JP6434702B2 - H形鋼梁と通しダイアフラムの溶接接合構造 - Google Patents
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Description
ここで、前記通しダイアフラムは、柱、梁よりも早期に塑性化しないように、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合をする必要がある。前記通しダイアフラムは、柱、梁の設計基準強度と同等かそれ以上の設計基準強度が必要であると、指針書(例えば下記非特許文献1、2を参照)に示されている。
また、ラーメン骨組による鉄骨構造において、建物の居住空間を広くするには、柱間隔を大きくすることが好ましい。そのためには梁の設計基準強度を大きくすることが考えられ、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合をする必要があり、これに伴い通しダイアフラムの設計基準強度も大きくする必要がある。
また、通しダイアフラムとして使用される圧延鋼板の強度区分が520N/mm2級超、つまり、設計基準強度が355N/mm2〜365N/mm2超になると、低温割れ防止の観点から予熱を行う必要がある。前記予熱の目安温度は、「鉄骨工事技術指針」等で気温が5度と示されている。気温が5度未満であれば、予熱して溶接施工する必要がある。そのため通しダイアフラムの設計基準強度が355N/mm2〜365N/mm2超の圧延鋼材を使用すると、気温が5度を下回る場合が多い寒冷地では、予熱処理が施工手間となり、溶接施工コストが割高となる。
また、H形鋼梁と通しダイアフラムとを溶接接合する際に、溶接材料の強度は、H形鋼梁または通しダイアフラムの強度のうち大きい方の強度以上とする必要がある。そのため通しダイアフラムの強度が高いと、必然的に強度の大きい溶接材料を使用することになり、コストが高くなるうえに、種類も限定されて使い勝手が悪い。
具体的には、図5中のA欄で示した従来のH形鋼と通しダイアフラムの組み合わせにおいて、H形鋼の強度区分が490N/mm2級、基準強度が345N/mm2の場合、通しダイアフラムの強度区分は520N/mm2級(又は550N/mm2級)、基準強度は355N/mm2(又は385N/mm2)となる。そうすると、この基準に対応可能な鉄骨製作工場のグレードは「H」「S」(又は「S」)のみで、工場数は316(又は22)となり、生産量がかなり制限される。つまり、通しダイアフラムの設計基準強度をH形鋼の設計基準強度よりも低く設定できれば、対応可能なグレードが多くなり、鉄骨製作工場の工場数が増えるから生産性が高まる。
しかし、この指針書に記載された基準は、法律で決められた基準ではなく、あくまで構造物の健全性を考慮した場合、設計上好ましい基準値として設けられた内容に過ぎない。
つまり、通しダイアフラムの設計基準強度をH形鋼の設計基準強度よりも低く設定しても、前記指針書で示された効果と同等の効果を得ることができれば、前記指針書の内容と異なる基準で設計した構造であっても特に問題ないことになる。
前記H形鋼梁の設計基準強度を326N/mm2〜346N/mm2の範囲とし、前記通しダイアフラムの設計基準強度を325N/mm2〜345N/mm2 の範囲として、前記H形鋼梁の設計基準強度と通しダイアフラムの設計基準強度の比(通しダイアフラムの設計基準強度/H形鋼梁の設計基準強度)が0.942〜0.997の範囲とされ、
および、前記H形鋼梁フランジと通しダイアフラムの板厚比(通しダイアフラムの板厚dt/H形鋼梁のフランジの板厚ft)が1.25以上で溶接接合されていることを特徴とする。
(イ)H形鋼梁の設計基準強度を326N/mm2〜346N/mm2の範囲とし、前記通しダイアフラムの設計基準強度が325N/mm2〜345N/mm2の範囲として、
(ロ)前記H形鋼梁の設計基準強度と通しダイアフラムの設計基準強度の比(通しダイアフラムの設計基準強度/H形鋼梁の設計基準強度)が0.942〜0.997の範囲とされ、
(ハ)更に、H形鋼梁フランジと通しダイアフラムの板厚比(通しダイアフラムの板厚dt/H形鋼梁フランジの板厚ft)が1.25以上で溶接接合する構成としたから、
通しダイアフラムが、H形鋼梁の設計基準強度よりも低い設計基準強度の圧延鋼材で構成されるので、材料コストを大幅に削減できるし、溶接接合部が、H形鋼梁及び通しダイアフラムよりも先に壊れてしまう不都合が生じない。
