(第1実施形態)
以下、第1実施形態のファーサイドエアバッグ装置が設けられている車両用シートについて、図1〜図10を参照して説明する。なお、図1では、図面の左側が車両前方になっており、図面の上側が車両上方になっている。
図1に示すように、この車両用シート10の座部11には、背もたれ13が連結されている。車両用シート10の背もたれ13には、図1に破線で示すように、ファーサイドエアバッグ装置100が搭載されている。また、図1の下方に示すように、ファーサイドエアバッグ装置100には制御装置150が接続されており、制御装置150には衝撃センサ160が接続されている。
衝撃センサ160は車両のサイドピラーなどに取り付けられた加速度センサからなり、側面衝突などによる車両側方からの衝撃を検出する。制御装置150は衝撃センサ160から出力された検出信号に基づき、ファーサイドエアバッグ装置100にエアバッグ110を展開させるための制御指令を出力する。
背もたれ13には、後述するようにファーサイドエアバッグ装置100のエアバッグ110が折り畳まれた状態で収容されており、制御装置150から制御指令が出力されると、エアバッグ110が、図1及び図2に二点鎖線で示すように展開膨張する。なお、図1に示すように、エアバッグ110が展開膨張したときにその下端がセンターコンソールボックス300の上端よりも下方に位置するように、エアバッグ110の配設位置や、高さ方向における寸法が設定されている。そのため、エアバッグ110が展開膨張したときには、エアバッグ110の下端が車両用シート10に着座している乗員とセンターコンソールボックス300との間に入り込んだ状態になる。
なお、図2は車両用シート10等の平面図である。図2では、図面の左側が車両前方になっており、図面の下側が車室中央側になっている。また、車両には、車両用シート10に着座した乗員を拘束するシートベルト装置が装備されているが、図1及び図2ではこのシートベルト装置の図示が省略されている。
車室側壁200と乗員との間にエアバッグを展開膨張するサイドエアバッグ装置、すなわち車室側壁200に近いニアサイドにエアバッグを展開膨張するニアサイドエアバッグ装置と異なり、ファーサイドエアバッグ装置100は、図2に破線で示すように、車両用シート10の背もたれ13における車室中央側の部分に収容されている。これにより、衝撃センサ160によって車両側方からの衝撃が検出されると、エアバッグ110は図2に二点鎖線で示すように、隣の座席との間を仕切るように展開膨張して乗員を保護する。
次に図3を参照して、ファーサイドエアバッグ装置100の構成と、ファーサイドエアバッグ装置100が収容されている背もたれ13の構造について説明する。なお、図3は、背もたれ13の、車室中央側のサイドサポート近傍の断面図であり、図3では図面の上側が車両前方になっており、図面の左側が車室中央側になっている。
図3に示すように、背もたれ13の内部には、背もたれ13の骨格をなすシートフレーム130が配置されている。シートフレーム130は金属板を曲げ加工することによって溝型の断面を有する形状に形成されている。シートフレーム130は、溝の内側をシート中央側(図3の右側)に向けて配設されている。そして、背もたれ13におけるシートフレーム130の周囲、すなわち乗員がもたれかかる部分には、ウレタンフォームなどの弾性材からなるパッド131が充填されている。なお、パッド131はシート表皮によって被覆されているが図3ではシート表皮の図示を省略している。一方で、背もたれ13における車両後方側の部分、すなわち背もたれ13の裏面は合成樹脂などによって形成された硬質の背板132で覆われている。
図3に示すように、背もたれ13の車室中央側のサイドサポートの内部にはファーサイドエアバッグ装置100を収容する空間が設けられている。そして、この空間にファーサイドエアバッグ装置100が収容されている。パッド131には、この空間の車両前方側の先端部分からサイドサポートの先端に向かって延びるスリット133が設けられている。これにより、このスリット133とサイドサポートの先端部とによって挟まれた部分(図3における二点鎖線で囲まれた部分X)は、エアバッグ110が展開膨張する際に破断するようになっている。
ファーサイドエアバッグ装置100は、折り畳まれたエアバッグ110と、エアバッグ110を展開膨張させる膨張流体を噴出する膨張流体発生源であるインフレータ121とを含んでいる。第1実施形態では、インフレータ121として、パイロタイプと呼ばれるタイプのものが採用されている。インフレータ121は略円柱状をなしており、その内部には、エアバッグ110を膨張させる膨張流体として膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。なお、インフレータ121としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬などによって破断して膨張用ガスを噴出させるハイブリッドタイプが用いられてもよい。
インフレータ121には、シートフレーム130に固定するためのボルト123が2つ設けられている。ファーサイドエアバッグ装置100は、図3に示すように、このボルト123をシートフレーム130に挿通させた状態で、ボルト123にナット124を螺合させることにより、シートフレーム130の車室中央側の面に固定される。こうして背もたれ13内に固定されるファーサイドエアバッグ装置100は、折り畳んだエアバッグ110を図3に示すようにインフレータ121の前方に配置することより、コンパクトな収容形態にされている。なお、エアバッグ110には、後述する外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117が取り付けられている。一端がエアバッグ110に連結されてエアバッグ110とともに折り畳まれた外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117の他端は、図3に示すように、シートフレーム130に巻きつけられている。
具体的には、外側テンションベルト116は、エアバッグ110におけるインフレータ121が収容されている部分と、シートフレーム130の後端とを包むように、シートフレーム130の後端に巻き回されている。一方、内側テンションベルト117は、シートフレーム130の前端を包むように、シートフレーム130の前端に巻き回されている。
