本発明のアミノカルボン酸塩の製造方法は、
(a)銅含有触媒の存在下で、下記式(1):
ただし、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシエチル基、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜3のアミノアルキル基または炭素数2〜3のヒドロキシアルキルアミノアルキル基を表す、
で示されるアミノアルコールを酸化脱水素反応して反応物を得[工程(a)];
(b)前記工程(a)で得られた反応物から前記銅含有触媒を除去して、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)の合計含有量(金属換算)が100質量ppm以下になるように制御されたアミノカルボン酸塩を含む反応液を得る[工程(b)]ことを有する。上記方法により、アミノカルボン酸塩の保管・貯蔵時に着色成分が保管・貯蔵容器(配管や貯槽等)の内壁に固着するのを抑制・防止できる。このため、着色成分の除去のために、特殊な洗浄剤を使用したり、洗浄に労力や手間をかける必要がなく、産業上有用である。また、上記方法によれば、当該アミノカルボン酸塩からアミノカルボン酸を製造する際の不純物や副生物に由来する沈殿の生成を抑制・防止できる。上記効果を奏する詳細なメカニズムは依然として不明であるが、以下のように考えられる。なお、以下のメカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
本願発明者らは、上記特許文献1、2の方法によるアミノカルボン酸またはその塩の製造における、着色成分の生成原因について鋭意検討を行った。その結果、着色成分の詳細は不明であるものの、反応原料に含まれている、または銅含有触媒や反応装置内壁から溶出する金属成分のうち、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)が少なくとも着色成分の固着原因になっているまたは着色成分の固着を促進すると推測した。また、上記推測に基づいて、さらに鋭意検討を行い、着色成分の固着を有意に抑制・防止できる上記金属含有量の上限を初めて見出した。すなわち、上記金属成分(Si、Al、Fe)の合計含有量を金属換算で100ppm以下に低減したアミノカルボン酸塩であれば、溶液形態で保管・貯蔵しても容器内壁に着色成分が固着しないまたは固着しにくいことを見出した。したがって、本発明の方法によって製造されたアミノカルボン酸塩は、保管・貯蔵中に着色成分が保管・貯蔵容器内壁に、または移送時に配管内壁に固着しにくいまたは固着しない。ゆえに、本発明の方法によれば、着色成分やその固着物の除去のための工程や特許文献4に記載されるような、不活性ガス雰囲気での保存のような予防のための処置が不要であるため、アミノカルボン酸塩を大量生産する場合に特に有用である。
さらに、上述したように、本発明の方法によって製造されたアミノカルボン酸塩は不純物や副生物が少ない。このため、当該アミノカルボン酸塩から製造されたアミノカルボン酸では、当該不純物や副生物に由来する沈殿(沈殿物)の生成を抑制・防止できる。ゆえに、本発明の方法によれば、沈殿物の除去のための工程が不要であるため、アミノカルボン酸を大量生産する場合に特に有用である。
本明細書において、「式(1)で示されるアミノアルコール」を、「本発明に係るアミノアルコール」、「式(1)のアミノアルコール」または「アミノアルコール」とも称する。また、「ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)の合計含有量(金属換算)」を、「特定金属の合計含有量(金属換算)」または「特定金属の合計含有量」とも称する。また、本明細書において、特記しない限り、「ppm」は「質量ppm」を意味する。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。なお、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
[アミノカルボン酸塩の製造方法]
本発明のアミノカルボン酸塩の製造方法は、
(a)銅含有触媒の存在下で、下記式(1):
ただし、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシエチル基、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜3のアミノアルキル基または炭素数2〜3のヒドロキシアルキルアミノアルキル基を表す、
で示されるアミノアルコールを酸化脱水素反応して反応物を得[工程(a)];
(b)前記工程(a)で得られた反応物から前記銅含有触媒を除去して、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)の合計含有量(金属換算)が100質量ppm以下になるように制御されたアミノカルボン酸塩を含む反応液を得る[工程(b)]ことを有する。
[工程(a)]
本工程では、銅含有触媒の存在下で、上記式(1)のアミノアルコールを酸化脱水素反応して反応物を得る。上記酸化脱水反応によって、少なくとも式(1)のアミノアルコールの−CH2OH基が−COO−基に酸化される。
上記式(1)において、R1およびR2は、水素原子、ヒドロキシエチル基(−CH2CH2OH)、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜3のアミノアルキル基または炭素数2〜3のヒドロキシアルキルアミノアルキル基である。ここで、R1およびR2は、同じであってもまたは異なるものであってもよい。
上記式(1)中のR1およびR2としての炭素数1〜18のアルキル基は、特に制限されず、炭素数1〜18の直鎖または分岐鎖のアルキル基でありうる。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。これらのうち、反応速度の観点から、炭素数1〜9の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基が好ましい。
R1およびR2としての炭素数2〜3のアミノアルキル基としては、アミノエチル基(−C2H4NH2)、アミノプロピル基(−C3H6NH2)、およびアミノイソプロピル基(−C(CH3)2NH2)がある。
R1およびR2としての炭素数2〜3のヒドロキシアルキルアミノアルキル基としては、ヒドロキシメチルアミノメチル基、ヒドロキシエチルアミノメチル基、ヒドロキシメチルアミノエチル基がある。
これらのうち、R1およびR2は、好ましくは水素原子、ヒドロキシエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、ノニル基、アミノエチル基、アミノプロピル基であり、より好ましくは水素原子、ヒドロキシエチル基、メチル基であり、特に好ましくは水素原子、ヒドロキシエチル基である。なお、R1およびR2の一方がヒドロキシエチル基である場合には、2個の−CH2OH基(即ち、上記式(1)における−CH2OH基ならびにR1およびR2のいずれかの−CH2OH基)が−COO−基に酸化される。同様にして、R1およびR2双方がヒドロキシエチル基である場合には、3個の−CH2OH基(即ち、上記式(1)における−CH2OH基ならびにR1およびR2の−CH2OH基)が−COO−基に酸化される。
したがって、本発明に係るアミノアルコールの好ましい例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−ノニルエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N−(3−アミノプロピル)エタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−イソプロピルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、N−エチル,N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチル,N−(3−アミノプロピル)エタノールアミンなどがある。これらのうち、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが特に好ましい。
