JP3711495B2 - 鋼管柱とダイアフラムの接合構造 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、建築、土木分野における構造部材、及びその他の分野を含めた鋼管柱とダイアフラムの接合構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼材同士を接合する方法としては、ボルト接合や溶接接合が主流であり、特に溶接接合は、溶接ロボットの普及などもあって製品を工場で製作する場合には多用されている。しかしながら、溶接による入熱によって、過熱粗粒域、溶融線の靱性が大幅に劣化するという問題があった。
【0003】
このような問題に対して、鋼材にTiなどを添加して高温まで安定に存在するTiNを均一に分散して含有させ、この作用によって溶接施工した溶接接合部の溶融線(以下、BONDという)付近のオーステナイト粒の成長を阻止して、靱性の高い細かい組織を得るという技術が知られているが、Tiなどの元素の添加は鋼材コストに大きく影響してしまうため、これまで積極的に用いられなかった。
【0004】
一方、冷間成形角形鋼管(以下、プレスコラムという)は、溶接によって組立ていく溶接四面ボックス柱とほぼ同じ断面性能を有しつつ、低コストで済むという特色をもった材料である。また、H形鋼柱に対しては、優れた断面性能を得ることができるため、近年の中低層建築の柱には、このプレスコラムが多用されてきた。なお、ここでいうプレスコラムの強度(引張強さ)は、400N/mm2級、490N/mm2級のものを指している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のようにプレスコラムは、中低層建築用柱材として普及している材料であるが、従来の溶接技術をプレスコラム柱とダイヤフラムの溶接部に適用した場合には、次のような問題があった。
開先をとって溶接した部分において、開先部にほぼ平行に生成される溶接熱影響部(以下、HAZという)や溶融線に沿って亀裂が伝播するという、溶接部付近のディテールに支配される要因については、従来技術で示した鋼材にTiなどの元素を添加することによる材質改善だけでは十分な効果を期待することができない場合があった。また、このような元素添加による材質改善は、大幅なコスト増を招く要因となっていた。
【0006】
次に、コスト以外の面からみた場合、柱とダイヤフラムとの接合部においては、引張応力に加えて曲げ応力も大きいため、溶接部において強度や靱性が小さい部分を亀裂が伝播していくという、前述の問題が顕著に現われてくることになる。特に、柱にプレスコラムを用いる場合には、さらに断面内でも応力集中が大きく、かつ、成形前の鋼板に対して靱性が低下している角部についての安全性が問題となっていた。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、材料コストを含めた製造コストを低減し、部材全体の靱性を向上させることのできる信頼性の高い鋼管柱とダイヤフラムの接合構造を提供することを目的としたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明に係る鋼管柱とダイアフラムの接合構造は、少なくとも一方の端部に開先加工が施された、原鋼板の引張強さの規格値が590N/mm2級未満で全断面における0℃衝撃吸収エネルギーが70J以上の角形鋼管の前記端部にダイアフラムが溶接接合された接合構造であって、
前記角形鋼管の端部の角部と前記ダイアフラムとの溶接継手部の化粧盛溶接が、角形鋼管に設けた開先に施された突合せ溶接部に連続して該角形鋼管の表面側から材軸方向に5mm以上で、かつ第1の溶接ビートの止端から該第1の溶接ピードの上に重ね溶接された第2の溶接ピードの止端までの距離が15mm以下としたものである。
【0010】
(2)上記(1)の鋼管柱とダイアフラムの接合構造における化粧盛溶接のパス間温度を300℃以下、入熱を40KJ/cm以下の溶接とした。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)のいずれかの鋼管柱とダイアフラムの接合構造における角形鋼管に、冷間成形角形鋼管を用いた。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの鋼管柱とダイアフラムの接合構造における角形鋼管に代えて、円形鋼管を用いた。
【0012】
【発明の実施の形態】
