JP6272647B2 - シート状細胞培養物の製造方法 - Google Patents

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本発明は、比較的大きなサイズのシート状細胞培養物の製造方法に関する。
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
近年、その一例として、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
しかし、これらの方法により製造されたシート状の細胞培養物には製造工程不純物を多く含んでいる。これらの製造工程由来不純物は、通常、細胞培養物をこれらの物質を含まない媒体で洗浄することによって除去するが、細胞培養物は機械的に極めて脆弱であり、洗浄時の水流などにより容易に破壊されるため、細胞培養物における製造工程由来不純物を臨床上障害とならないレベルまで洗浄することはこれまで極めて困難であった。
しかも、かかる細胞培養物を培養基材から剥離するには、ピペッティングやスクレーピングなどによる機械的手法や、トリプシンなどによる酵素処理といった通常の付着細胞剥離法では、細胞培養物の構造が壊れたり、細胞が損傷したりするため、温度応答性材料がコートされた培養皿で細胞を培養し、温度を変化させて同材料の疎水性を変化させることにより細胞培養物を剥離する、などの方法が用いられている(特許文献1)。しかしながら、かかる培養皿は高価であるうえ、培養皿が温度低下するまでの待機時間や細胞による剥離状態の多様性に起因する、剥離時の細胞培養物構造の破壊や、細胞の損傷などの問題を有している。
そこで製造工程由来不純物成分を含まない良質な細胞培養物を製造する方法として、細胞を基材上に播種した後、基材に対して加圧してから培養することにより、シート状の細胞培養物を得る方法が見出された(特許文献2)。
特表2007−528755号公報 特開2010−226962号公報
本発明者らは、上記特許文献2の方法についてさらに鋭意研究を進める中で、製造するシート状細胞培養物の大きさをスケールアップして製造した場合、かかる方法で製造されたシートが、小さなスケールの場合と異なり、非常に脆く簡単に破損が生じてしまうシートになってしまうという新たな課題に直面した。かかる課題を解決すべくさらに研究を進める中で、スケールアップしたことにより加圧の工程において圧力のかかり方に偏りが生じているという新たな知見を見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下に関する。
[1]遊離したシート状細胞培養物の製造方法であって、
(i)細胞を基材上に播種する工程、
(ii)細胞を基材に対して加圧する工程、
(iii)細胞を培養してシート状の細胞培養物を形成する工程、および
(iv)形成された培養物を基材から遊離させる工程
を含み、ここで工程(i)および(ii)からなる繰り返しセットが2回以上繰り返され、2回目以降の繰り返しセットにおける播種および/または加圧が、直前の加圧工程終了後における加圧の偏りによる細胞密度の疎密を是正するように行われることを特徴とする、前記方法。
[2]細胞の最終密度が、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度である、[1]に記載の方法。
[3]細胞の最終密度が3.5×10個/cm以上、3.4×10個/cm未満である、[1]または[2]の方法。
[4]細胞が、筋芽細胞を含む、[1]〜[3]の方法。
[5]基材が細胞非接着性の表面を有する、[1]〜[4]の方法。
[6]加圧が、遠心力によって行われる、[1]〜[5]の方法。
[7]加圧が、2〜2000Gの力で行われる、[1]〜[6]の方法。
本発明により、特許文献2に記載の方法による効果である、製造工程由来不純物の混入を低減させ得ること、簡便な操作でシート状細胞培養物を培養基材から剥離することが出来ることなどに加え、スケールアップなど何らかの理由により加圧に偏りが生じる場合であっても、良質なシート状細胞培養物を製造することが可能となる。
図1は、特開2010−226962に記載の方法により、φ3.5cmのペトリディッシュを用いて製造されたシート状細胞培養物の様子を表す写真である。シートの片側が脆くなり、破損が生じてしまっているのが分かる。 図2は、本発明の方法により、φ3.5cmのペトリディッシュを用いて製造されたシート状細胞培養物の様子を表す写真である。図1のものと比較してシートに偏りが無く、破損も生じていないのがわかる。
本発明は、(i)細胞を基材上に播種する工程、(ii)細胞を基材に対して加圧する工程、(iii)細胞を基材上に再び播種する工程、
(iv)工程(ii)における加圧の偏りを是正するように、細胞を基材に対して再加圧する工程、(v)細胞を培養してシート状の細胞培養物を形成する工程、および(vi)形成された培養物を基材から遊離させる工程、を含む、遊離したシート状細胞培養物の製造方法に関する。
