以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物(以下、「ポリアミド樹脂組成物」と記載する場合がある)は、少なくともポリアミド樹脂(A)と重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)を配合してなる。ポリアミド樹脂(A)は、成形性、ガスバリア性に優れ、重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)と組み合わせることで、結晶化速度が速くなり、緻密で均一な結晶が形成されることから、水素ガスの透過や、水素の樹脂中への溶解を抑制することができるため、高圧水素の充填、放圧を繰り返しても欠陥点が発生しにくい成形品を得ることができるポリアミド樹脂組成物を提供することができる。一方、無機核剤との組み合わせでは、結晶化速度は速くなるものの、重量平均分子量が5000以下の有機核剤に比べて緻密で均一な結晶が形成されないため、高圧水素の充填、放圧を繰り返すと、欠陥点が発生しやすい。また、重量平均分子量が5000より大きい有機核剤では、重量平均分子量が5000以下の有機核剤に比べて、ポリアミド樹脂(A)への分散性に劣り、緻密で均一な結晶が形成されないため、高圧水素の充填、放圧を繰り返すと、欠陥点が発生しやすい。
本発明に用いられるポリアミド樹脂(A)とは、アミド結合を有する高分子のことである。ポリアミド樹脂(A)は、一般的に、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料として得ることができる。その原料の代表例としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを用いることができる。かかるポリアミド樹脂を2種以上配合してもよい。
本発明において好ましく用いられるポリアミド樹脂(A)の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
ポリアミド樹脂(A)の重合度には特に制限がないが、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が、1.5〜7.0の範囲であることが好ましい。相対粘度が1.5以上であれば、ポリアミド樹脂組成物の粘度が適度に高くなり、成形時の空気の巻き込みを抑制し、成形性をより向上させることができる。相対粘度は1.8以上がより好ましい。一方、相対粘度が7.0以下であれば、ポリアミド樹脂組成物の粘度が適度に低くなり、成形性をより向上させることができる。なお、ポリアミド樹脂(A)を2種以上配合する場合は、複数のポリアミド樹脂全体としての相対粘度が上記範囲にあることが好ましい。
本発明で用いられる重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)としては、配合されるポリアミド樹脂(A)の融点以上の融点および/またはポリアミド樹脂(A)の降温結晶温度以上の降温結晶化温度を有する重量平均分子量が5000以下の有機核剤が好ましい。配合されるポリアミド樹脂(A)の融点以上の融点および/またはポリアミド樹脂(A)の降温結晶温度以上の降温結晶化温度を有する重量平均分子量が5000以下の有機核剤を用いることで、より結晶化速度を速くすることができる。重量平均分子量が5000を超えると、ポリアミド樹脂(A)への分散性に劣り、緻密で均一な結晶が形成されず、本発明の効果が得られない。
有機核剤(B)の重量平均分子量は、ポリアミド樹脂(A)中への分散性が良く、緻密で均一な結晶が形成されることから、5000以下である。また、重量平均分子量の下限値には特に制限はないが、より、得られるポリアミド樹脂組成物の結晶化速度が速くなることから、100以上が好ましい。
ここで、有機核剤(B)の重量平均分子量は、次の方法により求めることができる。まず、有機核剤2.5mgを、ヘキサフルオロイソプロパノール(0.005N−トリフルオロ酢酸ナトリウム添加)4mlに溶解し、0.45μmのフィルターでろ過して得られた溶液を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下に示した測定条件で測定することにより、重量平均分子量を得ることができる。
検出器:示差屈折率計 Waters 410(Waters製)
カラム:Shodex HFIP−806M(2本)+HFIP−LG
溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール(0.005N−トリフルオロ酢酸ナトリウム添加)
流速:0.5ml/min
試料注入量:0.1ml
温度:30℃
分子量校正:ポリメチルメタクリレート。
重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)としては、例えば、カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、カルボン酸エステルなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
カルボン酸アミドは、アミド結合を有する化合物であり、一般的に、アミンとカルボン酸の脱水縮合反応で生成される。本発明においては、配合されるポリアミド樹脂(A)の融点以上の融点を有するカルボン酸アミドが好ましい。カルボン酸アミドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、リシノール酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸アミドなどの脂肪族モノカルボン酸アミド、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミドなどのN−置換脂肪族モノカルボン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘン酸アミド、へキサメチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミドなどの脂肪族カルボン酸ビスアミドや、N,N’−ジシクロヘキサンカルボニル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジカルボアミド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアミノシクロヘキサン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラシクロヘキシルアミド、N,N’−ビス(3−ヒドロキシプロピル)−1,4−クバンジカルボアミド、N,N’−(1,4−シクロヘキサンジイル)ビス(アセトアミド)などの脂環式カルボン酸アミドや、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアニリド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジベンジルアミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、トリス(メチルシクロヘキシル)プロパントリカルボキサミド、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−シクロヘキシルアミド)、2,6−ナフタレン酸ジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、N,N’−ジベンジルシクロヘキサン−1,4−ジカルボアミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドなどの芳香族カルボン酸アミドなどを挙げることができる。特に、芳香族カルボン酸アミドが好ましく用いられる。
脂肪族カルボン酸塩は、脂肪族カルボン酸と金属との塩が好ましく、本発明においては、配合されるポリアミド樹脂(A)の融点以上の融点および/またはポリアミド樹脂(A)の降温結晶温度以上の降温結晶化温度を有する脂肪族カルボン酸塩が好ましい。脂肪族カルボン酸塩としては、下記一般式(1)に示される化合物を挙げることができる。
R−COOM (1)
上記一般式(1)中、Rは、炭素原子数10〜40の飽和または不飽和の炭化水素基を表す。かかる炭化水素基は、直鎖状でも分岐していてもよい。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、ベリリウム、バリウム、銅、ニッケル、鉛、タリウム、亜鉛または銀を表す。
上記一般式(1)で表される脂肪族カルボン酸塩としては、例えば、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸水素カリウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸銀等のラウリン酸塩;ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸水素カリウム、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸銀等のミリスチン酸塩;パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、パルミチン酸鉛、パルミチン酸タリウム、パルミチン酸コバルト等のパルミチン酸塩;オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸鉛、オレイン酸タリウム、オレイン酸銅、オレイン酸ニッケル等のオレイン酸塩;ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸タリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸ベリリウム等のステアリン酸塩;イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウム、イソステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸バリウム、イソステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸ニッケル等のイソステアリン酸塩;ベヘニン酸ナトリウム、ベヘニン酸カリウム、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸バリウム、ベヘニン酸アルミニウム、ベヘニン酸亜鉛、ベヘニン酸ニッケル等のベヘニン酸塩;モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸ニッケル等のモンタン酸塩等が挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
脂肪族アルコールとしては、脂肪族モノアルコールおよび脂肪族多価アルコールが挙げられる。本発明においては、配合されるポリアミド樹脂(A)の融点以上の融点および/またはポリアミド樹脂(A)の降温結晶温度以上の降温結晶化温度を有する脂肪族アルコールが好ましい。脂肪族アルコールとしては一般式(2)で示される化合物を挙げることができる。
X−R’−OH (2)
上記一般式(2)中、R’は、炭素原子数6〜40の飽和または不飽和の炭化水素基を表す。かかる炭化水素基は、直鎖状でも分岐していても環状でもよい。Xは、水素原子または水酸基を表す。
一般式(2)で表される脂肪族アルコールとしては、例えば、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の脂肪族モノアルコール類;1,6ヘキサンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族多価アルコール類;シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等の環状アルコール類等が挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
