JP3917084B2 - ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤおよびその溶接方法 - Google Patents

ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤおよびその溶接方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として590MPa級高張力鋼に使用するガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤおよびその溶接方法に係り、特に大入熱および高パス間温度の溶接施工条件で多層盛溶接を行っても、溶接金属の機械的性質に優れたガスシールドアーク溶接用ワイヤおよびその溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガスシールドアーク溶接は、従来から高能率で母材への溶け込みが良好であり、また機械的性質に優れた溶接継手が得られることから、建築、鉄骨、橋梁等の大型構造物に広く使用されている。近年、更なる溶接効率の向上から、溶接入熱を大きくするとともに次の溶接パスまでの溶接部を過度に冷却することなく溶接を行う、いわゆる大入熱・高パス間温度での溶接施工方法が求められている。しかし、JIS Z3312 YGW11の溶接ワイヤでは溶接入熱量15〜30kJ/cm、パス間温度最大250℃での溶接施工が一般的であり、前記大入熱・高パス間温度での溶接施工方法では溶接金属の強度が低下したり、靱性が劣化する。
【0003】
大入熱・高パス間の溶接施工方法に対応するため、溶接入熱量40kJ/cm、パス間温度350℃の溶接施工条件下においても、例えば、特開平10−230387号公報(特許文献1)、特開平11−90678号公報(特許文献2)および特開平11−104886号公報(特許文献3)にあるように、ワイヤ中にTi、Bを添加することにより490MPa級高張力鋼板に対し、良好な溶接金属の機械的性質が得られる大入熱、高パス間温度溶接用ワイヤおよび溶接方法が提案されている。しかしながら、上記の溶接用ワイヤおよび溶接方法は、いずれも490MPa級高張力鋼を対象としたものであり、近年の更なる大型化、高強度化に伴う、590MPa級高張力鋼を大入熱かつ高パス間温度の施工条件下で多層盛溶接を行った場合、所定の溶接金属の機械的性質が確保できないという問題がある。
【0004】
【引用文献】
(1)特許文献1(特開平10−230387号公報)
(2)特許文献2(特開平11−90678号公報)
(3)特許文献3(特開平11−104886号公報)
(4)特許文献4(特開平11−239892号公報)
(5)特許文献5(特開2001−287068号公報)
(6)特許文献6(特開2002−79395号公報)
(7)特許文献7(特開2002−103082号公報)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、溶接入熱量30〜40kJ/cm、パス間温度250〜350℃の溶接施工条件で多層盛溶接する場合においても、溶接金属の強度および靱性が確保できる590MPa級高張力鋼を対象としたガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤおよびその溶接方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいて、質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.7〜1.1%、Mn:2.0〜2.6%、Mo:0.15〜0.55%、Ti:0.15〜0.30%、Ni:0.02〜0.50%、B:0.005〜0.012%、Al:0.020%以下、O:0.002〜0.015%、N:0.010%以下、さらにVおよびNbの1種類以上を0.005〜0.05%含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつ下記(1)式で示すTmpが0.7〜1.2、(2)式で示すKejが0.2以上であることを特徴とする。
また、590Mpa級高張力鋼を溶接入熱量30〜40kJ/cm、パス間温度250〜350℃の溶接施工条件で、前記ガスシールドアーク溶接用ワイヤを用いて多層溶接することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法にある。
Tmp=C+Si/24+Mn/6+Mo/4+Ti/16+8×(V+Nb)+18×B・・・(1)式
Kej=Si/10+Mn/20+Mo/4+Ti/20+20×B−32×N・・・(2)式
【0007】
【発明の実態の形態】
