JP6327668B2 - 高純度のグリシン塩およびグリシン、ならびにその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高純度のグリシン塩およびグリシン、ならびにその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、モノエタノールアミンから製造される高純度のグリシン塩およびグリシン、ならびにこれらを製造する新規な方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、モノエタノールアミンを、アルカリ金属および/またはアルカリ土類の水酸化物の存在下で、酸化脱水素して得られる高純度のグリシン塩およびグリシン、ならびにこれらの製造する方法に関する。
グリシン塩は通常中和してグリシンとし食肉加工、清涼飲料、インスタント食品、その他加工食品の食品添加剤として広く使用されている。また医薬品、農薬、アミノ酸の原料等の広い分野にも使用されている。
グリシン塩の工業的製法として、青酸とホルムアルデヒドを主原料としたストレッカー法やモノエタノールアミンを水酸化アルカリ、水および銅含有触媒の共存下に反応し、酸化脱水素することにより得る方法が知られている。しかしながら、青酸は猛毒ガスであるため製造設備、取扱い、立地面で大きな制約を受け、しかも青酸の大半がアクリロニトリル製造時の副生物として得られるため原料の安定確保の面でも大きな問題があったため、酸化脱水素する方法が検討されている。
安全面で有利な酸化脱水素反応による方法としては、銅とジルコニア含有触媒の共存下で反応させる方法(特許文献1)、ビスマス、スズ、アンチモン、鉛およびゲルマニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種および銅を含有する触媒を用いる方法(特許文献2)等の触媒を特徴とする方法、並びにアルミニウム金属及び/又はアルミニウム化合物を反応系に添加して反応を遂行する方法(特許文献3)のように反応工程を特徴とする方法が開示されている。
特開昭60−41645号公報 特開平7−89912号公報 国際公開第92/06949号
上記方法はいずれも活性、選択性に優れた方法であるが、触媒を繰り返し使用する際に触媒活性が低下する場合があり、高い生産性を維持するための製法の開発が依然として望まれている。
また、上述のように、グリシンは食品添加剤や医農薬原料として重要な化合物であるため化合物中に有毒な不純物が微量でも含まれないことが望まれている。
ここで、本発明者らは、上記方法によってモノエタノールアミンからグリシン塩を製造すると、グリシン塩中には不純物としてイミノ二酢酸塩が含まれることに加え、このイミノ二酢酸塩が精製工程において除去が非常に困難であることを見出した。
そこで本発明は、不純物であるイミノ二酢酸塩を含まない高純度のグリシン塩を製造する方法を提供することを目的とする。また、イミノ二酢酸塩を含まない高純度のグリシン塩を提供することを目的とする。
さらに本発明は、イミノ二酢酸を含まない高純度のグリシンを製造する方法を提供することを目的とする。また、イミノ二酢酸を含まない高純度のグリシンを提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、イミノ二酢酸は原料モノエタノールアミン中に含まれるジエタノールアミンの酸化脱水素反応を原因とするものであり、当該ジエタノールアミンが所定量まで低減されたモノエタノールアミンを原料として用いることにより、上記イミノ二酢酸塩の生成を顕著に低減できることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、上記目的は、下記(1)〜(4)によって達成される。
(1)(I)ジエタノールアミンの含有濃度が0.05質量%以下である原料モノエタノールアミンを準備する工程、および(II)前記原料モノエタノールアミンを、アルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物、水ならびに銅含有触媒の共存下にて、酸化脱水素する工程、を有する、グリシン塩の製造方法。
(2)上記(1)に記載の方法により得られるグリシン塩であって、イミノ二酢酸の含有量がグリシン塩の全質量に対して550ppm以下である、グリシン塩。
(3)上記(2)に記載のグリシン塩を脱塩する工程を有する、グリシンの製造方法。
(4)上記(3)に記載の方法により得られるグリシンであって、イミノ二酢酸の含有量がグリシンの全質量に対して550ppm以下である、グリシン。
本発明に係るグリシン塩の製造方法によると、不純物であるイミノ二酢酸の生成を抑制・防止できる。このため、本発明の方法によると、グリシン塩の精製工程を削減し、生産効率が向上できる。さらに得られるグリシン塩は高純度であるため、脱塩して得られるグリシン中のイミノ二酢酸は微量となることから、グリシンを高度に精製することなく得ることができる。本発明に係るグリシンは食品添加剤として安全で、医薬品原料として高品質なものであるといえる。従って本発明は、高品質なグリシンに関する技術として、産業上非常に優れている。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、モノエタノールアミンを酸化脱水素してグリシン塩を製造する方法であって、下記(I)〜(II)の工程を有する:
(I)ジエタノールアミンの含有濃度が0.05質量%以下である原料モノエタノールアミンを準備する工程、および
(II)前記原料モノエタノールアミンを、アルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物、水ならびに銅含有触媒の共存下にて、酸化脱水素する工程。
