本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図4を用いて説明する。図1に示すように、このX線回折測定システムは、X線回折測定装置1、位置制御装置5、高電圧電源45、コンピュータ装置70、先端検出センサ60及びベルトコンベアのように一定速度で移動する長尺状のステージStを有する移動機構から構成される。ステージStは平面で、移動方向がこの平面に平行であり、一定間隔で測定対象物OBが載置されている。よって、ステージStが移動すると、載置された測定対象物OBは移動して次々にX線回折測定装置1の直下に来る。そして、X線回折測定システムは、X線回折測定装置1の直下に来た測定対象物OBに対して先端から後端までX線を連続的に照射して、測定対象物OBの残留応力と回折X線の強度分布の広がりに基づく特性値をX線照射点のラインに沿って測定し、それぞれの測定対象物OBごとに異常箇所を検出する検査を行う。なお、本実施形態では測定対象物OBは鉄製の平板とする。また、図1に示すようにステージStの移動方向をY方向とし、ステージStの平面の垂直方向をZ方向とし、Y方向とZ方向に垂直な方向をX方向とする。
図1に示すようにX線回折測定装置1は、筐体30内にX線を出射するX線出射器10、X線出射器10から出射されるX線を通過させる円筒状パイプ22、測定対象物OBのX線照射点で発生する回折X線の強度を検出するシンチレーションカウンター21、及び円筒状パイプ22とシンチレーションカウンター21を取り付けた直方体状プレート20を収容している。また、筐体30内には、X線出射器10、シンチレーションカウンター21及び位置制御装置5に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体30外で2点鎖線で囲まれた各種回路は、筐体30内の2点鎖線内に納められている。なお、図1においては、回路基板、電線、固定具及び空冷ファン等は省略されている。
図2は、X線回折測定装置1の筐体30の底面壁30aを外し、出射X線の光軸方向からX線回折測定装置1を見た図である。図1及び図2に示すように、筐体30は略直方体状に形成され、底面壁30a、前面壁30b、上面壁30c、後面壁30e、及び側面壁30dを有する。底面壁30aにはX線出射器10から円筒状パイプ22を介して出射されるX線を通過させ、X線照射点で発生する回折X線を通過させる、長方形状の孔30a1が形成されている。円筒状パイプ22から出射されるX線の光軸は、底面壁30a及び上面壁30cに略垂直であり、前面壁30b、後面壁30e及び側面壁30dに略平行である。また、側面壁30dの1つは位置制御装置5の移動ステージ55に連結されており、移動ステージ55が移動することにより、筐体30(X線回折測定装置1)は移動する。位置制御装置5は移動ステージ55が出射X線の光軸方向に移動するよう姿勢が調整されており、筐体30(X線回折測定装置1)は出射X線の光軸方向に移動する。なお、図1においては、出射X線の光軸方向はステージStの平面の垂直方向と30°の角度を成しており、出射X線は測定対象物OBに入射角30°で入射するが、この角度は10〜80°の間で適宜設定することができる。
X線出射器10は長尺状に形成され、筐体30内の上部にて中心軸が底面壁30a、上面壁30c及び側面壁30dに平行になるよう筐体30に固定されており、高電圧電源45からの高電圧の供給を受け、X線制御回路40により制御されて、X線を出射口11から出射する。
X線制御回路40は、後述するコンピュータ装置70を構成するコントローラ71によって制御され、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源45から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路40は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。これにより、X線出射器10は温度が一定に保たれる。
図3は、図1のX線出射器10の出射口11付近を拡大した部分断面図であるが、図3に示すように、出射口11から出射されたX線は、大部分が円筒状パイプ22の内部に入射し、円筒状パイプ22の反対側から出射する。出射口11から出射されるX線は進行方向に拡がるX線であるが、円筒状パイプ22の内部を通過することにより、円筒状パイプ22の中心軸と同一の光軸の略平行なX線となって円筒状パイプ22から出射する。円筒状パイプ22は内径が約5mmの大きさにされており、円筒状パイプ22から出射するX線も断面径が約5mmになる。図2に示すように、直方体状プレート20は、長尺方向がX線出射器10の中心軸方向と略平行になるよう筐体30に取り付けられており、図1乃至図3に示すように、円筒状パイプ22は直方体状プレート20の中心に、中心軸が直方体状プレート20の上面と下面に略垂直になるよう固定されている。そして、直方体状プレート20の上面と下面は筐体30の上面壁30c及び底面壁30aに平行になっているので、円筒状パイプ22から出射するX線は、光軸が上面壁30c及び底面壁30aに垂直な状態で、底面壁30aに形成された直方形状の孔30a1から出射する。
図4は、図2においてシンチレーションカウンター21を配置した箇所を拡大して示す図である。図4に示すように、直方体状プレート20は、円筒状パイプ22の中心軸が直方体状プレート20の平面と交差する箇所(直方体状プレート20の中心と略同一)を対称の中心として点対称となる位置に、2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2と2つのシンチレーションカウンター21−3,21−4をそれぞれ取り付けている。シンチレーションカウンター21−1〜21−4は、入射したX線により発生する蛍光の強度を光電子増倍管により増幅し、該蛍光の強度に相当する強度の信号を出力するもので、一般的に用いられているものである。
4つのシンチレーションカウンター21−1〜21−4は、中心軸が直方体状プレート20の上面と下面に垂直であり、4つのシンチレーションカウンター21−1〜21−4のX線入射面は、直方体状プレート20の上面と下面に平行な1つの平面内に含まれるようになっている。以下、この平面を回折X線検出平面という。また、2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2及びシンチレーションカウンター21−3,21−4は、X線入射面が密着して取り付けられている。図2及び図4において二点鎖線で示される円は、測定対象物OBにおけるX線照射点から回折X線検出平面までの距離(以下、照射点−検出平面間距離という)が基準距離であるとき、回折X線検出平面に形成される回折環Rの半径方向の強度がピークになる箇所を示している。図2及び図4に示すように、照射点−検出平面間距離が基準距離であるとき、回折環Rは、半径方向の強度のピーク位置が2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2及びシンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面が密着した箇所(以下、X線入射面密着箇所という)を通るように形成される。
また図4に示すように、2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面は、回折環Rの半径方向における半分の面が遮蔽されるよう、遮蔽板24がX線入射面に固定されている。遮蔽されたX線入射面は、X線入射面密着箇所の反対側の面であり、これにより、2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面は、2つのシンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面の半分の面積になる。別の言い方をすると、2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2は、X線入射面の回折環Rの半径方向における長さが2つのシンチレーションカウンター21−3,21−4の半分の状態で回折X線の強度を検出する。