本工程(a)では、アミノアルコールの酸化脱水素反応は、銅含有触媒の存在下で行われる。ここで、用いられる銅含有触媒は、銅を必須成分して含有するものである。銅の原料(銅化合物)は、特に制限されず、金属銅に加えて、例えば、銅の、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物、水酸化物等の無機物、例えばギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩等の有機酸塩などが使用できる。銅含有触媒の形態は特に限定されない。例えば金属銅表面を酸化後水素により還元した触媒;ラネー銅触媒(展開スポンジ銅触媒、展開ラネー銅触媒);スポンジニッケル触媒に銅を担持した触媒;ラネー銅合金をアルカリ水溶液で展開し得られた触媒;ギ酸銅、炭酸銅等を熱分解および/または還元して得られた活性化銅をそのまま、または担体(例えば、アルカリ耐性担体)に前記の銅化合物を担持した後に焼成および/または還元により得られる活性化銅;担体(例えば、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ、アルミナ(Al2O3)、活性炭)に銅を担持した触媒;無電解メッキにより銅を担持した触媒;ポリオール法(ポリオール還元法)により銅カチオン(例えば、上記したような銅の有機酸塩、無機物)をエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセロール、ポリビニルピロリドン等の保護剤と共に80〜190℃(好ましくは120〜190℃)で0.5〜10時間(好ましくは1〜5時間))で還元する(微粒子化する)こと(ポリオール還元法)で得られる銅粒子触媒等を使用することができる。好ましい担体の例としては、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、シリカ、シリコンカーバイト、活性炭などが挙げられる。これらのうち、反応への活性、触媒の寿命の点から、ラネー銅触媒(展開スポンジ銅触媒、展開ラネー銅)、ポリオール法(ポリオール還元法)により銅を微粒子化した触媒、共沈法または含浸法にて担体に担持した銅触媒が好適に使用され、ラネー銅触媒(展開スポンジ銅触媒、展開ラネー銅)、ポリオール法(ポリオール還元法)により銅を微粒子化した触媒がより好適に使用される。
銅含有触媒には、その他の金属を含んでいてもよい。その他の金属としては特に限定されないが、例えば、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銀、金、亜鉛、カドミウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、セレン、テルル等がある。これらのうち、好ましくは、ルビジウム、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、ニオブ、クロム、モリブデン、鉄、オスミウム、コバルト、ニッケル、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウムであり、特に好ましくは、マグネシウム、クロム、鉄、オスミウム、コバルト、ニッケル、アルミニウムである。これら金属は銅含有触媒の調製時に原料として含まれていてもよく、また調製過程で意図的に添加してもよい。
銅含有触媒が上記他の金属を含む場合の、銅含有触媒における上記他の金属の含有量は、広範な範囲内で変化でき、特に制限されない。通常、アミノアルコールからアミノカルボン酸塩への転化のしやすさを考慮すると、銅含有触媒における上記他の金属の含有量は、10〜50,000ppm程度、より好ましくは約20〜約5000ppm、さらにより好ましくは約50〜約5000ppmであることが好ましい。なお、下記に詳述するが、特定金属の含有量が少ない銅含有触媒を選択することが反応液における特定金属の合計含有量を所定の範囲に制御する手段の一つである。このため、上記銅含有触媒の調製時に特定金属の溶出が少なくなるような原料や調製法を選択する、または酸化脱水素反応に使用する前に必要に応じて前処理することが好ましい。
または、市販の銅触媒(例えば、川研ファインケミカル株式会社製のスポンジ銅触媒 CDTシリーズ)などを銅含有触媒として使用してもよい。
銅含有触媒の使用量は、酸化脱水素反応を有効に進行できる量であれば特に制限されないが、アミノアルコールに対して、好ましくは1〜70質量%であり、より好ましくは5〜50質量%である。
銅含有触媒の大きさは特に制限されないが、銅含有触媒の粒度は小さすぎると触媒の分離の際に不利になる場合がある。例えば、触媒を沈降させて分離する場合には沈降速度が遅くなり、また濾過して分離する場合には濾過速度が遅くなる。一方、粒度が大きすぎると沈降性は良くなるが、触媒の分散を良くするために大きな撹枠動力が必要となり、また触媒の有効表面積が少なくなるので触媒活性が低下する場合がある。上記点を考慮すると、銅含有触媒の粒度(平均粒径:直径)は、0.1〜300μmの範囲内であるのが好ましい。但し、この反応を固定床流通式の反応器を用いて行なうような場合は、圧力損失を少なくする必要があるので銅含有触媒の粒度はもっと大きなものが好適である。また、本発明に用いられる銅含有触媒の比表面積は小さすぎると触媒活性が低くて多量の触媒を用いることになる。従って、銅含有触媒の比表面積(BET比表面積)は、BET測定法において、0.1m2/g以上であるのが好ましく、より好ましくは0.2m2/g以上である。銅含有触媒の比表面積(BET比表面積)の上限は、BET測定法において、例えば100m2/g以下であり、好ましくは50m2/g以下である。
本工程では、酸化脱水素反応を、銅含有触媒に加えて、アルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物の存在下で行ってもよい。アルカリ金属の水酸化物やアルカリ土類金属の水酸化物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムなどが挙げられる。入手や取扱いの容易性から、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。上記アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物は、それぞれ、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物を組み合わせて使用してよい。アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物の形状は、特に制限されず、フレーク、粉末、ペレット等の固体形態で、または水溶液の形態で、いずれの形態でも用いることができるが、水溶液で使用するのが取り扱い易いため、好ましい。アルカリ金属の水酸化物あるいはアルカリ土類金属の水酸化物の使用量(アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物を複数種使用する場合には、合計使用量)は、特に制限されないが、反応に使用するアミノアルコールの水酸基に対して、好ましくは1当量以上、より好ましくは1.0〜2.0当量の範囲内である。
また、アルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物に加えてまたはアルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物に代えて、アミノアルコールの酸化脱水素反応を水の存在下で行ってもよい。好ましくは、酸化脱水素反応を、銅含有触媒に加えて、アルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物ならびに水の存在下で行う。水を使用することにより、アミノアルコールとアルカリ金属の水酸化物、あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を均一系で反応でき、その結果、アミノカルボン酸塩を高収率で得ることができる。ここで、水としては、特に制限されず、工業水、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等が挙げられる。反応に用いられる水の量は、反応を均一に行うことができる量であれば特に制限されないが、アミノアルコールに対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50〜500質量%、さらにより好ましくは100〜300質量%の範囲内である。
