JP2009235516A - 耐震性に優れた建築構造用590MPa級高降伏比円形鋼管およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】建築鉄骨用途では高強度クラスに位置する引張強度:590MPa級の鋼管について、高強度のまま円形鋼管固有の課題である、引張応力場となる鋼管外面側の硬さを低減することにより、耐震性向上に寄与できる円形鋼管を提供する。
【解決手段】本発明の円形鋼管は、所定の関係式を満足しつつ化学成分組成を調整すると共に、下記(A)〜(C)の要件を満足するものである。
(A)鋼板のミクロ組織は、少なくともアスペクト比が3以上のベイナイトの面積分率が50%以上であり、転位密度ρが1.0×105(m-2)以上、6.0×105(m-2)以下である、
(B)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部を除く中央部の平均ビッカース硬さHvが180〜280である、
(C)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部の平均ビッカース硬さHvが、前記中央部の平均ビッカース硬さHvの1.4倍以下である。
【選択図】なし
【解決手段】本発明の円形鋼管は、所定の関係式を満足しつつ化学成分組成を調整すると共に、下記(A)〜(C)の要件を満足するものである。
(A)鋼板のミクロ組織は、少なくともアスペクト比が3以上のベイナイトの面積分率が50%以上であり、転位密度ρが1.0×105(m-2)以上、6.0×105(m-2)以下である、
(B)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部を除く中央部の平均ビッカース硬さHvが180〜280である、
(C)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部の平均ビッカース硬さHvが、前記中央部の平均ビッカース硬さHvの1.4倍以下である。
【選択図】なし
Description
本発明は、主に耐震性が要求される建築鉄骨用途向けの円形鋼管、およびその製造方法に関するものであり、特に引張強さが590MPa以上(590MPa級)で、降伏比が85〜95%の高強度高降伏比円形鋼管、およびこうした円形鋼管を製造するための有用な方法に関するものである。
建築用鋼材は建築構造物の耐震性を確保するために、弾性変形後の塑性変形により地震エネルギーを吸収するという思想の下に、降伏応力YSと引張強さTSとの比(YS/TS)で示される降伏比YRの上限が規定されている場合が多い。これに対し、近年では、巨大地震時の柱部の塑性化は建築構造物全体の崩壊に至らず、人命は救えるものの、建築構造物の資産価値はなくなり、建て替えが必要となるため、建築用鋼材の特性を弾性限度内にとどめるという設計方法も検討されている。
上記のような建築構造物に適用される円形鋼管は、鋼板をプレス曲げ加工等によって成形されるため、加工硬化に起因した材質変化が生じ、降伏比YRは上昇する。特に、円形鋼管の外面側は、板厚中央部と比較して硬さの上昇が大きくなるため、延性は低下することになる。
即ち、大地震時の荷重を受けて変形した場合には、亀裂は外面側から発生しやすく、円形鋼管は四面ボックス柱では発生しない固有の問題を有している。特に、付属金型等を円形鋼管に溶接したときには、熱影響部(HAZ)の硬化により、円形鋼管表面(外表面)の延性の低下が問題となる。
ところで、冷間成形によって鋼管を製造する方法としては、ラインパイプ用鋼管に適用されているUOE成形法(Uing press−Oing press−expander法)の他、プレスベンド冷間成形法(以下、単に「プレスベンド法」と呼ぶことがある)が基本的に採用されている。上記成形法のうち、鋼板厚さが厚く(例えば、板厚:30mm超)、強加工が必要な場合にはプレスベンド法が採用されることになる。
上記プレスベンド法では、鋼板の一部(直線部)を型押し曲げ加工し、順次型押し位置を移動させて円形に成形する方法であり、加工能力が高い方法である。こうしたプレスベンド法で、円形鋼管を成形したときには、特に円形鋼管における外表面の硬化が顕著になるのであるが、こうした硬さを低減する方法としては応力除去焼鈍(Stress Relieving:以下、「SR熱処理」と呼ぶことがある)が知られている。しかしながら、こうしたSR熱処理を施すと、板厚中央部の硬さも低下し、円形鋼管としての要求強度である引張強さTS:590MPa以上を確保することは困難であった。
またSR熱処理の適用により表面硬さを低減することを前提として、引張強さ:590MPa以上の鋼板を適用する場合は、合金元素の添加によって金属組織の硬質化が必要であり、この硬質組織によって、SR熱処理後の母材(鋼管)靭性の確保が非常に困難なものとなる。
造船用鋼や圧力容器、一般のラインパイプ用鋼等は、そのまま建築用円形鋼管用途に適用すると、金属組織や板厚方向の硬さ分布を有しており、冷間曲げ加工により材質偏差は助長されるという問題がある。その一方で、建築材料に対する要求は、高強度や高靭性等の機械的性質は勿論のこと、建築コスト低減のための大入熱溶接特性や良好な溶接性を確保することも重要である。
上記のような鋼管に関する技術として、これまでも様々な技術が提案されている。例えば特許文献1には、耐硫化物割れ性に優れた鋼板として、ミクロビッカース硬さ分布を規定したものが提案されている。この技術は、板厚が20mm程度のラインパイプの素材としては有効なものであり、そのような鋼板ではミクロビッカース硬さ分布を小さくすることは容易であるが、板厚が25〜100mmの建築構造物用円形鋼管で板厚方向の硬さ分布を小さくすることは困難である。また、この技術は、耐硫化物割れ性に重点をおいた鋼に関するものであり、建築用途の耐震性については考慮されておらず、円形鋼管に適用したときの曲げ加工後の靭性劣化への配慮はなされていない。
また特許文献2には、バウジンガー効果による降伏応力低下が小さい高強度ラインパイプ用鋼板について開示されている。この技術では、UOE成形法で成形されるラインパイプ用薄板を対象とするものであり、この技術に開示された方法では板厚:100mmまでの厚肉材で板厚方向の硬さ分布を小さくすることはできない。また、加速冷却直後に急速加熱する処置が必要となるため、加熱制御が難しいという問題もある。しかも、プレスベンド法に適用したときに問題となる加工硬化量を制御する手段については何ら考慮されておらず、冷間加工後の円形鋼管の外面側は硬化し、良好な耐震性が確保できないことが予想される。
