JP6529445B2 - 電気めっきセル、及び金属皮膜の製造方法 - Google Patents

電気めっきセル、及び金属皮膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、電気めっきセル、及び金属皮膜の製造方法に関し、さらに詳しくは、陰極(被めっき物)表面に簡便に金属皮膜を形成することが可能な電気めっきセル、及び、これを用いた金属皮膜の製造方法に関する。
導電性基体上に簡便な方法で金属皮膜からなるパターン(以下、「金属パターン」ともいう)を形成する技術が求められている。従来は、金属パターン以外の部分をマスクして湿式電気めっきを行うことが最も一般的であった。ただし、マスク形成工程及びマスク除去工程が必要であり、めっき液の管理や廃液処理コストが高いという課題がある。
近年ではこのような課題の無い物理蒸着、スパッタリング等の「物理的方法」で金属皮膜を形成した後にマスキング部を除去する方法が採られつつある。ただし、これらの物理的金属皮膜形成方法は、一般に成膜スピードが遅く、真空系が必要であり、経済的な高速生産システムとは言い難い。
一方、マスキングが不要な別な方法として、導電性微粉とバインダーとを混合したインクをスクリーン印刷、インクジェット印刷等の「印刷法」で塗布した後、バインダーを焼成除去する方法も行われている。しかしながら、これらの「印刷法」で体積比抵抗の小さな回路を形成することは、たとえ揮発性又は昇華性のバインダーを採用したとしても困難である。
ところで近年、電気めっきにおいては、所望部以外の電析を阻止し、マスキング不要な回路形成をなす試みとして、ゲル状電解質(特許文献1)やカチオン交換膜(特許文献2、3)を利用する試みがなされている。
また、通常の電気めっきにおいて、イオン交換膜を金属イオン(例えば、Cu2+イオンやNi2+イオン)の補給用隔膜として用いた例も知られている(特許文献4)。但し、ここでも高電流密度での操業は、イオン交換膜の目詰まりにより運転が不可能になるという問題点を有していた。あるいは、陽極から発生する微粒子捕捉膜(アノードバック)として中性隔膜を使用する際にも高電流密度での操業は、中性隔膜の目詰まりが起きやすいという課題があった。
これらの隔膜を用いた電析、例えば水溶液からの電析が比較的容易なCuめっきにおいては、室温で10mA/cm2程度の電流密度が得られる。しかし、更なる高速成膜(高電流密度電析)は、隔膜が物質輸送の障害となり、通常の方法では不可能であった。その理由の詳細は不明であるが、次の(1)及び(2)に示す理由によるものと思われる。
(1)隔膜内部でpHが上昇した場合に、金属や金属水酸化物が生成し、金属イオンの輸送が妨げられる。
(2)隔膜内部で金属イオンの安定化が不足して微粉状あるいは塊状に電析し、隔膜と電析物とが噛み込み、場合によっては短絡(ショート)する。
不溶性陽極を用いて電析した場合、隔膜があると陽極室液で生成したプロトンが隔膜の存在で遮られ、陰極界面でpHが上昇しやすい。そのため、上記課題が特に顕著となる。特に、隔膜と陰極とが密着している電気めっきセル(陰極室液なし)、あるいは陰極室液量が少量の電気めっきセルや、陰極−陽極の極間距離が短いセルでは、わずかの水素発生反応でも上記(1)、(2)の影響が大きくなり、正常な電析が困難であった。
一方、溶解性陽極を使用した電析や隔膜を用いて両極室液へ金属イオンを補給する際においても、めっき液や補給液のpHが弱酸性〜アルカリ性の場合は、隔膜内で金属又は金属水酸化物が生成し易く、目詰まりを起こしやすい課題を抱えていた。そのため、極く微量の水素発生しかしていないはずの貴金属イオンからの電析(例えば、Cuの電析)であっても、その限界電流密度(成膜速度)は、陰極室液を有する通常の電気めっきセルに比べて格段に低いことが問題視されていた。
上記のように隔膜を用いた際に電析及び金属イオンの補給が困難な根本的な原因としては、膜内のイオン及び同伴する水の移動性が十分でないこと、即ちイオン導電パスの発達が不十分となり、膜が目詰まりすることが考えられる。特に、銅の電析においては、以下の(1)式のようにCu陽極表面で中途生成した(二価まで酸化されない)一価のCu+イオンと、以下の(2)式のように陰極界面で(金属銅まで還元されずに)生成した一価のCu+イオンの存在とが成膜速度を著しく減じているものと考えられている。
これら一価のCu+イオンは、二価のCu2+イオンよりも桁違いに水酸化物イオンとの溶解度積が小さい。そのため、不安定なCuOHが生成し脱水して、膜内、及び膜/電析面界面でCu2O微粒子として沈殿するものと思われる。また、隔膜内部にCu+イオンが高濃度で存在すると、以下の(3)式に示す不均化反応が起こり、金属Cu微粒子が生成しやすいことも、目詰まり及び短絡の原因と考えられる。
Cu → Cu+ + e-0=0.520V vs. NHE ・・・(1)
Cu2+ + e- → Cu+0=0.153V vs. NHE ・・・(2)
2Cu+ → Cu2+ + Cu ・・・(3)
Cu+ → Cu2+ + e- ・・・(4)
例えば、Cu2+イオンを含む通常の電析では、一般的には空気吹き込み等により(4)式((2)式の逆反応)のように、一価のCu+イオンを再び二価のCu2+イオンに酸化して戻し、両極でのCu2O及びCu微粒子の生成を抑えている。さらに、Cu2O沈殿防止のため、例えば、チオ尿素、SPS(ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド)、ポリエチレンイミンのような微量安定化剤や、アセトニトリル(特許文献5)、アンモニア、エチレンジアミン等の錯化剤を大量に含む浴が検討されているのが現状である。
また、無電解銅めっきにおいては、Cu2+イオンの中間還元種Cu+イオンから生成するCu2OとCuからなる微粒子の生成((3)式の不均化反応)を抑えるため、可溶性のフェロシアン化合物やフェリシアン化合物(例えば、K4[Fe(CN)6]・3H2O等)が添加されている(特許文献6)。
さらに、アンモニア、エチレンジアミン等の錯化剤を含む一価の銅イオンめっき浴、あるいは、イミド及びイミド誘導体、並びにヒダントイン及びダントイン誘導体と亜硫酸ナトリウム等の還元剤を含む中性〜弱アルカリ性の一価の銅イオンめっき浴(特許文献7)が知られている。これら一価銅イオンめっき浴は、Alやはんだ材料の溶解が抑えられ、基材の自由度が増すとともに、二価の銅イオン浴の2倍速度(クーロン効率)で電析されるため、エネルギーコスト的に有利である。しかしながら、一価の銅イオンめっき浴として実用化されているものは、一価銅イオンの安定性が極めて大きいものの、環境負荷が著しく大きいシアン浴以外は無いのが実情である。
即ち、隔膜を利用した電析においては、電析金属イオンの価数によらず隔膜内部において電析金属イオン及びその中間体のイオンを環境負荷が小さい状態で、双方ともに十分に安定化することが求められている。
ところが、例えばめっき液中に一価の銅イオンを安定化する作用を有する溶解度の高い有機ニトリル化合物を1vol%以上の高濃度で大量に添加しても(特許文献5)、隔膜内へ適量の有機ニトリル化合物を均一に拡散させることは極めて困難である。特に、膜厚が数10μmを超える厚い隔膜に拡散させるには、めっき液を高温に加熱して長時間エージングする必要があり、現実的ではない。また、その効果も限定的であり、環境負荷の大きい有機ニトリル化合物を含むめっき浴は、排水処理問題、液の再生に課題がある。また、可溶性フェロシアン化合物やフェリシアン化合物をめっき浴に添加しても、隔膜内での微粒子析出を抑える効果は限定的であることが判明した。
特開2005−248319号公報 特開2012−219362号公報 国際公開第WO2013/125643号 特開2012−237050号公報 特開2008−056968号公報 特開平10−140364号公報 特開2012−237060号公報
本発明が解決しようとする課題は、簡便に金属皮膜を形成すること(特に、金属イオンからマスクレスで金属パターンを形成すること)が可能な電気めっきセル、及びこれを用いた金属皮膜の製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、隔膜を用いて金属イオンの補給を行う場合において、隔膜の目詰まりを抑制することにある。
上記課題を解決するために、本発明に係る電気めっきセルは、
陽極室液を保持するための陽極室と、
前記陽極室と陰極とを隔離するための隔膜と、
前記陽極室液に電流を流すための陽極と、
前記陽極−前記陰極間に電圧を印加するための電源と
を備え、
前記隔膜は、基材と鉄を含む無機ニトリル化合物とを含み、前記陽極室液に含まれる金属イオンを選択的に透過させることが可能なものからなり、
前記隔膜に含まれる前記鉄を含む無機ニトリル化合物の含有量は、前記隔膜の総乾燥重量に対して0.01wt%以上20wt%以下であることを要旨とする。
本発明に係る金属皮膜の製造方法は、
本発明に係る電気めっきセルを用いて、前記陰極の表面に前記金属皮膜を形成する
ことを要旨とする。
本発明に係る電気めっきセルは、隔膜に金属イオンを安定化させる能力の大きな「鉄を含む無機ニトリル化合物」を適量含んでいるため、膜内で金属、金属水酸化物、あるいは金属酸化物が生成し難い。従って、従来では高速成膜が困難であった銅等の金属被膜を導電性基体上に簡便にパターン状に形成できる。
本発明の第1の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図である。 本発明の第2の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図である。 実施例3及び比較例5で得られた隔膜のIRスペクトルである。
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 隔膜]
本発明において、電気めっきセルに用いられる隔膜は、基材と鉄を含む無機ニトリル化合物とを含むものからなる。また、隔膜は、陽極室液に含まれる金属イオンを選択的に透過させることが可能なものからなる。この点が、従来とは異なる。
ここで、「金属イオンを選択的に透過可能」とは、電場をかけた場合に、隔膜内を金属イオンが陽極室から陰極室方向に移動し、対として存在するイオンが移動できない状態であることをいう。