さらに、アルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物、または水に加えて、あるいはアルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物、または水に代えて、アミノアルコールの酸化脱水素反応をアルミニウム化合物の存在下で行ってもよい。ここで、アルミニウム化合物としては、以下に制限されないが、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム及びアルミン酸カリウム等のアルミン酸塩、塩化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウムなどが挙げられる。入手や取扱いの容易性から、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウムが好適に使用される。上記アルミニウム化合物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。アルミニウム化合物の使用量(アルミニウム化合物を複数種使用する場合には、合計使用量)は、反応液における特定金属の合計含有量が100ppm以下であれば特に制限されないが、反応に使用するアミノアルコールに対して、好ましくは0.002〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.1質量%である。
工程(a)において、酸化脱水素反応条件は、酸化脱水素反応が良好に進行する条件であれば特に制限されない。例えば、反応温度は、アミノアルコール及び生成したアミノカルボン酸塩の炭素−窒素結合の熱分解及び水素化分解を有効に防ぐことを考慮すると、好ましくは220℃以下の温度、より好ましくは120℃〜210℃、さらにより好ましくは140℃〜200℃の温度範囲内で行われる。また、反応時間は、特に制限されないが、好ましくは0.5〜20時間、より好ましくは1〜10時間である。
この反応は、酸化脱水素反応であって水素の発生を伴うため、できるだけ反応圧力を下げる方が反応速度の面から好ましい。通常、反応を液相で進めるためには、反応は、最低圧力以上、より好ましくは5〜50kg/cm2Gの圧力下で行うことが好ましい。また、酸化脱水素反応条件は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、酸化脱水素反応は、撹拌しながら行ってもよい。
反応の形式は、特に制限されず、バッチ、セミバッチ、連続反応いずれの方法も用いることができる。
なお、本工程(a)は、上記形態に限定されず、特表2002−524015号公報、特開平4−342549号公報、特開平7−2743号公報、特開平7−89912号公報に記載の方法等の公知の方法を同様にしてあるいは適宜修飾して適用してもよい。
[工程(b)]
本工程では、上記工程(a)で得られた反応物から前記銅含有触媒を除去して、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)の合計含有量(金属換算)が100質量ppm以下になるように制御されたアミノカルボン酸塩を含む反応液を得る。
本工程(b)では、反応後の反応混合物を濾過により銅含有触媒を除去(分離)することで、濾液として目的とするアミノカルボン酸塩を含有する反応液(例えば、アミノカルボン酸塩の水溶液)を得る。あるいは、反応混合物を静置して触媒を沈降させることで、上澄み液として、アミノカルボン酸塩を含有する反応液(例えば、アミノカルボン酸塩の水溶液)を得る。
ここで、特定金属の合計含有量とは、上記のようにして反応物から前記銅含有触媒を除去して得られたアミノカルボン酸塩を含有する反応液における、特定金属(Si、Al及びFe)の合計含有量である。
特定金属の合計含有量は、100質量ppm以下である。ここで、上記合計含有量が100質量ppmを超えると、当該反応液を保存する容器内壁に着色成分が固着し、またアミノカルボン酸塩からアミノカルボン酸を製造する際に沈殿が生じる(下記比較例参照)。このため、当該固着・沈殿物を除去するために、特殊な洗浄剤を使用したり、特別な洗浄および多大な労力が必要であり、またアミノカルボン酸またはその塩の水溶液からこれら成分を除去するための工程を増やさねばならず、設備コストが増大してしまうため、産業上好ましくない。上記固着・沈殿物のさらなる抑制・防止効果を考慮すると、特定金属(Si、Al及びFe)の合計含有量は、好ましくは60質量ppm以下、より好ましくは50質量ppm以下、特に好ましくは20質量ppm以下である。なお、特定金属(Si、Al及びFe)の合計含有量の下限は、低いほど好ましいため、0質量ppmであるが、製造コスト、原料の入手しやすさなどを考慮すると、5質量ppm以上または検出限界以上であればよい。
ここで、アミノカルボン酸塩を含む反応液中の各特定金属の含有量は、合計含有量が上記範囲であれば特に制限されない。具体的には、反応液中のアルミニウム(Al)の含有量(金属換算)は、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは45質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下である。なお、反応液中のアルミニウム(Al)の含有量の下限は、低いほど好ましいため、0質量ppmであるが、製造コスト、原料の入手しやすさなどを考慮すると、1質量ppm以上または検出限界以上であればよい。反応液中の鉄(Fe)の含有量(金属換算)は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは8質量ppm以下、特に好ましくは7質量ppm以下である。なお、反応液中の鉄(Fe)の含有量の下限は、低いほど好ましいため、0質量ppmであるが、製造コスト、原料の入手しやすさなどを考慮すると、1質量ppm以上または検出限界以上であればよい。反応液中のケイ素(Si)の含有量(金属換算)は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、特に好ましくは3質量ppm以下である。なお、反応液中のケイ素(Si)の含有量の下限は、低いほど好ましいため、0質量ppmであるが、製造コスト、原料の入手しやすさなどを考慮すると、1質量ppm以上または検出限界以上であればよい。上記したような各金属の含有量であれば、容器内壁への着色成分固着をより有効に抑制・防止できる。
なお、上記特定金属(Si、Al及びFe)の合計含有量および各特定金属の含有量は、公知の方法で測定できる。本明細書では、特定金属(Si、Al及びFe)の合計含有量および各特定金属の含有量は、ICP−MSによる分析によって測定され、具体的には下記実施例で測定された値である。
ここで、反応液における特定金属の合計含有量、さらには各金属の含有量を所定の範囲に制御する方法は特に制限されない。具体的には、(1)特定金属の含有量が少ない原料(銅含有触媒、アミノアルコールなど)を使用する方法;(2)特定金属の溶出量の少ない触媒や反応装置(反応容器)を使用する方法;(3)原料(銅含有触媒、アミノアルコールなど)から特定金属を除去するための前処理を行う方法;(4)同一の銅含有触媒を用いてアミノアルコールの酸化脱水素反応を繰り返し行い、銅含有触媒から特定金属を溶出(除去)させる方法などが挙げられる。これらの方法のうち複数を、必要に応じて組み合わせて実施してもかまわない。以下、上記方法(1)〜(4)について詳述する。しかし、本発明は、下記形態に限定されない。なお、本工程(b)後に特定金属を除去することも可能であるが、反応液から特定金属を除去することは困難であり、また、目的物であるアミノカルボン酸塩の収率が低下してしまう。このため、上記方法(1)〜(4)によるように、酸化脱水素反応前に予め特定金属の含有量を制御することが好ましい。