また、通しダイアフラムの設計基準強度は、325N/mm2〜345N/mm2の範囲であるから、寒冷地であっても予熱をする必要がなく、予熱処理の手間が省けるため、施工性が非常に良く、溶接コストを削減することができる。
更に、上記の設計基準強度の範囲で成る圧延鋼材を用い加工できる鉄骨製作工場のグレード(R、M、H、またはS)が増え、工場数が大幅に増加するので、生産性が非常に高まる。
具体的には、H形鋼梁の設計基準強度を326N/mm2〜346N/mm2の範囲とし、通しダイアフラムの設計基準強度が325N/mm2〜345N/mm2の範囲として、H形鋼梁の設計基準強度と通しダイアフラムの設計基準強度の比(通しダイアフラムの設計基準強度/H形鋼梁の設計基準強度)が0.942〜0.997の範囲とする。H形鋼梁フランジと通しダイアフラムの板厚比(通しダイアフラムの板厚dt/H形鋼梁フランジの板厚ft)を1.25以上とする。
先ず、図1は、柱梁鉄骨構造の枢要部を示している。H形鋼梁1(H形鋼梁フランジ1a)に溶接接合された通しダイアフラム2へ、角形鋼管で成る柱材4が溶接接合されている。
次に、図2と図3は、H形鋼梁1(H形鋼梁フランジ1a)と通しダイアフラム2の溶接接合部3を示している。図3中の符号30は溶接材料、符号31は裏当て金である。なお、溶接ボンド部の設計基準強度は、通しダイアフラム2の設計基準強度と同じである。
上記「背景技術」及び「発明が解決しようとする課題」の欄で既に述べたように、通例、通しダイアフラム2は、図4中の「従来の組合せ」欄で示したように、H形鋼梁1以上の設計基準強度の圧延鋼材で構成される。つまり、H形鋼梁1の設計基準強度と通しダイアフラム2の設計基準強度の比(通しダイアフラム2の設計基準強度/H形鋼梁1の設計基準強度)が1.0以上となる構成とされている。前記通しダイアフラム2の設計基準強度がH形鋼梁1の設計基準強度よりも低いと、該通しダイアフラム2が先行して塑性変形してしまい、その後は当該箇所だけが変形してしまうからである。
これに対し、本発明に係るH形鋼梁1と通しダイアフラム2の溶接接合構造は、上記の発想を逆転させた構成である。
そして、図3に示すように、前記H形鋼梁フランジ1aと通しダイアフラム2の板厚比(通しダイアフラム2の板厚dt/H形鋼梁フランジ1aの板厚ft)を1.25以上(本実施例では、1.25)とする。H形鋼梁フランジ1の板厚ftが、通しダイアフラム2の板厚dtよりも厚いと、通しダイアフラム2が、同H形鋼梁1よりも先に壊れてしまう不都合が生じるからである。因みに、本発明では、H形鋼梁1と比し、通しダイアフラム2の設計基準強度をより低く設定しているため、通しダイアフラム2のせん断耐力も低下する。そのため、H形鋼梁フランジ1aの板厚ftを通しダイアフラム2の板厚dtより薄くすることで、通しダイアフラム2のせん断耐力を向上させている。
数式<1>と数式<2>の比を数式<3>に示す。数式<3>の値が接合部係数α(例えば、1.20)以上であれば、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足(構造物の健全性を維持)しているということである。
fMp =fZp×fσy ・・・<1>
dMu =dZp×dσt ・・・<2>
ただし、前記fMp、dMu は次式<3>を満足するものとする。
dMu≧α・fMp ・・・<3>
ここで、
前記fZpの算出は、ftおよびfHを使用する。
前記dZpの算出は、(ft+1/4ft)および(fH+2×1/4×ft)を使用する。
fMp :H形鋼の全塑性曲げ耐力
dMu :H形鋼−通しダイアフラム溶接接合部の最大曲げ耐力
fZp :H形鋼の塑性断面係数
dZp :H形鋼−通しダイアフラム溶接接合部の塑性断面係数
fH :H形鋼せい
ft :H形鋼梁フランジ板厚
fσy:H形鋼の設計基準強度
dσt:通しダイアフラムの引張強さ
α :接合部係数(1.20)
(1)H形鋼1の数値について
H形鋼せい(fH)は400mm、H形鋼幅は200mmである。
H形鋼梁フランジ板厚(ft)は13mmである。
前記H形鋼せい(fH)、H形鋼幅、及びH形鋼梁フランジ板厚(ft)から求められるH形鋼の塑性断面係数(fZp)は1,286cm3である。
H形鋼の設計基準強度(fσy)は345N/mm2である。