上述したように、本発明者らは、銅含有触媒の存在下でモノエタノールアミンを酸化脱水素してグリシン塩を製造する際に、グリシン塩中に不純物として存在するイミノ二酢酸塩が精製工程によっても除去が非常に困難であることを見出した。また、本発明者らは、上記原因について検討を行ったところ、該イミノ二酢酸はアニオンを形成し三座配位子として反応液中の金属に強固に配位して五員環のキレート環を持つ安定な金属錯体を形成するため、イミノ二酢酸塩の分離・除去が困難であると推測した。さらに、グリシン塩を脱塩してグリシンを製造する際に、このイミノ二酢酸塩がグリシン塩中に存在していると、後工程のグリシンの晶析工程において結晶成長を妨げて粒子の矮小化を引き起こし、またグリシン製品中にイミノ二酢酸が混入して品質が低下するなど、多大な影響を及ぼすことを見出した。このため、グリシン製品中へのイミノ二酢酸の混入量を制御する(低減する)ためには、晶析工程でのブロー率を高める必要があるが、グリシン工程収率を低下させる原因となる。結果として、イミノ二酢酸塩を含む水溶液からグリシンを回収するためには、多段晶析等の複雑なプロセスが不可欠で、工業的に実施する上で不利である。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、イミノ二酢酸は、原料モノエタノールアミン中に含まれるジエタノールアミンが酸化脱水素反応されて生成することを見出した。このため、当該ジエタノールアミン含有濃度を0.05質量%以下にまで低減したモノエタノールアミンを原料として用いることにより、上記イミノ二酢酸塩の生成を顕著に低減できることを見出した。なお、本発明は、下記推測によって限定されるものではない。
[工程(I)]
本工程(I)では、ジエタノールアミンの含有濃度が0.05質量%以下である原料モノエタノールアミンを準備する。
本発明に用いる原料モノエタノールアミンは、その中に含まれるジエタノールアミンの含有濃度が0.05質量%以下であれば特に限定されない。ここで、ジエタノールアミンの含有濃度が0.05質量%を超えると、イミノ二酢酸塩の生成量が多くなり精製工程でのグリシン塩からの除去が困難となる。また、後工程のグリシンの精製(特に晶析)工程においてグリシンの結晶成長が妨げられて粒子の矮小化を引き起こして、グリシンを製品化した際に品質低下を引き起こす。このため、ジエタノールアミンの含有濃度が0.05質量%(500ppm)以下であれば工業的に流通しているモノエタノールアミンを原料(原料モノエタノールアミン)として使用することができる。また、ジエタノールアミンの含有濃度が0.05質量%を超えるモノエタノールアミンの場合には、蒸留等によりジエタノールアミンの含有濃度が0.05質量%以下まで下げたものを原料(原料モノエタノールアミン)として使用すればよい。イミノ二酢酸塩、さらにはイミノ二酢酸の生成量のより効果的な低減効果、グリシンの結晶成長性のより向上性などを考慮すると、原料モノエタノールアミンにおけるジエタノールアミンの含有濃度は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.005質量%以下、更に好ましくは0.001質量%以下(下限:0質量%)である。本明細書において、ジエタノールアミンの含有濃度は、後述の実施例に記載の方法により分析することができ、検出される濃度の下限(検出限界)は0.0005〜0.0001質量%であるため、最も好ましくは検出限界以下である。
[工程(II)]
本工程(II)では、上記工程(I)で準備した原料モノエタノールアミンを、アルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物、水ならびに銅含有触媒の共存下にて、酸化脱水素反応してグリシン塩を含有する反応液を得る。本工程では、特表2002−524015号公報、特開平7−89912号公報に記載の方法等の公知の方法を同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。また、本工程(II)の好ましい形態を以下に詳述するが、本発明は下記形態に限定されない。
また、本発明で使用できるアルカリ金属の水酸化物あるいはアルカリ土類金属の水酸化物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムなどが挙げられる。入手や取扱いの容易性から、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。上記アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物は、それぞれ、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物を組み合わせて使用してよい。アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物の形状は、特に制限されず、フレーク、粉末、ペレット等の固体形態で、または水溶液の形態で、いずれの形態でも用いることができるが、水溶液で使用するのが取り扱い易いため、好ましい。アルカリ金属の水酸化物あるいはアルカリ土類金属の水酸化物の使用量(アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物を複数種使用する場合には、合計使用量)は、特に制限されないが、反応に使用するモノエタノールアミンの水酸基に対して、好ましくは1当量以上、より好ましくは1.0〜2.0当量の範囲内である。
本工程(II)において、酸化脱水素反応は、水の存在下で行われる。水を使用することにより、モノエタノールアミンとアルカリ金属の水酸化物、あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を均一系で反応でき、その結果、グリシン塩を高収率で得ることができる。ここで、水としては、特に制限されず、工業水、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等が挙げられる。反応に用いられる水の量は、反応を均一に行うことができる量であれば特に制限されないが、モノエタノールアミンに対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50〜500質量%、さらにより好ましくは100〜300質量%の範囲内である。