隔膜は、鉄を含む無機ニトリル化合物に加えて、めっき用有機添加剤、膜補強構造体、あるいは、金属皮膜を構成する金属のイオンをさらに含んでいても良い。
[1.1. 隔膜の基材]
隔膜又はその基材が備える必要条件として、以下の(1)〜(4)が挙げられる。
(1)陽極−陰極間に電圧を加えた場合に、めっきする金属イオンを陽極室から陰極室(又は、陰極の表面)に移動させることができる。
(2)非電子導電性である(隔膜上に、金属皮膜が析出しない)。
(3)めっき浴中で安定である(陽極室液又は陰極室液に溶解せず、十分な機械的強度を保持する)。
(4)陽極として可溶性陽極を用いた場合、可溶性陽極で生成した微粒子(陽極スラッジ)の陰極室への拡散を防止できる(アノードバックとして働く)。
これらの条件を満たす隔膜の基材としては、具体的には、
(1)金属イオンを選択的に透過させることが可能な大きさの連通孔(平均孔径100μm以下)を有する微多孔膜、
(2)イオン透過性の固体電解質膜、
などがある。
隔膜の基材は、中性の隔膜でも良いが、目的の電析イオン透過性を有する固体電解質膜が好ましい。隔膜の基材として固体電解質膜を用いると、高速成膜が可能となる。隔膜の基材は、カチオン交換膜が好ましく、特にパーフルオロ系電解質膜が好ましい。上記条件を満たす限りにおいて、隔膜の基材は、有機材料でも良く、あるいは無機材料でも良い。
[1.1.1. 微多孔膜の具体例]
有機材料からなる微多孔膜としては、例えば、
(1)セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリケトン、ポリカーボネート、ポリテルペン、ポリエポキシ、ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニリデン等の有機系ポリマーからなる微多孔膜、
(2)アクリル系樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル系樹脂、カルボキシル基含有ポリアミド系樹脂、ポリアミド酸系樹脂(ポリアミック酸系樹脂)、ポリエーテルスルホン酸樹脂、ポリスチレンスルホン酸樹脂等の固体高分子電解質からなる微多孔膜、
などがある。
有機系の微多孔膜は、1種類の有機材料からなるものでも良く、あるいは、2種以上の有機材料からなるものでも良い。
また、2種以上の有機材料を含む微多孔膜は、2種以上の樹脂膜を接合した積層膜でも良く、あるいは、2種以上の樹脂をポリマーアロイ化した複合膜でも良い。
無機材料を含む微多孔膜としては、例えば、
(1)アルミナ、ジルコニア、シリカ等の無機系セラミックスフィルター、
(2)多孔質ガラス、
(3)ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン製多孔膜に、アルミナ、シリカ等を分散させた有機/無機ハイブリッド膜、
などがある。
微多孔膜の孔径は、金属イオンを選択的に透過させることが可能な大きさである必要がある。金属イオンの選択透過に適した微多孔膜としては、例えば、
(1)孔径が0.001μm〜0.01μmの限外ろ過膜UF、
(2)孔径が0.05μm〜10μmの精密ろ過膜MF
などがある。
なお、孔径が0.002μm以下の逆浸透膜ROは、イオン透過阻止率が高すぎるため、隔膜には適さない。
微多孔膜は、不織布、又は織布のどちらでも良く、電界紡糸(エレクトロスピニング)法で作製したナノファイーバーからなるものでも良い。
また、微多孔膜は、
(1)有機ポリマーを溶融した後に、押し出し及び延伸成型した膜、あるいは、
(2)有機ポリマーを溶剤に溶かした後に、溶液をPET基材等に塗布し、塗膜から溶剤を揮発させる「キャスト法」で得た膜、
でも良い。
さらに、微多孔膜は、無機系多孔質セラミックスでも良い。
これらの微多孔膜は、必要に応じて、
(1)ゴム状弾性体を接合して機械的強度を補強すること、
(2)網状多孔体を芯材として機械的強度を補強すること、
(3)イオン導電部の表面の一部を絶縁被覆体で被覆することによって、イオン導電部をパターン成形すること、又は、
(4)(a)電析すべき金属イオンを電気めっきセルに十分に与えて電析をスムーズに進行させるため、及び(b)陽極と陰極の極間距離を十分にとって電析物によるショート(短絡)を防ぐために、微多孔膜とイオン交換膜とを積層すること、
が可能である。
[1.1.2. 固体電解質膜の具体例]
電析するべきイオンが金属イオンなどのカチオンである場合において、隔膜の基材として固体電解質膜を用いる時には、隔膜の基材は、陽イオン交換基(カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基など)を有するカチオン交換膜が好ましい。
一方、電析するべきイオンがアニオン(例えば、亜鉛酸イオン、スズ酸イオン等の酸素酸アニオン、シアンイオン錯体など)である場合において、隔膜の基材として固体電解質膜を用いる時には、隔膜の基材は、陰イオン交換基(例えば、四級アンモニウム基)を有するアニオン交換膜が好ましい。
カチオン交換樹脂としては、例えば、
(1)カルボキシル基含有アクリル系樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル系樹脂、カルボキシル基含有ポリアミド系樹脂、ポリアミド酸系樹脂(ポリアミック酸系樹脂)などのカルボキシル基含有樹脂、
(2)パーフルオロスルホン酸樹脂などのスルホン酸基含有樹脂、
(3)ホスホン酸基含有樹脂、
などがある。
金属水酸化物の沈殿が起き難く、耐熱性、耐薬品性、及び機械的強度が大きい観点から、カチオン交換膜は、フッ素系カチオン交換膜が好ましい。その中でも、パーフルオロスルホン酸樹脂で高酸基密度(低EW)のものが特に好ましい。
これらの樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、隔膜は、これらの2種以上の樹脂を接合し又はポリマーアロイ化したものでも良く、あるいは、これらの樹脂と微多孔膜、不織布、織物等とを積層又は複合化したものでも良い。
さらに、隔膜は、アルミナ、シリカ等を固体高分子電解質内部に分散させた有機/無機ハイブリッド膜でも良い。
[1.1.3. 固体電解質膜の利点]
以下に、隔膜の基材として、特に固体電解質膜が好ましい理由を記す。これは、原理的に固体電解質膜を利用すると、中性隔膜(微多孔膜)を用いた場合に比べ、高速めっきが可能となるためである。
限界電流密度IL(最大電析速度)は、金属イオンの拡散定数D、価数z、電析イオン濃度C、電析面での拡散厚さδ、電析イオンの輸率αとにより(5)式で表される(「ニッケルめっきの限界電流密度について」、星野重夫他、金属表面技術1、vol.23、No.5、1972、p263)。
L=DzFC/(δ(1−α)) ・・・(5)
(5)式より、めっきの高速化には、電析イオンの輸率αをできるだけ大きくすることが有効であることがわかる。
中性の隔膜(微多孔膜)を用いた電気めっきでは、隔膜中の金属イオンの輸率αは、α=0.5前後である。一方、固体電解質膜はイオンの輸率が大きく、カチオン交換膜ではカチオン輸率αが1に近いものが存在する。そのため、(5)式より、大きな限界電流密度ILが得られることが理解される。
ところで、固体電解質にあっては、αの値が1よりかなり小さいものが存在する。この場合、対イオンとして本来動かないはずのイオンが膜を透過し、漏洩する。例えば、カチオン交換膜を隔膜として中間に置き、純水と陽極室液とを隔てた場合、外部電場がない場合でも次第にアニオンが陽極室液から純水側に漏洩してくる。特に、アニオンの中でも水酸化物イオンOH-は、拡散速度が他のアニオンに比べて著しく大きく、漏洩しやすい。
また、このOH-の漏洩量は、陽極室液のpHが高く、高温で長時間放置する場合に多くなる。これは、pHが高い高温の陽極室液で長時間電析した場合、陰極や膜内で金属水酸化物が沈殿しやすくなることを示唆している。
なお、上記のようにα<1の場合、電気的中性を保つために、カチオンもアニオンと対になり、電析面に漏洩してくる。例えば、緩衝剤成分又は不純物成分として陽極室液中に一般的に含まれているNa+、K+等のアルカリ金属イオンは、水和イオン半径が小さく、膜中の拡散速度が大きいため、OH-と対になって漏洩しやすい。即ち、陽極室液及び隔膜中にアルカリ金属イオン成分を含んだ状態において、隔膜の金属イオンの輸率が小さくなると、電析界面にアルカリ(NaOH、KOH等)が透過し、金属水酸化物が沈殿しやすくなる。
これらの理由で、目的イオンの輸率(電析イオンがカチオンの場合はカチオンの輸率、電析イオンがアニオンの場合はアニオンの輸率)が、できるだけ1に近い隔膜を用いるのが好ましい。以下、本発明の取り組みについて、さらに詳しく述べる。
[1.2. 鉄を含む無機ニトリル化合物]
[1.2.1. 鉄を含む無機ニトリル化合物の作用]
本発明における隔膜は、鉄を含む無機ニトリル化合物を含んでいるため、金属イオンの金属水酸化物生成を抑制する作用を持つ。
例えば、電析物としてCuを、金属水酸化物としてCuOH、Cu(OH)2を考えると、その沈殿生成反応は、以下の(6)式〜(8)式の平衡が成立していると理解される。
Cu2+ + 2OH- → Cu(OH)2 ・・・(6)
sp=[Cu2+]・[OH-]2=5.47×10-16
Cu+ + OH- → CuOH ・・・(7)
sp=[Cu+]・[OH-]<1×10-20
OH- + H+ → H2O ・・・(8)
w=[H+]・[OH-]=1.0×10-14
すなわち、銅水酸化物の溶解度積Kspと水のイオン積Kwとから、銅イオンを水酸化物として沈殿させない銅イオン濃度とpHとが計算される。(6)式及び(7)式から明らかなように、水酸化物を生成させないためには、電析面での銅イオン濃度(特に、Kspの値が小さく、沈殿しやすい一価Cu+イオンの濃度)をできるだけ減らして、かつ、OH-濃度を減らす(H+濃度を増やす)ことが必要である。
本発明で用いる隔膜は、Cu+イオンを安定化できるため(遊離のCu+イオン濃度(活量)を減らし、(7)式の平行を左に偏らせることにより)、CuOH又はCu2Oの沈殿を抑制することができる。
なお、上記は極めて沈殿しやすい一価Cu+イオンについて記したが、Cu+イオンと同様に、Cu2+イオン等の金属イオンの安定化も可能である。
