JP6581782B2 - 被削性および軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼 - Google Patents

被削性および軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼 Download PDF

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Description

本発明は、特に大型製品の鍛造に使用される金型において、金型仕上加工時の被削性が良く、また使用中のヒートクラック、大割れ、あるいは軟化による摩耗、へたりを著しく改善できるようにした高強度高靱性の熱間工具鋼に関する。
従来から熱間鍛造の金型に使用されている材料において、JIS−SKD61種では、型材の強度が高い上、軟化抵抗性、すなわち、高温強度も比較的優れているために、摩耗やへたりは改善される。しかしながら、大型材の場合には、型材中心部の靱性が低く、型底コーナー部から大割れを生じる場合があり、したがって、寿命向上のためには、靱性の改善が不可欠である。しかし、靭性を向上させた鋼種は被削性が低下する傾向があるが、一方、金型作成時における切削工具寿命の延命等を図るための被削性も同時に必要とされている。またJIS−SKT4種では、靭性はSKD61より優れており、また焼入れ焼戻し後でも加工できる被削性を有しているものの、軟化抵抗性が殆ど無く、熱間プレスのような被加工材と接触する時間が長く、熱影響を長時間受ける用途においては、表面がすぐに軟化してしまいへたりが起こるために、使用することが出来なかった。
一方、SKD61などの工具鋼の靱性を向上させる方策として、例えば特許第44230608号公報(特許文献1)に開示されているように、焼なまし組織を改質して、焼入れ焼戻し組織の結晶粒度を小さく均質にする方法が提案されている。しかし、焼なまし組織の改質については、特許文献1中の図5に示されるように、特殊な熱処理パターンで熱間加工後の熱履歴を管理する必要があり、生産性が落ちるだけでなく製造コストが上がっていまい、金型製造コストが高くなる問題がある。また、焼なまし処理時に、旧オーステナイト粒界では炭化物の析出が多くなるように、一方、旧オーステナイト粒内では炭化物の析出が少なくなるように、温度調整を行い、特に炭素成分の不均一さを鋼材内に作るようにするために、焼なまし条件を調整することを必要としているが、この調整により、合金元素、特にC濃度分の不均一さを招くこととなり、この合金元素の不均一さは、焼入れ焼戻し後の組織および硬さの不均一さを招くため、被削性を低下する。そのため、金型製造コストが高くなるという問題がある。
また、被削性の優れた工具鋼として、例えば特開2003−268500号公報(特許文献2)が提案されている。さらに被削性と焼入れ性に優れた焼入れ鋼材として、例えば特許第5185619号公報(特許文献3)が提案されている。しかし、いずれも割れの起点となりやすい快削成分や酸窒化物を形成するAlを多く添加しているため、材料の強度が低下し、靱性が低くなってしまう問題がある。
さらに、被削性および高温強度に優れた工具鋼として、例えば特許第4186340号公報(特許文献4)が提案されている。ところで、このものは高温強度を上げるために、ベイナイト組織を積極的に析出させている。しかし、ベイナイトを析出させることで靱性が低くなってしまう問題がある。
特許第44230608号公報 特開2003−268500号公報 特許第5185619号公報 特許第4186340号公報
上述したような先行技術文献における問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、請求項に示す合金成分範囲および合金成分式を満たし、望ましくは、N含有量を150ppm以下とし、さらに望ましくは、焼入れ焼戻し後の鋼材中に析出したMC炭化物の円相当半径1μm以下のM2C+M6C+MC炭化物の数が、10000μm2あたり100個以上とすることで、被削性および軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼が得られることを見出した。
