JP6449237B2 - 非相反伝送線路装置 - Google Patents

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Description

本発明は、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反伝送線路装置及び当該非相反伝送線路装置を備えた円偏波アンテナ装置に関する。
メタマテリアルの一つとして右手/左手系複合伝送線路(以下、CRLH(Composite Right/Left-Handed)伝送線路という。)が知られている。CRLH伝送線路は、所定の周波数帯域で負の実効透磁率及び負の実効誘電率を有するように、波長に比べて十分に小さい間隔で、線路の直列枝に容量素子を実質的に周期的に挿入し、並列枝に誘導性素子を実質的に周期的に挿入して構成される。最近、CRLH伝送線路に対して非可逆伝送の機能を付加した非可逆(非相反ともいう。)移相CRLH伝送線路が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。非可逆移相CRLH伝送線路は、同一の周波数を有する電磁波が順方向に伝搬するときは正の屈折率を示し、逆方向に伝搬するときは負の屈折率を示すことができる。
非可逆移相CRLH伝送線路を用いて伝送線路共振器を構成すると、共振周波数を変えることなく共振器サイズを自由に変えることができる。さらに、共振器上の電磁界分布は、進行波共振器の電磁界分布と同様である。このため、非可逆移相CRLH伝送線路を用いた伝送線路共振器を用いて、電磁界の振幅が一様でありかつ電磁界の位相が線路に沿って一定の勾配で直線的に変化する擬似進行波共振器を構成することができる。このとき、共振器上の電磁界分布の位相勾配は、共振器を構成する伝送線路の非可逆移相特性によって決まる。以下、非可逆移相CRLH伝送線路を用いた伝送線路装置を、非可逆伝送線路装置又は非相反伝送線路装置という。
メタマテリアルはここ十数年、アンテナへの応用の分野で大変興味深い重要なテーマとなっている。これまでにも、非相反CRLHメタマテリアルが、CRLH伝送線路を用いた指向性漏れ波アンテナへの応用を目的として提案されている。また、最近は、0次共振器から大きく発展した擬似進行波共振器に基づくアンテナ(例えば特許文献1参照。)が提案され、従来の漏れ波アンテナに比べて、コンパクトであるにもかかわらず利得と指向性を増加させている。
これまでに提案されている非相反伝送線路装置の多くは、従来のマイクロストリップ線路からなる右手/左手系複合伝送線路装置の中央のストリップ線路下に、垂直に磁化されたフェライトロッドを埋め込んだ構造を採用している。このとき、非相反伝送線路装置からなる擬似進行波共振器を備えたアンテナ装置からの放射ビーム方向は、共振器上の電磁界分布の位相勾配によってきまる。また、フェライトが軟磁性体であれば、外部印加磁界の大きさあるいは向きを変えることにより、線路の非可逆移相特性が変化し、その結果ビーム走査をすることができる。
国際公開第2008/111460号パンフレット 国際公開第2011/024575号パンフレット 国際公開第2012/115245号パンフレット
しかしながら、上述の従来技術に係る擬似進行波共振器を備えたアンテナ装置は直線偏波を放射できるが、円偏波の電磁波を放射することができなかった。
本発明の目的は以上の問題点を解決し、円偏波の電磁波を放射することができる円偏波アンテナ装置のための非相反伝送線路装置及びそれを用いた円偏波アンテナ装置を提供することにある。
第1の発明に係る非相反伝送線路装置は、マイクロ波の伝送線路部分と、容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、上記伝送線路部分からそれぞれ分岐して設けられかつ誘導性素子を等価的に含む並列枝の回路とを有する少なくとも1つの単位セルを、第1と第2のポートの間で縦続接続して構成され、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反伝送線路装置において、
上記各単位セルは非線形形状で配置され、
上記各単位セルは、上記マイクロ波の伝搬方向に対して異なる方向に磁化されてジャイロ異方性(ジャイロトロピック異方性ともいい、磁化によりマイクロ波の伝搬定数が伝搬方向により異なった影響を受ける性質をいう)を有するように自発磁化を有するか又は外部磁界により磁化される伝送線路部分を有し、
上記非相反伝送線路装置は、上記マイクロ波が、上記非相反伝送線路装置に沿って伝送される伝送電力の方向が互いに逆方向の関係にある右手系モードと左手系モードの分散曲線が互いに交差し、結合の結果生じるバンドギャップ内の周波数帯域、もしくはバンドギャップが現れず2本の分散曲線の交点となる周波数付近を動作周波数として利用して伝搬するように構成され、
上記非相反伝送線路装置は、上記非相反伝送線路装置の両端のそれぞれに接続され、入力される信号を反射する第1及び第2の反射器を備えたことを特徴とする。
上記非相反伝送線路装置において、上記非相反伝送線路装置は擬似進行波共振器を構成し、
上記擬似進行波共振器は、所定の第1の方向に電流を流し、上記第1の方向に偏波した電磁波を放射する第1の線路部分と、上記第1の線路部分に流れる電流に対して実質的に直交する垂直方向である第2の方向に電流を流し、上記第2の方向に偏波していて、しかも、上記第1の線路部分よりも位相が90度進み、もしくは遅れる電磁波を放射する第2の線路部分を含むことを特徴とする。
また、上記非相反伝送線路装置において、上記各単位セルを、円形状、楕円形状、正方形状、又は長方形状を有する一巻きリング形状、複数回巻きのスパイラル形状、もしくはL型形状で配置したことを特徴とする。
第2の発明に係る円偏波アンテナ装置は、
上記非相反伝送線路装置と、
上記第1の反射器に接続された給電線とを備えた円偏波アンテナ装置であって、
上記非相反伝送線路装置の非可逆性に起因する位相勾配の方向に依存して、右旋円偏波又は左旋円偏波の電磁波を放射することを特徴とする。
上記円偏波アンテナ装置において、上記磁化の方向を互いに逆方向に切り替えることにより、右旋円偏波又は左旋円偏波の電磁波を放射することを特徴とする。
また、上記円偏波アンテナ装置において、上記各単位セルによりそれぞれ形成される複数の線路部分のうち、上記非相反伝送線路装置の略中心部を挟んで互いに対向する位置にある各1対の線路部分の位相勾配を、当該各1対の線路部分間の位相差が実質的に180度となるように調整することで放射ビームを放射することを特徴とする。
さらに、上記円偏波アンテナ装置において、上記各単位セルによりそれぞれ形成される複数の線路部分のうち、上記非相反伝送線路装置の略中心部を挟んで互いに同じ側にある隣接する位置にある各1対の線路部分の位相勾配を、当該各1対の線路部分間の位相差が実質的に0度となるように調整することで放射ビームを放射することを特徴とする。
またさらに、上記円偏波アンテナ装置において、上記位相勾配を、上記単位セルの数と、上記磁化の大きさと、上記スタブ導体の電気長とのうちの少なくとも1つを変化させて調整することを特徴とする。
またさらに、上記円偏波アンテナ装置において、上記第1及び第2の反射器はそれぞれ、
(1)インピーダンスが0、もしくは所定値以下の値を有するインピーダンスである第1の設定条件と、
(2)アドミタンスが0、もしくは所定値以下の値を有するアドミタンスである第2の設定条件と、
(3)互いに複素共役の関係を有するリアクタンス素子を有する第3の設定条件と
のうちの1つの設定条件を満たすように構成されたことを特徴とする。
本発明によれば、円偏波の電磁波を放射することができる円偏波アンテナ装置のための非相反伝送線路装置及び、従来技術に比較してコンパクトで軽量な円偏波アンテナ装置を提供することができる。
本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における第1の例の伝送線路の単位セル60Aの等価回路図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における第2の例の伝送線路の単位セル60Bの等価回路図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における第3の例の伝送線路の単位セル60Cの等価回路図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における第4の例の伝送線路の単位セル60Dの等価回路図である。 従来技術に係る相反伝送線路装置における非平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。 従来技術に係る相反伝送線路装置における平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。 実施形態に係る非相反伝送線路装置における非平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。 実施形態に係る非相反伝送線路装置における平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。 図1の単位セル60Aを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Aの構成を示すブロック図である。 図2の単位セル60Bを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Bの構成を示すブロック図である。 図3の単位セル60Cを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Cの構成を示すブロック図である。 図4の単位セル60Dを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Dの構成を示すブロック図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Eを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 図13Aの円偏波アンテナ装置の一部分の構成を示す斜視図である。 図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置で用いる非相反伝送線路装置70Eのシミュレーション結果であって、Sパラメータの周波数特性を示すグラフである。 図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置で用いる非相反伝送線路装置70Eのシミュレーション結果であって、分散特性を示すグラフである。 図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置のシミュレーション結果であって、反射特性を示すグラフである。 