また、本工程(II)において、酸化脱水素反応は、銅含有触媒の存在下で行われる。ここで、用いられる銅含有触媒は、銅を必須成分して含有するものである。銅の原料としては、金属銅の他に、例えば硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物、水酸化物等の無機物、例えばギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩等の有機酸塩の化合物がいずれも使用できる。銅含有触媒の形態は特に限定されない。例えば金属銅表面を酸化後水素により還元した触媒、ラネー銅合金をアルカリ水溶液で展開し得られた触媒やさらに、ギ酸銅、炭酸銅等を熱分解及び/又は還元して得られた活性化銅をそのまま、またはアルカリ耐性担体に前記の銅化合物を担持した後に焼成及び/又は還元により得られる活性化銅、無電解メッキにより銅を担持した触媒等を使用することができる。好ましい担体の例としては、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、シリコンカーバイト、活性炭などが挙げられる。特に、反応への活性、触媒の寿命の点から展開ラネー銅及び、共沈法または含浸法にて酸化ジルコニウム、シリコンカーバイド、活性炭に担持した銅触媒が好適に使用される。
銅含有触媒には、その他の金属を含んでいてもよい。その他の金属としては特に限定されないが、例えば、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銀、金、亜鉛、カドミウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、セレン、テルル等があり、好ましくは、ルビジウム、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、ニオブ、クロム、モリブデン、鉄、オスミウム、コバルト、ニッケル、金、亜鉛、ガリウムであり、特に好ましくは、マグネシウム、クロム、鉄、オスミウム、コバルト、ニッケルである。
銅含有触媒が上記他の金属を含む場合の、銅含有触媒における上記他の金属の含有量は、広範な範囲内で変化でき、特に制限されない。通常、モノエタノールアミンからグリシンへの転化のしやすさを考慮すると、銅含有触媒における上記他の金属の含有量は、10〜50,000ppm程度、より好ましくは約20〜約5000ppm、さらにより好ましくは約50〜約5000ppmであることが好ましい。
銅含有触媒の使用量は、酸化脱水素反応を有効に進行できる量であれば特に制限されないが、モノエタノールアミンに対して、好ましくは1〜70質量%であり、より好ましくは5〜50質量%である。
銅含有触媒の大きさは特に制限されないが、銅含有触媒の粒度は小さすぎると触媒の分離の際に不利になる場合がある。例えば、触媒を沈降させて分離する場合には沈降速度が遅くなり、また濾過して分離する場合には濾過速度が遅くなる。一方、粒度が大きすぎると沈降性は良くなるが、触媒の分散を良くするために大きな撹枠動力が必要となり、また触媒の有効表面積が少なくなるので触媒活性が低下する場合がある。上記点を考慮すると、銅含有触媒の粒度(平均粒径:直径)は、2〜300μmの範囲内であるのが好ましい。但し、この反応を固定床流通式の反応器を用いて行なうような場合は、圧力損失を少なくする必要があるので銅含有触媒の粒度はもっと大きなものが好適である。また、本発明に用いられる銅含有触媒の比表面積は小さすぎると触媒活性が低くて多量の触媒を用いることになる。従って、銅含有触媒の比表面積(BET比表面積)は、BET測定法において、0.1m/g以上であるのが好ましく、より好ましくは0.2m/g以上であり、さらに好ましくは1m/g以上である。銅含有触媒の比表面積(BET比表面積)は、BET測定法において、例えば100m/g以下であり、好ましくは50m/g以下である。
工程(II)において、酸化脱水素反応条件は、酸化脱水素反応が良好に進行する条件であれば特に制限されない。例えば、反応温度は、モノエタノールアミン及び生成したグリシンの炭素−窒素結合の熱分解及び水素化分解を有効に防ぐことを考慮すると、好ましくは220℃以下の温度、より好ましくは120℃〜210℃、さらにより好ましくは140℃〜200℃の温度範囲内で行われる。また、反応時間は、特に制限されないが、好ましくは2〜20時間、より好ましくは3〜10時間である。
この反応は、酸化脱水素反応であって水素の発生を伴うため、できるだけ反応圧力を下げる方が反応速度の面から好ましい。通常、反応を液相で進めるためには、反応は、最低圧力以上、より好ましくは5〜50kg/cmGの圧力下で行うことが好ましい。また、酸化脱水素反応条件は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
反応の形式は、特に制限されず、バッチ、セミバッチ、連続反応いずれの方法も用いることができる。
本工程(II)で反応後の反応混合物は、濾過により銅含有触媒を分離して、濾液として目的とするグリシン塩を含有する反応液(グリシン塩の水溶液)が得られる。あるいは、反応混合物を静置して触媒を沈降させ、上澄み液としてグリシン塩の水溶液が得られる。
こうして得られたグリシン塩の水溶液を必要に応じて適宜精製して高品質のグリシン塩を得ることができる。一方、濾過あるいは沈降などによって分離した銅含有触媒は回収してそのまま次の反応に再使用することができる。もちろん、回収した銅含有触媒を必要に応じて適宜再生処理を行って使用してもよい。
上記工程によると、モノエタノールアミンは、高い転化率でグリシン塩に転換されうる。具体的には、モノエタノールアミンの転化率は、好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上(上限:100%)である。本明細書において、モノエタノールアミンの転化率は、後述の実施例に記載の方法により測定された値である。また、上記工程によると、高いグリシン塩の選択率が達成できる。具体的には、グリシン塩の選択率は、好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上(上限:100%)である。本明細書において、グリシン塩の選択率は、後述の実施例に記載の方法により測定された値である。
上記工程(I)、(II)によって、グリシン塩中のイミノ二酢酸塩の含有濃度を低減できる。具体的には、上記工程により得られるグリシン塩中に含まれるイミノ二酢酸塩の含有濃度は、グリシン塩の質量に対して、550ppm以下、好ましくは150ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは15ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。本明細書において、イミノ二酢酸塩は、後述の実施例に記載の方法により分析することができ、検出される濃度の下限(検出限界)は5〜10ppmであるため、最も好ましくは検出限界以下である。
したがって、本発明は、本発明の方法により得られるグリシン塩であって、イミノ二酢酸塩の含有量がグリシン塩の全質量に対して550ppm以下である、グリシン塩をも提供する。また、本発明は、本発明の方法により得られるグリシン塩であって、イミノ二酢酸塩の含有量がグリシン塩の全質量に対して、好ましくは150ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは15ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である、グリシン塩をも包含する。
上記方法により得られるグリシン塩は、グリシンの製造原料として好適に使用される。
したがって、本発明は、本発明の方法により得られるまたは本発明のグリシン塩を脱塩する工程を有する、グリシンの製造方法をも提供する。以下、本発明の好ましいグリシン塩の脱塩工程を説明するが、本発明は下記形態に限定されるものではない。
また、脱塩工程の前に、グリシン塩を含有する反応液を冷却してシュウ酸塩を析出させてもよい。当該工程により、反応液からシュウ酸塩を分離除去できる。ここで、シュウ酸塩を分離する方法としては、特に限定されず、シュウ酸塩を含む反応液を所定温度まで冷却し、析出するシュウ酸塩を除去すればよい。反応液を冷却する方法としては、例えば、(1)反応槽から外部循環により反応液を冷却装置へ循環させる;(2)冷却用のコイルを備えた反応槽を用いて反応液を冷却する;(3)反応槽の外部ジャケットに冷水を流す、などの公知の方法を使用できる。冷却後の反応液の温度(液温)は特に限定されないが、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に60℃以下が好ましい。反応液温の下限は、特に制限されないが、0℃以上が好ましく、より好ましくは10℃以上である。反応液の温度が80℃を超えると、シュウ酸塩の析出が不十分となり、グリシン塩水溶液中に不純物として含まれるシュウ酸塩の量が多くなるために、その後の精製工程、例えば、電気透析による精製では、透析に時間を要したり、電力の消費量が多くなったり、膜の劣化が早くなったりするおそれがある。また、反応液の温度が10℃未満であると、シュウ酸塩に加えて、グリシン塩も析出して、グリシンの生産性が低下するおそれがある。上記で析出したシュウ酸塩は、反応液から分離除去されて、グリシン塩含有水溶液を得る。ここで、シュウ酸塩を反応液から分離除去する方法としては、特に制限されないが、例えば、デカンテーション法、濾過法、遠心分離法等があり、なかでも濾過法が好ましい。上記方法により得られる本発明のグリシン塩中に含まれるシュウ酸塩の含有濃度はグリシン塩の質量に対して1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは200ppm以下である。本明細書において、シュウ酸塩の含有濃度は、後述の実施例に記載の方法により分析することができ、検出される濃度の下限(検出限界)は1ppmであるため、最も好ましくは検出限界以下である。
上記工程(II)またはシュウ酸塩分離・除去後のグリシン塩からグリシンを得る方法としては、上記で得られるグリシン塩を用いること以外は従来公知の方法を用いることができる。例えば、特開平11−335337号公報や特開平8−12632号公報等に記載の従来公知のアミノ酸塩をアミノ酸にする方法を同様にしてまたは適宜修飾して用いることができる。具体的には、アミノ酸塩を脱塩してアミノ酸にする方法としては、例えば、アミノ酸のアルカリ塩を無機酸によって処理して、無機酸のアルカリ塩とアミノ酸にし、これを物理的に分離する方法、電気透析によって分離する方法、あるいは、アミノ酸のアルカリ塩を陽イオン交換樹脂と接触させてイオン交換する方法、電気分解してアミノ酸と苛性アルカリとにする方法等が用いられる。好適にはイオン交換法や電気透析で分離する方法であり、これらの方法を組み合わせる形態も好適に用いられる。
陽イオン交換樹脂を用いる方法は、特に限定されず、例えば、特開平8−12632号公報等に記載の方法などが使用できる。例えば、グリシンアルカリ金属塩を処理してグリシンにする場合、陽イオン交換樹脂は弱酸性陽イオン交換樹脂や強酸性陽イオン交換樹脂を用いることができる。アルカリ金属イオンに対してグリシンを選択的に分離するにはアルカリ金属塩に対してグリシンのイオン交換選択係数の小さな弱酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。弱酸性陽イオン交換樹脂の例としては、商品名でアンバーライトIRC−76(オルガノ(株))、ダイヤイオンWK10、WK20(三菱化学(株))、レバチットCNP80(バイエル(株))等が挙げられる。また、レバチットTP207、TP208(バイエル(株))のようなキレート樹脂も弱酸性陽イオン交換樹脂として使用できる。交換基の形はH型として使用する。陽イオン交換樹脂での処理条件としては、グリシン塩水溶液中のグリシン(グリシン成分)の濃度は33質量%以下、好ましくは5〜20質量%で行われる。グリシンの質量%は操作温度における飽和濃度以下であればよいが、33質量%を超える濃度にするためには、陽イオン交換樹脂を70℃以上に保温する必要があり、陽イオン交換樹脂の耐熱性の問題上好ましくない。樹脂の使用量は、不純物の種類と量によって変化するが、弱酸性陽イオン交換樹脂処理でのアルカリ金属イオンのイオン交換においては、通常、処理するグリシンアルカリ金属塩1kgに対し、樹脂2000〜5000ml、好ましくは3000〜4000mlの範囲である。陽イオン交換樹脂を充填したイオン交換カラムを1塔または多塔で用いることにより、バッチ式または連続式で処理することができ、バッチ式の場合、樹脂処理の時間は3〜60分間、好ましくは6〜30分間である。連続式で処理する場合、樹脂塔への通液速度は液空間速度(L/L−樹脂/Hr)で1〜20の範囲、好ましくは2〜10の範囲である。
電気透析は、電解質の水溶液中に+−の電極を入れて電位勾配を与えると、溶液中の正および負のイオンが、それぞれ反対符号の電極方向へ移動する原理を利用したもので、両電極間にイオン交換膜と半透膜をおいて膜間にある溶液中の両イオンを別方向に移動させて膜外へ出す処理を言う。
電気透析を用いる方法は、特に制限されず、例えば、特開平11−335337号公報等に記載の方法などが使用できる。例えば、陽極側に水素イオン選択透過膜を、陰極側に陽イオン透過膜を配置してグリシンアルカリ金属塩をグリシンにする方法を示す。グリシンアルカリ金属塩の水溶液の通過する膜室のプラス電極側の半透膜として水素イオン選択透過膜を使用し、マイナス電極側のイオン交換膜として陽イオン透過膜を使用し、水素イオン選択透過膜および陽イオン透過膜の両側にはそれぞれ酸水溶液(たとえば硫酸)を流す。このとき、グリシンアルカリ金属塩の水溶液中のアルカリ金属イオンは、反対符号の電極側、すなわちマイナス電極側に移動するが、マイナス電極側の透過膜は陽イオン透過膜であるため、アルカリ金属イオンは当該膜をそのまま通過し酸水溶液中に浸入する。一方、グリシンアルカリ金属塩の水溶液中には水素イオン選択透過膜を通ってプラス電極側の酸水溶液から水素イオンが浸入してくる。これによりグリシンアルカリ金属塩の水溶液中のアルカリ金属イオンは水素イオンに交換され、グリシンアルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属イオンは除去されるのである。
ここで、水素イオン選択透過膜とは、水素イオンのみが透過でき、他のカチオンやアニオンは透過できない機能をもった膜で、その構造はカチオン交換膜とアニオン交換膜を張り合わされたハイブリッド膜である。当該膜に電位勾配を与えると水が分解して水素イオンと水酸化物イオンが生成し、水素イオンがマイナス電極側、水酸化物イオンがプラス電極側にそれぞれ移動し、水酸化物イオンは酸水溶液中の水素イオンと反応して水となる結果、見掛け上、水素イオンのみが当該膜を透過できることになる。水素イオン選択透過膜としては、市販品であれば例えば「SelemionHSV」(旭硝子社製)、「NEOSEPTABP1」(徳山曹達社製)などを挙げることができる。
陽イオン透過膜とは、カチオンを透過し、アニオンを透過しない機能をもった膜を言う。当該膜は、スルホン酸基やカルボン酸基など電離して負の電荷を持つ解離基を高密度に保持する膜であって、スチレン系の重合型均質膜でできたものが好適に使用できる。市販されているものとして、例えば「SelemionCMV」(旭硝子社製)、「AciplexCK−1,CK−2,K−101,K−102」(旭化成社製)、「NeoseptaCL−25T,CH−45T,C66−5T,CHS−45T」(徳山曹達社製)、「Nafion120,315,415」(DuPont社製)などを使用することができる。
酸水溶液の酸としては、例えば硫酸や塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸や、酢酸、グリコール酸、クエン酸等を使用できるが、コストの点から硫酸が好適に使用できる。酸量は除去したいアルカリ金属イオン量により算出されるが、過剰に使用すれば当然ながらコストアップにつながる。酸水溶液は、算出された所定量の全量を一度に使用すると電気効率が悪くなるので、分割して、電気透析中に入れ替えて使用するのが望ましい。かかる分割使用により、グリシンアルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属イオン濃度を効率的に低くすることができる。酸水溶液は循環使用すればよい。
酸水溶液の濃度としては1〜40質量%が好ましい。より好ましい範囲について述べると、下限側としては5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上であり、他方上限側としては20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。酸水溶液の濃度が40質量%より大きいと、グリシンアルカリ塩水溶液中へ浸入する硫酸イオンなどの塩基の量が多くなるおそれがあり、また液温が低いときには硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩の結晶が析出して膜が詰まるおそれがある。一方、酸水溶液の濃度が1質量%未満では酸水溶液の循環液量を多くする必要が生じ、このため貯槽の容量を大きくしなければならないという問題が起こる。
グリシン塩含有水溶液におけるグリシン塩の濃度としては、5〜60質量%が好ましい。より好ましい範囲について述べると、下限側としては10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、他方上限側としては50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。グリシン塩含有水溶液におけるグリシン塩の濃度が60質量%より大きいと、液の粘度が高くなって透析膜にかかる圧力が大きくなり過ぎ膜を破壊するおそれがある。ただし、酸水溶液の流量とグリシンアルカリ金属塩水溶液の流量を調整して両側の差圧を等しくすることによって、グリシンアルカリ金属塩水溶液の濃度を高くすることもできる。一方、グリシンアルカリ金属塩水溶液の濃度が5質量%未満では貯槽の容量を大きくしなければならないという問題がある。電極室に循環させる極液は透析に用いる酸と同じ種類の酸を使用することが好ましく、その濃度は1〜2質量%程度が好ましい。極液の濃度が2質量%よりも高いと極板の腐食が早くなるおそれがあり、他方1質量%よりも低いと電流が流れにくくなるおそれがある。
電気透析の電極電流を制御する方法は、定電圧法、定電流法いずれでもよい。電流量が多いほど処理時間は短くなるが、通電による発熱で液温が上昇するので、膜を劣化させないよう液を冷却する必要が生じる。このため、膜を劣化させないような液温に抑えるよう電流量の上限を調整することが望まれる。
電気透析操作は通常バッチ処理で行い、一回の透析操作が終了すればグリシンアルカリ金属塩水溶液は入れ替える。ただし、このとき酸水溶液まで同時に入れ替える必要はなく、次バッチの途中まで使用して新しい酸水溶液に入れ替えればよい。これにより、グリシンアルカリ金属塩水溶液中のアルカリ金属イオン濃度を効率よく低下させることができる。もちろん、透析装置を多段に連結して電気透析を連続で行ってもよい。
バッチ処理において、電気透析操作の終了は、グリシンアルカリ金属塩水溶液が所定のpHになったかどうかで判断する。アルカリ金属イオンを除去したグリシン水溶液の生成を目的とする場合は、アルカリ金属イオン濃度が許容下限以下となった時に電気透析操作を終了するのがよい。アルカリ金属イオンを完全に除去しようと過剰に電気透析すると電流効率が低下し、またグリシン液に混入する硫酸イオンなどの塩基量が多くなるので好ましくないからである。
電気透析によってアルカリ金属イオンを減少させたグリシン水溶液には硫酸イオンなど微量の塩基が混入しているので、必要であれば、水酸化バリウム又は炭酸バリウムを所定量添加して硫酸バリウムを生成させ、濾別することによって硫酸イオンを除去することができる。
こうして得られたグリシン水溶液を必要に応じて適宜結晶化して、高純度のグリシンを得ることができる。
上記方法によって、不純物(イミノ二酢酸やイミノ二酢酸塩)含有量の低いグリシンが製造できる。ここで、本発明の方法で得られるグリシンにおける、イミノ二酢酸の含有濃度は、グリシンの全質量に対して、550ppm以下、好ましくは150ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらにより好ましくは50ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。本明細書において、イミノ二酢酸は、後述の実施例に記載の方法により分析することができ、検出される濃度の下限(検出限界)は5〜10ppmであるため、最も好ましくは検出限界以下である。本明細書において、イミノ二酢酸は、後述の実施例に記載の方法により分析することができ、検出される濃度の下限(検出限界)は5〜10ppmであるため、最も好ましくは検出限界以下である。
したがって、本発明は、本発明の方法により得られるグリシンであって、イミノ二酢酸の含有量がグリシンの全質量に対して550ppm以下である、グリシンをも提供する。また、本発明は、本発明の方法により得られるグリシンであって、イミノ二酢酸の含有量がグリシン塩の全質量に対して、好ましくは150ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらにより好ましくは50ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である、グリシンをも包含する。
また、本発明の方法で得られるグリシンは、適度な結晶サイズを有する。このため、ハンドリングが良い点で好ましい。具体的には、グリシンの結晶サイズ(直径)は、好ましくは500〜3000μm、より好ましくは700〜2000μmである。グリシンの結晶サイズは、公知の方法によって測定できるが、本明細書では、篩による分画によって測定された値を意味する。
ゆえに、本発明によると、不純物であるイミノ二酢酸を実質的に含有しない高純度のグリシンを高い生産性で製造することができる。このため、本発明の方法は、経済性の面から、その産業上の利用価値は極めて大きい。また、本発明の方法によって得られるまたは本発明のグリシンは、食品添加物や高品質の医薬品原料として利用できるため、広い分野に貢献をなすものである。
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
また、本実施例及び比較例において、各化合物の濃度を以下の手法及び条件にて測定した。
<ジエタノールアミンの含有量(含有濃度)の測定>
装置:ガスクロマトグラフGC−2010
カラム:PTA−5
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:FID
カラム流量:10ml/min
パージ流量:3ml/min
スプリット比:10
カラム初期温度:40℃
カラム初期時間:3min
カラム昇温速度:20℃/min
カラム最終温度:300℃
カラム最終時間:5min。
<イミノ二酢酸(塩)及びグリシン(塩)の定量方法>
装置:キャピラリー電気泳動システム Agilent7100
キャピラリーサイズ:内径75μm、全長80.5cm
泳動液:α−AFQ109
試料注入:加圧法(50mbar、8sec)
キャピラリー温調:25℃
電圧:−25kV
検出波長:Sig=400nm、20nm Ref=265nm、10nm
定量:濃度既知のイミノ二酢酸およびその塩の水溶液、グリシン及びその塩の水溶液を用いた検量線法。
<グリシン塩の選択率の測定>