本発明における細胞には、細胞培養物、特にシート状の細胞培養物を形成し得る任意の細胞が含まれる。かかる細胞の例としては、限定されずに、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、心筋細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、上皮細胞、内皮細胞などが含まれる。これらのうち、本発明においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞が好ましい。細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、本発明の方法に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
本発明において、「基材」は、細胞をそれに対して加圧し得る表面または界面を有するものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の容器、容器中の固形、半固形もしくは液体の表面または界面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。また、容器は、その内部に固形、半固形もしくは液体の表面または界面を有してもよい。固形の表面としては、種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリクスなどが、液体の表面としては、高粘性の液体媒体、液体の界面としては、比重の異なる液体間に生じる界面、例えば、密度勾配法による細胞分離用の比重液(ショ糖、塩化セシウム、硫酸セシウム、Percoll(R)、Ficoll(R)、Nycodenz(R)、OptiPrepTM、ISolateTM、ISOLYMPHなどの溶液)における界面などが挙げられる。
上記表面または界面は、種々の形状であってもよいが、平坦であることが好ましい。また、その面積は特に限定されないが、典型的には、1〜200cm、好ましくは2〜100cm、より好ましくは3〜80cmである。
本発明の好ましい態様において、基材は細胞非接着性の表面または界面を有する。ここで、「細胞非接着性」とは、付着細胞が接着しないか、または接着しにくいことを意味する。例えば、付着細胞は、接する表面の疎水性または親水性がある程度以上高いと接着しにくくなることが知られている。したがって、本発明における細胞非接着性の表面または界面は、ある程度以上の疎水性または親水性を有することが好ましい。表面の疎水性または親水性の程度は、例えば、水接触角で表すことができるが、本発明において、細胞非接着性表面の水接触角は、好ましくは70°以上または50°以下、特に75°以上または40°以下である。
細胞非接着性の材料としては、例えば、限定することなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミドなどを挙げることができる。また、市販の浮遊細胞培養用の容器は細胞非接着性の表面を有するため、これを本発明の基材として用いることもできる。さらにまた、表面を改質して細胞非接着性とすることもできる。具体的には、例えば、表面に親水性または疎水性の分子をコーティングしたり、表面に温度変化により疎水性または親水性となる温度応答性材料(特開平2−211865参照)を被覆したりすることができる。しかし、本発明の一態様において、基材は温度応答性材料から構成される表面を有しない。
温度応答性材料としては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーが挙げられる。
本発明の好ましい態様において、細胞は、最終細胞密度が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度となるように播種される。「実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」とは、成長因子を含まない非増殖系の培養液で培養した場合に、シート状細胞培養物を形成することができる細胞密度を意味する。例えば、骨格筋芽細胞の場合、成長因子を含む培養液を用いる従来法では、シート状細胞培養物を形成するために、約6,500個/cmの密度の細胞をプレートに播種していたが(例えば、特許文献1参照)、かかる密度の細胞を、成長因子を含まない培養液で培養してもシート状の細胞培養物を形成することはできない。したがって、本態様における細胞密度は、成長因子を含む培養液を用いる従来法におけるものよりも高いものである。具体的には、例えば、骨格筋芽細胞については、かかる密度は典型的には300,000個/cm以上である。細胞密度の上限は、細胞培養物の形成が損なわれず、細胞が分化に移行しなければ特に制限されないが、骨格筋芽細胞については、例えば、3.4×10個/cmである。