以下、車両用のファーサイドエアバッグ装置に具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車両の幅方向(車幅方向)であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。また、車幅方向を規定するために、乗員を基準として、乗員に近づく側を「乗員側」といい、乗員から遠ざかる側を「反乗員側」という場合がある。さらに、車両用シートには、衝突試験用のダミーと同様の体格を有する乗員が正規の姿勢で着座しているものとする。
図1に示すように、乗物としての車両10の車幅方向の両側部は、ドア、ピラー等からなる側壁部11,12によって構成されている。車両10の室内(車室内)には、一対の車両用シート13,14が乗物用シートとして、車幅方向に並べられた状態で配置されている。側壁部11に近い側の車両用シート13は運転席として機能するものであり、ここに乗員(運転者)P1が着座する。側壁部12に近い側の車両用シート14は助手席として機能するものであり、ここに乗員P2が着座する。車室内における両車両用シート13,14の間には、センターコンソールボックス15が配置されている。車両用シート13,14は互いに同様の構成を有している。そのため、ここでは一方の車両用シート13についてのみ説明し、車両用シート14については説明を省略する。この点は、車両用シート13,14毎に設けられるファーサイドエアバッグ装置についても同様である。
図2及び図4に示すように、車両用シート13は、シートクッション16と、そのシートクッション16の後側から起立し、かつ傾斜角度を調整可能に構成されたシートバック17と、シートバック17の上に取付けられたヘッドレスト33とを備えている。
シートバック17は、車幅方向における両側部に一対のサイドサポート部19を備えている。両サイドサポート部19は、シートバック17の他の箇所よりも前方へ多く突出しており、シートクッション16に腰掛けてシートバック17に凭れた乗員P1の上半身の車幅方向における動きを規制する。
次に、車両用シート13のシートバック17のうち、隣の車両用シート14に近い側の側部の内部構造について説明する。
シートバック17の内部には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。シートフレームの一部は、図3に示すように、シートバック17のうち、隣の車両用シート14に近い側の側部内に配置されており、この部分(以下「サイドフレーム部21」という)は、金属板を曲げ加工等することによって形成されている。
図5に示すように、サイドフレーム部21は、前後方向及び上下方向に延びる板状をなしており、このサイドフレーム部21に対し、隣の車両用シート14側となる箇所にブラケット22が固定されている。ブラケット22は、車幅方向及び上下方向に延びる板状の被取付け部23と、その上側に一体に形成された追加被取付け部24とを備えている。被取付け部23の互いに離間した2箇所にはボルト孔25が形成され、追加被取付け部24の1箇所には、ボルト孔26が形成されている。
図3に示すように、サイドフレーム部21及びブラケット22を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド27が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード28が配置されている。なお、シートパッド27は表皮によって被覆されているが、図3ではその表皮の図示が省略されている。
シートパッド27内において、サイドフレーム部21よりも隣の車両用シート14に近い側の近傍には、収納部29が設けられている。この収納部29には、ファーサイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールABMが組み込まれている。図1に示すように、ファーサイドエアバッグ装置は、側突等により車両用シート13から遠い側の側壁部12に対しその側方から衝撃が加わった場合に、膨張用ガスをエアバッグ40に供給し、エアバッグ40を車両用シート13,14間で展開及び膨張させることで、車両用シート13に着座している乗員P1を衝撃から保護するためのものである。
図3に示すように、収納部29の前部であって隣の車両用シート14に近い側の角部からは、斜め前方であって車両用シート14に近づく側に向けてスリット31が延びている。シートパッド27の前部であって、車両用シート14に近い側の角部27cとスリット31とによって挟まれた箇所(図3において二点鎖線の枠で囲んだ箇所)は、エアバッグ40によって破断される破断予定部32を構成している。
図3及び図6に示すように、エアバッグモジュールABMは、ガス発生器35及びエアバッグ40を主要な構成部材として備えている。次に、これらの構成部材の各々について説明する。
<ガス発生器35>
ガス発生器35は、インフレータ36及びリテーナ37を備えている。ここでは、インフレータ36として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ36は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ36は、その上端部にガス噴出部36aを有している。また、インフレータ36の下端部には、同インフレータ36への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
なお、インフレータ36としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
一方、リテーナ37は、膨張用ガスの噴出する方向を制御するディフューザとして機能するとともに、インフレータ36を、エアバッグ40と後述するインナチューブ90と一緒にブラケット22に締結する機能を有する部材である。リテーナ37の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されている。リテーナ37は、インフレータ36を覆う本体部37aと、その本体部37aの上側に一体に形成され、かつインフレータ36を覆わない延長部37bとを備えている。
