一次粒子の粒径が10nm以下であるナノダイヤモンドは、バルクダイヤモンドがそうであるように高い機械的強度や、高い屈折率、高い熱伝導性などを示し得る。微粒子たるナノ粒子は、一般に、表面原子(配位的に不飽和である)の割合が大きいので、隣接粒子の表面原子間で作用し得るファンデルワールス力の総和が大きくて凝集(aggregation)しやすい。これに加えて、ナノダイヤモンド粒子の場合、隣接結晶子の結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成する凝着(agglutination)という現象が生じ得る。ナノダイヤモンド粒子は、このように結晶子ないし一次粒子の間が重畳的に相互作用し得る特異な性質を有するところ、従来の技術においては、ナノダイヤモンドの一次粒子間を解離させて当該一次粒子が例えば溶媒中や樹脂材料中で分散した状態を創り出すことには、技術的困難を伴う。従来のナノダイヤモンド一次粒子におけるこのような分散性の低さは、ナノダイヤモンド粒子を含有する複合材料の設計上の自由度が低いことの要因であり、ナノダイヤモンド複合材料を作製するうえで障害となる場合がある。
本発明は、以上のような事情のもとで考え出されたものであり、複合材料をなすのに適したナノダイヤモンド粒子を含有するナノダイヤモンド分散液を提供することを、目的とする。また、本発明は、複合材料をなすのに適したナノダイヤモンドを提供することを他の目的とする。
本発明の第1の側面によると、ナノダイヤモンド分散液が提供される。このナノダイヤモンド分散液は、分散媒と、当該分散媒中に一次粒子として分散しているナノダイヤモンド粒子とを含み、ナノダイヤモンド粒子の含む炭素におけるカルボキシル炭素の割合が1.0%以上である。本発明において、ナノダイヤモンドの一次粒子とは、粒径10nm以下のナノダイヤモンドをいうものとする。カルボキシル炭素の含有割合の値は、例えば固体13C-NMR分析に基づいて得ることができる。ナノダイヤモンドは、バルクダイヤモンドと同様に、sp3構造の炭素よりなる基本骨格を有するところ、本発明におけるカルボキシル炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有するカルボキシル基(本明細書では、−COOHを含む−C(=O)O)に含まれる炭素を意味するものとする。
本ナノダイヤモンド分散液中のナノダイヤモンド粒子は、一次粒子として分散媒中に分散しつつ、構成炭素中のカルボキシル炭素の含有割合が総じて1.0%以上となる量で官能基たるカルボキシル基を表面に有する。このような構成は、ナノダイヤモンド粒子について例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するのに適する。ナノダイヤモンド粒子の分散性が高いことは、ナノダイヤモンド粒子と他材料とを含有する複合材料の設計において高い自由度を実現するうえで好適であり、ひいては、ナノダイヤモンド粒子含有複合材料を作製するうえで好適である。
本発明の第2の側面によると、ナノダイヤモンド分散液が提供される。このナノダイヤモンド分散液は、分散媒と、当該分散媒中に一次粒子として分散しているナノダイヤモンド粒子とを含み、ナノダイヤモンド粒子の含む炭素におけるカルボニル炭素の割合が1.0%以上である。カルボニル炭素の含有割合の値は、例えば固体13C-NMR分析に基づいて得ることができる。ナノダイヤモンドは、バルクダイヤモンドと同様に、sp3構造の炭素よりなる基本骨格を有するところ、本発明におけるカルボニル炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有するカルボニル基(−C=O)に含まれる炭素を意味する(−C(=O)Oに含まれる炭素はカルボニル炭素に含まれないものとする)。
本ナノダイヤモンド分散液中のナノダイヤモンド粒子は、一次粒子として分散媒中に分散しつつ、構成炭素中のカルボニル炭素の含有割合が総じて1.0%以上となる量で官能基たるカルボニル基を表面に有する。このような構成は、ナノダイヤモンド粒子について例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するのに適する。ナノダイヤモンド粒子の分散性が高いことは、ナノダイヤモンド粒子と他材料とを含有する複合材料の設計において高い自由度を実現するうえで好適であり、ひいては、ナノダイヤモンド粒子含有複合材料を作製するうえで好適である。
本発明の第3の側面によると、ナノダイヤモンド分散液が提供される。このナノダイヤモンド分散液は、分散媒と、当該分散媒中に一次粒子として分散しているナノダイヤモンド粒子とを含み、ナノダイヤモンド粒子の含む炭素における水酸基結合炭素の割合が16.8%以上である。水酸基結合炭素の含有割合の値は、例えば固体13C-NMR分析に基づいて得ることができる。ナノダイヤモンドは、バルクダイヤモンドと同様に、sp3構造の炭素よりなる基本骨格を有するところ、本発明における水酸基結合炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有する水酸基(−OH)の結合する炭素を意味する。
本ナノダイヤモンド分散液中のナノダイヤモンド粒子は、一次粒子として分散媒中に分散しつつ、構成炭素中の水酸基結合炭素の含有割合が総じて16.8%以上となる量で官能基たる水酸基を表面に有する。このような構成は、ナノダイヤモンド粒子について例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するのに適する。ナノダイヤモンド粒子の分散性が高いことは、ナノダイヤモンド粒子と他材料とを含有する複合材料の設計において高い自由度を実現するうえで好適であり、ひいては、ナノダイヤモンド粒子含有複合材料を作製するうえで好適である。
本発明の上記第1、第2、および第3の側面において、ナノダイヤモンド粒子の含む炭素におけるカルボキシル炭素およびカルボニル炭素の総割合は好ましくは2.0%以上であり、ナノダイヤモンド粒子の含む炭素におけるカルボキシル炭素および水酸基結合炭素の総割合は好ましくは17.8%以上であり、ナノダイヤモンド粒子の含む炭素におけるカルボニル炭素および水酸基結合炭素の総割合は好ましくは17.8%以上であり、ナノダイヤモンド粒子の含む炭素におけるカルボキシル炭素、カルボニル炭素、および水酸基結合炭素の総割合は好ましくは18.8%以上である。