当業者であれば、本発明に適した細胞密度を、実験により適宜決定することができる。培養期間中、細胞は増殖してもしなくてもよいが、増殖するとしても、細胞の性状が変化する程には増殖しない。例えば、骨格筋芽細胞はコンフルエントになると分化を開始するが、本発明においては、骨格筋芽細胞は、細胞培養物は形成するが、分化に移行しない密度で播種される。本発明の好ましい態様において、細胞は計測誤差の範囲を超えて増殖しない。細胞が増殖したか否かは、例えば、播種時の細胞数と、細胞培養物形成後の細胞数とを比較することにより評価することができる。本態様において、細胞培養物形成後の細胞数は、典型的には播種時の細胞数の300%以下、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下、さらに好ましくは125%以下、特に好ましくは100%以下である。
本発明において、「基材に対して加圧する」とは、細胞を所定の大きさの力で基材、または、基材に直接もしくは他の細胞を介して接触している他の細胞に接触させることを意味する。力の種類は、上記作用を奏するものであれば特に限定されず、例えば、遠心力や圧力などが挙げられる。
遠心力を負荷する場合、基材と細胞とを含む容器などを、遠心分離器を用いて遠心することができる。負荷する遠心力は、典型的には約2〜2000G、好ましくは約5〜1000G、より好ましくは約10〜800G、特に好ましくは50〜450Gである。細胞に損傷を与えない程度で、より強い遠心力を負荷することにより、細胞培養物の均一性をより高めること、すなわち、細胞培養物の空隙をより少なくすることができる。遠心時間は、典型的には2〜60分間、好ましくは3〜15分間、より好ましくは3〜5分間であり、遠心温度は、典型的には2〜37℃、より好ましくは4〜25℃である。
圧力の負荷は、例えば、透過性の基材に向けて細胞に水圧を負荷することにより行うことができる。水圧は、シリンジやポンプなどにより負荷することができる。負荷する水圧は、典型的には10〜100mmHg、好ましくは20〜80mmHg、より好ましくは30〜50mmHgであり、負荷時間は、典型的には3〜90分間、好ましくは5〜60分間、より好ましくは5〜15分間であり、負荷温度は、典型的には2〜37℃、より好ましくは4〜25℃である。
圧力は、シート状細胞培養物が形成される培養面全体に対して均一に負荷されるのが好ましい。しかしながら、形成されるシート状細胞培養物のサイズが大きくなればなるほど圧力に偏りが生じやすくなる。本発明者らは、より大きなサイズのシート状細胞培養物の製造について試行錯誤する中で、製造するシート状細胞培養物の大きさが大きくなると、シート状細胞培養物の質、特に物理的強度の致命的な低下が生じるとの新たな課題に直面し、これが上記圧力の偏りにより、細胞密度分布に疎密が生じることに起因する現象であることを見出した。そこで、かかる圧力の偏りによる細胞密度分布の疎密を是正するように播種および/または加圧する工程を繰り返し行うことにより、シート状細胞培養物の質を低下させることなく、より大きなサイズのシートが製造可能であることを発見したものである。
本発明において、「加圧の偏り」とは、加圧工程においてシートを形成する培養面全体に均一な圧力がかからないことをいい、「加圧の偏りによる細胞密度の疎密」とは、加圧の偏りにより、播種された細胞の密度分布に疎密が生じた状態をいう。したがって加圧の偏りによる細胞密度の疎密は、加圧後の培養面全体の細胞密度分布を計測することにより検出可能である。細胞密度分布の計測は、当該技術分野において用いられる通常の方法を用いてよく、これに限定するものではないが、例えば肉眼による視認、吸光光度分析、画像分析などの方法が用いられ得る。本発明において、「加圧の偏りによる細胞の疎密を是正する」とは、最終細胞密度が均一となるようにすることを言う。したがって、本発明の一態様において、各加圧工程の後、培養面全体の細胞密度分布を計測する工程を含んでよい。
加圧の偏りによる細胞密度の疎密を是正する方法としては、これに限定するものではないが、例えば計測した細胞密度分布の疎密に対応するように細胞の播種時の密度分布を変更する方法、圧力のかかり方を変更する方法などが挙げられる。例えば遠心による加圧の場合、培養面が大きくなると、回転中心からの距離に差異が生じることにより、距離が遠い位置ほど大きな圧力がかかることによって圧力の偏りが生じ、回転中心より遠い位置の細胞密度が疎となったり、回転方向に対する慣性力により、回転方向の位置が疎となったりする。かかる偏りを是正するためには、例えば細胞密度が疎の位置への細胞播種密度を密にする、培養面の位置をずらすことにより回転中心からの距離を調節する、などの方法により、加圧の偏りによる細胞密度の疎密を是正することが出来る。当該技術分野における通常の知識を有するものであれば、加圧方法、加圧の偏り具合などに依拠して、加圧の偏りを是正する最適な方法を適宜選択可能である。