図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置のシミュレーション結果であって、周波数6.85GHzにおいて2つの反射器R1,R2を含む非相反伝送線路装置70Eの長手方向に沿った、正規化された磁界分布及び電界分布を示すグラフである。 図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置のシミュレーション結果であって、周波数6.85GHzにおいて2つの反射器R1,R2を含む非相反伝送線路装置70Eの長手方向に沿った、磁界Hxの位相分布を示すグラフである。 図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置のシミュレーション結果であって、アンテナ面における磁界ベクトルHの分布を示す平面図である。 図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置のシミュレーション結果であって、アンテナ面における電界分布を示す写真である。 図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置のシミュレーション結果であって、アンテナ面に対して垂直な面における放射特性を示す放射パターン図である。 図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置のシミュレーション結果であって、アンテナ面に対して垂直な2つの面(φ=0,90度)を含む放射パターンを示す斜視図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Fを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 図17Aの一部の構成を示す拡大斜視図である。 図17Aの円偏波アンテナ装置の反射特性を示すグラフである。 図17Aの非相反伝送線路装置70の分散特性の第1の例を示すグラフである。 図17Aの非相反伝送線路装置70の分散特性の第2の例を示すグラフである。 図17Aの円偏波アンテナ装置において共振器における位置に対する電磁界の位相を示すグラフである。 図17Aの円偏波アンテナ装置の反射特性の第1の例を示すグラフである。 図17Aの円偏波アンテナ装置の反射特性の第2の例を示すグラフである。 図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第1の例を示す放射パターン図である。 図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第2の例を示す放射パターン図である。 図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第3の例を示す放射パターン図である。 図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第4の例を示す放射パターン図である。 図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第5の例を示す放射パターン図である。 図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第6の例を示す放射パターン図である。 図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第7の例を示す放射パターン図である。 図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第8の例を示す放射パターン図である。 本発明の実施形態に係る、L型形状を有する非相反伝送線路装置70Gを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 図26Aの一部の構成を示す拡大斜視図である。 図26Aの非相反伝送線路装置70Gの伝搬特性を示すグラフである。 図26Aの円偏波アンテナ装置の反射特性を示すグラフである。 図26Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第1の例を示す放射パターン図である。 図26Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第2の例を示す放射パターン図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Hを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Iを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Jを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Kを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Lを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Mを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Nを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。 図17Aのリング型非相反伝送線路装置70Fを用いた円偏波アンテナ装置において反射器長L_Reflを変化したときのシミュレーション結果を示す表である。 図31のL型非相反伝送線路装置70Iを用いた円偏波アンテナ装置において反射器長L_Reflを変化したときのシミュレーション結果を示す表である。
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
1.実施形態の概要
直線偏波のアンテナは通常、比較的シンプルなデザインと優れたアンテナ利得を提供する。偏波面の選択は、無線チャネルの簡単な分離のために使用することができる。しかし、直線偏波は、地形又は強い電波干渉上の高密度な障害物と無線局を対向させたときには、偏波面が変化したり、電波が減衰すること等により受信感度が低下するという弱点になる。例えば、直線偏波チャネルはマルチパス干渉から保護されず、また特定の方向で直線格子形状の電波障害物を電波が通過する場合にも、容易に抑圧されてしまう。直線偏波のビームはまた、人工塗料、コーティングなど、近代的な建築材料においては一般的な異方性及び半導体特性を有する傾斜面に出会うとき、しばしば、人工環境において変化する。直線偏波から偏波面の楕円化及び回転の変化は、通信チャネル又はレーダー応答に悪影響を与えることもありうる。
一方、通信チャネルにおける円偏波の使用は、通信チャネル又はレーダー測定の品質を高めるのに一助となりうる。円偏波回転方向の切り替え効果は、無線通信の先駆的な時代から、受信アンテナにおける寄生反射をなくすために使用されている。通常より低いアンテナ利得にもかかわらず、円偏波を持つシステムは、散乱障害物をより良い状態で通過することができ、このことはより好ましい解決方法になる。そして、予測不可能な条件の下での反射波の楕円率の変化に対するアンテナシステムの耐性は、円偏波アンテナを、レーダー応用における1つの所望な選択肢とすることができる。しかしながら、円偏波アンテナを用いた任意のアプリケーションは、偏波の回転方向に非常に敏感となる。基本的には、このことから、円偏波アンテナは、所定の偏波回転方向で使用される場合が多い。また、設計の簡単さを維持したまま円偏波アンテナに対する偏波回転スイッチング機能を実装することは、アンテナ技術において特定の課題となっている。
従来のアンテナ技術では、システムがやや複雑になるが、一対の直線偏波アンテナを位相差が90度の交差ダイポールのように配置構成することで、円偏波アンテナを実現することができる。
円偏波を達成するための自然な方法としては、人工的に、面内で一様な方向に電界ベクトルを形成し、さらにその面内で偏波を回転させる方法が考えられる。これに対して、メタマテリアルを用いた2次元平面でのゼロ次共振アンテナは、共振器内で均一な電界分布をもつことでよく知られている。しかし、この2次元0次共振メタマテリアルとしてよく知られているマッシュルーム構造のアンテナは、2次元平面に対して垂直方向を向く電気双極子として動作し、垂直偏波で、しかも水平面において無指向性放射の性質を示す。このような構造を利用して円偏波を実現するためには、さらに90度位相の異なる水平方向電界成分を持つ放射を追加する必要がある.これまでに、マッシュルーム構造の外縁に対して、水平面に平行に線状電流が流れるよう金属細線を挿入し、交差ダイポールと同様の機能を持たせることにより円偏波アンテナが実現されている。ただし、このアンテナは本質的に無指向性であり、指向性を持たせたり、偏波の回転方向の切り替え機能を与えることは不可能である。
本実施形態では、平面アンテナの面内で、実質的に同一方向を向く磁界ベクトルHを人工的に形成することが提案される。この場合のアンテナは、接地面の上方で回転する磁気双極子として説明することができる。ここで提案する円偏波アンテナは、比較的コンパクトで簡単な設計理論を用いて、高利得で幅の狭いビームを有する円偏波放射を実現できる。非可逆CRLHメタマテリアル構造との類似性から、従来のマッシュルーム構造と比較して、金属中に流れる電流密度が小さいために、より低い材料損失が期待されている。この非相反メタマテリアルアンテナのユニークな特徴は、偏波回転が左旋円偏波(LHCP)から右旋円偏波(RHCP)への切り替え、及びその逆の切り替えを瞬時に行うことができることにある。
2.非相反伝送線路装置の基本原理及び動作原理
まず始めに、本実施形態に係る円偏波アンテナ装置で用いる非相反伝送線路装置(非可逆伝送線路装置ともいう。)の基本構成及び動作原理について、図1〜図12を参照して説明する。なお、本明細書中で用いた数式については、各式の後に示した丸括弧でくくられた番号を参照する。
本発明の各実施形態に係る非相反伝送線路装置70A〜70Nは、伝送線路の単位セルを縦続接続して構成される。図1〜図4は、本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における例示的な伝送線路の単位セル60A〜60Dの等価回路図である。ここで、各単位セルは、順方向と逆方向の伝搬定数が異なる非相反位相推移特性を有する伝送線路部分を含み、直列枝の回路に容量性素子、並列枝の回路に誘導性素子が等価的に挿入された構成を有する(図1〜図4を参照。)。このような本願発明に係る非相反伝送線路装置の構成を適用可能な回路又は装置は、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、スロット線路、コプレーナ線路などマイクロ波、ミリ波、準ミリ波、テラヘルツ波において用いられるプリント基板回路、導波管、誘電体線路を含み、これらだけでなく、プラズモン、ポラリトン、マグノン等を含む導波モードあるいは減衰モードを支える構成全般、あるいはそれらの組み合わせ、さらに等価回路として記述可能な自由空間などの全てを含む。非相反伝送線路装置による伝送する電磁波は、例えばUHF(Ultra High Frequency)バンドの周波数帯以上のマイクロ波、ミリ波、準ミリ波、テラヘルツ波を含み、本明細書では、これらを総称して「マイクロ波」という。
