以下、実施形態について、各図を参照しながら説明する。以下に記載する方向は、鞍乗型車両1の運転者から見た方向であり、左右方向は、車幅方向と一致している。図1は、実施形態に係る鞍乗型車両1の前部の右前上方から見た斜視図である。図2は、図1の鞍乗型車両1の前側上部の左側面図である。
図1及び2に示すように、鞍乗型車両1は、一例として自動二輪車であって、前後方向に延びる車体15を備えており、走行時には前方から走行風を受ける。また鞍乗型車両1は、車体フレーム2、走行用のエンジン3、燃料タンク4、ステアリング部材5、一対のフロントフォーク6、前輪7、フロントフェンダ8、ハンドル9、一対のヘッドランプ10、カウル11、ウインドシールド12、及び一対の空力デバイス13、14を備える。また鞍乗型車両1は、図示しない車体15の後部において、運転者が騎乗するシート、後輪、前記後輪を軸支するスイングアーム、及びリヤフェンダを備える。
車体フレーム2は前後方向に延び、一対のヘッドランプ10、エンジン3、及び燃料タンク4を支持している。車体フレーム2の前部には、ヘッドパイプ2aが設けられ、ヘッドパイプ2aには、ステアリング部材5の車幅方向中央に設けられたステアリングステム5aが軸支されている。ステアリング部材5は、一対のフロントフォーク6を支持している。ステアリング部材5の上部には、ハンドル9が固定されている。一対のフロントフォーク6の下部には、前輪7が軸支されている。前輪7の上方における一対のフロントフォーク6の間隙には、フロントフェンダ8が配置されている。一対のヘッドランプ10は、車体フレーム2の前部に支持されている。
カウル11は、車体15を覆うカバー体であって、カウル11の左半分と右半分とが左右対称に形成されている。カウル11は、フロントカウル11aとサイドカウル11bとを有する。
フロントカウル11aは、車体15の前部を覆っている。フロントカウル11aの上面11cは、フロントカウル11aの前端部11dから後方に向けて上がり勾配に傾斜して延びている。上面11cの車幅方向の寸法は、前端部11dから後方に進むにつれて増大している。フロントカウル11aの上面11cは、前端部11dから空力デバイス13、14に向けて進むにつれて、車幅方向内側から外側に向けて傾斜しながら延びている。
フロントカウル11aの前端部11dよりも後方に位置する部分には、座部11eが形成されている。座部11eには、ボルト等の取付具を用いて、空力デバイス13、14の取付部14fが取り付けられている。
フロントカウル11aの上部には、ウインドシールド12が配置されている。ウインドシールド12は、フロントカウル11aの車幅方向の中央で前後方向に延びている。サイドカウル11bは、フロントカウル11aの後方且つ車幅方向両側で、上下方向に延び、車体フレーム2の左右側部を覆っている。
一対の空力デバイス13、14は、フロントカウル11aの上面11cの車幅方向両外側で、左右対称の位置に取り付けられている。車体15の側面視において、一対の空力デバイス13、14は、ステアリングステム5aよりも前方で、鉛直方向に前輪7の一部と重なる位置に配置されている。一対の空力デバイス13、14は、車体重心Cよりも前方及び上方に配置されている。
一対の空力デバイス13、14は、互いに左右対称な形状を有する。以下、空力デバイス13、14について、空力デバイス14を例に説明する。図3は、図1の空力デバイス14の下面図である。図3では、翼型部14a、旋回流発生部14b、14c、及び延長部14d、14eの各位置を破線で示している。
図3に示すように、空力デバイス14には、本体部分14vと角部分14wとが形成されている。本体部分14vは、少なくとも車体15への取付部分から車幅方向外側に延びている。角部分14wは、本体部分14vの車幅方向内側部分から前方に突出して、前後方向に延びている。角部分14wは、前方に進むにつれて車幅方向寸法が小さくなっている。本実施形態では、空力デバイス14は、本体部分14vと角部分14wとにより、上面視において大略的にL字形状に形成されている。
