発明者らは、サイクロトロンのようにイオンビームを連続的に取り出すことができ、シンクロトロンのようにエネルギーが異なるイオンビームを取り出すことができる加速器を実現するために種々の検討を行った。
発明者らがまず着目したのは、サイクロトロンの真空容器内を周回するイオンビームのビーム周回軌道の相互の間隔(真空容器の半径方向におけるビーム周回軌道相互の間隔)を広くすることである。このビーム周回軌道の間隔を広くする、すなわち、ビーム周回軌道相互間の間隔(ターンセパレーション)を大きくすることは、真空容器の直径が大きくなり、サイクロトロンが大型化する。これでは、加速器の小型化に反することになる。また、従来のサイクロトロンでは、真空容器内で同心円状のビーム周回軌道を描いており、高エネルギーでのターンセパレーションの確保が困難なため、エネルギーが異なる各イオンビームを効率良く出射することが困難であった。
サイクロトロンでは、円形の真空容器が用いられ、イオン源がこの真空容器の中心にイオンを入射するように真空容器の中心に連絡されている。発明者らは、サイクロトロンにおいて真空容器の中心に接続されているイオン源を、真空容器に形成されるビーム取り出し口側に移動させて真空容器に接続し、イオン源からのイオンを、真空容器の中心ではなく、ビーム取り出し口側にずれた位置で真空容器に入射させることを考えた。この結果、イオン源からイオンが入射されるイオン入射位置とビーム取り出し口の間で真空容器内に形成されるビーム周回軌道相互の間隔が密になり、真空容器におけるビーム取り出し口と180°反対側の位置とそのイオン入射位置との間では、イオン入射位置とビーム取り出し口の間とは逆に真空容器内に形成されるビーム周回軌道相互後の間隔を広くすることができた。
本発明の好適な一実施例である実施例1の粒子線照射装置を、図1〜図8を用いて以下に説明する。
本実施例の粒子線照射装置1は、建屋(図示せず)内に配置されて建屋の床面に設置される。この粒子線照射装置1は、イオンビーム発生装置2、ビーム輸送系13、回転ガントリー6、照射装置7及び制御システム65を備えている。イオンビーム発生装置2は、イオン源3及びイオン源3が接続される加速器4を有する。本実施例で用いられる加速器4はエネルギー可変連続波加速器である。
ビーム輸送系13は、照射装置7に達するビーム経路(ビームダクト)48を有しており、このビーム経路48に、加速器4から照射装置7に向かって、複数の四極電磁石46、偏向電磁石41、複数の四極電磁石47、偏向電磁石42、四極電磁石49,50及び偏向電磁石43,44をこの順に配置して構成されている。ビーム輸送系13のビーム経路48の一部は、回転ガントリー6に設置されており、偏向電磁石42、四極電磁石49,50及び偏向電磁石43,44も回転ガントリー6に設置されている。ビーム経路48は、加速器4に設けられた取り出し用のセプタム電磁石19に形成されたビーム出射経路20(図3参照)に接続される。回転ガントリー6は、回転軸45を中心に回転され、照射装置7を回転軸45の周りで旋回させる回転装置である。
照射装置7は、2台の走査電磁石(イオンビーム走査装置)51,52、ビーム位置モニタ53及び線量モニタ54を備えている。走査電磁石51,52、ビーム位置モニタ53及び線量モニタ54は、照射装置7の中心軸、すなわち、ビーム軸に沿って配置されている。走査電磁石51,52、ビーム位置モニタ53及び線量モニタ54は照射装置7のケーシング(図示せず)内に配置され、ビーム位置モニタ53及び線量モニタ54は走査電磁石51,52の下流に配置される。走査電磁石51はイオンビームを照射装置7の中心軸に垂直な平面内において偏向させてy方向に走査し、走査電磁石52はイオンビームをその平面内において偏向させてy方向と直交するx方向に走査する。照射装置7は、回転ガントリー6に取り付けられており、偏向電磁石44の下流に配置される。患者56が横たわる治療台55が、照射装置7に対向するように配置される。
制御システム65は、中央制御装置66、加速器・輸送系制御装置69、走査制御装置70、回転制御装置88及びデータベース72を有する。中央制御装置66は、中央演算装置(CPU)67及びCPU67に接続されたメモリ68を有する。加速器・輸送系制御装置69、走査制御装置70、回転制御装置88及びデータベース72は、CPU67に接続されている。荷電粒子ビーム照射システム1は治療計画装置73を有しており、治療計画装置73はデータベース72に接続されている。
図9を用いて制御システム65を詳細に説明する。加速器・輸送系制御装置69は、入射用電極制御装置83、ビーム電流測定部制御装置84、電磁石制御装置85、マスレスセプタム制御装置86、コイル電流制御装置94、高周波電圧制御装置99及びメモリ107を含んでいる。走査制御装置70は、イオンビーム確認装置87、照射位置制御装置89、線量判定装置91、層判定装置92及びメモリ70を含んでいる。CPU67は、入射用電極制御装置83、ビーム電流測定部制御装置84、電磁石制御装置85、マスレスセプタム制御装置86、コイル電流制御装置94、高周波電圧制御装置99、メモリ107、イオンビーム確認装置87、照射位置制御装置89、線量判定装置91、層判定装置92及びメモリ70に接続される。照射位置制御装置89は入射用電極制御装置83、電磁石制御装置85及びマスレスセプタム制御装置86に接続され、線量判定装置91は入射用電極制御装置83に接続される。層判定装置92は照射位置制御装置89に接続される。メモリ107は入射用電極制御装置83、ビーム電流測定部制御装置84、電磁石制御装置85及びマスレスセプタム制御装置86のそれぞれに接続され、メモリ70が照射位置制御装置89、線量判定装置91及び層判定装置92のそれぞれに接続される。
次に、加速器4の詳細な構成を、図3、図4、図5及び図6を用いて説明する。加速器4は、互いに対向する円形の鉄心14A及び14Bを含む円形の真空容器27を有する。鉄心14A及び14Bは、後述するように、結合されて真空容器27を形成し、加速器4の外殻を形成する。鉄心14Aはリターンヨーク5A及び磁極7A〜7Fを含み、鉄心14Bはリターンヨーク5B及び磁極7A〜7Fを含んでいる。磁極7A〜7Fのそれぞれの具体的な構成は後述する。リターンヨーク5Aは円形で所定の厚みを有するベース部74A及びベース部74Aの一面からこの一面に垂直な方向に伸びる筒状部(例えば、円筒部)75Aを有し、リターンヨーク5Bはベース部74B及びベース部74Bの一面からこの一面に垂直な方向に伸びる筒状部(例えば、円筒部)75Bを有する(図5及び図6参照)。ベース部74Aが筒状部75Aの一端部を封鎖しているため、リターンヨーク5Aは他端部が開放されている。ベース部74Bが筒状部75Bの一端部を封鎖しているため、リターンヨーク5Bは他端部が開放されている。真空容器27を構成する鉄心14Aと鉄心14Bの接触面である筒状部75Aと筒状部75Bの接触面はシールされている。
鉄心14A及び14B、具体的には、リターンヨーク5A及び5Bは、図5及び図6に示されるようにそれぞれの開放されている部分を互いに向い合せ、筒状部75Aと筒状部75Bを対向させた状態で互いに結合され、真空容器27を構成する。本実施例では、真空容器27を上記した建屋の床面に設置するためにリターンヨーク5Bを下方に位置させてその床面に設置し、リターンヨーク5Aがリターンヨーク5Bの上に載っている(図6参照)。本実施例では、筒状部75A,75Bは、リターンヨーク5A,5Bのそれぞれの側壁を形成しており、真空容器27の側壁になる。鉄心14Aの外側に配置されたイオン源3に接続されたイオン入射管3Aは、リターンヨーク5Aのベース部74Aに取り付けられてベース部74Aを貫通している。
リターンヨーク5Aとリターンヨーク5Bが接触する位置で真空容器27内に形成される一点鎖線で示された面は、中間面(メディアンプレーン)77(図5及び図6参照)であり、真空容器27内でイオンビームが加速されて周回する面である。また、中間面77には、後述するように、異なるエネルギーを有するイオンビームのそれぞれが周回するビーム周回軌道が形成される。実際には、イオンビームは中間面77に垂直な方向(真空容器27の中心軸C)においてベータトロン振動をしながら周回するため、イオンビームは、中間面77に垂直な方向において或る幅を有するビーム周回領域76(図5及び図6参照)内を周回する。真空容器27の中心軸Cは鉄心14A,14Bの中心軸でもある。
吸引管26が、イオン入射管3Aの中心軸の延長線上に配置されてベース部74Bを貫通し、ベース部74Bに取り付けられる。ベース部74Bの外面に取り付けられた真空ポンプ25が吸引管26に接続される。吸引管26はビーム周回領域76に開口している。
さらに、加速器4は、磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7F、高周波加速電極9A,9B,9C及び9D、環状コイル11A及び11B、マスレスセプタム12、ビーム電流測定部15、入射用電極18及び取り出し用の前述のセプタム電磁石19を有する。
環状コイル(好ましくは、円形コイル)11Bはリターンヨーク5Bの筒状部75Bの内側で筒状部75Bの内面に沿って配置される(図3、図5及び図6参照)。環状コイル11Bに接続される2本の引出配線22は、筒状部75Bを貫通して真空容器27の外部に達している。環状コイル11Bと同様に、環状コイル11Aはリターンヨーク5Aの筒状部75Aの内側で筒状部75Aの内面に沿って配置される(図5及び図6参照)。環状コイル11Aにも、環状コイル11Bと同様に、2本の引出配線(図示せず)が接続され、これらの引出配線は筒状部75Aを貫通して真空容器27の外部に達している。真空容器27の中心軸Cは、環状コイル11A,11Bのそれぞれの中心軸である。環状コイル11A,11Bのそれぞれの重心は、中心軸C上に位置している。環状コイル11A,11Bは、環状のメインコイルである。
湾曲しているセプタム電磁石19が、筒状部75A及び75Bをそれぞれ貫通しており、リターンヨーク5Bの筒状部75Bに取り付けられる。セプタム電磁石19の真空容器27内に位置する一端は、環状コイル11A,11Bよりも内側に位置している。セプタム電磁石19はビーム出射経路20を形成している。セプタム電磁石19の一端、及びビーム出射経路20の一端である入口は、それぞれの、真空容器27内に位置しており、環状コイル11A,11Bの内側でこれらの内面近くに位置している。セプタム電磁石19は、真空容器27の中心軸C方向において環状コイル11Aと環状コイル11Bの間に配置される。
磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fは鉄心14A,14Bのそれぞれに形成される。鉄心14Aに形成された磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fのそれぞれは、リターンヨーク5Aのベース部74Aから、筒状部75Aが伸びている方向に突出している。鉄心14Bに形成された磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fのそれぞれは、リターンヨーク5Bのベース部74Bから、筒状部75Bが伸びている方向に突出している(図6参照)。高周波加速電極9A,9B,9C及び9Dは、導波管10A〜10Dのそれぞれを介して、リターンヨーク5A及び5Bの筒状部75A及び75Bのそれぞれに取り付けられる。リターンヨーク5Bに設けられた磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7F及び高周波加速電極9A,9B,9C及び9Dのそれぞれは、環状コイル11Bの内側に配置される(図3参照)。リターンヨーク5Aに設けられた磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7F、高周波加速電極9A,9B,9C及び9Dのそれぞれも、リターンヨーク5Bに設けられた磁極及び高周波加速電極と同様に、環状コイル11Aの内側に配置される。
