見た結果である。
詳細には、参考例A1〜A3は、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が60%以上であるため、200万回疲労限界が310MPaとなった。
また、参考例A4〜A6は、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が60%以上であり、かつ表面とパーライトラメラーの角度が±15°以下の組織が40%以上であるため、200万回疲労限界が310MPaとなった。
また、参考例A7〜A9は、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が60%以上であり、かつラメラー間隔が70nm以下のパーライトが10%以上であるため、200万回疲労限界が315MPaとなった。
また、参考例A10〜A12は、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が60%以上であり、かつラメラー間隔が50nm以下のパーライトが5%以上であるため、200万回疲労限界が320MPaとなった。
また、参考例A13〜A15は、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が60%以上であり、かつビード止端部の曲率半径が1.5mm以上であるため、200万回疲労限界が315MPa以上となった。
また、参考例A16〜A18は、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が60%以上であり、かつビード止端部の残留応力が中立又は圧縮方向であるため、200万回疲労限界が320MPa以上となった。
また、参考例A19〜A21は、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が60%以上であり、パーライトラメラーの角度が±15°以下の組織が40%以上であり、ラメラー間隔が70nm以下のパーライトが10%以上であり、ラメラー間隔が50nm以下のパーライトが5%以上であり、ビード止端部の曲率半径が1.5mm以上であり、かつビード止端部の残留応力が中立又は圧縮方向であるため、200万回疲労限界が350MPa以上となった。
また、上記した参考例A1〜A21は、レール柱部及び足部のビードを除去していたが、本発明例A22〜A24に示すように、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が60%以上であり、パーライトラメラーの角度が±15°以下の組織が40%以上であり、ラメラー間隔が70nm以下のパーライトが10%以上であり、ラメラー間隔が50nm以下のパーライトが5%以上であり、ビード止端部の曲率半径が1.5mm以上であり、かつビード止端部の残留応力が中立又は圧縮方向である場合は、レール柱部及び足部のビードを除去しなくても、200万回疲労限界が330MPa以上となった。
これに対し、比較例A1はビート止端部の組織がパーライトではなくベイナイトである為、超音波ピーニング処理を行ったにもかかわらず、200万回疲労限界が230MPaであった。また、比較例A2〜A8は、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が50%以下であるため、超音波ピーニング処理を行ったにもかかわらず、200万回疲労限界が225MPa以下であった。また、比較例A9は、表面とパーライトラメラーの角度が±45°以下の組織が30%であるため、超音波ピーニング処理を行い、かつレール柱部及び足部のビードを除去したにもかかわらず、200万回疲労限界が280MPaであった。また比較例10はピーニング処理の周波数(振動数)が超音波領域未満であり、かつ打撃用部材の先端径が小さかった為、200万回疲労限界が280MPaとなった。
このことから、エンクローズアーク溶接法を用いて製造されたロングレールにおいて、ビード止端部の表面から50μm以内の組織がパーライトを含み、該パーライトの60%以上のラメラーが前記表面に対して±45°以下の角度を成すようになると、溶接部の疲労強度が向上することが示された。また、さらに、ラメラー間隔が70nm以下の組織の割合が10%以上になると、溶接部の疲労強度がさらに向上することが示された。また、さらに、ラメラー間隔が50nm以下の組織の割合が5%以上になると、溶接部の疲労強度がさらに向上することが示された。また、レール長手方向の応力が中立又は圧縮方向になると、溶接部の疲労強度がさらに向上することが示された。またビード止端部の曲率半径が1.5mm以上になると、溶接部の疲労強度がさらに向上することが示された。
(実施例4)
表4は、エンクローズアーク溶接法を用いて製造されたロングレールのビード止端部に超音波ピーニング処理を行い、かつレール頭部のビードを除去して、柱部及び足部のビードを除去しなかった場合(発明例、参考例)と、超音波ピーニング処理を行わずにレールのビードを除去した場合(比較例)の200万回疲労限界の値を示す表である。なお200万回疲労限界の値は、UIT非処理、ビード除去した比較例B1の200万回疲労限界の値(280MPa)との差で示している。
参考例B1、発明例B2、参考例B3、発明例B4〜B5は、ビード止端部に超音波ピーニング処理を行ったため、レール柱部及び足部のビードを除去しなかったにも関わらず、非処理材と比較して200万回疲労限界が40MPa以上向上した。特に発明例B2,B4は、打撃用部材の移動速度が5mm/秒以上20mm/秒以下であるため、非処理材と比較して200万回疲労限界が50MPa以上向上した。