カルボン酸エステルは、一般的に、カルボン酸とアルコールの縮合反応で生成される。本発明においては、配合されるポリアミド樹脂(A)の融点以上の融点を有するカルボン酸エステルが好ましく、脂肪族カルボン酸エステルや芳香族カルボン酸エステルなどを用いることができる。脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば、プロピオン酸ブチル、酪酸エチル、オレイン酸ブチル、イソステアリン酸ブチルなどのモノカルボン酸エステルや、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニルなどのフタル酸エステル(モノエステルまたはジエステル)、アジピン酸イソブチル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアジピン酸エステル(モノエステルまたはジエステル)、アジピン酸の代わりにセバシン酸やアゼライン酸を用いた同様のエステル(モノエステルまたはジエステル)などを挙げることができる。芳香族カルボン酸エステルとしては、例えば、安息香酸メチル、安息香酸エチル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、アニス酸メチル、アニス酸エチルなどを挙げることができる。特に、芳香族カルボン酸エステルが好ましく用いられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(A)と重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)との配合量には特に制限はないが、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)を0.01〜10重量部配合してなることが好ましい。重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)の配合量を0.01重量部以上とすることにより、結晶化速度をより向上させ、より高圧の水素の充填、放圧を繰り返しても、欠陥点の発生をより抑制することができる。一方、重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)の配合量を10重量部以下とすることにより、耐衝撃性、靭性等の機械特性に優れ、より高圧の水素の充填、放圧を繰り返しても、欠陥点の発生をより抑制することができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、さらに、耐衝撃材(C)を配合してなることが好ましい。高圧水素に触れる用途に用いられる成形品は、高圧水素の充填、放圧により、−40℃以下から90℃以上の温度変化(ヒートサイクル)を繰り返し受けるため、例えば、樹脂部と金属部とを有する複合品の場合、樹脂部と金属部との結合部において割れが発生しやすい。耐衝撃材(C)を配合することにより、このようなヒートサイクルの繰り返しにより生じる樹脂部と金属部との結合部における割れを抑制することができる。
耐衝撃材(C)としては、例えば、オレフィン系樹脂、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴム、スチレン系ゴム、ニトリル系ゴム、ビニル系ゴム、ウレタン系ゴム、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、アイオノマーなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
これらの中でも、ポリアミド樹脂(A)との相溶性に優れ、耐ヒートサイクル性改良効果が高いことから、オレフィン系樹脂が好ましく用いられる。オレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン、ペンテンなどのオレフィン単量体を重合して得られる熱可塑性樹脂であり、2種以上のオレフィン単量体の共重合体であってもよいし、これらのオレフィン単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。オレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテンなどの重合体またはこれらの共重合体、エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレン/α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体、α−オレフィン/α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体、[(エチレンおよび/またはプロピレン)とビニルアルコールエステルとの共重合体]の少なくとも一部を加水分解して得られるポリオレフィン、(エチレンおよび/またはプロピレン)と(不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)との共重合体、[(エチレンおよび/またはプロピレン)と(不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)との共重合体]のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素とのブロック共重合体またはその水素化物などが挙げられる。これらの中でも、エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレン/α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体がより好ましく、エチレン/α−オレフィン共重合体がさらに好ましい。
また、前記ポリオレフィン系樹脂は、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体で変性されていてもよい。このような変性ポリオレフィン系樹脂を用いることにより、ポリアミド樹脂(A)との相溶性が一層向上し、耐ヒートサイクル性をより向上させることができる。不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸およびこれらカルボン酸の金属塩、マレイン酸水素メチル、イタコン酸水素メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ヒドロキシエチル、メタアクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチルなどの不飽和カルボン酸エステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物などの酸無水物、マレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物が好ましく、マレイン酸、無水マレイン酸が特に好ましい。
これらの不飽和カルボン酸またはその誘導体をポリオレフィン系樹脂に導入する方法としては、例えば、オレフィン単量体と、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を共重合する方法、ラジカル開始剤を用いて、未変性ポリオレフィン系樹脂に、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体をグラフト導入する方法などを挙げることができる。