前記数値を上記数式<1>へ代入すると、全塑性曲げ耐力(fMp)=塑性断面係数(fZp)×設計基準強度(fσy)=1,286cm3×345N/mm2= 443,670kN・mmとなる。
(2)通しダイアフラムの数値について
溶接接合部せい(fH+2×1/4×ft)は406.5mmである。溶接接合部幅はH形鋼幅と同じ200mmである。
H形鋼梁フランジ板厚(ft)と溶接の余盛り(1/4×ft)の和である溶接接合部の寸法dS(図3参照)は、16.25mmである。
前記溶接接合部せい、溶接接合部幅、及び溶接接合部の寸法(dS)から求められるH形鋼の塑性断面係数(dZp)は1,556cm3である。
通しダイアフラムの引張強さ(dσt)は490N/mm2(設計基準強度は図5より、H形鋼より小さい325N/mm2)である。
前記数値を上記数式<2>へ代入すると、最大曲げ耐力(dMu)=H形鋼の塑性断面係数(dZp)×通しダイアフラムの引張強さ(dσt)=1,556cm3×490N/mm2= 762,440kN・mmとなる。
(3)全塑性曲げ耐力(fMp)と最大曲げ耐力(dMu)を上記数式<3>へ代入
前記(1)と(2)で求めた全塑性曲げ耐力(fMp)と最大曲げ耐力(dMu)により、dMu/fMp=762,440kN・mm/443,670kN・mm = 1.718>1.20(α)となる。
また、H形鋼梁フランジ1aと通しダイアフラム2の溶接接合部における板厚比(溶接接合部の寸法dS/H形鋼梁フランジの板厚ft)は、16.25mm/13mm=1.25となる。
したがって、上記H形鋼梁1(H形鋼梁フランジ1a)及び通しダイアフラム2の数値は、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足しているので、構造物の健全性を維持できる範囲といえる。
同様に、上記した手法に倣い、図4中の「本発明の組合せ」欄の上から1行目の場合について、保有耐力接合を満足(構造物の健全性を維持)しているか否かについて検討する。具体的には、前記fσyが326N/mm 2 で、前記dσtが490N/mm 2 (設計基準強度は325N/mm 2 )で、前記比(通しダイアフラム2の設計基準強度/H形鋼梁1の設計基準強度)が325/326≒0.997のときを検討する。
(1)H形鋼1の数値について
H形鋼せい(fH)は400mm、H形鋼幅は200mmである。
H形鋼梁フランジ板厚(ft)は13mmである。
前記H形鋼せい(fH)、H形鋼幅、及びH形鋼梁フランジ板厚(ft)から求められるH形鋼の塑性断面係数(fZp)は1,286cm3である。
H形鋼の設計基準強度(fσy)は326N/mm2である。
前記数値を上記数式<1>へ代入すると、全塑性曲げ耐力(fMp)=塑性断面係数(fZp)×設計基準強度(fσy)=1,286cm3×326N/mm2= 419,236kN・mmとなる。
(2)通しダイアフラムの数値について
溶接接合部せい(fH+2×1/4×ft)は406.5mmである。溶接接合部幅はH形鋼幅と同じ200mmである。
H形鋼梁フランジ板厚(ft)と溶接の余盛り(1/4×ft)の和である溶接接合部の寸法dS(図3参照)は、16.25mmである。
前記溶接接合部せい、溶接接合部幅、及び溶接接合部の寸法(dS)から求められるH形鋼の塑性断面係数(dZp)は1,556cm3である。
通しダイアフラムの引張強さ(dσt)は490N/mm2(設計基準強度は図5より、H形鋼より小さい325N/mm2)である。
前記数値を上記数式<2>へ代入すると、最大曲げ耐力(dMu)=H形鋼の塑性断面係数(dZp)×通しダイアフラムの引張強さ(dσt)=1,556cm3×490N/mm2= 762,440kN・mmとなる。
(3)全塑性曲げ耐力(fMp)と最大曲げ耐力(dMu)を上記数式<3>へ代入
前記(1)と(2)で求めた全塑性曲げ耐力(fMp)と最大曲げ耐力(dMu)により、dMu/fMp=762,440kN・mm/419,236kN・mm = 1.819>1.20(α)となる。
また、H形鋼梁フランジ1aと通しダイアフラム2の溶接接合部における板厚比(溶接接合部の寸法dS/H形鋼梁フランジの板厚ft)は、16.25mm/13mm=1.25となる。
したがって、上記H形鋼梁1(H形鋼梁フランジ1a)及び通しダイアフラム2の数値は、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足しているので、構造物の健全性を維持できる範囲といえる。
