以下、荷電粒子線装置の一例として、SEMを用いて実施例を説明する。
図1は、SEMの内部構造の概略図である。該SEMは、加速電圧により加速された電子を試料に照射することで生じる反射電子や二次電子、X線などの種々の信号を検出する事で、試料表面の凹凸や試料の組成状態を観察する装置である。
SEM100は、内部の電子源から電子線を発生させる電子銃101、電子線の収束度・照射位置などを調整するカラム102、試料108を収容し真空を保つ試料室103、加速電子が試料に衝突する事で生じる二次電子等を検出する検出器104、真空排気系105、試料108を載置して該試料108の位置を調整するステージ106、及び、これらSEMを構成する各構成要素に接続される制御部107を備える。
カラム102は、例えば、第一のコンデンサレンズ109、第二のコンデンサレンズ110、X偏向コイル111、Y偏向コイル112、対物レンズ113等を含むが、上記構成に限られるものではない。
真空排気系105は、カラム102や試料室103等の真空排気を行う粗引きポンプ1051、メインポンプ1052と、SEM100内部の真空度を測定する真空計1053等を備える。
粗引きポンプ1051は、SEM100の真空排気を粗く行うポンプであり、ロータリーポンプやスクロールポンプ、ダイヤフラムポンプなどの種々のポンプを採用できる。メインポンプ1052は、粗く真空排気されたSEM100を所望の真空度に導くポンプであり、ターボ分子ポンプ等が用いられる。尚、ポンプの数は2個に限らず、更にイオンポンプやゲッターポンプ等を備えてもよい。また、真空計1053は、カラム102内部と、試料室103−メインポンプ1052間の2箇所に配置されているが、必要に応じて、装置の任意の箇所に任意の個数の真空計を備えてもよい。
制御部107は、SEM100の状態に応じて後述の発光素子を制御する。
電子銃101の電子源としては、フィラメントを用いた熱電子放出型のものや、先端を尖らせたチップを用いた電界放出型のものなどが用いられる。これらの電子源は、制御部107から電子線生成の指示が出た直後から使用できるわけではない。数十kV以上の加速電圧が印加される場合もあるため、電子源から生成される電子線が安定するためには、ある程度の時間が必要となる。逆に、電子線の照射を停止する場合も、ある程度の時間が必要となる。
そのため、ユーザがモニタ上のグラフィックユーザインターフェース(以下、GUI)から「電子線の照射開始」を指示しても、制御部107が「電子線が安定した」と判断する(もしくは所定の時間が経過する)までSEM100の操作が不能である。ユーザは、その間待機する必要がある。ユーザがGUIから「電子線の照射停止」を指示した場合も同様である。
ここで、ユーザが試料を観察している最中はSEMの真空を解除できないため、観察中のSEMの状態や条件などをユーザが直接把握できない。試料室にガラス窓(ビューポート)を設け、目視によってSEMの状態を把握する手法も存在するが、試料室内の限られた範囲しか目視できない。また、外部からビューポートを介して装置内部に入射した光が、何らかのノイズ源となる可能性もある。更に、SEMの状態のうち、真空度や電流値等は、ユーザの視覚によって目視できるものではない。これらの値を把握する必要がある場合は、ステージに接続されたセンサを介して、その値をモニタ上のGUIに表示するなどの手法が用いられていた。
従来の装置では、「電子線の照射開始」または「電子線の照射停止」の指示から、SEMの操作が可能になるまでの残り時間の目安は、次のようにしてユーザに把握させていた。まず、制御部107が各種センサの値から、または「電子線の照射開始」「電子線の照射停止」の指示からの経過時間から、操作可能となるまでの残り時間を算出する。次に、制御部107が、別途備えられたモニタにその残り時間を表示する指示を出し、モニタはその値を表示する。以上のステップによることで、ユーザは残り時間の目安を把握することが可能であった。
しかし、この手法では、モニタの電源を立ち上げる必要があり、モニタを見ないと真空度が分からない(例えば、モニタの側面からSEMを操作しているユーザは、真空度が分からない)という課題があった。更に、モニタに残り時間を表示する際は、何らかのGUI上に真空度を表示することとなる。GUIの表示言語と、ユーザの使用言語が乖離している場合、ユーザは残り時間を把握しづらいなどの課題があった。
また、SEMを使い慣れないユーザにとっては、待機時間について、一体何のために待機しているか不明であり、待機中に装置内部で何が起こっているのかを把握することも困難であった。
そこで本SEMでは、カラム102に、電子線の光軸(カラム102の光軸)に沿った方向に複数の発光素子を有する表示部を設ける。図2に、表示部を備えたSEMを示す。
該SEMは、カラム102に、該カラム102の光軸に沿って配置されたフルカラーLED201、202、203、204を有する表示部200を備える。制御部107は、これらのLED201、202、203、204を制御して、様々な発光パターンを表示部200に表示する。