本発明の上記第1、第2、および第3の側面において、ナノダイヤモンド粒子の含む炭素におけるアルケニル炭素の割合は、好ましくは0.1%以上である。本発明におけるアルケニル炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有するアルケニル基に含まれる炭素を意味する。アルケニル炭素の含有割合が0.1%以上となる量で官能基たるアルケニル基を表面に有するという本構成は、ナノダイヤモンド粒子について例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するうえで好ましい場合がある。
本発明の上記第1、第2、および第3の側面において、ナノダイヤモンド粒子の含む炭素における水素結合炭素の割合は、好ましくは20.0%以上である。本発明における水素結合炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有する水素の結合する炭素を意味する。このような水素の結合は、ナノダイヤモンドの表面炭素の安定化に寄与する。
本発明の上記第1、第2、および第3の側面において、好ましくは、ナノダイヤモンド分散液中の分散媒は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、2−メトキシエタノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホン、および炭酸プロピレンからなる群より選択される少なくとも一つを含む。このような構成は、ナノダイヤモンド粒子を分散媒中に安定して分散させるうえで好適である。
本発明の上記第1、第2、および第3の側面において、好ましくは、ナノダイヤモンド分散液中のナノダイヤモンド粒子のゼータ電位は、−45〜−30mVである。このような構成は、本分散液におけるナノダイヤモンド粒子について安定分散化や安定分散状態の維持を図るうえで、好適である。本発明において、ナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子のゼータ電位とは、ナノダイヤモンド濃度が0.2質量%で25℃のナノダイヤモンド分散液におけるナノダイヤモンド粒子について測定される値とする。ナノダイヤモンド濃度0.2質量%のナノダイヤモンド分散液の調製のためにナノダイヤモンド分散液の原液を希釈する必要がある場合には、希釈液として超純水を用いる。
本発明の上記第1、第2、および第3の側面において、好ましくは、ナノダイヤモンド分散液のpHは4〜7の範囲にある。このような構成は、本分散液におけるナノダイヤモンド粒子について安定分散化や安定分散状態の維持を図るうえで、好適である。
本発明の上記第1、第2、および第3の側面において、ナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子は、好ましくは空冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子(空冷式の爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子)である。空冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子は、水冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子(水冷式の爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子)よりも一次粒子が小さい傾向にあるので、当該構成は、ナノダイヤモンド粒径の小さなナノダイヤモンド分散液を実現するうえで、好適である。
本発明の上記第1、第2、および第3の側面において、ナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子は、好ましくは空冷式大気共存下爆轟法ナノダイヤモンド粒子、即ち、空冷式であって大気組成の気体(有意量の酸素を含む)が共存する条件下での爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子である。空冷式であって大気組成の気体が共存する条件下で実施される爆轟法は、一次粒子表面の官能基量の多いナノダイヤモンド粒子を生じさせるうえで好適である。
本発明の第4の側面によると、ナノダイヤモンドが提供される。このナノダイヤモンドは、その構成炭素における割合が1.0%以上のカルボキシル炭素、構成炭素における割合が1.0%以上のカルボニル炭素、および、構成炭素における割合が16.8%以上の水酸基結合炭素、からなる群より選択される少なくとも一つを含む。本発明の第4の側面に係るナノダイヤモンドは、好ましくは、構成炭素における割合が0.1%以上のアルケニル炭素を含み、好ましくは、構成炭素における割合が20.0%以上の水素結合炭素を含む。このような多官能性のナノダイヤモンドは、例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するのに適する。ナノダイヤモンドの粒子としての分散性が高いことは、ナノダイヤモンド粒子と他材料とを含有する複合材料の設計において高い自由度を実現するうえで好適であり、ひいては、ナノダイヤモンド粒子含有複合材料を作製するうえで好適である。そして、このような多官能性のナノダイヤモンドは、樹脂材料その他の材料との複合化によって、当該他材料における各種物性の発現や向上に、利用することが可能である。
図1は、本発明の一の実施形態に係るナノダイヤモンド分散液たるND分散液10の拡大模式図である。ND分散液10は、ND粒子11と、分散媒12とを含む。
