以下、内燃機関の制御装置の一実施形態である電子制御ユニット(以下、ECUと称する)について、図1〜19を参照して説明する。まず、図1を参照して内燃機関1の冷却システムを説明する。なお、内燃機関1は車両に搭載される内燃機関である。
図1に示すように、内燃機関1のシリンダブロック3の内部には、冷却水の循環経路の一部となるウォータジャケット3Aが設けられており、シリンダヘッド2の内部には、冷却水の循環経路の一部となるウォータジャケット2Aが設けられている。
冷却水の循環経路におけるウォータジャケット3A、2Aよりも上流側の部分には、冷却水ポンプ13が接続されている。冷却水ポンプ13は内燃機関1のクランクシャフトによって駆動される機関駆動式のポンプであるため、冷却水ポンプ13からの冷却水の吐出量はクランクシャフトの回転速度が高くなるほど多くなる。そして、冷却水ポンプ13が吐出した冷却水がウォータジャケット3A、2Aに導入されるようになっている。
ウォータジャケット2Aの冷却水出口が設けられた部分には、冷却水の循環経路を切り替えたり、循環させる冷却水の量を制御したりする制御弁である多方弁4が設けられている。なお、ウォータジャケット2A内には、ウォータジャケット3Aからウォータジャケット2Aに流入したばかりの冷却水の温度を検出するヘッド水温センサ14と、ウォータジャケット2Aを通過して多方弁4に排出される冷却水の温度を検出する出口水温センサ15と、が設けられている。
多方弁4は、冷却水の吐出先を3つ有している。冷却水の1つ目の吐出先は、ラジエータ12を経由する第1冷却水通路P1である。第1冷却水通路P1におけるラジエータ12よりも下流側の部分は、冷却水ポンプ13に接続されており、ラジエータ12を通過した冷却水は冷却水ポンプ13に戻される。
冷却水の2つ目の吐出先は、スロットルボディ6やEGRバルブ7など、内燃機関1の各部に設けられたデバイスに冷却水を循環させる第2冷却水通路P2である。第2冷却水通路P2は、まず3つに分岐しており、スロットルボディ6、EGRバルブ7、EGRクーラ8に冷却水を供給する。そして、第2冷却水通路P2は、スロットルボディ6、EGRバルブ7、EGRクーラ8の下流側で一旦合流した後、2つに分岐してオイルクーラ9とATF暖機部10に冷却水を供給する。第2冷却水通路P2は、オイルクーラ9及びATF暖機部10の下流で合流しており、第1冷却水通路P1におけるラジエータ12よりも下流側の部分に合流している。
冷却水の3つ目の吐出先は、空調装置におけるヒータコア11に冷却水を循環させる第3冷却水通路P3である。第3冷却水通路P3におけるヒータコア11よりも下流側の部分は、第2冷却水通路P2におけるオイルクーラ9及びATF暖機部10の下流の合流部よりも下流側で第1冷却水通路P1との合流部よりも上流側の部分に合流している。
上記のように、各冷却水通路P1、P2、P3は最終的に合流し、冷却水ポンプ13に接続されている。そのため、各冷却水通路P1、P2、P3を流れた冷却水は、冷却水ポ
ンプ13に戻されることになる。そして、冷却水ポンプ13に戻された冷却水は、冷却水ポンプ13によって再び内燃機関1内に送り出されるようになっている。
また、多方弁4には、多方弁4内の圧力が過剰に高くなったときに開弁して多方弁4内の冷却水を冷却水通路P1に逃がすリリーフ弁5も設けられている。
なお、冷却水通路P1のうち、ラジエータポート401とラジエータ12とを接続する部分等、その一部はホースにより構成されている。冷却水通路P2、P3についても同様である。
次に、図2〜5を参照して多方弁4の構造について説明する。
図2に示すように、多方弁4には冷却水の出口である3つのポート401、402、403がそれぞれ異なる方向に設けられている。ヒータポート402及びデバイスポート403は略同じ内径であり、ラジエータポート401の内径は、ヒータポート402及びデバイスポート403の内径よりも大きくなっている。ラジエータポート401には、第1冷却水通路P1が接続され、ヒータポート402には第3冷却水通路P3が接続される。そして、デバイスポート403には第2冷却水通路P2が接続されている。
図3は、多方弁4を構成する部品の一部を示すものである。ハウジング400は、多方弁4の骨格を形成し、各ポート401、402、403へ通じる孔を有する。なお、ラジエータポート401に通じる孔は、2つ存在し、一方の孔にはリリーフ弁5が収容されている。ハウジング400には、こうして一方の孔にリリーフ弁5を収容した状態でラジエータポート401が取り付けられている。これにより、リリーフ弁5は、ラジエータポート401の内部に設けられた状態になっている。3つのポート401、402、403のうち、ラジエータポート401にリリーフ弁5を設けるようにしているのは、ラジエータポート401の通路断面積が、ヒータポート402やデバイスポート403の通路断面積に比べて大きく、リリーフ量を確保しやすいためである。
また、ハウジング400には、弁体404が収容されている。弁体404は、内部に冷却水の通路を有している。そのため、弁体404がシャフト405を中心に回転し、ハウジング400に対する弁体404の相対角度が変化することにより、各ポート401、402、403へ通じているハウジング400の各孔と弁体404の内部の冷却水通路の重なり具合が変化する。その結果、各ポート401、402、403を通じた冷却水の流量が変化する。
また、ハウジング400には、モータ408とギア409も収容されている。弁体404のシャフト405はギア409を介してモータ408とつながっており、モータ408の回転速度がギア409により変速され、変速された回転速度で弁体404が回転する。ギア409を介して変速を行う理由は、冷却水が充填された弁体404を回転させるためには大きなトルクが必要であるためである。そのため、ギア409はモータ408の回転を減速して弁体404に伝達する。
さらに、ハウジング400にはモータ408とギア409を収容している部分を覆うようにセンサカバー410が取り付けられている。センサカバー410の内部には、ポジションセンサ407が取り付けられており、弁体404のシャフト405の先端がこのポジションセンサ407のロータに嵌合している。ポジションセンサ407はロータの回転角度に比例した電圧を出力するセンサである。そのため、弁体404がハウジング400内で回転するとそれに伴ってポジションセンサ407のロータが回転し、弁体404とハウジング400の相対角度に応じた電圧がポジションセンサ407から出力される。
図4(a)、(b)は、図3の弁体404を拡大したものである。弁体404は2つの樽型の物体を上下に重ねたような形状をなしており、中心にシャフト405が設けられている。
図4(a)に示すように、弁体404には2つの樽型の部分の側面に冷却水が通過できる孔404A、404Bが空いている。すなわち、この孔404A、404Bは弁体404に設けられた冷却水通路の一部になっている。孔404Aは、弁体404がハウジング400に対してある相対角度の範囲にあるときにラジエータポート401と連通する。一方で、孔404Bは、弁体404がハウジング400に対して別のある相対角度の範囲にあるときにヒータポート402及びデバイスポート403のうち少なくとも一方と連通するように設置されている。
また、図4(a)、(b)に示すように、弁体404の上面には、一部を係合部406として残すようにシャフト405の根本を取り囲むように延びる溝412が形成されている。
図5は、ハウジング400を弁体404の挿入方向から見た場合の斜視図である。ハウジング400内に弁体404が収容されたときに、溝412内に収容されるように、ハウジング400にはストッパ413が設けられている。ハウジング400内に弁体404が収容されているときには、弁体404の係合部406がストッパ413に当接することで、ハウジング400に対する弁体404の相対回転が制限される。すなわち、ストッパ413が図4(b)に矢印Lで示す範囲で移動する範囲で、ハウジング400に対して弁体404が相対回転できるようになっている。
なお、こうした多方弁4は、図5に示されている弁体404を挿入する収容穴の部分を内燃機関1のシリンダヘッド2における冷却水の出口部分に重ねるようにしてシリンダヘッド2に固定されている。これにより、多方弁4にはこの収容穴の開口部から冷却水が流れ込むようになっている。
図6は、多方弁4のハウジング400に対する弁体404の相対角度と、各ポート401、402、403の開度との関係を示すグラフである。
図6に示すように、多方弁4では、全てのポート401、402、403が閉じた状態になる位置を相対角度「0[°]」の位置として、ハウジング400に設けられたストッパ413と弁体404に設けられた係合部406とが当接する位置まで、プラスの方向にも、マイナスの方向にも、弁体404を回転させることができるようになっている。すなわち、多方弁4では、ポート401、402、403が閉じている全閉の状態、すなわち開度「0」の状態が最小開度になっている。
そして、弁体404に設けられた孔404A、404Bの大きさや位置は、ハウジング400に対する弁体404の相対角度の変化に伴い、図6に示すように各ポート401、402、403の開度が変化するように設定されている。
