JP5973968B2 - 柱梁溶接継手およびその製造方法 - Google Patents

柱梁溶接継手およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、建築構造物の柱梁溶接継手およびその製造方法に関する。
ビルディングなどの建築構造物の構造材料にはコンクリートや鋼が用いられている。そして、建築構造物の構造様式としては、柱部材に角形あるいは円形の鋼管、梁部材にH型鋼を用いて、柱部材と梁部材の直交部を溶接あるいはボルトによって強固に接合する鉄骨ラーメン構造形式が最も多く普及している。
地震国では建築構造物の耐震性能の向上は大きな課題であり、阪神淡路大震災で見られたような揺れによる構造崩壊は人命を守るために最も避けなければならない現象である。したがって、耐震性能向上のために、様々な研究が行われており、地震エネルギーを吸収する制震・免震ダンパーの採用や、高い衝撃吸収エネルギー性能を有する柱・梁用鋼材や梁端溶接用溶接材料の採用などが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
また、柱部材と梁部材を直交部で接合する様式では、不連続面として直交接合部が応力集中箇所になり、早期に破壊しやすい事が知られている。そのため、ボトルネックである直交接合部の耐震性能向上も多く研究されている。
図21に示すように、柱梁溶接継手100Bにおいて、柱部材31Aに梁部材2を溶接接合するための工法としては、梁部材2のウエブ3にスカラップ6、7と呼ばれる空孔が設けられるスカラップ工法が一般的である。スカラップ6、7を設ける目的は、梁部材2の上下フランジ4、5と柱部材31Aを溶接接合して、溶接金属部10と裏当て金11とからなる上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Bを形成する際に、作業的にウエブ3が邪魔になるため、ウエブ3を部分的にくり抜く必要があるからである。しかし、スカラップ6、7は最も耐震性能を劣化させる要因になっていることが知られている。そして、地震時にかかる繰り返し応力によって、スカラップ6、7と上下フランジ4、5、特に下フランジ5とスカラップ7との境界部、いわゆるスカラップ底が最も高い応力集中箇所となり、早期に下フランジ5に亀裂発生し、梁部材2全体に伝播して崩壊に至らせる。
この問題を改善するために幾つもの研究がなされてきた。例えば、スカラップの形状改善である。以前はフランジに対してスカラップ底が直角に侵入する形状であったが、応力集中を緩和するため、現在は複合円型スカラップと言われる接触角をある程度小さくした形状が採用されている。また、スカラップ形状のさらなる改良も行われている(非特許文献1参照)。しかし、いずれもさほどの耐震性能向上効果は得られていない。
これに対して、応力集中箇所を存在させない理想的ディテールとして、スカラップを用いない、いわゆるノンスカラップ工法の採用も進みつつある(非特許文献1参照)。通常のスカラップ工法では裏当て金として長尺一枚板を溶接部底に取付けるところを、ノンスカラップ工法ではウエブを挟んで短尺二枚を両側に取付けることでウエブを残したままにする工法である。しかし、ノンスカラップ工法は、梁部材の外側からしか溶接できない短所がある。
特許第3199656号公報
「鉄骨工事技術指針・工場製作編」,2007年改定版,日本建築学会
図22に示すように、鉄骨の柱梁接合を部分的なブロック(柱梁溶接継手100B)として工場内で製造する工場接合形式と呼ばれるディテールでは、(1)フランジの片側(上フランジ4)を梁部材2外側から柱部材31Aに下向溶接した後、(2)ブロック(柱梁溶接継手100B)をクレーンなどで天地反転して、(3)逆側のフランジ(下フランジ5)を同じく梁部材2の外側から柱部材31Aに下向溶接することが可能である。そのため、図25に示すように、両フランジ4、5の接合ディテールは、ウエブ3の中央線を挟んで上下対称となる。具体的には、上フランジ4の溶接接合部である上部完全溶け込み溶接部8Aと、下フランジ5の溶接接合部である下部完全溶け込み溶接部9Bにおいては、両溶接部共に、裏当て金11がスカラップ6、7側に接合された形態となる。また、図22に示すように、この工場接合形式と呼ばれるディテールでは、両フランジ4、5の溶接接合をノンスカラップ工法で施工することが可能である。
一方、耐震性能向上のニーズとは別に、鉄骨にはコストダウンのニーズも大きい。工場で柱部材と梁部材を溶接接合してブロック(柱梁溶接継手)とし、トラックで運搬して建築現場で組み上げる工場接合形式は、現場でも梁部材同士の接合が必要となり、接合作業が二度手間になる事、また、占有体積が大きいのでトラックへの積載量が少なくなることで、コストが高くなりがちである。
そこで、梁部材の付いていないシンプルな柱部材を大量にトラックに乗せ、現場で柱部材と梁部材をボルト接合と組合せて計1回溶接することで柱梁溶接継手を得る現場混用接合形式(以下、現場接合形式)の採用がコスト低減目的で増えている(非特許文献1参照)。しかし、現場接合形式の場合、柱梁溶接継手の天地反転作業ができない。したがって、下側のフランジの溶接は梁部材内側から下向姿勢で溶接せざるを得ない。上向姿勢で梁部材外側から溶接することも原理的には可能であるが、開先内の上向姿勢溶接は視認性が悪く、重力によって溶接金属が垂れ落ちてしまい易いことから、極めて能率が悪く、実用的とは言えない。図23に示すように、梁部材2の内側からの下向溶接姿勢では上述のとおり、ウエブ3が邪魔になって、溶接困難となる。
以上の理由により、現場接合形式では、図24に示すように、両フランジ4、5の接合ディテールは梁部材2の中央線を挟んで上下非対称なディテールとなる。具体的には、上部完全溶け込み溶接部8Aでは裏当て金11がスカラップ6側に接合され、下部完全溶け込み溶接部9Aでは溶接金属部10がスカラップ7側に接合される形態となる。したがって、製造コストの安い現場接合形式では、下側のフランジに梁部材外側から溶接するノンスカラップ工法が適用できず、耐震性能が劣るという問題を抱える。
その他のニーズとして、これから建築する建築物だけでなく、既に建築済み、建築途中の建築物(以下、あわせて既存建築物)の柱梁溶接継手に対しても、耐震性能向上を目的とした改良(補修)工事を要求されることも多くなってきている。したがって、大がかりな工事とならない、容易で安価な補修で耐震性能が向上した柱梁溶接継手を製造できる工法も望まれていた。
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その課題は、耐震性能に優れ、また、現場接合形式であっても既存建築物も含め容易で安価に補修できる柱梁溶接継手およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らはスカラップ有を前提とした耐震性能向上法を研究し、本発明に至った。スカラップの問題はスカラップ底の応力集中および接する梁部材のフランジ厚の板厚が薄く剛性が低いことに帰結する。そこで、スカラップ底周囲に適切に管理した肉盛溶接を施すことで、前記課題を解決した。
本発明に係る柱梁溶接継手は、柱部材と、ウエブとそのウエブの上端部側および下端部側に設けられた上フランジおよび下フランジとでH型の断面が形成された梁部材と、前記ウエブの上端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された上スカラップと、前記ウエブの下端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された下スカラップと、前記柱部材の側面と前記上フランジの端面との突合せ溶接によって形成され、溶接金属部と裏当て金とからなる上部完全溶け込み溶接部と、前記柱部材の側面と前記下フランジの端面との突合せ溶接によって形成され、溶接金属部と裏当て金とからなる下部完全溶け込み溶接部と、前記下スカラップの前記下フランジに当接する下スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された下部肉盛溶接部とを備え、前記上部完全溶け込み溶接部では、前記裏当て金が前記上スカラップ側にあることを特徴とする。
また、本発明の柱梁溶接継手は、前記下部完全溶け込み溶接部において、前記溶接金属部が前記下スカラップ側にある現場接合形式では、前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)が、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)が、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)が、前記溶接金属部の頂上部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)が、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることが好ましい。
また、本発明の柱梁溶接継手は、前記下部完全溶け込み溶接部において、前記裏当て金が前記下スカラップ側にある工場接合形式では、前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)が、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)が、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)が、前記裏当て金の幅中央部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)が、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることが好ましい。
前記構成によれば、本発明の柱梁溶接継手は、下部肉盛溶接部を備えることによって、その形状的作用により、下スカラップに作用する応力集中を周囲に分散させる。また、柱梁溶接継手は、既存建築物の柱梁溶接継手に下部肉盛溶接部をさらに加えるだけで得ることができるため、補修が容易で安価となる。
なお、スカラップ底への応力に対する抵抗力を増すという点では、単に、従来のH型鋼梁部材のフランジの設計厚さを高めれば、ある程度効果はある。しかしながら、梁部材としてのコストが大幅に増すこと、完全溶け込み溶接部の厚みも増して溶接材料の使用量が増加して能率低下に繋がること、応力分散効果が全く働かないので大きな地震力が作用した際にはフランジの脆性的破壊が起きやすいこと、かつ、建築済みや途中の建物(既存建築物)には適用できないことから、本発明の柱梁溶接継手に対して劣るものである。
