本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図4を用いて説明する。このX線回折測定システムは、X線回折測定装置、高電圧電源65、コンピュータ装置70、先端検出センサ75及びベルトコンベアのように一定速度で移動する長尺状のステージStを有する移動機構から構成される。ステージStは平面で、移動方向がこの平面に平行であり、一定間隔で測定対象物OBが載置されている。よって、ステージStが移動すると、載置された測定対象物OBは移動して次々にX線回折測定装置の直下に来る。そして、X線回折測定システムは、X線回折測定装置の直下に来た測定対象物OBに対して先端から後端までX線を連続的に照射して回折X線の強度を検出し、それぞれの測定対象物OBごとに異常箇所を検出する検査を行う。なお、本実施形態では測定対象物OBは鉄製の平板とする。
X線回折測定装置は、筐体40内にX線を出射するX線出射器10、X線出射器10から出射されるX線を通過させる円筒状パイプ21、測定対象物OBのX線照射点で発生する回折X線の強度を検出するシンチレーションカウンター22、円筒状パイプ21から出射されるX線の光軸と交差するようにレーザ光を出射するレーザ照射器24及び円筒状パイプ21、シンチレーションカウンター22、レーザ照射器24をそれぞれの中心軸が1つの平面に含まれるよう取り付けたプレート20を収容している。また、筐体40内には、レーザ照射器24から出射されたレーザ光の照射点で発生する散乱光の1部を集光して結像する結像レンズ30とラインセンサ31とからなる撮像ユニットが収容されている。さらに、筐体40内には、X線出射器10、シンチレーションカウンター22、レーザ照射器24及びラインセンサ31に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体40外で2点鎖線で囲まれた各種回路は、筐体40内の2点鎖線内に納められている。なお、図1においては、回路基板、電線、固定具及び空冷ファン等は省略されている。
筐体40は略直方体状に形成され、底面壁40a、前面壁40b、上面壁40c、後面壁40d、及び側面壁40eを有する。底面壁40aにはX線出射器10から円筒状パイプ21を介して出射されるX線を通過させ、X線照射点で発生する回折X線を通過させる、さらにレーザ照射器24から出射されるレーザ光を通過させるための長尺孔40a1が形成されている。この長尺孔40a1は図3に2点鎖線で示すように、出射X線とレーザ光を通過させ、シンチレーションカウンター22に入射する回折X線を通過させるのに必要な箇所のみに形成されている。円筒状パイプ21から出射されるX線の光軸は、底面壁40a及び上面壁40cに略垂直であり、前面壁40b、後面壁40d及び側面壁40eに略平行である。また、側面壁40eには接続部41が設けられており、接続部41が固定具50に固定されることで、筐体40は固定具50に連結されている。そして、固定具50は位置と姿勢を微調整することが可能であり、筐体40は位置と姿勢が微調整され、ステージStの平面に対しX線が垂直方向から照射され、ステージSt上の測定対象物OBが標準の厚さであるとき、X線照射点は設定された位置(後述するX線レーザ交差点)になるようになっている。
X線出射器10は、長尺状に形成され、筐体40内の上部にて図示左右方向に延設されて筐体40に固定されており、高電圧電源65からの高電圧の供給を受け、X線制御回路62により制御されて、X線を出射口11から出射する。
X線制御回路62は、後述するコンピュータ装置70を構成するコントローラ71によって制御され、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源65から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路62は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。これにより、X線出射器10は温度が一定に保たれる。
プレート20は直方体の形状であり、円筒状パイプ21をX線出射器10から出射されるX線の光軸と円筒状パイプ21の中心軸とが略一致するように取り付けている。X線出射器10の出射口11と円筒状パイプ21の断面を示したものが図4である。出射口11から出射されるX線は拡散するX線であるが、X線は円筒状パイプ21の内部の端に固定された通路部材28の孔から円筒状パイプ21の内部に入射し、円筒状パイプ21の反対側の内部の端に固定された通路部材29の孔から出射することで、円筒状パイプ21の中心軸に平行なX線になる。
円筒状パイプ21の先端から出射したX線は上述したように長尺孔40a1を通過して、測定対象物OBに照射され、照射箇所で回折X線が発生する。回折X線は出射X線の光軸に対する角度がブラッグの条件に合致する角度である箇所で強度の高いX線となるが、これは、出射X線の光軸に垂直なあらゆる方向において成り立つため、出射X線の光軸に垂直な面には回折環が形成される。この回折環は出射X線の光軸に垂直なあらゆる面にて形成されるが、測定対象物OBのX線照射点からの距離が大きいほど半径が大きくなる。また、この回折環の半径方向のX線強度分布曲線は正規分布曲線に近い曲線となる。
シンチレーションカウンター22はプレート20に、入射口がプレート20の下面に平行になるように取り付けられ、測定対象物OBで発生した回折X線の内、入射口から入射したX線の強度を測定する。上述したように、測定対象物OBのX線照射点からの距離が大きいほど回折環の半径は大きくなるので、X線照射点が設定された位置(後述するX線レーザ交差点)にあるとき、円筒状パイプ21の中心軸(出射X線の光軸)からシンチレーションカウンター22の入射口までの距離を適切な距離にすると、入射口の中心を回折環が通るようになる。シンチレーションカウンター22は、入射したX線がシンチレータに当たって発生する蛍光の強度を光電子増倍管により検出するもので、一般的に用いられているものである。シンチレーションカウンター22の入射口には、図3に示すようスリット23aが形成されたキャップ23が嵌めこまれており、シンチレーションカウンター22はスリット23aを通過した回折X線の強度を測定する。スリット23aの短尺方向は回折環の半径方向(円筒状パイプ21の中心軸からシンチレーションカウンター22の中心軸に向かう方向)と平行であり、短尺方向の幅はシンチレーションカウンター22に入射する回折X線の量が適切になる幅にされている。この点は後程、詳細に説明する。
SD信号取出回路60は、シンチレーションカウンター22と信号線がつながっており、後述するコントローラ71から作動開始の指令が入力すると、シンチレーションカウンター22が出力するX線強度に相当する強度の信号(入射したX線により発生した蛍光の強度に相当する強度の信号)の瞬時値をデジタルデータにして、コントローラ71に出力する。
円筒状パイプ21とシンチレーションカウンター22の間にはレーザ照射器24がプレート20に、プレート20の下面に対して傾斜して取り付けられている。上述したように、レーザ照射器24の中心軸は円筒状パイプ21の中心軸とシンチレーションカウンター22の中心軸が含まれる平面に含まれるようになっており、以下、この平面を基準平面という。なお、円筒状パイプ21の中心軸と出射X線の光軸は同一であり、レーザ照射器24の中心軸は出射されるレーザ光の光軸と同一であるため、別の言い方をすると、出射X線の光軸とレーザ光の光軸とを含む平面を基準平面という。図2に示すよう、レーザ照射器24は、円筒状の枠体にレーザ光源25を固定具26で固定し、円筒状の枠体の先端近傍にコリメーティングレンズ27を固定したものであり、レーザ光源25から出射されたレーザ光は、コリメーティングレンズ27で平行光になって出射される。レーザ光源25はレーザ駆動回路61から駆動信号が入力することでレーザ光を出射し、レーザ駆動回路61は、後述するコントローラ71から照射開始の指令が入力すると、レーザ光源25が設定された強度のレーザ光を出射するための駆動信号を出力する。
レーザ照射器24から出射されるレーザ光の光軸は出射X線の光軸と交差するが、この交差する点を測定対象物OBのX線照射点としたとき、シンチレーションカウンター22の入射口の中心(スリット23aの中心)を回折環が通るよう、レーザ照射器24は取り付け位置が調整されている。より厳密な言い方をすると、出射X線の光軸とレーザ光の光軸の交差点を測定対象物OBのX線照射点としたとき、回折環の半径方向のX線強度分布曲線のピーク点が、シンチレーションカウンター22の入射口の中心(スリット23aの中心)と合致するようレーザ照射器24は取り付け位置が調整されている。以下、出射X線の光軸とレーザ光の光軸の交差点を、X線レーザ交差点という。X線レーザ交差点は、シンチレーションカウンター22に回折X線を入射させるのに最適なX線照射点であり、設定されたX線照射点の位置である。別の言い方をすると基準のX線照射点である。