すなわち、多方弁4では、相対角度「0[°]」の位置から弁体404をプラスの方向に回転させると、まず、ヒータポート402が開き始め、相対角度が大きくなるのに伴って次第にヒータポート402の開度が大きくなる。そして、ヒータポート402が全開になった後、相対角度がさらに大きくなると、次にデバイスポート403が開くようになる。相対角度が大きくなるのに伴い、デバイスポート403の開度は大きくなり、デバイスポート403が全開になった後、ラジエータポート401が開き始める。ラジエータポート401の開度も相対角度が大きくなるのに伴って大きくなり、係合部406とストッパ413とが当接する相対角度「+β[°]」の位置に至る手前でラジエータポート401が全開になる。そして、相対角度「+β[°]」の位置までは各ポート401、402、403が全開の状態が維持される。したがって、多方弁4では、弁体404及びモータ408のプラスの方向における可動範囲の端が相対角度「+β[°]」の位置になっており、この位置における弁体404の開度がプラスの方向におけるストッパ開度になっている。要するに、プラスの方向におけるストッパ開度は、全てのポート401、402、403が全開になっている状態の開度であり、弁体404の開度の最大値である。
一方、多方弁4では、相対角度「0[°]」の位置から弁体404をマイナスの方向に回転させた場合には、ヒータポート402は開弁しない。この場合には、まず、デバイスポート403が開き始め、相対角度が大きくなるのに伴って次第にデバイスポート403の開度が大きくなる。そして、デバイスポート403が全開になった後、相対角度がさらに大きくなると、ラジエータポート401が開くようになる。なお、弁体404をマイナスの方向に回転させる場合には、相対角度の絶対値が大きくなることを相対角度が大きくなると表現する。ラジエータポート401の開度も相対角度が大きくなるのに伴って大きくなり、係合部406とストッパ413とが当接する「−α[°]」に至る手前でラジエータポート401が全開になる。そして、「−α[°]」の位置まではラジエータポート401及びデバイスポート403が全開の状態が維持される。したがって、多方弁4では、弁体404及びモータ408のマイナスの方向における可動範囲の端が相対角度「−α[°]」の位置になっており、この位置における弁体404の開度がマイナスの方向におけるストッパ開度になっている。要するに、マイナスの方向におけるストッパ開度は、ラジエータポート401及びデバイスポート403が全開になっている状態の開度である。
このように、多方弁4は、弁体404が、ハウジング400内でストッパ413に当接するまでの所定範囲内で第1の方向であるプラスの方向又はプラスの方向とは反対の第2の方向であるマイナスの方向に移動するものである。そして、いずれの方向に弁体404を回転させた場合にも、相対角度が大きくなるのに伴って、弁体404の開度が大きくなるように構成されている。
次に、図7を参照して上記のような冷却システムを搭載した内燃機関1を制御するECUであるECU500について説明する。なお、ECU500は、内燃機関1の制御や冷却システムの制御にかかる各種演算を行う中央演算処理装置や、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリなどを備えるコンピュータユニットとして構成されている。図7は、ECU500の各機能部の関係を示すブロック図である。
ECU500は、内燃機関1のクランクシャフトの回転速度である機関回転速度を制御する回転速度制御部501を備えている。回転速度制御部501には、車速を検出する車速センサ120やアクセルの開度を検出するアクセルポジションセンサ121、内燃機関1の吸気通路を流れる空気の量を検出するエアフロメータ122、機関回転速度を検出するクランクポジションセンサ123などが接続されている。回転速度制御部501は、これらのセンサ120〜123などから入力された信号に基づいて、通常は、必要なトルクが得られるように内燃機関1のインジェクタ106や点火プラグ104、スロットルバルブモータ109を制御して機関回転速度を制御する。
また、ECU500は、多方弁4のモータ408への通電を制御してハウジング400に対する弁体404の相対角度を制御するモータ制御部502を備えている。モータ制御部502には、ヘッド水温センサ14や出口水温センサ15、ポジションセンサ407、外気温度センサ124が接続されている。モータ制御部502は、ポジションセンサ407から出力される電圧(信号)の大きさに応じて弁体404の位置である相対角度を把握する。モータ制御部502は、通常は、こうして弁体404の相対角度を把握しながら、PI制御によって弁体404の相対角度を目標値に近づけるように、モータ408への通電をフィードバック制御する。以下、モータ制御部502が実行するこうした通常のPI制御を通常制御と称する。
こうしてECU500は、多方弁4における弁体404の相対角度を制御し、通常制御を通じて内燃機関1の冷却システムにおける冷却水の循環経路を切り替えたり、循環させる冷却水の量を制御したりする。なお、モータ制御部502は、パルス幅変調制御により、モータ408への通電を制御し、モータ408の駆動を制御する。すなわち、モータ制御部502は、モータ408への通電を行わずモータ408を駆動しない「0[%]」から最もモータ408のトルクが大きくなる「100[%]」までの間でデューティ比を変化させてモータ408のトルクを制御する。
なお、通常制御においては、モータ制御部502は、外気温度センサ124によって検出された外気温度に応じて夏モードと冬モードとを切り替える。モータ制御部502は、外気温度が基準温度以下であり、空調装置のヒータが使用される可能性のあるときには冬モードでモータ408を制御する。冬モードでは相対角度がプラスになる範囲でモータ408を制御する。一方、モータ制御部502は、外気温度が基準温度より高いときには夏モードでモータ408を制御する。夏モードでは相対角度がマイナスになる範囲でモータ408を制御する。
さらに、ECU500は、循環経路を流れる冷却水の温度を取得する温度取得部504を備えている。温度取得部504には、出口水温センサ15が接続されており、温度取得部504は出口水温センサ15からウォータジャケット2Aを通過して多方弁4に排出される冷却水の温度を取得する。
また、ECU500は、弁体404の固着を判定する固着判定部503を備えている。固着判定部503には、ポジションセンサ407、モータ制御部502及び温度取得部504が接続されている。固着判定部503は、モータ制御部502からモータ408の駆動状況を示す信号を受け取り、モータ408の駆動状況を把握する。
また、車両には、車両の運転者に多方弁4の異常を報知するための報知装置として、警告灯130が設けられている。そして、ECU500は、警告灯130を点灯させる信号を出力する信号出力部505を備えている。すなわち、信号出力部505は、報知装置である警告灯130に報知を実行させる信号を出力する。さらに、ECU500は、回転速度制御部501に指令を出して内燃機関1の出力を制限する出力制限処理を行う出力制限部506を備えている。出力制限部506には、ポジションセンサ407が接続されている。
ここからは、弁体404が固着しているか否かの判定及び異常の診断に関してECU500が実行する処理について説明する。ここで、弁体404の固着とは、ハウジング400と弁体404との間や、弁体404とモータ408との間のギア409に異物が入るなどして、多方弁4において弁体404の相対角度が制御できなくなることである。
ECU500では、図8に示されている弁制御切替の処理を通じて仮異常フラグの状態に応じて多方弁4の制御態様が切り替えられる。この弁制御切替の処理は、ECU500への通電が行われており、且つ多方弁4の弁制御が禁止されていないときに、モータ制御部502によって所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、仮異常フラグは、図9を参照して後述する仮異常判定の処理を通じて弁体404が固着していると判定されたときに「ON」にされるフラグであり、ECU500のメモリに記憶されており、初期状態では「OFF」になっている。
図8に示すように、この処理が開始されると、モータ制御部502は、ステップS1010にて、仮異常フラグを読み込み、仮異常フラグが「ON」であるか否かを判定する。ステップS1010にて、仮異常フラグが「OFF」である旨判定した場合(ステップS1010:NO)には、モータ制御部502は処理をステップS1030に進める。ステップS1030では、モータ制御部502は、多方弁4の制御態様として通常制御を選択する。こうして通常制御を選択した場合には、上述したように、モータ制御部502は、PI制御によってモータ408への通電を制御する。
一方、ステップS1010にて、仮異常フラグが「ON」である旨判定した場合(ステップS1010:YES)には、モータ制御部502は処理をステップS1020に進める。ステップS1020では、モータ制御部502は、多方弁4の制御態様として振り落とし制御を選択する。こうして振り落とし制御を選択した場合には、モータ制御部502は、図11〜13を参照して後述する振り落とし制御を通じてモータ408への通電を制御する。この振り落とし制御は、仮異常フラグが「ON」である旨判定されたとき、すなわち弁体404が固着していると判定されているときに行われる固着時制御であり、ギア409等に噛み込んだ異物を噛み込んだ箇所から脱落させるための制御である。
こうしてステップS1020を通じて振り落とし制御を選択したり、ステップS1030を通じて通常制御を選択したりすると、モータ制御部502は、この弁制御切替の処理を一旦終了する。
