JP6505415B2 - 加工性と耐食性に優れたFe−Cr−Ni系合金材料の表面処理方法 - Google Patents

加工性と耐食性に優れたFe−Cr−Ni系合金材料の表面処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐食性、加工性が要求される反応塔の充填材等や、成形性と高温かつ厳しい腐食環境下での耐食性が要求される調理用シーズヒータに使用されるようなFe−Ni−Cr系合金材料の表面処理方法に関する。具体的には、仕上げ焼鈍時に、合金表面に主としてSiO、MnCr、およびCrから構成される複合酸化被膜を生成し、光輝焼鈍で生じる表面窒化層の形成と耐食性を著しく低下させるCr欠乏層の形成を防止する技術に関する。複合酸化被膜は、合金をソルトバスに浸漬することにより改質して剥離し易くした後、硝弗酸電解による酸洗工程によって容易に除去可能である。
通常、合金の薄板には、所望の特性を付加し改善するために熱処理(焼鈍)が行われる。一方、Fe−Cr−Ni系合金の中でも、NiおよびCrを多量に含有する材料は原料コストが高い。そのため、製造工程を改善してコスト低下を図ることは非常に重要である。また、例えば反応塔の充填材として使用されるFe−Cr−Ni系合金は、高い耐食性を要求されるが、通常の焼鈍工程では、焼鈍中にFeおよびCrを含む厚い複合酸化被膜が形成され、それに伴い、酸洗後に合金表面にスケールが残存することから再酸洗を行う必要があり、製造コストを増大させる原因となる。また、複合酸化被膜が生成されることによりCr欠乏層が生じるため耐食性に影響を及ぼす。Cr欠乏層生成の対策として、酸洗後に表面研削(1〜10μm程度)を行うことによってCr欠乏層を除去することが必要であり、これも製造コストを増大させる原因となる。ステンレス鋼帯の場合、表面が酸化しないようにして耐食性を維持するために、AX(アンモニアクラッキング)ガス等の水素ガスを含む還元性の雰囲気で光輝焼鈍(BA処理)を行う。
BA処理の利点として、表面に保護性の複合酸化被膜が生じ、加工性や耐食性を向上させる効果があるといわれている。この保護性の皮膜は、BA処理時の雰囲気(焼鈍温度や露点、H:N濃度比)によって大きく影響される。この点に注目して従来よりBA処理時の皮膜成分および、保護性の皮膜が生じる温度・露点の範囲を規定する技術が提案されている。
特許文献1や特許文献2では、オーステナイト鋼のBA処理方法について、窒素吸収や表面着色を防止する最適な露点、焼鈍温度および雰囲気ガスのH,N濃度の範囲を設定したBA処理方法が開示されている。しかしながら、これらの文献はSUS304のような窒素含有量の低い鋼を対象としており、加工性に及ぼす窒素吸収の影響は小さいことが記載されている。これは、窒素吸収が生じた後も、その窒素量は0.05〜0.08%程度となっているためである。しかしながら、近年、複雑かつ大きな変形加工が要求されるため、僅かな窒素量の増加であっても曲げ割れ発生に繋がるリスクが非常に大きい。たとえば、Fe−Cr−Ni系合金である高窒素含有オーステナイト系ステンレス鋼では、すでに0.2%程度の窒素を含有しているため、わずかな窒素吸収でも加工性に大きな影響がある。そのため、窒素吸収を抑制し優れた加工性が得られるような仕上げ焼鈍工程が必要となる。
フェライト系ステンレス鋼では、BA処理によって生じる表面皮膜の組成を制御し、加工性や耐食性を維持する製造方法が種々の特許文献で開示されている。特許文献3では、表面酸化皮膜にTiOを含有させ、耐発銹性・加工性を向上させる製造方法が開示されている。特許文献4でも同様に、BA処理時にある範囲のAlおよびTi濃度の複合酸化被膜を生じさせ、耐発銹性および加工性を向上させる製造方法が開示されている。しかしながら、これらはフェライト系ステンレス鋼に限定されるものであり、幅広いFe−Cr−Ni合金種に適用する場合、BA処理時に複合酸化被膜成分を限定して制御することは困難である。