これに対し、比較例B1〜B3は超音波ピーニング処理を行わなかった為、レール頭部、柱部及び足部のビードを除去した場合(比較例B1)、レール柱部及び足部のビードを除去した場合(比較例B2)、及びレール頭部のビードを除去した場合(比較例B3)それぞれの場合において、非処理材と比較して200万回疲労限界の向上が見られなかった。
(実施例5)
表5は様々な疲労強度改善方策をレールのエンクロ−ズアーク溶接部に適用した場合の疲労試験の結果と処理時間を示したものである。なお200万回疲労限界の値はUIT非処理、ビード除去した比較例C4の200万回疲労限界の値(280MPa)との差で示している。
比較例C4は、ビード10をグラインディングによって滑らかに除去した例であり、前述の実施例4の比較例B1と同じものである。研磨工具は小型のディスクグラインダーを用いた。エンクローズアーク溶接のビードは幅20mm、厚さ5mm程度であり、処理作業には30分以上を要する。鉄道でのレール溶接で標準工法とされているが、列車通過の間合いで行われるレール溶接は作業時間の制約が厳しく、この研磨作業の時間を短縮できることが望ましい。
比較例C6は、溶接ままの状態であり、溶接ビードをそのまま残した継手である。疲労強度は標準工法である比較例C4のグラインディング材より20MPa程度低い。
比較例C1はショットピーニングの適用例である。ショット材は直径1mmφ、硬度Hv500の鋼球を用いた。処理範囲は、長手方向には溶接部の両側を各100mm、全幅で200mmとし、ショット材をレール足表部3b、柱部2に投射した。処理時間は、レール片側ずつを各10分間ずつとした。ショット材の噴射量は約0.5kg/秒、ショット材の鋼材への衝突速度は5m/秒とした。この結果、疲労強度は非処理材に比べて約36MPa向上した。しかしレール現地溶接には大掛かりなショットピーニング装置を搬入することは難しく、その工業化は難しいと思われる。
比較例C2、C3はハンマーピーニングを適用した例である。ハンマーピーニングの動力として圧縮空気を用い、打撃頻度は毎秒40回とした。工具の移動速度は20mm/秒とした。
比較例C2は、鋼材表面に打撃される工具の先端曲率が15mmφの工具を用い、ビード10の止端部を集中的にハンマーピーニングした例である。加工は同じ位置を10パス繰り返した。加工部の凹みは深い部分ではレール母材表面から1.4m程度あり、疲労強度は非処理材に比較してむしろ低下した。
比較例C3はビード10の止端部から長さ方向に10mmの範囲で足表、足裏にハンマーピーニングした例である。工具先端の曲率半径を4mmφの工具を使い、凹みが大きくならないように、エア圧力を下げて(5bar)丹念に処理した。疲労強度は比較材としたグラインディング処理の比較例C4と同等であった。
比較例C5は、ビード10の止端部をTIG溶接機により幅約5mmの範囲で再溶融させて、滑らかな形状に再凝固させた例である。疲労強度は比較材としたグラインディング処理の比較例C4と同等であった。しかし遅れ割れ防止のために400℃に予熱する必要があり、そのために20分を要した。
発明例C1はビード止端部に超音波ピーニングを適用した例で、処理条件は発明例A23と同様の条件を適用したものであるが、短時間の処理で効率的に疲労性能の改善が得られた。
以上、超音波ピーニングは、他の疲労強度改善方法より効率的で効果的に疲労強度の向上が得られることが示された。
ロングレールの長手方向の側面図。 (A)はロングレールの斜視図、(B)は足部3の長手方向の断面を示す図。 (A)はロングレールの斜視図、(B)は足部3の長手方向の断面を示す図。 参考例であり、(A)は超音波ピーニング処理のパス回数が3回の試料における、ビード止端部の組織を示す断面SEM写真、(B)は(A)のビード止端部の表面部分を拡大した断面SEM写真。 参考例であり、ラメラー配向角度が±45°以下の角度となっている組織の比率及び±15°以下の角度となっている組織の比率と、超音波ピーニング処理のパス回数との関係を示すグラフ。 参考例であり、ビード止端部の表面から深さ50μmの範囲に位置するパーライトにおいて、ラメラー間隔が100nm以下、70nm以下、及び50nm以下となっている領域の比率と、超音波ピーニング処理のパス回数との関係を示すグラフ。 参考例であり、ビード止端部の表面下50μmのビッカース硬度Hv((A))、ビード止端部の表面のレール長手方向の残留応力((B))、及びビード止端部の加工深さ((C))それぞれが超音波ピーニング処理のパス回数によってどのように変化するかを示すグラフ。 参考例であり、テルミット溶接法を用いたロングレールの溶接部の疲労試験結果を示すグラフ。 実施例1において溶接部の疲労試験結果を示すグラフ。 実施例2において溶接部の疲労試験結果を示すグラフ。 ラメラー間隔及びラメラーの角度の測定方法を説明するための図。 図11のA部の拡大図。
1…レールの頭部、2…レールの柱部、3…レールの足部、3a…レール足裏、3b…レール足表、10…ビード、10a…止端部、10b…不連続部分、11…溶接部

Claims (3)

  1. 少なくとも2本のレールをエンクローズアーク溶接し、溶接部に形成されたビードの止端部、及び前記ビードの不連続部分に超音波ピーニング処理を行うロングレールの製造方法であって、前記超音波ピーニング処理に用いる打撃用部材を、5mm/秒以上10mm/秒以下の速度で前記止端部及び前記不連続部分に沿って3パス以上移動させることを特徴とするロングレールの製造方法。
  2. 前記超音波ピーニング処理を行った後、レール頭部に位置するビードを除去し、かつレール柱部及び足部に位置するビードを除去しないことを特徴とする請求項1に記載のロングレールの製造方法。
  3. 荷重繰り返し回数200万回での疲労限界が、前記超音波ピーニング処理を行わない非処理材と比較して30MPa以上高いことを特徴とする請求項1又は2に記載のロングレールの製造方法。
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