非相反位相推移特性を有する伝送線路装置は、上述した伝送線路のうち、特にジャイロ異方性(ジャイロトロピック異方性ともいう)を有する材料を部分的もしくは全体的に含み、かつ電磁波の伝搬方向に対して異なる磁化方向(より好ましくは、伝搬方向に対して直交する方向)で磁化されて、上記伝搬方向と上記磁化方向とにより形成される面に対して非対称性を有する構造の伝送線路を用いて構成される。非相反位相推移特性を有する伝送線路としては、上述した伝送線路以外に、同等の非相反位相推移機能を有する、波長に比べて充分小さな集中定数素子も使用可能である。ジャイロ異方性を有する材料としては、自発磁化もしくは外部より印加した直流もしくは低周波の磁界により誘起された磁化あるいは自由電荷の周回運動により、材料の特性を表す誘電率テンソルもしくは透磁率テンソルあるいはその両方が、ジャイロ異方性を持つ状態として表される場合全てを含む。ジャイロ異方性を有する材料の具体例としては、マイクロ波、ミリ波などで用いられるフェライトなどのフェリ磁性体、強磁性体材料、固体プラズマ(半導体材料など)及び液体、気体プラズマ媒質、さらに微細加工などにより構成された磁性人工媒質などが挙げられる。
直列枝の回路に挿入される容量性素子としては、電気回路でよく用いられるコンデンサ、マイクロ波、ミリ波などで用いられる分布定数型容量素子だけでなく、等価的には、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負の値を持つような回路又は回路素子であってもよい。負の実効透磁率を示すためには、直列枝の回路が容量性素子として支配的に動作する線路として等価的に記述される必要があり、負の実効透磁率を示す素子の具体例としては、金属からなるスプリットリング共振器、スパイラル構成などの磁気的共振器を少なくとも1つ含む空間的配置、あるいは磁気的共振状態にある誘電体共振器の空間的配置、あるいはフェライト板マイクロストリップ線路に沿って伝搬するエッジモードのように、負の実効透磁率を持つ導波モードもしくは減衰モードで動作するマイクロ波回路などが使用可能である。さらに、直列枝の回路に挿入される容量性素子としては、上述したもの以外に、容量性素子と誘導性素子の直列接続、並列接続あるいはそれらの組み合わせであってもよい。挿入されるべき部分の素子又は回路が全体として容量性を示すものであってもよい。
並列枝の回路に挿入される誘導性素子として、電気回路で用いられるコイルなどの集中定数型素子や、マイクロ波、ミリ波などで用いられる短絡スタブ導体などの分布定数型誘導性素子だけでなく、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負の値を持つ回路又は素子を用いることができる。負の実効誘電率を示すためには、並列枝が誘導性素子として支配的に動作する伝送線路として等価的に記述される必要があり、負の実効誘電率を示す素子の具体例としては、金属細線、金属球などの電気的共振器を少なくとも1つ含む空間的配置、あるいは金属だけでなく電気的共振状態にある誘電体共振器の空間的配置、あるいはTEモードが遮断領域にある導波管、平行平板線路など、負の実効誘電率を持つ導波モードもしくは減衰モードで動作するマイクロ波回路などが使用可能である。また、並列枝の回路に挿入される誘導性素子としては、上述したもの以外に、容量性素子と誘導性素子の直列接続、並列接続あるいはそれらの組み合わせであってもよい。挿入されるべき部分が全体として誘導性を示す回路又は素子であってもよい。
非相反位相推移特性を有する伝送線路装置において、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負の場合、減衰モードとなりうるが、負の実効透磁率は、直列枝の回路に容量性素子が挿入された場合に相当することから、同線路の等価回路は、非相反位相推移部分と直列容量素子部分の両方を含む。
非相反位相推移特性を有する伝送線路装置において、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負の場合、減衰モードとなりうるが、負の実効誘電率は、並列枝の回路に誘導性素子が挿入された場合に相当することから、同線路の等価回路は、非相反位相推移部分と並列誘導素子部分の両方を含む。
図1及び図2は、単位セル60A,60Bが非対称T型構造及び非対称π型構造をそれぞれ有する場合を示している。また、図3及び図4は、より単純な場合として、単位セル60C,60Dが対称T型構造及び対称π型構造をそれぞれ有する場合を示している。以下では原則として、単位セル60A〜60Dの線路長(つまり周期長さp=p1+p2)が波長に比べて十分小さい場合を仮定しているので、従来技術に係る右手/左手系複合伝送線路装置における伝送線路の単位セルの取り扱いと同様に、T型構造、π型構造あるいはL型構造の場合であっても、本質的に同様の結果が得られる。実際、L型構造は、パラメータ操作により図1又は図2の場合に含められる。なお、波長に対する単位セル60A〜60Dの線路長がここで述べる基本的動作を制約しないことを強調しておく。
図1〜図4に示す線路構造は単純で、所定の線路長(図1及び図2では線路長p1,p2であり、図3及び図4では線路長p/2である。)をそれぞれ有する2本の伝送線路部分61,62を含む伝送線路の直列枝の回路に容量性素子又は容量性を示す回路網が挿入され、並列枝の回路には誘導性素子又は誘導性回路網が挿入されている。これらの素子をまとめて単純に実効的な大きさ(線路長)を示すために、図1においては、キャパシタC1,C2及びインダクタLをそれぞれ挿入するように図示する。同様に、図2においては、キャパシタC及びインダクタL1,L2をそれぞれ挿入するように図示する。伝送線路部分61,62はそれぞれ、その順方向と逆方向の伝搬定数が異なる非相反位相推移特性を有するように構成されるが、本明細書では、伝搬定数を考察する際に、伝搬定数の虚部、すなわち位相定数を用いる。伝送線路部分61の非相反性を表すパラメータとして、順方向(ポートP11からポートP12に向う方向をいう。)の位相定数及び特性インピーダンスをそれぞれβNp1及びZp1と表し、逆方向(ポートP12からポートP11に向う方向をいう。)のそれらをそれぞれ、βNm1及びZm1と表す。同様に、伝送線路部分62の非相反性を表すパラメータとして、順方向の位相定数及び特性インピーダンスをそれぞれβNp2及びZp2と表し、逆方向のそれらをそれぞれ、βNm2及びZm2と表す。図1及び図2の伝送線路は2つの伝送線路部分61,62が非対称であるが、図3及び図4の伝送線路は2つの伝送線路部分61,62が対称であり、p1=p2=p/2,βNp1=βNp2=βNp,βNm1=βNm2=βNm,Zp1=Zp2=Z,Zm1=Zm2=Zを満たし、さらに、T型構造の場合はC1=C2=2Cであり、π型構造の場合はL1=L2=2Lである。具体例として、図3及び図4の伝送線路において、単位セル60A〜60Dの両端に周期的境界条件を課すと、次式を得る。
Figure 0006449237
ここで、Δβ及び
Figure 0006449237
は次式で表される。
Figure 0006449237
Figure 0006449237
ω及びβはそれぞれ、動作角周波数と、周期構造に沿って伝搬する電磁波の位相定数とを表す。式(1)は動作角周波数ωと位相定数βの関係を表していることから、分散関係式(ω−βダイアグラム)となる。
式(1)において、相反性(βNp=βNmかつZ=Z)を仮定すると、従来技術に係る相反伝送線路装置と同じになり、式(1)は次式に簡単化される。
Figure 0006449237
但し、式(2)中のアドミタンスY及びインピーダンスZはそれぞれ、Y=1/jωL、Z=1/jωCと仮定している。
図5は、従来技術に係る相反伝送線路装置における非平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフであり、図6は、従来技術に係る相反伝送線路装置における平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。図5及び図6のグラフは、正規化位相定数β・p/πに対する角周波数ωの特性を示す。式(2)で表されるような従来技術に係る相反伝送線路装置の場合、典型的な分散曲線は図5のように表され、一般に右手系(RH)伝送特性及び左手系(LH)伝送特性を示す帯域の間に禁止帯が現れる。左手系伝送帯域の上限及び右手伝送帯域の下限の周波数は、位相定数β=0の条件を式(2)に課すことにより、角周波数ωに関する2次方程式の解として得られる。結果として次の2つの解を得る。
Figure 0006449237
Figure 0006449237
ここで、ε及びμは、単位セル60A〜60Dの伝送線路部分61,62の実効誘電率及び透磁率を表す。従って、禁止帯がゼロとなるように、カットオフ周波数がω=ωを満たすためには、式(2)が位相定数β=0の条件に対して重解を持てばよく、結果として次式を得る。
Figure 0006449237
式(5)の結果は、直列枝の回路に挿入される容量性素子であるキャパシタCと、並列枝の回路に挿入される誘導性素子であるインダクタLとがなすインピーダンス√(L/C)が、挿入先の伝送線路部分61,62の特性インピーダンスZと同じであれば、ギャップが生じないというものであり、一種のインピーダンス整合条件となっている。その場合の分散曲線を図6に示す。
式(1)により与えられる非相反伝送線路装置の場合の分散曲線について説明する。相反伝送線路装置の場合、式(2)によれば、分散曲線は位相定数β=0の直線(ω軸)に対して対称であるが、非相反伝送線路装置の場合、分散曲線の対称軸がβ=0の直線よりもβに関して
Figure 0006449237
だけ正の方向にシフトしていることが、式(1)の左辺から容易にわかる。以下、βNRを、非相反移相量という。従って、図5に対応して、図7を得る。
図7は、実施形態に係る非相反伝送線路装置における非平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフであり、図8は、実施形態に係る非相反伝送線路装置における平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。
このように、非相反伝送線路装置が、相反伝送線路装置と大きく異なるのは、分散曲線の対称軸(図において一点鎖線で示す)がω軸から右側又は左側にシフトすることであり、これは、式(1)から求められる順方向の位相定数β=βと逆方向の位相定数β=βがβ≠β(従って、順方向と逆方向の伝搬定数が互いに異なる)、つまり非相反位相推移の効果による。なお、非相反移相量βNRは、順方向及び逆方向の位相定数βとβを用いて式(6)の代わりに
