JP5912364B2 - 冷間成形角形鋼管の溶接方法と溶接継手、およびその溶接継手を有する鋼管柱 - Google Patents
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Description
たとえば特許文献1には、冷間成形角形鋼管にダイアフラムを溶接する際に、使用する冷間成形角形鋼管の引張強さと衝撃吸収エネルギーを規定し、さらに溶接における溶接入熱とパス間温度を規定することによって、溶接金属の強度を向上して信頼性の高い接合構造を得る技術が開示されている。
冷間成形角形鋼管は、図2に示すように、冷間でプレス機5を用いて鋼板4に曲げ加工を施して角部を形成するので、角部には加工硬化が生じる。母材の鋼板4は、その製造工程で圧延後に水冷されるので、表層の硬さ(以下,特に断りがない場合「硬さ」は「試験荷重98Nで実施するビッカース硬さ」を示す。)が鋼板内部より高くなっており、その鋼板4から冷間成形角形鋼管を製造する工程で角部の表層が鋼板内部より大きく変形するので、角部表層の硬さが一層上昇する傾向がある。
溶接金属は、既に説明した通り、その硬さが母材である鋼板よりも高くなるように溶接を行なうので、地震が発生したときには、この熱影響部の軟質な部位に歪みが集中して変形や破断の原因となる。そのため、冷間成形角形鋼管の溶接継手の熱影響部の軟化、とりわけ角部表層の熱影響部の軟化を抑制する技術が求められている。
100×(AMAT−AHAZ)/AMAT≦35%
を満足する冷間成形角形鋼管の溶接継手である。
ここで、表層部とは鋼板の表裏面から板厚方向に1〜5mmの領域を、また、板厚中央部とは板厚中心±2mmの領域を指す。
また、冷間成形角形鋼管の強度は、平板部においてJISZ2201 5号または1A号または4号の試験片で測定する。
まず冷間成形角形鋼管の母材となる鋼板について説明する。
鋼板の好ましい成分は以下の通りである。なお、以下では、特に断らない限り、質量%は単に%と記す。
Cは、鋼の強度を増加させ、構造用鋼材として必要な強度を確保するのに有用な元素である。さらにCは、硬質相の体積率を増加させ、降伏比を低下させる作用を有する。このような効果を得るためには0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.16%を超える含有は、溶接性と靭性を顕著に低下させる。加えて、鋼板の硬さが上昇し、さらに冷間成形角形鋼管の角部表層の硬さが一層上昇する。そして、溶接によって角部表層の熱影響部が大幅に軟化するので、地震の際に歪みが集中し易くなる。このため、Cは0.05〜0.16%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.06〜0.15%である。
Siは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中に固溶し鋼材の強度を増加させる。このような効果を得るためには0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.45%を超える含有は、母材の靱性を低下させるとともに、溶接熱影響部(HAZ)靱性を顕著に低下させる。このため、Siは0.05〜0.45%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.05〜0.35%である。
Mnは、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素で安価であり、高価な他の合金元素の含有を最小限に抑えた角形鋼管を用いる本発明では、所望の高強度(引張強さ:550MPa以上)を確保するために、1.2%以上の含有を必要とする。一方、1.8%を超える含有は、母材の靱性およびHAZ靱性を著しく低下させる。このため、Mnは1.2〜1.8%の範囲に限定した。なお、好ましくは1.2〜1.6%である。
Pは、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であるが、靱性、とくに溶接部の靱性を低下させる元素であり、本発明で用いる角形鋼管ではできるだけ低減することが望ましいが、過度の低減は、精錬コストを高騰させ経済的に不利となるため、0.005%程度以上とすることが好ましい。一方、0.020%を超えて含有すると、上記した悪影響が顕著となるため、Pは0.020%以下に限定した。なお、好ましくは0.015%以下である。
Sは、鋼中ではMnS等の硫化物系介在物として存在し、母材および溶接部の靱性を劣化させるとともに、鋳片中央偏析部などに多量に偏在して鋳片等における欠陥を発生しやすくする。このような傾向は0.005%を超える含有で顕著となる。このため、Sは0.005%以下に限定した。好ましくは0.003%以下である。なお、過度のS低減は、精錬コストを高騰させ、経済的に不利となるため、Sは0.001%程度以上とすることが望ましい。