一方、焼鈍により生成されるCr欠乏層への対策としては、特許文献5に示されるように酸洗溶液に酸洗促進剤を添加して、Cr欠乏層の除去を促す方法が開示されている。しかしながら、この方法はSUS304やSUS316などの汎用ステンレス鋼にのみ適用可能な技術であり、仕上げ焼鈍の条件によって変化する複合酸化被膜の厚みや成分について考慮されておらず、より広い範囲の合金系に対して適用できるとは考えにくい。
特開昭58−123831号公報 特開昭61−008130号公報 特開2008−001945号公報 特開平07−180001号公報 特開2000−256882号公報
したがって、本発明は、Fe−Cr−Ni系合金の仕上げ焼鈍時に、表層部での窒化層および表層部Cr欠乏層の形成を防止することにより、酸洗後に優れた加工性および耐食性を示すFe−Cr−Ni系合金材料の表面処理方法を提供することを目的としている。
、HO、Nを主成分とする炉内雰囲気中の焼鈍によって、合金板表面に窒素吸収が生じる。たとえば、反応塔の充填材に用いられるような高窒素含有オーステナイト系ステンレス鋼板または厳しい曲げ加工性が求められるシーズヒータ用耐熱合金板は、通常0.5mm以下の板厚であることが多い。板厚が小さくなればなるほど、厚み方向に窒素吸収層の占める割合は大きくなるため、影響は大きい。そのため、仕上げ焼鈍時に窒素吸収を抑制または緩和するような保護性皮膜を合金表面に生成させることは重要である。
本発明者らは、特許文献に提案されたこれまでの技術とは異なり、種々のFe−Ni−Cr系合金に適用可能とするため、仕上げ焼鈍時に生成される合金表面の複合酸化被膜に注目して、複合酸化被膜の成分と厚みを制御することで、窒素吸収を抑制または緩和し、かつ、Cr欠乏層の形成を防止し、この複合酸化被膜を酸洗除去した後、表面研削を行うことなく優れた加工性および耐食性を示す合金板の製造方法を見出した。すなわち、本発明者らは、代表的なFe−Cr−Ni系合金を用いて、H、HO、Nを主成分とする炉内雰囲気中で様々な条件下での焼鈍試験を行った結果、酸素分圧と焼鈍温度を限定し、生成する保護性複合膜の成分と膜厚を制御することにより、酸洗後に優れた加工性および耐食性示すことを見出した。
Fe−Cr−Ni合金の一種である高N含有オーステナイト系ステンレス鋼に相当する表1の代表合金3を用いて、仕上げ焼鈍時の条件を温度:1,100℃、H濃度:75質量%、露点D.P.:−35℃とすることで、下記数1式より、酸素分圧を1.42E−20atmに制御して焼鈍を行った後、GDS(グロー放電発行分光分析装置)による合金板表面の複合酸化被膜解析を行った。なお、下記数1式において「H」は水素濃度(0.75)である。
Figure 0006505415
その結果、図1に示すように、仕上げ焼鈍によって合金表面にO、Si、Mn、およびCrの元素のピークが見られたことから、主としてSiO、MnCr、およびCrから構成された酸化物が形成されていることを見出した。この複合酸化被膜の厚さは、測定条件からスパッタリング時間1秒(s)=16nmと換算できることから、この複合酸化被膜の厚さは36nmであった。
同じ合金を用いて、仕上げ焼鈍時の条件を、温度:1,060℃、H濃度:50質量%、露点D.P.:−15℃とし、酸素分圧を1.21E−18atmに設定した場合のGDS測定結果を図2に、温度:1,160℃、H濃度:75質量%、露点D.P.:−30℃とし、酸素分圧を2.42E−19atmに設定した場合のGDS測定結果を図3に、それぞれ示す。