Figure 0006449237
と表すこともできる。結果として、次の5種類の伝送帯域(A)〜(E)に分類することができる。
(A)順方向及び逆方向伝搬共に左手系伝送(LH/LH)。但し、伝搬定数の大きさは互いに異なる。
(B)順方向が左手系伝送、逆方向は伝搬定数がゼロで管内波長が無限大となる。
(C)順方向が左手系伝送、逆方向が右手系伝送(RH/LH)。
(D)順方向が右手系伝送、逆方向は伝搬定数がゼロで管内波長が無限大となる。
(E)順方向及び逆方向伝搬共に右手系伝送(RH/RH)。但し、伝搬定数の大きさは互いに異なる。
但し、一般に、伝送帯域(C)では、図7からわかるように中央に阻止帯域(禁止バンド)が現れる。また、特に、図7及び図8においてRH/LHで示している伝送帯域を利用する際には、各ポートに双方向(順方向及び逆方向)でマイクロ波信号を入力しても、位相の流れが所定の同一方向を向く(左手系伝送及び右手系伝送)という特長を有する。
比較のため、従来技術の相反伝送線路装置の場合を考えると、電力伝送の方向が正及び負となる2つの同一モードは、式(5)の整合条件が成立している場合に、つまり、図6に示すように、位相定数β=0の点で2つのモードが結合することなく交差することになる。同様に、式(1)により与えられる分散曲線の対称軸線上β=Δβ/2=βNRにおいて、式(1)は角周波数ωに関する2次方程式となり、バンドギャップを生じさせないために重解の条件を課すと、次式を得る。
Figure 0006449237
もしくは
Figure 0006449237
但し、ε及びμは、単位セル60A〜60Dの非相反伝送線路部分61,62における順方向の実効誘電率及び透磁率を表し、ε及びμは逆方向の場合のそれらを表す。式(7)より、2つのモードが交差する付近でギャップを生じさせないための条件は、相反伝送線路装置の式(5)の場合と類似して、インピーダンス整合条件となっている。しかも、順方向もしくは逆方向のどちらかで整合が取れるように、インダクタL及びキャパシタCを挿入すればよく、インピーダンス整合条件が、相反伝送線路装置の場合に比べて、より緩やかであることが特長として挙げられる。
図1及び図2に示されているような、2つの伝送線路部分61,62が非対称である、より一般的な場合について、若干説明する。このような非対称の場合であっても、基本的には図7及び図8と同様の分散曲線に従って動作する。分散曲線の対称軸の位置は、図7及び図8の横軸の正規化位相定数β・p/π上で次式の位置に修正される。
Figure 0006449237
また、2つの非相反伝送線路部分61,62が同一の伝搬特性を有している場合、バンドギャップを生じない整合条件は式(7)と同じになる。但し、図1の場合は
Figure 0006449237
であり、図2の場合、
Figure 0006449237
である。
本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置の全体は、図9〜図12に示すように、図1〜図4の単位セル60A〜60Dを少なくとも1つ以上含みかつ縦続接続されて構成される。図9は、図1の単位セル60Aを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Aの構成を示すブロック図である。図9において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Aが縦続接続されることにより、非相反伝送線路装置70Aを構成している。図10は、図2の単位セル60Bを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Bの構成を示すブロック図である。図10において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Bが縦続接続されることにより、非相反伝送線路装置70Bを構成している。図11は、図3の単位セル60Cを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Cの構成を示すブロック図である。図11において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Cが縦続接続されることにより、非相反伝送線路装置70Cを構成している。図12は、図4の単位セル60Dを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Dの構成を示すブロック図である。図12において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Dが縦続接続されることにより、非相反伝送線路装置70Dを構成している。なお、複数個の単位セル60A〜60Dが縦続接続される場合においても、必ずしも単位セル60A〜60Dのうちの単一タイプのものを用いて構成される必要はなく、異なるタイプの単位セルを組み合わせて縦続接続してもよい。
以下、本実施形態及び以下の各実施形態に係る非相反伝送線路装置70A〜70Eの分散曲線は、図8に示すような平衡状態の分散曲線である。また、図8の分散曲線において、2つのモードが交差する交点の動作角周波数ωを中心角周波数ωと定義し、交点における非相反移相量βNRを非相反移相量βNRCと定義する。ただし、図7に示すようなバンドギャップの存在する非平衡状態の分散曲線であっても動作可能である。この場合、図7における中心動作角周波数ωに相当する角周波数は、伝送線路の両側の終端条件にも依存するが、図8の分散曲線のバンドギャップ端に相当する2つの角周波数ωcU,ωcLもしくはその間のバンドギャップ内の角周波数が該当する。
3.円偏波アンテナ装置の基本構成
図13Aは本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Eを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図であり、図13Bは図13Aの円偏波アンテナ装置の一部分の構成を示す斜視図である。本実施形態に係る円偏波アンテナ装置は、非相反伝送線路装置70Eと、両端の反射器R1,R2と、給電線Fとを備えて構成される。非相反伝送線路装置70Eは、円板型の垂直磁化フェライト板15の円周に沿って、フェライト板15上に形成されたストリップ導体12を有するマイクロストリップ線路を配置し、当該マイクロストリップ線路を含む非相反伝送線路装置70は直列枝にキャパシタCseを、並列枝に誘導性短絡スタブ導体13(スタブ導体13は、裏面に接地導体11を有する誘電体基板10上に形成され、先端はビア導体13Cを介して接地導体11に短絡される)を、それぞれ周期的に挿入した構造を有する。垂直磁化フェライト板15を有するマイクロストリップ線路に沿って伝搬するエッジガイドモードは、構造の非対称性により伝搬方向により非相反性を示す。非相反伝送線路装置70の両端には、境界条件として実質的な短絡条件が課されている。さらに、非相反伝送線路装置70Eの一端はキャパシタ2Cseを介してポートP1となり、当該ポートP1には反射器R1を介して給電線Fがインピーダンス整合の取れる位置に直接挿入接続されている。また、さらに、非相反伝送線路装置70Eの他端はキャパシタ2Cseを介してポートP2となり、当該ポートP2には反射器R2が接続されている。
偏波回転の切り替え機能を有する提案の円偏波アンテナ装置は、擬似的に循環波ビームアンテナ装置を構成し、当該アンテナ装置は非可逆メタマテリアル構造における擬似進行波共振を利用する。従来技術に係る直線形状の非相反伝送線路装置との相違点は、本実施形態に係る円偏波アンテナ装置のマイクロストリップ線路が図13Aに図示されるようにリング形状に曲げられているところにある。ここで、当該マイクロストリップ線路は、フェライト板15の円周縁端部に形成されている。
このような構造は、以下の2つの理由によって選択される。第一に、フェライトコアにてなるフェライト板15の構造が単純で、純粋に実用的であることが挙げられる。もう1つは、非相反性の大きさをわずかに高めることで、フリンジ電界を非可逆伝搬に含ませることにより位相シフトを実現できる可能性がある。高誘電率フェライト板15からの不要な漏れ波の発生を防止するために、当該フェライト板15は円形で遮蔽のための遮蔽金属板(図示せず)でカバーされる。ここで、当該遮蔽金属板を接地する必要はない。その理由は、フェライト板内の電磁界分布が対称的な構造となるために、遮蔽金属板の表面上の平均電位がほぼゼロになるためである。スロット導波路モードが発生するのを防止するために、遮蔽金属板と伝送線路との間には、かなり大きなギャップを設ける必要がある。マイクロストリップ線路には、並列枝のスタブ導体13からなる負荷が周期的に挿入され、集中定数の複数の直列キャパシタCseは非相反伝送線路装置70Eのマイクロストリップ線路に沿ったギャップに挿入されている。また、当該非相反伝送線路装置70Eには、3λ/4の反射板にてなる反射器R1及びポートP1を介して給電線Fから給電される。当該反射器R1は、動作周波数において非相反伝送線路装置70Eの入力端子との接続部分での負荷インピーダンスが実質的にゼロインピーダンスとなる。当該反射器R1からの不要な放射波を防止するために、同反射器R1は、遮蔽金属板(図示せず)を用いてカバーされる。もう1つのλ/4共振器の反射器R2は、非相反伝送線路装置70Eの反対側の端部ポートP2の取り付け部分において、負荷インピーダンスが0となり、終端短絡条件を満たす。
なお、フェライト板15の内部磁化は下面から上面への垂直方向であるが、フェライト板15の内部磁化に代えて、外部磁界発生器80を用いて外部可変磁界を垂直方向に印加するようにしてもよい。
非相反伝送線路装置70Eは両端短絡のため、擬似進行波共振の際,直列枝の直列共振が支配的となる。その結果、非相反伝送線路装置70Eに沿って分布する電界成分Ezは各ストリップ導体12の領域において、大きさがほぼゼロとなり最小化される。一方、横方向の磁界成分Hrの大きさは、擬似進行波共振器内の磁界Hと同様に最大化される。また、バイアス磁界がフェライト板15に印加されていないとき、擬似進行波共振器は0次共振器として動作するので,横方向の磁界成分Hrは中心対称をなし,磁界ベクトルは動径方向を向くこととなる。その結果,共振器からの放射波は干渉して弱め合い、放射は相殺されることとなる。
図14A及び図14Bは図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置で用いる非相反伝送線路装置70Eのシミュレーション結果であって、図14AはSパラメータの周波数特性を示すグラフであり、図14Bは分散特性を示すグラフである。当該シミュレーションでは、22個の単位セルを有する非相反伝送線路装置70Eについて行い、図14Bは4πMs=1750Gで磁化された非相反伝送線路装置70Eの分散特性を示す。