例えば、モノエタノールアミンが反応してグリシンナトリウムが生成した場合の選択率は、反応したモノエタノールアミンの量(当量)と上記分析方法で検出されたグリシンナトリウム濃度から算出したグリシンナトリウム量(当量)を用いて下記式1により算出される。なお、上記では、グリシン塩がグリシンナトリウムである場合について説明したが、他の塩についても同様の方法によって算出できる。
<モノエタノールアミンの転化率の測定>
下記条件にてイオンクロマトグラフィーにより、反応後の反応液中の未反応エタノールアミン量を測定する。モノエタノールアミン転化率は原料に用いたモノエタノールアミン量(当量)及び未反応モノエタノールアミン量(当量)から下記式2により算出される。
実施例1
ジエタノールアミンが検出されなかった(ジエタノールアミンの含有濃度=0ppm)原料モノエタノールアミン230g、水酸化ナトリウム162g、水393g、ラネー銅触媒(BET比表面積:20.8m/g)24gを1000mlのニッケル製オートクレーブに仕込み、窒素ガスで3回内部置換した後、反応温度160℃、反応圧力10kg/cmGで、水素の発生がなくなるまで反応を行った。反応に要した時間は160℃に昇温後5.0時間であった。
反応混合物を、濾過によりラネー銅触媒とグリシン塩(グリシンナトリウム)を含有する反応液とに分離して、グリシン塩含有反応液を得た。次に、この反応液を入れたガラス容器を、冷水を満たした別のステンレス容器に浸漬することにより、60℃(液温)に冷却して、析出したシュウ酸塩を濾過にて除去した。
上記反応液を取り出して分析を行ったところ、モノエタノールアミンの転化率は99.8%、グリシンナトリウムの選択率は99.5%、副生したイミノ二酢酸ナトリウム塩は検出されなかった。
実施例2
実施例1において、ジエタノールアミンを1ppm含有する原料モノエタノールアミンを用い、反応を160℃に昇温後5.5時間で行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。
反応液を取り出して分析を行ったところ、モノエタノールアミンの転化率は99.8%、グリシンナトリウムの選択率は99.6%、副生したイミノ二酢酸ナトリウム塩は検出されなかった。
実施例3
実施例1において、ジエタノールアミンを10ppm含有する原料モノエタノールアミンを用いる以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、反応に要した時間は160℃に昇温後5.0時間であった。
反応液を取り出して分析を行ったところ、モノエタノールアミンの転化率は99.7%、グリシンナトリウムの選択率は99.6%、副生したイミノ二酢酸ナトリウム塩はグリシンナトリウムの質量に対して11ppmであった。
実施例4
実施例1において、ジエタノールアミンを50ppm含有する原料モノエタノールアミンを用いる以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、反応に要した時間は160℃に昇温後5.0時間であった。
反応液を取り出して分析を行ったところ、モノエタノールアミンの転化率は99.8%、グリシンナトリウムの選択率は99.4%、副生したイミノ二酢酸ナトリウム塩の含有量はグリシンナトリウムの質量に対して53ppmであった。
実施例5
実施例1において、ジエタノールアミンを100ppm含有する原料モノエタノールアミンを用い、反応を160℃に昇温後4.8時間で行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。
反応液を取り出して分析を行ったところ、モノエタノールアミンの転化率は99.8%、グリシンナトリウムの選択率は99.4%、副生したイミノ二酢酸ナトリウム塩の含有量はグリシンナトリウムの質量に対して106ppmであった。
実施例6
実施例1において、ジエタノールアミンを200ppm含有する原料モノエタノールアミンを用い、反応を160℃に昇温後4.5時間で行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。
反応液を取り出して分析を行ったところ、モノエタノールアミンの転化率は99.7%、グリシンナトリウムの選択率は99.6%、副生したイミノ二酢酸ナトリウム塩の含有量はグリシンナトリウムの質量に対して213ppmであった。
実施例7
実施例1において、ジエタノールアミンを500ppm含有する原料モノエタノールアミンを用いる以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、反応に要した時間は160℃に昇温後5.0時間であった。
反応液を取り出して分析を行ったところ、モノエタノールアミンの転化率は99.8%、グリシンナトリウムの選択率は99.4%、副生したイミノ二酢酸ナトリウム塩の含有量はグリシンナトリウムの質量に対して530ppmであった。
比較例1
実施例1において、ジエタノールアミンを1000ppm含有する原料モノエタノールアミンを用い、反応を160℃に昇温後4.5時間で行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。
反応液を取り出して分析を行ったところ、モノエタノールアミンの転化率は99.8%、グリシンナトリウムの選択率は99.5%、副生したイミノ二酢酸ナトリウム塩の含有量はグリシンナトリウムの質量に対して1050ppmであった。
比較例2
実施例1において、ジエタノールアミンを3000ppm含有する原料モノエタノールアミンを用いる以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、反応に要した時間は160℃に昇温後5.0時間であった。
反応液を取り出して分析を行ったところ、モノエタノールアミンの転化率は99.7%、グリシンナトリウムの選択率は99.6%、副生したイミノ二酢酸ナトリウム塩の含有量はグリシンナトリウムの質量に対して3200ppmであった。