次に、図9を参照して仮異常判定の処理について説明する。図9に示されている仮異常判定の処理は、仮異常フラグが「OFF」であるとき、すなわち、モータ制御部502によって通常制御が行われているときに、固着判定部503によって所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、ここでの制御周期は「X1[msec]」になっている。つまり、この仮異常判定の処理は、モータ制御部502が実行する通常制御と並行して「X1[msec]」毎に繰り返し実行される。
この処理を開始すると、固着判定部503は、ステップS2010にて、モータ制御部502が制御しているデューティ比が「X2[%]」以上であるか否かを判定する。固着判定部503は、ステップS2010にて、デューティ比が「X2[%]」以上である旨判定した場合(ステップS2010:YES)は、処理をステップS2020に進める。
そして、固着判定部503は、ステップS2020にて、弁体404の回転速度が「X3/X1[°/msec]」未満であるか否かを判定する。具体的には、ポジションセンサ407から出力される電圧を取得し、その大きさに応じて弁体404の位置を取得する。そして、前回の制御周期において取得した弁体404の位置からの変化量が「X3[°]」未満であるか否かを把握する。これにより、弁体404の回転速度が「X3/X1[°/msec]」未満であるか否かを判定する。すなわちステップS2020では、「X1[msec]」という所定期間における弁体404の移動量が基準値である「X3[°]」未満であるか否かを判定する。
なお、ステップS2010にて判定の閾値としている「X2[%]」という値の大きさは、弁体404が固着していなければ、通常制御を通じて弁体404が駆動されたときに、弁体404の回転速度が「X3/X1[°/msec]」以上になるような範囲の大きさに設定されている。なお、こうした値の大きさの設定は、予め実験などを行うことによって実現することができる。
ステップS2020にて、弁体404の回転速度が「X3/X1[°/msec]」未満である旨判定した場合(ステップS2020:YES)は、固着判定部503は、処理をステップS2030へと進める。固着判定部503は、ステップS2030では、カウンタの値を1つカウントアップする。そして、固着判定部503は、処理をステップS2040へと進める。
固着判定部503は、ステップS2040にて、カウンタによるカウントが「X4」以上であるか否かを判定する。ステップS2040にて、カウンタによるカウントが「X4」以上である旨判定した場合(ステップS2040:YES)には、固着判定部503は、処理をステップS2050へと進め、仮異常フラグを「ON」に設定する。そして、固着判定部503は、ステップS2060にて、カウンタのカウントをリセットし、この処理を一旦終了する。
一方、ステップS2040にて、カウンタによるカウントが「X4」未満である旨判定した場合(ステップS2040:NO)には、固着判定部503は、ステップS2050及びステップS2060を実行せずに、そのまま、この処理を一旦終了する。
また、ステップS2010やステップS2020において、否定判定がなされた場合(ステップS2010:NO、ステップS2020:NO)は、固着判定部503は、処理をステップS2060へと進める。
すなわち、この仮異常判定の処理では、デューティ比が「X2[%]」以上であるにも拘わらず、回転速度が「X3/X1[°/msec]」未満であるという条件が成立している場合にはカウンタの値を1つカウントアップし、この条件が成立していない場合にはカウントをリセットするようにしている。これにより、この条件が成立している状態が継続している期間をカウンタの値の大きさによって計測している。
そして、固着判定部503は、この仮異常判定の処理を「X1[msec]」毎に繰り返し行い、この条件が成立している状態のカウントが「X4」に至るまでの一定期間に亘って継続した場合に、弁体404が固着していると判定し、仮異常フラグを「ON」に設定する。
なお、ステップS2040における判定の閾値である「X4」という値の大きさは、「2」以上の値に設定されている。これにより、デューティ比が「X2[%]」以上であるにも拘わらず、回転速度が「X3/X1[°/msec]」未満であるという条件が成立し続けた場合に仮異常フラグが「ON」に設定されるまでに要する上記の一定期間は、「X1[msec]」よりも長くなっている。
図8を参照して上述したように、仮異常フラグが「ON」になっているときには、多方弁4の制御態様として振り落とし制御が選択され、振り落とし制御が実行される。振り落とし制御が実行されると、弁体404の固着が解消される可能性があるため、固着判定部503は、振り落とし制御が実行されているときには、図10に示されている仮異常解除判定の処理を実行する。そして、固着が解消されたときに、この仮異常解除判定の処理を通じて仮異常フラグを「OFF」にする。
具体的には、この仮異常解除判定の処理は、仮異常フラグが「ON」であるとき、すなわち、モータ制御部502によって振り落とし制御が行われているときに、固着判定部503によって所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、ここでの制御周期は仮異常判定の処理と同様に「X1[msec]」になっている。つまり、この仮異常解除判定の処理は、モータ制御部502が実行する振り落とし制御と並行して「X1[msec]」毎に繰り返し実行される。
この処理を開始すると、固着判定部503は、ステップS3010にて、弁体404の回転速度が「X3/X1[°/msec]」以上であるか否かを判定する。なお、このステップS3010における弁体404の回転速度の確認方法は、仮異常判定の処理におけるステップS2020における方法と同様である。すなわち、ステップS3010では、前回の制御周期における位置からの弁体404の位置の変化量から、「X1[msec]」という所定期間における弁体404の移動量が基準値である「X3[°]」以上であるか否かを判定する。
ステップS3010にて、弁体404の回転速度が「X3/X1[°/msec]」以上である旨判定した場合(ステップS3010:YES)は、固着判定部503は、処理をステップS3020へと進める。そして、固着判定部503は、ステップS3020にて、仮異常フラグを「OFF」に設定し、この処理を一旦終了する。
一方、ステップS3010にて、弁体404の回転速度が「X3/X1[°/msec]」未満である旨判定した場合(ステップS3010:NO)は、固着判定部503は、ステップS3020を実行せずに、そのまま、この処理を一旦終了する。
すなわち、この仮異常解除判定の処理では、回転速度が「X3/X1[°/msec]」以上であるという条件が成立した場合には仮異常フラグを「OFF」にするようにしている。
そして、固着判定部503は、この仮異常解除判定の処理を振り落とし制御が実行されているときに「X1[msec]」毎に繰り返し行い、回転速度が「X3/X1[°/msec]」以上になった場合に、弁体404の固着が解消されたと判定し、仮異常フラグを「OFF」に設定する。
次に、図11〜13を参照して固着時制御である振り落とし制御について詳しく説明する。
図8を参照して説明した弁制御切替の処理を通じて振り落とし制御が選択されると、モータ制御部502は、まず図11に示されている振り落とし制御のモード設定の処理を実行する。なお、この処理は、弁制御切替の処理を通じて選択されている多方弁4の制御態様が通常制御から振り落とし制御に変化したときに実行される。
図11に示すように、この処理を開始すると、モータ制御部502は、ステップS4010にて、ポジションセンサ407から出力される電圧を取得し、その大きさに応じて弁体404の相対角度が制限領域に入っているか否かを判定する。なお、制限領域とは、プラスの方向におけるストッパ開度に至る直前の領域、及び、マイナスの方向におけるストッパ開度に至る直前の領域であり、固着が解消されたときに弁体404の係合部406がストッパ413に衝突してしまうことを避けるために設定されている。例えば、ストッパ開度である「−α[°]」、「+β[°]」からその手前「数〜十数[°]」の範囲の領域が制限領域として設定されている。すなわち、モータ制御部502は、このステップS4010にて、弁体404の係合部406からストッパ413までの距離、すなわち弁体404が回動可能な距離が所定距離未満であるか否かを判定している。
ステップS4010にて、弁体404の相対角度が制限領域に入っていない旨の判定をした場合(ステップS4010:NO)には、モータ制御部502は、処理をステップS4020へと進め、振り落とし制御のモードとして両側振り落とし制御を選択、設定する。一方、ステップS4010にて、弁体404の相対角度が制限領域に入っている旨の判定をした場合(ステップS4010:YES)には、モータ制御部502は、処理をステップS4030へと進め、振り落とし制御のモードとして片側振り落とし制御を選択、設定する。このようにして振り落とし制御のモードを設定すると、モータ制御部502はこの処理を終了する。
こうして選択されている多方弁4の制御態様が通常制御から振り落とし制御に変化したときに、振り落とし制御のモード設定がなされると、その後は弁制御切替の処理において振り落とし制御が連続して選択され続けている限り、ここで設定されたモードの振り落とし制御が実行されるようになる。すなわち、このモード設定の処理を通じて、振り落とし制御のモードとして両側振り落とし制御が選択、設定された場合には、弁制御切替の処理において振り落とし制御が連続して選択され続けている限り、振り落とし制御として両側振り落とし制御が実行され続けるようになる。
