図1は、グロープラグ10を示す。図1は、軸線Oから紙面右側に外観構成を示し、軸線Oから紙面左側に断面構成を示す。グロープラグ10は、ディーゼルエンジンの始動時における点火を補助する熱源として機能する。
グロープラグ10は、中軸部材200と、主体金具500と、通電によって発熱するシースヒータ800とを備える。これらの部材は、グロープラグ10の軸線Oに沿って組み付けられている。なお、本明細書では、グロープラグ10におけるシースヒータ800側を「先端側」と呼び、その反対側を「後端側」と呼ぶ。
主体金具500は、炭素鋼を筒状に成形した部材である。主体金具500は、先端側の端部においてシースヒータ800を保持する。主体金具500は、後端側の端部において絶縁部材410とオーリング460とを介して中軸部材200を保持する。絶縁部材410は、絶縁部材410の後端に接するリング300が中軸部材200に加締められることで、軸線O方向の位置が固定される。絶縁部材410によって、主体金具500の後端側が中軸部材200に対して絶縁される。主体金具500は、絶縁部材410からシースヒータ800に至る中軸部材200の部位を内包する。主体金具500は、軸孔510と、工具係合部520と、雄ねじ部540とを備える。
軸孔510は、軸線Oに沿って形成された貫通孔であり、中軸部材200よりも大きな径を有する。軸孔510に中軸部材200が位置決めされた状態で、軸孔510と中軸部材200との間には、両者を電気的に絶縁する空隙が形成される。軸孔510の先端側には、シースヒータ800が圧入されて接合されている。雄ねじ部540は、圧入されたシースヒータ800よりも後端側に位置し、内燃機関(図示しない)に形成された雌ねじに嵌り合う。雄ねじ部540の後端側に位置する工具係合部520は、グロープラグ10の取り付けと取り外しとに用いられる工具(図示しない)に係合する。
中軸部材200は、導電材料で円柱状に成形されている。中軸部材200は、主体金具500の軸孔510に挿入された状態で軸線Oに沿って組み付けられる。中軸部材200は、先端側に形成された中軸部材先端部210と、後端側に設けられた接続部290とを備える。中軸部材先端部210は、シースヒータ800の内部に挿入される。接続部290は、主体金具500から突出した雄ねじである。接続部290には、係合部材100が嵌り合う。
図2は、シースヒータ800の詳細な構成を示す断面図である。シースヒータ800は、シース管810と、発熱体としての発熱コイル820と、制御コイル830と、絶縁粉末840とを備える。
シース管810は、軸線O方向に延び、筒状の形状を有した有底の部材である。シース管810は、発熱コイル820と、制御コイル830と、絶縁粉末840とを内包する。シース管810は、シース管先端部811とシース管後端部819とを備える。シース管先端部811は、シース管810の先端側において、外側に向けて丸く形成された端部である。シース管後端部819は、シース管810の後端側において開口した端部である。シース管後端部819からシース管810の内部に中軸部材200の中軸部材先端部210が配置されている。シース管810は、パッキン600と絶縁粉末840とによって、中軸部材200から電気的に絶縁される。パッキン600は、軸線O方向においてシース管810の後端側に位置し、中軸部材200とシース管810との間に挟まれた絶縁部材である。シース管810は、主体金具500とは電気的に接続されている。
制御コイル830は、発熱コイル820を形成する材料よりも電気比抵抗の温度係数が大きい導電材料で形成されたコイルである。この導電材料としては、ニッケルが好ましく、この他、例えば、コバルトやニッケルを主成分とする合金でもよい。制御コイル830は、シース管810の内側に設けられ、発熱コイル820に供給される電力を制御する。制御コイル830は、先端側の端部である制御コイル先端部831と、後端側の端部である制御コイル後端部839とを備える。制御コイル先端部831は、発熱コイル820の発熱コイル後端部829に溶接されることによって、発熱コイル820と電気的に接続される。制御コイル後端部839は、中軸部材200の中軸部材先端部210に接合されることによって中軸部材200と電気的に接続される。
絶縁粉末840は、電気絶縁性を有する粉末である。絶縁粉末840としては、例えば、酸化マグネシウム(MgO)の粉末が用いられる。絶縁粉末840は、シース管810の内側に充填され、シース管810と、発熱コイル820と、制御コイル830と、中軸部材200との各隙間を電気的に絶縁する。