従来、490MPa級高張力鋼板溶接用ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤは、JIS Z3312 YGW18の規格化にともない、溶接入熱量40kJ/cm、パス間温度350℃の溶接が可能となったが、590MPa級高張力鋼は大入熱・高パス間温度での溶接施工が不可能であった。そこで、590MPa級高張力鋼に対し、溶接入熱量30〜40kJ/cm、パス間温度250〜350℃で多層盛溶接する場合においても、590MPa以上の強度およびー5℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上を達成するためにはワイヤ成分について本質的な工夫が必要となる。
【0008】
本発明者らは、上記従来の問題点を解決するため、590MPa級高張力鋼に対し、溶接効率の高い、溶接入熱量30〜40kJ/cm、パス間温度250〜350℃の多層盛溶接においても優れた溶接金属性能が得られる溶接技術を探求した。一般に、溶接入熱量40kJ/cmで溶接を行えば、溶着量の増加による溶接工数の低減が図れ、パス間温度350℃での溶接施工が可能となれば、次のパスまでの溶接待ち時間が低減し、溶接効率の向上に大きな効果がある。この点に着目し、溶接金属の強度、靭性等の機械的性質に優れた多層盛溶接用のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ成分および溶接施工方法について種々検討した。その結果、ワイヤの成分を適切にすることによって、590MPa級高張力鋼板を、溶接入熱量30〜40kJ/cm、パス間温度250〜350℃の溶接施工が可能となるガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤおよびそれを用いた溶接方法を見出した。
【0009】
以下に、本発明のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤの成分組成を限定した理由について説明する。
Cは、溶接金属の引張強度を高める元素である。大入熱・高パス間温度での溶接施工において、溶接金属に必要な強度(590MPa以上)を得るためには、少なくとも0.05質量%(以下、%という。)以上含有させる必要がある。しかし、0.15%を超えると、靭性が低下し、溶接部に割れが発生する場合がある。したがって、C含有量は、0.05〜0.15%とする。
【0010】
Siは、脱酸剤であり、酸素量を低下させ靱性向上に必要な元素である。特に、大入熱・高パス間温度での溶接施工においては、Siの消耗量が激しいため、含有量を高める必要がある。0.7%未満では、強度および靭性を低下させ、脱酸不足となりブローホールが発生する場合がある。しかし、1.1%を超えると靭性が低下する。したがって、Si含有量は、0.7〜1.1%とする。
【0011】
Mnは、溶接金属の引張強度を高める元素であり、また、脱酸剤で靱性を高める元素である。大入熱・高パス間温度での溶接施工においては、溶接金属に必要な強度(590MPa以上)を得るため、また、脱酸剤としての消耗量が激しいため、含有量を高める必要がある。2.0%未満では焼き入れ性が低下し、靭性が低下するとともに、脱酸不足となりブローホールが発生する場合がある。しかし、2.6%を超えると溶接金属が硬化して靱性が低下する。したがって、Mn含有量は、2.0〜2.6%とする。
【0012】
Moは、オーステナイトの粗大化を抑制し、オーステナイト粒径を微細化するとともに焼き入れ性が向上する元素であり、溶接金属の引張強度および靭性を高める。0.15%未満では、結晶粒の粗大化により靭性が低下し、また、強度不足となる。しかし、0.55%を超えると溶接金属が硬化して靱性が低下する。したがって、Mo含有量は、0.15〜0.55%とする。
Ti、は脱酸剤として作用するとともに、溶接金属中にTi酸化物を生成し、これが、フェライト生成核となり、粒内に微細なフェライト組織であるアシュキュラーフェライト組織を形成して靱性を向上させる。0.15%未満ではこの効果が得られない。また、0.30%を超えると溶接金属は脆化して靱性が劣化する。したがって、Ti含有量は、0.15〜0.30%とする。
【0013】
Niは、オーステナイトの安定化元素であり、溶接金属中のフェライトマトリックスの靭性を向上させる元素である。0.02%未満では効果がなく、0.50%を超えるとオーステナイト粒が粗大化し靱性が低下する。したがって、Ni含有量は、0.02〜0.50%とする。
Bは、オーステナイトから生成する粒界フェライトの発生を抑え、靱性を向上させる元素である。0.005%未満では効果がなく、0.012%を超えると溶接金属に高温割れが発生し易くなる。したがって、B含有量は、0.005〜0.012%とする。
【0014】
Alは、脱酸剤として溶鋼に添加する元素である。しかし、0.020%を超えると溶接金属の靱性が低下する。したがって、Al含有量は、0.020%以下とする。
