JP2004283010A - 細胞の培養方法、細胞培養物及び医用生体材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】細胞の持つ分化機能を高度に発現させることができる細胞の培養方法、この方法により得られる細胞培養物及び医用生体材料を提供する。
【解決手段】細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を培養する方法。具体的には、例えば透過性膜からなる中空糸内に細胞を注入した後、圧力をかけることにより中空糸内腔に細胞の凝集体を形成したり、透過性膜上に細胞を載せた状態で圧力をかけることにより透過性膜上に細胞凝集体を形成した後、細胞を培養する。得られる細胞培養物は、人工臓器などの医用生体材料として好適に使用できる。
【選択図】 図1
【解決手段】細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を培養する方法。具体的には、例えば透過性膜からなる中空糸内に細胞を注入した後、圧力をかけることにより中空糸内腔に細胞の凝集体を形成したり、透過性膜上に細胞を載せた状態で圧力をかけることにより透過性膜上に細胞凝集体を形成した後、細胞を培養する。得られる細胞培養物は、人工臓器などの医用生体材料として好適に使用できる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞培養、組織培養等の分野において利用される細胞の培養方法、この方法により得られる細胞培養物及びこの細胞培養物を用いた医用生体材料に関する。特に、細胞の分化機能を高度に発現或いはさらに維持できる細胞の培養方法、この方法により得られる細胞培養物及びこの細胞培養物を用いた医用生体材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、接着性の動物細胞の一般的な培養法として広く用いられる単層培養法は、生体内で有していた細胞本来の分化機能を維持することが困難であり、細胞は生存または増殖するものの、急速に分化機能を消失することがよく知られている。
【0003】
例えば、初代培養細胞の中でも高度に分化した初代肝細胞では、単層培養期間内にその機能が特に失われ易い。例えば、ラット初代培養肝細胞は、フラスコ内で単層培養を行っても、肝細胞の重要な機能のひとつであるアンモニア代謝能が、通常、培養開始から2週間程度で失われてしまうことが知られている。
【0004】
このため、いったん生体外に分離した細胞を使用して、組織を生体外で再構築させることにより細胞の分化機能の発現を高める方法として、スフェロイド(球状組織体)培養方法やコラーゲンゲルを利用した3次元培養方法などの培養方法等が種々開発されている。
【0005】
生体外で組織を再構築する細胞培養方法の1つとして、透過性膜からなる中空糸の内腔において対象細胞を培養する方法がある。この方法は、細胞や細胞を含むコラーゲンゲルまたはアガロースゲルなどを中空糸内腔に封入した状態で細胞を培養する方法であり、細胞又は組織を3次元培養することができる。この方法によると、中空糸内腔に細胞を入れた状態で中空糸の外側に培養液を灌流することにより、効率良く細胞に栄養を供給できるとともに細胞が排出する老廃物を中空糸外に効率良く除去することができる。また、細胞が中空糸膜に覆われることにより、培養液の流れによる物理的傷害から細胞を守ることができるというメリットもある。
【0006】
生体から分離した細胞を生体外で培養することにより組織を再構築して医用生体材料を作製する具体例としては、繊維芽細胞を含むコラーゲンゲルの上に、表皮角化細胞を培養して表皮層、角質層を作製することが試みられている。
【0007】
また、特許文献1は、人工肝臓として用いるための肝細胞オルガノイドの製造方法として、中空糸内部又は外部に肝細胞を注入し、遠心力又は静水圧を作用させることにより細胞を高密度に充填する方法を開示している。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−247978号公報(段落0008など)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、細胞の分化機能を高度に発現させることができる細胞の培養方法、この方法により得られる細胞培養物及び人工臓器を提供することを主目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために本発明者は研究を重ね、細胞に水圧のような圧力をかけることにより細胞を高い接触状態ないしは高い接触頻度が保たれる凝集体とし、この凝集体の状態で細胞を培養することにより、細胞本来が持つ機能を高度に発現させ、長期間細胞を培養できることを見出した。また、本発明者は、このような細胞の凝集体を細胞培養用培地中で培養することにより比較的速やかに組織体が形成され、この組織体を培養することにより、培養中の細胞の機能の発現、維持が一層効果的に現われることを見出した。
【0011】
前記知見に基づき本発明は、以下の各項の細胞の培養方法等を提供する。
【0012】
項1. 細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を培養することを特徴とする細胞の培養方法。
【0013】
項2. 透過性膜からなる中空糸の内腔に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、中空糸の内腔に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の培養方法。