回折環Rの半径方向のX線強度分布は、X線入射面密着箇所をピーク位置とした正規分布状になっているが、上述したように、円筒状パイプ22から出射するX線は断面径が約5mmであり、正規分布の両端の間はある程度の距離になる。そして、X線強度分布を正規分布曲線で描いた場合、2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面の両端は、正規分布曲線がピーク強度の約50%程度の強度になる箇所になっており、2つのシンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面の両端は、正規分布曲線がグランドレベルになる箇所になっている。
シンチレーションカウンター21−1〜21−4は、入射したX線によりシンチレータで発生する蛍光を光電子増倍管により電子に変換して増幅し、増幅した電子による電気信号を出力するものであり、出力する電気信号の強度は入射したX線の強度に相当しているため、電気信号の強度としてX線強度を検出することができるものである。シンチレーションカウンター21−1〜21−4はSD信号取出回路31〜34と信号線がつながっており、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が出力するX線強度に相当する電気信号は、SD信号取出回路31〜34に入力する。SD信号取出回路31〜34は入力する電気信号を積分回路等により平坦な信号に変換した後、AD変換器によりデジタルデータに変換して出力する回路であり、コントローラ71から作動開始の指令が入力するとAD変換器が作動し、X線強度に相当する電気信号の強度のデジタルデータがコントローラ71に入力する。以下、SD信号取出回路31〜34が出力する信号の強度を順にA,B,C,Dとして説明する。この信号の強度は、図4に示すようにシンチレーションカウンター21−1〜21−4が検出する回折X線の強度を順にA,B,C,Dとしたものに相当する。別の言い方をすると、回折環Rの0°の位置から180°の位置に向かってX線入射面を配置したシンチレーションカウンター21が検出する回折X線の強度を、順にA,B,C,Dとしたものに相当する。
コンピュータ装置70は、コントローラ71、入力装置72及び表示装置73からなる。コントローラ71は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、予め記憶された演算処理のプログラムを実行することで、入力したシンチレーションカウンター21−1〜21−4が検出する回折X線強度に相当する値から、測定対象物OBの残留応力や回折X線強度分布の広がりに基づく特性値(以下、広がり特性値という)を計算する。また、得られた残留応力や広がり特性値から合否判定、異常程度の評価、測定対象物OBの位置に対する残留応力のグラフ化、及び測定対象物OBの位置に対する広がり特性値のグラフ化等を行う。また、コントローラ71は、予め記憶された制御用のプログラムを実行することで、X線回折測定装置1及び位置制御装置5の作動を制御する。そして、入力装置72はコントローラ71に接続されて、作業者により各種パラメータ、作動指示などの入力のために利用される。また、表示装置73もコントローラ71に接続されて、X線回折測定システムの各種の設定状況、作動状況及び測定結果などを表示する。
コントローラ71が行う演算処理について、図5及び図6を用いて説明する。図5は、回折環の0°の位置から180°の位置に向かう方向を横軸にし、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が検出する回折X線強度を●のドットで、シンチレーションカウンター21−1〜21−4の先端と回折X線の強度分布とともに示した図である。また、図5において、右側に回折X線検出平面に形成される回折環の状態を、シンチレーションカウンター21−1〜21−4のX線入射面の位置をわかりやすくA,B,C,Dにして示してある。なお、図5ではシンチレーションカウンター21−1〜21−4が検出する回折X線強度を●で示してあるが、上述したようにシンチレーションカウンター21−3,21−4は、X線入射面の半径方向長さがシンチレーションカウンター21−1,21−2の2倍(X線入射面積が2倍)であるので、シンチレーションカウンター21−3,21−4は、それぞれ2つのシンチレーションカウンターC’,C”及びD’,D”があり、C’,C”及びD’,D”が検出する回折X線強度の合計が検出されるとしてある。すなわち、シンチレーションカウンターC’,C”及びD’,D”が検出する回折X線強度を○で示し、この合計がシンチレーションカウンター21−3,21−4が検出する回折X線強度として●で示してある。
図5の(A)は照射点−検出平面間距離が基準距離であり、回折環の半径方向における回折X線強度分布の広がりが標準である場合において、測定対象物OBの残留応力が0である場合である。この場合は図5の(A)に示されるように、回折X線強度分布のピーク位置は、シンチレーションカウンター21−1,21−2及びシンチレーションカウンター21−3,21−4ともX線入射面密着箇所になり、回折X線強度分布がグランドレベルになる箇所は、シンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面の両端付近になる。そして、シンチレーションカウンター21−3,21−4が検出する回折X線強度C,Dは、X線入射面の半径方向長さがシンチレーションカウンター21−1,21−2の2倍ある分、シンチレーションカウンター21−1,21−2が検出する回折X線強度A,Bより大きくなる。別の表現をすると、A=B=C”=D’であるが、C=C’+C”であり、D=D’+D”であるため、C,Dは、A,Bより大きくなる。
図5の(B)は(A)の状態において、回折X線強度A,Bに予め定められた定数を乗算してA=B=C=Dとした場合である。そして図5の(C)は、(B)の状態において測定対象物OBに残留応力が発生した場合である。測定対象物OBに残留圧縮応力が発生すると図5の(C)の右側に示すよう回折環は回折環の0°の方向に移動し、回折X線強度分布のピーク位置は、シンチレーションカウンター21−1,21−2及びシンチレーションカウンター21−3,21−4ともX線入射面密着箇所からずれる。このため(A−B)>0、(C−D)>0となり、{(A−B)+(C−D)}={(A+C)−(B+D)}は0より大きい数値になる。そして、回折環の移動は残留圧縮応力が大きくなるほど大きくなるので、{(A+C)−(B+D)}は残留圧縮応力が大きくなるほど大きくなる。また、測定対象物OBに残留引っ張り応力が発生すると回折環は回折環の180°の方向に移動し、(A−B)<0、(C−D)<0となり、{(A−B)+(C−D)}={(A+C)−(B+D)}は0より小さい数値になる。そして、回折環の移動は残留引っ張り応力が大きくなるほど大きくなるので、{(A+C)−(B+D)}は残留引っ張り応力が大きくなるほど小さくなる。すなわち、{(A+C)−(B+D)}は、測定対象物OBで発生している残留応力と1:1の関係にあり、コントローラ71内のメモリには、残留応力と{(A+C)−(B+D)}との関係テーブル又は関係式が記憶されており、この関係テーブル又は関係式に得られた{(A+C)−(B+D)}を当てはめることで残留応力を求めることができる。以下、{(A+C)−(B+D)}で計算される値を応力特性値という。
残留応力と応力特性値である{(A+C)−(B+D)}との関係テーブル又は関係式は、特許文献1に示されるX線回折測定装置で様々な測定対象物OBの残留応力を測定し、同一測定箇所を本実施形態のX線回折測定システムで照射点−検出平面間距離を基準距離にして{(A+C)−(B+D)}を測定し、回折X線強度分布の広がりが標準のものを採用すれば得ることができる。又は、回折X線強度分布の広がりが標準の測定対象物OBに、外部から既知の力を加えて既知の残留応力を発生させ、本実施形態のX線回折測定システムで照射点−検出平面間距離を基準距離にして{(A+C)−(B+D)}を測定しても得ることができる。