当該円偏波アンテナが動作する条件の一つとしては、バイアス磁界Hoがz軸に平行にフェライト板15を印加することが必要である。フェライト板15が一定の磁化Mに達することによって、当該共振器を構成する分割リング1周分の電気長に対して位相シフト±2π ラジアン を達成することができる。当該共振器の両端における等位相条件により、このことは、円形構造において擬似循環波が生成されるという興味ある効果をもたらす。しかし現実には、リングを分割するギャップが存在することも考慮しなければならない。つまり、円偏波放射を実現する上で重要なことは、共振器上の位相シフトが常に図13Aの構造の極座標における角度φに等しくなるよう、線路の位相勾配を与えることである。このことは、円形構造の反対側における磁界Hr成分を常に同一方向とさせ、その結果、両者の間で強めあう干渉をもたらす。非相反伝送線路装置70Eのリングの内側における磁界H分布は、瞬時値で見ると実質的にほぼ一方向を向いており、さらに時間の経過とともにリング軸を中心にその周りを回転している。遮蔽金属板が存在する水平磁気双極子のように、このダイポールリング信号源は、遠方界領域においてブロードサイド方向に放射するビームを提供する。面内磁界の回転は、ブロードサイド方向に形成されるビームに対して円偏波特性をもたらす。偏波の回転方向は、共振器における位相シフトの符号に依存し、反対のバイアス磁界Hoを印加することにより、丁度反対に反転させることができる。この様な性質は、この種のメタマテリアルアンテナがもたらす新規機能である。
4.円偏波アンテナ装置の詳細構成及び変形例
本実施形態に係る円偏波アンテナ装置は、有限長の非相反移相右手/左手系複合線路である非相反伝送線路装置70Eとその両端に接続された反射器R1,R2、さらに給電線Fを備えることを特徴とする。擬似進行波共振器を構成する非相反伝送線路装置70Eは、単一もしくは複数の単位セルと呼ばれる構成要素から構成されており、その分散関係に特徴を有し、伝送電力の方向が互いに逆方向の関係にある右手系モードと左手系モードの分散曲線が互いに交差し、結合の結果生じるバンドギャップ内の周波数帯域、もしくはバンドギャップが現れず2本の分散曲線の交点となる周波数付近を、動作周波数として利用する。動作周波数は、共振器を構成する線路長によらず、分散曲線によって決まる交点周波数付近でほぼ一定となる。
非相反伝送線路装置70Eの両端に接続される2つの反射器R1,R2はそれぞれ入力される信号を反射するものであって、好ましくは、それぞれ独立ではなく、
(1)各反射器R1,R2のインピーダンスが実質的に0であって、具体的には、0、もしくは実質的に0である0近傍の所定の低インピーダンス値([Ω]、オーム)(ここで、当該低インピーダンス値は他のパラメータにより変化するが、例えば0.1、0.01、0.001などである所定値以下の値である)である、実質的に両端短絡状態である第1の設定条件と、
(2)各反射器R1,R2のアドミタンスが実質的に0であって、具体的には、0、もしくは実質的に0である0近傍の所定の低アドミタンス値([S]、ジーメンス)(ここで、当該低インピーダンス値は他のパラメータにより変化するが、例えば0.1、0.01、0.001などである所定値以下の値である)である、実質的に両端開放状態である第2の設定条件と、
(3)互いに実質的に複素共役の関係にある2つのリアクタンス素子からなる第3の設定条件と
のうちの1つの設定条件を満たすように設定される。これら設定条件は、例えば、所定の動作周波数又は0次共振周波数において、
(1)最大利得を得ること、
(2)軸比が1又は1に近い最低値を得ること、
(3)最大放射効率を得ること
のうちの少なくとも1つを得るように設定され、これについて詳細後述される。
さらに、給電線Fは、非相反伝送線路装置70Eの共振器の一部分もしくは複数の箇所に直接接続、あるいは非接触で容量性結合もしくは誘導性結合を介して、インピーダンス整合が取れる状態で、当該共振器に信号入力を行うための給電線路である。
本実施形態では、共振条件を満足するために,例えば両端に短絡のための反射器R1,R2として、2本の有限長一端開放線路の挿入が行われる。そのうち一方の反射器R1に対して、50オームの伝送線路で整合が取れるような位置に給電線Fが直接接続されている。ここで、両端の2つの反射器R1,R2の条件において、直列枝に関係する中央のストリップ導体12と、並列枝を構成する誘導性スタブ導体13の線路とが互いに直交な配置関係にあるとき、それぞれの枝の共振回路が共振すると電流は互いに直交して流れることとなる。つまり、直列枝の直列共振の場合の放射波の主偏波方向に対して、並列枝の並列共振の場合の主偏波方向が直交している。またこの2つの共振回路に流れる電流は、同位相となることがわかっているので、もし共振器が直線状の線路からなっている場合、重ね合わせても放射波は直線偏波を形成し、直交する2つの電流の重み付けにより主偏波方向が回転することとなる。
いま、例えば両端短絡の擬似進行波共振器をリング構造で作成し、直列枝のストリップ導体12に流れる電流の寄与が支配的な放射波が円偏波特性を示すものとする。これに対して、共振器内の非相反伝送線路装置70Eを変えずに、両端の反射器R1,R2のみを開放(インピーダンス無限大)に変えたとすると、今度は並列枝の並列共振が支配的なので、周期的に挿入された誘導性スタブ導体13上に電流分布が集中し、そこからの放射波が支配的となる。このとき、放射波の主偏波方向は両端短絡の場合に比べて90度回転することになる。しかしながら、もとの両端短絡の場合の放射波が円偏波特性を示すことから、両端を開放状態に変えて主偏波方向を90度回転させようとしても、円偏波の状態は維持されることとなる。以上のことからわかるように、さらに互いに複素共役の関係にある2つのリアクティブ素子を反射器R1,R2として同じ共振器の両端に挿入した場合であっても結果は同じで、初期位相がれることはあっても、円偏波特性はそのまま維持されることとなる。もちろん、共振条件を満たしながら、両端の複素共役の関係にあるリアクティブ素子の値の組み合わせを変えることにより、非相反伝送線路装置70E内の電流分布が変わるので、それによって一般的には、放射パターン、利得、放射効率等も変化することになる。
以上の実施形態に係る円偏波アンテナ装置において、構成する共振器として動作する非相反伝送線路装置70Eが取り得る形状は、円形状に限らず、方形、長方形、楕円形の各形状、スプリットリング、スパイラルなどの非線形形状であってもよい。すなわち、例えば、上記各単位セルを、円形状、楕円形状、正方形状、又は長方形状を有する一巻きリング形状、複数回巻きのスパイラル形状、もしくはL型形状で配置してもよい。ここで、上記非相反伝送線路装置70Eは擬似進行波共振器を構成し当該擬似進行波共振器は、第1の方向に電流を流し、同方向に偏波した電磁波を放射する線路部分Aと、線路部分Aに流れる電流に対して垂直方向(第2の方向)に電流を流し、同方向に偏波していて、しかも、線路部分Aよりも位相が90度進む(もしくは遅れる)電磁波を放射する線路部分Bを含む。
共振器形状が円形、方形、もしくはスプリットリング、スパイラルなどの形状で、線路に沿う電磁波の一方向(例えば順方向)伝搬に対して、伝送電力の向きが反平行の関係となるような一対もしくは複数の線路部分が同一共振器内に存在する場合、上記非相反伝送線路装置70Eの略中心部を挟んで互いに対向する位置にある線路部分間の位相差が、およそ180度となるように、直列枝回路の電気長を変化させて、共振器の位相勾配を調整する必要がある。その結果、この一対の線路部分間で、電力の向きが互いに逆向きかつ位相関係が逆相となることから、2つの線路から放射する電磁波は、偏波方向が一致し、しかも同位相なので重ね合わせにより強め合い、放射ビームが形成される。
共振器形状がスパイラルなどの形状で、線路に沿う電磁波の一方向(例えば順方向)伝搬に対して、伝送電力の向きが平行の関係となるような一対もしくは複数の線路部分が同一共振器内に存在する場合、スパイラル形状で互いに隣接する線路部分間の位相差が、およそ0度となるように、共振器の位相勾配を調整する必要がある。その結果、この線路部分間で、電力の向きが同じで、かつ位相関係が同相となることから、2つの線路から放射する電磁波は、偏波方向が一致し、しかも同位相なので重ね合わせにより強め合い、放射ビームが形成される。
ここで、位相勾配を調整するためには、単位セルの数と、磁化Mの大きさと、並列枝のスタブ導体13の電気長とのうちの少なくとも1つを変化させて実行できる。
円偏波アンテナ装置に用いられる非相反伝送線路装置70Eの動作点は、速波領域つまり漏れ波放射領域だけでなく、非放射領域の場合も対象とする。
また、非相反伝送線路装置70Eの非可逆性が比較的小さく、線路の動作点が放射領域にある場合、非相反伝送線路装置70Eからの漏れ波放射が、放射ビームを形成する。このとき共振器両端での多重反射を利用して高効率な漏れ波アンテナとして動作する。この場合、アンテナサイズの増加と共に、ブロードサイド方向に形成されるビームの指向性、放射利得を増大させることができる。
ここで、非相反伝送線路装置70Eの非可逆性が大きく、動作点が非放射領域にある場合、非相反伝送線路装置70Eからの漏れ波放射が起こらないため、伝搬損は大幅に低減する。その結果、擬似進行波共振器のQ値は上昇し、動作帯域幅は低下することとなる。この場合、線路の位相定数が大きくなるので、アンテナサイズが漏れ波の場合に比べてコンパクトにできる特長がある、一方で、指向性は小さくなる。また、非相反伝送線路装置70Eの非可逆性に起因する位相勾配の方向により、偏波の回転方向(右旋円偏波もしくは左旋円偏波)が決定される。さらに、偏波回転方向切替えの一方法として、線路に含まれるフェライト板15に加える外部印加磁界をほぼ同じ大きさで逆方向にすることが挙げられる。
5.数値シミュレーション
図14A及び図14Bは図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置で用いる非相反伝送線路装置70Eのシミュレーション結果であって、図14AはSパラメータの周波数特性を示すグラフであり、図14Bは分散特性を示すグラフである。
本発明者らは、図13A及び図13Bの非可逆円形構造を有する円偏波アンテナ装置ついて、アンソフト(Ansoft)社製HFSS(登録商標)ソフトウェアにおける数値FEMシミュレーションを用いて検討した。当該装置を、直径54mmで厚さ0.8mmのYIGフェライト板15を用いてモデル化した。1mm幅のストリップ導体12を有するマイクロストリップ線路は4mmの周期でフェライト板15の円周縁端部に形成される。0.2pFのキャパシタCseは各単位セル間に挿入され、これにより当該装置において、負の透磁率μ特性を提供する。各単位セルには、1mmの長さ及び1mmの幅を有する並列枝スタブ導体13が非対称に負荷され、各単位セルの伝送線路部分であるストリップ導体12はフェライト板15上に形成され、各単位セルのスタブ導体13は誘電率εst=2.6で厚さ0.8mmの誘電体基板10上に形成される。直径41mmの円形遮蔽金属板はフェライト板15の上面に取り付けられ、ここで、4mmのギャップが遮蔽金属板と非相反伝送線路装置70Eとの間に形成される。0.8mmの線路幅を有する2つの反射器R1,R2は、メタマテリアル共振器を構成する非相反伝送線路装置70Eの各両端のポートP1,P2に接続され、一方の反射器R2は2.2mmの長さを有し、他方の反射器R1は22mmの長さを有する。給電は50Ωのマイクロストリップ線路を有する給電線Fを用いて反射器R1を介して非相反伝送線路装置70Eに対して行われる。