【0014】
項3. 透過性膜からなる中空糸束と中空糸束を覆うシェルとからなる構造物のシェルと中空糸束との間隙に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、シェルと中空糸束との間隙に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の培養方法。
【0015】
項4. 透過性膜上に細胞を載せた状態で細胞に圧力をかけることにより、透過性膜の表面上に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の培養方法。
【0016】
項5. 1又は複数のウェルを有する容器のウェル内に細胞を入れた状態で、細胞に圧力をかけることによりウェル底部に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の培養方法。
【0017】
項6. 細胞として、軟骨、骨、皮膚、神経、口腔、消化管、肝臓、膵臓、腎臓、腺組織、副腎、心臓、筋肉、腱、脂肪組織、結合組織、生殖器、眼球、血管、骨髄、血液からなる群より選ばれる組織に由来する少なくとも1種の細胞を用いる項1から5のいずれかに記載の細胞の培養方法。
【0018】
項7. 細胞として、軟骨細胞、骨芽細胞、表皮角化細胞、メラニン細胞、神経細胞、神経幹細胞、グリア細胞、肝細胞、腸上皮細胞、膵β細胞、膵外分泌細胞、腎糸球体内皮細胞、尿細管上皮細胞、乳腺細胞、甲状腺細胞、唾液腺細胞、副腎皮質細胞、副腎髄質細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、脂肪前駆細胞、水晶体細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、骨髄間質細胞、リンパ球からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞を用いる項1から5のいずれかに記載の細胞の培養方法。
【0019】
項8. 項1から7のいずれかに記載の方法により得られる細胞培養物。
【0020】
項9. 項8に記載の細胞培養物を用いた医用生体材料。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
基本的構成
本発明の細胞の培養方法は、細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を培養する方法である。本発明において、凝集体とは、分散された細胞による自発的な凝集では成し得ない程度に、細胞同士が高度に接着した状態又は高頻度に接着した状態の細胞群をいう。
【0022】
このような凝集体は、細胞を適当な液体培地又はバッファーに懸濁した状態で、例えば注射用シリンジ等を用いて、細胞の種類に応じて細胞に傷害を与えない範囲の圧力をかけることにより形成することができる。圧力は、細胞の種類によっても異なるが、概ね5〜50kg重/cm2程度、特に5〜35kg重/cm2程度、さらに特に10〜20kg重/cm2程度が好ましい。本発明において、圧力には、注射器、アスピレーター(水流ポンプ)、エバポレーター、ポンプ等を用いて細胞に陽圧又は陰圧の圧力をかけることが含まれる。また、圧力は連続して1回でかけてもよく、又は、複数回に分けて間欠的にかけてもよい。目的や細胞の状態に応じた方法を選択することができる。また、細胞に圧力を加える総時間は、通常60分間以内、特に1秒間〜10分間程度が好ましい。
透過性膜
細胞の凝集体は、細胞を透過性膜上に堆積させた状態で細胞堆積側を陽圧にしたり、その反対側を陰圧にして細胞に圧力をかけることにより形成することができる。圧力の大きさは前述したとおりである。
【0023】
透過性膜上に凝集体を形成する場合には、透過性膜を介して細胞を細胞培養用液体培地に接触させておくことにより、凝集体状態を維持したままで細胞の生存に必要な成分を効率良く供給することができる。その結果、細胞の有する機能を維持しつつ細胞を培養することができる。
【0024】
透過性膜は、細胞は通過させないが水、塩類、蛋白質などの培養液成分は通過させる通孔を多数有する膜であり、通常0.1〜5μm程度、特に0.2〜3μm程度の通孔を有するものであることが好ましい。
【0025】
透過性膜の厚さは、膜の適度の強度及び良好な物質透過性が保たれる範囲であればよく、特に限定されないが、通常10〜200μm程度、特に20〜100μm程度のものが好適に採用される。
【0026】
透過性膜の材料は、細胞毒性を有さず、滅菌、洗浄、培養液との接触などにより変質、分解しない材料であればよく、特に限定されない。例えばセルロース系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂等からなる透過性膜を採用できる。
【0027】
透過性膜上に細胞を載せるに当たっては、底面の全部又は一部に透過性膜で形成された容器、底面の他に側面の全部又は一部も透過性膜で形成された容器、全面が透過性膜で形成された容器などを用い、容器内に細胞を入れればよい。これらの容器を用いる場合には、透過性膜上に載せた細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成した後に、この容器を別の培養容器に嵌めて、培養液を注入してそのまま培養に供することができる。また、凝集体を形成した透過性膜を凝集体ごと取り出して、別途用意した培養液に移して培養してもよい。
【0028】
