JP2021091954A - 金型用鋼及び金型 - Google Patents

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直樹 梅森
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成起 樋口
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Abstract

【課題】軟化抵抗が高い金型用鋼、及びこれをを用いた金型を提供すること。【解決手段】金型用鋼は、0.28≦C≦0.65mass%、0.01≦Si≦0.30mass%、1.5≦Mn≦3.0mass%、0.5≦Cr≦1.4mass%、1.9≦Mo+W/2≦4.0mass%、0.2≦V≦1.0mass%、及び、0.01≦N≦0.10mass%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。金型は、上記組成を有する金型用鋼からなり、直径が0.2μm以下である(Mo,W)炭化物量が1.2mass%以上であり、前記(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比(質量比)が11以上であり、硬さ変化が15HRC以下である。金型は、初期硬さが52HRC以上であるもの、及び/又は、室温における熱伝導率が30W/(m・K)以上であるものが好ましい。【選択図】図1

Description

本発明は、金型用鋼及び金型に関し、さらに詳しくは、高軟化抵抗を示す金型用鋼、並びに、このような金型用鋼を用いた金型に関する。
「ダイカスト」とは、金型に溶融金属を圧入することにより、高い寸法精度を有する鋳物を製造する鋳造方法をいう。ダイカストは、比較的低融点の金属(例えば、Al、Zn、Mg又はその合金)からなる鋳物の製造に用いられている。
「ホットスタンピング」とは、金型を用いて高温に加熱された板材をプレス成形し、板材の成形と同時に、冷却水で冷やされた金型で板材を急冷(焼入れ)する成形方法をいう。ホットスタンピングは、冷間成形能が低く、スプリングバックが大きい鋼板(例えば、超高張力鋼板)のプレス成形に用いられている。
「テイラードダイクエンチ」とは、熱源により意匠面が部分的に加熱された金型を用いて高温に加熱された板材をプレス成形し、板材の成形と同時に、低温に維持された意匠面で板材を部分的に急冷(焼入れ)する成形方法をいう。テイラードダイクエンチは、強度分布を必要とする部品(例えば、自動車の骨格を構成する部品)のプレス成形に用いられている。
ダイカスト、ホットスタンピング、テーラードダイクエンチなどの高温の被加工材を加工する方法において、金型は、使用中に熱サイクルを受ける。そのため、この種の金型には、高軟化抵抗性、及び耐ヒートチェック性が求められる。
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)質量%で、C:0.30〜0.45%、Si:0.3超〜1.0%.Mn:0.6〜1.5%、Ni:0.6〜1.8%、Cr:1.4〜2.0%未満、Mo+W/2:1.0超〜1.8%、V+Nb/2:0.2%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、
(b)各成分の間に所定の関係式が成り立つ
高靱性熱間工具鋼が開示されている。
同文献には、
(A)各成分のバランスを最適化することによって軟化抵抗性が向上する点、
(B)N量を0.015mass%以下にすることによって粗大な炭窒化物の形成が抑制され、靱性が向上する点、及び、
(C)炭化物の大きさ及び単位面積当たりの個数を最適化することによって被削性及び軟化抵抗性が向上する点
が記載されている。
特許文献2には、
(a)質量%で、C:0.34〜0.40%、Si:0.3〜0.5%、Mn:0.45〜0.75%、Ni:0〜0.5%未満、Cr:4.9〜5.5%、MoおよびWは単独または複合で(Mo+1/2W):2.5〜2.9%、V:0.5〜0.7%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、
(b)その焼入れ時の断面組織は、塊状組織および針状組織を含み、塊状組織(A%):45面積%以下、針状組織(B%):40面積%以下、残留オーステナイト(C%):5〜20体積%
である熱間工具鋼が開示されている。
同文献には、
(A)焼入れ後の組織は、靱性及び高温強度に及ぼす影響が大きい点、
(B)靱性の低下を抑制するためには、塊状組織及び針状組織をそれぞれ所定の面積率以下に低減するのが好ましい点、及び、
(C)強度特性の劣化を抑制するには残留オーステナイトは少ないほど良いが、オーステナイトを適度に残留させると、靱性が向上する点、
が記載されている。
特許文献3には、
(a)重量%で、C:0.25〜0.55%、Si:1.2%以下、Mn:1.5%以下、Ni:2.0%以下、Cr:6.0〜8.0%、1/2W+Mo:5.0%以下、Cr/Mo≦3を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、
(b)組織面に占める粒径0.1μm以上の未固溶炭化物の面積率が1%以上であり、
