JP2021031695A - 靱性に優れた熱間工具鋼 - Google Patents
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しかしながら、Vが多いので、粗大な炭窒化物が形成されることで靭性、加工性が悪化しやすい。
この鋼の粗大炭化物の晶出し易さを表す指標をS’とするとき、
S’=([C]−0.2)×(2[Cr]+3[Mo]+6[V])のS’の値が3.1以下であって、
この鋼の160μm×1000μm中におけるC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の成分量の最大値と最小値の差は、
Cmax−Cmin:0.25%以下、
Mnmax−Mnmin:0.25%以下、
Crmax−Crmin:1.25%以下、
Momax−Momin:1.20%以下、
Vmax−Vmin:0.30%以下であり、
さらに、この鋼の偏析部の1μm当たりのC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素成分の変化度合いの値は、
C変化:0.0025%/μm以内、
Mn変化:0.0030%/μm以内、
Cr変化:0.125%/μm以内、
Mo変化:0.105%/μm以内、
V変化:0.0025%/μm以内であること、
を特徴とする靭性に優れた熱間工具鋼である。
なお、各化学成分における%は質量%のことである。
Cは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性を高める元素である。このためには、Cは0.30%以上が必要である。しかし、Cは0.42%より多く含まれると、鋼中に粗大な炭化物を形成して靭性および加工性を悪化させる。そこで、Cは0.30〜0.42%とし、望ましくは0.32〜0.40%とする。
Siは、脱酸剤として添加され、基地の硬さおよび焼入性を高める元素である。このためには、Siは0.15%以上が必要である。しかし、Siは1.00%より多く含まれると、鋼のマトリックスを脆化させ、靭性および加工性を悪化させる。そこで、Siは0.15〜1.00%とする。
Mnは、脱酸剤として添加され、焼入性を高める元素である。このためには、Mnは0.20%以上が必要である。しかし、Mnは0.50%より多く含有されると、鋼のマトリックスを脆化させ、靭性を悪化させる。そこで、Mnは0.20〜0.50%とする。
Crは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性を高める元素である。このためには、Crは4.50%以上が必要である。しかし、Crは6.00%より多く含まれると、鋼中に粗大な炭化物を形成して靭性および加工性を悪化させる。そこで、Crは4.50〜6.00%とする。
Moは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性、焼戻し軟化抵抗性を高める元素である。このためには、Moは1.00%以上が必要である。しかし、Moは2.20%より多く含まれると、鋼中に粗大な炭化物を形成して靭性および加工性を悪化させる。そこで、Moは1.00〜2.20%とする。
Vは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性、焼入性を向上させるとともに、焼入時の結晶粒の粗大化を抑制する効果があり、靭性の向上に寄与する元素である。このためには、Vは0.30%以上が必要である。しかし、Vは0.60%より多く含有されると粗大な炭窒化物を形成し、靭性および加工性を悪化させる。そこで、Vは0.30〜0.60%とする。
Pは、靭性を低下させるため、一般には低減することが望ましい元素であるが、不可避的に含有される元素である。そこで、Pは0.03%を許容限度とする。
Sは、Mnと共にMnSを形成して、靭性を低下させるため、低減することが望ましい元素である。そこで、Sは0.01%以下とする。
Nは、粗大な窒化物や炭窒化物を形成して、靭性および加工性を悪化させる元素である。そこで、Nは130ppm以下とする。
Oは、鋼中で酸化物系介在物を形成して、靭性を低下させる元素である。そこで、Oは20ppm以下とする。
S’は、粗大炭化物の晶出し易さを表す指標である。鋼の合金成分のC、Cr、Mo、およびVを調整して、S’の値を3.1以下にすることで、粗大炭化物の形成が起こり難くなるので、高靭性の鋼を得ることができる。
そこで、S’=([C]−0.2)×(2[Cr]+3[Mo]+6[V])≦3.1とする。
本発明の鋼の160μm×1000μm中におけるC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の成分量の最大値と最小値の差は、質量%で、
Cmax−Cmin:0.25%以下、
Mnmax−Mnmin:0.25%以下、
Crmax−Crmin:1.25%以下、
Momax−Momin:1.20%以下、
Vmax−Vmin:0.30%以下である。
160μm×1000μmの領域において、鋼中のC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の成分量の最大値と最小値の差が大きいと、成分が濃い箇所で粗大炭化物が晶出し易く、また成分の濃い箇所と薄い箇所とで、焼入性の差や、固溶元素による強化度合いの差が生じる。そのため、熱処理後の組織や強度が不均一となり易く、靭性やその他の特性の低下を招く原因となる。
しかし、C、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の偏析度合い(成分幅)を小さく限定することで、粗大炭化物や組織の不均一さが解消されて、靭性の低下が起こらなくなる。
そこで、160μm×1000μm中の鋼中のC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の成分量の最大値と最小値の差は、質量%で、Cmax−Cmin:0.25%以下、Mnmax−Mnmin:0.25%以下、Crmax−Crmin:1.25%以下、Momax−Momin:1.20%以下、Vmax−Vmin:0.30%以下とする。