そして、シートフレーム130の溝の内側まで巻き回された外側テンションベルト116の端部及び内側テンションベルト117の端部は、ファーサイドエアバッグ装置100をシートフレーム130に固定しているボルト123及びナット124によってシートフレーム130の溝の内側に連結されている。すなわち、ファーサイドエアバッグ装置100をシートフレーム130に取り付ける際には、ボルト123にナット124を締結する前に、外側テンションベルト116の端部及び内側テンションベルト117の端部にボルト123を挿通させ、これらの端部をシートフレーム130の溝の内側に重ねて配置しておく。そして、シートフレーム130とナット124との間に外側テンションベルト116の端部及び内側テンションベルト117の端部を挟んだ状態で、上述したようにボルト123とナット124とを締結し、ファーサイドエアバッグ装置100をシートフレーム130に固定する。外側テンションベルト116の端部及び内側テンションベルト117の端部は、このような方法で、ファーサイドエアバッグ装置100をシートフレーム130に固定しているボルト123及びナット124によってシートフレーム130の溝の内側に連結されている。
次に、図4及び図5を参照してエアバッグ110の構成を説明する。
図4に示すように、エアバッグ110では、線対称な形状に形成された1枚の基布114を、その中央に設定した折り線に沿って二つ折りにして重ねあわせ、この1枚の基布114によってシート中央側の面になるパネル布である内側パネル114aと車室中央側の面になるパネル布である外側パネル114bとを構成している。なお、基布114としては強度が高く、且つ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸などを用いて形成した織布などが適している。また、図4では折り線を一点鎖線で示している。
このエアバッグ110では、内側パネル114aと外側パネル114bとを上記のように重ね合わせた状態で、図5に太い破線で示すステッチS1によって内側パネル114aと外側パネル114bとの周縁部を縫合することにより、同エアバッグ110を袋状に形成している。なお、図5では、図面の左側が車両前方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、図5における紙面の手前方向が車室中央側になっており、紙面の奥側がシート中央側になっている。
図5に示すように、エアバッグ110では、車両後方側で基布114が折り返されている。
また、図4に示すように、基布114の中央には、インフレータ121を収容するインナーチューブ115が設けられている。インナーチューブ115は、基布114と同じ素材で形成された四角い布材を半分に折って長方形にし、これを基布114に重ねた状態で、短辺の一方と、折り山と平行な長辺とを基布114とともに縫い合わせることによって筒状に形成されている。なお、このエアバッグ110では、筒状のインナーチューブ115の車両上方側の端部が閉塞されている。すなわち、インナーチューブ115は、車両下方に向かって開口するように、内側パネル114aに縫いつけられている。
エアバッグ110の図5における右下隅の部分、すなわち車両後方側の下端部はインフレータ121を挿入するための開口になっており、この部分からインフレータ121がエアバッグ110の内部に挿入される。
このように、エアバッグ110に、上方の端部が閉塞された筒状のインナーチューブ115が設けられ、インフレータ121がインナーチューブ115内に収容される構成は、インフレータ121から膨張用ガスが噴出されるときにエアバッグ110の上方への展開膨張よりも前方への展開膨張を促進する展開促進手段の一部として採用されている。
エアバッグ110では、内側パネル114aと外側パネル114bとを縫い合わせることにより複数の膨張室が区画されている。
図5に示すように、エアバッグ110では、ステッチS2によって内側パネル114aと外側パネル114bとを縫い合わせることにより、インフレータ121を収容している部分を含む第1膨張室110Aが区画されている。また、エアバッグ110では、ステッチS3によって内側パネル114aと外側パネル114bとを縫い合わせることにより、第3膨張室110Cが区画されている。ステッチS2,S3についても上記ステッチS1と同様に太い破線で図示されている。
そして、エアバッグ110では、第1膨張室110Aと第3膨張室110Cとの間に第2膨張室110Bが設けられている。したがって、ステッチS2は第1膨張室110Aと第2膨張室110Bとの境界に位置しており、ステッチS3は第2膨張室110Bと第3膨張室110Cとの境界に位置していることになる。そして、上記ステッチS2は、エアバッグ110に第1膨張室110Aと第2膨張室110Bとを区画形成する区画部を構成している。なお、ステッチS2の端部S21,S22は、補強のために円形になっている。また、ステッチS3の端部S31,S32も補強のために円形になっている。
図5に示すように、エアバッグ110では、ステッチS2の端部S21,S22のうち、車両上方側に位置する端部S21が、ステッチS1から離間している。これにより、第1膨張室110Aに収容されているインフレータ121から膨張用ガスが噴出してエアバッグ110が展開膨張する際には、エアバッグ110内で、ステッチS1と端部S21との間を通じて第1膨張室110Aから車両上方に向かって膨張用ガスが吹き出す。すなわち、エアバッグ110では、ステッチS1と端部S21との間の部分が、第1膨張室110Aから上方に膨張用ガスを吹き出す上方通路118になっている。
また、図5に示すように、エアバッグ110では、ステッチS2の端部S21,S22のうち、車両下方側に位置する端部S22も、ステッチS1から離間している。これにより、第1膨張室110Aに収容されているインフレータ121から膨張用ガスが噴出してエアバッグ110が展開膨張する際には、エアバッグ110内で、ステッチS1と端部S22との間を通じて第1膨張室110Aから車両前方に向かって膨張用ガスが吹き出す。すなわち、エアバッグ110では、ステッチS1と端部S22との間の部分が第1膨張室110Aから前方に膨張用ガスを吹き出す前方通路119になっている。
なお、エアバッグ110では、ステッチS1と端部S21との距離L1よりも、ステッチS1と端部S22との距離L2が長くなっている。これにより、前方通路119の通路断面積が、上方通路118の通路断面積よりも大きくなっている。こうした通路断面積に関する大小関係の設定は、上記展開促進手段の一部としてなされている。
また、上述したようにエアバッグ110には、シートフレーム130に巻きつけられる外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117が取り付けられている。
図5に示すように、外側テンションベルト116の先端は、第1膨張室110Aを区画しているステッチS2によって外側パネル114bの表面に縫いつけられている。これにより、外側テンションベルト116は、エアバッグ110の外側パネル114bの表面におけるステッチS2の位置に、先端が連結されている。外側テンションベルト116は車両後方側に延び、上述したようにシートフレーム130に巻きつけられる。なお、外側テンションベルト116は、図5に示すように、展開した状態のエアバッグ110において、インフレータ121が収容されている部分よりも上方に上端が位置するように、高さ方向の寸法が設定されている。
