以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図面は、各実施形態について、共通する箇所には共通の符号が付されており、他の実施形態や変形形態では、重複する説明が省略されている。また、図面は、概念図であり、細部構造の寸法まで規定するものではない。
<第一実施形態>
図1に示すように、回転電機10は、固定子20と可動子30とを具備している。固定子20は、複数(本実施形態では、60個)のスロット21cが形成された固定子鉄心21と、複数(60個)のスロット21cに挿通されている固定子巻線22とを備えている。また、可動子30は、固定子20に対して移動可能に支持された可動子鉄心31と、可動子鉄心31に設けられた少なくとも一対の可動子磁極32a,32b(本実施形態では、四組の一対の可動子磁極32a,32b)とを備えている。このように、本実施形態の回転電機10は、8極60スロット構成の回転電機(可動子30の磁極数が2極、固定子20のスロット数が15スロットを基本構成とする回転電機)であり、毎極毎相スロット数は2.5である。つまり、本実施形態の回転電機10は、毎極毎相スロット数が整数でない分数スロット構成の回転電機である。
ここで、毎極毎相スロット数を帯分数で表したときの整数部分を整数部aとし、帯分数の真分数部分を既約分数で表したときの分子部分を分子部b、分母部分を分母部2n(nは自然数)とする。また、整数部a、分子部bおよび分母部2nは、いずれも正の整数とし、分母部2nは、2以上の整数、かつ、3の倍数でない偶数とする。本実施形態では、毎極毎相スロット数が2.5であり、整数部aは2、分子部bは1、分母部2nは2(nは1)である。また、本明細書では、回転電機10は、毎極毎相スロット数を帯分数で表したときの分子部bおよび分母部2nを用いて、b/2n系列の回転電機10と表記することにする。本実施形態の回転電機10は、1/2系列の回転電機10である。
また、固定子20に対する可動子30の移動方向を第一方向(矢印X方向)とする。さらに、固定子20と可動子30との対向方向を第二方向(矢印Y方向)とする。また、第二方向(矢印Y方向)のうちの固定子20側から可動子30側に向かう方向を第二方向可動子側(矢印Y1方向)とする。さらに、第二方向(矢印Y方向)のうちの可動子30側から固定子20側に向かう方向を第二方向固定子側(矢印Y2方向)とする。また、第一方向(矢印X方向)および第二方向(矢印Y方向)のいずれの方向に対しても直交する方向を第三方向(矢印Z方向)とする。
図1に示すように、本実施形態の回転電機10は、固定子20および可動子30が同軸に配されるラジアル空隙型の円筒状回転電機である。よって、第一方向(矢印X方向)は、回転電機10の周方向に相当し、固定子20に対する可動子30の回転方向に相当する。また、第二方向(矢印Y方向)は、回転電機10の径方向に相当する。さらに、第三方向(矢印Z方向)は、回転電機10の軸線方向に相当する。
固定子鉄心21は、薄板状の電磁鋼板(例えば、ケイ素鋼板)が第三方向(矢印Z方向)に、複数枚積層されて形成されている。固定子鉄心21は、継鉄部21aと、継鉄部21aと一体に形成される複数(本実施形態では、60個)の固定子磁極部21bとを備えている。
継鉄部21aは、第一方向(矢印X方向)に沿って形成されている。複数(60個)の固定子磁極部21bは、継鉄部21aから第二方向可動子側(矢印Y1方向)に突出するように形成されている。また、第一方向(矢印X方向)に隣接する固定子磁極部21b,21bによって、スロット21cが形成されており、スロット21cは、固定子巻線22が挿通可能になっている。さらに、各固定子磁極部21bは、磁極先端部21dを備えている。磁極先端部21dは、固定子磁極部21bの先端が第一方向(矢印X方向)に幅広に形成されている。磁極先端部21dには、後述する吸引力低減部40が設けられている。
固定子巻線22は、例えば、銅などの導体表面がエナメルなどの絶縁層で被覆されている。固定子巻線22の断面形状は、特に限定されるものではなく、任意の断面形状とすることができる。例えば、断面円形状の丸線、断面多角形状の角線などの種々の断面形状の巻線を用いることができる。また、複数のより細い巻線素線を組み合わせた並列細線を用いることもできる。並列細線を用いる場合、単線の場合と比べて固定子巻線22に発生する渦電流損を低減することができ、回転電機10の効率が向上する。また、巻線成形に要する力を低減することができるので、成形性が向上して製作が容易になる。
本実施形態の固定子巻線22は、分数スロット構成の固定子20に巻装可能であれば良く、巻装方式は限定されない。固定子巻線22は、例えば、二層重巻、波巻、同心巻によって巻装することができる。図2に示すように、例えば、二層重巻では、固定子巻線22は、第二方向(矢印Y方向)において、二層に形成されている。
図2は、図1に示す回転電機10の二磁極分(一磁極対分)の相配置の一例を示している。本実施形態の回転電機10は、三相回転電機であり、U相巻線、V相巻線およびW相巻線は、電気角で120°ずつ位相がずれている。U相巻線、V相巻線およびW相巻線は、この順に位相が遅れているものとする。また、U相巻線は、U1相巻線、U2相巻線およびU3相巻線を備えている。これらの巻線は、第一方向(矢印X方向)に1磁極ピッチずつ位相がずれており、同相(U相)ではあるが、固定子20上の配置が異なる。以上のことは、V相およびW相についても同様である。
また、同図では、固定子巻線22の通電方向は、アスタリスクの有無で表されている。具体的には、アスタリスクが付されている相(例えば、U1*)は、アスタリスクが付されていない相(例えば、U1)に対して、固定子巻線22の通電方向が逆方向である。なお、本実施形態の回転電機10では、毎極毎相スロット数は、2.5である。そのため、第一方向(矢印X方向)に隣接する同相の数は、2と3とが交互に繰り返される。このように、本実施形態では、固定子巻線22は、分布巻で巻装されている。つまり、固定子巻線22は、分布巻で巻装された分布巻固定子巻線である。なお、三相の固定子巻線22は、Y結線で電気的に接続することができる。また、三相の固定子巻線22は、Δ結線で電気的に接続することもできる。
可動子鉄心31は、薄板状の電磁鋼板(例えば、ケイ素鋼板)が第三方向(矢印Z方向)に、複数枚積層されており、円柱状に形成されている。可動子鉄心31には、第一方向(矢印X方向)に沿って複数の磁石収容部(図示略)が設けられている。複数の磁石収容部には、所定磁極数分(本実施形態では四磁極対分)の永久磁石(四組の一対の可動子磁極32a,32b)が埋設されており、永久磁石と固定子20に発生する回転磁界とによって、可動子30が回転可能になっている。本明細書では、一対の可動子磁極32a,32bのうち、一方の極性(例えばN極)を備える可動子磁極を可動子磁極32aで示し、他方の極性(例えばS極)を備える可動子磁極を可動子磁極32bで示している。
永久磁石は、例えば、公知のフェライト系磁石や希土類系磁石を用いることができる。また、永久磁石の製法は、限定されない。永久磁石は、例えば、樹脂ボンド磁石や焼結磁石を用いることができる。樹脂ボンド磁石は、例えば、フェライト系の原料磁石粉末と樹脂などを混合して、射出成形などによって可動子鉄心31に鋳込めて形成される。焼結磁石は、例えば、希土類系の原料磁石粉末を磁界中でプレス成形して、高温で焼き固めて形成される。なお、一対の可動子磁極32a,32bは、各固定子磁極部21bの磁極先端部21dと対向する可動子鉄心31の表面(外周表面)に永久磁石を設ける表面磁石形とすることもできる。