図2では、LEDを4個備える例を示すが、LEDの個数は4個に限られるものではない。また、LEDはフルカラーに限らず、単色や数色にのみ発光するものや、LEDの正面にカラーフィルターを備えるものでもよい。また、LEDは等間隔に配置する例を示しているが、不等間隔であってもよい。発光素子はLEDに限らず、電球や蛍光管等、他の発光素子も採用できる。また、LEDはカラムの光軸に沿った配置であればよく、カラム102の他、電子銃101や試料室103に配置してもよい。更に、LEDはカラム102の正面に備える例を示したが、他の部位(カラム102の側面など)に備えてもよい。LEDは1列ではなく、複数列備えてもよい。
制御部107は、ユーザの「電子線の照射開始」指示を受け、電子銃101に印加する加速電圧や、カラム102の各構成要素の制御を開始する。
図3に、「電子線の照射開始」時の各LEDの発光パターンを示す。尚、図中の白い円はそのLEDが発光している状態を示し、黒い円はそのLEDが消灯している状態を示す。
「電子線の照射開始」の指示を受けた制御部107は、各LEDをパターン301(P301)に従い制御する。その後、一定時間(例えば100ミリ秒)経過後に、制御部107は、各LEDをP302に従い制御する。以下、P302からP303、P303からP304と同様の制御を繰り返し、P304からは再びP301に戻る。SEMがユーザの指示を受け付けるようになるまで、制御部107は各LEDを制御する。
上記の制御中に、カラム102をユーザが目視すると、発光箇所が上部から下部へ流れるように見て取れる。各LEDは電子線の光軸に沿って配置されているため、この発光箇所の流れは、カラム102内での電子線の流れとほぼ同一の方向となる。即ち、各LEDの発光が図3のパターンに従い制御されることで、各LEDにより電子線の流れに対応して表示することができる。
以上の構成によれば、「電子線の照射開始」の指示を出したユーザに対し、電子線が流れ始めたことを、モニタの表示によらず視覚により把握させることができる。また、各LEDが電子線の流れに対応して、電子線の流れを可視化することで、SEMを使い慣れないユーザにとっても、「電子線の照射開始」の指示後の待機時間において、SEM内部での現象を把握することが容易となる。
尚、LEDの発光パターンは、図3のものに限られないのは言うまでもない。例えばP301とP302の間に、LED201と202が同時に光るパターンを追加してもよい。P304からP301に戻る際に、ある程度の時間、どのLEDも消灯している時間を設けてもよい。
また、図4のようなパターンを用いても良い。例えば「電子線の照射開始」の指示からn秒間はP401、次のm秒間はP402・・・として、SEMがユーザの指示を受け付けるようになればP405のように各LEDを光らせるものである。以上のように、各LEDを一種のプログレスバーのように用いることもできる。
実施例2では、加速電圧等に応じて各LEDを制御するSEMについて説明する。
SEMは、一般に、加速電圧が高ければ分解能が向上するが、試料の破壊や帯電を引き起こしやすくなる。加速電圧が低ければその逆となる。また、加速電圧の高低によって、照射された電子線が試料のどの深さまで到達するかも異なる。よって、SEMは、観察する試料や観察方法によって、電子線の加速電圧を変えて用いられることが多い。しかし、加速電圧は人間の目視によって把握できるものではなく、その設定値はモニタのGUI上に表示されていたため、前述のモニタに関する課題や、SEMを使い慣れないユーザに対する課題が生じていた。
そこで、実施例2では、制御部107は、電子線の照射中に、図3に示したパターンに従い各LEDを発光させる。ここで、各パターンの遷移時間は、加速電圧に応じて変動する。数値の一例として、加速電圧が1kVの場合は、各パターンの遷移時間は100ミリ秒とし、加速電圧が10kVの場合は、各パターンの遷移時間は10ミリ秒とする。
上記の制御によれば、加速電圧が高くなるほど、各LEDの発光箇所の流れは速くなる。即ち、加速電圧の高低を、発光箇所の流れの速さに対応して可視化することで、ユーザに対して現在の加速電圧を直感的に表示することができる。
また、SEMにおいては、電子銃101から照射された電子が試料108に入射するまでの間に、該電子の加速電圧を変動させる、リターディング、及び、ブースティングという機能がある。例えばリターディング機能を用いており、電子線が試料に照射される直前で減速されている場合、制御部107は次のように各LEDの発光を制御する。制御部107は、P301からP302、P302からP303、P303からP304への遷移時間は50ミリ秒とし、P304からP301に戻る際の遷移時間は200ミリ秒とする制御を行う。この制御によって、カラム102の一番下部、即ち一番試料に近いLED204の発光時間が長くなり、電子線が試料直前で減速されていることを可視化することができる。ブースティング機能の場合は、加速電圧が高い部分に相当するLEDの発光時間を短くし、加速電圧が低い部分に相当するLEDの発光時間を長くする。これにより、これらの機能がONとなっているのか、カラム102内部のどこで加速電圧が変動しているかを一目で判断できる。