リテーナ37の互いに上下方向へ離間した複数箇所(本実施形態では3箇所)には、このリテーナ37をブラケット22に取付けるための固定部材として、それぞれ後方へ延びる2本のボルト38と1本のボルト39とが固定されている。両ボルト38は本体部37aに固定され、ボルト39は延長部37bに固定されている。なお、ガス発生器35は、インフレータ36とリテーナ37とが一体になったものであってもよい。
<エアバッグ40>
図6は、エアバッグ40が膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた状態(以下「非膨張展開状態」という)のエアバッグモジュールABMを示している。また、図7は、エアバッグモジュールABMの内部構造を示すべく、図6の非膨張展開状態のエアバッグ40が車幅方向の中央部分で切断されたエアバッグモジュールABMを示している。さらに、図10は、エアバッグ40をはじめとする、エアバッグモジュールABMの主要部の構成部材をそれぞれ展開させた状態で示している。
図6、図7及び図10に示すように、エアバッグ40は、1枚の布片(基布、パネル布等とも呼ばれる)を、その中央部分に設定した折り線41に沿って二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。ここでは、エアバッグ40の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、乗員P1に近い側に位置するものを乗員側布部42といい、乗員P1から遠い側に位置するものを反乗員側布部43というものとする。
なお、本実施形態では、折り線41がエアバッグ40の後端部に位置するように布片が二つ折りされているが、折り線41が他の端部、例えば前端部、上端部、下端部等に位置するように布片が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ40は折り線41に沿って分割された2枚の布片からなるものであってもよい。さらに、乗員側布部42及び反乗員側布部43の少なくとも一方は、2枚以上の布片によって構成されてもよい。
エアバッグ40においては、乗員側布部42及び反乗員側布部43の外形形状が、折り線41を対称軸として互いに線対称の関係にある。乗員側布部42及び反乗員側布部43は、図2及び図4に示すように、エアバッグ40が展開及び膨張したときに、乗員P1の上半身の側方のうち、同上半身の全体、すなわち、腰部PPから頭部PHにかけての部位に対応する領域を占有し得る形状及び大きさに形成されている。従って、エアバッグ40が展開及び膨張したときには、その下端がセンターコンソールボックス15の上端よりも下方に位置する。
図6、図7及び図10に示すように、乗員側布部42及び反乗員側布部43としては、強度が高く、伸びにくく、しかも可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。
乗員側布部42及び反乗員側布部43の上記結合は、それらの周縁部に沿って設けられた周縁結合部44においてなされている。周縁結合部44は、乗員側布部42及び反乗員側布部43の周縁部のうち、後端部(折り線41の近傍部分)を除く部分を、縫製(縫糸で縫合)することにより形成されている。この点は、後述する各種結合部68,69,71,85,86,87,95についても同様である。
上記縫製に関し、図6、図7、図11、図13及び図16では、3つの線種によって縫製部分が表現されている。1つ目の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線であり、これは、縫糸を側方から見た状態を示している(図6における周縁結合部44等参照)。2番目の線種は、一定長さ(一般的な破線よりも長い長さ)の細線を断続的に並べて表現した線であり、これは、例えば布片の奥に位置していて直接は見えない(隠れている)縫糸の状態を示している(図6における結合部71等参照)。3番目の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線であり、これは、縫製部分を通る面における縫糸の断面を示している(図7における周縁結合部44等参照)。
なお、周縁結合部44は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。この点は、上記各種結合部68,69,71,85,86,87,95についても同様である。
乗員側布部42及び反乗員側布部43の間であって、周縁結合部44及び折り線41によって囲まれた空間は、膨張用ガスによって展開及び膨張させられる膨張部となっている。
図6及び図10に示すように、エアバッグ40の下部には、折り線41に直交する方向へ延びるスリット45が形成されている。乗員側布部42及び反乗員側布部43においてスリット45よりも下側の部分は、他の部分の内側へ折り曲げた状態で入り込ませられた内折り部46となっている。内折り部46の前下端部は、上記周縁結合部44によって乗員側布部42及び反乗員側布部43の他の部分に対し、共縫いにより結合されている。また、内折り部46の形成に伴いスリット45が開かれて、ガス発生器35の挿入口47が形成されている。
また、エアバッグ40の折り線41上であって、スリット45の上方の互いに離間した箇所には、2つのボルト孔48と1つのボルト孔49とがそれぞれあけられている。
エアバッグ40の2箇所には、それぞれエアバッグ40の車幅方向の膨張厚みを規制する厚み規制部として、同エアバッグ40を複数の膨張部に区画する後下区画部60及び前上区画部80が設けられている(図8(a)、図9参照)。後下区画部60及び前上区画部80は、一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有している。
<後下区画部60>