具体的に上面視において、本体部分14vは、車幅方向外側に進むにつれて後方に傾斜する平行四辺形状に形成されている。角部分14wは、後端で本体部分14vの前端に接続されている。角部分14wは、前方に進むにつれて車幅方向寸法が小さくなる三角形状に形成されている。
空力デバイス14は、本体部分14vの前縁部分のうち、車幅方向外側が、車幅方向内側に比べて後方に後退して形成されている。また、本体部分14vの前縁部分のうち、車幅方向内側と車幅方向外側とは、平行に延びている。
空力デバイス14は、平滑な表面に形成され、翼型部14a、旋回流発生部14b、14c、延長部14d、14e、翼端部14p、及び取付部14fを備える。翼型部14aは、空力デバイス14の本体部分14vのうち、車幅方向中間に位置する。翼端部14pは、空力デバイス14の本体部分14vのうち、車幅方向外側端に位置する。取付部14fは、空力デバイス14の本体部分14vのうち、車幅方向内側端に位置する。旋回流発生部14b、14cは、翼型部14aと車幅方向に離れて、翼型部14aの前側に位置する。延長部14d、14eは、翼型部14aと車幅方向に隣接し、旋回流発生部14b、14cの後側に位置する。
翼型部14aは、その車幅方向の一端側が、車体15寄りに向くように配置されている。翼型部14aは、車幅方向を長手方向として延びている。翼型部14aは、車幅方向に延びて形成された前縁部分14gを有する。
図4は、図1の空力デバイス14のIV−IV線矢視断面図である。図4では、翼型部14aの車幅方向に垂直な断面と、旋回流発生部14bの外表面とを示している。
図4に示すように、翼型部14aは、空力デバイス14が取付部14fを介して車体15に取り付けられた状態で、走行風が前後方向に通過することでダウンフォースが与えられる翼型に形成されている。
翼型部14aの前部の鉛直方向寸法は、前方に向かうにつれて小さくなっている。翼型部14aの後部の鉛直方向寸法は、後方に向かうにつれて小さくなっている。翼型部14aの下面は、翼型部14aの上面よりも大きい曲率半径で下方に突出する曲面に形成されている。言い換えると、翼型部14aは、車幅方向に垂直な断面において、翼型部14aの下面の輪郭線の線長が、翼型部14aの上面の輪郭線の線長よりも長くなるように形成されている。
これにより、翼型部14aの下面に沿って流れる走行風の流速が、翼型部14aの上面に沿って流れる走行風の流速よりも速くなる流速差が生じる。この速度差により、翼型部14aよりも下方の気圧が翼型部14aよりも上方の気圧に比べて低くなり、翼型部14aに下方に向かう力、すなわちダウンフォースが与えられる。
旋回流発生部14b、14cは、車体15に取付部14fを介して取り付けられた状態で、翼型部14aの前方で走行風を案内することで、前後方向の成分を含む方向を軸方向X1、X2とする軸周りに旋回して翼型部14aの下面に沿って後方に流れる旋回流20を生じさせる(図7参照)。
図3に示すように、旋回流発生部14b、14cは、案内面形成部であり、前縁部分14gよりも前方で、少なくとも翼型部14aの下方に位置する案内面14j、14kが形成されている。旋回流発生部14b、14cは、走行風を案内面14j、14kに当てて案内方向Q1、Q2に案内する(図8参照)。これにより、翼型部14aの下方を流れる走行風が、翼型部14aの下面から剥離するのを防止すると共に、翼型部14aの下方において旋回流20を生じ易くする。
旋回流発生部14b、14cの前端は、旋回流発生部14b、14cの後端に比べて、翼型部14aに対して車幅方向に遠ざかる位置に配置されている。これによって案内面14j、14kは、後方に進むにつれて車幅方向に翼型部14aに対して近づく方向に傾斜して形成される。