上記方法(1)では、特定金属の含有量が少ない原料(銅含有触媒および式(1)のアミノアルコール、ならびに必要であればアルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、水およびアルミニウム化合物)を使用する。ここでは、各原料(銅含有触媒および式(1)のアミノアルコール、ならびに必要であればアルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、水およびアルミニウム化合物)中の各特定金属の含有量を予め測定し、特定金属の合計含有量が上記した好ましい範囲に含まれるか、または各特定金属の含有量が上記したような好ましい範囲に含まれるか、を評価する。ここで、合計含有量または各含有量が所定の範囲内である場合には、そのまま工程(a)において酸化脱水反応に供する。一方、合計溶出量(合計含有量)または各溶出量(含有量)が所定の範囲から外れる(上限を超える)場合には、所定の範囲から外れた(上限を超えた)原料を適当な方法によって精製して使用すればよい。ここで、精製方法としては、以下に制限されないが、例えば、蒸留や吸着剤による除去などの方法が挙げられる。
上記方法(2)では、特定金属の溶出量の少ない触媒や反応装置(反応容器)を使用する。特定金属を含有する触媒からの特定金属の溶出量は、反応条件(触媒を除いた原料の種類や組成、反応温度など)に大きく依存するため一概には言えない。先に反応条件を設定した上で、その条件下での触媒や担体、特定金属種の反応性・溶解性などを考慮して触媒成分および担体組成を決定し反応に供する。一方、特定金属の溶出の少ない反応装置(反応容器)は、特に制限されないが、ガラスコーティングした反応装置(反応容器)、ステンレス、ニッケル、テフロン(登録商標)またはハステロイ製の反応装置(反応容器)などを使用することが挙げられる。
上記方法(3)では、原料(銅含有触媒、アミノアルコールなど)から特定金属を除去するための前処理を行う。ここで、前処理方法(精製方法)は、以下に制限されないが、例えば、(3−1)銅含有触媒をアルカリ水溶液で処理した後、洗浄する方法;(3−2)銅含有触媒を酸の水溶液で処理した後、洗浄する方法;(3−3)エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤を含む水溶液に銅含有触媒を浸漬した後、洗浄するなどの方法が挙げられる。上記(3−1)の方法では、アルカリとしては、特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等が挙げられる。アルカリは複数種を組み合わせて使用してもよい。上記アルカリの添加量は特に制限されないが、銅含有触媒の質量に対して、1〜20倍の質量であることが好ましい。また、アルカリ水溶液の濃度は、特に制限されないが、例えば、5〜40質量%である。アルカリ水溶液に銅含有触媒を添加した後、オートクレーブ処理、撹拌処理、加温処理(例えば、90〜180℃で10〜360分)などを行ってもよい。なお、上記処理は、それぞれ繰り返し行ってもよい。また、上記処理は、適宜組み合わせて行ってもよい。また、上記(3−2)の方法では、酸として、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸や、酢酸、グリコール酸、クエン酸等を使用できる。上記酸の添加量は特に制限されないが、銅含有触媒の質量に対して、1〜20倍の質量であることが好ましい。また、酸水溶液の濃度は、特に制限されないが、例えば、5〜40質量%である。酸水溶液に銅含有触媒を添加した後、オートクレーブ処理、撹拌処理、加温処理(例えば、90〜180℃で10〜360分)などを行ってもよい。なお、上記処理は、それぞれ繰り返し行ってもよい。また、上記処理は、適宜組み合わせて行ってもよい。さらに、上記(3−1)〜(3−3)の方法において、洗浄は、いずれの溶媒を用いて行ってもよく、使用されるアルカリ、酸またはキレート剤の種類に応じて適宜選択できる。具体的には、イオン交換水、純水、蒸留水等の水、エタノール、メタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどのアルコール;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトンなどが挙げられる。なお、上記溶媒は必要であれば適宜加温してもよい。また、上記洗浄は、繰り返し行ってもよい。
上記方法(4)では、同一の銅含有触媒を用いてアミノアルコールの酸化脱水素反応を繰り返し行い、銅含有触媒から特定金属を溶出(除去)させる。下記比較例3、4および実施例4に示されるように、同一の銅含有触媒存在下でアミノアルコールを酸化脱水素反応させるに従って、反応溶液中の特定金属の含有量(合計含有量、各含有量)が減少する。このため、同一の銅含有触媒存在下でアミノアルコールを酸化脱水素反応させ触媒を除去した後の反応液における特定金属の含有量(合計含有量、各含有量)を測定し、反応液における特定金属の合計含有量が上記した好ましい範囲に含まれるか、または各特定金属の含有量が上記したような好ましい範囲に含まれるか、を評価する。そして、合計含有量、または各含有量が原料混合物で規定した各範囲内である場合には、当該反応液を保存・貯蔵する。こうして得られた反応液は、保存・貯蔵中に、着色成分が保管・貯蔵容器(配管や貯槽等)の内壁に固着しにくく、また中和・脱塩時に沈殿物が生じにくい。一方、合計含有量が100質量ppmを超える場合には、100ppm以下となるまでその銅含有触媒を用いて引き続きアミノアルコールの酸化脱水素反応を繰り返す。
こうして得られたアミノカルボン酸塩の反応液は、必要に応じて適宜精製して、より高品質のアミノカルボン酸塩を得ることができる。一方、濾過あるいは沈降などによって分離した銅含有触媒は回収してそのまま次の反応に再使用することができる。もちろん、回収した銅含有触媒を必要に応じて適宜再生処理を行って使用してもよい。
このようにして得られたアミノカルボン酸塩の反応液は、保管・貯蔵時に着色成分が保管・貯蔵容器(配管や貯槽等)の内壁に固着しにくいまたは固着せず、またアミノカルボン酸塩からアミノカルボン酸を製造する際の沈殿の生成を抑制・防止することができる。このため、固着・沈殿物の除去のために、特殊な洗浄剤を使用したり、洗浄・除去工程に労力や手間をかける必要がなく、産業上有用である。なお、本発明の方法によって製造されるアミノカルボン酸塩の反応液は、室温(25℃)、空気雰囲気下で少なくとも3日保管されても、着色成分の固着が認められないことが好ましく、室温(25℃)、空気雰囲気下で少なくとも7日保管されても、着色成分の固着が認められないことがより好ましい。なお、保管期間の上限は特に制限されないが、通常、最大30日程度保管されれば十分である。
ゆえに、本発明は、銅含有触媒の存在下で、下記式(1):
ただし、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシエチル基、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜3のアミノアルキル基または炭素数2〜3のヒドロキシアルキルアミノアルキル基を表す、
で示されるアミノアルコールを酸化脱水素反応して得られる、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)および鉄(Fe)の合計含有量(金属換算)が100質量ppm以下であるアミノカルボン酸塩を含む反応液をも提供する。なお、本態様において、アミノカルボン酸塩を含む反応液の具体的な規定は、上記製造方法における規定と同様であるため、ここでは説明を省略する。