ND分散液10に含まれるND粒子11は、粒径が10nm以下のナノダイヤモンド一次粒子であり、且つ、分散媒12中にて互いに離隔してコロイド粒子として分散している。ND粒子11の粒径は、好ましくは9nm以下、より好ましくは8nm以下、より好ましくは7nm以下である。例えば、ナノダイヤモンド含有透明部材を形成する際に透明樹脂等にナノダイヤモンドを添加するための材料としてND分散液10を用いる場合、ND粒子11の粒径が小さいほど、当該透明部材において高い透明性を実現するうえで好ましい傾向にある。一方、ND粒子11の粒径の下限は、例えば1nmである。一次粒子の粒径は、小角X線散乱測定法や動的光散乱法によって測定することができる。
ND分散液10におけるND粒子11の濃度(固形分濃度)は、例えば、0.1〜5質量%である。また、ND分散液10中のND粒子11の純度は、例えば98質量%以上である。
ND分散液10中のND粒子11は総じて、ダイヤモンド基本骨格をなすsp3構造の炭素に加え、構成炭素における割合が1.0%以上のカルボキシル炭素、構成炭素における割合が1.0%以上のカルボニル炭素、および、構成炭素における割合が16.8%以上の水酸基結合炭素、からなる群より選択される少なくとも一つを含む。
ND分散液10中のND粒子11の含む炭素におけるカルボキシル炭素の割合は、総じて、好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.5%以上、より好ましくは1.7%以上、より好ましくは2.0%以上である。当該カルボキシル炭素の含有割合の上限は例えば5.0%である。ナノダイヤモンドは、バルクダイヤモンドと同様に、sp3構造の炭素よりなる基本骨格を有するところ、本実施形態におけるカルボキシル炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有するカルボキシル基(−COOHを含む−C(=O)O)に含まれる炭素を意味するものとする。本実施形態では、カルボキシル炭素の割合は、固体13C-NMR分析によって得られる値とする。ND分散液10中のND粒子11は、一次粒子として分散媒12中に分散しつつ、上記のカルボキシル炭素の含有割合が総じて好ましくは1.0%以上となる量で官能基たるカルボキシル基を表面に有する。このような構成は、ND粒子11について例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するのに適する。
ND分散液10中のND粒子11の含む炭素におけるカルボニル炭素の割合は、総じて、好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.5%以上、より好ましくは1.7%以上、より好ましくは2.0%以上である。当該カルボニル炭素の含有割合の上限は例えば5.0%である。本実施形態におけるカルボニル炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有するカルボニル基(−C=O)に含まれる炭素を意味する(−C(=O)Oに含まれる炭素はカルボニル炭素に含まれないものとする)。本実施形態では、カルボニル炭素の割合は、固体13C-NMR分析によって得られる値とする。ND分散液10中のND粒子11は、一次粒子として分散媒12中に分散しつつ、上記のカルボニル炭素の含有割合が総じて好ましくは1.0%以上となる量で官能基たるカルボニル基を表面に有する。このような構成は、ND粒子11について例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するのに適する。
ND分散液10中のND粒子11の含む炭素における水酸基結合炭素の割合は、総じて、好ましくは16.8%以上、より好ましくは17.0%以上、より好ましくは18.0%以上、より好ましくは20.0%以上、より好ましくは25.0%以上である。当該水酸基結合炭素の含有割合の上限は例えば40.0%である。本実施形態における水酸基結合炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有する水酸基(−OH)の結合する炭素を意味する。本実施形態では、水酸基結合炭素の割合は、固体13C-NMR分析によって得られる値とする。ND分散液10中のND粒子11は、一次粒子として分散媒12中に分散しつつ、上記の水酸基結合炭素の含有割合が総じて好ましくは16.8%以上となる量で官能基たる水酸基を表面に有する。このような構成は、ND粒子11について例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するのに適する。
ND分散液10中のND粒子11の含む炭素におけるカルボキシル炭素およびカルボニル炭素の割合は、例えば2.0%以上であり、好ましくは2.2%以上、より好ましくは2.4%以上、より好ましくは2.7%以上、より好ましくは2.9%以上、より好ましくは3.2%以上である。当該含有割合の上限は例えば8.0%である。
ND分散液10中のND粒子11の含む炭素におけるカルボキシル炭素および水酸基結合炭素の割合は、例えば17.8%以上であり、好ましくは18.0%以上、より好ましくは18.3%、より好ましくは18.5%以上、より好ましくは18.8%以上である。当該含有割合の上限は例えば30.0%である。
ND分散液10中のND粒子11の含む炭素におけるカルボニル炭素および水酸基結合炭素の割合は、例えば17.8%以上であり、好ましくは18.0%以上、より好ましくは18.3%、より好ましくは18.5%以上、より好ましくは18.8%以上である。当該含有割合の上限は例えば30.0%である。
ND分散液10中のND粒子11の含む炭素におけるカルボキシル炭素、カルボニル炭素、および水酸基結合炭素の割合は、例えば18.8%以上であり、好ましくは19.0%以上、より好ましくは19.2%、より好ましくは19.5%以上、より好ましくは19.7%以上であり、より好ましくは20.0%であり、より好ましくは20.5%である。当該含有割合の上限は例えば32.0%である。
ND分散液10中のND粒子11の含む炭素におけるアルケニル炭素の割合は、例えば0.1%以上である。本実施形態におけるアルケニル炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有するアルケニル基に含まれる炭素を意味する。アルケニル炭素の含有割合が0.1%以上となる量で官能基たるアルケニル基を表面に有するという本構成は、ND粒子11について例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するうえで好ましい場合がある。