案内面14j、14kは、旋回流発生部14b、14cのうちで、翼型部14aに臨む面として形成される。案内面14j、14kは、翼型部14aの前縁部分14gに沿って延びる方向(方向P)に対する交差方向に延びている。この交差方向は、前後方向の成分を含んでいる。
以下、旋回流発生部14bは内側発生部14b、旋回流発生部14cは外側発生部14cとも称する。すなわち本実施形態では、旋回流発生部には、内側発生部と外側発生部とが含まれる。案内面14jは内側案内面14j、案内面14kは外側案内面14kとも称する。
内側発生部14bは、翼型部14aよりも車幅方向内側に配置される。内側発生部14bは、翼型部14aにおける前縁部分14gの車幅方向内側よりも前方に突出している。内側案内面14jは、翼型部14aの前方に位置して形成されている。内側案内面14jは、方向Pに対して前方に屈曲する方向(案内方向Q1)に延びている。
図3及び4に示すように、内側案内面14jは、翼型部14aの前縁部分14gよりも前方で、少なくとも翼型部14aの前縁部分14gの下方に位置する領域を有する。本実施形態では、内側案内面14jは、内側発生部14bの前端から後端まで延び、後端で翼型部14aの前縁部分14gに連なっている。
内側発生部14bと翼型部14aとの平面視において、内側案内面14jの前方から後方に向かって延びる方向と、車幅方向に垂直な面Nの前方から後方に向かって延びる方向との間の角度θ1は、翼型部14aの前縁部分14gの前方から後方に向かって延びる方向と、面Nの前方から後方に向かって延びる方向との間の角度θ2よりも小さい値に設定されている。
図3に示すように、外側発生部14cは、翼型部14aよりも車幅方向外側に配置される。外側発生部14cは、翼型部14aにおける前縁部分14gの車幅方向外側よりも前方に突出している。外側発生部14cの前縁部分14uは、翼型部14aの前縁部分14gと平行に延びている。
外側案内面14kは、翼型部14aの前方に位置して形成されている(図6参照)。外側案内面14kは、方向Pに対して前方に屈曲する方向(案内方向Q2)に延びている。案内方向Q1、Q2は、ここでは互いに異なる方向であるが、互いに同一の方向であってもよい。
外側案内面14kは、翼型部14aの前縁部分14gよりも前方で、少なくとも翼型部14aの前縁部分14gの下方に位置する領域を有する。本実施形態では、外側案内面14kは、外側発生部14cの前端から後端まで延び、後端で翼型部14aの前縁部分14gに連なっている。
図5は、図2の空力デバイス14のV−V線矢視断面とVII−VII線矢視断面とを示す図である。図5は、車幅方向に直交して内側発生部14bの前端と内側延長部14dの後端とを結ぶ直線T方向から見た各断面を重ねて示している。V−V線矢視断面は、内側延長部14d、翼型部14a、及び外側延長部14eの断面を示している。VII−VII線矢視断面は、内側発生部14bと外側発生部14cとの断面を示している。図5では、VII−VII線矢視断面を破線で示している。
図5に示すように、案内面14j、14kは、前後方向に垂直な断面において、少なくともその下端領域(本実施形態では全体領域)が、下方に進むにつれて翼型部14aに対して遠ざかる方向に傾斜して形成されている。具体的に内側案内面14jは、下方に進むにつれて車幅方向内方に向かう方向に傾斜して形成されている。また外側案内面14kは、下方に進むにつれて車幅方向外方に向かう方向に傾斜して形成されている。
図2及び5に示すように、直線T方向から見て、内側発生部14bは、内側延長部14dを直線T方向に投影した投影面積S1の内側領域に配置されている。また、直線T方向から見て、外側発生部14cは、外側延長部14eを直線T方向に投影した投影面積S2の内側領域に配置されている。よって空力デバイス14では、投影面積S1、S2を大きくすることなく、走行抵抗の増加が抑えられている。
