JP6550577B2 - 刃物および刃物の再研磨方法 - Google Patents

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本発明は、刃物に関し、より詳細には片刃の刀身部を有する刃物に関する。
包丁、ナイフ等のような刃物は、使用している間に、徐々に切れ味が悪くなる。これは、新品の際には鋭利な状態に仕上げられている刃先が、刃物を使用することにより摩耗したり傷ついたりすることが原因である。また、刀身に使用された鋼の表面酸化も、刃物の切れ味が悪くなる原因の一つである。
切れ味が悪くなった刃物は、砥石等を用いて刃先を再研磨(研ぎ直し)することにより、良好な切れ味を復活させることができる。
特開平10−180598号公報
しかしながら、刃物を適切に再研磨するためには、砥石への刃物の当て方などを習熟する必要があり、これが不適切である場合は、刃物の切れ味が復活しないばかりか、再研磨により刀身を破損させてしまうおそれがある。また、研磨の技術が十分でないと、刀身に研磨傷が目立つようになるなど、再研磨により刃物の美観を損ねてしまう問題も生じる。
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、再研磨が容易な刃物を提供することである。
上記目的を達成するために、本発明に係る刃物は、刃渡り方向に直交する断面において互いに非対称な形状をなす表面と裏面を有しており、前記表面と前記裏面の交差部の少なくとも一部に刃先が形成されている片刃の刀身部と、
前記刀身部に接続するハンドル部と、を有する刃物であって、
前記裏面には、前記刃先における前記ハンドル部側の端部から、前記ハンドル部までの間に、前記刃渡り方向に交差する方向に延びる溝が形成されていることを特徴とする。
片刃の刃物において、刀身の裏面を研磨する場合、裏面を砥石に対して平行に当てる必要がある。従来の刃物では、裏面におけるハンドル部に近い側に関して、どの部分までを砥石に当てるべきであるかが不明確であったため、砥石に対して裏面を常に平行に保ちながら研磨するには、熟練の技術が必要であった。しかし、本発明に係る刃物の裏面には、刃先におけるハンドル部側の端部からハンドル部までの間に、刃渡り方向に交差する方向に延びる溝が形成されているため、この溝より先端側をしっかり砥石に当てて研磨することにより、砥石に対して容易に裏面を平行に保ちながら研磨を行うことができる。したがって、本発明の刃物は、再研磨が容易である。また、発明の刃物は容易に再研磨できるため、再研磨の際に刀身部に研磨傷が形成される問題を抑制し、再研磨により刃物の美観を損ねる問題を防止できる。
また、例えば、前記溝は、身幅方向に前記刀身部を横断していてもよい。
このような溝が形成された刃物は、研磨の際に、溝が砥石の端部直上より外側を通過するように、裏面を砥石に当てて研磨することにより、溝よりハンドル部側の裏面が、研磨の際に砥石に当たることを防止できる。したがって、このような刃物は、砥石に対して容易に裏面を平行に保ちながら研磨を行うことができる。
また、例えば、前記裏面には、所定の平面上にある裏押し部と、前記裏押し部より凹んだ裏すき部とが形成されており、
前記裏押し部における前記ハンドル部側の端部が、前記溝に接続していてもよい。
裏押し部と裏すき部が形成されている刃物は、裏面において平行に保つべき面(裏押し部)の面積を縮小でき、また、溝によって裏押し部の境界を明確に認識できるため、砥石に対して容易に裏面(裏押し部)を平行に保ちながら研磨を行うことができる。
本発明に係る再研磨方法は、上記いずれかの刃物を再研磨する方法であって、
前記裏面を再研磨し、
前記裏面の再研磨によって生じた刃返りを除去するために前記表面を再研磨する。
このような再研磨方法により、従来の再研磨方法では砥石への角度調整が難しい表面の再研磨を簡易化し、再研磨後も刀身部における表面の美観を保つことができる。
図1は、本発明の第1実施形態に係る刃物を裏面側から見た正面図である。 図2は、図1に示す刃物を表面側から見た背面図である。 図3は、図1におけるIII−III線に沿う断面図である。 図4は、図1におけるIV−IV線に沿う断面図である。 図5は、発明の第2実施形態に係る刃物を裏面側から見た正面図である。
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る刃物10を裏面32側から見た正面図であり、図2は、刃物10を表面22から見た背面図である。刃物10は、刀身部20と、ハンドル部40とを有する。ハンドル部40は、柄41と、柄41の内部に収納されており刀身部20と一体である中子43と、柄41と中子43とを固定する口輪42で構成される。図1〜図4に示す第1実施形態では、刃物10として包丁を例に説明を行うが、本発明に係る刃物は包丁に限定されず、ナイフ、鋏、鉈など、再研磨(研ぎ)を行うことができる任意の片刃の刃物に、本発明を適用できる。なお、実施形態では、図1に示すように、刃渡り方向48をX軸方向、身幅方向49をZ軸方向、刀身部20の厚さ方向をY軸方向として、刃物10の説明を行う。