次に、図12を参照して両側振り落とし制御の処理の流れについて詳しく説明する。この一連の処理は、振り落とし制御のモードとして両側振り落とし制御が設定されており、弁制御切替の処理において振り落とし制御が選択されているときに、モータ制御部502によって繰り返し実行される。
図12に示すように、この処理を開始すると、モータ制御部502は、ステップS5010にて、プラスの方向、マイナスの方向のうち、一方の方向に弁体404を一定期間駆動する。この両側振り落とし制御のステップS5010では、固着が発生していると判定されたときに駆動されていた方向とは反対の方向へと弁体404を駆動する。そのため、仮異常フラグが「OFF」から「ON」に変更されたときの弁体404の駆動方向がプラスの方向であった場合には、ステップS5010にて、弁体404をマイナスの方向へと駆動する。一方、仮異常フラグが「OFF」から「ON」に変更されたときの弁体404の駆動方向がマイナスの方向であった場合には、ステップS5010にて、弁体404をプラスの方向へと駆動する。
なお、ステップS5010では、フィードバック制御を行わず、デューティ比を「100[%]」にしてモータ408を駆動する。ちなみに、通常制御においては、PI制御によってデューティ比はフィードバック制御され、デューティ比が「100[%]」に設定されることはない。したがって、この処理では、固着している旨の判定がなされておらず、通常制御が行われているときのモータ408のトルクよりも大きなトルクを発生させるようにモータ408を制御している。また、ステップS5010では、一定期間として、例えば「数百[msec]」〜「数千[msec]」の期間に亘って駆動を継続する。そして、ステップS5010における一定期間の駆動が終了すると、モータ制御部502は処理をステップS5020へと進める。
ステップS5020では、一定期間の間、弁体404の駆動を停止する。すなわち、デューティ比を「0[%]」にしてモータ408への通電を停止し、弁体404の駆動を停止する。ここでは、例えば、ステップS5010における駆動期間よりも短い「数百[msec]」の間、弁体404の駆動を停止する。こうしてステップS5020にて、駆動を停止する期間を設けた後、モータ制御部502はステップS5030へと処理を進める。
ステップS5030では、モータ制御部502は、プラスの方向、マイナスの方向のうち、他方の方向に弁体404を一定期間駆動する。すなわち、ステップS5010における駆動方向とは反対の方向に弁体404を駆動する。
なお、ステップS5030では、ステップS5010における駆動期間と同じ期間の間、フィードバック制御を行わず、ステップS5010と同様に、デューティ比を「100[%]」にしてモータ408を駆動する。そして、ステップS5030における一定期間の駆動が終了すると、モータ制御部502は処理をステップS5040へと進める。ステップS5040では、ステップS5020と同様に、一定期間の間、弁体404の駆動を停止する。
こうしてステップS5040を通じて一定期間の間、弁体404の駆動を停止すると、モータ制御部502は、この処理を一旦終了する。この両側振り落とし制御の処理は、上述したように、弁制御切替の処理において振り落とし制御が選択されているときに、繰り返し実行される。したがって、ステップS5040が終了したときに、弁制御切替の処理において振り落とし制御が選択されている場合には、ステップS5010から処理が再び繰り返される。なお、この両側振り落とし制御の処理の実行中に、弁制御切替の処理において弁体404の制御態様が通常制御に切り替えられたり、多方弁4の弁制御が禁止されたりした場合には、モータ制御部502は処理を中断してこの処理を終了する。
次に、図13を参照して片側振り落とし制御の処理の流れについて詳しく説明する。この一連の処理は、振り落とし制御のモードとして片側振り落とし制御が設定されており、弁制御切替の処理において振り落とし制御が選択されているときに、モータ制御部502によって繰り返し実行される。
図13に示すように、この処理を開始すると、モータ制御部502は、ステップS6010にて、相対角度を小さくする方向(相対角度を「0[°]」に近づける方向)に弁体404を一定期間駆動する。なお、振り落とし制御のモードとして片側振り落とし制御が設定されているときには、弁体404の相対角度がプラス側、マイナス側いずれかの制限領域に入っている。すなわち、相対角度が極めて大きい状態になっている。そのため、ステップS6010では、弁体404の相対角度がマイナス側の制限領域内にある場合には、弁体404が、プラスの方向に駆動され、弁体404の相対角度がプラス側の制限領域内にある場合には、弁体404が、マイナスの方向に駆動される。また、ステップS6010では、両側振り落とし制御におけるステップS5010での駆動期間と同じ期間の間、フィードバック制御を行わず、ステップS5010と同様に、デューティ比を「100[%]」にしてモータ408を駆動する。そして、ステップS6010における一定期間の駆動が終了すると、モータ制御部502は処理をステップS6020へと進める。ステップS6020では、モータ制御部502は、両側振り落とし制御におけるステップS5020と同様に、一定期間の間、弁体404の駆動を停止する。
こうしてステップS6020を通じて一定期間の間、弁体404の駆動を停止すると、モータ制御部502は、この処理を一旦終了する。この片側振り落とし制御の処理は、両側振り落とし制御と同様に、弁制御切替の処理において振り落とし制御が選択されているときに、繰り返し実行される。したがって、ステップS6020が終了したときに、弁制御切替の処理において振り落とし制御が選択されている場合には、ステップS6010から処理が再び繰り返される。なお、この片側振り落とし制御の処理の実行中に、弁制御切替の処理において弁体404の制御態様が通常制御に切り替えられたり、多方弁4の弁制御が禁止されたりした場合には、モータ制御部502は処理を中断してこの処理を終了する。
上記のように、弁体404の相対角度が制限領域に入っていない場合には、モータ制御部502は両側振り落とし制御を実行し、プラスの方向とマイナスの方向とに交互に弁体404を駆動する。一方で、弁体404の相対角度が制限領域に入っている場合には、モータ制御部502は片側振り落とし制御を実行する。
片側振り落とし制御では、弁体404の相対角度がマイナス側の制限領域内にある場合には、マイナスの方向への駆動は行われず、プラスの方向への駆動が繰り返される。一方で、弁体404の相対角度がプラス側の制限領域内にある場合には、プラスの方向への駆動は行われず、マイナスの方向への駆動が繰り返される。このように、片側振り落とし制御では、プラスの方向又はマイナスの方向において、ストッパ413までの距離が所定距離未満であり、弁体404の相対角度が制限領域内にある場合には、振り落とし制御において、他方の方向への弁体404の駆動を行うようにモータ408への通電を制御する。そして、制限領域内で弁体404の係合部406をさらにストッパ開度に近づける方向へ弁体404を駆動するようなモータ408への通電を禁止する。このようにして、振り落とし制御を通じて固着が解消されたときに弁体404の係合部406とストッパ413とが衝突してしまうことを抑制するため、このECU500では、固着が解消されたときにストッパ413との衝突が生じるおそれのある範囲を予め実験などで割り出し、上記の制限領域として設定している。
また、ECU500では、振り落とし制御が行われているときに、内燃機関1の出力を制限する出力制限処理を行うようにしている。図14は出力制限処理の開始させる出力制限開始判定の処理を示すフローチャートである。この処理は、ECU500の出力制限部506によって、ECU500に通電が行われているときに繰り返し実行される。
図14に示すように、この処理を開始すると、出力制限部506は、ステップS7010にて、仮異常フラグを読み込んで仮異常フラグが「OFF」から「ON」に変化したタイミングであるか否かを判定する。具体的には、前回の制御周期において読み込んだ仮異常フラグと、今回の制御周期において読み込んだ仮異常フラグとを比較する。そして、前回の制御周期において読み込んだ仮異常フラグが「OFF」であり、今回の制御周期において読み込んだ仮異常フラグが「ON」である場合に、仮異常フラグが「OFF」から「ON」に変化したタイミングであると判定する。
ステップS7010にて、仮異常フラグが「OFF」から「ON」に変化したタイミングであると判定した場合(ステップS7010:YES)には、出力制限部506は、ステップS7020にて、タイマによる計時をスタートさせる。そして、出力制限部506はステップS7030へと処理を進める。
一方、ステップS7010にて、仮異常フラグが「OFF」から「ON」に変化したタイミングではないと判定した場合(ステップS7010:NO)には、出力制限部506は、ステップS7020の処理を行わずに、ステップS7030へと処理を進める。すなわち、すでにタイマによる計時がスタートしている場合には、計時が継続され、未だタイマによる計時がスタートしていない場合には、計時が行われないまま、処理がステップS7030へと進むことになる。