鉄を含む無機ニトリル化合物は、金属イオン(特に、Cu+イオン)を錯安定化する作用が大きいと考えられる。この理由は、有機ニトリル化合物の場合、それらが持つニトリル官能基C≡NがCu+イオンを配位安定化する効果しか持たないのに対し、鉄を含む無機ニトリル化合物の場合、錯体を構成するFe2+又はFe3+が酸化・還元反応を司るメディエータ(仲介者)として働き、(4)式のようにCu+を酸化させて隔膜内でのCu及びCu2O微粒子の生成を抑える働きを持つからと考えられる。
また、鉄を含む無機ニトリル化合物は、毒性や環境負荷の大きい遊離のシアノイオンや有機ニトリル化合物を含まないので、作業環境並びに廃棄物処理の問題が少ない。
なお、(4)式の反応は、他の施策(酸素や空気吹き込み、あるいは、過酸化水素、鉄等を含む化合物の添加)でも右に進むが、装置の複雑化や浴の厳密な管理を招く。そのため、これらの施策は、特に陰極室にめっき液の無いめっきセルでは現実的ではない。
[1.2.2. 鉄を含む無機ニトリル化合物の具体例]
「鉄を含む無機ニトリル化合物」とは、鉄イオンとC≡Nで表されるニトリルイオン(C≡N+)との複合錯体を有する無機錯化合物をいう。
鉄を含む無機ニトリル化合物としては、例えば、ニトリル官能基とH+イオン以外の無機イオンとがイオン結合で結ばれた塩が挙げられる。隔膜には、いずれか1種の鉄を含む無機ニトリル化合物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
例えば、水に可溶性の塩としては、
(a)中心Feイオンの価数がII価のフェロシアン化錯体M4Fe(CN)6(但し、M=NH4 +、Li+、Na+、又はCs+)、
(b)中心Feイオンの価数がIII価のフェリシアン化錯体M3Fe(CN)6(但し、M=NH4 +、Li+、Na+、又はCs+)、
(c)フェロシアン化錯体又はフェリシアン化錯体中の金属イオンMの一部をアルカリ金属イオン、遷移金属イオン、希土類金属イオン等で置き換えた複合フェロシアン化錯体又は複合フェリシアン化錯体、
などが挙げられる。
鉄を含む無機ニトリル化合物は、水に可溶性のものでも良いが、隔膜内に固定しやすい難溶性のものがより好ましい。特に、
(a)Fe4[Fe(CN)6]3(プルシアンブルー、別名:ベルリンブルー)、Fe3[Fe(CN)6]2(タータンブルー)、Fe2[Fe(CN)6](ベルリンホワイト)、又は、
(b)これらの鉄イオン(カチオン部)の一部を他のカチオンで置換した難溶性無機ニトリル化合物
が好ましい。
[1.2.3. 鉄を含む無機ニトリル化合物の含有量]
鉄を含む無機ニトリル化合物の含有量が少なすぎると、隔膜内における金属イオンの輸送をスムーズにする効果や、金属イオン(特に、Cu+イオン)の安定化効果が見られない。従って、その含有量は、隔膜の総乾燥重量の0.01wt%以上が好ましい。その含有量は、好ましくは、0.02wt%以上、さらに好ましくは、0.05wt%以上である。
一方、その含有量が過剰になると、隔膜の金属イオン導電性を阻害して浴電圧を増加させやすい。また、鉄を含む無機ニトリル化合物から一部めっき浴へ溶出したイオンが、電析を妨害するため好ましくない。従って、その含有量は、隔膜の総乾燥重量の20wt%以下が好ましい。その含有量は、好ましくは、10wt%以下、さらに好ましくは、2wt%以下である。
[1.2.4. 鉄を含む無機ニトリル化合物の固定方法]
鉄を含む無機ニトリル化合物を隔膜内に固定する方法としては、
(a)隔膜の基材を成膜した後、基材内に鉄を含む無機ニトリル化合物を固定する方法、
(b)隔膜の成膜過程で、基材に鉄を含む無機ニトリル化合物を添加する方法、
などがある。
これらの方法は、いずれも、後述するめっき用有機添加剤の固定方法としても用いることができる。
[A. 後工程で鉄を含む無機ニトリル化合物を固定する方法]
[A.1. 第1の方法(含浸法)]
後工程で鉄を含む無機ニトリル化合物を固定する第1の方法は、成膜した基材に鉄を含む無機ニトリル化合物を溶解又は分散させた溶液を接触(浸漬、スプレー等)させて膨潤含浸させ、その後、余剰の鉄を含む無機化合物を温水洗浄する方法である。
溶媒には、水や有機溶媒(例えば、エタノール、ブチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール溶媒)を用いることができる。特に、溶媒として有機溶媒を用いると、基材が膨潤し、鉄を含む無機ニトリル化合物の固定量を増やすことができる。
[A.2. 第2の方法(イオン交換法)]
後工程で鉄を含む無機ニトリル化合物を固定する第2の方法は、成膜した基材に鉄を含む無機ニトリル化合物をイオン交換により固定する方法である。
例えば、基材がカチオン交換膜からなる場合、
(a)金属カチオン(例えば、Fe2+(II価)イオン又はFe3+(III価)イオン)とカチオン交換膜とをイオン交換し、
(b)引き続き、基材と可溶性のフェロシアン塩又はフェリシアン塩を含む溶液とを接触させる
ことにより、難溶性の鉄を含む無機ニトリル化合物を基材に固定することができる。
すなわち、鉄イオンをイオン交換したカチオン交換膜を、フェロシアン錯体又はフェリシアン錯体を形成する金属イオンを含む溶液に浸漬、スプレー塗布等の方法で接触させる。イオン交換処理に要する時間は、室温の場合、プロトンが金属イオンにほぼ100%交換されるためには、8hr以上を必要とする。一方、40℃以上の温度で加温すると、2〜4時間程度でイオン交換が進行する。そのため、イオン交換処理は、加温して行うのが望ましい。
微量の金属イオンを交換する場合は、処理液に含まれる対アニオンは微量であるため、電析を阻害することはなく、特に水洗を必要としない。但し、電解質のプロトンの1%以上をイオン交換する場合には、対アニオンの電析面への吸着による電析効率の低下や電析物の粗雑化を招く恐れが生じる。このような高濃度のイオン交換を行う場合には、処理液との接触後、十分にカチオン交換膜を酸洗浄及び水洗し、余剰の可溶性イオン成分を除去することが好ましい。
例えば、(9)式に示すように金属カチオンとしてFe2+をスルホン酸基R−SO3Hと交換する。次に、(10)式に示すようにFe(CN)6 3-イオンと接触させると、Fe3[Fe(CN)6]2(フェリシアン酸鉄(タータンブルー))の難溶性錯体が形成される。
Fe2++2R−SO3H → (R−SO3)2Fe+2H+ ・・・(9)
6(R−SO3)2Fe+12H++4Fe(CN)6 3-
12R−SO3H+2Fe3[Fe(CN)6]2↓ ・・・(10)
また、Fe2+の代わりにFe3+を、Fe(CN)6 3-イオンの代わりにFe(CN)6 4-イオンを用いれば、Fe4[Fe(CN)6]3(フェロシアン酸鉄(プルシアンブルー))の難溶性錯体が形成される。
同様に、金属カチオンとしてAg+あるいはCe3+をスルホン酸基と交換し、その後、Fe(CN)6 3-イオンと接触させると、Ag3[Fe(CN)6]、あるいはCe[Fe(CN)6]が形成される。
すなわち、最初に高分子電解質とイオン交換した金属カチオンをZ1(n価)とし、フェロシアンイオンFe(CN)6 4-と接触させると、(Z1)m[Fe(CN)6]k(但し、n×m=4×k)のフェロシアン錯体を形成することができる。
また、最初に高分子電解質とイオン交換した金属カチオンをZ1(n価)とし、フェリシアンイオンFe(CN)6 3-と接触させると、(Z1)p[Fe(CN)6]q(但し、n×p=3×q)のフェリシアン錯体を形成することができる。
なお、上記の錯体においては、Z1として一種のみの金属イオンの置換を例にとって示したが、例えば、CsCe[Fe(CN)6]、Cs2Co[Fe(CN)6]、K3Ag[Fe(CN)6]のように、二種以上の金属イオンの置換によっても良い。
また、例えば、Co3[Fe(CN)6]2・H2O、Co2[Fe(CN)6]・2H2Oのように、結晶水を含んだ錯体であっても良い。
さらに、2種以上の金属イオン(M1、M2、M3…)の置換においては、これらの金属イオンは、必ずしも整数比の錯塩を形成するものではなく、アニオンとの電気的中性が保たれれば、任意の組成の固溶体を形成する場合もある。例えば、Cu2+、Ag+、Fe3+イオンと、Fe(CN)6 4-との反応であれば、Cu3AgFey[Fe(CN)6]2(x+y=1;但し、結晶水を省いて表記)と表せる。
上記反応は、具体的には、基材と溶液とを40℃以上で10分以上加温して接触させ、水洗して余剰のアニオンを除去することにより行う。また、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、あるいは酢酸、ギ酸、シュウ酸、グリコール酸等の有機酸を含む水溶液に隔膜を浸漬してから水洗浄を行い、余剰のカチオン、アニオンを除去するのが好ましい。これにより、電解質を酸体化し、かつ、難溶性の鉄を含む無機ニトリル化合物のみを隔膜に含ませることができる。
[A.3. 第3の方法(電解法)]
後工程で鉄を含む無機ニトリル化合物を固定する第3の方法は、成膜した基材に鉄を含む無機ニトリル化合物を電解法により固定する方法である。
フリーのFe3+(III価)イオンと、Fe3+(III)を中心イオンとするフェリシアン化イオンFe(CN)6 3-とを含む溶液を混合調製し、陽極と陰極との間に基材を挟んで電解すると、陰極でフェリシアン化イオンFe(CN)6 3-の一部が還元され、フェロシアン化イオンFe(CN)6 4-が生成する。それゆえ、(11)式より、基材内あるいは基材と陰極との界面に難溶性のプルシアンブルーFe4[Fe(CN)6]3が生成する。
3Fe(CN)6 4-+4Fe3+ → Fe4[Fe(CN)6]3 ・・・(11)
または、Fe2+(II価)イオンと、Fe2+(II価)のフェロシアン化イオンFe(CN)6 4-とを含む溶液を混合調製し、陰極と陽極との間に基材を挟んで電解すると、陽極でFe(CN)6 4-の一部が酸化されたフェリシアン化イオンFe(CN)6 3-が生成する。それゆえ、(12)式より、基材内あるいは基材と陰極との界面に難溶性のタータンブルーFe3[Fe(CN)6]2が生成する。
この際、隔膜と電極とは、ゼロギャップ状態(密着)して電解を行うことが隔膜内への鉄を含む無機ニトリル化合物の添加量を増やすことができ好ましい。また、上記イオン交換法と電解法とを組み合わせて隔膜に無機ニトリル化合物を固定しても良い。