リターンヨーク5Bにおける磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7F及び高周波加速電極9A,9B,9C及び9Dのそれぞれの詳細な配置を、図3を用いて説明する。リターンヨーク5Aにおける磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fのそれぞれの形状及び配置は、中間面77に対して、リターンヨーク5Bにおける磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fのそれぞれの形状及び配置と対称になっており、さらに、リターンヨーク5Aにおける高周波加速電極9A,9B,9C及び9Dのそれぞれの形状及び配置は、中間面77に対して、リターンヨーク5Bにおける高周波加速電極9A,9B,9C及び9Dのそれぞれの形状及び配置と対称になっている。このため、リターンヨーク5A内における各磁極及び各高周波加速電極の説明は省略する。
リターンヨーク5Bのベース部74Bに形成された磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fは、ベース部74Bから突出した凸部である(図6参照)。
リターンヨーク5Bにおいて、磁極7A〜7Fのそれぞれと凹部29A〜29Fのそれぞれは、リターンヨーク5Bの周方向において交互に配置される。すなわち、磁極7Aと磁極7Bの間に凹部29A(第1凹部)が形成され、磁極7Bと磁極7Dの間に凹部29Bが形成され、磁極7Aと磁極7Cの間に凹部29Fが形成される(図3、図4及び図6参照)。さらに、リターンヨーク5Bにおいて、磁極7Dと磁極7Fの間に凹部29Cが形成され、磁極7Fと磁極7Eの間に凹部29D(第2凹部)が形成され、磁極7Eと磁極7Cの間に凹部29Eが形成される(図3、図4及び図5参照)。リターンヨーク5Bにおいて、磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fのそれぞれと筒状部75Bの間に、環状コイル11Bが配置される凹部29Gがそれぞれ形成される(図3及び図6参照)。
イオン入射管3Aの先端部は、リターンヨーク5Aのベース部74Aに形成された磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fのそれぞれの先端によって取り囲まれている。入射用電極18が、イオン入射管3Aの先端に取り付けられており、中間面77を横切った状態でビーム周回領域76に配置される。イオン入射管3Aの先端はビーム周回領域76に連絡される。イオン入射管3Aの先端に形成されたイオン入射口であるイオン注入口、及び入射用電極18は、環状コイル11A,11Bの中心軸Cとビーム出射経路20の入口を結ぶ一点鎖線X上に配置され、環状コイル11A,11Bの中心軸Cからビーム出射経路20の入口側にずれて配置されている。すなわち、そのイオン注入口及び入射用電極18は、その中心軸Cとは異なる位置に配置され、環状コイル11A,11Bのそれぞれの重心とは異なる位置に配置されている。イオン注入口及び入射用電極18は、鉄心14A,14Bの中心軸Cとは異なる位置に配置されている。イオン注入口はイオンをビーム周回領域76に入射するイオン入射口である。さらに、イオン注入口からのイオンを受け入れるイオン入射部109(図10参照)は、最も内側のビーム周回軌道の内側に形成される領域であり、具体的には、入射用電極18の周囲でビーム周回領域76内に形成される。
入射用電極18とビーム出射経路20の入口の間に位置している凹部29D(第2凹部)、及び入射用電極18を基点にしてビーム出射経路20の入口とは180°反対側に位置している凹部29A(第1凹部)は、一点鎖線Xに沿って一直線に配置されている。
本実施例の加速器は、ビーム周回軌道に沿った磁場分布に強弱をつけ強収束を得るために、対向する鉄心に複数の凸部(磁極)が形成されている。以下に、円形である鉄心の中心とは異なる軌道平面上の位置にイオン入射点を設けた本実施例加速器において、偏心したビーム周回軌道を形成する磁場分布を得るための、凸部(磁極)形状について説明する。なお、偏心したビーム周回軌道を形成するのに適切な鉄心及びその凸部(磁極)形状は加速するイオン粒子の質量や電荷等により異なり、図面に示された形状には限られない。図面及び以下に説明する磁極形状は、本発明を陽子に適用した場合の一例である。鉄心の中心は鉄心の中心軸上にある。
リターンヨーク5Bのベース部74Aに形成された磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fは、水平方向(中心軸Cに垂直な方向)において、イオン注入口、すなわち、入射用電極18の位置を中心に放射状に配置される。これらの磁極のそれぞれの環状コイル11Bの周方向における幅が入射用電極18に向って減少している。これらの磁極の先端はそれぞれ尖っており、尖った各先端が入射用電極18に対向している。磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fのそれぞれの環状コイル11Bの周方向における幅は、それぞれの磁極の、環状コイル11Bに対向している部分で最も大きくなる。
磁極7Aは向き合っている2つの側面に形成される折れ曲り点24A,24Bで、磁極7Bは向き合っている2つの側面に形成される折れ曲り点24C,24Dで、及び磁極7Cは向き合っている2つの側面に形成される折れ曲り点24E,24Fでそれぞれ折れ曲がっている(図4参照)。また、磁極7Dは向き合っている2つの側面に形成される折れ曲り点24G,24Hで、磁極7Eは向き合っている2つの側面に形成される折れ曲り点24I,24Jで、及び磁極7Fは向き合っている2つの側面に形成される折れ曲り点24K,24Lでそれぞれ折れ曲がっている(図4参照)。
磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fの、それぞれの折れ曲り点と環状コイル11Bに対向する端面の間の部分は、凹部29A側に折れ曲がっている。すなわち、磁極7A,7C及び7Eのそれぞれの折れ曲り点と環状コイル11Bに対向する端面の間の部分は、イオンビームが周回する方向において凹部29A側に折れ曲がっている。磁極7B,7D及び7Fのそれぞれの折れ曲り点と環状コイル11Bに対向する端面の間の部分は、イオンビームが周回する方向とは逆の方向において凹部29A側に折れ曲がっている。磁極7A,7Bの各折れ曲り部分の折れ曲り角度の絶対値は同じである。磁極7C,7Dの各折れ曲り部分の折れ曲り角度の絶対値は同じであり、磁極7E,7Fの各折れ曲り部分の折れ曲り角度の絶対値は同じである。各磁極の折れ曲り角度の絶対値は、磁極7A、磁極7C及び磁極7Eの順に増大する。磁極7E,7Fの折れ曲り角度の絶対値が最も大きい。
磁極7Aの、折れ曲り点24A,24Bと先端との間の部分、磁極7Bの、折れ曲り点24C,24Dと先端との間の部分、磁極7Cの、折れ曲り点24E,24Fと先端との間の部分、磁極7Dの、折れ曲り点24G,24Hと先端との間の部分、磁極7Eの、折れ曲り点24I,24Jと先端との間の部分、及び磁極7Fの、折れ曲り点24K,24Lと先端との間の部分は、水平方向において、入射用電極18を中心に60°ごとに配置される。
本実施例では、後述するように、入射用電極18(イオン入射管3Aのイオン注入口)を中心する軌道同心領域、及びこの軌道同心領域を取り囲む軌道偏心領域が形成される。軌道同心領域は、磁極7A〜7Fのそれぞれの折れ曲り点の内側の一定領域に形成される。よって、各磁極の折れ曲がり点の内側の形状は、6セクターのラジアルセクタ型AVFサイクロトロンと類似した形状を有している。軌道同心領域では、軌道同心領域内に形成されるそれぞれの環状ビーム周回軌道の中心はエネルギーが異なるイオンビームが周回する環状ビーム周回軌道ごとに変化しない。つまり、ビーム周回軌道の周期の中の所定タイミングで、又は、ビーム周回軌道の中心に対して放射状に磁極が設置された所定の周回角度間において、磁場の強弱、つまりビームの収束及び発散が得られるようにそれらの磁極が形成されている。
一点鎖線Xに対して、磁極7Aと磁極7Bが、磁極7Cと磁極7Dが、磁極7Eと磁極7Fが、凹部29Fと凹部29Bが、及び凹部29Eと凹部29Cが、それぞれ対称の形状を有している。また、鉄心14A,14Bのそれぞれに形成された6個の磁極(凸部)7A〜7Fのうち磁極7A,7C及び7Eは、環状コイルの中心軸Cとビーム出射経路20の入口を結ぶ直線に対して、磁極7B,7D及び7Fと線対称に設置されている。同時に本実施例に示す磁極形状は、円形な鉄心の中心に対しても、環状コイルの重心に対しても、イオン入射点に対しても、全体として回転対称には設置されていない。その理由は、エネルギーごとに徐々にそのビーム周回軌道の中心が変位していても、各ビーム周回軌道の周期の中の所定タイミングで、又は、結果的にそれぞれのビーム周回軌道の中心に対して概ね同様の周回角度で、磁場の強弱、つまりビームの収束及び発散を得るためである。このため、磁極形状は、ビーム周回軌道の中心がずれる方向に対して線対称であって、中心がずれる逆方向に向かって斜めに傾くように設置されることとなり、つまり回転対称ではない形状となる。このような磁極形状では、6つの磁極部分の全体の重心は、鉄心の中心からビーム周回軌道の中心がずれる逆方向に変位するため、鉄心の中心と6つの磁極部分全体の重心は異なる水平面上の座標に位置する。磁極形状とビーム周回軌道の関連性については、図10を用いた詳細な説明を後述する。
トリムコイル8Aが磁極7Aに設置され、引出配線21A,21Bがトリムコイル8Aの両端にそれぞれ接続される。トリムコイル8Bが磁極7Bに設置され、引出配線21C,21Dがトリムコイル8Bの両端にそれぞれ接続される。トリムコイル8Cが磁極7Cに設置され、引出配線21E,21Fがトリムコイル8Cの両端にそれぞれ接続される。トリムコイル8Dが磁極7Dに設置され、引出配線21G,21Hがトリムコイル8Dの両端にそれぞれ接続される。トリムコイル8Eが磁極7Eに設置され、引出配線21I,21Jがトリムコイル8Eの両端にそれぞれ接続される。トリムコイル8Fが磁極7Fに設置され、引出配線21L,21Kがトリムコイル8Fの両端にそれぞれ接続される。引出配線21A〜21Kのそれぞれが、環状コイル11Aと環状コイル11Bの間を通って筒状部75Bを貫通し、真空容器27の外部に取り出される。
トリムコイル8A〜8Fのそれぞれは、中間面77において等時性磁場を生成するために、そこに発生させたい磁場に応じて磁極7A〜7Fのそれぞれに設置されるため、設置されたトリムコイルの間隔は一定ではない。磁極7A〜7Fのそれぞれにおいて、入射用電極18側よりも環状コイルの内面に近いほど、設置されたトリムコイルの間隔は狭くなる。さらに、磁極7A,7C及び7Eでは、磁極7A,7C及び7Eの順に設置されたトリムコイルの間隔は狭くなる。磁極7B,7D及び7Fでは、磁極7B,7D及び7Fの順に設置されたトリムコイルの間隔は狭くなる。ビーム出射経路20の入口付近において環状コイルの半径方向の狭い範囲に幅広いエネルギービーム周回軌道78が集束するので、ビーム出射経路20の入口に隣接している磁極7E及び7Fでは、設置されたトリムコイルの間隔が、必要となる急なその半径の磁場勾配及び高エネルギーのビーム周回軌道に対応するためにそれらの外周部において狭くなっている。