(c)少なくとも被加工材との接触面に窒化層を有し、かつ前記窒化層の表面から25μm内部での硬さが1100HV以上である
温熱間加工用窒化金型が開示されている。
同文献には、
(A)窒化処理された金型の摩耗は、金型表面と高温の被加工材との摩擦による発熱により表層部が軟化し、塑性流動を生じることが大きな要因の一つである点、及び
(B)窒化処理によって表面の硬さを向上すると同時に、未固溶炭化物量を増やすことによって、発熱を伴う摩耗を相乗的に改善できる点
が記載されている。
さらに、特許文献4には、重量比にしてC;0.60〜0.85%、Si;0.50〜1.50%、Mn;1.70〜2.30%、Cr;0.70〜2.00%、Mo;0.85〜1.50%、V;0.10%以下を含有し、残部がFeおよび不純物元素からなる空気焼入冷間工具鋼が開示されている。
同文献には、
(A)従来に比べてC量及びCr量を少なくすると、炭化物量が低減すると共に炭化物粒径が微細化され、彫刻性および冷間ホビング性が改善される点、
(B)Vを0.10%以下に規制すると、焼入れ性が向上し、縞状炭化物の形成が防止でき彫刻性が改善される点、及び、
(C)Siには、200℃前後における焼戻し軟化抵抗を付与する作用がある点、
が記載されている。
特許文献1に記載の高靱性熱間工具鋼は、Si量が多いために熱伝導率が低い。また、Mo+W/2量が少ないために、軟化抵抗も低い。
特許文献2に記載の熱間工具鋼は、Cr量が過剰であるために、Mo及び/又はWを含む炭化物(以下、「(Mo,W)炭化物」ともいう)よりもCr炭化物が先に析出する。その結果、Mo+W/2量が適量であるにもかかわらず、(Mo,W)炭化物の析出量が減少し、高い軟化抵抗は得られない。
特許文献3に記載の温間加工用窒化金型は、特許文献2に記載の熱間工具鋼と同様に、Cr量が過剰であるために、高い軟化抵抗は得られない。
さらに、特許文献4に記載の空気焼入冷間工具鋼は、Mo+W/2量が少ないために、200℃を超える高温域での焼戻し軟化抵抗が低い。
特開2016−166379号公報 特開2008−095190号公報 特開2001−073087号公報 特開平06−256895号公報
本発明が解決しようとする課題は、軟化抵抗が高い金型用鋼を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、初期硬さ、及び/又は、熱伝導率が高い金型用鋼を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このような金型用鋼を用いた金型を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係る金型用鋼は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記金型用鋼は、
0.28≦C≦0.65mass%、
0.01≦Si≦0.30mass%、
1.5≦Mn≦3.0mass%、
0.5≦Cr≦1.4mass%、
1.9≦Mo+W/2≦4.0mass%、
0.2≦V≦1.0mass%、及び、
0.01≦N≦0.10mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
(2)前記金型用鋼は、焼入れ及び焼戻し後の状態において、
直径が0.2μm以下である(Mo,W)炭化物量が1.2mass%以上となり、
前記(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比(質量比)が11以上となり、
硬さ変化が15HRC以下となる
ものからなる。
前記金型用鋼は、焼入れ及び焼き戻し後の状態において、
初期硬さが52HRC以上となるもの、及び/又は、
室温における熱伝導率が30W/(m・K)以上となるもの
が好ましい。
本発明に係る金型は、以下の構成を備えていることを要旨とする
(1)前記金型は、本発明に係る金型用鋼からなる。
(2)前記金型は、
直径が0.2μm以下である(Mo,W)炭化物量が1.2mass%以上であり、
前記(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比(質量比)が11以上であり、
硬さ変化が15HRC以下である。
前記金型は、
初期硬さが52HRC以上であるもの、及び/又は、
室温における熱伝導率が30W/(m・K)以上であるもの
が好ましい。
Cr量を相対的に少なくすると同時にMo+W/2量を相対的に多くすることで、微細な(Mo,W)炭化物が多量に析出し、かつ、Cr炭化物の析出が抑制される。その結果、軟化抵抗が向上する。
ハット曲げの模式図である。 ハット曲げにより摩耗が生じたパンチの表面の外観写真である。 ハット曲げにより焼付が生じたパンチの表面の外観写真である。
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 金型用鋼]
[1.1. 主構成元素]
本発明に係る金型用鋼は、以下のような元素を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなるものであり、溶製材及び積層造形用の粉末を含むものである。添加元素の種類、その成分範囲、及びその限定理由は、以下の通りである。