また、SEMにおいては、加速電圧の印加を切り替えることや、電子線をカラム102内部で機械的または電磁的にブランキングすることによって、電子線を試料にパルス的に照射する機能(パルスSEM)がある。ここで、各LEDをパルス周期に応じて明滅させることで、パルス機能のON/OFF、パルス周期等を直感的に可視化できる。カラム102内部で電子線をブランキングしている場合は、ブランキング位置より上流に相当するLEDは明滅させず、通常のパターンにて発光させ、ブランキング箇所より下流に相当するLEDは明滅させるよう制御すれば、ブランキング位置をも可視化できる。
電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、上記の制御を行なうことで、現在の加速電圧等をモニタの表示によらず直感的に可視化することができる。
実施例3では、電子線の電流量に応じて各LEDを制御するSEMについて説明する。
SEMは、一般に、試料に対する電子線の照射量(プローブ電流量)が多ければS/N比が向上するが、試料の破壊や帯電を引き起こしやすくなる。試料に対する電子線の照射量が少なければ、その逆となる。また、収差の関係から、試料に対する電子線の照射量が少なければ、分解能は向上する傾向にある。更に、電子源から放出する電子線の総量(エミッション電流量)の大小は、電子源の寿命に影響する。しかし、電流量は人間の目視によって把握できるものではなく、その設定値はモニタのGUI上に表示されていたため、前述のモニタに関する課題や、SEMを使い慣れないユーザに対する課題が生じていた。
そこで、実施例3では、制御部107は、電子線の電流量に応じて、各LEDの光量を変化させる。図5に、電流量に応じたLEDの光量の模式図を示す。図中の白い円はLEDが高い光量で発光している状態を示し、黒い円はLEDが消灯しているまたは低い光量で発光している状態を示し、ハッチングされた円はLEDが中程度の光量で発光している場合を示す。
本実施例では、制御部107は、エミッション電流Ieの値に基づき、LED201の光量を変化させる。数値の一例として、Ieの最大値を1として規格化した場合、Ieがほぼ0の場合は、LEDを消灯または低い光量で発光させ、Ieが0.5の場合は中程度の光量で発光させ、Ieが1の場合は高い光量で発光させる。また、制御するLEDはLED201に限られない。エミッション電流量ではなく、プローブ電流量に基づく制御でもよい。
上記の制御によれば、エミッション電流が高くなるほど、LEDの光量は高くなる。即ち、電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、電流量の大小を光量の大小に対応して可視化することで、ユーザに対して現在の電流量をモニタの表示によらず直感的に表示することができる。
また、エミッション電流量は電子源から放出する総量であり、プローブ電流量は試料に対する電子線の照射量であることに鑑み、エミッション電流量については最上流のLED(LED201)の光量で、プローブ電流量は最下流のLED(LED204)の光量で可視化することも可能である。
尚、エミッション電流量やプローブ電流量は、図示しない電流計により計測される。
実施例4では、試料等の温度に応じて各LEDを制御するSEMについて説明する。
SEMは、その試料室の内部を真空にして試料の観察を行なう。そのため、試料が水分を含む場合は、試料に含まれる水分が蒸発してしまい、試料そのものの形状の観察が困難な場合がある。そのような試料において、水分の蒸発を防ぐため、試料室内部で試料を凍結させたまま観察を行なう手法が知られている。また、水分の有無にかかわらず、試料の温度特性を測定したい場合は、試料室内部で試料の温度を可変させる必要がある。しかし、試料の温度は人間の目視によって把握できるものではなく、その設定値はモニタのGUI上に表示されていたため、前述のモニタに関する課題や、SEMを使い慣れないユーザに対する課題が生じていた。
そこで、実施例4では、制御部107は、試料108またはステージ106の温度に応じて、各LEDの発光色を変化させる。
図6に、試料の温度に応じたLEDの発光量の模式図を示す。本実施例では、制御部107は、図示しない温度センサの値に基づき、LEDの発光色を変化させる。ここで、測定対象は試料またはステージの温度であるため、制御するLEDは最下流のLED204が望ましい。
制御部107は、数値の一例として、試料の温度が−10℃の場合はLED204を青色に、試料の温度が20℃の場合はLED204を白色に、試料の温度が50℃の場合はLED204を赤色に発光させる制御を行なう。