一般的に知られているように、Niを鋼に添加すると靭性は向上するが、一方で焼なまし処理時にオーステナイト組織からフェライト+球状炭化物からなる組織への変態が起こりにくくなり、焼なまし後のミクロ組織が部分的に、フェライト+球状炭化物からなる組織およびベイナイト組織との混晶組織になる。ところで、この混晶組織中のベイナイト量が5%を超えると、組織が違うことによる合金元素の不均一さが大きくなり、焼入れ焼戻し後の鋼材の硬さが不均一となって被削性の低下を招くが、C、Mn、Cr、Moの量を調整することで、Niの靭性向上効果を残しつつ、焼なまし処理時にオーステナイト組織からフェライト+球状炭化物からなる組織への変態を起こしやすくすることができ、それにより組織が均一となり、被削性の低下を抑制することができることを発見した。また、同様に、C、Mn、Cr、Mo量を調整することで、鋳込み時の成分偏析を起こしにくくなり、均質な鋼材を得やすくなることが分かった。
また、焼入れ焼戻しを行った鋼材の軟化抵抗性は析出している微細な炭化物がC、Cr、Mo、Vといった主な炭化物合金元素だけでなく、MnやNiといった、単独では炭化物を形成しないがCr、Mo、Vが炭化物を形成するときに炭化物中に微量取り込まれる成分も関係していることが分かった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、特に大型製品の鍛造に使用される金型において、金型の仕上加工時の被削性が良好で、さらに、使用中のヒートクラックや、大割れ、あるいは軟化による摩耗や、へたりを著しく改善できる高強度で高靱性の熱間工具鋼を提案することである。
本発明に係る被削性および軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼は、下記のとおりである。
(1)第1の手段は、化学成分が質量%で、C:0.30〜0.45%、Si:0.3超〜1.0%、Mn:0.6〜1.5%、Ni:0.6〜1.8%、Cr:1.4〜2.0%未満、更にMo、Wは、いずれか1種または2種がMo+W/2:1.0超〜1.8%、V、Nbは、いずれか1種または2種がV+Nb/2:0.2%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ式(1)から式(3)がそれぞれH≦8.8、A:0〜38、R≦1.45であることを特徴とする被削性および軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼である。
H=0.60+13.20×C−0.86Mn+2.13Ni+1.57Mo−15.67×V ・・・ (式1)
A=−12.90−46.92×C+29.61×Mn+22.18×Ni+15.37Cr−21.95Mo ・・・ (式2)
R=Cr/(Mo+W/2) ・・・ (式3)
(2)第2の手段は、第1の手段の不可避的不純物のうちNがN:≦0.015%であることを特徴とする被削性および軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼である。
(3)第3の手段は、上記(1)または(2)に記載した熱間工具鋼であって、焼入れ焼戻し後の鋼材中に析出しているM2CとM6CとMCからなる円相当半径1μm以下である炭化物数が10000μm2あたり100個以上となることを特徴とする被削性および軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼である。
本発明の請求項1に係る発明は、Hが8.8以下であり、Rが1.45以上であるので、軟化抵抗性に優れており、摩耗、へたりが著しく改善された熱間工具鋼である。さらに請求項2に係る発明は、不可避的不純物であるNが0.015%以下であるので、粗大な炭窒化物が形成されることがなく、そのため靱性を示すシャルピー衝撃値が高く、かつ被削性に優れている熱間工具鋼である。さらに、請求項3に係る発明では、請求項1または2に係る発明の熱間工具鋼において、焼入れ焼戻し後の鋼材中に析出しているM2CとM6CとMCからなる円相当半径1μm以上である炭化物数が10000μm2当たり100個以上となるので、大型鍛造用金型の仕上加工時の被削性が良好で、かつ軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼となっている。
本発明の実施するための形態を記載するに先立って、本発明における化学成分についての限定理由について記載する。なお、%は質量%である。
C:0.30〜0.45%
Cは、硬質炭化物を形成し、硬さおよび耐摩耗性を向上させるとともに焼入性を高める元素である。その効果を得るためには、Cは0.35%以上が必要である。しかし、Cが0.45%を超えて含有されると、粗大な炭化物を形成し、靱性を圧下する。そこで、Cは、0.30〜0.45%とし、望ましくは0.35〜0.45%とする。
Si:0.3超〜1.0%