延長部14dは内側延長部14d、延長部14eは外側延長部14eとも称する。すなわち本実施形態では、延長部には、内側延長部と外側延長部とが含まれる。図3に示すように、内側延長部14dは、内側発生部14bの後部に連なっている。内側延長部14dは、翼型部14aよりも車幅方向内側に配置されている。外側延長部14eは、外側発生部14cの後部に連なっている。外側延長部14eは、翼型部14aよりも車幅方向外側に配置されている。
延長部14d、14eの上面と旋回流発生部14b、14cの上面とは、円滑に連なっている。延長部14d、14eの上面は、隣接する翼型部14a及び旋回流発生部14b、14cの上面に対して、面一に形成されている。言い換えると、翼型部14aの上面の延長面に沿って、延長部14d、14eの上面と旋回流発生部14b、14cの上面とが延びている。延長部14d、14eは、翼型部14aを車幅方向に延長する方向に延びている。
翼端部14pは、空力デバイス14の車幅方向外側に設けられて前後方向に延びると共に、外側延長部14eの車幅方向外側から下方に延びている。外側延長部14eの上面と翼端部14pの上面とは、曲面状に連続している。また外側延長部14eの下面と翼端部14pの下面とは、曲面状に連続している。
取付部14fは、前後方向に延び、空力デバイス14の車幅方向内側に設けられて車体15に取り付けられている。本実施形態では、取付部14fは、ボルト及びナット等の締結部材を用いてフロントカウル11aに着脱可能に取り付けられる。これにより、鞍乗型車両1では、空力デバイス14をフロントカウル11aに対して容易に付け替えることが可能である。
図6は、図1の空力デバイス14のVI−VI線矢視断面図である。図6では、翼型部14aの車幅方向に垂直な断面と、外側発生部14cの外表面とを示している。図3、4、及び6に示すように、案内面14j、14kは、前縁部分14gよりも前方で、少なくとも翼型部14aの下方に位置している。外側案内面14kの前後方向寸法は、内側案内面14jの前後方向寸法よりも小さい。外側案内面14kの鉛直方向の最大寸法は、内側案内面14jの鉛直方向の最大寸法よりも小さい。
外側案内面14kの最も前方に位置する前端部分14sは、内側案内面14jの最も前方に位置する前端部分14tよりも後方に配置されている。前端部分14s、14tは、一例として、空力デバイス13、14の前後方向中央よりも前方に位置している。
案内面14j、14kの上下方向寸法は、前方から後方に向けて増大している。案内面14j、14kの表面は、前縁部分14gの表面に接続されている。内側案内面14jと前縁部分14gの表面との接続部分16の上方において、内側案内面14jの上端縁は、翼型部14aの上面に連なっている。接続部分16の下方において、内側案内面14jの下端縁は、翼型部14aの下面に連なっている。
また、外側案内面14kと前縁部分14gの表面との接続部分17の上方において、外側案内面14kの上端縁は、翼型部14aの上面に連なっている。接続部分17の下方において、外側案内面14kの下端縁は、翼型部14aの下面に連なっている。
車幅方向に垂直な断面において、内側延長部14dと外側延長部14eとの断面形状は、隣接する翼型部14aの断面形状に同一又は類似する形状に形成されている。旋回流発生部14b、14c及び延長部14d、14eは、走行風が旋回流発生部14b、14c及び延長部14d、14eを前後方向に通過することでダウンフォースが与えられる翼型に形成されている。
空力デバイス14では、旋回流発生部14b、14c及び延長部14d、14eの下面に沿って流れる走行風の流速が、旋回流発生部14b、14c及び延長部14d、14eの上面に沿って流れる走行風の流速よりも速くなる流速差が生じる。よって、旋回流発生部14b、14c及び延長部14d、14eよりも下方の気圧が、旋回流発生部14b、14c及び延長部14d、14eよりも上方の気圧に比べて低くなり、旋回流発生部14b、14c及び延長部14d、14eにダウンフォースが与えられる。