まず最初に、22個の単位セルからなる非相反伝送線路装置70Eの半円部分についてシミュレーションした。図14Aにおいて単位セル当たり0.1dBの比較的低い挿入損失を示す。当該挿入損失のほとんどの部分は放射に寄与する。4πMs=1750Gで飽和するフェライト板15を用いると、非相反伝送線路装置70Eは、図14Bにおける位相定数Δβ=0.75rad/cmよりも大きな非相反性の大きさを示し、この大きさは、円形構造において2πの位相シフトを達成するために十分に大きい。
次いで、フェライト板15を最大4πM=860Gまで磁化させるときの非相反伝送線路装置70Eの共振器特性についてシミュレーションを行った。
図15A、図15B及び図15Cは図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置のシミュレーション結果であって、図15Aは反射特性を示すグラフである。また、図15Bは周波数6.85GHzにおいて2つの反射器R1,R2を含む非相反伝送線路装置70Eの長手方向に沿った、正規化された磁界分布及び電界分布を示すグラフである。さらに、図15Cは周波数6.85GHzにおいて2つの反射器R1,R2を含む非相反伝送線路装置70Eの長手方向に沿った、磁界Hxの位相分布を示すグラフである。
図15Aでは、ゼロ次共振及び1次共振を示すS11の周波数特性を示す。図15Aの入力反射減衰量(損失)は6.85GHzにおいてゼロ次共振の最小値を有し、その上側及び下側の帯域において、2つの半波共振による最小値が観測された。当該共振の次数は、6.85GHzにおいて図15Bの非相反伝送線路装置70Eに沿った磁界Hの振幅分布が均一であることから確認した。図15Cの位相分布図において発見される一定の傾斜は、擬似進行波共振がこの周波数において実際に発生することを示す。比較的低い磁化を持つフェライトを用いた共振器の場合でも、2πの位相シフトが達成されていることは、実用化の上で重要である。
図16A〜図16Dは図13A及び図13Bの円偏波アンテナ装置のシミュレーション結果であって、図16Aはアンテナ面における磁界ベクトルHの分布を示す平面図であり、図16Bはアンテナ面における電界分布を示す写真である。図16Cはアンテナ面に対して垂直な面における放射特性を示す放射パターン図であり、図16Dはアンテナ面に対して垂直な2つの面(φ=0,90度)を含む放射パターンを示す斜視図である。図16Dにおいて、ハッチングの密度が高いほど、電界が大きいことを示す。図16Dでは、放射パターン特性における断面を示す3次元での放射パターンを示し、ブロードサイド方向でのビームの電界ベクトルEの回転が観測される。なお、図16Bの写真において、濃い部分は電界が相対的に大きいことを示す一方、薄い部分は電界が相対的に小さいことを示す。また、図16Cにおいて、測定条件は、周波数6.85GHz、磁化M=858G、磁界の半値幅ΔH=40である。さらに、図16Dにおいて、90は金属遮蔽板である。
シミュレーションから得られた電磁界分布より、電磁界が均一に回転するという上記の予測を確認することができる。磁界ベクトルHは当該アンテナのメタマテリアル伝送線路によって生成され、図16Aの複数のベクトルを用いて図示され、ここで、1つの方向でほとんど均一な複数の点は交差偏波面を決定している。回転する磁界ベクトルHの分布が、振幅の均一性を示すかどうかについて判断することができないが、図16Bの電界成分Ezの特性図は、当該円偏波アンテナ装置における電界の均一性を確認することができる。図16Cの放射パターンから、利得がおよそ11dBi、幅の狭いビーム放射を確認することができる。φ=90゜の面において観測されるサイドローブは、円形構造がスプリットリングであるために出現する。非相反伝送線路装置70Eの各端部ポートP1,P2間のギャップは電磁界分布に対して外乱をもたらす。当該シミュレーション結果では、電磁界放射は、ほとんど完全な円偏波特性を示す。また、印加直流磁界に依存して、当該円偏波アンテナ装置は、z方向に平行な磁化Mのとき、非相反左手系伝送線路アンテナとして動作し、反対方向である−z方向に平行な磁化Mのとき非相反右手系伝送線路アンテナとして動作する。
6.試作した円偏波アンテナ装置
本発明者らは、円偏波アンテナ装置を試作して実験及びシミュレーションを行った。これについて以下説明する。
図17Aは本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Fを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。また、図17Bは図17Aの一部の構成を示す拡大斜視図である。
図17Aにおいて、厚さ1.0mm、直径32.0mmのイットリウム・鉄・ガーネット(YIG)多結晶の円形状のフェライト板15が接地導体11の中央上に置かれ、さらにフェライト板15の上面の縁には、円形状を有するマイクロストリップ線路からなる右手/左手系複合線路である非相反伝送線路装置70Fを構成する。接地導体11上で、フェライト板15の外側には、厚さ0.8mmの誘電体基板10が置かれており、構造の実効誘電率が負となるよう周期的に円形状線路に挿入されるシャント枝短絡スタブ導体13は、この誘電体基板10上で形成される。ここで、各スタブ導体13はビア導体13Cを介して接地導体11に接続されて短絡される。
試作した右手/左手系複合線路である非相反伝送線路装置70Fのパラメータは以下のとおりである。フェライト板15の比誘電率はε=15、誘電体基板10としてフッ素樹脂多層基板(Nippon Pillar Packing CO.LTD.製、NPC−F260A)を使用したが、比誘電率はε=2.6であった。中央の非相反伝送線路装置70Fのマイクロストリップ線路のストリップ幅wをw=3.0mm、単位セルのサイズpをp=3.0mmとした。スタブ導体13の長さ及び幅はそれぞれ1.3mm及び1.0mmとしている。アンテナ装置を構成する際に、共振器を構成する単位セルの数を21セルとした。
次いで、図17Aの非相反伝送線路装置70Fの伝搬特性について以下に説明する。
図18は図17Aの円偏波アンテナ装置の反射特性を示すグラフである。軟磁性体であるYIGは、磁界を印加しない場合、実効磁化がほぼ0となるため、等方性の誘電体として扱うことができる。このとき、非相反伝送線路装置70Fの右手/左手系複合線路は相反性を示し、0次共振の際、線路上の電磁界分布の大きさ及び位相は共に一様となる。このとき、給電線Fで観測されるアンテナ装置の反射特性を図18に示す。なお、図18には、測定結果だけでなく、比較のためシミュレーションの数値計算結果も併記している。電磁界分布の数値シミュレーションの結果より、周波数が5.0GHzのとき、0次共振特性を示すことが確認されている。
図19は図17Aの非相反伝送線路装置70の分散特性の第1の例を示すグラフである。また、図20は図17Aの非相反伝送線路装置70の分散特性の第2の例を示すグラフである。ここで、設計及び試作した非相反伝送線路装置70の非相反右手/左手系複合伝送線路の分散特性を図19に示す。図19のシミュレーションの数値計算では、実効磁化がμMs=+95mTの場合を、実験結果としては、外部印加磁界がμHext=+110mTの場合を示している。また、図20には、図19の場合と逆方向に磁界が印加された場合として、シミュレーションの数値計算では、実効磁化がμMs=−95mTの場合を、実験結果としては、外部印加磁界がμHext=−110mTの場合の分散曲線を示している。
図21は図17Aの円偏波アンテナ装置において共振器における位置に対する電磁界の位相を示すグラフである。図21を参照して、図19において、数値計算結果として、実効磁化μMs=95mTの場合が選ばれた理由を説明する。図21には、リング状の右手/左手系複合線路である非相反伝送線路装置70Fの長手方向に沿って観測される電磁界の位相分布を示している。リング状の線路の長手方向に沿って進行波が伝搬するとき、進行波が一周したときの位相差が360度となるとき、線路から放射する電磁波は円偏波特性を示すことが知られている。図21より、実効磁化μMs=95mTの場合に、右手/左手系複合線路に沿うリング一周分の位相差がほぼ360度に相当することが確認できる。また、後に示すように、図17Aに示す共振アンテナ装置の放射特性に関する別の数値計算結果からも、線路が実効磁化μMs=95mTとなる場合に、右円偏波放射特性を示すことが確認されている。
19において、実験結果として外部印加磁界が110mTとなる場合を選んだのは、2本の分散曲線の交点付近の非相反性が、円偏波が得られる実効磁化μMs=95mTの場合とほぼ同じとなるためである。図20の場合も同様である。
次いで、図17Aの非相反伝送線路装置70Fの反射特性について以下に説明する。
図22は図17Aの円偏波アンテナ装置の反射特性の第1の例を示すグラフである。また、図23は図17Aの円偏波アンテナ装置の反射特性の第2の例を示すグラフである。
図17Aのアンテナ構造において、実効磁化μMs=95mTとした場合に、給電線Fから見た反射特性の計算結果を図22に示す。図18の磁界が印加されていない場合の0次共振が5.0GHzであるのに対して、実効磁化を与えることにより擬似進行波共振の動作周波数が5.1GHzにシフトした。実際、計算結果より得られる線路上の電磁界分布を観測することにより、振幅分布が一様で、位相勾配が一定であることが確認された。
図23には、測定結果として、外部印加磁界がμHext=−110mTの場合の反射特性を示している。この外部印加磁界の大きさは、数値計算結果の実効磁化μMs=95mTの場合の共振周波数と動作周波数が一致するように、測定中に外部印加磁界を調整した結果得られた値であるが、図19の場合と結果的に一致している。図23には、図22と逆向きに直流磁界を印加した場合の給電線からの反射特性を示す。数値計算としては、実効磁化μMs=−95mTの場合を示し、実験結果としては、外部印加磁界がμHext=−110mTの場合を示しているが、この場合も図22と同様、反射特性の測定の際に、動作周波数が数値計算とほぼ一致するよう調整した結果である。
次いで、図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性について以下に説明する。