前述のような課題を解決するために、本発明の発明者らは、柱を構成する鋼材の溶接部における靱性改善技術である強度を期待した化粧盛溶接について試験、研究を重ね、その結果を特願2001−301383号として特許出願した。この発明により、安価な方法で溶接部の信頼性を向上することが可能になった。そして、その後も試験、研究を続けた結果、この化粧盛溶接による溶接部の靱性改善効果は、鋼管柱の母材(鋼管柱の成形前の鋼板で、以下、原鋼板という)の特性によって異なることがわかった。
【0013】
原鋼板が引張強さ590N/mm2級以上の鋼管柱の場合は、既存の普通鋼からなる鋼管柱に比べて高品質の場合が多く、靱性(0℃における衝撃吸収エネルギー:以下vE0という)も高いのが一般的である。そのため、化粧盛溶接を行っても靱性改善効果は大きくなく、通常溶接でも十分な靱性が得られることがわかった。
【0014】
一方、原鋼板の引張強さが590N/mm2級未満の鋼管柱の場合は、590N/mm2級鋼板ほど高品質の仕様になっていないのが一般的であるため、通常溶接では溶接部の靱性がさらに低下してしまい、そのままでは溶接継手部に求められる性能としては不十分であった。
これに対して、590N/mm2級未満の鋼管柱があっても原鋼板が一定の靱性を有している鋼管柱の場合は、化粧盛溶接による改善効果が大きく現われている。この場合、鋼管柱の価格も590N/mm2級の鋼管柱に比べて低く、化粧盛溶接の工程が増加することによるコスト増を考慮しても、トータルとして低コストになるため、経済的である。
【0015】
以上の試験、研究に基づいて、発明者らは、引張強さ590N/mm2級未満である程度の靱性を有する原鋼板からなる鋼管柱にダイアフラムを溶接接合するにあたり、溶接部に化粧盛溶接を施した場合に、最も経済的となる臨界点があるという知見を得た。以下、これについて詳細に説明する。
【0016】
図2は本発明を説明するための鋼管柱と通しダイアフラムとの接合の一例を示す説明図で、1は引張強さ590N/mm2級未満の原鋼板を成形加工したプレスコラムを、ある長さに切断した柱材1a,1b,…からなる角形鋼管、10は柱材1a,1b,…の間に設置され、溶接により柱材1a,1b…に接合された通しダイアフラムである。11は通しダイアフラム10に接合されるH形断面の梁である。
【0017】
図1は図2の鋼管柱1(具体的には、柱材1a,1b…であるので、以下の説明では柱材1と記す)と通しダイアフラム10との接合部の断面説明図である。図において、1は柱材、10は通しダイアフラム、2は柱材1に設けた開先である。20は鋼材の強度に見合う溶接ワイヤによる突合せにより開先2に溶け込んだ溶接金属、30は溶接金属20の柱材1側に、多層(多パス)溶接された化粧盛溶接である。
aは開先2を有する柱材1の表面側の開先端Kから材軸方向に最も離れた位置にある化粧盛溶接30の第1の溶接ビード31の止端までの距離、bは化粧盛溶接30の第1の溶接ビード31の止端から、第1の溶接ビード31の上に重ねて溶接された第2の溶接ビード32の止端までの距離である。
【0018】
周知のように、溶接にはビードが1つである単層ビード溶接と、ビードが複数となる多層(多パス)溶接とがあるが、厚板の溶接では、一般に、ビード厚さより板厚の方が大きいため、多層溶接とする場合が多く、本発明における化粧盛溶接も多層溶接を採用している。この多層溶接を行う場合、下方よりビードを盛り上げていくことになるが、前パスの溶接を行ったのち、次のパスの溶接を行う直前の鋼板の温度のことを、パス間温度という。
【0019】
パス間温度が高温のまま次のパス溶接を行うと、パス間温度が下るまでの待ち時間がないため作業能率は向上するが、溶接したあとの溶接金属の強度が低くなる等の問題が生じる。それに対して、パス間温度が低温になるまで待てば、溶接金属の性能は確保できるが、作業能力が低下する。
【0020】
電流、電圧、溶接速度で決まる鋼板に入る熱量、すなわち入熱は、次式で与えられる。
入熱=60×E×I/v(KJ/cm)
但し、E:電圧(V)
I:電流(A)
v:溶接速度(cm/min)
上式から明らかなように、電圧、電流を上げると入熱は大きくなるが、入熱が大きすぎると溶接金属の性能が低下する。また、溶接速度を上げるとビードの断面積が小さくなり全体のパス数が増加するため、全体の作業時間が増大する。
【0021】
次に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