透過性膜上に細胞を載せるに当たっては、圧力をかけることにより細胞が概ね2〜200層程度、特に5〜100層程度重なり合った凝集体が得られるように、細胞数を調整することが望ましい。凝集体において細胞が多数重なりすぎている場合には凝集体の中央層部の細胞が栄養不足、ガス交換不足になり、細胞の重なりが少なすぎる場合は細胞数が少なく十分な機能を発揮する凝集体が形成され難い。上記範囲であればこのような問題は生じない。
【0029】
凝集体の細胞数は、例えば凝集体の載った透過性膜を切り出し、これをホルマリン固定後、パラフィン包埋切片を作製して顕微鏡観察することにより確認することができる。
中空糸
細胞凝集体は、透過性膜からなる中空糸内腔に細胞を入れた状態で、例えば注射用シリンジ等を用いて、中空糸内腔を陽圧にしたり、中空糸外部を陰圧にして細胞に圧力をかけることによっても形成することができる。圧力の大きさは前述したとおりである。
【0030】
この場合には、中空糸を介して細胞培養用液体培地を凝集体に供給すれば、凝集状態を維持したままで細胞の生存に必要な成分を効率良く供給することができる。その結果、細胞の有する機能を維持しつつ細胞を培養することができる。また、中空糸を用いることにより、細胞凝集体が液体培地等から隔離されるため、培養時の液体の流動による物理的衝撃から細胞を保護することができる。また、高密度で細胞を培養できる。
【0031】
具体的には、例えばシェル内部に多数の中空糸を微小間隔で規則的に配置した細胞培養用モジュールを用いて、中空糸内腔に細胞懸濁液を注入する際、細胞に注入器により圧力をかけ、中空糸内腔に凝集体を形成することができる。次いで、シェル内の中空糸の外側部分に細胞培養用液体培地などを灌流させることで細胞を培養することができる。
【0032】
また、例えば中空糸内腔に細胞凝集体を形成した後、中空糸を切り出しその両端を圧着や結紮等により封止し、この中空糸を細胞培養用液体培地等で細胞を培養することもできる。
【0033】
中空糸を構成する透過性膜の孔径、厚さ、材料は、前述した通りである。また、中空糸の内径は通常20〜1000μm程度、特に50〜500μm程度、さらに特に100〜300μm程度であることが好ましい。中空糸の内径が余りに大きいと、中空糸中心部細胞における各種物質交換が困難となり、また内径が余りに小さいと充分な細胞数の注入が困難となる。前記の範囲であればこのような問題は生じない。
容器内での凝集体の形成
細胞の凝集体は、透過性膜又は中空糸を介さず、容器内に細胞懸濁液を入れた状態で圧力をかけることによっても形成することができる。このときの圧力も前述した通りである。
【0034】
容器としては、例えば汎用の遠心チューブや1又は複数のウェルを有する容器のウェルなどが挙げられる。
【0035】
容器内に細胞を入れるに当たっては、前述したように、圧力をかけることにより細胞が概ね2〜200層程度、特に5〜100層程度重なり合った凝集体が得られるように、細胞数を調整することが望ましい。
【0036】
容器内壁に細胞凝集体を形成した後は、そのまま細胞培養液を追加して培養すればよい。或いは、上清を除去し、さらに容器内に細胞培養液を入れた状態で細胞を培養してもよい。
細胞
本発明方法の対象となる細胞としては、特に限定されるものではないが、接着性の動物細胞が好適である。細胞の由来も特に限定されず、ヒト、マウス、ラット等のいずれの動物由来のものも使用できる。また、接着性の動物細胞は、初代培養細胞及び株化細胞の双方を対象とすることができる。
本発明方法は、特に、細胞の機能維持が困難な初代培養細胞の培養に適する。初代培養細胞は、軟骨、骨、皮膚、神経、口腔、消化管、肝臓、膵臓、腎臓、腺組織、副腎、心臓、筋肉、腱、脂肪組織、結合組織、生殖器、眼球、血管、骨髄又は血液のいずれの組織に由来するものであってもよい。細胞は、単一組織に由来する単一種類の細胞を用いることもできるが、由来の異なる複数種の細胞を用いることもできる。
具体的には、例えば、軟骨細胞、骨芽細胞、表皮角化細胞、メラニン細胞、神経細胞、神経幹細胞、グリア細胞、肝細胞、腸上皮細胞、膵β細胞、膵外分泌細胞、腎糸球体内皮細胞、尿細管上皮細胞、乳腺細胞、甲状腺細胞、唾液腺細胞、副腎皮質細胞、副腎髄質細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、脂肪前駆細胞、水晶体細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、骨髄間質細胞又はリンパ球などを使用できる。細胞は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
株化細胞は、特に限定されず、CHO細胞、Vero細胞、MRC−5細胞、BHK細胞、Hela細胞などの公知の細胞株やこれらの細胞に外来遺伝子を導入した細胞株などを使用できる。
培養
凝集体の培養時に用いる細胞培養用液体培地は、特に限定されず、例えばダルベッコの改変イーグル培地、ウィリアムズE培地、HamのF−10培地、F−12培地、RPMI−1640培地、MCDB153培地、199培地などの従来公知の細胞培養用基礎培地に、必要に応じて各細胞の培養に適合した従来公知の成長因子や抗酸化剤などを加えたものを使用することができる。
【0038】
さらに、細胞培養用液体培地を含むコラーゲンゲル又はアガロースゲルなどで凝集体を覆った状態で細胞を培養することもできる。これにより、培地交換等の際に細胞に加わる物理的傷害から細胞を保護することができる。
【0039】
培養時の温度は、細胞の種類によって異なるが、概ね36〜37℃程度とすればよい。培養時間は、得られる細胞培養物の用途によっても異なるが、4時間程度以上、特に12時間〜1週間程度とすることができる。
【0040】