図24A、図24B、図24C、図24Dはそれぞれ図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第1〜第4の例を示す放射パターン図である。ここで、図24A及び図24Bには、実効磁化μMs=95mTの場合、図24C及び図24Dには実効磁化μMs=−95mTの場合、図24A及び図24Cにはxz面、図24B及び図24Dにはyz面の放射パターンがそれぞれ示されている。図24A及び図24Bからわかるように、実効磁化が正の場合、ブロードサイド方向に右円偏波の放射ビームが形成され、図24C及び図24Dからわかるように、実効磁化が負の場合、ブロードサイド方向に左円偏波の放射ビームが形成されている。このように、磁化の方向を切り替えることにより、円偏波の回転方向が切り替えられることが分かる。
図25A、図25B、図25C及び図25Dはそれぞれ図17Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第5〜第8の例を示す放射パターン図である。ここで、図25A及び図25Bには、外部印加磁界μHext=110mTの場合、図25C及び図25Dには外部印加磁界μHext=−110mTの場合、図25A及び図25Cにはxz面、図25B及び図25Dにはyz面の放射パターンがそれぞれ示されている。図25A及び図25Bからわかるように、外部印加磁界が正の場合、ブロードサイド方向に右円偏波の放射ビームが形成され、図25C及び図25Dからわかるように、外部印加磁界が負の場合、ブロードサイド方向に左円偏波の放射ビームが形成されている。このように、外部印加磁界の方向を切り替えることにより、アンテナからの放射ビームは、円偏波の回転方向が切り替えられることが分かる。
7.L型円偏波アンテナ装置
図26Aは本発明の実施形態に係る、L型形状を有する非相反伝送線路装置70Gを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。また、図26Bは図26Aの一部の構成を示す拡大斜視図である。
図26Aにおいて、円偏波アンテナ装置は、有限長の非相反右手/左手系複合線路である非相反伝送線路装置70Gが中央付近で90度に折れ曲がり、その両端には長さ4分の1波長のマイクロストリップ線路が短絡用反射器R1,R2として接続されている。さらに、反射器R1には、給電線Fがインピーダンス整合の取れる箇所に直接接続されている。設計に用いた構造パラメータを以下に示す。右手/左手系複合線路である非相反伝送線路装置70Gの下に埋め込まれるフェライトロッド(図示せず)は2本あり、各ロッドの寸法は3mm×0.8mm×15mm、フェライト及び誘電体の比誘電率をそれぞれε=15及びε=2.6としている。中央の非相反伝送線路装置70Gを構成するマイクロストリップ線路のストリップ幅をw=3.0mm、単位セルのサイズをp=3.0mmとしている。周期的に挿入されているスタブ導体13の幅及び長さはそれぞれ0.67mm及び1.6mmとしている。直列枝に周期的に挿入するチップキャパシタCseの容量としてCse=0.6pFを仮定している。なお、誘電体基板10の厚さを0.8mmとしている。L型共振器を構成する際の単位セル数を10とした。
図27は図26Aの非相反伝送線路装置70Gの伝搬特性を示すグラフである。ここで、図27には、フェライト内部の実効磁化がμMs=160mTの場合の円偏波アンテナ装置を構成する非相反伝送線路装置70Gである非相反右手/左手系複合線路の伝搬特性を示す。図27から明らかなように、2本の分散曲線の交点付近で、擬似進行波共振が起こることから、アンテナの動作周波数は6.7GHz付近となる。
図28は図26Aの円偏波アンテナ装置の反射特性を示すグラフである。ここで、図28には、単位セル数が10の場合の給電線Fから見た円偏波アンテナ装置の反射特性を示す。このとき、非相反伝送線路装置70Gの右手/左手系複合線路部分において、y軸に平行な線路部分の中点と、z軸に平行な線路部分の中点との間の位相差が90度であるとき、つまり、L字形状に折れ曲がった線路の両端間で位相差が180度となるとき、共振器からの放射波は円偏波となる。図28において、複数のノッチは、共振状態に対応しており、特に、周波数6.7GHzの共振は、擬似進行波共振に相当することが電磁界分布の数値計算結果より確認されている。
図29A及び図29Bはそれぞれ図26Aの円偏波アンテナ装置の放射特性の第1及び第2の例を示す放射パターン図である。図29A及び図29Bには、周波数6.7GHzにおける円偏波アンテナ装置からの放射パターンを示す。図29Aは実効磁化がμMs=160mTの場合であり、ブロードサイド方向には、右円偏波が放射していることが分かる。図29Bは、図29Aと磁化の向きが反転しており、実効磁化μMs=−160mTの場合で、左円偏波が支配的であることがわかる。従って、実効磁化を反転させることにより、ブロードサイド方向への放射ビームは、右円偏波から左円偏波に切り替わることがわかる。
8.種々の円偏波アンテナ装置の構成例
図30は本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Hを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。なお、図30〜図36において、上述の実施形態と同様の構成要素について同一の符号を付す。図30において、円形のフェライト基板15上に半円型に非相反伝送線路装置70Hを構成した場合の擬似進行波共振器を示す。非相反伝送線路装置部分において直交する2つの電流成分の位相差が90度となれば円偏波放射となるため図30に示したように半円型の非相反伝送線路装置でも円偏波放射が可能である。
図31は本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Iを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。図31において、伝搬特性及び長さの異なる2本の伝送線路TL1,TL2をL型形状で接続して構成した円偏波アンテナ装置を示す。2種類の線路TL1,TL2からの放射電力の違いに応じて、直交する伝送線路TL1,TL2の長さの比を定め、それぞれの伝送線路TL1,TL2の中点の間の位相差が90度となるように伝送線路TL1,TL2内の各位相勾配を設定する。
図32は本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Jを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。ここで、図32には、楕円形に非相反伝送線路装置70Jを構成した場合の擬似進行波共振器の構成例を示す。非相反伝送線路装置70Jは、互いに対向する1対の直線形状の線路部分のセクションS1,S1と、互いに対向する1対の曲線形状の線路部分のセクションS2,S2とを備えて構成される。このとき、非相反伝送線路装置70Jを構成する単位セルの構造パラメータは伝送線路の長手方向に沿って一様ではなく、不均一となるが、いずれの単位セルも分散曲線の交点がほぼ同じ周波数となるように設計されている。楕円の長短軸の比は、不均一に分布させた単位セルからの放射電力の違いにより決まる。
図33は本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Kを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。図33には、図31に示した2種類の伝送線路TL1,TL2からなるL型非相反伝送線路装置70Iを2組直列に連結した構造から構成され、長方形の擬似進行波共振器からなる円偏波アンテナ装置を構成する。
図31〜図33で示したように、異なる伝搬特性をもつ非相反伝送線路装置を組み合わせることにより、円偏波アンテナ装置を構成することが可能であり、必ずしも正円形状や正方形状で構成する必要は無い。
図34は本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Lを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。図34において、円形状のフェライト基板15上にスパイラル形状で非相反伝送線路装置70Lを構成した場合の円偏波アンテナ装置を示す。
図35は本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Mを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。図35には、同心円状に伝搬特性の異なる2種類の円形非相反伝送線路装置70M1,70M2からなる擬似進行波共振器を構成した場合の円偏波アンテナ装置を示す。図35において、曲率半径の小さい内側の非相反伝送線路装置70M1と曲率半径の大きな非相反伝送線路装置70M2は、いずれも一周分の波動伝搬に対して、位相差が360度となるように、位相勾配を持つ必要がある。従って、内側の非相反伝送線路装置70M1は、外側の非相反伝送線路装置70M2に比べて位相定数が大きくなるよう設定する必要がある。
図36は本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Nを用いた円偏波アンテナ装置の構成を示す平面図である。図36には、同心円状に構成された2種類の円形非相反伝送線路装置70N1,70N2のうち、外側に設置された非相反伝送線路装置70N2には、従来通り円形線路の外側にシャント枝誘導スタブ導体13が周期的に挿入されているのに対して、内側に設置されたもう一方の非相反伝送線路装置70N1においては、シャント枝誘導スタブ導体13が円形線路の内側に挿入されている。その結果、構造の非対称性が反転するので、外部印加磁界に対する非相反性の極性が反転する結果となる。さらに、2つの円形状の非相反伝送線路装置70N1,70N2の間には、外部直流印加磁界のための金属ループが挿入されている。よく知られているように、金属ループに電流Iを流すと、右ねじの方向に磁界が発生するので、フェライト基板15に垂直に交差する磁界成分は金属ループの内側と外側で向きが反転する。このように、スタブ挿入による構造の非対称性の反転と、印加磁界の向きの反転を組み合わせることにより、金属ループの内外に設置された2種類の円形状の非相反伝送線路装置70N1,70N2において、非相反性が同じ向きに現れる結果となる。その結果、2本の円形状の非相反伝送線路装置70N1,70N2からの放射は、同じ方向に偏波回転する。
図36では、同心円状に構成された2つの円形状の非相反伝送線路装置70N1,70N2からなる擬似進行波共振器において、スタブ導体13の挿入される側が、内側円形線路の場合と外側円形線路の場合とで入れ替わっているが、この挿入する側を反対の組み合わせとしても良い。つまり、内側の円形状の非相反伝送線路装置70N1には円形線路外側にスタブ導体13を挿入し、外側の円形状の非相反伝送線路装置70N2には円形線路の内側にスタブ導体13を挿入した構造であってもよい。
9.円偏波アンテナ装置における反射器の設定条件