応力特性値から残留応力を求めるためには、コントローラ71内のメモリに記憶した、残留応力と応力特性値との関係テーブル又は関係式を得るときの照射点−検出平面間距離が基準距離であり、回折X線強度分布の広がりが標準であるとともに、応力特性値を求めるときの照射点−検出平面間距離が基準距離であり、回折X線強度分布の広がりが標準である必要がある。これらの条件が異なっていると、正確な残留応力を計算することはできない。以下に、それについて説明する。
図6は、図5と同様の図であり、(D)及び(E)は回折X線強度分布の広がりが標準の場合より大きく、(F)及び(G)は照射点−検出平面間距離が基準距離より大きい場合である。図6の(D)は、照射点−検出平面間距離が基準距離であり、回折X線強度分布の広がりが標準より大きい場合において、測定対象物OBの残留応力が0である場合である。この場合は図6の(D)に示されるように、A=B及びC=Dであるため{(A−B)+(C−D)}={(A+C)−(B+D)}は0になり、図5の(B)と同じ値になる。図6の(E)は、図6の(D)の状態から測定対象物OBに図5の(C)と同程度の残留圧縮応力が発生した場合であるが、図6の(E)と図5の(C)を比較すると分かるように、図6の(E)は(A−B)及び(C−D)が図5の(C)よりも小さくなり、{(A−B)+(C−D)}={(A+C)−(B+D)}は図5の(C)よりも小さくなる。すなわち、回折X線強度分布の広がりが標準より大きくなると、残留応力と応力特性値との関係は変化する。これは、回折X線強度分布の広がりが標準より小さくなっても同じことが言え、残留応力と応力特性値との関係は回折X線強度分布の広がりにより変化する。従って、応力特性値を得たときの回折X線強度分布の広がりが標準と異なっている場合は、正確な残留応力を測定することができない。
図5の(B)のときA=B=C=Dであり、図5の(C)のときはA>B及びC>Dとなるが、AとCおよびBとDはほぼ同じ値であり、{(A−C)+(B−D)}={(A+B)−(C+D)}は、図5の(B)においても図5の(C)においても0付近の値になる。すなわち、回折X線強度分布の広がりが標準の場合であれば、測定対象物OBの残留応力によらず、{(A+B)−(C+D)}は0付近の値になる。これに対し、図6の(D)のとき及び図6の(E)のとき、A<C及びB<Dであるため、{(A−C)+(B−D)}={(A+B)−(C+D)}は、負の値になる。そして、図6の(D)の(C−A)及び(D−B)の大きさと、図6の(E)の(C−A)及び(D−B)の大きさは、やや異なっているが、図5及び図6においては残留応力による回折環の移動を誇張して示してあるので、実際は残留応力の大きさによらず(C−A)及び(D−B)の大きさは、ほぼ同一であり、{(A−C)+(B−D)}={(A+B)−(C+D)}は、残留応力の大きさによらずほぼ同一である。よって、{(A+B)−(C+D)}は回折X線強度分布の広がりの度合いを示す値であり、上述した広がり特性値である。そして、広がり特性値である{(A+B)−(C+D)}が標準値である0付近の値であれば、より正確には広がり特性値の絶対値(標準値である0からのずれ)が予め定めた許容値以下であれば、得られた応力特性値を記憶されている残留応力と応力特性値との関係テーブル又は関係式に当てはめることで、正確な残留応力を求めることができる。
なお、回折X線強度分布の広がりは主に測定対象物OBの表面硬さにより決まる。測定対象物OBの表面硬さが硬いと回折X線強度分布の広がりは大きくなり、柔らかいと回折X線強度分布の広がりは小さくなる。測定対象物OBの表面硬さが硬い場合を異常とするか、柔らかい場合を異常とするか、標準硬さからのずれが大きければ硬くても柔らかくても異常とするかは測定対象物OBによって異なる。すなわち、広がり特性値が定めた許容値より大きい場合を異常とするか、小さい場合を異常とするか、広がり特性値の絶対値が定めた許容値より大きい場合を異常とするかは測定対象物OBによって異なる。
図6の(F)は、回折X線強度分布の広がりが標準であり、照射点−検出平面間距離が基準距離より大きい場合において、測定対象物OBの残留応力が0である場合である。すなわち、図5の(B)の状態から照射点−検出平面間距離が基準距離より大きくなった場合である。この場合は、図6の(F)に示されるように、(A−B)<(D−C)となるため、{(A+C)−(B+D)}={(A−B)−(D−C)}は0より小さくなり、残留応力は0であっても、応力特性値は0より小さくなる。また、図6の(G)は、図6の(F)の状態から図5の(C)と同程度の残留応力が発生した場合であり、言い換えると、図5の(C)の状態から照射点−検出平面間距離が基準距離より大きくなった場合である。この場合は、図6の(G)と図5の(C)における{(A−D)+(C−B)}を比較すると分かるように、図6の(G)の方が図5の(C)よりも{(A−D)+(C−B)}が小さくなっており、{(A−D)+(C−B)}={(A+C)−(B+D)}であるので、同じ残留応力でも、応力特性値は小さくなる。すなわち、照射点−検出平面間距離が基準距離より大きくなると、応力特性値は本来の値から変化することが分かる。これは、照射点−検出平面間距離が基準距離より小さくなっても同じことが言え、応力特性値は照射点−検出平面間距離が基準距離より変化することにより変化する。従って、応力特性値を得たときの照射点−検出平面間距離が基準距離よりずれている場合は、正確な残留応力を測定することができない。
図5の(B)のときA=B=C=Dであり、図5の(C)のときはA>B及びC>Dとなるが、(A−B)と(C−D)はほぼ同じ値であり、{(A−B)−(C−D)}={(A+D)−(B+C)}は、図5の(B)においても図5の(C)においても0付近の値になる。すなわち、照射点−検出平面間距離が基準距離であれば、測定対象物OBの残留応力によらず、{(A+D)−(B+C)}は0付近の値になる。これに対し、図6の(F)のとき(A−B)>0,(D−C)>0となるため、{(A+D)−(B+C)}={(A−B)+(D−C)}は0より大きくなる。及び図6の(G)のときも、(A−B)>0,(D−C)>0となるため、{(A+D)−(B+C)}={(A−B)+(D−C)}は0より大きくなる。そして、図6の(F)の{(A−B)+(D−C)}の大きさと、図6の(G)の{(A−B)+(D−C)}の大きさは、やや異なっているように見えるが、図6においては残留応力による回折環の移動を誇張して示してあるので、実際は残留応力の大きさによらず{(A−B)+(D−C)}の大きさはほぼ同一であり、{(A−B)−(C−D)}={(A+D)−(B+C)}は、残留応力の大きさによらずほぼ同一である。よって、{(A+D)−(B+C)}は、照射点−検出平面間距離の基準距離からのずれの度合いを示す値である。以下、{(A+D)−(B+C)}で計算される値を位置特性値という。そして、位置特性値である{(A+D)−(B+C)}が0付近の値であれば、得られた応力特性値を記憶されている残留応力と応力特性値との関係テーブル又は関係式に当てはめることで、正確な残留応力を求めることができる。
なお図6の(D)においても、A=B及びC=Dであるため、{(A−B)−(C−D)}={(A+D)−(B+C)}は0であり、図6の(E)においても(A−B)と(C−D)は、おおよそ同一であるので、{(A−B)−(C−D)}={(A+D)−(B+C)}は0付近の値になる。すなわち、残留応力及び回折X線強度分布の広がりによらず、照射点−検出平面間距離が基準距離であれば、位置特性値である{(A+D)−(B+C)}は0付近の値になる。逆に言うと、位置特性値が常に0になるよう筐体30の位置を制御することで、照射点−検出平面間距離を常に基準距離にすることができる。