上記の制御によれば、試料の温度が高くなるほど、LEDは寒色から暖色へと変化する。即ち、電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、試料の温度の高低を、LEDの発光色に対応して可視化することで、ユーザに対して現在の試料の温度をモニタの表示によらず直感的に表示することができる。
また、試料の温度に限らず、例えばカラム102の各構成要素の温度や、電子銃101の温度を可視化することもできる。特に電子源が電界放出型である場合、SEM全体を高熱とする「ベーキング」作業が行われる場合があり、カラム102の各構成要素の温度を表示可能であることは有効である。この場合、各構成要素と各LEDの位置を対応させて光らせることが望ましい。
尚、「各構成要素と各LEDの位置を対応」と記載したが、各LEDが各構成要素の位置に配置されることが必要なわけではない。例えば、LED201は電子銃101ではなくカラム102に備えられているが、LED201を電子銃101に対応させてもよい。
実施例5では、エラーに応じて各LEDを制御するSEMについて説明する。
SEMは、電子源が寿命を迎えると、もはや電子線を生成することは不可能であり、電子源を交換する必要がある。特に電子源がタングステンフィラメントである場合、タングステンフィラメントは長時間の使用により断線するため、電子源の寿命の問題が顕著となる。タングステンフィラメントの断線は、加速電圧や電流量と異なり、目視確認できる。しかし、SEMの電子源の状態は、SEMの真空を解除しなければ確認できないため、電子源の寿命が尽きたことは、GUI上にエラーメッセージやエラーコードとして表示される。よって、目視確認できても、前述のモニタに関する課題や、SEMを使い慣れないユーザに対する課題が生じていた。
そこで、実施例5では、制御部107は、電子源の寿命が尽きたことを検出した場合に、LEDの発光量、発光色及び/又は明滅を制御する。この場合の制御対象は、電子銃101の位置に相当する最上流のLED(LED201)とすることが望ましい。
図7に、電子源の寿命が尽きたことを検出した場合のLEDの制御の模式図を示す。通常時(電子源の寿命が残っている場合)は、LED201は白色に発光している。電子源の寿命が尽きたことを制御部107が検出した場合、制御部107は、LED201の明滅を開始する。この場合、LED201の光量を最大化してもよいし、LED201の発光色を警告色(黄色や赤色など)にしてもよい。
上記の制御によれば、電子源の寿命が尽きた際に、電子銃101の位置に相当するLED201が警告を発する。電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、上記の制御を行なうことで、ユーザに対して、電子源の寿命が尽きたことをモニタの表示によらず直感的に表示することができる。
また、電子源に限らず、他の箇所のエラーに応じて各LEDが警告を発するようにしてもよい。この場合、例えば第一のコンデンサレンズ109にエラーが生じている場合はLED202を、第二のコンデンサレンズ110にエラーが生じている場合はLED203を制御対象とすることで、エラーが生じている箇所を可視化することができる。真空排気系、例えばメインポンプ1052にエラーが生じている場合は、他のエラーが生じた場合と色を変えてLEDを光らせるなどで、カラム102内部に配置されない部品のエラーをも表示できる。更に、エラーの種類に応じて、各LEDによる警告方法を変化させることもできる。
実施例6では、調整箇所に応じて各LEDを制御する荷電粒子線装置について説明する。
SEMがその性能を最大限に発揮するために、カラム102内部の電子線の軌道は、理想的な軌道に調整されている。しかし、外部の振動や温度変化、各電子光学要素の材質の径年劣化、汚れの付着等により、電子線の軌道が、理想の軌道から外れることがある。このような場合に、カラム102内部の各要素を電磁気的に調整することで、電子線の軌道を理想に戻す作業が行われる。
また、電子線の軌道のずれがなくとも、プローブ電流量を調整するために、第一のコンデンサレンズ109及び第二のコンデンサレンズ110などを調整することがある。
ここで、各要素の調整の際には、ユーザがGUIから調整量を指示していたため、前述のモニタに関する課題が生じていた。また、SEMを使い慣れないユーザにとっては、現在調整している対象が何であるのかを把握することが困難であった。
そこで、実施例6では、制御部107は、SEMの調整対象に応じて、各LEDの発光を制御する。図8に、調整中のLEDの発光パターンを示す。
制御部107は、ユーザが電子銃101の調整を開始したとき(Gun)には、電子銃101の位置に相当するLED201を発光させる。同様に、制御部107は、第一のコンデンサレンズ109が調整されているとき(C1)はLED202を、第二のコンデンサレンズ110が調整されているとき(C2)はLED203を、対物レンズ113が調整されているとき(Obj.)はLED204を発光させる。
上記の制御によれば、ユーザが現在調整中である対象に応じ、各LEDが発光する。電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、調整対象の位置を各LEDの発光に対応して可視化することで、ユーザに対して調整対象をモニタの表示によらず直感的に表示することができる。
また、例えば各レンズの励磁を調整している場合(各レンズのコイルに流す電流量を調整している場合)などは、調整量を各LEDの発光量で表すこともできる。
実施例7では、真空度に応じて各LEDを制御するSEMについて説明する。
電子線は、気体分子が多い領域を通過すると、気体分子による散乱が生じる。そのため、装置内部の真空度が低い(圧力が高い)場合は電子線の径を所望の値まで集束できず、分解能が低下し、最悪の場合は試料表面の画像を得ることが不可能となる。また、電子銃101内部の真空度が低い場合は、電子源にも影響を及ぼす。具体的には、電子源が電界放出型の場合は、電子源にガス分子が付着しやすくなることによって、電子線の照射量、安定度、電子源の寿命等に影響し、場合によっては電子銃内での放電を引き起こす。タングステンフィラメントを用いた熱電子放出型の電子源は、電界放出型の電子源よりも低い真空度で用いることができるが、真空度があまりに低いとフィラメントが断線するまでの時間が短くなる。
一方、SEMにおいては、電子銃101及びカラム102の真空度は高く保ちつつ、試料室103の真空度を低くして試料の観察(いわゆる低真空観察)が行なわれる場合がある。低真空観察によって、含水試料や、帯電しやすい試料を観察しやすくなるなどのメリットがある。
以上のことから、SEMにおいては、SEM内部の真空度を確認し、把握することが重要となる。しかし、真空度は人間の目視によって把握できるものではなく、その設定値はモニタのGUI上に表示されていたため、前述のモニタに関する課題や、SEMを使い慣れないユーザに対する課題が生じていた。
そこで、実施例6では、制御部107は、SEMの真空度に応じて、各LEDの発光を制御する。SEMの真空度は、制御部107が、真空計1053の測定値を読み取ることで検出する。図9に、真空度に応じた各LEDの発光パターンを示す。
SEMが真空排気を開始する前(Before Evac.)、即ち装置内部が大気圧である場合、制御部107は、各LEDを橙色に発光させる。真空排気が開始される(Evac.)と、制御部107は、各LEDを明滅(点滅)させる。真空排気がある程度進み、真空計1053によりSEM内部の真空度を測定可能になれば、制御部107は各LEDを明滅させず発光させる。
数値の一例として、真空度が10000Paの場合、制御部107は、各LEDを緑色に発光させる。真空度が4000Pa、0.3Paと向上していく(気圧が低くなっていく)につれ、制御部107は、各LEDを薄青色から深青色へと変化させる。
また、SEMが低真空観察を行なう場合(L.V.Observe)は、電子銃101及びカラム102の真空度は高く、試料室103のみ真空度が低い。そこで制御部107は、各LEDのうちLED204以外のLEDは深青色に発光させ、試料室の位置に相当するLEDであるLED204を中程度の青(Middle Blue)に発光させる。ここでLED204の発光色は、中程度の青に限定されるものではなく、試料室103の真空度に応じて変化させるものとすれば、試料室103の真空度のみが変化していること(低真空観察モードであること)を、ユーザに直感的に表示することができる。
上記の制御によれば、SEM内部の真空度が向上するにつれ、各LEDの発光色は、警告色に近い橙色から、安全色である深青色へと変化する。電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、上記の制御を行なうことで、ユーザに対して、SEM内部の真空度をモニタの表示によらず直感的に表示することができる。
尚、真空計とLEDの個数によっては、例えば電子銃101の真空度、カラム102の真空度、試料室103の真空度を個別に表示することができる。SEMの機械的構成が異なる場合(例えば試料交換室を備える場合など)は、その構成に応じて真空度を表示することもできる。
実施例8では、導入するガス種に応じて各LEDを制御するSEMについて説明する。
SEM等の荷電粒子線装置では、種々の目的に応じて、装置内部にガスを導入する場合がある。一例として、試料室103の真空を解除する際に窒素やアルゴンを導入する場合や、試料室103の真空漏れの確認のためヘリウムを導入する場合、低真空観察のために大気を導入する場合、特にTEMにおいて、その場観察(in−situ観察)を行なうため水素や酸素を導入する場合、イオンミリング装置との複合型装置において、イオンビーム生成のためアルゴンを導入する場合、特にFIB単体もしくはFIBとSEMとの複合型装置において、薄膜を生成するためタングステンガスを導入する場合などが例として挙げられる。
