JP5821516B2 - 溶接継手及び溶接継手の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1] 溶接止端部に対してピーニング処理が施された領域であるピーニング処理部の表面からの距離であって、前記ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の板厚方向の距離が0.01[mm]以上0.2[mm]未満の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの最大値が、前記ピーニング処理部の表面からの距離であって、前記ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の板厚方向の距離が0.2[mm]以上2[mm]以下の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの平均値の0.9倍以上1.4倍以下であり、前記ピーニング処理部の表面の粗さ曲線における最高点と最低点との間隔である最大高さRyが0.01[μm]以上100[μm]以下であり、前記ピーニング処理部の残留応力が、100[MPa]以上、母材である金属板の降伏応力の2倍以下の圧縮残留応力であり、前記ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の表面を基準としたときの当該ピーニング処理部の深さであって、当該母材である金属板の板厚方向における最深部の深さである研削研磨深さを、0.1[mm]以上2[mm]以下とすることで、前記ピーニング処理部の表層の結晶粒径が1[μm]以下である超微細粒を除去したことを特徴とする溶接継手。
[2] 母材である複数の金属板を溶接する溶接工程と、前記溶接工程により形成された溶接止端部の少なくとも1つに対してピーニング処理を施すピーニング工程と、前記ピーニング処理が施された領域であるピーニング処理部の表面を機械的又は化学的に研削又は研磨する研削研磨工程と、を有する溶接継手の製造方法であって、前記研削研磨工程において、前記研削又は研磨されたピーニング処理部に繋がる母材である金属板の表面を基準としたときの当該ピーニング処理部の深さであって、当該母材である金属板の板厚方向における最深部の深さである研削研磨深さを、0.1[mm]以上2[mm]以下とする研削研磨を行うことにより、前記ピーニング処理部の表層の結晶粒径が1[μm]以下である超微細粒を除去し、前記研削又は研磨されたピーニング処理部の表面からの距離であって、当該ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の板厚方向の距離が0.01[mm]以上0.2[mm]未満の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの最大値を、当該ピーニング処理部の表面からの距離であって、当該ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の板厚方向の距離が0.2[mm]以上2[mm]以下の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの平均値の0.9倍以上1.4倍以下とし、前記研削又は研磨されたピーニング処理部のピーニング処理部の表面の粗さ曲線における最高点と最低点との間隔である最大高さRyを、0.01[μm]以上100[μm]以下とし、前記研削又は研磨されたピーニング処理部の残留応力を、100[MPa]以上、母材の降伏応力の2倍以下の圧縮残留応力としたことを特徴とする溶接継手の製造方法。
図1は、本実施形態の溶接継手の製造方法の一例を説明する図である。尚、図1では、溶接継手がすみ肉継手(T継手)である場合を例に挙げて示しているが、本実施形態で対象とする溶接継手は、すみ肉継手に限定されるものではなく、どのような溶接継手であっても本実施形態の手法を適用することができる。
(A)研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの表面からの距離であって、ピーニング処理部106a、106bに繋がる母材である金属板(図2では金属板101)の板厚方向の距離が0.01[mm]以上0.2[mm]未満の範囲の領域のうち、溶接ビード103a、103bの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの最大値が、ピーニング処理部106a、106bの表面からの距離であって、ピーニング処理部106a、106bに繋がる母材である金属板の板厚方向の距離が0.2[mm]以上2[mm]以下の範囲の領域のうち、溶接ビード103a、103bの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの平均値の0.9倍以上1.4倍以下となるようにする。
図3は、ピーニング処理部106a、106bの最大高さRyの一例を説明する図である。具体的に図3は、ピーニング処理部106a、106bの所定の位置(例えば、ピーニング処理部106a、106bの最深部)の所定の方向(例えば、溶接ビード103a、103bの長手方向)における粗さ曲線を示す図である。図3では、基準長さlにおける粗さ曲線を示している。基準長さlは、溶接ビード103a、103bの長手方向の全体であっても一部であってもよい。ただし、基準長さlの中には、研削研磨処理によるものとは明らかに異なる凹凸が含まれないようにするのが好ましい。
図3に示すように、最大高さRyは、粗さ曲線における最高点302と最低点303との間隔となる。尚、最大高さRyについては、JIS B 0031(1994)の記載により特定することもできる。
