JP6518512B2 - 4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの精製方法 - Google Patents

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本発明は、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの精製方法に関する。
4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルは、水酸基と疎水基を有する構造を有し、その構造的特徴から、可塑剤、相溶化剤、界面活性剤などの用途が提案されている。
一般的に化合物のエステル化は、原料カルボン酸とアルコールとを、硫酸等のプロトン酸触媒の存在下で反応させ、得られた反応液から触媒と未反応のカルボン酸を除去し、必要により晶析や蒸留などの精製を行うことによって製造する方法が知られている(特許文献1)。
4−ヒドロキシ安息香酸のエステル化についても、同様に、酸触媒の存在下でアルコールと反応させることによって、4−ヒドロキシ安息香酸エステルを合成することが可能である。しかし、4−ヒドロキシ安息香酸を炭素原子数16以上の長鎖脂肪族アルコールと反応させて、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを製造しようとした場合、原料である4−ヒドロキシ安息香酸や触媒などが残存するため、高純度の目的物を得るためには精製操作が必要であった。
精製は、通常目的物を含む粗結晶を溶融した後、あるいは非水溶性溶媒で希釈した後、水またはアルカリ水で抽出するのが一般的である。しかしながら、未反応のカルボン酸および触媒等の不純物を含む4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの粗組成物について、水やアルカリ水を加えて抽出しようとしても、分液性が極めて悪いため抽出が困難であり、抽出した場合であっても収量や純度が低く、高純度の目的物が得られないという問題があった。
特開2014−108928号公報
本発明の目的は、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの粗組成物から触媒や反応原料などの残存物を容易に除去することができ、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを高収率で得られる精製方法を提供することにある。
本発明者らは、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの精製方法について鋭意検討した結果、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの粗組成物を、非極性溶媒とアルコールとの混合溶液に溶解させた後、晶析することによって、未反応のカルボン酸や触媒などを容易に除去し、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、式(1)で表される4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを含む粗組成物を、非極性溶媒とアルコールとの混合溶液に溶解させる工程(以下、溶解工程と称する)、および得られた溶液を晶析する工程(以下、晶析工程と称する)を含む、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの精製方法を提供する。
Figure 0006518512
(式中、nは15〜23の整数を表す)
本発明によれば、原料カルボン酸やアルコールを含む4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステル粗組成物を、非極性溶媒とアルコールとの混合溶液に溶解させ、次いで得られた溶液を晶析することにより効率よく残存物を除去し、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを得ることができる。
本発明において、式(1)で表される4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを含む粗組成物とは、目的物である式(1)で表される4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステル以外に、反応原料や触媒および反応副生物などの不純物を含む組成物を意味する。不純物の含有量は反応方法によっても異なるが、粗組成物中1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%である。
本発明において、目的物である式(1)で表される4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルは、4−ヒドロキシ安息香酸と炭素原子数16〜24の脂肪族アルコール(以下、長鎖アルコールと称する場合もある)から成るエステルであり、具体的には、4−ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、4−ヒドロキシ安息香酸ヘプタデシル、4−ヒドロキシ安息香酸オクタデシル、4−ヒドロキシ安息香酸ノナデシル、4−ヒドロキシ安息香酸イコシル、4−ヒドロキシ安息香酸ヘンイコシル、4−ヒドロキシ安息香酸ドコシル、4−ヒドロキシ安息香酸トリコシルおよび4−ヒドロキシ安息香酸テトラコシルから選択される1種以上が挙げられる。これらの中でも、4−ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルが好ましい。
粗組成物中に含まれる具体的な不純物としては、原料である4−ヒドロキシ安息香酸、触媒などの残存物のほか、反応副生物である長鎖アルコールの2量化エーテル体や硫酸エステルなどが挙げられる。
4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの粗組成物を得る方法は特に限定されないが、触媒の存在下、4−ヒドロキシ安息香酸と炭素原子数16〜24の脂肪族アルコールとの反応によって得られたものを用いるのが良い。あるいは市販の低純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを含む粗組成物を用いるのも良い。
本発明の精製方法では、まず溶解工程において、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの粗組成物を非極性溶媒とアルコールとの混合溶液に溶解させる。