Siは、脱酸剤としておよび基地の硬さを得るために必要な元素であり、さらに切削時に、工具表面に付着して酸化皮膜を形成し、工具の焼付きを抑制する元素である。このためにはSiは、0.3%より多くする必要がある。しかし、Siは0.8%より多く含有されると、固溶強化が進み、靭性が悪化する。そこで、Siは0.3超〜1.0%とし、望ましくは0.31〜0.8%とする。
Mn:0.6〜1.5%
Mnは、脱酸剤としておよび焼入性を得るために必要な元素である。このためには、Mnは0.6%以上が必要である。しかし、Mnが1.5%より多く含有されると、マトリックスを脆化させるので靱性が悪化する。そこで、Mnは0.6〜1.5%とし、望ましくは0.7〜1.4%とする。
Ni:0.6〜1.8%
Niは、焼入性および靭性を得るために必要な元素である。このためには、Niは0.6以上が必要である。しかし、Niは1.5%より多く含有されると、焼なまし処理時にオーステナイト組織からフェライト+球状炭化物からなる組織への変態が起りにくくなり、焼なまし時のミクロ組織が部分的に、フェライト+球状炭化物からなるものとベイナイトとの混晶組織になり、合金元素の分布が不均一となり被削性が低下する。そこで、Niは0.6〜1.8%とし、望ましくは0.6〜1.5%とする。
Cr:1.4〜2.0%未満
Crは、硬質炭化物を形成し、硬さおよび耐摩耗性を向上させるとともに焼入性を高める元素である。その効果を得るために、Crは1.4%以上が必要である。しかし、Crは2.0%以上が含有されると、粗大な炭化物を形成して靭性および軟化抵抗性を悪化する。そこで、Crは1.4〜2.0%未満とし、望ましくは1.4〜1.8%とする。
N:≦0.015%
Nは、鋼中に不可避的に存在する元素である。ただ不純物として残存する量を特に0.015%以下に抑えると、靭性が高くなる傾向がある。そこで、Nは望ましくは0.015%以下とし、より望ましくは0.010%以下とする。
Mo+W/2(Mo、Wのうち1種または2種):1.0超〜1.8%
MoおよびWは、硬質炭化物を形成し、硬さおよび耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性、焼戻し軟化抵抗性を高める。その効果を得るためには、Mo+W/2(MoおよびWのうちのいずれか1種または2種)で1.0%より多くする必要である。しかし、Mo+W/2はMoおよびWのうちのいずれか1種または2種で、1.8%より多いと、粗大な炭化物を形成し靭性を悪化する。そこで、Mo+W/2(MoおよびWのうちのいずれか1種または2種)は1.0超〜1.8%とし、望ましくは1.1〜1.7%とする。
V+Nb/2(V、Nbのうち1種または2種):0.2%以下
VおよびNbは、硬質炭化物を形成し、硬さおよび耐摩耗性を向上させるとともに、焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制する効果があり、靭性の向上に寄与するが、一方で、0.2%より多いと、粗大な炭窒化物を形成し靱性および被削性を悪化する。そこで、V+Nb/2(VおよびNbのうちのいずれか1種または2種)は0.2%以下とし、望ましくは0.1〜0.2%とする。
H=0.60+13.20×C−0.86Mn+2.13Ni+1.57Mo−15.67×Vで示されるHが、H≦8.8
Hは8.8より大きいと、軟化抵抗性を向上させるM2C型、M6C型、あるいはMC型などの析出炭化物を充分に析出せず、軟化抵抗性が低くなる。そこで、Hは8.8以下とし、望ましくはHは8.5以下とする。
A=−12.90−46.92×C+29.61×Mn+22.18×Ni+15.37Cr−21.95Moで示されるAが、A:0〜38
Aは0より小さいと、鋼を鋳込んだときに合金元素の偏析が生じやすい。この合金元素の偏析は焼入れ焼戻し後の被削性を低下させるだけでなく、靭性の低下も招く。そこで、Aは0以上とする。一方、Aは38よりも大きくなると、焼なまし処理時にオーステナイト組織からフェライト+球状炭化物からなる組織への変態が起こりにくくなり、焼なまし後のミクロ組織が部分的にフェライトと球状炭化物との組織およびベイナイトの組織との混晶組織になり、合金元素の分布が不均一となる。この合金元素の分布の不均一さは、焼入れ焼戻し後の被削性を低下させ、さらに加えて、焼入れ焼戻し後の金型内に部分的に弱い組織を形成しやすくなり、靭性の低下を招く。そこで、Aは0〜38とする。
R=Cr/(Mo+W/2)で示されるRが、R≦1.45
Rが1.45より大きいと、析出する炭化物が、軟化抵抗性を向上させるMoやV系の炭化物であるM2C、M6Cや、MCではなく、軟化抵抗性を低下させるCr系炭化物であるM73やM236が多く生じるようになる。そこで、軟化抵抗性を向上させるために、Rは1.45以下とする。
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の高靱性熱間工具鋼において、焼入れ焼戻し後の鋼材中に析出しているM2CとM6CとMCからなる円相当半径1μm以下である炭化物の数:10000μm2当たり100個以上
焼入れ焼戻し後の鋼材中に析出しているM2CとM6CとMCからなる円相当半径1μm以下である炭化物の数は10000μm2当たり100個以上とする理由は、10000μm2当たりのM2CとM6CとMCからなる炭化物の数が100個以上となることで軟化抵抗性が高くなり、軟化が起こりにくくなるからである。ただし、円相当半径が1μmを超える炭化物では軟化抵抗性への効果が現れない。
表1に記載する本発明例のNo.1〜21と表2に記載する比較例のNo.22〜43の各化学成分からなる鋼の100kgを真空誘導溶解炉にて溶製し、これらの溶製した鋼を縦60mm、横60mmの角材に鍛伸し、次いで砂に埋めて徐冷した。その後、さらに805℃に加熱して550℃以下まで徐冷した後に空冷して常温まで冷まし、さらに600℃に加熱して空冷する焼なまし処理を行った。さらに、950℃に加熱して油冷する焼入れ処理を行ない、その後500〜600℃に加熱し、空冷を2回以上繰り返す焼戻処理を行ない、硬さを46HRCに調整した。
Figure 0006581782
Figure 0006581782
MC、M2C、M6Cからなる炭化物の数は以下のようにして求めた。先ず、焼入れ焼戻し後の鋼材の中心部より縦15mm、横15mm、長さ15mmの試験片を割出し、この割り出した試験片からなる供試材を鏡面研磨し、次に重クロム酸カリウム水溶液中で電解腐食することにより、MCからなる炭化物を黒色に腐食した後、画像解析装置を使用し、100μm×100μm中のMCからなる炭化物の面積および個数を測定して、平均円相当半径1μm以下のMCからなる炭化物の10000μm2当たりの個数を求めた。
次いで、上記と同様に割り出した試験片からなる供試材を鏡面研磨し、さらに村上試薬によりM2Cからなる炭化物を黒色に腐食した後、画像解析装置を使用し、100μm×100μm中のM2Cからなる炭化物の面積および個数を測定して、平均円相当半径が1μm以下のM2Cからなる炭化物の10000μm2当たりの個数を求めた。
さらに、次いで、上記と同様に割り出した試験片からなる供試材を鏡面研磨し、さらに水酸化ナトリウム水溶液中で電解腐食することによりM6Cからなる炭化物を黒色に腐食した後、画像解析装置を使用し、100μm×100μm中のM6Cからなる炭化物の面積および個数を測定して、平均円相当半径が1μm以下のM6Cからなる炭化物の10000μm2当たりの個数を求めた。
上記における各供試材であるMC、M2C、M6Cからなる炭化物について、それぞれ任意の20視野で測定し、平均円相当半径が1μm以下のMC、M2C、M6Cからなる炭化物の10000μm2当たりの平均個数を求めた。これらで得られた1μm2以下であるMC、M2C、M6Cからなる炭化物の個数の平均値を、表3の炭化物数(個/10000μm2)の欄に示す。
焼なまし後のベイナイト組織率(%)は、焼なまし後の材料の中周部より縦15mm、横15mm、長さ15mmの試験片を割出し、この試験片についてナイタールで組織を現出させ、ベイナイトが見られない場合は◎、ベイナイトが5%未満の場合は○、ベイナイトが5%以上の場合は×として、表3に示した。
被削性は、焼入れ焼戻し試料より、角60mm、長さ100mmの試験片を用意し、厚さ60mmで、幅60mmおよび長さ100mmの面に対して、5本の高速度工具鋼材であるJIS鋼種であるSKH51製のドリルを用いて穿孔し、10mm穿孔するまでに要した時間の平均で、評価した。このドリル穿孔は新品の径8mmのSKH51製のドリルを用い、回転速度23.2m/min、推力70kgの条件で行った。SKD61に対する平均穿孔時間は105秒、JISの鋼種の合金工具鋼材であるSKT4に対する平均穿孔時間は75秒であったことから、75秒以下である場合は、本発明の熱間工具鋼は、SKT4並の被削性があるとして◎とし、75〜90秒であればSKD61に比べ被削性があるとして○とし、90秒より遅い場合は、被削性が悪いとして×として評価し、これらを表3に示した。