空力デバイス14には、隣接面14m、14nが形成されている。隣接面14m、14nは、翼型部14aの下面に対して車幅方向に隣接して形成されている。隣接面14m、14nは、翼型部14aの下面に臨んで、翼型部14aの下面よりも下方に突出している。隣接面14mは内側隣接面14m、隣接面14nは外側隣接面14nとも称する。すなわち本実施形態では、隣接面には、内側隣接面と外側隣接面とが含まれる。
隣接面14m、14nは、案内面14j、14kと同様に、方向Pに対する交差方向に延びている。また図5に示すように、隣接面14m、14nは、案内面14j、14kと同様に、前後方向に垂直な断面において、少なくともその下端領域が、下方に進むにつれ、翼型部14aに対して車幅方向に遠ざかる方向に傾斜して形成されている。
内側隣接面14mは、内側延長部14dに形成され、内側案内面14jの後方に配置されている。内側隣接面14mは、内側案内面14jの延びる方向に延長して延びている。本実施形態では、内側隣接面14mは、内側案内面14jに沿って後方に延びている。内側隣接面14mは、内側案内面14jと前後方向に滑らかに連なっている。本実施形態では、内側案内面14jは、前後方向に垂直な断面において、下方に進むにつれて車幅方向内方に向かう方向に傾斜して形成されている。
外側隣接面14nは、外側延長部14eに形成され、外側案内面14kの後方に配置されている。外側隣接面14nは、外側案内面14kの延びる方向に延長して延びている。本実施形態では、外側隣接面14nは、外側案内面14kに沿って後方に延びている。外側隣接面14nは、外側案内面14kと前後方向に滑らかに連なっている。本実施形態では、外側隣接面14nは、前後方向に垂直な断面において、下方に進むにつれて車幅方向外方に向かう方向に傾斜して形成されている。
図7は、図1の空力デバイスの左前下方から見た旋回流20を示す斜視図である。図8は、図1の空力デバイスの下方から見た旋回流20を示す図である。図7及び8では、空力デバイス14の下方で生じる旋回流20を模式的に示している。
鞍乗型車両1では、フロントカウル11aの上面11cが、前端部11dから空力デバイス13、14に向けて進むにつれて、車幅方向内側から外側に向けて傾斜しながら延びているので(図1参照)、上面11cを流れる走行風が、空力デバイス13、14に導かれて集められ易くなっている。
空力デバイス14では、走行風が案内面14j、14kにより案内方向Q1、Q2に案内されることで、案内方向Q1、Q2に延びる軸回りに旋回しながら翼型部14aの下方を後方に向けて流れる旋回流20が生じる。具体的に旋回流20は、前後方向成分を含む方向を軸方向X1、X2とする軸周りに旋回して翼型部14aの下面に沿って後方に流れるように形成される。ここで、案内面14j、14kの前端部分14s、14tが、空力デバイス14の前後方向中央よりも前方に位置しているので、旋回流20が空力デバイス14の前後方向中央よりも前方で生じ易くなっている。
また、内側発生部14bにより形成された旋回流20は、車幅方向内側から外側に向けて後方に延びるように形成される。これにより旋回流20は、翼型部14aの下面を斜め方向に流通する。旋回流20の旋回半径は、旋回流20が後方に進むにつれて増大する。案内面14j、14kは、後方に進むにつれて車幅方向に翼型部14aに対して近づく方向に傾斜して形成されているので、走行風が後方に進むにつれて車幅方向に翼型部14aに対して近づく方向に集まることで、強い旋回流20が形成される。