底面壁40aには円筒状の枠体に結像レンズ30が固定されており、結像レンズ30の光軸は基準平面に含まれている。そして、結像レンズ30の光軸と中心が交差するようラインセンサ31が筐体40内で固定されている。結像レンズ30とラインセンサ31は撮影ユニットを形成しており、被写界深度はX線レーザ交差点を中心とした範囲になるよう、結像レンズ30に対するラインセンサ31の位置が設定されている。レーザ照射器24からレーザ光が出射されると、測定対象物OBのレーザ光照射点では散乱光と反射光が発生するが、散乱光の一部は結像レンズ30に入射してラインセンサ31で結像し、ラインセンサ31にはレーザ光照射点の像ができる。ラインセンサ31はCCD又はCMOS等からなる画素を1列に並べたものであり、後述するずれ距離検出回路63からの信号が入力すると、ずれ距離検出回路63にそれぞれの画素が蓄積した電荷量(受光強度に相当)に相当する強度の信号を並んだ画素順に出力する。
ずれ距離検出回路63は、後述するコントローラ71から作動開始の指令が入力すると、ラインセンサ31から設定された時間間隔で信号を入力し、画素順に信号強度(受光強度に相当)をデジタルデータにする。これは、ラインセンサ31の長尺方向の受光強度分布曲線をデジタルデータにしたものであり、次いで、ずれ距離検出回路63は内蔵するプログラムを作動させて、このデジタルデータから受光強度分布曲線のピーク位置を算出する。これは、ラインセンサ31の長尺方向におけるレーザ光照射点の像の位置を検出することである。さらに距離検出回路63は、予め記憶されているピーク位置(レーザ光照射点の像の位置)とX線照射点のX線レーザ交差点からの距離との関係に、検出したピーク位置を当てはめて、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離を算出し、このデジタルデータをずれ距離としてコントローラ71に出力する。上述したように、X線レーザ交差点は基準のX線照射点であるため、ずれ距離は、実際のX線照射点の基準のX線照射点からのずれ距離である。なお、これは3角測量法により距離を求める方法であるが、実際に受光強度分布曲線のピーク位置と1:1の関係になるのは、レーザ光照射点のX線レーザ交差点からの距離である。ただし、出射X線の測定対象物OBの表面に対する角度がほぼ一定であれば、レーザ光照射点とX線照射点の位置関係は1:1の関係になるので、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離も受光強度分布曲線のピーク位置と1:1の関係になる。
X線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)と受光強度分布曲線のピーク位置との関係は、次のようにすれば得ることができる。基準厚さの直方体形状の測定対象物OBをステージStに載置し、X線感光フィルムを測定対象物OBの上面に置いてX線を照射し、X線照射点がわかるようにする。次に、筐体40の位置を調整してレーザ光がX線照射点に合致するようにし、このときの受光強度分布曲線のピーク位置を検出する。これが、ずれ距離0のピーク位置になる。そして、厚さが異なる直方体形状の測定対象物OBを次々にステージStに載置し、受光強度分布曲線のピーク位置を検出する。2回目以降の測定対象物OBの厚さから最初の測定対象物OBの厚さを減算したものが、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)であるので、これにより、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)と受光強度分布曲線のピーク位置との関係を得ることができる。なお、測定対象物OBの上面及び筐体40の上面壁40cに水準器をセットし、測定対象物OBの上面及び筐体40の上面壁40cが常に水平になるよう調整しながら上記操作を行えば、測定対象物OBの上面に精度よく垂直にX線が照射されるので、該関係を精度よく得ることができる。
ステージStの側面の近傍には、測定対象物OBの先端および後端が出射X線が照射される位置になったことを検出するための端検出センサ75が取り付けられている。端検出センサ75はステージStの反対側の側面近傍にあるレーザ光の受光の有無により、測定対象物OBの先端および後端を確認するものであり、レーザ光を受光すると所定強度の信号を出力し、レーザ光の受光がないと信号の出力はないようになっている。端検出回路76は端検出センサ75と一体になっており、後述するコントローラ71から作動指令が入力した後、端検出センサ75から入力する信号の強度が所定強度から0になると、「先端検出」を意味する信号をコントローラ71に出力し、0から所定強度になると「後端検出」を意味する信号をコントローラ71に出力する。なお、端検出センサ75が検出するライン(反対側にあるレーザ光の光軸)は、測定対象物OBの移動方向に対して出射X線の光軸よりやや後方にあり、後述するように、「先端検出」の信号が出力されたときは、予め設定された時間をおいて回折X線の強度の検出を行い、「後端検出」の信号が出力されたときは、即座に回折X線の強度の検出を停止するようになっている。これは、出射X線が測定対象物OBの先端及び後端の縁にかかった状態では正常な検査ができないため、この状態のときは検査を行わないようにするためである。
コンピュータ装置70は、コントローラ71、入力装置72及び表示装置73からなる。コントローラ71は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶されたプログラムを実行してX線回折測定装置の作動を制御するとともに、入力したデジタルデータを用いて演算を行い、合否を判定する処理を行う。入力装置72は、コントローラ71に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作動指示などの入力のために利用される。表示装置73も、コントローラ71に接続されて、X線回折測定システムの各種の設定状況、作動状況及び検査結果などを表示する。
ここで、コントローラ71が入力するデジタルデータである、SD信号取出回路60から入力するシンチレーションカウンター22が検出した回折X線の強度と、ずれ距離検出回路63から入力するX線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)とから測定対象物OBを検査する(異常を検出する)ことができることを説明する。図5は、実際のX線照射点がX線レーザ交差点(基準のX線照射点)に合致したとき、スリット23aの短尺方向(回折環の半径方向)におけるX線強度分布曲線にスリット23aを重ね合わせて示したものであり、図5(a)において、実線は測定箇所が正常な場合のX線強度分布曲線であり、2点鎖線はスリット23aの縁である。X線強度分布曲線のピーク点が、スリット23aの短尺方向の中心になっており、X線強度分布曲線の強度が減少して0付近になる箇所が、スリット23aの短尺方向の縁になっている。X線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなすと、スリット23aの短尺方向の縁は、2.5σ程度の箇所にされている。図5(a)において、点線は測定箇所に表面硬さまたはそれ以外の特性の異常で回折X線の強度分布が変化したときのX線強度分布曲線であり、この曲線は正常時よりもなだらかな曲線となる。言い換えると、X線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなすと標準偏差σは正常時よりも大きくなる。このため、スリット23aを通過する回折X線は大きく減少する。よって、測定箇所(X線照射点)に、表面硬さ等、回折X線の強度分布が変化する異常があったとき、検出される回折X線の強度は大きく減少する。なお、本実施形態ではスリット23aの短尺方向の縁は、X線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなすと、2.5σ程度の箇所としたが、スリット23aの短尺方向の縁は、対象とする測定対象物OBを多く検査して最適な箇所にすればよく、1.5σ〜4σの範囲で適宜設定されるものである。なお、回折X線の強度分布が変化する異常は、X線強度分布曲線がなだらかになる異常のみならず、測定対象物OBの表面に皮膜や錆があることでX線強度分布曲線のピーク強度が小さくなる異常も含む。この場合も、スリット23aを通過する回折X線は減少するので異常を検出することができる。
図5(b)は、測定箇所が正常で、実際のX線照射点がX線レーザ交差点(基準のX線照射点)からずれたときの、スリット23aの短尺方向(回折環の半径方向)におけるX線強度分布曲線にスリット23aを重ね合わせて示したものである。図5(b)において、実線はX線照射点がX線レーザ交差点に合致した場合のX線強度分布曲線であり、点線および1点鎖線はX線照射点がX線レーザ交差点からずれたときのX線強度分布曲線であり、2点鎖線はスリット23aの縁である。点線および1点鎖線のX線強度分布曲線のピーク位置はスリット23aの短尺方向の中心からずれるが、スリット23aを通過する回折X線は多少減少するにとどまる。よって、測定対象物OBが移動したとき、X線レーザ交差点の測定対象物OB表面からの変位が微小であれば、合否判定レベルを適切に定め、シンチレーションカウンター22が検出した回折X線の強度とこの合否判定レベルとを比較することで、合否を判定する(異常箇所を検出する)ことができる。
また、測定対象物OBに厚さの異常、測定対象物OBの載置の仕方異常またはX線回折測定装置の位置ずれ等があり、X線照射点のX線レーザ交差点からのずれが大きい場合は、スリット23aを通過する回折X線は大きく減少するが、この場合は、検出したずれ距離も大きいので、回折X線の強度分布が変化する異常とは別の異常であることを判別することができる。そして、異常の原因は標準厚さの測定対象物OBを用意しておけばつきとめることができる。
また、回折X線の強度分布が変化する異常には異常の度合いがあり、図5(a)に点線で示すX線強度分布曲線のなだらかさの度合い(標準偏差σの正規分布曲線とみなしたときの標準偏差σの大きさ)にも幅がある。このため、検出した回折X線の強度の減少度合いが小さくても、合否判定を精度よく行うことができるよう、合否判定レベルを検出したずれ距離により補正することを行っている。これは、ずれ距離と(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)との関係を得て記憶しておき、検出したずれ距離から(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)を求め、基準の合否判定レベルに(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)を乗算することで補正するものである。ずれ距離と(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)との関係は、上述した、ずれ距離と受光強度分布曲線のピーク位置との関係を求める作業を行う際、X線を照射して回折X線の強度を検出すれば得ることができる。
次に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、一定速度で移動する長尺状のステージStに載置された測定対象物OBを次々に検査する場合のX線回折測定システムの作動について、コントローラ71が実行するプログラムのフロー図である図6に沿って説明する。まず、作業者は移動機構を操作してステージStを載置された測定対象物OBの移動を開始し、次いで入力装置72から検査開始の指令を入力する。これによりコントローラ71は図6に示すフローのプログラムの実行をステップS1にて開始する。
まず、コントローラ71はステップS2にて、コントローラ71に内蔵されたクロックによる時間計測を開始し、ステップS3にて端検出回路76に作動開始の指令を出力する。これにより端検出回路76は、上述したように端検出センサ75からの信号により測定対象物OBの先端と後端を検出するごとに、「先端検出」及び「後端検出」を意味する信号をコントローラ71に出力する。次にコントローラ71はステップS4にて測定対象物OBを識別する番号であるmを「1」にし、ステップS5にて測定点を識別する番号であるnを「0」にする。そして、ステップS6にて端検出回路76から最初の測定対象物OBにおける「先端検出」の信号が入力するのを待ち、入力するとYesと判定してステップS7へ行き、ステップS7にてX線制御回路62に出射開始の指令を出力し、ステップS8にてレーザ駆動回路61に出射開始の指令を出力し、ステップS9にてずれ距離検出回路63にデータ出力開始の指令を出力し、ステップS10にてSD信号取出回路60にデータ出力開始の指令を出力する。これにより、X線回折測定装置(筐体40)からX線とレーザ光が測定対象物OBに向けて照射され、X線照射点のX線レーザ交差点からの距離(ずれ距離)と回折X線強度のデジタルデータがコントローラ71に入力するようになる。
次に、コントローラ71はステップS11にて計測時間をリセットして0にし、ステップS12にて予め設定した時間Tが経過するのを待つ。これは、上述したように、端検出センサ75が検出するライン(反対側にあるレーザ光の光軸)は、測定対象物OBの移動方向に対して出射X線の光軸よりやや後方にあり、出射X線が測定対象物OBの縁にかかると正確な検査が行われないため、X線照射点が測定対象物OBの縁より微小距離だけ離れ、正確に検査を行うことができるまで待つためのものである。そして、時間Tが経過するとYesと判定してステップS13へ行き、ステップS13にて計測時間がT+n・Δt以上になったか判定する。最初nは「0」にされているので、即座にYesと判定してステップS14へ行き、ステップS14にてSD信号取出回路60から入力している回折X線強度データI(n,m)をメモリに取込み、ステップS15にてずれ距離検出回路63から入力しているずれ距離D(n,m)をメモリに取込む。次にステップS16にて、取込んだずれ距離D(n,m)を予め記憶しているずれ距離と(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)との関係に当てはめて補正係数として使用する(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)を求め、合否判定レベルLに求めた補正係数を乗算して補正合否判定レベルL’を求める。そしてステップS17にて、取込んだ回折X線強度データI(n,m)が補正合否判定レベルL’以上である場合はYesと判定してステップS19へ行き、取込んだ回折X線強度データI(n,m)が補正合否判定レベルL’未満である場合はNoと判定してステップS18へ行き、回折X線強度データI(n,m)を異常箇所データとして別のメモリ領域に記憶した後、ステップS19へ行く。
次に、コントローラ71はステップS19にて取込んだずれ距離D(n,m)の絶対値が許容値A以下である場合は、Yesと判定してステップS21へ行き、取込んだずれ距離D(n,m)の絶対値が許容値Aを超える場合はNoと判定してステップS20へ行き、ずれ距離D(n,m)を異常箇所データとして別のメモリ領域に記憶した後、ステップS21へ行く。次に、コントローラ71はステップS21にて、端検出回路76から最初の測定対象物OBにおける「後端検出」の信号が入力したか判定するが、この段階では検査を開始したばかりであるのでNoと判定してステップS22へ行き、nをインクリメントしてステップS13に戻る。そして、ステップS13にて計測時間がT+n・Δt(この場合はT+Δt)になるまで待ち、計測時間がT+n・ΔtになるとYesと判定してステップS14へ行き、上述したステップS14乃至ステップS22の処理を行ってステップS13へ戻る。このようにして計測時間がT,T+Δt,T+2・Δtと、Δtづつ増えるごとに、回折X線強度データI(n,m)及びずれ距離D(n,m)が取込まれてそれぞれ合否判定が行われ、不合格(異常検出)の場合はI(n,m)又はずれ距離D(n,m)が異常箇所データとして別のメモリ領域に記憶されていく。そして、端検出回路76から「後端検出」の信号が入力すると、ステップS21にてYesと判定してステップS23へ行き、ステップS23乃至ステップS26にて、X線制御回路62とレーザ駆動回路61に出射停止の指令を出力し、ずれ距離検出回路63とSD信号取出回路60にデータ出力停止の指令を出力する。これにより、次の測定対象物OBが来るまでX線とレーザ光の照射は停止し、ずれ距離検出回路63とSD信号取出回路60はデータの出力を停止する。なお、上述したように、端検出センサ75が検出するライン(反対側にあるレーザ光の光軸)は、測定対象物OBの移動方向に対して出射X線の光軸よりやや後方にあるため、端検出センサ75が後端を検出したときは、出射X線は測定対象物OBの後端の縁にかかっていない。よって、「後端検出」の信号が入力したときは、即座にX線とレーザ光の照射を停止し、データの出力を停止する。
次に、コントローラ71はステップS27にて、異常箇所データとして別のメモリ領域に記憶した回折X線強度データI(n,m)又はずれ距離D(n,m)があるか判定し、ない場合はNoと判定してステップS28へ行き、「合格」の表示を、m=1に対応する測定対象物OBの識別情報とともに表示装置73へ表示させる。また、別のメモリ領域に記憶した回折X線強度データI(n,m)又はずれ距離D(n,m)がある場合は、Yesと判定してステップS29へ行き、「不合格」の表示を測定対象物OBの識別情報とともに表示装置73へ表示させる。そして、ステップS30にて、記憶したデータのn、予め記憶されているステージStの移動速度F、時間Tおよび端検出センサ75が検出するラインから出射X線の光軸までの距離Bから、F・(T+n・Δt)−Bの計算を行い、異常箇所の測定対象物OBの先端からの距離を計算する。さらに、補正された合否判定レベルL’と回折X線強度データI(n,m)との比、またはずれ距離D(n,m)と許容値Aとの差を、予め記憶されている異常度合のテーブルに当てはめて、異常度合を定める。異常度合のテーブルは、補正された合否判定レベルL’と回折X線強度データIとの比、およびずれ距離Dと許容値Aとの差を数値の範囲ごとに分け、「微」,「小」,「中」,「大」,「特大」又は「1」,「2」,「3」,「4」,「5」というように異常度合を定めたものである。なお、合否判定レベルL’と回折X線強度データI(n,m)との比の数値、およびずれ距離D(n,m)と許容値Aとの差の数値を、そのまま異常の度合いとしてもよい。そして、コントローラ71は、このように計算した異常箇所の先端からの距離と定めた異常の度合を、異常の種類(回折X線の強度分布が変化した異常か、ずれ距離が許容値を超えた異常か)とともに表示装置73へ表示する。この表示において、数値での表示に加えて図で異常箇所と異常の度合を示す表示を行うと検査結果が分かりやすい。
次に、コントローラ71はステップS31にて、mをインクリメントしてステップS5に戻り、m=2の測定対象物OBに対して、上述したステップS5乃至ステップS30の処理を行う。そして、ステップS31にて、mをインクリメントしてステップS5に戻り、m=3の測定対象物OBに対して同様の処理を行う。このようにして、移動するステージStに載置されて次々に移動してくる測定対象物OBが検査され、検査結果が表示装置73に表示される。作業者は表示装置73に表示される結果を見て、不合格と判定された測定対象物OBをステージStから取り除き、それ以外の測定対象物OBと分別する。なお、不合格がずれ距離によるものである場合は、異常の原因が測定対象物OBの厚さによるものか、測定対象物OBのステージStへの載置の仕方によるものかを調査する。また、ずれ距離による不合格が連続して発生する場合は、後述するように検査を停止し、X線回折測定装置(筐体40)の位置が変化していないか調査する。いずれの場合も、標準厚さの測定対象物OBを用意しておけば異常の原因をつきとめることができる。そして、検査する測定対象物OBがなくなり、作業者が入力装置72から検査停止の指令を入力すると、ステップS32にてYesと判定してステップS33へ行き、ステップS33にて端検出回路76へ作動停止の指令を出力し、内蔵されたクロックによる時間計測を停止する。次にステップS34にて、異常箇所データとして記憶した回折X線強度データI(n,m)及びずれ距離D(n,m)を別のメモリ領域に移動して、次回の検査の際に使用するメモリ領域を空にし、ステップS35にてプログラムの実行を終了する。
このように、ステージStを移動させた後、入力装置72から検査開始の指令を入力すれば、コントローラ71がインストールされたプログラムを実行することで、ステージStに載置された測定対象物OBの検査が次々に行われ、検査結果が順に表示装置73に表示される。作業者は異常が検出された測定対象物OBの異常の原因を詳細に分析したいときは、該測定対象物OBをX線回折像を得るX線回折装置にセットして、異常箇所のX線回折像を測定すればよい。なお、コントローラ71に設定されている合否判定レベルLは、測定対象物OBに照射されるX線の強度が一定である必要がある。上述したように、X線制御回路62は、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、高電圧電源65からX線出射器10に供給される駆動電流及び駆動電圧を制御しているが、長期間が経過するとX線出射器10から出射されるX線の強度が変化する可能性がある。よって、定期的に標準の測定対象物OBを測定して回折X線強度データIが許容範囲内にあることを確認する必要がある。そして、許容範囲外になったときは、X線制御回路62の設定を変えて標準の測定対象物OBの回折X線強度データIを許容範囲内にするか、又は合否判定レベルLを設定し直し、その時点の回折X線強度データIの平均値を中央値にした新たな許容範囲を定める必要がある。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、X線回折測定装置を、対象とする測定対象物OBに向けてX線を略平行光にして出射するX線出射器10及び円筒状パイプ21からなるX線出射手段と、X線出射手段から出射されるX線が測定対象物OBに照射されたとき、測定対象物OBにて発生する回折X線の強度を検出するシンチレーションカウンター22であって、回折X線により回折環が形成される箇所の1部に入射口が配置されたシンチレーションカウンター22と、シンチレーションカウンター22の入射口の手前に短尺方向が回折環の半径方向になるよう配置されたスリット23aであって、測定対象物OBが正常であり測定対象物OBにおけるX線照射点が設定された位置であるときの、短尺方向におけるX線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなしたとき、正規分布曲線の両側における1.5σ乃至4σの箇所が縁になるように配置されたスリット23aとを備えたX線回折測定装置としている。
これによれば、X線が測定対象物OBに照射されたとき、スリット23aを通過する回折X線は、スリット23aの短尺方向におけるX線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなしたとき、正規分布曲線の両側における1.5σ乃至4σの箇所を下限と上限にした範囲となり、測定箇所(X線照射点)が正常であれば、X線照射点が設定された位置から多少ずれても、大部分の回折X線がスリット23aを通過する。これに対し、測定箇所が表面硬さまたはそれ以外の特性の異常で回折X線の強度分布が変化したときは、X線強度分布曲線は、正常時よりもなだらかな曲線となり、言い換えると、X線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなすと標準偏差σは正常時よりも大きくなり、多くの回折X線がスリット23aで遮断される。よって、測定箇所(X線照射点)に、表面硬さ等、回折X線の強度分布が変化する異常があったとき、シンチレーションカウンター22が検出する回折X線の強度は大きく変化し、測定箇所の異常を検出することができる。すなわち、X線照射点が設定された位置になるよう測定対象物OBに対するX線回折測定装置の位置を定め、測定対象物OBと装置の位置関係が大きく変化しないように測定対象物OBを装置に対して移動すれば、1つのシンチレーションカウンター22を有するX線回折測定装置により、先行技術と同様に回折X線の強度分布が変化する異常を検出することができ、装置のコストアップ及び装置維持のための工数と費用を大幅に抑制することができる。
また、上記実施形態においては、X線出射器10及び円筒状パイプ21からなるX線出射手段から出射されるX線の光軸と交差するよう微小断面のレーザ光を照射するレーザ光照射器24であって、X線の光軸と交差する点が測定対象物OBにおけるX線照射点であるとき、X線強度分布曲線のピーク点がスリット23aの中心になるようレーザ光を照射するレーザ光照射器24と、レーザ光照射器24が出射したレーザ光が測定対象物OBに照射されたとき、測定対象物OBのレーザ光照射点で発生する散乱光の一部をラインセンサ31で受光し、ラインセンサ31の受光位置からX線の光軸と交差する点と測定対象物OBにおけるX線照射点との間の距離をずれ距離として検出するずれ距離検出回路63とを備えたX線回折測定装置としている。
これによれば、シンチレーションカウンター22が検出する回折X線の強度が大きく変化したとき、ずれ距離検出回路63が検出するずれ距離も大きく変化すれば、回折X線の強度の変化は、測定箇所の回折X線の強度分布が変化する異常によるものではなく、測定対象物OBと装置の位置関係が変化したことのよるものとすることができる。この場合は、測定対象物OBの厚さ異常、測定対象物OBの載置の仕方異常またはX線回折測定装置の位置ずれ等が考えられるが、標準厚さの測定対象物OBを用意しておけば異常の原因をつきとめることができる。すなわち、回折X線の強度分布が変化する異常をより正確に検出することができる。
また、上記実施形態においては、シンチレーションカウンター22が検出したX線の強度と予め設定した合否判定レベルLとを比較して合否判定を行うコントローラ71にインストールされたプログラムであって、合否判定レベルLをずれ距離検出回路63が検出したずれ距離を用いて補正したうえで合否判定を行うプログラムを備えている。
これによれば、測定対象物OBとX線回折測定装置の位置関係が多少変化しても、すなわち、ずれ距離検出回路63が検出するずれ距離が0から多少変化しても、スリット23aを通過する回折X線の強度は微小にしか変化しないが、コントローラ71にインストールされたプログラムはこの微小の変化分がないように合否判定レベルLを補正するので、測定対象物OBの測定箇所(X線照射点)が正常であれば、検出する回折X線の強度と合否判定レベルとの強度関係は略一定になる。よって、回折X線の強度分布が変化する異常をより精度よく検出することができる。
(変形例1)
