[積層フィルム]
本発明の積層フィルムは、触媒層を電解質膜に転写して固体高分子型燃料電池の膜電極接合体などの触媒層−電解質膜複合体(又は触媒層−電解質膜積層体)を製造するための積層フィルムであって、基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に積層され、かつ前記膜電極接合体を製造するための熱圧着により第二層と接着する第一層(接着層)と、この第一層の上に積層された第二層(離型層)とを含む。
(第二層)
第二層(離型層)は、触媒層に対する離型性を有する離型成分を含んでいればよいが、ロール・ツー・ロール方式で生産でき、MEAの生産性を向上できる点から、離型成分として、離型性を有する熱可塑性樹脂、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)系樹脂、シリコーン含有ポリエチレンテレフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素樹脂などを含むのが好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの熱可塑性樹脂のうち、触媒層に対する離型性に優れる点から、環状オレフィン系樹脂を含むのが特に好ましい。
環状オレフィン系樹脂は、少なくとも繰り返し単位として環状オレフィン単位を含んでいればよいが、触媒層に対する離型性及び触媒層の製膜性(塗工性)に優れ、かつ耐熱性も向上できる点から、側鎖に炭素数2〜10のアルキル基(例えばC3−10アルキル基)を有するオレフィン単位を含むのが好ましい。C2−10アルキル基は、環状オレフィン系樹脂の主鎖に対して、自由度の高い側鎖として存在することにより、変形により生じるエネルギーを熱エネルギーに変換できるためか、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度を上昇させて耐熱性を向上させても、弾性及び靱性を保持できる。特に、α−オレフィンにおいて、末端アルキル基の炭素数が3以上になると、室温で液体となるが、本発明でも、側鎖のアルキル基の炭素数が3以上になると、前述の効果が発現する。一方、炭素数が10を超えると、ガラス転移温度が低下しすぎる。
C2−10アルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基などの直鎖状又は分岐鎖状アルキル基などが挙げられる。これらのC2−10アルキル基は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、耐熱性と弾性と靱性とのバランスに優れる点から、好ましくは直鎖状C3−10アルキル基(例えばn−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基などの直鎖状C4−9アルキル基)であり、さらに好ましくは直鎖状C4−8アルキル基(特にn−ヘキシル基などの直鎖状C5−7アルキル基)である。
このような環状オレフィン系樹脂としては、C2−10アルキル基を有する鎖状オレフィン単位及び/又はC2−10アルキル基を有する環状オレフィン単位(特に炭素数4〜8の直鎖状アルキル基を有するエチレン又はノルボルネン単位)を含んでいてもよく、単独重合体であってもよいが、所望の特性を調整し易い点から、前記鎖状オレフィン単位及び/又は前記環状オレフィン単位と、他の共重合性単位との共重合体が好ましく、C2−10アルキル基を有さない環状オレフィン単位(A)と、C2−10アルキル基を有する鎖状又は環状オレフィン単位(B)とを含む共重合体が特に好ましい。共重合体には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体が含まれる。
環状オレフィン単位(A)を形成するための重合成分(単量体)は、環内にエチレン性二重結合を有する重合性の環状オレフィンであり、単環式オレフィン、二環式オレフィン、三環以上の多環式オレフィンなどに分類できる。
単環式オレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの環状C4−12シクロオレフィン類などが挙げられる。
二環式オレフィンとしては、例えば、2−ノルボルネン;5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネンなどのメチル基を有するノルボルネン類;5−エチリデン−2−ノルボルネンなどのアルケニル基を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネンなどのアルコキシカルボニル基を有するノルボルネン類;5−シアノ−2−ノルボルネンなどのシアノ基を有するノルボルネン類;5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−2−ノルボルネンなどのアリール基を有するノルボルネン類;オクタリン;6−メチル−オクタヒドロナフタレンなどのメチル基を有するオクタリンなどが例示できる。
多環式オレフィンとしては、例えば、ジシクロペンタジエン;2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン、メタノオクタヒドロフルオレン、ジメタノオクタヒドロナフタレン、ジメタノシクロペンタジエノナフタレン、メタノオクタヒドロシクロペンタジエノナフタレンなどの誘導体;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデンなどとの付加物;シクロペンタジエンの3〜4量体などが挙げられる。
これらの環状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの環状オレフィンのうち、積層フィルムの離型性と柔軟性とのバランスに優れる点から、二環式オレフィンが好ましい。C2−10アルキル基を有さない環状オレフィン(環状オレフィン単位(A1)を形成するための環状オレフィン)全体に対して二環式オレフィン(特にノルボルネン類)の割合は10モル%以上であってもよく、例えば、30モル%以上、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上(特に90モル%以上)であり、二環式オレフィン単独(100モル%)であってもよい。特に、三環以上の多環式オレフィンの割合が大きくなると、ロール・ツー・ロール方式での製造に用いることが困難となる。
代表的な二環式オレフィンとしては、例えば、C2−10アルキル基以外の置換基を有していてもよいノルボルネン(2−ノルボルネン)、C2−10アルキル基以外の置換基を有していてもよいオクタリン(オクタヒドロナフタレン)などが例示できる。前記置換基としては、メチル基、アルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、シアノ基、アミド基、ハロゲン原子などが例示できる。これらの置換基は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらの置換基のうち、積層フィルムの離型性を損なわない点から、メチル基などの非極性基が好ましい。これらの二環式オレフィンのうち、ノルボルネン、メチルノルボルネンなどのノルボルネン類(特にノルボルネン)が特に好ましい。
鎖状又は環状オレフィン単位(B)を形成するための重合成分(単量体)は、環状オレフィン系樹脂の主鎖に対して側鎖としてC2−10アルキル基を形成可能であり、かつエチレン性二重結合を有する重合性のオレフィンであり、C2−10アルキル基を有する鎖状オレフィン単位を形成するための鎖状オレフィン、C2−10アルキル基を有する環状オレフィン単位を形成するための環状オレフィンに分類できる。なお、鎖状オレフィン単位は、環状オレフィンの開環により生じた鎖状オレフィン単位であってもよいが、両単位の割合を制御し易い点から、鎖状オレフィンを重合成分とする単位が好ましい。
前記鎖状オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセンなどの直鎖状又は分岐鎖状α−C4−12オレフィンなどが挙げられる。これらの鎖状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの鎖状オレフィンのうち、好ましくは鎖状(特に直鎖状)α−C5−12オレフィン[例えば、鎖状(特に直鎖状)α−C6−11オレフィン]であり、ポリマーの生産性など、諸特性のバランスに優れる点から、さらに好ましくは鎖状(特に直鎖状)α−C6−10オレフィン[特に1−オクテンなどの鎖状(直鎖状)α−C7−9オレフィン]である。
前記環状オレフィンは、前記環状オレフィン単位(A)の項で例示された環状オレフィン骨格にC2−10アルキル基が置換した環状オレフィンであってもよい。環状オレフィン骨格としては、二環式オレフィン(特にノルボルネン)が好ましい。好ましいC2−10アルキル基を有する環状オレフィンとしては、例えば、5−エチル−2−ノルボルネン、5−プロピル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ペンチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−オクチル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネンなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルキルノルボルネンなどが挙げられる。これらの環状オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの環状オレフィンのうち、好ましくは直鎖状C3−10アルキルノルボルネンであり、さらに好ましくは直鎖状C4−9アルキルノルボルネン(特に5−ヘキシル−2−ノルボルネンなどの直鎖状C4−8アルキルノルボルネン)である。
環状オレフィン単位(A)と鎖状又は環状オレフィン単位(B)との割合(モル比)は、例えば、前者/後者=50/50〜99/1、好ましくは60/40〜95/5、さらに好ましくは70/30〜90/10(特に75/25〜90/10)程度である。環状オレフィン単位(A)の割合が少なすぎると、積層フィルムの耐熱性が低下し、多すぎると積層フィルムの機械的特性が低下する虞がある。
環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン単位(A)及び鎖状又は環状オレフィン単位(B)以外に他の共重合性単位を含んでいてもよい。他の共重合性単位を形成するための共重合成分(単量体)としては、例えば、α−鎖状C2−3オレフィン(エチレン、プロピレンなど)、ビニルエステル系単量体(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、ジエン系単量体(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)、(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、又はこれらの誘導体((メタ)アクリル酸エステルなど)など]などが挙げられる。これらの共重合成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、エチレンやプロピレンなどのα−鎖状C2−3オレフィンなどが汎用される。他の共重合性単位の割合は、環状オレフィン単位(A)及び鎖状又は環状オレフィン単位(B)の合計に対して、例えば、10モル%以下、好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
環状オレフィン系樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において、ポリスチレン換算で、例えば10000〜300000、好ましくは20000〜250000、さらに好ましくは30000〜200000(特に50000〜150000)程度である。分子量が小さすぎると、製膜性が低下し易く、大きすぎると、粘度が高くなるため、取り扱い性が低下し易い。
環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は120〜350℃程度の範囲から選択でき、耐熱性と機械的特性とのバランスの点から、例えば130〜340℃、好ましくは150〜330℃(例えば170〜310℃)、さらに好ましくは200〜300℃(特に210〜290℃)程度であってもよい。ガラス転移温度が低すぎると、積層フィルムの耐熱性が低下して、高温での処理が困難となり易く、高すぎると、生産が困難となる。なお、本発明において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定できる。例えば、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC6200」)を用い、JIS K7121に準じ、窒素気流下、昇温速度10℃/分で測定してもよい。
環状オレフィン系樹脂の重合方法に特に制限はなく、慣用の方法、例えば、チーグラー型触媒を用いた付加重合、メタロセン系触媒を用いた付加重合などを利用できる。具体的な重合方法としては、例えば、特開2004−107442号公報、特開2007−119660号公報、特開2008−255341号公報、Macromolecules, 43, 4527(2010)、Polyhedron, 24, 1269(2005), J. Appl. Polym. Sci, 128(1), 216(2013), Polymer Journal, 43, 331(2011)に記載の方法などを利用できる。また、重合に用いる触媒も、これらの文献に記載の方法で合成された触媒などを利用できる。
触媒の割合は、環状オレフィン系単量体100質量部に対して、例えば0.0001〜0.05質量部、好ましくは0.0005〜0.01質量部、さらに好ましくは0.001〜0.01質量部程度である。
さらに、環状オレフィン系樹脂の重合には、慣用の助触媒を用いてもよい。助触媒としては、通常、トリメチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウム(原料)の部分加水分解物であるアルミノキサン化合物が利用される。アルミノキサン化合物としては、例えば、メチルイソブチルアルミノキサン、メチルアルミノキサンなどのC1−6アルキルアルミノキサン、ポリメチルアルミノキサンなどのポリC1−6アルキルアルミノキサンなどが挙げられる。これらのアルミノキサン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
助触媒の割合は、十分な触媒活性を発現させることができる割合であれば、特に制限はなく、触媒活性に応じて選択できる。アルミノキサン化合物を用いる場合、通常、触媒1分子当たりのアルミニウム原子の割合が、等量〜10,000倍量、好ましくは10〜5,000倍量、さらに好ましくは50〜2,000倍量程度である。
第二層(離型層)には、さらに慣用の添加剤が含まれていてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、充填剤、滑剤(ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなど)、帯電防止剤、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤など)、難燃剤、粘度調整剤、増粘剤、消泡剤などが含まれていてもよい。また、表面平滑性を損なわない範囲で、有機又は無機粒子(特にゼオライトなどのアンチブロッキング剤)を含んでいてもよい。
第二層中の離型性を有する熱可塑性樹脂(特に環状オレフィン系樹脂)の割合は、例えば、第二層全体に対して80重量%以上、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上(例えば95〜100重量%)であってもよい。
第二層の平均厚みは、例えば0.1〜300μm、好ましくは1〜300μm、さらに好ましくは5〜100μm程度である。第二層が薄肉すぎると、ハーフカット工程で不要部分を剥離除去する際に、第二層が破れて剥離除去が困難になる。5〜100μm程度が、取り扱い性に優れ、ロール・ツー・ロール方式などに適するとともに、経済性も向上する。なお、平均厚みは、コーティング膜の場合、第二層の塗工量(単位面積当たりの樹脂組成物の重量)及び密度に基づいて算出できる。
第二層の表面自由エネルギーは20mN/m以上であり、例えば20〜40mN/m、好ましくは26〜39mN/m、さらに好ましくは30〜38mN/m(特に33〜37mN/m)程度である。表面自由エネルギーが小さすぎると、第二層に対する触媒層の塗工性が低下し、大きすぎると、第二層の触媒層に対する離型性が低下する虞がある。第二層の表面自由エネルギーは、表面の接触角を測定して算出できる。
第二層は、表面において、JIS B0610に準拠した算術平均粗さ(Ra)は1μm以下(例えば1nm〜1μm)であり、例えば1〜800nm、好ましくは1〜500nm、さらに好ましくは1〜300nm(特に1〜200nm)程度である。Raが大きすぎると、触媒層に対する適度な密着性や基材層に対する密着性が低下する虞がある。
(第一層)
前記第二層と基材層との間には、接着成分を含む第一層(接着層)が介在している。この第一層は、熱圧着工程前は、基材層と剥離可能であってもよく、接着して一体化していてもよい。基材層と一体化している場合は、ハーフカット工程において、触媒層及び第二層のみの不要部分(電極形状以外の周囲の不要部分)が剥離して除去される。一方、基材層と剥離可能である場合は、ハーフカット工程において、触媒層、第二層及び第一層の不要部分が剥離して除去される。
具体的には、基材層と第一層との剥離強度は、特に限定されず、両層が剥離可能な場合、例えば270mN/mm以下であり、両層が一体化している場合、例えば300mN/mm以上程度である。
詳しくは、基材層及び第一層の両層が一体化している場合、基材層と第一層との剥離強度は、例えば300〜600mN/mm、好ましくは400〜600mN/mm、さらに好ましくは500〜600mN/mm程度であり、かつ第一層と第二層との剥離強度は、例えば270mN/mm以下(例えば5〜200mN/mm)、好ましくは10〜170mN/mm、さらに好ましくは30〜130mN/mm程度である。第一層と第二層との剥離強度が大きすぎると、MEAなどの触媒層−電解質膜複合体製造のためのハーフカット工程において、触媒層と第二層との剥離除去が困難となり、転写による目的の形状(電極形状など)の再現性が低下する虞がある。第一層と第二層との剥離強度が小さすぎると、第二層の浮きやズレが発生し、取り扱い性が低下する虞がある。
基材層及び第一層の両層が剥離可能な場合、基材層と第一層との剥離強度は、例えば5〜270mN/mm(例えば5〜200mN/mm)、好ましくは10〜170mN/mm、さらに好ましくは30〜130mN/mm程度であり、かつ第一層と第二層との剥離強度は、例えば300mN/mm以上(例えば300〜600mN/mm)、好ましくは400〜600mN/mm、さらに好ましくは500〜600mN/mm程度である。基材層と第一層との剥離強度が大きすぎると、MEAなどの触媒層−電解質膜複合体製造のためのハーフカット工程において、触媒層と第二層及び第一層との剥離除去が困難となり、転写による目的の形状(電極形状など)の再現性が低下する虞がある。基材層と第一層との剥離強度が小さすぎると、第一層及び第二層の浮きやズレが発生し、取り扱い性が低下する虞がある。
さらに、熱圧着工程で120℃及び3MPaで5分間熱圧着した後において、基材層と第一層との剥離強度及び第一層と第二層との剥離強度は、いずれの剥離強度も、例えば130mN/mm以上(例えば130〜600mN/mm)、好ましくは200〜600mN/mm、さらに好ましくは300〜600mN/mm程度であり、かつ第二層と触媒層との剥離強度は100mN/mm以下(例えば0〜60mN/mm)、好ましくは0〜30mN/mm、さらに好ましくは0〜15mN/mm程度である。熱圧着後の第一層と第二層との剥離強度又は基材層と第一層との剥離強度が小さすぎると、第一層又は第二層ごと触媒層が転写され、触媒層の性能が低下する虞がある。また、第二層と触媒層との剥離強度が大きすぎると、触媒層の第二層への残存が起こり、触媒層の転写の再現性が低下する虞がある。
本発明では、剥離強度は、23℃、50%RHで1時間以上静置した後、300mm/分の条件で180°剥離する方法で測定できる。
第一層において、熱圧着による第二層(及び基材層)との接着性が向上する特性は、熱反応性、ホットメルト接着性のいずれの特性であってもよい。
熱反応性を有する第一層は、接着成分として、塩素含有樹脂を含んでいてもよい。第一層が熱反応性の接着成分を含むと、第一層形成工程で基材層と第一層とが一体化するため、ハーフカット工程において、第一層が切断された場合でも、第一層は、剥離除去されず、基材層に残存する。
塩素含有樹脂は、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどの塩素化された樹脂であってもよいが、通常、塩素含有モノマーを重合成分とする重合体である。塩素含有モノマーとしては、例えば、塩化ビニルモノマー、塩化ビニリデンモノマーなどが挙げられる。これらの塩素含有モノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、基材層及び第二層(特に第二層)に対する密着性の点から、塩化ビニリデンモノマーが好ましい。
塩素含有樹脂は、塩素含有モノマー単位以外の他の共重合性単位を含んでいてもよい。他の共重合性単位を形成するための重合成分としては、例えば、前記第二層の環状オレフィン系樹脂の項で例示された単量体(オレフィン系単量体、ビニルエステル系単量体、ジエン系単量体、(メタ)アクリル系単量体など)などが挙げられる。前記単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記単量体のうち、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリルなどが汎用される。
他の共重合性単位(共重合性モノマー)の割合は、塩素含有樹脂の特性を損なわない程度であればよく、塩素含有樹脂全体に対して、通常0.1〜50質量%(例えば0.3〜25質量%)、好ましくは0.5〜20質量%、さらに好ましくは1〜15質量%(特に3〜10質量%)程度であってもよい。
塩素含有樹脂としては、例えば、塩化ビニル系重合体[塩化ビニルモノマーの単独重合体(ポリ塩化ビニル)、塩化ビニル系共重合体(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)など]、塩化ビニリデン系重合体[塩化ビニリデンの単独重合体(ポリ塩化ビニリデン)、塩化ビニリデン系共重合体(塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン−(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニリデン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニリデン−(メタ)アクリロニトリル共重合体など)など]などが挙げられる。これらの塩素含有樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの塩素含有樹脂のうち、第二層と基材層との密着性を向上できる点から、塩化ビニリデン系重合体(特に塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体などの塩化ビニリデン系共重合体)が好ましい。塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体において、塩化ビニリデン単位と塩化ビニル単位との割合(モル比)は、例えば、前者/後者=99/1〜5/95、好ましくは97/3〜10/90、さらに好ましくは95/5〜50/50程度である。塩化ビニリデン系重合体は、水性エマルジョンに含有される乳化剤、界面活性剤などを含んでいなくてもよい。
塩素含有樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において、ポリスチレン換算で、500,000以下であってもよく、例えば10,000〜500,000、好ましくは20,000〜250,000(例えば25,000〜100,000)、さらに好ましくは30,000〜90,000(特に50,000〜80,000)程度であってもよい。分子量が大きすぎると、ハーフカット工程での不要部分の剥離除去性が低下する虞がある。
塩素含有樹脂の融点は、熱圧着工程における加熱温度(熱圧着温度)をT℃とするとき、T+50℃以下(特にT+20℃以下)であってもよいが、ハーフカット工程での剥離除去性及び触媒層の転写性に優れる点から、前記熱圧着温度近辺が好ましく、例えばT−50℃〜T+50℃、好ましくはT−30℃〜T+30℃、さらに好ましくはT−20℃〜T+20℃(特にT−15℃〜T+15℃)程度である。具体的な融点は150℃以下(特に140℃以下)であってもよく、例えば80〜150℃、好ましくは90〜145℃、さらに好ましくは100〜140℃(特に120〜135℃)程度であってもよい。融点が高すぎると、ハーフカット工程での不要部分の剥離除去性が低下する虞がある。
なお、塩素含有樹脂の融点は、融点の異なる複数種の塩素含有樹脂を組み合わせて調整してもよい。その場合、本発明では、質量割合に応じた平均値を、融点の異なる複数種を組み合わせた樹脂成分の融点とする。
塩素含有樹脂のガラス転移温度(Tg)は100℃以下であってもよく、例えば−50℃〜80℃、好ましくは−30℃〜50℃、さらに好ましくは0〜30℃程度である。ガラス転移温度が高すぎると、ハーフカット工程での不要部分の剥離除去性が低下する虞がある。
塩素含有樹脂は、反応性接着成分[イソシアネート系化合物、イミノ基含有ポリマー(ポリエチレンイミンなど)など]と組み合わせて接着性を調整してもよく、特にイソシアネート系化合物と組み合わせるのが好ましい。
前記イソシアネート系化合物は、末端イソシアネート基を有するプレポリマー又はオリゴマーなどであってもよいが、通常、ポリイソシアネート、例えば、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、芳香族イソシアネート、これらの誘導体などであってもよい。
前記脂肪族イソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などが挙げられる。前記脂環族イソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添トリレンジイソシアネート(水添TDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、水添ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)などが挙げられる。前記芳香族イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)などが挙げられる。
また、イソシアネートの誘導体としては、例えば、上記イソシアネートの多量体[2量体(ウレットジオン基含有イソシアネート)、3量体(イソシアヌレート環含有イソシアネート)、5量体、7量体など]、上記イソシアネートの変性体(アロハネート変性イソシアネート、ビュレット変性イソシアネート、ウレア変性イソシアネート、カルボジイミド変性イソシアネートなど)、多価アルコールと前記イソシアネートとの付加体などが挙げられる。
これらのイソシアネート系化合物のうち、TDI、MDI、XDI、TMXDIなどの芳香族イソシアネート及びこれらの誘導体が好ましい。
イソシアネート系化合物の割合は、前記塩素含有樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部、好ましくは0.5〜20重量部、さらに好ましくは1〜10重量部程度であってもよい。
ホットメルト接着性を有する第一層は、接着成分として、ホットメルト接着性樹脂を含んでいてもよい。第一層がホットメルト性の接着成分を含むと、第一層形成工程では基材層と第一層とは一体化せず、ハーフカット工程において、切断された第一層は、第二層及び触媒層とともに剥離除去される。
ホットメルト接着性樹脂としては、加熱により軟化して接着機能を発現可能なホットメルト接着性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが挙げられる。これらのホットメルト接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらのホットメルト接着性樹脂のうち、接着性などの点から、ポリエステル系樹脂が好ましい。ポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂、共重合ポリエステル系樹脂(又は非晶性ポリエステル系樹脂)などが挙げられる。これらのポリエステル系樹脂も、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらのホットメルト接着性樹脂の融点は、熱圧着工程において軟化して熱圧着されることにより基材層及び第二層との密着性を向上して、触媒層の転写性を向上できる点から、熱圧着工程における加熱温度(熱圧着温度)をT℃とするとき、T+50℃以下(特にT+20℃以下)であってもよいが、ハーフカット工程での剥離除去性及び触媒層の転写性に優れる点から、前記熱圧着温度近辺が好ましく、例えばT−50℃〜T+50℃、好ましくはT−30℃〜T+30℃、さらに好ましくはT−20℃〜T+20℃(特にT−15℃〜T+15℃)程度である。具体的な融点は150℃以下(特に140℃以下)であってもよく、例えば80〜150℃、好ましくは90〜145℃、さらに好ましくは100〜140℃(特に110〜130℃)程度であってもよい。融点が高すぎると、ハーフカット工程での不要部分の剥離除去性が低下する虞がある。
なお、ホットメルト接着性樹脂の融点は、融点の異なる複数種のホットメルト接着性樹脂を組み合わせて調整してもよい。
これらのうち、基材層及び第二層と高い密着力で一体化でき、触媒層の転写性に優れる点から、熱反応性を有する第一層(特に、塩素含有樹脂を含む第一層)が好ましい。
第一層中の樹脂成分(塩素含有樹脂又はホットメルト接着性樹脂)の合計割合は、例えば、第一層全体に対して80重量%以上、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上(例えば95〜100重量%)であってもよい。第一層も、前記第二層の項で例示された慣用の添加剤を含んでいてもよい。
第一層の平均厚みは、例えば0.01〜80μm、好ましくは0.05〜50μm、さらに好ましくは0.1〜20μm(特に0.2〜5μm)程度であってもよく、特に、熱反応性を有する第一層の平均厚みは、0.01〜5μm、好ましくは0.05〜1μm、さらに好ましくは0.1〜0.5μm程度であってもよい。
(基材層)
本発明の積層フィルムは、さらに基材層を含んでおり、この基材層の少なくとも一方の面に、前記第二層及び第一層が積層されていてもよい。基材層は、例えば、ハーフカット工程などの触媒層−電解質膜複合体(特にMEA)の製造工程における生産性を向上でき、さらに乾燥や熱圧着処理などによって高温に晒されても、高い寸法安定性を維持し、第一層との剥離を抑制できる点から、耐熱性及び寸法安定性の高い材質で形成されているのが好ましく、具体的には、150℃における弾性率が100〜1000MPaの合成樹脂で形成されていてもよい。前記弾性率は、例えば120〜1000MPa、好ましくは150〜1000MPa、さらに好ましくは200〜1000MPa程度であってもよい。弾性率が小さすぎると、積層フィルムの寸法安定性が低下し、ロール・ツー・ロール方式での製造において第一層との剥離が発生し、MEAの生産性が低下する虞がある。
このような合成樹脂としては、例えば、各種の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が使用できるが、ロール・ツー・ロール方式で製造できる柔軟性を有する点から、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィンなど)、ポリビニルアルコール系重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、セルロース誘導体(セルロースアセテートなどのセルロースエステルなど)などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。本発明では、第一層が第二層及び基材層に対して高い密着性を有するため、これらの熱可塑性樹脂は、密着性を向上させるための反応性基や極性基(反応性基で形成された側鎖など)を実質的に有さないのが好ましい。これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール系重合体、ポリエステル及びセルロース誘導体からなる群より選択された少なくとも1種(特に、ポリオレフィン、ポリエステル及びセルロースエステルからなる群より選択された少なくとも1種)が好ましく、耐熱性と柔軟性とのバランスに優れる点から、ポリエステルが特に好ましい。さらに、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリC2−4アルキレンアリレート系樹脂が好ましく使用できる。
基材層は、積層フィルムのフィルム強度を向上させる点から、延伸フィルムで形成されていてもよい。延伸は、一軸延伸であってもよいが、フィルム強度を向上できる点から、二軸延伸が好ましい。延伸倍率は、縦及び横方向において、それぞれ、例えば、1.5倍以上(例えば、1.5〜6倍)であってもよく、好ましくは2〜5倍、さらに好ましくは3〜4倍程度である。延伸倍率が低すぎると、フィルム強度が不十分となり易い。
基材層も、前記第二層の項で例示された慣用の添加剤を含んでいてもよい。基材層中の合成樹脂の割合は、例えば、基材層全体に対して80重量%以上、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上(例えば95〜100重量%)であってもよい。
基材層の表面平滑性は、コーティングにより第一層を形成できればよく、特に限定されないが、JIS B0601に準拠した算術平均粗さRaは1μm以下であってもよく、好ましくは100nm以下(例えば10〜100nm)程度である。
基材層の表面は、第一層との密着性を向上させるために、表面処理に供してもよい。表面処理としては、慣用の表面処理、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾンや紫外線照射処理などが挙げられる。これらのうち、コロナ放電処理が好ましい。
基材層は、慣用の接着性樹脂で形成された易接着層(例えば、基材層がポリエステル樹脂である場合、低分子量のポリエステル樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂などの接着性樹脂で形成された易接着層など)を有していてもよい。易接着層の平均厚みは、例えば30〜200nm、好ましくは40〜180nm、さらに好ましくは50〜150nm程度である。
基材層の平均厚みは、例えば1〜300μm、好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは10〜100μm(特に20〜80μm)程度である。基材層の厚みが大きすぎると、ロール・ツー・ロール方式での生産が困難となり、薄すぎると、寸法安定性、ロール・ツー・ロール方式での搬送性が低下し、シワなどが混入する虞がある。
[積層フィルムの製造方法]
本発明の積層フィルムの製造方法は、特に限定されないが、薄肉で表面平滑なフィルムを形成し易い点から、基材層の上に第一層用液状組成物をコーティング(又は流延)して第一層を形成する第一層形成工程、第一層の上に第二層用液状組成物をコーティングして第二層を形成する第二層形成工程を含む製造方法であってもよい。
第一層形成工程において、コーティング方法としては、慣用の方法、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スクリーンコーター法、スプレー法、スピナー法などが挙げられる。これらの方法のうち、ブレードコーター法、バーコーター法、グラビアコーター法などが汎用される。
第一層(接着層)用液状組成物は溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、第一層を構成する樹脂成分を溶解できれば、特に限定されず、前記樹脂成分の種類に応じて選択できる。例えば、樹脂成分が塩素含有樹脂である場合、溶媒は、極性溶媒(ハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素類)、非極性溶媒のいずれであってもよい。
非極性溶媒としては、例えば、例えば、脂肪族炭化水素類(ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどのC5−12脂肪族炭化水素など)、脂環族炭化水素類(シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどのアルキル基を有していてもよいC5−8シクロアルカンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)などが挙げられる。また、ハロゲン原子を含む炭化水素類としては、例えば、塩化炭化水素類[ハロゲン化C1−6脂肪族炭化水素(クロロホルム、四塩化炭素などの塩化メタン、トリクロロエタンなどの塩化エタンなど)など]、塩素原子及びフッ素原子を有する炭化水素類(ジクロロジフルオロエタン、トリクロロジフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタンなど)、臭化炭化水素類(テトラブロモエタンなど)、ヨウ化炭化水素類(四ヨウ化炭素など)などが挙げられる。
極性溶媒としては、例えば、アセトンやメチルエチルケトンなどのジアルキルケトン類、テトラヒドロフランやジオキサンなどのエーテル類などが挙げられる。
これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、非極性溶媒と極性溶媒との組み合わせが好ましく、両者の重量割合は、非極性溶媒/極性溶媒=1/99〜50/50(特に10/90〜40/60)程度である。特に、非極性溶媒は、芳香族炭化水素類(トルエンなど)であってもよい。また、極性溶媒は、ジアルキルケトン類(メチルエチルケトンなど)と環状エーテル類(テトラヒドロフランなど)との組み合わせであってもよく、両者の重量割合は、ジアルキルケトン類/環状エーテル類=1/99〜50/50(特に10/90〜30/70)程度である。
第一層用液状組成物中における樹脂組成物濃度(有効成分濃度)は、例えば0.1〜50重量%、好ましくは0.3〜20重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%(特に0.8〜5重量%)程度である。
第一層形成工程は、第一層用液状組成物をコーティングした後、乾燥する方法であってもよい。乾燥は、自然乾燥であってもよいが、加熱して乾燥することにより溶媒を蒸発させてもよい。乾燥温度は、第一層の種類に応じて選択でき、例えば140℃以下、好ましくは50〜130℃、さらに好ましくは60〜120℃(特に80〜100℃)程度である。
第二層(離型層)形成工程において、コーティング方法としては、前記第一層を形成するためのコーティング方法を利用できる。
第二層用液状組成物も溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、第二層を構成する樹脂成分を溶解できれば、特に限定されず、前記樹脂成分の種類に応じて選択できる。樹脂成分が環状オレフィン系樹脂である場合、溶媒は、少なくとも非極性溶媒を含有するのが好ましい。非極性溶媒としては、第一層のコーティングで例示された非極性溶媒を利用できる。
これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの溶媒のうち、シクロペンタンやシクロヘキサンなどのメチル基を有していてもよいC4−8シクロアルカンや、トルエンなどのメチル基を有していてもよい芳香族炭化水素類が好ましく、溶解性の点から、メチルシクロヘキサンなどのメチル基を有するC5−7シクロアルカン、トルエンなどのメチル基を有する芳香族炭化水素類が特に好ましい。
第二層用液状組成物中における樹脂組成物濃度(有効成分濃度)は、例えば0.1〜50重量%、好ましくは0.3〜30重量%、さらに好ましくは0.5〜20重量%(特に0.8〜15重量%)程度である。
第二層形成工程も、第二層用液状組成物をコーティングした後、乾燥する方法であってもよい。乾燥は、自然乾燥であってもよいが、加熱して乾燥することにより溶媒を蒸発させてもよい。乾燥温度は、第二層の種類に応じて選択でき、例えば140℃以下、好ましくは50〜130℃、さらに好ましくは60〜120℃(特に80〜100℃)程度である。
本発明では、柔軟性に優れた基材層を選択することにより、積層フィルムの製造をロール・ツー・ロール方式で行うことができ、生産性を向上できる。
[触媒層−電解質膜複合体の製造方法]
本発明の触媒層−電解質膜複合体(特にMEA)は、前記積層フィルムを構成する第二層の上に触媒層を積層する触媒層形成工程、触媒層及び第二層を目的の形状(例えば、電極形状)に切断して不要部分を剥離して除去するハーフカット工程、目的の形状に形成された触媒層の上に電解質膜を積層して熱圧着する熱圧着工程、熱圧着した電解質膜と触媒層とを第二層から剥離する転写工程を含む方法により得られる。
(触媒層形成工程)
触媒層形成工程において、触媒層(電極膜又は電極触媒膜)の積層方法は、通常、触媒層用液状組成物をコーティングする方法が利用される。コーティング方法としては、前記第一層を形成するためのコーティング方法を利用できる。これらの方法のうち、ブレードコーター法、バーコーター法などが汎用される。