ND分散液10中のND粒子11の含む炭素における水素結合炭素の割合は、例えば20.0%以上である。本実施形態における水素結合炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有する水素の結合する炭素を意味する。このような水素の結合は、ナノダイヤモンドの表面炭素の安定化に寄与する。
ND分散液10に含まれるND粒子11のいわゆるゼータ電位は、例えば−45〜−30mVである。コロイド粒子たるND粒子11のゼータ電位は、分散媒12中でのND粒子11の分散安定性に影響を与えるところ、当該構成は、ND分散液10におけるND粒子11について安定分散化や安定分散状態の維持を図るうえで、好適である。本発明において、ナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子のゼータ電位とは、ナノダイヤモンド濃度が0.2質量%で25℃のナノダイヤモンド分散液におけるナノダイヤモンド粒子について測定される値とする。ナノダイヤモンド濃度0.2質量%のナノダイヤモンド分散液の調製のためにナノダイヤモンド分散液の原液を希釈する必要がある場合には、希釈液として超純水を用いる。
ND分散液10のpHは、例えば4〜7の範囲にある。このような構成は、ND分散液10におけるND粒子11について安定分散化や安定分散状態の維持を図るうえで、好適である。
ND分散液10に含まれるND粒子11は、例えば爆轟法ナノダイヤモンド粒子(爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子)である。ナノダイヤモンド製造技術たる爆轟法としては、空冷式爆轟法と水冷式爆轟法とが知られているところ、ND粒子11は、好ましくは空冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子である。空冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子は、水冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子よりも、一次粒子が小さい傾向にあるので、ND粒子11の小さなND分散液10を実現するうえで好適である。また、ND粒子11は、より好ましくは空冷式大気共存下爆轟法ナノダイヤモンド粒子、即ち、空冷式であって大気組成の気体(有意量の酸素を含む)が共存する条件下での爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子である。空冷式であって大気組成の気体が共存する条件下で実施される爆轟法は、一次粒子表面の官能基量の多いナノダイヤモンド粒子を生じさせるうえで好適である。
ND分散液10に含まれる分散媒12は、ND分散液10においてND粒子11を適切に分散させるための媒体である。分散媒12としては、ナノダイヤモンドが溶解性を示し得る溶媒が好ましく、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、2−メトキシエタノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホン、および炭酸プロピレンが挙げられる。分散媒12としては、一種類の分散媒を用いてもよいし、二種類以上の分散媒を用いてもよい。ND粒子11の分散性の観点からは、分散媒12は、水、または、水を50質量%以上含む水系分散媒であるのが好ましい。
本実施形態のND分散液10に分散するND粒子11は、上述の各種炭素割合で示され得る量の例えばカルボキシル基、カルボニル基、水酸基、アルケニル基、および水素を伴う。このような構成は、上述のように、ND粒子11について例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するのに適する。ND粒子11の分散性が高いことは、ND粒子11と他材料とを含有する複合材料の設計において高い自由度を実現するうえで好適であり、ひいては、ナノダイヤモンド粒子含有複合材料を作製するうえで好適である。
以上のようなND分散液10を乾燥処理に付することにより、ナノダイヤモンドの乾燥粉体を得ることが可能である。乾燥処理の手法としては、例えば、噴霧乾燥装置を使用して行う噴霧乾燥や、エバポレーターを使用して行う蒸発乾固が挙げられる。こうして得られるナノダイヤモンドは、その構成炭素における割合が1.0%以上のカルボキシル炭素、構成炭素における割合が1.0%以上のカルボニル炭素、および、構成炭素における割合が16.8%以上の水酸基結合炭素、からなる群より選択される少なくとも一つを含み、カルボキシル炭素、カルボニル炭素、水酸基結合炭素、アルケニル炭素、および水素結合炭素の割合については、ND分散液10中のND粒子11と同様となる。例えば、ND分散液10中のND粒子11のアルケニル炭素の割合が0.1%以上であれば、ND分散液10を乾燥処理に付して得られるナノダイヤモンドの構成炭素中のアルケニル炭素の割合は、0.1%以上である。例えば、ND分散液10中のND粒子11の水素結合炭素の割合が20.0%以上であれば、ND分散液10を乾燥処理に付して得られるナノダイヤモンドの構成炭素中の水素結合炭素の割合は、20.0%以上である。このような多官能性のナノダイヤモンドは、例えば極性溶媒中や樹脂材料中にて高い分散性を実現するのに適する。ナノダイヤモンドの粒子としての分散性が高いことは、ナノダイヤモンド粒子と他材料とを含有する複合材料の設計において高い自由度を実現するうえで好適であり、ひいては、ナノダイヤモンド粒子含有複合材料を作製するうえで好適である。そして、このような多官能性のナノダイヤモンドは、樹脂材料その他の材料との複合化によって、当該他材料における各種物性の発現や向上に、利用することが可能である。
図2は、ND分散液10を製造するための一の実施形態たるナノダイヤモンド分散液製造方法の工程図である。本方法は、生成工程S1と、精製工程S2と、化学的解砕工程S3と、pH調整工程S4と、遠心分離工程S5とを含む。