リターンヨーク5B内での高周波加速電極9A,9B,9C及び9Dの配置を、図3及び図6を用いて説明する。
高周波加速電極9Aは、磁極7Aと磁極7Cの間で凹部29F内に配置され、導波管10Aに接続される。高周波加速電極9Aは、凹部29F内で折れ曲り点24B及び24Eと環状コイル11Bの間に配置される。高周波加速電極9Bは、磁極7Bと磁極7Dの間で凹部29B内に配置され、導波管10Bに接続される。高周波加速電極9Bは、凹部29B内で折れ曲り点24D及び24Gと環状コイル11Bの間に配置される。高周波加速電極9A及び9Bは、イオン注入口側の端面を、高周波加速電極9A及び9Bのそれぞれの折れ曲がり点とイオン注入口の間の中間点に位置させてもよい。導波管10A及び10Bは、環状コイル11Aと環状コイル11Bの間を通って筒状部75Bを貫通し、真空容器27の外部に取り出される。高周波加速電極9A,9Bでは、環状コイル11Bの周方向における幅が入射用電極18から環状コイル11Bに向って増大している。
高周波加速電極9Cは、磁極7Cと磁極7Eの間で凹部29E内に配置され、導波管10Cに接続される。高周波加速電極9Cは、2つの側面に形成される折れ曲り点24M及び24N(図4参照)で折れ曲っている。高周波加速電極9Cの、折れ曲り点24M及び24Nと環状コイル11Bに対向する端面の間の部分が、イオンビームが周回する方向において、凹部29A(第1凹部)側に折れ曲がっている。高周波加速電極9Cの、環状コイル11Bの周方向における幅は、折れ曲り点24M及び24Nのそれぞれの折れ曲がった位置から先端に向かって減少し、これらの折れ曲がり点から環状コイル11Bに対向する端面に向って増加する。高周波加速電極9Dは、磁極7Dと磁極7Fの間で凹部29C内に配置され、導波管10Dに接続される。高周波加速電極9Dは、2つの側面に形成される折れ曲り点24O及び24P(図4参照)で折れ曲っている。高周波加速電極9Dの、折れ曲り点24O及び24Pと環状コイル11Bに対向する端面の間の部分が、イオンビームが周回する方向とは逆の方向において、凹部29A(第1凹部)側に折れ曲がっている。高周波加速電極9Dの、環状コイル11Bの周方向における幅が、折れ曲り点24O及び24Pのそれぞれの折れ曲がった位置から先端に向かって減少し、これらの折れ曲がり点から環状コイル11Bに対向する端面に向って増加する。導波管10C,10Dは、環状コイル11Aと環状コイル11Bの間を通って筒状部75Bを貫通し、真空容器27の外部に取り出される。高周波加速電極9C及び9Dのそれぞれの先端は、入射用電極18側に位置しており、入射用電極18が設置されたイオン入射領域で、互いに接続される。入射用電極18は、高周波加速電極9Cと高周波加速電極9Dの接続部に面し、この接続部から離れた状態でビーム周回領域76内に配置される。
凹部29A、入射用電極18及び凹部29Dは、真空容器27の中心軸Cを通る一点鎖線Xに沿って配置される。
リターンヨーク5Aのベース部74Aに形成された磁極7A〜7Fのそれぞれは、図6に示すように、筒状部75Aから突出した凸部である。リターンヨーク5Aにおいても、リターンヨーク5Bと同様に、磁極7A,7B,7C,7D,7E及び7Fのそれぞれと筒状部75Aの間に、環状コイル11Aが配置される凹部29Gがそれぞれ形成される(図6参照)。
リターンヨーク5Aとリターンヨーク5Bが向き合って互いに結合された状態では、磁極7A同士、磁極7B同士、磁極7C同士、磁極7D同士、磁極7E同士及び磁極7F同士が互いに対向している。リターンヨーク5Aとリターンヨーク5Bのそのような結合状態では、凹部29A同士、凹部29B同士、凹部29C同士、凹部29D同士、凹部29E同士及び凹部29F同士も互いに対向している。
また、中間面77に対して、リターンヨーク5A及び5Bのそれぞれに形成された磁極7A同士が、磁極7B同士が、磁極7C同士が、磁極7D同士が、磁極7E同士が及び磁極7F同士が、さらに、リターンヨーク5A及び5Bのそれぞれに形成された凹部29A同士が、凹部29B同士が、凹部29C同士が、凹部29D同士が、凹部29E同士が及び凹部29F同士が、それぞれ対称となる形状を有する。
リターンヨーク5Aに形成された凹部29Aの底面95とリターンヨーク5Bに形成された凹部29Aの底面95は、図5に示すように、イオン入射管3Aの位置で互いに最も接近している。真空容器27において、これらの底面95は、入射用電極18を基点にしてビーム出射経路20の入口とは180°反対側、具体的には凹部29Aに配置されたマスレスセプタム12に向かって傾斜面となっており、これらの底面95間の、中心軸C方向の幅も、イオン入射管3Aからマスレスセプタム12に向かって徐々に広くなる。マスレスセプタム12が配置された位置で、リターンヨーク5Aに形成された凹部29Aの底面95とリターンヨーク5Bに形成された凹部29Aの底面95の間の幅は、これらの底面95間に形成される幅内で最も広くなっている。
リターンヨーク5Aに形成された凹部29Dの底面95とリターンヨーク5Bに形成された凹部29Dの底面95も、図5に示すように、イオン入射管3Aの位置で互いに最も接近している。真空容器27において、これらの底面95は、イオン入射管3Aの位置からセプタム電磁石19に向かって傾斜面となっており、これらの底面95間の、中心軸C方向の幅も、イオン入射管3Aからセプタム電磁石19に向かって徐々に広くなる。リターンヨーク5Aに形成された凹部29Dの環状コイル11Aが配置される部分の底面95とリターンヨーク5Bに形成された凹部29Dの環状コイル11Aが配置される部分の底面95の間の幅は、リターンヨーク5Aに形成された凹部29Aのマスレスセプタム12が配置される部分の底面95とリターンヨーク5Bに形成された凹部29Aのマスレスセプタム12が配置される部分の底面95の間の幅と同じである。
鉄心14Aでは、磁極7A〜7F、ベース部74A及び筒状部75Aが一体になって鉄心14Aが構成される。鉄心14Bでは、磁極7A〜7F、ベース部74B及び筒状部75Bが一体になって鉄心14Bが構成される。
図6に示すように、リターンヨーク5Aの磁極7Aとこれと対向しているリターンヨーク5Bの磁極7Aの間には、間隙28Aが形成され、真空容器27の軸方向において対向する磁極7B間には、前述の間隙28Bが形成され、リターンヨーク5Aの磁極7Cとこれと対向しているリターンヨーク5Bの磁極7Cの間には、間隙28Cが形成され、及びリターンヨーク5Aの磁極7Dとこれと対向しているリターンヨーク5Bの磁極7Dの間には、間隙28Dが形成される。図示されていないが、リターンヨーク5Aの磁極7Eとこれと対向しているリターンヨーク5Bの磁極7Eの間及びリターンヨーク5Aの磁極7Fとこれと対向しているリターンヨーク5Bの磁極7Fの間にも、間隙がそれぞれ形成される。さらに、リターンヨーク5Aの高周波加速電極9Aとこれと対向しているリターンヨーク5Bの高周波加速電極9Aの間にも間隙が形成され、リターンヨーク5Aの高周波加速電極9Bとこれと対向しているリターンヨーク5Bの高周波加速電極9Bの間にも間隙が形成される。図示されていないが、リターンヨーク5Aの高周波加速電極9Cとこれと対向しているリターンヨーク5Bの高周波加速電極9Cの間及びリターンヨーク5Aの高周波加速電極9Dとこれと対向しているリターンヨーク5Bの高周波加速電極9Dの間にも、同様に、間隙がそれぞれ形成されている。
前述した各磁極の相互間に形成された間隙及び各高周波加速電極の相互間に形成された間隙は、全て、中間面77を内包しており、イオンビームが水平方向において周回するビーム周回領域76を形成する。
マスレスセプタム12が、リターンヨーク5A,5Bのそれぞれに形成された凹部29A内に配置され(図5参照)、磁極7Aと磁極7Bの間に位置している。このマスレスセプタム12を、図7及び図8を用いて詳細に説明する。マスレスセプタム12及び後述のエネルギー吸収体62は、それぞれ、イオンビームを、これが周回しているビーム周回軌道からずらすビーム離脱装置である。
マスレスセプタム12は、鉄心部材30、及びコイル33A,33Bを有する。鉄心部材30は、鉄製の鉄心部31A,31B及び鉄製の連結部31Cを有する。平板状の鉄心部31A及び平板状の鉄心部31Bは互いに対向して平行に配置され、鉄心部31A及び31Bのそれぞれの一端部が連結部31Cによって連結される。鉄心部31Aの、鉄心部31Bに対向する面には、突出部である複数(例えば、28個)の磁極32Aが形成され、これらの磁極32Aは鉄心部31Aの長手方向において所定の間隔を持って一列に配置される。コイル33Aがそれぞれの磁極32Aに別々に巻き付けられている。鉄心部31Bの、鉄心部31Aに対向する面には、突出部である複数(例えば、28個)の磁極32Bが形成され、これらの磁極32Bは鉄心部31Bの長手方向において所定の間隔を持って一列に配置されている。コイル33Bがそれぞれの磁極32Bに別々に巻き付けられている。
各コイル33Aの両端には、配線23Aが一本ずつ接続される。複数の配線23Aは束ねられ、図8に示すように、配線23Aの一つの束が鉄心部31Aの一つの側面に取り付けられ、配線23Aの他の束が鉄心部31Aの他の側面に取り付けられる。また、各コイル33Bの両端には、配線23Bが一本ずつ接続される。複数の配線23Bも束ねられ、図8に示すように、配線23Bの一つの束が鉄心部31Bの一つの側面に取り付けられ、配線23Bの他の束が鉄心部31Bの他の側面に取り付けられる。
鉄心部31Aに形成された複数の磁極32Aと鉄心部31Bに形成された複数の磁極32Bは、一つずつの磁極32Aと一つずつの磁極32Bが対向して配置される。磁極32Aのそれぞれと磁極32Bのそれぞれの間には、周回するイオンビームが通過する間隙であるビーム通路35が形成される。ビーム通路35は中間面77の一部を内包する。
棒状の操作部材16の一端部がマスレスセプタム12の貫通孔31Dを形成した連結部31Cに取り付けられる。この操作部材16は、マスレスセプタム12の支持部材でもあり、ピストン及びシリンダを有する移動装置17のピストンに接続される(図3参照)。マスレスセプタム12の真空容器27内での位置を検出する位置検出器38が、移動装置17に取り付けられる(図1参照)。操作部材16は、環状コイル11Aと環状コイル11Bの間に配置され、例えば、リターンヨーク5Bの筒状部75Bを貫通して筒状部75Bに摺動可能に取り付けられる。移動装置17はモータであってもよい。移動装置17としてモータを用いるとき、位置検出器38としてエンコーダを用い、このエンコーダをモータの回転軸に連結する。
マスレスセプタム12は、リターンヨーク内に配置された環状コイルの半径方向における異なる位置でイオンビームを偏向させる偏向電磁石装置である。
ビーム電流測定装置98は、ビーム電流測定部15、移動装置17A及び位置検出器39を含んでいる。ビーム電流測定部15が、真空容器27内の中間面77において、凹部29Aの位置で真空容器27の中心軸C及び入射用電極18を通る一点鎖線X上に配置される(図3参照)。ビーム電流測定部15に接続された棒状の操作部材16Aが真空容器27を貫通して真空容器27の外部まで伸びている。操作部材16Aは、ビーム電流測定部15の支持部材でもあり、真空容器27の外部で、ピストン及びシリンダを有する移動装置17Aのピストンに接続される。操作部材16Aは、環状コイル11Aと環状コイル11Bの間に配置され、例えば、リターンヨーク5Bの筒状部75Bを貫通して筒状部75Bに摺動可能に取り付けられる。ビーム電流測定部15の真空容器27内での位置を検出する位置検出器39が、移動装置17Aに取り付けられる(図1参照)。移動装置17Aはモータであってもよい。移動装置17Aとしてモータを用いる場合には、位置検出器39としてエンコーダを用い、このエンコーダをモータの回転軸に連結する。