空力デバイス14の下方に旋回流20が形成されることにより、翼型部14aの下方を流れる走行風の指向性が高められ、翼型部14aから走行風が剥離するのが防止される。従って、翼型部14aにダウンフォースが安定して与えられる。本実施形態では、空力デバイス14は、複数の旋回流発生部14b、14cを備えるので、空力デバイス14の下方に形成される旋回流20により走行風の指向性が高まり易く、翼型部14aにダウンフォースが一層安定して与えられる。
また、外側案内面14kよりも車幅方向外側を流れる走行風は、翼端部14pにより前後方向に案内され、翼端部14pの車幅方向外側に流れ出るのが防止される。よって、空力デバイス14の下方に前後方向に走行風を流通させ易くでき、翼型部14aにダウンフォースが一層安定して与えられるようにできる。
図9は、図1の空力デバイス14の下方で生じる走行風の圧力分布のシミュレーション解析結果を示す図である。図9では、走行風の圧力が低い領域ほど濃い色で表している。旋回流20の旋回半径は、旋回流20が後方に進むにつれて増大する。本実施形態では、走行風の圧力の低い領域は、空力デバイス14の車幅方向全体に広がっている。これにより、空力デバイス14の下方において、空力デバイス14の車幅方向の全体領域から走行風が剥離するのが防止される。従って空力デバイス14には、その前後方向及び車幅方向のサイズを増大させなくても、大きなダウンフォースが与えられる。
図10は、空力デバイスを備える自動二輪車のダウンフォースと走行抵抗との関係を示すグラフである。当該グラフでは、旋回流発生部を備えない比較例の空力デバイスと、比較例の空力デバイスと同様の車幅方向のサイズを有し且つ旋回流発生部を備える実施例の空力デバイスを用い、同じ走行条件で測定したデータをプロットし、前輪揚力値と走行抵抗値とを相対値で示している。曲線Rは、比較例の空力デバイスの迎え角を変化させた場合の前輪揚力と走行抵抗との関係を示している。
図10の曲線Rに示すように、旋回流発生部を用いずに、迎え角を増大させて、空力デバイスに与えられるダウンフォースを増大させようとすると、前輪揚力の低下に限界が表れて前輪揚力値が飽和し、それ以降は走行抵抗が増大する傾向がみられた。
これに対して実施例では、迎え角を所定値に設定した場合、同様の迎え角に設定した比較例(図10中の黒四角)に比べて走行抵抗値の増大を抑制しながら、ダウンフォースを約9%まで増大(言い換えると、前輪揚力値を約9%まで低減)できた。このように実施例では、旋回流発生部を備えない空力デバイスの迎え角を単に増大させた場合に比べ、走行抵抗値の増大を抑えながら前輪揚力値を低減できることが分かった。
なお図10には図示しないが、実施例では、鞍乗型車両に空力デバイス13、14を設けなかった場合に比べて、走行抵抗値の増大を抑えながら、ダウンフォースを約20%まで増大(言い換えると、前輪揚力値を約20%まで低減)できることが分かった。
以上に説明したように、旋回流20が翼型部14aの下面に沿って後方に流れることにより、翼型部14aの下方を流れる走行風の指向性を高めることができ、走行風が翼型部14aから剥離することが防止されるので、翼型部14aに与えられるダウンフォースの走行風の剥離に起因する低下を抑え、空力特性の向上を図れる。
ここで、一般に鞍乗型車両では、前後方向の車輪長が短く、フロントフォークにより前輪を支持すると共にスイングアームにより後輪を支持する構造を有する。また、運転者の重心移動、積載物の重量、及び加減速状況等の様々な状況によって、四輪車に比べて前後軸方向の軸周りにおける車体姿勢が変化し易い。また鞍乗型車両では、旋回時に車体を傾斜させて走行するので、前後軸周りの姿勢が変化し易い。
これに対して本実施形態の鞍乗型車両1によれば、車体15の姿勢変化によって翼型部14aに対する走行風の接触方向が変化しても、翼型部14aの下方に旋回流20を生じさせることにより、走行風が翼型部14aから剥離するのが防止され、ダウンフォースの低下を抑制できる。