(1)0.28≦C≦0.65mass%:
Cは、高硬度を得るために必要な元素である。C量が少ないと、固溶C量及び炭化物量が少なくなり、52HRC以上の高硬度が得られない。従って、C量は、0.28mass%以上である必要がある。溶製材のC量は、好ましくは、0.50mass%以上、さらに好ましくは、0.55mass%以上である。
一方、C量が過剰になると、粗大な炭化物量が増加し、残留オーステナイト量も増加するために、52HRC以上の高硬度が得られない。さらに、積層造形法を用いて金型を製造する場合において、C量が過剰である時には、積層造形中に金型が割れやすくなる。従って、C量は、0.65mass%以下である必要がある。積層造形用粉末におけるC量は、好ましくは、0.40mass%以下、さらに好ましくは、0.35mass%以下である。
(2)0.01≦Si≦0.30mass%:
Si量が過剰になると、熱伝導率が低下する。熱伝導率が低下すると、高温の被加工材を加工する際に金型の表面温度が過度に上昇し、焼付が生じやすくなる。従って、Si量は、0.30mass%以下である必要がある。Si量は、好ましくは、0.15mass%以下、さらに好ましくは、0.10mass%以下である。
(3)1.5≦Mn≦3.0mass%:
Mn量が少なくなりすぎると、焼入れ性が低下する。従って、Mn量は、1.5mass%以上である必要がある。Mn量は、好ましくは、1.55mass%以上である。
一方、Mn量が過剰になると、熱伝導率が低下する。従って、Mn量は、3.0mass%以下である必要がある。Mn量は、好ましくは、2.0mass%以下、さらに好ましくは、1.8mass%以下である。
(4)0.5≦Cr≦1.4mass%:
Cr量が少なくなりすぎると、焼入れ性が低下する。従って、Cr量は、0.5mass%以上である必要がある。Cr量は、好ましくは、0.6mass%以上、さらに好ましくは、0.7mass%以上である。
一方、Cr量が過剰になると、焼戻し時にCr炭化物が多量に生成し、(Mo,W)炭化物量が減少する。その結果、軟化抵抗が低下する。また、Cr量が過剰になると、熱伝導率が低下する。
さらに、過剰のCrを含む金型を用いて高温の被加工材を加工した場合、金型表面に高硬度のCr酸化物が生成し、酸化物が巻き込まれて金型が摩耗しやすくなる。また、金型表面にCr酸化物が不均一に形成し、被加工材(例えば、めっき鋼板)の焼付が起きやすくなる。
従って、Cr量は、1.4mass%以下である必要がある。Cr量は、好ましくは、1.3mass%以下、さらに好ましくは、1.2mass%以下である。
(5)1.9≦Mo+W/2≦4.0mass%:
Mo+W/2は、高硬度及び高軟化抵抗に寄与する。Mo+W/2量が少なくなりすぎると、二次析出炭化物量の減少によって、52HRC以上の高硬度が得られない。また、(Mo,W)炭化物量も減少し、軟化抵抗が低下する。従って、Mo+W/2量は、1.9mass%以上である必要がある。
一方、Mo+W/2量が過剰になると、粗大な(Mo,W)炭化物量が増加し、なおかつ固溶C量が少なくなる。その結果、52HRC以上の高硬度と、高い軟化抵抗が得られない。また、高価なMo量及び/又はW量が増えるため、溶解コストも高くなる。従って、Mo+W/2量は、4.0mass%以下である必要がある。Mo+W/2量は、好ましくは、3.0mass%以下、さらに好ましくは、2.7mass%以下である。
(6)0.2≦V≦1.0mass%:
Vは、焼入れ時における結晶粒の粗大化の抑制に寄与する。V量が少ないと、ピン止め粒子(VC粒子)が少なくなり、焼入れ時に結晶粒が粗大化する。その結果、靱性が低くなる。従って、V量は、0.2mass%以上である必要がある。V量は、好ましくは、0.3mass%以上、さらに好ましくは、0.4mass%以上である。
一方、V量が過剰になると、硬さを向上させない粗大な炭化物量が増加する。また、固溶C量及び(Mo,W)炭化物量が減少するため、硬さが低くなり、高い軟化抵抗も得られない。従って、V量は、1.0mass%以下である必要がある。V量は、好ましくは、0.85mass%以下、さらに好ましくは、0.8mass%以下である。
(7)0.01≦N≦0.10mass%:
N量が少ないと、炭化物の核となる微細窒化物量が少なくなり、規定の(Mo,W)炭化物量を得ることができない。従って、N量は、0.01mass%以上である必要がある。
一方、N量が過剰になると、粗大な窒化物が多く発生し、微細な(Mo,W)炭化物を得ることができない。従って、N量は、0.10mass%以下である必要がある。N量は、好ましくは、0.05mass%以下である。
(8)不可避的不純物:
本発明において、以下の元素が以下の下限値未満である場合、これを不可避的不純物として扱う。
(a)Al<0.005mass%、
(b)P<0.05mass%、 (c)S<0.01mass%、
(d)Cu<0.30mass%、 (e)Ni<0.30mass%、
(f)O<0.01mass%、 (g)Co<0.10mass%、
(h)Nb<0.10mass%、 (i)Ta<0.10mass%、
(j)Ti<0.10mass%、 (k)Zr<0.01mass%、