本発明の一態様において、繰り返しセットは、複数回繰り返されてもよい。すなわち、再加圧も含め、加圧する工程は2回以上行われてよい。それぞれの工程における加圧の方法も、最終的に加圧の偏りによる細胞密度の疎密を是正できる限り、同一の方法でも異なる方法でもよい。
本明細書において「細胞密度」とは、培養面1cmあたりの細胞の個数をいう。したがって「細胞播種密度」とは、培養面1cmあたりに播種される細胞の密度を意味し、「最終細胞密度」または「細胞の最終密度」とは、加圧後の細胞密度を意味する。
上述の通り、本発明の一態様において、細胞の最終密度が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度となるように、細胞が播種される。製造方法における骨格筋芽細胞の播種密度は、ある態様では3.0×10〜3.4×10個/cm、別の態様では3.5×10〜3.4×10個/cm、さらに別の態様では1.0×10〜3.4×10個/cm、さらに別の態様では3.0×10〜1.7×10個/cm、別の態様では3.5×10〜1.7×10個/cm、さらに別の態様では1.0×10〜1.7×10個/cmである。上記範囲は、上限が3.4×10個/cm未満である限り、上限および下限の両方、または、そのいずれか一方を含んでもよい。したがって、本発明の製造方法における骨格筋芽細胞の播種密度は、例えば、3.0×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、3.5×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、1.0×10個/cm以上3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、1.0×10個/cm超3.4×10個/cm未満(下限も上限も含まない)、1.0×10個/cm超1.7×10個/cm以下(下限は含まないが、上限は含む)であってもよい。当業者であれば、骨格筋芽細胞以外の細胞について、本発明に適した細胞密度を、本明細書の教示に従い、実験により適宜決定することができる。
本発明において、細胞の培養は、対象となる細胞がシート状の細胞培養物を形成するのに適した条件で行われる。
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1つの細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも機械的に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも機械的に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
本発明のシート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明の細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明の細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
本発明の一態様において、細胞の培養は、所定の期間内、好ましくは、細胞が分化に移行しない期間内に行われる。したがって、この態様において、細胞は、培養期間中、未分化の状態に維持される。細胞の分化への移行は、当業者に知られた任意の方法で評価することができる。例えば、骨格筋芽細胞の場合は、MHCの発現や、細胞の多核化を分化の指標とすることができる。本発明の好ましい態様において、培養期間は48時間以内、より好ましくは40時間以内、さらに好ましくは24時間以内である。
細胞の培養は、当該技術分野で通常なされている条件で行うことができる。例えば、典型的な培養条件としては、37℃、5%COでの培養が挙げられる。培養期間は、細胞培養物の十分な形成、および、細胞分化防止の観点から、好ましくは48時間以内、より好ましくは40時間以内、さらに好ましくは24時間以内である。培養は任意の大きさおよび形状の容器で行うことができる。本発明の方法において、細胞は実質的に増殖しないため、従来の方法のように細胞培養物が所望の大きさに成長するのを待つことなく、所望の大きさおよび形状の細胞培養物を短期間で得ることが可能となる。細胞培養物の大きさや形状は、培養容器の細胞付着面の大きさ・形状を調整すること、または、培養容器の細胞付着面に、所望の大きさ・形状の型枠を設置し、その内部で細胞を培養することなどにより任意に調節することができる。
細胞培養物の基材からの遊離は、細胞培養物が少なくとも部分的に、シート構造を保ったまま、足場となっている基材から遊離できれば特に限定されないが、典型的には、ピペッティングなどによって行う。また、細胞を、温度によって表面の親水性が変化する温度応答性基材上で培養し、形成された細胞培養物を温度変化により、非酵素的に遊離することもできる。