また、このようにして得られたアミノカルボン酸塩を用いてアミノカルボン酸を製造すると、不純物や副生物に由来する沈殿の生成を抑制・防止できる。したがって、本発明は、本発明の方法により得られるアミノカルボン酸塩を脱塩する工程を有する、アミノカルボン酸の製造方法をも提供する。すなわち、本発明は、製造方法によってアミノカルボン酸塩を製造し、前記アミノカルボン酸塩を脱塩することを有する、アミノカルボン酸の製造方法をも提供する。
以下、上記本発明のアミノカルボン酸の製造方法の好ましい形態を説明するが、本発明は下記形態に限定されるものではない。
アミノカルボン酸塩からアミノカルボン酸を得る方法としては、上記で得られるアミノカルボン酸塩を用いること以外は従来公知の方法を用いることができる。例えば、特開平11−335337号公報、特開平8−12632号公報、特開2003−176261号公報等に記載の従来公知のアミノカルボン酸塩をアミノカルボン酸にする方法を同様にしてまたは適宜修飾して用いることができる。具体的には、アミノカルボン酸塩を脱塩してアミノカルボン酸にする方法としては、例えば、アミノカルボン酸のアルカリ塩を無機酸によって処理して、無機酸のアルカリ塩とアミノカルボン酸にし、これを物理的に分離する方法、電気透析によって分離する方法、あるいは、アミノカルボン酸のアルカリ塩を陽イオン交換樹脂と接触させてイオン交換する方法、電気分解してアミノカルボン酸と苛性アルカリとにする方法等が用いられる。好適にはイオン交換法や電気透析で分離する方法であり、これらの方法を組み合わせる形態も好適に用いられる。
陽イオン交換樹脂を用いる方法は、特に限定されず、例えば、特開平8−12632号公報、特開2003−176261号公報等に記載の方法などが使用できる。例えば、アミノカルボン酸アルカリ金属塩を処理してアミノカルボン酸にする場合、陽イオン交換樹脂は弱酸性陽イオン交換樹脂や強酸性陽イオン交換樹脂を用いることができる。アルカリ金属イオンに対してアミノカルボン酸を選択的に分離するにはアルカリ金属塩に対してアミノカルボン酸のイオン交換選択係数の小さな弱酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。弱酸性陽イオン交換樹脂の例としては、商品名でアンバーライトIRC−76(オルガノ(株))、ダイヤイオンWK10、WK20(三菱化学(株))、レバチットCNP80(バイエル(株))等が挙げられる。また、レバチットTP207、TP208(バイエル(株))のようなキレート樹脂も弱酸性陽イオン交換樹脂として使用できる。交換基の形はH型として使用する。陽イオン交換樹脂での処理条件としては、アミノカルボン酸塩水溶液中のアミノカルボン酸(アミノカルボン酸成分)の濃度は33質量%以下、好ましくは5〜20質量%で行われる。アミノカルボン酸の質量%は操作温度における飽和濃度以下であればよいが、33質量%を超える濃度にするためには、陽イオン交換樹脂を70℃以上に保温する必要があり、陽イオン交換樹脂の耐熱性の問題上好ましくない。樹脂の使用量は、不純物の種類と量によって変化するが、弱酸性陽イオン交換樹脂処理でのアルカリ金属イオンのイオン交換においては、通常、処理するアミノカルボン酸アルカリ金属塩1kgに対し、樹脂2000〜5000ml、好ましくは3000〜4000mlの範囲である。陽イオン交換樹脂を充填したイオン交換カラムを1塔または多塔で用いることにより、バッチ式または連続式で処理することができ、バッチ式の場合、樹脂処理の時間は3〜60分間、好ましくは6〜30分間である。連続式で処理する場合、樹脂塔への通液速度は液空間速度(L/L−樹脂/Hr)で0.5〜20の範囲、好ましくは1〜10の範囲である。
電気透析は、電解質の水溶液中に+−の電極を入れて電位勾配を与えると、溶液中の正および負のイオンが、それぞれ反対符号の電極方向へ移動する原理を利用したもので、両電極間にイオン交換膜と半透膜をおいて膜間にある溶液中の両イオンを別方向に移動させて膜外へ出す処理を言う。
電気透析を用いる方法は、特に制限されず、例えば、特開平11−335337号公報等に記載の方法などが使用できる。例えば、陽極側に水素イオン選択透過膜を、陰極側に陽イオン透過膜を配置してアミノカルボン酸アルカリ金属塩をアミノカルボン酸にする方法を示す。アミノカルボン酸アルカリ金属塩の水溶液の通過する膜室のプラス電極側の半透膜として水素イオン選択透過膜を使用し、マイナス電極側のイオン交換膜として陽イオン透過膜を使用し、水素イオン選択透過膜および陽イオン透過膜の両側にはそれぞれ酸水溶液(たとえば硫酸)を流す。このとき、アミノカルボン酸アルカリ金属塩の水溶液中のアルカリ金属イオンは、反対符号の電極側、すなわちマイナス電極側に移動するが、マイナス電極側の透過膜は陽イオン透過膜であるため、アルカリ金属イオンは当該膜をそのまま通過し酸水溶液中に浸入する。一方、アミノカルボン酸アルカリ金属塩の水溶液中には水素イオン選択透過膜を通ってプラス電極側の酸水溶液から水素イオンが浸入してくる。これによりアミノカルボン酸アルカリ金属塩の水溶液中のアルカリ金属イオンは水素イオンに交換され、アミノカルボン酸アルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属イオンは除去されるのである。
ここで、水素イオン選択透過膜とは、水素イオンのみが透過でき、他のカチオンやアニオンは透過できない機能をもった膜で、その構造はカチオン交換膜とアニオン交換膜を張り合わされたハイブリッド膜である。当該膜に電位勾配を与えると水が分解して水素イオンと水酸化物イオンが生成し、水素イオンがマイナス電極側、水酸化物イオンがプラス電極側にそれぞれ移動し、水酸化物イオンは酸水溶液中の水素イオンと反応して水となる結果、見掛け上、水素イオンのみが当該膜を透過できることになる。水素イオン選択透過膜としては、市販品であれば例えば「SelemionHSV」(旭硝子社製)、「NEOSEPTABP1」(徳山曹達社製)などを挙げることができる。
陽イオン透過膜とは、カチオンを透過し、アニオンを透過しない機能をもった膜を言う。当該膜は、スルホン酸基やカルボン酸基など電離して負の電荷を持つ解離基を高密度に保持する膜であって、スチレン系の重合型均質膜でできたものが好適に使用できる。市販されているものとして、例えば「SelemionCMV」(旭硝子社製)、「AciplexCK−1,CK−2,K−101,K−102」(旭化成社製)、「NeoseptaCL−25T,CH−45T,C66−5T,CHS−45T」(徳山曹達社製)、「Nafion120,315,415」(DuPont社製)などを使用することができる。
酸水溶液の酸としては、例えば硫酸や塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸や、酢酸、グリコール酸、クエン酸等を使用できるが、コストの点から硫酸が好適に使用できる。酸量は除去したいアルカリ金属イオン量により算出されるが、過剰に使用すれば当然ながらコストアップにつながる。酸水溶液は、算出された所定量の全量を一度に使用すると電気効率が悪くなるので、分割して、電気透析中に入れ替えて使用するのが望ましい。かかる分割使用により、アミノカルボン酸アルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属イオン濃度を効率的に低くすることができる。酸水溶液は循環使用すればよい。
酸水溶液の濃度としては1〜40質量%が好ましい。より好ましい範囲について述べると、下限側としては5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上であり、他方上限側としては20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。酸水溶液の濃度が40質量%より大きいと、アミノカルボン酸アルカリ塩水溶液中へ浸入する硫酸イオンなどの塩基の量が多くなるおそれがあり、また液温が低いときには硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩の結晶が析出して膜が詰まるおそれがある。一方、酸水溶液の濃度が1質量%未満では酸水溶液の循環液量を多くする必要が生じ、このため貯槽の容量を大きくしなければならないという問題が起こる。