また、柱梁溶接継手は、下部肉盛溶接部のウエブ側の脚長(La)および下フランジ側の脚長(Ld)に、ウエブの厚さ(Tw)と同じ以上のすみ肉脚長の肉厚を増すことで、上下曲げ応力に対しての剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることができる。
また、柱梁溶接継手は、下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)を、現場接合形式では溶接金属部の頂上部よりも柱部材側に延長すること、工場接合形式では裏当て金の幅中央部より柱部材側に延長することによって、接触角を小さくして応力集中を緩和するだけでなく、下部完全溶け込み溶接部における溶接金属部の余盛および裏当て金を応力緩和の有効厚として利用して、応力集中箇所の剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることができる。さらに、現場接合形式では、下フランジやダイアフラムと裏当て金との間に不可避的に発生し、スカラップ底と共に亀裂発生源となりやすい狭隘なスリット部への応力集中を緩和することができる。
なお、柱梁溶接継手は、溶接金属部(現場接合形式の場合)あるいは裏当て金(工場接合形式の場合)を越えてさらに柱部材側に下部肉盛溶接部が延長された場合には、溶接金属部の余盛部や裏当て金の厚さが有効厚とはならないが、代わりに一般的にフランジ厚よりも厚いダイアフラム厚が有効厚として作用し、接触角もまたさらに小さくなって応力集中の緩和効果を高めることから、破壊を十分抑制することができる。
また、柱梁溶接継手は、下部肉盛溶接部の柱部材と反対側、つまり梁部材の長さ方向中央に向けての長さ(Lb)を、ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さとすることによって、応力集中を適度に分散させ、下部肉盛溶接部とウエブ界面に生じやすい亀裂の発生を抑制することができる。
本発明に係る柱梁溶接継手は、前記上スカラップの前記上フランジに当接する上スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された上部肉盛溶接部をさらに備えることが好ましい。
また、本発明の柱梁溶接継手は、前記上部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)が、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記上部肉盛溶接部の前記上フランジ側への脚長(Ld)が、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、前記上部肉盛溶接部の前記上スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)が、前記裏当て金の幅中央部を越える長さであって、かつ、前記上部肉盛溶接部の前記上スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)が、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることが好ましい。
前記構成によれば、本発明の柱梁溶接継手は、上部肉盛溶接部をさらに備え、その上部肉盛溶接部の脚長、柱部材側への長さおよび柱部材と反対側への長さが所定範囲であることによって、上スカラップにおける応力集中を周囲に分散させると共に、応力集中箇所での剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることできる。
本発明に係る柱梁溶接継手は、柱部材と、ウエブとそのウエブの上端部側および下端部側に設けられた上フランジおよび下フランジとでH型の断面が形成された梁部材と、前記ウエブの下端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された下スカラップと、前記柱部材の側面と前記上フランジの端面との突合せ溶接によって形成され、溶接金属部と2つの裏当て金とからなる上部完全溶け込み溶接部と、前記柱部材の側面と前記下フランジの端面との突合せ溶接によって形成され、溶接金属部と裏当て金とからなる下部完全溶け込み溶接部と、前記下スカラップの前記下フランジに当接する下スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された下部肉盛溶接部とを備え、前記上部完全溶け込み溶接部では、2つの前記裏当て金が前記ウエブの上端部を挟むように接合されていることを特徴とする。
また、本発明の柱梁溶接継手は、前記下部完全溶け込み溶接部において、裏当て金に接合した溶接金属部は、前記下スカラップ側にあり、前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)が、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)が、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)が、前記溶接金属の頂上部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)が、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることが好ましい。
前記構成によれば、本発明の柱梁溶接継手は、梁部材として上スカラップが形成されず下スカラップのみのウエブを使用し、そのウエブと上フランジとの溶接接合部である上部完全溶け込み溶接部が2つの裏当て金がウエブの上端部を挟むように接合されるノンスカラップ工法で作製されていることによって、上フランジ側全体に分散作用する地震応力に対してエネルギーを弾性変形、さらに大きな場合は塑性変形として吸収することが出来て、壊れにくくすることができる。また、下フランジ側では、下部肉盛溶接部を備えることによって、下スカラップ底での応力集中を周囲に分散させると共に、応力集中箇所での剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることができる。
本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法は、前記の柱梁溶接継手の製造方法であって、前記柱部材の側面と前記上フランジの端面、および、前記柱部材の側面と前記下フランジの側面とを突合せ溶接して、前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を形成する梁端部突合せ溶接工程と、前記梁端部突合せ溶接工程の終了後、下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする。
本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法は、前記の柱梁溶接継手の製造方法であって、前記柱部材の側面と前記上フランジの端面、および、前記柱部材の側面と前記下フランジの側面とを突合せ溶接して、前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を形成する梁端部突合せ溶接工程と、前記梁端部突合せ溶接工程の終了後、上フランジ側および下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記上部肉盛溶接部および前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする。
前記手順によれば、本発明の柱梁溶接継手の製造方法では、梁端部突合せ溶接工程を行うことによって、柱部材に梁部材が溶接接合され、肉盛溶接工程を行うことによって、下フランジ側の下スカラップを補強する下部肉盛溶接部、または、下スカラップと上フランジ側の上スカラップの両者を補強する下部肉盛溶接部および上部肉盛溶接部が形成される。
本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法は、前記の柱梁溶接継手の製造方法であって、既存建築物から前記下部完全溶け込み溶接部を露出させる準備工程と、前記準備工程の終了後、下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする。
本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法は、前記の柱梁溶接継手の製造方法であって、既存建築物から前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を露出させる準備工程と、前記準備工程の終了後、上フランジ側および下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記上部肉盛溶接部および前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする。
前記手順によれば、本発明の柱梁溶接継手の製造方法では、準備工程と肉盛溶接工程を行うことによって、既存建築物の下フランジ側の下スカラップを補強する下部肉盛溶接部、または、下スカラップと上フランジ側の上スカラップの両者を補強する下部肉盛溶接部および上部肉盛溶接部が形成される。
本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法は、前記肉盛溶接工程では、C≧0.15質量%、Mn≧2.0質量%、Ni≧3.0質量%、Cr≧3.0質量%のうち1つ以上を含有する溶接材料を用いて、肉盛溶接を行うことが好ましい。
前記手順によれば、本発明の柱梁溶接継手の溶接方法は、所定の溶接材料を用いて肉盛溶接工程を行うことによって、下部肉盛溶接部、または、下部肉盛溶接部および上部肉盛溶接部の強度が増加する。
本発明の柱梁溶接継手によれば、優れた耐震性能を奏することができると共に、現場接合形式であっても既存建築物も含め容易で安価に補修できる。また、本発明の柱梁溶接継手の製造方法によれば、耐震性能に優れ、補修性にも優れた柱梁溶接継手を製造できる。
特に、本発明の柱梁溶接継手によれば、鉄骨柱梁継手特有の接合ディテールを利用して、すなわち、完全溶け込み溶接部の溶接金属部の余盛と裏当て金、あるいは、ダイアフラム厚を有効厚として利用することによって、スカラップ底への応力集中に対する抵抗力を増加させて、耐震性能を向上させることができる。さらに、本発明の柱梁溶接継手によれば、現場接合形式であってもスカラップ底での強度(剛性)を確保できるため、柱部材と梁部材の現場への搬送を効率よく行うことができる。
本発明に係る柱梁溶接継手(現場接合形式)の構成を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)のX−X線断面図、(c)は(a)の他の形態を示すX−X線断面図である。 (a)、(b)は本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部、(c)は柱梁溶接継手の上部肉盛溶接部の断面図、(d)は(a)、(b)のX−X線断面図、(e)は(c)のX−X線断面図である。 本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部(現場接合形式)の作用を説明する説明図である。 本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部(現場接合形式)の作用を説明する説明図である。 本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部の作用を説明する説明図で、(a)は現場接合形式、(b)は工場接合形式である。 本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部の作用を示す説明図である。 本発明に係る柱梁溶接継手(工場接合形式)の構成を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)のX−X線断面図、(c)は(a)の他の形態を示すX−X線断面である。 本発明に係る柱梁溶接継手(現場接合形式)の他の形態の構成を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)のX−X線断面図である。 本発明に係る柱梁溶接継手(現場接合形式)の他の形態を示す斜視図である。 本発明に係る柱梁溶接継手(現場接合形式)の他の形態を示す斜視図である。 本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法を示す工程フローである。 本発明に係る柱梁溶接継手の他の製造方法を示す工程フローである。 上下スカラップ工法で作製する溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上下スカラップ工法で作製する溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上下ノンスカラップ工法で作製する溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 上ノンスカラップ工法、下スカラップ工法で作製する溶接接合前の柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)の構成を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は梁部材内に挿入されたスティフナの側面図である。 (a)〜(h)は本発明に係る柱梁溶接継手の下部肉盛溶接部の積層要領を示す図である。 柱梁溶接継手の積荷実験方法を示す側面図である。 積荷実験における荷重履歴を示す図である。 (a)は積荷実験におけるスケルトン曲線を示し、(b)は累積荷重変形の定義を示す図である。 スカラップ工法で作製した従来の柱梁溶接継手(工場接合形式)の問題点を示す斜視図である。 従来の柱梁溶接継手(工場接合形式)をノンスカラップ工法で作製する手順を示す斜視図である。 従来の柱梁溶接継手(現場接合形式)をノンスカラップ工法で作製する際のも問題点を示す斜視図である。 従来の柱梁溶接継手(現場接合形式)の構成を示す斜視図である。 従来の柱梁溶接継手(工場接合形式)の構成を示す斜視図である。
本発明に係る柱梁溶接継手の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
柱梁溶接継手は、柱部材と梁部材とを溶接接合することによって作製される。そして、柱梁溶接継手は、溶接接合が行われる場所によって、建築現場で溶接接合を行う現場接合形式と、工場で溶接接合が行われる工場接合形式との2形式がある。
<柱梁溶接継手(現場接合形式)>
図1(a)、(b)に示すように、第1の実施形態の柱梁溶接継手1Aは、柱部材31Aと、梁部材2と、上スカラップ6と、下スカラップ7と、上部完全溶け込み溶接部8Aと、下部完全溶け込み溶接部9Aと、下部肉盛溶接部13と、を備える。
(柱部材)
柱部材31Aは、既存建築物のブロックである柱梁溶接継手に使用される柱部材が用いられる。そして、柱部材の構造形式は特に限定されないが、鋼管33と、その鋼管33との間に応力伝達を担う鋼板からなるダイアフラム32を水平方向に挿入した外ダイアフラム構造(梁貫通方式とも呼ばれる)が好ましい。また、鋼管33およびダイアフラム32の水平方向の断面形状は、特に限定されないが、角形または円形が一般的である。なお、鋼管33およびダイアフラム32を構成する材料は、建築物の強度を保証できれば特に限定されず、例えば、490MPa級鋼、耐火鋼またはステンレス鋼が使用される。
(梁部材)
梁部材2は、鋼板からなるウエブ3と、そのウエブ3の上端部側および下端部側に設けられた上フランジ4および下フランジ5とでH型の断面が形成された、いわゆるH型鋼である。また、梁部材2に使用されるH型鋼には、圧延(ロールフォーミング)によってH型に一体設計される通称ロールHと、フランジとウエブの平板同士をサブマージアーク溶接などの手段によってH型に組み立てられる通称ビルドHとがある。本発明の梁部材2は、ロールH、ビルトHのいずれでもよい。なお、梁部材2(ウエブ3、上下フランジ4、5)を構成する材料は、建築物の強度を保証できれば特に限定されず、例えば、490MPa級鋼、耐火鋼またはステンレス鋼が使用される。
(上スカラップ、下スカラップ)
上スカラップ6および下スカラップ7は、ダイアフラム32の側面と上フランジ4および下フランジ5の端面とを溶接接合する際に、ウエブ3が溶接作業の邪魔にならないように形成されるもので、ウエブ3の上端部および下端部を柱部材31A(ダイアフラム32)側で一部切り欠いて形成されたものである。また、上スカラップ6および下スカラップ7の形状は、溶接作業の邪魔にならないように形成されたものであれば特に限定されないが、非特許文献1に記載されたスカラップ形状が好ましい。なお、上スカラップ6および下スカラップ7の形状は、上下フランジ4、5に当接するスカラップ底での接触角が略直角の形状(非特許文献1、211頁、図4.8.6(c)参照)、スカラップ底の接触角が小さい形状(非特許文献1、211頁、図4.8.6(b)〜(e)参照)のいずれでもよいが、複合円型スカラップ(非特許文献1、211頁、図4.8.6(b)参照)が好ましい。
(上部完全溶け込み溶接部、下部完全溶け込み溶接部)
上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Aは、ダイアフラム32の側面と上フランジ4および下フランジ5の端面との突合せ溶接によって、ダイアフラム32と上フランジ4および下フランジ5との間に形成されるものである。また、上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Aは、それぞれ溶接金属部10と裏当て金11とからなる。
そして、柱梁溶接継手1Aの接合形式が現場接合形式の場合には、上部完全溶け込み溶接部8Aは、梁部材2の外側からの下向溶接によって形成されるため、上スカラップ6側には裏当て金11が接合されている。また、下部完全溶け込み溶接部9Aは、後記する工場接合形式の場合のように上フランジ4が接合された柱梁溶接継手1Aを天地反転できず、梁部材2の内側からの下向溶接によって形成されるため、上部完全溶け込み溶接部8Aとは異なり下スカラップ7側には溶接金属部10が接合されている。したがって、上部完全溶け込み溶接部8Aと下部完全溶け込み溶接部9Aとは、ウエブ中央線を挟んで非対称なディテールとなる。また、裏当て金11は、ウエブ3に形成された上スカラップ6または下スカラップ7を貫通して上フランジ4または下フランジ5の幅方向に沿って延びる長尺板からなる。
なお、上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Aのそれぞれの強度は、建築物の強度を保証できれば特に限定されず、例えば、490MPa以上が好ましい。また、上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9Aの強度の制御は、突合せ溶接の溶接条件を制御することによって行われる。
(下部肉盛溶接部)
図2(a)、(d)に示すように、下部肉盛溶接部13は、下スカラップ7の下フランジ5に当接する下スカラップ底SLから柱部材側(ダイアフラム32側)、柱部材(ダイアフラム32)と反対側およびウエブ3の厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された溶接金属部13aからなるものである。なお、下部肉盛溶接部13は、単層の溶接金属部13aからなるものであってもよいが、多層の溶接金属部13aが積層されたものであることが好ましい。
図3に示すように、柱梁溶接継手1Aは、下部肉盛溶接部13を備えることによって、下スカラップ7に作用する応力が下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点で周囲に分散し、接点から鉛直下方への応力伝達が小さくなり、耐震性能が向上する。
また、下部完全溶け込み溶接部9Aの裏当て金11が梁部材(下フランジ5)の外側にある現場接合形式の柱梁溶接継手1Aにおいては、下部肉盛溶接部13を備えることによって、図示しないが、裏当て金11と、ダイアフラム32や下フランジ5との間に不可避的に形成されるスリット部への応力集中が防止され、亀裂発生が抑制される。
下部肉盛溶接部13は、ウエブ3の厚さ方向の両側、すなわち、ウエブ3側および下フランジ5側の脚長(LaおよびLd)、下スカラップ底SLから柱部材側(ダイアフラム32側)への長さ(Lc)、および、下スカラップ底SLから柱部材(ダイアフラム32)と反対側への長さ(Lb)が、以下の範囲であることが好ましい。なお、下部肉盛溶接部13の脚長(LaおよびLd)、柱部材側への長さおよび柱部材と反対側への長さの制御は、肉盛溶接の溶接条件を制御することによって行われる。
図2(d)、図3、図4に示すように、下部肉盛溶接部13では、下部肉盛溶接部13のウエブ3側への脚長(La)は、ウエブ3の厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、下部肉盛溶接部13の下フランジ5側への脚長(Ld)がウエブ3の厚さ(Tw)以上の長さであること、すなわち、La≧TwかつLd≧Twであることが好ましい。
柱梁溶接継手1Aは、ウエブ3側の脚長(La)が所定範囲であることによって、下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点から鉛直下方に作用する応力に対向する破壊抵抗(剛性)が大きくなって、耐震性能がさらに向上する。また、柱梁溶接継手1Aは、下フランジ5側の脚長(Ld)が所定範囲であることによって、下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点から鉛直下方に作用する応力が分散されて逃げるため、下フランジ5に亀裂が発生するのを防止できる。
梁部材では、原材料としてのロールH型鋼、ビルドH型鋼のいずれでもウエブ3と下フランジ5の交点には元々小脚長のすみ肉形状部3aが存在する。本発明の下部肉盛溶接部13は、断面として、このすみ肉形状部3aに上盛りする形となる。下部肉盛溶接部13のうち、高さ方向、すなわちウエブ3側の脚長(La)は、ウエブ3の厚さ(Tw)未満の長さであると、下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点から鉛直下方に作用する応力に対抗できる剛性(破壊抵抗)が確保できない。一方、下部肉盛溶接部13のうち、横方向、すなわち下フランジ5側の脚長(Ld)は、ウエブ3の厚さ(Tw)未満の長さであると、下スカラップ7と下部肉盛溶接部13との接点から鉛直下方に作用する応力を分散させて逃がす効果が小さく、下フランジ5に亀裂を容易に発生させる可能性がある。なお、ウエブ3側の脚長(La),下フランジ5側の脚長(Ld)は、どちらも上限を設ける必要性は無いが、ウエブ3側の脚長(La)と下フランジ5側の脚長(Ld)は同じ長さとするのが最も理想的である。
図2(a)、図5(a)に示すように、下部肉盛溶接部13では、下スカラップ底SLから柱部材(ダイアフラム32)側への長さ(Lc)は、下部完全溶け込み溶接部9Aの溶接金属部10の頂上部を越える長さであることが好ましい。これによって、柱梁溶接継手1Aは、溶接金属部10の余盛部10aの厚さと裏当て金11の厚さを応力に対向する有効厚Tとして使うことができるため、剛性が大きくなる。また、柱梁溶接継手1Aは、下部肉盛溶接部13の接触角θも小さくなるため、応力集中が緩和される。その結果、柱梁溶接継手1Aは、耐震性能がさらに向上する。
柱部材側への長さ(Lc)が、溶接金属部10の頂上部に届かない、すなわち、下スカラップ底SLから溶接金属部10の頂上部までの距離未満であると、下部肉盛溶接部13の接触角θが大きくなり、かつ、溶接金属部10の余盛部10aの厚さを有効厚Tとして最大限に利用することができない。その結果、下部肉盛溶接部13と下部完全溶け込み溶接部9Aあるいは下フランジ5との接点で応力集中が高くなり、また、有効厚Tの肉厚不足によって剛性が不足して、応力によって破断が発生しやすくなり、十分な耐震性能の向上効果が得られない。
下部肉盛溶接部13は、その柱部材側への長さ(Lc)が溶接金属部10を越えてさらに延長され、ダイアフラム32に達した場合でも、溶接金属部10の余盛部10aや裏当て金11は有効厚Tとして作用しないが、一般的に下フランジ5の厚さよりも大きいダイアフラム32の厚さが有効厚Tとして作用し、かつ、接触角θもさらに小さくなるため、応力集中が緩和され、耐震性能の向上効果は高くなる。柱部材側への長さ(Lc)をさらに延長すると最終的には柱部材31Aの鋼管33(図1(b)参照)の側面に達するが、耐震性能としての短所は生じない。
図2(a)、図6に示すように、下部肉盛溶接部13は、下スカラップ底SLから柱部材(ダイアフラム32)と反対側への長さ(Lb)が、ウエブ3の厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることが好ましい(Lb≧3×Tw)。これによって、柱梁溶接継手1Aは、下部肉盛溶接部13と下スカラップ7との接点からの応力ベクトルが、下部肉盛溶接部13(ウエブ3)の長さ方向に向かって作用し、進む間にエネルギーが十分吸収されて減衰し、ウエブ3や下フランジ5の破断を防止できるため、結果として大きな耐震性能向上効果が得られる。
柱部材と反対側への長さ(Lb)が、ウエブ3の厚さ(Tw)の3倍未満(Lb<3×Tw)であると、下部肉盛溶接部13と下スカラップ7の接点からの応力ベクトルの一部は減衰せずに下部肉盛溶接部13の止端部に沿って鉛直下方に回り込むように作用し、ウエブ3や下フランジ5を破断が発生しやすくなる。したがって、耐震性能の改善効果は小さい。柱部材と反対側への長さ(Lb)は、大きいほど効果が高く、Lb≧5×Twであれば、さらに耐震性能は向上する。柱部材と反対側への長さ(Lb)はさらに長くても良いが、施工労力と費用がかかること、耐震性能の向上効果の上がり方が飽和することから、実用的では無くなる。柱部材と反対側への長さ(Lb)は、3×Tw≦Lb≦10×Twで十分である。
<柱梁溶接継手(工場接合形式)>
図7(a)、(b)に示すように、第2の実施形態の柱梁溶接継手1Bは、柱部材31Aと、梁部材2と、上スカラップ6と、下スカラップ7と、上部完全溶け込み溶接部8Aと、下部完全溶け込み溶接部9Bと、下部肉盛溶接部13と、を備える。
なお、柱部材31A、梁部材2、上スカラップ6および下スカラップ7は、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1A(図1(a)、(b)参照)の場合と同様である。
(上部完全溶け込み溶接部、下部完全溶け込み溶接部)
上部完全溶け込み溶接部8Aと、下部完全溶け込み溶接部9Bとは、ダイアフラム32の側面と上フランジ4および下フランジ5の端面との突合せ溶接によって形成され、ウエブ中央線を挟んで上下対称的なディテールとなること以外は、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1Aの場合と同様である。具体的には、上部完全溶け込み溶接部8Aは、梁部材2の外側からの下向溶接によって形成されるため、上スカラップ6側には裏当て金11が接合されている。また、下部完全溶け込み溶接部9Bは、工場接合形式の場合には上フランジ4が接合された柱梁溶接継手1Bを天地反転でき、梁部材2の外側からの下向溶接によって形成されるため、上部完全溶け込み溶接部8Aと同様に下スカラップ7側には裏当て金11が接合されている。
(下部肉盛溶接部)
図2(b)、(d)に示すように、下部肉盛溶接部13は、下スカラップ底SLから柱部材側(ダイアフラム32側)、柱部材(ダイアフラム32)と反対側およびウエブ3の厚さ方向の両側に肉盛溶接によって形成され、柱部材側への長さ(Lc)の好ましい範囲が異なること以外は、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1Aの場合と同様である。
図2(b)、図5(b)に示すように、下部肉盛溶接部13では、下スカラップ底SLから柱部材(ダイアフラム32)側への長さ(Lc)が、裏当て金11の幅中央部を越える長さであることが好ましい。これによって、柱梁溶接継手1Bは、溶接金属部10の余盛部10aの厚さと裏当て金11の厚さを応力に対向する有効厚Tとして使うことができるため、剛性が大きくなる。また、柱梁溶接継手1Bは、下部肉盛溶接部13の接触角θも小さくなるため、応力集中が緩和される。その結果、柱梁溶接継手1Bは、耐震性能がさらに向上する。
柱部材側への長さ(Lc)が、裏当て金11の幅中央部に届かない、すなわち、下スカラップ底SLから裏当て金11の幅中央部までの距離未満であると、溶接金属部10の余盛部10aの厚さの有効厚Tとしての効果を最大限得ることができない。裏当て金11は一般的に平板形状なので、幅中央部に届かなくても一見良さそうであるが、通常の突き合わせ溶接で形成される下部完全溶け込み溶接部9Bのディテールでは、裏当て金11の幅中央部がほぼ逆サイドの余盛部10aの頂上部に一致する。したがって、余盛部10aの厚さを最大限活用するには、間接的管理として、裏当て金11の幅中央部を目安にできる。また、裏当て金11の幅中央部に届かなければ、下部肉盛溶接部13の接触角θが大きいので、下部肉盛溶接部13と裏当て金11あるいは下フランジ5との接点で高い応力集中と、有効厚Tの肉厚不足による剛性不足により、応力によって破断しやすく、十分な耐震性能向上効果が得られない。
下部肉盛溶接部13は、裏当て金11を越えてさらに延長して、柱部材のダイアフラム32に達した場合でも、裏当て金11や溶接金属部10の余盛部10aは有効厚Tとして作用しないが、一般的に下フランジ5の厚さよりも大きいダイアフラム32の厚さが有効厚Tとして作用し、かつ、さらに接触角θが小さくなるので、応力集中が緩和されて、耐震性能向上効果が高くなる。また、下部肉盛溶接部13は、さらに延長すると最終的には柱部材31Aの鋼管33(図7(b)参照)の側面に達するが耐震性能として短所は生じない。
図1(c)、図2(c)、(e)に示すように、現場接合形式の柱梁溶接継手1Aは、ウエブ3の上フランジ4側に上部肉盛溶接部12をさらに備えることが好ましい。同様に、図2(c)、(e)、図7(c)に示すように、工場接合形式の柱梁溶接継手1Bにおいても、ウエブ3の上フランジ4側に上部肉盛溶接部12をさらに備えることが好ましい。
(上部肉盛溶接部)
上部肉盛溶接部12は、上スカラップ6の上フランジ4に当接する上スカラップ底SUから柱部材31A(ダイアフラム32)側、柱部材31A(ダイアフラム32)と反対側およびウエブ3の厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された溶接金属部12aからなるものである。なお、上部肉盛溶接部12は、単層の溶接金属部12aからなるものであってもよいが、多層の溶接金属部12aを積層したものであることが好ましい。
また、図2(c)、(e)に示すように、上部肉盛溶接部12は、下部肉盛溶接部13と同様に(図2(b)参照)、ウエブ3の厚さ方向の両側、すなわち、ウエブ3側および上フランジ4側への脚長(LaおよびLd)がウエブ3の厚さ(Tw)以上の長さ、La≧TwかつLd≧Twであって、上スカラップ底SUから柱部材(ダイアフラム32)側への長さ(Lc)が裏当て金11の幅中央部を越える長さであって、かつ、上スカラップ底SUから柱部材(ダイアフラム32)と反対側への長さ(Lb)がウエブ3の厚さ(Tw)の3倍以上の長さ、Lb≧3×Twであることが好ましい。
現場接合形式の柱梁溶接継手1Aおよび工場接合形式の柱梁溶接継手1Bにおいては、上部肉盛溶接部12を備えることによって、上スカラップ6にかかる応力に対する抵抗力が増加し、耐震性能がさらに向上する。具体的には、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12が所定形状を有することにより、上スカラップ6に作用する応力が上スカラップ6と上部肉盛溶接部12との接点で周囲に分散し、接点から鉛直上方への応力伝達が小さくなり、耐震性能が向上する。
また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12のウエブ3側への脚長(La)が所定範囲であることによって、上スカラップ6と上部肉盛溶接部12との接点から鉛直上方に作用する応力に対抗する破壊抵抗(剛性)が大きくなって、耐震性能が向上する。また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12の上フランジ4側への脚長(Ld)が所定範囲であることによって、上スカラップ6と上部肉盛溶接部12との接点から鉛直上方に作用する応力が分散されて逃げるため、上フランジ4に亀裂が発生するのを防止できる。
また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12の柱部材側への長さ(Lc)が所定範囲であることによって、溶接金属部10の余盛部10aの厚さと裏当て金11の厚さを応力に対抗する有効厚として使うことができるため、剛性が高くなる。また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12の接触角も小さくなるため、応力集中が緩和される。その結果、柱梁溶接継手1A、1Bは、耐震性能がさらに向上する。
また、柱梁溶接継手1A、1Bは、上部肉盛溶接部12の柱部材と反対側への長さ(Lb)が所定範囲であることによって、上部肉盛溶接部12と上スカラップ6との接点からの応力ベクトルが上部肉盛溶接部12の長さ方向に向って作用し、進む間にエネルギーが十分吸収されて減衰し、ウエブ3や上フランジ4の破断を防止できるため、結果として大きな耐震性能向上効果が得られる。
<柱梁溶接継手の他の実施形態>
次に、本発明に係る柱梁溶接継手の他の実施形態について、説明する。
図8(a)、(b)に示すように、第3の実施形態の柱梁溶接継手1C(現場接合形式)は、柱部材31Aと、梁部材2と、下スカラップ7と、上部完全溶け込み溶接部8Bと、下部完全溶け込み溶接部9Aと、下部肉盛溶接部13と、を備える。
柱梁溶接継手1Cは、その柱部材31A、下スカラップ7および下部肉盛溶接部13は、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1A(図1(a)、(b)参照)と同様であるが、梁部材2および上部完全溶け込み溶接部8Bは、前記第1の実施形態の柱梁溶接継手1Aと異なる。
(梁部材)
梁部材2は、前記柱梁溶接継手1Aと同様に、ウエブ3とそのウエブ3の上端部側および下端部側に設けられた上フランジ4および下フランジ5とでH型の断面が形成されたH型鋼である。しかしながら、梁部材2のウエブ3は、前記柱梁溶接継手1Aとは異なり、下端部の柱部材31A(ダイアフラム32)側の一部には切り欠きによって下スカラップ7が形成されているが、上端部側にはスカラップが形成されていないものである。
(上部完全溶け込み溶接部)
上部完全溶け込み溶接部8Bは、前記柱梁溶接継手1Aと同様に、柱部材31Aの側面と梁部材2(上フランジ4)の端面との突き合わせ溶接によって形成されたものである。しかしながら、柱梁溶接継手1Cは、ウエブ3の上端部側にスカラップが形成されていないため、いわゆるノンスカラップ工法で上部完全溶け込み溶接部8Bが形成される。したがって、上部完全溶け込み溶接部8Bは、前記柱梁溶接継手1Aの上部完全溶け込み溶接部8Aと異なり、溶接金属部10と、その溶接金属部10の底部にウエブ3の上端部を挟むように接合された2つの裏当て金11とからなる。そして、柱梁溶接継手1Cの2つの裏当て金11は、上フランジ4の幅方向に沿って延びる短尺板からなり、前記柱梁溶接継手1Aの上スカラップ6を貫通して上フランジ4の幅方向に沿って延びる1つの長尺板からなる裏当て金11と長さが異なる。
柱梁溶接継手1Cは、ウエブ3の上端部に応力集中箇所となりやすいスカラップが形成されていないため、上フランジ4側全体に分散作用する地震応力に対してエネルギーを弾性変形、さらに大きな場合は塑性変形として吸収することが出来て、壊れにくくすることができる。また、柱梁溶接継手1Cは、下フランジ5側には下部肉盛溶接部13を備えるため、下フランジ5側の応力集中を周囲に分散させると共に、応力集中箇所の剛性を高めて破壊抵抗を大きくすることができる。その結果、柱梁溶接継手1Cは、耐震性能がさらに向上する。
図1、図7、図8に示すように、本発明に係る現場接合形式の柱梁溶接継手1A、工場接合形式の柱梁溶接継手1B、ノンスカラップ工法で上フランジ4の溶接接合した柱梁溶接継手1Cは、ウエブ3のスカラップが形成されていない端面を、柱部材31Aの鋼管33の側面にすみ肉溶接等で接合することが好ましい。なお、すみ肉溶接等の代わりにアタッチメントを取付け、ボルトで締結することもできる。また、柱梁溶接継手1A、1B、1Cは、上部完全溶け込み溶接部8Aおよび下部完全溶け込み溶接部9A、9Bにおいて、上フランジ4および下フランジ5の幅方向の両側にエンドタブ14を設けることが好ましい。
本発明に係る柱梁溶接継手1A、1B、1Cは、図9、図10に示すように、鋼管33内にダイアフラム32に設けた内ダイアフラム構造(柱貫通方式とも呼ばれる)の柱部材31B、または、H型鋼からなる柱部材31Cを用いてもよい。この場合、梁部材2は、ダイアフラム32ではなく、鋼管33の側面またはH型鋼側面に直接溶接接合される。
本発明に係る柱梁溶接継手1A、1B、1Cは、既存建築物に使用されている柱梁溶接継手、例えば、図24、図25の柱梁溶接継手100A、柱梁溶接継手100Bの下フランジ5(下スカラップ7)、または、上フランジ4(上スカラップ6)と下フランジ5(下スカラップ7)の両フランジ(両スカラップ)に、肉盛溶接によって肉盛溶接部(下部肉盛溶接部13、または、上部肉盛溶接部12と下部肉盛溶接部13)を設けることで作製できる。したがって、本発明の柱梁溶接継手1A、1B、1Cは、既存建築物から容易で安価な補修で作製できる。
<柱梁溶接継手の製造方法>
次に、本発明に係る柱梁溶接継手の製造方法について、詳細に説明する。なお、柱梁溶接継手の構成については、図1、図7、図8、図9、図10を参照する。
図11に示すように、本発明の柱梁溶接継手の第1の製造方法は、梁端部突合せ溶接工程S1と、肉盛溶接工程S2とを含み、前記工程S1、S2を行うことによって、図1、図7、図8、図9、図10に示す耐震性能に優れた柱梁溶接継手1A、1B、1Cを製造することができる。以下、各工程について説明する。
(梁端部突合せ溶接工程)
梁端部突合せ溶接工程S1は、柱部材31A、31B、31Cの側面に、梁部材2の上フランジ4の端面および梁部材2の下フランジ5の端面を突合せ溶接して、上部完全溶け込み溶接部8A、8Bおよび下部完全溶け込み溶接部9A、9Bを形成する工程である。
梁端部突合せ溶接工程S1において、現場接合形式では、梁部材2の上フランジ4側は、梁部材2の外側からスカラップ工法で下向溶接することによって上部完全溶け込み溶接部8Aを形成する。また、梁部材2の下フランジ5側は、梁部材2の内側からスカラップ工法で下向溶接することで下部完全溶け込み溶接部9Aが形成される。上部完全溶け込み溶接部8Aと下部溶け込み溶接部9Aとは、裏当て金11の配置が梁部材中央線を挟んで上下非対称なディテールとなる(図1(b)参照)。なお、梁部材2の上フランジ4側は、ノンスカラップ工法で下向溶接することで上部完全溶け込み溶接部8Bを形成してもよい(図8(b)参照)。
梁端部突合せ溶接工程S1において、工場接合形式では、梁部材2の上フランジ4側は、梁部材2の外側からスカラップ工法で下向溶接することによって上部完全溶け込み溶接部8Aを形成する。また、梁部材2の下フランジ5側は、溶接接合前の柱梁溶接継手1Bを天地反転(図22参照)して、梁部材2の外側からスカラップ工法で下向溶接することで下部完全溶け込み溶接部9Bが形成される。上部完全溶け込み溶接部8Aと下部完全溶け込み溶接部9Bとは、裏当て金11の配置が梁部材中央線を挟んで上下対称なディテールとなる(図7(b)参照)。
突合せ溶接において、溶接方法については、特に限定されず、ソリッドワイヤあるいはフラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接法、被覆アーク溶接法、ティグ溶接法、セルフシールドアーク溶接法等が適用可能である。また、溶接材料についても、柱梁溶接継手1A、1B、1C(特に梁部材2)の強度として所定値以上(例えば、490MPa以上)を保障できれば特に限定されず、従来公知の溶接材料を用いる。さらに、溶接条件についても、前記強度が保障できるように、入熱、最大パス間温度等を制御して行う。
梁端部突合せ溶接工程S1では、柱部材31A、31B、31Cの側面に上下フランジ4、5の端面を突合せ溶接すると共に、ウエブ3のスカラップが形成されていない端面を、柱部材31A、31B、31Cの側面にすみ肉溶接等で接合することが好ましい。また、すみ肉溶接等の代わりにアタッチメントを取付け、ボルトで締結することもできる。なお、すみ肉溶接の溶接方法、溶接材料、溶接条件等は、前記突合せ溶接と同様である。
(肉盛溶接工程)
肉盛溶接工程S2は、梁端部突合せ溶接工程S1の終了後、下フランジ5側、または、上フランジ4側と下フランジ5側の両側に肉盛溶接を行って、下部肉盛溶接部13、または、上部肉盛溶接部12と下部肉盛溶接部13の両肉盛溶接部を形成する工程である。
肉盛溶接において、溶接方法については、特に限定されず、ソリッドワイヤあるいはフラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接法、被覆アーク溶接法、ティグ溶接法、セルフシールドアーク溶接法等が適用可能である。
溶接条件については、下部肉盛溶接部13、または、上部肉盛溶接部12と下部肉盛溶接部13の両肉盛溶接部が、図2(a)、(c)、(d)に示すように、スカラップ底(下スカラップ底SL、上スカラップ底SU)から柱部材(ダイアフラム32)側、柱部材(ダイアフラム32)と反対側およびウエブ3の厚さ方向の両側に形成されるように、入熱、最大パス間温度等を制御して行う。
肉盛溶接は、肉盛溶接部(下部肉盛溶接部13、上部肉盛溶接部12)の柱部材(ダイアフラム32)側への長さ(Lc)、柱部材(ダイアフラム32)と反対側への長さ(Lb)、ウエブ3側およびフランジ(下フランジ5、上フランジ4)側への脚長(La、Ld)が、所定範囲となるように、入熱、最大パス間温度等を制御して行うことが好ましい。また、肉盛溶接は、多パス積層で行うことがさらに好ましい。
肉盛溶接は、図17(a)〜(h)に示すような積層要領で行うことが好ましい。図17(a)に示すように、ウエブ3の下スカラップ底から柱部材31A側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図17(b)に示すように、下スカラップ底からウエブ3の厚さ方向の両側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図17(c)に示すように、下スカラップ底から柱部材31Aと反対側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図17(d)に示すように、下スカラップ底から柱部材31A側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図17(e)に示すように、下スカラップ底からウエブ3の厚さ方向の両側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図17(f)に示すように、下スカラップ底から柱部材31Aと反対側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図17(g)に示すように、下スカラップ底から柱部材31A側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成する。図17(h)に示すように、下スカラップ底からウエブ3の厚さ方向の両側に肉盛溶接を行い、積層した下部肉盛溶接部13を形成し、下フランジ5側に積層した下部肉盛溶接部13を形成する。なお、図17(a)〜(h)は、積層要領の一例を示すもので、本発明の積層要領は図17(a)〜(h)に限定されない。また、上部肉盛溶接部12の積層要領は、前記した下部肉盛溶接部13と同様である。
溶接材料については、特に限定されないが、梁部材2と同等以上の強度を有するものを用いることが好ましい。例えば、梁部材2(H型鋼)が490MPa級であれば、溶接材料も490MPa級以上、H型鋼が590MPa級であれば、溶接材料も590MPa級以上という具合である。その理由としては、肉盛溶接によって応力に対する剛性を高める目的があるが、肉盛溶接部(下部肉盛溶接部13、上部肉盛溶接部12)の溶接金属部13a、12aが低強度では剛性を高める効果が小さくなるからである。材質面も同じであり、梁部材2として耐火鋼を用いれば、溶接材料も耐火鋼用溶接材料を、梁部材2としてステンレス鋼を用いれば、溶接材料も同等成分系のステンレス鋼用溶接材料を用いるのが好ましい。
以上の通り、溶接材料としては、一般的にはH型鋼と同等以上の材料を適用するのが普通であるが、さらに耐震性能向上あるいは風などによる長周期疲労亀裂への耐性を高めるために、特殊な溶接材料を積極的に用いることもできる。鋼のマルテンサイト変態による体積膨張効果を積極的に利用して、溶接部の引張残留応力を低減、あるいはさらに圧縮方向に変えることで、これらの性能を向上させる機能性溶接材料が開発されており、これを肉盛溶接部(下部肉盛溶接部13、上部肉盛溶接部12)に適用すればより高い耐震性能向上、耐疲労性向上が見込まれる。具体的には、溶接材料として、C≧0.15質量%、Mn≧2.0質量%、Ni≧3.0質量%、Cr≧3.0質量%の一つ以上を有する溶接材料を用いれば、溶接金属部13a、12aのマルテンサイト変態開始温度Ms点が500℃以下となり、引張残留応力の低減効果が起きる。
現場接合形式で溶接接合した肉盛溶接前の柱梁溶接継手に肉盛溶接を行う場合には、肉盛溶接前の柱梁溶接継手を天地反転することができないため、上フランジ4側への肉盛溶接は上向溶接となって肉盛溶接の難易度が高まるが、全姿勢溶接に適した溶接材料を用いることで難易度は低下する。
図12に示すように、本発明に係る柱梁溶接継手の第2の製造方法は、準備工程S11と、肉盛溶接工程S12とを含み、前記工程S11、S12を行うことによって、既存建築物から容易かつ安価な補修で耐震性能に優れた柱梁溶接継手1A、1B、1Cを製造することができる。以下、各工程について説明する。
(準備工程)
準備工程S11は、建築済みの建築物、または、建築中の建築物、すなわち、既存建築物から下部完全溶け込み溶接部9A、9B、または、上部完全溶け込み溶接部8A、8Bと下部完全溶け込み溶接部9A、9Bを露出させる工程である。ここで、露出させるとは、建築済みの建築物にあっては、補修箇所の建築物の外壁等の一部を壊して、建築物(柱梁溶接継手)の完全溶け込み溶接部を露出させることを意味し、また、建築中の建築物にあっては、建築物(柱梁溶接継手)の中から補修すべき完全溶け込み溶接部を特定することを意味する。
(肉盛溶接工程)
肉盛溶接工程S12は、第1の製造方法の肉盛溶接工程S2と同様である。
次に、本発明の実施例について、説明する。
まず、図13〜16に示すような柱梁接合模擬構造体を作製した。梁部材には490MPa級炭素鋼(SN490)からなるウエブ3(212×1025×16mm、厚さTw=16mm)と、SN490からなる上下フランジ4、5(19×995×200mm)とをすみ肉溶接したビルドH型鋼を用いた。柱部材には490MPa級であるBCR295の角形鋼管33(16×250□×205mm)に、490MPa級炭素鋼(SN490)からなるダイアフラム32(25×300□mm)を周溶接した外ダイアフラム構造の柱部材を用いた。ウエブ3の上下スカラップ6、7は、非特許文献1(P227,図4.8.20(1)参照)に従った形状とした(r=35mm、r=10mm、L=10mm)。また、SS400またはSN400からなる2枚のスティフナ21(19×212×92、半径15mmで切欠き)を梁部材の端部(柱部材と反対側)から155mmの位置にすみ肉溶接した。なお、図13は上下スカラップ工法で作製する柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)、図14は上下スカラップ工法で作製する柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)、図15は上下ノンスカラップ工法で作製する柱梁接合模擬構造体(工場接合形式)、図16は上ノンスカラップ工法、下スカラップ工法で作製する柱梁接合模擬構造体(現場接合形式)である。
次に、上下フランジ4、5の端部に形成されたレ型開先(開先角度:35°)を炭酸ガスシールドアーク溶接法で、溶接材料として490MPa級のソリッドワイヤ(JISZ3312、YGW11、1.2mm径)を使って、入熱25〜30kJ/cm、最大パス間温度250℃に熱管理してスカラップ工法またはノンスカラップ工法で施工し、完全溶け込み溶接部を形成した。また、裏当て金11は、図13、図14、図16のスカラップ工法ではSS400からなる長尺の鋼板(9×25×250)を用い、図15、図16のノンスカラップ工法ではウエブ3を挟むようにSS400からなる短尺の鋼板(9×25×120)を2枚用いた。
次に、表1に示すように肉盛溶接のパラメータを変えて、スカラップ底周囲の肉盛溶接を行い、試料No.1〜26(柱梁溶接継手)を作製した。スカラップ底周囲の肉盛溶接は一部を除き、前記完全溶け込み溶接部と同じく、炭酸ガスシールドアーク溶接法を適用し、図17(a)〜(h)の要領で多層積層した。そして、図13、図14、図16の柱梁接合構造体の下向溶接には490MPa級のソリッドワイヤ(JISZ3312、YGW11、1.2mm径)を使って、図13、図16の柱梁接合構造体(現場接合形式)の上フランジ4側の肉盛溶接については、ビードが垂れにくく、全姿勢溶接性に優れた炭酸ガスフラックス入りワイヤ(JISZ3313、T49J0T1−1CA−U、1.2mm径)を使った。また、一部特殊なものとして水平すみ肉溶接用フラックス入ワイヤ(JISZ3313、T49J0T1−0CA−U)、さらには、マルテンサイト変態を凝固過程で起こして体積膨張を起こし、引張残留応力を軽減する低変態温度溶接材料2種(表1のLTT(1)、LTT(2))を用いた。いずれの溶接材料でも施工管理として、入熱30kJ/cm以下、最大パス間温度250℃以下に管理した。
作製した試料No.1〜29に対して、以下の手順で積荷実験を行い、耐震性能について評価した。また、既存建築物からの作製の可否についても評価した。それらの結果を表1に示す。
(積荷実験)
図18に示すように、試料に対して、2つの梁部材2の端部(スティフナ21挿入部)を固定し、柱部材31Aの中央に油圧プレスで鉛直下方向の応力を付与した。図18では試料No.1(比較例)の積荷実験を示したが、試料No.2〜26の積荷実験でも同様である。応力付与を毎回天地反転させて行うことで、正負交番変形を起こさせた。具体的な載荷方法としては、梁部材2の端部での全塑性時の変形変位δpを基準に取り、載荷振幅を1δp、2δp、4δp、6δp・・・と漸増させ正負交番とし、1δp以外の各振幅で2サイクル繰り返し、梁部材2が破断した時点で実験終了とした。載荷回数と振幅のイメージ(荷重履歴)を図19に示す。
繰り返し曲げを受ける梁部材2の荷重変位関係は図20(a)のように表すことができ、梁部材2が発揮した最大耐力を上回る負荷領域をつなぎ合わせたものは骨格曲線(スケルトンカーブ、図20(b))と呼ばれる。この曲線から得られる塑性エネルギーWを弾性エネルギー(Pp・δp)で除した値は累積荷重変形倍率ηsと呼ばれ、地震時の変形能力を評価するために、良く用いられる指数である。本発明における耐震性能の評価もこのηsを算出して定量化比較した。具体的には、ηsが9以上であれば非常に耐震性能に優れる(表1では◎と記載)、ηsが7以上9未満であれば耐震性能が良好(表1では○と記載)、ηsが5以上7未満であれば耐震性能がやや良好(表1では△と記載)、ηsが5未満であれば耐震性能が劣る(表1では×と記載)とした。
表1に示すように、試料No.1〜4は、本発明の要件を満たさない比較例である。
具体的には、試料No.1(比較例)は、上下スカラップが設けられた現場接合形式の柱梁溶接継手である。施工能率が良く、コスト的に安いが、上部および下部肉盛溶接部を備えていないため、スカラップ底と裏当て金の両応力集中部から早期破断し、ηsが5未満で耐震性能は最も低い。既存建築物の形式の一種である。
試料No.2(比較例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式の柱梁継手である。梁部材の接合ディテールが上下対称となり、裏当て金が内側になるため、やや現場接合形式(試料No.1)よりも耐震性能は良いものの、上部および下部肉盛溶接部を備えていないため、スカラップ底の応力集中部から早期破断する事には変わりなく、ηsが5未満で耐震性能は低い。既存建築物の形式の一種である。
試料No.3(比較例)は、上フランジ側をノンスカラップとし、下フランジ側をスカラップとした現場接合形式の柱梁溶接継手である。上フランジ側のスカラップに起因した応力集中が消失するものの、下部肉盛溶接部を備えていないため、下フランジ側のスカラップ底がボトルネックとなるため、ηsが5未満で全く耐震性能は改善していない。なお、既存建築物からの作製は不可能である。
試料No.4(比較例)は、上下フランジ側をノンスカラップとした工場接合形式の柱梁溶接継手である。スカラップ底の応力集中が無いため、耐震性能は大幅に向上する。しかし、工場でしか作製できず、現場で高能率に施工することはできない。また、下フランジ側にスカラップが設けられている既存建築物をノンスカラップ化することは不可能である。
表1、表2に示すように、試料No.5〜26は、本発明の要件を満足する実施例である。
具体的には、試料No.5(実施例)は、上下スカラップが設けられた現場接合形式に対して、上部および下部肉盛溶接部を備えた柱梁溶接継手である。ただし、上部および下部肉盛溶接部の脚長(LaおよびLd)が好適範囲であるウエブの厚さ(Tw)よりも小さいため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.6(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が好適範囲である裏当て金幅中央部に満たないため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.7(実施例)は、上下スカラップが設けられた現場接合形式に対して、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)が好適範囲である3×Tw(ウエブの厚さ:16mm)=48mmに満たないため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.8(実施例)は、上フランジ側をノンスカラップ形式にして、下フランジ側にスカラップが設けられた現場接合形式に対して、下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、下部肉盛溶接部のウエブ側(高さ方向)脚長(La)が好適範囲であるウエブの厚さ(Tw=16mm)より不足しているため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.9(実施例)は、上フランジ側をノンスカラップ形式にして、下フランジ側にスカラップが設けられた現場接合形式に対して、下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が好適範囲である溶接金属部の頂上部に満たないため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.10(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、上フランジ側の上部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が好適範囲である裏当て金幅中央部に満たないため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.11(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、下フランジ側のみに下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。ただし、下部肉盛溶接部のフランジ側(幅方向)脚長(Ld)が好適範囲であるウエブの厚さ(Tw=16mm)より不足しているため、ηsが5以上7未満で耐震性能はやや良好で、やや耐震性能が向上した程度であった。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.12(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、下フランジ側のみに下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。試料No.11(実施例)に対して下部肉盛溶接部のフランジ側(幅方向)脚長(Ld)が大きく、好適範囲を満足するため、ηsが7以上9未満で耐震性能が良好であった。これより下部肉盛溶接部のフランジ側(幅方向)脚長(Ld)が大きい程、耐震性能が向上することがわかる。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.13(実施例)は、上下スカラップが設けられた現場接合形式に対して、下フランジ側のみに下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。本発明の要件を満足する下部肉盛溶接部を施したため、ηsが7以上9未満で耐震性能が良好であった。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.14(実施例)は、上下にスカラップが設けられた現場接合形式に対して、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。本発明の要件を満足する上部および下部肉盛溶接部を施したため、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。試料No.7(実施例)に対して上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)が増しており、これより上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)が長い程、耐震性能が向上することがわかる。
試料No.15〜17(実施例)は、試料No.14(実施例)に対して、上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)を長くした柱梁溶接継手である。上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が長くなるにつれて、耐震性能が向上することがわかる。
試料No.18(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。本発明の要件を満足する上部および下部肉盛溶接部を施したため、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。試料No.6(実施例)に対して上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が増しており、これより上部および下部肉盛溶接部の柱部材側への長さ(Lc)が長い程、耐震性能が向上することがわかる。
試料No.19〜20(実施例)は、試料No.18(実施例)に対して、上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)を長くした柱梁溶接継手である。上部および下部肉盛溶接部の柱部材と反対側への長さ(Lb)が長くなるにつれて耐震性能が向上することがわかる。
試料No.21(実施例)は、上下スカラップが設けられた工場接合形式に対して、上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。溶接材料としてソリッドワイヤYGW11の代わりに水平すみ肉溶接の作業性が優れるフラックス入りワイヤT49J0T1−0CA−Uを用いているが、本発明の要件を満足する上部および下部肉盛溶接部を施したため、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。
試料No.14〜21(実施例)は、上下フランジ側のスカラップに上部および下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手であり、試料No.4(比較例)の上下ノンスカラップとした柱梁溶接継手と同等の耐震性能が得られている。しかも、上下ノンスカラップとした試料No.4(比較例)はスカラップ有りで製造された柱梁溶接継手からは作製が不可能であるが、試料No.14〜21(実施例)はスカラップ有りで製造された柱梁溶接継手から補修によって作製可能であるという長所を有している。
試料No.22〜24(実施例)は、上フランジ側をノンスカラップとし、下フランジ側にスカラップを設けた現場接合形式に対して、下フランジ側に下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。本発明の要件を満足する下部肉盛溶接部を施したため、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。試料No.8、22、23、24(実施例)となるに従い、下部肉盛溶接部の脚長(La、Ld)が大きくなっており、それに従い耐震性能が向上することがわかる。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.22〜24(実施例)は片側ノンスカラップであるが、両側ノンスカラップの試料No.4(比較例)と同等の耐震性能が得られている。しかも、試料No.4(比較例)の上下ノンスカラップは、柱部材と梁部材との溶接接合が工場にて天地反転作業を伴って施工する手間があるが、試料No.22〜24(実施例)は建築される現場で直接柱部材と梁部材とを溶接接合することができ、効率的という長所がある。
試料No.25(実施例)は、試料No.22〜24(実施例)と同じく、上フランジ側をノンスカラップとし、下フランジ側にスカラップを設けた現場接合形式に対して、下フランジ側に下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。肉盛溶接材料としてC:0.10質量%、Si:0.50質量%、Mn:3.20質量%、Ni:1.2質量%の低変態温度溶接ワイヤを用いている。肉盛溶接の止端部の残留応力が低減され、亀裂破壊しにくくなり、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。また、既存建築物からの作製は可能である。
試料No.26(実施例)は、試料No.22〜25(実施例)と同じく、上フランジ側をノンスカラップとし、下フランジ側にスカラップを設けた現場接合形式に対して、下フランジ側に下部肉盛溶接部を施した柱梁溶接継手である。肉盛溶接材料としてC:0.10質量%、Si:0.70質量%、Mn:2.20質量%、Ni:10.5質量%、Cr:9.4質量%の低変態温度溶接ワイヤを用いている。その変態温度は試料No.25(実施例)よりも低い。肉盛溶接の止端部の残留応力が低減され、亀裂破壊しにくくなり、ηsが9以上で耐震性能が優れていた。また、既存建築物からの作製は可能である。
1A、1B、1C 柱梁溶接継手
2 梁部材
3 ウエブ
4 上フランジ
5 下フランジ
6 上スカラップ
7 下スカラップ
8A、8B 上部完全溶け込み溶接部
9A、9B 下部完全溶け込み溶接部
10 溶接金属部
11 裏当て金
12 上部肉盛溶接部
13 下部肉盛溶接部
31A、31B、31C 柱部材
SL 下スカラップ底
SU 上スカラップ底
S1 梁端部突合せ溶接工程
S11 準備工程
S2、S12 肉盛溶接工程

Claims (12)

  1. 柱部材と、
    ウエブとそのウエブの上端部側および下端部側に設けられた上フランジおよび下フランジとでH型の断面が形成された梁部材と、
    前記ウエブの上端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された上スカラップと、
    前記ウエブの下端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された下スカラップと、
    前記柱部材の側面と前記上フランジの端面との突合せ溶接によって形成され、溶接金属部と裏当て金とからなる上部完全溶け込み溶接部と、
    前記柱部材の側面と前記下フランジの端面との突合せ溶接によって形成され、溶接金属部と裏当て金とからなる下部完全溶け込み溶接部と、
    前記下スカラップの前記下フランジに当接する下スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された下部肉盛溶接部とを備え、
    前記上部完全溶け込み溶接部では、前記裏当て金が前記上スカラップ側にあることを特徴とする柱梁溶接継手。
  2. 前記下部完全溶け込み溶接部では、前記溶接金属部が前記下スカラップ側にあり、
    前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、
    前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記溶接金属部の頂上部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることを特徴とする請求項1に記載の柱梁溶接継手。
  3. 前記下部完全溶け込み溶接部では、前記裏当て金が前記下スカラップ側にあり、
    前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、
    前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記裏当て金の幅中央部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることを特徴とする請求項1に記載の柱梁溶接継手。
  4. 前記上スカラップの前記上フランジに当接する上スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された上部肉盛溶接部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の柱梁溶接継手。
  5. 前記上部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記上部肉盛溶接部の前記上フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、
    前記上部肉盛溶接部の前記上スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記裏当て金の幅中央部を越える長さであって、かつ、前記上部肉盛溶接部の前記上スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることを特徴とする請求項4に記載の柱梁溶接継手。
  6. 柱部材と、
    ウエブとそのウエブの上端部側および下端部側に設けられた上フランジおよび下フランジとでH型の断面が形成された梁部材と、
    前記ウエブの下端部を前記柱部材側で一部切り欠いて形成された下スカラップと、
    前記柱部材の側面と前記上フランジの端面との突合せ溶接によって形成され、溶接金属部と2つの裏当て金とからなる上部完全溶け込み溶接部と、
    前記柱部材の側面と前記下フランジの端面との突合せ溶接によって形成され、溶接金属部と裏当て金とからなる下部完全溶け込み溶接部と、
    前記下スカラップの前記下フランジに当接する下スカラップ底から前記柱部材側、前記柱部材と反対側および前記ウエブの厚さ方向の両側に、肉盛溶接によって形成された下部肉盛溶接部とを備え、
    前記上部完全溶け込み溶接部では、2つの前記裏当て金が前記ウエブの上端部を挟むように接合されていることを特徴とする柱梁溶接継手。
  7. 前記下部完全溶け込み溶接部において、裏当て金に接合した溶接金属部は、前記下スカラップ側にあり、
    前記下部肉盛溶接部の前記ウエブ側への脚長(La)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下フランジ側への脚長(Ld)は、前記ウエブの厚さ(Tw)以上の長さであり、
    前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材側への長さ(Lc)は、前記溶接金属の頂上部を越える長さであって、かつ、前記下部肉盛溶接部の前記下スカラップ底から前記柱部材と反対側への長さ(Lb)は、前記ウエブの厚さ(Tw)の3倍以上の長さであることを特徴とする請求項6に記載の柱梁溶接継手。
  8. 請求項1、2、3、6、7のいずれか一項に記載の柱梁溶接継手の製造方法であって、
    前記柱部材の側面と前記上フランジの端面、および、前記柱部材の側面と前記下フランジの側面とを突合せ溶接して、前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を形成する梁端部突合せ溶接工程と、
    前記梁端部突合せ溶接工程の終了後、下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする柱梁溶接継手の製造方法。
  9. 請求項4または5に記載の柱梁溶接継手の製造方法であって、
    前記柱部材の側面と前記上フランジの端面、および、前記柱部材の側面と前記下フランジの側面とを突合せ溶接して、前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を形成する梁端部突合せ溶接工程と、
    前記梁端部突合せ溶接工程の終了後、上フランジ側および下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記上部肉盛溶接部および前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする柱梁溶接継手の製造方法。
  10. 請求項1、2、3、6、7のいずれか一項に記載の柱梁溶接継手の製造方法であって、
    既存建築物から前記下部完全溶け込み溶接部を露出させる準備工程と、
    前記準備工程の終了後、下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする柱梁溶接継手の製造方法。
  11. 請求項4または5に記載の柱梁溶接継手の製造方法であって、
    既存建築物から前記上部完全溶け込み溶接部および前記下部完全溶け込み溶接部を露出させる準備工程と、
    前記準備工程の終了後、上フランジ側および下フランジ側に肉盛溶接を行って、前記上部肉盛溶接部および前記下部肉盛溶接部を形成する肉盛溶接工程と、を含むことを特徴とする柱梁溶接継手の製造方法。
  12. 前記肉盛溶接工程では、C≧0.15質量%、Mn≧2.0質量%、Ni≧3.0質量%、Cr≧3.0質量%のうち1つ以上を含有する溶接材料を用いて、肉盛溶接を行うことを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の柱梁溶接継手の製造方法。
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