エチレン/α−オレフィン共重合体としては、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体が好ましい。炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらα−オレフィンの中でも、炭素数3〜12のα−オレフィンが、機械強度の向上の観点から好ましい。さらに、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−エチル−2,5−ノルボルナジエン、5−(1’−プロペニル)−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンの少なくとも1種が共重合されていてもよい。さらに、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体で変性されたエチレンと、炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体がより好ましく、ポリアミド樹脂(A)との相溶性を一層向上させ、耐ヒートサイクル性をより向上させることができる。また、より高圧の水素で充填、放圧を繰り返しても、欠陥点の発生をより抑制することができる。エチレン/α−オレフィン系共重合体のα−オレフィン含有量は、好ましくは1〜30モル%、より好ましくは2〜25モル%、さらに好ましくは3〜20モル%である。
耐衝撃材(C)の構造は特に限定されず、例えば、ゴムからなる少なくとも1つの層と、それとは異種の重合体から1つ以上の層からなる、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造体であってもよい。多層構造体を構成する層の数は、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に1層以上のゴム層(コア層)を有することが好ましい。多層構造体のゴム層を構成するゴムの種類は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分、エチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを重合させて得られるゴムが挙げられる。多層構造体のゴム層以外の層を構成する異種の重合体の種類は、熱可塑性を有する重合体であれば特に限定されるものではないが、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体が好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位および/またはその他のビニル単位などを含有する重合体が挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物における耐衝撃材(C)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、1〜100重量部が好ましい。耐衝撃材(C)の配合量を1重量部以上とすることにより、耐ヒートサイクル性をより向上させることができる。5重量部以上がより好ましく、10重量部以上がさらに好ましい。一方、耐衝撃材(C)の配合量を100重量部以下とすることにより、結晶化速度をより向上させることができる。80重量部以下がより好ましく、70重量部以下がさらに好ましく、25重量部以下がさらに好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物には、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、前記(A)、(B)および(C)以外のその他の成分を配合しても構わない。その他の成分としては、例えば、充填材、前記(A)、(C)以外の熱可塑性樹脂類、各種添加剤類を挙げることができる。
例えば、充填材を配合することにより、成形品の強度および寸法安定性等を向上させることができる。充填材の形状は、繊維状であっても非繊維状であってもよく、繊維状充填材と非繊維状充填材を組み合わせて用いてもよい。繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが挙げられる。非繊維状充填材としては、例えば、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素および炭化珪素などが挙げられ、これらは中空であってもよい。また、これら繊維状および/または非繊維状充填材を、カップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械特性を得る意味において好ましい。カップリング剤としては、例えば、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
熱可塑性樹脂類としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂やABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリアルキレンオキサイド樹脂等が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂類を2種以上配合することも可能である。
各種添加剤類としては、例えば、着色防止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミンなどの酸化防止剤、エチレンビスステアリルアミドや高級脂肪酸エステルなどの離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などが挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物には、ポリアミド樹脂(A)とともに銅化合物を配合することが好ましく、長期耐熱性を向上させることができる。銅化合物としては、例えば、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの錯化合物などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。なかでも1価の銅化合物、とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などが好ましい。銅化合物の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して0.01重量部以上が好ましく、0.015重量部以上がより好ましい。一方、成形時の金属銅の遊離に起因する着色を抑制する観点から、2重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましい。