上記実施形態においては、合否判定レベルLをずれ距離検出回路63が検出したずれ距離を用いて補正して合否判定レベルL’にしたうえで、シンチレーションカウンター22が検出した回折X線の強度と合否判定レベルL’とを比較して、回折X線の強度分布が変化する異常を検出している。しかし、測定対象物OBの表面に、ずれ距離検出回路63が検出するずれ距離が大きくなる凹凸がある場合や、表面がステージStの移動方向に対して平行でない場合(傾きがある場合)などは、回折X線の強度分布が変化する異常を検出する精度が落ちる可能性がある。図7に示すX線回折測定装置を含むX線回折測定システムは、このような測定対象物OBを検査する場合でも、精度よくX線の強度分布が変化する異常を検出することができるものである。図7に示すX線回折測定装置を含むX線回折測定システムは、X線回折測定装置(筐体40)を高さ方向に変位させるZ軸方向変位機構5を備え、ずれ距離検出回路63が検出するずれ距離が0になるようX線回折測定装置(筐体40)の高さ方向(Z軸方向)位置を変化させるものである。以下、上記実施形態と異なる箇所のみを説明する。なお、Z軸方向はステージStに垂直な方向であるが、出射X線の光軸はステージStに垂直になるようX線回折測定装置(筐体40)の姿勢が調整されているので、出射X線の光軸方向である。また、Y軸方向はステージStの移動方向であるが、ステージStの移動方向は基準平面に平行になるようX線回折測定装置(筐体40)の姿勢が調整されているので、基準平面に平行で出射X線の光軸に垂直な方向である。そして、X軸方向はY軸方向とZ軸方向に垂直な方向であり、基準平面に垂直な方向である。
Z軸方向変位機構5は、枠体51、フィードモータ52、スクリューロッド53、軸受部54及び移動ステージ(図示せず)から構成されている。枠体51は、直方体形状の金属体に直方体形状の穴が開けられたものであり、長尺方向が出射X線の光軸方向と平行になるよう、図7の裏面側が固定具50に連結されている。枠体51の上側にはフィードモータ52が固定され、フィードモータ52の回転軸にはスクリューロッド53が連結され、スクリューロッド53の反対側は軸受部54に連結されている。移動ステージは枠体51の直方体形状の穴に移動可能に嵌めこまれており、中心部分に雌ネジが切られた孔が開けられ、この孔と雄ネジが切れらたスクリューロッド53が迎合している。そして、フィードモータ52の回転軸及びスクリューロッド53の中心軸は、出射X線の光軸方向と平行であり、フィードモータ52が回転しスクリューロッド53が回転すると、移動ステージは出射X線の光軸方向(Z軸方向)に移動する。移動ステージはX線回折測定装置(筐体)40の側面40eにある連結部41と連結しており、フィードモータ52が回転するとX線回折測定装置(筐体40)もZ軸方向へ移動する。
フィードモータ52内には、エンコーダ52aが組み込まれており、エンコーダ52aはフィードモータ52が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号をモータ駆動回路55、移動指令回路56及び移動位置検出回路57へ出力する。モータ駆動回路55は、後述する移動指令回路56から移動指令と移動方向を入力すると、フィードモータ52の回転が移動方向に対応する回転方向になり、エンコーダ52aから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数が、予め設定されている単位時間当たりのパルス数になるよう、フィードモータ52へ駆動信号を出力する。これにより、移動ステージ及び筐体40はZ軸方向へ設定された移動速度で移動する。そして、移動指令回路56から停止指令が入力すると、フィードモータ52への駆動信号を停止する。
移動指令回路56はコントローラ71から移動位置を示す信号を入力すると、後述する移動位置検出回路57から入力する移動位置から移動方向を判定し、モータ駆動回路55に移動指令と移動方向を出力する。そして、後述する移動位置検出回路57から入力する移動位置がコントローラ71から入力した移動位置に等しくなると、モータ駆動回路55に停止指令を出力する。これにより、移動ステージ及び筐体40は、コントローラ71が指定した移動位置に移動される。また、移動指令回路56はコントローラ71から制御開始を示す信号を入力すると、ずれ距離検出回路63から入力するずれ距離(X線照射点のX線レーザ交差点からの距離)の符号から移動方向を判定し、モータ駆動回路55に移動指令と移動方向を出力する。そして、予め記憶されている関係式又は関係テーブルを用いて、ずれ距離の絶対値からフィードモータ52が回転してずれ距離分移動したときにエンコーダ52aが出力するパルス列信号のパルス数を算出し、モータ駆動回路55に移動指令を出力してからエンコーダ52aが出力するパルス列信号のパルス数をカウントして、カウントしたパルス数が算出したパルス数になるとモータ駆動回路55に停止指令を出力する。移動指令回路56はこの制御を、コントローラ71から制御停止を示す信号が入力するまで設定された時間間隔で行う。これにより、コントローラ71が指令すると、移動ステージ及び筐体40は、ずれ距離が0になるよう移動位置が変位する。さらに移動指令回路56はコントローラ71から移動限界位置への移動を示す信号を入力すると、移動ステージ及び筐体40がフィードモータ52側へ移動するよう、モータ駆動回路55に移動指令と移動方向を出力する。そして、後述する移動位置検出回路57から停止指令が入力すると、モータ駆動回路55に停止指令を出力する。コントローラ71はX線回折測定装置への電源投入直後に移動限界位置への移動を示す信号を出力するため、これにより、X線回折測定装置への電源投入直後には移動ステージ及び筐体40は、フィードモータ52側の駆動限界位置(最も高い移動位置)まで移動する。
なお、変形例1の形態では、ずれ距離検出回路63が検出するずれ距離はコントローラ71には入力しておらず、移動指令回路56に入力して制御のみに用いられているので、ずれ距離は距離の単位でなくてもよく、ずれ距離は相当するエンコーダ52aが出力するパルス列信号のパルス数のカウント値にすればよい。このようにすれば、移動指令回路56は、ずれ距離検出回路63から入力するずれ距離をそのままパルス列信号のパルス数のカウント値として用いることができる。
移動位置検出回路57はコントローラ71から移動限界位置移動を示す信号入力すると、エンコーダ52aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、パルス数のカウントが停止すると、移動指令回路56に停止指令を出力して、パルス数のカウント値を「0」に設定する。以後、移動位置検出回路57はエンコーダ52aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、移動方向によりカウント値を加算または減算し、カウント値から移動距離を算出して移動指令回路56とコントローラ71に出力する。これにより、移動ステージ及び筐体40の移動位置がフィードモータ52側の移動限界位置を原点として検出される。
変形例1のX線回折測定システムにおけるこれ以外の構成は上記実施形態と同じであるが、図6に示すコントローラ71が実行するプログラムのフロー図は、以下の点が上記実施形態から変更されている。
・ステップS1にてプログラムがスタートすると、移動指令回路56に基準の移動位置を出力し、移動ステージ及び筐体40を基準の移動位置へ移動させる。基準の移動位置は測定対象物OBが標準の厚さであるとき、ずれ距離(X線照射点のX線レーザ交差点からの距離)が0になる位置であり、予めコントローラ71に記憶されている。
・ステップS12の後、移動指令回路56に制御開始の指令を出力し、ずれ距離が0になる制御を開始する。また、ステップS26の後、移動指令回路56に制御停止の指令を出力し、ずれ距離が0になる制御を停止する。
・ステップS15においてずれ検出回路63からずれ距離D(n,m)を取込む替わりに、移動位置検出回路57から移動位置を入力し、基準の移動位置を減算してずれ距離D(n,m)にする。なお、ステップS19における許容限界Aは、測定対象物OBの表面の凹凸度合又は表面の傾き度合により適宜設定する。
・ステップS16において合否判定レベルLの補正は行わない。
これ以外は図5に示すフロー図と同じであり、コントローラ71がこのプログラムを実行すると上記実施形態と同様、移動するステージStに載置されて次々に移動してくる測定対象物OBが検査され、検査結果が表示装置73に表示される。そして、この検査結果を見ることで、回折X線の強度分布が変化する異常又はずれ距離が許容値を超える異常がある測定対象物をOBを検出することができる。
上記説明からも理解できるように、上記変形例1の実施形態においては、X線出射器10及び円筒状パイプ21からなるX線出射手段、シンチレーションカウンター22及びレーザ光照射器24を内部に備えたX線回折測定装置(筐体40)の位置を測定対象物OBに対してX線の光軸方向に変化させるZ軸方向変位機構5と、Z軸方向変位機構5のフィードモータ52を制御して、ずれ距離検出回路63が検出したずれ距離が0になるよう筐体の位置を変化させるモータ駆動回路55及び移動指令回路56とを備えている。
これによれば、X線レーザ交差点(基準のX線照射点)にX線照射点を合致させることができ、シンチレーションカウンター22が検出する回折X線の強度の変化を回折X線の強度分布の変化によるものにすることができるので、回折X線の強度分布が変化する異常をより精度よく検出することができる。
(変形例2)