以上、説明したように、コントローラ71が残留応力を求めるためには、広がり特性値の絶対値(標準値である0からのずれ)が許容値内であり、位置特性値が0付近の値である必要がある。位置特性値はX線回折測定装置1(筐体30)の測定対象物OBに対する位置による値であるので、位置制御装置5によりX線回折測定装置1(筐体30)の位置を制御することで、位置特性値を0付近の値にすることができる。そして、広がり特性値は測定対象物OBによる特性値であるので、広がり特性値の絶対値が許容値内か否かは、計算により判定することになる。すなわち、コントローラ71は、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が検出する回折X線強度A,Bに、残留応力が0であり回折X線強度分布の広がりが標準であるときに該回折X線強度A,Bに乗算すると乗算後の強度がA,B,C,Dで等しくなる定数を乗算し、{(A+C)‐(B+D)}なる計算式で応力特性値を計算し、{(A+B)‐(C+D)}なる計算式で広がり特性値を計算する。そして、広がり特性値の絶対値が許容値内であるとき、応力特性値を、予めメモリに記憶されている残留応力と応力特性値との関係テーブル又は関係式に当てはめることで、正確な残留応力を求めることができる。そして、測定の期間中、位置制御装置5はX線回折測定装置1(筐体30)の位置を位置特性値が0になるよう制御する。以下に位置制御装置5による位置制御の方法を、位置制御装置5の構成とともに説明する。
位置制御装置5は、図1及び図2に示すように、枠体51、フィードモータ52、スクリューロッド53、軸受部54及び移動ステージ55から構成される機構部分と、枠体51の一部に取り付けられているモータ駆動回路56及び移動位置検出回路57から構成される。枠体51は、直方体形状の金属体に直方体形状の穴が開けられたものであり、枠体51の直方体形状の穴に嵌めこまれた移動ステージ55に連結されたX線回折測定装置1から出射されるX線の出射方向が、移動ステージ55の移動方向と平行になるように、図1の裏面側が固定棒49に連結された固定ブロック50に連結されている。枠体51の上側にはフィードモータ52が固定され、フィードモータ52の回転軸にはスクリューロッド53が連結され、スクリューロッド53の反対側は軸受部54に連結されている。移動ステージ55は中心部分に雌ネジが切られた孔が開けられ、この孔と雄ネジが切られたスクリューロッド53が迎合している。そして、フィードモータ52の回転軸及びスクリューロッド53の中心軸の方向は、X線回折測定装置1から出射されるX線の光軸方向と平行であり、フィードモータ52が回転しスクリューロッド53が回転すると、移動ステージ55及びこれに連結されたX線回折測定装置1(筐体30)は出射X線の光軸方向に移動する。なお、出射X線の光軸方向はZ方向(ステージStの平面の垂直方向)と30°の角度を成しており、出射X線の光軸方向を測定対象物OBに投影した方向は、Y方向(ステージStの移動方向)である。これにより、上述したコントローラ71の計算により、測定対象物OBのX線照射点のそれぞれにおいて、Y方向の残留垂直応力が測定される。
フィードモータ52内には、エンコーダ52aが組み込まれており、エンコーダ52aはフィードモータ52が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号をモータ駆動回路56及び移動位置検出回路57へ出力する。モータ駆動回路56は、コントローラ71から移動位置が入力すると、移動位置検出回路57から入力する移動位置がコントローラ71から入力した移動位置になるまでフィードモータ52へ駆動信号を出力する。また、モータ駆動回路56は、コントローラ71からフィードモータ52側の移動限界位置への移動指令を入力すると、後述する移動位置検出回路57から停止指令が入力するまでフィードモータ52へ駆動信号を出力する。そして、フィードモータ52へ駆動信号を出力するとき、フィードモータ52の回転が移動方向に対応する回転方向になり、エンコーダ52aから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数が、予め設定されている単位時間当たりのパルス数になるよう、駆動信号を制御する。これにより、コントローラ71から移動位置又は移動限界位置移動指令が出力すると、移動ステージ55及び筐体30は該移動位置又は原点位置まで設定された移動速度で移動して停止する。また、モータ駆動回路56は、コントローラ71から位置制御の指令が入力すると、後述するサーボ信号生成回路36から入力する信号の極性と強度に基づいた駆動信号をフィードモータ52へ出力する。
移動位置検出回路57はコントローラ71からフィードモータ52側の移動限界位置への移動指令を入力すると、エンコーダ52aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、パルス数のカウントが停止すると、モータ駆動回路56に停止指令を出力して、パルス数のカウント値を「0」に設定する。以後、移動位置検出回路57はエンコーダ52aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、移動方向によりカウント値を加算または減算し、カウント値から移動位置を算出してモータ駆動回路56とコントローラ71に出力する。これにより、移動ステージ55及び筐体30の移動位置がフィードモータ52側の移動限界位置を原点として検出される。
エラー信号生成回路35は、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が出力する信号であるA,B,C,Dの信号を入力し、C,Dの信号の増幅率に対するA,Bの信号の増幅率の比が、コントローラ71の演算処理においてA,Bの信号強度に乗算する定数と等しくなる増幅率で、A,B,C,Dの信号を増幅する。そして、強度が{(A+D)−(B+C)}となる信号を作成してサーボ信号生成回路36に出力する。サーボ信号生成回路36はコントローラ71から位置制御開始の指令が入力すると、エラー信号生成回路35から入力した信号をローパスフィルタを通すことにより周波数の低い信号にし、この信号を照射点−検出平面間距離の基準距離からのずれ量に相当する強度の信号に変換してモータ駆動回路56に出力する。上述したように、モータ駆動回路56は、サーボ信号生成回路36から入力する信号の極性と強度に基づいた駆動信号をフィードモータ52へ出力する。これにより、エラー信号生成回路35が出力する信号は常に0になるよう制御され、ステージStの移動方向に測定対象物OBの厚さが変動しても、照射点−検出平面間距離は常に基準距離になるよう制御される。言い換えると、位置特性値である{(A+D)−(B+C)}の値は常に0になるよう制御される。
なお、回折X線強度分布のピーク位置がシンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面内及びシンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面内にないと、上述した位置制御は不可能であるので、最初に照射点−検出平面間距離が基準距離付近になるよう移動ステージ55及び筐体30を移動させたうえで、上述した位置制御が行われる。コントローラ71のメモリには、測定対象物OBの厚さが基準値であり、照射点−検出平面間距離が基準距離であるときの、移動位置検出回路57が検出する移動位置が基準移動位置として記憶されている。よって、コントローラ71がモータ駆動回路56に基準移動位置を出力した後、サーボ信号生成回路36とモータ駆動回路56に位置制御開始の指令を出力することで、上述した位置制御が行われる。
ステージStの側面の近傍には、測定対象物OBの先端および後端が出射X線が照射される位置になったことを検出するための端検出センサ60が取り付けられている。端検出センサ60はステージStの反対側の側面近傍にあるレーザ光の受光の有無により、測定対象物OBの先端および後端を検出するものであり、レーザ光を受光すると所定強度の信号を出力し、レーザ光の受光がないと信号の出力はないようになっている。端検出回路61は端検出センサ60と一体になっており、コントローラ71から作動指令が入力した後、端検出センサ60から入力する信号の強度が所定強度から0になると、「先端検出」を意味する信号をコントローラ71に出力し、0から所定強度になると「後端検出」を意味する信号をコントローラ71に出力する。なお、端検出センサ60が検出するライン(反対側にあるレーザ光の光軸)は、測定対象物OBの移動方向に対して出射X線の光軸が測定対象物OBの表面と交差する点よりやや後方にあり、後述するように、「先端検出」の信号が出力されたときは、予め設定された時間をおいてX線の出射と回折X線の強度の検出を行い、「後端検出」の信号が出力されたときは、即座にX線の出射と回折X線の強度の検出を停止するようになっている。これは、出射X線が測定対象物OBの先端及び後端の縁にかかった状態では正確な測定ができないため、この状態のときは測定を行わないようにするためである。