(l)B<0.001mass%、 (m)Ca<0.001mass%、
(n)Se<0.03mass%、 (o)Te<0.01mass%、
(p)Bi<0.01mass%、 (q)Pb<0.03mass%、
(r)Mg<0.02mass%、 (s)REM<0.01mass%。
[1.2. 副構成元素]
本発明に係る金型用鋼は、主構成元素に加えて、以下のような1種又は2種以上の元素をさらに含んでいても良い。添加元素の種類、その成分範囲、及びその限定理由は、以下の通りである。
(9)0.005≦Al≦1.5mass%:
(10)0.01≦Ti≦0.5mass%:
(11)0.01≦Nb≦0.5mass%:
(12)0.01≦Zr≦0.5mass%:
(13)0.01≦Ta≦0.5mass%:
Al、Ti、Nb、Zr、及び、Taは、いずれも、焼入れ時における結晶粒粗大化の抑制に寄与する。これらの元素はいずれも、ピン止め粒子として機能する析出物を形成する。その結果、結晶粒が微細粒となり、靱性が向上する。このような効果を得るためには、これらの元素の含有量は、それぞれ、上記の下限値以上が好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になると、析出物が凝集し、ピン止め粒子として機能しなくなる。従って、これらの元素の含有量は、それぞれ、上記の上限値以下が好ましい。
なお、金型用鋼は、これらのいずれか1種の元素が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
(14)0.01≦Co≦1.0mass%:
Coは、高温強度の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Co量は、0.01mass%以上が好ましい。Co量は、好ましくは、0.3mass%以上、さらに好ましくは、0.5mass%以上である。
一方、Co量が過剰になると、溶解コストが増加し、熱伝導率も低下する。従って、Co量は、1.0mass%以下が好ましい。Co量は、好ましくは、0.9mass%以下である。
(15)0.30≦Ni≦1.0mass%:
(16)0.30≦Cu≦1.0mass%:
Cu及びNiは、いずれもパーライトの生成を遅延させ、焼入れ性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Ni量及びCu量は、それぞれ、0.30mass%以上が好ましい。
一方、Ni量及びCu量が過剰になると、溶解コストが増加し、熱伝導率も低下する。さらに、Ni量が過剰になると、残留オーステナイト量が増加し、硬度が低下する。従って、Ni量及びCu量は、それぞれ、1.0mass%以下が好ましい。
なお、金型用鋼は、Ni又はCuのいずれか一方が含まれていても良く、あるいは、双方が含まれていても良い。
(17)0.01≦S≦0.15mass%:
(18)0.001≦Ca≦0.15mass%:
(19)0.03≦Se≦0.35mass%:
(20)0.01≦Te≦0.35mass%:
(21)0.01≦Bi≦0.50mass%:
(22)0.03≦Pb≦0.50mass%:
S、Ca、Se、Te、Bi、及びPbは、いずれも被削性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、これらの元素の含有量は、それぞれ、上記の下限値以上が好ましい。
一方、これらの元素の含有量が過剰になると、介在物が形成されやすくなる。介在物は、破壊の起点となり、靱性を低下させる原因となる。従って、これらの元素の含有量は、上記の上限値以下が好ましい。
なお、金型用鋼は、これらのいずれか1種の元素が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
[1.3. 特性]
[1.3.1. 熱処理条件]
本発明に係る金型用鋼は、成分が最適化されているので、焼入れ及び焼戻し後の状態において高い特性を示す。
ここで、「焼入れ及び焼戻し後の状態」とは、
(a)1030℃±20℃で45min±15min均熱後、9〜30℃/minの冷却速度で焼入れし、
(b)540〜600℃で1h均熱後に空冷する焼戻しを2回実施した
後の状態をいう。
成分を最適化することに加えて、上述のような条件下で焼入れ焼戻しを行うと、Cr炭化物量及び(Mo,W)炭化物量を制御することができる。
なお、溶解鋳造後に晶出炭化物が発生する場合があるので、溶解鋳造後、熱間鍛造前に、1200℃以上のソーキング処理を入れるのが好ましい。特に、C量が0.55〜0.65mass%の範囲にある場合に、ソーキング処理を入れることが好ましい。ソーキング処理を行うことで、粗大な晶出炭化物を減らすことができ、その分焼入れ・焼き戻し後の微細な(Mo,W)炭化物を多量に析出させることができ、軟化抵抗が向上する。
焼入れ温度が低すぎると、固溶元素量が少なくなり、硬さ及び軟化抵抗が低くなる。従って、焼入れ温度は、1010℃以上が好ましい。
一方、焼入れ温度が高すぎると、固溶元素量が多くなりすぎてしまい、残留オーステナイトが増え、硬さが低くなる。また、結晶粒が粗大化する。従って、焼入れ温度は、1050℃以下が好ましい。