本発明で使用される非極性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、o−ジエチルベンゼン、m−ジエチルベンゼン、p−ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、o−シメン、m−シメン、p−シメン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンおよびシクロオクタンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
これらの中で、安全性および経済性に優れる点で、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンが好ましく、特に入手容易性および再結晶後の除去に優れることからトルエン、ヘプタンおよびヘキサンがより好ましい。
また、本発明で使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびテトラメチレングリコールからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
これらの中でも、安全性および経済性に優れる点で、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールおよび1−ブタノールが好ましく、特に入手容易性および再結晶後の除去に優れることからメタノールおよび2−プロパノールがより好ましい。
非極性溶媒とアルコールとの比率については、用いる溶媒の種類によって異なるため特に限定されないが、混合溶液を基準とするアルコール比率が10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%であるのが良い。アルコール比率が10重量%を下回る場合、原料である4−ヒドロキシ安息香酸を除去することができない傾向があり、アルコール比率が90重量%を上回る場合、原料である長鎖アルコールを除去することができない傾向がある。また、いずれの場合も次工程である晶析工程において撹拌が困難となる傾向がある。
本発明の精製方法において、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの粗組成物と上記混合溶液との比率は、粗組成物に対して混合溶液1.2〜3倍重量、好ましくは1.5〜2倍重量であるのが良い。混合溶液の比率が1.2倍重量を下回る場合、原料や触媒あるいは副生物などの不純物が結晶中に取り込まれてしまい高純度の結晶を得ることが困難になる傾向があり、3倍重量を上回る場合、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの収量が著しく減少する傾向がある。
溶解工程において、非極性溶媒とアルコールとの混合溶液の温度は、用いる非極性溶媒およびアルコールの種類および混合比率によって異なるため特に限定されないが、好ましくは30℃〜65℃、より好ましくは40℃〜60℃、さらに好ましくは45℃〜55℃である。
粗組成物が溶解した溶液は次いで晶析工程に供される。
晶析工程は、好ましくは5〜30℃、より好ましくは5〜25℃、さらに好ましくは10〜20℃の温度下で攪拌しながら行われる。
晶析温度が5℃を下回る場合、原料や触媒あるいは副生物などの不純物が結晶中に取り込まれてしまい、高純度の結晶を得ることが困難になる。晶析温度が30℃を上回る場合、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの収量が減少する傾向がある。
晶析工程によって析出した結晶は濾過等の常套手段により固液分離し、目的物である4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを回収する。固液分離に際し、適宜有機溶媒を注いで結晶を洗浄するのが好ましい。固液分離の際に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールからなる群から選択される1種以上が好ましく使用される。有機溶媒は、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステル粗組成物に対し0.5〜2倍重量使用するのが好ましい。
固液分離によって回収された結晶は、減圧下、50℃未満の温度下で結晶状態のまま乾燥するか、あるいは50℃以上に加熱して結晶を溶融させた後、溶媒を留去することによって、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを得ることができる。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[高速液体クロマトグラフィー(HPLC)]
装置: Waters アライアンス 2487/2996
カラム型番: L−Column
流量: 1.0mL/分
溶媒比: HO(pH2.3)/CHOH=58/42(30分)→5分→10/90(55分)、グラジエント分析
波長: 229nm/254nm
カラム温度: 40℃
[ガスクロマトグラフィー(GC)]
装置: 株式会社島津製作所製GC−2014/GC−14A
カラム型番: G−100
注入量: 1.0μL
オーブン温度: 310℃
キャリアガス: ヘリウム
検出器: FID
参考例1(4−ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル粗組成物の調製)
攪拌機、温度センサーおよびディーンスターク装置を備えた500mlの4つ口フラスコに、ヘキサデカノール(CeOH)120.4gを投入、窒素気流下、70℃まで昇温した。次いで、4−ヒドロキシ安息香酸(POB)70.0g、p−トルエンスルホン酸一水和物2.3gおよび30重量%次亜リン酸水溶液1.1gを加えて、一時間かけて130℃まで昇温し、同温度で8時間反応させた。得られた反応液(粗組成物)について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)を用いて成分分析を行った。結果を表1に示す。
実施例1
攪拌機、温度センサーおよび冷却管を備えた1Lの4つ口フラスコに、非極性溶媒とアルコール(トルエン196g、メタノール84g)を投入し、混合溶液を調製した。
そこに、110℃に冷却した参考例1の粗組成物180.7gを加えて、50℃まで昇温して固形分を溶解させた後、15℃まで冷却して結晶を析出させた。晶析時の攪拌状態は良好であった。ヌッチェを用いて結晶を吸引濾過した後、メタノール140gで洗浄し、45℃、10mmHgの条件で乾燥させて結晶84.1gを得た。