刃物10の刀身部20は、刃渡り方向48に直交する断面を表す図3に示すように、互いに非対称な形状をなす表面22と裏面32を有する片刃である。図1〜図3に示すように、刀身部20は、Y軸方向から見て略三角形平板状であり、表面22と裏面32との接続部26のうち、Z軸負方向側の部分に刃先27が形成されている。表面22と裏面32との接続部26のうち、Z軸正方向側の部分は峰28が形成されており、鋭利な刃先27とは形状が異なる。図2に示すように、表面22には刃先27と略平行な、しのぎ筋23が形成されている。図3に示すように、表面22は、Z軸方向に関して、しのぎ筋23で外側に凸となる方向に曲がっている。表面22のしのぎ筋23から、刃先27を経て裏面32の裏押し部33へ続く断面形状は、楔形状となっている。
図3に示すように、裏面32には、裏押し部33と裏すき部34とが形成されている。裏押し部33は、裏押し部33の全体が所定の平面上に配置されるように構成されている。これにより、刃物10は、再研磨の際、平坦な砥石に裏押し部33を押し当てながら、砥石と刃物10を相対移動させることにより、刃先27の鈍りを解消し、切れ味を復活させることができる。
裏すき部34は、裏押し部33に比べて表面22側に凹んでいる。裏すき部34を形成することにより、刃物10は、裏面32を再研磨する際に、裏面32全体が同一平面上に配置される状態を保つ必要がなくなる。すなわち、裏すき部34が形成されている刃物10は、同一平面上に配置されるべき裏押し部33の面積が小さくなるため、裏面32の適切な再研磨を、容易に行うことができる。また、刃物10は、裏すき部34を形成することにより、裏面32が平坦である場合に比べて再研磨により取り除くべき材料の量を減少させることができるので、短時間で再研磨を行うことができる。
図1においてハッチングが施されている部分が、裏押し部33に相当する部分である。裏押し部33は、図1で示すように、裏すき部34を取り囲むように、Y軸方向から見て三角形状に形成されていても良いが、裏押し部33の形状はこれに限定されない。たとえば、Y軸方向から観察する図1に示す状態において、裏押し部33は、刃先27及び峰28に沿ってV字状に形成されていてもよい。
刃先27は、刀身部20の先端部20aから、刃渡り方向48に沿って、刃先27のハンドル部40側の端部27b(あご)まで続いている。裏面32には、刃渡り方向48に関して、刃先27におけるハンドル部40側の端部27bから、ハンドル部40までの間に、刃渡り方向48に交差する方向に延びる溝36が形成されている。溝36の形状及び位置は、刃先27におけるハンドル部40側の端部27bより、ハンドル部40に近い側に配置されていれば特に限定されないが、溝36が、身幅方向49に刀身部20を横断していることが好ましい。すなわち、溝36の上端は峰28まで続いており、溝36の下端は、刃先27の端部27bからハンドル部40までを結ぶ刀身部20の下部ライン29まで続いている。これにより、裏面32のうち、溝36より先端20a側に配置される裏押し部33と、溝36よりハンドル部30側に配置される部分37とが、溝36によって明確に区分される。また、再研磨の際に、裏押し部33全体を再研磨しつつ、溝36よりハンドル部40側の裏面32(図1における部分37)が、研磨の際に砥石に当たることを防止できる。
図4は、刀身部20をX軸及びY軸に平行な断面で観察したものである。図4に示す溝36の断面形状は、丸溝のような滑らかな曲線を有する形状とすることが、刃物10の使用時における特定部分への応力集中を避ける観点から好ましいが、特に限定されない。溝36の深さも、特に限定されないが、裏すき部34と同程度の深さとすることが好ましい。例えば、溝36の底部から裏押し部33までのZ軸方向の距離は、5mm以上又は裏すき部34の底部から裏押し部33までのZ軸方向の距離の50%以上とすることが、裏押し部33と溝部36の境界を明確にする観点から好ましい。また、溝36の底部から裏押し部33までのZ軸方向の距離は、裏すき部34の底部から裏押し部33までのZ軸方向の距離の200%以下、溝36に隣接する刀身部20の厚さ(Y軸方向の距離)の50%以下とすることが、刀身部20の強度を確保する観点から好ましい。
また、裏押し部33におけるハンドル部40側の端部33aが、溝36に接続しているため、刃物10は、裏押し部33と溝36の境界である端部33aの位置を容易に認識できる。また、裏押し部33の端部33aの位置は、再研磨によって裏押し部33の最表面を構成する材料が失われたとしても、溝36の底部まで研ぎこまれるまでの間は、認識が困難になることはない。
なお、図4に示す例において、溝36よりハンドル部30側に配置される部分37は、裏押し部33と同一の平面上又はわずかに上方に配置されており、研磨中に誤ってこの部分37が砥石表面にあたることを防止するように構成されているが、溝36周辺の形状は特に限定されない。また、ハンドル30側に配置される部分37の全部又は溝36の一部が、柄41の中に配置されるなどして、ハンドル部40の一部となっていても良い。