しかし、導入するガス種は人間の目視によって把握できるものではなく、導入ガスの種類はモニタのGUI上に表示されていたため、前述のモニタに関する課題や、SEMを使い慣れないユーザに対する課題が生じていた。
そこで、実施例8では、制御部107は、SEMへの導入ガス種に応じて、各LEDの発光を制御する。図10に、本実施例にかかる荷電粒子線装置の概略図を、図11に各LEDの発光パターンを示す。
本実施例にかかるSEMは、試料室103にガス導入部114を備える。ガス導入部114は、例えば窒素やヘリウム、アルゴンボンベ(に接続されたノズル)であってもよいし、大気を導入するためのリークバルブでもよい。ガス供給源を備えた電子ビームまたはイオンビームカラムなどであってもよい。
制御部107は、ガス導入部114の作動が開始したら、導入するガス種によって各LEDを発光させる。ガス導入部114は試料室103に備えられているため、導入されたガスはまず試料室103に充満し、その後カラム102内部へと侵入する。そこで、制御部107は、導入ガスが窒素の場合(N2)は、LED204を紫色に発光させる。制御部107は、ガス導入部114の作動開始から十分に時間が経過すれば(N2−Filled)、LED全てを紫色に発光させる。
上記制御によれば、導入ガスの装置内部での挙動を各LEDの発光により表現することができる。更に、ガスの導入量や、装置内部のガス圧(図示しない質量分析計などで測定する)に基づき、各LEDの発光色を独立に制御してもよい。各LEDは、発光量や発光色の変化(たとえばガス圧が低い場合は、紫色ではなく薄紫色に発光するなど)によって、導入ガスの装置内部での挙動を表現してもよい。
制御部107は、ガス導入部114により導入されるガスがアルゴンの場合は、LED204を黄色に発光させる。その後、十分に時間が経過した際の挙動や、発光量や発光色の変化等は、窒素導入時と同様である。その他のガスを導入する場合は、その他の色を用いることができる。尚、上記の発光色や発光箇所は一例である。
上記の制御によれば、装置内部に導入されたガス種と、その挙動に基づき、各LEDの発光が制御される。電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、上記の制御を行なうことで、ユーザに対して、装置内部の導入ガスの挙動をモニタの表示によらず直感的に表示することができる。
尚、ガス導入部が例えばイオンビームカラムであり、装置全体としてはカラムを2本以上備える場合、両方のカラムにLEDを備えるものとしてもよい。
実施例9では、視野の移動に応じて各LEDを制御するSEMについて説明する。
電子顕微鏡で試料を観察する際、試料の様々な位置を観察するため、その視野を移動することが行なわれる。ここで視野の移動は、ステージ106のモータによる駆動や、X偏向コイル111、Y偏向コイル112その他カラム102の電子光学要素により電子線を制御することで電子線の照射位置を変えるイメージシフトなどで行なわれる。
イメージシフトによる視野移動の場合、視野の移動は目視で確認できないため、視野の移動している方向や移動量は、像を確認しなければ分からないという課題があった。
ステージによる視野移動の場合も、ステージは試料室103内部に存在するため目視による確認が不可能である。
そこで、実施例9では、制御部107は、SEMの視野の移動に応じて、各LEDの発光を制御する。図12に、本実施例にかかる荷電粒子線装置の概略図を、図13にイメージシフトによる視野移動時の各LEDの発光パターンを、図14にステージ移動による視野移動時の各LEDの発光パターンを示す。
図12は、図1に加え、カラム102に更にLED205、LED206を備えるSEMを示す図である。LED205、LED206は、LED203の下方かつLED204の上方に、LED203とLED204の左右に配置されている。尚、LED205及びLED206の配置は、図12に示した配置に限らず、カラムに対し垂直方向(即ち、LED201〜204の配置方向に交差するような配置)であれば、その配置は問わない。
制御部107は、イメージシフトによる視野移動の際に、各LEDを緑色に発光させる。制御部107は、視野を図12の紙面に対して手前方向に移動させる場合は、LED203を緑色に発光させる。制御部107は、視野を紙面に対して奥方向に移動させる場合はLED204を、右方向の場合はLED205を、左方向の場合はLED206を緑色に発光させる。発光しているLEDと、視野移動方向が対応することにより、視野移動方向を可視化することができる。
また、制御部107は、ステージによる視野移動の際に、各LEDを白色に点滅させる。発光パターンの一例として、制御部107は、視野を紙面に対して手前方向に移動させる場合は、LED203を白色に点滅させる。制御部107は、視野を紙面に対して奥方向に移動させる場合はLED204を、右方向に移動させる場合はLED205を、左方向に移動させる場合はLED206を白色に点滅させる。