後下区画部60は、ガス発生器35に対し斜め前上方に離間した箇所に配置されている。この後下区画部60は、エアバッグ40と同様の素材からなる一対の布部61を備えている。両布部61は、それぞれ独立した布片によって構成されている。両布部61は、エアバッグ40が非膨張展開状態にあるとき、車幅方向に重ねられた状態となる。
ここで、以下の事項を「条件」とする。
条件:後下膨張部51が膨張したときの後下区画部60を車幅方向から見ること。
この条件下では、図12に示すように後下区画部60は、サイドサポート部19の前端縁19aに沿った形状をなしている。
さらに、上記条件下では、後下区画部60は、後ろ向きの姿勢でサイドサポート部19に凭れた小児PCの首部PN及び胸部PBに対し、後下膨張部51から加わる荷重が許容範囲の上限値以下となるように、サイドサポート部19の上記前端縁19aを含み、かつ同前端縁19aを前上方及び後下方へそれぞれ平行移動した領域に形成されている。ここでは、衝突試験用の3歳児ダミー3YOと同様の体格を有する小児を、上記小児PCとしている。
より詳しくは、図6、図7及び図10に示すように、各布部61の主要部は本体部62によって構成されている。各本体部62は、エアバッグ40の膨張部を、後下膨張部51と、同本体部62を介して後下膨張部51の前上側に位置する前上膨張部52,53とに区画する。各本体部62は、前下本体部63及び後上本体部64を備えている。本体部62毎の前下本体部63は、後下膨張部51が膨張したとき、前後方向に対し、後部ほど高くなるように傾斜した状態で、小児PCの胸部PBに対向する箇所に形成されている。本体部62毎の後上本体部64は、後下膨張部51が膨張したとき、前後方向に対し前下本体部63よりも緩く傾斜した状態で同前下本体部63の後上側に位置し、小児PCにおいて胸部PBよりも上側の部分に対向する箇所に形成されている。この上側の部分には、小児PCの首部PNが含まれている。本体部62毎の前下本体部63及び後上本体部64は、同本体部62の長さ方向における中央部分に設けられた接続部65によって接続されている。本体部62の接続部65は、斜め前上方へ膨らむように緩やかに湾曲している。
各本体部62は、その長さ方向のどの箇所でも均一な幅を有している。各本体部62の両端部は、周縁結合部44から離間している。
後下区画部60は、上記布部61毎の本体部62に加え、前下延長部66及び後上延長部67を備えている。布部61毎の前下延長部66及び後上延長部67は、本体部62よりも狭い幅を有している。布部61毎の前下延長部66は、前下本体部63の前下端部の後半部を起点とし、前下方へ向けて延びている。布部61毎の後上延長部67は、後上本体部64の後上端部の後半部を起点とし、後上方へ向けて延びている。従って、各布部61の長さは、その後半部では、前半部よりも前下延長部66及び後上延長部67の分だけ長くなっている。本実施形態では、布部61毎の前下延長部66は、エアバッグ40の外周部(前下端部)まで延び、布部61毎の後上延長部67は、エアバッグ40の外周部(後上端部)まで延びている。
乗員側の布部61は、これに隣接する乗員側布部42に対し、結合部68によって結合されている(図9参照)。この結合部68は、乗員側の布部61の後縁部に沿って、前下延長部66、本体部62及び後上延長部67に跨って延びている。結合部68の両端部は周縁結合部44にそれぞれ交差している。表現を変えると、結合部68は、前下延長部66においても後上延長部67においても、周縁結合部44に交差している。
同様に、反乗員側の布部61は、これに隣接する反乗員側布部43に対し、結合部69によって結合されている(図9参照)。この結合部69は、反乗員側の布部61の後縁部に沿って、前下延長部66、本体部62及び後上延長部67に跨って延びている。結合部69の両端部は周縁結合部44にそれぞれ交差している。表現を変えると、結合部69は、前下延長部66においても後上延長部67においても、周縁結合部44に交差している。
ここで、緊張状態になった後下区画部60を車幅方向から見た場合、同後下区画部60はこれを乗員側布部42及び反乗員側布部43に結合する結合部68,69の側方に位置する。後下区画部60は、車幅方向からは結合部68,69に重なって見える。そのため、後下区画部60の位置は、結合部68,69によって表現することが可能である。
本実施形態では、図12に示すように結合部68,69は、上記条件下では、サイドサポート部19の前端縁19aと重なる箇所に形成されている。このようにして、上記条件下では、後下区画部60が上記前端縁19aと重なる箇所に形成されている。
図6及び図10に示すように、両布部61は、両結合部68,69から離間した箇所である、両本体部62の前縁部に沿って設けられた結合部71によって相互に結合されている(図9参照)。結合部71は、結合部68,69とは異なり、両本体部62にのみ設けられており、前下延長部66及び後上延長部67には設けられていない。
こうした結合態様により、後下区画部60は、乗員側布部42と反乗員側布部43との間に架け渡されている。そして、後下区画部60は、緊張状態になることで、エアバッグ40における同後下区画部60の近傍部分の車幅方向の膨張厚みを規制する。
図6及び図7に示すように、エアバッグ40内であって、布部61毎の本体部62の前下端部と、周縁結合部44の前下部との間の空間は、前下連通路72を構成している。表現を変えると、前下連通路72は、前下本体部63の前下端部に対し前下側に隣接する箇所に位置している。この前下連通路72により、後下膨張部51及び前上膨張部52,53が、同後下区画部60の前下側で連通されている。
エアバッグ40内であって、布部61毎の本体部62の後上端部と、周縁結合部44の後上部との間の空間は、後上連通路73を構成している。表現を変えると、後上連通路73は、後上本体部64の後上端部に対し後上側に隣接する箇所に位置している。この後上連通路73により、後下膨張部51及び前上膨張部52,53が、同後下区画部60の後上側で連通されている。
<前上区画部80>