ステップS7030にて、出力制限部506は、タイマの計時時間が「X5[msec]」以上であるか否かを判定する。なお、「X5[msec]」は、振り落とし制御において少なくとも1回以上弁体404を駆動する時間を確保することのできる程度の長さに設定されている。
ステップS7030にて、タイマの計時時間が「X5[msec]」以上である旨を判定した場合(ステップS7030:YES)には、出力制限部506は、ステップS7040へと処理を進め、出力制限処理を開始する。一方、ステップS7030にて、タイマの計時時間が「X5[msec]」未満である旨を判定した場合(ステップS7030:NO)には、出力制限部506は、ステップS7040の処理を行わず、そのまま、この一連の処理を一旦終了する。すなわち、出力制限部506は、仮異常フラグが「OFF」から「ON」に変化して振り落とし制御が開始されてから、「X5[msec]」経過するのを待って出力制限処理を行う。
なお、具体的には、ステップS7040では、出力制限部506は、把握している弁体404の相対角度に応じて機関回転速度の上限回転速度を算出し、その上限回転速度を超えることがないように回転速度制御部501に指令する。これにより、回転速度制御部501による機関回転速度の制御を通じて出力制限処理が実現されることになる。
なお、このように上限回転速度を設定しているのは、相対角度が小さい状態で弁体404が固着し、冷却水が多方弁4を通過しにくい状態で、機関回転速度が高くなった場合に、循環経路内の圧力が高くなりすぎ、循環経路を構成しているホースなどが抜けてしまうことなどを抑制するためである。
ここで、出力制限部506は、ポジションセンサ407が検出している相対角度とその相対角度に対応する上限回転速度との関係を記憶したマップを参照し、ポジションセンサ407が検出している相対角度に応じた上限回転数を設定する。
図15には、ポジションセンサ407が検出している相対角度と上限回転速度との関係が示されている。実線で示すように、デバイスポート403が開弁し始める相対角度以上の範囲(−θ〜−α、+θ’〜+β)において、相対角度が大きくなるのに従い、徐々に上限回転速度が高くなっていることがわかる。弁体404の相対角度が大きく、デバイスポート403、ラジエータポート401の開度が大きいほど、冷却水が多方弁4を通過しやすくなり、機関回転速度が高くなって冷却水ポンプ13から吐出される冷却水の量が多くなったとしても、循環経路内の圧力が所定値を超えにくくなる。そのため、出力制限部506が参照するマップは、弁体404の相対角度に応じて循環経路内の圧力が所定値以下となる機関回転速度の範囲を実験によって特定し、その範囲に収まる値を上限回転速度として設定することにより作成されている。
また、図15には、比較例として、弁体404の相対角度が「0[°]」である状態を想定して一様に設定した上限回転速度を二点鎖線で示している。この二点鎖線で示す設定値に比べて、実線で示す設定値では弁体404の相対角度が大きい場合に大きな上限回転速度となっていることが分かる。二点鎖線で示すように、相対角度の大小に拘わらず、上限回転速度を設定したとしても循環経路内の圧力が高くなってしまうことを抑制することができる。しかし、二点鎖線で示すように弁体404の相対角度が「0[°]」であったとしても循環経路内の圧力が所定値以下となるように上限回転速度を設定すると、相対角度が「0[°]」以外の角度であり、いずれかのポート401、402、403が開弁しているときに、内燃機関1の出力を過剰に制限することになってしまう。この点、実線で示すように、相対角度に応じた上限回転速度を設定するようにすれば、弁体404の相対角度にあわせて内燃機関1の出力を制限することができるため、出力制限処理を実行することにより、過度に内燃機関1の出力を制限してしまうことを抑制しつつ、循環経路内の冷却水の圧力が過剰に高くなることを抑制することができる。
また、ECU500は、出力制限処理を解除するか否かを判定する出力制限解除判定の処理を実行する。図16にはこの出力制限解除判定の処理の流れが示されている。この出力制限解除判定の処理は、ECU500に通電が行われているときに出力制限部506によって繰り返し実行される。
図16に示すように、この処理が開始されると、出力制限部506は、ステップS8010にて、仮異常フラグを読み込み、仮異常フラグが「OFF」であるか否かを判定する。
ステップS8010にて、仮異常フラグが「OFF」であると判定した場合(ステップS8010:YES)には、出力制限部506は、ステップS8020へと処理を進め、タイマによる計時をリセットする。そして、ステップS8030にて、出力制限処理を解除する。
具体的には、ステップS8030では、出力制限部506は、弁体404の相対角度に基づく機関回転速度の上限回転速度の算出を停止し、回転速度制御部501への指令を停止する。これにより、回転速度制御部501は、上限回転速度に制限されることなく、必要なトルクが得られるように機関回転速度を制御するようになる。
ステップS8030にて、出力制限処理を解除すると、出力制限部506は、この一連の処理を一旦終了する。なお、ステップS8020に処理を進めたときにタイマによる計時が行われていない場合や、ステップS8030に処理を進めたときに出力制限処理が行われていない場合には、そのまま、この一連の処理を一旦終了する。
一方で、ステップS8010にて、仮異常フラグが「ON」であると判定した場合(ステップS8010:NO)には、出力制限部506は、ステップS8020及びステップS8030の処理を行わずに、そのまま、この処理を一旦終了する。
このような出力制限解除判定の処理が繰り返されることにより、このECU500では、弁体404の固着が解消され、仮異常フラグが「OFF」になったときには、タイマがリセットされ、出力制限処理が解除されるようになっている。
図8、9を参照して説明したように、固着判定部503により固着が生じているとの判定がなされて仮異常フラグが「ON」になると、振り落とし制御が開始され、このときに図14を参照して説明したようにタイマによる計時が開始される。そして、仮異常フラグが「ON」であり、振り落とし制御が継続されている間は、タイマによる計時が継続されるようになっている。そこで、ECU500では、タイマによる計時時間を利用して、振り落とし制御が一定期間に亘って継続した場合に、多方弁4に異常が生じている旨の異常診断を確定させるようにしている。
図17には、この異常診断を確定させる処理である本異常判定の処理の流れが示されている。この本異常判定の処理は、ECU500への通電が行われており、弁制御が禁止されていないときに固着判定部503によって繰り返し実行される。
図17に示すように、この処理を開始すると、固着判定部503は、ステップS9010にて、タイマの計時時間が「X6[msec]」以上であるか否かを判定する。なお、ここでの判定の閾値である「X6[msec]」は、出力制限処理を開始するか否かを判定するための閾値であった「X5[msec]」よりも長く、図12を参照して説明した両側振り落とし制御を1回実行するのに要する時間よりも長い時間に設定されている。
ステップS9010にて、タイマの計時時間が「X6[msec]」以上である旨を判定した場合(ステップS9010:YES)には、固着判定部503は、ステップS9020にて、温度取得部504から取得した冷却水の温度が「X7[℃]」以上であるか否かを判定する。なお、ここで判定の閾値としている「X7[℃]」は、温度取得部504から取得した温度が「X7[℃]」未満であることに基づいて循環経路内の冷却水が凍結していると判定することができるように、その大きさが設定されている。
ステップS9020にて、冷却水の温度が「X7[℃]」以上である旨を判定した場合(ステップS9020:YES)には、固着判定部503は、ステップS9030に処理を進め、異常診断を確定させる。具体的には、固着判定部503は、ステップS9030にて、弁体404に異常が発生していることを示す本異常フラグを「ON」に設定し、異常診断を確定させる。こうして異常診断を確定させると、固着判定部503はこの本異常判定の処理を終了する。
なお、ECU500では、異常診断が確定し、本異常フラグが「ON」にされているときには、警告灯130を点灯させ、弁体404の弁制御を禁止し、出力制限処理を実行するようになっている。
そのため、ステップS9030にて、本異常フラグが「ON」にされると、信号出力部505が警告灯130を点灯させる信号を出力し、警告灯130が点灯する。これにより、異常が発生していることが報知され、メンテナンスの実施が促される。また、弁制御の禁止に伴い、固着判定部503は、振り落とし制御を終了して弁体404の駆動を停止する。そして、出力制限部506は、出力制限処理を継続するため、弁体404の相対角度に応じた機関回転速度の上限回転速度の算出し、回転速度制御部501への指令を継続する。
一方、ステップS9010にて計時時間が「X6[msec]」以上である旨を判定したものの、ステップS9020にて冷却水の温度が「X7[℃]」未満である旨判定した場合(ステップS9010:YES且つステップS9020:NO)には、固着判定部503は、ステップS9040に処理を進め、異常診断を保留する。
具体的には、ステップS9040において異常診断を保留した場合には、固着判定部503は、本異常フラグを「ON」にせず、警告灯130も点灯させないものの、弁体404の弁制御を禁止するとともに、出力制限処理を行う。こうして異常診断を保留すると、固着判定部503はこの本異常判定の処理を終了する。
なお、固着判定部503は、異常診断の確定や異常診断の保留に伴い、ECU500におけるタイマの計時時間をリセットするとともに、仮異常フラグを「OFF」にする。