Oは、アークを安定させるとともに溶滴の表面張力を低下させる元素でビード形状を良好する。0.002%未満ではアークが不安定でビード形状も不良となる。0.015%を超えるとア−ク不安定を引き起こす。したがって、O含有量は、0.002〜0.015%とする。
【0015】
Nは、TiおよびBを窒化物として固定化し、微細粒フェライトの発生を低下させ、溶接金属の靭性を劣化させる元素であり、できるだけ低くすることが望ましい。したがって、N含有量は、0.010%以下とする。
VおよびNbは、大入熱・高パス間温度での溶接施工において、溶接金属に必要な強度(590MPa以上)を得るために必要な元素であり、また、微細な炭窒化物を形成し、溶接金属のオーステナイトから生成する粒界フェライトの発生を抑え、靱性を向上させる元素である。この効果を得るために、1種以上の合計で少なくとも0.005%以上含有させる必要がある。しかし、1種以上の合計で0.05%を超えると、脆化による靭性の低下や溶接部に高温割れが発生する場合がある。したがって、VおよびNb含有量は、1種以上の合計で、0.005〜0.05%とする。
【0016】
Tmpは、下記(1)式で得られる大入熱・高パス間温度での溶接施工で溶接金属に必要な強度(590MPa以上)を得るための強度確保の値である。種々の成分組成を有するワイヤを用いて、590MPa級高張力鋼を溶接入熱量40kJ/cm、パス間温度350℃の溶接で得られた溶接金属の引張試験を行い、ワイヤの成分元素と引張強さとの関係を調査した。その結果、図1に示すように、Tmpが0.7未満では強度が不足する。一方、1.2を超えると過剰な強度となり割れが発生する場合がある。したがって、Tmpは0.7〜1.2とする。
【0017】
Kejは、下記(2)式で得られる大入熱・高パス間温度での溶接施工で溶接金属が高靭性(−5℃でのシャルピー吸収エネルギー100J以上)を得るための靭性確保の値である。種々の成分組成を有するワイヤを用いて、590MPa級高張力鋼を溶接入熱量40kJ/cm、パス間温度350℃の溶接で得られた溶接金属の衝撃試験を行い、ワイヤの成分元素とシャルピー吸収エネルギーとの関係を調査した。その結果、図2に示すように、Kejが0.2未満では靭性が低下した。したがって、Kejは0.2以上とする。
Tmp=C+Si/24+Mn/6+Mo/4+Ti/16+8×(V+Nb)+18×B・・・(1)式
Kej=Si/10+Mn/20+Mo/4+Ti/20+20×B−32×N・・・(2)式
【0018】
溶接入熱量は、大きくなれば1パス毎の溶着量が増加し、溶接工数の低減が図れ、溶接効率が向上する。しかし、40kJ/cmを超える溶接入熱量で溶接を行えば、溶接金属の冷却速度が遅くなって、溶接金属の組織が粗大化し、強度および靭性が低下する。また、溶接金属部で融合不良、スラグ巻き込み、高温割れが発生し易くなる。一方、溶接入熱量が30kJ/cm未満であると、溶接能率の向上が得られず、また、溶接金属の強度が高くなり、低温割れ感受性も高くなる。したがって、溶接入熱量は30〜40kJ/cmとする。
【0019】
パス間温度は、高くなれば次のパスまでの溶接待ち時間が低減し、溶接効率が向上する。しかし、350℃を超えるパス間温度で溶接を行えば、溶接金属の冷却速度が遅くなり、溶接金属の組織が粗大化し、強度および靭性が低下する。一方、パス間温度が250℃未満であると、溶接能率の向上が得られず、また、溶接金属の強度が高くなり、低温割れ感受性も高くなる。したがって、パス間温度は250〜350℃とする。
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
(実施例1)
まず、表1に示す各種成分の1.4mm径の試作ワイヤを使用し、表2に示す成分の鋼板(鋼種:SA440、厚さ:40mm)を、図3の開先形状(試験板幅:400mm、溶接長:400mm)にして、表3に示す溶接施工条件の条件No.1で多層盛溶接した。溶接金属の機械的性質は引張試験片(JIS Z2201 A1号)およびシャルピー衝撃試験片(JIS Z2242 4号)を板表面から10mmを中心に採取して作成した。
なお、パス間温度を維持するために試験体下部から加熱しながら温度をコントロールして溶接した。引張強さは590MPa以上、シャルピー衝撃値は試験温度−5℃で5本の値の最低値で100J以上を良好とした。それらの結果を表4にまとめて示す。
【0021】
【表1】
Figure 0003917084
【0022】
【表2】
Figure 0003917084
【0023】
【表3】
Figure 0003917084
【0024】
【表4】
Figure 0003917084
【0025】
表4において、試験No.1〜9は本発明例、試験No.10〜31は比較例である。本発明例である試験No.1〜9のワイヤ記号A1〜A9はワイヤ化学成分、Tmp、Kejの値が適正であるので、溶接金属の強度および衝撃値が良好で、溶接欠陥がなく高能率に溶接でき極めて満足な結果であった。
