JP6510162B2 - シート状細胞培養物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、簡便にシート状の細胞培養物を製造する方法に関する。
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
近年、その一例として、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
このように、シート状細胞培養物を簡便に製造するための器具や方法が多く提供されている。
特表2007−528755号公報 特開2011−110368号公報
本発明の目的は、簡便にシート状の細胞培養物を製造する方法、特に細胞間接着力の弱い脆弱なシート状細胞培養物を、簡便、迅速かつ破損させることなく製造する方法を提供することにある。
シート状細胞培養物の製造においては、拒否反応の少なさ等の観点から自家細胞を用いることが好ましいが、自家細胞を用いてシート状細胞培養物を製造する場合、細胞の増殖や分化に時間を要するため、製造工程を律速してしまう。そこで、血清を被覆した培養基材に、細胞を実質的に増殖させることなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で細胞を播種することにより、シート状細胞培養物を形成する方法が提供された(特許文献2)。かかる方法により、従前より高い物理的強度を有するシート状細胞培養物を、従前より短時間で製造することが可能となったが、シート形成のために培養基材にシート状細胞培養物を接着させるため、シート状細胞培養物を培養基材から剥離するのに時間がかかってしまうものであった。また従前よりシートの物理的強度が高いとは言え、まだまだ脆弱であることに変わりはなく、剥離作業の際に破損を生じることも多くあり、より迅速かつ簡便に、破損することなくシート状細胞培養物を得ることが可能な製造方法が求められていた。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)をポリエチレングリコール(PEG)で架橋した温度応答性ゲルを血清で被覆し、それを基材としてシート状細胞培養物の製造を行うと、シート状細胞培養物が形成された後、剥離作業を行わなくても自然とゲルからシート状細胞培養物が剥離するという驚くべき知見を見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]シート状細胞培養物を製造する方法であって、細胞接着性成分を含む細胞非接着性ゲル表面に、シート形成細胞を播種し、インキュベートすることを含む、前記方法。
[2]細胞接着性成分を含む細胞非接着性ゲル表面が、細胞非接着性ゲル表面を細胞接着性成分で被覆することにより形成される、[1]の方法。
[3]細胞が、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で播種される、「1」または[2]の方法。
[4]細胞の密度が3.5×10個/cm以上、3.4×10個/cm未満である、[1]〜[3]の方法。
[5]細胞が、骨格筋芽細胞である、[1]〜[4]の方法。
[6]細胞接着成分が、全血清である、[1]〜[5]の方法。
[7]インキュベートの時間が、2〜5時間である、[1]〜[6]の方法。
本発明により、浸漬撹拌などの洗浄操作や、取出し、保持、移送などの移植操作に耐え得る十分な物理的強度を有するシート状細胞培養物が得られるため、従来の製法で得られた細胞シートよりもより容易かつ確実に製造・移植操作を行うことが可能となる。また、本発明の製造方法により、高い細胞回収率でシート状細胞培養物を得ることができるため、使用する細胞の有効利用が可能となり、コストの削減などに寄与する。さらに、本発明の製造方法により得られたシート状細胞培養物は、血管新生等の有効性に関わる作用を有する因子の産生が多い一方で、炎症性サイトカインの産生が低いため、治療上の有効性も、レシピエントに対する安全性も極めて高く、臨床的に極めて有用である。このため、ヒト医療および獣医療において多大な貢献が期待できる。さらにまた、本発明の方法によれば、シート状細胞培養物を培養基材から剥離する必要がないため、剥離作業にかかる時間も短縮でき、剥離段階においてシート状細胞培養物が破損する心配もない。したがって従来の製造方法よりも、さらに迅速かつ簡便で、破損のリスクが低い製造方法である。
図1は、実施例1により製造されたシート状細胞培養物の写真を表す。シート状細胞培養物が形成された後、剥離作業を行うことなく、自然にディッシュから剥離していることが分かる。