また、銅化合物とともにハロゲン化アルカリを配合してもよい。ハロゲン化アルカリ化合物としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができる。これらを2種以上配合してもよい。ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、高圧水素に触れる成形品用に用いられる。ここでいう高圧水素に触れる成形品とは、常圧以上の圧力の水素に触れる成形品である。高圧水素の充填、放圧を繰り返したときの欠陥点の発生を抑制する効果を奏することから、20MPa以上の水素に触れる成形品用途に好ましく用いられ、30MPa以上の水素に触れる成形品用途により好ましく用いられる。一方、200MPa以下の水素に触れる成形品用途に好ましく用いられ、150MPa以下の水素に触れる成形品用途により好ましく用いられ、100MPa以下の水素に触れる成形品用途にさらに好ましく用いられる。高圧水素に触れる成形品としては、例えば、高圧水素用開閉バルブ、高圧水素用逆止弁、高圧水素用減圧弁、高圧水素用圧力調整弁、高圧水素用シール、高圧水素用ホース、高圧水素用タンク、高圧水素用ライナー、高圧水素用パイプ、高圧水素用パッキン、高圧水素用圧力センサ、高圧水素用ポンプ、高圧水素用チューブ、高圧水素用レギュレーター、高圧水素用フィルム、高圧水素用シート、高圧水素用繊維、高圧水素用継ぎ手等が挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、降温結晶化温度が、配合されるポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度より1℃以上高いことが好ましく、5℃以上高いことがより好ましく、10℃以上高いことがさらに好ましい。かかる降温結晶化温度は結晶化速度を表す指標であり、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速く、緻密な結晶が形成され、より高圧な水素の充填、放圧を繰り返しても、欠陥点の発生を効果的に抑制することができる。上記特性を有するポリアミド樹脂組成物は、例えば、前述の(A)および(B)を配合することにより得ることができる。
なお、本発明において、ポリアミド樹脂(A)、重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)およびポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度は、次の方法により求めることができる。まず、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC−7)を用い、2点校正(インジウム、鉛)、ベースライン補正を行う。サンプル量を8〜10mgとして、昇温速度20℃/分の条件で昇温して得られる融解曲線の最大値を示す温度より20℃高い温度で3分間保持した後、20℃/分の降温速度で冷却したときに観測される結晶化発熱ピーク温度を降温結晶化温度とする。
次に、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の熱可塑性ポリアミド樹脂組成物の製造方法には特に制限はなく、例えば、ポリアミド樹脂(A)と有機核剤(B)および必要に応じて耐衝撃材(C)やその他成分を一括混練する方法、ポリアミド樹脂(A)を溶融した後に有機核剤(B)および必要に応じて耐衝撃材(C)やその他成分を混練する方法などが挙げられる。混練装置としては、例えば、バンバリーミキサー、ロール、押出機等の公知の混練装置を採用することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物に耐衝撃材(C)、各種添加剤類などのその他成分を配合する場合、これらを任意の段階で配合することができる。例えば、二軸押出機により本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する場合、ポリアミド樹脂(A)と有機核剤(B)を配合する際に耐衝撃材(C)、その他の成分を同時に配合する方法や、ポリアミド樹脂(A)と有機核剤(B)を溶融混練中にサイドフィード等の手法により耐衝撃材(C)、その他の成分を配合する方法や、予めポリアミド樹脂(A)と有機核剤(B)を溶融混練した後に耐衝撃材(C)、その他の成分を配合する方法や、予め、ポリアミド樹脂(A)に耐衝撃材(C)、その他の成分を配合して溶融混練後、有機核剤(B)を配合する方法などが挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、任意の方法により成形して成形品を得ることが可能であり、成形形状は、任意の形状が可能である。成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられる。成形形状としては、例えば、ペレット状、板状、繊維状、ストランド状、フィルムまたはシート状、パイプ状、中空状、箱状等の形状が挙げられる。
本発明の成形品は、高圧水素の充填、放圧を繰り返しても欠陥点の発生が抑制される優れた特徴を活かして、高圧水素用開閉バルブ、高圧水素用逆止弁、高圧水素用減圧弁、高圧水素用圧力調整弁、高圧水素用シール、高圧水素用ホース、高圧水素用タンク、高圧水素用ライナー、高圧水素用パイプ、高圧水素用パッキン、高圧水素用圧力センサ、高圧水素用ポンプ、高圧水素用チューブ、高圧水素用レギュレーター、高圧水素用フィルム、高圧水素用シート、高圧水素用繊維、高圧水素用継ぎ手等に好適に用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。各実施例および比較例における評価は、次の方法で行った。
(1)結晶化速度:降温結晶化温度