比較例中試験No.10は、ワイヤA10のC値が低いので、引張強さが低くなった。試験No.11は、ワイヤA11のCが高く、試験No.15は、ワイヤA15のMnが高く、試験No.17は、ワイヤA17のMoが高く、試験No.24は、ワイヤA24のV+Nbが高いので、いずれも強度が過剰となり衝撃値が低くなった。
【0026】
試験No.12は、ワイヤA12のSiが低く、試験No.14は、ワイヤA14のMnが低く、試験No.16は、ワイヤA16のMoが低く、試験No.23は、ワイヤA23のV+Nbが低く、試験No.30は、ワイヤA30のTmpおよびKejが低いので、いずれも引張強さ及び衝撃値が低くなった。試験No.13は、ワイヤA13のSiが高く、試験No.18は、ワイヤA18のTiが低く、試験No.19は、ワイヤA19のTiが高く、試験No.20は、ワイヤA20のNiが低く、試験No.21は、ワイヤA21のNiが高く、試験No.22は、ワイヤA22のAlが高く、試験No.25は、ワイヤA25のBが低く、試験No.29は、ワイヤA29のNが高いので、いずれも衝撃値が低くなった。試験No.26は、ワイヤA26のBが高く、試験No.31は、ワイヤA31のTmpが高いので、強度が過剰となるとともにクレータ部に高温割れが発生した。試験No.27は、ワイヤA27のOが低く、試験No.28はワイヤA28のOが高いので、ア−クが不安定になった。
【0027】
(実施例2)
実施例1と同じ開先形状の鋼板にワイヤA5,A6,A7,A9で、表3に示す溶接施工条件の条件2〜6で多層盛り溶接した。溶接金属の機械的性質の調査は実施例1と同様に実施した。その結果を表5に示す。表5中試験No.32は、溶接施工条件No.2のパス間温度が低いので、次層までのパス間温度待ち時間が長く溶接能率が悪かった。試験No.33は、溶接施工条件No.3のパス間温度が高いので、強度および靱性が低下した。試験No.34は、溶接施工条件No.4の溶接入熱量が高いので、強度および靱性が低下した。さらに、1層目に高温割れが生じた。試験No.35は、溶接施工条件No.5の溶接入熱量およびパス間温度が適正であるので、溶接金属の強度および衝撃値が良好で、溶接欠陥がなく高能率に溶接でき極めて満足な結果であった。試験No.36は、溶接施工条件No.6の溶接入熱量が低いので、溶接時間が長くなり溶接能率が悪かった。
【0028】
【表5】
Figure 0003917084
【0029】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明のガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤおよびその溶接方法によれば、590MPa級高張力鋼を溶接入熱量30〜40kJ/cm、パス間温度250〜350℃で多層盛溶接する場合においても、強度および靱性が優れた溶接金属が得られ、溶接作業効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Tmpと引張強さの関係を示す図である。
【図2】Kejとシャルピ−衝撃値の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例に用いた試験板の開先形状を示す図である。

Claims (2)

  1. ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤにおいて、質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.7〜1.1%、Mn:2.0〜2.6%、Mo:0.15〜0.55%、Ti:0.15〜0.30%、Ni:0.02〜0.50%、B:0.005〜0.012%、Al:0.020%以下、O:0.002〜0.015%、N:0.010%以下、さらにVおよびNbの1種類以上を0.005〜0.05%含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ下記(1)式で示すTmpが0.7〜1.2、(2)式で示すKejが0.2以上であることを特徴とするガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ。
    Tmp=C+Si/24+Mn/6+Mo/4+Ti/16+8×(V+Nb)+18×B・・・(1)式
    Kej=Si/10+Mn/20+Mo/4+Ti/20+20×B−32×N・・・(2)式
  2. 590MPa級高張力鋼を溶接入熱量30〜40kJ/cm、パス間温度250〜350℃の溶接施工条件で、請求項1記載のワイヤを用いて多層溶接することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
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