操作部材16Aは、連結部31Cに形成された貫通孔31Dを通してマスレスセプタム12の複数の磁極32Aと複数の磁極32Bの間に形成されたビーム通路35内に挿入される(図5参照)。このため、操作部材16Aが一点鎖線Xに沿って真空容器27の半径方向に移動するとき、ビーム電流測定部15が中間面77内でビーム通路35内を移動する。この際、マスレスセプタム12の各磁極32Aの端面に沿った一点鎖線X上で凹部29Aの位置では、ビーム周回軌道78相互間の間隔が広くなっているため、ビーム電流測定部15を環状コイルの半径方向において一点鎖線X上に移動して計測することで、各ビーム周回軌道78でのビーム電流の計測を容易に実施できる。
高周波加速電極9Dに接続された導波管10Dが、高周波電源36に接続される(図1参照)。他の高周波加速電極9A,9B及び9Cに接続された導波管10A,10B及び10Cのそれぞれも、図示されていないが、高周波加速電極ごとに設けられた各高周波電源36に接続される。磁極7Bに設けられたトリムコイル8Bの両端にそれぞれ接続された引出配線21C,21Dが、電源37に接続される(図1参照)。他の磁極7A及び7C〜7Fのそれぞれに設けられたトリムコイル8A及び8C〜8Fのそれぞれの両端に接続された前述の各引出配線も、図示されていないが、磁極ごとに設けられた各電源37に接続される。以上の高周波電源及び磁極はリターンヨーク5B内に存在するが、リターンヨーク5Aにおいても、高周波加速電極9A〜9Dのそれぞれが別々の高周波電源36に接続され、磁極7A〜7Fのそれぞれが別々の電源37に接続される。さらに、入射用電源18は、配線81によって電源82に接続される(図1参照)。
リターンヨーク5Bに設けられた環状コイル11Bに接続された2本の引出配線22は電源57に接続される(図1参照)。リターンヨーク5Aに設けられた環状コイル11Aに接続された2本の引出配線22は、上記の電源57に接続される。マスレスセプタム12の各磁極32A,32Bごとに巻き付けられたコイル33A,33Bの一つ一つに接続された前述の各配線23A,23Bは、一つの電源40に接続される(図1参照)。
電源57から各引出配線22を通して環状コイル11A,11Bに励磁電流を供給する。この励磁電流の作用によって、鉄心14A,14Bが磁化される。それぞれの電源37からの励磁電流が、引出配線21A、引出配線21C、引出配線21E、引出配線21G、引出配線21G、引出配線21I及び引出配線21Kを通して、磁極7A〜7Fに設けられたトリムコイル8A〜8Fに供給され、磁極7A〜7Fのそれぞれを励磁する。イオン源3を起動する。各高周波電源36からの高周波電圧を、導波管10A〜10Dのそれぞれを通して高周波加速電極9A〜9Dのそれぞれに印加する。入射用電極18に電源82からの電圧を印加する。
鉄心14A,14Bが磁化されることによって、リターンヨーク5Bに形成された磁極7A〜7Fのそれぞれ、これらの磁極のそれぞれと対向するリターンヨーク5Aに形成された磁極7A〜7Fのそれぞれ、リターンヨーク5Aのベース部74A、リターンヨーク5Aの筒状部75A、リターンヨーク5Bの筒状部75B、リターンヨーク5Bのベース部74B及びリターンヨーク5Bに形成された磁極7A〜7Fのそれぞれの閉じた磁気回路で発生する。このとき、リターンヨーク5Bに形成された凹部29A〜29Fのそれぞれの底面95から、各底面95に対向する、リターンヨーク5Aに形成された凹部29A〜29Fのそれぞれの底面95に向かう磁力線も発生する。対向する底面95間で発生する磁力線は、対向する磁極間で発生する磁力線よりも少なくなる。対向する磁極(凸部)間に形成される磁場は、対向する凹部間に形成される磁場よりも高くなる。
この結果、真空容器27内の中間面77において、図10に示す磁場分布が形成される。この磁場分布は等時性磁場の分布を示している。等時性磁場は、加速されるイオンビームのエネルギーが増加してこのイオンビームが周回するビーム周回軌道の半径が大きくなってもイオンビームが一周する時間が変わらない磁場である。この等時性磁場は、磁極7A〜7Fによって形成される。図10に示された「高」は磁場強度が高い領域を示し、「低」は磁場強度が低い領域を示している。磁場強度が高い領域と磁場強度が低い領域は、イオン注入口、すなわち、入射用電極18の周囲に交互に形成される。磁場強度が高い領域において最も高い磁場強度は、例えば、2.2Tであり、磁場強度が低い領域において最も低い磁場強度は、例えば、0.84Tである。本実施例では、磁場強度が高い領域及び磁場強度が低い領域は、それぞれ6つ存在する。入射用電極18の位置とセプタム電磁石19の位置(図10では、ビーム周回軌道78がセプタム電磁石19側にずれて複数のビーム周回軌道78が集約されている点(集約点))が一致するように図3と図10を重ねた時、磁場強度が高い6つの領域は、図3に示された磁極7A〜7Fのうちのそれぞれ一つと重なる。すなわち、磁場強度が高い各領域には、各磁極が配置されている。また、磁場強度が低い6つの領域は、図3に示された凹部29A〜29Fのうちのそれぞれ一つと重なる。すなわち、磁場強度が低い各領域には、各凹部が配置される。
イオン源3Aから放出されたイオン(例えば、陽子(H+))は、イオン入射管3Aを通してビーム周回領域76に入射され、電圧が印加された入射用電極18の作用によってビーム周回領域76において進行方向を水平方向に曲げられる。入射された陽子は、磁極7A〜7Fのそれぞれ及び環状コイル11A,11Bが励磁された状態で、高周波加速電極9A〜9Dのそれぞれによって加速される。陽子は、入射用電極18に近い領域では、高周波加速電極9C及び9Dによって加速され、環状コイル11A,11Bに近い領域では、高周波加速電極9A〜9Dによって加速される。加速された陽子は、陽子イオンビーム(以下、単にイオンビームという)となって入射用電極18の周囲に形成されるビーム周回軌道に沿って中間面77において周回する。具体的には、イオンビームは、中間面77に垂直な方向においてベータトロン振動をするため、中間面77を中心にしてその垂直な方向において所定の幅を有するビーム周回領域76内で周回する。
図10は、環状コイル11B内側で中間面77での各ビーム周回軌道78、及び磁場強度の分布を示しており、さらに複数の等時性線79を示している。等時性線とは、同一の時刻に存在する周回中のイオン(例えば、陽子)の位置を結んだ線である。図10に点線で示された各等時性線79は、入射用電極18から放射状に伸びて途中(35MeVのイオンビームのビーム周回軌道の位置)で曲がっている。リターンヨーク5A,5Bに設けられた磁極7A〜7Fの側面は、図10に示された該当する等時性線79に一致している。
加速器4において、ビーム周回領域76内に形成されるビーム周回軌道78は、図10に示すように、複数の軌道となる。図10には、イオンビームのエネルギーが250MeV以下の範囲において、0.5MeV以下のエネルギー領域では0.25MeVごとに、0.5MeVを超えて1MeV以下の範囲のエネルギー領域では0.5MeVごとに、1MeVを超えて10MeV以下の範囲のエネルギー領域では1MeVごとに、10MeVを超えて50MeV以下のエネルギー領域では5MeVごとに、50MeVを超えて100MeV以下の範囲のエネルギー領域では10MeVごとに、100MeVを超えて220MeV以下の範囲のエネルギー領域では20MeVごとに、220MeVを超えて250MeVまでの範囲のエネルギー領域では15MeVごとに、ビーム周回軌道78が示されている。
35MeV以下のエネルギーを有する各イオンビームが周回するそれぞれのビーム周回軌道78は、入射用電極18を中心とする環状ビーム周回軌道である。35MeVを超えるエネルギーを有する各イオンビームが周回するそれぞれのビーム周回軌道78は、入射用電極18から偏心している環状ビーム周回軌道である。この結果、入射用電極18とセプタム電磁石19の間では、35MeVを超えるエネルギーを有する各イオンビームのそれぞれのビーム周回軌道78の中心は、ビーム出射経路20の入口から離れるようにずれており、ビーム出射経路20の入口側でビーム周回軌道78相互間の間隔が密になっている。特に、60MeVを超えるエネルギーを有する各イオンビームのそれぞれのビーム周回軌道78は、ビーム出射経路20の入口側で特定の範囲内に集約される。また、入射用電極18を基点としてビーム出射経路20の入口とは180°反対側では、35MeVを超えるエネルギーを有する各イオンビームのそれぞれのビーム周回軌道78は、入射用電極18とビーム出射経路20の入口の間でビーム周回軌道78相互間の間隔が密になる分、ビーム周回軌道78相互間の間隔が広くなっている。
イオン入射管3Aを通過して入射用電極18により、ビーム周回領域76内で水平方向に曲げられた陽子は、低いエネルギーを有するイオンビームとなって低いエネルギーのイオンビームが周回するビーム周回軌道に沿って周回する。このイオンビームは、高周波電圧が印加された高周波加速電極9Cの折れ曲り点24M及び24Nと先端との間の部分、及び高周波電圧が印加された高周波加速電極9Dの折れ曲り点24O及び24Pと先端との間の部分で加速され、外側に位置するビーム周回軌道78に移行する。例えば、10MeVのイオンビームのビーム周回軌道78を周回している10MeVのイオンビームは、高周波加速電極9C,9Dの上記の部分で加速されて、外側に位置する、11MeVのイオンビームのビーム周回軌道78に移行し、このビーム周回軌道8に沿って周回する。このように、周回するイオンビームは、加速されて、外側のビーム周回軌道78に、順次、移行し、例えば、119MeVのイオンビームのビーム周回軌道78に移行したとする。このビーム周回軌道78を周回する、119MeVのイオンビームは、高周波加速電極9A〜9Dによって加速され、外側の220MeVのイオンビームのビーム周回軌道78に向けて移行する。
220MeVのイオンビームのビーム周回軌道78に沿って周回している220MeVのイオンビームは、マスレスセプタム12によってそのビーム周回軌道78から蹴り出されることによって、すなわち、そのビーム周回軌道78から離脱されることによって、セプタム電磁石19に形成されたビーム出射経路20を通してビーム輸送系13のビーム経路48に出射される。また、140MeVのイオンビームのビーム周回軌道78に沿って周回している140MeVのイオンビームは、マスレスセプタム12によって蹴り出されることによって、ビーム出射経路20を通してビーム経路48に出射される。このように、イオンビーム発生装置2の加速器4からエネルギーが異なるイオンビームを出射することができる。このようなイオンビームの出射は、入射用電極18とビーム出射経路20の入口の間で各ビーム周回軌道78がビーム出射経路20の入口側にずれてビーム周回軌道78相互間の間隔が密になり、入射用電極18を基点にしてビーム出射経路20の入口とは180°反対側で、ビーム周回軌道78相互間の間隔が広くなっていることにより、実現されるのである。特に、後述の軌道偏心領域において、エネルギーが異なるイオンビームが周回する複数のビーム周回軌道78がビーム出射経路20の入口側に集約されていることが、エネルギーが異なるイオンビームの出射に貢献する。なお、マスレスセプタム12の機能の詳細については、後述する。