本発明は、シート状細胞培養物を製造する方法であって、細胞接着性成分を含む細胞非接着性ゲル表面に、シート形成細胞を播種し、インキュベートすることを含む、前記製造方法に関する。
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1つの細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも機械的に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも機械的に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
本発明のシート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明の細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明の細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
本発明において、「細胞接着性」とは、接着細胞が接着可能であるかまたは接着しやすいことを意味する。したがって逆に「細胞非接着性」は、接着細胞が接着可能でないかまたは接着しにくいことを意味する。例えば、接着細胞は、接する表面の疎水性または親水性がある程度以上高いと接着しにくくなることが知られている。したがって、本発明の一態様において、細胞非接着性ゲル表面は、ある程度以上の疎水性または親水性を有している。表面の疎水性または親水性の程度は、例えば、水接触角で表すことができるが、本発明において、細胞非接着性ゲル表面の水接触角は、好ましくは70°以上または50°以下、特に75°以上または40°以下である。
「細胞接着性成分」とは、細胞が接着可能なあらゆる成分を意味する。細胞接着性成分としては、これに限定するものではないが、例えばフィブロネクチン、ビトロネクチン、ラメニン、コラーゲン、プロテオグリカンなどの血清・細胞外マトリクス成分、RGD、CS−1などの細胞接着ペプチド、ポリリジン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンなどのポリマー化合物などが挙げられる。
細胞非接着性ゲルは、細胞が接着しない性質を有するゲル状物質であり、細胞に対して毒性を有さないものであれば特に限定されない。かかる細胞非接着性ゲルとしては、これに限定するものではないが、例えば軟寒天、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)をポリエチレングリコール(PEG)で架橋した温度応答性ゲル(市販名:メビオールゲル)、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(ポリHEMA)、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリスコリン(MPC)ポリマーなどのハイドロゲルなどが挙げられる。
本発明において、シート形成細胞が播種される細胞非接着性ゲルの表面は、細胞接着性成分を含んでいる。細胞非接着性ゲルの表面が細胞接着性成分を「含む」とは、細胞非接着性ゲルの表面に、細胞非接着性ゲル分子および細胞接着性成分の分子が混在する状態を意味する。
本発明の一態様において、細胞非接着性ゲルの表面に細胞接着性成分を付与する工程を含んでよい。細胞接着性成分の付与は、細胞非接着性ゲルおよび細胞接着性成分の細胞接着性を変化させない限りどのような方法を用いてもよく、これに限定するものではないが、例えば細胞非接着性のゾル状物質に細胞接着性成分を混合した後ゲル化させてもよいし、細胞非接着性ゲルの表面を細胞接着性成分で被覆してもよい。
本発明においては、細胞非接着性ゲル表面上でシート状細胞培養物の形成が行われるため、細胞非接着性ゲル表面は好ましくは平坦である。したがって本発明の一態様において、細胞非接着性ゲルの表面を平坦化する工程を含んでよい。平坦化は、ゲルの細胞非接着性を変化させない限り、どのような方法で行われてもよく、これに限定するものではないが、例えばゾル状態でしばらく静置後にゲル化してもよいし、ゲル化したあとに平坦になるように表面を削ってもよい。