得られた結晶について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)を用いて成分分析を行った。結果を表1に示す。
実施例2
混合溶液をトルエン140gおよびメタノール140gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶85.7gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表1に示す。
実施例3
混合溶液をトルエン84gおよびメタノール196gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶79.8gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表1に示す。
実施例4
混合溶液をトルエン196gおよびエタノール84gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶81.0gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表1に示す。
実施例5
混合溶液をトルエン196gおよび2−プロパノール84gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶77.2gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表1に示す。
実施例6
混合溶液をトルエン196gおよびエチレングリコール84gに変更し、乾燥温度を55℃としたこと以外は実施例1と同様にして、結晶69.9gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表1に示す。
実施例7
混合溶液をn−ヘキサン196gおよびメタノール84gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶123.6gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表1に示す。
実施例8
混合溶液をn−ヘプタン196gおよび2−プロパノール84gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、結晶120.6gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表1に示す。
比較例1
混合溶液をトルエン361.4gのみとしたこと以外は実施例1と同様にして、結晶66.2gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表1に示す。
比較例2
混合溶液をメタノール904gのみとし、昇温温度を60℃としたこと以外は実施例1と同様にして、結晶67.0gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表1に示す。
参考例2(4−ヒドロキシ安息香酸テトラコシル粗組成物の調製)
ヘキサデカノールをテトラコサノール(TcOH)176.1gに変更したこと以外は参考例1と同様にして反応液(粗組成物)を得た。得られた粗組成物について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)を用いて成分分析を行った。結果を表2に示す。
実施例9
参考例2の粗組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、結晶81.3gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表2に示す。
比較例3
参考例2の粗組成物を用いたこと以外は比較例1と同様にして、結晶81.3gを得た。得られた結晶の成分分析結果および攪拌状態を表2に示す。
Figure 0006518512
Figure 0006518512
表1および表2に示される通り、本発明によれば、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの粗組成物から反応原料などの残存物が除去され、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが高収率で得られる。

Claims (8)

  1. 式(1)で表される4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを含む粗組成物を非極性溶媒とアルコールとの混合溶液に溶解させる工程、および、
    得られた溶液を晶析する工程
    を含む、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの精製方法。
    Figure 0006518512
    (式中、nは15〜23の整数を表す)
  2. 式(1)で表される4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが4−ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルである、請求項1に記載の精製方法。
  3. 非極性溶媒が、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘキサンからなる群から選択される1種以上である、請求項1または2に記載の精製方法。
  4. 非極性溶媒が、トルエン、ヘプタンおよびヘキサンである、請求項1〜3のいずれかに記載の精製方法。
  5. アルコールが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールおよび1−ブタノールからなる群から選択される1種以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の精製方法。
  6. アルコールが、メタノールおよび2−プロパノールである、請求項1〜5のいずれかに記載の精製方法。
  7. 混合溶液中のアルコールの比率が10〜90%である、請求項1〜6のいずれかに記載の精製方法。
  8. 晶析工程における温度が5〜30℃である、請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
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