化粧盛溶接の効果を確認するために製作した試験体から、図3に示すように、表層より1mm下にシャルピー衝撃試験片の表面がくるような試験体を採用した。なお、シャルピー衝撃試験片のノッチC(切欠き)は、BOND位置に入れた表面ノッチとし、それぞれ3個のシャルピー試験片40を採取した。
【0022】
先ず、化粧盛溶接による靱性改善効果について、溶接される原鋼板の靱性と、溶接継手部の化粧盛との関係を明らかにするために、溶接する鋼板のvE0(0℃における衝撃吸収エネルギー)をパラメータとする試験体を製作した。試験体に用いた鋼板のvE0は、45J、70J、150J及び300Jの4種類であり、それぞれの鋼板について、開先端から溶接ビードの止端までの距離aが、2mm、5mm、10mm、15mmとなるようにし、合計16体の試験体を製作した。なお、このとき用いた溶接ワイヤは490N/mm2級で、溶接条件は、入熱40KJ/cm以下、パス間温度を250℃以下とした。
上記の試験体を用いて溶接継手部のvE0を試験した結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
図4は表1の試験結果を、縦軸にvE0、横軸に開先端からビード止端までの距離aをとって、4種類の各試験体について両者の関係を表わしたものである。図4において、a≧5mmのものが「化粧盛あり」に該当し、vE0≧70Jから化粧盛距離aが増大してもvE0の低下がないことを示している。
【0025】
図5は、上記のvE0=70J、a=5mmの値を1.0としたとき、横軸に化粧盛溶接の距離aをとり、縦軸に各点におけるvE0の比率を表わしたもので、化粧盛溶接の距離aに対して、縦軸で1.0を下回るものは化粧盛溶接の効果がないことを表している。
図5から、vE0が70Jの鋼板の場合は、化粧盛溶接によって溶接継手部の靱性が向上し、それが距離aの増大によって低下することはないが、vE0が45Jの鋼板の場合には、距離aの増大に伴い溶接継手部の靱性が低下していることがわかる。
以上の結果から、化粧盛溶接による溶接継手部の靱性改善効果を得るためには、鋼板のvE0が70J以上であることが必要であることが確認された。
【0026】
[実施例2]
実施例1において、1つの溶接条件のもとで、化粧盛溶接が効果を発揮するためには、鋼板のvE0が70J以上必要であることが明らかになった。実施例2においては、鋼板のvE0が70Jの場合において、パス間温度を変化させたときの溶接継手部のvE0と、化粧盛溶接の距離aとの関係について試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
図6は表2に示す試験の結果を、縦軸に溶接継手部のvE0を、横軸に化粧盛溶接の距離aをとって表わしたもので、パス間温度が250℃及び300℃の場合は、距離aが増大してもvE0の低下はないが、パス間温度が350℃の場合は、距離aの増大に伴ってvE0が低下することがわかった。なお、本試験においては、溶接入熱を40KJ/cmとした。
【0029】
また、図7は実施例2の試験結果をよりわかり易くするために、パス間温度=300℃、化粧盛溶接の距離a=5mmの場合を1.0とし、横軸に距離aをとり、縦軸に各点における溶接継手部のvE0の比率を表わしたものである。図から明らかなように、パス間温度が300℃以下の場合は、距離aの増大によって溶接継手部の靱性が改善されており、これに対して、パス間温度が350℃の場合には、距離aの増大に伴って溶接継手部の靱性が低下していることがわかる。以上の結果から、化粧盛溶接による靱性改善効果を得るためには、パス間温度が300℃以下で溶接施工することが必要であることが確認された。
【0030】
[実施例3]
次に、パス間温度を一定にしたときの、化粧盛溶接による靱性改善効果が得られる溶接入熱の制限値について検討した。このため、パス間温度を300℃に固定し、溶接入熱を30KJ/cm、35KJ/cm、40KJ/cm、45KJ/cmとした場合の、溶接継手部のvE0と、化粧盛溶接の距離aとの関係について試験を行った結果を、表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
図8は表3に示す試験結果を、縦軸に溶接継手部のvE0、横軸に化粧盛溶接の距離aを表わしたものであり、入熱が40KJ/cm以下の場合は、距離aが増大してもvE0は高く大きな変化はないが、入熱が45KJ/cmの場合は、vE0は低く距離aが増大するとさらに低下することがわかる。