また、内側テンションベルト117の先端は、第1膨張室110Aを区画しているステッチS2によって内側パネル114aの表面に縫いつけられている。これにより、内側テンションベルト117は、エアバッグ110の内側パネル114aの表面におけるステッチS2の位置に、先端が連結されている。内側テンションベルト117は車両後方側に延び、上述したようにシートフレーム130に巻きつけられる。
次に、このように構成されたエアバッグ110の折り畳み方について、図6〜図8を参照して説明する。なお、図6〜図8においては、説明の便宜上、外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117や各ステッチS1,S2,S3を省略してエアバッグ110を模式的に図示している。
なお、図6(a)では、図面の右側が車両後方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、図6(a)における紙面の手前側が車室中央側になっており、紙面の奥側がシート中央側になっている。また、図6(b)は、エアバッグ110を車両後方側から見た状態を示す模式図である。
図6(a)及び図6(b)に示すように、このエアバッグ110は、まず、インフレータ121が収容されている部分に向かって、上方から、シート中央側の面、すなわち内側パネル114aを内側に巻き込むように一方向に繰り返し折り畳むロール折りによって折り畳まれる。こうして途中までロール折りによって折り畳んだ後は、図7(a)及び図7(b)に示すように、ロール折りによって折り畳まれて棒状になった部分の端部のうち、インフレータ121が収容されている部分に近い端部を中心にして、残った扇状の部分が蛇腹折りによって車両後方側に向かって折り畳まれる。すなわち、ロール折りによって折り畳まれて棒状になった部分の他方の端部をインフレータ121に近づけるように、残った扇状の部分が蛇腹折りによって折り畳まれる。なお、図7(a)でも、図面の右側が車両後方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、図7(a)における紙面の手前側が車室中央側になっており、紙面の奥側がシート中央側になっている。また、図7(b)は、エアバッグ110を車両後方側から見た状態を示す模式図である。
ファーサイドエアバッグ装置の製造に際し、エアバッグ110を上記のようにロール折り及び蛇腹折りする工程は、上記展開促進手段の一部としてなされている。
こうしてエアバッグ110が折り畳まれると、図8(a)及び図8(b)に示すような状態になる。この図8(a)でも、図面の右側が車両後方になっており、図面の上側が車両上方になっている。また、図8(a)における紙面の手前側が車室中央側になっており、紙面の奥側がシート中央側になっている。また、図8(b)は、エアバッグ110を車両下方側から見た状態を示す模式図である。
このようにエアバッグ110が折り畳まれたファーサイドエアバッグ装置100は、上述したように車両用シート10のシートフレーム130に固定され、図3に示すように車両用シート10の背もたれ13内に収容される。
なお、このファーサイドエアバッグ装置100では、ロール折りによって折り畳まれる部分の長さが、蛇腹折りによって折り畳まれる部分の長さよりも長くなっている。ロール折りによって折り畳まれた部分は、蛇腹折りによって折り畳まれた部分よりも折りがほどける際にエアバッグ110が展開する方向が安定しやすい。一方で、蛇腹折りによって折り畳まれた部分は、ロール折りによって折り畳まれた部分よりも折りがほどけやすく、速やかに展開する。こうした折り方の違いによる特徴を考慮して、このファーサイドエアバッグ装置100では、蛇腹折りによって前方への展開を促進するとともに、長い部分をロール状に折り畳み、エアバッグ110を適切な位置に展開膨張させるようにしている。
次に、こうしたファーサイドエアバッグ装置100を備える車両用シート10の作用について説明する。
衝撃センサ160により側面衝突などによる車両側方からの衝撃が検知されると、衝撃センサ160から出力された検出信号に基づき、制御装置150からファーサイドエアバッグ装置100にエアバッグ110を展開させるための制御指令が出力される。制御装置150から制御指令が出力されると、図9に矢印で示すように、インフレータ121から膨張用ガスが噴出する。
図9に示すように、インフレータ121の長さ方向における一方の端部には、インフレータ121に制御信号を入力する配線であるワイヤ120が接続されている。そのため、膨張用ガスは、インフレータ121の長さ方向における他方の端部から噴出するが、インフレータ121はワイヤ120の取り回しの関係上、ワイヤ120が接続されている端部を下方に向ける一方で、膨張用ガスを噴出する端部を上方に向けたかたちでインナーチューブ115内に収容されている。
上述したようにインナーチューブ115は上方の端部が閉塞されている。そのため、図9に矢印で示すように、インフレータ121から噴出した膨張用ガスは開口しているインナーチューブ115の下方の端部を通じてエアバッグ110内の下方に向かって噴出する。
こうしてインフレータ121から膨張用ガスが噴出し、インナーチューブ115を介してエアバッグ110内に膨張用ガスが噴射されると、各膨張室110A,110B,110C内の圧力が上昇し、図6〜図8を参照して説明した折り畳み方とは逆の順序で、エアバッグ110が展開膨張する。
具体的には、まず、図7(a)及び図7(b)に示すように、蛇腹折りによって折り畳まれていた扇状の部分の折りがほどけてエアバッグ110が展開膨張する。そのため、エアバッグ110は車両前方に向かって展開膨張する。なお、車両前方への展開膨張の過程において、背もたれ13における、スリット133とサイドサポートの先端部とによって挟まれた部分(図3における二点鎖線で囲まれた部分X)が破断し、エアバッグ110がサイドサポートから車両前方に向かって飛び出す。
そして、次に、図6(a)及び図6(b)に示すように、ロール折りによって棒状に折り畳まれていた部分の折りがほどけてエアバッグ110が車両上方に向かって展開膨張する。なお、このエアバッグ110は、内側パネル114aを内側に巻き込むように一方向に繰り返し折り畳むロール折りによって折り畳まれている。すなわち、エアバッグ110は、シート中央側の面を内側に巻き込むように一方向に繰り返し折り畳むロール折りによって折り畳まれている。そのため、ロール折りによって棒状に折り畳まれていた部分の折りがほどけてエアバッグ110が車両上方に向かって展開膨張する際には、エアバッグ110が、車両用シート10に着座している乗員側に湾曲したかたちで展開膨張し、乗員を包み込むように展開膨張する。
また、このようにエアバッグ110が展開膨張する過程において、インナーチューブ115を介して噴射された膨張用ガスは、第1膨張室110A内に拡散し、上方通路118と前方通路119を通じて第2膨張室110Bへと流れ込む。このエアバッグ110では、上述したように前方通路119の通路断面積が、上方通路118の通路断面積よりも大きくなっている。そのため、前方通路119を通じて車両前方に向かって吹き出して第2膨張室110Bへ流出する膨張用ガスの量が、上方通路118を通じて車両上方に向かって吹き出して第2膨張室110Bへ流出する膨張用ガスの量よりも多くなる。
また、膨張用ガスは開口しているインナーチューブ115の下方の端部から第1膨張室110Aの下方に向かって噴出する。そのため、膨張用ガスは、第1膨張室110Aの上方に位置する上方通路118よりも、第1膨張室110Aの下方に位置する前方通路119を通じて第2膨張室110Bに流れやすくなる。
これにより、このファーサイドエアバッグ装置100では、車両上方への展開膨張よりも、車両前方への展開膨張が促進される。すなわち、エアバッグ110が展開膨張する際には、まず車両前方に向かって速やかにエアバッグ110が展開膨張する。そして、車両前方に展開されたエアバッグ110が車両上方に向かって展開することになる。
そのため、車両用シート10に着座している乗員の車室中央側に速やかにエアバッグ110を展開膨張させて、エアバッグ110を隣の座席との間を仕切るように的確に展開させ、乗員を保護する上で適切な位置にエアバッグ110を展開膨張させることができる。
また、エアバッグ110が展開膨張する過程において、第1膨張室110Aが膨張すると、第1膨張室110Aを区画しているステッチS2の位置に連結されている外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117による張力がエアバッグ110に作用するようになる。
図10は、エアバッグ110が展開膨張し、外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117に張力が作用するようになった状態を示す模式図である。なお、図10で示している断面の位置は、図5に10−10線で示されている位置である。
図10に示すように、エアバッグ110の第1膨張室110Aはインフレータ121が収容されている部分を中心に、車両後方や、車室中央側にも膨らむ。
外側テンションベルト116は、エアバッグ110におけるインフレータ121が収容されている部分と、シートフレーム130の後端とを包むように、シートフレーム130の後端に巻き回されている。そのため、第1膨張室110Aが膨張することにより、エアバッグ110における外側テンションベルト116が連結されている部分には外側テンションベルト116を介して車室中央側及び車室後方側に向かう張力が作用する。なお、外側テンションベルト116の長さは、第1膨張室110Aが膨張したときに外側テンションベルト116が撓むことなく外側パネル114bに沿って延びきった状態になり、必要な張力を発生させることができるように設定されている。
一方、内側テンションベルト117は、シートフレーム130の前端を包むように、シートフレーム130の前端に巻き回されている。そのため、エアバッグ110が展開膨張して内側テンションベルト117に張力が作用するようになったときに、内側テンションベルト117がシートフレーム130の前端におけるシート中央側の端部とエアバッグ110のシート中央側の面との間に張り渡された状態になる。そのため、第1膨張室110Aが膨張することにより、エアバッグ110における内側テンションベルト117が連結されている部分には内側テンションベルト117を介してシート中央側及び車室後方側に向かう張力が作用する。なお、内側テンションベルト117の長さは、第1膨張室110Aが膨張したときに内側テンションベルト117がシートフレーム130の前端におけるシート中央側の端部とエアバッグ110のシート中央側の面との間に張り渡された状態になり、必要な張力を発生させることができるように設定されている。
また、エアバッグ110の後方は、図10に示すように、シートフレーム130とともに外側テンションベルト116によって包まれた状態になる。そのため、エアバッグ110は、ボルト123によってシートフレーム130に固定された部分以外に、外側テンションベルト116によって包まれた部分においても、シートフレーム130に支えられた状態になる。
なお、エアバッグ110内にあっては、テザー布111などの障害となる部材がない領域に膨張ガスが集まりやすい。このようにエアバッグ110内において膨張ガスの集まりやすい領域としては、図5に示すように、ステッチS2の端部S22とステッチS3の端部S32とを直線的に結ぶ境界よりも車両前方側の領域と、ステッチS2の端部S21とステッチS3の端部S31とを直線的に結ぶ境界よりも車両後方側の領域とを挙げることができる。そして、こうした領域は図中上下方向に延びており、こうした領域内の圧力は、領域外の圧力よりも高くなりやすい。すなわち、エアバッグ110の前部及び後部に、上下方向に延びるとともに剛性の高い部分が形成される。その結果、エアバッグ110の上部に例えば乗員が接触したとしても、エアバッグ110の上部のみが車室の中央側に変位する、いわゆるエアバッグ110の車室の中央側への折れ曲がりが生じにくい。このようにエアバッグ110の変形が抑制される分、乗員が適切に保護される。
以上説明した第1実施形態のファーサイドエアバッグ装置100によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)例えば車両が側面衝突したときの衝撃によって、車両用シート10に着座している乗員の身体が車室の中央側に変位することがある。そのため、こうした状況下であっても乗員を適切に保護するためには、車両用シート10の背もたれ13からエアバッグ110を車両前方に速やかに展開膨張させることが望ましい。そこで、第1実施形態のファーサイドエアバッグ装置100にあっては、展開促進手段を設けたことにより、エアバッグ110の車両前方への展開膨張が、エアバッグ110の車両上方への展開膨張よりも促進される。すなわち、エアバッグ110が車両前方に速やかに展開膨張されるため、車両の幅方向に並ぶ2つの席の間が当該エアバッグ110によって速やかに仕切られる。したがって、エアバッグ110の展開膨張の初期での同エアバッグ110と乗員の身体の一部との干渉を抑制することにより、乗員を保護する上で適切な位置にエアバッグ110を速やかに展開膨張させることができる。その結果、車両用シート10に着座している乗員をエアバッグ110によって適切に保護することができる。
(2)具体的には、インフレータ121から膨張用ガスが噴出されると、エアバッグ110において、まず蛇腹折りによって折り畳まれた部分の折りがほどけて展開膨張し、その後、ロール折りによって折り畳まれた部分がほどけて膨張展開する。そのため、エアバッグ110の車両前方への展開膨張が、エアバッグ110と乗員との干渉が生じやすい車両上方への展開膨張よりも促進される。その結果、車両用シート10の背もたれ13から車両前方にエアバッグ110が速やかに展開膨張されることとなり、当該エアバッグ110によって、車両の幅方向に並ぶ2つの席の間を適切に仕切ることができる。
(3)また、インフレータ121から膨張用ガスが噴出されたとき、前方通路119から第2膨張室110B内への膨張用ガスの流出量のほうが、上方通路118から第2膨張室110B内への膨張用ガスの流出量よりも多くなる。そのため、エアバッグ110の車両前方への展開膨張が、エアバッグ110と乗員との干渉が生じやすい車両上方への展開膨張よりも促進される。その結果、車両用シート10の背もたれ13から車両前方にエアバッグ110が速やかに展開膨張されることとなり、当該エアバッグ110によって、車両の幅方向に並ぶ2つの席の間を適切に仕切ることができる。
(4)また、インナーチューブ115の車両上方の端部が閉塞されているのに対し、インナーチューブ115の車両下方の端部が解放されている。そのため、インフレータ121から膨張用ガスが噴出されると、この膨張用ガスがインナーチューブ115の車両下方の端部を通じてエアバッグ110内へ流出することにより、同エアバッグ110が展開膨張されることとなる。このとき、インナーチューブ115からは車両上方に向けて膨張用ガスが流出されないため、エアバッグ110の車両前方への展開膨張が、エアバッグ110と乗員との干渉が生じやすい車両上方への展開膨張よりも促進される。その結果、車両用シート10の背もたれ13から車両前方にエアバッグ110が速やかに展開膨張されることとなり、当該エアバッグ110によって、車両の幅方向に並ぶ2つの席の間を適切に仕切ることができる。
(5)エアバッグ110は、展開膨張された状態になると、センターコンソールボックス300と車両用シート10とに挟まれた状態となる。すなわち、展開膨張したエアバッグ110の車両幅方向への変位が、センターコンソールボックス300と車両用シート10とによって抑えられる。そのため、車両用シート10に着座する乗員を、エアバッグ110によって適切に保護することができる。
(第2実施形態)
次に、ファーサイドエアバッグ装置の第2実施形態について、図11を参照して説明する。
第2実施形態では、第2膨張室110Bと第3膨張室110Cとを区画する区画部の構成が、第1実施形態とは異なるものに変更されている。より詳しくは、図11は、図5における破線で囲まれた部分Yにおけるエアバッグ110内部を、白抜き矢印で示す方向から見た状態を示している。
図11に示すように、内側パネル114aと外側パネル114bとの間にテザー布111が架け渡されている。テザー布111の車幅方向の一方の端部は、ステッチS3によって内側パネル114aに縫い合わされている。また、テザー布111の車幅方向の他方の端部は、ステッチS3によって外側パネル114bに縫い合わされている。
このように、内側パネル114aと外側パネル114bとの間にテザー布111が架け渡されることで区画部が構成される場合にも、上記第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
(第3実施形態)
次に、ファーサイドエアバッグ装置の第3実施形態について、図12〜図22を参照して説明する。
図14は、上述した図3に対応する図であり、背もたれ13の、車室中央側のサイドサポート近傍の断面図である。
図14に示すように、シートフレーム130の主要部は、前後方向及び上下方向に延びており、この主要部の後部に、ブラケット134が固定されている。ブラケット134の主要部は、車幅方向及び上下方向に延びる板状をなしている。
ファーサイドエアバッグ装置100におけるインフレータ121は、略上下方向に延びる略円柱状をなしている。インフレータ121は、その一方(上方)の端部にガス噴出部(図示略)を有している。また、インフレータ121の他方(下方)の端部には、同インフレータ121への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
図12は、エアバッグ110が膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた状態(以下「非膨張展開状態」という)のファーサイドエアバッグ装置100を示している。また、図18は、エアバッグ110をはじめとする、ファーサイドエアバッグ装置100の一部の構成部材をそれぞれ展開させた状態で示している。さらに、図13は、ファーサイドエアバッグ装置100の内部構造を示すべく、図12のエアバッグ110が車幅方向の中央部分で切断された状態を示している。
なお、上記図12及び図13では、便宜上、インフレータ121が鉛直方向に延びる姿勢にされた状態で、ファーサイドエアバッグ装置100の各部が図示されている。後述する図18、図19(a)、図20(a)、図21(a)及び図22についても同様である。
エアバッグ110は、1枚の基布114を、その中央部分に設定した折り線20に沿って前方へ二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。図12、図13及び図18では、折り線20がそれぞれ一点鎖線で示されている。ここでは、エアバッグ110の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、シート中央側に位置するものを内側パネル114aといい、車室中央側に位置するものを外側パネル114bというものとする。エアバッグ110が上記非膨張展開状態にあるとき、同エアバッグ110の後端縁は、略上下方向に延びる直線状をなす。
なお、第3実施形態では、折り線20がエアバッグ110の後端部に位置するように基布114が二つ折りされているが、折り線20が他の端部、例えば前端部、上端部、下端部等に位置するように基布114が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ110は折り線20に沿って分割された2枚の基布からなるものであってもよい。この場合には、エアバッグ110は、2枚の基布を車幅方向に重ね合わせ、両基布を、全周にわたって結合させることにより形成される。さらに、内側パネル114a及び外側パネル114bの少なくとも一方は、2枚以上の基布によって構成されてもよい。
エアバッグ110においては、内側パネル114a及び外側パネル114bの外形形状が、折り線20を対称軸として互いに線対称の関係にある。内側パネル114a及び外側パネル114bは、図示はしないが、エアバッグ110が展開及び膨張したときに、乗員の上半身の全体、すなわち、腰部から頭部にかけての部位に対応する領域を占有し得る形状及び大きさに形成されている。
内側パネル114a及び外側パネル114bの上記結合は、それらの周縁部に沿って設けられたステッチS1においてなされている。ステッチS1は、内側パネル114a及び外側パネル114bの周縁部のうち、後端部(折り線20の近傍部分)を除く部分を、縫製(縫糸で縫合)することにより形成されている。この点は、後述する各種ステッチS2,S3,S4,S5,S6についても同様である。
上記縫製に関し、図12、図13、図19〜図21では、3つの線種によって縫製部分が表現されている。1つ目の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線であり、これは、縫糸を側方から見た状態を示している(図12におけるステッチS1,S2,S3参照)。2番目の線種は、一定長さ(一般的な破線よりも長い長さ)の細線を断続的に並べて表現した線であり、これは、例えば布片の奥に位置していて直接は見えない(隠れている)縫糸の状態を示している(図12におけるステッチS4,S5,S6参照)。3番目の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線であり、これは、縫製部分を通る面における縫糸の断面を示している(図13におけるステッチS1,S4,S5,S6参照)。
エアバッグ110の配設位置や、高さ方向における寸法は、そのエアバッグ110が展開膨張したときに下端がセンターコンソールボックス300の上端よりも下方に位置し、かつ上端が乗員の頭部よりも上方に位置するように設定されている(図1参照)。
図12、図13及び図18に示すように、エアバッグ110には、折り線20に直交する方向へ延びるスリット21が形成されている(図18参照)。内側パネル114a及び外側パネル114bにおいてスリット21よりも下側の部分は、他の部分の内側へ折り曲げた状態で入り込ませられた内折り部22となっている(図17参照)。内折り部22の下端部は、上記ステッチS1によって内側パネル114a及び外側パネル114bの他の部分に対し、共縫いにより結合されている。また、内折り部22の形成に伴いスリット21が開かれて、インフレータ121の挿入口23が形成されている。
また、エアバッグ110の折り線20上であって、スリット21の上方となる複数箇所(2箇所)には、インフレータ121のボルト123を挿通させるためのボルト孔24があけられている。
エアバッグ110には、これを区画部30,40で区画することによって、複数の膨張室が形成されている。これらの膨張室には、第1膨張室110A、第2膨張室110B及び第3膨張室110Cが含まれている。第1膨張室110Aには、インフレータ121を収容する部分が含まれる。区画部30,40は、一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有している。
図12、図13及び図16に示すように、区画部30は、エアバッグ110の一部を第1膨張室110Aと、それよりも前上側の第2膨張室110Bとに区画するためのものであり、エアバッグ110と同様の素材からなる一対の布部31,32によって構成されている。両布部31,32は、エアバッグ110が非膨張展開状態にあるとき、車幅方向に重ねられた状態となる。この状態では、両布部31,32は、前後方向における中間部分が斜め前上方へ膨らむように湾曲している。
シート中央側の布部31は、これに隣接する内側パネル114aに対し、上記ステッチS2によって結合されている。同様に、車室中央側の布部32は、隣接する外側パネル114bに対し、上記ステッチS2によって結合されている。両布部31,32は、両ステッチS2から離間した箇所に設けられたステッチS4によって相互に結合されている。
区画部30の上端部とステッチS1のうち同上端部に最も近い箇所との間には、第1膨張室110Aの上部と第2膨張室110Bの上後部とを連通させて、第1膨張室110Aから上方に膨張用ガスを吹き出させるための上方通路118が形成されている。区画部30の下端部とステッチS1のうち同下端部に最も近い箇所との間には、第1膨張室110Aの前下部と第2膨張室110Bの下部とを連通させて、第1膨張室110Aから前方に膨張用ガスを吹き出させるための前方通路119が形成されている。前方通路119の通路断面積は、上方通路118の通路断面積と同程度の大きさに設定されている。
図12、図13及び図15に示すように、区画部40は、エアバッグ110の一部を第2膨張室110Bと、それよりも上側の第3膨張室110Cとに区画するためのものであり、エアバッグ110と同様の素材からなる一対の布部41,42によって構成されている。両布部41,42は、いずれも矩形状をなしており、エアバッグ110が非膨張展開状態にあるとき、車幅方向に重ねられた状態となる。
シート中央側の布部41は、隣接する内側パネル114aに対し、上記ステッチS3によって結合されている。同様に、車室中央側の布部42は、隣接する外側パネル114bに対し、上記ステッチS3によって結合されている。両布部41,42は、両ステッチS3から後方へ離間した箇所に設けられたステッチS5によって相互に結合されている。
図12、図13及び図16に示すように、エアバッグ110の後端部には、インフレータ121の少なくともガス噴出部を収容するインナーチューブ115が配置されている。インナーチューブ115は、インフレータ121のガス噴出部から噴出された膨張用ガスを、上方と下方とに向かうように分配する機能を有している。
図18に示すように、インナーチューブ115の形成のために、エアバッグ110と同様の素材を用い、下側ほど幅が増大する台形状に形成された1枚の布片51が用いられている。布片51は、その車幅方向の中央部に設定した折り線52に沿って前方へ二つ折りされて車幅方向に重ね合わされている。ここでは、インナーチューブ115の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、シート中央側に位置するものを布部53といい、車室中央側に位置するものを布部54というものとする。図12、図13及び図16に示すように、一対の布部53,54の前端部は、それらの布部53,54の前端に沿って略上下方向へ延びるステッチS6によって相互に結合されている。上述したように、インナーチューブ115として台形状の布片51が用いられている。このことから、布部53,54の前端に沿って形成されたステッチS6は、エアバッグ110が非膨張展開状態にあるとき、インナーチューブ115の後端縁(折り線52)との間隔が下側ほど大きくなるように、同後端縁(折り線52)に対し傾斜する。
図13に示すように、インナーチューブ115において、ステッチS6と折り線52とによって挟まれた領域は、インフレータ121から膨張用ガスが噴出されたときに、上下両端部が開口した筒状に膨張して、同膨張用ガスの流路となる。このとき、ステッチS6は、流路の前端に位置する。このように、ステッチS6がインナーチューブ115の後端縁(折り線52)に対し傾斜させられることにより、インナーチューブ115の下端部の開口56は、上端部の開口55よりも大きく形成されている。
図16及び図18に示すように、インナーチューブ115の折り線52上の複数箇所には、インフレータ121のボルト123を挿通させるためのボルト孔57があけられている。
インナーチューブ115は、そのボルト孔57を、エアバッグ110のボルト孔24に合致させられた状態で、ステッチ等の結合手段(図示略)によって同エアバッグ110に結合されている。
なお、インナーチューブ115は、折り線52が自身の前端部に位置するように二つ折りされてもよい。この場合には、インナーチューブ115における一対の布部53,54は、それらの後端部において相互に結合されることになるが、上記ステッチS1によってエアバッグ110における内側パネル114a及び外側パネル114bの後端部に共縫いされてもよい。また、インナーチューブ115は、布部53,54が折り線52に沿って分離されたものであってもよい。
そして、図12及び図13に示すように、インフレータ121が略上下方向へ延びる姿勢にされたうえで、同インフレータ121の下部を除く多くの部分が、略下方から挿入口23を通じて、エアバッグ110の第1膨張室110A内であって、筒状のインナーチューブ115内に挿入されている。さらに、ボルト123がボルト孔57,24に挿通されることにより(図16参照)、同インフレータ121がインナーチューブ115及びエアバッグ110に対し位置決めされた状態で係止されている。
上述したインナーチューブ115の開口55,56に関する大小関係の設定は、上記展開促進手段の一部としてなされている。
ところで、インフレータ121及びエアバッグ110を主要な構成部材として有するファーサイドエアバッグ装置100は、エアバッグ110が折り畳まれることで、図22に示すように、コンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている。これは、ファーサイドエアバッグ装置100を、背もたれ13の車室中央側の側部における限られた大きさの空間に対し、収納に適したものとするためである。
エアバッグ110は、図12に示す非膨張展開状態のエアバッグ110に対し、図19〜図21に示す折りがなされることにより、図22に示す収納用形態にされる。次に、エアバッグ110が折り畳まれる工程について説明する。
図19(a)及び図19(b)に示す非膨張展開状態のエアバッグ110における内側パネル114a及び外側パネル114bのそれぞれの上部に、前側ほど高くなるように傾斜する折り線61が設定される。これらの折り線61は、第1膨張室110Aの上部と、第2膨張室110Bの上部と、第3膨張室110Cの上部とに跨って延び、上記折り線20に対し交差する。
同図19(a)及び図19(b)において二点鎖線の矢印で示すように、内側パネル114a及び外側パネル114bにおいて折り線61よりも上側の部分62が、同折り線61よりも下側の部分63の内側に位置するように、折り線61に沿って折り返す折り(中折り、内折り等とも呼ばれる)が行なわれる。この折りにより、図19(b)において二点鎖線で示すように、エアバッグ110の部分62が、それよりも下側の部分63に対し車幅方向に重なった状態となる。これに伴い、エアバッグ110の上下方向の寸法が、上記内折りがなされる前よりも若干小さくなる。
続いて、図20(a)及び図20(b)に示すように、上記内折りがなされたエアバッグ110において、インフレータ121の前方の領域Z1(インフレータ121の前方近傍に設定された仮想線64よりも前側の領域)が、インフレータ121に向けてロール折りされる。このロール折りが行なわれることにより、図21(a)及び図21(b)に示すようにエアバッグ110は前後方向の寸法の小さな形態になる。
次に、ロール折りによって折り畳まれて棒状になった部分65の端部のうち、インフレータ121が収容されている部分に近い後端部65rを中心にして、残った扇状の部分66が蛇腹折りによって車両後方側に向かって折り畳まれる。すなわち、棒状の部分65の他方の端部である前端部65fをインフレータ121に近づけるように、扇状の部分66が蛇腹折りによって折り畳まれる。この折り畳みにより、エアバッグ110は図22に示す収納用形態になる。その後、エアバッグ110は、結束テープ(図示略)等の保持手段によって収納用形態に保持される。
このように、エアバッグ110が収納用形態にされたファーサイドエアバッグ装置100は、上下方向にも前後方向にも寸法が小さくなっており、背もたれ13の狭い空間に対しても収納に適したものとなる。
図14に示すように、収納用形態にされたファーサイドエアバッグ装置100は、背もたれ13の側部の空間に収容されている。インフレータ121から延びて、インナーチューブ115及びエアバッグ110の各ボルト孔57,24に挿通されたボルト123が、ブラケット134に対し前方から挿通され、これらのボルト123に対し、後方からナット124が締付けられている。この締付けにより、インフレータ121が、エアバッグ110の後端部及びインナーチューブ115と一緒にブラケット134に固定されている。
上記インフレータ121は、上述したボルト123及びナット124とは異なる部材によってブラケット134に取り付けられてもよい。
なお、第3実施形態において、前述した第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
次に、上記のように構成された第3実施形態のファーサイドエアバッグ装置100の作用について説明する。
側面衝突などによる衝撃が車両に対し側方から加わり、そのことが衝撃センサ160によって検出され、制御装置150から制御指令が出力されると、インフレータ121のガス噴出部から膨張用ガスが噴出される。
図13に示すように、この膨張用ガスは、インナーチューブ115の壁面に沿って流れることで、上方へ向かうものと下方へ向かうものとに分配される。上方へ分配された膨張用ガスは、インナーチューブ115の上端部の開口55から、第1膨張室110Aにおいてインナーチューブ115の上方の領域へ流出する。下方へ分配された膨張用ガスは、インナーチューブ115の下端部の開口56から、第1膨張室110Aにおいてインナーチューブ115の下方の領域へ流出する。ここで、開口56が開口55よりも大きいことから、インナーチューブ115の下方の領域に対しては、上方の領域に対するよりも多くの量の膨張用ガスが流出される。
ここで、インフレータ121から噴出された膨張用ガスのうち前方へ向かうものは、インナーチューブ115の前端縁(ステッチS6)に当たって、上方へ向かうものと下方へ向かうものとに分配される。本実施形態では、インナーチューブ115の前端縁(ステッチS6)が、後端縁(折り線52)との間隔が下側ほど大きくなるように、同後端縁(折り線52)に対し傾斜している。
膨張用ガスは、上方へ向かう場合には、下方へ向かう場合よりも大きな抵抗を受ける。そのため、インフレータ121のガス噴出部から噴出された膨張用ガスのうち前方へ向かうものは、インナーチューブ115の前端縁(ステッチS6)に当たった後、上方へ向かうものよりも多く、下方へ向かう。その結果、インナーチューブ115の下端部の開口56が、上端部の開口55よりも大きいことと相俟って、インナーチューブ115の下方の領域に対しては、上方の領域に対するよりも一層多くの膨張用ガスが流出される。
そして、インナーチューブ115よりも下方の領域に繋がっている前方通路119に対しては、インナーチューブ115よりも上方の領域に繋がっている上方通路118に対するよりも、多くの量の膨張用ガスが供給される。