焼入れ温度での保持時間は、焼入れ温度を均一にするという観点から、45min±15minが好ましい。
冷却速度は、組織をフルマルテンサイトにするためには、9℃/min以上が好ましく、焼入れ割れを抑制するためには、30℃/min以下が好ましい。
また、焼戻し温度が低すぎると、Cr炭化物量が多くなり、かつ、(Mo,W)炭化物量が少なくなる。従って、焼戻し温度は、540℃以上が好ましい。
一方、焼戻し温度が高くなりすぎると、炭化物が粗大化し、初期硬さ及び軟化抵抗を向上させる効果が減少する。従って、焼戻し温度は、600℃以下が好ましい。
焼戻し温度での保持時間は、温度・時間の焼き戻しパラメータの観点から、最高硬さが得られるよう、1hが好ましい。
焼戻し回数は、1回目の焼戻し時に残留オーステナイトからマルテンサイトになった組織を焼き戻す必要があるため、2回が好ましい。
[1.3.2. (Mo,W)炭化物量]
本発明において、「(Mo,W)炭化物量」とは、Mo及び/又はWを含む炭化物であって、直径が0.2μm以下であるものの質量割合をいう。「直径」とは、円相当径をいう。
微細な(Mo,W)炭化物は、初期硬さ及び軟化抵抗の向上に寄与する。一般に、(Mo,W)炭化物量が多くなるほど、初期硬さが向上し、及び/又は、軟化抵抗が高くなる。このような効果を得るためには、焼入れ焼戻し後の状態において、(Mo,W)炭化物量は、1.2mass%以上である必要がある。
[1.3.3. (Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比]
「(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比(以下、「炭化物比」ともいう)」とは、直径が0.2μm以下であるCr炭化物の質量に対する、直径が0.2μm以下である(Mo,W)炭化物の質量の比をいう。
微細な(Mo,W)炭化物及びCr炭化物は、いずれも、初期硬さに寄与する。しかしながら、Cr炭化物量が相対的に過剰になると、Cr炭化物にCを取られるため、(Mo,W)炭化物量が減少し、高軟化抵抗が得られない。従って、焼入れ焼戻し後の状態において、炭化物比は、11以上である必要がある。
[1.3.4. 初期硬さ]
「初期硬さ」とは、焼入れ焼戻しを行った直後に、室温において測定されたロックウェル硬さ(Cスケール)をいう。
本発明に係る金型用鋼は、Cr量を相対的に少なくし、かつ、Mo+W/2量を相対的に多くしているので、これに対して適切な条件下で焼入れ焼戻しを行うと、マトリックス中に微細な(Mo,W)炭化物が多量に析出する。その結果、高い初期硬さが得られる。製造条件を最適化すると、焼入れ焼戻し後の状態において、初期硬さは、52HRC以上となる。製造条件をさらに最適化すると、初期硬さは、53HRC以上、あるいは、54HRC以上となる。
[1.3.5. 硬さ変化(軟化抵抗)]
「硬さ変化」とは、次の式(1)で表される値をいう。硬さ変化は、軟化抵抗の大きさを表し、硬さ変化がゼロに近いほど、軟化抵抗が高いことを表す。
硬さ変化=Hb−Ha …(1)
但し、
aは、上記の条件下で焼入れ焼戻しを行った後、さらに、600℃で130時間保持した後に、室温において測定されたロックウェル硬さ(Cスケール)、
bは、上記の条件下で焼入れ焼戻しを行った直後に、室温において測定されたロックウェル硬さ(Cスケール)。
本発明に係る金型用鋼は、Cr量を相対的に少なくし、かつ、Mo+W/2量を相対的に多くしているので、これに対して適切な条件下で焼入れ焼戻しを行うと、マトリックス中に微細な(Mo,W)炭化物が多量に析出する。微細な(Mo,W)炭化物は、初期硬さを向上させるだけでなく、軟化抵抗の向上にも寄与する。製造条件を最適化すると、硬さ変化は、15HRC以下となる。製造条件をさらに最適化すると、硬さ変化は、12HRC以下、あるいは、10HRC以下となる。
[1.3.6. 熱伝導率]
一般に、Siは、脱酸剤、硬さの向上、被削性の向上、耐酸化性の向上、200℃前後における焼戻し軟化抵抗の向上などを目的として添加される。しかしながら、Si含有量が過剰になると、熱伝導率が著しく低下する。
本発明に係る金型用鋼は、Si量を最小限に抑えているので、熱伝導率が高い。具体的には、製造条件を最適化すると、室温における熱伝導率は、30W/(m・K)以上となる。製造条件をさらに最適化すると、熱伝導率は、35W/(m・K)以上となる。
[2. 金型]
本発明に係る金型は、以下の構成を備えている。
(1)前記金型は、本発明に係る金型用鋼からなる。
(2)前記金型は、
直径が0.2μm以下である(Mo,W)炭化物量が1.2mass%以上であり、
前記(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量(質量比)が11以上であり、
硬さ変化が15HRC以下である。
金型は、
初期硬さが52HRC以上であるもの、及び/又は、
室温における熱伝導率が30W/(m・K)以上であるもの
が好ましい。
[2.1. 金型用鋼]
本発明に係る金型は、本発明に係る金型用鋼からなる。金型用鋼の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
[2.3. 特性]
本発明に係る金型は、本発明に係る金型用鋼を所定の条件下で焼入れ焼戻しすることにより得られる。そのため、焼入れ焼戻し後の状態において、金型は、
(a)直径が0.2μm以下である(Mo,W)炭化物の含有量が1.2mass%以上であり、
(b)(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比(質量比)が11以上であり、
(c)硬さ変化が15HRC以下である。
金型は、さらに、
(d)初期硬さが52HRC以上であるもの、及び/又は、
(e)室温における熱伝導率が30W/(m・K)以上であるもの
が好ましい。
金型の特性の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
[2.4. 用途]
本発明に係る金型は、特に熱間加工を行うための金型として好適である。本発明に係る金型の用途としては、例えば、ダイカスト用金型、ホットスタンピング用金型、テーラードダイクエンチ用金型などがある。
[3. 金型の製造方法]
本発明に係る金型は、種々の方法により製造することができる。
例えば、本発明に係る金型は、
(a)所定の成分となるように配合された原料を溶解鋳造し、
(b)晶出炭化物を固溶させるためのソーキング処理を行い、
(c)鋳塊を熱間鍛造し、
(d)熱間鍛造品に対して軟化のための熱処理(例えば、球状化焼鈍)を行い、
(e)軟化処理された鋼材の切断及び粗加工を行い、
(f)粗加工品に対して所定の条件下で焼入れ焼戻しを行い、
(g)熱処理品に対して仕上げ加工を行う
ことにより製造することができる。
各工程の方法及び条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法及び条件を選択することができる。
あるいは、本発明に係る金型は、
(a)アトマイズ法を用いて、本発明に係る金型用鋼からなる粉末を製造し、
(b)得られた粉末を用いて積層造形し、
(c)造形品に対して焼き戻しを行う
ことにより製造することができる。また、必要に応じて、焼き戻し後に仕上げ加工を行う。
積層造形法を用いて金型を製造する場合、積層造形時の条件を最適化すると、積層造形と同時に焼入れを行うことができる。
各工程の方法及び条件に関するその他の点は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法及び条件を選択することができる。
[4. 作用]
本発明に係る金型用鋼は添加成分量が最適化されているので、これに対して適切な熱処理(ソーキキング処理及び焼入れ・焼き戻し処理)を施すと、Cr炭化物量及び(Mo,W)炭化物量を適切な範囲に制御することができる。その結果、硬さ変化が15HRC以下となり、耐摩耗性に優れた金型が得られる。また、成分及び熱処理条件を最適化すると、初期硬さが52HRC以上となり、及び/又は、熱伝導率も30W/(m・K)以上となるので、熱間加工を行っても金型表面温度の上昇が抑制される。その結果、金型の軟化がさらに抑制される。
また、Cr量が相対的に少ないので、本発明に係る金型をホットスタンピング等の熱間加工に適用した場合であっても、高硬度のCr酸化物の生成を抑制することができる。その結果、高硬度のCr酸化物による金型の摩耗や、被加工材表面の酸化膜の金型表面への焼付を抑制することができる。また、高熱伝導率であるため、サイクルタイムの短縮にも効果がある。
さらに、Al、Co、Cu、Ni等の他の成分元素を添加することで、軟化抵抗、高温強度、高温焼入性、被削性をさらに向上させることができる。
例えば、ホットスタンピング用金型の初期硬さが低い場合、ホットスタンピング中に金型の摩耗が生じ、金型が損傷してしまう。また、成形中に金型の温度が上がるため、軟化抵抗が低いと硬さが低くなり、摩耗が促進される。
特に、テイラードダイクエンチ用金型の場合、金型を部分的に加熱して、加熱領域との接触部の冷却速度をマルテンサイト変態しない冷却速度まで遅くし、その部分の焼入れを防止している。そのため、金型の一部分が高い温度に長時間曝されるために、金型には高軟化抵抗が必要となる。加えて、金型の熱伝導率が低い場合には、金型の表面温度が高くなり、軟化及び摩耗の促進に繋がる。また、熱伝導率が低いと、加熱された鋼板の熱を金型で奪う速度が遅くなり、鋼板の焼入れに時間がかかる。さらに、鋼板を成形・取り出し後に、金型の冷却に要する時間が長くなる。金型が十分に冷えていない状態で次の鋼板を成形すると、鋼板が十分に冷却されなくなり、焼入れが不十分となる。
これに対し、本発明に係る金型用鋼は、初期硬さ及び軟化抵抗が高いだけでなく、熱伝導率も高い。そのため、これを例えばホットスタンピング用金型やテイラードダイクエンチ用金型に適用すると、成形時間及び金型の冷却に要する時間が短くなり、サイクルタイムを短縮することができる。
(実施例1〜26、比較例1〜13)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1〜21、比較例1〜13(溶製材)]
表1に示す化学組成の鋼を溶製した。得られた鋼塊(比較例13を除く)に対し、1240℃で20hr均熱の条件下でソーキング処理を行った。次に、鋳塊を熱間鍛造し、断面が55mm×55mm角の棒材を製造した。この棒材に対して、焼入れ及び焼戻しを行った。
焼入れは、1030℃で60min均熱後、冷却速度20〜30℃/minで急冷することにより行った。
また、焼戻しは、540〜600℃で1h均熱後、空冷する処理を2回繰り返すことにより行った。焼戻し温度は、各試料毎に、硬さが最も高くなる温度を選択した。
[1.2. 実施例22〜26(積層造形材)]
表1に示す化学組成の粉末を作製した。得られた粉末を用いて積層造形を行い、断面が55mm×55mm角の棒材を製造した。
次に、棒材の焼戻しを行った。焼戻し条件は、溶製材のそれと同一とした。
Figure 2021091954
[2. 試験方法]
[2.1. 炭化物量]
焼入れ焼戻し後の棒材から、10mm×12mm×20mmの炭化物量測定用の試験片を採取した。この試験片に含まれる炭化物の全体量(質量)を電解抽出により測定した。また、電解抽出された炭化物に対してSEM−EDXによる自動解析を行い、直径が0.2μm以下である各炭化物の組成及び量(個数)を測定した。得られた結果に基づいて、(Mo,W)炭化物量、及び、(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比を算出した。
(Mo,W)炭化物量が1.2mass%以上であり、かつ、(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比が11以上であるものを「○」、それ以外を「×」と評価した。
[2.2. 初期硬さ]
焼入れ焼戻し後の棒材の残材から、初期硬さ測定用の試験片を採取し、断面(棒材の軸方向に対して垂直な断面)を平面研磨した。研磨面を試験面として、室温においてロックウェル硬さ(Cスケール)を測定した。540〜600℃の範囲で温度を変えて焼戻しを行った時に、最高硬さが52HRC以上であるものを「○」、それ以外を「×」と評価した。
[2.3. 軟化抵抗(硬さ変化)]
焼入れ焼戻し後の棒材の残材を600℃で130時間加熱した。室温に冷却した後、残材から硬さ測定用の試験片を採取し、断面(棒材の軸方向に対して垂直な断面)を平面研磨した。研磨面を試験面として、室温においてロックウェル硬さ(Cスケール)を測定した。初期硬さから熱処理後の硬さを差し引いた値が15HRC以下であるものを「○」、それ以外を「×」と評価した。
[2.4. 熱伝導率]
焼入れ焼戻し後の棒材の残材から、φ10mm×2mmの熱伝導率測定用の試験片を採取した。レーザーフラッシュ法を用いて、室温の熱伝導率を測定した。室温の熱伝導率が30W/(m・K)以上であるものを「○」、それ以外を「×」と評価した。
[2.5. 摩耗試験]
焼入れ焼戻し後の棒材の残材から、30mm×60mm×50mmのパンチを作製した。焼戻し温度は、初期硬さが最も高くなる温度を選択した。このパンチを用いて、920℃に加熱した、めっきなし鋼板のハット曲げを行い、パンチの摩耗評価を行った。
図1に、ハット曲げの模式図を示す。まず、突起12aと、突起12aの左右に配置された可動部分12b、12bと、可動部分12b、12bを支持するばね12c、12cとを持つダイ12の上に鋼板14を載せた(図1(A))。次いで、突起12aの上方に配置されたプレート16、及び、プレート16の左右に配置されたパンチ18、18を下降させ、鋼板14の4箇所を折り曲げた(図1(B))。ハット曲げは加速試験とし、クリアランスは−15%とした。
図2に、ハット曲げにより摩耗が生じたパンチの表面の外観写真を示す。上記の条件下においてハット曲げを行った場合において、90ショット以内に図2に示すような摩耗が生じたものを「×」、生じないものを「○」と評価した。
[2.6. 焼付試験]
摩耗試験と同様にして、パンチを作製した。このパンチを用いて、920℃に加熱した、Alメッキ鋼板のハット曲げを行った。クリアランスは、−30%とした。
図3に、ハット曲げにより焼付が生じたパンチの表面の外観写真を示す。上記の条件下においてハット曲げを行った場合において、90ショット以内に図3に示すような焼付が生じたものを「×」、生じないものを「○」と評価した。
[3. 結果]
表2に結果を示す。表2より、以下のことが分かる。
(1)比較例1は、初期硬さが低く、硬さ変化が大きく、かつ、耐摩耗性が低い。これは、C量が低く、微細な炭化物が少ないためと考えられる。
(2)比較例2は、初期硬さが低く、硬さ変化が大きく、かつ、耐摩耗性が低い。これは、C量が過剰であり、粗大な炭化物が多いためと考えられる。
(3)比較例3は、硬さ変化が大きく、熱伝導率が低く、耐摩耗性が低く、かつ、耐焼付き性が低い。これは、Si量が高いため熱伝導率が低く、Cr量が高いため微細な(Mo,W)炭化物が少ないためと考えられる。
(4)比較例4は、硬さ変化が大きく、熱伝導率が低く、耐摩耗性が低く、かつ、耐焼付き性が低い。これは、C量及びCr量が高いため、微細な(Mo,W)炭化物が少なく、Mn量が過剰であるためためと考えられる。
(5)比較例5は、硬さ変化が大きく、熱伝導率が低く、耐摩耗性が低く、かつ、耐焼付き性が低い。これは、Cr量が高いことから、微細な(Mo,W)炭化物が少ないためと考えられる。
(6)比較例6は、硬さ変化が大きく、熱伝導率が低く、耐摩耗性が低く、かつ、耐焼付き性が低い。これは、比較例5と比べて、さらにCr量が過剰であるためと考えられる。
(7)比較例7は、硬さ変化が大きく、熱伝導率が低く、耐摩耗性が低く、かつ、耐焼付き性が低い。これは、比較例5と比べて、さらにCr量が過剰であるためと考えられる。
(8)比較例8は、初期硬さが低く、硬さ変化が大きく、かつ、耐摩耗性が低い。これは、Mo+W/2量が低いためと考えられる。
(9)比較例9は、初期硬さが低く、硬さ変化が大きく、熱伝導率が低く、耐摩耗性が低く、かつ、耐焼付き性が低い。これは、Mo+W/2量が過剰であり、粗大な炭化物となっているためと考えられる。
(10)比較例10は、初期硬さが低く、硬さ変化が大きく、かつ、耐摩耗性が低い。これは、V量が過剰であり、固溶C量及び微細な(Mo,W)炭化物が少ないためと考えられる。
(11)比較例11は、硬さ変化が大きく、かつ、耐摩耗性が低い。これは、N量が少ないためと考えられる。
(12)比較例12は、硬さ変化が大きく、かつ、耐摩耗性が低い、これは、N量が過剰であるためと考えられる。
(13)比較例13は、初期硬さが低く、硬さ変化が大きく、耐摩耗性が低い。これは、ソーキング処理を行っていないために、粗大な晶出炭化物が残留しており、固溶C量及び微細な(Mo,W)炭化物が少ないためと考えられる。
(14)実施例1〜26は、いずれも初期硬さが52HRC以上であり、硬さ変化が15HRC以下であり、かつ、室温での熱伝導率が30W/(m・K)以上であった。また、耐摩耗性及び耐焼付き性にも優れていた。そのため、これを例えばホットスタンプ用金型に適用すると、耐摩耗性の向上が図れる。
Figure 2021091954
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る金型用鋼は、ダイカスト用金型、ホットスタンピング用金型、テーラードダイクエンチ用金型などの材料として用いることができる。

Claims (10)

  1. 以下の構成を備えた金型用鋼。
    (1)前記金型用鋼は、
    0.28≦C≦0.65mass%、
    0.01≦Si≦0.30mass%、
    1.5≦Mn≦3.0mass%、
    0.5≦Cr≦1.4mass%、
    1.9≦Mo+W/2≦4.0mass%、
    0.2≦V≦1.0mass%、及び、
    0.01≦N≦0.10mass%
    を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
    (2)前記金型用鋼は、焼入れ及び焼戻し後の状態において、
    直径が0.2μm以下である(Mo,W)炭化物量が1.2mass%以上となり、
    前記(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比(質量比)が11以上となり、
    硬さ変化が15HRC以下となる
    ものからなる。
  2. 0.005≦Al≦1.5mass%、
    0.01≦Ti≦0.5mass%、
    0.01≦Nb≦0.5mass%、
    0.01≦Zr≦0.5mass%、及び、
    0.01≦Ta≦0.5mass%
    からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素をさらに含む請求項1に記載の金型用鋼。
  3. 0.01≦Co≦1.0mass%
    をさらに含む請求項1又は2に記載の金型用鋼。
  4. 0.30≦Ni≦1.0mass%、及び/又は、
    0.30≦Cu≦1.0mass%
    をさらに含む請求項1から3までのいずれか1項に記載の金型用鋼。
  5. 0.01≦S≦0.15mass%、
    0.001≦Ca≦0.15mass%、
    0.03≦Se≦0.35mass%、
    0.01≦Te≦0.35mass%、
    0.01≦Bi≦0.50mass%、及び、
    0.03≦Pb≦0.50mass%
    からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素をさらに含む請求項1から4までのいずれか1項に記載の金型用鋼。
  6. 焼入れ及び焼戻し後の状態において、初期硬さが52HRC以上となるものからなる請求項1から5までのいずれか1項に記載の金型用鋼。
  7. 焼入れ及び焼戻し後の状態において、室温における熱伝導率が30W/(m・K)以上となるものからなる請求項1から6までのいずれか1項に記載の金型用鋼。
  8. 以下の構成を備えた金型。
    (1)前記金型は、請求項1から7までのいずれか1項に記載の金型用鋼からなる。
    (2)前記金型は、
    直径が0.2μm以下である(Mo,W)炭化物量が1.2mass%以上であり、
    前記(Mo,W)炭化物量/Cr炭化物量比(質量比)が11以上であり、
    硬さ変化が15HRC以下である。
  9. 初期硬さが52HRC以上である請求項8に記載の金型。
  10. 室温における熱伝導率が30W/(m・K)以上である請求項8又は9に記載の金型。
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