この程度の培養により、細胞が生体内で保持していた機能を良好に発現している細胞培養物が得られる。
医用生体材料
このようにして得られた細胞培養物は、例えば医用生体材料用の細胞として使用できる。本発明において、医用生体材料とは、ヒト等の動物の組織の代替物として使用される材料をいう。医用生体材料としては、培養された細胞の種類に応じて、人工膵臓、人工脾臓、人工腎臓、人工心臓のような人工臓器;人工消化管;人工血管;人工皮膚;人工神経;人工骨;人工軟骨;人工内耳;人工水晶体;人工角膜など、又はこれらの一部分が挙げられる。
【0041】
例えば内部に多数の中空糸を備えた細胞培養用モジュールの中空糸内で培養された細胞凝集体や、同様の細胞培養用モジュールの中空糸とモジュールのシェルとの間で培養された細胞凝集体は、該細胞凝集体が充填されたモジュールをそのまま人工膵臓のような人工臓器として用いることができる。また、モジュールより細胞培養物を取り出し、これを移植用途などの生体医用材料として用いることができる。
【0042】
また例えば、中空糸内で培養された軟骨細胞凝集体は、形成させた細胞凝集体を取り出し、そのままで、或いは所望の大きさや形になるよう切ったり凝集体を集合させたりしたものを、生体内の必要な部位に移植し生着させることができる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例及び試験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
フラスコにて培養した初代ヒト軟骨細胞をトリプシン消化し、7.5×106個/mlの細胞分散液を調製した。これをセルローストリアセテート製の血漿分離用中空糸(東洋紡績社製AP250N15タイプ;内径285μm、外径387μm)内腔に注入した後、注射用シリンジを用いて約8kg重/cm2の圧力(水圧)をかけることにより、中空糸内腔に細胞凝集体を形成させた。
【0044】
軟骨細胞の凝集体が封入された状態の長さ3cmの中空糸6本を作成し、直径35mmの培養ディッシュ(ファルコン製)に入れ、この培養ディッシュ内に、さらにDulbecco’s modified eagle medium(DMEM;ギブコ製)に、ウシ胎児血清5%、インシュリン(シグマ製)、TGF−β、トランスフェリン、ペニシリンGカリウム(ナカライテスク製)、ストレプトマイシン硫酸塩(ナカライテスク製)、炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク製)を添加した培地を入れ、5%炭酸ガス、95%大気の雰囲気下、振盪器上で37℃で1ヶ月間の振盪培養を行なった。
【0045】
中空糸内の細胞から経日的にRNAを抽出し、II型コラーゲンのmRNA発現について調べた。また、薄切片を作製しトルイジンブルー染色を実施することにより軟骨細胞の基質産生の様子を調べた。
【0046】
比較例1
実施例1において調製したヒト軟骨細胞の分散液を分化誘導培地にて0.2×106個/mlになるよう希釈し、培養面積が25cm2のフラスコ(ファルコン社製)に播種し、実施例1で用いたものと同じ培地5mlを入れ実施例1と同じ環境下にて単層培養を行った。経日的に細胞からRNAを抽出し、II型コラーゲンのmRNA発現について調べた。
【0047】
実施例1及び比較例1により調べたII型コラーゲンの単位細胞数あたりのmRNA発現量を相対的に比較したグラフを図1に示す。
【0048】
図1から明らかなように、実施例1により得られた中空糸内の軟骨細胞は軟骨の分化マーカーであるII型コラーゲンのmRNA発現量が、比較例1の単層培養法に比し、長期にわたり高発現を示した。
【0049】
また、実施例1においては、中空糸内に組織様体が形成されていた。この組織切片を作製しトルイジンブルー染色を行った結果を図2に示す。図2に示されるように、実施例1の組織切片では、軟骨基質形成を示す異染性が強く認められた。
【0050】
【発明の効果】
本発明によると、細胞の分化機能を高度に発現でき、さらに高度の発現を長期間維持できる培養方法が提供された。
【0051】
さらにいえば、圧力をかけること等により細胞凝集体を形成させ、細胞同士の接触頻度が非常に高まった状態を作り出すことで、細胞が本来持つ機能を良好に発現する細胞凝集体が得られる。また、このような凝集体は組織体に誘導され易く、細胞凝集体から形成された組織体は、細胞が本来持つ機能を良好に発現する。
【0052】
このような細胞凝集体または組織体は、長期間培養しても細胞の分化機能が消失し難く良好に細胞の機能が維持される。
【0053】
従って、細胞凝集体を培養することにより得られる細胞培養物は、医用生体材料用の細胞として好適に使用できる。
【0054】
また、本発明方法によれば、例えば注射器などを用いて簡便に細胞に圧力をかけることができることから、生体内で有していた機能を良好に発現する細胞培養物が簡便に得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】軟骨細胞の凝集体の培養物及び軟骨細胞の単層培養による培養物についての、単位細胞数あたりのII型コラーゲンmRNA量の相対値を示すグラフである。
【図2】軟骨細胞凝集体の培養物において形成された組織様体の切片のトルイジンブルー染色像である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞培養、組織培養等の分野において利用される細胞の培養方法、この方法により得られる細胞培養物及びこの細胞培養物を用いた医用生体材料に関する。特に、細胞の分化機能を高度に発現或いはさらに維持できる細胞の培養方法、この方法により得られる細胞培養物及びこの細胞培養物を用いた医用生体材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、接着性の動物細胞の一般的な培養法として広く用いられる単層培養法は、生体内で有していた細胞本来の分化機能を維持することが困難であり、細胞は生存または増殖するものの、急速に分化機能を消失することがよく知られている。