生成工程S1では、空冷式であって大気組成の気体(有意量の酸素を含む)が共存する条件下での爆轟法が行われてナノダイヤモンドが生成する。まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉する。容器は例えば鉄製で、容器の容積は、例えば0.5〜40m3であり、好ましくは2〜30m3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、例えば40/60〜60/40の範囲とされる。爆薬の使用量は、例えば0.05〜2.0kgであり、好ましくは0.3〜1.0kgである。
生成工程S1では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってナノダイヤモンドが生成する。ナノダイヤモンドは、爆轟法により得られる生成物にて先ずは、隣接する一次粒子ないし結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体をなす。
生成工程S1では、次に、室温での例えば24時間の放置により、容器およびその内部を降温させる。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上述のようにして生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ナノダイヤモンド粗生成物を回収する。以上のような空冷式大気共存下爆轟法によって、ナノダイヤモンド粒子の粗生成物を得ることができる。空冷式であって大気組成の気体(有意量の酸素を含む)が共存する条件下で実施される爆轟法は、一次粒子表面の官能基量の多いナノダイヤモンド粒子を生じさせるうえで好適である。これは、空冷式大気共存下爆轟法によると、ダイヤモンド結晶子が形成される過程において、原料炭素からのダイヤモンド核の成長が抑制されて、原料炭素の一部が(あるものは酸素等を伴って)表面官能基を形成するためであると考えられる。また、以上のような生成工程S1を必要回数行うことによって、所望量のナノダイヤモンド粗生成物を取得することが可能である。
精製工程S2は、本実施形態では、原料たるナノダイヤモンド粗生成物に例えば水溶媒中で強酸を作用させる酸処理を含む。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物には金属酸化物が含まれやすいところ、この金属酸化物は、爆轟法に使用される容器等に由来するFe,Co,Ni等の酸化物である。例えば水溶媒中で所定の強酸を作用させることにより、ナノダイヤモンド粗生成物から金属酸化物を溶解・除去することができる(酸処理)。この酸処理に用いられる強酸としては、鉱酸が好ましく、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、および王水が挙げられる。酸処理では、一種類の強酸を用いてもよいし、二種類以上の強酸を用いてもよい。酸処理で使用される強酸の濃度は例えば1〜50質量%である。酸処理温度は例えば70〜150℃である。酸処理時間は例えば0.1〜24時間である。また、酸処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。このような酸処理の後、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行う。沈殿液のpHが例えば2〜3に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。
精製工程S2は、本実施形態では、酸化剤を用いてナノダイヤモンド粗生成物(精製終了前のナノダイヤモンド凝着体)からグラファイトを除去するための酸化処理を含む。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物にはグラファイト(黒鉛)が含まれているところ、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちナノダイヤモンド結晶を形成しなかった炭素に由来する。例えば上記の酸処理を経た後に、例えば水溶媒中で所定の酸化剤を作用させることにより、ナノダイヤモンド粗生成物からグラファイトを除去することができる(酸化処理)。この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、及びこれらの塩が挙げられる。酸化処理では、一種類の酸化剤を用いてもよいし、二種類以上の酸化剤を用いてもよい。酸化処理で使用される酸化剤の濃度は例えば3〜50質量%である。酸化処理における酸化剤の使用量は、酸化処理に付されるナノダイヤモンド粗生成物100重量部に対して例えば300〜500重量部である。酸化処理温度は例えば100〜200℃である。酸化処理時間は例えば1〜24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。また、酸化処理は、グラファイトの除去効率向上の観点から、鉱酸の共存下で行うのが好ましい。鉱酸としては、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、および王水が挙げられる。酸化処理に鉱酸を用いる場合、鉱酸の濃度は例えば5〜80質量%である。このような酸化処理の後、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行う。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。