本実施例に用いられる加速器4は、ビーム周回領域76内のビーム周回軌道78が形成される中間面77に、入射用電極18(イオン入射管3Aのイオン注入口)を中心とする同心の複数の環状ビーム周回軌道が形成される軌道同心領域(例えば、図10に示された、35MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78を含み、このビーム周回軌道78よりも内側の領域)、及びこの軌道同心領域を取り囲んで中心が互いに偏心した複数の環状ビーム周回軌道が形成されて入射用電極18とビーム出射経路20の入口の間ではこれらの環状ビーム周回軌道の間隔が密になり、逆に入射用電極18を基点にしてビーム出射経路20の入口の180°反対側ではこれらの環状ビーム周回軌道の間隔が広くなっている軌道偏心領域(例えば、図10に示された、35MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78よりも外側の領域)が形成されている。
真空容器27内に配置された高周波加速電極9C及び9Dに形成された折れ曲り点24M〜24Pのそれぞれも、例えば、図10に示された、35MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78の位置に位置している。
加速器4における、等時性線IL1に沿った、リターンヨーク5Aの磁極7Eとこれと対向するリターンヨーク5Bの磁極7Eとの間のギャップの変化を図11、等時性線IL2に沿った、リターンヨーク5Aの磁極7Cとこれと対向するリターンヨーク5Bの磁極7Cとの間のギャップの変化を図12、及び等時性線IL3に沿った、リターンヨーク5Aの磁極7Aとこれと対向するリターンヨーク5Bの磁極7Aとの間のギャップの変化を図13に示す。図11、図12及び図13に示されたギャップは、対向する磁極7E間のギャップ、対向する磁極7C間のギャップ、及び対向する磁極7A間のギャップのそれぞれの1/2を示している。これらのギャップは、磁極7Eと中間面77との間のギャップ、磁極7Cと中間面77との間のギャップ、及び磁極7Aと中間面77との間のギャップに相当する。なお、上記した等時性線IL1,IL2及びIL3は、図3及び図10にそれぞれ示される。水平方向において、等時性線IL1,IL2及びIL3のそれぞれは、磁極7E,7C及び7Aのそれぞれの中心線に相当する。
図11に示されるように、磁極7Eと中間面77との間のギャップは、磁極7Eの、入射用電極18に対向する先端と環状コイル11Bの内面に対向する磁極7Eの端面との間の、等時性線IL1に沿った長さに対してその先端から好ましくは93.0%〜96.0%の範囲内の位置で最も狭くなる。これは、この範囲内の位置において、磁極7Eの中心線上での中心軸C方向における高さ(凹部29D,29Eの各底面95からの磁極7Eの高さ)が最も高くなることを示している。一点鎖線Xに対して磁極7Eと対称に配置された磁極7Fの、磁極7Fの中心線上での中心軸C方向における高さ(凹部29C,29Dの各底面95からの磁極7Fの高さ)も、磁極7Eと同様に、磁極7Fの中心線に沿った長さに対して入射用電極18に対向する先端からその範囲内の位置で最も高くなる。
図12に示されるように、磁極7Cと中間面77との間のギャップは、磁極7Cの、入射用電極18に対向する先端と環状コイル11Bの内面に対向する磁極Cの端面との間の、等時性線IL2に沿った長さに対してその先端から好ましくは86.2%〜89.2%の範囲内の位置で最も狭くなる。これは、この範囲内の位置において、磁極7Cの中心線上での中心軸C方向における高さ(凹部29E,29Fの各底面95からの磁極7Cの高さ)が最も高くなることを示している。一点鎖線Xに対して磁極7Cと対称に配置された磁極7Dの、磁極7Dの中心線上での中心軸C方向における高さ(凹部29B,29Cの各底面95からの磁極7Bの高さ)も、磁極7Cと同様に、磁極7Dの中心線に沿った長さに対して入射用電極18に対向する先端からその範囲内の位置で最も高くなる。
また、図13に示されるように、磁極7Aと中間面77との間のギャップは、磁極7Aの、入射用電極18に対向する先端と環状コイル11Bの内面に対向する磁極Aの端面との間の、等時性線IL3に沿った長さに対してその先端から好ましくは88.7%〜91.7%の範囲内の位置で最も狭くなる。これは、この範囲内の位置において、磁極7Aの中心線上での中心軸C方向における高さ(凹部29A,29Fの各底面95からの磁極7Aの高さ)が最も高くなることを示している。一点鎖線Xに対して磁極7Aと対称に配置された磁極7Bの、磁極7Bの中心線上での中心軸C方向における高さ(凹部29A,29Bの各底面95からの磁極7Bの高さ)も、磁極7Aと同様に、磁極7Bの中心線に沿った長さに対して入射用電極18に対向する先端からその範囲内の位置で最も高くなる。図示されていないが、凹部29Eの底面95の中心軸C方向における位置は、凹部29A〜29C,29Fのそれぞれの底面95の中心軸C方向における各位置と同じである。
リターンヨーク5Aにおいて、磁極7E及び7Fの、それぞれの磁極の中心線上での中心軸C方向における高さも、リターンヨーク5Bの磁極7E及び7Fの、上記の範囲内の位置において最も高くなる。また、リターンヨーク5Aにおいて、磁極7C及び7Dの、それぞれの磁極の中心線上での中心軸C方向における高さも、リターンヨーク5Bの磁極7C及び7Dの、上記の範囲内の位置において最も高くなり、磁極7A及び7Bの、それぞれの磁極の中心線上での中心軸C方向における高さも、リターンヨーク5Bの磁極7A及び7Bの、上記の範囲内の位置において最も高くなる。
この結果、リターンヨーク5Bとリターンヨーク5Aの間の中間面77における磁場強度分布において、リターンヨーク5Bの磁極7E及び7Fにおいて上記の範囲内の位置でこれらの磁極7E及び7Fのそれぞれと対向する、リターンヨーク5Aの磁極7E及び7Fのそれぞれの間の磁場強度、リターンヨーク5Bの磁極7C及び7Dにおいて上記の範囲内の位置でこれらの磁極7C及び7Dと対向する、リターンヨーク5Aの磁極7C及び7Dのそれぞれの間の磁場強度、及びリターンヨーク5Bの磁極7A及び7Bにおいて上記の範囲内の位置でこれらの磁極7A及び7Bと対向する、リターンヨーク5Aの磁極7A及び7Bのそれぞれの間の磁場強度が、図10に示す2.2Tのように、最も高くなる。これにより、中間面77における磁場強度は、磁極7A〜7Fのそれぞれが配置された領域で、環状コイル11A,11Bのそれぞれの内面よりもより内側の領域、例えば、図10に示すように、200MeV及び180MeVのそれぞれのビーム周回軌道78の位置で最も高くなる。このような磁場強度の分布により、ビーム周回軌道に対して垂直な方向において収束力を付与することができ、イオンビームをビーム周回軌道78に沿って安定に周回させることができる。
本実施例に用いられる加速器4では、中間面77における磁場分布が一様でないため、形成されるビーム周回軌道78は環状であるが真円ではない。前述したように、鉄心14A,14Bにおいて、磁極(凸部)7A〜7Fのそれぞれが位置する個所の磁場強度は凹部29A〜29Fのそれぞれが位置する箇所のそれに比べて強いため、鉄心14A,14Bのそれぞれに形成された対向する磁極間では、ビーム周回軌道の曲率が大きくなる。上記の対向する一対の磁極はビーム周回軌道78の一周につき6個所に配置される。このため、各ビーム周回軌道は概ね六角形の角を取ったような形状になる。図14においてビーム周回軌道に沿った磁場強度の振幅が大きいビーム周回軌道ほどその傾向が強くなる。磁場強度の振幅が同じであるならば、低エネルギー側のビーム周回軌道ほど、イオンビームは曲がりやすいため、その傾向が強くなる。真円ではないビーム周回軌道の中心とは、軌道形状の重心であり、軌道座標の算術平均となる点である。
なお、一般的なサイクロトロンであれば、外周に存在するビーム周回軌道ほど、イオンビームのエネルギー上昇に伴って、イオンビームは曲がりにくくなり、集束が困難となる。このため、図14に示すビーム周回軌道に沿った磁場強度の振幅を増大させる必要がある。つまり、各磁極の中心線に沿った半径方向の磁場強度はその最大エネルギーのビーム周回軌道(最外周のビーム周回軌道)において最大となるように、一般的には設計される。
本実施例の加速器4の特性を、図14〜図21を用いて説明する。以下では、特に断りの無い限り、中心軸Cに垂直な方向を「水平方向」、及び中心軸Cの方向、すなわち中間面77に垂直な方向を「垂直方向」と称する。
図14は、0.5MeVのイオンビーム、70MeVのイオンビーム、160MeVのイオンビーム及び235MeVのイオンビームのそれぞれが別々に周回する4つのビーム周回軌道78において、各ビーム周回軌道78に沿った磁場強度の分布を示している。進行方向距離が「0」の位置は、セプタム電磁石19に形成されたビーム出射経路20の入口(加速器4の出射口)付近における、この入口と中心軸Cを結ぶ直線(一点鎖線X)と各ビーム周回軌道78との各交点の位置である。進行方向距離が「1」の位置は、加速器4の出射口からビーム周回軌道78を半周した位置である。それぞれのビーム周回軌道78では、ビーム周回軌道78に沿って磁場強度が図14に示すように変化するため、収束力(振幅)を確保することができ、それぞれのエネルギーのイオンビームを各ビーム周回軌道78で安定に周回させることができる。235MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78では、単純な正弦波ではない磁場強度の分布で収束力を確保しており、イオンビームを該当するビーム周回軌道で安定に周回させることができる。具体的には、235MeVのイオンビームのビーム周回軌道は、一周する間に通過する磁場強度の6つの最大ピークのうち、進行方向距離が0の位置から2つ目及び5つ目における最大ピークが他よりも低く、それら最大ピークの両側の最小ピークの値は他よりも高くなるように磁場が形成されている。このため、235MeVのイオンビームのビーム周回軌道は、その内側の160MeVのイオンビームのビーム周回軌道よりも、通過する磁場強度の変動の振幅が小さい。
図15は、ビーム周回軌道78に沿った規格化磁場の勾配の変化を示している。規格化磁場は、式(1)で表わされるn値である。
ただし、Bは磁場強度、Bρはイオンビームの磁気剛性率及びBzは磁場の垂直成分である。rは中間面77である軌道面内のビーム周回軌道に対する垂直方向の位置座標であり、外向きを正としている。n<1であるとき、ビーム周回軌道を周回するイオンビームは水平方向で収束し、n>0であるとき、ビーム周回軌道を周回するイオンビームは垂直方向で収束する。
70MeVのイオンビーム、160MeVのイオンビーム及び235MeVのイオンビームのそれぞれが別々に周回する3つのビーム周回軌道78では、進行方向距離が「1」の位置(下記の各交点から半周の位置)でn値は小さい値であるが、ビーム出射経路20の入口(加速器4の出射口)付近における、この入口と中心軸Cを結ぶ直線(一点鎖線X)と各ビーム周回軌道78との各交点の位置である、各ビーム周回軌道78の進行方向距離が「0」の位置)付近でn値の絶対値が大きくなる。これは進行方向距離が「0」の位置では前述のように各エネルギーのビーム周回軌道が集中しており、隣り合うビーム周回軌道の相互間の間隔が小さい。この帰結として磁場勾配、すなわち、n値の絶対値が大きくなり、逆に、隣り合うビーム周回軌道の相互間の間隔が大きい進行方向距離が「1」の位置(半周の位置)では磁場勾配の絶対値は小さくなる。このように、ビーム周回軌道に沿って水平方向の収束作用及び垂直方向の収束作用を交互に周回しているイオンビームに対して作用させることによって、水平方向及び垂直方向ともにイオンビームを安定に周回することができる。