[B. 成膜過程で鉄を含む無機ニトリル化合物を固定する方法]
成膜過程で鉄を含む無機ニトリル化合物を固定する方法としては、
(a)キャスト成膜法、
(b)溶融押し出し成型法
などがある。
[B.1. 第1の方法(キャスト成膜法)]
成膜過程で鉄を含む無機ニトリル化合物を固定する第1の方法は、隔膜の基材の構成材料を溶解させた溶液に、鉄を含む無機ニトリル化合物を溶解又は分散させ、基板上にキャストする方法(キャスト成膜法)である。キャスト成膜後、溶媒を除去する。
基板の材料は、特に限定されない。基板としては、
(a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子フィルム、
(b)ガラス、
(c)Al板等の金属板、
などがある。
鉄を含む無機ニトリル化合物の粒度は、なるべく細かいもの(平均粒径で1μm以下であるもの)が均一分散しやすいことから好ましい。
キャスト成膜として望ましい溶媒は、一般に、水と、アセトニトリル、アルコール、グリコール、セロソルブ(グリコールエーテル)などの親水性有機溶媒とを含む混合溶媒(水−親水性有機溶媒の混合溶媒)である。ここでの有機溶媒は、完全相溶タイプの溶媒が好ましい。親水部を発達させるためには、水/セロソルブ系、又は、水/t−ブチルアルコール系の混合溶媒が特に好ましい。また、アセトニトリル等のニトリル系溶媒は、Cu+イオンを安定化させる作用があるため、隔膜に残存したとしても問題にならず、むしろCu2Oの生成防止の観点から特に好ましい。
キャスト成型後、膜を乾燥させる。乾燥温度は、基材の構成材料や鉄を含む無機ニトリル化合物の種類に応じて最適な温度を選択する。
例えば、基材が固体高分子電解質からなる場合において、乾燥温度が低すぎると、焼成不足となり、含水状態での膜強度の低下が甚だしい。従って、乾燥温度は、120℃以上が好ましい。乾燥温度は、さらに好ましくは、130℃以上である。
一方、乾燥温度が高すぎると、酸基の脱離が始まり、膜のイオン伝導性が低下する。従って、乾燥温度は、180℃以下が好ましい。乾燥温度は、さらに好ましくは、150℃以下である。
[B.2. 第2の方法(溶融押し出し法)]
成膜過程で鉄を含む無機ニトリル化合物を固定する第2の方法は、隔膜の基材の構成材料に鉄を含む無機ニトリル化合物を加えて加熱混練し、押し出し成型してフィルム化する方法(溶融押し出し法)である。
なお、隔膜の基材として、イオン交換膜を用いる場合には、押出成形時に電解質ポリマーを用いるのではなく、電解質の前駆体ポリマーと鉄を含む無機ニトリル化合物の粉体とを混合して溶融押し出し成形し、その後に加水分解処理を行って所望のイオン交換膜を成形してもよい。
[1.3. 膜補強構造体]
隔膜は、基材及び鉄を含む無機ニトリル化合物に加えて、さらに膜補強構造体を含んでいても良い。隔膜が膜補強構造体を含む場合、隔膜の強度や含水時の寸法変化率を抑えることができる。
膜補強構造体の材料や形状は、特に限定されない。膜補強構造体としては、
(a)ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等からなる不織布、織布、若しくは、メッシュ、
(b)延伸多孔化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製多孔膜
などがある。
寸法変化を抑えられ、電解質との濡れ性が良好である観点から、PTFE多孔膜が好ましい。
また、セルロース製不織布等の化学修飾可能な材料の表面官能基(例えば、OH基)を利用して、公知の方法でニトリル化(シアノ化)したものを膜補強構造体として用いても良い。シアノ化のための試薬としては、例えば、2−シアノエチルトリメトキシシラン(CES;(OCH3)3−Si−CH2CH2−CN)、3−シアノプロピルトリメトキシシラン[CPS;(OCH3)3−Si−CH2CH2CH2−CN)等のシアノシラン系カップリング剤などがある。
あるいは、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル等のニトリル官能基を持つポリマーの不織布、パンチングシート、メッシュシート等を、ニトリル官能基を持つ膜補強構造体として用いても良い。これら有機ニトリル化合物を含む膜補強構造体は、本発明の鉄を含む無機ニトリル化合物と相乗して金属イオン(例えば、Cu+イオン)を安定化することができるためより好ましい。
[1.4. めっき用有機添加剤]
隔膜は、基材及び鉄を含む無機ニトリル化合物に加えて、さらにめっき用有機添加剤を含んでいても良い。
[1.4.1. めっき用有機添加剤の概要]
本発明において、「めっき用有機添加剤」とは、析出皮膜の平滑性(光沢)向上や、ピット(マクロな欠陥)生成防止機能を持つ有機化合物をいう。
めっき用有機添加剤は、イオン性化合物でも良く、あるいは、非イオン性化合物でも良い。また、めっき用有機添加剤は、水溶性の化合物でも良く、あるいは、水に対して難溶性の化合物でも良い。
ここで、「イオン性化合物」とは、酸、塩基、及び、これらの塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)のようなイオン結合性の化合物をいう。
「非イオン性化合物」とは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのように電荷を持たない共有結合性の化合物をいう。
「水溶性」とは、室温での水への溶解度が1g/Lを超えることをいう。
「水に対して難溶性」とは、室温での水への溶解度が1g/L以下であることをいう。
例えば、ニッケルめっきの場合、めっき用有機添加剤としては、具体的には、
(1)めっき皮膜の結晶を微細化し、光沢を付与する一次光沢剤(例えば、ベンゼンスルホン酸、サッカリンなど)、
(2)めっき皮膜の平滑化機能を持つ二次光沢剤(例えば、ホルムアルデヒド、ブチンジオールなど)、
(3)めっき浴の表面張力を下げて濡れ性を改善し、ピットを防止する界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、
(4)析出金属イオンに強く配位して水酸化物の沈殿生成を防止する錯化剤(例えば、有機酸、アミノカルボン酸など)、
が挙げられる。
その他の添加剤としては、チオ尿素、ベンゾチアゾール、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ボロン酸、プロパギルアルコール、クマリン等がある。これらは、いずれも平滑性を付与する有機添加剤(二次光沢剤)である。
Cuめっきにおいても、通常用いられる有機添加剤を隔膜に添加して用いることができる。
めっき用有機添加剤は、通常の電気めっきにおいては、めっき浴に適量添加され、その消耗量を管理する必要がある。しかし、添加剤の消耗量の管理は、一般に煩雑なものである。
本発明においては、必要最小限量の添加剤が隔膜に添加される。そのため、陰極室液がある場合には、隔膜から添加剤が徐々に溶出するため、効果を長期間発揮できる。また、陰極室液が無い場合でも、隔膜に固定された添加剤は、析出金属の表面と強力な相互作用を発揮し、析出金属の物性及び平滑性を改善することができる。
すなわち、有機添加剤が対極(陽極)で酸化分解したり、被めっき物(陰極)で還元されて消耗する速度を極めて小さくすることができる。従って、有機添加剤の濃度管理は不要である。また、有機添加剤をめっき浴へ過剰に添加した場合に起きる電析効率の低下や、電極で分解した生成物がめっき浴中に濃縮したことにより起きる皮膜の柔軟性の低下やはんだ付け性の低下が起きることがない。
めっき用有機添加剤は、電気めっきにおいて通常一般的に用いられている水溶性の化合物が好ましいが、水に難溶性の化合物でも良い。例えば、サッカリンは、比較的水に難溶性であるが、有機溶媒には良く溶ける。そこで、サッカリンを有機溶媒に溶かして隔膜に含浸させ添加すれば、そこから添加剤が陰極室液に徐々に溶け出す。その結果、光沢作用を長期間発揮できる。これは、水に易溶のサッカリンナトリウム(Na塩)を浴に添加した場合には、成し得ない利点である。
なお、このめっき用有機添加剤の隔膜への添加処理は、別個に行うこともできるが、上述した鉄を含む無機ニトリル化合物の添加処理と同時に行うことも可能である。
[1.4.2. めっき用有機添加剤の具体例]
Cuめっき用の添加剤としては、例えば、
(a)塩化物イオン、硝酸イオン、
(b)ポリオキシエチレン系又はポリオキシプロピレン系の非イオン系界面活性剤(例えば、PEG、PPGなど)やゼラチン、
(c)SPS(ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド)、メルカプトベンゾチアゾールプロパンスルホン酸、チオ尿素、ジメルカプトチアゾール(DMTD)モノマー及びダイマーなどの硫黄系有機化合物、
(d)ヤヌスグリーン等のフェナジン系染料、アミン、アンモニア、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピロリドン等の含N化合物、
などがある。
これらの添加剤は、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、添加剤は、めっき液の表面張力を下げて、
(1)陰極から発生する水素ガス、又は、
(2)不溶性電極(陽極)から発生する酸素ガス
の脱泡を促す作用が大きい物質(いわゆる「界面活性剤」)でも良い。
隔膜としてカチオン交換膜を用いた場合において、添加剤として界面活性剤を用いる時には、界面活性剤は、カチオン界面活性剤又は両面界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、カチオン交換膜の酸基との静電的相互作用があるため、カチオン交換膜に固定されやすい。
一方、隔膜としてアニオン交換膜を用いる場合において、添加剤として界面活性剤を用いる時には、界面活性剤は、アニオン界面活性剤又は両性界面活性剤が好ましい。
特に、隔膜としてカチオン交換膜を用い、添加剤としてカチオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いるのが好ましい。
カチオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩(例えば、花王(株)製:アセタミン24、アセタミン86)、第四級アンモニウム塩(例えば、花王(株)製:コータミン24P、コータミン86P コンク、コータミン60W、コータミン86W、コータミンD86P、サニゾールC、サニゾールCB−50、三洋化成工業(株)製:オスモリンDA−50、カチオンDDC−50、カチオンDDC−80、日油(株)製:ニッサンカチオンシリーズ)が挙げられる。
フッ素系カチオン界面活性剤としては、AGCセイミケミカル(株)製:サーフロンS−221、S−121、3M社製:フロラーFC−134、大日本インキ工業(株)製:メガファックF−150が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン(例えば、花王(株)製:アンヒトール20BS、アンヒトール24B、アンヒトール86B、アンヒトール20Y−B)、アルキルアミンオキサイド(例えば、花王(株)製:アンヒトール20N)が挙げられる。
また、両性界面活性剤として、三洋化成工業(株)製:レボン15、レボンLAG−40、レボン50、レボンS、レボンT−2、日油(株)製:ニッサンアノンシリーズが挙げられる。
フッ素系両性界面活性剤としては、AGCセイミケミカル(株)製:サーフロンS−231、S−232、S−233、3M社製:フロラーFX−172、大日本インキ工業(株)製:メガファックF−120が挙げられる。
[1.4.3. めっき用有機添加剤の添加量]
通常の電気めっきで使用されるめっき用有機添加剤の量は、数100ppm〜数1000ppmである。
これに対し、添加剤をめっき浴に添加して隔膜に含浸吸着させる場合(後述の「直接法」)、良好な金属皮膜を得るために必要な添加剤の量は、通常の電気めっき法に比べて大幅に少ない。例えば、隔膜の基材がイオン交換膜からなり、めっき用有機添加剤がイオン性である場合、膜のイオン交換容量の0.1〜50%と結合(イオン交換)するように、イオン性の添加剤量を調節することが望ましい。
例えば、膜厚:25μm、大きさ:30mm×30mm、イオン交換容量:1mEq/gであるイオン交換膜と、70gのめっき浴とが接する場合を考える。分子量:300程度のイオン性有機添加剤が膜イオン交換基と1:1にイオン結合する場合、膜イオン交換容量の0.1〜50%と結合(イオン交換)する添加剤の量は、
(1)70gのめっき浴重量に対して重量割合で0.2ppm〜90ppmに、また、
(2)膜重量に対して0.004wt%〜2wt%に、
それぞれ相当する。
添加剤の添加量が膜イオン交換容量の0.1%未満では、添加剤の効果が見られない。添加剤が膜イオン交換容量の50%を超えると、膜のイオン導電性が低下して、浴電圧が増加しすぎるため好ましくない。
[1.4.4. めっき用有機添加剤の添加方法]
めっき溶融機添加剤の添加方法について、Nを含む有機化合物を例に説明する。
[A. 第1の方法(直接法)]
第1の方法は、隔膜に直接添加するのではなく、間接的にめっき浴に必要量を溶解させ、隔膜と接触させ、含浸吸着させる方法(直接法)である。
特に、隔膜として、カチオン交換膜を用いた場合には、膜のイオン交換容量(アニオン)と添加剤のカチオン部分N+とが強固に結びつき、固定される。
なお、この「直接法」は、後述する「イオン交換処理法」よりも簡便であるが、添加剤の対イオンがめっき浴に残存してしまう欠点と、必ずしもめっき浴に添加した添加剤の100%が隔膜に吸着(含浸固定)しない欠点とがある。この観点から、上記「直接法」よりも、後述する膜に予め添加する方法が好ましく、その中でも特に「イオン交換処理法」が好ましい。
[B. 第2の方法(隔膜に予め添加する方法)]
第2の方法は、予め隔膜に添加剤を添加する方法である。これには、大きく分けて、以下の4つの方法がある。
(1)イオン交換処理法。
(2)有機溶剤含浸法(含浸法)。
(3)キャスト成膜法。
(4)溶融押し出し法。
これらの方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
これらの方法を用いてめっき用有機添加剤を隔膜に添加する場合、めっき用有機添加剤は、上述した鉄を含む無機ニトリル化合物とは別個に添加しても良く、あるいは、鉄を含む無機ニトリル化合物と同時に添加しても良い。
[1.5. 金属イオン]
[1.5.1. 皮膜を構成する金属イオン]
隔膜は、鉄を含む無機ニトリル化合物に加えて、金属皮膜を構成する金属のイオンをさらに含んでいても良い。隔膜に金属イオンを添加する方法としては、
(1)隔膜を作製した後、隔膜に金属イオンを含有する溶液を含浸させる方法、
(2)隔膜の基材と金属イオンを含有する化合物とを溶媒に溶解又は分散させ、この溶液を適当な基板の表面に塗布し、溶媒を除去する方法、
などがある。
隔膜に金属イオンを添加するための化合物は、水溶性金属化合物が好ましい。また、隔膜に金属イオンを添加するための溶液は、陽極室液と同様の組成を有する溶液が好ましい。水溶性金属化合物及び陽極室液の詳細については、後述する。
[1.5.2. その他の金属イオン]
後述する陽極室液でのNa+、K+、Cs+イオンの制限と同様の考え方から、隔膜内でのNa+、K+、Cs+イオンの重量含有率は、1%以下(酸基交換率50%以下)が好ましい。一般に、カチオン交換膜としては、酸基の100%がNa+等のアルカリイオンで交換されたもの(Na体)が市販されている。しかしながら、このような隔膜を用いて電析すると、アルカリ金属イオンは、電析面へ漏洩し易いため、金属水酸化物の生成を助長し、好ましくない。
従って、Na+で交換されていないカチオン交換膜(H体)、又は酸基の50%以下がアルカリイオンで交換されているカチオン交換膜を用いるのが好ましい。また、カチオン交換膜は、電析の前に、膜を硫酸、硝酸、塩酸等の強酸で予め酸洗浄しておくことが、金属水酸化物の生成を抑制するために更に好ましい。
[1.6. 隔膜の膨潤処理]
[1.6.1. 概要]
隔膜は、親水性有機溶媒による膨潤処理が施されたものが好ましい。膨潤処理を行うことで、隔膜の親水部パスが発達し、隔膜内での金属水酸化物の生成を抑制できる。この場合、電析界面(隔膜/陰極界面)の連続性が良好となり、十分な電気浸透水によって隔膜を含水させることができるため、結果的に電析イオンの輸率が向上する。すなわち、陰極上で水素が副生成した場合であっても、電析界面で空隙が生じて膜が渇き、電析不良となることを防ぐことができる。
ここで、「膨潤処理」とは、隔膜の基材を親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒に浸漬する処理をいう。膨潤処理用の溶媒には、鉄を含む無機ニトリル化合物やめっき用有機添加剤が含まれていても良い。すなわち、膨潤処理は、添加剤の添加とは別個に行っても良く、あるいは、添加剤の添加と同時に行っても良い。
有機溶媒で膨潤処理を行った後、膜内に有機溶媒が多量に残留していると、イオン伝導性を阻害する。そのため、膨潤処理に用いる有機溶媒は、水への溶解度が大きいもの(すなわち、親水性有機溶媒)が好ましい。有機溶媒は、特に、水と完全相溶するものが好ましい。親水性有機溶媒は、膨潤処理後の水置換が容易であるので、膨潤処理用の有機溶媒として好適である。
[1.6.2. 親水性有機溶媒の具体例]
親水性有機溶媒としては、例えば、低分子量のアルコール、グリコール、ケトン、エーテル、グリコールエーテル、ニトリル、アミド、スルホキシド、含N有機溶媒、含S有機溶媒、有機酸等が挙げられる。これらの親水性有機溶媒は、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
親水性有機溶媒の中でも、水と任意の割合で混じり合う(相溶する)ものとしては、
(a)メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール、
(b)エチレングリコール、プロピレングリコール等の低分子量グリコール、
などが挙げられる。
ケトンとしては、アセトンが挙げられる。
エーテルとしては、THF、1,2−ジメトキシエタン(モノグリム、ジメチルセロソルブ)、1,4−ジオキサンが挙げられる。
グリコールエーテルとしては、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、エチルセロソルブ(エチレングリコールモノエチルエーテル)、ブチルセロソルブ(2−ブトキシエタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル)が挙げられる。
含N有機溶媒としては、アセトニトリル、プロパンニトリル、DMF(ジメチルフォルムアミド)、DMA(ジメチルアセトアミド)が挙げられる。
含S有機溶媒としては、DMSO(ジメチルスルホキシド)が挙げられる。
有機酸としては、ギ酸、酢酸が挙げられる。
上記溶媒の中でも、前記親水性有機溶媒は、ニトリル系溶媒(アセトニトリル、プロパンニトリルなど)が好ましい。その中でもアセトニトリルは、Cu+を安定化させる作用が大きく、安価であるため、特に好ましい。
[1.6.3. 処理条件]
膨潤処理は、室温で行っても良く、あるいは、加温下で行っても良い。一般に、膨潤処理の温度が高くなるほど、イオン導電パスが発達しやすくなる。膨潤処理時間を短縮するためには、膨潤処理の温度は、40℃以上が好ましい。
一方、膨潤処理温度が高すぎると、過度に膨潤が進行し、膜強度の低下を引き起こす。また、隔膜中のイオン交換基が脱落するおそれもある。従って、膨潤処理温度は、180℃以下が好ましい。
膨潤処理の時間は、膨潤処理温度に応じて、最適な時間を選択する。一般に、膨潤処理温度が高くなるほど、短時間で目的とするイオン導電パスを発達させることができる。
さらに、膨潤処理は、常圧下で行っても良く、あるいは、加圧容器中において加圧下で行っても良い。
[1.7. 隔膜の含水処理]
[1.7.1. 概要]
隔膜は、上記親水性有機溶媒による膨潤処理に加えて、含水処理が施されたものでも良い。膨潤処理後、含水処理前に、隔膜を乾燥させても良い。
ここで、「含水処理」とは、膨潤処理後の膜を水又は水蒸気と接触させる処理をいう。含水処理は、具体的には、膨潤処理後の膜を水に浸漬し、又は、膨潤処理後の膜を水蒸気に曝すことにより行う。含水処理は、脱溶媒処理(水置換処理)も兼ねている。この際、加圧容器を用いたり超音波を照射して、膨潤処理及び含水処理を加速しても良い。また、含水処理用の水には、上述した鉄を含む無機ニトリル化合物やめっき用添加剤が含まれていも良い。