以上のような精製工程S2を経て精製された後であっても、例えば爆轟法ナノダイヤモンドは、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとる。この凝着体から一次粒子を分離させるために、本方法では、次に化学的解砕工程S3が行われる。例えば水溶媒中で所定のアルカリおよび過酸化水素を作用させることにより、ナノダイヤモンド凝着体からナノダイヤモンド一次粒子を分離させて解砕を進行させることができる(化学的解砕処理)。この化学的解砕処理に用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム等が挙げられる。化学的解砕処理におけるアルカリの濃度は、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜8質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。化学的解砕処理における過酸化水素の濃度は、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは2〜10質量%、より好ましくは4〜8質量%である。化学的解砕処理において、処理温度は例えば40〜95℃であり、処理時間は例えば0.5〜5時間である。また、化学的解砕処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。このような化学的解砕処理の後、デカンテーションによって上澄みが除かれる。
本方法では、次に、pH調整工程S4が行われる。pH調整工程S4は、上述の化学的解砕処理を経たナノダイヤモンドを含む溶液のpHを後述の遠心分離処理より前に所定のpHに調整するための工程である。本工程では、デカンテーション後の沈殿液に酸やアルカリを加える。酸としては例えば塩酸を用いることができる。ナノダイヤモンドを含む溶液のpHを本工程で例えば2〜3に調整することによって、本方法によって製造されることとなるナノダイヤモンド分散液のpHを例えば4〜7の範囲に設定することが可能である。
本方法では、次に、遠心分離工程S5が行われる。遠心分離工程S5は、上述の化学的解砕処理を経たナノダイヤモンドを含む溶液を遠心分離処理に付して所定の上清液を得るための工程である。具体的には、まず、上述の化学的解砕工程S3およびpH調整工程S4を経たナノダイヤモンド含有液について、遠心分離装置を使用して最初の遠心分離処理を行う。最初の遠心分離処理後の上清液は、淡い黄色透明である場合が多い。そして、遠心分離処理によって生じた沈殿物と上清液とを分けた後、沈殿物に超純水を加えて懸濁し、遠心分離装置を使用して更なる遠心分離処理を行って固液分離を図る。加える超純水の量は、例えば、沈殿物の3〜5倍(体積比)である。遠心分離による固液分離後の沈殿物と上清液との分離、沈殿物に超純水を加えての懸濁、および更なる遠心分離処理という一連の過程を、遠心分離処理後に黒色透明の上清液が得られるまで反復して行う。3回目以降の遠心分離処理で黒色透明の上清液が得られる場合、最初の遠心分離処理と黒色透明の上清液が得られる遠心分離処理との間に行われる遠心分離処理で得られる上清液は、無色透明である場合が多い。以上のようにして得られる黒色透明の上清液が、本方法によって製造されるナノダイヤモンド分散液(ND分散液10)である。本工程の各遠心分離処理における遠心力は例えば15000〜25000×gであり、遠心時間は例えば10〜120分である。また、黒色透明の上清液を分離取得した後に残る沈殿物については、上述の精製工程S2を経た別の固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)と合せて、或は単独で、上述の化学的解砕工程S3、pH調整工程S4、および遠心分離工程S5の一連の過程に再び供してもよい。
爆轟法によって得られるナノダイヤモンドは、上述のように、得られる生成物にて先ずは一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとる。上記のナノダイヤモンド分散液製造方法においては、ナノダイヤモンド凝着体に対し、精製工程S2において使用される化学種が加熱条件下で作用するのに加え、化学的解砕工程S3において使用される化学種が加熱条件下で作用する。これにより、化学的解砕工程S3において、ナノダイヤモンド凝着体にて少なくとも一部のナノダイヤモンド一次粒子間の凝着が化学的に解かれ、当該ナノダイヤモンド一次粒子がナノダイヤモンド凝着体から分離しやすくなる。遠心分離工程S5では、このようなナノダイヤモンドを含む溶液について遠心力の作用を利用した固液分離とその後の懸濁操作とが反復され、所定回数の遠心分離処理の後に、ナノダイヤモンド一次粒子の分散する黒色透明の上清液が採取される。このようにして、ナノダイヤモンドの一次粒子が分散するND分散液10が製造されるのである。また、製造されたナノダイヤモンド分散液については、水分量を低減することによってナノダイヤモンド濃度を高めることができる。この水分量低減は、例えばエバポレーターを使用して行うことができる。
本方法では、ナノダイヤモンド凝着体(二次粒子)からナノダイヤモンドの一次粒子を分離させるうえで、上述のような化学的解砕処理と懸濁操作を含む遠心分離処理とが行われる。ナノダイヤモンドの一次粒子を分離させるための解砕手法として、本方法では、ジルコニアビーズを用いた従来のビーズミリングは行われない。そのため、本方法によって製造されるナノダイヤモンド分散液は、高純度化を阻むジルコニアを実質的に含まない。本方法によって製造されるナノダイヤモンド分散液や、当該分散液から得られる紛体としてのナノダイヤモンド粒子について、ジルコニアの検出を試みたとしても、採用される検出法の検出限界を上回る量のジルコニアは検出されないことが想定される。
以上のようにして、上述のND粒子11の分散するND分散液10を製造することができる。このような方法は、表面官能基量の多いナノダイヤモンド一次粒子の分散するナノダイヤモンド分散液を得るのに適するとともに、高いナノダイヤモンド純度を実現するのに適する。そして、ND分散液10から必要に応じて水分を除去することによって、ナノダイヤモンドの粉体を得ることができる。この水分除去は、例えばエバポレーターを使用して行うことができる。