図15に示された特性は以下に述べる概念を示している。それぞれの環状のビーム周回軌道78において、ビーム周回軌道78の、中心軸Cを基点にして、ビーム出射経路20の入口の180°反対側の位置(進行方向距離が「1」の位置)を中心とした半周分(進行方向距離が「1」の位置を基点にして時計方向に1/4周と進行方向距離が「1」の位置を基点にして半時計方向に1/4周の合計)の、上記の(2)式で表されるn値の絶対値の積分値が、ビーム周回軌道78の、ビーム出射経路20の入口側の前述の交点(進行方向距離が「0」の位置)を中心とした半周分(進行方向距離が「0」の位置を基点にして時計方向に1/4周と進行方向距離が「0」の位置を基点にして半時計方向に1/4周の合計)のn値の絶対値の積分値より小さくなっている。
環状のビーム周回軌道の、ビーム出射経路の入口の180°反対側の位置を中心とした半周分の、上記の(1)式で表されるn値の絶対値の積分値が、ビーム周回軌道の、ビーム出射経路の入口を中心とした半周分のn値の絶対値の積分値より小さいので、エネルギーが異なる各イオンビームを効率良く出射することができ、さらに、ビーム周回軌道が偏心され、ビーム出射経路の入口側に、異なるエネルギーのビーム周回軌道が集束したときに、集束によりビーム出射経路の入口側で発生する磁場勾配の傾斜を緩和することができる。
次に、磁場分布を詳細に述べる。或るビーム周回軌道78上の或る位置での磁場強度B(L1)は、式(2)で表わされる。
B(L1)=B0+B1cos(2πL1/L2)+B2cos(4πL1/L2)
+B3cos(6πL1/L2) …(2)
ここで、Bは磁場強度、L1はビーム周回軌道のイオンビーム進行方向の距離、L2はビーム周回軌道の半周の長さ、B0は磁場強度の中心値(イオンビームが受ける平均の磁場強度)、及びB1、B2及びB3はエネルギーごとのビーム周回軌道78における磁場強度のフーリエ展開係数である。ちなみに、ビーム周回軌道の半周の長さを基準の波長として、B1は1倍高調波の振幅、B2は2倍高調波の振幅及びB3は3倍高調波の振幅を表している。
本実施例では、図16に示すように、イオンビームの運動エネルギーが約180MeV以上になると、3倍高調波の磁場成分B3が上昇するが、同時に、2倍高調波の磁場成分B2が減少する。このため、180MeV以上のエネルギーを有する各イオンビームが周回するそれぞれのビーム周回軌道78において、最大磁場を大きくすることなく、イオンビームの収束力を確保することができる。3倍高調波の磁場成分B3は、軌道同心領域である
図17は、イオンビームの運動エネルギーに対応したベータトロン振動数の水平方向および垂直方向における変化を示している。水平方向におけるベータトロン振動数がイオンビームの運動エネルギーの増加に伴ってほぼ単調に増加している。しかし、そのベータトロン振動数の変化幅は、運動エネルギーが0〜250MeVの範囲で0.6以下である。運動エネルギーが50MeV付近で垂直方向にビーム周回軌道が偏っているが、その運動エネルギーの増加によっても、垂直方向におけるベータトロン振動数は0.5以下に収まっている。このため、イオンビームは、図6に示される対向する磁極の間及び対向する高周波電極の間に形成されるビーム周回領域76内で安定に周回することができる。さらに、このイオンビームは、図7に示すマスレスセプタム12に形成されるビーム通路35内も安定に通過することができる。
図18は、ビーム出射経路20の入口付近における、この入口と中心軸Cを結ぶ直線(一点鎖線X)と0.5MeV,70MeV,160MeV及び235MeVのそれぞれのエネルギーを有する各イオンビームが周回する各ビーム周回軌道78との各交点(イオンビームの進行方向における距離:0)から半周(イオンビームの進行方向における距離:1)における各ビーム周回軌道78に沿った水平方向のβ関数の変化を示している。β関数はイオンビームの空間的な広がりを示す量である。イオンビームの進行方向における距離が1の位置に、マスレスセプタム12が配置される。
図18よれば、マスレスセプタム12が配置された位置では、水平方向のβ関数が10m以下になって、0.5MeV,70MeV,160MeV及び235MeVのそれぞれのエネルギーを有する各イオンビームが周回する各ビーム周回軌道78を分離することができる。このため、マスレスセプタム12によってこれらのエネルギーを有するイオンビームを別々に蹴り出すことができ、加速器4からビーム輸送系13に出射することができる。
図19は、0.5MeV,70MeV,160MeV及び235MeVのそれぞれのエネルギーを有する各イオンビームが周回する各ビーム周回軌道78の出射口(イオンビームの進行方向における距離:0)から半周(イオンビームの進行方向における距離:1)における各ビーム周回軌道78に沿った垂直方向のβ関数の変化を示している。マスレスセプタム12が配置された、イオンビームの進行方向における距離が1の位置では、加速器4から出射される70MeV,160MeV及び235MeVの各エネルギーを有するそれぞれのイオンビームの垂直方向のβ関数が3m以下になるため、これらのエネルギーのイオンビームはマスレスセプタム12のビーム通路35を容易に通過することができる。また、各ビーム周回軌道78の出射口から半周までの間において、垂直方向のβ関数は、加速器4内の磁極に衝突しない限度である100m以下であるため、対向する磁極の間及び対向する高周波加速電極の間に形成されるビーム周回領域76内で、磁極及び高周波加速電極に衝突することなく、安定に周回することができる。
図20は、加速器4からイオンビームを出射する際に、マスレスセプタム12の磁極の励磁によってビーム周回軌道78を周回しているイオンビームの蹴り出し量を、周回するイオンビームの運動エネルギーに対応して示している。セプタム電磁石19に形成されたビーム出射経路20の入口が、最低エネルギーのビーム周回軌道の中心を基準として、図10における−720mmの位置に存在する。ここでは、加速器4から出射されるイオンビームのエネルギーは、70MeV以上であるとしている。図20に示された「軌道位置」は、マスレスセプタム12で蹴り出されない各エネルギーのイオンビームが通過し及びビーム出射経路20の入口に最も接近するビーム周回軌道78の、ビーム出射経路20の入口付近での位置を示している。図20に示された軌道位置とビーム出射経路20の入口のずれ量は、マスレスセプタム12を用いた、イオンビームの周回するビーム周回軌道78からの蹴り出しによって生じる軌道変位量を表している。このイオンビームの蹴り出し量は、周回するイオンビームのエネルギーが低いほど大きくなる。マスレスセプタム12の該当する一対の磁極32A,32Bのそれぞれに設けられたコイル33A,33Bに供給される励磁電流が、その蹴り出し量に応じて調節される。
マスレスセプタム12の対向する一対の磁極32A及び32Bは、マスレスセプタム12が配置されているリターンヨーク5A,5Bの凹部29Aにおいて発生する磁力線の方向と同じ方向に磁力線(磁極32Bから磁極32Aに向かう磁力線)を発生し、磁場を強めるように励磁される。マスレスセプタム12に形成されるビーム通路35内で、真空容器27の半径方向において中間面77内の所定の位置に、図22に示すような磁場のピークが形成される。磁場ピークの位置は、マスレスセプタム12に形成された選択的に励磁できる28対の磁極32A及び32Bのいずれかの位置と対応している。マスレスセプタム12の対向する一対の磁極32A及び32Bの励磁により形成された、ビーム通路35内の局所的に磁場が強い領域を通過するイオンビームは、ビーム周回軌道78の曲率にと比べて曲率が大きくなる。このため、このイオンビームは、マスレスセプタム12の励磁量とその幅分だけ水平方向のベータトロン振動が増幅され、イオンビームは周回するビーム周回軌道78より内側方向に向かって蹴り出され、ビーム周回軌道78から離脱する。なお、ビーム通路35内における磁場強度のピーク発生位置は、移動装置17によりマスレスセプタム12を半径方向に移動させて励磁する一対の磁極32A,32Bの半径方向における位置を調整できるため、28対以上の磁極32A,32Bをマスレスセプタム12に設けた場合と同様に、磁場強度のピーク発生位置を精度良く調整できる。
図21は、70MeVのイオンビーム、160MeVのイオンビーム及び235MeVのイオンビームのそれぞれがマスレスセプタム12によって蹴り出されたとき、蹴り出されたイオンビームがマスレスセプタム12からセプタム電磁石19に形成されたビーム出射経路20の入口に達するまでの、ビーム周回領域76の水平方向における該当するエネルギーのビーム周回軌道からの変位を示している。図21は他の図と異なり、イオンビームの進行方向における距離が「0」の位置にマスレスセプタム12が配置されており、イオンビームの進行方向における距離が「1」の位置(マスレスセプタム12から半周の位置)にビーム出射経路20の入口(イオンビーム取り出し位置)が位置している。水平方向の変位が正の値であるとき、蹴り出されたイオンビームがビーム周回軌道78の外側に向かって変位していることを意味し、水平方向の変位(中間面77内での変位)が負の値であるとき、蹴り出されたイオンビームがビーム周回軌道78の内側に向かって変位していることを意味している。マスレスセプタム12によりビーム周回軌道の内側に向かって蹴り出されたイオンビームは、ある程度内側に向かって変位した後に水平方向のベータトロン振動に従ってビーム周回軌道の外側に向かって大きく変位する。周回するイオンビームのエネルギーが小さいほど、蹴り出されたイオンビームの水平方向における変位の絶対値が大きくなるようにマスレスセプタム12を制御し、イオンビーム取り出し位置におけるビーム周回軌道の外側への変位も大きくなる。図21で説明した通り、エネルギーが異なるイオンビームが周回する各ビーム周回軌道78とビーム出射経路20の入口の間の距離が異なるのは、図20で示した、各エネルギーのイオンビームに対する各ビーム周回軌道78とセプタム電磁石19の間の距離が異なることに起因している。
軌道同心領域及び軌道偏心領域が形成される加速器4は、図14〜図21に示された各特性により、各エネルギーのイオンビームをそれぞれのビーム周回軌道78に沿って安定に周回させることができ、イオンビームを照射する患部の分割された深さが異なる各層に照射できる異なるエネルギーを有する各イオンビームを連続して出射することができる。
粒子線照射装置を用いた粒子線照射方法を、図23〜図26を用いて説明する。
イオンビームを照射して癌の患部を治療する患者56ごとの治療計画データが、治療前に治療計画装置73を用いて作成される。この治療計画データは、患者の識別番号、患者の体表面から深さ方向に分割された、患部の層の数、層ごとに照射されるイオンビームのエネルギー、イオンビームの照射方向、各層内の照射位置(スポット位置)及び各層内の各照射位置に対するイオンビームの照射量等のデータを含んでいる。治療計画装置73で作成された治療計画データは、記憶装置であるデータベース72に記憶される。