軟化抵抗性は、焼入れ焼戻し試料の中周部より縦15mm、横15mm、長さ15mmを割出し、この割出した試験片を600℃で30時間加熱保持した後、空冷し、硬さを測定した。軟化抵抗性は初期硬さからの硬度差、すなわち上記のSKD61における初期硬度である47HRCから上記の600℃で30時間加熱保持した後のHRC硬度を引いた値で評価した。SKD61の場合は硬度差が10であるから、硬度差が8未満の場合は、本発明の熱間工具鋼は、高い軟化抵抗性があると判断して◎、8〜9の場合は軟化抵抗性があると判断して○、10以上の場合は、軟化抵抗性が低いと判断して×と評価し、これらを表3に示した。
靭性は、焼入れ焼戻し試料中心部から縦10mm、横55mm、長さ10mmからなる2mmUノッチのシャルピー試験片を割出し、この試験片についての衝撃値の測定を行った。一般的に熱間鍛造に使用される工具鋼のJIS鋼種であるSKD61は、47HRCで40J/cm2の衝撃値が得られるため、50J/cm2より高い衝撃値が得られれば◎、45〜50J/cm2以上であれば○、45J/cm2以下であれば低靭性として×と評価し、これらを表3にシャルピー衝撃値として示した。
Figure 0006581782
表1の本発明例のNo.1〜21は、いずれも表3の10000μm2における炭化物の個数が100個以上であり、焼きなまし時に部分的に生じるベイナイト混晶組織の中のベイナイト量が5%より多くなく、組織が均一であるので、被削性が良好であり、軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼となっている。
以上の本発明例に対して、比較例のNo.22は、表2のCrが2.0%で本発明の上限値よりもやや多く、かつ式Aの値が62、式Rの値が1.82で、これらは本発明の上限値よりも高く、表3に示すように、炭化物数が67個で本発明の下限値の100個より少ないので軟化抵抗性が×であり、さらにベイナイト率、被削性および靱性を示すシャルピー衝撃値が×である。比較例のNo.23は、表2のMo+W/2が1.0%で、僅かであるが本発明の下限値の1.0%超より少なく、また、表2の式Rの値が1.70で本発明の上限値の1.45より高いので、表3に示すように、軟化抵抗性が×で悪い。
比較例のNo.24は、表2のMo+W/2が0.5%で本発明の1.8%より低く、式Aの値が42で本発明の上限値の38よりも高く、式Rの値が2.80で本発明の上限値の1.45よりも高く、表3に示すように、炭化物数が60個で本発明の下限値の100個より少ないので軟化抵抗性が×で、また、ベイナイト率、被削性、靱性を示すシャルピー衝撃値も×で悪い。比較例のNo.25は、表2の式Aの値が−8で本発明の下限値0のよりも低いので、表3に示すように、被削性および靱性を示すシャルピー衝撃値が×で悪い。
比較例のNo.26は、表2のSiが0.30%で本発明の下限値よりも僅かに少ないので、表3に示すように、被削性が×で悪い。比較例のNo.27は、表2のCが0.80%で本発明の上限値の0.45%より多く、式Hの値が12.8で本発明の上限値の8.8より高く、式Aの値が−19で本発明の下限値の0より低く、表3に示すように、炭化物個数が30個で本発明の下限値の100個より少ないので軟化抵抗性が×で、また、被削性および靱性を示すシャルピー衝撃値が共に×で悪い。
比較例のNo.28は、表2のCrが2.0%で本発明の上限値の2.0%未満を僅かであるが超えており、式Hの値が9.2で本発明の上限値の8.8よりも高く、表3に示すように、炭化物数が66個で本発明の下限値の100個より少ないので軟化抵抗性が×で、また靱性を示すシャルピー衝撃値が×で悪い。比較例のNo.29は、表2の式Aの値が40で本発明の上限値の38よりも高いので、表3に示すように、被削性および靱性を示すシャルピー衝撃値が×で悪い。
比較例のNo.30は、表2のSiが1.25%で本発明の上限値の1.0%より多いので、表3に示すように、靱性を示すシャルピー衝撃値が×で悪い。比較例のNo.31は、表2のMo+W/2が1.0%で、僅かであるが本発明の下限値の1.0%超より少なく、式Hの値が9.0で本発明の値の8.8より高く、表3に示すように、炭化物個数が63個で本発明の下限値の100個より少ないので軟化抵抗性が×で悪い。
さらに、比較例のNo.32は、表2の式Aの値が−10で本発明の下限値0のよりも低いので、表3に示すように、被削性および靱性を示すシャルピー衝撃値が共に×で悪い。比較例のNo.33は、表2の式Hの値が11.1で本発明の上限値の8.8より高く、表3に示すように、炭化物数が55個で本発明の100個より少ないので、軟化抵抗性が×で悪い。比較例のNo.34は、表2のMo+W/2が0.6%で本発明の下限値の1.0%超より少なく、V+Nb/2が0.3%で本発明の上限値の0.2%より多く、式Aの値が45で本発明の上限値の38より高く、さらに、式Rの値が2.56で本発明の上限値の1.45より高いので、表3に示すように、ベイナイト率、被削性、軟化抵抗性および靱性を示すシャルピー衝撃値の全てが×で悪い。