発熱コイル820は、導電材料で形成されたコイルである。発熱コイル820は、シース管810の内側に軸線O方向に沿って配置され、通電によって発熱する。発熱コイル820は、先端側の端部である発熱コイル先端部821と、後端側の端部である発熱コイル後端部829とを備える。発熱コイル先端部821は、シース管810の先端付近に溶接されることによってシース管810と電気的に接続される。
図3は、シース管810と発熱コイル820との溶接前における先端付近の断面図である。シース管810は、発熱コイル820と溶接される前において、第1の円筒部813と、縮径部814と、第2の円筒部815とを備える。第1の円筒部813は、軸線O方向について径がほぼ一定の部位である。縮径部814は、円筒部813の先端側に接続されている。縮径部814は、先端に向かうにつれて縮径する部位である。第2の円筒部815は、縮径部814の先端に接続されており、軸線O方向について径がほぼ一定の部位である。縮径部814は、自身の先端に開口816を有している。開口816は、縮径部814と第2の円筒部815との境界における空隙である。
発熱コイル820は、シース管810と溶接される前において、螺旋部823と、直線部824とを備える。螺旋部823は、螺旋形状を有する部位である。直線部824は、直線形状の部位であり、螺旋部823の先端側に接続する部位である。直線部824の先端は、溶接前における発熱コイル820の先端である。
発熱コイル820は、溶接の前に、直線部824を開口816内に到達させた状態に配置される。本実施形態においては、直線部824が、第2の円筒部815の先端側の開口を貫通するように配置される。直線部824は、図3に示されるように、軸線Oに対して斜めに延びるように形成されている。この配置で、シース管810と発熱コイル820との溶接が開始される。溶接後、溶融部850が形成され、先端付近は図2に示された形状になる。本実施形態における溶接は、アーク溶接によって実現する。
図4は、シース管810と発熱コイル820との溶接後における溶融部850付近の断面図である。溶融部850は、発熱コイル820とシース管810とが溶融した状態で混ざり合い、その後、固まって形成された部位であり、図4ではハッチングで示されている。溶融部850の外表面は、シース管先端部811を形成する。図4に示された筒部860は、シース管810から溶融部850を除いて残った部位であり、軸線O方向に延びる筒状の部材である。溶融部850は、このように溶接によって形成されるので、発熱コイル820の主成分と、筒部860の主成分とを少なくとも含有する。ここでいう主成分とは、最も質量%が多い成分のことであり、その値は50質量%未満でも50質量%以上でもよい。
図4を用いて、溶融部850の成分分析について説明する。これから説明する分析は、溶融部850と筒部860との境界付近を対象とする。分析対象の部位は以下のように決定する。図4における軸線Oの左側において、溶融部850と筒部860との界面上の最先端側の点A、最後端側の点Bをとり、点Aと点Bとを通過する直線Wを引く。よって、直線Wが溶融部850と筒部860との界面であるとは限らない。
溶融部850と筒部860との界面は、例えば、断面を鏡面仕上げした後、シュウ酸二水和物による電解エッチングを行い、拡大した画像に基づき目視で決定する。
直線Wを軸線O側に0.3mm並進させた直線Xを引く。溶融部850上の直線Xに沿って10μm間隔でライン状に分析する。この分析によって得られた各点におけるアルミニウムの含有率の平均値を、境界付近のアルミニウムの含有率として算出する。但し、溶融部850の表面から0.03mmまでは酸化被膜が含まれる可能性が高いため、分析結果から除外する。
同様に、図4における軸線Oの右側において、溶融部850と筒部860との界面上の最先端側の点C、最後端側の点Dをとり、点Cと点Dとを通過する直線Yを引く。直線Yを軸線O側に0.3mm並進させた直線Zを引く。溶融部850上の直線Zに沿って10μm間隔でライン状に分析する。但し、溶融部850の表面から0.03mmまでは酸化被膜が含まれる可能性が高いため、分析結果から除外する。
上記のように分析部位を決定したのは、この部位にクラックが発生しやすいと考えられるからである。ここでいうクラックとは、界面に生じる亀裂のことである。靱性が低い金属間化合物は、溶融部850と筒部860との境界付近に発生しやすく、且つ、熱膨張特性が元の金属と異なる。加えて、境界付近は機械的にも弱い。このため、熱膨張と熱収縮とが繰り返し発生すると、境界付近の界面にクラックが発生する場合がある。本実施形態では、その境界付近の一例として上記の部位を採用する。
分析の手順を説明する。第1のステップとして、EPMAのWDSを用いて、溶融部850における定性分析を実施する。この分析によって、溶融部850に含まれる元素を特定し、最大質量%の元素を主成分とする。EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)とは、電子線マイクロアナライザのことである。WDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)とは、波長分散型X線分光器のことである。
第2のステップとして、EPMAの測定条件を決定する。この決定は、分析精度を高めるために実施される。この条件は、第1のステップで特定した主成分の検出において、X線の大量入射による数え落としが起こらないビーム電流量で、測定カウント数が1万カウント以上得られることが満たされるように決定される。
第3のステップとして、第1のステップで特定した元素を第2のステップで決定した条件で定量分析し、先述した複数の分析対象点の平均値をアルミニウムの含有率として算出する。加速電圧は20kV、プローブ電流2.5×10−8A、ビームの照射径10μmで主ピークを10秒、バックグラウンドを高角、低角側それぞれ5秒ずつ取り込む。正味の強度から各元素のCPS(Count Per Second)を得て、同条件で分析した比較試料(ASTIMEX社製標準試料)のCPSを用いてZAF法によって定量計算を実施する。この比較試料は、アルミニウムの含有率が予め分析されている。ZAFとは、原子番号効果(Z effect)と、吸収効果(Absorption effect)と、蛍光励起効果(Fluorescence excitation effect)とに基づく頭字語である。この定量計算の際、含有率の合計が100%となるようにノーマライズ(規格化)する。
上記の手法によって、後述する実験No.4-16,18(図6参照)を対象に境界付近のアルミニウムの含有率を算出した結果、実験No.4-16,18の何れにおいても5質量%未満であった。
図4に示すように、溶融部850の厚さTを定義する。厚さTは、図4に示されるように軸線Oを含む断面において、溶融部850の軸線O上における厚さとして定義される。
次に、溶融部850の表面付近を対象とした成分分析について説明する。表面付近を対象とした成分分析は、アルミニウム、クロム及び鉄それぞれの質量%を分析するために実施する。図5は、この分析の対象となる部位をハッチングで示す。図5は、図4と同様、溶融部850付近の断面図である。分析対象となる部位は、溶融部850の表面から深さが0.03mmから0.2mmまでの範囲である。ここでいう深さの方向は、図5に示されるように、表面に対して垂直方向である。0.03mmまでの範囲を除外するのは、先述したように、酸化被膜を分析対象から除外するためである。
さらに、シース管810との境界付近も、分析対象となる部位から除外する。具体的には、図5に示すように、直線W,Yから0.5mm未満の領域を除外する。シース管810と溶融部850との境界付近は、EPMAで分析すると、位置が少し変わるだけで、主成分の含有率が大きく変動したり、主成分に該当する元素が入れ替わったりする。このような部位は、溶融部850における平均含有率の測定対象としては相応しくないので除外する。さらに、発熱コイル820と溶融部850との境界付近についても、測定対象から除外する。但し、厚さTが厚く、発熱コイル820と溶融部850との境界が、分析対象となる部位と離れている場合は、境界付近を測定対象から除外するまでもない。
分析対象の部位から選択された所定数の点(例えば10点)それぞれのアルミニウムの含有率を求め、それらの平均値を表面付近におけるアルミニウムの平均含有率として算出する。クロムと鉄とについても同様に平均含有率を算出する。各点を対象とした分析は、境界付近における分析として説明した第1〜第3のステップと同じ手法で実施する。但し、ビームの照射径を100μmに変更した。分析対象点の選択は、例えば、ランダムに実施してもよいし、できるだけ分散するように実施してもよい。
図6は、溶融部850の表面付近における平均含有率比C/A(後述)と、耐久性(後述)との関係を調べた実験結果をテーブルによって示す。図6には、各実験No.についての溶融部850におけるアルミニウム及びクロムの平均含有率を実現するために用いた発熱コイル820及び筒部860の組成(質量%)も示した。なお、何れの実験No.についても、実験前における厚さTは0.4mmであり、溶融部850における鉄の平均含有率は17質量%以上21質量%以下であった。
何れの実験No.についても、発熱コイル820の成分の合計値は99.8%であり、筒部860の成分の合計値は99.7%である。発熱コイル820及び筒部860それぞれについて100%に満たない分として、微少添加物や不純物が含まれている。不純物とは、例えば、炭素、ケイ素、チタン、マンガン等である。
上記の平均含有率比C/Aとは、溶融部850におけるクロムの平均含有率を、溶融部850におけるアルミニウムの平均含有率で除算して得られる商のことである。上記の耐久性とは、先述したクラックと、先述した酸化消耗と、発熱コイル820の断線(以下、「断線」といえば発熱コイル820の断線を意味する。)とに関する耐久性のことである。
耐久試験として、グロープラグ10に熱負荷を与えた。熱負荷の条件は、次の通りである。グロープラグ10に対して、断線が発生するまで、加熱と冷却とを繰り返し施した。但し、クラックと酸化消耗とについては、8000サイクル完了時において、一旦、熱負荷を中断して評価した。
1サイクルの加熱は、グロープラグ10の表面が1150℃になるように20秒間、実施した。1サイクルの冷却は、冷却開始から1秒後に149℃低下することを条件に、60秒間、実施した。なお、これら実験条件としての数値は、全て例示であり、再現実験の際には、どのように変更してもよい。例えば、冷却開始から1秒後に低下する温度は139-159℃であってもよいし、加熱時におけるグロープラグ10の表面温度は1140-1160℃であってもよい。グロープラグ10の表面の温度は、単色放射温度計を用い、測定時の放射率ε=1.0、測定スポット径2mmにて、シース管810のシース管先端部811から軸線O方向の後端側に2mmの位置を測定位置として測定した。
図6に示されたクラックの評価は、クラックの進展率に基づくものである。図7は、クラックの進展率の求め方を説明する図である。図7は、溶融部850と筒部860との境界付近を拡大した断面図であり、この境界付近にクラックKが発生した様子を示す。
クラックの進展率は、図7に示された長さL1を長さL2で除算することによって算出される。長さL1は、クラックの深さを示す。本実施形態におけるクラックの深さは、クラックの発生箇所k1と、クラックの先端k2とを結ぶ線分の長さとして定義される。一方、長さL2は、クラックの発生箇所k1と、交点k3とを結ぶ線分の長さとして定義される。交点k3は、クラックの発生箇所k1とクラックの先端k2とを結ぶ線分を延長した場合に、延長された線分とシース管810の外表面とが交じわる点である。
図6に示された評価Aは、クラックの進展率がゼロ、つまりクラックが発生しなかったことを意味する。評価Bは、クラックの進展率がゼロよりも大きく10%未満であることを意味する。評価Cは、クラックの進展率が10%以上15%未満であることを意味する。評価Dは、クラックの進展率が15%以上であることを意味する。
図6に示された酸化消耗の評価Aは、酸化消耗によって薄くなった分の厚さ(以下「消耗量」という)が0.05mm未満であることを意味する。評価Bは消耗量が0.05mm以上0.10mm未満、評価Cは消耗量が0.10mm以上0.15mm未満、評価Dは消耗量が0.15mm以上0.20mm未満であることを意味する。
図6に示された断線の評価Aとは、断線したサイクル数が12000以上であったことを意味する。評価Bとは、断線したサイクル数が11000以上12000未満であったことを意味する。評価Cとは、断線したサイクル数が10000以上11000未満であったことを意味する。評価Dとは、断線したサイクル数が10000未満であったことを意味する。