CPU67は、入力された患者識別情報を用いて、これから治療を行う患者56に関する治療計画データをデータベース72から読み込み、メモリ68に格納する。メモリ68には、照射するイオンビームのエネルギー(例えば、70MeV〜235MeV)に応じて、ビーム輸送系13の四極電磁石46,47,49及び50及び偏向電磁石41〜44に供給する励磁電流値、加速器4内の中間面77において各エネルギーのイオンビームが周回するそれぞれのビーム周回軌道の位置情報、及び各ビーム周回軌道を周回するイオンビームを蹴り出すときにマスレスセプタム12の磁極32A,32Bにそれぞれ巻き付けられたコイル33A,33Bに供給する励磁電流値も記憶されている。
CPU67は、制御情報作成装置として、患者56の患部を治療するために、治療計画データ、ビーム輸送系13の各電磁石に供給する励磁電流値、各ビーム周回軌道の位置情報及びマスレスセプタム12のコイル33A,33Bに供給する励磁電流値を用いて、ビーム輸送系13の各電磁石及びマスレスセプタム12を制御するための制御指令情報を作成する。
図23に示す各工程の手順がメモリ68に記憶されており、この手順に基づいてCPU67は加速器・輸送系制御装置69及び走査制御装置70のそれぞれに含まれる各制御装置に制御指令情報を出力する。
環状コイル及びトリムコイルに励磁電流を供給する(ステップS1)。CPU67から制御指令情報を入力したコイル電流制御装置94は、ステップS1の工程を実施するために、各電源37及び電源57を制御する。前述したように、各電源37からトリムコイル8A〜8Fに励磁電流が供給されて磁極7A〜7Fが励磁される。また、電源57から環状コイル11A,11Bに励磁電流が供給され、鉄心14A,14Bが励磁される。この結果、前述した磁力線が鉄心14A,14Bに発生する。環状コイル11A,11B及びトリムコイル8A〜8Fには、図25に示された環状コイル電流及びトリムコイル電流が流れる。真空ポンプ25は、常時駆動されており、真空容器27内の空気を、吸引管26を通して外部に排出し、真空容器27内を真空に維持する。真空容器27を構成するリターンヨーク5A,5Bの、導波管、引出配線、操作部材16,16Aのそれぞれの貫通部は、シール部材で封鎖され、気密性が保たれている。
イオン源を起動する(ステップS2)。CPU67から制御指令情報を入力した加速器・輸送系制御装置69は、イオン源3を起動し、制御する。
高周波加速電極に高周波電圧を印加する(ステップS3)。高周波電圧制御装置99は、ステップS3の工程を実施するために、CPU67からの制御指令情報に基づいて各高周波電源36を制御し、高周波加速電極9A〜9Dのそれぞれに印加する高周波電圧を調節する。この結果、前述したように、高周波加速電極9A〜9Dに高周波電圧が印加される。図25に示された周波数の高周波電圧が高周波加速電極9A〜9Dに印加される。
入射用電極に電圧を印加する(ステップS4)。入射用電極制御装置83は、ステップS4の工程を実施するために、CPU67からの制御指令情報に基づいて電源80を制御し、入射用電極18に電圧を印加する。電圧が入射用電極18に印加されることによって、イオン源3からイオン入射管3Aの先端に形成されたイオン注入口を通してビーム周回領域76内に形成されるイオン入射部109に入射されたイオン(陽子)は、入射用電極18で水平方向に曲げられ、このイオン入射部109の近くに位置する高周波加速電極9Cと高周波加速電極9Dの接続部で加速されて反時計方向に周回し始める。
エネルギーが設定エネルギーに増加するまでイオンビームを加速器内で周回させる(ステップS5)。入射された陽子は、イオンビームとなって、磁極7A〜7Fのそれぞれ及び環状コイル11A,11Bが励磁された状態で、まず、イオンビームは高周波電圧が印加された高周波加速電極9C及び9Dによって70MeVまで加速される。70MeV以下のエネルギーの各ビーム周回軌道では、イオンビームはこれら2つの高周波加速電極によってビーム周回軌道を一周するとき4回加速される。70MeVを超えるエネルギーの領域では、高周波電圧が印加された高周波加速電極9A及び9Bもイオンビームの加速に寄与し、この結果、イオンビームは高周波加速電極9A〜9Dで220MeVまで加速される。70MeVを超えるエネルギーの各ビーム周回軌道では、イオンビームはこれら4つの高周波加速電極によってビーム周回軌道を一周するとき8回加速される。加速されたイオンビームは、加速器4内で、中間面77内のビーム周回軌道78を周回し、このイオンビームのエネルギーが設定エネルギー(例えば、250MeV)まで増加される。このとき、マスレスセプタム12が配置された位置では、例えば、図10に示された70MeV〜250MeVのそれぞれのイオンビームに対する各ビーム周回軌道78を周回しているそれらのイオンビームは、マスレスセプタム12の対向する磁極32A,32B間に形成されたビーム通路35を通過する。
70MeV以上のエネルギーを有するイオンビームが、治療のために患者56の患部に照射される。この70MeV以上のエネルギーを有するイオンビームは、照射対象である患部に照射されるイオンビームのうち最小のエネルギーを有するイオンビームである。
各ビーム周回軌道を周回しているイオンビームを測定する(ステップS6)。ビーム電流測定部制御装置84は、ステップS6の工程を実施するために、CPU67からの制御指令情報に基づいて移動装置17Aを制御する。この制御によって、移動装置17Aが駆動されて操作部材16Aが移動される。通常、環状コイル11Aと環状コイル11Bの間の位置まで引き抜かれているビーム電流測定部15が、操作部材16Aの移動によって、連結部31Cの貫通孔31Dを通してビーム通路35内に達し、中間面77において、一点鎖線Xに沿って入射用電極18に向かって移動する。ビーム電流測定部15は、入射用電極18に向かって移動しながら、各ビーム周回軌道78(例えば、図10に示された250MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78から70MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78)を周回するイオンビームのビーム電流をビーム周回軌道78ごとに測定する。ビーム電流測定部15によって測定された各ビーム電流の値は、各ビーム周回軌道78を周回するイオンビームのエネルギーに相当する。測定された各ビーム電流の値に対応するそれぞれのエネルギー情報が、ビーム電流測定部制御装置84に伝えられる。入射用電極18に向かうビーム電流測定部15の位置は、ビーム周回軌道78ごとに位置検出器39によって検出される。位置検出器39によって検出された、ビーム電流測定部15の位置情報、すなわち、環状コイルの半径方向におけるビーム周回軌道78の位置情報も、ビーム電流測定部制御装置84に伝えられる。ビーム電流測定部制御装置84は、測定された各ビーム電流値に対応するそれぞれのエネルギー情報と各ビーム周回軌道78の位置情報を、互いに対応付けて加速器・輸送系制御装置69のメモリ107に格納する。各エネルギー情報と各ビーム周回軌道78を対応付けて得られた情報の一例を図24に示す。
ビーム周回軌道が所定の位置に形成されているかを判定する(ステップS23)。コイル電流制御装置94は、メモリ107から読み出された各ビーム周回軌道78の位置情報に基づいて中間面77において各ビーム周回軌道78がそれぞれの所定の位置に形成されているかを判定する。
トリムコイルに供給する励磁電流を調節する(ステップS24)。各ビーム周回軌道78のうち少なくとも一つのビーム周回軌道78の位置が所定の位置からずれているとき、ステップS23の判定結果は「No」となる。このとき、コイル電流制御装置94は、磁極7A〜7Fに設置されたトリムコイル8A〜8Fのそれぞれに接続された電源37を制御し、所定の位置からずれているビーム周回軌道78が所定の位置に形成されるように、トリムコイル8A〜8Fのそれぞれに供給する励磁電流を調節する。このような励磁電流の調節によって、ビーム周回軌道の位置が修正される。
その後、ステップS6及びS23の各工程が実施される。ステップS23の判定結果が「No」であるとき、ステップS24,S6及びS23の各工程が、ステップS23の判定結果が「Yes」になるまで繰り返される。中間面77に形成された全てのビーム周回軌道78がそれぞれの所定の位置に形成されているとき、ステップS23の判定結果は「Yes」となり、ステップS7の工程が実施される。
セプタム電磁石及びビーム輸送系の各電磁石の励磁量を調節する(ステップS7)。電磁石制御装置85は、ステップS7の工程を実施するために、CPU67からの制御指令情報に基づいて電源82を制御してセプタム電磁石19に供給する励磁電流を出射されるイオンビームのエネルギー(例えば、250MeV)に対応する励磁電流に調節する。セプタム電磁石19は、この励磁電流により励磁される。また、電磁石制御装置85は、その制御指令情報に基づいて、別の電源(図示せず)を制御し、ビーム輸送系13の四極電磁石46,47,49及び50及び偏向電磁石41〜44のそれぞれに供給する励磁電流を、出射されるイオンビームのエネルギー(例えば、250MeV)に対応する励磁電流に調節する。この励磁電流により、それらの四極電磁石及びそれらの偏向電磁石が励磁される。セプタム電磁石19及びビーム輸送系13に設けられた各電磁石が、250MeVのイオンビームを出射装置7まで移送できる状態に励磁される。
マスレスセプタムの磁極の位置を調節する(ステップS8)。マスレスセプタム制御装置86は、ステップS8の工程を実施するために、CPU67からの制御指令情報に基づいて移動装置17を制御し、移動装置17を用いて操作部材16を移動させることによって、マスレスセプタム12は、真空容器27の半径方向において一点鎖線Xに沿って、真空容器27の中心軸Cを基点としてビーム出射経路20の入口と180°反対側の位置から入射用電極18に向かって移動される。マスレスセプタム12は、移動装置17によって、例えば、10mm程度の範囲内で移動することができる。この範囲内での移動は、対向する一対の磁極32A,32Bの位置決めを微調整するために行われる。このマスレスセプタム12の移動によって、中心軸Cを基点としてビーム出射経路20の入口と180°反対側で隣り合うビーム周回軌道78の間隔が広くなっている領域において、例えば、250MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78に合せた状態で励磁すべき一対の磁極32A,32Bのそれぞれの入射用電極18側の角が、このビーム周回軌道78に合せられる。このとき、マスレスセプタム12の真空容器27内での位置は、図25に示された最も左側に示されたマスレスセプタム12の位置となる。
マスレスセプタムの磁極を励磁する(ステップS9)。該当する一対の磁極32A,32Bが250MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78に合せられた後、マスレスセプタム制御装置86は、ステップS9の工程を実施するために、CPU67からの制御指令情報に基づいて電源40を制御する。さらに、マスレスセプタム制御装置86は、スイッチを制御し、上記の励磁すべき磁極32A,32Bのそれぞれに巻き付けられたコイル33A,33Bのそれぞれに接続された配線23A,23Bのそれぞれを電源40に接続する。電源40からの励磁電流が、上記のコイル33A,33Bにそれぞれ供給され、その対向する励磁すべき一対の磁極32A,32Bがそれぞれ励磁される。この励磁によって、磁力線が、励磁された磁極32A,32B、鉄心部31B、連結部31C、鉄心部31A及び磁極32Aの閉じた磁気回路で発生する。その磁極32Aからその磁極32Bに向かう磁力線は、これらの磁極間に形成されてイオンビームが通過するビーム経路35を横切る。この磁力線の作用によって、250MeVのイオンビームが、このイオンビームが周回するビーム周回軌道78から蹴り出されてこのビーム周回軌道78から離れ、セプタム電磁石19に形成されたビーム出射経路20の入口に向かって移動する。