次に、上記のように構成したX線回折測定装置1を含むX線回折測定システムを用いて、一定速度で移動する長尺状のステージStに載置された測定対象物OBの残留応力と広がり特性値を連続的に測定し、測定対象物OBの合否を判定する場合のX線回折測定システムの作動について説明する。なお、この説明においては、残留応力の絶対値が許容値から大きい場合、又は広がり特性値の絶対値が許容値から大きい場合を不合格とするが、広がり特性値における合否判定の許容値は、得られた応力特性値を記憶されている残留応力と応力特性値との関係に当てはめて残留応力を計算することが可能か否かを判定する際の許容値と同じとする。
まず、作業者はX線回折測定システムの電源を投入する。これにより、コントローラ71はモータ駆動回路56及び移動位置検出回路57に移動限界位置移動指令を出力し、移動ステージ55及び筐体30(X線回折測定装置1)はフィードモータ52側の移動限界位置である限界位置に移動する。次に作業者は、入力装置72からX線回折測定装置1が測定位置へ移動する指令を入力する。これによりコントローラ71は、モータ駆動回路56に基準移動位置を出力し、移動ステージ55及び筐体30は、測定対象物OBの厚さが基準値であるときに照射点−検出平面間距離が基準距離になる基準移動位置まで移動する。次に作業者は、ステージStを移動させる装置を作動させ、入力装置72から測定開始を入力する。これによりコントローラ71は、インストールされている図7に示すフローのプログラムの実行をステップS1にて開始する。以下、図7に示すフローに沿って説明する。
まず、コントローラ71はステップS2にて、コントローラ71に内蔵されたクロックによる時間計測を開始し、ステップS3にて端検出回路61に作動開始の指令を出力する。これにより端検出回路61は、上述したように端検出センサ60からの信号により測定対象物OBの先端と後端を検出するごとに、「先端検出」及び「後端検出」を意味する信号をコントローラ71に出力する。次にコントローラ71はステップS4にて測定対象物OBを識別する番号であるmを「1」にし、ステップS5にて測定点を識別する番号であるnを「1」にする。そして、ステップS6にて端検出回路61から最初の測定対象物OBにおける「先端検出」の信号が入力するのをNoの判定を繰り返しながら待ち、入力するとYesと判定してステップS7へ行き、ステップS7にて計測時間をリセットして0にし、ステップS8にて予め設定した時間Tが経過するのをNoの判定を繰り返しながら待つ。これは、上述したように、端検出センサ60が検出するライン(反対側にあるレーザ光の光軸)は、測定対象物OBの移動方向に対して出射X線の光軸が測定対象物OBの表面と交差する点よりやや後方にあり、出射X線が測定対象物OBの縁にかかると正確な測定が行われないため、X線照射点が測定対象物OBの縁より微小距離だけ離れ、正確な測定を行うことができるまで待つためである。
コントローラ71は、時間Tが経過するとYesと判定してステップS9へ行き、ステップS9にてX線制御回路40に出射開始の指令を出力し、ステップS10にてSD信号取出回路31〜34にデータ出力開始の指令を出力し、ステップS11にてサーボ信号生成回路36とモータ駆動回路56に位置制御開始の指令を出力する。これにより、X線回折測定装置1(筐体30)からX線が測定対象物OBに照射され、回折X線強度のデジタルデータがコントローラ71に入力し、照射点−検出平面間距離が常に基準距離になるX線回折測定装置1(筐体30)の位置制御が開始される。
次に、コントローラ71はステップS12にて、時間が(T+Δt)になるまでNoの判定を繰り返しながら待ち、時間が(T+Δt)になるとYesと判定してステップS13へ行き、ステップS13にてSD信号取出回路31〜34から入力している回折X線強度に相当する強度のデータI(n,m)をメモリに取り込む。取り込み時間は予め設定されており、この設定時間中にSD信号取出回路31〜34から入力しているデータはすべて取り込む。次にステップS14にて、取込んだ回折X線強度のデータI(n,m)を平均して上述した信号A,B,C,Dのそれぞれの強度値にし、A,Bの値に、残留応力が0であり回折X線強度分布の広がりが標準であるときに該A,Bの値に乗算すると乗算後の値がA,B,C,Dで等しくなる定数を乗算する。次にステップS15にて、{(A+B)‐(C+D)}なる計算式で広がり特性値D(n,m)を計算し、ステップS16にて、広がり特性値D(n,m)の絶対値が許容値以下か否かを判定する。許容値以下の場合はYESと判定してステップS18へ行き、ステップS18にて合格とするメモリ領域へ広がり特性値D(n,m)を記憶する。また、許容値より大きい場合はNoと判定してステップS17へ行き、ステップS17にて不合格とするメモリ領域へ広がり特性値D(n,m)を記憶する。そして、ステップS18へ行った場合(広がり特性値が合格の場合)は、続くステップS19にて、{(A+C)−(B+D)}なる計算式で応力特性値を計算し、予めメモリに記憶されている残留応力と応力特性値との関係テーブル又は関係式に計算した応力特性値を当てはめることで、残留応力σ(n,m)を求める。また、ステップS17へ行った場合(広がり特性値が不合格の場合)は、残留応力σ(n,m)は計算せず、後述するステップS23へ行く。
ステップS19にて残留応力σ(n,m)を計算したときは、ステップS20にて残留応力σ(n,m)の絶対値が許容値以下か否かを判定する。許容値以下の場合はYESと判定してステップS22へ行き、ステップS22にて合格とするメモリ領域へ残留応力σ(n,m)を記憶する。また、許容値より大きい場合はNoと判定してステップS21へ行き、ステップS21にて不合格とするメモリ領域へ残留応力σ(n,m)を記憶する。なお、残留応力σ(n,m)は圧縮応力と引っ張り応力で符号が変わるため、絶対値を許容値と比較して判定する。ステップS21、ステップS22のどちらへ行った場合も、残留応力σ(n,m)のメモリへの記憶が終了するとステップS23へ行き、ステップS23にて、端検出回路61から最初の測定対象物OBにおける「後端検出」の信号が入力したか判定するが、この段階では検査を開始したばかりであるのでNoと判定してステップS24へ行き、nをインクリメントしてステップS12に戻る。そして、ステップS12にて計測時間がT+n・Δt(この場合はT+2・Δt)になるまで待ち、計測時間がT+n・ΔtになるとYesと判定してステップS13へ行き、上述したステップS13乃至ステップS23の処理を行ってステップS12へ戻る。
このようにして計測時間がT+Δt,T+2・Δt,T+3・Δt・・・と、Δtづつ増えるごとに、広がり特性値D(n,m)及び残留応力σ(n,m)が計算されて、それぞれ合否判定が行われ、不合格(異常検出)の場合は、広がり特性値D(n,m)又は残留応力σ(n,m)が不合格とするメモリ領域に記憶されていく。そして、端検出回路61から「後端検出」の信号が入力すると、ステップS23にてYesと判定してステップS25へ行き、ステップS25にてX線制御回路40に出射停止の指令を出力し、ステップS26にてSD信号取出回路31〜34に出力停止の指令を出力し、ステップS27にてサーボ信号生成回路36とモータ駆動回路56に位置制御停止の指令を出力する。これにより、測定対象物OBへのX線照射は停止し、回折X線強度に相当するデータの出力は停止し、X線回折測定装置1(筐体30)の位置制御は停止する。そして、ステップS28にてモータ駆動回路56に基準移動位置を出力し、これによりX線回折測定装置1(筐体30)は、検査開始時の移動位置に戻る。上述したように、端検出センサ60が検出するライン(反対側にあるレーザ光の光軸)は、測定対象物OBの移動方向に対して出射X線の光軸が測定対象物OBと交差する点よりやや後方にあるため、端検出センサ60が後端を検出したときは、出射X線は測定対象物OBの後端の縁にかかっていない。よって、「後端検出」の信号が入力したときは、即座にX線照射とデータの出力を停止する。