同様に、上記した手法に倣い、図4中の「本発明の組合せ」欄の上から3行目の場合について、保有耐力接合を満足(構造物の健全性を維持)しているか否かについて検討する。具体的には、前記fσyが346N/mm 2 で、前記dσtが490N/mm 2 (設計基準強度は345N/mm 2 )で、前記比(通しダイアフラム2の設計基準強度/H形鋼梁1の設計基準強度)が345/346≒0.997のときを検討する。
(1)H形鋼1の数値について
H形鋼せい(fH)は400mm、H形鋼幅は200mmである。
H形鋼梁フランジ板厚(ft)は13mmである。
前記H形鋼せい(fH)、H形鋼幅、及びH形鋼梁フランジ板厚(ft)から求められるH形鋼の塑性断面係数(fZp)は1,286cm3である。
H形鋼の設計基準強度(fσy)は346N/mm2である。
前記数値を上記数式<1>へ代入すると、全塑性曲げ耐力(fMp)=塑性断面係数(fZp)×設計基準強度(fσy)=1,286cm3×346N/mm2= 444,956kN・mmとなる。
(2)通しダイアフラムの数値について
溶接接合部せい(fH+2×1/4×ft)は406.5mmである。溶接接合部幅はH形鋼幅と同じ200mmである。
H形鋼梁フランジ板厚(ft)と溶接の余盛り(1/4×ft)の和である溶接接合部の寸法dS(図3参照)は、16.25mmである。
前記溶接接合部せい、溶接接合部幅、及び溶接接合部の寸法(dS)から求められるH形鋼の塑性断面係数(dZp)は1,556cm3である。
通しダイアフラムの引張強さ(dσt)は490N/mm2(設計基準強度は図5より、H形鋼より小さい345N/mm2)である。
前記数値を上記数式<2>へ代入すると、最大曲げ耐力(dMu)=H形鋼の塑性断面係数(dZp)×通しダイアフラムの引張強さ(dσt)=1,556cm3×490N/mm2= 762,440kN・mmとなる。
(3)全塑性曲げ耐力(fMp)と最大曲げ耐力(dMu)を上記数式<3>へ代入
前記(1)と(2)で求めた全塑性曲げ耐力(fMp)と最大曲げ耐力(dMu)により、dMu/fMp=762,440kN・mm/444,956kN・mm = 1.716>1.20(α)となる。
また、H形鋼梁フランジ1aと通しダイアフラム2の溶接接合部における板厚比(溶接接合部の寸法dS/H形鋼梁フランジの板厚ft)は、16.25mm/13mm=1.25となる。
したがって、上記H形鋼梁1(H形鋼梁フランジ1a)及び通しダイアフラム2の数値は、柱及び梁の設計耐力よりも一定以上の設計耐力を有する保有耐力接合を満足しているので、構造物の健全性を維持できる範囲といえる。
上記のとおり、本発明に係るH形鋼梁1と通しダイアフラム2の溶接接合構造は、通しダイアフラム2をH形鋼梁1の設計基準強度よりも低い設計基準強度の圧延鋼材で構成するので、一般的な強度の材料を使用することができ、材料コストを削減することができる。
また、溶接材料の強度はH形鋼梁1または通しダイアフラム2の強度のうち、高い方の強度以上とする必要があるが、H形鋼梁1の設計基準強度よりも低い設計基準強度の圧延鋼材で構成することで、溶接材料の強度を低く設計することができるから、溶接材料の種類は限定されないし、溶接コストも削減できる。
また、通しダイアフラム2の設計基準強度は、325N/mm2〜345N/mm2の範囲であるから、寒冷地であっても予熱をする必要がない。つまり、その溶接手間を省くことができるから、施工性が非常に良く、溶接コストを削減することができる。
1a H形鋼梁フランジ
2 通しダイアフラム
3 溶接接合部
4 柱材(角形鋼管)
Claims (1)
- H形鋼梁と通しダイアフラムの溶接接合構造において、
前記H形鋼梁の設計基準強度を326N/mm2〜346N/mm2の範囲とし、前記通しダイアフラムの設計基準強度を325N/mm2〜345N/mm2 の範囲として、前記H形鋼梁の設計基準強度と通しダイアフラムの設計基準強度の比(通しダイアフラムの設計基準強度/H形鋼梁の設計基準強度)が0.942〜0.997の範囲とされ、
および、前記H形鋼梁フランジと通しダイアフラムの板厚比(通しダイアフラムの板厚/H形鋼梁のフランジの板厚)が1.25以上で溶接接合されていることを特徴とする、H形鋼梁と通しダイアフラムとの溶接接合構造。
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