図6、図7及び図10に示すように、前上区画部80は、上記後下区画部60に対し前上方となる箇所に配置されている。この前上区画部80は、エアバッグ40と同様の素材からなる一対の布部81によって形成されている。両布部81は、それぞれ独立した布片によって構成されている。両布部81は、エアバッグ40が非膨張展開状態にあるとき、車幅方向に重ねられた状態となる。
前上区画部80は、上述した後下区画部60と同様の構成を有している。すなわち、各布部81の主要部は、エアバッグ40の膨張部のうち、後下膨張部51よりも前上側部分を、一対の前上膨張部52,53に区画する本体部82によって構成されている。布部81毎の本体部82は、直線状をなし、上部ほど前側に位置するように、前後方向に対し急峻な角度で傾斜している。各本体部82は、その長さ方向のどの箇所でも均一な幅を有している。各本体部82の前上端部は、周縁結合部44の前上端部から離間している。各本体部82の後下端部は、後下区画部60から前上方へ離間している。
前上区画部80は、上記布部81毎の本体部82に加え、前上延長部83及び後下延長部84を備えている。布部81毎の前上延長部83及び後下延長部84は、本体部82よりも狭い幅を有している。布部81毎の前上延長部83は、本体部82の前上端部の後半部を起点とし、前上方へ向けて延びている。布部81毎の後下延長部84は、本体部82の後下端部の後半部を起点とし、後下方へ向けて延びている。従って、各布部81の長さは、その後半部では、前半部よりも前上延長部83及び後下延長部84の分だけ長くなっている。本実施形態では、布部81毎の前上延長部83は、エアバッグ40の外周部(前上端部)まで延び、布部81毎の後下延長部84は、上記後下区画部60の長さ方向における中間部まで延びている。
乗員側の布部81は、これに隣接する乗員側布部42に対し、結合部85によって結合されている(図8(a)参照)。この結合部85は、乗員側の布部81の後縁部に沿って、前上延長部83、本体部82及び後下延長部84に跨って延びている。結合部85の前上端部は周縁結合部44の前上端部に交差し、同結合部85の後下端部は、乗員側の結合部68に交差している。
同様に、反乗員側の布部81は、これに隣接する反乗員側布部43に対し、結合部86によって結合されている(図8(a)参照)。この結合部86は、反乗員側の布部81の後縁部に沿って、前上延長部83、本体部82及び後下延長部84に跨って延びている。結合部86の前上端部は周縁結合部44の前上端部に交差し、同結合部86の後下端部は、反乗員側の結合部69に交差している。
両布部81は、両結合部85,86から離間した箇所である、両本体部82の前縁部に沿って設けられた結合部87によって相互に結合されている(図8(a)参照)。結合部87は、結合部85,86とは異なり、両本体部82にのみ設けられており、前上延長部83及び後下延長部84には設けられていない。
こうした結合態様により、前上区画部80は、乗員側布部42と反乗員側布部43との間に架け渡されている。そして、前上区画部80は緊張状態になることで、エアバッグ40における同前上区画部80の近傍部分の車幅方向の膨張厚みを規制する(図8(b)参照)。
エアバッグ40内であって、布部81毎の本体部82の前上端部と、周縁結合部44の前上端部との間の空間は、前上連通路88を構成している。表現を変えると、前上連通路88は、両本体部82の前上端部に対し前上側に隣接する箇所に位置している。この前上連通路88により、前上膨張部52,53が、前上区画部80の前上側で連通されている。
エアバッグ40内であって、布部81毎の本体部82の後下端部と、後下区画部60との間の空間は、後下連通路89を構成している。表現を変えると、後下連通路89は、両本体部82の後下端部に対し後下側に隣接する箇所に位置している。この後下連通路89により、前上膨張部52,53が、前上区画部80の後下側で連通されている。
<インナチューブ90>
上記後下膨張部51内には、ガス発生器35の少なくともガス噴出部36aを取り囲んだ状態でインナチューブ90が配置されている。インナチューブ90は、筒状をなしており、ガス発生器35のガス噴出部36aから噴出された膨張用ガスを、上方と下方とに向かうように分配(整流)する機能を有している。
インナチューブ90の形成のために、エアバッグ40と同様の素材によって形成された1枚の布片91が用いられている。布片91は、その車幅方向の中央部に設定した折り線92に沿って二つ折りされて車幅方向に重ね合わされている。ここでは、インナチューブ90の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、乗員側に位置するものを布部93といい、反乗員側に位置するものを布部94というものとする。
両布部93,94の前縁部は、上記後下区画部60に対応した形状、すなわち、上下方向における中間部分が前上方へ膨らむように緩やかに湾曲している。両布部93,94は、それらの前縁部に沿って設けられた結合部95によって相互に結合されている。結合部95の後上端部は、周縁結合部44の後上端部に交差している。両布部93,94の下端部は相互に結合されていない。この結合されていない箇所は、インナチューブ90の下側の開口96を構成している。
インナチューブ90の上端部は、エアバッグ40の外周部(後上端部)まで延びており、上記周縁結合部44によって同外周部(後上端部)に対し結合(共縫い)されている。この結合(共縫い)により、エアバッグ40の後下膨張部51の剛性が高められている。
また、各布部93,94の上記開口96よりも上方となる箇所には、円形の孔からなる開口97が形成されている。これらの開口96,97によって、インナチューブ90の内部と外部とが連通されている。一対の開口97は、それらの開口面積の総和が、下側の開口96が開いたときの開口面積よりも小さくなるように形成されている。
インナチューブ90の折り線92上の互いに離間した箇所には、ボルト孔98,99がそれぞれあけられている。インナチューブ90は、ボルト孔98,99を、エアバッグ40の対応するボルト孔48,49に合致させられた状態で、縫合等の結合手段(図示略)によって同エアバッグ40に結合されている。
なお、インナチューブ90は、折り線92が自身の前端部に位置するように二つ折りされてもよい。この場合には、インナチューブ90における一対の布部93,94は、それらの後端部において相互に結合されることになるが、エアバッグ40における乗員側布部42及び反乗員側布部43の後端部に共縫いされてもよい。また、インナチューブ90は、布部93,94が折り線92に沿って分離されたものであってもよい。
そして、ガス発生器35の下部を除く多くの部分が、挿入口47を通じて挿入されることで、後下膨張部51内の後端部であって、インナチューブ90内の後端部に配置されている。さらに、上側のボルト38がボルト孔98,48に挿通される(図9参照)とともに、下側のボルト38がボルト孔48にのみ挿通されている。ボルト39がボルト孔99,49に挿通されている。これらの挿通により、ガス発生器35がインナチューブ90及びエアバッグ40に対し位置決めされた状態で係止されている。このように係止されたガス発生器35では、インフレータ36がインナチューブ90の上下方向の中央部から下方へ偏倚した箇所に位置している。
ところで、上記エアバッグモジュールABMは、非膨張展開状態のエアバッグ40(図6参照)が折り畳まれることにより、コンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている。エアバッグ40を折り畳む態様としては、例えば、ロール折り、蛇腹折り等が適している。ロール折りは、エアバッグ40の一方の端部を中心とし、その周りに他の部分を巻き付ける折り態様である。蛇腹折りは、エアバッグ40を、一定幅ずつ交互に折り方向を変えながら折り返す折り態様である。図3に示すように、エアバッグ40が収納用形態にされたエアバッグモジュールABMは、シートバック17の収納部29に収容されている。
図5及び図6に示すように、ガス発生器35の両ボルト38が、ブラケット22における被取付け部23の両ボルト孔25に対し前方から挿通されている。また、ガス発生器35のボルト39が、ブラケット22における追加被取付け部24のボルト孔26に対し前方から挿通されている。
各ボルト38,39にナット34(図3参照)が後方から締付けられることにより、後下膨張部51及びインナチューブ90のそれぞれの後端部がガス発生器35とともに、被取付け部23及び追加被取付け部24においてブラケット22に取付けられている。このようにして、ガス発生器35がブラケット22を介してサイドフレーム部21に取付けられている。
なお、ガス発生器35は、上述したボルト38,39及びナット34とは異なる部材によってブラケット22に取付けられてもよい。また、ガス発生器35は、ブラケット22が用いられることなく、サイドフレーム部21に直接取付けられてもよい。また、リテーナ37が用いられることなくインフレータ36がサイドフレーム部21に直接取付けられてもよい。
ファーサイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールABMのほかに、図4に示す衝撃センサ101及び制御装置102を備えている。衝撃センサ101は加速度センサ等からなり、側壁部12等に設けられており、同側壁部12等に側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置102は、衝撃センサ101の検出信号に基づきガス発生器35(インフレータ36)の作動を制御する。
さらに、車両10には、車両用シート13に近い側の側壁部11に対し側方から衝撃に加わった場合に、その側壁部11と車両用シート13との間でエアバッグを展開及び膨張させて乗員P1を拘束し、衝撃から保護するタイプのサイドエアバッグ装置(ニアサイドエアバッグ装置とも呼ばれる、図示略)が設けられている。
また、車室内には、車両用シート13に着座している乗員P1をその車両用シート13に拘束するためのシートベルト装置(図示略)が設けられている。
次に、上記のように構成された本実施形態の作用及び効果について説明する。
図1に示すように、側突等による衝撃が一方の側壁部12に対し側方から加わると、衝撃の加わった側壁部12から遠い側(運転席側)の乗員P1の上半身が、慣性により側壁部12側へ倒れ込もうとする。
また、側壁部12に対し側方から所定値以上の衝撃が加わったことが衝撃センサ101によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置102からガス発生器35(インフレータ36)に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ36のガス噴出部36aから膨張用ガスが噴出されると、その膨張用ガスはまずインナチューブ90に供給される。この膨張用ガスにより、インナチューブ90が膨張を開始する。
膨張用ガスの一部は、上側の開口97からインナチューブ90の周りの後下膨張部51へ向けてインナチューブ90の径方向外方へ流出する。膨張用ガスの他の一部は、インナチューブ90の壁面に当たることで、下方へ流れ方向を変える。この膨張用ガスは、下側の開口96からインナチューブ90の周りの後下膨張部51へ流出する。開口96の開口面積が両開口97の開口面積の総和よりも大きいことから、後下膨張部51においてインナチューブ90よりも下方に対しては、径方向外方に対するよりも多くの量の膨張用ガスが流出される。
後下膨張部51では、膨張用ガスが供給されることで内圧が上昇し、同後下膨張部51が折り状態を解消(展開)しながら膨張を開始する。後下膨張部51の展開及び膨張に伴い後下区画部60が車幅方向の両側へ引っ張られて、同後下膨張部51の前端部で緊張状態となる。
また、後下膨張部51に供給された膨張用ガスの一部は、後上連通路73を通って、前上方の前上膨張部53に流入する。この膨張用ガスの一部は、前上膨張部53内を前上区画部80に沿って前上方へ向けて流れる。
また、後下膨張部51に供給された膨張用ガスの他の一部は、前下連通路72を通って前上方の前上膨張部52に流入する。前下連通路72を流れる膨張用ガスの量は、後上連通路73を流れる膨張用ガスの量よりも多い。前上膨張部52に流入した膨張用ガスの一部は、同前上膨張部52内を前上区画部80に沿って前上方へ向けて流れる。
膨張用ガスの供給された前上膨張部52,53は、後下膨張部51に遅れて折り状態を解消(展開)しながら膨張を開始する。前上膨張部52に対しては、前上膨張部53に対するよりも多くの膨張用ガスが供給される。そのため、前上膨張部52の展開及び膨張が、前上膨張部53の展開及び膨張よりも促進される。表現を変えると、エアバッグ40のうち、後下膨張部51よりも前上側の部分(前上膨張部52,53)では、前方への展開が上方への展開よりも促進される。
ただし、前上膨張部53の前上端部に到達した膨張用ガスは、前上連通路88を流れることで隣の前上膨張部52に流入する。前上膨張部52の前上端部に到達した膨張用ガスは、前上連通路88を流れることで、隣の前上膨張部53に流入する。また、前下連通路72を経て前上膨張部52に供給された膨張用ガスの一部は、後下連通路89を通って前上膨張部53に流入する。後上連通路73を経て前上膨張部53に供給された膨張用ガスの一部は、後下連通路89を通って前上膨張部52に流入する。このように、前上連通路88及び後下連通路89を膨張用ガスが流れることで、前上膨張部52,53の各内圧は均等になる。
両前上膨張部52,53の展開及び膨張に伴い前上区画部80が車幅方向の両側へ引っ張られて緊張状態となる。
上記のように、後下膨張部51及び前上膨張部52,53が展開及び膨張する過程で、図3における収納部29の近くでシートパッド27が押圧され、破断予定部32においてシートパッド27が破断される。エアバッグ40は、一部(ガス発生器35の近傍部分)を収納部29内に残した状態で、同収納部29から前上方へ向けて飛び出す。
エアバッグ40は、隣り合う車両用シート13,14間で、自身の後端部から前上方へ向けて展開及び膨張する。そして、展開及び膨張を完了したときには、エアバッグ40は、両車両用シート13,14に着座している乗員P1,P2間に位置する。
図2及び図4に示すように、エアバッグ40の後下膨張部51の一部は乗員P1の腰部PP(シートバック17の下方部)の側方に位置し、エアバッグ40の前上膨張部52,53の上端は、乗員P1の頭部PHよりも高い箇所に位置する。後下膨張部51の下端は、車両用シート13に着座している乗員P1とセンターコンソールボックス15との間に位置する。このエアバッグ40は、衝撃の加わった側壁部12側へ倒れ込む乗員P1の上半身を受け止めようとする。
上記のように、エアバッグ40の展開及び膨張は、後下膨張部51及び前上膨張部52,53の順に開始される。そのため、後下区画部60が設けられず、エアバッグ40が一気に展開及び膨張する場合とは異なり、その展開及び膨張の初期に、エアバッグ40の前上部分(前上膨張部52,53)によって乗員P1の上部、例えば頭部PH等が押圧されるのを抑制することができる。
エアバッグ40が乗員P1の上半身を受け止める際、エアバッグ40に対しては、これに加わる側方からの力の分力として、前方へ向かう力が加わる。
しかし、図3及び図5に示すようにエアバッグ40は、自身の後端部において、ガス発生器35とともにブラケット22の被取付け部23に取付けられている。これに加え、エアバッグ40はその一部において、ブラケット22の追加被取付け部24に取付けられている。これらの被取付け部23及び追加被取付け部24は、それぞれエアバッグ40における後下膨張部51の剛性を高める機能を発揮する。
また、インナチューブ90が膨張用ガスにより筒状に膨らせられることにより、同インナチューブ90の剛性が高められる。これに伴い、後下膨張部51のうち、インナチューブ90の周りの箇所の剛性も高められる。
さらに、インナチューブ90のうち、エアバッグ40の外周部まで延ばされて周縁結合部44によって結合された上端部は、後下膨張部51の剛性を高めるよう作用する。
そのため、上記のように、剛性の高められた後下膨張部51でエアバッグ40が折れ曲がることが起こりにくい。エアバッグ40の多くの部分は、乗員P1の上半身の側方で展開及び膨張した状態を維持する。そのため、衝撃に応じて側方へ倒れ込む乗員P1がエアバッグ40によって受け止められて、乗員P1に加わる衝撃が緩和される。
ところで、図6及び図7に示すように、エアバッグ40では、後下区画部60及び前上区画部80によって厚みを規制された箇所が膨張する。対象となる箇所には、後下膨張部51及び両前上膨張部52,53が含まれるほか、前下連通路72、後上連通路73、前上連通路88及び後下連通路89が含まれる。そして、上記のように各部において膨張するエアバッグ40の乗員側布部42及び反乗員側布部43により、後下区画部60及び前上区画部80が車幅方向両側へ引っ張られる(図8(b)参照)。
布部61,81を乗員側布部42及び反乗員側布部43に結合する結合部68,69,85,86に対し、膨張用ガスの圧力による応力が加わる。ここで、布部61,81が、仮に本体部62,82のみによって構成されていて、結合部68,69,85,86が本体部62,82にのみ設けられていると、それらの結合部68,69,85,86の両端部に応力が集中しやすく、結合強度が不足するおそれがある。図11(b)は、布部61が本体部62のみによって構成されていて、結合部68が本体部62にのみ設けられている例を示している。この場合、同図11(b)において二点鎖線の枠で示すように、結合部68の端部に応力が集中する。これに対しては、結合強度の不足を補うために、補強布を用いる等の対策を別途講ずる必要がある。
この点、本実施形態では、図11(a)に示すように、本体部62の長さ方向における両端部に前下延長部66及び後上延長部67が設けられ、これらも結合部68,69によって乗員側布部42及び反乗員側布部43に結合されている。そのため、結合部68,69において、膨張用ガスの圧力による応力を受ける箇所は、同図11(a)において、二点鎖線の枠で示すように、同結合部68,69が前下延長部66及び後上延長部67に設けられた分だけ長くなり、その分、応力集中を緩和することができる。
同様に、図6及び図7に示すように、本体部82の長さ方向における両端部に前上延長部83及び後下延長部84が設けられ、これらも結合部85,86によって乗員側布部42及び反乗員側布部43に結合されている。そのため、結合部85,86において、膨張用ガスの圧力による応力を受ける箇所は、同結合部85,86が前上延長部83及び後下延長部84に設けられた分だけ長くなり、その分、応力集中を緩和することができる。
その結果、補強布等による補強が不要となり、部品点数及びコストをともに削減することができる。
特に、本実施形態では、前下延長部66における結合部68,69と、後上延長部67における結合部68,69とを、それぞれ周縁結合部44に交差させている。
そのため、結合部68,69のうち、前下延長部66及び後上延長部67における部分が、それぞれ採り得る最大の長さとなる。結合部68,69のそれぞれにおいて、膨張用ガスの圧力による応力を受ける箇所を、本体部62の前下側でも後上側でも最も長くし、応力集中を効果的に緩和することができる。
また、本実施形態では、前上延長部83における結合部85,86を周縁結合部44に交差させ、後下延長部84における結合部85,86を、後下区画部60における結合部68,69に交差させている。
そのため、結合部85,86のうち、前上延長部83及び後下延長部84における部分が、それぞれ採り得る最大の長さとなる。結合部85,86のそれぞれにおいて、膨張用ガスの圧力による応力を受ける箇所を、本体部82の前上側でも後下側でも最も長くし、応力集中を効果的に緩和することができる。
ここで、図12に示すように、小児PCが後ろ向きの姿勢で、シートクッション16上に膝を着いた状態でサイドサポート部19に凭れている状況が想定される。この場合、後下膨張部51の展開方向前方に小児PCの首部PN及び胸部PBが位置することとなる。この状況下で、エアバッグ40が展開及び膨張を開始すると、小児PCの首部PN及び胸部PBに対し、後下膨張部51から荷重が加わる。ここで、上記条件(後下膨張部51が膨張したときの後下区画部60を車幅方向から見ること)下では、上記荷重の大きさは、後下区画部60の形状と、サイドサポート部19の前端縁19aに対する後下区画部60の位置とによって少なくとも決定される。これは、膨張した後下膨張部51の前端部に、後下区画部60が車幅方向に緊張した状態で位置するからである。
この点、上記条件下では、緊張状態となった後下区画部60は、サイドサポート部19の前端縁19aに沿った形状をなしていて、前方へ大きく突出するような突出部分を有していない。しかも、後下区画部60は、小児PCの首部PN及び胸部PBに対し、後下膨張部51から加わる荷重が許容範囲の上限値以下となるように、上記前端縁19aを含み、かつその前端縁19aを前上方及び後下方へそれぞれ平行移動した領域に形成されている。そのため、小児PCの首部PN及び胸部PBに対し、後下膨張部51から加わる荷重は、許容範囲の上限値以下となる。
本実施形態では、上記条件下では、後下区画部60が、サイドサポート部19の前端縁19aと重なる。表現を変えると、後下区画部60は、後ろ向きの姿勢でサイドサポート部19に凭れている小児PCの首部PN及び胸部PBに過不足なく接近した箇所に位置する。そのため、膨張した後下膨張部51から小児PCの首部PN及び胸部PBに加わる荷重は、許容範囲の中でともに小さくなる。
特に、図6及び図12に示すように小児PCの胸部PBには、後下区画部60の本体部62のうち、前後方向に対し傾斜した状態の前下本体部63から荷重が加わる。また、小児PCの首部PNには、前後方向に対し前下本体部63よりも緩い角度で傾斜した状態の後上本体部64から荷重が加わる。従って、小児PCの首部PNには、前後方向に対し、後上本体部64が前下本体部63と同じ角度で傾斜している場合よりも、小さな荷重が加わる。
また、後下膨張部51に供給された膨張用ガスは、前下連通路72及び後上連通路73を通じて前上膨張部52,53に導かれるところ、上述したように、前下連通路72では後上連通路73よりも多い量の膨張用ガスが流れる。そのため、エアバッグ40のうち、後下膨張部51よりも前上側の部分(前上膨張部52,53)では、前方への展開が上方への展開よりも促進される。従って、膨張用ガスが前下連通路72及び後上連通路73を等量ずつ流れる場合に比べ、展開及び膨張する前上膨張部53により小児PCの首部PNに加わる荷重を小さくすることができる。
図14は、後下膨張部51が展開及び膨張したときに、その後下膨張部51から小児PC(3歳児ダミー3YO)の首部PNに加わる荷重の時間変化を測定した結果を示している。また、図15は、同じく後下膨張部51が展開及び膨張したときに、小児PC(3歳児ダミー3YO)の胸部PBが撓んだ量(撓み量)の時間変化を測定した結果を示している。撓み量は、胸部PBに対し後下膨張部51から加わる荷重に対応している。荷重が大きくなるに従い撓み量も多くなる。
図14及び図15中、特性線L0は、従来のファーサイドエアバッグ装置を用いた場合(以下「従来例」という)の測定結果を示している。このファーサイドエアバッグ装置では、図16に示すように、後下区画部60が前下本体部63及び後上本体部64を備えている。後上本体部64の前下本体部63に対しなす角が、上記実施形態より小さい角度(略90°)となっていて、後下区画部60は、その長さ方向における中間部分が、両端部よりも前上方へ大きく突出するように屈曲した形状をなしている。なお、図16において、上記実施形態と同様の要素には同一の符号が付されている。
図14及び図15中の特性線L1は、上記条件下で、後下区画部60がサイドサポート部19の前端縁19aに沿った形状をなし、かつその前端縁19aに重なっている、上記実施形態に対応するファーサイドエアバッグ装置を用いた場合(以下「実施例」という)の測定結果を示している。
特性線L2は、上記条件下で、後下区画部60がサイドサポート部19の前端縁19aに沿った形状をなし、かつその前端縁19aから前上方へ50mm平行移動した箇所に位置するファーサイドエアバッグ装置を用いた場合(以下「比較例1」という)の測定結果を示している。