図37は図17Aの非相反伝送線路装置70Fを用いたリング型円偏波アンテナ装置において反射器長L_Reflを変化したときのシミュレーション結果を示す表である。すなわち、図37は、擬似進行波共振器の両側に挿入された2つの反射器R1,R2のうち、給電線Fの挿入されていない側の反射器R2の特性を変化させた場合の、擬似進行波共振の中心周波数、アンテナ放射利得、軸比及び放射効率を示したものである。各反射器R1,R2は、有限長一端開放マイクロストリップ線路で構成され、線路の長さを変えることにより、可変リアクティブ素子として動作する。線路長が0のときは、インピーダンスが無限大(アドミタンスが0)、線路長が波長に比べて十分短いときは容量性素子、長さが4分の1(線路内)波長のときはインピーダンスがほぼ0の短絡素子、4分の1波長よりも長いが2分の1波長よりも短い場合は誘導性素子として動作する。
非相反伝送線路装置70Fの分散関係から動作周波数は4.95GHzとなるが、このとき1/4(線路内)波長λgの長さは4.5mmとなる。この長さのマイクロストリップ線路からなる反射器をR2として挿入した場合、図37の表からわかるように円偏波アンテナ装置の動作周波数は5.14GHzとなった。図37より、反射器R2を構成するマイクロストリップ線路の長さが短いほど、動作周波数が高くなる傾向があることが読み取れる。つまり一方の反射器R2のリアクタンスが負の値で絶対値が大きくなるほど、共振周波数が高域側にシフトする結果となっている。この原因として考えられるのは、非相反伝送線路装置70Fの製作精度の問題がまず挙げられる。試作した共振器内の非相反伝送線路装置70Fの分散曲線において、バンドギャップがないように設計を試みているものの、実際にはバンドギャップが存在し、共振器両端の反射条件の変化により、動作点がバンドギャップ内を移動していると考えられる。バンドギャップの帯域は、両端短絡の場合の直列枝の直列共振と、両端開放の場合のシャント枝並列共振の2つの共振周波数に挟まれた周波数領域であるが、今回試作した非相反伝送線路装置70Fでは、両端短絡による直列枝直列共振周波数よりも、シャント枝の並列共振周波数の方が高いため、反射素子のリアクタンスの増加に伴い、動作周波数が増加していると考えられる。共振周波数が高域側にシフトするもう一つの要因として考えられるのは、一方の反射器の構造パラメータのみ変化させているので、0次共振条件から大きく逸脱したためと考えられる。いずれにしても、このように、反射器R2の特性の変動に伴い共振器の動作周波数は変動するが、共振器を構成する右手/左手系複合線路の製作精度により、その変動の仕方も大きく異なってくる。なお、今回試作した円偏波アンテナ装置においては、反射器長が4.5mmのとき、つまり両端短絡に最も近い場合、軸比が最も低くなり、しかも放射効率も最大となっている。
図38は図31のL型非相反伝送線路装置70Iを用いた円偏波アンテナ装置において反射器長L_Reflを変化したときのシミュレーション結果を示す表である。すなわち、図38は、擬似進行波共振器の両側に挿入された2つの反射器R1,R2のうち、給電線Fの挿入されていない側の反射器R2の特性を変化させた場合の、擬似進行波共振の中心周波数、アンテナ放射利得、軸比及び放射効率を示したものである。各反射器R1,R2は、有限長一端開放マイクロストリップ線路で構成され、線路の長さを変えることにより、可変リアクティブ素子として動作する。線路長が0のときは、インピーダンスが無限大(アドミタンスが0)、線路長が波長に比べて十分短いときは容量性素子、長さが4分の1(線路内)波長のときはインピーダンスがほぼ0の短絡素子、4分の1波長よりも長いが2分の1波長よりも短い場合は誘導性素子として動作する。
非相反伝送線路装置70Iの分散関係から動作周波数は5.8GHzとなるが、このとき1/4(線路内)波長λgの長さは8.5mmとなる。この長さのマイクロストリップ線路からなる反射器R1,R2を挿入した場合、図38の表からわかるように円偏波アンテナ装置の動作周波数は6.02GHzとなった。図38より、反射器R2を構成するマイクロストリップ線路の長さが短いほど、動作周波数が高くなる傾向があることが読み取れる。つまり一方の反射器R2のリアクタンスが負の値で絶対値が大きくなるほど、共振周波数が高域側にシフトする結果となっている。この原因として考えられるのは、非相反伝送線路装置70Fの製作精度の問題がまず挙げられる。試作した共振器内の非相反伝送線路装置70Fの分散曲線において、バンドギャップがないように設計を試みているものの、実際にはバンドギャップが存在し、共振器両端の反射条件の変化により、動作点がバンドギャップ内を移動していると考えられる。バンドギャップの帯域は、両端短絡の場合の直列枝の直列共振と、両端開放の場合のシャント枝並列共振の2つの共振周波数に挟まれた周波数領域であるが、今回試作した非相反伝送線路装置70Iでは、両端短絡による直列枝直列共振周波数よりも、シャント枝の並列共振周波数の方が高いため、反射素子のリアクタンスの増加に伴い、動作周波数が増加していると考えられる。共振周波数が高域側にシフトするもう一つの要因として考えられるのは、一方の共振器の構造パラメータのみ変化させているので、0次共振条件から大きく逸脱したためと考えられる。いずれにしても、このように、反射器R1,R2の特性の変動に伴い共振器の動作周波数は変動するが、共振器を構成する右手/左手系複合線路の製作精度により、その変動の仕方も大きく異なってくる。なお、今回試作した円偏波アンテナ装置においては、反射器長が8.5mmのとき、つまり両端短絡に最も近い場合、放射効率が最も高くなっているが,その付近で利得が最も高くなるのは、反射器長が7.5mmの場合であり、軸比が最も低くなるのは反射器張が9.5mmの場合となった。
10.実施形態のまとめ
以上説明したように、本実施形態によれば、非相反伝送線路装置70E〜70Nにより構成される擬似進行波共振器の動作周波数は共振器を構成する非相反伝送線路装置70E〜70Nの分散特性から推定できる。そこで、この推定される周波数を中心に設計構造の共振特性を調べた。その結果、推定される周波数の近傍で、所望の電磁界分布を示す共振状態が得られた。そのときに数値計算により得られた磁界ベクトルの分布を図16Aに示す。非相反伝送線路装置70E〜70Nからの、放射は打ち消し合うことなく、単方向に強め合う結果、円偏波特性を示すことが確認された。
本実施形態に係る擬似循環波の円偏波アンテナ装置は、当該アンテナ装置がコンパクトで軽量に形成できるので円偏波アンテナの適用領域を大いに広げることができ、動的に切り替えることができる偏波回転を所定の方向に拘束されない。例えば、当該アンテナ装置の概念は、通信リンクの高い信頼性を提供する急速に変化する環境条件を有するモバイル用途に使用することができる。同様のことは、要求に応じてLHCPビームとRHCPビームを切り替える利用可能性があり、小さいレーダー断面、異常な電磁表面コーティングを有する物体、もしくは複雑な環境での物体の検出を容易にすることができるレーダーのアプリケーションについても利用可能性がある。
本発明によれば、円偏波の電磁波を放射することができる円偏波アンテナ装置のための非相反伝送線路装置及び、従来技術に比較してコンパクトで軽量な円偏波アンテナ装置を提供することができる。
10…誘電体基板、
11…接地導体、
12…ストリップ導体、
13…スタブ導体、
13C…ビア導体、
15…フェライト板、
60A〜60D…単位セル、
61,62…伝送線路部分、
70A〜70N,70M1,70M2,70N1,70N2…非相反伝送線路装置、
80…外部磁界発生器、
C,C1,C2,C60,Cse…キャパシタ、
F…給電線、
L,L1〜L6…インダクタンス、
P1,P2,P11,P12…ポート、
R1,R2…反射器、
S1〜S12…セクション、
TL1,TL2…伝送線路。

Claims (5)

  1. マイクロ波の伝送線路部分と、容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、上記伝送線路部分からそれぞれ分岐して設けられかつ誘導性素子を等価的に含む並列枝の回路とを有する複数個の単位セルを縦続接続して構成され、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反伝送線路装置を含む円偏波アンテナ装置であって、
    上記非相反伝送線路装置は、当該非相反伝送線路装置の両端のそれぞれに信号を反射する第1及び第2の反射器を備え、
    上記非相反伝送線路装置は非線形形状で形成されるとともに、上記マイクロ波の伝搬方向に対して異なる方向に磁化され、
    (A)上記複数の単位セルを一巻きリング形状で配置し、上記非相反伝送線路装置の中心部を挟んで互いに対向する位置にある各1対の線路部分間の位相差が実質的に180度であることと、
    (B)上記複数の単位セルを複数回巻きのスパイラル形状で配置し、上記非相反伝送線路装置の互いに同じ側にありかつ互いに隣接する位置にある各1対の線路部分間の位相差が実質的に0度であることと、
    (C)上記複数の単位セルを半円形状で配置し、上記半円形状の中心部を挟んで、上記非相反伝送線路装置の直交する位置にある1対の線路部分間の位相差が実質的に90度であることと
    の少なくともいずれか1つであり、
    右旋円偏波又は左旋円偏波の電磁波を放射することを特徴とする円偏波アンテナ装置。
  2. 上記非相反伝送線路装置は擬似進行波共振器を構成し、
    上記擬似進行波共振器は、所定の第1の方向に電流を流し、上記第1の方向に偏波した電磁波を放射する第1の線路部分と、上記第1の線路部分に流れる電流に対して実質的に直交する垂直方向である第2の方向に電流を流し、上記第2の方向に偏波していて、しかも、上記第1の線路部分よりも位相が90度進み、もしくは遅れる電磁波を放射する第2の線路部分を含むことを特徴とする請求項1記載の円偏波アンテナ装置。
  3. 上記磁化の方向を互いに逆方向に切り替えることにより、右旋円偏波又は左旋円偏波の電磁波を放射することを特徴とする請求項1又は2記載の円偏波アンテナ装置。
  4. 上記1対の線路部分の位相勾配を、
    (a)上記伝送線路部分、上記直列枝の回路及び上記並列枝の回路を含む回路の数と、
    (b)上記磁化の大きさと、
    (c)上記並列枝の回路の電気長と
    のうちの少なくとも1つを変化させて調整することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の円偏波アンテナ装置。
  5. 上記第1及び第2の反射器はそれぞれ、
    (1)インピーダンスが0、もしくは所定値以下の値を有するインピーダンスである第1の設定条件と、
    (2)アドミタンスが0、もしくは所定値以下の値を有するアドミタンスである第2の設定条件と、
    (3)互いに複素共役の関係を有するリアクタンス素子を有する第3の設定条件と
    のうちの1つの設定条件を満たすように構成されたことを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の円偏波アンテナ装置。
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