立方晶スピネル型酸窒化アルミニウム(γ−AlON)はAl2O3−AlNの安定単相、立方固溶体構造の一種であり、透明多結晶セラミックスに属し、その硬度は17.7GPa、強度は380MPaで、単結晶サファイアに次ぐものとなっている。単結晶と比較して、γ−AlONは良好な成型性を備え、大きくて形状が異なる部材の製造がしやすく、その融点は酸化アルミニウムより高く、良好な耐高温性、熱安定性及び耐侵蝕性を備えており、理想的な構造セラミックス及び耐火材料となっている。γ−AlONは紫外可視光と中赤外線光の範囲に対して良好な光透過性(波長0.2〜5μm、透過率>80%)を備え、赤外線耐高温窓、防弾装甲材料、エアシールド等の方面における応用の潜在性が極めて高い。
従来の酸窒化アルミニウム粉末の合成方法としては主に固相反応法(solid−state reaction)及び炭素熱還元窒化法(carbothermal reduction and nitridation)がある。固相反応は酸化アルミニウムと窒化アルミニウムの固相混合を採用しており、その合成経路は簡単であるが、窒化アルミニウム原料は価格が高く、かつ窒化アルミニウムは水と加水分解しやすいため、大量生産はコストが高くなり、またその合成温度は1750℃以上にしなければならない。炭素熱還元窒化法は酸化アルミニウムと炭素粉末を原料として利用し、得られる酸窒化アルミニウム粉末は純度が高く、コストが低いため、大量工業化生産に適している。
炭素熱還元窒化法を応用して高純度の酸窒化アルミニウム粉末を製造するとき、反応物が固体と固体の混合物であるため、炭素粉と酸化アルミニウム顆粒が充分に接触されず、均一に混合することが難しい。大量生産を行い、堆積高さを増加すると、窒化反応を行うための窒素ガスを進入させにくくなり、反応が不完全になる問題が存在する。炭素熱還元窒化法で合成される酸窒化アルミニウム粉末は灰色がかった白または灰色がかった黒であり、酸窒化アルミニウム(AlON)粉末は温度が1650℃未満では熱力学が不安定な状態になるためである。このため、その合成温度を1650℃以上にしなければならず、純相の酸窒化アルミニウム粉末を合成させるには1750〜1825℃の温度下で製造する必要がある。しかしながら、この温度下では相隣する酸化アルミニウム粉末に局部的な焼結と凝集現象が生じやすい。従来の炭素熱還元窒化法は反応温度が高く、反応時間も長いため、粉末の粒径が大きくなりやすく、小さい粒径の酸窒化アルミニウム粉末を得ることは困難である。
酸窒化アルミニウムセラミックスの透明度とその光学性質は酸窒化アルミニウム粉末原料の合成に非常に大きな影響を受ける。理想的な透明度及び光学性質を備えた酸窒化アルミニウムセラミックスを形成するには、高純度かつ均一に分布した小粒径の酸窒化アルミニウム粉末を原料とし、酸窒化アルミニウムグリーン体の緻密度を高め、焼結の緻密化を促進する必要がある。例えば、中国特許第105837222号があるが、この特許はゾルゲル法を採用し、アルミニウムイソプロポキシドとナノカーボンブラックを原料として、安定剤(テトラヒドロフラン)と分散剤(PEG)を加えて混合し、加水分解により前駆体を取得して、前駆体を20時間静かに放置し、乾燥、研磨、スクリーニングを行った後、1650〜1700℃下で2時間炭素熱還元を行い、粒度分布が均一で粒径が3μmより小さい、単相の酸窒化アルミニウム粉末を得るものである。しかしながら、中国特許第105837222号において、ゲル状の前駆体の製造は、プロセスが複雑で長い時間を要する。中国特許第101928145号は、高活性γ−Al2O3と炭素源(カーボンブラックとナノ炭素粉末)を原料とし、湿式高エネルギーボールミルに炭素熱還元窒化法を組み合わせ、単一相の酸窒化アルミニウム粉末を製造するものである。しかしながら、中国特許第101928145号で得られる酸窒化アルミニウム粉末は凝集がひどく、長時間の湿式高エネルギーボールミルを通じてやっと小粒径(1μm未満)の均一に分布した酸窒化アルミニウム粉末を得ることができる。中国特許第105622104号は、粒径が10〜100nmの活性炭素粉末とγ−Al2O3と分散剤を純水中でボールミルによる混合分散を行い、10〜36時間後にスラリーを得る。その後、フリーズドライを経てゆっくりと昇温させ、10時間後混合粉末を得る。