触媒層はイオン交換樹脂を含む。イオン交換樹脂としては、燃料電池で利用される慣用のイオン交換樹脂を利用できるが、なかでも、強酸性陽イオン交換樹脂や弱酸性陽イオン交換樹脂などの陽イオン交換樹脂が好ましく、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などを有するイオン交換樹脂(詳しくは、電解質機能を有する電解質基として、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などが導入されたイオン交換樹脂)などが挙げられ、スルホン酸基を有するイオン交換樹脂(電解質基としてスルホン酸基が導入されたイオン交換樹脂)が特に好ましい。
前記スルホン酸基を有するイオン交換樹脂としては、スルホン酸基を有する各種の樹脂を使用できる。各種の樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、フッ素樹脂などが挙げられる。
前記スルホン酸基を有するイオン交換樹脂のなかでも、スルホン酸基を有するフッ素樹脂、架橋ポリスチレンのスルホン化物などが好ましく、スルホン酸基を有するポリスチレン−グラフト−ポリエチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリスチレン−グラフト−ポリテトラフルオロエチレン共重合体などであってもよい。なかでも、離型性などの点から、スルホン酸基を有するフッ素樹脂(少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換されたフルオロ炭化水素樹脂など)が特に好ましい。特に、固体高分子型燃料電池では、側鎖にスルホン酸基(又は−CF2CF2SO3H基)を有するフッ素樹脂、例えば、[2−(2−スルホテトラフルオロエトキシ)ヘキサフルオロプロポキシ]トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体(ブロック共重合体など)などが好ましく利用される。
イオン交換樹脂のイオン交換容量は0.1meq/g以上であってもよく、例えば、0.1〜2.0meq/g、好ましくは0.2〜1.8meq/g、さらに好ましくは0.3〜1.5meq/g(特に0.5〜1.5meq/g)程度であってもよい。
このようなイオン交換樹脂としては、デュポン社製「登録商標:ナフィオン(Nafion)」などの市販品を利用できる。なお、イオン交換樹脂としては、特開2010−234570号公報に記載のイオン交換樹脂などを用いてもよい。
触媒層は、さらに触媒粒子を含む。触媒粒子は触媒作用を有する金属成分(特に、白金(Pt)などの貴金属単体又は貴金属を含む合金)を含んでおり、通常、カソード電極用電極膜では白金を含み、アノード電極用電極膜では白金−ルテニウム合金を含む。さらに、触媒粒子は、通常、前記金属成分を、導電材料(カーボンブラックなどの炭素材料など)に担持させた複合粒子として使用される。触媒層において、イオン交換樹脂の割合は、例えば、触媒粒子100重量部に対して、例えば5〜300重量部、好ましくは10〜250重量部、さらに好ましくは20〜200重量部程度である。
触媒層も、第二層の項で例示された慣用の添加剤を含んでいてもよく、例えば、無機粒子や無機繊維などの無機材料(炭素質材料、ガラス、セラミックスなど)を含んでいてもよい。
触媒層の平均厚み(乾燥厚み)は、例えば、1〜100μm、好ましくは2〜80μm、さらに好ましくは2〜50μm程度である。
このような触媒層を形成するための触媒層用液状組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノールなどのC1−4アルカノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの溶媒のうち、取り扱い性などの点から、水や、水とC1−4アルカノールとの混合溶媒が汎用される。溶液又は分散液中の溶質又は固形分(イオン交換樹脂、触媒粒子)の濃度は、例えば、1〜80重量%、好ましくは2〜60重量%、さらに好ましくは3〜50重量%程度である。
イオン交換樹脂及び触媒粒子を含む液状組成物をコーティングした後、加熱して乾燥することにより溶媒を蒸発させてもよい。乾燥温度は、触媒層の種類に応じて選択でき、例えば140℃以下、好ましくは50〜130℃、さらに好ましくは60〜120℃(特に80〜100℃)程度である。
(ハーフカット工程)
ハーフカット工程では、触媒層及び第二層を目的の形状に切断する方法としては、慣用の切断手段、例えば、トムソン刃による切断手段などを利用できる。切断深さは、少なくとも触媒層及び第二層を切断できる深さであればよく、熱反応性を有する第一層の場合、触媒層及び第二層のみを切断してもよいが、生産性などの点から、基材層以外の全ての層(触媒層、第二層及び第一層)を切断するのが好ましい。熱反応性を有する第一層では、第一層と基材層とが接着して一体化するため、第一層が切断されても、後続の除去工程において、第一層の全面が剥離除去されずに、基材層に残存する。
切断後の不要部分の剥離除去方法としては、例えば、物理的に不要部分を除去する方法、吸引装置により不要部分を除去する方法、エアーを吹き付けて不要部分を除去する方法などが挙げられる。基材層以外の全ての層を切断した場合、第一層が熱反応性を有する第一層では、前述のように、触媒層及び第二層のみが剥離除去され、第一層がホットメルト接着性を有する第一層では、基材層以外の全ての層が剥離除去される。
本発明では、このハーフカット工程により、前記積層フィルムと、この積層フィルムを構成する第二層の上に積層された触媒層とを含み、かつ前記第二層及び前記触媒層が目的の形状に形成された本発明の積層体が得られる。
ハーフカット工程で得られた積層体は、熱圧着工程に供されるが、連続的に製造する場合は、熱圧着工程の前に、ハーフカット工程において、熱圧着工程が行われる場所に搬送される。
本発明では、前記積層フィルムが柔軟性に優れるため、このような搬送を伴うハーフカット工程をロール・ツー・ロール方式で行うことができ、生産性を向上できる。さらに、第二層と基材層との組み合わせにより、積層フィルムの寸法安定性にも優れるため、ロール・ツー・ロール方式でも、積層フィルムの張力による伸びが抑制される。そのため、触媒層が剥離することなく、ロール状に巻き取ることができ、生産性を向上できる。
(熱圧着工程)
熱圧着工程において、熱圧着の加熱温度は、例えば80〜250℃、好ましくは90〜230℃、さらに好ましくは100〜200℃程度である。熱圧着の圧力は、例えば0.1〜20MPa、好ましくは0.2〜15MPa、さらに好ましくは0.3〜10MPa程度である。
電解質膜は、通常、前記触媒層の項で例示されたイオン交換樹脂で形成されている。さらに、電解質膜は、通常、触媒層と同様に、離型フィルム(第2の離型フィルム)の上に形成されていてもよい。
電解質膜の平均厚みは、例えば、1〜500μm、好ましくは5〜300μm、さらに好ましくは10〜200μm程度である。
(転写工程)