図6に示すように、実験No.18の断線の評価は、評価対象外とした。これは、評価Dのサンプルと比べても、少ないサイクル数で断線したからである。このように少ないサイクル数で断線したのは、溶融部850におけるアルミニウムの平均含有率の値が2.30質量%と低いため、雰囲気中の窒素が溶融部850を通過して、シース管810の内部に進入したからであると考えられる。この現象は、特に8000サイクル以降で発生すると考えられる。これに対し、溶融部850におけるアルミニウムの平均含有率が2.40質量%以上の場合は、上記の現象は確認されなかった。よって、溶融部850におけるアルミニウムの平均含有率Aは、2.40質量%以上が好ましい。以下、実験No.18を除外して考察する。
平均含有率比C/Aが2.1以上の場合(実験No.4-17)、クラックの評価結果が評価C以上であった。よって、溶融部850の表面付近における平均含有率比C/Aは、2.1以上が好ましい。
平均含有率比C/Aが2.9以上の場合(実験No.6-17)、クラックの評価結果が評価B以上であった。よって、平均含有率比C/Aは、2.9以上が好ましい。
平均含有率比C/Aが3.5以上の場合(実験No.10-17)、クラックの評価結果が評価Aであった。よって、平均含有率比C/Aは、3.5以上が好ましい。
平均含有率比C/Aが6.7以下の場合(実験No.1-16)、酸化消耗の評価結果が評価C以上であった。よって、平均含有率比C/Aは、6.7以下が好ましい。
平均含有率比C/Aが5.4以下の場合(実験No.1-14)、酸化消耗の評価結果が評価B以上であった。よって、平均含有率比C/Aは、5.4以上が好ましい。
平均含有率比C/Aが1.2以上1.96以下の場合(実験No.1-2)、2.1以上2.9以下の場合(実験No.4-6)、及び3.5以上3.7以下の場合(実験No.10,11)、酸化消耗の評価結果が評価Aであった。よって、平均含有率比C/Aは、1.2以上1.96以下、2.1以上2.9以下または3.5以上3.7以下が好ましい。
平均含有率比C/Aが2.1以上6.7以下の場合(実験No.4-16)、発熱コイル820の断線の評価結果は評価C以上であった。よって、平均含有率比C/Aは、2.1以上6.7以下が好ましい。
平均含有率比C/Aが2.9以上5.4以下の場合(実験No.6-14)、発熱コイル820の断線の評価結果は評価B以上であった。よって、平均含有率比C/Aは、2.9以上5.4以下が好ましい。
平均含有率比C/Aが3.5以上3.7以下の場合(実験No.10,11)、発熱コイル820の断線の評価結果は評価Aであった。よって、平均含有率比C/Aは、3.5以上3.7以下が好ましい。
断線の評価結果は、クラックと酸化消耗との評価結果に対し、相関である。具体的には、実験No.1-17において、クラックと酸化消耗とで低い方の評価結果は、断線の評価結果と同じである。これは、断線が、クラックと酸化消耗とに影響されることを示唆している。その影響としては、次のものが考えられる。
発熱コイル820は、自身が窒化すればする程、脆くなって断線しやすくなると考えられる。但し、グロープラグ10の未使用時においては、シース管810が雰囲気中の窒素を遮断するため、シース管810内部に配置された発熱コイル820は殆ど窒化しない。ところが、グロープラグ10に対する加熱および冷却が繰り返されると、シース管810が窒素を遮断できなくなり、雰囲気中の窒素がシース管810内部に進入するようになる。この結果、発熱コイル820の窒化が進行する。シース管810が窒素を遮断できなくなる原因として、クラック及び酸化消耗が挙げられる。
クラックの発生部位は、シース管810の肉厚が薄くなるので窒素が透過しやすくなる。クラックが内表面から外表面まで貫通すれば、シース管810による窒素の遮断性は失われる。酸化消耗が進行する場合も、溶融部850の肉厚が薄くなることで、窒素が溶融部850を透過しやすくなる。
よって、断線を抑制するためには、クラックと酸化消耗との両方の耐久性を上げることが重要になる。そこで次から、平均含有率比C/A及び酸化消耗の関係、並びに平均含有率比C/A及びクラックの関係を考察する。
クラックの抑制については、アルミニウムの平均含有率が低いことが好ましい。溶融部850のアルミニウムの平均含有率が高いと、溶融部850と筒部860との境界付近に、アルミニウムを含む金属間化合物が生成しやすくなる。このような金属間化合物は、先述したように靱性が低かったり、或いは熱膨張係数が元の金属と異なったりする。この結果、溶融部850と筒部860との境界付近において、クラックが発生しやすくなる。この内容は、図6において、溶融部850におけるアルミニウムの平均含有率が低い実験No.の方が、クラックの評価結果が良好な傾向にあることに現れている。