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、高張力鋼の溶鋼脱酸プロセスにおいては、脱酸剤として、もっとも汎用的に使われる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.05%を超える含有は、母材の靱性が低下するとともに、溶接時に溶接金属に混入して溶接金属部靱性を低下させる。このため,Alは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは0.010〜0.045%である。
Nbは、焼入性を高めるとともに、制御圧延の効果を高めミクロ組織を微細化する作用を介して、母材強度を増加させる元素であり、高強度化のために有用な元素である。このような効果を得るためには、0.005%以上含有することが必要となる。一方、0.025%を超える含有は、母材やHAZの靭性を低下させる。このため、Nbは0.005〜0.025%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.007〜0.020%である。
Nは、鋼中に固溶している場合には、冷間加工後に歪時効を起こし靭性を劣化させるため、本発明で用いる角形鋼管ではできるだけ低減することが望ましい。0.0040%を超えて含有すると、靭性の劣化が著しくなる。このため、Nは0.0040%以下に限定した。
Ti:0.005〜0.020%
Tiは、Nとの親和力が強い元素であり、凝固時にTiNとして析出し、鋼中の固溶Nを減少させ、冷間加工後のNの歪時効による靭性劣化を低減する作用を有する。また、Tiは、HAZの組織改善を介して、HAZ靭性の向上にも寄与する。このような効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.020%を超えて含有すると、TiN粒子が粗大化し、上記した効果が期待できなくなる。このため、Tiは0.005〜0.020%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.007〜0.015%である。
Tiは、固溶NをTiNとして固定することから、N含有量に見合う量を含有させる。このため、Ti含有量とN含有量との比、Ti/Nが2.5以上を満足するように、Ti含有量を調整する。Ti/Nが2.5未満では、N含有量に比べてTi含有量が少なすぎ、多くのNが固溶Nとして残存して、HAZ靭性が低下、溶接部からの脆性破壊発生により部材変形性能が低下する場合がある。このため、Ti/Nを2.5以上に限定した。なお好ましくは、3.0〜5.0の範囲である。
Cu、Ni、Cr、Mo、Vはいずれも、鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
Cuは、固溶強化や焼入性向上を介して、鋼板の強度を増加させ、厚鋼板の高強度化に寄与する。このような効果を得るためには、0.05%以上含有することが好ましいが、0.30%を超える含有は、合金コストの増加や熱間脆性による表面性状の劣化を招く。このため、含有する場合には、Cuは0.05〜0.30%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.05〜0.20%である。
Ca、REM、Mgはいずれも、硫化物の形態制御を介して母材の靭性向上および延性向上に寄与する。また、微細な硫化物粒子を鋼中に分散させた場合には、フェライト変態核として作用することによってHAZ靱性の向上にも寄与する。これらの効果を得るためには、Caでは少なくとも0.0005%、REMおよびMgではそれぞれ少なくとも0.010%を含有することが好ましいが、Ca、REM、Mgをいずれも0.0050%を超えて含有すると、過剰な介在物が生成し、逆に靱性が低下する場合がある。このため、含有する場合には、Caは0.0005〜0.0050%、REMおよびMgはそれぞれ、0.0010〜0.0050%の範囲に限定することが好ましい。
これらの元素を含有する鋼材を熱間圧延する際に、加速冷却や熱処理を施して、所定の強度と硬さを有する鋼板を得る。
母材となる鋼板の強度が550MPa未満では、鋼板内の板厚内硬度差は大きくなりにくく、溶接による熱影響部の軟化割合も小さい。このため、熱影響部へのひずみ集中を回避するための条件が550MPa級とは異なる。
鋼板の表層部(すなわち鋼板の表裏面から板厚方向に1〜5mmの領域)の平均のビッカース硬さが225を超えると、冷間成形角形鋼管の角部表層の硬さが大幅に上昇するので、溶接によって角部表層の熱影響部が著しく軟化して、地震の際に歪みが集中して亀裂の起点となり易くなる。したがって、鋼板の表層部の平均のビッカース硬さは225以下とする。一方、表層部の平均のビッカース硬さが120未満では、550MPa級の建築構造物の鋼管柱として十分な強度が得られない。したがって、鋼板の表層部の平均のビッカース硬さは120〜225の範囲内が好ましい。
鋼板の板厚中央部の硬さは、既に説明した通り、表層部よりも低くなる。板厚中央部と表層部の平均のビッカース硬さの差が60を超えると、板厚中央部の強度が低すぎるので、地震の際に生じた亀裂が容易に伝播する。したがって、鋼板の板厚中央部と表層部の平均のビッカース硬さの差は60以下とする。鋼板の板厚中央部と表層部の平均のビッカース硬さの差がゼロであっても良い。