図2では、図1と同様に主としてSiO、MnCr、およびCrから構成された酸化物が形成されており、膜厚は123nmであった。一方、図3では、Si、Mn、およびCrのピークが最表層に見られたものの、ピークの幅が小さかったことから、主としてSiO、MnCr、およびCrからなる複合酸化被膜の膜厚は9nm程度と非常に小さいことがわかった。
これらGDSのNの挙動に注目すると、図1と2の条件は、酸化被膜が20nm以上と十分厚いため、表層部のNピークは小さくなることが確認された。一方、酸化被膜が20nmより小さい図3に注目すると、Nのピークは最表層部で大きい値をとり、全体のNピークの大きさは、図1,2の条件に比べ、大きくなっていることがわかる。以上より、主としてSiO、MnCr、およびCrから構成された複合酸化被膜は、加工性劣化の起因となる窒素吸収を抑制する効果があることを見いだした。このことは、他種のFe−Cr−Ni系合金にも同じ結果となった。
同様に、H、HO、およびNを主成分とする炉内雰囲気中で焼鈍温度や露点、加熱時間を変えて焼鈍試験を行い、形成する複合膜の組成と膜厚に及ぼす酸素分圧の影響について検討を行い、以下の知見を得た。
本発明者らは、高N含有オーステナイト系ステンレス鋼を用いて、種々の酸素分圧を変えた焼鈍試験を行ったところ、主としてSiO、MnCr、およびCrから構成された複合酸化被膜を形成し、窒素吸収およびCr欠乏層の形成を抑制する焼鈍温度と酸素分圧の範囲を見出した(図4)。加熱時間はいずれも一定の30秒で試験した結果である。図4に示す範囲においては、主としてSiO、MnCr、およびCrから構成された複合酸化被膜の効果により、窒素吸収による硬さ増加が少なく、酸洗後の加工性と耐食性に優れたFe−Cr−Ni系合金を得ることを見出した。
本発明のFe−Cr−Ni系合金板の表面処理方法は、上記知見に基づいてなされたもので、Si≦1.5質量%およびMn≦3質量%を含有するFe−Cr−Ni系合金板を被熱処理材とし、加工後の焼鈍時に合金板表面に主としてSiO 、MnCr 、およびCr を含有し、かつ、厚みは15〜250nmの範囲の複合酸化被膜を形成し、この複合酸化被膜を酸洗除去するものであり、前記焼鈍時の炉内雰囲気は、質量%で、H :20%≦H (%)≦80%、残部H O、N 、およびO からなり、焼鈍温度Tは1000℃≦T≦1180℃の範囲であり、前記焼鈍温度での均熱時間は15〜45秒であり、炉内の露点(D.P.)は−50℃≦D.P.≦−10℃の範囲であって、後述する式(数2)で決定する酸素分圧P O2 (atm)の範囲が後述する式(数3)を満足することを特徴とする。
前記焼鈍時に形成する複合酸化被膜は、主としてSiO、MnCr、およびCrを含有し、かつ、厚みは15〜250nmの範囲で形成されることにより、Cr欠乏層と表面窒化層の形成を効果的に抑制することができる。
本発明では、加工性劣化の起因となる窒素吸収と耐食性劣化の起因となるCr欠乏層を抑制し、加工性および耐食性に優れたFe−Cr−Ni系合金を得ることができる。
スパッタリング時間(秒)と各元素の相対強度の関係を示すグラフである。 スパッタリング時間(秒)と各元素の相対強度の関係を示すグラフである。 スパッタリング時間(秒)と各元素の相対強度の関係を示すグラフである。 実施例における本発明例と比較例における焼鈍温度と酸素分圧の関係を示すグラフである。
本発明は、Si≦質量1.5%およびMn≦質量3%を含有するFe−Cr−Ni系合金、特に、合金板を被熱処理材とし、加工後の焼鈍時に合金板表面に複合酸化被膜を形成し、これを酸洗除去するFe−Cr−Ni系合金板の表面処理方法である。以下、仕上げ焼鈍時の表面複合酸化被膜の組成、仕上げ焼鈍処理条件について詳細に説明する。