特性線L3は、上記条件下で、後下区画部60がサイドサポート部19の前端縁19aに沿った形状をなし、かつその前端縁19aから後下方へ50mm平行移動した箇所に位置するファーサイドエアバッグ装置を用いた場合(以下「比較例2」という)の測定結果を示している。図13は、上記実施例、比較例1及び比較例2における結合部69及び後下区画部60の位置関係を示している。
上記図14及び図15から、実施例(特性線L1)では、首部PNに加わる荷重及び胸部PBの撓み量のそれぞれの最大値が、従来例(特性線L0)よりも小さくなることが判る。
また、比較例1(特性線L2)では、首部PNに加わる荷重の最大値が、従来例(特性線L0)と同程度であることが判る。ただし、荷重の高い状態は、従来例(特性線L0)よりも短い時間で終わる。また、比較例1(特性線L2)では、胸部PBの撓み量の最大値が、従来例(特性線L0)よりも大きくなることが判る。これは、後下区画部60の前下本体部63の多くの部分が、サイドサポート部19の前端縁19aに対し、適正値よりも前上方に位置していて胸部PBを多く押すためと考えられる。
また、比較例2(特性線L3)では、首部PNに加わる荷重の最大値が、従来例(特性線L0)よりも小さくなることが判る。これは、後下区画部60の後上本体部64が、サイドサポート部19の前端縁19aから後下方へ離れ、従来例(特性線L0)よりも首部PNに荷重が加わりにくくなるためと考えられる。
また、比較例2(特性線L3)では、胸部PBの撓み量の最大値が、従来例(特性線L0)と同程度となることが判る。これは、後下膨張部51に遅れて前上膨張部52,53が展開及び膨張を開始するところ、後下区画部60が前端縁19aから後下方へ離れた箇所で緊張状態となるため、前上膨張部52,53が後下区画部60の緊張後に展開及び膨張して、小児PCの胸部PBを押圧するためと考えられる。
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<ガス発生器35について>
・図6におけるリテーナ37として、延長部37bが省略されたものが用いられてもよい。この場合には、図5におけるブラケット22から追加被取付け部24が省略されてもよい。
<エアバッグ40について>
・エアバッグ40は、車両用シート13,14のうち隣の車両用シート14,13に近い側の側部であることを前提とし、サイドフレーム部21やブラケット22とは異なる強度部材に固定されてもよい。
また、エアバッグ40は、車両用シート13,14の上記側部の近傍に位置する部材、例えばセンターコンソールボックス15に固定されてもよい。
・エアバッグ40は、上記実施形態のようにその略全体が膨張するものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
<後下区画部60について>
・後下区画部60は、上記実施形態で設定された領域であって、上記条件下で、サイドサポート部19の前端縁19aに重ならない箇所に形成されてもよい。
この場合、後下区画部60は、上記領域において、サイドサポート部19の前端縁19aに対し前上方又は後下方へ平行移動した箇所に形成されることが望ましい。
このようにすると、後下膨張部51が膨張したときには、その後下膨張部51の前端部を構成する後下区画部60が、サイドサポート部19の前端縁19aの近傍に位置する。表現を変えると、後下区画部60は、後ろ向きの姿勢でサイドサポート部19に凭れている小児PCの首部PN及び胸部PBに接近した箇所に位置する。そのため、膨張した後下膨張部51から小児PCの首部PN及び胸部PBに加わる荷重を、許容範囲内に収めることができる。
・後下区画部60は、上記条件下で、サイドサポート部19の前端縁19aに重ならない場合、上記領域内において、同前端縁19aに対し非平行となるように形成されてもよい。
・結合部68,69と結合部71とが、上記実施形態とは逆の位置関係となるように形成されてもよい。
・後下区画部60における前下延長部66及び後上延長部67の少なくとも一方が省略されてもよい。
<前上区画部80について>
・前上区画部80は、エアバッグ40の膨張部のうち、後下膨張部51及び後下区画部60よりも前上側部分に複数設けられてもよい。
・前上区画部80における前上延長部83及び後下延長部84の少なくとも一方が省略されてもよい。
・前上区画部80が省略されてもよい。この場合、エアバッグ40の膨張部のうち、後下膨張部51及び後下区画部60よりも前上側部分は、1つの前上膨張部によって構成されることとなる。
・結合部85,86と結合部87とが、上記実施形態とは逆の位置関係となるように形成されてもよい。
<インナチューブ90について>
・開口96は、開口97よりも下方に位置することを前提とし、上記実施形態とは異なる箇所に設けられてもよい。例えば、開口96は、インナチューブ90の下端部よりも上側の1箇所又は複数箇所に設けられてもよい。
同様に、開口97は、開口96よりも上方に位置することを前提とし、上記実施形態とは異なる箇所に設けられてもよい。この場合、開口97は、1箇所に設けられてもよいし、複数箇所に設けられてもよい。
また、結合部95の一部に、同結合部95による両布部93,94の結合が解除された箇所が設けられ、この箇所が上側の開口97とされてもよい。
・インナチューブ90は、ガス噴出部36aを含め、ガス発生器35の全体(ボルト38,39を除く)を取り囲むものであってもよい。
<その他>
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、3つ以上の車両用シートが車幅方向に並設された車両にも適用可能である。この場合、車両の側方から側壁部に加わる衝撃に応じ、隣り合う車両用シート間でエアバッグを展開及び膨張させる。
・上記ファーサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、車両以外の乗物、例えば航空機、船舶等に装備されて、乗物用シートに着座している乗員を側突等による衝撃から保護するファーサイドエアバッグ装置にも適用可能である。