窒素ガス雰囲気で1700〜1800℃まで昇温させ、1〜2時間温度を維持し、粒径が2μm未満の酸窒化アルミニウム粉末を得ることができる。しかしながら、フリーズドライ技術は低温下で水分をゆっくりと昇華させるため、比較的長い乾燥時間を要する。中国特許第102180675号は、硝酸アルミニウム、尿素、ナノカーボンブラックを原料とし、PEGを分散剤、炭酸水素アンモニウムとアンモニア水を沈殿剤として使用し、共沈法を通じて前駆体を製造する。前駆体の24時間沈殿、洗浄、ベーキング、研磨後、窒素ガス下で2〜4時間1750℃に維持し、顆粒寸法が4μm未満の酸窒化アルミニウム純相を得る。しかしながら、中国特許第102180675号は共沈法を使用して前駆体を製造するため、沈殿時間が長く、プロセスが複雑である。上述の酸窒化アルミニウムの製造方法は、その混合と乾燥時間が10〜20時間と長く、コストの抑制が難しいため、工業的量産を実現することができない。
このため、現在業界では、コストが比較的低い酸化アルミニウムと炭素含有材料を原料として採用でき、簡易で省エネ、時間短縮が可能なプロセスを組み合わせ、業界のニーズを満たす球状窒化アルミニウム粉末を製造できる、球状酸窒化アルミニウム粉末の製造方法を発展させる必要がある。
上述の従来技術の欠点に鑑み、本発明の主な目的は、原料の混合、噴霧乾燥、炭化、炭素熱還元、窒化反応、脱炭等の工程を含み、良好な特性を備えた球状酸窒化アルミニウム粉末を製造できる、球状酸窒化アルミニウム粉末の製造方法を提供することにある。
本発明の採用する噴霧乾燥処理方式は、原料を含有する混合スラリーを、高速旋回方式で霧化して、酸化アルミニウム表面に樹脂の薄い層を生成させ、乾燥した球状固体粉末を産生し、乾燥プロセスが迅速であり、かつ本発明の炭素熱還元と窒化反応は、二段階の昇温を通じて連続して行われ、球状酸窒化アルミニウム粉末を直接得ることができ、球状酸窒化アルミニウムの製造プロセスの経済性が向上されるとともに、その球状酸窒化アルミニウム粉末は酸窒化アルミニウムセラミックスの成型(ドライプレスと鋳込み成形)に広く用いることができ、赤外線耐高温窓、防弾装甲材料、エアシールド等の方面に応用することができる。
上述の目的を達するため、本発明に基づく球状酸窒化アルミニウム粉末の製造方法は、(A)酸化アルミニウム粉末と樹脂を提供し、前記酸化アルミニウム粉末と前記樹脂を溶媒中に分散溶解させ、混合スラリーを形成する工程と、(B)前記混合スラリーを噴霧乾燥し、球状粉末を形成する工程と、(C)前記球状粉末を不活性雰囲気下で炭化処理し、炭化球状粉末を形成する工程と、(D)前記炭化球状粉末を窒化雰囲気下において、温度1450℃〜1550℃で炭素熱還元する工程と、(E)前記炭素熱還元された球状粉末を窒化雰囲気下において、温度1700℃〜1730℃で継続して窒化反応させる工程と、(F)前記窒化後の球状酸窒化アルミニウム粉末を酸化雰囲気下で脱炭する工程と、を含む。
上述の工程(A)の酸化アルミニウム粉末の結晶構造は、α−アルミナ相、γ−アルミナ相、δ−アルミナ相、またはその組み合わせの群のいずれかを選択でき、前記樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレンまたはメラミンーホルムアルデヒド樹脂のいずれかを選択でき、前記溶媒が水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルブタノールまたはアセトン水溶液のいずれかを選択でき、前記酸化アルミニウム粉末と前記樹脂の重量比が1:0.05〜0.25であり、前記混合方法が撹拌またはボールミルである。
上述の工程(C)の炭化処理温度は500℃〜700℃であり、工程(D)の炭素熱還元時間は1〜5時間であり、窒化雰囲気が純窒素ガス、窒素ガスと水素ガスの混合ガスまたは窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスであり、工程(E)の窒化反応時間が1〜5時間であり、窒化雰囲気が純窒素ガス、窒素ガスと水素ガスの混合ガスまたは窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスである。