【0033】
図9は実施例3の試験結果をよりわかり易くするために、溶接入熱40KJ/cmで化粧盛溶接の距離a=5mmの場合の溶接継手部のvE0を1.0とし、横軸に距離aをとり、縦軸に各点における溶接継手部のvE0の比率を表わしたものである。
図から明らかなように、入熱が40KJ/cm以下の場合は、化粧盛溶接の距離aの増加に伴って靱性が改善されており、これに対して、入熱が40KJ/cmを超えたところ(入熱45KJ/cm)の場合には、距離aの増大に伴って溶接継手部のvE0が低下しているのがわかる。
以上の結果から、化粧盛溶接による溶接継手部の靱性改善効果を得るためには、溶接入熱が40KJ/cm以下で溶接施工することが必要であることが確認された。
【0034】
上記の実施例1〜3に基づく試験の結果、次の点が確認された。
(1)化粧盛溶接の距離aが5mm以上で、第1の溶接ビードの止端からその上に重ねて溶接された第2の溶接ビードの止端までの距離bが15mm以下であること。
(2)原鋼板の引張強さが590N/mm2級未満で、vE0が70J以上の鋼管柱とダイアフラムと溶接継手部に化粧盛溶接を施すことにより、靱性改善効果が得られること。
(3)化粧盛溶接により靱性改善効果を得るためには、パス間温度が300℃以下であること。
(4)化粧盛溶接による靱性改善効果を得るためには、溶接入熱が40KJ/cm以下であること。
【0035】
上記の説明では、鋼管柱として角形鋼管を用いた場合を示したが、鋼管柱に円形断面である円形鋼管を用いても同様にして本発明を実施することができる。
【0036】
【発明の効果】
本発明は、原鋼板の引張強さの規格が590N/mm2 級未満で全断面における0℃衝撃吸収エネルギーが70J以上の鋼管柱と、ダイアフラムとの溶接継手部に化粧盛溶接を施したので、材料コストを含めた製造コストを低減し、かつ部材全体の靱性を向上して信頼性の高い鋼管柱とダイアフラムの接合構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る鋼管柱とダイアフラムとの溶接継手部の説明図である。
【図2】本発明を実施する角形鋼管と通しダイアフラムとの接合状態を示す説明図である。
【図3】本発明の実施例におけるシャルビ衝撃試験片の採取位置の説明図である。
【図4】実施例1の化粧盛溶接の距離aと原鋼板のvE0との関係を示す線図である。
【図5】図4のvE0=70J、a=5mmを1.0とした場合のaとvE0との関係を示す線図である。
【図6】実施例2の化粧盛溶接の距離a、パス間温度及び原鋼板のvE0との関係を示す線図である。
【図7】図6のパス間温度を300℃、a=5mmを1とした場合のvE0とaとの関係を示す線図である。
【図8】実施例3のパス間温度を300℃とした場合の化粧盛溶接の距離a、溶接入熱及び原鋼板のvE0とaとの関係を示す線図である。
【図9】図8の溶接入熱40KJ/cm、a=5mmを1とした場合のvE0とaとの関係を示す線図である。
【符号の説明】
1 角形鋼管(柱材)
2 開先
10 通しダイアフラム
20 溶接金属
30 化粧盛溶接
Claims (4)
- 少なくとも一方の端部に開先加工が施された、原鋼板の引張強さの規格値が590N/mm2級未満で全断面における0℃衝撃吸収エネルギーが70J以上の角形鋼管の前記端部にダイアフラムが溶接接合された接合構造であって、
前記角形鋼管の端部の角部と前記ダイアフラムとの溶接継手部の化粧盛溶接が、角形鋼管に設けた開先に施された突合せ溶接部に連続して該角形鋼管の表面側から材軸方向に5mm以上で、かつ第1の溶接ビートの止端から該第1の溶接ピードの上に重ね溶接された第2の溶接ピードの止端までの距離が15mm以下であることを特徴とする鋼管柱とダイアフラムの接合構造。 - 前記化粧盛溶接は、パス間温度が300℃以下、入熱が40KJ/cm以下の溶接であることを特徴とする請求項1記載の鋼管柱とダイアフラムの接合構造。
- 前記角形鋼管は、冷間成形角形鋼管であることを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管柱とダイアフラムの接合構造。
- 前記角形鋼管に代えて、円形鋼管を用いたことを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管柱とダイアフラムの接合構造。
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