本発明による合金表面の複合酸化被膜は、主としてSiO、MnCr、およびCrから構成されるものである。この複合酸化被膜の膜厚を15〜250nmの範囲に制御できれば、窒素吸収を抑制することができる。ただし、Cr酸化物は合金表面にCr欠乏層を形成させて、耐食性を劣化させるものであるから適切に制御する必要がある。また、この複合酸化被膜は主としてSiO、MnCr、およびCrから構成されるものであるから、Fe−Cr−Ni系合金板は、Si≦1.5質量%およびMn≦3質量%を含有する必要がある。
複合酸化被膜の膜厚を15〜250nmの範囲に規定した理由は次のとおりである。複合酸化被膜の膜厚が15nmよりも薄い場合、窒素吸収による表面硬化が促進され、加工性劣化の原因となる。一方、複合酸化被膜の膜厚が250nmよりも厚くなると、複合酸化被膜にCrが多く移行してしまうため、合金表面でのCr欠乏層発生の原因となり、充分な耐食性を得ることができなくなる。そのため、複合酸化被膜の膜厚を15〜250nmの範囲に制御する必要がある。より好ましくは20〜200nmの範囲である。
この膜厚制御を実現するために、以下の焼鈍条件とすることが望ましい。仕上げ焼鈍条件は、Hを主体として、残部HO、N、Oから構成される炉内雰囲気中において、加熱時間は15〜45秒とし、焼鈍温度をT(℃)、炉内露点をD.P.(℃)、炉内水素濃度をH(質量%)とした場合、それぞれ、1000≦T≦1180、20≦H≦80、−50≦D.P.≦−10の範囲とするのがよい。
ここで、加熱時間が15秒未満では、充分な焼鈍軟化を得ることができない。一方、45秒より長い加熱時間では、下記の限定要素を満足したとしても、窒素吸収量が大きくなり加工性劣化を引き起こしてしまう。そのため、加熱時間は15〜45秒であることが望ましく、より好ましくは20〜40秒がよい。
次に、焼鈍温度Tが1000℃よりも低いと、充分な焼なましが得られず加工性が劣化する。一方、焼鈍温度Tが1180℃を超えると、複合酸化被膜の膜厚の制御が不安定となり、窒素吸収を効果的に抑制できなくなる。よって、焼鈍温度Tは、1000〜1180℃が望ましい。
は焼鈍における重要なガス成分である。焼鈍時の炉内雰囲気ガス中のHの濃度が20質量%より少ないと雰囲気ガス中のN濃度が大きくなり、焼鈍時の鋼中窒素拡散が促進され、加工性は劣化する。一方、炉内雰囲気ガス中のHの濃度が80質量%を超えると、純Hガス使用割合が多くなり、コスト高に繋がる。よって、焼鈍時の炉内雰囲気ガス中のHの濃度は20〜80質量%が望ましい。なお、ガス成分の残部にNを加える理由は、炉内でアンモニアガスを分解してHとNを生成することによって、水素ガスよりも安価であり、コスト的に非常に有利であるからである。
露点は、炉内の微量の水蒸気分圧を示すものであり、焼鈍条件として重要な要素である。露点が−50℃より低いと複合酸化被膜が十分厚くならないため、鋼中窒素拡散が促進され加工性が劣化する。一方、露点が−10℃を超えると、逆に複合酸化被膜が非常に厚く形成されるため、Cr欠乏層が形成され易くなる。よって、炉内の露点は−50〜−10℃が望ましい。
炉内の酸素分圧PO2(atm)は下記数2式で平衡論的に表され、酸素分圧PO2(atm)の範囲が下記数3式を満足することが望ましい。なお、下記数2式において「H」は水素濃度(例えば0.75)である。
Figure 0006505415
Figure 0006505415
数3式における下限未満の酸素分圧で焼鈍した場合、窒素吸収を抑制するために充分な複合酸化被膜の膜厚が15nmを下回り充分な厚みを確保できない。そのため、合金表面での窒素吸収が起きてしまう。一方、上限を超える酸素分圧で焼鈍した場合、膜厚は大きくなり、複合酸化被膜にCrが多く移行してしまうため、合金表面でのCr欠乏層発生の原因を引き起こし、充分な耐食性を得ることができなくなる。そのため、酸素分圧の範囲を数3式に示す範囲とすることが望ましい。