本発明の球状酸窒化アルミニウム粉末の製造方法の特色は、コストが比較的低い原料を採用し、炭素成分を含有する樹脂と酸化アルミニウム粉末を噴霧乾燥法により、酸化アルミニウム表面に樹脂の薄い層を生成させ、数十ミクロンの球状の均一な混合粉末にし、その球状粉末が大きな比表面積を備え、かつ樹脂の炭化後高活性多孔物質が形成され、酸化アルミニウムとの接触表面積が増大し、かつ二段階の昇温を通じ、炭素熱還元と窒化反応を連続して行い、直接球状酸窒化アルミニウム粉末を得ることができ、プロセスが簡単で省エネ効果も兼ね備えている。
以上の概述と以下の詳細な説明及び図面はいずれも本発明の予定する目的を達するために採る方法、手段、効果を説明するためのものである。本発明のその他目的及び利点については、後続の説明と図面で述べる。
以下、特定の具体的な実施例を挙げて本発明の実施方法を説明する。この技術分野を熟知した者であれば本明細書に開示された内容から本発明の利点と効果を容易に理解できるであろう。
本発明の球状酸窒化アルミニウム粉末の製造方法は、噴霧乾燥の方式を利用して、炭素含有樹脂で酸化アルミニウム粉末の表面を均一に覆い、1回の炭化後均一に混合し、かつ二段階の熱処理を行い、1450℃〜1550℃下で炭素熱還元反応を行い、さらに1700℃〜1730℃の高温下で粉末の窒化反応を継続して行い、窒化後の粉末に対して酸化雰囲気環境で脱炭作業を実施して、球状酸窒化アルミニウム粉末を製造する。そのうち炭素熱還元反応では、樹脂で酸化アルミニウム粉末表面を被覆し、炭化後の樹脂成分を還元剤として、窒化雰囲気下で、酸化アルミニウムを還元して少量の窒化アルミニウムを生成し、少量の窒化アルミニウムを酸化アルミニウムと反応させて、酸窒化アルミニウム粉末を生成する。
図1の本発明の球状酸窒化アルミニウム粉末の製造方法のフローチャートを参照する。図に示すように、本発明の球状酸窒化アルミニウム粉末の製造方法は、(A)酸化アルミニウム粉末と樹脂を提供し、前記酸化アルミニウム粉末と前記樹脂を溶媒中に分散溶解させ、混合スラリーを形成する工程S101と、(B)前記混合スラリーを噴霧乾燥し、球状粉末を形成する工程S102と、(C)前記球状粉末を不活性雰囲気下で炭化処理し、炭化球状粉末を形成する工程S103と、(D)前記炭化球状粉末を窒化雰囲気下において、温度1450℃〜1550℃で炭素熱還元する工程S104と、(E)前記炭素熱還元された球状粉末を窒化雰囲気下において、温度1700℃〜1730℃で継続して窒化反応させる工程S105と、(F)前記窒化後の球状酸窒化アルミニウム粉末を酸化雰囲気下で脱炭する工程S106と、を含む。
そのうち、酸化アルミニウム粉末の結晶構造は、α−アルミナ相、γ−アルミナ相、δ−アルミナ相またはその組み合わせの群のいずれかを選択でき、樹脂材料は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレンまたはメラミン−ホルムアルデヒド樹脂のいずれかを選択でき、溶媒は水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルブタノールまたはアセトン水溶液のいずれかを選択できる。原料混合には、酸化アルミニウム粉末と樹脂の重量比が1:0.05〜0.25の範囲を採用することができ、混合方法は撹拌またはボールミルを選択できる。
〔実施例1〕
100gのγ−酸化アルミニウム粉末を1000mLのエタノールに入れ、分散溶液を形成し、別途10gのフェノール樹脂を1000mLのエタノールに溶解させ、樹脂溶液を形成する。その後、上述の2つの溶液を均一に混合し、混合スラリーを形成する。その後、混合スラリーを霧化器の回転速10000rpmの条件下で、噴霧乾燥で球状粉末を形成する。図2の本発明の実施例の噴霧乾燥を経た後の球状粉末の走査電子顕微鏡画像を参照する。図に示すように、噴霧乾燥後の粉末は丸い球体の形状を呈し、数十ミクロンの球状粉末である。その後、得られた球状粉末を窒化ホウ素ルツボ(BNルツボ)に入れ、700℃下、窒素ガス雰囲気の高温炉内で炭化処理を行う。炭化時間は2時間とし、炭化球状粉末を形成する。図3の本発明の実施例の炭化処理後の球状粉末の走査電子顕微鏡画像を参照する。炭化後の球状粉末を毎分10℃で昇温させ、1450℃下で2時間温度を維持し、窒素ガスまたは窒素と水素の混合ガスの雰囲気下の高温炉内で炭素熱還元を行う。図4の本発明の実施例のX線粉末回折パターン図を参照する。図に示すように、実施例1の1450℃で2時間温度を維持して炭素熱還元した後の粉末は少量の窒化アルミニウム相とα−酸化アルミニウム(Alfa相−酸化アルミニウム)を示す。