上記のように、ステップS9030及びステップS9040では、弁制御を禁止するようにしている。そのため、ステップS9030又はステップS9040が実行された場合には、弁制御が禁止された状態になるため、その後は、本異常判定の処理は実行されなくなる。
一方で、ステップS9010にて、タイマの計時時間が「X6[msec]」未満である旨を判定した場合(ステップS9010:NO)には、固着判定部503は、ステップS9020〜ステップS9040の処理を行わず、そのまま、この本異常判定の処理を一旦終了する。すなわち、この場合には弁制御は禁止されない。そのため、固着判定部503は、タイマの計時時間が「X6[msec]」以上になるまでの間は、本異常判定の処理を繰り返し実行することになる。
なお、本異常フラグは、ECU500におけるバックアップメモリに記憶される。仮異常フラグが記憶される通常のメモリと異なり、バックアップメモリは、ECU500への通電が行われていない間も記憶が保持される。そのため、異常診断が確定し、一旦、本異常フラグが「ON」にされると、ECU500への通電が停止されたとしても、本異常フラグが「ON」になっている状態が維持される。したがって、一旦、異常診断が確定した場合には、機関運転が終了してECU500への通電が停止された後、再び機関運転が開始されたときには、本異常フラグが「ON」になっている状態で機関運転が行われるようになる。上述したように、本異常フラグが「ON」になっている場合には、警告灯130が点灯され、弁制御が禁止されるとともに、出力制限処理が実行される。そのため、一旦、異常診断が確定した場合には、メンテナンスが実施されるなどして、バックアップメモリに記憶されている本異常フラグが「OFF」にされるまで、警告灯130の点灯と、弁制御の禁止と、出力制限処理とが行われることになる。
一方、異常診断を保留した場合には、本異常フラグは「ON」にされないため、機関運転が終了してECU500への通電が停止された後、再び機関運転が開始されたときには、弁制御の禁止や、出力制限処理が解除されている状態から、図8〜17を参照して説明したような各種の制御が実行されるようになる。
ところで、ECU500では、機関運転が開始された直後の多方弁4の通常制御において、多方弁4の動作確認のために、弁体404をマイナスの方向とプラスの方向とに駆動するようにしている。図18及び図19には、こうした機関運転が開始された直後の多方弁4の通常制御において、固着が判定される場合の状況の推移を示している。
なお、図18は振り落とし制御を実行しても固着が解消されずに本異常フラグが「ON」になって異常診断が確定する場合の状況の推移を示しており、図19は振り落とし制御により固着が解消されて本異常フラグが「ON」にならない場合の状況の推移を示している。また、図18及び図19では、説明の便宜上、マイナスの方向に弁体404を駆動するときのデューティ比にマイナスの符号を付して弁体404を駆動する方向を示している。そのため、ここでは、例えば「−X2[%]」は、マイナスの方向にデューティ比「X2[%]」でモータ408を駆動することを示している。したがって、「−100[%]」は、マイナスの方向にモータ408を駆動するデューティ比が、「−X2[%]」の場合よりも大きく、モータ408のトルクが大きいことを示している。
まず、図18を参照して、本異常フラグが「ON」となる場合を例に、ECU500による作用を説明する。図18に示すように、時刻t10では、多方弁4の動作確認のために、破線で示すように目標とする相対角度がマイナス側の相対角度に変更される。これにより、モータ制御部502によってデューティ比がPI制御を通じて変更され、弁体404がマイナスの方向に駆動される。このときには、冷却水が凍結しておらず、固着も発生していないため、実線で示すように弁体404の相対角度が目標とする相対角度に近づくように変化し、それに伴ってデューティ比も小さくなっていく。時刻t20に至るまでには相対角度が目標とする相対角度と等しくなり、デューティ比は「0[%]」になる。
そして、時刻t20では、破線で示すように目標とする相対角度が、時刻t10において弁体404が駆動される前の相対角度に戻される。これにより、時刻t30までに弁体404の相対角度は時刻t10において弁体404が駆動される前の相対角度に戻る。
次に、時刻t30では、多方弁4の動作確認のために、破線で示すように目標とする相対角度がプラス側の相対角度に変更される。これにより、デューティ比がPI制御を通じて変更され、弁体404がプラスの方向に駆動される。しかし、このときに固着が発生すると、実線で示すように相対角度が変化しないため、PI制御における積分項の値が増大し、デューティ比が徐々に増大する。
こうして弁体404が移動していない状態でデューティ比が増大していくと、時刻t40においてデューティ比が「X2[%]」以上になる。このときには、弁体404は回動していないため、弁体404の回転速度は「X3/X1[°/msec]」未満となっている。したがって、このときには、仮異常判定の処理(図9)を通じてカウンタの値がカウントアップされていく。
そして、時刻t50にて、カウンタの値が「X4」以上になると、固着判定部503によって弁体404が固着していると判定され、仮異常フラグが初期状態である「OFF」から「ON」にされる。こうして仮異常フラグが「OFF」から「ON」になると、出力制限開始判定の処理(図14)を通じてタイマによる計時がスタートするとともに(図18におけるタイマ「ON」)、弁制御切替の処理(図8)を通じて振り落とし制御が選択され、時刻t50から振り落とし制御が開始される。
なお、このときには、相対角度が「−α[°]」と「+β[°]」の間にあり、制限領域に入っていないため、振り落とし制御のモード設定の処理(図11)を通じて振り落とし制御のモードとして両側振り落とし制御が設定され、両側振り落とし制御が実行される。また、固着が判定される前には、プラスの方向に駆動されていたため、ここでは、両側振り落とし制御を開始する際に、マイナスの方向への駆動が始めに実行される。
こうして振り落とし制御が開始されると、実線で示すようにデューティ比が「−100[%]」、「0[%]」、「+100[%]」、「0[%]」と順に変更され、モータ408への通電を停止して弁体404の駆動を停止する期間を挟んで、マイナスの方向とプラスの方向とに交互に弁体404が駆動される。
そして、時刻t60において、振り落とし制御が行われているときに、タイマによる計時時間が「X5[msec]」以上になると、出力制限開始判定の処理(図14)を通じて出力制限部506による出力制限処理が開始される。
こうして時刻t60において出力制限処理を開始した後も固着が解消されず、振り落とし制御が継続され、時刻t90においてタイマによる計時時間が「X6[msec]」以上になると、本異常判定の処理(図17)を通じて固着判定部503により多方弁4の異常診断が確定され、本異常フラグが「OFF」から「ON」にされる。
こうして異常診断が確定されることにより、信号出力部505によって警告灯130が点灯され、モータ制御部502による弁制御が禁止される。また、出力制限部506による出力制限処理が継続される。
このように、ECU500では、固着判定部503が、弁体404が固着していると判定し、仮異常フラグが「ON」にされたときに、モータ制御部502が弁体404を駆動するようにモータ408への通電を行う振り落とし制御を実行するようにしている。そして、振り落とし制御を行っているときに出力制限処理を行うとともに、振り落とし制御を一定期間に亘って継続しても固着が解消されない場合には、異常診断を確定させ、報知装置である警告灯130を点灯させて異常の発生を報知するようにしている。
次に、図19を参照して、振り落とし制御により固着が解消され、本異常フラグが「ON」にならない場合を例に、ECU500による作用を説明する。なお、時刻t10〜時刻t60までの状況の推移は図18を参照して説明した例と同一であるため、ここでは時刻t70以降の状況の推移と、作用を説明する。
図19に示すように、タイマによる計時時間が「X6[msec]」以上になる時刻t90よりも前の時刻t70では、振り落とし制御におけるマイナスの方向への弁体404の駆動が行われる。このマイナスの方向への弁体404の駆動によって固着が解消された場合には、実線で示すように弁体404の相対角度がマイナス側に変化するようになる。これにより、時刻t90よりも前の時刻t80において、仮異常解除判定の処理(図10)を通じて弁体404の回転速度が「X3/X1[°/msec]」以上であることが判定されると、固着判定部503によって固着が解消されたと判定され、仮異常フラグが「OFF」にされる。
こうして仮異常フラグが「OFF」になることにより、出力制限解除判定の処理(図16)を通じてタイマによる計時がリセットされ、出力制限処理も解除される。そのため、この場合には、タイマによる計時時間が「X6[msec]」以上になることはなく、異常診断の確定は行われない。また、タイマによる計時時間が「X6[msec]」以上にならないため、異常診断の保留も行われない。したがって、この場合には、多方弁4の弁制御は禁止されない。
このように弁制御が禁止されておらず、仮異常フラグが「OFF」になっているため、この場合には、弁制御切替の処理(図8)を通じて弁体404の制御態様として通常制御が選択される。したがって、時刻t80以降においては、破線で示すように目標とする相対角度が変更された際に、PI制御を通じてデューティ比が変更され、目標とする相対角度に近づくように弁体404の相対角度が変化するようになる。