ND分散液10の分散媒12については、水から、ナノダイヤモンドが溶解性を示し得る溶媒に置換することができる。そのような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、2−メトキシエタノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホン、および炭酸プロピレンが挙げられる。例えば、樹脂材料とナノダイヤモンドとを含む複合材料を作製する際のナノダイヤモンド供給材料としてND分散液10を用いる場合、分散媒12としては、樹脂材料との親和性の高さが期待され且つナノダイヤモンドが溶解性を示し得る非プロトン性の極性溶媒へと、水から置換されるのが好ましい。そのような溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、およびグリセリンが挙げられる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
以下のようにしてナノダイヤモンド分散液を製造した。まず、ナノダイヤモンド粗生成物を得るための生成工程を行った。具体的には、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物0.50kgを使用した。当該爆薬におけるTNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、50/50である。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた。次に、室温での24時間の放置により、容器およびその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上記爆轟法で生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ナノダイヤモンド粗生成物を回収した。ナノダイヤモンド粗生成物の回収量は0.025kgであった。
次に、上述のような生成工程を複数回行うことによって取得されたナノダイヤモンド粗生成物に対して精製工程の酸処理を行った。具体的には、当該ナノダイヤモンド粗生成物200gに6Lの10質量%塩酸を加えて得られたスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この酸処理における加熱温度は85〜100℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体と煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
次に、精製工程の酸化処理を行った。具体的には、デカンテーション後の沈殿液に、5Lの60質量%硫酸水溶液と2Lの60質量%クロム酸水溶液とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で5時間の加熱処理を行った。この酸化処理における加熱温度は120〜140℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
次に、化学的解砕工程を行った。具体的には、デカンテーション後の沈殿液に、1Lの10質量%水酸化ナトリウム水溶液と1Lの30質量%過酸化水素水溶液とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った(化学的解砕処理)。この化学的解砕処理における加熱温度は50〜105℃である。次に、冷却後、デカンテーションによって上澄みを除いた。
次に、pH調整工程を行った。具体的には、化学的解砕処理後のデカンテーションによって得られた沈殿液に塩酸を加え、沈殿液のpHを2.5に調整した。このようにして、pHを調整されたスラリーを得た。
次に、遠心分離工程を行った。具体的には、上述のpH調整を経たスラリー(ナノダイヤモンド含有液)について、まず、遠心分離装置を使用して最初の遠心分離処理を行った。この遠心分離処理における遠心力は20000×gとし、遠心時間は10分とした。最初の遠心分離処理後の上清液は、淡い黄色透明であった。本工程では、次に、最初の遠心分離処理によって生じた沈殿物と上清液とを分けた後、沈殿物に超純水を加えて懸濁し、遠心分離装置を使用して2回目の遠心分離処理を行って固液分離を図った。加えた超純水の量は、沈殿物の4倍(体積比)とした。2回目の遠心分離処理における遠心力は20000×gとし、遠心時間は60分とした。2回目の遠心分離処理後の上清液は、無色透明であった。本工程では、次に、2回目の遠心分離処理によって生じた沈殿物と上清液とを分けた後、沈殿物に超純水を加えて懸濁し、遠心分離装置を使用して3回目の遠心分離処理を行って固液分離を図った。加えた超純水の量は、沈殿物の4倍(体積比)とした。3回目の遠心分離処理における遠心力は20000×gとし、遠心時間は60分とした。3回目の遠心分離処理後の上清液は、黒色透明であった。この後、遠心分離による固液分離後の沈殿物と上清液との分離、沈殿物に4倍量の超純水を加えての懸濁、および更なる遠心分離処理(遠心力20000×g,遠心時間60分)という一連の過程を、遠心分離処理後に黒色透明の上清液が得られる限り反復して行った。
以上のようにして、黒色透明のナノダイヤモンド分散液を製造した。上記3回目の遠心分離処理後のナノダイヤモンド分散液のpHについてpH試験紙(商品名「スリーバンドpH試験紙」,アズワン株式会社製)を使用して確認したところ、6であった。本分散液のナノダイヤモンド固形分濃度は1.08質量%であった。本分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子の粒径を動的光散乱法によって測定した結果、粒径D50(メディアン径)は6.04nmであった。本分散液の一部についてナノダイヤモンド濃度0.2質量%への超純水による希釈を行った後に当該ナノダイヤモンド分散液中のナノダイヤモンド粒子のゼータ電位を測定したところ、−42mV(25℃,pH6)であった。