(D)研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの残留応力が、100[MPa]以上、母材である金属板の降伏応力の2倍以下の圧縮残留応力となるようにする。
まず、(A)の規定を採用した理由について説明する。
前述したように、ピーニング処理部105a、105bの表層(ピーニング処理部105a、105bの表面からの距離であって、当該ピーニング処理部105a、105bに繋がる母材である金属板(図2では金属板101)の板厚方向の距離が0.2[mm]未満の領域)では、ピーニング処理後に材料の結晶粒径が1[μm]以下の超微細粒に変化するため、硬さ(強度)が大きく増加している。しかし、過度な表層の硬さの増加は材料を脆化させることとなり、微小なき裂を早期に発生させる原因になる。
研削研磨深さdが0.1[mm]を下回ると、ピーニング処理部105a、105bの表層の硬化層を十分に除去できない。一方、研削研磨深さdが2[mm]を超えると、ピーニング処理によってピーニング処理部105a、105bに導入した圧縮残留応力を十分に残すことができない。そこで、本実施形態では、研削研磨深さdの範囲を0.1[mm]以上2[mm]以下にした。
研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの最大高さRyは0[μm]であることが望ましいが、研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの最大高さRyが0.01[μm]を下回るようにするのは、通常の研削研磨処理では極めて困難である。一方、研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの最大高さRyが100[μm]を超えると、ピーニング処理によってピーニング処理部105a、105bに生じた凸部を研削又は研磨することによって、溶接止端部105a、105bの表面の形状を滑らかにするという本実施形態の目的を十分に達成することができない。そこで、本実施形態では、研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの最大高さRyの範囲を0.01[μm]以上100[μm]以下にした。ただし、前述したように、この規定((B)の規定)は、研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bを滑らかにするという観点から定められるものであり、このような観点と、研削研磨処理の処理効率を高くするという観点とから、「0.01[μm]以上100[μm]以下」に代えて、「10[μm]以上80[μm]以下」とするのが、より好ましい。
研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの残留応力が100[MPa]未満の圧縮残留応力であると、ピーニング処理によって溶接止端部105a、105bに導入した圧縮残留応力が十分に残っていないと見なせる。また、研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの圧縮残留応力は出来るだけ大きい方が望ましいが、通常のピーニング処理では、研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの圧縮残留応力を母材の降伏応力の2倍を超えるようにすることはできない。そこで、本実施形態では、研削研磨処理が行われたピーニング処理部106a、106bの残留応力の範囲を、100[MPa]以上、母材である金属板の降伏応力の2倍以下の圧縮残留応力にした。
次に、本発明の実施例について説明する。
図4は、本実施例及び比較例で用いた十字溶接継手試験片の構成を示す図である。具体的に図4(a)は、十字溶接継手試験片を3つの板面の全てに平行な方向から見た図であり、図4(b)は、図4(a)のA方向から見た図である。また、図4に示す両矢印線の傍に示している数字は、それぞれ、当該両矢印線が指している部分の長さ(単位[mm])を表している。
溶接材料:フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313 YFW-C50DR、ワイヤ径1.2[mm]
溶接方法:半自動ガスシールドアーク溶接
入熱量:入熱量15000[J/cm]
シールドガス:炭酸ガス(CO2:100[%])
超音波衝撃処理は、以下の条件で実施した。
打撃ピンの先端部の曲率半径:3[mm]
打撃ピンの直径:3[mmφ]
周波数:27[kHz]
出力:約1000[W]
処理速度:約500[mm/min]
パス数:5
空気圧:約0.2[MPa]
処理速度:約100[mm/min]
パス数:3
一方、化学的な研磨処理としては、硫酸溶液(混合比 硫酸:蒸留水=1:5)を用いて、十字溶接継手試験片300の「ピーニング処理部」を化学研磨した。
また、ピーニング処理又は研削処理・研磨処理が終了した後、レーザー変位計を用いて溶接ビード404aの長手方向に直交する断面の表面形状を5箇所(領域406a〜406e)について測定して、図2に示す研削研磨深さdを測定し、それらの算術平均をとった。
荷重条件:条件1:応力範囲:220[MPa]、応力比:0.1
条件2:応力範囲:160[MPa]、応力比:0.5
試験周波数:10[Hz]
温度:室温
試験雰囲気:大気
ここで、条件2は、母材(SM490A)の降伏点(350[MPa])に近い応力が作用する荷重条件となる。