酸化消耗については、クロムの平均含有率が低いことが好ましい。クロム及びアルミニウムを含む合金の場合、酸化被膜として、クロムの酸化物が表面に形成される。繰り返しの熱負荷が掛かると、先述したように酸化被膜の生成と剥離が繰り返され、急速に酸化消耗が進むことがあるので、酸化被膜は厚すぎないことが好ましい。クロムの平均含有率が低い方が、クロムの酸化被膜は厚くなりすぎず、更には緻密に形成されるので、酸化消耗が抑制される。このことは、溶融部850におけるクロムの平均含有率が低い実験No.の方が、酸化消耗の評価結果が良好であることに現れている。
但し、アルミニウム及びクロムそれぞれについて、平均含有率が少なければ少ない程、好ましいとはいえない。アルミニウムの平均含有率が低すぎると、実験No.18のように、溶融部850から窒素を遮断する機能が失われてしまう。さらに、アルミニウムの酸化被膜は緻密であり、内部を酸化から保護する機能を発揮するため、アルミニウムの平均含有率は低すぎない方が好ましい。
クロムの平均含有率については、値が高い場合、クラックを抑制する場合があると考えられる。このことは、実験No.4,5(アルミニウムの平均含有率が3.60質量%以上3.80質量%以下)のクラックの評価結果が評価Cであったのに対し、実験No.7,8(アルミニウムの平均含有率が4.00質量%以上4.50質量%以下)のクラックの評価結果が評価Bであったことに基づく。このようにアルミニウムの平均含有率が高い方がクラックの評価結果が良好であったのは、実験No.4,5のクロムの平均含有率が8.0質量%であったのに対し、実験No.7,8のクロムの平均含有率が13.0質量%以上15.0質量%以下であったことに依存すると考えられる。
上記の実験結果は、好ましい平均含有率比C/Aの値によって、断線を抑制できることを示している。
発熱コイル820の断線について評価C以上が得られた実験No.4-16において、アルミニウムの平均含有率は2.4質量%以上である。よって、アルミニウムの平均含有率は2.4質量%以上が好ましい。実験No.4-16において、アルミニウムの平均含有率は4.5質量%以下である。よって、アルミニウムの平均含有率は4.5質量%以下が好ましい。
実験No.4-16において、クロムの平均含有率は8.0質量%以上である。よって、アルミニウムの平均含有率は8.0質量%以上が好ましい。実験No.4-16において、アルミニウムの平均含有率は16.0質量%以下である。よって、アルミニウムの平均含有率は16.0質量%以下が好ましい。
実験No.4-16において、発熱コイル820は、アルミニウムの含有率が3.8質量%以上10質量%以下であり、クロムの含有率が13.1質量%以上20.3質量%以下であり、鉄の含有率が69.5質量%以上80.3質量%以下である。よって、これらの値は好ましい。
実験No.4-16において、筒部860は、アルミニウムの含有率が1.2質量%以上2.2質量%以下であり、クロムの含有率が14.5質量%以上22.1質量%以下であり、ニッケルの含有率が66.1質量%以上である。よって、これらの値は好ましい。
実験No.4-16における溶融部850は、先述したように、筒部860との境界付近において、アルミニウムの含有率が5質量%未満である。これによって、溶融部850と筒部860との境界においてアルミニウムを含む金属間化合物の生成が少なくなり、筒部860との境界付近におけるクラックが抑制されると考えられる。
溶融部850は、先述したように、鉄の平均含有率が17質量%以上21質量%以下である。鉄の平均含有率が17質量%以上21質量%以下であると、凝集した鉄が、酸化消耗に伴って表面に露出することが防止される。凝集した鉄は、表面に露出すると急激に酸化し、酸化消耗を局所的に促進する。よって、鉄は、溶融部において凝集していないことが好ましい。これを実現するためには、上記のように、鉄の平均含有率が17質量%以上21質量%以下であることが好ましい。
続いて、溶融部850の厚さT(図4参照)の影響について調べた実験結果を説明する。図8は、厚さTと、発熱コイル820の断線との関係を調べた実験結果をテーブルによって示す。この実験は、実験No.16と同じ組成であることを条件に、実験前における厚さTを変化させ、断線の評価結果がどのように変わるかを調べたものである。