図1に示すように、本実施形態に係る刃物10において、溝36は、身幅方向49に略平行な直線状の平面形状を有しているが、溝36の平面形状はこれに限定されない。例えば、溝36の平面形状は、円弧状、曲線状、稲妻状その他の任意の形状とすることができる。また、溝36の刃渡り方向の幅も特に限定されず、0.1〜30mm、好ましくは1.0〜20mmとすることができる。
上述の刃物10は、例えば、成形、熱処理、研削、ハンドル部の取り付け、研磨等の工程を経て作製される。例えば、刃物10の製造では、まず、鋼をプレスにより刀身部20の概略形状に成形したのち、焼き入れ、焼き戻し等の熱処理を行う。次に、熱処理後の鋼を研削して刀身部20の形状を整えたのち、ハンドル部40の取り付け及び研磨による刃先27の形成を経て、刃物10を得る。裏面32の溝36及び裏すき部34は、成形の際に形成される。なお、刃物10が打ち刃物である場合は、焼き入れ及び焼き戻し前に行われる鍛造の際に、裏面32の溝36及び裏すき部34を形成する。
刃物10における刀身部30の材質は特に限定されず、炭素鋼、ステンレス鋼など、任意の刃物材料を採用できる。また、刀身部30は、1枚の鋼板から造られているものであってもよく、打ち刃物における軟鉄と鋼のように、複数の材料を合わせた構造を有していてもよい。また、ハンドル部40は、木製等の柄41に中子43を挿入する図1に示す構造に限定されず、鋲を用いて刀身部20に固定される構造や、金属のハンドル部を刀身部20に溶接する構造や、刀身部30と一体に成形される構造であっても良い。なお、中子43は、刀身部30と同一の材質であっても、異なる材質であってもよい。
以上のように、刃物10は、刃先27におけるハンドル部40側の端部27bからハンドル部30までの間に、身幅方向49に延びる溝36が形成されているため、溝36から先端部20a側の裏面28を再研磨すればよい。すなわち、刃物10は、裏面32を再研磨する際に、砥石に当てる部分が明確であるため、熟練者でなくても、砥石に対して裏面32(裏押し部33)を平行に保ちながら、容易に再研磨を行うことができる。また、刃物10は、容易に再研磨できるため、再研磨の際に刀身部20に研磨傷が形成されることを抑制し、再研磨により刃物10の美観を損ねる問題を防止できる。
また、刃物10は裏面32の研磨が容易であるため、通常の片刃の刃物に対する再研磨の手順とは反対に、裏面32から再研磨を行い、表面22については、裏面32の再研磨で生じた刃返りを除去する程度に軽く研磨するという手順で、再研磨を行うことが可能である。したがって、このような刃物10は、砥石への角度調整が難しい表面22の再研磨を簡易化し、刀身部20における表面22の美観を保つことができる。
図1から図4に示す刃物10は、本発明の一実施形態にすぎず、本発明には様々な変形例が含まれる。例えば、図5に示す第2実施形態に係る刃物60のように、本発明に係る刃物60はナイフであってもよい。刃物60は、刀身部70の裏面82であって、刃先77におけるハンドル部90側の端部77bからハンドル部90までの間に、刃渡り方向に交差する方向に延びる溝86が形成されており、第1実施形態に係る刃物10と同様の効果を奏する。なお、刀身部70の身幅が狭い場合や、刀身部70が薄い場合などは、裏面82には裏すき部84及び裏押し部83を形成せず、裏面82における溝86から先端部70aまでの部分が、平坦であっても良い。また、刀身部70には、裏すき部84以外の凹凸や貫通孔が形成されていてもよい。
10、60…刃物
20…刀身部
20a…先端部
22…表面
26…接続部
27…刃先
32…裏面
33…裏押し部
34…裏すき部
36…溝
40…ハンドル部
48…刃渡り方向
49…身幅方向

Claims (2)

  1. 刃渡り方向に直交する断面において互いに非対称な形状をなす表面と裏面を有しており、前記表面と前記裏面との接続部の少なくとも一部に刃先が形成されている片刃の刀身部と、
    前記刀身部に接続するハンドル部と、を有する刃物であって、
    前記裏面には、前記刃先における前記ハンドル部側の端部から、前記ハンドル部までの間に、前記刃渡り方向に交差する方向に直線状に延びる溝が形成されており、
    前記溝は、身幅方向に前記刀身部を横断しており、
    前記裏面には、所定の平面上にある裏押し部と、前記裏押し部より凹んだ裏すき部とが形成されており、
    前記裏押し部における前記ハンドル部側の端部が、前記溝に接続しており、
    前記溝に隣接する前記ハンドル部側には、前記溝に隣接する前記刃身部側の前記裏面と同一の平面上又はわずかに上方に配置される部分があることを特徴とする刃物。
  2. 請求項1に記載の刃物の再研磨方法であって、
    前記裏面を再研磨し、
    前記裏面の再研磨によって生じた刃返りを除去するために表面を再研磨する刃物の再研磨方法。
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