また本発明の一態様において、細胞非接着性ゲルの表面を任意に前処理してもよい。本発明において「ゲル表面(すなわち培養面)の前処理」とは、シート化培養の前に、シート状細胞培養物の形成を行いやすくするために培養面に対して行う任意の処理をいう。前処理としては、これに限定するものではないが、例えばフィブロネクチン、ビトロネクチン、ラメニン、コラーゲン、プロテオグリカンなどの血清・細胞外マトリクス成分、RGD、CS−1などの細胞接着ペプチド、ポリリジン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンなどのポリマー化合物、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などの成長因子、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾンなどのステロイド剤成分などで培養表面をコートする処理などが挙げられる。表面をコートする処理は、例えば、培養表面をコートする成分と共にインキュベートすることなどにより行うことができる。例えばインキュベート条件、インキュベート時間、コートする成分の量などのコート処理の条件は、コートする成分や目的に応じて任意に設定してよく、かかる条件については、当該技術分野において通常の知識を有するものであれば、最適な条件を適宜決定することが出来る。
上述の通り、本発明の方法では、シート状細胞培養物を能動的に剥離することなく、シート状細胞培養物が形成された後、自然に剥離される。シート状細胞培養物が自然に剥離するメカニズムは定かではないが、細胞−基質間結合が弱いため、細胞−細胞間の接着強度がそれを上回った時点で細胞同士が引っ張る事によって発生するせん断力により細胞−基質間結合が切断されてシート状細胞培養物が自然に剥離するなどの理由が考えられる。本発明の一態様においては、自然に剥離するのを待たずに、シートの形成後シート状細胞培養物の剥離工程を能動的に行ってもよいが、破損リスクの低減、手間の削減などを考慮すると、自然に剥離されるまでインキュベートするのがよい。
本発明の方法におけるインキュベートは、シート状細胞培養物を形成するためのインキュベートである。したがって細胞間接着を形成することができる条件であればいかなる条件であってもよいが、通常は一般的な細胞培養条件と同様の条件であればよい。当該技術分野において通常の知識を有するものであれば、播種する細胞の種類に応じて最適な条件を選択することが出来る。
本発明の好ましい一態様において、細胞接着性成分を含む細胞非接着性ゲル表面が、細胞非接着性ゲル表面を細胞接着性成分で被覆する前処理により形成される。細胞非接着性ゲルの表面は、ゲル分子が格子状に配置されており、そこに細胞接着性成分をインキュベートにより付与することで、表面に分子が付着した形状のコーティングではなく、格子の間隙に細胞接着性分子が入り込む形で細胞接着性分子と細胞非接着性ゲル分子が混在することとなる。かかる前処理により、前述の細胞接着性成分を含む細胞非接着性ゲル表面の構造を簡便に形成できる。
本発明の好ましい一態様において、播種した細胞がインキュベートの間実質的に増殖しない。「実質的に増殖しない」とは、計測誤差の範囲を超えて増殖しないことを意味し、細胞が増殖したか否かは、例えば、播種時の細胞数と、細胞培養物形成後の細胞数とを比較することにより評価することができる。本発明において、シート状細胞培養物形成後の細胞数は、典型的には播種時の細胞数の300%以下、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下、さらに好ましくは125%以下、特に好ましくは100%以下である。
細胞が実質的に増殖するか否かは、様々な条件、例えば播種細胞数(播種細胞密度)、培地、インキュベート条件などにより決定される。本発明においては、播種した細胞がシート状細胞培養物を形成することが必要であり、細胞の生物学的な活性を低下させることなく増殖をコントロールする必要があるため、播種細胞密度により増殖をコントロールするのが好ましい。したがって本発明の好ましい一態様においては、細胞は実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で播種される。
「実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」とは、成長因子を含まない非増殖系の培養液で培養した場合に、シート状細胞培養物を形成することができる細胞密度を意味する。例えば、骨格筋芽細胞の場合、成長因子を含む培養液を用いる方法では、シート状細胞培養物を形成するために、約6,500個/cmの密度の細胞をプレートに播種していたが(例えば、特許文献1参照)、かかる密度の細胞を、成長因子を含まない培養液で培養してもシート状の細胞培養物を形成することはできない。したがって、本発明におけるシート形成細胞の播種密度は、成長因子を含む培養液を用いる方法、すなわち細胞の増殖を少なくとも目的の一部とする培養におけるものよりも高いものである。具体的には、例えば、骨格筋芽細胞については、かかる密度は典型的には300,000個/cm以上である。細胞密度の上限は、細胞培養物の形成が損なわれず、細胞が分化に移行しなければ特に制限されないが、骨格筋芽細胞については、例えば、3.4×10個/cm未満である。当業者であれば、本発明に適した細胞密度を、実験により適宜決定することができる。培養期間中、細胞は増殖してもしなくてもよいが、増殖するとしても、細胞の性状が変化する程には増殖しない。例えば、骨格筋芽細胞はコンフルエントになると分化を開始するが、本発明においては、骨格筋芽細胞は、シート状細胞培養物は形成するが、分化に移行しない密度で播種される。