図8に示されるように、厚さTが0.3mmの場合(実験No.19)と、1.2mmの場合(実験No.23)とについては、断線の評価結果は実験No.16と同じで評価Cのままであった。これに対し、厚さTが0.5mm以上1.0mm以下の場合(実験No.20-22)、断線の評価結果は評価Bになった。よって、厚さTは、0.5mm以上1.0mm以下が好ましい。
上記のように厚さTが0.5mm以上1.0mm以下であると、断線の評価結果が良好になる理由は、次のように考えられる。厚さTが厚ければ、多少の酸化消耗が発生しても、溶融部850の厚さが確保されているので、溶融部850が窒素を遮断する能力は維持される。この結果、発熱コイル820の窒化が抑制され、断線の評価結果が良好になったと考えられる。
厚さTが1.2mmであると、断線の評価結果が評価Cになる理由は、次のように考えられる。溶融部850が厚ければ厚い程、溶融部850の熱容量が大きくなる。この結果、溶融部850が厚ければ厚い程、所定部位の表面温度を目標値にするために、発熱コイル820による発熱量を増大させる必要があり、加熱時における発熱コイル820の温度が高くなる。上記の所定部位とは、シース管810の表面の一部であって、シース管先端部811から後端側に2mm、軸線O方向に沿ってずれた部位である。このため、上記の耐久試験において、発熱コイル820の負荷が高くなり、11000サイクルに達する前に断線が発生したと考えられる。
厚さTの変化が断線に与える影響は上記の通りなので、厚さTが0.5mm以上1.0mm以下であれば、実験No.16の組成に限られず他の組成であっても、同様な理由で断線の評価結果が良好になると考えられる。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。例えば、以下のものが例示される。
図9は、他の実施形態として、シース管810と発熱コイル820aとの溶接前の形状を示す。発熱コイル820aは、実施形態における発熱コイル820を代替するものである。発熱コイル820aは、発熱コイル820の直線部824の代わりに、直線部824aを備える。直線部824aは、図9に示されるように、軸線Oとほぼ平行に延びるように形成されている。
図10は、さらに他の実施形態として、シース管810と発熱コイル820bとの溶接前の形状を示す。発熱コイル820bは、実施形態における発熱コイル820を代替するものである。発熱コイル820bの先端は、図10に示されるように、開口から突き出た部位が密巻きに形成されている。つまり、溶接前における発熱コイル820bは、直線部を有さない。
この他、溶接前の発熱コイルの形状は、図3,図9,図10に示されたものとは異なる形状であってもよい。例えば、直線部の長さは、図3,図9に示した長さより短くてもよい。例えば、発熱コイルを溶接のために配置した際に、直線部の先端が、第2の円筒部内に配置される長さでもよい。つまり、直線部は、発熱コイルを溶接のために配置した際に、第2の円筒部から突き出なくてもよい。
溶接前のシース管の形状は、図3,図9,図10に示されたものとは異なる形状であってもよい。例えば、溶接前のシース管の形状は、第2の円筒部を備えなくてもよい。この場合、縮径部の先端が、溶接前のシース管の先端である。縮径部の先端が溶接前のシース管の先端である場合、直線部を縮径部の開口内に到達させると、直線部がシース管の先端から突き出ることになる。この他、溶接前のシース管の形状として、縮径部の先端に、第2の円筒部とは異なる形状の部位が接続されていてもよい。例えば、先端に向かうにつれて拡径する部位が接続されていてもよい。
溶融部のアルミニウムの含有率を分析する手法は、実施形態に示したものに限られない。分析に用いる機器を変更してもよいし、分析する部位を変更してもよい。例えば、クラックが発生しやすい部位を選定して、その部位を分析対象としてもよい。例えば、アルミニウムが最も凝集している部位を、クラックが発生しやすい部位として選定してもよい。アルミニウムが最も凝集している部位は、例えば、アルミニウムの含有率の分布を示した画像に基づき、観察者が選定してもよい。この画像の倍率は、例えば、30倍であってもよい。測定点の数および間隔は、耐久性を評価するのに適切なものとなるように、適宜、変更してもよい。
本願における溶融部とは、発熱体の外周に配置され、軸線方向に延びる筒部と、少なくとも筒部の主成分及び発熱体の主成分を含有し、筒部の先端を閉塞する部位のことを指し、溶接を用いて製造される部位に限られない。