特許文献3には、板厚が20mm程度のラインパイプ用鋼板を対象とし、UOE成形法で形成される溶接鋼管について提案されている。この技術では、鋼板中の組織をフェライトとベイナイトの混合組織とすることによって、鋼板の表面硬さを下げて硬さ分布を小さくするものである。しかしながら、厚肉材となると、板厚中心部のフェライト分率が高くなって軟化するため、この方法をそのまま厚肉材に適用したのでは板厚方向の硬さ分布を小さくすることはできない。また、この方法では、鋼管成形後に焼入れを実施するものであるが、プレス曲げ後大径厚肉円形鋼管では焼入れ処理を施すことは困難である。しかも、プレスベンド法に適用したときに問題となる加工硬化量を制御する手段については何ら考慮されておらず、冷間加工後の円形鋼管の外面側は硬化し、良好な耐震性が確保できないことが予想される。
一方、特許文献4には、「耐座屈特性に優れた高強度円形鋼板およびその製造方法」について提案されている。この技術では、フェライトが主体(70%以上)の組織の高強度薄肉鋼管を対象とするものであり、板厚方向の硬さ分布を小さくすることはできない。またこの技術は、上記各技術と同様に、加工硬化量を制御する手段については何ら開示されていない。しかも製造方法においても、組織制御の要点となる圧延終了温度がAr3変態点以上と規定するだけであり、円形鋼管の板厚方向に均一な組織、硬さを実現することはできない。
特許文献5には、耐水素誘起割れ性に優れた高強度高靭性鋼板について開示されている。この技術では、板厚が25mm程度のラインパイプ用の鋼板を対象としており、中心偏積部の硬さは考慮しているが、表面硬さについては何ら考慮されていない。また、板厚方向の硬さ分布は、所定の関係式で求められる値で330以下に規定されているが、加工硬化量を制御する手段については何ら開示されていない。しかも製造方法においても、組織制御の要点となる圧延終了温度が(Ar3変態点+20℃以上)と規定するだけであり、円形鋼管の板厚方向に均一な組織、硬さを実現することはできない。
また特許文献6には、「造管後の表面硬度と降伏比が低い高強度鋼管」について提案されている。この技術では、化学成分組成として、窒化物を形成するBやNの規定がなく、BNやTiNが制御できず、焼入れ性が不安定となるため、所望の強度を安定して得ることは困難である。また、Bを含有させないことによって、組織がフェライトとなるものであり、板厚方向の硬さ分布は不均一となる。
特開平7−166293号公報
特開2007−138210号公報
特開2006−257499号公報
特開2004−143500号公報
特開2006−63351号公報
特開2003−293075号公報
本発明は、こうした状況の下でなされたものであって、その目的は、建築鉄骨用途では高強度クラスに位置する引張強さ:590MPa級の鋼管について、高強度のまま円形鋼管固有の課題である、引張応力場となる鋼管外面側の硬さを低減することにより、耐震性向上に寄与できる円形鋼管、およびこうした円形鋼管を製造するための有用な方法を提供することにある。
上記目的を達成し得た本発明の円形鋼管とは、C:0.01〜0.05%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.05〜0.35%、Mn:1.00〜1.70%、Al:0.015〜0.045%、Ni:0.05〜0.45%、Cr:0.20〜1.50%、Ti:0.008〜0.020%、B:0.0010〜0.0025%、Nb:0.010〜0.030%、Ca:0.0005〜0.0035%、N:0.0035〜0.0060%を夫々含有すると共に、下記(1)式で示されるPCM値が0.20%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、該不可避的不純物のうちP:0.020%以下(0%を含まない)およびS:0.005%以下(0%を含まない)に夫々抑制し、且つ下記(A)〜(C)の要件を満足する点に要旨を有するものである。
PCM値=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+([B]×5) …(1)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo],[V]および[B]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,VおよびBの含有量(質量%)を示す。
(A)鋼板のミクロ組織は、少なくともアスペクト比が3以上のベイナイトの面積分率が50%以上であり、転位密度ρが1.0×105(m-2)以上、6.0×105(m-2)以下である、
(B)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部を除く中央部の平均ビッカース硬さHvが180〜280である、
(C)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部の平均ビッカース硬さHvが、前記中央部の平均ビッカース硬さHvの1.4倍以下である。
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo],[V]および[B]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,VおよびBの含有量(質量%)を示す。
(A)鋼板のミクロ組織は、少なくともアスペクト比が3以上のベイナイトの面積分率が50%以上であり、転位密度ρが1.0×105(m-2)以上、6.0×105(m-2)以下である、
(B)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部を除く中央部の平均ビッカース硬さHvが180〜280である、
(C)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部の平均ビッカース硬さHvが、前記中央部の平均ビッカース硬さHvの1.4倍以下である。
尚、上記(A)において、「少なくともアスペクト比が3以上のベイナイトの面積分率が50%以上」とは、組織中にアスペクト比が3未満のベイナイトが含まれることを許容するものであり(例えば、合計で80面積%以上)、そのうちアスペクト比が3以上のベイナイトの面積分率(全体に対する割合)が50%以上であれば良いことを意味する。また、ベイナイト相以外(残部)としては、フェライト、マルテンサイト、ベイニティックフェライト等が挙げられる。
本発明の円形鋼管においては、必要によって更に、Cu:0.05〜0.45%、V:0.005〜0.050%およびMo:0.05〜0.35%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することも好ましく、これによって鋼管の特性が更に改善されることになる。
上記のような円形鋼管を製造するに当たっては、前記化学成分からなる鋳片を950〜1200℃に加熱した後、仕上げ圧延温度を700〜850℃の範囲として熱間圧延を行なって所定の板厚とし、次いでt/4(t:板厚)の位置における冷却速度が2〜25℃/秒で、表面温度が500℃以下となるまで水冷して鋼板とし、得られた鋼板を用いてプレスベンド法によって円形鋼管に成形するようにすれば良い。
本発明によれば、鋼板(鋼管を構成する鋼板)の化学成分組成を適正に調整すると共に、ミクロ組織を適切に制御し、且つ厚さ方向の硬さ分布を適切にすることによって、590MPa以上の高強度のまま鋼管成形時の曲げ加工に起因した鋼管外面側の硬さを低減して延性を確保することにより、耐震性向上に寄与できる円形鋼管が実現できた。
本発明者らは、590MPa以上の高強度を確保しつつ、プレス曲げ加工時の加工硬化に起因した円形鋼管外面側の硬化を低減するために、様々な角度から検討した。その結果、まず鋼管(即ち、鋼板)の基本的なミクロ組織として、ベイナイトを主体とすると共に、そのうち少なくともアスペクト比が3以上(長径と短径の比が3以上)となるような扁平の低Cベイナイトの面積率が50%以上となるようにすることが重要である[前記(A)の要件]ことが判明した。
上記のようなミクロ組織とするためには、製造条件も適切に制御する必要があるが、その前提として、鋼板の化学成分組成も適切に制御する必要がある。その基本的な方向としては、低Cの化学成分をベースとして、Nb−Bの複合添加によりオーステナイトの扁平化と、それからのベイナイト変態を促進させること、およびNi−Crの複合添加により焼入れ性の安定を図ることによって、板厚方向に均一なベイナイト組織を得ることができ、板厚方向の硬さの均一化が達成できる。
即ち、上記のような設計指針に基づいて、化学成分組成を調整することによって、圧延後のベイナイト変態温度が、冷却速度を変化させても殆ど変らなくなることと、熱間圧延時の圧下量の制御による、オーステナイト粒のアスペクト比の増大が鋼管の靭性を向上させ得ることが判明した。また適切な化学成分組成において、熱間圧延温度を適正化することによって、扁平した低Cベイナイト組織を安定して生成できることも判明したのである。
鋼板の強度を向上させるために有効な手段は、合金元素量を増加させることである。特に、590MPa級という高強度の達成するためには、合金元素の添加量を比較的多くして、それらによる各種強化機構を利用することが必要である。しかしながら、こうした合金元素の増大は、耐割れ性等の溶接性や溶接継手の機械的特性の劣化を招くことになる。本発明者らは、適正な合金元素の添加とその含有量を適正化することによって、高強度化と曲げ加工による加工硬化を低減できることを見出した。
上記した各要件(ミクロ組織および化学成分組成)を満足させることによって、板厚方向の硬さ分布を均一化させると共に、加工硬化量を安定化させ、円形鋼管外面下2mmまでの領域(鋼板の表・裏面から深さ2mmまでの表層部)と、板厚方向中央部[t/2部(t:板厚)]のビッカース硬さHvの比を抑制でき、円形鋼管としての耐震性が向上できたのである。
上記した観点から、本発明の円形鋼管の化学成分組成が決定されたのであるが、上記した合金成分(C,Ni,Cr,B,Nb)を含め、各元素の範囲限定理由について説明する。本発明では、上記のように、C:0.01〜0.05%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.05〜0.35%、Mn:1.00〜1.70%、Al:0.015〜0.045%、Ni:0.05〜0.45%、Cr:0.20〜1.50%、Ti:0.008〜0.020%、B:0.0010〜0.0025%、Nb:0.010〜0.030%、Ca:0.0005〜0.0035%、N:0.0035〜0.0060%を夫々含有すると共に、前記(1)式で示されるPCM値を適正な範囲に制御する必要があるが、これらの元素の範囲限定理由は、次の通りである。
[C:0.01〜0.05%]
Cは、鋼板の強度を高める効果があり、硬さを制御するために重要な元素であると共に、過剰な添加は耐割れ性等の溶接性を劣化させる元素でもある。C含有量が0.01%未満では、必要な母材(鋼板)強度を確保することができない。しかしながら、C含有量が0.05%を超えると、島状マルテンサイト[マルテンサイト・オーステナイトの混合相(M−A相)を含む]が過剰に生成して耐溶接割れ性が劣化する。尚、C含有量の好ましい下限は0.02%であり、好ましい上限は0.04%である。
Cは、鋼板の強度を高める効果があり、硬さを制御するために重要な元素であると共に、過剰な添加は耐割れ性等の溶接性を劣化させる元素でもある。C含有量が0.01%未満では、必要な母材(鋼板)強度を確保することができない。しかしながら、C含有量が0.05%を超えると、島状マルテンサイト[マルテンサイト・オーステナイトの混合相(M−A相)を含む]が過剰に生成して耐溶接割れ性が劣化する。尚、C含有量の好ましい下限は0.02%であり、好ましい上限は0.04%である。
[Si:0.05〜0.35%]
Siは、適正添加により母材靭性と強度を向上させるのに有効な元素である。こうした強化機構を発揮させるためには、Siは0.05%以上含有させることが必要である。しかしながら、Si含有量が過剰になると、耐溶接割れ性が劣化するので、0.35%以下とする。尚、Si含有量の好ましい下限は0.07%であり、好ましい上限は0.25%である。
Siは、適正添加により母材靭性と強度を向上させるのに有効な元素である。こうした強化機構を発揮させるためには、Siは0.05%以上含有させることが必要である。しかしながら、Si含有量が過剰になると、耐溶接割れ性が劣化するので、0.35%以下とする。尚、Si含有量の好ましい下限は0.07%であり、好ましい上限は0.25%である。
[Mn:1.00〜1.70%]
Mnは、焼入れ性を向上させ、強度と靭性を共に高める元素として有効である。こうした効果を発揮させるためには、Mnは1.00%以上含有させる必要がある。しかしながらMnを過剰に含有させると、強度が過剰となって母材靭性が劣化するので、上限を1.70%とする。尚、Mn含有量の好ましい下限は1.10%であり、好ましい上限は1.60%である。
Mnは、焼入れ性を向上させ、強度と靭性を共に高める元素として有効である。こうした効果を発揮させるためには、Mnは1.00%以上含有させる必要がある。しかしながらMnを過剰に含有させると、強度が過剰となって母材靭性が劣化するので、上限を1.70%とする。尚、Mn含有量の好ましい下限は1.10%であり、好ましい上限は1.60%である。
[Al:0.015〜0.045%]
Alは、脱酸元素であり、またミクロ組織微細化による母材靭性確保に必須の元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.015%以上含有させる必要があるが、過剰に含有させると、アルミナ系の粗大な介在物を形成し母材靭性が低下するので、0.045%以下とする必要がある。尚、Al含有量の好ましい下限は0.020%であり、好ましい上限は0.040%である。
Alは、脱酸元素であり、またミクロ組織微細化による母材靭性確保に必須の元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.015%以上含有させる必要があるが、過剰に含有させると、アルミナ系の粗大な介在物を形成し母材靭性が低下するので、0.045%以下とする必要がある。尚、Al含有量の好ましい下限は0.020%であり、好ましい上限は0.040%である。
[Ni:0.05〜0.45%]
Niは、母材靭性の向上および焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Niは0.05%以上含有させる必要がある。しかしながら、Ni含有量が過剰になると、スケール疵が発生しやすくなるので、0.45%以下とする必要がある。尚、Ni含有量の好ましい下限は0.10%であり、好ましい上限は0.35%である。
Niは、母材靭性の向上および焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Niは0.05%以上含有させる必要がある。しかしながら、Ni含有量が過剰になると、スケール疵が発生しやすくなるので、0.45%以下とする必要がある。尚、Ni含有量の好ましい下限は0.10%であり、好ましい上限は0.35%である。
[Cr:0.20〜1.50%]
Crは、大入熱溶接時に粗大なオーステナイト粒を分割する多方位ベイナイトを生成させ、また焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Crは0.20%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、耐溶接割れ性が劣化するので、1.50%以下とする必要がある。尚、Cr含有量の好ましい下限は0.55%であり、好ましい上限は1.35%である。
Crは、大入熱溶接時に粗大なオーステナイト粒を分割する多方位ベイナイトを生成させ、また焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Crは0.20%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、耐溶接割れ性が劣化するので、1.50%以下とする必要がある。尚、Cr含有量の好ましい下限は0.55%であり、好ましい上限は1.35%である。
[Ti:0.008〜0.020%]
Tiは、Nと窒化物(TiN)を形成して熱間圧延前の加熱時におけるオーステナイト粒(γ粒)の粗大化を防止し、また炭化物を生成しやすい元素である。Tiによるγ粒微細化効果を発揮させるためには、Tiは0.008%以上含有させる必要がある。しかしながら、Ti含有量が過剰になると、炭化物の生成が過剰となり、母材靭性が劣化するので、0.020%以下とする必要がある。尚、Ti含有量の好ましい下限は0.010%であり、好ましい上限は0.018%である。
Tiは、Nと窒化物(TiN)を形成して熱間圧延前の加熱時におけるオーステナイト粒(γ粒)の粗大化を防止し、また炭化物を生成しやすい元素である。Tiによるγ粒微細化効果を発揮させるためには、Tiは0.008%以上含有させる必要がある。しかしながら、Ti含有量が過剰になると、炭化物の生成が過剰となり、母材靭性が劣化するので、0.020%以下とする必要がある。尚、Ti含有量の好ましい下限は0.010%であり、好ましい上限は0.018%である。
[B:0.0010〜0.0025%]
フリーBは粒界に存在し、焼入れ性を向上させて母材強度の向上をはかる上で有効な元素である。Bの含有量が0.0010%未満であると、母材強度の向上効果が少なく、引張強度:590MPa以上の強度を確保できなくなる。しかしながら、B含有量が過剰になると、焼入れ性が過剰となり耐溶接割れ性および母材靭性が劣化するので、0.0025%以下とする必要がある。尚、B含有量の好ましい下限は0.0012%であり、好ましい上限は0.0015%である。
フリーBは粒界に存在し、焼入れ性を向上させて母材強度の向上をはかる上で有効な元素である。Bの含有量が0.0010%未満であると、母材強度の向上効果が少なく、引張強度:590MPa以上の強度を確保できなくなる。しかしながら、B含有量が過剰になると、焼入れ性が過剰となり耐溶接割れ性および母材靭性が劣化するので、0.0025%以下とする必要がある。尚、B含有量の好ましい下限は0.0012%であり、好ましい上限は0.0015%である。
[Nb:0.010〜0.030%]
Nbは本発明の鋼管において重要な元素であり、NbとBの複合添加によって、板厚方向に均一な低Cベイナイト組織を得ることができる。またオーステナイト域における未再結晶温度範囲を拡大させて、その領域での圧延歪みより変態核を増大させて変態を促進させるのに必要な元素である。Nbの含有量が0.010%未満であるとその効果が少なく、母材靭性が低下する。またNb含有量が過剰になって0.030%を超えると、炭化物生成が過大となり、それが破壊の起点となって母材靭性が劣化する。尚、Nb含有量の好ましい下限は0.013%であり、好ましい上限は0.025%である。
Nbは本発明の鋼管において重要な元素であり、NbとBの複合添加によって、板厚方向に均一な低Cベイナイト組織を得ることができる。またオーステナイト域における未再結晶温度範囲を拡大させて、その領域での圧延歪みより変態核を増大させて変態を促進させるのに必要な元素である。Nbの含有量が0.010%未満であるとその効果が少なく、母材靭性が低下する。またNb含有量が過剰になって0.030%を超えると、炭化物生成が過大となり、それが破壊の起点となって母材靭性が劣化する。尚、Nb含有量の好ましい下限は0.013%であり、好ましい上限は0.025%である。
[Ca:0.0005〜0.0035%]
Caは、MnSの球状化による耐溶接割れ性に対する無害化に有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Caは0.0005%以上含有させる必要がある。しかしながら、Ca含有量が0.0035%を超えて過剰になると、介在物を粗大化させ、それが破壊の起点となり、母材靭性を劣化させる。尚、Ca含有量の好ましい下限は0.0015%であり、好ましい上限は0.0030%である。
Caは、MnSの球状化による耐溶接割れ性に対する無害化に有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Caは0.0005%以上含有させる必要がある。しかしながら、Ca含有量が0.0035%を超えて過剰になると、介在物を粗大化させ、それが破壊の起点となり、母材靭性を劣化させる。尚、Ca含有量の好ましい下限は0.0015%であり、好ましい上限は0.0030%である。
[N:0.0035〜0.0060%]
NはTiと反応してTiNを生成し、熱間圧延前の加熱時におけるγ粒の粗大化を防止するのに有効な元素である。Nの含有量が0.0035%未満であると、TiNが不足し、加熱γ粒が粗大になり、母材靭性が劣化することになるので、0.0035%以上含有させる必要がある。またN含有量が過剰になって0.0060%を超えると、曲げ加工による脆化により、鋼管の靭性が劣化する。尚、N含有量の好ましい下限は0.0040%であり、好ましい上限は0.0055%である。
NはTiと反応してTiNを生成し、熱間圧延前の加熱時におけるγ粒の粗大化を防止するのに有効な元素である。Nの含有量が0.0035%未満であると、TiNが不足し、加熱γ粒が粗大になり、母材靭性が劣化することになるので、0.0035%以上含有させる必要がある。またN含有量が過剰になって0.0060%を超えると、曲げ加工による脆化により、鋼管の靭性が劣化する。尚、N含有量の好ましい下限は0.0040%であり、好ましい上限は0.0055%である。
[PCM値:0.20%以下]
前記(1)式で表わされるPCM値は、溶接施工による低温割れを防止する指標として最も一般的な要件である。溶接割れを防止するためには、PCM値を0.20%以下とする必要がある。PCM値は、好ましくは0.18%以下とするのが良い。尚、上記(1)式には、本発明の鋼板で規定する成分(C,Si,Mn,Ni,Cr,B)以外の元素(必要によって含有される元素)も規定しているが(Cu,V,Mo等)、これらの元素は低温割れに影響を与えるものであるので、必要によって含有されるときには、それらの含有量もPCM値の計算に入れる必要がある。従って、これらの元素を含有しないときには、上記(1)式からこれらの元素量を0として計算すれば良い。
前記(1)式で表わされるPCM値は、溶接施工による低温割れを防止する指標として最も一般的な要件である。溶接割れを防止するためには、PCM値を0.20%以下とする必要がある。PCM値は、好ましくは0.18%以下とするのが良い。尚、上記(1)式には、本発明の鋼板で規定する成分(C,Si,Mn,Ni,Cr,B)以外の元素(必要によって含有される元素)も規定しているが(Cu,V,Mo等)、これらの元素は低温割れに影響を与えるものであるので、必要によって含有されるときには、それらの含有量もPCM値の計算に入れる必要がある。従って、これらの元素を含有しないときには、上記(1)式からこれらの元素量を0として計算すれば良い。
本発明の円形鋼管において、上記成分の他は、Feおよび不可避的不純物(例えば、P,S等)からなるものであるが、溶製上不可避的に混入する微量成分(許容成分)も含み得るものであり(例えば、Zr,H,O等)、こうした円形鋼管も本発明の範囲に含まれるものである。但し、不可避的不純物としてのP,S等については、下記の観点から、夫々下記の範囲に抑制する必要がある。
[P:0.020%以下(0%を含まない)]
不可避的不純物であるPは、母材、溶接部の靭性に悪影響を及ぼすものであり、こうした不都合を招かない上でもその含有量を0.020%以下に抑制することが必要であり、好ましくは0.015%以下とするのが良い。
不可避的不純物であるPは、母材、溶接部の靭性に悪影響を及ぼすものであり、こうした不都合を招かない上でもその含有量を0.020%以下に抑制することが必要であり、好ましくは0.015%以下とするのが良い。
[S:0.005%以下(0%を含まない)]
Sは、MnSを形成して耐溶接割れ性を劣化させるので、できるだけ少ない方が好ましい。こうした観点から、S含有量は0.005%以下に抑制することが必要であり、好ましくは0.003%以下とするのが良い。
Sは、MnSを形成して耐溶接割れ性を劣化させるので、できるだけ少ない方が好ましい。こうした観点から、S含有量は0.005%以下に抑制することが必要であり、好ましくは0.003%以下とするのが良い。
本発明の円形鋼管には、必要によって、更にCu:0.05〜0.45%、V:0.005〜0.050%およびMo:0.05〜0.35%よりなる群から選ばれる1種以上を含有することも有用であり、これらの成分はいずれも鋼管の強度向上に有効である。これら各成分におる作用効果は次の通りである。
[Cu:0.05〜0.45%]
Cuは、固溶強化によって、母材強度を向上させるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Cuは0.05%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Cu含有量が過剰になると、ガス切断時にCu割れが生じることがあるので、0.45%以下とすることが好ましい。尚、Cu含有量のより好ましい下限は0.07%であり、より好ましい上限は0.40%である。
Cuは、固溶強化によって、母材強度を向上させるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Cuは0.05%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Cu含有量が過剰になると、ガス切断時にCu割れが生じることがあるので、0.45%以下とすることが好ましい。尚、Cu含有量のより好ましい下限は0.07%であり、より好ましい上限は0.40%である。
[V:0.005〜0.050%]
Vは、炭化物を形成して、強度を向上させるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Vは0.005%以上含有させることが好ましい。しかしながら、V含有量が過剰になると、炭化物生成が粗大となり、それが起点となって母材靭性劣化するので、0.050%以下とするが好ましい。尚、V含有量のより好ましい下限は0.010%であり、より好ましい上限は0.040%である。
Vは、炭化物を形成して、強度を向上させるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Vは0.005%以上含有させることが好ましい。しかしながら、V含有量が過剰になると、炭化物生成が粗大となり、それが起点となって母材靭性劣化するので、0.050%以下とするが好ましい。尚、V含有量のより好ましい下限は0.010%であり、より好ましい上限は0.040%である。
[Mo:0.05〜0.35%]
Moは、焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有用であり、また炭化物を生成しやすい元素である。こうした効果を発揮させるためには、Moは0.05%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Mo含有量が過剰になると、焼入れ性が過大となって耐溶接割れ性が劣化するので、0.35%以下とすることが好ましい。尚、Mo含有量のより好ましい下限は0.08%であり、より好ましい上限は0.25%である。
Moは、焼入れ性を高めて強度を向上させるのに有用であり、また炭化物を生成しやすい元素である。こうした効果を発揮させるためには、Moは0.05%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Mo含有量が過剰になると、焼入れ性が過大となって耐溶接割れ性が劣化するので、0.35%以下とすることが好ましい。尚、Mo含有量のより好ましい下限は0.08%であり、より好ましい上限は0.25%である。
本発明の円形鋼管においては、アスペクト比が3以上のベイナイトの面積分率が50%以上であり、転位密度ρが1.0×105(m-2)以上、6.0×105(m-2)以下であることも重要な要件である[前記(A)の要件]。ベイナイト(旧オーステナイト)のアスペクト比とその面積分率は、加工硬化による材質変化を支配する因子の一つである。アスペクト比が3未満になったり、面積分率が50%未満であると円形鋼管の材質偏差が大きくなり、耐溶接割れ性が劣化する。
一方、転位密度ρも、加工硬化による材質変化を支配する重要な因子の一つである。転位密度ρが1.0×105(m-2)未満であると、加工硬化により材質変化が大きくなり、その結果として耐溶接割れ性が劣化することになる。また転位密度ρが6.0×105(m-2)を超えると、いわゆる転位が飽和状態にあり、硬さが過剰になって耐溶接割れ性が劣化することになる。
本発明の円形鋼管においては、鋼管を構成する鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部を除く中央部の平均ビッカース硬さHvが180〜280であることも必要である[前記(B)の要件]。このビッカース硬さHvは引張強度TSと相関があり、所望の引張強さTSと降伏比YRを得るためには、中央部の平均ビッカース硬さHvが180〜280であることが必要である。即ち、中央部の平均ビッカース硬さHvが180未満では、低YR特性となり引張強度TSも低下する。また、中央部の平均ビッカース硬さHvが280を超えると、耐溶接割れ性が劣化することになる。
本発明の円形鋼管においては、鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部の平均ビッカース硬さHvが、前記中央部の平均ビッカース硬さHvの1.4倍以下であることも必要である[前記(C)の要件]。外面側(表層部)と板厚中央部の硬さ比が1.4倍を超えると、鋼板表面部の塑性変形能が低下し、表面の引張応力が高くなるため、表面からの亀裂の発生、付属金物溶接時の表面硬化と相俟った割れが起点となり、大地震時に破壊する可能性がある。この比の値は、好ましくは1.3倍以下である。
本発明の円形鋼管を製造するには、上記の様な化学成分からなる鋳片を950〜1200℃に加熱した後、仕上げ圧延温度を700〜850℃の範囲として熱間圧延を行なって所定の板厚とし、次いでt/4(t:板厚)の位置における冷却速度が2〜25℃/秒で、表面温度が500℃以下となるまで水冷して鋼板とし、得られた鋼板を用いてプレスベンド法によって円形鋼管に成形すれば良いが、各工程の条件を規定した理由は次の通りである。
[鋳片を950〜1200℃に加熱]
この加熱温度は、熱間圧延前の組織制御と圧延の可否に大きく影響を及ぼすことになる。加熱温度が950℃未満であると、圧延最終パス(仕上げ圧延)直前の表面温度:700℃以を確保することができないため、水冷前にフェライトが析出し母材強度が低下すると共に、熱間圧延での圧下荷重が高くなり、生産性が大幅に劣化する。一方、加熱温度が1200℃を超えると、γ粒径の粗大化による母材強度の低下と母材靭性が劣化する。
この加熱温度は、熱間圧延前の組織制御と圧延の可否に大きく影響を及ぼすことになる。加熱温度が950℃未満であると、圧延最終パス(仕上げ圧延)直前の表面温度:700℃以を確保することができないため、水冷前にフェライトが析出し母材強度が低下すると共に、熱間圧延での圧下荷重が高くなり、生産性が大幅に劣化する。一方、加熱温度が1200℃を超えると、γ粒径の粗大化による母材強度の低下と母材靭性が劣化する。
[仕上げ圧延温度を700〜850℃の範囲として熱間圧延を行なって所定の板厚とする]
制御冷却は、その前の組織制御が前提となり、そのためには制御圧延での圧延終了温度(仕上げ圧延温度)と冷却開始温度を管理する必要がある。仕上げ圧延温度が700℃未満であると、冷却開始前にフェライトが析出し、所望の強度を得ることができない。また、仕上げ圧延温度が850℃を超えると、冷却前組織が粗大となり、母材靭性が劣化する。
制御冷却は、その前の組織制御が前提となり、そのためには制御圧延での圧延終了温度(仕上げ圧延温度)と冷却開始温度を管理する必要がある。仕上げ圧延温度が700℃未満であると、冷却開始前にフェライトが析出し、所望の強度を得ることができない。また、仕上げ圧延温度が850℃を超えると、冷却前組織が粗大となり、母材靭性が劣化する。
[t/4(t:板厚)の位置における冷却速度が2〜25℃/秒]
圧延後の冷却工程は、組織制御のために重要な工程である。このときの冷却速度が2℃/秒未満では、ベイナイトの面積分率:50%以上を確保できなくなり、強度が不足すると共に、加工硬化量が過大となって耐溶接割れ性が劣化する。また、冷却速度が25℃/秒を超えると、強度が過大となり、母材靭性が劣化する。尚、冷却速度を測定する位置として、t/4(t:板厚)としたのは、鋼板の平均的な性能を発揮する位置だからである。
圧延後の冷却工程は、組織制御のために重要な工程である。このときの冷却速度が2℃/秒未満では、ベイナイトの面積分率:50%以上を確保できなくなり、強度が不足すると共に、加工硬化量が過大となって耐溶接割れ性が劣化する。また、冷却速度が25℃/秒を超えると、強度が過大となり、母材靭性が劣化する。尚、冷却速度を測定する位置として、t/4(t:板厚)としたのは、鋼板の平均的な性能を発揮する位置だからである。
[冷却停止温度:鋼板の表面温度が500℃以下]
冷却停止温度は、強度を変化させる重要な制御因子である。冷却停止温度が500℃を超えると強度が不足すると共に、低転位密度が得られず、曲げ加工による加工硬化量が大きくなり、耐溶接割れ性が劣化することになる。
冷却停止温度は、強度を変化させる重要な制御因子である。冷却停止温度が500℃を超えると強度が不足すると共に、低転位密度が得られず、曲げ加工による加工硬化量が大きくなり、耐溶接割れ性が劣化することになる。
[プレスベンド法によって円形鋼管に成形]
最終的に、鋼板をプレス曲げ法によって、冷間曲げを行って鋼管とする。前述のように、ラインパイプに適用されるような板厚:30mm以下の鋼板であれば、UOE成形法によって円形鋼管が製造されるが、建築構造物用円形鋼管では、板厚が厚く、強度が高い場合には、プレスベンド法(即ち、プレス曲げ加工)によって円形鋼管に成形する必要がある。こうした方法を適用すると、曲げ加工歪が大きくなるため、表面の加工硬化が大きくなる。そのため、上記のように製造した鋼板を用いて、プレス曲げ成形を行うことによって、表面硬さの低い、円形鋼管を製造することができる。
最終的に、鋼板をプレス曲げ法によって、冷間曲げを行って鋼管とする。前述のように、ラインパイプに適用されるような板厚:30mm以下の鋼板であれば、UOE成形法によって円形鋼管が製造されるが、建築構造物用円形鋼管では、板厚が厚く、強度が高い場合には、プレスベンド法(即ち、プレス曲げ加工)によって円形鋼管に成形する必要がある。こうした方法を適用すると、曲げ加工歪が大きくなるため、表面の加工硬化が大きくなる。そのため、上記のように製造した鋼板を用いて、プレス曲げ成形を行うことによって、表面硬さの低い、円形鋼管を製造することができる。
尚、本発明の円形鋼管は、上記したようなSR熱処理を施さなくても使用できるが、たとえSR熱処理を施したとしても、円形鋼管としての要求強度である引張強さTS:590MPa以上を確保することができる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することは勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
[実施例1]
下記表1、2に示す化学成分組成の鋼を通常の溶製方法によって溶製し、鋼片とした後、熱間圧延、加速冷却(圧延後の冷却)、焼き戻しを施し、鋼板を製造した。得られた鋼板を用いて、プレスベンド法によって円形鋼管に成形した。尚、表1、2には、前記(1)式で規定されるPCM値についても示した。このときの製造条件を、下記の通りである。
下記表1、2に示す化学成分組成の鋼を通常の溶製方法によって溶製し、鋼片とした後、熱間圧延、加速冷却(圧延後の冷却)、焼き戻しを施し、鋼板を製造した。得られた鋼板を用いて、プレスベンド法によって円形鋼管に成形した。尚、表1、2には、前記(1)式で規定されるPCM値についても示した。このときの製造条件を、下記の通りである。
[製造条件]
鋳片を1150±10℃に加熱した後、仕上げ圧延温度(表面温度)を850±30℃の範囲として熱間圧延を行ない、板厚:70mmとし、次いでt/4(t:板厚)の位置における冷却速度が5〜15℃/秒に制御し、冷却停止時の表面温度を420±50℃以下とした。更に、450〜650℃の温度範囲で焼戻して鋼板とし、得られ鋼板を用いてプレスベンド法によって円形鋼管に成形した。このときの曲げ加工度は、円形鋼管の直径をD(mm)、鋼板厚さをt(mm)としたとき、D/tが10(t/D=0.1)である。
鋳片を1150±10℃に加熱した後、仕上げ圧延温度(表面温度)を850±30℃の範囲として熱間圧延を行ない、板厚:70mmとし、次いでt/4(t:板厚)の位置における冷却速度が5〜15℃/秒に制御し、冷却停止時の表面温度を420±50℃以下とした。更に、450〜650℃の温度範囲で焼戻して鋼板とし、得られ鋼板を用いてプレスベンド法によって円形鋼管に成形した。このときの曲げ加工度は、円形鋼管の直径をD(mm)、鋼板厚さをt(mm)としたとき、D/tが10(t/D=0.1)である。
得られた各円形鋼管について、鋼管のミクロ組織(ベイナイトの面積分率)および硬さを下記の方法で評価すると共に、材質(降伏応力YS、引張強さTS、降伏比YRおよび靭性vE-20)および溶接性を下記の方法によって評価した。
[ミクロ組織および硬さの測定方法]
ミクロ組織を画像解析により、アスペクト比が3以上のベイナイト相の面積分率を測定すると共に、鋼板表層部のビッカース硬さ(Hv0)と中央部のビッカース硬さ(Hv1)を測定し(荷重:98N)、その硬さ比(Hv0/Hv1)を求めた。このときの硬さHv0、硬さHv1の測定は、厚さ方向に2mm間隔で測定し、その平均値を求めたものである(例えば、表層部のビッカース硬さHv0は、表・裏面の夫々から深さ2mまでの硬さの平均値となる)。
ミクロ組織を画像解析により、アスペクト比が3以上のベイナイト相の面積分率を測定すると共に、鋼板表層部のビッカース硬さ(Hv0)と中央部のビッカース硬さ(Hv1)を測定し(荷重:98N)、その硬さ比(Hv0/Hv1)を求めた。このときの硬さHv0、硬さHv1の測定は、厚さ方向に2mm間隔で測定し、その平均値を求めたものである(例えば、表層部のビッカース硬さHv0は、表・裏面の夫々から深さ2mまでの硬さの平均値となる)。
[降伏応力YS、引張強さTSの評価方法]
円形鋼管の外面側から鋼板のt/4部(tは板厚)における管軸方向(鋼板の主圧延方向に相当)に、JIS Z 2201 4号試験片を採取してJIS Z 2241の要領で引張試験を行ない、鋼管の降伏応力YS(上降伏点YPまたは0.2%耐力σ0.2)、引張強さTS、降伏比YR(降伏応力YS/引張強さTS)を測定した。合格基準は、2回での平均値で、降伏応力YS:500MPa以上、引張強さTS:590〜740MPa、降伏比YR:85%超〜90%以下である。
円形鋼管の外面側から鋼板のt/4部(tは板厚)における管軸方向(鋼板の主圧延方向に相当)に、JIS Z 2201 4号試験片を採取してJIS Z 2241の要領で引張試験を行ない、鋼管の降伏応力YS(上降伏点YPまたは0.2%耐力σ0.2)、引張強さTS、降伏比YR(降伏応力YS/引張強さTS)を測定した。合格基準は、2回での平均値で、降伏応力YS:500MPa以上、引張強さTS:590〜740MPa、降伏比YR:85%超〜90%以下である。
[靭性評価方法]
円形鋼管の外面側から鋼板のt/4部(tは板厚)における管軸方向(鋼板の主圧延方向)に、JIS Z 2204 Vノッチ衝撃試験片を採取してJIS Z 2242に準拠してシャルピー衝撃試験を行ない(3回試験の平均値)、温度:−20℃での平均吸収エネルギーvE-20を測定した。この平均吸収エネルギーvE-20が47J以上を合格と評価した。
円形鋼管の外面側から鋼板のt/4部(tは板厚)における管軸方向(鋼板の主圧延方向)に、JIS Z 2204 Vノッチ衝撃試験片を採取してJIS Z 2242に準拠してシャルピー衝撃試験を行ない(3回試験の平均値)、温度:−20℃での平均吸収エネルギーvE-20を測定した。この平均吸収エネルギーvE-20が47J以上を合格と評価した。
[溶接性(耐溶接割れ性)]
JIS Z 3101に規定された溶接熱影響部(HAZ)の最高硬さ試験に準拠して、円形鋼管の外面側に溶接ビードを置き、浸透探傷試験による表面割れの有無、超音波探傷試験による内部割れの有無について調査した。
JIS Z 3101に規定された溶接熱影響部(HAZ)の最高硬さ試験に準拠して、円形鋼管の外面側に溶接ビードを置き、浸透探傷試験による表面割れの有無、超音波探傷試験による内部割れの有無について調査した。
鋼板のミクロ組成および硬さ分布(鋼板中央部の硬さ、硬さ比)を下記表3、4に、材質(降伏応力YS、引張強さTS、降伏比YRおよび靭性vE-20)および溶接性の評価結果を下記表5、6に示す。尚、下記表5、6には、「溶接性」として、HAZの最高硬さ(Hv)を示した。
これらの結果から、次のように考察できる。まず、鋼No.1〜31のもの(表1、3、5)は、本発明で規定する要件を満足するものであり、全ての特性において目標値を満足するものとなっている(総合評価:○)。
これに対して、鋼No.32〜62のもの(表2、4、6)では、本発明で規定するいずれかの要件を満足しないものであり、少なくともいずれかの要求特性が劣化している(総合評価×)。
[実施例2]
前記表1に示した鋼No.1〜8のもの(化学成分組成が本発明で規定する範囲を満足するもの)を用い、下記表7に示す各種製造条件によって、鋼板を製造した(実験No.1〜15)。得られた鋼板を用いて、プレスベンド法によって円形鋼管に成形した。得られた円形鋼管について、実施例と同様にして材質(降伏応力YS、引張強さTS、降伏比YRおよび靭性vE-20)および溶接性を評価した。
前記表1に示した鋼No.1〜8のもの(化学成分組成が本発明で規定する範囲を満足するもの)を用い、下記表7に示す各種製造条件によって、鋼板を製造した(実験No.1〜15)。得られた鋼板を用いて、プレスベンド法によって円形鋼管に成形した。得られた円形鋼管について、実施例と同様にして材質(降伏応力YS、引張強さTS、降伏比YRおよび靭性vE-20)および溶接性を評価した。
尚、表7の実験No.9、10は鋼片加熱温度が本発明で規定する範囲を外れるもの、実験No.11、12は仕上げ圧延温度が本発明で規定する範囲を外れるもの、実験No.13、14は冷却速度が本発明で規定する範囲を外れるもの、実験No.15は冷却停止温度が本発明で規定する範囲を外れるもの、を夫々示している。
この結果から明らかなように、本発明で規定する要件を満足する円形鋼管を得るためには、製造条件も適切に制御する必要があることが分かる。
Claims (3)
- C:0.01〜0.05%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.05〜0.35%、Mn:1.00〜1.70%、Al:0.015〜0.045%、Ni:0.05〜0.45%、Cr:0.20〜1.50%、Ti:0.008〜0.020%、B:0.0010〜0.0025%、Nb:0.010〜0.030%、Ca:0.0005〜0.0035%、N:0.0035〜0.0060%を夫々含有すると共に、下記(1)式で示されるPCM値が0.20%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、該不可避的不純物のうちP:0.020%以下(0%を含まない)およびS:0.005%以下(0%を含まない)に夫々抑制し、且つ下記(A)〜(C)の要件を満足することを特徴とする耐震性に優れた建築構造用590MPa級高降伏比円形鋼管。
PCM値=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+([B]×5) …(1)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo],[V]および[B]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,VおよびBの含有量(質量%)を示す。
(A)鋼板のミクロ組織は、少なくともアスペクト比が3以上のベイナイトの面積分率が50%以上であり、転位密度ρが1.0×105(m-2)以上、6.0×105(m-2)以下である、
(B)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部を除く中央部の平均ビッカース硬さHvが180〜280である、
(C)鋼板の表・裏面の夫々から深さ2mmまでの表層部の平均ビッカース硬さHvが、前記中央部の平均ビッカース硬さHvの1.4倍以下である。 - 更に、Cu:0.05〜0.45%、V:0.005〜0.050%およびMo:0.05〜0.35%よりなる群から選ばれる1種以上を含有するものである請求項1に記載の円形鋼管。
- 請求項1または2に記載の円形鋼管を製造するに当り、前記化学成分からなる鋳片を950〜1200℃に加熱した後、仕上げ圧延温度を700〜850℃の範囲として熱間圧延を行なって所定の板厚とし、次いでt/4(t:板厚)の位置における冷却速度が2〜25℃/秒で、表面温度が500℃以下となるまで水冷して鋼板とし、得られた鋼板を用いてプレスベンド法によって円形鋼管に成形することを特徴とする建築構造用590MPa級高降伏比円形鋼管の製造方法。
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