[1.7.2. 処理条件]
含水処理は、室温で行っても良く、あるいは、加温下で行っても良い。一般に、含水処理の温度が高くなるほど、イオン導電パスが発達しやすくなる。含水処理時間を短縮するためには、含水処理の温度は、40℃以上が好ましい。含水処理の温度は、さらに好ましくは100℃以上である。すなわち、含水処理は、沸騰水中で膜を浸漬若しくは還流するか、あるいは、膜を水蒸気に曝すスチーム洗浄により行うのが好ましい。
一方、含水処理温度が高すぎると、過度に膨潤が進行し、膜強度の低下を引き起こす。また、隔膜中のイオン交換基が脱落するおそれもある。従って、含水処理温度は、180℃以下が好ましい。
含水処理の時間は、含水処理温度に応じて、最適な時間を選択する。一般に、含水処理温度が高くなるほど、短時間で目的とするイオン導電パスを発達させることができる。
また、膨潤処理後に含水処理を行う場合、含水処理温度が高くなるほど、短時間で有機溶媒を水で置換することができる。また、水を用いて含水処理をする場合、含水処理時に超音波を照射すると、溶媒脱離時間を短縮することができる。
なお、過度に膨潤して親水部構造が小さくなりすぎないように、親水性有機溶媒100%ではなく、水と有機溶媒の混合溶媒を用いて膨潤処理を行い、膨潤度合いを調節した後に含水処理を行うのが好ましい。
含水処理は、膨潤処理を省いて行っても良いが、膨潤処理を事前に行うことにより、さらに親水部を発達させることができる。そのため、膨潤処理と含水処理とを組み合わせて行うことが好ましい。これらの工程で過度に温度を上げると、酸基が脱離しやすくなる。例えば、乾燥温度は180℃以下とすべきである。好ましくは、膨潤処理後に乾燥せずに、含水処理を行うのが好ましい。
[1.8. 隔膜の膜厚]
隔膜の厚みは、特に限定されない。隔膜の厚みは、好ましくは、0.01〜200μm、さらに好ましくは、10〜100μmである。
[2. 電気めっきセル(1)]
図1に、本発明の第1の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図を示す。
図1において、電気めっきセル10は、陽極室12と、陰極室14と、隔膜16とを備えている。陽極室12には、陽極室液20が充填され、陽極室液20中には、陽極22が浸漬されている。さらに、陽極22は、電源30のプラス極に接続されている。
陰極室14には、陰極室液24が充填され、陰極室液24中には、陰極26が浸漬されている。さらに、陰極26は、電源30のマイナス極に接続されている。この電気めっきセル10を用いてめっきを行うと、陰極26の表面に金属皮膜28が析出する。
[2.1. 陽極室]
陽極室12は、陽極室液20を保持するためのものである。陽極室12の大きさや形状、陽極室12を構成する材料等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
[2.2. 陽極室液]
陽極室12には、所定の組成を有する陽極室液20が充填される。なお、陽極室液20の詳細については、後述する。
陽極室12に充填される陽極室液20の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
[2.3. 陽極]
陽極22は、陽極室液20に電流を流すためのものであり、陽極室液20中に浸漬される。陽極22は、少なくともその表面が導電性を有する材料からなるものであれば良い。陽極22は、全体が導電性を有する材料からなるものでも良く、あるいは、表面のみが導電性を有する材料からなるものでも良い。さらに、陽極22は、不溶性電極でも良く、あるいは、可溶性電極でも良い。
陽極22の大きさや形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。陽極22は、緻密質でも良く、あるいは、多孔質でも良い。
なお、後述するように、本発明に係る電気めっきセル10は、実質的に陰極室液24が無い状態、すなわち、隔膜16と陰極26とを密着させた状態でも使用することができる。この場合、陽極22として、所定のパターン形状を有するものを使用し、かつ、陽極22を隔膜16に密着させた状態で電析を行うと、陰極26上に陽極22の形状を転写すること、すなわち、陽極22のパターン形状と同一の形状を有する金属皮膜28を形成することができる。本発明により形成することが可能な金属パターンは、電流が流れる形状であれば特に限定されない。金属パターンとしては、例えば、メッシュ、矩形、櫛形、各種電気回路パターンなどがある。
[2.4. 陰極室]
陰極室14は、陰極室液24を保持するためのものである。陰極室14の大きさや形状、陰極室14を構成する材料等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。なお、陰極室14及び陰極室液24は、必ずしも必要ではなく、省略することもできる。
[2.5. 陰極室液]
陰極室14には、所定の組成を有する陰極室液24が充填される。なお、陰極室液24の詳細については、後述する。
陰極室14に充填される陰極室液24の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
[2.6. 陰極]
陰極26は、表面に金属被膜を析出させるためのもの(被めっき物)である。陰極26は、少なくともその表面が導電性を有する材料からなるものであれば良い。陰極26は、全体が導電性を有する材料からなるものでも良く、あるいは、表面のみが導電性を有する材料からなるものでも良い。陰極26を構成する導電性材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
[2.7. 隔膜]
隔膜16は、陰極26(被めっき物)を陽極室12から隔離するためのものである。陰極室14を備えた電気めっきセル10の場合、隔膜16は、陽極室12と陰極室14の境界に設けられる。一方、陰極室14が無い場合、隔膜16は、陰極26の表面に接するように設けられる。隔膜16の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
[2.8. 電源]
電源30は、特に限定されるものではなく、陽極22−陰極26間に所定の電圧を印加できるものであればよい。
[3. 電気めっきセル(1)を用いた金属皮膜の製造方法]
[3.1. 陽極室液の調製]
まず、陰極(被めっき物)26上に析出させる金属のイオンを含む陽極室液20を調製する。陽極室液20は、析出させる金属元素を含む水溶性金属化合物を水に溶解させたものからなる。陽極室液20は、さらに必要に応じて、
(1)水溶性有機溶媒(アルコール類等)、
(2)pH調整剤(塩基、例えばエチレンジアミン等のアミン類;酸、例えば塩酸等)、
(3)緩衝剤(例えば、有機酸など)
などが含まれていても良い。
[3.1.1. 水溶性金属化合物]
本発明において、析出させる金属は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。析出させる金属としては、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、すず、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、セレン、テルル等が挙げられる。
これらの中でも、析出させる金属は、銀、銅、金、ニッケル、すず、白金、パラジウムが好ましい。これらの金属は、いずれも水溶液からの電析が可能で、かつ、金属皮膜の比抵抗も小さいためである。
特に、銅は、隔膜16を用いて高速成膜する際に、金属水酸化物を生成しやすい。しかしながら、銅めっきに対して本発明を適用すると、高速成膜時における金属水酸化物の生成を抑制することができる。
水溶性金属化合物としては、例えば、
(1)塩化物などのハロゲン化物、
(2)硫酸塩(例えば、硫酸銅、硫酸ニッケルなど)、硝酸塩(例えば、硝酸銀など)などの無機酸塩、
(3)酢酸塩などの有機酸塩、
などがある。材料コストの点から、無機酸塩が好ましい。
陽極室液20には、これらのいずれか1種の水溶性金属化合物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
陽極室液20に含まれる水溶性金属化合物の濃度は、特に限定されるものではなく、水溶性金属化合物の種類などに応じて最適な値を選択する。陽極室液20中の金属イオン濃度は、0.001M/L〜2M/L、好ましくは、0.05M/L〜1M/Lである。
陽極室液20は、塩基性が大で、水和イオン半径の小さな隔膜16を透過しやすいイオン(例えば、Na+、K+、Cs+)を実質的に含まないのが好ましい。我々が確認したところでは、陽極室液20の成分としてこれらのイオンを0.1M/Lを超えて含むと、隔膜16界面で金属水酸化物の生成が起きやすいことが判明した。すなわち、陽極室液20中に含まれる電析金属イオン以外のイオン(特に、Na+、K+、Cs+)の濃度は、0.1M/L以下に制限することが望ましい。
一方、アルカリ金属イオンの中でも、Li+イオンは、水和イオン半径が比較的大きく、隔膜16を透過し難い。そのため、陽極室液20の成分として、0.1M/Lを超えて含んでいても良い。
[3.1.2. pH調整剤]
陽極室液20には、必要に応じてpH調整剤が添加される。陽極室液20のpHは、特に限定されるものではなく、水溶性金属化合物の種類などに応じて最適な値を選択する。
pHが小さくなりすぎると、陰極26上での還元反応は、水素発生反応が主体となる。そのため、電析効率が大幅に低下し、経済的ではない。従って、pHは、1以上が好ましい。
一方、pHが大きくなりすぎると、電析面では金属水酸化物を巻き込みやすくなり、平滑性が低下する。従って、pHは、6以下が好ましい。
[3.1.3. 緩衝剤]
pH緩衝作用、浴電圧低下のための導電性向上、つき周り性の改善などを目的として、電析に必要な金属イオン以外のカチオン成分を陽極室液20中に添加する場合がある。その場合には、Na+、K+、Cs+イオンを含む化合物の代わりに、水和イオン半径が大きく、隔膜を透過し難いLi+イオンや、塩基性の弱いMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Al3+イオンを含む無機化合物を陽極室液20中に添加すると、金属水酸化物の抑制に効果的である。
また、金属水酸化物生成能の弱いアンモニウム、アミン、イミン、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、モルホリニウム等の弱塩基性イオンを含む有機化合物の添加も有効である。
但し、陽極室液20中の電析金属イオン濃度と、隔膜16中の金属イオン濃度とは、平衡関係にある。従って、隔膜16中の金属イオン濃度の輸率が大幅に低下しないように、これらの化合物の濃度は、できる限り低濃度が好ましい。具体的には、これらの化合物の濃度は、好ましくは0.1M/L以下とし、隔膜16中(特に、カチオン交換膜中)のこれらのカチオンの占有率(酸基交換率)が50%以下となるようにするのが好ましい。例えば、1meq/g(EW=100)の酸基を持つカチオン交換膜では、Na+イオンの交換率50%は、膜重量含有率として約1.2%に相当する。
[3.1.4. 陽極室液の量]
陽極室液20の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
[3.2. 陰極室液の調製]
[3.2.1. 陰極室液の組成]
次に、陰極室液24を調製する。陰極室液24の組成については、陽極室液20と同様であるので説明を省略する。
[3.2.2. 陰極室液の量]
陰極室液24の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
なお、本発明において、陰極室液24の量は、少量でも良い。具体的には、陰極室液24の量は、陰極26の単位面積当たり100μL/cm2以下でも良い。また、陰極室14及び陰極室液24を省略すること、すなわち、隔膜16と陰極26とを密着させることもできる。
実質的に陰極室液24が無い状態でも、電気浸透現象により隔膜16から電析面(陰極26の表面)に極微量の水が輸送される。そのため、隔膜16−陰極26間に連続的界面が形成され、電気化学反応(電析)を行うことができる。隔膜16と陰極26の表面との密着性を改善するため、必要に応じて加圧機構を用いて両者を加圧した状態で電析を行うのが好ましい。
[3.3. 電析]
所定量の陽極室液20及び陰極室液24を、それぞれ、陽極室12及び陰極室14に入れる。次いで、電源30を用いて、隔膜16を挟んで配置された陽極22−陰極26間に電圧を印加する。これにより、陰極室液24内の金属イオンが還元され、陰極26上に金属皮膜28が析出する。
金属皮膜28の析出が進行すると、陰極室液24の金属イオン濃度が低下する。その結果、陰極室液24と陽極室液20との間で金属イオンの濃度勾配が発生する。この濃度勾配を駆動力として、陽極室液20内の金属イオンが隔膜16を通って陰極室液24に拡散する。電極間に与える電圧、電析時のめっき浴の温度、及び電析時間は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
[4. 電気めっきセル(2)]
本発明の第2の実施の形態に係る電気めっきセルは、陽極室液を保持するための陽極室と、前記陽極室と陰極とを隔離するための隔膜とを備えている。また、前記隔膜は、基材に鉄を含む無機ニトリル化合物が添加されたものであって、前記陽極室液に含まれる金属イオンを選択的に透過させることが可能なものからなる。
すなわち、本実施の形態に係る電気めっきセルは、陰極室液を保持するための陰極室を備えていない。この点が、第1の実施の形態とは異なる。
図2に、本発明の第2の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図を示す。
図2において、電気めっきセル40は、陽極室12と、隔膜16と、陽極22と、陰極26と、電源30と、加圧装置42とを備えている。
陽極室12は、陽極室液20を保持するためのものである。陽極室12の上部には、陽極室液タンク(図示せず)から陽極室12内に陽極室液20を供給するための供給孔12aが設けられている。また、陽極室12の側面には、陽極室12から廃液タンク(図示せず)に陽極室液20を排出するための排出口12bが設けられている。
陽極室12の下端の開口部には、陽極22が嵌合されている。さらに、陽極22の下面には、隔膜16が接合されている。
陽極室12の上面には、加圧装置42が設けられている。加圧装置42は、陽極室12、陽極22、及び隔膜16を鉛直方向に移動させるためのものである。
陽極室12の下方には、基台46が配置されている。基台46の上面には、陰極(被めっき物)26が配置されている。陰極26の上面の外周には、通電部48が設けられている。通電部48は、陰極26に電圧を印加するためのものであり、陰極26の表面の成膜領域を囲うように設けられている。図2に示す例において、通電部48は、リング状になっており、そのリング内に隔膜16の先端部分を挿入できるようになっている。さらに、陽極22及び通電部48(すなわち、陰極26)は、電源30に接続されている。
本実施の形態において、陽極22には、陽極室液20を隔膜16の表面に供給可能な電極が用いられる。陽極22としては、具体的には、陽極室液20を透過させることが可能な孔径を有する多孔質電極、所定の形状パターンを有するパターン電極などがある。
なお、連続的な金属皮膜28の成膜を行わない場合、陽極22内部に存在する空隙を陽極室として用いること、すなわち、陽極22に必要量の陽極室液を含浸させ、実質的に陽極室12を省略することもできる。
陽極室12、隔膜16、陽極22、陰極26、及び電源30に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
[5. 電気めっきセル(2)を用いた金属皮膜の製造方法]
まず、図2(a)に示すように、基台46と隔膜16とを離間させた状態で、基台46上に陰極26を配置し、陰極26の周囲に通電部48を配置する。また、供給孔12aを介して、陽極室12内に陽極室液20を供給する。陽極室液20は、陽極22内の空隙(図示せず)を通って隔膜16の表面まで供給される。
次に、図2(b)に示すように、加圧装置42を用いて陽極室12を下方に移動させ、隔膜16の下面と陰極26の上面とを接触させる。この時、加圧装置42の押圧力を調整し、隔膜16と陰極26との界面に適度な圧力を付与する。
この状態で電源30を用いて陽極22及び通電部48(すなわち、陰極26)に所定の電圧を印加すると、隔膜16と陰極26の界面に金属皮膜28が析出する。この時、必要に応じて、消耗した陽極室液20を排出口12bから排出しながら、供給孔12aを介して新たな陽極室液20を陽極室12内に補給すると、連続的にめっきを行うことができる。所定時間経過後、加圧装置42を用いて陽極室12を上昇させ、隔膜16と陰極26とを離間させる。
[6. 作用]
本発明に係る電気めっきセルは、隔膜に金属イオンを安定化させる能力の大きな「鉄を含む無機ニトリル化合物」を適量含んでいるため、膜内で金属、金属水酸化物、あるいは金属酸化物が生成し難い。従って、従来では高速成膜が困難であった銅等の金属被膜を導電性基体上に簡便にパターン状に形成できる。また、めっき浴に各種添加剤を添加する場合に比べて、少量の添加で高い効果が得られるため、めっき浴の管理も容易化する。
(実施例1〜2、比較例1〜4:微多孔膜へのタータンブルー添加と電析効率)
[1. 隔膜の処理]
[1.1. 実施例1〜2]
ナイロンとイミノジカルボン酸樹脂とからなる複合樹脂繊維を原料とする不織布の微多孔体隔膜(厚さ2mm、大きさ50mm×50mm)を10mMのFeSO4・7H2O水溶液に浸漬し、酸基のプロトンとFe2+イオンとをイオン交換した。その後、80℃×2hrの温水洗浄を施した。
次に、隔膜を10mMのフェリシアン化カリウムFe3[Fe(CN)6]水溶液:100mLに浸漬した。隔膜は、直ちに青色に着色し、タータンブルーFe3[Fe(CN)6]2が隔膜に固定された。その後、80℃×2hrの温水洗浄を施し、室温の純水に一晩浸漬した(実施例1、2)。重量変化から求めた乾燥樹脂に占めるタータンブルーの割合は、2.7wt%であった。
処理後の微多孔膜を10mm×10mmの大きさで打ち抜き、この微多孔膜と、厚さ50μm、大きさ40mm×30mmのパーフルオロスルホン酸樹脂からなるカチオン交換膜(予め、80℃×2hrの含水処理済み)とを積層した。
[1.2. 比較例1〜4]
タータンブルーの添加処理を施さない微多孔体隔膜を純水に浸漬し、80℃×2hrの含水処理を施した。得られた微多孔膜を用いて、実施例1と同様にして積層膜を作製した(比較例1、2)。また、パーフルオロスルホン酸樹脂からなるカチオン交換膜をそのまま試験に供した(比較例3、4)。
[2. 試験方法]
得られた隔膜を図2に示す電気めっきセル40に装着し、Cuめっきを行った。積層膜を隔膜16として用いる場合には、カチオン交換膜が陰極26側に来るように、積層膜を陽極22に装着した。この電気めっきセル40を用いて、室温において50mA/cm2×10minの定電流電析を行った。電源30には、上限電圧70Vの直流定電流電源を用いた。押し付け印加圧は、0.5MPa又は1.0MPaとした。陰極26には、白金板を用いた。陽極22には、厚さ0.4mm、大きさ10mm×10mmの純銅からなる多孔板を用いた。さらに、めっき液は、1M/kgのCuSO4水溶液とし、陽極室液量は0.4gとした。電析後の陰極26の重量増加と理論電気量から電析効率を求めた。
[3. 結果]
表1に、電析試験の結果を示す。ここで、「○」はイオン交換膜とCu被膜の密着が殆ど無かったものを、「×」はイオン交換膜とCu被膜とが強固に密着し、電析後の引きはがし時に膜が大きく破れてしまったことを示す。
実施例1、2は、微多孔膜を積層していない比較例3、4や、タータンブルーを添加してない微多孔膜を積層した比較例1、2に比べ、電析効率の値が大きい。これは、陽極室から陰極表面へのCu2+の輸送がスムーズに行われていることを示している。
なお、タータンブルー未添加の微多孔膜をイオン交換膜と陽極との間に介在させただけでは(比較例1、2)、微多孔膜による電析効率の向上は顕著なものではなく、イオン交換膜とCu被膜の密着は解消されなかった。
Figure 0006529445