上記変形例1の形態においては、X線回折測定装置(筐体40)の位置を出射X線の光軸方向に変位させ、X線レーザ交差点(基準のX線照射点)にX線照射点を合致させるようにしている。しかし、測定対象物OBの表面の凹凸が大きい場合や、表面のステージStの移動方向に対する角度が大きく変化する場合などは、測定対象物OBの表面に対する出射X線の光軸方向が変化し、回折X線の強度分布が変化する異常を検出する精度が落ちる可能性がある。図8に示すX線回折測定装置を含むX線回折測定システムは、このような測定対象物OBを検査する場合でも、精度よくX線の強度分布が変化する異常を検出することができるものである。図8に示すX線回折測定装置を含むX線回折測定システムは、X線回折測定装置(筐体40)を高さ方向(Z軸方向)に変位させるZ軸方向変位機構5に加え、X線回折測定装置(筐体40)をX線レーザ交差点を通り、基準平面に垂直な軸周り(X軸周り)に筐体40の傾き角度を変化させるとともに、筐体40をX線レーザ交差点を通り、基準平面に平行で出射X線の光軸と所定の角度を有する軸周り(Y軸周り)に筐体40の傾き角度を変化させる傾き変化機構8を備える。以下、上記実施形態及び変形例1と異なる箇所のみを説明する。なお、傾き変化機構8の傾きが0の状態では、X軸、Y軸、Z軸の定義は上記変形例1と同一である。
傾き変化機構8は、2つのゴニオステージを重ね上面を下側に向けたステージ機構部とステージ機構部の上面とX線回折測定装置(筐体40)の上面壁40cとを連結させる連結体80とからなる。連結体80は、2つの直角三角形の形状の平板からなり、傾斜した辺の側面がY軸周り駆動ステージ81の上面にネジ止めにより固定され、直角を成す辺の長い方の側面がX線回折測定装置(筐体40)の上面壁40cにネジ止めにより固定されている。図8において連結体80は1つの平板のみが描かれているが、手前の平板に隠れて奥側にも平板がある。
ステージ機構部の上側のゴニオステージは固定ステージ85とX軸周り駆動ステージ84とモータ86から構成され、モータ86が回転駆動することにより固定ステージ85に対しX軸周り駆動ステージ84が成す角度が変化する。固定ステージ85はZ軸方向変位機構5の移動ステージに連結されており、上述した変形例1のように移動ステージは出射X線の光軸方向(Z軸方向)のみに移動するため、モータ86が正回転または逆回転することにより、X線回折測定装置(筐体40)はX軸周りに傾き角が変化する。以後、この傾き角をX軸周り傾き角という。ステージ機構部の下側のゴニオステージは固定ステージ82とY軸周り駆動ステージ81とモータ83から構成され、モータ83が回転駆動することにより固定ステージ82に対しY軸周り駆動ステージ81が成す角度が変化する。固定ステージ82はX軸周り駆動ステージ84に固定されているので、モータ83が正回転または逆回転することにより、X線回折測定装置(筐体40)はY軸周りに傾き角が変化する。以後、この傾き角をY軸周り傾き角という。なお、図8が示すように2つのゴニオステージはZ軸方向に対してX軸周りに傾いているため、Y軸周り駆動ステージ81の回転軸は本来のY軸と平行ではなく、この回転軸はX軸周り駆動ステージ84が駆動するとX軸周りに変化するため、固定されたものではない。しかし、傾き角変化は小さな範囲で行われ、Y軸周り駆動ステージ81の回転軸は本来のY軸に近いためY軸周り、としている。
モータ駆動回路55、移動指令回路56及び移動位置検出回路57は上述した変形例1と同様の作動を行うので、変形例2の形態においても、ずれ距離が0になる制御、すなわち、X線レーザ交差点(基準のX線照射点)にX線照射点が合致する制御が行われる。そして、上述したように傾き変化機構8の回転軸は、X線レーザ交差点を通っているので、X軸周り傾き角及びY軸周り傾き角が変化しても、X線照射点の位置は変化しない。
モータ83,86内には、エンコーダ83a,86aが組み込まれており、エンコーダ83a,86aはモータ83,86が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号をモータ駆動回路87,89、角度検出回路88及び回転指令回路90へ出力する。モータ駆動回路87は、コントローラ71から傾き角度が入力すると、後述する角度検出回路88から入力する傾き角度がコントローラ71から入力した傾き角度に向かう方向にモータ86が回転するよう駆動信号をモータ86に出力し、角度検出回路88から入力する傾き角度がコントローラ71から入力した傾き角度になると駆動信号を停止する。これにより、X線回折測定装置(筐体40)は、コントローラ71が指令した傾き角度になる。すなわち、X軸周り傾き角は、コントローラ71が指令した傾き角度になるよう変化する。また、モータ駆動回路87は、コントローラ71から初期位置移動の指令が入力すると、モータ86に設定した回転方向に回転する駆動信号を出力し、角度検出回路88から駆動限界位置を意味する信号が入力された後反対方向に回転する駆動信号を出力し、角度検出回路88から停止指令が入力すると駆動信号の出力を停止する。なお、モータ駆動回路87は、モータ86が回転する際、エンコーダ86aから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数が、予め設定されている単位時間当たりのパルス数になるよう、モータ86へ駆動信号を出力するので、X軸周り駆動ステージ84は設定された速度で傾き角が変化する。
角度検出回路88は、コントローラ71から初期位置移動の指令が入力すると、エンコーダ86aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、パルス数のカウントが停止すると、モータ駆動回路87に駆動限界位置を意味する信号を出力して、パルス数のカウント値を「0」に設定する。その後、角度検出回路88はエンコーダ86aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、予め設定されたパルス数になると停止指令をモータ駆動回路87に出力し、再度パルス数のカウント値を「0」に設定する。予め設定されたパルス数は、固定ステージ85とX軸周り駆動ステージ84のモータ86側の側面が1つの平面内に含まれる状態になる値である。この後、角度検出回路88は、回転方向によりカウント値を加算または減算し、カウント値からX軸周り傾き角を算出してモータ駆動回路87に出力する。このX軸周り傾き角は、出射X線がステージStの平面に垂直になる状態(図8の状態)からの筐体40のX軸周りの傾きである。なお、コントローラ71はX線回折測定装置への電源投入直後に初期位置移動の指令を出力するため、X線回折測定装置への電源投入直後にはX軸周り傾き角は0になる。
モータ駆動回路89は、後述する回転指令回路90から回転指令と回転方向を入力すると、Y軸周り駆動ステージ81が指令された回転方向に回転するようモータ83へ駆動信号を出力し、回転指令回路90から停止指令が入力すると出力している駆動信号を停止する。このとき、モータ駆動回路89は、エンコーダ83aから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数が、予め設定されている単位時間当たりのパルス数になるよう、モータ83へ駆動信号を出力するので、Y軸周り駆動ステージ81は設定された速度で傾き角が変化する。
回転指令回路90はコントローラ71から制御開始を示す信号を入力すると、後述するずれ角度検出回路64から入力するずれ角度の符号から回転方向を判定し、モータ駆動回路89に回転指令と回転方向を出力する。そして、予め記憶されている関係式又は関係テーブルを用いて、ずれ角度の絶対値からモータ83がずれ角度が0になるまで回転したときにエンコーダ83aが出力するパルス列信号のパルス数を算出し、モータ駆動回路89に移動指令を出力してからエンコーダ83aが出力するパルス列信号のパルス数をカウントして、カウントしたパルス数が算出したパルス数になるとモータ駆動回路89に停止指令を出力する。回転指令回路90はこの制御を、コントローラ71から制御停止を示す信号が入力するまで設定された時間間隔で行う。これにより、コントローラ71が指令すると、X線回折測定装置(筐体40)は、ずれ角度検出回路64が検出するずれ角度が0になるようY軸周り傾き角変化が行われる。また、回転指令回路90はコントローラ71から初期位置移動の指令を入力すると、Y軸周り駆動ステージ81が設定された回転方向に回転するようモータ駆動回路89に回転指令と回転方向を出力し、エンコーダ83aが出力するパルス列信号のパルス数をカウントする。そして、パルス数のカウントが停止すると、モータ駆動回路89にY軸周り駆動ステージ81が反対方向に回転するよう回転指令と回転方向を出力し、パルス数のカウント値を「0」に設定する。その後、回転指令回路90はエンコーダ83aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、予め設定されたパルス数になると停止指令をモータ駆動回路89に出力し、再度パルス数のカウント値を「0」に設定する。予め設定されたパルス数は、固定ステージ82とY軸周り駆動ステージ81のモータ83側の側面が1つの平面内に含まれる状態になる値であり、X軸周り傾き角が0であるとき、出射X線の光軸がステージStの平面に垂直になる状態(図8の状態)にするための値である。なお、コントローラ71はX線回折測定装置への電源投入直後に、モータ駆動回路87、角度検出回路88及び回転指令回路90に初期位置移動の指令を出力するため、X線回折測定装置への電源投入直後に、出射X線の光軸はステージStの平面に垂直になる。