このように、ECU500では、異常診断が確定される前に振り落とし制御によって固着が解消された場合には、多方弁4の制御態様を通常制御に戻すようにしている。そして、振り落とし制御によって固着が解消された場合には、異常診断が行われないため、警告灯130が点灯したり、多方弁4の弁制御が禁止されることが回避される。また、出力制限処理も終了するため、内燃機関1の出力が制限された状態が解消されるようになる。
以上説明した実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)仮異常フラグが「ON」になった場合、すなわち固着判定部503によって弁体404が固着していると判定された場合には、振り落とし制御が実行される。このように振り落とし制御が実行されることにより、弁体404が駆動されて僅かにでも動くことによって、ハウジング400と弁体404との間や、弁体404とモータ408との間のギア409に噛み込んだ異物が脱落する可能性がある。こうして噛み込んでいた異物が脱落すれば、弁体404の固着が解消され、多方弁4の弁体404を適切に制御することができるようになる。そのため、弁体404の固着に起因して冷却水の流量が適切に制御できなくなってしまうことを抑制することができる。
(2)固着判定部503は、所定期間(X1[msec])における弁体404の回転角度(移動量)が「X3[°]」未満である状態が、カウンタのカウントが「X4」以上になるまでの一定期間に亘って継続していることを条件に固着の判定をしている。これにより、ノイズの影響によってポジションセンサ407から出力される信号から算出している弁体404の移動量が瞬間的に大きくなったり、小さくなったりすることに起因して固着判定部503が固着の発生を誤判定することを抑制できる。
(3)固着判定部503は、モータ408のトルクが所定量以上であることを判定するために、デューティ比が「X2[%]」以上であることを条件の一つとして弁体404が固着しているか否かの判定をしている。そして、固着が発生していなければ弁体404の回転速度が「X3/X1[°/msec]」よりも確実に大きくなるようなデューティ比を「X2[%]」として設定している。こうして、モータ408のトルクが所定量以上であることを固着の判定の条件に加えることで、固着の判定がより厳格に行われる。
(4)モータ制御部502は、振り落とし制御において、弁体404が固着していると判定されていないときのトルクよりも大きなトルクを発生させるように、通常制御におけるデューティ比よりも大きなデューティ比でモータ408への通電を制御している。固着が発生した場合には多方弁4の弁体404が動きにくくなるが、このようにより大きなデューティ比でモータ408を駆動することより、固着が発生していたとしても振り落とし制御によって弁体404が動きやすくなり、固着が解消されやすくなる。
(5)振り落とし制御において最初に弁体404を駆動させる際には、仮異常フラグが「OFF」から「ON」になったとき、すなわち弁体404の異物の噛み込み(固着)が判定されたときの駆動方向とは反対の方向に弁体404を駆動させている。これにより、異物を挟んでいる力が緩和され、異物が早期に脱落しやすい。したがって、固着が解消されやすくなる。
(6)振り落とし制御において、モータ408への通電を停止して弁体404の駆動を停止する期間を挟んで弁体404の駆動を繰り返している。これにより、異物を挟む力が緩和され、異物を挟む力が作用しない期間が設けられることになるため、噛み込んだ異物がより脱落しやすくなる。
(7)振り落とし制御において、プラスの方向への弁体404の駆動と、マイナスの方向への弁体404の駆動とを交互に行うようにモータ408への通電を制御している。これにより、一方に駆動した場合には脱落しにくかった異物も、他方に駆動したときに脱落する可能性がある。そのため、固着が解消されやすくなる。
(8)相対開度が制限領域に入っており、弁体404の回転方向において一方の方向におけるストッパ413までの距離が所定距離未満である場合には、振り落とし制御において、他方の方向への弁体404の駆動を行うようにモータ408への通電を制御し、一方の方向への弁体404の駆動を行うようなモータ408への通電を禁止している。これにより、弁体404の係合部406からストッパ413までの距離が近い場合には、振り落とし制御においてストッパ413側に向かって弁体404が駆動されなくなる。そのため、固着が解消されたときの係合部406とストッパ413との衝突を回避することができる。
(9)振り落とし制御中も所定期間(X1[msec])における移動量を監視しているため、振り落とし制御を通じて固着が解消されて所定期間(X1[msec])における移動量が大きくなったときに、固着の解消を判定することができる。
(10)モータ制御部502は、固着判定部503が弁体404の固着が解消されたと判定した場合に、振り落とし制御を終了している。これにより、速やかに通常制御を再開して冷却水の流量を制御することができる。
(11)弁体404が固着していると判定されて振り落とし制御が行われているときに、内燃機関1の出力を制限する出力制限処理を行っている。これにより、機関駆動式の冷却水ポンプ13から吐出される冷却水の量が制限される。結果として、多方弁4の弁体404の固着が発生していたとしても、循環経路内の冷却水の圧力が過剰に高くなることが抑制される。
(12)振り落とし制御を実行すれば、固着が解消されることがある。そこで、モータ制御部502により振り落とし制御が開始された後、振り落とし制御が行われているときに、内燃機関1の出力を制限する出力制限処理を開始する。これにより、出力制限処理を開始する前に振り落とし制御によって固着が解消された場合には、出力制限処理が実行されなくなる。したがって、無闇に出力制限処理が実行されてしまうことを抑制することができる。
(13)出力制限処理において、弁体404の位置を検出するポジションセンサ407から出力される信号を取得して出力制限処理を開始する際の弁体404の位置に応じて内燃機関1の出力を制限している。これにより、弁体404の位置に応じて多方弁4の状態を把握し、多方弁4の弁体404の相対角度にあわせて内燃機関1の出力を制限することができるため、出力制限処理を実行することにより、過度に内燃機関1の出力を制限してしまうことを抑制しつつ、循環経路内の冷却水の圧力が過剰に高くなることを抑制することができる。
(14)信号出力部505は、モータ制御部502による振り落とし制御が一定期間(X6[msec])に亘って継続した場合には、警告灯130に報知を実行させる信号を出力する。これにより、振り落とし制御を一定期間(X6[msec])に亘って継続したとしても固着が解消されない場合には、異常が報知されるため、メンテナンスを促すことができる。
(15)冷却水が凍結している場合には、異物などが噛み込んでいなくても弁体404が動かなくなり、固着判定部503によって弁体404が固着していると判定されることがある。凍結によって弁体404が動かなくなっている場合には、内燃機関1の温度や気温の上昇に伴って固着は解消される。このように内燃機関1の温度や気温の上昇に伴って固着が解消されることのある凍結による固着の場合にまで異常の報知を実行してしまうと、メンテナンスを促す頻度が無闇に高くなり、信頼性が低下してしまう。そこで、温度取得部504によって取得した冷却水の温度が、冷却水が凍結していることを示す温度である場合には、異常診断を保留し、警告灯130に報知を実行させる信号を出力しない。これにより、凍結による固着の可能性がある場合には異常が報知されなくなるため、上記の信頼性の低下を抑制することができる。なお、異常診断を保留した場合には、弁制御が禁止され、出力制限処理が継続されるものの、本異常フラグは「ON」にされない。そのため、上述したように、機関運転が終了してECU500への通電が停止された後、再び機関運転が開始されたときには、弁制御の禁止や、出力制限処理が解除されている状態から、図8〜17を参照して説明したような各種の制御が実行されるようになる。したがって、再び機関運転が開始されたときに、冷却水の凍結が解消されている場合には、通常制御による多方弁4の制御が行われるようになり、弁制御が禁止された状態や出力制限処理が行われる状態が無闇に継続されなくなる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更できる。
・上記実施形態では、固着判定部503は、多方弁4の弁体404の位置をポジションセンサ407によって把握し、所定期間(X1[msec])における弁体404の回転角度(移動量)が「X3[°]」未満であることを条件に固着を判定していたが、これに限らない。所定期間の長さや、判定の閾値とする回転角度(移動量)の大きさは適宜変更することができる。また、例えば、固着判定部503は、モータ制御部502がフィードバック制御において目標としている弁体404の位置とポジションセンサ407から出力される信号から把握される弁体404の位置との乖離が基準量以上である状態が一定期間に亘って継続した場合に弁体404が固着していると判定するようにしてもよい。固着が発生している場合には、目標とする位置に向かって弁体404が移動しにくくなるため、フィードバック制御を実行していても目標とする弁体404の位置とポジションセンサ407から出力される信号から把握される弁体404の位置とが乖離した状態が継続するようになる。そのため、上記の構成であっても、弁体404が固着しているか否かの判定をすることができる。