しかしながら、本発明の熱間工具鋼では、例えば上記の造塊の後、ESR(エレクトロスラグ再溶解法)による再溶解を適用したり、鋼塊および/または該鋼塊を熱間加工した鋼片に対して、1150℃以上、好ましくは1200℃以上の適性条件により均質化熱処理を施したりすることによって、各元素の成分量の最大値と最小値の差を小さく限定することが達成可能である。
鋼中の成分の濃い箇所と薄い箇所との間における元素量が急激に変化すると、それに伴いミクロ的な下での急激な強度の不均一さが鋼材内に生じ、靭性の低下を招くこととなる。そこで、偏析部の1μm当りの鋼中のC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の成分の変化度合いの値は、質量%で、Cの変化度合いであるC変化が0.0025%/μm以内であること、Mnの変化度合いであるMn変化が0.0030%/μm以内であること、Crの変化度合いであるCr変化が0.125%/μm以内であること、Moの変化度合いであるMo変化が0.105%/μm以内であること、Vの変化度合いであるV変化が0.0025%/μm以内であること、とする。
表1に示す各No.の化学成分とその残部のFeおよび不可避不純物とで100%の鋼組成を構成する発明鋼と比較鋼である各供試材において、各No.の発明鋼と比較鋼の供試材のそれぞれ100kgを、真空誘導溶解炉にて溶製し、次いで1200℃で48時間の均熱化処理をした後、角50mmへと鍛錬成形比4sで鍛伸した。さらに、これを870℃に2時間保持して焼なました後、10℃/hrの冷却速度で常温まで冷却した。
なお、160μm×1000μmの範囲は直径5μm以上の炭化物やMnSを含まない箇所とした。その印をつけた面を鏡面まで研磨した後、EPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて160μm×1000μmの範囲中のC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の最大と最小の元素量(質量%)を求めた。Cであれば最大値Cmaxと、最小値Cminとの差分からCの元素量の差が求まるので、これをCmax−Cminとする。各元素について元素量の差を求め、160μm×1000μm中のC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の成分量の最大値と最小値の差として、表2に示した。
このシャルピー衝撃試験をJIS鋼種であるSKD61に対して実施すると、焼戻し硬さが45HRCのとき20J/mm2の衝撃値が得られるので、一般的な鋼との対比の基準とすることができる。本願発明では、SKD61よりも優れた30J/mm2より高い衝撃値が得られれば、本発明の優れた靱性を備えるものと評価しうることから○とし、30J/mm2よりも低ければ、靱性に劣るものとして×として、表2に評価結果を示した。
他方、比較鋼No.22〜29は、表1に下線で示す元素が本発明の規定する範囲よりも多く含有されたものであって、表2に示すようにシャルピー衝撃値が低く、靭性が悪いものとなった。
比較鋼No.30は、Vの含有量が少ないものであるところ、結晶粒の粗大化が招来されたことから、表2におけるシャルピー衝撃値が低く、靱性が悪いものとなった。
比較鋼No.31,32は、N,Oの含有による介在物が多く、表2におけるシャルピー衝撃値が低く、靱性が悪いものとなった。
比較例No.33は、粗大炭化物の晶出し易さを表す指標S’の値が高く、粗大炭化物が晶出したことで、表2におけるシャルピー衝撃値が低くなり、靱性が悪いものとなった。
比較例No.34〜38は、各元素の成分量の最大値と最小値の差が大きく、成分が濃い箇所で粗大炭化物が晶出し易く、また成分の濃い箇所と薄い箇所とで、焼入性の差や、固溶元素による強化度合いの差が生じている。そこで、熱処理後の組織や強度が不均一となり、表2におけるシャルピー衝撃値が低く、靱性が悪いものとなった。
比較例No.39〜43は、偏析部の1μm当たりでの各元素成分の変化度合いが大きかったので、急激な強度の不均一さが鋼材内に生じた結果、表2におけるシャルピー衝撃値が低く、靱性が悪いものとなった。
2 成分変化の大きい箇所
Claims (1)
- 質量%で、
C:0.30〜0.42%、
Si:0.15〜1.00%、
Mn:0.20〜0.50%、
Cr:4.50〜6.00%、
Mo:1.00〜2.20%、
V:0.30〜0.60%、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
N:130ppm以下、
O:20ppm以下を含有し、
残部Feおよび不可避不純物からなる鋼であり、
この鋼の粗大炭化物の晶出し易さを表す指標をS’とするとき、
S’=([C]−0.2)×(2[Cr]+3[Mo]+6[V])のS’の値が3.1以下であって、
この鋼の160μm×1000μm中におけるC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素の成分量の最大値と最小値の差は、質量%で
Cmax−Cmin:0.25%以下、
Mnmax−Mnmin:0.25%以下、
Crmax−Crmin:1.25%以下、
Momax−Momin:1.20%以下、
Vmax−Vmin:0.30%以下であり、
さらに、この鋼の偏析部の1μm当たりのC、Mn、Cr、Mo、Vの各元素成分の変化度合いの値は、質量%で
C変化:0.0025%/μm以内、
Mn変化:0.0030%/μm以内、
Cr変化:0.125%/μm以内、
Mo変化:0.105%/μm以内、
V変化:0.0025%/μm以内であること、
を特徴とする靭性に優れた熱間工具鋼。
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