【0003】
例えば、初代培養細胞の中でも高度に分化した初代肝細胞では、単層培養期間内にその機能が特に失われ易い。例えば、ラット初代培養肝細胞は、フラスコ内で単層培養を行っても、肝細胞の重要な機能のひとつであるアンモニア代謝能が、通常、培養開始から2週間程度で失われてしまうことが知られている。
【0004】
このため、いったん生体外に分離した細胞を使用して、組織を生体外で再構築させることにより細胞の分化機能の発現を高める方法として、スフェロイド(球状組織体)培養方法やコラーゲンゲルを利用した3次元培養方法などの培養方法等が種々開発されている。
【0005】
生体外で組織を再構築する細胞培養方法の1つとして、透過性膜からなる中空糸の内腔において対象細胞を培養する方法がある。この方法は、細胞や細胞を含むコラーゲンゲルまたはアガロースゲルなどを中空糸内腔に封入した状態で細胞を培養する方法であり、細胞又は組織を3次元培養することができる。この方法によると、中空糸内腔に細胞を入れた状態で中空糸の外側に培養液を灌流することにより、効率良く細胞に栄養を供給できるとともに細胞が排出する老廃物を中空糸外に効率良く除去することができる。また、細胞が中空糸膜に覆われることにより、培養液の流れによる物理的傷害から細胞を守ることができるというメリットもある。
【0006】
生体から分離した細胞を生体外で培養することにより組織を再構築して医用生体材料を作製する具体例としては、繊維芽細胞を含むコラーゲンゲルの上に、表皮角化細胞を培養して表皮層、角質層を作製することが試みられている。
【0007】
また、特許文献1は、人工肝臓として用いるための肝細胞オルガノイドの製造方法として、中空糸内部又は外部に肝細胞を注入し、遠心力又は静水圧を作用させることにより細胞を高密度に充填する方法を開示している。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−247978号公報(段落0008など)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、細胞の分化機能を高度に発現させることができる細胞の培養方法、この方法により得られる細胞培養物及び人工臓器を提供することを主目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために本発明者は研究を重ね、細胞に水圧のような圧力をかけることにより細胞を高い接触状態ないしは高い接触頻度が保たれる凝集体とし、この凝集体の状態で細胞を培養することにより、細胞本来が持つ機能を高度に発現させ、長期間細胞を培養できることを見出した。また、本発明者は、このような細胞の凝集体を細胞培養用培地中で培養することにより比較的速やかに組織体が形成され、この組織体を培養することにより、培養中の細胞の機能の発現、維持が一層効果的に現われることを見出した。
【0011】
前記知見に基づき本発明は、以下の各項の細胞の培養方法等を提供する。
【0012】
項1. 細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を培養することを特徴とする細胞の培養方法。
【0013】
項2. 透過性膜からなる中空糸の内腔に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、中空糸の内腔に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の培養方法。
【0014】
項3. 透過性膜からなる中空糸束と中空糸束を覆うシェルとからなる構造物のシェルと中空糸束との間隙に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、シェルと中空糸束との間隙に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の培養方法。
【0015】
項4. 透過性膜上に細胞を載せた状態で細胞に圧力をかけることにより、透過性膜の表面上に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の培養方法。
【0016】
項5. 1又は複数のウェルを有する容器のウェル内に細胞を入れた状態で、細胞に圧力をかけることによりウェル底部に細胞の凝集体を形成する項1に記載の細胞の培養方法。
【0017】
項6. 細胞として、軟骨、骨、皮膚、神経、口腔、消化管、肝臓、膵臓、腎臓、腺組織、副腎、心臓、筋肉、腱、脂肪組織、結合組織、生殖器、眼球、血管、骨髄、血液からなる群より選ばれる組織に由来する少なくとも1種の細胞を用いる項1から5のいずれかに記載の細胞の培養方法。
【0018】
項7. 細胞として、軟骨細胞、骨芽細胞、表皮角化細胞、メラニン細胞、神経細胞、神経幹細胞、グリア細胞、肝細胞、腸上皮細胞、膵β細胞、膵外分泌細胞、腎糸球体内皮細胞、尿細管上皮細胞、乳腺細胞、甲状腺細胞、唾液腺細胞、副腎皮質細胞、副腎髄質細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、脂肪前駆細胞、水晶体細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、骨髄間質細胞、リンパ球からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞を用いる項1から5のいずれかに記載の細胞の培養方法。