〔実施例2〕
100gのγ−酸化アルミニウム粉末を1000mLのエタノールに入れ、分散溶液を形成し、別途10gのフェノール樹脂を1000mLのエタノールに溶解させ、樹脂溶液を形成する。その後、上述の2つの溶液を均一に混合し、混合スラリーを形成する。その後、混合スラリーを霧化器の回転速15000rpmの条件下で、噴霧乾燥で球状粉末を形成する。その後、得られた球状粉末を窒化ホウ素ルツボ(BNルツボ)に入れ、700℃下、窒素ガス雰囲気の高温炉内で炭化処理を行う。炭化時間は2時間とし、炭化球状粉末を形成する。炭化後の球状粉末を昇温速度毎分10℃で昇温させ、1550℃下で2時間温度を維持し、窒素ガスまたは窒素と水素の混合ガスの雰囲気下の高温炉内で炭素熱還元を行う。図4の本発明の実施例のX線粉末回折パターン図を参照する。図に示すように、実施例2の1550℃で2時間温度を維持して炭素熱還元した後の粉末は少量の窒化アルミニウムとα−酸化アルミニウム (Alfa相−酸化アルミニウム)の混合相を示す。
〔実施例3〕
100gのγ−酸化アルミニウム粉末を1000mLのエタノールに入れ、分散溶液を形成し、別途10gのフェノール樹脂を1000mLのエタノールに溶解させ、樹脂溶液を形成する。酸化アルミニウムとフェノール樹脂の重量比は1:0.1である。その後、上述の2つの溶液を均一に混合し、混合スラリーを形成する。その後、混合スラリーを霧化器の回転速13000rpmの条件下で、噴霧乾燥で球状粉末を形成する。その後、得られた球状粉末を窒化ホウ素ルツボ(BNルツボ)に入れ、700℃下、窒素ガス雰囲気の高温炉内で炭化処理を行う。炭化時間は2時間とし、炭化球状粉末を形成する。炭化後の球状粉末を毎分10℃の速度で昇温させ、1550℃下で2時間温度を維持し、窒素ガスまたは窒素と水素の混合ガスの雰囲気下の高温炉内で炭素熱還元を行い、さらに1700℃まで昇温させ、3時間温度を維持して窒化反応を行い、球状酸窒化アルミニウム粉末を形成する。図5の本発明の実施例の炭素熱還元と窒化反応を経た後の球状酸窒化アルミニウム粉末の走査電子顕微鏡画像を参照する。図に示すように、二段階の昇温法を経た後の粉末は丸い球体の形状を呈し、その粒径は約20〜40μmである。図4の本発明の実施例のX線粉末回折パターン図を参照する。図に示すように、製造して得られた粉末は酸窒化アルミニウム単一の純相を呈し、球状酸窒化アルミニウム粉末が製造されていることが証明されている。最後に空気中で、温度580℃で5時間脱炭作業を行い、脱炭後の球状酸窒化アルミニウム粉末を得る。
従来の炭素熱還元法と比較して、本発明の製造方法は炭素含有樹脂を使用してカーボンブラック系を置き換え、噴霧乾燥の方式を利用して、炭素含有樹脂で酸化アルミニウム粉末の表面を均一に覆い、1回の炭化後均一に混合し、炭素熱還元反応温度を大幅に下げ、1550℃より低い温度範囲内で窒化アルミニウム相を合成することができる。樹脂と酸化アルミニウム粉末を均一に混合し、酸化アルミニウム粉末外層を被覆することで、酸化アルミニウム粉末を高温下でも凝集しにくくし、高い分散性と流動性を具備させている。その原料の混合、霧化造粒プロセスは迅速であり、窒化後数十ミクロンの球状酸窒化アルミニウム粉末を大量生産でき、その球状酸窒化アルミニウム粉末は酸窒化アルミニウムセラミックスの成型に広く用いることができ、赤外線耐高温窓、防弾装甲材料、エアシールド等の方面に応用することができる。このため、本発明の製造方法は工程が簡単で、生産コストが低く、経済性と省エネ効果を具備しており、未来の応用分野がより広くなっている。
上述の実施例は例示的に本発明の特徴と効果を説明したのみであり、本発明の実質的技術内容の範囲を限定するものではない。関連技術を熟知する者であれば本発明の要旨と範疇を逸脱せずに、上述の実施例に対して修飾と変更が可能であろう。したがって、本発明の権利保護範囲は、後述の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりである。