JP6453109B2 - 通しダイヤフラム溶接継手構造体、通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法 - Google Patents

通しダイヤフラム溶接継手構造体、通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、溶接継手を具備する溶接継手構造体、及びその製造方法に関し、特にレ形開先(single bevel groove weld)による通しダイヤフラム溶接継手による角形鋼管柱である、通しダイヤフラム溶接継手構造体、及びその製造方法に関する。
角形鋼管の小口(端面)とダイヤフラムの面とを付き合わせて全周に亘ってT字形継手で溶接して通しダイヤフラム溶接継手構造体(角形鋼管柱)とする。この溶接部に引張応力がかかった場合、破壊が溶接金属ではなく母材である角形鋼管側から先に発生するように、溶接金属側の変形抵抗を高めている。すなわち、溶接金属材料は、母材強度と同等以上の強度をもつ溶接金属材料を使用する。例えば、400N/mm級の母材に対しては、490N/mm級の溶接金属材料を使用し、490N/mm級の母材に対しては、490N/mm級または550N/mm級の溶接金属材料を使用することが多い。
溶接部に完全溶け込み溶接を用いる際、開先を設けて溶接金属を充填する。たとえば、レ形開先又はV形開先の場合、開先角度はJASS6(建築工事標準仕様書、日本建築学会)で35°、AWS(アメリカ溶接協会)で30°以上45°以下を推奨している。また、溶接部で完全溶け込み溶接を用いる際、溶接金属は適切な余盛り高さを設けることとしている。たとえば上記JASS6ではT字形継手の場合、余盛り高さは、突き合わせる材料の板厚の1/4倍以上とし、板厚が40mmを超える場合は10mm以上としている。
鋼材の場合、降伏強度及び引張強さは材料規格で上下限値が設定されているが、従来の溶接金属材料の選定方法に従うと、溶接金属材料の強度が母材強度を下回り(アンダーマッチング)、溶接金属側で破壊が先行する可能性がある。例えば490N/mm級の母材の規格の引張強さ上限は610N/mmなので、550N/mm級の溶接金属材料を用いると母材強度が溶接金属強度を上回る場合がある。さらには、冷間加工した材料を用いる場合にも材料強度が加工硬化により上昇しており、規格強度を上回る場合があるので溶接金属材料より母材の引張強さが高くなる可能性がある。特に角形鋼管の角部では加工硬化により材料強度が上昇しており、その傾向が強まると言える。
さらに、図17に示したように例えば柱70に梁71を溶接金属72で溶接すると、溶接金属72と母材(この場合には梁71)との境界部73(Fusion Line)に沿って、ハッチングで示した部分XVのように、所定の幅を有してHeat Affected Zone(HAZ、溶接熱影響部)が生じる。特に加速冷却等により圧延時の細粒化で高強度化した鋼板において、HAZは溶接熱によってオーステナイト化温度より高温となるため、母材の組織が残存せず母材に比べ強度が低下する場合がある。ダイヤフラムと角形鋼管との溶接部でも同様である。
これに対してアンダーマッチングやHAZの軟化を許容することに関連する溶接方法の従来技術として、特許文献1乃至5がある。
特許文献1、2は、大入熱の突き合わせ溶接を対象に、溶接金属のマッチング条件をHvwm/Hvbm≦110%とすると、FLのディープノッチ試験において高い破壊靭性値Kcを確保できるという技術である。特にビード幅を板厚の70%以下とすれば、70%≦Hvwm/Hvbm≦110%のアンダーマッチングでも継手の引張強さを確保できる。
特許文献3は、溶接継手の応力集中部において、発生した延性き裂の進展に伴い生じるくびれによる断面積減少を、鋼材の加工硬化特性(n値)を高めることで防止することができ、許容欠陥寸法を大きくできる技術である。
特許文献4は、溶接継手の母材および溶接熱影響部の板厚表面の降伏応力YPsと内部の降伏応力YPcの比(YPs/YPc)を1.3以下とすることで、板厚中心の変形拘束が高くなりすぎないようにし、全厚の脆性破壊発生特性Kc、アレスト性Kcaともに高い値を確保する技術である。
特許文献5は、9%Ni鋼に限定し、オーステナイト系の溶接金属は極低温下でも脆性破壊がきわめて生じ難いことから、溶接金属をHAZに対してアンダーマッチング(Hvを規定)として溶接金属内に延性き裂を発生・進展させ、極低温でも脆性破壊に対して高い安全性を持つ溶接継手を実現する技術である。ただし、ΔHvが200を超えるアンダーマッチングの場合、溶接金属の靭性(CTOD)が低下することから、0≦ΔHv≦200と規定している。
特開2005−125348号公報 特開2005−144552号公報 特開2013−39605号公報 特開2007−254767号公報 特開2007−119811号公報
しかしながら、これらアンダーマッチング溶接やHAZの軟化を許容することに関連する従来技術は、いずれもアンダーマッチングとなる溶接部内の破壊を前提とし、該溶接部の破壊靭性を高めるためのものであり、本来あるべき態様である母材を破壊させるという視点からの解決策は提案されていない。特に母材が角形鋼管であり、ダイヤフラムを用いた通しダイヤフラム溶接継手の場合には、角形鋼管の角部で材料強度が高くなっており、構造上この角部からの破壊が多いことを鑑みると、上記のように適切な解決案が提案されていないことはさらに大きな問題となる。
そこで本発明は、通しダイヤフラム溶接継手を具備する通しダイヤフラム溶接継手構造体において、アンダーマッチングであっても溶接金属部で破壊が生じることを防止できる、通しダイヤフラム溶接継手構造体を提供することを課題とする。また、通しダイヤフラム溶接継手構造体を製造する方法を提供する。
以下、本発明について説明する。
請求項1に記載の発明は、通しダイヤフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイヤフラム溶接継手構造体であって、溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσ(N/mm)、角形鋼管の角部の引張強さをcBMσ(N/mm)、及び角形鋼管の角部の厚さをt(mm)としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たす通しダイヤフラム溶接継手構造体。
ただし、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体において、溶接金属のビッカース硬さをWMHv、角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(4)、式(5)が成り立つ。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体において、角形鋼管を構成する材料の、角形鋼管とする前における引張強さをfBMσ(N/mm)としたとき、さらに下記式(6)が成り立つ。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体において、溶接熱影響部の引張強さをHAZσ(N/mm)としたとき、下式(7)を満たす。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体において、溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(8)、式(9)が成り立つ。
請求項6に記載の発明は、通しダイヤフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイヤフラム溶接継手構造体を製造する方法であって、溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσ(N/mm)、角形鋼管の角部の引張強さをcBMσ(N/mm)、及び角形鋼管の角部の厚さをt(mm)として下記式(1)及び式(2)を満たすように設計し、これにより溶接をおこなう通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法である。
ただし、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法において、溶接金属のビッカース硬さをWMHv、角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、WMσ(N/mm)、cBMσ(N/mm)を下記式(4)、式(5)により求める。
請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法において、角形鋼管を構成する材料の、角形鋼管とする前における引張強さをfBMσ(N/mm)としたとき、さらに下記式(6)によりcBMσ(N/mm)を求める。
請求項9に記載の発明は、請求項6乃至8のいずれかに記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法において、溶接熱影響部の引張強さをHAZσ(N/mm)としたとき、下式(7)を満たすように溶接を行う。
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法において、溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(8)、式(9)により、HAZσ(N/mm)及びcBMσ(N/mm)を求める。
本発明によれば、一律にオーバーマッチング溶接を設定する従来の常識にとらわれずに、特に破壊の起点になることが多い角形鋼管の角部においても、上記関係を満たす限りアンダーマッチング溶接でも母材(角形鋼管)から破壊させることができる。すなわち、例えアンダーマッチング溶接であっても、母材に比較して靭性が低い溶接部に変形が集中するのを避けることで、粘り強い溶接継手を実現できる。
図1(a)は通しダイヤフラム溶接継手構造体10の外観斜視図、図1(b)は鋼管角部における溶接部を拡大して表した図である。 通しダイヤフラム溶接継手構造体10の平面図である。 通しダイヤフラム溶接継手構造体10の断面を示す図である。 通しダイヤフラム溶接継手構造体10の他の断面を示す図である。 溶接部20の一部を拡大した図である。 鋼管角部11aを説明する図である。 溶接角部20aについて説明する図である。 冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さと鋼管角部の引張強さとの関係を説明する図である。 n−t−w座標系を表した図である。 溶接部20をモデル化した図である。 図11(a)は母材の破壊に用いるモデルを説明する図で、2次元の座標系、図11(b)はそのn−t−w直交座標系による表示である。 図12(a)は溶接金属の破壊に用いるモデルを説明する図で、2次元の座標系、図12(b)はそのn−t−w直交座標系による表示である。 本発明の効果を説明する1つの例を説明する図で、横軸に開先角度、縦軸にWMσcBMσをとったグラフである。 本発明の効果を説明する他の1つの例を説明する図で、横軸に余盛り高さ/板厚、縦軸にWMσcBMσをとったグラフである。 溶接金属に関する1つの実験例を説明する図で、横軸にcBMσ、縦軸にWMσをとったグラフである。 HAZに関する1つの実験例を説明する図で、横軸にcBMσ、縦軸にHAZσをとったグラフである。 溶接熱影響部(HAZ)について説明する図である。
以下本発明を図面に示す形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら形態に限定されるものではない。
図1(a)は形態の1つの例を説明する図で、通しダイヤフラム溶接継手構造体10の外観を模式的に表した斜視図である。図1(b)は図1(a)に矢印Ibで示した部位(溶接部20)を拡大して表した図である。図2は通しダイヤフラム溶接継手構造体10を図1(a)に矢印IIで示した方向から見た図であり、ダイヤフラム14が平面視される方向から見た図である。図3は図2のIII−IIIに沿った断面図、図4は図2のIV−IVに沿った断面図である。
図1〜図4よりわかるように、本形態では通しダイヤフラム溶接継手構造体10は、角形鋼管11、サイコロ(タイコと呼ばれることもある。)12、梁13、ダイヤフラム14、裏当て金15を有して構成されている。ここからわかるように本形態で通しダイヤフラム溶接構造体10は通しダイヤフラム形式の溶接継手を用いた角形鋼管柱である。
通しダイヤフラム溶接継手構造体10は、同軸に配置された2つの角形鋼管11の向かい合う端面(小口)間に、サイコロ12が配置される。サイコロ12も形状としては角形鋼管である。これによりサイコロ12の端面と角形鋼管柱11の端面とが対向する部位が2か所形成されるが、ここにそれぞれダイヤフラム14が備えられる。ダイヤフラム14は角形鋼管11及びサイコロ12よりも大きな外形を有する板状の鋼材であり、その一方の板面が角形鋼管柱11の端面に溶接され、他方の板面がサイコロ12の端面に溶接されている。従って、図1〜図4よりわかるように、角形鋼管11及びサイコロ12の外周からダイヤフラム14の外周が突出した形態となる。
次に角形鋼管11、サイコロ12、及びダイヤフラム14による溶接継手について説明する。図5は図4にVで示した部位、すなわち角形鋼管11の角部における溶接継手部分を拡大した図である。
図1〜図5よりわかるように、本形態の通しダイヤフラム溶接継手構造体10の溶接継手では、角形鋼管11の内側とダイヤフラム14の板面との入隅部、及びサイコロ12の内側とダイヤフラム14の板面との入隅部には裏当て金15が配置されている。
そしてダイヤフラム14の表裏面では角形鋼管11、及びサイコロ12の端面が付き当てられているT字となった部位で溶接金属21により溶接されて溶接部20が形成されている。この溶接部20は突き当てられた部位の全線(全周)に亘って設けられている。上記した裏当て金15はこの溶接金属21を配置する際に用いられる裏当て金である。
溶接部20のうち、角部における構成について説明する。ここで「角部」は次のように考える。
角形鋼管11は断面形状が正方形であるが、実際には図2からもわかるように、当該正方形の四隅ではいわゆるR(アール)が形成されており、円弧状となっている。図6には図2にVIで示した1つの当該隅を拡大した図を表した。
ここで、図6に示したように角形鋼管11の板厚の中心線Cにおいて、形成された円弧の中心をOで表し、円弧が形成されなかった場合における正方形の頂点をAとしたとき、線OAを挟んで一方及び他方にそれぞれ32.5°となる範囲(合計65°)の部位を角形鋼管11の角部11a(鋼管角部11a)とする。そして、当該鋼管角部11aに位置づけられる溶接部20を、溶接部20における角部20a(溶接角部20a)とする。
ここで鋼管角部11aの曲率半径は特に限定されることはないが、鋼管角部11aの外側における曲率半径をr、鋼管の板厚をt(mm)としたとき、冷間プレス成形する角形鋼管では、6≦t≦9では3.0t≦r≦4.0t、19<tでは3.1t≦r≦3.9tで管理される。一方冷間ロールで成形される角形鋼管では2.0t≦r≦3.0tで管理されている。
本発明ではこの鋼管角部11a、及び溶接角部20aにおいて以下に説明する特徴を有している。図7に図5と同じ視点で表した1つの溶接角部20a周辺に注目した図を表した。ただし図7では便宜上図5と図の向きが異なる。この図からわかるように、鋼管角部11aである母材は、その端面はダイヤフラム14の一方の面に対して傾斜しており、レ形開先が形成されている。そしてダイヤフラム14と鋼管角部11aの端面との間に溶接金属21が介在して接合されている。このとき次の形状、及び値を定義する。
鋼管角部厚さ:t(mm)
余盛り高さ:e(mm)
ルートギャップ:g(mm)
開先角度:α(°)(0°≦α<90°)
鋼管角部の引張強さ:cBMσ(N/mm
溶接金属の引張強さ:WMσ(N/mm
そして本発明では式(1)乃至式(3)が成立する。
ここで、式(1)中のβ(°)は溶接金属における破壊の生じる角度を表し、0≦β≦αであるから、βは下式を満たすβ’、及びαのうち小さい方の値をとる。
式(1)乃至式(3)は、後でその導出について説明するが、鋼管角部において溶接金属で破壊することなく母材(鋼管角部)で破壊するための溶接金属の必要な強度を表わす。これによれば、通しダイヤフラム溶接継手構造体10において、多くの場合において破壊の起点となる角部において、破壊が生じる場合であっても、溶接金属で破壊されることに先んじて、母材(鋼管角部)から破壊を生じさせることができる。そして、式(2)に表れているように、アンダーマッチング又はイーブンマッチング(母材強度と溶接金属強度が等しい場合)であっても、式(1)を満たすことによって、当該母材からの破壊が可能となる。従って、これを満たす限りにおいて公知の材料、及び公知の溶接条件を適用することができ、溶接に関する規制、管理をより緩和することが可能となる。このことは、より適切な溶接を行う信頼性を向上させることも意味する。そしてその際にも溶接金属の破壊靱性を向上させる等の特別な措置を必要としない。例えば必要以上に高強度で高価な溶接金属を適用しなくてもよい。
ここで、より簡便に鋼管角部11aの引張強さcBMσ(N/mm)、溶接金属の引張強さWMσ(N/mm)を得る手段として、それぞれのビッカース硬さからの算出を挙げることができる。具体的には式(4)、式(5)を演算すればよい。式(4)、式(5)は、文献(SAE International,SAE J 417,1983)のビッカース硬さHvと引張強さの換算表をもとに、Hvと引張強さを関係式で表わしたものである。
式中のWMは溶接金属21のビッカース硬さ(Hv)であり、cBMHvは鋼管角部のビッカース硬さ(Hv)である。またビッカース硬さの測定は、鋼管角部11a、溶接角部20aの溶接金属21の外側表面から深さ2mmの位置でJIS Z2244:2009に基づきおこなった値を用いる。
さらに、鋼管角部11aの引張強さcBMσ(N/mm)を得る他の手段として、実際にJIS Z2241:2011に準拠して鋼管角部における引張強さを得ることもできるが、冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さfBMσ(N/mm)から下記式(6)を用いて求めることもできる。すなわち角形鋼管を形成する素材の引張強さから鋼管角部の引張強さを得る。
この式(6)は次のようにして得た。すなわち、JIS Z2241:2011に準拠して冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さfBMσ(N/mm)を測定し、この鋼材を使って角形鋼管を製作する。この製作された角形鋼管についてJIS Z2241:2011に準拠して鋼管角部の引張強さcBMσ(N/mm)を測定し、fBMσ(N/mm)と対比する。表1に条件及び結果、図8に結果のグラフを示した。
表1において、各試験体の材質、板厚、及び機械的質を表した。
また図8のグラフは横軸に冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さfBMσ(N/mm)、縦軸に鋼管角部の引張強さcBMσ(N/mm)を取った。
図8に示したように表1の結果に基づいて最小二乗法により破線で示した式(6’)を得る。これに対して構造物としての安全側を考慮し、式(6’)と各測定値との誤差の標準偏差σを考慮して式(6’)に対して2σを加算し、これを式(6)とした。
以上によれば、通しダイヤフラム溶接継手構造体10において、その角部について上記式(1)、式(2)を満たすように溶接継手を設計し、これに基づいて溶接する溶接継手の製造方法を提供することができる。さらに、外表面から2mm内面側の位置でJIS Z2244:2009に基づき溶接金属および鋼管角部のビッカース硬さを測定し、その測定値の最小値から式(4)、式(5)によりそれぞれの引張強さを求めて、上記設計をすることもできる。または、式(6)を用いて鋼管角部の引張強さを冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さから求めた場合には、鋼管角部の引張強さ及びビッカース硬さ測定を行う必要もない。
さらに、HAZに沿う破壊を想定する場合、式(1)において溶接金属引張強さWMσの代わりにHAZの引張強さHAZσを用い、破壊の角度βは開先角度αに一致することから、HAZで破壊することなく母材で破壊するためのHAZの必要な強度として、下式(7)が成立する。
この式(7)を満たすことにより、角部においてアンダーマッチング溶接でかつHAZが軟化していても、この関係を満たす限り母材破壊させることができる。すなわち、角部において例えアンダーマッチング溶接でかつHAZが軟化していても、母材に比較して靭性が低い溶接部に変形が集中するのを避けることで、粘り強い溶接継手を実現できる。
ここで、より簡便に鋼管角部の引張強さcBMσ(N/mm)、HAZの引張強さHAZσ(N/mm)を得る手段として、それぞれのビッカース硬さからの算出を挙げることができる。具体的には、外表面から2mm内面側の位置でJIS Z2244:2009に基づきビッカース硬さ試験を行い、その測定値の最小値から式(8)、式(9)を演算すればよい。
次に、式(1)乃至式(3)の根拠について説明する。すなわち、溶接金属で破壊することなく、母材である鋼管角部で破壊するための各部が備えるべき強度を極限解析により求めた。
ここでは、以下の(i)乃至(iv)を前提とする。
(i)Von Misesの降伏条件における降伏応力σを、単軸引張試験から得られる引張強さσに置き換えた式(10)の破壊条件が成り立つ。
ここで、σ、σ、σは3次元応力状態の主応力である。さらに、式(10)の破壊条件を任意の座標系に対する応力で記述するため、図9に示したn−t−w直交座標系を設定すると、各座標の6つの応力成分(σ、σ、σ、τnt、τtw、τwn)を用いて式(11)で表わされる。
(ii)溶接長さはそのビード幅に比べて十分大きく、破壊面での溶接線方向の伸縮は生じないものとする。すなわち、溶接線方向の垂直ひずみは0とする。
(iii)継手には軸方向の引張力のみが作用しているものとする。
(iv)図10に示した溶接部のように溶接部はレ形開先、開先角度α(°)、ルートギャップg(mm)、ルートフェースは0(mm)、余盛り高さはe(mm)とする。
次に、母材(鋼管角部)の破壊、及び溶接金属の破壊の2つについて、それぞれ破壊機構を仮定し、モデル化したうえで最大耐力を算出し、関係式を導く。以下にそれぞれについて説明する。
<母材の破壊>
図11に母材の破壊に用いるモデルを示した。もととなる形状は図10の通りである。図11(a)は2次元の座標系、図11(b)はn−t−w直交座標系による表示である。
図11(a)に示したように、荷重作用方向の塑性変形増分をuとし、破壊機構が生ずる角度を板厚方向に対しθとする。さらに、図11(b)に示したように、破壊機構に対し、n軸は破壊機構の直交方向、t軸は破壊機構に沿う方向、w軸は溶接線と平行な方向となるように直交座標系n−t−wをとる。すると、破壊機構に沿う方向(t方向)およびこれに直交する方向(n方向)の塑性変形増分の成分はそれぞれ、u・sinθ、u・cosθとなる。t軸方向の垂直応力σは0とみなされるから、上記式(11)にσ=0を代入して、破壊条件は式(12)で表わされる。
図11(a)に示す破壊機構は、w軸方向のひずみεは0、t−w平面内のせん断ひずみγtwは0、w−n平面内のせん断ひずみγwnは0なので、式(12)およびと塑性流れの法線則から、式(13)に示す関係がそれぞれ成立する。
式(13)を式(12)に代入すると、破壊条件式は式(14)のようになる。
ここで図11(b)に示した単位長さ(=1)あたりの図11(a)における応力仕事増分Wは式(15)で表される。
ここで、応力σ、τntは破壊条件である式(14)を満たす。塑性流れの法線則から、u・cosθ、及びu・sinθは式(16)のようになる。
式(16)からτntはσを用いて式(17)のように表される。
式(14)及び式(17)から式(18)のようにσ、τntを求め、これを式(15)に代入することにより応力仕事増分は式(19)のようになる。
一方、外力による仕事増分Wexは、溶接線方向(w方向)を単位長さとした場合の母材の最大耐力をPとすると、式(20)により表される。
仮想仕事の原理より、式(19)と式(20)とが等しいので、Pについて解くと式(21)が得られる。
式(21)を最小とするθは0であるから、母材の引張強さをcBMσとすると、Pは図11(a)に示した破壊機構図に関する最大耐力であり、これをPcBMとすると式(22)で表される。
<溶接金属の破壊>
溶接金属の破壊に用いるモデルを図12に示した。もととなる形状は図10の通りである。図12(a)は2次元の座標系、図12(b)はn−t−w直交座標系による表示である。
荷重作用方向の塑性変形増分をuとし、破壊機構が裏当て金、溶接金属、母材の3つが接合する線と、余盛り側とを結ぶ面内の角度βの位置で生じたとする。さらに、図12(b)に示す通り破壊機構に対し、nは破壊機構の直交方向、tは破壊機構に沿う方向、wは溶接線と平行な方向となるように直交座標系n−t−wをとる。すると、破壊機構に沿う方向(t方向)およびこれに直交する方向(n方向)の塑性変形増分の成分はそれぞれ、u・sinβ、u・cosβとなる。
母材の破壊において説明した破壊機構と同様、t軸方向の垂直応力σは0、w方向のひずみεは0、t−w平面内のせん断ひずみγtwは0、w−n平面内のせん断ひずみγwnは0と仮定すると、破壊条件式は上記式(14)となる。
ここで溶接線方向(w方向)の単位長さあたりの、図12(a)における応力仕事増分Wは、式(23)で表わすことができる。
ここでlcrは図12(a)に示したように破壊機構のt軸方向の長さである。また、上記式(16)乃至式(18)と同様の手順により、Wについて式(24)を得る。
ここで、lcr(mm)は式(25)で表すことができる。
一方、外力による仕事増分Wexは、溶接継手の溶接線方向(w方向)の単位長さあたりの耐力をPとすると式(26)となる。
仮想仕事の原理より、式(24)と式(26)とを等しいとし、溶接金属の引張強さをWMσとすると、Pは図12(a)に示した破壊機構に関する溶接金属の最大耐力であり、これをPWMと置くと角度βを用いて式(27)で表される。
ただし、βは溶接部の破壊線の角度であり、0≦β≦αの範囲で、PWMを最小とするβのとき、PWMは真の最大耐力となる。βは、式(27)のβに関する一階偏微分式を0と等しいと置いて求めた下式(3)を満たすβ’(β’≧0)と、αのいずれか小さい方の値をとる。
<溶接部及びHAZで破壊しないための規定>
ここまでで導出した式を用いて、溶接部に先行して母材が破壊するための規定をする。具体的には式(22)、式(27)から、PcBM≦PWMとすることにより、式(1)を得る。
ただし、βは溶接部の破壊線の角度であり、0≦β≦αであるから、βは上記式(3)を満たすβ’(β’≧0)と、αのいずれか小さい方の値をとる。
次に、以上に示した式(1)、式(2)に基づいて得られる効果について、図13乃至図15を参照しつつ説明する。
図13は母材(鋼管角部)の板厚tを32mm、余盛り高さeを1/4t=8mm、ルートギャップgを7mmとしたときにおける開先角度α(°)と、マッチング度合(=WMσcBMσ)との関係を示した。
図13に示した一点鎖線による線30は式(2)の右辺と左辺とが等しいときの線であり、イーブンマッチングを表す線である。従って、この線より上はオーバーマッチングの組み合わせなので、従来から行われていた溶接の範囲であり、ここでは母材破壊が先行する。一方、この線30より下はアンダーマッチングの組み合わせなので、従来の溶接では避けられていた範囲である。
図13に示した実線による線31は式(1)の右辺と左辺とが等しいときの線である。
そして本発明は、鋼管角部において図13にハッチングして示した範囲による溶接であり、この範囲で溶接を行えば、アンダーマッチングであっても溶接部に先んじて母材(鋼管角部)の破壊が生じる。すなわち、従来に比べて許容される範囲が拡張され、その分、溶接の条件、管理、及び信頼性を向上させることができることがわかる。
図14は母材の板厚tを32mm、開先角度αを35°、ルートギャップgを7mmとしたときにおける、余盛り高さe/板厚tと、マッチング度合(=WMσcBMσ)との関係を示した。
図14に示した一点鎖線による線40は式(2)の右辺と左辺とが等しいときの線であり、イーブンマッチングを表す線である。従って、この線より上はオーバーマッチングの組み合わせなので、従来から行われていた溶接の範囲である。ここでは母材(鋼管角部)の破壊が先行する。一方、この線40より下はアンダーマッチングの組み合わせなので、従来の溶接では避けられていた範囲である。
また、図14に示した実線による線41は式(1)の右辺と左辺とが等しいときの線である。
そして本発明は図14にハッチングして示した範囲による溶接であり、この範囲で溶接を行えば、アンダーマッチングであっても溶接部に先んじて母材(鋼管角部)の破壊が生じる。すなわち、従来に比べて許容される範囲が拡張され、その分、溶接の条件、管理、及び信頼性を向上させることができることがわかる。
初めに溶接金属破断に関連して、実際に溶接継手を作製してこれを破壊し、破壊した位置を調べた。開先角度αは35°で一定とし、他の要件は表1に示した。破壊は溶接継手引張試験によりおこない、JIS Z3131:1976に準拠し、同規格に示す4号試験片の溶接部をレ形開先完全溶け込みに変更して実施した。
条件は表2に示した通りであるが、母材(鋼管角部)については、その材質、化学成分(Fe以外)、板厚、及び引張強さcBMσを表し、溶接金属については、その規格、及び引張強さWMσを表した。また、表2には母材の引張強さ(cBMσ)に対する溶接金属の引張強さ(WMσ)の割合を百分率で示した。
ここで母材(鋼管角部)の引張強さcBMσはJIS Z2241:2011に従い、全厚または板厚の1/4を中心として採取した丸棒引張試験により求めた。一方、溶接金属引張強さWMσはJIS Z3111:2005に従い、板厚の1/4または1/2を中心として採取した丸棒引張試験により求めた。
そして実際に破断した位置(破断位置)、及び、溶接金属マッチングによる破断位置の予測位置(破断位置予測)を表2に表した。
一方、図15には結果をグラフで表した。図15のグラフでは、横軸に母材引張強さcBMσ(N/mm)、縦軸に溶接金属引張強さWMσ(N/mm)を取っている。図15に示した実線による線50は、cBMσ(N/mm)=WMσ(N/mm)である。従って、線50の左上はオーバーマッチング領域である。一方、破線51と線50との間の領域は式(1)及び式(2)を満たす領域である。
以上からわかるように、鋼管角部においてオーバーマッチングの領域のみでなく、アンダーマッチングであっても本発明で規定した範囲であれば溶接金属に先んじて母材で破壊させることができる。鋼管角部は破壊の起点になることが多い部位であることから、ここで母材から破壊させることができように構成しておくことにより通しダイヤフラム溶接構造体10全体としても同様に作用する。
次にHAZに関連して、実際に溶接継手を作製してこれを破壊し、破壊した位置を調べた。開先角度αは35°で一定とし、他の要件は表3に示した。破壊は溶接継手引張試験によりおこない、JIS Z3131:1976に準拠し、同規格に示す4号試験片の溶接部をレ形開先完全溶け込みに変更して実施した。
条件は表3に示した通りであるが、母材(鋼管角部)については、その材質、化学成分(Fe以外)、板厚、及び母材引張強さcBMσを表し、HAZについてはHAZ引張強さHAZσを表した。cBMσはJIS Z2241:2011に従い、全厚または板厚の1/4を中心として採取した丸棒引張試験により求めた。HAZσは、外表面から2mm内面側の位置を通るライン上のHAZ内で、0.5mm間隔でJIS Z2244:2009に基づきビッカース硬さ試験を行い、HAZの硬さ最小値を用いて式(8)から換算して求めた。
また、表3には母材の引張強さ(cBMσ)に対するHAZの引張強さ(HAZσ)の割合を百分率で示した。
そして実際に破断した位置(破断位置)、及び、HAZ強度マッチングによる破断位置の予測位置(破断位置予測)を表3に表した。
一方、図16には結果をグラフで表した。図16のグラフでは、横軸にはcBMσ(N/mm)、縦軸にHAZσ(N/mm)を取っている。図16に示した実線による線52は、cBMσ(N/mm)=HAZσ(N/mm)である。従って、線52の左上はHAZの引張強さが母材(鋼管角部)の引張強さを上回る領域である。一方、線52と破線53との間の領域は式(7)を満たす領域である。
以上からわかるように、HAZの引張強さが母材の引張強さを上回る領域のみでなく、HAZの引張強さが母材の引張強さを下回る場合であっても、上記規定した範囲であればHAZに先んじて母材で破壊させることができる。
図1〜図3に戻って通しダイヤフラム溶接継手構造体10についてさらに説明を続ける。
通しダイヤフラム溶接継手構造体10では、角形鋼管11の長手方向に対して直交する方向から梁13の端面をダイヤフラム14の端面に突き当てて溶接されており、これにより溶接部25が形成されている。
本形態で梁13はH形鋼であり、平行に設けられて溶接される2つの溶接片13aと、これを連結する連結片13bとを有している。そして梁13のうち溶接する側の端部において、連結片13bは溶接片13aとの接続部分が切りかかれてスカラップ13cが形成されている。
梁13のうち、連結片13bの端面がサイコロ12の端面に突き当てられ、ダイヤフラム14の外周端面に溶接片13aの端面が突き当てられて溶接され溶接部25を形成している。溶接部25が形成される反対側の溶接片13aの面には裏当て金26が配置されている。
10 通しダイヤフラム溶接継手構造体
11 角形鋼管
11a 鋼管角部(母材)
12 サイコロ
13 梁
14 ダイヤフラム
15 裏当て金
20 溶接部
21 溶接金属

Claims (10)

  1. 通しダイヤフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイヤフラム溶接継手構造体であって、
    溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσ(N/mm)、前記角形鋼管の角部の引張強さをcBMσ(N/mm)、及び前記角形鋼管の角部の厚さをt(mm)としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たす通しダイヤフラム溶接継手構造体。
    ただし、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
  2. 前記溶接金属のビッカース硬さをWMHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(4)、式(5)が成り立つ請求項1に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体。
  3. 前記角形鋼管を構成する材料の、前記角形鋼管とする前における引張強さをfBMσ(N/mm)としたとき、さらに下記式(6)が成り立つ請求項1又は2に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体。
  4. 溶接熱影響部の引張強さをHAZσ(N/mm)としたとき、下式(7)を満たす請求項1乃至3のいずれかに記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体。
  5. 前記溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(8)、式(9)が成り立つ請求項4に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体。
  6. 通しダイヤフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイヤフラム溶接継手構造体を製造する方法であって、
    溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσ(N/mm)、前記角形鋼管の角部の引張強さをcBMσ(N/mm)、及び前記角形鋼管の角部の厚さをt(mm)として下記式(1)及び式(2)を満たすように設計し、これにより溶接をおこなう通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法。
    ただし、βは0以上であって、下記式(3)を満たすβ’及びαの値のうち小さい方の値をとる。
  7. 前記溶接金属のビッカース硬さをWMHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、前記WMσ(N/mm)、前記cBMσ(N/mm)を下記式(4)、式(5)により求める請求項6に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法。
  8. 前記角形鋼管を構成する材料の、前記角形鋼管とする前における引張強さをfBMσ(N/mm)としたとき、さらに下記式(6)により前記cBMσ(N/mm)を求める請求項6に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法。
  9. 溶接熱影響部の引張強さをHAZσ(N/mm)としたとき、下式(7)を満たすように溶接を行う請求項6乃至8のいずれかに記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法。
  10. 前記溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(8)、式(9)により、前記HAZσ(N/mm)及び前記cBMσ(N/mm)を求める請求項9に記載の通しダイヤフラム溶接継手構造体の製造方法。
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