本発明の製造方法における細胞の播種密度は、ある態様では3.0×10〜3.4×10個/cm、別の態様では3.5×10〜3.4×10個/cm、さらに別の態様では1.0×10〜3.4×10個/cm、さらに別の態様では3.0×10〜1.7×10個/cm、別の態様では3.5×10〜1.7×10個/cm、さらに別の態様では1.0×10〜1.7×10個/cmであってよい。上記範囲は、上限が3.4×10個/cm未満である限り、上限および下限の両方、または、そのいずれか一方を含んでもよい。したがって、本発明の製造方法における骨格筋芽細胞の播種密度は、例えば、3.0×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、3.5×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、1.0×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、1.0×10個/cm超3.4×10個/cm未満(下限も上限も含まない)、1.0×10個/cm超1.7×10個/cm以下(下限は含まないが、上限は含む)であってもよい。当業者であれば、骨格筋芽細胞以外の細胞について、本発明に適した細胞密度を、本明細書の教示に従い、実験により適宜決定することができる。
上述の通り、本発明のインキュベートはシート状細胞培養物を形成するためのインキュベートであり、したがって細胞はシート状細胞培養物を形成することが出来る細胞である。本明細書においては、このような細胞を「シート形成細胞」という。また、シート状細胞培養物を形成するためのインキュベートを、単に「シート形成細胞の培養」または「シート化培養」という場合もある。シート形成細胞は具体的には、これに限定するものではないが、例えば骨格筋芽細胞、皮膚細胞、角膜上皮細胞、歯根膜細胞、心筋細胞、肝細胞、膵細胞、口腔粘膜上皮細胞などが挙げられ、好ましくは骨格筋芽細胞が挙げられる。
本発明の方法に用いられる細胞接着成分は、細胞の生物学的活性を低下させないものであればいかなるものを用いてもよく、例えば上述のように、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラメニン、コラーゲン、プロテオグリカンなどの血清・細胞外マトリクス成分、RGD、CS−1などの細胞接着ペプチド、ポリリジン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンなどのポリマー化合物などが挙げられる。中でも扱いが簡便であること、シート状細胞培養物を移植片として用いる場合に自家成分として採取が容易であることなどの理由で、好ましくは血清またはそれに含まれるフィブロネクチン、ビトロネクチン、ラメニンなどの細胞接着性タンパク質が好ましい。扱いの簡便性を考えると血清そのものが最も好ましい。
上述の通り、本発明のインキュベートはシートを形成するためのシート化培養であるため、細胞増殖が起こる必要はない。したがって細胞間接着が形成されるのに十分な時間インキュベートを行えばよい。インキュベートの時間としては、好ましくは2〜5時間、より好ましくは2.5〜4.5時間である。2時間より短いと十分に細胞間接着が形成されないため、シート化が不十分となり、5時間より多いと剥離したシート状細胞培養物によれやしわが出来たり、シートの形状が崩れてきたりしてしまう。
本発明の別の側面において、上記製造方法によって製造されるシート状細胞培養物が提供される。上記の製造方法により製造されたシート状細胞培養物は、通常の方法で製造されたシート状細胞培養物と比較して浸漬撹拌などの洗浄操作や、取出し、保持、移送などの移植操作に耐え得る十分な物理的強度を有し、シート状細胞培養物の剥離工程を経ることなく自然に剥離するため、しわ、よれ、破れなどの剥離工程に由来する破損も生じない良質のシート状細胞培養物となる。