次に、コントローラ71はステップS29にて、不合格とするメモリ領域に記憶した広がり特性値D(n,m)又は残留応力σ(n,m)に現時点のm(この場合はm=1)があるか判定し、ない場合はNoと判定してステップS32へ行き、「合格」の表示をm=1に対応する測定対象物OBの識別情報とともに表示装置73へ表示させる。また、不合格とするメモリ領域に記憶した広がり特性値D(n,m)又は残留応力σ(n,m)がある場合は、Yesと判定してステップS30へ行き、「不合格」の表示をm=1に対応する測定対象物OBの識別情報とともに表示装置73へ表示させる。そして、ステップS31にて、記憶したデータのn、予め記憶されているステージStの移動速度F、時間Tおよび端検出センサ60が検出するラインから出射X線の光軸が測定対象物OBと交差する点までのY方向距離Bから、F・(T+n・Δt)−Bの計算を行い、異常箇所の測定対象物OBの先端からの距離を計算する。さらに、広がり特性値D(n,m)の絶対値から許容値を減算した大きさ、又は残留応力σ(n,m)の絶対値から許容値を減算した大きさを、予め記憶されている異常度合のテーブルに当てはめて異常度合を定める。異常度合のテーブルは、広がり特性値D(n,m)の絶対値から許容値を減算した大きさ、および残留応力σ(n,m)の絶対値から許容値を減算した大きさを範囲ごとに分け、「微」,「小」,「中」,「大」,「特大」又は「1」,「2」,「3」,「4」,「5」というように異常度合を定めたものである。なお、広がり特性値D(n,m)の絶対値から許容値を減算した大きさ、および残留応力σ(n,m)の絶対値から許容値を減算した大きさを、そのまま異常の度合いとしてもよい。そして、コントローラ71は、このように計算した異常箇所の先端からの距離と定めた異常の度合を、異常の種類(表面硬さの異常か、残留応力の異常か)とともに表示装置73へ表示する。この表示において、数値での表示に加えて図で異常箇所と異常の度合を示す表示を行うと測定結果が分かりやすい。
次に、コントローラ71はステップS33にて、mをインクリメントしてステップS5に戻り、m=2の測定対象物OBに対して、上述したステップS5乃至ステップS32の処理を行う。そして、ステップS33にて、mをインクリメントしてステップS5に戻り、m=3の測定対象物OBに対して同様の処理を行う。このようにして、移動するステージStに載置されて次々に移動してくる測定対象物OBが測定され、測定結果が表示装置73に表示される。作業者は表示装置73に表示される結果を見て、不合格と判定された測定対象物OBをステージStから取り除き、それ以外の測定対象物OBと分別する。そして、測定する測定対象物OBがなくなり、作業者が入力装置72から検査停止の指令を入力すると、ステップS34にてYesと判定してステップS35へ行き、ステップS35にて端検出回路61へ作動停止の指令を出力し、内蔵されたクロックによる時間計測を停止する。次にステップS36にて、記憶した広がり特性値D(n,m)及び残留応力σ(n,m)を別のメモリ領域に移動して、次回の検査の際に使用するメモリ領域を空にし、ステップS37にてプログラムの実行を終了する。
このように、ステージStを移動させた後、入力装置72から検査開始の指令を入力すれば、コントローラ71がインストールされたプログラムを実行することで、ステージStに載置された測定対象物OBの測定が次々に行われ、測定結果が順に表示装置73に表示される。作業者は異常が検出された測定対象物OBの異常の原因を詳細に分析したいときは、該測定対象物OBをX線回折像を得るX線回折測定装置にセットして、異常箇所のX線回折像を測定すればよい。なお、コントローラ71に記憶されている残留応力と応力特性値との関係テーブル又は関係式を用いて残留応力を計算するには、測定対象物OBに照射されるX線の強度が一定である必要がある。上述したように、X線制御回路40は、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、高電圧電源45からX線出射器10に供給される駆動電流及び駆動電圧を制御しているが、長期間が経過するとX線出射器10から出射されるX線の強度が変化する可能性がある。よって、定期的に標準の測定対象物OBの残留応力を測定して残留応力が許容範囲内にあることを確認する。そして、許容範囲外になったときは、X線回折測定装置1のメンテナンスを行うか、X線制御回路40の設定を変えて標準の測定対象物OBの残留応力を許容範囲内にするか、又は残留応力既知の複数の測定対象物OBを用いて、コントローラ71に記憶されている残留応力と応力特性値との関係テーブル又は関係式を設定し直す。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を略平行光にして出射するX線出射器10及び円筒状パイプ22と、円筒状パイプ22から出射されるX線が測定対象物OBに照射されたとき、測定対象物OBのX線照射点にて発生する回折X線の強度を検出する複数のシンチレーションカウンター21−1〜21−4であって、回折X線により形成される回折環の0°と180°の位置にそれぞれ、シンチレーションカウンター21−1〜21−4のX線入射面を回折環の半径方向に密着して配置し、回折環の0°と180°の位置で、すべてのX線入射面における半径方向の長さを異なるようにしたシンチレーションカウンター21−1〜21−4と、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が検出する回折X線の強度を用いて、回折環の半径方向における回折X線強度分布のピーク位置の移動に基づく値を応力特性値として計算するコントローラ71にインストールされたプログラムの第1の演算機能と、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が検出する回折X線の強度を用いて、回折環の半径方向における回折X線強度分布の広がりに基づく値を広がり特性値として計算するコントローラ71にインストールされたプログラムの第2の演算機能と、広がり特性値が標準値である0のときの応力特性値と残留応力との関係が予め記憶され、計算された広がり特性値の標準値である0からのずれが許容値内であるとき、計算された応力特性値を記憶された関係に当てはめることで残留応力を計算するコントローラ71にインストールされたプログラムの第3の演算機能とを備えたX線回折測定装置1を含むX線回折測定システムとしている。
これによれば、回折X線により形成される回折環の0°と180°の位置に配置したシンチレーションカウンター21−1〜21−4が回折X線の強度を検出すると、即座にコントローラ71にインストールされたプログラムが応力特性値と広がり特性値を計算し、計算された広がり特性値の標準値である0からのずれ(広がり特性値の絶対値)が許容値内であることを判定のうえ、記憶された応力特性値と残留応力との関係に計算された応力特性値を当てはめて残留応力を計算する。よって、コントローラ71を高速のコンピュータ装置70を用いて構成すれば、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が回折X線の強度を検出するのとほぼ同じタイミングで残留応力が計算される。すなわち、このX線回折測定装置1を含むX線回折測定システムによれば、X線が照射された箇所が移動する場合であっても、連続的に残留応力の測定が可能になる程、極短時間で残留応力を測定することができる。
また、上記実施形態においては、シンチレーションカウンター21−1〜21−4は、回折環の0°と180°の位置にそれぞれ、2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2と21−3,21−4のX線入射面を密着して配置したものであって、X線照射点からX線入射面までの距離が基準距離であるとき、2つのX線入射面の密着した箇所が、回折環の半径方向における回折X線強度分布のピーク位置になるよう配置したものであり、0°と180°の位置にそれぞれ配置した2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2と21−3,21−4のX線入射面の半径方向の長さは、シンチレーションカウンター21−1,21−2が半径方向における回折X線の強度がピーク位置の強度の50%程度になる箇所を両端にする範囲間の長さであり、シンチレーションカウンター21−3,21−4がシンチレーションカウンター21−1,21−2の2倍程度の長さであり、シンチレーションカウンター21−1〜21−4のそれぞれが検出する回折X線の強度を、X線入射面の0°の位置から180°の位置に向かう方向に並んだ順にA,B,C,Dとすると、残留応力が0であり回折X線強度分布の広がりが標準であるとき、A,Bに乗算すると乗算後のA,B,C,Dの強度が略等しくなる定数を、A,Bに乗算するコントローラ71にインストールされたプログラムの乗算機能を備え、コントローラ71にインストールされたプログラムは、乗算機能で乗算されたA,B,C,Dを用いて、{(A+C)‐(B+D)}なる計算式で応力特性値を計算し、{(A+B)‐(C+D)}なる計算式で広がり特性値を計算するようにしている。