1.0例のNo.35は、表2のV+Nb/2が1.0%で本発明の上限値の0.2%より多いので、表3に示すように靱性を示すシャルピー衝撃値が×で悪い。比較例のNo.36は、表2のMnが2.0%で本発明の上限値の1.5%より多く、表3の靱性を示すシャルピー衝撃値が×で悪い。比較例のNo.37は、表2のMo+W/2が2.4%で本発明の1.8%より多く、式Hの値が9.1で本発明の上限値の8.8より高いので、表3に示すように、軟化抵抗性および靱性を示すシャルピー衝撃値が共に×で悪い。
比較例のNo.38は、表2のCrが1.0%で本発明の下限値の1.4%より低く、さらにMo+W/2の値が0.3%で本発明の下限値の1.0%超よりも低く、式Aの値が40で本発明の上限値の38よりも高く、式Rの値が3.06で本発明の上限値の1.45よりも高いので、表3の炭化物数が87個で本発明の100個より少ないので、軟化抵抗性が×で、さらに、ベイナイト率、被削性、および靱性を示すシャルピー衝撃値が共に×で悪い。
比較例のNo.39は、表2のCrが1.3%で本発明の下限値の1.4%より低く、式Aの値が−7で本発明の下限値の0よりも低く、表3に示すように被削性および靱性を示すシャルピー衝撃値が共に×で悪い。比較例のNo.40は、表2のNiが0.0%で本発明の下限値の0.6%よりも少なく、したがって、表3に示すように靱性を示すシャルピー衝撃値が×で悪い。
比較例のNo.41は、表2の式Hの値が9.4で本発明の上限値の8.8より高く、表3に示すように、炭化物数が65個で本発明の100個より少ないので、軟化抵抗性が×である。比較例のNo.42は、表2のNiが2.0%で本発明の上限値より多く、式Hの値が10.5で本発明の上限値の8.8より高く、かつ式Aの値が41で本発明の上限値の38よりも多いために、表3に示すように炭化物個数が56個で本発明の100個よりも少ないので軟化抵抗性が×であり、さらに、ベイナイト率、被削性および靱性を示すシャルピー衝撃値の全てが×で悪い。比較例のNo.43は、表2のNが0.050%であり、不純物として残存する量より遙かに多くNが添加された鋼であるため、式H、式A、式Rの値が全て本発明の範囲内であるものの、表3に示すように靱性を示すシャルピー衝撃値が×で悪い。
以上、本発明により、特に大型製品の鍛造に使用される金型において、金型仕上加工時の被削性が良く、また使用中のヒートクラック、大割れ、あるいは軟化による摩耗、へたりを著しく改善することを可能とした極めて優れた高強度高靱性の熱間工具鋼を提供するものである。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

Claims (2)

  1. 化学成分が質量%で、
    C:0.30〜0.45%、
    Si:0.3超〜1.0%.
    Mn:0.6〜1.5%、
    Ni:0.6〜1.8%、
    Cr:1.4〜2.0%未満、
    更にMo、Wは、いずれか1種または2種がMo+W/2:1.0超〜1.8%、
    V、Nbは、いずれか1種または2種がV+Nb/2:0.2%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、
    かつ式(1)から式(3)がそれぞれH≦8.8、A:0〜38、R≦1.45であり、
    焼入れ焼戻し後の鋼材中に析出しているMC、MCまたはMCからなる円相当半径1μm以下である炭化物数が10000μmあたり100個以上となることを特徴とする被削性および軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼。
    H=0.60+13.20×C−0.86×Mn+2.13×Ni+1.57×Mo−15.67×V ・・・ (式1)
    A=−12.90−46.92×C+29.61×Mn+22.18×Ni+15.37×Cr−21.95×Mo ・・・ (式2)
    R=Cr/(Mo+W/2) ・・・ (式3)
  2. 請求項1に記載の不可避的不純物であるNがN:≦0.015%であることを特徴とする被削性および軟化抵抗性に優れた高靱性熱間工具鋼。
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