JP2018090853A - 電気めっきセル及び金属皮膜の製造方法 - Google Patents

電気めっきセル及び金属皮膜の製造方法 Download PDF

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Fusayoshi Miura
房美 三浦
長谷川 直樹
Naoki Hasegawa
直樹 長谷川
篤 村瀬
Atsushi Murase
篤 村瀬
平岡 基記
Motoki Hiraoka
基記 平岡
飯坂 浩文
Hirofumi Iizaka
浩文 飯坂
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Abstract

【課題】簡便に金属皮膜を形成することが可能な電気めっきセル及びこれを用いた金属皮膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】電気めっきセル10は、陽極室液20を保持するための陽極室12と、陽極室12と陰極26とを隔離するための隔膜16とを備えている。隔膜16は、小角X線散乱法により室温の水中で測定した散乱スペクトルにおいて、分子の微結晶の構造に由来するピーク位置(q2値)が0.05Å-1(0.5nm-1)以下であるものからなる。このような隔膜16を備えた電気めっきセル10を用いて、陰極26の表面に金属被膜28を形成する。
【選択図】図1

Description

本発明は、電気めっきセル及び金属皮膜の製造方法に関し、さらに詳しくは、陰極(被めっき物)表面に簡便に金属皮膜を形成することが可能な電気めっきセル及びこれを用いた金属皮膜の製造方法に関する。
導電性基体上に簡便な方法で金属皮膜からなるパターン(以下、「金属パターン」ともいう)を形成する技術が求められている。従来は、金属パターン以外の部分をマスクして湿式電気めっきを行うことが最も一般的であった。ただし、マスク形成工程及びマスク除去工程が必要であり、めっき液の管理や廃液処理コストが高いという課題がある。
近年ではこのような課題の無い物理蒸着、スパッタリング等の「物理的方法」で金属皮膜を形成した後にマスキング部を除去する方法が採られつつある。ただし、これらの物理的金属皮膜形成方法は、一般に成膜スピードが遅く、真空系が必要であり、経済的な高速生産システムとは言い難い。
一方、マスキングが不要な別な方法として、導電性微粉とバインダーとを混合したインクをスクリーン印刷、インクジェット等の「印刷法」で塗布した後、バインダーを焼成除去する方法も行われている。しかしながら、これらの「印刷法」で体積比抵抗の小さな回路を形成することは、たとえ揮発性又は昇華性のバインダーを採用したとしても困難である。
ところで近年、電気めっきにおいては、所望部以外の電析を阻止し、マスキング不要な回路形成をなす試みとして、ゲル状電解質(特許文献1)やカチオン交換膜(特許文献2、3)を利用する試みがなされている。
これらの隔膜を用いた場合、例えば水溶液からの電析が比較的容易なCuめっきにおいては、室温で10mA/cm2程度の電流密度が得られる。しかしながら、更なる高速成膜(高電流密度電析)を行うためには、金属イオン濃度を高め、かつ温度を上げる操作をしなければならず、高コストとなっていた。
特に、電析反応(還元析出反応)が水素イオンの放電反応(水素発生反応)と競合する金属のイオン(例えば、ニッケルイオン、亜鉛イオン、すずイオン等の析出電位が卑な金属のイオン)を、水素イオン濃度の高い酸性〜弱酸性の水溶液から隔膜を用いて電析することは困難であった。
その理由の詳細は不明であるが、次の(1)〜(3)に示す理由によるものと思われる。
(1)電析部で水素が発生し、欠陥(ボイド)が形成される。
(2)析出過電圧が小さすぎて微粉状あるいは塊状に電析する。そのため、隔膜と陰極とを密着させて電析を行った場合には、隔膜と電析物とが噛み込む。
(3)水素発生に伴う陰極界面でのpH増加が原因で電析部に金属水酸化物が生成し、不働態化(浴電圧増加)が進行する。
不溶性陽極と隔膜とを用いて電析した場合、陽極室液で生成した水素イオンが隔膜の存在で遮られ、陰極界面でpHが上昇しやすい。そのため、上記課題が特に顕著となる。特に、隔膜と陰極とが密着している電気めっきセル(陰極室液なし)、あるいは陰極室液の量がごく少量の電気めっきセルでは、水素発生反応により生ずる水素量がごく少量である場合であっても、上記(1)〜(3)の影響により正常な電析が困難であった。そのため、ごく微量の水素発生しかしていないはずの貴金属イオンからの電析(例えば、Cuの電析)でも、その限界電流密度(成膜速度)は、陰極室液を有する通常の電気めっきセルに比べて低いことが問題視されていた。
さらに、隔膜を用いる電析の中でも、隔膜と陰極とが密着する構造の電気めっきセル(ゼロギャップ電析)においては、隔膜と陰極との間に空隙が生じたまま電析を開始すると、電流密度が不均一となる。そのため、電析物が粉状に析出したり(異常成長)、あるいは一部全く電析されなくなる恐れがある。そこで、通常は、加圧して隔膜を陰極に押し当て、隔膜を必要量変形させて電流密度を均一化させている。
しかしながら、この場合、隔膜の変形能力が十分でないと、上記空隙は解消されない。そのため、異常析出して電析物が隔膜に噛み込んだり、両極間で短絡が起き、正常な電析を行うことができない。これは、特に陰極(基材)表面粗度が粗い場合に顕著であり、高速成膜を行うためには、隔膜には、陰極基材に適度に密着できる変形能力(低弾性率)が求められている。これは、特に電流密度分布の影響を受けやすい銅イオンを含む溶液から電析する場合に顕著である。また、ニッケルイオンを含む溶液から電析する場合も、空隙が生じると局部的にpHが上昇しやすくなり、水酸化ニッケルの沈殿を生成して正常な電析が行えなくなる。
一方、高速成膜を行うためには、隔膜は適度な変形能力と併せて、電析イオンがスムーズに移動する(輸率が大きい)ことも求められている。
上記電析イオンの輸率の大小に関し、特許文献4には、小角X線散乱(SAXS)法での隔膜の親水部構造に由来するピーク位置を限定した電気めっきセル、及びこのような電気めっきセルが高速成膜に有効であることが記載されている。但し、前記隔膜の変形能については、従来未検討であった。
また、特許文献5においては、レドックスフロー用電解質膜の限定に小角X線散乱を用いている。しかし、同文献では、イオンクラスター径の限定を行っているのみで、膜の硬さと小角X線散乱スペクトルとの関係についての記述はなんら見られない。
特開2005−248319号公報 特開2012−219362号公報 国際公開WO2013/125643号 特開2016−132788号公報 国際公開WO2013/100079号
本発明が解決しようとする課題は、簡便に金属皮膜を形成することが可能な電気めっきセル及びこれを用いた金属皮膜の製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、隔膜を用いた電気めっきセルであって、陰極室液がない(ゼロギャップ)か、あるいはごく少量である場合であっても、マスクレスパターンの高速成膜が可能なものを提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、電気めっきセルに用いられる隔膜の変形能力の良否を判別する方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明に係る電気めっきセルは、
陽極室液を保持するための陽極室と、
前記陽極室と陰極とを隔離するための隔膜と
を備え、
前記隔膜は、小角X線散乱法により室温の水中で測定した散乱スペクトルにおいて、分子の微結晶の構造に由来するピーク位置(q2値)が0.05Å-1(0.5nm-1)以下である。
また、本発明に係る金属皮膜の製造方法は、本発明に係る電気めっきセルを用いて前記陰極の表面に金属皮膜を形成することを要旨ととする。
通常の方法を用いて成膜された隔膜に対して特殊な処理を施し、あるいは、特殊な条件下で隔膜を成膜すると、隔膜内の分子の微結晶の構造が変化する。この微結晶の構造の良否は、小角X線散乱(SAXS)スペクトルの解析により的確に判別することができる。具体的には、SAXSスペクトルに現れる微結晶の構造に由来するピーク位置(q2値)が0.05Å-1(0.5nm-1)以下である場合、その隔膜は、分子の折り畳み構造に起因する結晶の発達程度が低いことを示している。
このような構造を備えた隔膜は変形しやすいため、これを用いて加圧状態でゼロギャップ電析を行った場合、隔膜/陰極間に空隙が生じにくくなる。また、電流密度が均一化され、イオンの輸送が陰極全面でスムーズに行われる。さらに、異常析出が起き難くなり、隔膜の固着を防ぐことができる。その結果、水素発生しやすい金属イオンを含むめっき液を用いた場合であっても、マスクレスパターン状成膜を簡便に、かつ、高速に行うことが可能となる。
種々の条件下で成膜された隔膜の室温水中での小角X線散乱(SAXS)プロファイルである。 本発明の第1の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図である。 本発明の第2の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図である。
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 隔膜]
本発明に係る電気めっきセルは、陽極室液を保持するための陽極室と、前記陽極室と陰極とを隔離するための隔膜とを備えている。電気めっきセルは、陰極室液を保持するための陰極室をさらに備えていても良い。
本発明において、隔膜は、小角X線散乱法により室温の水中で測定した散乱スペクトルにおいて、分子の微結晶の構造に由来するピーク位置(q2値)が0.05Å-1(0.5nm-1)以下である。この点が、従来とは異なる。
[1.1. 隔膜の材料]
隔膜が備える必要条件として、以下の(1)〜(4)が挙げられる。
(1)めっきする金属イオンに電圧を加えた場合に、金属イオンを陽極室から陰極室(又は、陰極の表面)に移動させることができる。
(2)非電子導電性である(隔膜上に、金属皮膜が析出しない)。
(3)めっき浴中で安定である(陽極室液又は陰極室液に溶解せず、十分な機械的強度を保持する)。
(4)陽極として可溶性陽極を用いた場合、可溶性陽極で生成した微粒子(陽極スラッジ)の陰極室への拡散を防止できる(アノードバックとして働く)。
これらの条件を満たす限りにおいて、隔膜は、イオンを透過可能な細孔を有する中性の材料からなる膜(微多孔膜)でも良い。しかし、高速成膜を可能とするためには、隔膜の材料は、目的とする電析イオンの透過性を有する固体高分子電解質が好ましい。
電析すべき金属イオンがカチオンである場合、隔膜には、陽イオン交換基(カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基など)を有するカチオン交換膜を用いる。
一方、電析すべき金属イオンがアニオン(例えば、亜鉛酸イオン、すず酸イオン等の酸素酸アニオン、シアンイオン錯体など)である場合、隔膜には、陰イオン交換基(例えば、四級アンモニウム基)を有するアニオン交換膜を用いる。
カチオン交換膜の材料としては、例えば、
(1)カルボキシル基含有アクリル系樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル系樹脂、カルボキシル基含有ポリアミド系樹脂、ポリアミド酸系樹脂(ポリアミック酸系樹脂)などのカルボキシル基含有樹脂、
(2)パーフルオロスルホン酸樹脂などのスルホン酸基含有樹脂、
(3)ホスホン酸基含有樹脂、
などがある。
耐熱性、耐薬品性、及び機械的強度が大きい観点から、カチオン交換膜は、フッ素系カチオン交換膜が好ましく、特にパーフルオロスルホン酸樹脂膜などのパーフルオロ系電解質膜が好ましい。
隔膜は、1種類の材料からなるものでも良く、あるいは、2種以上の材料からなるものでも良い。また、隔膜は、2種以上の材料の接合体、ポリマーアロイ、積層体、又は複合体であっても良い。また、隔膜は、アルミナ、シリカ等を固体高分子電解質に分散させた有機/無機ハイブリッド膜でも良い。さらに、隔膜は、PTFE製多孔膜等を芯材とした補強膜でも良い。
[1.2. 固体高分子電解質膜の利点]
以下に、隔膜として、固体高分子電解質膜が特に好ましい理由を記す。これは、原理的に固体高分子電解質膜を利用すると、中性隔膜(微多孔膜)を用いた場合に比べ、高速めっきが可能となるためである。
限界電流密度IL(最大電析速度)は、金属イオンの拡散定数D、価数z、電析イオン濃度C、電析面での拡散層厚さδ、電析イオンの輸率αとにより(1)式で表される(参考文献1: 「ニッケルめっきの限界電流密度について」、星野重夫他、金属表面技術、vol.23、No.5、1972、p263)。
L=DzFC/(δ(1−α)) ・・・(1)
(1)式より、めっきの高速化には、電析イオンの輸率αをできるだけ大きくすることが有効であることがわかる。
中性の隔膜を用いた電気めっきでは、隔膜中の金属イオンの輸率αは、α=0.5前後である。一方、固体高分子電解質膜はイオンの輸率が大きく、カチオン交換膜ではαが1に近いものが存在する。そのため、(1)式より、大きな限界電流密度ILが得られることが理解される。
これらの理由で、目的イオンの輸率(電析イオンがカチオンの場合はカチオンの輸率、電析イオンがアニオンの場合はアニオンの輸率)が、できるだけ1に近い隔膜を用いるのが好ましい。
[1.3. 小角X線散乱(SAXS)スペクトル]
隔膜を用いて電析する場合、上記(1)〜(4)に加え、隔膜は機械的性質が良好であることが必要である。特に、電気めっきセルにおいて陰極室液がないか極少量の場合には、隔膜と陰極との間に空隙が生じやすい。そのため、通常、0.1MPa〜0.5MPa程度の圧力を隔膜及び陰極に負荷し、空隙を無くして電析を行うことが一般的である。そこでは、隔膜は、適度に変形して陰極に密着し、かつ繰り返し使用できる弾性変形を示すことが必要である。
通常、隔膜の厚さは5μm〜200μmである。例えば、陰極面に1μmの凹部がある場合、空隙をなくすためには、単純計算から20%〜0.5%の変形量が必要である。この隔膜が変形するのに必要な弾性率は、適当な圧縮試験(熱機械分析試験装置TMA、圧縮率及び圧縮弾性率測定装置等)や引張試験(引張試験機、粘弾性試験装置等)により応力−歪曲線を求め、これを解析することで求めることができる。但し、前述の電析イオンの輸送に関する情報(親水部構造の良否)は、これらの機械的試験装置からは全く判別できない。
これに対し、小角X線散乱スペクトルの解析によれば、隔膜の機械的性質(弾性変形能力)と、隔膜内の親水部構造の良否とを一度に判別することができる。以下、それらのスペクトル解析法について説明する(図1参照)。
[1.3.1. 隔膜の機械的性質]
第1に、隔膜の機械的性質について説明する。隔膜を構成する高分子は、ポリマー鎖の一部が規則的な折り畳み構造(ラメラ構造)となりながら、融液から固化していくことが知られている。このラメラの形成(微結晶)による結晶化度が高いと、弾性率が大きくなり、固く、かつ脆くなることが知られている。この微結晶は、高分子の高次構造と呼ばれ、小角X線散乱(SAXS)スペクトルでの解析が行われている。
この構造ピークは、高分子の種類と製造方法で異なる。例えば、室温の水中において小角X線散乱スペクトルを測定した場合、パーフルオロ系電解質膜(H体)では、q値が0.02〜0.08Å-1の範囲においてピークが見られる。本発明においては、このピーク位置を「q2値」という。q2値が小さいほど、微結晶の発達度合いが低く、柔らかいのに対し、q2値が大きいほど、微結晶の発達度合いが高く、硬くかつ脆いと言われている。
本発明ではこのq2値に着目し、q2値が所定の値以下である隔膜は、電気めっきセルに適した変形能力があることを見出した。すなわち、高い変形能力を得るためには、隔膜は、小角X線散乱法により室温の水中で測定した散乱スペクトルにおいて、分子の微結晶の構造に由来するピーク位置(q2値)が0.05Å-1(0.5nm-1)以下であるものが好ましい。q2値は、好ましくは、0.045Å-1以下である。
なお、上記解析は、ピーク位置に着目したものであるが、微結晶の発達度合いが極めて小さい場合は、q2ピークの積分強度が極めて小さく、消失したように見える場合がある。この場合は、「微結晶に由来するq2値が0.05Å-1以下である(微結晶が未発達である)」として扱うものとする。
パーフルオロ系電解質(特に、パーフルオロスルホン酸樹脂)は、比較的容易に上記のq2値が得られ、しかも、耐熱性、耐薬品性及び機械的強度が大きいので、隔膜の材料として好適である。
また、隔膜の製造方法としては、例えば、
(a)樹脂を高温で溶融し、押し出し成形機で膜化する「溶融押出成型法」、
(b)樹脂を有機溶剤に分散させた分散液をガラス容器等に塗布し、その後加熱して有機溶媒を揮発させる「キャスト成型法」
などがある。
これらの中でも、溶融押出成型法は、キャスト成型法などの他の成型法に比べて、微結晶の発達が抑制されやすく、q2値を0.05Å-1以下の範囲に抑えやすい。
なお、キャスト成型法においても、キャスト溶媒の種類、熱処理温度等のキャスト条件を最適化することにより、本発明に係る隔膜を得ることは可能である。例えば、キャスト成膜中の溶媒除去及び水に不溶化するためのアニーリング温度は、できるだけ低いことが好ましい。例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂膜においては、アニーリング温度は、好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
同様に、溶融押出成型法においては、押出成形時に金型の温度を下げ急冷して溶融状態のアモルファス状態を維持する事が好ましく、成型後の温度履歴は、できるだけ穏やかであるのが好ましい。例えば、成型温度は、融点±50℃以内が好ましい。また、成型後の歪み取り調整のアニーリング温度は、好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下である。
[1.3.2. 膜の親水部構造]
第2に、隔膜の親水部構造について説明する。隔膜を構成する高分子の親水部構造の良否は、一般的には、(a)含水率、及び(b)含水状態でのイオン導電率、で議論される。しかし、これらのみでは、その隔膜が電析用途に適しているか否かの優劣を議論できない。
例えば、炭化水素系電解質膜においては、パーフルオロ系電解質膜よりも高い含水率及び高いイオン導電率(あるいは、酸基割合;イオン交換容量に対応)を保持しているものが多い。ところが、実際にゼロギャップセルで電析を行うと、炭化水素系電解質膜は、パーフルオロ系電解質膜に比べ、限界電流密度が小さいことが多い。一方、パーフルオロ系電解質膜であっても、種類及び含水処理条件によってその限界電流密度の値は大きく異なり、その値は含水率及び含水状態でのイオン導電率に必ずしも対応していないことが判明した。
そこで、これらの膜の親水部の構造状態を小角X線散乱法で解析したところ、解析方法を適正に行うことで、これらの隔膜の親水部構造の良否を判別できることを確認した。
例えば、小角X線散乱法による固体電解質膜の親水部構造については、橋本ら(参考文献2: 高分子論文集、vol.63、No.3、p166(2006))に記載されているように、ある親水クラスターモデルを仮定して実測散乱スペクトルデータを近似してクラスター径やクラスター密度を計算し、それを議論することが行われている。また、その解析で得られた親水部構造パラメータの値を限定したレドックスフロー電池用固体電解質膜が提案されている(特許文献5)。一方、Hauboldらは、実測散乱スペクトルにおいてq値(ピーク位置)から親水部クラスター間の距離を比較的簡単な方法で計算し、親水部クラスターの発達度合いを議論している(参考文献3: H.G.Haubold et al., Electrochimica Acta, vol.66(15)1559(2001))。
しかしながら、これらの解析手法は、煩雑であり、モデルの妥当性及び実測散乱スペクトルとモデル曲線との近似エラーが大きいことが問題である。
本発明では、複雑な解析にたよらず計算の任意性が入らないように、Hauboldらが指摘しているq値として0.15Å-1近傍に見られる親水部構造ピークに着目し(以下、このピーク位置を「q1値」という)、膜の親水部の発達状況を検討した。その結果、このq1値が所定の値以下である時に、電析おいて膜強度を保ったまま限界電流密度を著しく大きくできることを見出した。すなわち、高い膜強度と高い限界電流密度とを両立させるためには、隔膜は、小角X線散乱法により室温の水中で測定した散乱スペクトルにおいて、親水部構造に由来するピーク位置(q1値)が0.14Å-1(1.4nm-1)以下であるものが好ましい。q1値は、さらに好ましくは、0.11Å-1以下である。
通常の成膜工程で得られた隔膜の0.15Å-1近傍のq1値が本発明の処理により0.08Å-1未満となる場合、あるいは明瞭なピークが見られなくなる場合には、親水部構造が過度に発達した膨潤状態となり、電解質単独では膜強度を保てない恐れが生じる。このような場合には、電解質は他の補強構造体(支持材料)と複合化して用いることが望ましい。一方、q1値が0.14Å-1を超えると、親水部の発達が不十分となるため、膜内で水酸化物が生成しやすくなり、高い電流密度で電析することが困難となる。
ここで、炭化水素系電解質膜の中には、未処理のまま、あるいは本発明による処理を行っても、0.15Å-1近傍の親水部構造に由来する明瞭なピークを持たないものがある。このような隔膜は、本発明の目的には不適当であるとと判断される。
[1.3.3. SAXSスペクトルの具体例]
図1に、種々の条件下で成膜された隔膜の室温水中での小角X線散乱(SAXS)プロファイルの一例を示す。q1は、0.15Å-1を中心として、0.16Å-1〜0.08Å-1の間に見られる親水部構造に由来するピークの位置を表す。また、q2は、0.05Å-1を中心としてて、0.02Å-1〜0.08Å-1の間に見られる微結晶の構造に由来するピークの位置を表す。
[1.4. 膜補強構造体]
隔膜は、膜強度を維持し、かつ含水時の寸法変化を抑えるために、膜補強構造体をさらに含んでいても良い。
本発明において、膜補強構造体の材料や構造は、特に限定されない。
膜補強構造体としては、例えば、
(a)ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等からなる不織布、織布、又はメッシュ、
(b)延伸多孔化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔膜、
などがある。
特に、PTFE多孔膜は、隔膜の寸法変化を抑制し、かつ電解質との濡れ性が良好であるため、膜補強構造体として好適である。また、この多孔膜の成型条件を最適化することにより、含水時における隔膜の水平方向への寸法変化が抑えられ、かつ、垂直方向(膜厚方向)への膨潤が許容される。そのため、含水した状態において、親水部の導電パスの屈曲率が下がり、電析をスムーズに行うことができる。
[1.5. めっき用添加剤]
[A. めっき用有機添加剤の概要]
本発明において、隔膜は、めっき用添加剤をさらに含んでいても良い。
「めっき用添加剤」とは、析出皮膜の平滑性(光沢)向上や、ピット(マクロな欠陥)生成防止機能を持つ有機化合物をいう。
めっき用添加剤は、イオン性化合物でも良く、あるいは、非イオン性化合物でも良い。また、めっき用添加剤は、水溶性の化合物でも良く、あるいは、水に対して難溶性の化合物でも良い。
ここで、「イオン性化合物」とは、酸、塩基、及び、これらの塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)のようなイオン結合性の化合物をいう。
「非イオン性化合物」とは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのように電荷を持たない共有結合性の化合物をいう。
「水溶性」とは、室温での水への溶解度が1g/Lを超えることをいう。
「水に対して難溶性」とは、室温での水への溶解度が1g/L以下であることをいう。
銅めっきの場合、めっき用添加剤としては、具体的には、
(1)キャリアー(表面吸着成分:PEG等のポリエーテル化合物、塩化物)、
(2)ブライトナー(光沢機能を持つ成分:ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)、メルカプトプロパンスルホン酸(MPS)など)、
(3)レベラー(平滑化作用を持つ成分:ヤーヌスグリーンB(JGB)、四級アミン化合物など)、
(4)錯化剤(析出金属イオンに強く配位して水酸化物の沈殿生成を防止する成分:有機酸、アミノカルボン酸など)
が挙げられる。また、上記の他にも、銅めっき以外の他のめっきにおいて通常用いられる添加剤を隔膜に添加して用いることができる。
めっき用添加剤は、通常の電気めっきにおいては、めっき浴に適量添加され、その消耗量を管理する必要がある。しかし、添加剤の消耗量の管理は、一般に煩雑なものである。
本発明においては、必要最小限量の添加剤が隔膜に添加される。そのため、陰極室液がある場合には、隔膜から添加剤が徐々に溶出するため、効果を長期間発揮できる。また、陰極室液が無い場合でも、隔膜に固定された添加剤は、析出金属表面と強力な相互作用を発揮し、析出金属の物性及び平滑性を改善することができる。
すなわち、添加剤が対極(陽極)で酸化分解したり、被めっき物(陰極)で還元されて消耗する速度を極めて小さくすることができる。従って、添加剤の濃度管理は不要である。また、添加剤をめっき浴へ過剰に添加した場合に起きる電析効率の低下や、電極で分解した生成物がめっき浴中に濃縮したことにより起きる皮膜の柔軟性の低下やはんだ付け性の低下が起きることがない。
これらの添加剤は、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、添加剤は、めっき液の表面張力を下げて、
(1)陰極から発生する水素ガス、又は、
(2)不溶性電極(陽極)から発生する酸素ガス
の脱泡を促す作用が大きい物質(いわゆる「界面活性剤」)でも良い。
隔膜としてカチオン交換膜を用いた場合において、添加剤として界面活性剤を用いる時には、界面活性剤は、カチオン界面活性剤又は両面界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、カチオン交換膜の酸基との静電的相互作用があるため、カチオン交換膜に固定されやすい。
一方、隔膜としてアニオン交換膜を用いる場合において、添加剤として界面活性剤を用いる時には、界面活性剤は、アニオン界面活性剤又は両性界面活性剤が好ましい。
特に、隔膜としてカチオン交換膜を用い、添加材としてカチオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いるのが好ましい。
[B. 添加剤の添加量]
めっき用添加剤を添加した隔膜を使用すると、従来法に比べてめっき用添加剤の使用量を低減することができる。これは、以下の理由による。
(1)隔膜を用いて電析すれば、添加剤が陽極室に移動し、酸化分解により消耗することが妨げられる。
(2)隔膜に添加剤を固定すれば、そこから電析中に徐々に添加剤が陰極室に移行し、必要量が補充される。
(3)隔膜を用いて電析すれば、陰極室液の量をゼロか、極めて少なくすることができる。析出金属表面での添加剤濃度を高められるので、添加剤の必要量は極めて少量で良い。
[C. 隔膜にめっき用添加剤を添加する利点]
めっき用添加剤の濃度管理、及び添加剤に由来する老廃物の除去は、通常の電気めっきでも大きな課題である。
これに対し、本発明に係る方法によれば、極めて少量の添加剤を隔膜に添加するだけで良いので、めっき液の濃度管理無しで電析が可能である。また、添加剤の酸化・還元に由来する老廃物の除去も実質的に不要となり、隔膜は繰り返し使用できる。さらに、隔膜内の添加剤の消耗が激しい場合には、通電電気量を考慮して隔膜への添加剤の添加量を調整したり、あるいは、定期的に隔膜に添加剤を再添加することができる。
[1.6. 隔膜の厚み]
隔膜の厚みは、電気めっきが円滑に行われる限りにおいて、特に限定されない。隔膜の厚みは、具体的には、0.01μm〜200μmが好ましく、さらに好ましくは、10μm〜100μmである。
[1.7. 金属イオン]
隔膜は、めっき用添加剤に加えて、又は、これに代えて、金属イオン(例えば、金属皮膜を構成する金属イオン)をさらに含んでいても良い。
後述する陽極室液でのNa+、K+、Cs+イオンの制限と同様の考え方から、隔膜内でのNa+、K+、Cs+イオンの重量含有率は、1%以下(酸基交換率50%以下)が好ましい。一般に、カチオン交換膜としては、酸基の100%がNa+等のアルカリイオンで交換されたもの(Na体)が市販されている。しかしながら、このような隔膜を用いて電析すると、アルカリ金属イオンは、電析面へ漏洩し易いため、金属水酸化物の生成を助長し、好ましくない。
従って、隔膜には、Na+で交換されていないカチオン交換膜(H体)、又は酸基の50%以下がアルカリイオンで交換されているカチオン交換膜を用いるのが好ましい。また、カチオン交換膜は、電析の前に、膜を硫酸、硝酸、塩酸等の強酸で予め酸洗浄しておくことが、金属水酸化物の生成を抑制するために更に好ましい。
[2. 隔膜の製造方法]
本発明に係る隔膜は、
(1)成膜直後の膜(以下、「前駆体膜」という)に膨潤処理を施す方法、
(2)前駆体膜に含水処理を施す方法、
(3)前駆体膜に膨潤処理を施した後、さらに含水処理を施す方法、
(4)前駆体膜、又は(1)〜(3)の処理を施した膜に対して、さらにアニール処理する方法、
などにより製造することができる。
成膜条件を最適化すると、成膜直後の段階で、目的とする親水部構造が形成される場合もある。しかしながら、一般に、親水部構造と膜強度とを両立させることは難しい。これに対し、成膜後の隔膜に上述した処理を施すと、目的とする親水部構造を再現性良く形成することができるだけでなく、高い膜強度も得られる。
[2.1. 膨潤処理]
[2.1.1. 定義]
「膨潤処理」とは、前駆体膜を親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒に浸漬する処理をいう。処理液には、上述しためっき用添加剤が含まれていても良い。
前駆体膜を所定温度の親水性有機溶媒又はその混合溶媒に所定の条件下で浸漬すると、前駆体膜が膨潤する。その際、膨潤条件を最適化すると、親水部パスが発達し、上述した親水部構造を備えた隔膜が得られる。このようにして得られた隔膜を用いて電析を行うと、膜内での金属水酸化物の生成を抑制することができる。
この場合、結果的に電析イオンの輸率が向上するので、電析界面(隔膜/陰極)の連続性が良好となり、電気浸透水によって隔膜が十分に含水する。そのため、陰極上で水素が副生成した場合であっても、界面空隙が生じにくくなり、膜渇きによる電析不良を防ぐことができる。
有機溶媒で膨潤処理を行った後、膜内に有機溶媒が多量に残留していると、イオン伝導性を阻害する。そのため、膨潤処理に用いる有機溶媒は、水への溶解度が大きいもの(すなわち、親水性有機溶媒)が好ましい。有機溶媒は、特に、水と完全相溶するものが好ましい。親水性有機溶媒は、膨潤処理後の水置換が容易であるので、膨潤処理用の有機溶媒として好適である。
また、親水性有機溶媒のみで膨潤処理を行うと、前駆体膜が過度に膨潤し、q1値が小さくなりすぎる場合がある。このような場合には、親水性有機溶媒と水との混合溶媒を用いて、膨潤度合いを調節するのが好ましい。
[2.1.2. 親水性有機溶媒の具体例]
親水性有機溶媒としては、例えば、低分子量のアルコール、グリコール、ケトン、エーテル、グリコールエーテル、ニトリル、アミド、スルホキシド、有機酸等が挙げられる。これらの親水性有機溶媒は、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
親水性有機溶媒の中でも、水と任意の割合で混じり合う(相溶する)ものとしては、
(a)メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール、
(b)エチレングリコール、プロピレングリコール等の低分子グリコール、
などが挙げられる。
上記溶媒の中でも、前記親水性有機溶媒は、ブチルセロソルブ、t−ブチルアルコール、及びエタノールからなる群から選ばれるいずれか1以上が好ましい。その中でも、ブチルセロソルブは、q2値を小さくする作用が大きいため、特に好ましい。
[2.1.3. 処理条件]
膨潤処理は、室温で行っても良く、あるいは、加温下で行っても良い。一般に、膨潤処理の温度が高くなるほど、イオン導電パスが発達しやすくなる。膨潤処理時間を短縮するためには、膨潤処理の温度は、40℃以上が好ましい。
一方、膨潤処理温度が高すぎると、過度に膨潤が進行し、膜強度の低下を引き起こす。また、隔膜中のイオン交換基が脱落するおそれもある。従って、膨潤処理温度は、180℃以下が好ましい。
膨潤処理の時間は、膨潤処理温度に応じて、最適な時間を選択する。一般に、膨潤処理温度が高くなるほど、短時間で目的とするイオン導電パスを発達させることができる。
さらに、膨潤処理は、常圧下で行っても良く、あるいは、加圧容器中において加圧下で行っても良い。
膨潤処理後、必要に応じて、隔膜の乾燥を行う。この場合、乾燥温度が高すぎると、乾燥時に親水部構造が壊れたり、あるいは、イオン交換基が脱離するおそれがある。従って、乾燥を行う場合には、乾燥温度は、160℃未満が好ましい。
また、膨潤処理後に、後述する含水処理をさらに行っても良い。この場合、膨潤処理後の膜を乾燥させることなく、そのまま含水処理を行うのが好ましい。膨潤状態を維持したまま含水処理を行うと、親水部構造がさらに発達し、電析イオンの導電性及び輸率が向上する。
キャスト成型法及び溶融押し出し成型法で形成された隔膜には、一般的に親水性有機溶媒が検出可能なレベルで残留する事はない。そのため、隔膜を用いた電気めっきセルにおいて、隔膜から親水性有機溶媒が検出された場合には、本発明で処理した隔膜を使用したものと推定する事が出来る。
[2.2. 含水処理]
[2.2.1. 定義]
「含水処理」とは、前駆体膜又は膨潤処理後の膜を水又は水蒸気と接触させる処理をいう。含水処理は、具体的には、前駆体膜又は膨潤処理後の膜を水に浸漬し、又は、前駆体膜又は膨潤処理後の膜を水蒸気に曝すことにより行う。含水処理用の水には、上述しためっき用添加剤が含まれていも良い。
前駆体膜に対して、直接、含水処理を施しても良い。含水処理のみであっても、条件を最適化することにより、親水部構造を発達させることができる。しかしながら、膨潤処理後の膜に対して含水処理を施すと、親水部構造がさらに発達すると同時に、膜中の親水性有機溶媒の全部又は一部を水に置換することができる。
膨潤処理後の膜に対して含水処理を行う場合、必ずしも親水性有機溶媒の100%を水で置換する必要はない。但し、多量の有機溶媒が残留している隔膜を用いて電析を行うと、電析浴の汚染、臭気、可燃性等の問題が生じるおそれがある。従って、有機溶媒の残留量が膜重量に対して10%以下となるように、含水処理(水置換処理)を行うのが好ましい。
[2.2.2. 処理条件]
含水処理は、室温で行っても良く、あるいは、加温下で行っても良い。一般に、含水処理の温度が高くなるほど、イオン導電パスが発達しやすくなる。含水処理時間を短縮するためには、含水処理の温度は、40℃以上が好ましい。含水処理の温度は、さらに好ましくは100℃以上である。すなわち、含水処理は、膜を沸騰水中に浸漬又は還流し、あるいは、膜を水蒸気に曝すことにより行うのが好ましい。これらの方法を用いると、溶媒脱離時間を短縮でき、しかも親水部パスを強化することができる。
一方、含水処理温度が高すぎると、過度に膨潤が進行し、膜強度の低下を引き起こす。また、隔膜中のイオン交換基が脱落するおそれもある。従って、含水処理温度は、180℃以下が好ましい。
含水処理の時間は、含水処理温度に応じて、最適な時間を選択する。一般に、含水処理温度が高くなるほど、短時間で目的とするイオン導電パスを発達させることができる。
また、膨潤処理後に含水処理を行う場合、含水処理温度が高くなるほど、短時間で有機溶媒を水で置換することができる。また、水を用いて含水処理をする場合、含水処理時に超音波を照射すると、溶媒脱離時間を短縮することができる。
[2.3. アニール処理]
[2.3.1. 定義]
「アニール処理」とは、前駆体膜、又は、膨潤処理及び/又は含水処理を施した膜を所定の条件下で加熱する処理をいう。隔膜に対して、所定の条件下でアニール処理すると、q2値及びq1値を所定の範囲に維持したまま、膜固着を抑制することができる。
[2.3.2. 処理条件]
アニール処理温度が高くなるほど、短時間で、目的とする微結晶構造及び/又は親水部構造を得ることができる。また、微結晶部を強化でき、水に不溶性とすることができる。従って、アニール処理温度は、100℃以上が好ましい。アニール処理温度は、さらに好ましくは、110℃以上である。
一方、アニール処理温度が高すぎると、微結晶の構造が過度に発達し、隔膜が硬く、かつ脆くなる。従って、アニール処理温度は、160℃以下が好ましい.アニール処理温度は、さらに好ましくは、120℃以下である。
アニール処理時間は、アニール処理温度に応じて最適な時間を選択する。一般に、アニール処理温度が高くなるほど、短時間で上述した効果が得られる。最適なアニール処理時間は、隔膜の履歴やアニール処理温度により異なるが、通常、10分〜10時間程度である。
[3. 電気めっきセル(1)]
図2に、本発明の第1の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図を示す。
図2において、電気めっきセル10は、陽極室12と、陰極室14と、隔膜16とを備えている。陽極室12には、陽極室液20が充填され、陽極室液20中には、陽極22が浸漬されている。さらに、陽極22は、電源30のプラス極に接続されている。
陰極室14には、陰極室液24が充填され、陰極室液24中には、陰極26が浸漬されている。さらに、陰極26は、電源30のマイナス極に接続されている。この電気めっきセル10を用いてめっきを行うと、陰極26の表面に金属皮膜28が析出する。
陽極室12は、陽極室液20を保持するためのものである。同様に、陰極室14は、陰極室液24を保持するためのものである。陽極室12及び陰極室14の大きさ、形状、これらを構成する材料等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。なお、陰極室14及び陰極室液24は、必ずしも必要ではなく、省略することもできる。
陽極室12には、所定の組成を有する陽極室液20が充填される。同様に、陰極室14には、所定の組成を有する陰極室液24が充填される。陽極室液20及び陰極室液24の量は、特に限定されるものではなく、それぞれ、目的に応じて最適な量を選択することができる。なお、陽極室液20及び陰極室液24の詳細については、後述する。
陽極22は、少なくともその表面が導電性を有する材料からなるものであれば良い。陽極22は、全体が導電性を有する材料からなるものでも良く、あるいは、表面のみが導電性を有する材料からなるものでも良い。さらに、陽極22は、不溶性電極でも良く、あるいは、可溶性電極でも良い。
陰極26は、被めっき物である。陰極26は、少なくともその表面が導電性を有する材料からなるものであれば良い。陰極26は、全体が導電性を有する材料からなるものでも良く、あるいは、表面のみが導電性を有する材料からなるものでも良い。
隔膜16は、陰極26(被めっき物)を陽極室12から隔離するためのものである。陰極室14を備えた電気めっきセル10の場合、隔膜16は、陽極室12と陰極室14の境界に設けられる。一方、陰極室14が無い場合、隔膜16は、陰極26の表面に接するように設けられる。隔膜16の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
さらに、電源30は、特に限定されるものではなく、陽極22−陰極26間に所定の電圧を印加できるものであればよい。
[4. 電気めっきセル(1)を用いた金属皮膜の製造方法]
[4.1. 陽極室液の調製]
まず、陰極(被めっき物)26上に析出させる金属のイオンを含む陽極室液20を調製する。陽極室液20は、析出させる金属元素を含む水溶性金属化合物を水に溶解させたものからなる。陽極室液20は、さらに必要に応じて、
(1)水溶性有機溶媒(アルコール類等)、
(2)pH調整剤(塩基、例えばエチレンジアミン等のアミン類;酸、例えば塩酸等)、
(3)緩衝剤(例えば、有機酸など)
などが含まれていても良い。
[4.1.1. 水溶性金属化合物]
本発明において、析出させる金属は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。析出させる金属としては、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、すず、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、セレン、テルル等が挙げられる。
これらの中でも、析出させる金属は、銀、銅、金、ニッケル、すず、白金、パラジウムが好ましい。これらの金属は、いずれも水溶液からの電析が可能で、かつ、金属皮膜の比抵抗も小さいためである。
また、Cuは、通常、電気めっきの際に陰極26表面から水素が発生しやすく、水酸化物も生成しやすい金属である。しかしながら、Cuめっきに対して本発明を適用すると、水素の発生や水酸化物の生成を抑制することができる。
水溶性金属化合物としては、例えば、
(1)塩化物などのハロゲン化物、
(2)硫酸塩(例えば、硫酸銅、硫酸ニッケルなど)、硝酸塩(例えば、硝酸銀など)などの無機酸塩、
(3)酢酸塩などの有機酸塩、
などがある。材料コストの点から、無機酸塩が好ましい。
陽極室液20には、これらのいずれか1種の水溶性金属化合物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
陽極室液20に含まれる水溶性金属化合物の濃度は、特に限定されるものではなく、水溶性金属化合物の種類などに応じて最適な値を選択する。陽極室液20中の金属イオン濃度は、0.001M/L〜2M/L、好ましくは、0.05M/L〜1M/Lである。
陽極室液20は、塩基性が大で、水和イオン半径が小さく隔膜16を透過しやすいイオン(例えば、Na+、K+、Cs+)を実質的に含まないのが好ましい。我々が確認したところでは、陽極室液20の成分としてこれらのイオンを0.1M/Lを超えて含むと、隔膜16界面で金属水酸化物の生成が起きやすいことが判明した。すなわち、陽極室液20中に含まれる電析金属イオン以外のイオン(特に、Na+、K+、Cs+)の濃度は、0.1M/L以下に制限することが望ましい。これらの理由で、界面活性剤を浴に添加する場合には、これらのアルカリ金属イオンを含まない界面活性剤を用いるのが好ましい。
一方、アルカリ金属イオンの中でも、Li+イオンは、水和イオン半径が比較的大きく、隔膜16を透過し難い。そのため、陽極室液20の成分として、0.1M/Lを超えて含んでいても良い。
[4.1.2. pH調整剤]
陽極室液20には、必要に応じてpH調整剤が添加される。陽極室液20のpHは、特に限定されるものではなく、水溶性金属化合物の種類などに応じて最適な値を選択する。
pHが小さくなりすぎると、陰極26上での還元反応は、水素発生反応が主体となる。そのため、電析効率が大幅に低下し、経済的ではない。従って、pHは、1以上が好ましい。
一方、pHが大きくなりすぎると、電析面では金属水酸化物を巻き込みやすくなり、平滑性が低下する。従って、pHは、6以下が好ましい。
[4.1.3. 緩衝剤]
pH緩衝作用、浴電圧低下のための導電性向上、つき周り性の改善などを目的として、電析に必要な金属イオン以外のカチオン成分を陽極室液20中に添加する場合がある。その場合には、Na+、K+、Cs+イオンを含む化合物の代わりに、水和イオン半径が大きく、隔膜を透過し難いLi+イオンや、塩基性の弱いMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Al3+イオンを含む無機化合物を陽極室液20中に添加すると、金属水酸化物の抑制に効果的である。
また、金属水酸化物生成能の弱いアンモニウム、アミン、イミン、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、モルホリニウム等の弱塩基性イオンを含む有機化合物の添加も有効である。
但し、陽極室液20中の電析金属イオン濃度と、隔膜16中の金属イオン濃度とは、平衡関係にある。従って、隔膜16中の金属イオン濃度の輸率が大幅に低下しないように、これらの化合物の濃度は、できる限り低濃度が好ましい。具体的には、これらの化合物の濃度は、好ましくは0.1M/L以下とし、隔膜16中(特に、カチオン交換膜中)のこれらのカチオンの占有率(酸基交換率)が50%以下となるようにするのが好ましい。例えば、1meq/g(EW=1000)の酸基を持つカチオン交換膜では、Na+イオンの交換率50%は、膜重量含有率として約1.2%に相当する。
[4.1.4. 陽極室液の量]
陽極室液20の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
[4.2. 陰極室液の調製]
[4.2.1. 陰極室液の組成]
次に、陰極室液24を調製する。陰極室液24の組成については、陽極室液20と同様であるので説明を省略する。
[4.2.2. 陰極室液の量]
陰極室液24の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
なお、本発明において、陰極室液24の量は、少量でも良い。具体的には、陰極室液24の量は、陰極26の単位面積当たり100μL/cm2以下でも良い。また、陰極室14及び陰極室液24を省略すること、すなわち、隔膜16と陰極26とを密着させることもできる。
実質的に陰極室液24が無い状態でも、電気浸透現象により隔膜16から電析面(陰極26の表面)に極微量の水が輸送される。そのため、隔膜16−陰極26間に連続的界面が形成され、電気化学反応(電析)を行うことができる。隔膜16と陰極26の表面との密着性を改善するため、必要に応じて加圧機構を用いて両者を加圧した状態で電析を行うのが好ましい。
このように実質的に陰極室液24が無く、かつ、隔膜16を用いた電気めっきセルを用いて、水素発生しやすい金属を水溶液中から高速で電析する方法は、知られていない。実質的に陰極室液24が無い状態で電気めっきを行えば、陽極12の形状を被めっき物に転写することができ、マスクレスでの金属パターンの形成が容易に行える。また、陰極室液24が無いので、被めっき物へのめっき液の付着・持ち出しをなくすことが可能となり、電析後の水洗工程及び廃水処理工程を大幅に簡略化できる。
[4.3. 電析]
所定量の陽極室液20及び陰極室液24を、それぞれ、陽極室12及び陰極室14に入れる。次いで、電源30を用いて、隔膜16を挟んで配置された陽極22−陰極26間に電圧を印加する。これにより、陰極室液24内の金属イオンが還元され、陰極26上に金属皮膜28が析出する。
金属皮膜28の析出が進行すると、陰極室液24の金属イオン濃度が低下する。その結果、陰極室液24と陽極室液20との間で金属イオンの濃度勾配が発生する。この濃度勾配を駆動力として、陽極室液20内の金属イオンが隔膜16を通って陰極室液24に拡散する。
電極間に与える電圧、電析時のめっき浴の温度、及び電析時間は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
[5. 電気めっきセル(2)]
本発明の第2の実施の形態に係る電気めっきセルは、陽極室液を保持するための陽極室と、前記陽極室と陰極とを隔離するための隔膜とを備えている。また、前記隔膜は、前記陽極室液に含まれる金属イオンを選択的に透過させることが可能なものからなる。
すなわち、本実施の形態に係る電気めっきセルは、陰極室液を保持するための陰極室を備えていない。この点が、第1の実施の形態とは異なる。
図3に、本発明の第2の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図を示す。
図3において、電気めっきセル40は、陽極室12と、隔膜16と、陽極22と、陰極26と、電源30と、加圧装置42とを備えている。
陽極室12は、陽極室液20を保持するためのものである。陽極室12の上部には、陽極室液タンク(図示せず)から陽極室12内に陽極室液20を供給するための供給孔12aが設けられている。また、陽極室12の側面には、陽極室12から廃液タンク(図示せず)に陽極室液20を排出するための排出口12bが設けられている。
陽極室12の下端の開口部には、陽極22が勘合されている。さらに、陽極22の下面には、隔膜16が接合されている。
陽極室12の上面には、加圧装置42が設けられている。加圧装置42は、陽極室12、陽極22、及び隔膜16を鉛直方向に移動させるためのものである。
陽極室12の下方には、基台46が配置されている。基台46の上面には、陰極(被めっき物)26が配置されている。陰極26の上面の外周には、通電部48が設けられている。通電部48は、陰極26に電圧を印加するためのものであり、陰極26の表面の成膜領域を囲うように設けられている。図3に示す例において、通電部48は、リング状になっており、そのリング内に隔膜16の先端部分を挿入できるようになっている。さらに、陽極22及び通電部48(すなわち、陰極26)は、電源30に接続されている。
本実施の形態において、陽極22には、陽極室液20を隔膜16の表面に供給可能な電極が用いられる。陽極22としては、具体的には、陽極室液20を透過させることが可能な孔径を有する多孔質電極、所定の形状パターンを有するパターン電極などがある。
なお、連続的な金属皮膜28の成膜を行わない場合、陽極22内部に存在する空隙を陽極室として用いること、すなわち、陽極22に必要量の陽極室液を含浸させ、実質的に陽極室12を省略することもできる。
陽極室12、隔膜16、陽極22、陰極26、及び電源30に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
[6. 電気めっきセル(2)を用いた金属皮膜の製造方法]
まず、図3(a)に示すように、基台46と隔膜16とを離間させた状態で、基台46上に陰極26を配置し、陰極26の周囲に通電部48を配置する。また、供給孔12aを介して、陽極室12内に陽極室液20を供給する。陽極室液20は、陽極22内の空隙(図示せず)を通って隔膜16の表面まで供給される。
次に、図3(b)に示すように、加圧装置42を用いて陽極室12を下方に移動させ、隔膜16の下面と陰極26の上面とを接触させる。この時、加圧装置42の押圧力を調整し、隔膜16と陰極26との界面に適度な圧力を付与する。
この状態で電源30を用いて陽極22及び通電部48(すなわち、陰極26)に所定の電圧を印加すると、隔膜16と陰極26の界面に金属皮膜28が析出する。この時、必要に応じて、消耗した陽極室液20を排出口12bから排出しながら、供給孔12aを介して新たな陽極室液20を陽極室12内に補給すると、連続的にめっきを行うことができる。所定時間経過後、加圧装置42を用いて陽極室12を上昇させ、隔膜16と陰極26とを離間させる。
[7. 作用]
通常の方法を用いて成膜された隔膜に対して特殊な処理を施し、あるいは、特殊な条件下で隔膜を成膜すると、隔膜内の分子の微結晶の構造が変化する。この微結晶の構造の良否は、小角X線散乱(SAXS)スペクトルの解析により的確に判別することができる。具体的には、SAXSスペクトルに現れる微結晶の構造に由来するピーク位置(q2値)が0.05Å-1(0.5nm-1)以下である場合、その隔膜は、分子の折り畳み構造に起因する結晶の発達程度が低いことを示している。
このような構造を備えた隔膜は変形しやすいため、これを用いて加圧状態でゼロギャップ電析を行った場合、隔膜/陰極間に空隙が生じにくくなる。また、電流密度が均一化され、イオンの輸送が陰極全面でスムーズに行われる。さらに、異常析出(膜内での金属水酸化物の析出)が起き難くなり、隔膜の固着を防ぐことができる。その結果、水素発生しやすい金属イオンを含むめっき液を用いた場合であっても、マスクレスパターン状成膜を簡便に、かつ、高速に行うことが可能となる。例えば、従来では高速成膜が困難であった銅等の金属パターンを導電性基体上に簡便に形成することができる。
さらに、通常の方法を用いて成膜された隔膜に対して特殊な処理を施し、あるいは、特殊な条件下で隔膜を成膜すると、隔膜内の親水部構造が変化する。この親水部構造の良否は、小角X線散乱(SAXS)スペクトルの解析により的確に判別することができる。具体的には、SAXSプロファイルに現れる親水部構造に由来するピーク位置(q1値)が0.14Å-1(1.4nm-1)以下である場合、その隔膜は、親水部構造(イオンチャンネル)が十分に発達していることを示している。
このような隔膜を用いて電析を行うと、隔膜内におけるイオンの輸送がスムーズに行われる。その結果、高速電析が可能となり、かつ、電析時に金属水酸化物の沈殿が生成しにくくなる。また、水素発生しやすい金属イオンを含むめっき液を用いて、マスクレスパターン電析を高速で行うことができる。
(実施例1〜3、比較例1〜2: 隔膜のSAXSピーク位置解析とゼロギャップセルでの銅電析時の限界電流密度)
[1. 隔膜の含水処理]
溶融押し出し成型法又はキャスト法により製造したパーフルオロスルホン酸系のカチオン交換膜(厚さ:20μm〜50μm、大きさ:30mm×30mm)に対して、含水処理を行った。含水処理条件は、
(a)80℃の純水中で2hr浸漬+室温の純水中で一晩浸漬(実施例1〜3、比較例1)、又は、
(b)加温含水処理せずに、室温の純水中で一晩浸漬(比較例2)、
とした。
[2. 試験方法]
[2.1. 小角X線散乱(SAXS)スペクトル]
カプトン(登録商標)製の袋で含水状態のまま膜を挟み、室温水中においてSAXS法を用いて散乱スペクトルを測定した。SAXSスペクトルから、親水部構造に由来するピーク位置:q1値(Å-1)、及び微結晶の構造に由来するピーク位置:q2値(Å-1)を求めた。
[2.2. 銅めっき試験]
図3に示す電気めっきセル(ゼロギャップセル)を用いて、銅めっきを行った。陽極22には、Ptめっきした発泡Ti板を用いた。陰極26には、厚さ0.1μmのAuスパッタを施したAl板を用いた。陽極室液20には、1M/LのCuSO4水溶液を用いた。
陽極22/隔膜16/陰極26を積層し、0.1MPaで加圧した。この状態で、室温において、5〜45mA/cm2×10分の条件下で定電流電析を行い、隔膜16と固着せずに電析できる電流密度の上限値(限界電流密度)を求めた。
[3. 結果]
表1に、結果を示す。表1より、以下のことが分かる。
(1)隔膜16の材料が同一であっても、製造方法及び/又は製造条件により、q2値及び/又はq1値が大きく異なった。
(2)q2値が0.05Å-1以下の隔膜(実施例1〜3)は、q2値が0.05Å-1を超える隔膜(比較例1、2)に比べ、限界電流密度の値が大きかった。
(3)キャスト法により製造した隔膜(実施例2、比較例1〜2)の場合、成膜条件及び含水条件によりq2値が大きく異なった。これは、キャスト溶媒の種類や組成、及びキャスト成型時の加熱温度又は加熱時間が異なっているためと考えられる。
Figure 2018090853
(実施例4〜5、比較例3: 隔膜のSAXSピーク位置解析とゼロギャップでのニッケル電析時の限界電流密度)
[1. 隔膜の膨潤処理]
溶融押し出し成型法を用いて製造されたパーフルオロスルホン酸系のカチオン交換膜(厚さ:183μm、大きさ:30mm×30mm)に対して膨潤処理及び水置換処理(含水処理)を行った。膨潤処理液には、1wt%のサッカリン(o−スルホベンズイミド;サッカリンのナトリウム塩でないことに注意)をブチルカルビトールに溶解させたものを用いた。
隔膜を10mLの膨潤処理液に室温で10分間浸漬した。膨潤処理後、隔膜を処理液から引き上げ、ろ紙で余剰の処理液をぬぐった。さらに、隔膜を乾燥させることなく室温の純水に浸漬し、水置換処理を行った(実施例4)。
この処理により、含水率は、22%から53%に増加した。なお、サッカリンの含浸量を真空乾燥後の膜重量増加から求めたところ、0.2wt%であった。
また、
(a)溶融押し出し法を用いて製造された隔膜に対し、何も処理せずに室温の純水に浸漬したままの膜(実施例5)、及び
(b)キャスト法を用いて製造された隔膜に対して、何も処理せずに室温の純水に浸漬したままの膜(比較例3)
も用意した。
[2. 試験方法]
[2.1. 小角X線散乱(SAXS)スペクトル]
実施例1と同様にして、q1値(Å-1)、及びq2値(Å-1)を求めた。
[2.2. ニッケルめっき試験]
図3に示す電気めっきセル(ゼロギャップセル)を用いて、ニッケルめっきを行った。陽極22及び陰極26には、実施例1と同一材料を用いた。陽極室液20には、1M/LのNiSO4を用いた。pHは、0.5M/LのCH3COOH水溶液を用いて、5.6に調整した。
陽極22/隔膜16/陰極26を積層し、0.1MPaで加圧した。この状態で、室温において、10〜50mA/cm2×10分の条件下で定電流電析を行い、水酸化ニッケルが析出せずに電析できる電流密度の上限値(限界電流密度)を求めた。
[3. 結果]
表2に、結果を示す。表2より、以下のことが分かる。
(1)q2値が0.05Å-1以下の隔膜(実施例4〜5)は、q2値が0.05Å-1をを超える隔膜(比較例3)に比べ、限界電流密度の値が大きかった。
(2)実施例5は、実施例4に比べて限界電流密度が低い。これは、隔膜の弾性率が高くて陰極と隔膜とが部分的に非密着の場所があり、電流密度が局所的に高いところがあったためと考えられる。
Figure 2018090853
(実施例6〜7、比較例4: 溶融押し出し成型法により得られた隔膜の熱処理温度)
[1. 隔膜のアニール処理]
隔膜には、溶融押し出し成型法により製造された、膜厚8μmのパーフルオロスルホン酸系のカチオン交換膜を用いた。この隔膜に対して、アニール処理を施した。アニール処理条件は、なし(実施例6)、110℃×2hr(実施例7)、又は165℃×2hr(比較例4)とした。
[2. 試験方法]
[2.1. 小角X線散乱(SAXS)スペクトル]
実施例1と同様にして、q1値(Å-1)、及びq2値(Å-1)を求めた。
[2.2. 銅めっき試験]
図3に示す電気めっきセル(ゼロギャップセル)を用いて、銅めっきを行った。陽極22には、Cuメッシュを用いた。陰極26には、Auスパッタしたガラス板を用いた。陽極室液20には、0.5M/LのCuSO4水溶液を用いた。
陽極22/隔膜16/陰極26を積層し、0.1MPaで加圧した。この状態で、室温において、10mA/cm2×2分の条件下でCu電析を行い、隔膜16と電析Cu面との固着状況を調べた。
[3. 結果]
表3に、結果を示す。表3より、以下のことがわかる。
(1)q2値が0.05Å-1以下の隔膜(実施例6、7)は、q2値が0.05Å-1を超える隔膜(比較例4)と異なり、膜固着なく電析を行うことができた。これは、実施例6、7の隔膜では微結晶が発達せずに弾性率が低いため陰極と隔膜とが密着した状態で電析ができており、均一な電流密度になっているのに対し、比較例4では微結晶が発達して弾性率が高いため部分的に陰極と隔膜とが非密着の状態となって電流密度が局所的に高くなっている場所があったためと考えられる。
Figure 2018090853
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る電気めっきセルは、各種金属皮膜の形成に用いることができる。
10 電気めっきセル
12 陽極室
14 陰極室
16 隔膜
20 陽極室液
22 陽極
24 陰極室液
26 陰極
28 金属皮膜

Claims (12)

  1. 陽極室液を保持するための陽極室と、
    前記陽極室と陰極とを隔離するための隔膜と
    を備え、
    前記隔膜は、小角X線散乱法により室温の水中で測定した散乱スペクトルにおいて、分子の微結晶の構造に由来するピーク位置(q2値)が0.05Å-1(0.5nm-1)以下である電気めっきセル。
  2. 前記隔膜は、小角X線散乱法により室温の水中で測定した散乱スペクトルにおいて、親水部構造に由来するピーク位置(q1値)が0.14Å-1(1.4nm-1)以下である請求項1に記載の電気めっきセル。
  3. 前記隔膜は、カチオン交換膜である請求項1又は2に記載の電気めっきセル。
  4. 前記隔膜は、パーフルオロ系電解質膜である請求項1から3までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  5. 前記隔膜は、樹脂を高温で溶融し、押し出し成型で膜化させた溶融押出成型膜である請求項1から4までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  6. 前記隔膜は、膜補強構造体を含む請求項1から5までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  7. 前記隔膜は、めっき用添加剤を含む請求項1から6までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  8. 前記隔膜は、成膜後に、親水性有機溶媒又は前記親水性有機溶媒と水との混合溶媒に浸漬する膨潤処理を施し、さらに、前記膨潤処理後の前記隔膜を乾燥させることなく水又は水蒸気と接触させる含水処理を施すことにより得られたものである請求項1から7までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  9. 前記隔膜は、40℃以上の水又は水蒸気による含水処理が施されたものである請求項1から7までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  10. 前記電気めっきセルは、陰極室を備えていない請求項1から9までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  11. 銅イオンを含む前記陽極室液を用いて基材表面に銅を含む金属被膜を形成するために用いられる請求項1から10までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
  12. 請求項1から11までのいずれか1項に記載の電気めっきセルを用いて前記陰極の表面に金属皮膜を形成する金属皮膜の製造方法。
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