各実施例および比較例により得られたペレットを、真空乾燥機を用いて80℃で12時間真空乾燥した。乾燥後のペレットについて、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC−7)を用い、2点校正(インジウム、鉛)、ベースライン補正を行った後、サンプル量を8〜10mgとして、昇温速度20℃/分の条件で昇温して得られる融解曲線の最大値を示す温度より20℃高い温度で3分間保持した後、降温速度20℃/分の条件で冷却し、降温結晶化温度(結晶化発熱ピーク温度)を測定した。また、各実施例および比較例において配合したポリアミド樹脂(A)についても、同様にして降温結晶化温度を測定した。ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度が、使用したポリアミド樹脂の降温結晶化温度より10℃以上高くなるものをA、ポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度+5℃以上+10℃未満となるものをB、ポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度+1℃以上+5℃未満となるものをC、ポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度+1℃より低くなるものをDとし、結晶化速度を評価した。
(2)高圧水素の充填、放圧繰り返し特性:欠陥点
各実施例および比較例により得られたペレットから、住友重機械工業(株)製射出成形機(SG−75H−MIV)を用いて、金型温度80℃、射出速度10mm/秒、保圧10MPa、保圧時間10秒、冷却時間20秒の成形条件で、63.5mm×12.6mm×12.6mmの角柱試験片を射出成形した。なお、実施例1〜4、6、8〜10、比較例1〜3は、射出成形機の温度をホッパ下から先端に向かって、220℃−225℃−230℃−230℃に設定し、実施例5、7は、射出成形機の温度をホッパ下から先端に向かって、280℃−285℃−290℃−290℃に設定した。
得られた63.5mm×12.6mm×12.6mmの角柱試験片をフライス加工により5mm×5mm×5mmの立方体に加工した。加工した試験片について、ヤマト科学(株)製TDM1000−ISにてX線CT解析を行い、欠陥点の有無を観察した。欠陥点のない試験片をオートクレーブに入れた後、オートクレーブ中に水素ガスを20MPaまで5分間かけて注入し、1時間保持した後、5分間かけて常圧になるまで減圧し、これを1サイクルとして500サイクル繰り返した。500サイクル繰り返し後の試験片について、ヤマト科学(株)製TDM1000−ISにてX線CT解析を行い、1μm以上の欠陥点の有無を観察し、欠陥点のないものを○、あるものを×とした。
(3)低温、高温の温度変化繰り返し特性:耐ヒートサイクル性
各実施例および比較例により得られたペレットを、住友重機械工業(株)製射出成形機(SE−75DUZ−C250)を用いて、金型温度80℃、射出速度100mm/秒、冷却時間20秒の成形条件で、48.6mm×48.6mm×28.6mmの金属コアに厚み0.7mmでオーバーモールドした。なお、実施例1〜4、6、8〜10、比較例1〜3は、射出成形機の温度をホッパ下から先端に向かって、250℃−255℃−260℃−260℃に設定し、実施例5、7は射出成形機の温度をホッパ下から先端に向かって、280℃−285℃−290℃−290℃に設定した。
得られた金属/樹脂複合成形品3個を、−45℃で1時間静置した後、90℃で1時間静置し、複合成形品を目視観察して割れの有無を判断した。この操作を繰り返し、3個の複合成形品が全て割れるサイクル数が1000回以上のものをA、999回以下、500回以上のものをB、499回以下、100回以上のものをC、99回以下、10回以上のものをD、9回以下のものをEとした。
各実施例および比較例に用いた原料と略号を以下に示す。
PA6−1:ポリアミド6樹脂(融点223℃、降温結晶化温度186℃、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中25℃における相対粘度2.75)
PA6−2:ポリアミド6樹脂(融点224℃、降温結晶化温度175℃、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中25℃における相対粘度2.70)
PA66:ポリアミド66樹脂(融点263℃、降温結晶化温度225℃、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中25℃における相対粘度2.70)
重量平均分子量5000以下の有機核剤1:N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド「“エヌジェスター”(登録商標)NU−100」(新日本理化(株)製)
重量平均分子量5000以下の有機核剤2:N,N’,N”−トリス(2−メチルシクロヘキサン−1−イル)プロパン−1−2−3トリイルカルボキサミド「“リカクリア”(登録商標)PC−1」(新日本理化(株)製)
重量平均分子量5000以下の有機核剤3:「SDH−005」((株)T&K TOKA)
無機核剤1:タルク「“MicroAce”(登録商標)P−6」(日本タルク(株)製)
無機核剤2:マイクロタルク「“NanoAce”(登録商標)D−600」(日本タルク(株)製)
耐衝撃材1:無水マレイン酸変性エチレン/1−ブテン共重合体「“タフマー”(登録商標)MH7020」(三井化学(株)製)
耐衝撃材2:グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「“ボンドファースト”(登録商標)7L」(住友化学(株)製)
耐衝撃材3:アイオノマー「“ハイミラン”(登録商標)1706」(デュポン(株)製)。
[実施例1〜10、比較例1〜3]
表1記載の各原料を、バレル設定温度を実施例1〜4、6、8〜10、比較例1〜3は240℃、実施例5、7は290℃に設定し、ニーディングゾーンを2つ設けたスクリューアレンジとし、スクリュー回転数を200rpmとした2軸スクリュー押出機(JSW社製TEX30XSSST)(L/D=45.5(なお、ここでのLは原料供給口から吐出口までの長さである。))に供給して溶融混練し、ダイから吐出したガットを5℃に温調した水を満たした冷却バス中を20秒間かけて通過させることで急冷した後、ストランドカッターでペレタイズし、ペレットを得た。得られたペレットを用いて、前述の方法により評価した結果を表1に記載した。
以上の結果から、ポリアミド樹脂(A)と重量平均分子量が5000以下の有機核剤(B)を配合して得られたポリアミド樹脂組成物は結晶化速度が速く、かかるポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形品は、高圧水素の充填、放圧を繰り返しても欠陥点の発生が抑制されていることがわかった。
さらに、耐衝撃材(C)を配合して得られたポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形品は、耐ヒートサイクル性に優れていることがわかった。