上記実施例1〜7および比較例1〜2の結果を下記表1に要約する。なお、下記表1において、「MEA」は原料モノエタノールアミンを、「DEA]はジエタノールアミンを、「イミノ二酢酸Na」はイミノ二酢酸ナトリウム(イミノ二酢酸ナトリウム塩)を、それぞれ、示す。また、下記表1中、「イミノ二酢酸Naが0ppmである」とは、イミノ二酢酸ナトリウム(イミノ二酢酸ナトリウム塩)の含有量が検出限界(5ppm)以下であることを示す。
上記表1に示す結果から、本発明の方法によれば、イミノ二酢酸塩(イミノ二酢酸ナトリウム)の含有量が低い高純度のグリシン塩が得られることが分かる。
実施例8:グリシン塩からグリシンの製造
実施例1で得られた反応液(シュウ酸塩濾別後の濾液)200gを水500gで希釈して、13.5質量%のグリシンナトリウム水溶液700gを調製した。このグリシンナトリウム水溶液を弱酸性陽イオン交換樹脂アンバーライトIRC−76(オルガノ(株))230mlを充填した樹脂塔にダウンフローで通液し、フラクションコレクターで採取した。各フラクションのナトリウム交換の状況は、フラクション液の電導度及びpH測定結果からリアルタイムでモニタリングし、最終的にはイオンクロマト分析より決定した。通液の操作温度は25℃、流速はSV1(1時間に樹脂量の1倍の液量を通液する)で行った。初期仕込み水をグリシンソーダ水溶液で置換した時点から、破過前(フラクションコレクターで順次採取したサンプルの内、ナトリウムイオン濃度が急激に上昇する直前)までのフラクションを全て混合し、粗グリシン水溶液を得た。得られた粗グリシン水溶液を分析したところ、イミノ二酢酸は検出されなかった。
得られた粗グリシン水溶液を50℃減圧下で加熱濃縮し、グリシン濃度を約32質量%とした後、常圧で95℃まで加熱し濃縮中に析出した結晶を溶解させた。結晶が全て溶解した時点で加熱を終了し、攪拌しながら50℃/hrの冷却速度で冷却し、65℃で種晶としてγ晶を仕込みのグリシンに対して約1.85質量%になるように加えた。種晶添加後、更に50℃/hrで15℃まで冷却し結晶を析出させた。得られた結晶に含まれる微小結晶量を調べるために篩分け試験を行い、300μm以下の微小結晶量を測定した。結晶全体の質量に対する微小結晶の質量を算出した結果を表2に示す。
実施例9〜14:グリシン塩からグリシンの製造
実施例8において、実施例1で得られた反応液の代わりに、実施例2〜7で得られた反応液(シュウ酸塩濾別後の濾液)をそれぞれ使用する以外は、実施例8と同様の操作を行った。得られた粗グリシン水溶液中を分析して、イミノ二酢酸量を、得られたグリシン結晶を篩分け試験して、微小結晶量を測定した。グリシンの質量に対するイミノ二酢酸の含有濃度の結果及び微小結晶量を表2に示す。
比較例1〜2:グリシン塩からグリシンの製造
実施例8において、実施例1で得られた反応液の代わりに、比較例1〜2で得られた反応液(シュウ酸塩濾別後の濾液)をそれぞれ使用する以外は、実施例8と同様の操作を行った。得られた粗グリシン水溶液中を分析して、イミノ二酢酸量を、得られたグリシン結晶を篩分け試験して、微小結晶量を測定した。グリシンの質量に対するイミノ二酢酸の含有濃度の結果及び微小結晶量を表2に示す。下記表2中、「イミノ二酢酸量が未検出である」とは、イミノ二酢酸の含有量が検出限界(5ppm)以下であることを示す。
上記表2に示す結果から、本発明の方法によって得られたイミノ二酢酸塩(イミノ二酢酸ナトリウム)の含有量が低いグリシン塩を用いることによって、イミノ二酢酸の含有量が低いグリシンが得られることが分かる。また、微小結晶量が少ないことから、本発明のグリシンの乾燥紛体は微粉が少なくいものとなるため、取扱い時に空中へ舞上がりが減少しハンドリングが容易となる。

Claims (5)

  1. (I)原料モノエタノールアミン中のジエタノールアミンの含有濃度を測定し、前記含有濃度が0.05質量%を超える場合には、前記ジエタノールアミンの含有濃度を0.05質量%以下にまで低減し、ジエタノールアミンの含有濃度が0.05質量%以下である原料モノエタノールアミンを準備する工程
    (II)前記工程(I)で準備した原料モノエタノールアミンを、アルカリ金属の水酸化物および/またはアルカリ土類金属の水酸化物、水ならびに銅含有触媒の共存下にて、酸化脱水素して、グリシン塩を得る工程、および
    (III)前記グリシン塩を脱塩してグリシンを得る工程、
    を有する、グリシンの製造方法。
  2. 前記工程(I)において、原料モノエタノールアミン中のジエタノールアミンの含有濃度を測定し、前記含有濃度が0.02質量%を超える場合には、前記ジエタノールアミンの含有濃度を0.02質量%以下にまで低減し、ジエタノールアミンの含有濃度が0.02質量%以下である原料モノエタノールアミンを準備する、請求項1に記載の方法
  3. 前記工程(I)において、原料モノエタノールアミン中のジエタノールアミンの含有濃度を測定し、前記含有濃度が0.01質量%を超える場合には、前記ジエタノールアミンの含有濃度を0.01質量%以下にまで低減し、ジエタノールアミンの含有濃度が0.01質量%以下である原料モノエタノールアミンを準備する、請求項1または2に記載の方法
  4. 前記工程(I)において、原料モノエタノールアミン中のジエタノールアミンの含有濃度を測定し、前記含有濃度が0.005質量%を超える場合には、前記ジエタノールアミンの含有濃度を0.005質量%以下にまで低減し、ジエタノールアミンの含有濃度が0.005質量%以下である原料モノエタノールアミンを準備する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法
  5. 前記工程(III)で得られるグリシン中のイミノ二酢酸の含有量がグリシンの全質量に対して550ppm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法
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