【0019】
項8. 項1から7のいずれかに記載の方法により得られる細胞培養物。
【0020】
項9. 項8に記載の細胞培養物を用いた医用生体材料。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
基本的構成
本発明の細胞の培養方法は、細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を培養する方法である。本発明において、凝集体とは、分散された細胞による自発的な凝集では成し得ない程度に、細胞同士が高度に接着した状態又は高頻度に接着した状態の細胞群をいう。
【0022】
このような凝集体は、細胞を適当な液体培地又はバッファーに懸濁した状態で、例えば注射用シリンジ等を用いて、細胞の種類に応じて細胞に傷害を与えない範囲の圧力をかけることにより形成することができる。圧力は、細胞の種類によっても異なるが、概ね5〜50kg重/cm2程度、特に5〜35kg重/cm2程度、さらに特に10〜20kg重/cm2程度が好ましい。本発明において、圧力には、注射器、アスピレーター(水流ポンプ)、エバポレーター、ポンプ等を用いて細胞に陽圧又は陰圧の圧力をかけることが含まれる。また、圧力は連続して1回でかけてもよく、又は、複数回に分けて間欠的にかけてもよい。目的や細胞の状態に応じた方法を選択することができる。また、細胞に圧力を加える総時間は、通常60分間以内、特に1秒間〜10分間程度が好ましい。
透過性膜
細胞の凝集体は、細胞を透過性膜上に堆積させた状態で細胞堆積側を陽圧にしたり、その反対側を陰圧にして細胞に圧力をかけることにより形成することができる。圧力の大きさは前述したとおりである。
【0023】
透過性膜上に凝集体を形成する場合には、透過性膜を介して細胞を細胞培養用液体培地に接触させておくことにより、凝集体状態を維持したままで細胞の生存に必要な成分を効率良く供給することができる。その結果、細胞の有する機能を維持しつつ細胞を培養することができる。
【0024】
透過性膜は、細胞は通過させないが水、塩類、蛋白質などの培養液成分は通過させる通孔を多数有する膜であり、通常0.1〜5μm程度、特に0.2〜3μm程度の通孔を有するものであることが好ましい。
【0025】
透過性膜の厚さは、膜の適度の強度及び良好な物質透過性が保たれる範囲であればよく、特に限定されないが、通常10〜200μm程度、特に20〜100μm程度のものが好適に採用される。
【0026】
透過性膜の材料は、細胞毒性を有さず、滅菌、洗浄、培養液との接触などにより変質、分解しない材料であればよく、特に限定されない。例えばセルロース系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂等からなる透過性膜を採用できる。
【0027】
透過性膜上に細胞を載せるに当たっては、底面の全部又は一部に透過性膜で形成された容器、底面の他に側面の全部又は一部も透過性膜で形成された容器、全面が透過性膜で形成された容器などを用い、容器内に細胞を入れればよい。これらの容器を用いる場合には、透過性膜上に載せた細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成した後に、この容器を別の培養容器に嵌めて、培養液を注入してそのまま培養に供することができる。また、凝集体を形成した透過性膜を凝集体ごと取り出して、別途用意した培養液に移して培養してもよい。
【0028】
透過性膜上に細胞を載せるに当たっては、圧力をかけることにより細胞が概ね2〜200層程度、特に5〜100層程度重なり合った凝集体が得られるように、細胞数を調整することが望ましい。凝集体において細胞が多数重なりすぎている場合には凝集体の中央層部の細胞が栄養不足、ガス交換不足になり、細胞の重なりが少なすぎる場合は細胞数が少なく十分な機能を発揮する凝集体が形成され難い。上記範囲であればこのような問題は生じない。
【0029】
凝集体の細胞数は、例えば凝集体の載った透過性膜を切り出し、これをホルマリン固定後、パラフィン包埋切片を作製して顕微鏡観察することにより確認することができる。
中空糸
細胞凝集体は、透過性膜からなる中空糸内腔に細胞を入れた状態で、例えば注射用シリンジ等を用いて、中空糸内腔を陽圧にしたり、中空糸外部を陰圧にして細胞に圧力をかけることによっても形成することができる。圧力の大きさは前述したとおりである。
【0030】
この場合には、中空糸を介して細胞培養用液体培地を凝集体に供給すれば、凝集状態を維持したままで細胞の生存に必要な成分を効率良く供給することができる。その結果、細胞の有する機能を維持しつつ細胞を培養することができる。また、中空糸を用いることにより、細胞凝集体が液体培地等から隔離されるため、培養時の液体の流動による物理的衝撃から細胞を保護することができる。また、高密度で細胞を培養できる。
【0031】
具体的には、例えばシェル内部に多数の中空糸を微小間隔で規則的に配置した細胞培養用モジュールを用いて、中空糸内腔に細胞懸濁液を注入する際、細胞に注入器により圧力をかけ、中空糸内腔に凝集体を形成することができる。次いで、シェル内の中空糸の外側部分に細胞培養用液体培地などを灌流させることで細胞を培養することができる。
【0032】
また、例えば中空糸内腔に細胞凝集体を形成した後、中空糸を切り出しその両端を圧着や結紮等により封止し、この中空糸を細胞培養用液体培地等で細胞を培養することもできる。