可動子30は、固定子20の内方(回転電機10の軸心側)に設けられており、固定子20に対して移動可能(回転可能)に支持されている。具体的には、可動子鉄心31には、シャフト(図示略)が設けられており、シャフトは、可動子鉄心31の軸心を第三方向(矢印Z方向)に貫通している。シャフトの第三方向(矢印Z方向)両端部は、軸受部材(図示略)によって、回転可能に支持されている。これにより、可動子鉄心31は、固定子20に対して、移動可能(回転可能)になっている。
図3は、固定子磁極部21bと可動子磁極32a,32bとの間の磁極対向状態を模式的に示している。同図では、円環状の固定子鉄心21が直線状に展開されて図示されており、第三方向(矢印Z方向)視の固定子鉄心21が示されている。なお、同図では、継鉄部21aおよび固定子巻線22は、図示が省略されており、各固定子磁極部21bには、固定子鉄心21に形成される磁極の識別番号(以下、固定子磁極番号という。)が付されている。また、本明細書では、説明の便宜上、固定子磁極番号60と固定子磁極番号1との間のスロット21c(スロット番号0とする。)の中央位置を可動子磁極32a,32bの位置基準(位置座標0)としている。
また、同図に示す一対の可動子磁極32a,32bは、円周上に配置された一対の可動子磁極32a,32bが直線状に展開されて図示されている。同図では、一対の可動子磁極32a,32bが一組、図示されており、他の三組の一対の可動子磁極32a,32bは、図示が省略されている。
可動子磁極32aの第一方向(矢印X方向)両端部32a1,32a2のうちの一方の端部32a1(位置座標0)は、スロット21cの中央位置に対向している。これに対して、可動子磁極32aの第一方向(矢印X方向)両端部32a1,32a2のうちの他方の端部32a2(位置座標7.5)は、固定子磁極部21bの中央位置に対向している。そのため、可動子磁極32aの磁極中心位置32a3(位置座標3.75)は、固定子磁極部21bの磁極中心位置(固定子磁極番号4の固定子磁極部21b)に対して、第一方向紙面右側(矢印X2方向)にずれて配設されている。
その結果、固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力分布(以下、「固定子磁極部21bに作用する吸引力分布」ともいう。また、単に「吸引力分布」ともいう。)は、図4の棒グラフで表される分布となる。図4は、参考形態に係る固定子磁極部21bに作用する吸引力分布の一例を示している。参考形態の回転電機は、後述する吸引力低減部40を備えていない点で、本実施形態の回転電機10と異なる。
参考形態に係る固定子磁極部21bに作用する吸引力分布は、例えば、磁界解析によって取得することができる。このことは、他の吸引力分布についても同様である。また、破線で示す直線L11は、固定子磁極番号3の固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力と、固定子磁極番号4の固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力との平均(平均吸引力)を示している。このような吸引力分布が生じる磁極対向状態を磁極対向状態M10とする。
一方、図3に示す可動子磁極32bの第一方向(矢印X方向)両端部32b1,32b2のうちの一方の端部32b1(位置座標7.5)は、固定子磁極部21bの中央位置に対向している。これに対して、可動子磁極32bの第一方向(矢印X方向)両端部32b1,32b2のうちの他方の端部32b2(位置座標15)は、スロット21cの中央位置に対向している。そのため、可動子磁極32bの磁極中心位置32b3(位置座標11.25)は、固定子磁極部21bの磁極中心位置(固定子磁極番号12の固定子磁極部21b)に対して、第一方向紙面左側(矢印X1方向)にずれて配設されている。
その結果、固定子磁極部21bに作用する吸引力分布は、図4の棒グラフで表される分布になる。破線で示す直線L12は、固定子磁極番号11の固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力(ピーク値)を示している。固定子磁極番号3の固定子磁極部21bと固定子磁極番号4の固定子磁極部21bとによって形成されるスロット21cの中央位置と、固定子磁極番号11の固定子磁極部21bとの間は、1磁極ピッチ分に相当する。また、吸引力差ΔVF1は、直線L12で示す吸引力(ピーク値)から直線L11で示す吸引力(平均吸引力)を減じて得られ、これらの吸引力の差分を示している。このような吸引力分布が生じる磁極対向状態を磁極対向状態M11とする。
このように、1/2系列の回転電機10では、二種類の磁極対向状態M10および磁極対向状態M11を備えており、二種類の吸引力分布を備えている。そのため、第一方向(矢印X方向)に隣接する可動子磁極32a,32bでは、互いに吸引力分布が異なる。その結果、固定子磁極部21bに作用する吸引力分布は、一磁極毎には等価にならず、一磁極対毎(二磁極毎)に隔極で等価になる。以上のことは、図示が省略されている他の可動子磁極32a,32bについても同様である。1/2系列の回転電機10では、互いに吸引力分布が異なる第一方向(矢印X方向)に隣接する一対の可動子磁極32a,32bを単位として、第一方向(矢印X方向)に平行移動させた状態で、多極化(本実施形態では、8極化)されている。
ピーク値が互いに異なる吸引力(図4に示す吸引力差ΔVF1)は、固定子鉄心21に対して、可動子磁極32a,32bの磁極数(本実施形態では、8極)に依拠する次数(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))と比べて、より低次(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり4次(空間4次))の起振力の成分をもつ。図5〜図7に示すように、起振力が固定子鉄心21に作用すると、固定子鉄心21の外周は、破線で示す形状に変形し易い。なお、図5〜図7は、第三方向(矢印Z方向)視の固定子鉄心21の外周形状を示しており、変形前の固定子鉄心21の外周形状を実線で示し、変形後の固定子鉄心21の外周形状を破線(曲線21s8、曲線21s4、曲線21s2)で示している。
可動子磁極32a,32bの磁極数が8極の回転電機10(8極機)において吸引力のピーク値が毎極で等価な場合(例えば、8極24スロット構成の回転電機など)、固定子鉄心21の一周あたり、起振力の強弱が8回繰り返される。その結果、固定子鉄心21の外周は、図5の曲線21s8で示す形状に変形し易い。また、吸引力のピーク値が一磁極毎には等価にならず、一磁極対毎(二磁極毎)に隔極で等価になる場合(例えば、8極36スロット構成の回転電機など)、固定子鉄心21の一周あたり、起振力の強弱が4回繰り返される。その結果、固定子鉄心21の外周は、図6の曲線21s4で示す形状に変形し易い。さらに、吸引力のピーク値が一磁極毎には等価にならず、二磁極対毎(四磁極毎)に等価になる場合(例えば、8極30スロット構成の回転電機など)、固定子鉄心21の一周あたり、起振力の強弱が2回繰り返される。その結果、固定子鉄心21の外周は、図7の曲線21s2で示す形状に変形し易い。