これによれば、シンチレーションカウンター21−1〜21−4を回折環の0°と180°の位置にそれぞれ2つづつ配置すればよいのでシンチレーションカウンター21−1〜21−4の数は4つでよく、X線回折測定装置1のコストを抑制することができる。
また、上記実施形態においては、X線出射器10及び円筒状パイプ22とシンチレーションカウンター21−1〜21−4を内部に含む筐体30と、筐体30と測定対象物OBとの相対的な位置関係を、X線照射点からシンチレーションカウンター21−1〜21−4のX線入射面までの距離が変化するよう変化させる位置制御装置5と、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が検出した回折X線の強度であるA,B,C,Dを、コントローラ71にインストールされたプログラムの乗算機能において乗算に用いた定数の比と同じ比の増幅率で増幅したうえで、{(A+D)−(B+C)}なる計算式で筐体30の測定対象物OBに対する位置に基づく値を位置特性値として計算するエラー信号生成回路35と、エラー信号生成回路35が計算した位置特性値が0になるよう、位置制御装置5を制御するサーボ信号生成回路36及びモータ駆動回路56とを備えている。
これによれば、X線照射点の移動方向と測定対象物OBの表面が平行でない場合や、測定対象物OBの表面に凹凸がある場合であっても、常にX線照射点からシンチレーションカウンター21−1〜21−4のX線入射面までの距離(照射点−検出平面間距離)を基準距離にすることができ、残留応力および広がり特性値を精度よく計算することができる。
また、本発明の他の特徴は、回折環の0°と180°の位置に、それぞれX線入射面を密着して配置した2つのシンチレーションカウンター21−1,21−2及び21−3,21−4の片方において、X線入射面を密着した箇所の反対側の縁から所定割合遮閉することで、回折環の0°と180°の位置におけるX線入射面の半径方向の長さを異なるようにしたことにある。
これによれば、4つのシンチレーションカウンター21−1〜21−4はすべて同一のものを手配すればよいので、X線回折測定装置1の製作工数を抑制することができ、また、X線回折測定システムのコストを抑制することもできる。
なお、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態においては、広がり特性値の絶対値が許容値より大きい場合は、計算した応力特性値を予め記憶してある応力特性値と残留応力との関係テーブル又は関係式に当てはめて残留応力を計算することはせず、広がり特性値のみで不合格としたが、広がり特性値によらず残留応力を計算できるようにしてもよい。この場合は、コントローラ71のメモリに複数の広がり特性値、及び複数の応力特性値と残留応力との関係を互いに対応するように記憶し、記憶された複数の広がり特性値の中から計算された広がり特性値が最も近いものを選定することで、記憶された複数の応力特性値と残留応力との関係の中から適用する関係を選定し、計算された応力特性値を選定した関係に当てはめることで残留応力を計算するようにすればよい。
コントローラ71のメモリに複数の広がり特性値、及び複数の応力特性値と残留応力との関係テーブル又は関係式を互いに対応するように記憶するには、次のようにすればよい。まず、特許文献1に示されるX線回折測定装置で様々な測定対象物OBの残留応力を測定する。次に、同一測定箇所を本実施形態のX線回折測定システムで照射点−検出平面間距離を基準距離にして応力特性値である{(A+C)−(B+D)}と広がり特性値である{(A+B)‐(C+D)}を測定し、広がり特性値ごとに分類して、応力特性値と残留応力の値を記憶すればよい。また、回折X線強分布の広がりが異なる複数の測定対象物OBを用意し、外部から既知の力を加えて既知の残留応力を発生させ、本実施形態のX線回折測定システムで照射点−検出平面間距離を基準距離にして応力特性値である{(A+C)−(B+D)}と広がり特性値である{(A+B)‐(C+D)}を測定しても得ることができる。
これによれば、広がり特性値の絶対値が許容値より大きい場合でも、複数ある応力特性値と残留応力との関係の中から計算された広がり特性値に最も合うものを選定し、計算した応力特性値を当てはめて残留応力を計算することができる。上記実施形態で説明したように、広がり特性値は測定対象物OBの表面硬さと相関関係があり、広がり特性値の絶対値が許容値以下である時は、測定対象物OBの表面硬さが正常であるときである。すなわち、これによれば、測定対象物OBの表面硬さが正常でない場合でも残留応力を計算することができる。また、これによれば、測定対象物OBの表面硬さにおいて正常とする範囲を広くした場合、すなわち広がり特性値における許容値を緩くした場合でも、残留応力と広がり特性値とにより合否判定を行うことができる。
また、上記実施形態においては、シンチレーションカウンター21−1〜21−4をすべて同一のものにし、シンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面に遮蔽板24を固定することで該X線入射面の半径方向における半分の面が遮蔽されるようにした。しかし、シンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面とシンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面の半径方向の長さを変えることができれば、コントローラ71において同様の演算処理で残留応力と広がり特性値を計算することができる。また、同様の制御によりX線回折測定装置1(筐体30)の位置制御を行うこともできる。よって、製作コストを重要視しなければ、シンチレーションカウンター21−1,21−2とシンチレーションカウンター21−3,21−4は、X線入射面の半径方向長さが異なるものを用意してもよい。
また、上記実施形態においては、シンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面の半径方向長さを、回折X線の強度がピーク位置の強度の50%程度になる箇所を両端にする範囲間の長さにし、シンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面の半径方向長さを、シンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面の半径方向長さの2倍の長さにした。しかし、次の(1)と(2)の条件であれば、コントローラ71において上記実施形態と同様の演算処理で残留応力と広がり特性値を計算し、上記実施形態と同様の制御によりX線回折測定装置1(筐体30)の位置制御を行うことができる。(1)シンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面の半径方向長さは、回折X線の強度がピーク位置の強度の30〜70%になる箇所を両端にする範囲間の長さ。(2)シンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面の半径方向長さは、シンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面の半径方向長さの1.5〜3倍の長さ。よって、シンチレーションカウンター21−1〜21−4のX線入射面の半径方向長さは、この条件の範囲内で様々に変更して測定を行い、最も適切な長さに設定すればよい。