本分散液を乾固させて得られた乾燥粉体について、X線回析装置(商品名「SmartLab」,リガク社製)を使用して結晶構造解析を行った。その結果、ダイヤモンドの回析ピーク位置、即ち、ダイヤモンド結晶の(111)面からの回析ピーク位置に、強い回析ピークが認められ、上述のようにして得られた分散液がナノダイヤモンド分散液であることを確認した。また、本分散液を乾固させて得られた乾燥粉体について、X線回析装置(商品名「SmartLab」,リガク社製)を使用して小角X線散乱測定を行い、粒子径分布解析ソフト(商品名「NANO−Solver」,リガク社製)を使用して、散乱角度1°〜3°の領域についてナノダイヤモンドの一次粒子経を見積もった。この見積もりにおいては、ナノダイヤモンド一次粒子が球形であり且つ粒子密度が3.51g/cm3であるとの仮定をおいた。その結果、本測定で得られるナノダイヤモンド一次粒子の平均粒径は4.240nmであり、一次粒子分布に関する相対標準偏差(RSD:relative standard deviation)は41.4であった。動的光散乱法によって得られた上記粒径D50の値(6.04nm)よりも小さく比較的に小径な一次粒子群が比較的にシャープな分布を示すことが確認された。
本分散液を乾固させて得られた乾燥粉体について、後記の固体13C-NMR分析を行った。その結果、分析対象の試料の13C DD/MAS NMRスペクトルにおいて、ナノダイヤモンドの主成分としてのsp3炭素のピーク、カルボキシル基(−COOHを含む−C(=O)O)に含まれる炭素に由来するピーク、カルボニル基(−C=O)に含まれる炭素に由来するピーク、アルケニル基(C=C)に含まれる炭素に由来するピーク、水酸基の結合する炭素(−COH)に由来するピーク、および、水素の結合する炭素(−CH)に由来するピークが観測された。ピークごとに波形分離を行ったうえで算出したこれら各種炭素の組成比は、表1に示すとおりである。
本分散液を乾固させて得られた乾燥粉体について、後記のICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法によってジルコニア含有量の測定を試みた。しかしながら、ジルコニアは検出されなかった。具体的には、検出限界(下限)50質量ppm以上の測定結果は得られなかった。
〔比較例1〕
ナノダイヤモンド粒子の分散する市販のナノダイヤモンド水分散液(商品名「Vox D」,ナノダイヤモンド濃度5質量%,粒径D50;5nm,pH9におけるゼータ電位;−55mV,Carbodeon社製)について、実施例1と同様にして固体13C-NMR分析を行った。その結果、分析対象の試料の13C DD/MAS NMRスペクトルにおいて、ナノダイヤモンドの主成分としてのsp3炭素のピーク、カルボキシル基(−COOHを含む−C(=O)O)に含まれる炭素に由来するピーク、カルボニル基(−C=O)に含まれる炭素に由来するピーク、水酸基の結合する炭素(−COH)に由来するピーク、および、水素の結合する炭素(−CH)に由来するピークが観測された。アルケニル基(C=C)に含まれる炭素に由来するピークは観測されなかった。ピークごとに波形分離を行ったうえで算出したこれら各種炭素の組成比は、表1に示すとおりである。
〈固形分濃度〉
ナノダイヤモンド分散液に関する上記の固形分濃度は、秤量した分散液3〜5gの当該秤量値と、当該秤量分散液から加熱によって水分を蒸発させた後に残留する乾燥物(粉体)について精密天秤によって秤量した秤量値とに基づき、算出した。
〈メディアン径〉
ナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子に関する上記の粒径D50(メディアン径)は、スペクトリス社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、動的光散乱法(非接触後方散乱法)によって測定した値である。測定に付されたナノダイヤモンド分散液は、ナノダイヤモンド濃度が0.5〜2.0質量%となるように超純水で希釈した後に、超音波洗浄機による超音波照射を経たものである。
〈ゼータ電位〉
ナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子に関する上記のゼータ電位は、スペクトリス社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、レーザードップラー式電気泳動法によって測定した値である。測定に付されたナノダイヤモンド分散液は、ナノダイヤモンド濃度0.2質量%への超純水による希釈を行った後に超音波洗浄機による超音波照射を経たものである。また、測定に付されたナノダイヤモンド分散液のpHは、pH試験紙(商品名「スリーバンドpH試験紙」,アズワン株式会社製)を使用して確認した値である。
〈固体13C-NMR分析〉
固体13C-NMR分析は、固体NMR装置(商品名「CMX−300 Infinity」,Chemagnetics社製)を使用して行う固体NMR法によって行った。測定法その他、測定に係る条件は、以下のとおりである。
測定法:DD/MAS法
測定核周波数:75.188829 MHz(13C核)
スペクトル幅:30.003 kHz
パルス幅:4.2μsec(90°パルス)
パルス繰り返し時間:ACQTM 68.26msec,PD 15sec
観測ポイント:2048(データポイント:8192)
基準物質:ポリジメチルシロキサン(外部基準:1.56ppm)
温度:室温(約22℃)
試料回転数:8.0 kHz
〈ICP発光分光分析法〉
ナノダイヤモンド分散液から加熱によって水分を蒸発させた後に残留する乾燥物(粉体)100mgについて、磁性るつぼに入れた状態で電気炉内にて乾式分解を行った。この乾式分解は、450℃で1時間の条件、これに続く550℃で1時間の条件、及びこれに続く650℃で1時間の条件にて、3段階で行った。このような乾式分解の後、磁性るつぼ内の残留物について、磁性るつぼに濃硫酸0.5mlを加えて蒸発乾固させた。そして、得られた乾固物を最終的に20mlの超純水に溶解させた。このようにして分析サンプルを調製した。この分析サンプルを、ICP発光分光分析装置(商品名「CIROS120」,リガク社製)によるICP発光分光分析に供した。本分析の検出下限値が50質量ppmとなるように前記分析サンプルを調製した。また、本分析では、検量線用標準溶液として、SPEX社製の混合標準溶液XSTC−22、および、関東化学社製の原子吸光用標準溶液Zr1000を、分析サンプルの硫酸濃度と同濃度の硫酸水溶液にて適宜希釈調製して用いた。そして、本分析では、空のるつぼで同様に操作および分析して得られた測定値を、測定対象たるナノダイヤモンド分散液試料についての測定値から差し引き、試料中のジルコニア濃度を求めた。