X線回折測定装置の筐体40内のプレート20は、上記実施形態および変形例1のプレート20より円筒状パイプ21を中心として、レーザ照射器24及びシンチレーションカウンター22の反対側が少し長くなっており、この長くなった箇所に2分割フォトディテクタ32が固定されている。2分割フォトディテクタ32は、表面の垂直方向から見ると図9に示すものであり、基準平面と交差する箇所で2つに分割されている。分割されたそれぞれのフォトディテクタは、レーザ光照射器24から出射されたレーザ光の測定対象物OBでの反射光を受光し、受光した反射光の強度に相当する強度の信号をずれ角度検出回路64に出力する。上記実施形態で述べたように、レーザ光照射器24から出射されるレーザ光の光軸は基準平面に含まれているため、基準平面とレーザ光照射点(X線照射点がX線レーザ交差点に合致していればX線照射点)における測定対象物OBの法線が基準平面に含まれていれば、2分割フォトディテクタ32の中心に反射光は受光される。そして、このとき分割されたそれぞれのフォトディテクタが出力する信号の強度は、等しくなる。
ずれ角度検出回路64は、2分割フォトディテクタ32のそれぞれのフォトディテクタが出力する信号を入力し、〔2つの信号強度の差/2つの信号強度の合計〕(以下、信号強度差割合という)を算出して、予め記憶されている信号強度差割合とずれ角度との関係式又は関係テーブルからずれ角度を求める。このずれ角度は、大きくなければレーザ光照射点における測定対象物OBの法線と基準平面とが成す角度と見なすことができる。ただし、より厳密には、ずれ角度は、X線レーザ交差点にX線照射点が合致しており、X軸周り傾き角が0であるときに、信号強度差割合を0にするために、Y軸周り傾き角を変化させるときの角度の量である。信号強度差割合とずれ角度との関係は、ステージ機構部のゴニオステージを初期位置(電源が投入されたときの状態)にし、ステージStに平行な表面を有する測定対象物OBを載置してレーザ光を照射してずれ距離を0にし、Y軸周り傾き角を検出しながら、Y軸周り傾き角を変化させて信号強度差割合を求めれば得ることができる。Y軸周り傾き角は制御のみに使用されているので角度の単位でなくてもよく、Y軸周り傾き角を、回転方向で符号をつけたエンコーダ83aが出力するパルス列信号のパルス数にすれば、上述した回転指令回路90は、ずれ角度検出回路64から入力するずれ角度をそのままパルス列信号のパルス数として用いることができる。
なお、ずれ角度検出回路64に予め記憶されている信号強度差割合とずれ角度との関係は、ずれ距離及びX軸周り傾き角により変わるが、ずれ距離は0になるよう制御されており、X軸周り傾き角の0からの変化量は大きくはなく、信号強度差割合は0になるよう制御がされるので、ずれ距離及びX軸周り傾き角によらず、ずれ角度は精度よく0に制御される。
変形例1のX線回折測定システムにおけるこれ以外の構成は上記実施形態及び変形例1と同じであるが、コントローラ71は入力装置72から検査開始の指令が入力されると、図6のフローのプログラムとは別に、X軸周り傾き角を設定された時間間隔で計算するプログラムを実行する。X軸周り傾き角は、Y軸とY軸方向の測定対象物OBの表面プロファイルのX線照射点における接線とが成す角度であり、別の言い方をすると、出射X線が該表面プロファイルに垂直に入射するために傾ける角度である。このプログラムの処理を視覚的に示したものが図10である。コントローラ71は上述した変形例1の場合と同様、移動位置検出回路57から入力するZ軸方向の移動位置を設定された時間間隔で取込むが、Z軸方向の移動位置を時系列で並べ、横軸をF・n・Δtから距離の単位にしてグラフにすると図10のようになる。これは測定対象物OBのステージStの移動方向(Y軸方向)における表面プロファイルであり、最新で取込んだZ軸方向移動位置の箇所における表面プロファイルの接線の傾きは、現時点でのX軸周り傾き角である。コントローラ71はZ軸方向移動位置を取込むごとに表面プロファイルの接線の傾き角度を傾き方向により符号をつけて算出し、モータ駆動回路87へ出力する。出力される傾き角度は、該接線の垂直方向からX線が照射されるになるための傾き角度である。コントローラ71のこのプログラム処理により、X線回折測定装置(筐体40)は、測定対象物OBのY軸方向における表面プロファイル(XZ平面で切断したときの表面プロファイル)の垂直方向からX線が照射されるようX軸周り傾き角の変化が行われる。
変形例2のX線回折測定システムにおいても上記実施形態及び変形例1と同様、コントローラ71は入力装置72から検査開始の指令が入力されると、図6のフローのプログラムを実行するが、変形例2においては、変形例1での変更箇所に加え、移動指令回路56に制御開始と制御停止の指令を出力する際、同時に回転指令回路90にも指令を出力する点のみが異なっており、それ以外は同じである。なお、表面の凹凸が大きい場合は、ずれ距離D(n,m)による合否判定に替えて、Z軸方向移動位置データから算出される表面プロファイルに基づく特性値による合否判定にしてもよい。これ以外は変形例1の場合と同じであり、コントローラ71がこのプログラムを実行すると上記実施形態と同様、移動するステージStに載置されて次々に移動してくる測定対象物OBが検査され、検査結果が表示装置73に表示される。
上記説明からも理解できるように、上記変形例2の実施形態においては、X線出射器10及び円筒状パイプ21からなるX線出射手段から出射されるX線の光軸と交差するようレーザ光を照射するレーザ光照射器24であって、X線の光軸と交差する点が測定対象物OBにおけるX線照射点であるとき、X線強度分布曲線のピーク点がスリット23aの中心になるようレーザ光を照射するレーザ光照射器24と、レーザ光照射器24が出射したレーザ光が測定対象物OBに照射されたとき、測定対象物OBのレーザ光照射点で発生する散乱光の一部を結像レンズ30を介してラインセンサ31で受光し、ラインセンサ31での受光位置からX線レーザ交差点と測定対象物OBにおけるX線照射点との間の距離をずれ距離として検出するずれ距離検出回路63と、レーザ光照射器24が出射したレーザ光が測定対象物OBに照射されたとき、測定対象物OBのレーザ光照射点で発生する反射光を2分割フォトディテクタ32で受光し、2分割フォトディテクタ32での受光位置から、レーザ光照射点の箇所の法線ベクトルと、X線の光軸とレーザ光の光軸とを含む平面である基準平面に垂直な平面であってX線の光軸と予め設定した角度を成す平面の法線ベクトルとの関係を、傾き角度として検出するずれ角度検出回路64と、X線出射器10及び円筒状パイプ21からなるX線出射手段、シンチレーションカウンター22及びレーザ光照射器24を内部に備えた筐体40の位置を測定対象物OBに対してX線の光軸方向に変化させるZ軸方向変位機構5と、筐体40の姿勢を測定対象物OBに対して、X線レーザ交差点を通る軸周りに変化させる傾き変化機構8と、Z軸方向変位機構5と傾き変化機構8を制御して、ずれ距離検出回路63が検出したずれ距離とずれ角度検出回路64が検出したずれ角度とが0になるよう、筐体の位置と姿勢を変化させるモータ駆動回路55,89、移動指令回路56及び回転指令回路90を含む筐体位置姿勢制御手段とを備えたX線回折測定装置としている。
また、上記変形例2の実施形態においては、ステージStを有する移動機構による移動の移動位置を検出するコントローラ71内のプログラムと、Z軸方向変位機構5による変化する筐体40の位置を検出する移動位置検出回路57と、移動機構による移動と筐体位置姿勢制御手段による筐体40の位置と姿勢の変化が行われるとき、コントローラ71内のプログラムが検出する移動位置と移動位置検出回路57が検出する筐体40の位置とを同じタイミングで取り込み、取り込んだ移動位置と筐体40の位置とから測定対象物OBの表面プロファイルを算出するコントローラ71内のプログラムと、コントローラ71内のプログラムにより算出された表面プロファイルから、測定対象物OBのX線照射点の箇所における表面プロファイルと移動機構による移動方向とが成す角度をX軸周り傾き角度として検出するコントローラ71内のプログラムとを備え、2分割フォトディテクタ32は基準平面と交差するラインで2つに分割され、それぞれの分割された2つのフォトディテクタは受光した反射光の強度に相当する強度の信号を出力するものであり、ずれ角度検出回路64は、分割された2つのフォトディテクタが出力する信号からレーザ光照射点の箇所の法線ベクトルと基準平面とが成す角度をずれ角度として検出するものであり、傾き変化機構8は、基準平面に垂直な軸周りと基準平面に平行な軸周りとに筐体40の姿勢を変化させるものであり、筐体位置姿勢制御手段は傾き変化機構8を制御して、コントローラ71内のプログラムが検出したX軸周り傾き角度分、基準平面に垂直な軸周りに筐体40の姿勢を変化させ、ずれ角度検出回路64が検出したずれ角度が0になるよう基準平面に平行な軸周りに筐体40の姿勢を変化させている。