Fe−Cr−Ni系合金板は、例えば、質量%で、Si:0.01〜1.5%, Mn:0.05〜3%,Ni:10%〜85%,Cr:13%〜25%、Mo:9%以下、N:0.32%以下、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成とすることができる。また、Fe−Cr−Ni系合金板は、Ti≦1質量%、Al≦2質量%のいずれかまたは両方を含有してもよい。この場合、焼鈍時に形成する複合酸化被膜は、主としてSiO、MnCr、およびCrに加えて、TiOおよびAlのいずれかまたは両方以上が含まれ、より好ましい様態となる。以下は上記成分の限定理由であり、「%」は「質量%」の意味である。
Si:0.01〜1.5%
Siは合金表面に複合酸化被膜を形成するため必要な元素であり、0.01%以上含有することが望ましい。ただし、1.5%を超えて含有するとσ相の形成を促進し脆化するため、0.01〜1.5%とする。Siの含有量は、0.05〜1.5%がより望ましい。
Mn:0.05〜3%
Mnも合金表面に複合酸化被膜を形成するため必要な元素であり、0.05%以上含有することが望ましい。ただし、3%を超えて含有するとσ相の形成を促進し脆化するため、0.05〜3%とする。Mnの含有量は、0.05〜2.8%がより望ましい。
Ni:10〜85%
Niはオーステナイト相を安定にする元素であり、その効果を得るためには10%以上含有することが望ましい。ただし、Niの含有量が85%を超えるとコスト高になってしまう。よって、Niの含有量は、10〜85%が望ましい。より望ましくは、15〜75%であり、さらに望ましくは17〜72%である。
Cr:13〜25%
Crは耐食性を高めるために重要な元素であると共に、複合酸化被膜を形成するため必要な元素でもある。Crの含有量が13%未満ではその効果が乏しく、25%を超えるとσ相の形成を促進し脆化する。よって、Crの含有量は13〜25%が望ましい。
Mo:9%以下
Moは耐食性を向上させる元素であり含有することが望ましい。しかしながら、9%を超えて含有すると、σ相などの耐食性を劣化させる金属間化合物が形成されてしまうため、9%以下であることが望ましい。
N:0.32%以下
Nはオーステナイト相を安定化すると共に、耐食性を向上させる元素であり含有することが望ましい。しかしながら、Nを0.32%を超えて含有すると、製造過程でCr系窒化物が生じ、耐食性および加工性の低下を招く。よって、Nの含有量はため、0.32%以下が望ましい。
Fe−Cr−Ni系合金板は、Ti≦1%、Al≦2%のいずれかまたは両方を含有しても良い。その理由は、TiとAlは素材がシーズヒータなどの耐熱用途に使われる場合、最終的に黒化処理をした際の、被膜であるスケールを強固にし、黒色度合いを増すためである。しかしながら、TiおよびAlのどちらも、多量の添加は炭窒化物の形成を促し、加工性、耐食性を阻害するため、Ti≦1%、Al≦2%であることが望ましい。
また、合金がTiおよびAlのいずれかまたは両方を含有する場合、形成する複合酸化被膜は、主としてSiO、MnCr、およびCrに加えて、TiOおよびAlのいずれかまたは両方以上が含まれるが、本発明の効果を損なうことはない。
なお、特に限定はしないが、Cuは耐流酸性を向上させる元素であるため、合金中に3%以下の範囲で含有することができる。