上記制御によれば、視野位置の移動方向を各LEDの発光により表現することができる。電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、視野移動を表現する各LEDを配置し、上記の制御を行なうことで、ユーザに対して、視野の移動をモニタの表示によらず直感的に表示することができる。
更に、移動量や移動スピードに応じて、LEDの点滅速度、発光強度を変化させてもよい。また、例えば視野を右手前に移動させる際には、LED204と205を同時に発光させてもよい。
尚、ステージの移動方向やイメージシフトによるビームの移動方向と、視野の移動方向とで、移動方向が真逆になる場合がある。その場合、どちらの移動方向を基準としてもよい。
更に、図15に、ステージ回転時の各LEDの発光パターンを示す。尚、図中の白い円はそのLEDが白色に発光している状態を示し、黒い円はそのLEDが消灯している状態を示す。ステージ回転の指示を受けた制御部107は、各LEDをパターン901(P901)に従い制御する。その後、一定時間(例えば200ミリ秒)経過後に、制御部107は、各LEDをパターン902(P902)に従い制御する。以下P902からP903、P903からP904と同様の制御を繰り返し、P904からは再びP901に戻る。
また、制御部107は、ステージを逆方向に回転させる場合は、上記の発光パターンを逆転させて、各LEDを発光させる(P904からP903、P903からP902、P902からP901、P901からP904)。
この制御により、ステージの回転方向をモニタの表示によらず直感的に表示することができる。更に、回転速度に応じてパターンが切り替わる時間を変化させることで、ステージの回転速度を直感的に表示することができる。
上記制御は、電子光学的な制御により、視野を回転させる場合にも適用できる。
実施例10では、電子線の傾斜に応じて各LEDを制御するSEMについて説明する。
電子顕微鏡で試料を観察する際、ラフネスや3D形状の情報を得るために、電子線を傾けて試料に対し照射することがある。これはビームチルト観察と呼ばれる機能で、X偏向コイル111、Y偏向コイル112によって電子線を曲げることで実現される。
しかし、電子線は人間の目視によって把握できるものではなく、電子線の曲げ方向はモニタ上のGUIに表示されていたため、前述のモニタに関する課題や、SEMを使い慣れないユーザに対する課題が生じていた。
そこで、実施例10では、制御部107は、電子線の傾斜方向に応じて、各LEDの発光を制御する。図16に各LEDの発光パターンを示す。
制御部107は、電子線の傾斜方向に応じて、LED201、LED202、LED203を白色に光らせながら、LED205、LED206を発光させることで、電子線の傾斜方向を示す。また、制御部107は、その傾斜方向の大きさを、LED205、LED206の発光色により示す。例えば傾斜角度が10°未満であるならば白色、10°から20°の間であるならば青色、20°から30°の間であるならば緑色というように各LEDの発光色を変化させることによって、電子線の傾斜角度の大きさを示す。尚、上記の発光色や発光箇所は一例である。
上記の制御によれば、電子ビームの傾斜方向とその傾斜角度に基づき、各LEDの発光が制御される。電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、更に電子ビームの傾斜方向を表現する各LEDを配置し、上記の制御を行うことで、ユーザに対して、電子ビームの曲げ方向をモニタの表示に拠らず直感的に表示することができる。
上記制御は、ステージ106を機械的に傾斜させる場合にも適用できる。
実施例11では、ステージの上下移動に応じて各LEDを制御するSEMについて説明する。
電子顕微鏡で試料を観察する際、試料までの焦点距離を調整するために、ステージを上下に移動させることがある。ここで、ステージの移動は、ステージ106にモータを備えた場合はその駆動や、モータを備えない場合は観察者が直接ステージをダイヤルの回転などによって上下動させることで行われる。
ステージの上下動は、真空チャンバ内で行われるため、その位置を目視で確認できない。そのため前述のモニタに関する課題が発生していた。
そこで、実施例11では、制御部107は、ステージの移動に応じて各LEDの発光を制御する。図17に各LEDの発光パターンを示す。
制御部107は、ステージの上下動方向に応じて、LED203、LED204を黄色に点滅させることでその移動方向を示す。また、その移動速度に応じて点滅速度を変更する。尚、上記の発光色や発光箇所は一例である。
上記の制御によれば、ステージの上下動方向、移動速度に基づき、各LEDの発光が制御される。電子線の光軸に沿って各LEDを配置し、上記の制御を行うことで、ユーザに対して、ステージの上下動方向をモニタの表示に拠らず直感的に表示することができる。
上記制御は、電子光学的な制御により、フォーカスを調整する場合にも適用できる。