【0033】
中空糸を構成する透過性膜の孔径、厚さ、材料は、前述した通りである。また、中空糸の内径は通常20〜1000μm程度、特に50〜500μm程度、さらに特に100〜300μm程度であることが好ましい。中空糸の内径が余りに大きいと、中空糸中心部細胞における各種物質交換が困難となり、また内径が余りに小さいと充分な細胞数の注入が困難となる。前記の範囲であればこのような問題は生じない。
容器内での凝集体の形成
細胞の凝集体は、透過性膜又は中空糸を介さず、容器内に細胞懸濁液を入れた状態で圧力をかけることによっても形成することができる。このときの圧力も前述した通りである。
【0034】
容器としては、例えば汎用の遠心チューブや1又は複数のウェルを有する容器のウェルなどが挙げられる。
【0035】
容器内に細胞を入れるに当たっては、前述したように、圧力をかけることにより細胞が概ね2〜200層程度、特に5〜100層程度重なり合った凝集体が得られるように、細胞数を調整することが望ましい。
【0036】
容器内壁に細胞凝集体を形成した後は、そのまま細胞培養液を追加して培養すればよい。或いは、上清を除去し、さらに容器内に細胞培養液を入れた状態で細胞を培養してもよい。
細胞
本発明方法の対象となる細胞としては、特に限定されるものではないが、接着性の動物細胞が好適である。細胞の由来も特に限定されず、ヒト、マウス、ラット等のいずれの動物由来のものも使用できる。また、接着性の動物細胞は、初代培養細胞及び株化細胞の双方を対象とすることができる。
本発明方法は、特に、細胞の機能維持が困難な初代培養細胞の培養に適する。初代培養細胞は、軟骨、骨、皮膚、神経、口腔、消化管、肝臓、膵臓、腎臓、腺組織、副腎、心臓、筋肉、腱、脂肪組織、結合組織、生殖器、眼球、血管、骨髄又は血液のいずれの組織に由来するものであってもよい。細胞は、単一組織に由来する単一種類の細胞を用いることもできるが、由来の異なる複数種の細胞を用いることもできる。
具体的には、例えば、軟骨細胞、骨芽細胞、表皮角化細胞、メラニン細胞、神経細胞、神経幹細胞、グリア細胞、肝細胞、腸上皮細胞、膵β細胞、膵外分泌細胞、腎糸球体内皮細胞、尿細管上皮細胞、乳腺細胞、甲状腺細胞、唾液腺細胞、副腎皮質細胞、副腎髄質細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、脂肪前駆細胞、水晶体細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、骨髄間質細胞又はリンパ球などを使用できる。細胞は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
株化細胞は、特に限定されず、CHO細胞、Vero細胞、MRC−5細胞、BHK細胞、Hela細胞などの公知の細胞株やこれらの細胞に外来遺伝子を導入した細胞株などを使用できる。
培養
凝集体の培養時に用いる細胞培養用液体培地は、特に限定されず、例えばダルベッコの改変イーグル培地、ウィリアムズE培地、HamのF−10培地、F−12培地、RPMI−1640培地、MCDB153培地、199培地などの従来公知の細胞培養用基礎培地に、必要に応じて各細胞の培養に適合した従来公知の成長因子や抗酸化剤などを加えたものを使用することができる。
【0038】
さらに、細胞培養用液体培地を含むコラーゲンゲル又はアガロースゲルなどで凝集体を覆った状態で細胞を培養することもできる。これにより、培地交換等の際に細胞に加わる物理的傷害から細胞を保護することができる。
【0039】
培養時の温度は、細胞の種類によって異なるが、概ね36〜37℃程度とすればよい。培養時間は、得られる細胞培養物の用途によっても異なるが、4時間程度以上、特に12時間〜1週間程度とすることができる。
【0040】
この程度の培養により、細胞が生体内で保持していた機能を良好に発現している細胞培養物が得られる。
医用生体材料
このようにして得られた細胞培養物は、例えば医用生体材料用の細胞として使用できる。本発明において、医用生体材料とは、ヒト等の動物の組織の代替物として使用される材料をいう。医用生体材料としては、培養された細胞の種類に応じて、人工膵臓、人工脾臓、人工腎臓、人工心臓のような人工臓器;人工消化管;人工血管;人工皮膚;人工神経;人工骨;人工軟骨;人工内耳;人工水晶体;人工角膜など、又はこれらの一部分が挙げられる。
【0041】
例えば内部に多数の中空糸を備えた細胞培養用モジュールの中空糸内で培養された細胞凝集体や、同様の細胞培養用モジュールの中空糸とモジュールのシェルとの間で培養された細胞凝集体は、該細胞凝集体が充填されたモジュールをそのまま人工膵臓のような人工臓器として用いることができる。また、モジュールより細胞培養物を取り出し、これを移植用途などの生体医用材料として用いることができる。
【0042】
また例えば、中空糸内で培養された軟骨細胞凝集体は、形成させた細胞凝集体を取り出し、そのままで、或いは所望の大きさや形になるよう切ったり凝集体を集合させたりしたものを、生体内の必要な部位に移植し生着させることができる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例及び試験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
フラスコにて培養した初代ヒト軟骨細胞をトリプシン消化し、7.5×106個/mlの細胞分散液を調製した。これをセルローストリアセテート製の血漿分離用中空糸(東洋紡績社製AP250N15タイプ;内径285μm、外径387μm)内腔に注入した後、注射用シリンジを用いて約8kg重/cm2の圧力(水圧)をかけることにより、中空糸内腔に細胞凝集体を形成させた。