本発明では、酸素分圧を適当に制御されたH、HO、およびNを主成分とする炉内雰囲気中において仕上げ焼鈍を行い、主としてSiO、MnCr、およびCrを含有し、合金組成によっては、TiOおよびAlのいずれか少なくとも1種以上が含まれる複合酸化被膜を15〜250nmの膜厚で生じさせることで、加工性劣化の起因となる窒素吸収と耐食性劣化の起因となるCr欠乏層を抑制し、加工性および耐食性を向上させることができる。
次に、本発明における実施例について説明する。表1に、Fe−Ni−Cr合金の代表例1〜6の組成を示す。これらの合金は常法のプロセスで溶解し、連続鋳造して厚さ:150mm、幅:1000mm、長さ:6000mmのスラブとした。
Figure 0006505415
これらのスラブを再加熱して、1000〜1300℃の温度で熱間圧延し、厚さ6mmの熱延材(コイル)とした後、この熱延材を焼鈍後、酸洗し、冷間圧延して厚さが0.5mmの板を得た。その後、表2に示す条件で仕上げ焼鈍処理を行った後、ソルトバスに浸漬して複合酸化被膜を剥離し易くする改質を行い、次いで硝弗酸電解による酸洗工程によって複合酸化被膜を除去した。製造した0.5mm厚の合金板について加工性、耐食性および複合膜の厚みと組成の評価を行った。その結果を表2に併記した。
Figure 0006505415
加工性の評価方法
加工性はエリクセン試験によって評価した。JISZ2247に準じて、板厚を0.5mm、シワ押さえ荷重を10kN、ポンチ速度10mm/分で一定として実施し、割れが発生したときの押し込み深さをエリクセン値とした。製品ままの表面状態の試料と、表面を10μm程度研磨処理した試料を用いて測定を行った。表面が窒化している場合、割れ感受性が高く、エリクセン値は90%未満となる。製品ままのエリクセン値と研磨材のエリクセン値の割合から以下の評価基準で加工性を評価した。
○…製品まま材/研磨材=90%以上、
×…製品まま材/研磨材=90%未満
耐食性の評価1
ASTM G48 Method Cに準じて、臨界孔食発生温度(CPT温度)を測定した。製品ままの表面状態の試料と、表面を10μm程度研磨処理した試料を用いて測定を行った。以下の評価基準で耐食性を評価した。
○…(製品まま材のCPT温度)/(研磨材のCPT温度)=90%以上、
×…(製品まま材のCPT温度)/(研磨材のCPT温度)=90%未満
耐食性の評価2
Green death溶液(7%HSO+3%HCl+1%FeCl+1%CuCl、)によるすきま腐食試験で評価を行った。浸漬時間は24hrとし、臨界すきま腐食発生温度(CCT温度)を測定した。製品ままの表面状態の試料と、表面を10μm程度研磨処理した試料を用いて測定を行った。以下の評価基準で耐食性を評価した。
○…(製品まま材のCCT温度)/(研磨材のCCT温度)=90%以上、
×…(製品まま材のCCT温度)/(研磨材のCCT温度)=90%未満
複合酸化被膜の厚みと組成の評価
仕上げ焼鈍処理、酸洗前のFe−Cr−Ni系合金に対して、GDS(グロー放電型発光分光分析装置)による表面から深さ方向の合金元素の分布を測定し、形成された複合酸化被膜に含まれる酸化物を同定するとともにその厚さを測定した。膜厚はスパッタリング時間から1秒=16nmと換算して測定を行なった。以上の測定結果を表2に併記する。なお、表2において、既述した好ましい焼鈍条件を逸脱する数値には下線を付してある。
各代表合金の比較例は好ましい焼鈍条件に適合しない仕上げ焼鈍処理条件で製造したものである。代表合金1の比較例1では焼鈍温度が低く、焼鈍軟化が充分でないため加工性不良と判定された。一方、代表合金1の比較例3、代表合金4の比較例2では焼鈍温度が高く、膜厚制御が困難となり窒素吸収を防ぐ複合酸化被膜を十分に得られなかったため、加工性不良と判定された。代表合金1の比較例2、代表合金2の比較例2、代表合金3の比較例1、代表合金6の比較例1では、焼鈍温度に対して酸素分圧が高いためCr欠乏層が生じ、耐食性不良と判定された。代表合金2の比較例1、代表合金3の比較例2、代表合金1の比較例4、代表合金4の比較例1、代表合金6の比較例2では、焼鈍温度に対して酸素分圧が低く窒素吸収が大きく生じたため加工性不良と判定された。