よって、例えばブレーキングにより車体15が姿勢変化した際や、高速走行する際であっても、翼型部14aに与えられるダウンフォースにより接地荷重を高め易くすることができる。また、走行風が翼型部14aから剥離するのが抑制されるので、例えば鞍乗型車両1の表面に形成された凹凸部分に走行風が接触して、走行風の流れが乱れても、空力デバイス14のロバスト性を向上でき、翼型部14aから車体15にダウンフォースを安定して与えることができる。
また、一般に鞍乗型車両では、四輪車に比べて軽量なために接地荷重を高めにくい場合がある。これに対して鞍乗型車両1では、空力デバイス14により、前輪側の車体重量を増大させなくても接地荷重が高められ、鞍乗型車両1の重量増加を防止しながら、加速性能の低下を抑えつつ、制動性能を高めることができる。
また、走行風が翼型部14aから剥離するのを抑制できるので、ダウンフォースを高めるように翼型部14aの迎え角を増大でき、低速走行する際のダウンフォースを高めることができる。これにより、走行速度域が比較的低い領域であっても、翼型部14aから車体15に与えられるダウンフォースによる効果を高めることができる。
また、旋回流20が、少なくとも翼型部14aの下方に位置する案内面14j、14kに沿って翼型部14aの下方に流れることで、翼型部14aの下方を流れる走行風が、翼型部14aから剥離するのを防ぎ易くできる。
また、案内面14j、14kが、後方に進むにつれて車幅方向に翼型部14aに対して近づく方向に傾斜して形成されるので、後方に進むにつれて走行風を車幅方向に翼型部14aに対して近づく方向に集めて強い旋回流20を形成でき、翼型部14aの下方を流れる走行風が、翼型部14aから剥離するのを防ぎ易くできる。
また、案内面14j、14kが下方に進むにつれて車幅方向に翼型部14aに対して遠ざかる方向に傾斜して形成されていることにより、前後方向に垂直な断面において案内面14j、14kが傾斜して形成されているので、ハンドル9を操作した際の鞍乗型車両1の進行方向への走行風の案内を促進され易くして、強い旋回流20を形成でき、翼型部14aの下方を流れる走行風が、翼型部14aから剥離するのを防ぎ易くできる。
また、旋回流発生部14b、14cによって生じた旋回流20を案内面14j、14kから隣接面14m、14nに円滑に流れさせて、旋回流20を隣接面14m、14nでも案内でき、翼型部14aの下方を流れる走行風が、翼型部14aから剥離するのを更に防ぎ易くできる。
また、走行風が前後方向に通過することでダウンフォースが与えられる翼型に旋回流発生部14b、14c及び延長部14d、14eが形成されているので、車体15に与えられるダウンフォースを増大できる。
また、直線T方向から見て、旋回流発生部14b、14cが投影面積S1、S2の内側領域に配置されているので、空力デバイス14をコンパクトに構成しながら、ダウンフォースを高めることができる。このため、車幅方向への空力デバイス14の大型化を防ぎつつダウンフォースを向上させることができる。これにより、鞍乗型車両1のバンク時に空力デバイス14が路面や障害物に衝突するのを防止できる。このように空力デバイス14は、旋回時にバンクする乗物に好適に用いることができる。
また、内側発生部14bが、翼型部14aよりも車幅方向内側に配置されているので、旋回流発生部を翼型部14aよりも車幅方向外側に配置される場合に比べて、車体15をその前後軸方向の軸周りに角変位させたときのモーメントを低下させることができ、旋回流発生部による操作性の低下を抑制できる。言い換えると、内側発生部14bを大型に形成し易く、旋回流発生部14bにより生じさせた旋回流20によって、翼型部14aの下方を流れる走行風の指向性が高められることにより、翼型部14aの下方を流れる走行風が、翼型部14aから剥離するのを防ぎ易くできる。