本発明はまた、上記製造方法によって作製された細胞培養物、さらには、他家血清、成長因子、ステロイド剤および/またはセレン成分を実質的に含まない細胞培養物、特にシート状の細胞培養物に関する。好ましい態様において、本発明の細胞培養物は、上記成分を含む製造工程由来不純物を実質的に含まない。この細胞培養物は、細胞を、他家血清、成長因子、ステロイド剤および/またはセレン成分を実質的に含まない培養液で培養して、細胞培養物を形成させることにより作製することができる。ここで、細胞培養物が他家血清、成長因子、ステロイド剤および/またはセレン成分を実質的に含まないとは、細胞培養物が、これらの成分を、レシピエントに悪影響を与える濃度で含まないことを少なくとも意味するが、細胞培養物の形成を、他家血清、成長因子、ステロイド剤および/またはセレン成分を実質的に含まない培養液で行うことにより、かかる条件を充足することができる。さらに好ましい態様において、本発明の細胞培養物は、製造工程由来不純物のほか、自己血清も実質的に含まない。ここで、「実質的に含まない」の意味は、上記と同様である。
本発明の細胞培養物は、対象の疾病、傷病の治療に用いることができる。例えば、骨格筋芽細胞による細胞培養物は、心疾患、例えば、心筋梗塞、拡張型心筋症などに、移植片などの形態で用いることができる。したがって、本発明の別の態様は、上記細胞培養物を含む移植片に関する。
以下に、本発明を具体例に基づいてさらに説明するが、かかる具体例は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。
ヒト骨格筋芽細胞を20%(v/v)FBS含有のMCDB131培地(GIBCO製)で増殖させた後、10%(v/v)DMSO、3%(v/v)ヒト血清アルブミン含有のMCDB131培地で液体窒素中に凍結保存した。該凍結細胞を37℃で急速融解後、HBSS(-)で2回洗浄し、20%(v/v)FBS含有のMCDB131培地で懸濁し、細胞非接着性表面を有する浮遊系細胞用のペトリディッシュ(BD製、code:35-1008)に1.0×10個/枚(1.0×10個/cm)の密度で播種した。ディッシュを遠心機(RL-603、TOMY製、TS-9ローター)にセットして、450G(1500rpm)、20℃で5分遠心した。再度1.0×10個/枚(1.0×10個/cm)の密度で細胞を播種し、ディッシュを左右反転して遠心機にセットし、さらに450G(1500rpm)、20℃で5分遠心をした。細胞を37℃、5%COで6時間培養後、ピペッティングによりシート状になった細胞培養物をプレートから剥離させた。比較例として、シートを特開2010−226962の方法を用いて作成した。
結果を図1および2に示す。一定方向のみで遠心したサンプルは、細胞の偏りがあり非常にもろく、簡単に崩れてしまう(図1)のに対し、左右反転して遠心し、加圧の偏りによる細胞密度の疎密を無くしたサンプルでは、臨床で使用出来うる強固なシート状の細胞培養物の形成が認められた(図2)。
本発明により、スケールアップにより見出された課題が解決され、より大きなサイズの物理的強度の高い良質のシート状細胞培養物を、簡便な作業で製造することが可能となった。

Claims (6)

  1. 遊離したシート状細胞培養物の製造方法であって、
    (i)細胞を基材上に播種する工程、
    (ii)細胞を基材に対して遠心力によって加圧する工程、
    (iii)細胞を培養してシート状の細胞培養物を形成する工程、および
    (iv)形成された培養物を基材から遊離させる工程
    を含み、ここで工程(i)および(ii)からなる繰り返しセットが2回以上繰り返され、2回目以降の繰り返しセットにおける播種および/または加圧が、直前の加圧工程終了後における加圧の偏りによる細胞密度の疎密を是正するように行われることを特徴とする、前記方法。
  2. 細胞の最終密度が、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度である、請求項1に記載の方法。
  3. 細胞の最終密度が3.5×10個/cm以上、3.4×10個/cm未満である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 細胞が、筋芽細胞を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 基材が細胞非接着性の表面を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 加圧が、2〜2000Gの力で行われる、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
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