図4に本発明例と比較例における焼鈍温度と酸素分圧との関係を示す。本発明例は、焼鈍温度が1000〜1180℃の範囲で総合判定が○となったもので、図4は炉内酸素分圧を規定した前記数3式の根拠を示している。
代表合金1の比較例1と代表合金4の比較例2では炉内温度が高く、窒素吸収が大きく生じたため加工性不良と判定された。代表合金5の比較例1では加熱時間が短く、焼鈍軟化が充分でないため加工性不良と判定された。代表合金5の比較例2では加熱時間が長く、窒素吸収が生じたため加工性不良と判定された。
代表合金6の比較例2では炉内露点が−50℃を下回ったため、複合酸化被膜の膜厚が薄く、そのため鋼中窒素拡散が促進され加工性不良と判断された。一方、代表合金3の比較例1では、炉内露点が−10℃を上回ったため複合酸化被膜が非常に厚く形成されてCr欠乏層が生じ、耐食性不良と判定された。
本発明例では、複合酸化被膜の厚みが15〜250nmであり、かつ、主としてSiO、MnCr、およびCrを含有し、合金組成によっては、TiOおよびAlのいずれか少なくとも1種以上が含まれる複合酸化被膜のため、加工性および耐食性に優れている。これに対して、比較例では膜厚が小さくて窒素吸収のため加工性が劣化したものや、250nmより大きい複合酸化被膜の生成により表面にCr欠乏層が生じ、耐食性が劣化することを示している。

Claims (4)

  1. Si≦1.5質量%およびMn≦3質量%を含有するFe−Cr−Ni系合金板を被熱処理材とし、加工後の焼鈍時に合金板表面に主としてSiO 、MnCr 、およびCr を含有し、かつ、厚みは15〜250nmの範囲の複合酸化被膜を形成し、この複合酸化被膜を酸洗除去するFe−Cr−Ni系合金板の表面処理方法であって、
    前記焼鈍時の炉内雰囲気は、質量%で、H :20%≦H (%)≦80%、残部H O、N 、およびO からなり、焼鈍温度Tは1000℃≦T≦1180℃の範囲であり、前記焼鈍温度での均熱時間は15〜45秒であり、炉内の露点(D.P.)は−50℃≦D.P.≦−10℃の範囲であって、下記数1で決定する酸素分圧P O2 (atm)の範囲が下記数2を満足することを特徴とする加工性および耐食性に優れたFe−Cr−Ni系合金板の表面処理方法。
    Figure 0006505415
    Figure 0006505415
  2. 前記Fe−Cr−Ni系合金板は、質量%で、Si:0.01〜1.5%, Mn:0.05〜3%,Ni:10〜85%,Cr:13〜25%、Mo:9%以下、N:0.32%以下、残部がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の加工性および耐食性に優れたFe−Cr−Ni系合金板の表面処理方法。
  3. 前記Fe−Cr−Ni系合金板は、Ti≦1質量%、Al≦2質量%のいずれかまたは両方を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の加工性および耐食性に優れたFe−Cr−Ni系合金板の表面処理方法。
  4. 前記焼鈍時に形成する前記複合酸化被膜は、主としてSiO、MnCr、およびCrに加えて、TiOおよびAlのいずれかまたは両方が含まれることを特徴とする請求項3に記載の加工性および耐食性に優れたFe−Cr−Ni系合金板の表面処理方法。
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