また、外側発生部14cが、翼型部14aよりも車幅方向外側に配置されているので、翼型部14aよりも車幅方向外側で、外側発生部14cにより生じさせた旋回流20によって、翼型部14aの下方を流れる走行風の指向性が高められることにより、走行風が翼型部14aから剥離するのを防げると共に、旋回流20を仕切板のごとく機能させて、走行風が翼端部14pに向けて流れるのを防止でき、翼型部14aの下方における走行風の流れを保持し易くできる。
また、旋回流発生部14b、14cが車体重心Cよりも前方に配置されているので、前輪7の接地荷重を高め、走行安定性を高めることができる。
また、一対の空力デバイス13、14における一対の翼型部、一対の内側発生部、及び一対の外側発生部が、ウインドシールド12の車幅方向両外側におけるフロントカウル11aの上面11cにそれぞれ設けられているので、翼型部を後方に流れる旋回流20によって走行風の指向性が高められることにより、ウインドシールド12の後方における走行風の流れの乱れを防止でき、運転者に与える走行風の影響を抑制できる。これにより、例えば、ヘルメットを左右に揺する方向に運転者に与える走行風の影響を抑制できる。
また、翼型部14aと旋回流発生部14b、14cとが単一部材で一体成形されていることにより、翼型部14aと旋回流発生部14b、14cとを車体15に取り付けるための取付構造を共通化できると共に、前記取付構造を簡素化できる。鞍乗型車両1では、空力デバイス13においても、空力デバイス14により奏される各効果を同様に得ることができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成を変更、追加、又は削除できる。空力デバイス13、14は、鞍乗型車両1のフロントカウル11a以外の位置に取り付けられていてもよい。空力デバイス13、14は、例えば、フロントフォーク6、フロントフェンダ8、サイドカウル11b、及び車体15の側面のいずれかに取り付けられていてもよい。また、空力デバイス13、14は、鞍乗型車両1以外の車両に取り付けられていてもよい。
また空力デバイス13、14は、鞍乗型車両1において、車体重心Cの後方又は下方に配置されていてもよい。また、上記実施形態の鞍乗型車両1は、旋回流発生部として、内側発生部と外側発生部との両方を備えるが、鞍乗型車両1は、例えば内側発生部のみを備えていてもよい。この場合、鞍乗型車両1は、内側発生部の車幅方向外側に隣接して配置された翼型部を備える。
空力デバイス13、14の本体部分は、車体15の上面視において、平行四辺形状、三角形状、又は台形形状のいずれかの形状に形成されていてもよい。また翼型部は、その車幅方向の両端側が、車体15寄りに向くように配置されていてもよい。また翼型部は、前後方向及び鉛直方向の少なくともいずれかを長手方向として延びていてもよい。
翼型部と旋回流発生部とは、鞍乗型車両1の左右方向一方側にのみ取り付けられていてもよい。また、翼型部と旋回流発生部とは、互いに別体に形成されていてもよい。翼型部と旋回流発生部とが別々に形成される場合、翼型部と旋回流発生部とは、互いに離間して形成されてもよい。翼型部と旋回流発生部とは、取付部を介さずに車体15に直接取り付けられてもよい。
また、一対の翼型部と一対の旋回流発生部とを鞍乗型車両1の左右方向両側に取り付ける場合、一対の翼型部と一対の旋回流発生部とは、左右対称の形状を有していなくてもよい。内側案内面と外側案内面とは、前後方向に平行に延びて形成されていてもよい。また、内側案内面と外側案内面とは、前後方向に直線状に延びて形成されていてもよい。
翼型部と旋回流発生部とは、別々に形成されていてもよい。また空力デバイス13、14は、カウル11と共に一体成形されていてもよい。旋回流発生部は、前記投影面積の内部領域に配置されていなくてもよい。本発明に係る鞍乗型車両は、自動二輪車に限定されず、三輪車両、小型滑走艇(PWC:Personal Water Craft)、及びスノーモービル等であってもよい。