また、上記実施形態においては、シンチレーションカウンター21−1〜21−2のX線入射面の半径方向長さを、シンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面の半径方向長さより小さくしたが、反対にシンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面の半径方向長さを、シンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面の半径方向長さより小さくしてもよい。その場合でもコントローラ71での演算処理の方法とX線回折測定装置1(筐体30)の位置制御の方法は同じである。
また、上記実施形態においては、回折環の0°と180°の位置に、シンチレーションカウンター21をそれぞれ2つづつ配置し、シンチレーションカウンター21−1,21−2のX線入射面の半径方向長さを、シンチレーションカウンター21−3,21−4のX線入射面の半径方向長さより小さくした。しかし、装置のコストを重要視しなければ、回折環の0°と180°の位置でシンチレーションカウンター21のすべてのX線入射面における半径方向長さを異ならせ、検出する回折X線強度を用いて、回折環の半径方向における回折X線強度分布のピーク位置の移動に基づく値を応力特性値として計算でき、回折環の半径方向における回折X線強度分布の広がりに基づく値を広がり特性値として計算できれば、シンチレーションカウンター21の数を上記実施形態より増やしてもよい。例えば、図5及び図6に示されるシンチレーションカウンター21の先端に示したA,B,C’,C”,D’,D”に対応するように6つのシンチレーションカウンター21を配置してもよい。この場合であれば、C=C’+C”、D=D’+D”とすれば、上記実施形態と同様の計算で応力特性値と広がり特性値を計算することができる。また、これ以外の場合でも、応力特性値と広がり特性値は、回折環の0°と180°の位置に配置したシンチレーションカウンター21のすべてのX線入射面における半径方向長さを適切な長さにすれば、適宜計算することができる。
また、上記実施形態においては、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が出力する回折X線強度に相当する強度の電気信号を、SD信号取出回路31〜34によりデジタルデータにしてコントローラ71に入力し、コントローラ71による演算処理により応力特性値及び広がり特性値を計算した。しかし、これらの特性値を計算できるならば、別の手段を用いてもよい。例えば、エラー信号生成回路35に入力した電気信号から、強度が{(A+D)−(B+C)}となる位置特性値に相当する電気信号を作成するとともに、強度が{(A+C)−(B+D)}及び{(A+B)−(C+D)}となる応力特性値及び広がり特性値に相当する電気信号を作成する。そして、応力特性値及び広がり特性値に相当する電気信号をAD変換器によりデジタルデータにしてコントローラ71に入力させるようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、シンチレーションカウンター21−1〜21−4が出力する回折X線強度に相当する強度の電気信号をエラー信号生成回路35に入力させ、エラー信号生成回路35にて位置特性値に相当する電気信号を作成し、サーボ信号生成回路36及びモータ駆動回路56により、位置特性値に相当する電気信号が0になるよう制御を行った。しかし、位置特性値が0になるよう筐体30の位置を制御できるならば、別の手段を用いてもよい。例えば、コントローラ71にて{(A+D)−(B+C)}なる計算により位置特性値を求め、この値が0になるための筐体30の移動量を計算し、その時点で移動位置検出回路57から入力している移動位置に計算した移動量を加減算した移動位置をモータ駆動回路56に出力することを、短い時間間隔で繰り返してもよい。
また、上記実施形態では、本発明を測定対象物OBが移動機構のステージSt上に載置され一定速度で移動する場合に適用したが、測定対象物OBがX線回折測定装置1に対して相対的に移動する場合であれば、どのような場合でも本発明は適用することができる。例えば、固定されたステージに測定対象物OBを載置し、X線回折測定装置1を測定対象物OBの表面と平行に移動させる場合でも本発明は適用することができる。また、X線回折測定装置1を車両に搭載し、測定対象物OB上を走行させる場合でも本発明は適用することはできる。また、本発明は測定対象物OBがX線回折測定装置1に対して相対的に移動する場合でなくても、測定対象物OBを次々に固定されたステージ上に載置し、それぞれの測定対象物OBの設定された箇所を測定する場合でも適用することができる。
また、上記実施形態では、X線回折測定装置1(筐体30)を出射X線の光軸方向に移動させる位置制御を行うようにしたが、照射点−検出平面間距離が常に基準距離になるよう制御できればよいので、測定対象物OBを載置したステージを高さ方向に移動させる位置制御を行ってもよい。ただし、上記実施形態のようにX線照射点に対してステージが移動する機構であると、ステージを高さ方向に移動させる機構にするのは困難であるので、固定されたステージに測定対象物OBを次々に載置し、それぞれの測定対象物OBの設定された箇所を測定する場合に、ステージを高さ方向に移動させる位置制御を行うことができる。
また、上記実施形態では、X線回折測定装置1(筐体30)を出射X線の光軸方向に移動させる位置制御装置5をフィードモータ52を回転させ移動ステージ55をZ方向に移動させる装置にした。しかし照射点−検出平面間距離が常に基準距離になるようX線回折測定装置1(筐体30)を出射X線の光軸方向に移動させる制御ができれば、位置制御装置5はどのような作動方式のものでもよい。例えば、電磁石に流す電流強度を変化させることで吸引力又は反発力を変化させ、X線回折測定装置1(筐体30)を取り付けた箇所と固定箇所との間の距離を変化させる方式にしてもよい。
また、上記実施形態では、X線回折測定装置1から出射されたX線が30°の入射角で測定対象物OBに照射されるようにしたが、測定対象物OBの残留応力が測定できればよいので、入射角は10〜80°における適切な入射角に設定すればよい。ただし、応力特性値と残留応力との関係テーブル又は関係式はX線の入射角により変化するので、一度設定したX線の入射角は固定する必要がある。
また、上記実施形態では、測定対象物OBを残留応力と広がり特性値により合否判定したが、これ以外に取得したデータ又は取得できるデータから算出可能なものにより合否判定を行ってもよい。例えば、移動方向における残留応力又は広がり特性値の変化曲線から計算される平均値、最大値、最小値及び変動度合いにより合否判定を行ってもよい。また、移動位置検出回路57から入力する位置データにより、移動方向における測定対象物OBの表面プロファイルを算出し、これから計算される変動範囲、Ra値及びRMS値で合否判定を行ってもよい。
また、上記実施形態では、回折X線強度を検出するのにシンチレーションカウンター21を使用したが、X線の強度を精度よく高速で検出することができれば、どのようなX線検出センサを用いてもよい。
また、上記実施形態では、X線出射器10から出射されたX線を円筒状パイプ22を介して測定対象物OBに照射することで、照射するX線を略平行光にしたが、X線を適切な断面直径の略平行光にすることができるならば、どのような手段を用いてもよい。例えば、長尺の孔を有するブロックの孔を介してX線を測定対象物OBに照射するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、端検出センサ60はステージStの反対側から出射されているレーザ光の受光の有無により、測定対象物OBの先端および後端を検出するものにしたが、端検出センサ60は測定対象物OBの先端および後端を検出できれば、どのような作動原理のものでもよい。例えば、端検出センサ60を撮像機能のあるものにし、ステージStの反対側に輝点や特殊なマークを設けて、撮像画像から輝点や特殊なマークがなくなることや現れることで測定対象物OBの先端および後端を検出するものであってもよい。