図5において、「ピーニング処理」が「無し」となっているのは、ピーニング処理を行っていないことを示す。「ハンマーピーニング」における「先端曲率半径」はピーニングハンマーの先端の曲率半径を示し、「超音波衝撃処理」における「先端曲率半径」は打撃ピンの先端の曲率半径を示す。また、「Hv1」は、ピーニング処理部の表面からの距離であって、当該ピーニング処理部に繋がる母材の板厚方向の距離が0.01[mm]以上0.2[mm]未満の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの最大値を示す。また、「Hv2」は、ピーニング処理部の表面からの距離であって、当該ピーニング処理部に繋がる母材の板厚方向の距離が0.2[mm]以上2「mm」以下の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの平均値を示す。また、「Hv1/Hv2」は、それらのビッカース硬さHv1、Hv2の比を示す。
ここで、「ピーニング処理」と「研削研磨方法」の両方が「無し」となっている比較例18は、溶接止端部に後処理を行っていない(溶接したままの)十字溶接継手試験片400に対するものである。この比較例18における条件1と条件2の両方の繰り返し数の3倍以上、すなわち条件1は60万回以上、条件2は90万回以上の疲労寿命条件を満足すれば、日本鋼構造協会の疲労設計指針における疲労強度等級で2ランク向上とみなせるため、実用上の利用価値が高い。
以上のことから、本実施形態のように、ピーニング処理を行った上で研削研磨処理を行うことが必要になると言える。
また、実施例2、3と比較例14、15の結果から、研削研磨深さdが大きくなるに従い圧縮残留応力が減少し、条件1での繰り返し数が極端に小さくなり、研削研磨深さdが2[mm]を超えると前述した疲労寿命条件を満足しないことが分かる。また、実施例4の結果から、研削研磨深さdが0.1[mm]であれば、高い圧縮残留応力を示し、且つ、前述した疲労寿命条件を満足することが分かる。そして、比較例17の結果から、研削研磨深さdが0.1[mm]を下回ると、ピーニング処理部表層の硬化層が十分に除去できないため、前述した疲労寿命条件を満足しないことが分かる。
また、前述した実施例では、2枚の供試材401及び402、401及403を溶接する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、溶接を行う金属板の数は3以上であってもよい。
103 溶接ビード
104 溶接止端部
105 ピーニング処理部
106 研削研磨処理が行われたピーニング処理部
400 十字溶接継手試験片
401〜403 供試材
404 溶接ビード
405 溶接止端部
406 研削研磨深さを測定する領域
Claims (2)
- 溶接止端部に対してピーニング処理が施された領域であるピーニング処理部の表面からの距離であって、前記ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の板厚方向の距離が0.01[mm]以上0.2[mm]未満の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの最大値が、前記ピーニング処理部の表面からの距離であって、前記ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の板厚方向の距離が0.2[mm]以上2[mm]以下の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの平均値の0.9倍以上1.4倍以下であり、
前記ピーニング処理部の表面の粗さ曲線における最高点と最低点との間隔である最大高さRyが0.01[μm]以上100[μm]以下であり、
前記ピーニング処理部の残留応力が、100[MPa]以上、母材である金属板の降伏応力の2倍以下の圧縮残留応力であり、
前記ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の表面を基準としたときの当該ピーニング処理部の深さであって、当該母材である金属板の板厚方向における最深部の深さである研削研磨深さを、0.1[mm]以上2[mm]以下とすることで、前記ピーニング処理部の表層の結晶粒径が1[μm]以下である超微細粒を除去したことを特徴とする溶接継手。 - 母材である複数の金属板を溶接する溶接工程と、
前記溶接工程により形成された溶接止端部の少なくとも1つに対してピーニング処理を施すピーニング工程と、
前記ピーニング処理が施された領域であるピーニング処理部の表面を機械的又は化学的に研削又は研磨する研削研磨工程と、を有する溶接継手の製造方法であって、
前記研削研磨工程において、前記研削又は研磨されたピーニング処理部に繋がる母材である金属板の表面を基準としたときの当該ピーニング処理部の深さであって、当該母材である金属板の板厚方向における最深部の深さである研削研磨深さを、0.1[mm]以上2[mm]以下とする研削研磨を行うことにより、前記ピーニング処理部の表層の結晶粒径が1[μm]以下である超微細粒を除去し、
前記研削又は研磨されたピーニング処理部の表面からの距離であって、当該ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の板厚方向の距離が0.01[mm]以上0.2[mm]未満の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの最大値を、当該ピーニング処理部の表面からの距離であって、当該ピーニング処理部に繋がる母材である金属板の板厚方向の距離が0.2[mm]以上2[mm]以下の範囲の領域のうち、溶接ビードの長手方向に垂直な方向の断面の領域におけるビッカース硬さの平均値の0.9倍以上1.4倍以下とし、
前記研削又は研磨されたピーニング処理部のピーニング処理部の表面の粗さ曲線における最高点と最低点との間隔である最大高さRyを、0.01[μm]以上100[μm]以下とし、
前記研削又は研磨されたピーニング処理部の残留応力を、100[MPa]以上、母材の降伏応力の2倍以下の圧縮残留応力としたことを特徴とする溶接継手の製造方法。
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