1/2系列の回転電機10では、固定子鉄心21の変位量は、大きさが異なる二種類のピーク値が生じる。そのため、1/2系列で8極の回転電機10では、第一方向(矢印X方向)の四磁極対(八磁極)分において、固定子鉄心21の変位量は、4つのピーク値が生じる。なお、整数スロット構成の8極の回転電機10では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次)の起振力の成分を備える。固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次)の起振力は、可動子磁極32a,32bの磁極数(この場合、8極)に依拠し、一磁極を単位として繰り返され、第一方向(矢印X方向)の四磁極対(八磁極)分において、固定子鉄心21の変位量は、8つのピーク値が生じる。
分数スロット構成の回転電機10では、可動子磁極32a,32bの磁極数(本実施形態では、8極)に依拠する次数(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))の起振力と比べて、より低次(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり4次(空間4次))の起振力の成分を備える。そのため、駆動回転数が広範囲に亘る回転電機10では、固定子鉄心21の固有振動数と一致する回転数が、駆動回転数範囲内に生じ易くなる。その結果、固定子20の共振が発生し、回転電機10の駆動時に発生する騒音や振動などが増大する可能性がある。
そこで、本実施形態の回転電機10は、吸引力分布を整数スロット構成と同程度(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))まで高次化する。以下、図3および図8〜図10を参照しつつ具体的に説明する。図3に示すように、参考形態の回転電機では、位置座標PA1(位置座標0)では、可動子磁極32aは、スロット21cの中央位置に対向している。位置座標PB1(位置座標7.5)では、可動子磁極32bは、固定子磁極部21bの中央位置に対向している。そのため、位置座標PB1では、位置座標PA1と比べて、第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力による影響を受け易く、固定子鉄心21が第二方向(矢印Y方向)に変位し易い。位置座標PA1における固定子磁極部21bと可動子磁極32aとの間の磁極対向状態を磁極対向状態MPA1とし、位置座標PB1における固定子磁極部21bと可動子磁極32bとの間の磁極対向状態を磁極対向状態MPB1とする。
逆に、位置座標PA1(位置座標0)から第一方向紙面右側(矢印X2方向)に、1/2固定子磁極ピッチ(1/2スロットピッチ)離れた位置座標PA2では、可動子磁極32aは、固定子磁極部21bの中央位置に対向している。位置座標PB1から第一方向紙面右側(矢印X2方向)に、1/2固定子磁極ピッチ(1/2スロットピッチ)離れた位置座標PB2では、可動子磁極32bは、スロット21cの中央位置に対向している。そのため、位置座標PA2では、位置座標PB2と比べて、第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力による影響を受け易く、固定子鉄心21が第二方向(矢印Y方向)に変位し易い。位置座標PA2における固定子磁極部21bと可動子磁極32aとの間の磁極対向状態を磁極対向状態MPA2とし、位置座標PB2における固定子磁極部21bと可動子磁極32bとの間の磁極対向状態を磁極対向状態MPB2とする。
磁極対向状態MPA1の磁極対向状態を磁極対向状態MPB1において再現することにより、これらの間の吸引力の差異が緩和される。また、磁極対向状態MPB2の磁極対向状態を磁極対向状態MPA2において再現することにより、これらの間の吸引力の差異が緩和される。以上のことは、第一方向紙面右側(矢印X2方向)に、さらに1/2固定子磁極ピッチ(1/2スロットピッチ)離れた位置においても同様であり、四磁極対(八磁極)分について同様である。よって、上述の吸引力の差異の緩和を四磁極対(八磁極)分、繰り返すことにより、吸引力のピーク値を一磁極毎に等価な状態に近づけることができる。
本実施形態では、図8および図9に示すように、複数(60個)の固定子磁極部21bの各々は、一つの吸引力低減部40を磁極先端部21dに備えている。吸引力低減部40は、固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力を低減させる。吸引力低減部40は、磁極先端部21dの可動子30と対向する対向面21eに設けられた一つの凹部であると好適である。
本実施形態では、吸引力低減部40は、一つの凹部であり、凹部は、矩形状の切り欠きによって形成されている。凹部は、底部41aと、一対の側面部41b,41bと、2つの角部41c,41cとを備えている。底部41aは、第一方向(矢印X方向)に沿って形成されている。一対の側面部41b,41bは、第二方向(矢印Y方向)に沿ってそれぞれ形成されている。底部41aと、一対の側面部41b,41bとが交差する部位には、2つの角部41c,41cが形成されている。
吸引力低減部40は、固定子磁極部21bを形成する既述の電磁鋼板(例えば、ケイ素鋼板)を備えていないので、磁極先端部21dの他の領域(吸引力低減部40以外の領域)と比べて、固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力を低下させる。また、吸引力低減部40では、固定子鉄心21に形成される磁束の通過が抑制されるので、吸引力低減部40は、磁極先端部21dの他の領域(吸引力低減部40以外の領域)と比べて、磁気抵抗が増大する。
図8に示すように、一つの吸引力低減部40は、隣接するスロット21cの第一方向(矢印X方向)の中央位置X0から1/2固定子磁極ピッチ(1/2スロットピッチ)離れた位置に第一方向(矢印X方向)の中心が位置するように配置されている。つまり、吸引力低減部40の第一方向(矢印X方向)の中央位置(中心)と、固定子磁極部21bの第一方向(矢印X方向)の中央位置(中心)とが一致している。
図9に示すように、固定子磁極番号8の磁極先端部21dに設けられた吸引力低減部40は、位置座標PB1の固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力を低減する。その結果、位置座標PA1における吸引力と、位置座標PB1における吸引力との差が低減し、吸引力の差異が緩和される。同様に、固定子磁極番号1の磁極先端部21dに設けられた吸引力低減部40は、位置座標PA2の固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力を低減する。その結果、位置座標PA2における吸引力と、位置座標PB2における吸引力との差が低減し、吸引力の差異が緩和される。
本実施形態では、全ての固定子磁極部21bの磁極先端部21dに吸引力低減部40を備えているので、上述の状況が四磁極対(八磁極)分、繰り返される。その結果、図10に示すように、吸引力差ΔVF2は、図4に示す吸引力差ΔVF1と比べて小さくなっている。図10に示す直線L21は、図4に示す直線L11に対応し、図10に示す直線L22は、図4に示す直線L12に対応しており、同様に図示されている。また、図10に示す吸引力差ΔVF2は、図4に示す吸引力差ΔVF1に対応しており、同様に図示されている。さらに、図10の破線で示す領域L23は、固定子磁極番号11の固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力(ピーク値)が、図4に示す場合と比べて低減されていることを示している。このように、吸引力のピーク値は、図4に示す参考形態と比べて、一磁極毎に等価な状態に近づいている。
本実施形態の回転電機10によれば、複数(本実施形態では、60個)の固定子磁極部21bの各々は、固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力を低減させる一つの吸引力低減部40を磁極先端部21dに備えている。また、吸引力低減部40は、隣接するスロット21cの第一方向(矢印X方向)の中央位置X0から1/2固定子磁極ピッチ(1/2スロットピッチ)離れた位置に第一方向(矢印X方向)の中心が位置するように配置されている。
これにより、本実施形態の回転電機10は、可動子磁極32a,32bの磁極数(本実施形態では、8極)に依拠する次数(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))の起振力と比べて、より低次(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり4次(空間4次))の起振力の成分を低減して、可動子磁極32a,32bの磁極数(8極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))の起振力の成分を増大させることができる。したがって、本実施形態の回転電機10は、固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力分布を整数スロット構成の回転電機と同程度(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))まで高次化し、固定子鉄心21の固有振動数と一致する回転数を高めて、駆動回転数範囲外に設定することができる。つまり、本実施形態の回転電機10は、固定子20の共振機会を回避して、回転電機10の駆動時に発生する騒音および振動のうちの少なくとも一方を低減することができる。
なお、吸引力低減部40は、凹部に限定されるものではない。吸引力低減部40は、例えば、磁極先端部21dに設けられた貫通孔によって形成することもできる。貫通孔の形状は、限定されない。貫通孔は、例えば、第三方向(矢印Z方向)に垂直な平面で切断した断面形状が矩形状、三角形状、円形状、楕円形状などに形成することができる。
図11に示すように、第一変形形態の吸引力低減部40は、上記断面形状が矩形状の貫通孔によって形成されている。磁極先端部21dの内部には、一対の第一平面部42a,42aと、一対の第二平面部42b,42bと、4つの角部42cと、が形成されている。一対の第一平面部42a,42aは、第一方向(矢印X方向)に沿ってそれぞれ形成されている。一対の第二平面部42b,42bは、第二方向(矢印Y方向)に沿ってそれぞれ形成されている。これらの平面部が交差する部位には、4つの角部42cが形成されている。
第一変形形態では、吸引力低減部40と可動子鉄心31との間(固定子磁極部21bの先端側に位置する第一平面部42aと、磁極先端部21dの対向面21eとの間)には、固定子磁極部21bを形成する既述の電磁鋼板(例えば、ケイ素鋼板)が介在している。そのため、上述の騒音および振動に関する第一変形形態の低減効果は、本実施形態の低減効果と比べて低下する可能性がある。これは、上述の騒音および振動に関する低減効果は、可動子鉄心31から電磁鋼板が存在する部位までの第二方向(矢印Y方向)の距離による影響が大きいことによる。
また、このことは、磁極先端部21dに形成される磁束の飽和状態からも言える。本実施形態および第一変形形態のいずれの形態においても、磁極先端部21dに形成される磁束が飽和し易くなる磁束飽和部位が生じる可能性がある。図8に示すように、本実施形態では、吸引力低減部40の角部41cと、磁極先端部21dの外形との間の磁路が最も狭くなっており、磁束飽和部位が生じる可能性がある。当該部位の磁路幅を磁路幅W12とする。また、図11に示すように、本変形形態では、吸引力低減部40の角部42cと、磁極先端部21dの外形との間の磁路が最も狭くなっており、磁束飽和部位が生じる可能性がある。当該部位の磁路幅を磁路幅W21とする。
第一変形形態では、磁路幅W21が、本実施形態の磁路幅W12と比べて、狭くなっている。磁束飽和部位が生じると、当該部位の磁気抵抗が増加する。その結果、凹部(吸引力低減部40)を設けて吸引力のピーク値を一磁極毎に等価な状態に近づけた効果が小さくなり、上述の騒音および振動に関する低減効果が小さくなる。つまり、凹部(吸引力低減部40)以外の磁気抵抗が増加し、一磁極毎の吸引力分布の等価性が崩れる。さらに、磁気特性が非線形になり、トルクリップルが増加し易くなる。また、第一変形形態では、固定子磁極部21bの先端側に位置する第一平面部42aと、磁極先端部21dの対向面21eとの間の磁路も狭くなっており、磁束飽和部位が生じる可能性がある。これらにより、上述の騒音および振動に関する第一変形形態の低減効果は、本実施形態の低減効果と比べて低下する可能性がある。
本実施形態の回転電機10によれば、吸引力低減部40は、磁極先端部21dの可動子30と対向する対向面21eに設けられた一つの凹部である。よって、本実施形態の回転電機10は、吸引力低減部40が貫通孔によって形成されている場合と比べて、回転電機10の駆動時に発生する騒音および振動のうちの少なくとも一方を低減させる低減効果を向上させることができる。
なお、吸引力低減部40の凹部は、矩形状の切り欠きに限定されるものではない。凹部は、三角形状または円弧状の切り欠きであると好適である。図12に示すように、第二変形形態の吸引力低減部40は、凹部が三角形状の切り欠きである。凹部は、第三方向(矢印Z方向)に垂直な平面で切断した断面形状が正三角形になっており、一対の側面部43a,43aと、一つの角部43bと、を備えている。一対の側面部43a,43aは、上記断面形状の正三角形の二辺に相当する。また、一つの角部43bは、上記断面形状の正三角形の頂点に相当する。なお、上記断面形状は、二等辺三角形であっても良い。
本変形形態の吸引力低減部40の側面部43aと、磁極先端部21dの外形との間の磁路の磁路幅を磁路幅W31とする。第二変形形態では、磁路幅W31が、本実施形態の磁束飽和部位の磁路幅W12と比べて、広くなっており、磁束飽和部位の発生が抑制されている。
また、図13に示すように、第三変形形態の吸引力低減部40は、凹部が円弧状の切り欠きである。凹部は、第三方向(矢印Z方向)に垂直な平面で切断した断面形状が円弧状(半円)になっており、円弧部44を備えている。円弧部44は、上記断面形状の円弧(半円)に相当する。なお、上記円弧状は、真円に限定されるものではなく、上記円弧状には、楕円状など角部を有しない種々の形状が含まれる。
本変形形態の吸引力低減部40の円弧部44と、磁極先端部21dの外形との間の磁路の磁路幅を磁路幅W41とする。第三変形形態では、磁路幅W41が、本実施形態の磁束飽和部位の磁路幅W12と比べて、広くなっており、磁束飽和部位の発生が抑制されている。
このように、凹部は、三角形状または円弧状の切り欠きであると好適である。三角形状または円弧状の切り欠きは、切り欠きの幅と深さ(図8に示す幅W11と深さd11に相当)が同じ場合に、矩形状の切り欠きと比べて、磁極先端部21dに形成される磁路の磁路幅を確保し易くなる。そのため、三角形状または円弧状の切り欠きは、矩形状の切り欠きと比べて、磁束飽和部位の発生を抑制することができる。また、三角形状または円弧状の切り欠きは、矩形状の切り欠きと比べて、角部が少ないので、磁極先端部21dに形成される磁束の急峻な変化が抑制される。よって、三角形状または円弧状の切り欠きは、矩形状の切り欠きと比べて、回転電機10の駆動時に発生する騒音および振動のうちの少なくとも一方を低減させる低減効果を向上させることができる。
また、各磁極先端部21dは、一対の面取り部51,51を備えると好適である。一対の面取り部51,51は、対向面21eと切り欠きとによって形成される二つの角部50,50がそれぞれ面取りされた部位をいう。図13に示すように、第三変形形態では、磁極先端部21dの対向面21eと円弧状の切り欠きとによって、二つの角部50,50が形成されている。二つの角部50,50では、磁極先端部21dに形成される磁束が急峻に変化し、上述の騒音および振動に関する低減効果が目減りする可能性がある。
一方、図14に示すように、第四変形形態の磁極先端部21dは、第三変形形態の磁極先端部21dの二つの角部50,50がそれぞれ面取りされており、一対の面取り部51,51を備えている。これにより、磁極先端部21dに形成される磁束の急峻な変化が抑制される。そのため、磁極先端部21dに、二つの角部50,50を備える場合と比べて、回転電機10の駆動時に発生する騒音および振動のうちの少なくとも一方を低減させる低減効果が向上する。これらのことは、本実施形態や他の変形形態においても同様である。また、図14に示す磁極先端部21dの各角部21fに、面取り部51と同等の面取り部を設けることもできる。この場合も、上記効果と同様の効果が得られる。
また、本実施形態の回転電機10によれば、固定子巻線22は、分布巻で巻装されている。そのため、本実施形態の回転電機10は、固定子巻線22が集中巻で巻装されている場合と比べて、回転電機10の出力トルクのトルクリップルを低減することができ、回転電機10の駆動時に発生する騒音および振動のうちの少なくとも一方を低減させる低減効果が向上する。
次に、図15〜図17を参照しつつ、トルク目減りと音圧レベルの低減効果との関係、トルクリップルと音圧レベルの低減効果との関係、および、コギングトルクと音圧レベルの低減効果との関係について説明する。
図15は、トルク目減りと音圧レベルの低減効果との関係の一例を示す図である。同図の横軸は、トルク目減りを示している。トルク目減りは、各固定子磁極部21bに吸引力低減部40を設けない場合の回転電機10の出力トルクを1.0としたときの出力トルクの減少割合を示している。つまり、出力トルクが1.0に近い程、トルク目減りが少なく、回転電機10の特性が優れている。また、同図の縦軸は、音圧レベルの低減効果を示している。音圧レベルは、回転電機10の駆動時に発生する振動によって、空気が振動したときの音圧を示している。本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり4次(空間4次)の変形による音圧レベルを示している。音圧レベルが低下する程(紙面下側になる程)、回転電機10の駆動時に発生する振動の低減効果が高い。
図16は、トルクリップルと音圧レベルの低減効果との関係の一例を示す図である。同図の横軸は、トルクリップルを示している。トルクリップルは、各固定子磁極部21bに吸引力低減部40を設けない場合の回転電機10のトルクリップルを1.0としたときのトルクリップルの減少割合を示している。つまり、トルクリップルが1.0より小さい程、トルクリップルが低減され、回転電機10の特性が優れている。なお、トルクリップルは、回転電機10の駆動時の出力トルクの脈動を示しており、最大値と最小値との差分(peak to peak)で示している。また、同図の縦軸は、音圧レベルの低減効果を示している。音圧レベルは、図15に示す音圧レベルと同等の座標軸で示されている。
図17は、コギングトルクと音圧レベルの低減効果との関係の一例を示す図である。同図の横軸は、コギングトルクを示している。コギングトルクは、各固定子磁極部21bに吸引力低減部40を設けない場合の回転電機10のコギングトルクを1.0としたときのコギングトルクの減少割合を示している。つまり、コギングトルクが1.0より小さい程、コギングトルクが低減され、回転電機10の特性が優れている。なお、コギングトルクは、非通電時のトルクの脈動を示しており、最大値と最小値との差分(peak to peak)で示している。また、同図の縦軸は、音圧レベルの低減効果を示している。音圧レベルは、図15および図16に示す音圧レベルと同等の座標軸で示されている。
図15〜図17の四角印は、本実施形態(吸引力低減部40の凹部が矩形状の切り欠きである場合)の特性を示している。なお、図15〜図17では、矩形状の切り欠きの幅と深さ(図8に示す幅W11と深さd11に相当)を変更した6点のデータがプロットされている。また、これらのサンプルデータから推定される本実施形態の特性領域を領域ER1〜ER3で示している。
図15〜図17の三角印は、第二変形形態(吸引力低減部40の凹部が三角形状の切り欠きである場合)の特性を示している。図15〜図17の白丸印は、第三変形形態(吸引力低減部40の凹部が円弧状の切り欠きである場合)の特性を示している。図15〜図17の黒丸印は、第四変形形態(吸引力低減部40の凹部が円弧状の切り欠きであり、各磁極先端部21dが一対の面取り部51,51を備える場合)の特性を示している。
図15に示すように、第二変形形態(三角印)は、本実施形態(四角印)の特性と比べて、トルク目減りの抑制と、音圧レベルの低減との両立が図られている。また、第三変形形態(白丸印)は、第二変形形態(三角印)の特性と比べて、若干、トルク目減りが見られるものの音圧レベルの低減効果が向上している。第四変形形態(黒丸印)は、第三変形形態(白丸印)の特性と比べて、トルク目減りがさらに見られるものの音圧レベルの低減効果がさらに向上している。
図16に示すように、本実施形態(四角印)は、一つのサンプルデータを除いて、トルクリップルが増加している。また、当該サンプルデータでは、音圧レベルの低減効果が最も少ない。一方、第二変形形態(三角印)、第三変形形態(白丸印)および第四変形形態(黒丸印)の全てにおいて、トルクリップルが1.0より小さい。つまり、これらの変形形態では、各固定子磁極部21bに吸引力低減部40を設けない場合と比べて、トルクリップルが低減されている。
図17に示すように、本実施形態(四角印)、第二変形形態(三角印)、第三変形形態(白丸印)および第四変形形態(黒丸印)のいずれにおいても、コギングトルクが1.0より大きい。つまり、いずれの形態においても、各固定子磁極部21bに吸引力低減部40を設けない場合と比べて、コギングトルクが増加している。
なお、矩形状の切り欠きの幅(図8に示す幅W11に相当)が大きくなる程、音圧レベルの低減効果が向上するが、コギングトルクが増加する傾向にある。また、矩形状の切り欠きの深さ(図8に示す深さd11に相当)が大きくなる程、音圧レベルの低減効果が向上するが、トルクリップルが増加する傾向にある。さらに、矩形状の切り欠きの面積(幅W11と深さd11との積)に概ね比例して、トルク目減りが増加する。そのため、許容されるトルク目減りに合わせて、矩形状の切り欠きの幅と深さ(幅W11と深さd11)を設定すると良い。また、矩形状の切り欠きの面積(幅W11と深さd11との積)が同じ場合、切り欠きの幅(幅W11)と比べて、切り欠きの深さ(深さd11)を大きくすると、音圧レベルの低減効果が向上する。
矩形状の切り欠きの面積(幅W11と深さd11との積)が一定で、切り欠きの幅(幅W11)を磁極先端部21dの第一方向(矢印X方向)幅と同じ大きさまで広げても(つまり、対向面21eと可動子鉄心31との間の空隙を広げることと同等)、音圧レベルの低減効果は、ほとんど見られない。また、矩形状の切り欠きの面積(幅W11と深さd11との積)が一定で、切り欠きの幅(幅W11)を極端に狭くして、切り欠きの深さ(深さd11)を固定子磁極部21bの基端側に向かって大きくしても、音圧レベルの低減効果は、ほとんど見られない。そのため、切り欠きの幅(幅W11)は、スロット21cの開口幅と同等に設定すると良い。
<第二実施形態>
本実施形態は、第一実施形態と比べて、毎極毎相スロット数が異なる。以下、第一実施形態と異なる点を中心に説明する。
本実施形態の回転電機10は、8極30スロット構成の回転電機であり、毎極毎相スロット数が1.25である。つまり、整数部aは1、分子部bは1、分母部2nは4(nは2)であり、本実施形態の回転電機10は、1/4系列の回転電機10である。図18は、図3に対応しており、図3と同様に図示されている。図19は、図9に対応しており、図9と同様に図示されている。
図18に示すように、第一方向(矢印X方向)に隣接する二磁極対(四磁極)分の可動子磁極32a,32bを考える。1/4系列の回転電機10では、四種類の磁極対向状態(磁極対向状態M20、磁極対向状態M21、磁極対向状態M22および磁極対向状態M23)を備えており、四種類の吸引力分布を備えている。そのため、第一方向(矢印X方向)に隣接する二磁極対(四磁極)分の可動子磁極32a,32bでは、互いに吸引力分布が異なる。その結果、固定子磁極部21bに作用する吸引力分布は、一磁極毎には等価にならず、二磁極対毎(四磁極毎)に等価になる。
以上のことは、図示が省略されている他の可動子磁極32a,32bについても同様である。このように、1/4系列の回転電機10では、互いに吸引力分布が異なる第一方向(矢印X方向)に隣接する二磁極対(四磁極)分の可動子磁極32a,32bを単位として、第一方向(矢印X方向)に平行移動させた状態で、多極化(本実施形態では、8極化)されている。
1/4系列の回転電機10では、固定子鉄心21の変位量は、大きさが異なる四種類のピーク値が生じる。そのため、1/4系列で8極の回転電機10は、固定子鉄心21の一周あたり2次(空間2次)の起振力の成分を備えている。固定子鉄心21の一周あたり2次(空間2次)の起振力は、二磁極対(四磁極)を単位として繰り返され、第一方向(矢印X方向)の四磁極対(八磁極)において、固定子鉄心21の変位量は、二つのピーク値が生じる。この場合、図7に示すように、曲線21s2で示す楕円状に変形し易い。
分数スロット構成の回転電機10では、可動子磁極32a,32bの磁極数(本実施形態では、8極)に依拠する次数(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))の起振力と比べて、より低次(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり2次(空間2次))の起振力の成分を備える。そのため、駆動回転数が広範囲に亘る回転電機10では、固定子鉄心21の固有振動数と一致する回転数が、駆動回転数範囲内に生じ易くなる。その結果、固定子20の共振が発生し、回転電機10の駆動時に発生する騒音や振動などが増大する可能性がある。
そこで、本実施形態の回転電機10は、吸引力分布を整数スロット構成と同程度(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))まで高次化する。以下、図18および図19を参照しつつ具体的に説明する。図18に示すように、参考形態の回転電機では、位置座標QA1(位置座標0)では、可動子磁極32aは、スロット21cの中央位置に対向している。位置座標QB1(位置座標3.75)では、可動子磁極32bは、固定子磁極部21bの第一方向紙面右側(矢印X2方向)に対向している。また、位置座標QC1(位置座標7.5)では、可動子磁極32aは、固定子磁極部21bの中央位置に対向している。位置座標QD1(位置座標11.25)では、可動子磁極32bは、固定子磁極部21bの第一方向紙面左側(矢印X1方向)に対向している。このように、位置座標QA1,QB1,QC1,QD1では、磁極対向状態がそれぞれ異なり、四種類の磁極対向状態が存在する。
ここで、位置座標QA1(位置座標0)から第一方向紙面右側(矢印X2方向)に、1/4固定子磁極ピッチ(1/4スロットピッチ)ずつ離れた位置座標を、位置座標QA2、位置座標QA3および位置座標QA4とする。また、位置座標QB1(位置座標3.75)から第一方向紙面右側(矢印X2方向)に、1/4固定子磁極ピッチ(1/4スロットピッチ)ずつ離れた位置座標を、位置座標QB2、位置座標QB3および位置座標QB4とする。同様に、位置座標QC1(位置座標7.5)から第一方向紙面右側(矢印X2方向)に、1/4固定子磁極ピッチ(1/4スロットピッチ)ずつ離れた位置座標を、位置座標QC2、位置座標QC3および位置座標QC4とする。また、位置座標QD1(位置座標11.25)から第一方向紙面右側(矢印X2方向)に、1/4固定子磁極ピッチ(1/4スロットピッチ)ずつ離れた位置座標を、位置座標QD2、位置座標QD3および位置座標QD4とする。
位置座標QA2,QB2,QC2,QD2では、位置座標QA1,QB1,QC1,QD1の磁極対向状態と比べて、順序は異なるが、同種類の磁極対向状態が存在する。具体的には、スロット21cの中央位置に対向する磁極対向状態、固定子磁極部21bの第一方向紙面左側(矢印X1方向)に対向する磁極対向状態、固定子磁極部21bの中央位置に対向する磁極対向状態および固定子磁極部21bの第一方向紙面右側(矢印X2方向)に対向する磁極対向状態の四種類の磁極対向状態が存在する。このことは、位置座標QA3,QB3,QC3,QD3についても同様であり、位置座標QA4,QB4,QC4,QD4についても同様である。そして、これらの磁極対向状態は、第一方向(矢印X方向)の四磁極対(八磁極)において、繰り返されている。
よって、スロット21cの中央位置に対向する磁極対向状態を、残りの三種類の磁極対向状態において再現することにより、これらの間の吸引力の差異が緩和される。以上のことは、第一方向紙面右側(矢印X2方向)に、さらに1/4固定子磁極ピッチ(1/4スロットピッチ)離れた位置においても同様であり、四磁極対(八磁極)分について同様である。よって、上述の吸引力の差異の緩和を四磁極対(八磁極)分、繰り返すことにより、吸引力のピーク値を一磁極毎に等価な状態に近づけることができる。
本実施形態では、図19に示すように、複数(30個)の固定子磁極部21bの各々は、磁極先端部21dに、3つの吸引力低減部40,40,40を備えている。3つの吸引力低減部40,40,40は、3つの凹部であり、凹部は、第一実施形態と同様の矩形状の切り欠きによって形成されている。また、3つの吸引力低減部40,40,40は、隣接するスロット21cの第一方向(矢印X方向)の中央位置から、1/4、2/4(=1/2)、3/4固定子磁極ピッチ(スロットピッチ)離れた位置に順に第一方向(矢印X方向)の中心が位置するように、第一方向(矢印X方向)に沿って配置されている。
固定子磁極番号4の磁極先端部21dに設けられた第一方向紙面右側(矢印X2方向)の吸引力低減部40は、位置座標QB1の固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力を低減する。その結果、位置座標QA1における吸引力と、位置座標QB1における吸引力との差が低減し、吸引力の差異が緩和される。このことは、位置座標QC1および位置座標QD1についても同様である。よって、位置座標QA1,QB1,QC1,QD1における吸引力の差異が緩和される。以上のことは、位置座標QA2,QB2,QC2,QD2についても同様であり、位置座標QA3,QB3,QC3,QD3についても同様である。また、位置座標QA4,QB4,QC4,QD4についても同様である。
本実施形態では、全ての固定子磁極部21bの磁極先端部21dに、3つの吸引力低減部40,40,40を備えているので、上記の状況が四磁極対(八磁極)分、繰り返される。よって、第一実施形態と同様に、吸引力のピーク値は、図18に示す参考形態と比べて、一磁極毎に等価な状態に近づく。
よって、本実施形態の回転電機10は、可動子磁極32a,32bの磁極数(本実施形態では、8極)に依拠する次数(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))の起振力と比べて、より低次(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり2次(空間2次))の起振力の成分を低減して、可動子磁極32a,32bの磁極数に依拠する次数の起振力の成分を増大させることができる。したがって、本実施形態の回転電機10は、固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力分布を整数スロット構成と同程度(本実施形態では、固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))まで高次化し、固定子鉄心21の固有振動数と一致する回転数を高めて、駆動回転数範囲外に設定することができる。つまり、本実施形態の回転電機10は、固定子20の共振機会を回避して、回転電機10の駆動時に発生する騒音および振動のうちの少なくとも一方を低減することができる。
また、本実施形態においても、3つの吸引力低減部40,40,40は、磁極先端部21dの可動子30と対向する対向面21eに設けられた3つの凹部であると好適である。さらに、3つの凹部は、三角形状または円弧状の切り欠きであると好適である。また、各磁極先端部21dは、三組の一対の面取り部51,51を備えると好適である。
なお、本実施形態において既述したことは、3/4系列の回転電機10についても同様に言える。図20に示す第五変形形態の回転電機10は、4極21スロットの回転電機であり、毎極毎相スロット数が1.75である。つまり、整数部aは1、分子部bは3、分母部2nは4(nは2)であり、第五変形形態の回転電機10は、3/4系列の回転電機10である。図20は、既述の図19に対応しており、同様に図示されている。
図20に示す位置座標RA1,RB1,RC1,RD1は、この順に、図19に示す位置座標QA1,QB1,QC1,QD1に対応させる。また、図20に示す位置座標RA2,RB2,RC2,RD2は、この順に、図19に示す位置座標QA2,QB2,QC2,QD2に対応させる。さらに、図20に示す位置座標RA3,RB3,RC3,RD3は、この順に、図19に示す位置座標QA3,QB3,QC3,QD3に対応させる。また、図20に示す位置座標RA4,RB4,RC4,RD4は、この順に、図19に示す位置座標QA4,QB4,QC4,QD4に対応させる。
例えば、位置座標RA1,RB1,RC1,RD1では、位置座標QA1,QB1,QC1,QD1の磁極対向状態と比べて、順序は異なるが、同種類の磁極対向状態が存在する。具体的には、スロット21cの中央位置に対向する磁極対向状態、固定子磁極部21bの第一方向紙面左側(矢印X1方向)に対向する磁極対向状態、固定子磁極部21bの中央位置に対向する磁極対向状態および固定子磁極部21bの第一方向紙面右側(矢印X2方向)に対向する磁極対向状態の四種類の磁極対向状態が存在する。よって、3/4系列の回転電機10は、1/4系列の回転電機10と同様にして、回転電機10の駆動時に発生する騒音および振動のうちの少なくとも一方を低減することができる。
<1/2n系列の回転電機10>
第一実施形態では、1/2系列の回転電機10について説明した。また、第二実施形態では、1/4系列の回転電機10について説明した。しかしながら、本発明は、これらの回転電機10に限定されるものではない。以下、1/2n系列の回転電機10について説明する。
毎極毎相スロット数を帯分数で表したときの整数部分を整数部aとし、帯分数の真分数部分を既約分数で表したときの分子部分を分子部b、分母部分を分母部2n(nは自然数)とする。また、整数部a、分子部bおよび分母部2nは、いずれも正の整数とし、分母部2nは、2以上の整数、かつ、3の倍数でない偶数とする。これは、分母部2nが3の倍数の場合、固定子巻線22は、分数スロット巻で巻装することが困難であることによる。
本発明に係る1/2n系列の回転電機10では、複数の固定子磁極部21bの各々は、分母部2nから1を減じた2n−1個の吸引力低減部40を磁極先端部21dに備える。吸引力低減部40は、固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力を低減させる。また、2n−1個の吸引力低減部40は、隣接するスロット21cの第一方向(矢印X方向)の中央位置から、1/2n,・・・,(2n−1)/2n固定子磁極ピッチ離れた位置に順に第一方向(矢印X方向)の中心が位置するように、第一方向(矢印X方向)に沿って配置されている。