次いで、得られた冷間成形角形鋼管の管端に開先を形成し、図1に示すように、ダイアフラム2や他の冷間成形角形鋼管1を溶接して、建築構造物の鋼管柱とする。この冷間成形角形鋼管1の管端の溶接では、溶接入熱を30kJ/cm以下かつパス間温度を250℃以下とする。溶接入熱とパス間温度をこのように規定して多層溶接を行なうことによって、溶接継手3の熱影響部における角部の表層部の平均のビッカース硬さを180以上(冷間成形角形鋼管1の角部の表層部の平均のビッカース硬さは275以下)に留めることが可能となる。なおパス間温度は、多パス溶接において、次のパスが始まる前のパスの最低温度を指す。
つまり、角部の硬さ低下率100×(AMAT−AHAZ)/AMAT≦35%の範囲内であれば、角部表層の熱影響部に歪みが集中するのを防止し、耐震安全性の高い建築構造物の鋼管柱を得ることができる。
以上の理由により、溶接入熱は30kJ/cm以下、かつ、パス間温度は250℃以下とすることが好ましい。溶接入熱を7kJ/cm以上30kJ/cm以下とすればより能率的である。
比較例の試験体No.1は、鋼板の表層部の平均のビッカース硬さ、および表層部と板厚中央部の平均のビッカース硬さの差が本発明の範囲を外れ、かつ角部の硬さ低下率(=100×(AMAT−AHAZ)/AMAT)が本発明の範囲を外れる例である。
比較例の試験体No.6は、角部の硬さ低下率が本発明の範囲を外れ、かつ溶接の入熱が本発明の範囲を外れる例である。
比較例の試験体No.7は、鋼板の表層部の平均のビッカース硬さ、および表層部と板厚中央部の平均のビッカース硬さの差が本発明の範囲を外れ、かつ角部の硬さ低下率、溶接のパス間温度が本発明の範囲を外れる例である。
建築基準法に示される幅厚比ランクFAの冷間成形角形鋼管にて塑性率μを7以上とするのは、400MPa級鋼材,490MPa級鋼材であれば従来から可能であったが、550MPa級鋼材では困難とされていた。本発明では、550MPa級鋼材であっても、幅厚比ランクFAの冷間成形角形鋼管の塑性率μを7以上とすることが可能であることが確かめられた。
2 ダイアフラム
3 溶接継手
4 鋼板
5 プレス機
Claims (3)
- 質量%で、C:0.06〜0.15%、Si:0.05〜0.45%、Mn:1.2〜1.8%、P:0.020%以下、S:0.005%以下、Al:0.05%以下、Nb:0.005〜0.025%、N:0.0040%以下、Ti:0.005〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Nと前記Tiの含有量の比Ti/Nが2.5以上である組成を有し、強度が550〜670MPa、表層部の平均のビッカース硬さが225以下、表層部と板厚中央部の平均のビッカース硬さの差が60以下の鋼板を冷間加工して得た冷間成形角形鋼管の管端に開先を形成し、該冷間成形角形鋼管の管端にダイアフラムまたは他の冷間成形角形鋼管を、溶接入熱30kJ/cm以下かつパス間温度250℃以下で多層溶接することを特徴とする冷間成形角形鋼管の溶接方法。
- 質量%で、C:0.06〜0.15%、Si:0.05〜0.45%、Mn:1.2〜1.8%、P:0.020%以下、S:0.005%以下、Al:0.05%以下、Nb:0.005〜0.025%、N:0.0040%以下、Ti:0.005〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Nと前記Tiの含有量の比Ti/Nが2.5以上である組成を有し、強度が550〜670MPa、表層部の平均のビッカース硬さが225以下、表層部と板厚中央部の平均のビッカース硬さの差が60以下の鋼板を冷間加工して得た冷間成形角形鋼管の管端とダイアフラムまたは他の冷間成形角形鋼管との接合部に位置する多層溶接層を備えた溶接継手の角部における溶接熱影響部の表層部の平均のビッカース硬さAHAZと、前記冷間成形角形鋼管の角部における表層部の平均のビッカース硬さAMATとが、
100×(AMAT−AHAZ)/AMAT≦35%
を満足することを特徴とする冷間成形角形鋼管の溶接継手。 - 質量%で、C:0.06〜0.15%、Si:0.05〜0.45%、Mn:1.2〜1.8%、P:0.020%以下、S:0.005%以下、Al:0.05%以下、Nb:0.005〜0.025%、N:0.0040%以下、Ti:0.005〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Nと前記Tiの含有量の比Ti/Nが2.5以上である組成を有し、強度が550〜670MPa、表層部の平均のビッカース硬さが225以下、表層部と板厚中央部の平均のビッカース硬さの差が60以下の鋼板を冷間加工して得た冷間成形角形鋼管の管端とダイアフラムまたは他の冷間成形角形鋼管との接合部に位置する多層溶接層を備えた溶接継手の角部における溶接熱影響部の表層部の平均のビッカース硬さA HAZ と、前記冷間成形角形鋼管の角部における表層部の平均のビッカース硬さA MAT とが、
100×(A MAT −A HAZ )/A MAT ≦35%
を満足する冷間成形角形鋼管の溶接継手を有することを特徴とする鋼管柱。
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