【0044】
軟骨細胞の凝集体が封入された状態の長さ3cmの中空糸6本を作成し、直径35mmの培養ディッシュ(ファルコン製)に入れ、この培養ディッシュ内に、さらにDulbecco’s modified eagle medium(DMEM;ギブコ製)に、ウシ胎児血清5%、インシュリン(シグマ製)、TGF−β、トランスフェリン、ペニシリンGカリウム(ナカライテスク製)、ストレプトマイシン硫酸塩(ナカライテスク製)、炭酸水素ナトリウム(ナカライテスク製)を添加した培地を入れ、5%炭酸ガス、95%大気の雰囲気下、振盪器上で37℃で1ヶ月間の振盪培養を行なった。
【0045】
中空糸内の細胞から経日的にRNAを抽出し、II型コラーゲンのmRNA発現について調べた。また、薄切片を作製しトルイジンブルー染色を実施することにより軟骨細胞の基質産生の様子を調べた。
【0046】
比較例1
実施例1において調製したヒト軟骨細胞の分散液を分化誘導培地にて0.2×106個/mlになるよう希釈し、培養面積が25cm2のフラスコ(ファルコン社製)に播種し、実施例1で用いたものと同じ培地5mlを入れ実施例1と同じ環境下にて単層培養を行った。経日的に細胞からRNAを抽出し、II型コラーゲンのmRNA発現について調べた。
【0047】
実施例1及び比較例1により調べたII型コラーゲンの単位細胞数あたりのmRNA発現量を相対的に比較したグラフを図1に示す。
【0048】
図1から明らかなように、実施例1により得られた中空糸内の軟骨細胞は軟骨の分化マーカーであるII型コラーゲンのmRNA発現量が、比較例1の単層培養法に比し、長期にわたり高発現を示した。
【0049】
また、実施例1においては、中空糸内に組織様体が形成されていた。この組織切片を作製しトルイジンブルー染色を行った結果を図2に示す。図2に示されるように、実施例1の組織切片では、軟骨基質形成を示す異染性が強く認められた。
【0050】
【発明の効果】
本発明によると、細胞の分化機能を高度に発現でき、さらに高度の発現を長期間維持できる培養方法が提供された。
【0051】
さらにいえば、圧力をかけること等により細胞凝集体を形成させ、細胞同士の接触頻度が非常に高まった状態を作り出すことで、細胞が本来持つ機能を良好に発現する細胞凝集体が得られる。また、このような凝集体は組織体に誘導され易く、細胞凝集体から形成された組織体は、細胞が本来持つ機能を良好に発現する。
【0052】
このような細胞凝集体または組織体は、長期間培養しても細胞の分化機能が消失し難く良好に細胞の機能が維持される。
【0053】
従って、細胞凝集体を培養することにより得られる細胞培養物は、医用生体材料用の細胞として好適に使用できる。
【0054】
また、本発明方法によれば、例えば注射器などを用いて簡便に細胞に圧力をかけることができることから、生体内で有していた機能を良好に発現する細胞培養物が簡便に得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】軟骨細胞の凝集体の培養物及び軟骨細胞の単層培養による培養物についての、単位細胞数あたりのII型コラーゲンmRNA量の相対値を示すグラフである。
【図2】軟骨細胞凝集体の培養物において形成された組織様体の切片のトルイジンブルー染色像である。
Claims (9)
- 細胞に圧力をかけることにより凝集体を形成し、凝集体の状態で細胞を培養することを特徴とする細胞の培養方法。
- 透過性膜からなる中空糸の内腔に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、中空糸の内腔に細胞の凝集体を形成する請求項1に記載の細胞の培養方法。
- 透過性膜からなる中空糸束と中空糸束を覆うシェルとからなる構造物のシェルと中空糸束との間隙に細胞を入れた状態で細胞に圧力をかけることにより、シェルと中空糸束との間隙に細胞の凝集体を形成する請求項1に記載の細胞の培養方法。
- 透過性膜上に細胞を載せた状態で細胞に圧力をかけることにより、透過性膜の表面上に細胞の凝集体を形成する請求項1に記載の細胞の培養方法。
- 1又は複数のウェルを有する容器のウェル内に細胞を入れた状態で、細胞に圧力をかけることによりウェル底部に細胞の凝集体を形成する請求項1に記載の細胞の培養方法。
- 細胞として、軟骨、骨、皮膚、神経、口腔、消化管、肝臓、膵臓、腎臓、腺組織、副腎、心臓、筋肉、腱、脂肪組織、結合組織、生殖器、眼球、血管、骨髄、血液からなる群より選ばれる組織に由来する少なくとも1種の細胞を用いる請求項1から5のいずれかに記載の細胞の培養方法。
- 細胞として、軟骨細胞、骨芽細胞、表皮角化細胞、メラニン細胞、神経細胞、神経幹細胞、グリア細胞、肝細胞、腸上皮細胞、膵β細胞、膵外分泌細胞、腎糸球体内皮細胞、尿細管上皮細胞、乳腺細胞、甲状腺細胞、唾液腺細胞、副腎皮質細胞、副腎髄質細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、脂肪前駆細胞、水晶体細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、骨髄間質細胞、リンパ球からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞を用いる請求項1から5のいずれかに記載の細胞の培養方法。
- 請求項1から7のいずれかに記載の方法により得られる細胞培養物。
- 請求項8に記載の細胞培養物を用いた医用生体材料。
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