熱圧着工程で密着した複合体(電解質層と触媒層とが密着した積層体)は、第二層から剥離する転写工程に供され触媒層−電解質膜複合体(特に、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体)が得られる。本発明では、前述の乾燥や熱圧着処理を経た積層体であっても、第二層が触媒層に対して適度な剥離強度を有するため、ハーフカット工程や熱圧着工程では第二層と触媒層とが剥離せずに、転写工程で容易に離型フィルムを剥離でき、作業性を向上できる。
さらに、電解質膜(例えば、第2の離型フィルムを剥離した電解質膜)に対して、前記熱圧着工程及び転写工程と同様に、さらに第3の離型フィルムの離型層の上に他の触媒層(第1の離型フィルムがアノード電極用電極膜である場合、カソード電極用電極膜)が積層された積層体の触媒層を密着させて第3の離型フィルムを剥離し、慣用の方法で、各電極膜の上に燃料ガス供給層及び空気供給層をそれぞれ積層することにより膜電極接合体(MEA)が得られる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1
(接着層塗布液の調製)
トルエン、メチルエチルケトン、及びテトラヒドロフラン(トルエン:メチルエチルケトン:テトラヒドロフラン(重量比)=1.5:1.5:7)を混合し、撹拌して均一な溶媒(溶剤)を調製した。この溶媒に、塩化ビニリデン系重合体A(旭化成ケミカルズ(株)製「サランレジン F216」)(Tg約20℃、Tm約130℃、Mw約7万)を溶解し、固形分濃度3重量%の塗布液Fを得た。
(離型層塗布液の調整)
環状オレフィン系樹脂(日本ゼオン(株)製「ZEONEX 480R」)をトルエンに撹拌溶解し、固形分濃度30重量%の塗布液Zを得た。
(積層フィルムの製造)
プラスチック基材(基材層)として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製「ポリエステルフィルム ルミラーT60」、平均厚み50μm)を用い、このフィルムの片面に、塗布液Fをメイヤーバーコーティング法によりコーティングし、100℃の温度で1分間乾燥して第一層(接着層)を形成した。さらに第一層に塗布液Zをアプリケーターコーティング法によりコーティングし、100℃の温度で3分間乾燥して第二層(離型層)を形成し積層フィルムを得た。第一層の平均厚みは0.2μm、第二層の平均厚みは30μmであった。
(密着性の評価)
第一層又は第二層の上にセロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製「CT−24」)を貼り付け、ローラーで十分に圧着した後、15mm幅にカットし、23℃、50%RHで1時間以上静置した後、積層フィルムを固定し、セロテープの一端を300mm/分の条件で180°剥離する方法で剥離強度を測定した。熱圧着後の評価をする場合には、テフロン(登録商標)シートで積層フィルムを挟み、上下の熱盤温度を120℃に設定したプレス機にて3MPaの圧力で5分間プレスしたサンプルを使用した。
(転写性の評価)
(A)擬似触媒層
カーボンブラック(キャボット社製「VXC72R」)2.0g、20重量%イオン交換樹脂分散液(デュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2020 CSタイプ」)4.3g、蒸留水11.1g、特級エタノール11.1gを混合し、攪拌脱泡装置にて2000ppmで20分攪拌して、塗布液Cを得た。前記方法で得られた積層フィルムの離型層の上に、塗布液Cをメイヤーバーコーティング法によりコーティングし、80℃の温度で10分間乾燥して、擬似触媒層を形成した。擬似触媒層の平均厚みは5μmであった。
(B)電解質膜
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製「ポリエステルフィルム ルミラーT60」、平均厚み50μm)を用い、このフィルムの片面に、20重量%ナフィオン分散溶液(DE2020 CSタイプ)(デュポン社製)をメイヤーバーコーティング法によりコーティングし、100℃の温度で3分間乾燥して、電解質膜を形成した。電解質膜の平均厚みは3μmであった。
(C)ハーフカット除去評価
前記方法で得られた擬似触媒層を形成した積層フィルムに、擬似触媒層〜基材表層まで、カッターナイフで10cm×7cm角サイズに切り込みを入れ、積層フィルム端部にセロテープを貼り付けて引き剥がし、周囲の不要部分を剥離除去できるか否かを確認し、以下の基準で評価した。
○:必要部分を残し、周囲の不要部分を完全に剥離除去できた
△:周囲の不要部分を完全に剥離除去できたが、必要部の少なくとも一部にも剥離が発生した
×:周囲の殆ど又は一部が剥離除去できず、残存した。
(D)転写評価
前記方法で得られた擬似触媒層を形成した積層フィルムの疑似触媒層の上に、前記方法で得られた電解質膜を重ね、上下の熱盤温度を120℃に設定したプレス機にて3MPaの圧力で5分間、圧着した後、電解質膜を形成したフィルムを剥がし、電解質膜側に擬似触媒層が転写しているか否かを確認し、以下の基準で評価した。
○:電解質膜側に疑似触媒層が完全に転写された
×:電解質膜側に離型層ごと擬似触媒層が転写された。
実施例2
(接着層塗布液の調整)
ポリエステル系ホットメルト接着剤(東亞合成(株)製「PES−360HVXM30」)とポリエステル系ホットメルト接着剤(東亞合成(株)製「PES−310S30」)とを質量比7:3で混合し、塗布液Pを得た。
(積層フィルムの製造)
積層フィルムの第一層の形成に、塗布液Pを用いて平均厚み2μmの第一層を形成した以外は、実施例1と同一の方法で積層フィルムを製造し、評価した。
比較例1
接着層塗布液の調整に、塩化ビニリデン系重合体Aの代わりに、塩化ビニリデン系重合体B(旭化成ケミカルズ(株)製「サランレジン R204」)(Tg約20℃、Tm約150℃、Mw約10万)を用いて塗布液Rを得た。積層フィルムの第一層の形成に塗布液Rを用いた以外は、実施例1と同一の方法で積層フィルムを製造し、評価した。
比較例2
積層フィルムの第一層として、接着層を形成せず、直接基材層に離型層を形成した以外は、実施例1と同一の方法で積層フィルムを製造し、評価した。
実施例及び比較例の結果を表1に示す。
実施例1では、ハーフカット後の不要部分の剥離除去時には、離型層ごと触媒層不要部分を剥離除去でき、擬似触媒層の転写においても、問題なく転写できた。
実施例2では、ハーフカット後の不要部分の剥離除去時には、接着層及び離型層ごと触媒層不要部分を剥離除去でき、擬似触媒層の転写時には熱圧着により密着性が向上しているため、接着層及び離型層が剥がれることなく、擬似触媒層を転写できた。
比較例1では、転写性は良好であったものの、基材層と接着層との剥離強度及び接着層と離型層との剥離強度が共に大きいため、ハーフカット後の不要部分の剥離除去が困難であった。
比較例2では、離型層の密着性が弱いため、離型層に浮きが生じ、擬似触媒層を均一な厚みに形成することが困難であった。また、ハーフカット後の不要部分の剥離除去時に、離型層ごと必要部まで剥離してしまう場合があった。さらに、転写評価では、離型層ごと擬似触媒層が転写される場合があった。