具体的には、図9を参照して説明したステップS2020を以下で説明するステップS2025に入れ替えて弁体404が固着しているか否かの仮異常判定の処理を行うこともできる。この場合、図20に示すように、ステップS2025にて、固着判定部503は、モータ制御部502がフィードバック制御において弁体404の目標値とする相対角度とポジションセンサ407が把握する弁体404の相対角度との乖離量を算出する。固着判定部503は、この乖離量が基準値「X8[°]」以上であるか否かを判定する。乖離量が基準値「X8[°]」未満である場合(ステップS2025:NO)は、ステップS2060にてカウントをリセットし、仮異常判定を終了する。一方、乖離量が基準値「X8[°]」以上である場合(ステップS2025:YES)は、ステップS2030に処理を進め、カウントアップを行う。
・上記実施形態では、弁体404が固着していると判定された後、所定期間(X1[msec])における弁体404の回転角度(移動量)が「X3[°]」以上である場合には、弁体404の固着が解消されたと判定していたが、この条件だけに限らない。所定期間の長さや、判定の閾値とする回転角度(移動量)の大きさは適宜変更することができる。例えば、弁体404が固着していると判定された際のハウジング400に対する弁体404の相対角度とその後のハウジング400に対する弁体404の相対角度を比較し、固着が判定された際の相対角度から所定量以上変化していることが判定されたときに、固着が解消されたと判定するようにしてもよい。また、例えば、上記の所定期間(X1[msec])における弁体404の回転角度(移動量)が「X3[°]」以上である状態が所定期間(X1[msec])よりも長い一定期間に亘って継続した場合に弁体404の固着が解消されたと判定してもよい。こうした構成によれば、移動量が大きい状態が一定期間に亘って継続した場合に、固着が解消されたと判定するようにしているため、ノイズなどによる瞬間的な移動量の変化による誤判定を抑制することができる。要するに、所定量以上移動したことが確認できれば、固着が解消されたと判定することができる。
・上記実施形態では、固着判定部503は、所定期間における弁体404の移動量が基準値未満である状態が、所定期間よりも長い一定期間に亘って継続していることを条件に固着の判定を行っていたが、これに限らない。例えば、固着判定部503は、所定期間における弁体404の移動量が基準値未満である場合には、直ちに弁体404が固着していると判定してもよい。
・上記実施形態では、固着判定部503は、モータ408のトルクが所定量以上であることを条件の一つとするために、デューティ比が「X2[%]」以上であることを条件の一つとして弁体404が固着しているか否かの判定をしていたが、こうしたモータ408のトルクに関する条件を加えず固着の判定をしてもよい。
・上記実施形態では、モータ制御部502は、振り落とし制御において、弁体404が固着していると判定されていないときのトルクよりも大きなトルクを発生させるようにモータ408への通電を制御していたが、これに限らない。例えば、振り落とし制御において、弁体404が固着していると判定されていないときの通常制御において実現されるトルクの範囲内のトルクでモータ408を駆動するようにしてもよい。
・上記実施形態では、モータ制御部502が振り落とし制御において最初に弁体404を駆動させる方向は、固着が判定されたときの駆動方向とは反対の方向であったが、これに限らない。例えば、固着が判定されたときの駆動方向と振り落とし制御において最初に弁体404を駆動させる方向とを同じ方向にしてもよい。
・上記実施形態では、振り落とし制御において、モータ408への通電を停止して弁体404の駆動を停止する期間を挟んで弁体404の駆動を繰り返していたが、このように弁体404の駆動を停止する期間を設けなくてもよい。また、駆動を停止する期間を設ける場合に、必ずしも、プラスの方向への駆動とマイナスの方向への駆動との間に、駆動を停止する期間を設けなくてもよい。例えば、プラスの方向への駆動とマイナスの方向への駆動とを連続して実施した後に駆動を停止する期間を設け、その後に駆動を再開するようにしてもよい。
・上記実施形態では、振り落とし制御において、プラスの方向への弁体404の駆動と、マイナスの方向への弁体404の駆動とを交互に行うようにモータ408への通電を制御していたが、プラスの方向への駆動とマイナスの方向への駆動とを必ずしも交互に行わなくてもよい。例えば、一方に駆動した後、駆動を停止する期間を挟んでまた同じ方向に駆動することを繰り返すといった構成や、駆動を停止する期間を挟んで複数回同じ方向への駆動を繰り返した後、別の方向への駆動を行うといった構成を採用することもできる。
・上記実施形態では、弁体404の回転方向において、一方の方向における弁体404の係合部406からストッパ413までの距離が所定距離未満である場合には、振り落とし制御において、一方の方向への弁体404の駆動を行うようなモータ408への通電を禁止していたが、禁止しなくてもよい。すなわち、振り落とし制御において、常に両側振り落とし制御を実行するようにしてもよい。
・上記実施形態では、固着判定部503が弁体404の固着が解消されたと判定した場合に、振り落とし制御を終了していたが、これに限らない。例えば、固着判定部503が弁体404の固着が解消されたと判定した後、所定時間の間は、振り落とし制御を継続するようにしてもよい。固着判定部503が弁体404の固着が解消されたと判定したとしても、ハウジング400と弁体404との間などに噛み込んだ異物が完全に脱落していない場合も考えられる。そのような状況においては、弁体404の固着が解消されたと判定された後であっても振り落とし制御をしばらく継続することによって異物が完全に脱落する可能性がある。
・上記実施形態では、振り落とし制御が行われているときに内燃機関1の出力制限処理を実施していたが、出力制限処理を行わなくてもよい。
・上記実施形態では、振り落とし制御が開始された後、内燃機関1の出力制限処理を実施していたが、これに限らない。例えば、弁体404の仮異常フラグが「ON」となった際に、直ちに内燃機関1の出力制限処理を開始してもよい。
・上記実施形態では、仮異常フラグが「ON」となった後に弁体404の相対角度に合わせて内燃機関1の出力制限処理を行っていたが、これに限らない。例えば、仮異常フラグが「ON」となる前であっても、弁体404の相対角度が小さい状態で、固着が発生し、弁体404の回転しにくくなっているときには、循環経路内の圧力が高くなるおそれがある。その場合には、弁体404の回転速度が低く、回転しにくくなっていることが判明した時点で、仮異常フラグが「ON」となる前に内燃機関の出力制限処理を行ってもよい。
・上記実施形態では、出力制限処理において、弁体404の相対角度に応じて機関回転速度の上限回転速度を算出し、その上限回転速度を超えることがないように機関回転速度を制御していたが、これに限らない。例えば、図15に二点鎖線で示したように、弁体404の相対角度に関係なく、一定の上限回転速度を設定し、その上限回転速度を超えることがないように機関回転速度を制御してもよい。
・上記実施形態では、報知装置として警告灯130を備えている例を示し、本異常フラグが「ON」にされた場合に、警告灯130を点灯させて異常の発生を報知する構成について説明したが、必ずしも異常の発生を報知する必要はない。例えば、出力制限処理などによる挙動の変化から異常が察知されることもある。こうして異常が察知されてメンテナンスを実施するときにバックアップメモリに記憶されている本異常フラグの状態を確認すれば、多方弁4の異常診断が確定しているのか否かを確認することができ、メンテナンスを実施することができる。
・また、報知装置は警告灯130に限らない。例えば、音声により異常の発生を報知するスピーカなどを設けるようにしてもよい。
・上記実施形態では、冷却水の温度が「X7[℃]」未満である場合は、本異常フラグを「ON」にせず、異常診断を確定せずに、異常診断を保留する例を示したが、これに限らない。例えば、冷却水の温度に拘らず、振り落とし制御が一定期間に亘って継続したときに本異常フラグを「ON」として異常診断を確定するようにしてもよい。また、冷却水が凍結しているか否かを判定することができるのであれば、センサによって検出した冷却水の温度によらず、外気温度センサ124から検出された外気温度に基づいて冷却水の温度を推定し、異常診断を保留する構成を適用してもよい。
・上記実施形態では、出力制限部506が仮異常フラグに基づいてタイマのスタート及びリセットを行い、そのタイマの計時時間に基づいて本異常判定の処理を行っていたが、これに限らない。例えば、ECU500内のその他の処理部がタイマのスタート及びリセットを行ってもよい。このようにすれば、出力制限部506を備えない内燃機関の制御装置であっても、タイマの計時時間に基づいて弁体404の固着の本異常判定を行うことができる。
・制御弁として3つのポートを有する多方弁4を例示したが、こうした複数のポートを備える制御弁に限らず、ハウジング内で弁体が移動する制御弁であれば、同様の課題は生じ得るため、ハウジング内で弁体が移動する制御弁を制御する内燃機関の制御装置であれば、上記実施形態と同様の構成を適用することができる。また、弁体は、ハウジング内で回転するものに限らず、ハウジング内で直線的にスライドするものであってもよい。