実施例12では、大気圧条件下に対して電子線を照射するSEMの状態に応じて、各LEDを制御する荷電粒子線装置について説明する。
SEMを始めとする荷電粒子線装置には、真空下での観察に適さない試料を観察することを目的とし、数ナノメートルから数マイクロメートル程度の厚さの極薄の隔膜によりカラムと試料室を隔離し、大気圧条件に置かれた試料に電子線を照射する場合がある。
しかし、隔膜は極薄のため、目視で隔膜の破損を確認することは困難である。また、試料室内が大気圧状態であったとしても観察中に試料室を開放するのは望ましくなく、試料室内部の状態を表示できることが望ましい。従来は、試料室内の状態はGUIなどにより表示されていたため、前述のモニタに関する課題や、SEMを使い慣れないユーザに対する課題が生じていた。
そこで、実施例12では、制御部107は、この隔膜の状態に応じて各LEDの発光を制御する。図18に本実施例にかかるSEMの概略図を、図19に各LEDの制御パターンを示す。
ここでは、試料室103にカラム102と試料室103を隔離するための隔膜115を備えるSEMを例に挙げる。隔膜115は例えば窒化シリコンを材料とされるが、適切な硬度を持ち、電子線を十分に通す材料であるならば材料は問わない。加えて実施例においては、LED204の更に下にLED207を備える。本実施例では長方形のLEDとし、隔膜の形状を模したが、その形状は問わない。
制御部107は、隔膜115を装置に導入した時にLED207を点灯させることで、隔膜115の有無を示す。また、何らかの理由で隔膜が破損した際には、LED207を赤色に点灯させることで隔膜の状態を示す。LED207は、各LEDのうち最下流に存在し、形状を模すことで、隔膜を表現している。尚、上記の発光色や発光箇所は一例である。
上記の制御によれば、装置内部の隔膜の状態に基づき、各LEDの発光が制御される。上記の制御を行うことで、ユーザに対して、隔膜の有無、並びにその状態を直感的に表示することができる。
実施例13では、カバーにより覆われた、カラムの光軸に沿ってLEDを備えるSEMについて説明する。
SEMにおいては、音波、温度変化、風圧、電磁場等の外部環境によるノイズを低減することや、可動部の触手の防止等を目的として、装置の全部又は一部をカバーで覆う場合がある。カバー内部に表示部200を設けると、ユーザはカバーにより表示部200を観取することができない。
そこで、実施例13のSEMは、カバーに透光部を設ける。該SEMの正面図を図20(a)に、側面図を図20(b)に、内部図を図20(c)に示す。
SEMは、真空排気系105や各種回路を内装する本体カバー116と、ステージ106を内装するステージカバー117と、カラム101を内装するカラムカバー118と、カラムカバー118の上部に設けられた透光部119とを備える。尚、カバーの構成は一例である。SEMの全部品がカバーに覆われていなくともよいし、別途のカバーを備えてもよい。表示部200は、ユーザが、透光部119を介して各LEDの発光を観取できるよう、カラムカバー118の内部に備えられる。
上記の構成によれば、カバーを備えたSEMであっても、装置の状態等を表示部200によって直感的に表示することができる。
尚、図21に示すように、表示部200をカラム102に設けてもよい。この場合は、透光部119は、カラムカバー118の表示部200に対向する位置に設けられる。さらに、図22に示すように、表示部200をカラムカバー118に直接設けてもよい。
ここでは、透光部119をカラムカバー118に設ける例を説明したが、本体カバー116やステージカバー117に透光部119を設けてもよい。
以上、実施例に従い本発明を説明したが、本発明は上記の実施例に限られるものではない。実施例では、SEMを例として説明したが、本発明は、TEM、STEM、集束イオンビーム装置(以下、FIB)、イオンミリング装置などの荷電粒子線装置一般に対して適用できる。FIBやイオンミリング装置の場合は、荷電粒子線はイオンビームとなる。各種装置において、光軸に沿って複数の発光素子を配置することにより、電子線の流れや、真空度、加速電圧、電流量、温度その他の物理量を表現することができる。
また、各実施例を複合させ、例えば真空度と加速電圧を同時に表現してもよい。ユーザの指示や、時間経過、現在の状況などにより、LEDを用いて表現する対象を切替えてもよい。
上記の各実施例において、発光パターン、発光色、発光量等は一例を示したものであり、実施例の記載に限られない。例えば実施例2において「加速電圧が高くなるほど、各LEDの発光箇所の流れは速くなる」としたが、その逆に、加速電圧が高くなるほど各LEDの発光箇所の流れを遅くしてもよい。その他の実施例においても同様に、各LEDの制御は変更可能である。例えば「発光色を変化させる」と説明した実施例において、発光量を変化させてもよいし、「点滅速度を変更する」と説明した実施例において、発光色を変化させてもよく、種々の組み合わせが可能である。