本発明の別の側面において、上記製造方法によりシート状細胞培養物を製造するためのシステムが提供される、本発明の製造方法は、細胞接着性成分を含む細胞非接着性ゲルの平坦な表面を形成する工程、十分な量の細胞を播種する工程、播種された細胞をインキュベートする工程を必要とするが、シート状細胞培養物の剥離工程などの複雑な工程を必要としないため、システムを自動化するのが容易である。
以下に本発明の具体的な態様を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
実施例1 ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)をポリエチレングリコール(PEG)で架橋した温度応答性ゲル(市販名:メビオールゲル)
メビオールゲルを4℃下で基礎培地(DMEM/F12)に溶解し、ペトリディッシュ(φ35mm)の表面に塗布した後、4℃下で静置し、表面を平坦化させた。その後、37℃で保温してゲル化させた。ゲル化した後、終濃度が75%〜100%となるようにFBSを混合した基礎培地(DMEM/F12)を2mL添加し、37℃、5%CO下で72時間インキュベートした。1.5×10個の細胞を2mLの20%FBS含有DMEM/F12に懸濁し、インキュベート後培地を廃棄した上記ペトリディッシュに播種し、37℃、5%CO下で2時間半インキュベートした。
その結果、細胞がシート状に形成され、さらに、培養面であるゲル表面から、剥離操作を行うことなく自動的に剥離された(図1)。
実施例2:軟寒天
軟寒天0.5gを37℃下で大塚蒸留水40mLに溶解した後、基礎培地(DMEM/F12)70mLと混合した。混合した軟寒天溶液2mLをペトリディッシュ(φ35mm)に添加した後、4℃で保温してゲル化させた。ゲル化した後、終濃度が75%〜100%となるようにFBSを混合した基礎培地(DMEM/F12)を2mL添加し、37℃、5%CO下で72時間インキュベートした。1.5×10個の細胞を2mLの20%FBS含有DMEM/F12に懸濁し、インキュベート後培地を廃棄した上記ペトリディッシュに播種し、37℃、5%CO下で2時間半インキュベートした。
その結果、上記実施例1と同様、細胞がシート状に形成され、さらに、培養面から自動的に剥離される事が分かった。
参考例1:無血清培地での前処理
実施例1および2においてメビオールゲルおよび軟寒天をそれぞれペトリディッシュに被覆してゲル化した後、FBSを混合した基礎培地(DMEM/F12)に代えて、FBSを含まない基礎培地を2mL添加し、37℃、5%CO下で72時間インキュベートした。1.5×10個の細胞を2mLの20%FBS含有DMEM/F12に懸濁して、インキュベート後培地を廃棄した上記ペトリディッシュに播種し、37℃、5%CO下で2時間半インキュベートした。
その結果、培地中に細胞が浮遊しており、シート状細胞培養物の形成は認められなかった。
本発明によれば、浸漬撹拌などの洗浄操作や、取出し、保持、移送などの移植操作に耐え得る十分な物理的強度を有し、しわ、よれ、破れなどの剥離工程に由来する破損も生じない良質のシート状細胞培養物を簡便かつ迅速に製造することが可能となる。

Claims (7)

  1. シート状細胞培養物を製造する方法であって、細胞非接着性ゲル分子および細胞接着性成分の分子が混在する状態の培養面に、シート形成細胞を播種し、インキュベートすることを含む、前記方法。
  2. 細胞非接着性ゲルが、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)をポリエチレングリコール(PEG)で架橋した温度応答性ゲルまたは軟寒天である、請求項1に記載の方法。
  3. 細胞が、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で播種される、請求項1または2に記載の方法。
  4. 細胞の密度が3.5×10個/cm以上、3.4×10個/cm未満である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 細胞が、骨格筋芽細胞である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 細胞接着成分が、全血清である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. インキュベートの時間が、2〜5時間である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
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