(実施例3〜5、比較例5:イオン交換膜への電解によるプルシアンブルー添加とCu電析結果)
[1. 隔膜の処理]
[1.1. 実施例3〜5]
実施例1で使用したものと同じパーフルオロスルホン酸ポリマーからなる含水処理膜を用意した。白金板にこの含水処理膜を密着させて陰極とし、これを開口部の大きさが2cm×2cmである極間隔1cmの押し付けセルの陰極に装着した。対極(陽極)には、Pt板を用いた。押し付けセルに、20mMのFeCl3・6H2OとK3[F(CN)6]との混合水溶液:8mLを入れ、対極に対して2μA/cm2(実施例3、4)、又は10μA/cm2(実施例5)で6min間の還元処理を行った。
通電後に膜を取り出したところ、いずれも膜は淡青色又は青色に着色し、Fe4[Fe(CN)6]3(プルシアンブルー)が生成したことを伺わせた。さらに、膜に対して80℃×2hrの純温水洗浄をした後、純水中に膜を保管した。
なお、1Fの電気量(電流効率100%と仮定)で1Mのプルシアンブルー(分子量859.23)が膜中に還元生成するとした場合、乾燥膜基準でのプルシアンブルーの含有量は、実施例3、4で0.04wt%、実施例5で0.2wt%に相当する。
[1.2. 比較例5]
プルシアンブルー未添加の含水処理膜をそのまま試験に供した。
[2. 試験方法]
得られた電解処理膜又は未処理膜を隔膜16として用いて、Cuめっきを行った。陽極22には、線径φ0.1mm、50mesh、大きさ10mm×10mmの純銅金網2枚を積層したものを用いた。また、電析条件は、100mA/cm2×10minとした。その他の電析条件は、実施例1と同一とした。
なお、実施例3、5については、電解処理時に白金板に接触していた隔膜16の面を電気めっきセル40の陰極26表面に接触させてCuめっきを行った。一方、実施例4については、電解処理時に処理溶液と接触していた隔膜16の面を電気めっきセル40の陰極26表面に接触させてCuめっきを行った。
[3. 結果]
表2に、電析試験の結果を示す。実施例3〜5では、正常なCu電析が可能であり、Cu被膜とイオン交換膜との密着は全く見られなかった(◎印)。他方、比較例5では、隔膜内部にCuが析出し、膜とCu被膜が強固に密着した。そのため、引きはがし時に膜は大きく破れた。すなわち、比較例5は、電析効率が大きいながらも、正常な電析は不可能であった。なお、電析効率は、重量計測誤差及びCu+(一価)からの電析を含むため、100%以上の場合もあると推定される。
Figure 0006529445
図3に、実施例3及び比較例5で得られた隔膜のIRスペクトルを示す。実施例3の青色に着色した膜からは、プルシアンブルー(Feを含む無機ニトリル錯体)に特徴的な2090cm-1に吸収が認められた。
(実施例6、比較例6〜7:めっき浴に無機ニトリル化合物を添加した場合との比較)
[1. 隔膜の処理]
膜内部にPTFE製補強層を有する厚さ20μmのパーフルオロスルホン酸ポリマーからなる補強膜を用意した。これに、80℃×2hrの含水処理膜を施した。次いで、含水処理後の補強膜に対し、電解条件を100μA/cm2×6minとした以外は実施例3と同様にして、プルシアンブルー添加補強膜膜を得た(実施例6)。
比較として、含水処理後の補強膜をそのまま試験に供した(比較例6、7)。
[2. 試験方法]
実施例6及び比較例7については、実施例1と同一条件下でCuめっきを行った。一方、比較例6については、めっき液(1M/kgのCuSO4水溶液)に50ppmのフェロシアン化カリウムを添加した以外は、実施例1と同一条件下でCuめっきを行った。
[3. 結果]
実施例6、比較例6、及び比較例7の電析効率は、それぞれ、101.2%、101.2%、及び81.0%であった。また、実施例6、比較例6、及び比較例7の膜の密着状況は、それぞれ、◎(簡単に手で剥がれる)、△(膜面積の30%以上が密着し、手で簡単に剥がれない)、及び×(膜面積の90%以上が密着し、手で剥がれない)であった。
(実施例7、比較例8、参考例1:イオン交換膜へのイオン交換法によるタータンブルーの添加)
[1. 隔膜の処理]
[1.1. 実施例7]
実施例1で使用したものと同じパーフルオロスルホン酸ポリマーからなる膜を用意した。まず、スルホン酸基の1%を硫酸第一鉄(Fe2+)溶液でイオン交換した。さらに、その後に濃度0.02M/Lのフェリシアン化ナトリウム溶液に80℃×2hr浸漬し、Fe3[Fe(CN)6]2(フェリシアン酸鉄(タータンブルー))を膜中に固定した(実施例7)。タータンブルーの固定量は、乾燥膜重量に対して0.02wt%であった。
[1.2. 比較例8、参考例1]
パーフルオロスルホン酸ポリマーからなる膜をフェリシアン化ナトリウム溶液に浸漬しただけの膜を用意した(比較例8)。
また、パーフルオロスルホン酸ポリマーからなる膜をアセトニトリル溶媒中で膨潤処理した後、温水で水置換処理した膜を用意した(参考例1)。アセトニトリルの固定量は、乾燥膜重量に対して0.1wt%であった。
[2. 試験方法]
実施例1と同様にして、Cuめっきを行った。但し、押し付け印加圧は、0.1MPaとした。また、電析条件は、100mA/cm2×10minとした。さらに、陽極22には、厚さ0.1mm、大きさ10mm×10mmの純銅メッシュ2枚を銅角棒リードに押し付けたものを用いた。
[3. 結果]
表3に、電析試験の結果を示す。隔膜16への有機ニトリル化合物の添加で、密着性はやや改善された(参考例1)。これに対し、隔膜16への無機ニトリル化合物の添加で、密着性は大幅に改善された(実施例7)。
しかし、単に膜をフェリシアン化物(鉄イオンを含まないもの)に浸漬しただけ(比較例8)では、密着性は改善されず、かえってCuの電析効率は大幅に低下した。また、Cuが膜内及び膜表面に析出し、Cu被膜と隔膜とが強固に密着していた。これは、溶解度の大きなアルカリ金属を含むフェリシアン化物は、浸漬処理により固定されず、単にアルカリ金属イオンのみが膜の酸基とイオン交換して固定されたため、密着性改善に効果が無かったものと考えられる。
Figure 0006529445
(実施例8、比較例9: 含浸処理による隔膜への無機ニトリル化合物の添加)
[1. 隔膜の処理]
膜内部にPTFE製補強層を有する厚さ50μmのパーフルオロスルホン酸ポリマーからなる補強膜(イオン交換膜)を用意した。次いで、WALDEN社製ベルリンブルーをアセトニトリルに1wt%添加し、超音波分散した。この分散液に、上記補強膜を室温で10分間浸漬して膨潤させ、分散液を含浸させた。その後、膜を乾燥させることなく、純水に80℃×1hr浸漬し、溶媒のアセトニトリルを水に置換した(実施例9)。ベルリンブルーの固定量は、乾燥膜重量に対して0.1wt%であった。
比較として、80℃×2hrの含水処理のみを行った補強膜をそのまま試験に供した(比較例9)。
[2. 試験方法]
実施例1と同様にして、Cuめっきを行った。但し、押し付け印加圧は0.1MPaとした。また、電析条件は、20℃、50mA/cm2×10minとした。陽極の構成は、実施例7、比較例8と同じである。
[3. 結果]
表4に、電析試験の結果を示す。隔膜16への無機ニトリル化合物の添加で電析効率と密着性は大幅に改善された(実施例8)。
一方、単に含水処理しただけの膜(比較例9)は、電析効率が小さく、Cuが膜内及び膜表面に析出し、Cu被膜と隔膜とが強固に密着していた。
Figure 0006529445
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る電気めっきセルは、各種金属皮膜の形成に用いることができる。
10 電気めっきセル
12 陽極室
14 陰極室
16 隔膜
20 陽極室液
22 陽極
24 陰極室液
26 陰極
28 金属皮膜

Claims (10)

  1. 陽極室液を保持するための陽極室と、
    前記陽極室と陰極とを隔離するための隔膜と、
    前記陽極室液に電流を流すための陽極と、
    前記陽極−前記陰極間に電圧を印加するための電源と
    を備え、
    前記隔膜は、基材と鉄を含む無機ニトリル化合物とを含み、前記陽極室液に含まれる金属イオンを選択的に透過させることが可能なものからなり、
    前記隔膜に含まれる前記鉄を含む無機ニトリル化合物の含有量は、前記隔膜の総乾燥重量に対して0.01wt%以上20wt%以下である
    電気めっきセル。
  2. 陰極室液を保持するための陰極室をさらに備え、
    前記隔膜は、前記陽極室と前記陰極室との境界に設けられている
    請求項1に記載の電気めっきセル。
  3. 陰極室液を保持するための陰極室を備えておらず、
    前記隔膜と前記陰極とを密着させた状態で電析が行われる請求項1に記載の電気めっきセル。
  4. 前記基材は、カチオン交換膜である請求項1から3までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  5. 前記基材は、パーフルオロ系電解質膜である請求項1から4までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  6. 前記隔膜は、さらに膜補強構造体を含む請求項1から5までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  7. 前記鉄を含む無機ニトリル化合物は、プルシアンブルー、タータンブルー、及びベルリンホワイトからなる群から選ばれるいずれか1以上である請求項1から6までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  8. 銅イオンを含む前記陽極室液を用いて、銅めっきするために用いられる請求項1から7までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  9. 前記隔膜は、さらにめっき用有機添加剤を含む請求項1から8までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  10. 請求項1から9までのいずれか1項に記載の電気めっきセルを用いて、前記陰極の表面に前記金属皮膜を形成する金属皮膜の製造方法。
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