アミノカルボン酸塩含有水溶液におけるアミノカルボン酸塩の濃度としては、5〜60質量%が好ましい。より好ましい範囲について述べると、下限側としては10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、他方上限側としては50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。アミノカルボン酸塩含有水溶液におけるアミノカルボン酸塩の濃度が60質量%より大きいと、液の粘度が高くなって透析膜にかかる圧力が大きくなり過ぎ膜を破壊するおそれがある。ただし、酸水溶液の流量とアミノカルボン酸アルカリ金属塩水溶液の流量を調整して両側の差圧を等しくすることによって、アミノカルボン酸アルカリ金属塩水溶液の濃度を高くすることもできる。一方、アミノカルボン酸アルカリ金属塩水溶液の濃度が5質量%未満では貯槽の容量を大きくしなければならないという問題がある。電極室に循環させる極液は透析に用いる酸と同じ種類の酸を使用することが好ましく、その濃度は1〜2質量%程度が好ましい。極液の濃度が2質量%よりも高いと極板の腐食が早くなるおそれがあり、他方1質量%よりも低いと電流が流れにくくなるおそれがある。
電気透析の電極電流を制御する方法は、定電圧法、定電流法いずれでもよい。電流量が多いほど処理時間は短くなるが、通電による発熱で液温が上昇するので、膜を劣化させないよう液を冷却する必要が生じる。このため、膜を劣化させないような液温に抑えるよう電流量の上限を調整することが望まれる。
電気透析操作は通常バッチ処理で行い、一回の透析操作が終了すればアミノカルボン酸アルカリ金属塩水溶液は入れ替える。ただし、このとき酸水溶液まで同時に入れ替える必要はなく、次バッチの途中まで使用して新しい酸水溶液に入れ替えればよい。これにより、アミノカルボン酸アルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属イオン濃度を効率よく低下させることができる。もちろん、透析装置を多段に連結して電気透析を連続で行ってもよい。
バッチ処理において、電気透析操作の終了は、アミノカルボン酸アルカリ金属塩水溶液が所定のpHになったかどうかで判断する。アルカリ金属イオンを除去したアミノカルボン酸水溶液の生成を目的とする場合は、アルカリ金属イオン濃度が許容下限以下となった時に電気透析操作を終了するのがよい。アルカリ金属イオンを完全に除去しようと過剰に電気透析すると電流効率が低下し、またアミノカルボン酸液に混入する硫酸イオンなどの塩基量が多くなるので好ましくないからである。
電気透析によってアルカリ金属イオンを減少させたアミノカルボン酸水溶液には硫酸イオンなど微量の塩基が混入しているので、必要であれば、水酸化バリウム又は炭酸バリウムを所定量添加して硫酸バリウムを生成させ、濾別することによって硫酸イオンを除去することができる。
こうして得られたアミノカルボン酸水溶液を必要に応じて適宜結晶化して、高純度のアミノカルボン酸を得ることができる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
合成例1:銅微粒子触媒の調製
以下のようにして、ポリオール還元法により銅微粒子触媒を調製した。詳細には、エチレングリコール((株)日本触媒製)640g、ポリビニルピロリドン((株)日本触媒製、ポリビニルピロリドン K30)16.8g、酢酸銅(II)一水和物(和光純薬製、和光特級)30.2gを、還流管を接続した1Lセパラブルフラスコに仕込み、攪拌150rpm、100mL/minで窒素バブリングしながら、マントルヒーターで180℃まで5℃/分の速度で昇温した。180℃に達してから120分間反応を行った後、空冷し、攪拌・バブリングを止めて窒素雰囲気下で一晩静置した。デカンテーションで上澄み液を除いた後、ADVANTEC membrane filter(東洋濾紙株式会社製、PTFE,H100A047A,孔径1.0μm)でろ過し、さらにイオン交換水で数回洗浄することにより、平均粒径(直径)が2.6μmである銅微粒子触媒を得た。
実施例1
以下のようにして、上記合成例1で調製した銅微粒子触媒を用いてグリシンナトリウムを合成した。詳細には、モノエタノールアミン((株)日本触媒製)79.3g、水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)55.9g、イオン交換水135g、および調製した銅微粒子触媒8.0gを、上澄み液抜き出し管および圧力調整弁を設けた内容積500mlのニッケル製オートクレーブに仕込み、窒素ガスで3回内部置換した。4℃/分の速度で反応温度160℃に昇温し、反応圧力10kg/cm2G、200rpmで攪拌しながら、水素の発生がなくなるまで反応を行った。圧力調整弁から放出されるガスはガス流量積算計へ導き、発生水素量を測定した(実際の発生水素量)。上記実際の発生水素量に基づいて、下記方法によって転化率を算出したところ、転化率は98.1%であった。また、反応に要した時間は160℃に昇温した後380分であった。なお、転化率は、下記方法によって測定した。
(転化率の測定方法)
本反応では理論上、原料のアミノアルコールが有する水酸基の数に対して物質量で2倍相当の水素が発生する。そこで、この水素量を理論値とし、一方で反応中に実際に発生する水素量をガス流量積算計で定量することにより、下記式からアミノアルコールの転化率を見積もった。
反応終了後80℃まで降温して攪拌を止め、この温度で5分間静置した後、上澄み液を抜き出しながら、桐山ロート濾紙(日本理化学器械株式会社製、耐酸耐アルカリ、No.704)を用いてろ過することにより濾液と触媒とを分離した。
上記濾液について、ICP−MSによる分析を行った結果、Cu、Si、AlおよびFeの各元素量(含有量)は、それぞれ、124ppm、2ppm、1ppmおよび5ppmであった。なお、ICP−MSはAgilent 7700Sを使用し、各金属(Cu、Si、Al及びFe)ともH2モード、Sレンズを使用して分析した。また、分析に際し、濾液を5%硝酸水溶液で1000倍希釈して、サンプルとし、分析に供した。
得られた濾液をポリプロピレン製容器に移し、空気(Air)雰囲気下で3日間保管したところ、容器内壁への着色成分の固着は認められなかった。
次に、以下のようにして、上記にて得られたグリシンナトリウム水溶液を精製して、グリシン結晶を取得した。詳細には、上記で得られた濾液200gに純水を300g添加して希釈した。これを弱酸性陽イオン交換樹脂アンバーライトIRC−76(オルガノ(株))300ml(グリシンナトリウム100gに対して322ml)を充填した樹脂塔にダウンフローで通液し、フラクションコレクターで採取した。各フラクションのナトリウム交換の状況は、フラクション液の電導度およびpH測定結果からリアルタイムでモニタリングし、最終的にはイオンクロマト分析により決定した。通液の操作温度は25℃、流速はSV1(1時間に樹脂量の1倍の液量を通液する)で行った。初期仕込み水を上記の希釈した濾液で置換した時点から、破過前(フラクションコレクターで順次採取したサンプルのうち、ナトリウムイオン濃度が急激に上昇する直前)までのフラクションをすべて混合し、グリシン水溶液を得た。この溶液中に沈殿の生成は認められなかった。
得られたグリシン水溶液を濃縮することにより、グリシンの結晶を得た。
比較例1
以下のようにして、展開スポンジ銅触媒を用いてイミノ二酢酸2ナトリウムを合成した。詳細には、ジエタノールアミン((株)日本触媒製)80g、水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)64g、イオン交換水170g、および展開スポンジ銅触媒(川研ファインケミカル株式会社製、CDT−60)8.0gを、上澄み液抜き出し管および圧力調整弁を設けた内容積500mlのニッケル製オートクレーブに仕込み、窒素ガスで3回内部置換した。4℃/分の速度で反応温度160℃に昇温し、反応圧力10kg/cm2G、200rpmで攪拌しながら、水素の発生がなくなるまで反応を行った。圧力調整弁から放出されるガスはガス流量積算計へ導き、発生水素量を測定した(実際の発生水素量)。上記実際の発生水素量に基づいて、実施例1と同様にして、転化率を算出したところ、転化率は98.2%であった。また、反応に要した時間は160℃に昇温した後350分であった。
反応終了後80℃まで降温して攪拌を止め、この温度で5分間静置した後、上澄み液を抜き出しながら、桐山ロート濾紙(日本理化学器械株式会社製、耐酸耐アルカリ、No.704)を用いてろ過することにより濾液と触媒とを分離した。
上記濾液について、実施例1と同様にして、ICP−MSによる分析を行った結果、Cu、Si、AlおよびFeの各元素量は、それぞれ、5ppm、27ppm、256ppmおよび41ppmであった。
得られた濾液をポリプロピレン製容器に移し、空気(Air)雰囲気下で3日間保管したところ、容器に多量の着色成分の固着が認められた。
次に、上記にて得られたイミノ二酢酸2ナトリウム水溶液を、実施例1と同様の方法に従って精製し、イミノ二酢酸水溶液を得た。なお、この溶液中には多量の沈殿生成が認められたため、ADVANTEC membrane filter(東洋濾紙株式会社製、PTFE、H100A047A、孔径1.0μm)でろ過して沈殿物を除去した後、濾液を濃縮することにより、イミノ二酢酸の結晶を得た。
比較例2
以下のようにして、反応に先立ち、触媒の前処理を行った。水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)32g、イオン交換水85g、および展開スポンジ銅触媒(川研ファインケミカル株式会社製、CDT−60)8.0gを、上澄み液抜き出し管および圧力調整弁を設けた内容積500mlのニッケル製オートクレーブに仕込み、窒素ガスで3回内部置換した。容器を密閉して200rpmで攪拌し、4℃/分の速度で130℃になるまで昇温してから30分温度を維持した。冷却後に上澄み液を抜き出した。イオン交換水30gを投入し、30秒攪拌後に5分間静置、その後上澄み液を抜き出す、という洗浄操作を3回繰り返して、前処理した展開スポンジ銅触媒を得た。この際、触媒の減損がないとみなして見積もった容器内の残液量は29gであった。
続いて、上記のようにして前処理した展開スポンジ銅触媒を用いて、以下のようにしてイミノ二酢酸2ナトリウムを合成した。詳細には、前処理に使用したオートクレーブへ、ジエタノールアミン(日本触媒製)80g、水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)64g、イオン交換水170gを追加した。4℃/分の速度で反応温度160℃に昇温し、反応圧力10kg/cm2G、200rpmで攪拌しながら、水素の発生がなくなるまで反応を行った。圧力調整弁から放出されるガスはガス流量積算計へ導き、発生水素量を測定した(実際の発生水素量)。上記実際の発生水素量に基づいて、実施例1と同様にして、転化率を算出したところ、転化率は98.6%であった。また、反応に要した時間は160℃に昇温した後510分であった。
反応終了後80℃まで降温して攪拌を止め、この温度で5分間静置した後、上澄み液を抜き出しながら、桐山ロート濾紙(日本理化学器械株式会社製、耐酸耐アルカリ、No.704)を用いてろ過することにより濾液と触媒とを分離した。この際、触媒の減損がないとみなして見積もった容器内の残液量は28gであった。
上記濾液について、実施例1と同様にして、ICP−MSによる分析を行った結果、Cu、Si、AlおよびFeの各元素量は、それぞれ、1ppm、11ppm、81ppmおよび24ppmであった。
得られた濾液をポリプロピレン製容器に移し、空気(Air)雰囲気下で3日間保管したところ、容器に少量の着色成分の固着が認められた。
次に、上記にて得られたイミノ二酢酸2ナトリウム水溶液を、実施例1と同様の方法に従って精製し、イミノ二酢酸水溶液を得た。なお、この溶液中には少量の沈殿生成が認められたため、ADVANTEC membrane filter(東洋濾紙株式会社製、PTFE、H100A047A、孔径1.0μm)でろ過して沈殿物を除去した後、濾液を濃縮することにより、イミノ二酢酸の結晶を得た。
実施例2
比較例2と同様にして、イミノ二酢酸2ナトリウムを合成した。イミノ二酢酸2ナトリウム合成後の触媒を用いて、以下のようにして、イミノ二酢酸2ナトリウムを合成した。詳細には、比較例2と同様にしてイミノ二酢酸2ナトリウムを合成した後の触媒(8.0g)と残液とが残ったオートクレーブへ、ジエタノールアミン((株)日本触媒製)80g、水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)64g、イオン交換水170gを追加し、比較例2に記載の条件と同様の条件にて反応を行った後、濾液と触媒とを分離した。ここで、実際の発生水素量に基づいて、実施例1と同様にして、転化率を算出したところ、転化率は97.6%であった。また、反応に要した時間は160℃に昇温した後600分であった。
上記濾液について、実施例1と同様にして、ICP−MSによる分析を行った結果、Cu、Si、AlおよびFeの各元素量は、それぞれ、11ppm、1ppm、5ppmおよび5ppmであった。
得られた濾液をポリプロピレン製容器に移し、空気(Air)雰囲気下で3日間保管したところ、容器内壁への着色成分の固着は認められなかった。
次に、上記にて得られたイミノ二酢酸2ナトリウム水溶液を、実施例1と同様の方法に従って精製し、イミノ二酢酸水溶液を得た。この溶液中には沈殿の生成が認められなかった。得られたイミノ二酢酸水溶液を濃縮することにより、イミノ二酢酸の結晶を得た。
実施例3
比較例2と同様にして、イミノ二酢酸2ナトリウムを合成した。イミノ二酢酸2ナトリウム合成後の触媒を用いて、以下のようにして、イミノ二酢酸2ナトリウムを合成した。詳細には、比較例2と同様にしてイミノ二酢酸2ナトリウムを合成した後の触媒(8.0g)と残液とが残ったオートクレーブへ、ジエタノールアミン(日本触媒製)80g、水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)64g、イオン交換水170g、アルミン酸ナトリウム(和光純薬製、和光一級)0.040gを追加し、比較例2に記載の条件と同様の条件にて反応を行った後、濾液と触媒とを分離した。実際の発生水素量に基づいて、実施例1と同様にして、転化率を算出したところ、転化率は97.9%であった。また、反応に要した時間は160℃に昇温した後600分であった。
上記濾液について、実施例1と同様にして、ICP−MSによる分析を行った結果、Cu、Si、AlおよびFeの各元素量は、それぞれ、4ppm、5ppm、42ppmおよび6ppmであった。
得られた濾液をポリプロピレン製容器に移し、空気(Air)雰囲気下で3日間保管したところ、容器内壁への着色成分の固着は認められなかった。
次に、上記にて得られたイミノ二酢酸2ナトリウム水溶液を、実施例1と同様の方法に従って精製し、イミノ二酢酸水溶液を得た。この溶液中には沈殿の生成が認められなかった。得られたイミノ二酢酸水溶液を濃縮することにより、イミノ二酢酸の結晶を得た。
比較例3
以下のようにして、展開スポンジ銅触媒を用いてグリシンナトリウムを合成した。詳細には、モノエタノールアミン((株)日本触媒製)79.3g、水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)55.9g、イオン交換水135g、および展開スポンジ銅触媒(川研ファインケミカル株式会社製、CDT−60)8.0gを、上澄み液抜き出し管および圧力調整弁を設けた内容積500mlのニッケル製オートクレーブに仕込み、窒素ガスで3回内部置換した。4℃/分の速度で反応温度160℃に昇温し、反応圧力10kg/cm2G、200rpmで攪拌しながら、水素の発生がなくなるまで反応を行った。圧力調整弁から放出されるガスはガス流量積算計へ導き、発生水素量を測定した(実際の発生水素量)。上記実際の発生水素量に基づいて、実施例1と同様にして、転化率を算出したところ、転化率は98.5%であった。また、反応に要した時間は160℃に昇温した後290分であった。