そのため、前方通路119から第2膨張室110Bに対しては、上方通路118から第2膨張室110Bに対するよりも多くの量の膨張用ガスが流出される。エアバッグ110の上方への展開膨張よりも前方への展開膨張が促進される。
一方で、各膨張室110A,110B,110Cでは、膨張用ガスが供給されることで圧力(内圧)が上昇し、図19〜図21を参照して説明した折り畳み方とは逆の順序で、エアバッグ110が展開膨張する。
まず、図21(a)及び図21(b)に示すように、蛇腹折りによって折り畳まれていた扇状の部分の折りがほどけてエアバッグ110が展開膨張する。そのため、エアバッグ110は車両前方に向かって展開膨張する。なお、車両前方への展開膨張の過程において、背もたれ13における、スリット133とサイドサポートの先端部とによって挟まれた部分(図14において二点鎖線で囲まれた部分X)が破断し、エアバッグ110がサイドサポートから車両前方に向かって飛び出す。この際、内折りされることにより、エアバッグ110の上下方向の寸法が小さくされているため、内折りされていないものに比べ、同エアバッグ110は、背もたれ13の破断された部分に引っ掛かりにくく、同部分から飛び出して、前方へ展開膨張しやすい。
次に、ロール折りによって棒状に折り畳まれていた部分65の折りがほどけてエアバッグ110が、図20(a)及び図20(b)に示すように、車両上方に向かって展開膨張する。この展開膨張の過程において、内折りされていた部分が、図19(a)及び図19(b)に示すように、上方へ向かって流れる膨張用ガスの圧力を受けて上方へ向けて真っ直ぐ押し出される。内折りされた部分は、他の折り方をされた場合、例えば、外側に折り返された場合よりも、上方へ速く、しかも無駄な動作をすることなく展開膨張される。
したがって、第3実施形態によれば、上記(1)〜(3)、(5)と同様の効果が得られるほか、次の効果が得られる。
(6)エアバッグ110内には、上下両端部が開口された筒状のインナーチューブ115を設け、インフレータ121の少なくともガス噴出部をこのインナーチューブ115の中に収容する。そして、インナーチューブ115の下端部の開口56を、上端部の開口55よりも大きく形成している(図13)。
そのため、前方通路119に対しては、上方通路118に対するよりも多くの量の膨張用ガスを供給することができる。前方通路119から第2膨張室110Bに対しては、上方通路118から第2膨張室110Bに対するよりも多くの量の膨張用ガスを供給し、エアバッグ110の上方への展開膨張よりも前方への展開膨張を促進することができる。
(7)エアバッグ110が非膨張展開状態にあるとき、インナーチューブ115の前端縁(ステッチS6)を、直線状をなす後端縁(折り線52)との間隔が下側ほど大きくなるように、同後端縁(折り線52)に対し傾斜させている(図13)。
そのため、インナーチューブ115から噴出された膨張用ガスを、上方よりも下方へ多く向かわせることができる。インナーチューブ115の下端部の開口56が、上端部の開口55よりも大きいことと相俟って、開口56から下方の領域に対しては、開口55から上方の領域に対するよりも多くの膨張用ガスを供給することができる。上記(6)の効果をより大きなものとすることができる。
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・エアバッグ110の折り畳み方は、エアバッグ110の上方への展開膨張よりも前方への展開膨張を促進することのできる折り畳み方であれば、上記各実施形態で開示した折り畳み方に限らず、適宜変更することができる。例えば、ロール折りの方向を上記第1実施形態とは反対にすることもできる。
・エアバッグ110の折り畳み方として、上記各実施形態で開示した折り畳み方を採用するのであれば、上方通路118の通路断面積を前方通路119の通路断面積と同等としてもよい。こうした構成であっても、上記(1)及び(2)と同等の効果を得ることができる。
・図5におけるステッチS2の端部S21,S22のうち、車両上方側に位置する端部S21を、ステッチS1に接続させるようにしてもよい。この場合、上方通路118が形成されないこととなるため、インナーチューブ115は、その上方の端部が開放され、その下方の端部が閉塞された構成であってもよい。こうしたインナーチューブ115内ではワイヤ120の接続される端部が上方に位置し、膨張用ガスを噴出する端部が下方に位置する態様でインフレータ121が配置されることとなる。しかし、こうした構成であっても、インフレータ121から第1膨張室110A内に噴出された膨張用ガスは、前方通路119を通じて第2膨張室110B内に流出するようになる。そのため、エアバッグ110の車両前方への展開膨張を、車両上方への展開膨張よりも促進させることができる。
・上記第1及び第2実施形態では、インナーチューブ115を設け、インナーチューブ115の中にインフレータ121を収容する構成を例示したが、インナーチューブ115を設けずに、エアバッグ110の中にインフレータ121を直接収容する構成を採用することもできる。
・エアバッグ110の構成は1枚の基布114を袋状に折り畳むものに限らず、2枚の基布を重ね合わせてそれらを縫い合わせることによって形成してもよい。また、3枚以上の基布をつなぎ合わせて袋状に形成する構成を採用することもできる。
・ステッチS1〜S6は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。
・第1実施形態及び第2実施形態において、外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117は、適宜省略可能である。
また、第3実施形態についても、外側テンションベルト116及び内側テンションベルト117が設けられてもよい。
・第1実施形態において、第1膨張室110Aと第2膨張室110Bとを区画する区画部についても、第2実施形態と同様に、内側パネル114aと外側パネル114bとの間にテザー布111を架け渡す構成が採用されてもよい。
・エアバッグ110に第1膨張室110A,第2膨張室110B,第3膨張室110Cを設けた例を示したが、各膨張室の形状や、区画の仕方、膨張室の数などは適宜変更することができる。例えば、第1及び第2実施形態では、ステッチS3(端部S31,S32を含む)が省略されて、また、第3実施形態では、区画部40(ステッチS3,S5を含む)が省略されて、エアバッグ110が、第1膨張室110A,第2膨張室110Bの2つの膨張室に区画されてもよい。
・第3実施形態において、エアバッグ110がブラケット134を介することなく、シートフレーム130に直接取り付けられてもよい。
また、第1及び第2実施形態において、エアバッグ110がブラケット134を介して、シートフレーム130に間接的に取り付けられてもよい。
・第3実施形態において、インフレータ121の全体がインナーチューブ115内に収容されてもよい。
・本発明のファーサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。