これにより、本発明に係る回転電機10は、可動子磁極32a,32bの磁極数に依拠する次数の起振力と比べて、より低次(可動子磁極32a,32bの磁極数を分母部2nで除した次数)の起振力の成分を低減して、可動子磁極32a,32bの磁極数に依拠する次数の起振力の成分を増大させることができる。したがって、本発明に係る回転電機10は、固定子磁極部21bに作用する第二方向(矢印Y方向)の電磁気的な吸引力分布を整数スロット構成と同程度まで高次化し、固定子鉄心21の固有振動数と一致する回転数を高めて、駆動回転数範囲外に設定することができる。つまり、本発明に係る回転電機10は、固定子20の共振機会を回避して、回転電機10の駆動時に発生する騒音および振動のうちの少なくとも一方を低減することができる。
また、2n−1個の吸引力低減部40は、磁極先端部21dの可動子30と対向する対向面21eに設けられた一つまたは複数の凹部であると好適である。さらに、一つまたは複数の凹部は、三角形状または円弧状の切り欠きであると好適である。また、各磁極先端部21dは、対向面21eと切り欠きとによって形成される二つの角部50,50がそれぞれ面取りされた少なくとも一対の面取り部51,51を備えると好適である。さらに、固定子巻線22は、分布巻で巻装することもできる。つまり、固定子巻線22は、分布巻で巻装された分布巻固定子巻線とすることができる。
なお、固定子巻線22は、集中巻で巻装することもできる。つまり、固定子巻線22は、集中巻で巻装された集中巻固定子巻線とすることもできる。例えば、1/2系列の回転電機として、可動子30の磁極数が2j、固定子20のスロット数が3jの三相回転電機を考える。但し、jは、自然数とする。
例えば、jが1のとき、可動子30の磁極数が2極、固定子20のスロット数が3スロットの三相回転電機である。この場合、三相回転電機は、可動子30の磁極数(2極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり2次(空間2次))の起振力と比べて、より低次(固定子鉄心21の一周あたり1次(空間1次))の起振力の成分を備える。そのため、各固定子磁極部21bの磁極先端部21dには、隣接するスロット21cの第一方向(矢印X方向)の中央位置から1/2固定子磁極ピッチ離れた位置に第一方向(矢印X方向)の中心が位置するように、一つの吸引力低減部40を配置する。これにより、吸引力分布は、可動子30の磁極数(2極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり2次(空間2次))まで高次化される。
jが2のとき、可動子30の磁極数が4極、固定子20のスロット数が6スロットの三相回転電機である。この場合、三相回転電機は、可動子30の磁極数(4極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり4次(空間4次))の起振力と比べて、より低次(固定子鉄心21の一周あたり2次(空間2次))の起振力の成分を備える。そのため、各固定子磁極部21bの磁極先端部21dには、隣接するスロット21cの第一方向(矢印X方向)の中央位置から1/2固定子磁極ピッチ離れた位置に第一方向(矢印X方向)の中心が位置するように、一つの吸引力低減部40を配置する。これにより、吸引力分布は、可動子30の磁極数(4極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり4次(空間4次))まで高次化される。
jが3以上の場合についても同様であり、各固定子磁極部21bは、上記の所定位置に、一つの吸引力低減部40を備えることにより、吸引力分布は、可動子30の磁極数(2j極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり2j次(空間2j次))まで高次化される。
また、1/4系列の回転電機として、可動子30の磁極数が4k、固定子20のスロット数が3kの三相回転電機を考える。但し、kは、自然数とする。例えば、kが1のとき、可動子30の磁極数が4極、固定子20のスロット数が3スロットの三相回転電機である。この場合、三相回転電機は、可動子30の磁極数(4極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり4次(空間4次))の起振力と比べて、より低次(固定子鉄心21の一周あたり1次(空間1次))の起振力の成分を備える。そのため、各固定子磁極部21bの磁極先端部21dには、隣接するスロット21cの第一方向(矢印X方向)の中央位置から、1/4、2/4、3/4固定子磁極ピッチ離れた位置に順に第一方向(矢印X方向)の中心が位置するように、第一方向(矢印X方向)に沿って3つの吸引力低減部40を配置する。これにより、吸引力分布は、可動子30の磁極数(4極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり4次(空間4次))まで高次化される。
kが2のとき、可動子30の磁極数が8極、固定子20のスロット数が6スロットの三相回転電機である。この場合、三相回転電機は、可動子30の磁極数(8極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))の起振力と比べて、より低次(固定子鉄心21の一周あたり2次(空間2次))の起振力の成分を備える。そのため、各固定子磁極部21bの磁極先端部21dには、隣接するスロット21cの第一方向(矢印X方向)の中央位置から、1/4、2/4、3/4固定子磁極ピッチ離れた位置に順に第一方向(矢印X方向)の中心が位置するように、第一方向(矢印X方向)に沿って3つの吸引力低減部40を配置する。これにより、吸引力分布は、可動子30の磁極数(8極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり8次(空間8次))まで高次化される。
kが3以上の場合についても同様であり、各固定子磁極部21bは、上記の所定位置に、3つの吸引力低減部40を備えることにより、吸引力分布は、可動子30の磁極数(4k極)に依拠する次数(固定子鉄心21の一周あたり4k次(空間4k次))まで高次化される。
以上のことは、分母部2nが2および4以外についても同様であり、1/2n系列の回転電機について成立する。このように、本発明に係る回転電機10は、固定子巻線22が集中巻で巻装された集中巻固定子巻線の場合においても、回転電機10の駆動時に発生する騒音および振動のうちの少なくとも一方を低減することができる。
<その他>
本発明は、上記した実施形態や図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施することができる。例えば、既述の実施形態では、可動子30は、固定子20の内方に設けられているが、可動子30は、固定子20の外方に設けることもできる。また、本発明に係る回転電機10は、固定子20および可動子30が同軸に配されるラジアル空隙型の円筒状回転電機に限定されるものではない。本発明に係る回転電機10は、固定子20および可動子30が直線上に配され、可動子30が固定子20に対して直線上に移動するリニア型回転電機に適用することもできる。さらに、本発明に係る回転電機10は、分数スロット構成の種々の回転電機に用いることができ、例えば、車両の駆動用電動機、発電機、産業用または家庭用の電動機、発電機などに用いることができる。