反応終了後80℃まで降温して攪拌を止め、この温度で5分間静置した後、上澄み液を抜き出しながら、桐山ロート濾紙(日本理化学器械株式会社製、耐酸耐アルカリ、No.704)を用いてろ過することにより濾液と触媒とを分離した。この際、触媒の減損がないとみなして見積もった容器内の残液量は28gであった。
上記濾液について、実施例1と同様にして、ICP−MSによる分析を行った結果、Cu、Si、AlおよびFeの各元素量は、それぞれ、18ppm、20ppm、295ppmおよび40ppmであった。
得られた濾液をポリプロピレン製容器に移し、空気(Air)雰囲気下で3日間保管したところ、容器に多量の着色成分の固着が認められた。
次に、上記にて得られたグリシンナトリウム水溶液を、実施例1と同様の方法に従って精製し、グリシン水溶液を得た。なお、この溶液中には多量の沈殿生成が認められたため、ADVANTEC membrane filter(東洋濾紙株式会社製、PTFE、H100A047A、孔径1.0μm)でろ過して沈殿物を除去した後、濾液を濃縮することにより、グリシンの結晶を得た。
比較例4
比較例3と同様にして、グリシンナトリウムを合成した。グリシンナトリウム合成後の触媒を用いて、以下のようにして、グリシンナトリウムを合成した。詳細には、比較例3と同様にしてグリシンナトリウムを合成した後の触媒(8.0g)と残液とが残ったオートクレーブへ、モノエタノールアミン((株)日本触媒製)79.3g、水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)55.9g、イオン交換水135gを追加し、比較例3に記載の条件と同様の条件にて反応を行った後、濾液と触媒とを分離した。実際の発生水素量に基づいて、実施例1と同様にして、転化率を算出したところ、転化率は99.1%であった。また、反応に要した時間は160℃に昇温した後370分であった。また、上澄み液をろ過抜き出し後、触媒の減損がないとみなして見積もった容器内の残液量は28gであった。
上記濾液について、実施例1と同様にして、ICP−MSによる分析を行った結果、Cu、Si、AlおよびFeの各元素量は、それぞれ、0ppm、14ppm、61ppmおよび33ppmであった。
得られた濾液をポリプロピレン製容器に移し、空気(Air)雰囲気下で3日間保管したところ、容器に多量の着色成分の固着が認められた。
次に、上記にて得られたグリシンナトリウム水溶液を、実施例1と同様の方法に従って精製し、グリシン水溶液を得た。なお、この溶液中には少量の沈殿生成が認められたため、ADVANTEC membrane filter(東洋濾紙株式会社製、PTFE、H100A047A、孔径1.0μm)でろ過して沈殿物を除去した後、濾液を濃縮することにより、グリシンの結晶を得た。
実施例4
比較例4と同様にして、グリシンナトリウムを合成した。グリシンナトリウム合成後のオートクレーブ中に残った触媒を用いて、以下のようにして、グリシンナトリウムを合成した。詳細には、比較例4と同様にしてグリシンナトリウムを合成した後の触媒(8.0g)と残液とが残ったオートクレーブへ、モノエタノールアミン((株)日本触媒製)79.3g、水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)55.9g、イオン交換水135gを追加し、比較例4に記載の条件と同様の条件にて反応を行った後、濾液と触媒とを分離した。実際の発生水素量に基づいて、実施例1と同様にして、転化率を算出したところ、転化率は99.0%であった。また、反応に要した時間は160℃に昇温した後450分であった。
上記濾液について、実施例1と同様にして、ICP−MSによる分析を行った結果、Cu、Si、AlおよびFeの各元素量は、それぞれ、0ppm、2ppm、6ppmおよび7ppmであった。
得られた濾液をポリプロピレン製容器に移し、空気(Air)雰囲気下で3日間保管したところ、容器内壁への着色成分の固着は認められなかった。
次に、上記にて得られたグリシンナトリウム水溶液を、実施例1と同様の方法に従って精製し、グリシン水溶液を得た。この溶液中には沈殿の生成が認められなかった。得られたグリシン水溶液を濃縮することにより、グリシンの結晶を得た。
実施例5
以下のようにして、反応に先立ち、触媒の前処理を行った。水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)28g、イオン交換水67.5g、および展開スポンジ銅触媒(川研ファインケミカル株式会社製、CDT−60)8.0gを、上澄み液抜き出し管および圧力調整弁を設けた内容積500mlのニッケル製オートクレーブに仕込み、窒素ガスで3回内部置換した。容器を密閉して200rpmで攪拌し、4℃/分の速度で130℃になるまで昇温してから30分温度を維持した。冷却後に上澄み液を抜き出した。イオン交換水30gを投入し、30秒攪拌後に5分間静置、その後上澄み液を抜き出す、という洗浄操作を3回繰り返した。展開スポンジ銅触媒と残液の残ったオートクレーブへ、新たに水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)28g、イオン交換水67.5gを仕込み、上記と同様の方法で昇温、冷却、洗浄操作を実施し、前処理した展開スポンジ銅触媒を得た。この際、触媒の減損がないとみなして見積もった容器内の残液量は28gであった。
続いて、上記のようにして前処理した展開スポンジ銅触媒を用いて、以下のようにしてグリシンナトリウムを合成した。詳細には、前処理に使用したオートクレーブへ、モノエタノールアミン((株)日本触媒製)79.3g、水酸化ナトリウム(和光純薬製、試薬一級)55.9g、イオン交換水135g、および展開スポンジ銅触媒(川研ファインケミカル株式会社製、CDT−60)8.0gを仕込み、窒素ガスで3回内部置換した。4℃/分の速度で反応温度160℃に昇温し、反応圧力10kg/cm2G、200rpmで攪拌しながら、水素の発生がなくなるまで反応を行った。圧力調整弁から放出されるガスはガス流量積算計へ導き、発生水素量を測定した(実際の発生水素量)。上記実際の発生水素量に基づいて、実施例1と同様にして、転化率を算出したところ、転化率は98.0%であった。また、反応に要した時間は160℃に昇温した後540分であった。
反応終了後80℃まで降温して攪拌を止め、この温度で5分間静置した後、上澄み液を抜き出しながら、桐山ロート濾紙(日本理化学器械株式会社製、耐酸耐アルカリ、No.704)を用いてろ過することにより濾液と触媒とを分離した。
上記濾液について、実施例1と同様にして、ICP−MSによる分析を行った結果、Cu、Si、AlおよびFeの各元素量は、それぞれ、2ppm、3ppm、22ppmおよび4ppmであった。
得られた濾液をポリプロピレン製容器に移し、空気(Air)雰囲気下で3日間保管したところ、容器内壁への着色成分の固着は認められなかった。
次に、上記にて得られたグリシンナトリウム水溶液を、実施例1と同様の方法に従って精製し、グリシン水溶液を得た。なお、この溶液中には沈殿の生成が認められなかった。得られたグリシン水溶液を濃縮することにより、グリシンの結晶を得た。
上記実施例1〜4および比較例1〜4の結果を下記表1に要約する。なお、下記表1中、固着・沈殿物の有無は、下記のように評価した。
(固着・沈殿物の有無の評価結果)
○:多量に生成
▲:少量生成
×:ほぼ認められない
上記表1の結果から示されるように、アミノカルボン酸塩を含む反応液中のケイ素、アルミニウム及び鉄の合計含有量を100質量ppm以下に制御することによって、反応液中の容器内壁への固着を有意に抑制できることが分かる。
また、上記表1の結果から、上記したように特定金属の合計含有量が一定以下である反応液のアミノカルボン酸塩であれば、精製(脱塩)により得られるアミノカルボン酸を含む溶液中の沈殿の生成をも有意に抑制できることが分かる。
加えて、上記表1の実施例1の結果から、アミノカルボン酸塩を含む反応液中の銅の含有量が高くとも、反応液中の容器内壁への固着およびアミノカルボン酸を含む溶液中の沈殿生成が認められないことが分かる。これから、銅は、アミノカルボン酸塩を含む反応液中の容器内壁への固着およびアミノカルボン酸を含む溶液中の沈殿生成に有意な影響を与えないと考察される。