これによれば、X線レーザ交差点(基準のX線照射点)にX線照射点を合致させるとともに、X線照射点における測定対象物OBの平面に対するX線の入射方向を一定にすることができるので、さらにシンチレーションカウンター22が検出する回折X線の強度の変化を回折X線の強度分布の変化によるものにすることができ、回折X線の強度分布が変化する異常をさらに精度よく検出することができる。さらに、これによれば、筐体位置姿勢制御手段が傾き変化機構8を制御して筐体の姿勢を変化させるときの2つの軸周りの回転角度が、コントローラ71内のプログラムとずれ角度検出回路64によりそれぞれ独立して検出されるので、それぞれの回転角度をより精度よく、より高速に検出することができる。すなわち、X線照射点における測定対象物OBの平面に対するX線の入射方向を一定にする制御をより高精度に行うことができる。よって、回折X線の強度分布が変化する異常をさらに精度よく検出することができる。
なお、本発明の実施にあたっては、上記実施形態、変形例1及び変形例2に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態及び変形例1では、本発明を測定対象物OBが移動機構のステージSt上に載置され一定速度で移動する場合に適用したが、変形例2のようにX軸周り傾き角を移動方向の表面プロファイルから検出することがなければ、本発明は測定対象物OBを繰り返し固定されたステージSt上に載置しながら、連続して検査する場合にも適用することができる。なお、この場合は、変形例1のZ軸方向変位機構5はステージStをZ軸方向に移動させる機構にしてもよい。
また、上記実施形態、変形例1及び変形例2では、出射X線を測定対象物OBの表面に垂直に照射したが、出射X線を測定対象物OBの表面に設定された入射角度で入射するようにしてもよい。このようにすると、回折X線の強度分布が変化する異常に加え、残留垂直応力が大きく変化する異常も検出することができる。
また、上記実施形態、変形例1及び変形例2では、回折X線の強度を検出するのにシンチレーションカウンター22を使用したが、X線の強度を精度よく高速で検出することができれば、どのようなX線検出センサを用いてもよい。
また、上記実施形態、変形例1及び変形例2では、定期的に標準の測定対象物OBを測定して回折X線強度データIが許容範囲内になるよう管理することで、測定対象物OBに照射されるX線の強度が一定になるよう管理するようにした。しかし、回折X線強度データIをバックグランドの回折X線の強度の比として得るようにし、合否判定レベルLをバックグランドの回折X線の強度の比として設定すれば、測定対象物OBに照射されるX線の強度が大きく変動しない限り、正確な検査を行うことができる。この場合は、シンチレーションカウンター22とは別の箇所にもう1つのシンチレーションカウンターを設け、バックグランドの回折X線の強度を測定すればよい。これによれば、シンチレーションカウンターおよびSD信号取出回路を1つ増やすことにより、装置のコストはアップするが、定期的に標準の測定対象物OBを測定する工数を減らすことができる。
また、上記実施形態、変形例1及び変形例2では、レーザ照射器24から出射されるレーザ光をX線の光軸と交差するように照射し、X線レーザ交差点が基準X線照射点になるようにしたが、微小な断面の平行光を照射することができればレーザ光以外のものを照射してもよい。例えば、LED光のようなインコヒーレント光を、円筒状パイプ21と同様なものを通過させて微小な断面の平行光にして照射してもよい。
また、上記実施形態、変形例1及び変形例2では、スリット23aをキャップ23に形成し、キャップ23をシンチレーションカウンター22の入射口に嵌めることで、スリット23aの配置位置はシンチレーションカウンター22の入射口と略同一であるようにした。しかし、スリット23aの配置位置は、スリット23aの短尺方向におけるX線強度分布曲線を標準偏差σの正規分布曲線とみなしたとき、スリット23aの縁が正規分布曲線の両側における1.5σ乃至4σの箇所になるようになっていればよく、シンチレーションカウンター22の入射口より前に配置されていてもよい。
また、上記実施形態、変形例1及び変形例2では、X線回折測定装置(筐体40)が固定され、測定対象物OBを載置したステージStが移動機構により移動するシステムにした。しかし、X線回折測定装置(筐体40)と相対的に測定対象物OBが移動すれば本発明は適用することができるので、測定対象物OBが固定されているときはX線回折測定装置(筐体40)を移動機構にセットし、X線回折測定装置を測定対象物OBに対して移動するシステムにすればよい。
また、上記実施形態、変形例1及び変形例2では、測定対象物OBの検査結果として、合否判定結果及び不合格の場合の異常箇所と異常の程度を表示装置73に表示した。しかし、これ以外に回折X線強度データI(n,m)又はずれ距離D(n,m)で算出可能なものを計算し、表示するようにしてもよい。例えば、移動方向における回折X線強度変化曲線、これから計算される平均値、最大値、最小値及び変動範囲を表示してもよいし、移動方向における測定対象物OBの表面プロファイルやこれから計算される変動範囲、Ra値及びRMS値を表示してもよい。
また、上記実施形態、変形例1及び変形例2では、端検出センサ75はステージStの反対側から出射されているレーザ光の受光の有無により、測定対象物OBの先端および後端を検出するものにしたが、端検出センサ75は測定対象物OBの先端および後端を検出できれば、どのような作動原理のものでもよい。例えば、端検出センサ75を撮像機能のあるものにし、ステージStの反対側に輝点や特殊なマークを設けて、撮像画像から輝点や特殊なマークがなくなることや現れることで測定対象物OBの先端および後端を検出するものであってもよい。
また、上記変形例2では、コントローラ71のプログラム処理により測定対象物OBのステージStの移動方向における表面プロファイルを算出し、X線照射点の箇所のX軸周り傾き角を算出したが、2分割フォトディテクタ32をエリアセンサにして反射光の縦方向と横方向の受光位置からX軸周りのずれ角度及びY軸周りのずれ角度を求めてもよい。また、2分割フォトディテクタ32を4分割フォトディテクタにして縦方向2つの信号強度差及び横方向2つの信号強度差からX軸周りのずれ角度及びY軸周りのずれ角度を求めてもよい。ただし、この場合は、反射光の縦方向の受光位置はX軸周りのずれ角度の他、レーザ光照射点のZ軸方向位置でも変化するので、ずれ距離が0になっているタイミングで受光位置を取得する必要がある。なお、特許請求の範囲の請求項5にあるずれ角度検出手段は、上記変形例2のようにY軸周りのずれ角度のみを検出する場合と、本変形例のようにX軸周りのずれ角度とY軸周りのずれ角度とを検出する場合の2つを含む。
また、上記実施形態では、結像レンズ30によりラインセンサ31に結像されたレーザ光照射点の受光位置によりずれ距離を検出している。しかし、測定対象物OBが表面が平面で厚さが均一のものに限定されており、全体の厚さのみが変化する可能性があるときは、これに替えてレーザ光の反射光をラインセンサのように受光位置を検出できる光センサで受光し、受光位置によりずれ距離を検出してもよい。
また、上記実施形態では、合否判定レベルLに、ずれ距離検出回路63が検出したずれ距離を予め記憶されている関係に当てはめて得られる(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)を乗算して、合否判定レベルL’にしたうえで合否を判定するようにした。しかし、これに替えてシンチレーションカウンター22が検出したX線強度(SD信号取出回路60から入力したX線強度)I(n,m)をずれ距離から得られる(回折X線強度/ずれ距離0における回折X線強度)で除算して、I(n,m)’ にしたうえで合否を判定するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、ずれ距離を検出して合否判定レベルLを補正するようにしたが、測定対象物OBの厚さが一定になるよう製造工程が管理されており、ステージStの平面が移動方向とに対し高精度に平行であれば、合否判定レベルLは一定で判定を行い、異常が検出されたときのみ、ずれ距離に変化がないかチェックしたうえで異常判定をするようにしてもよい。また、この場合も、結像レンズ30とラインセンサ31を、レーザ光の反射光の受光位置を検出できる光センサに替えてずれ距離を検出するようにしてもよい。
さらに、この場合で、測定対象物OBの載置の仕方の異常やX線回折測定装置(筐体40)の取付け位置の変化をX線回折測定システム以外に設けた手段で検出することができるならば、レーザ照射器24、結像レンズ30、ラインセンサ31及びずれ距離検出回路63を無くしたX線回折測定装置としてもよい。また、スリット23aの2つの縁が、上述したように標準偏差σの正規分布曲線の1.5σ乃至4σの箇所になっていれば、X線強度分布曲線のピーク位置がスリット23aの中心からずれていてもよい。