やがて、蹴り出された250MeVのイオンビームが、励磁されたセプタム電磁石19の作用によって、ビーム出射経路20を通ってビーム輸送系13のビーム経路48に出射される。このイオンビームは、ビーム経路48を通って照射装置7に導かれ、照射装置7より出射される。このとき、患者56が治療台55上に横たわっていない。
イオンビームの加速器からの出射を確認する(ステップS10)。照射装置7に設けられたビーム位置モニタ53が、照射装置7を通過するイオンビームの位置を検出する。検出されたイオンビームの位置情報は、ビーム位置モニタ53からイオンビーム確認装置87に入力される。イオンビーム確認装置87は、イオンビームの位置情報が入力されたとき、加速器4からイオンビームが出射されたと判定し、この判定結果を表示装置(図示せず)に出力する。オペレータは、表示装置に表示されたその判定結果を見ることにより、イオンビームの出射を確認する。
以上により、イオンビームを加速器から取り出すための各工程の説明を終了する。
次に、図26に示された手順に基づいて、粒子線照射方法における、エネルギーが異なる各イオンビームを患者の患部の層ごとに照射する各工程について説明する。
患者56が治療台55に横たわった後、治療台55を移動させて患部を照射装置7のビーム軸の延長線上に位置決めする。
回転ガントリーを回転させて照射装置のビーム軸を、患部(ビーム照射対象)へのイオンビームの照射方向に設定する(ステップS11)。イオンビーム照射により治療を行う、患者56の患部は、ビーム照射対象である。回転制御装置88は、ステップS11の工程を実施するために、CPU67からの制御指令情報に基づいて回転ガントリー6の回転装置(図示せず)を制御する。この回転装置が駆動され、回転ガントリー6は、前述の治療計画データに含まれるイオンビームの照射方向の情報に基づいて、照射装置7のイオンビームが通るビーム軸がこの照射方向に設定されるまで回転軸45を中心に回転される。照射装置7のビーム軸がこの照射方向に一致したとき、回転ガントリー6の回転が停止される。
イオンビームを照射するビーム照射対象内の一つの層を設定する(ステップS12)。照射位置制御装置89は、CPU67からの制御指令情報に基づいて患部内のイオンビームを照射する一つの層を設定する。照射位置制御装置89によるこの層の設定は、メモリ70に格納された治療計画データである、患部を分割した複数の層の情報に基づいて、最も深い位置にある層が設定される。さらに、照射位置制御装置89は、設定された層に照射されるイオンビームのエネルギーの情報(例えば、220MeV)をメモリ70から検索する。照射位置制御装置89は、検索したイオンビームのエネルギー情報を、マスレスセプタム制御装置86に出力する。
マスレスセプタムの磁極の位置決めを行う(ステップS13)。マスレスセプタム12に形成された複数の磁極32A,32Bのうち前述の設定された層に照射されるイオンビームのエネルギー(例えば、220MeV)に対応して220MeVのイオンビームのビーム周回軌道78に位置決めされる一対の磁極32A,32Bは、ステップS8で250MeVのイオンビームが周回するビーム軌道78に位置決めされた一対の磁極32A,32Bよりも入射用電極18側に位置する他の対向している一対の磁極32A,32Bである。マスレスセプタム制御装置86は、照射位置制御装置89で設定された層の情報を照射位置制御装置89から入力する。マスレスセプタム制御装置86は、照射位置制御装置89から入力した設定された層に照射するイオンビームのエネルギー(220MeV)、及びメモリ107に格納されたエネルギーに対応付けられたビーム周回軌道78の位置情報(位置検出装置39によって検出されたビーム電流測定部15の位置情報)に基づいて、マスレスセプタム12の複数対の磁極32A,32Bのうち220MeVのイオンビームのビーム周回軌道78に位置決めして励磁する一対の磁極32A,32Bを特定する。さらに、マスレスセプタム制御装置86は、メモリ107に格納されたビーム周回軌道78の位置情報に基づいて特定された一対の磁極32A,32Bのそれぞれの入射用電極18側の角を、220MeVのイオンビームのビーム軌道78に位置決めするための環状コイルの半径方向におけるマスレスセプタム12の移動量を求める。
マスレスセプタム制御装置86は、求められたマスレスセプタム12の移動量に基づいて移動装置17を制御し、マスレスセプタム12を入射用電極18に向かって移動させる。この移動によって、前述の特定された励磁すべき磁極32A,32Bの、それぞれの入射用電極18側の角が、中心軸Cを基点としてビーム出射経路20の入口と180°反対側で隣り合うビーム周回軌道78の間隔が広くなっている領域において、220MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78に位置決めされる。特定された一対の磁極32A,32Bの位置決めによるマスレスセプタム12の移動量は、位置検出器38で測定されたマスレスセプタム12の位置データに基づいて確認することができる。ステップS13の工程は、前述のステップS8の工程と実質的に同じである。
マスレスセプタムの磁極を励磁する(ステップS14)。ステップS13での磁極の位置決めが終了した後、マスレスセプタム制御装置86は、特定された一対の磁極32A,32Bの情報に基づいてスイッチを制御し、ステップS13で位置決めされた励磁すべき他の磁極32A,32Bのそれぞれに巻き付けられたコイル33A,33Bのそれぞれに接続された配線23A,23Bのそれぞれを電源40に接続する。そして、マスレスセプタム制御装置86は、CPU67からの制御指令情報に基づいて電源40を制御し、図20に示される220MeVのイオンビームをビーム出射経路20の入口に入射するために必要な蹴り出し量が得られるような励磁電流を出力するように、電源40を制御する。上記のように位置決めされた対向する励磁すべき一対の磁極32A,32Bに巻き付けられたコイル33A,33Bのそれぞれにその励磁電流が供給され、その励磁すべき一対の磁極32A,32Bが励磁される。ステップS13の工程は、前述のステップS8の工程と実質的に同じである。
セプタム電磁石及びビーム輸送系の各電磁石の励磁量を調節する(ステップS7)。電磁石制御装置85は、照射位置制御装置89で設定された層の情報を照射位置制御装置89から入力する。電磁石制御装置85は、この設定された層に照射されるイオンビームのエネルギー情報(例えば、220MeV)に基づいて、前述したように、電源82を制御し、セプタム電磁石19を、出射されるイオンビームの220MeVに対応する励磁電流で励磁する。また、ビーム輸送系13の四極電磁石46,47,49及び50及び偏向電磁石41〜44も、前述したように、220MeVに対応する励磁電流で励磁される。このとき、セプタム電磁石19及びビーム輸送系13に設けられた各電磁石の励磁量は、図25の最も下方の特性で左から2番目の励磁量になる。
走査電磁石を制御し、設定された層内でのイオンビームの照射位置を設定する(ステップS15)。照射位置制御装置89は、電磁石制御装置85から各電磁石の励磁量の調節終了信号を入力したとき、治療計画データに含まれる設定された層内での照射位置の情報に基づいて走査電磁石51及び52のそれぞれに供給される励磁電流を制御し、イオンビームを目標であるその照射位置に照射するように、走査電磁石51及び52のそれぞれに偏向磁場を発生させる。走査電磁石51で発生した偏向磁場が、y方向において、後述のステップS16の工程で加速器4から出射されたイオンビームの位置を制御する。走査電磁石52で発生した偏向磁場が、y方向と直交するx方向において、加速器4から出射されたイオンビームの位置を制御する。
ステップS15において、照射位置制御装置89は、イオンビームが目標とする照射位置にイオンビームが到達するように走査電磁石51及び52へのそれぞれの励磁電流が制御されたと判定したとき、ビーム照射開始信号を出力する。
入射用電極に電圧を印加する(ステップS16)。入射用電極制御装置83は、照射位置制御装置89からビーム照射開始信号を入力したとき、ステップS4と同様に、電源80を制御し、入射用電極18に電圧を印加する。イオン源3からイオン入射管3Aを通してビーム周回領域76に入射されたイオンは、入射用電極18で水平方向に曲げられ、中間面77内で周回し、高周波電圧が印加された高周波加速電極9A〜9Dによって加速される。220MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78に沿って周回しているイオンビームは、ステップS14で励磁された一対の磁極32A,32Bの相互間に形成されたビーム通路35に入る。このビーム通路35に入ったイオンビームは、励磁された一対の磁極32A,32Bの作用によって周回するビーム周回軌道78から蹴り出される。すなわち、そのイオンビームは、そのビーム周回軌道78から離脱される。その後、このイオンビームは、そのビーム周回軌道78から離れてビーム出射経路20の入口に向かって移動し、セプタム電磁石19の作用によってビーム出射経路20を通過し、加速器4からビーム経路48に出射される。照射装置7に達したイオンビームは、走査電磁石51及び52の作用によって設定された層内の目標とする照射位置に照射される。
目標の照射位置に照射されるイオンビームの位置が、ビーム一モニタ53によって測定され、測定されたその位置に基づいてイオンビームが目標の照射位置に照射されていることが確認される。
照射位置での照射線量が目標線量に一致したかを判定する(ステップS17)。目標の照射位置への照射線量が、線量モニタ54で測定される。測定された照射線量が、線量判定装置91に入力される。線量判定装置91は、目標の照射位置に照射されて測定された照射線量が目標の照射線量に達したかを判定する。測定された照射線量が目標の照射線量に一致していないとき、ステップS17の判定は「No」となり、ステップS16及びステップS17の各工程が繰り返して実施され、測定された照射線量が目標の照射線量に一致するまで、目標の照射位置へのイオンビームの照射が継続して行われる。測定された照射線量が目標の照射線量に一致したとき(ステップS17の判定が「Yes」になったとき)、線量判定装置91は、入射用電極制御装置83にビーム出射停止信号を出力する。
入射用電極への電圧の印加を停止する(ステップS18)。入射用電極制御装置83は、線量判定装置91からビーム出射停止信号を入力したとき、電源80を制御して電源80から入射用電極18への電圧の印加を停止する。この結果、イオン源3からビーム周回領域76への陽子の入射が停止され、加速器4からビーム経路48へのイオンビームの出射が停止される。すなわち、患部へのイオンビームの照射が停止される。
設定された層内へのイオンビームの照射が終了かを判定する(ステップS19)。或る照射位置へのイオンビームの照射が終了したとき、層判定装置92は、設定された層内へのイオンビームの照射が終了かを判定する。この判定結果が「No」であるとき、すなわち、設定された層内へのイオンビームの照射が終了していないとき、ステップS15〜S19の各工程が繰り返して実施される。繰り返されたステップS15では、設定された層内の目標とする別の照射位置にイオンビームが照射されるように、走査電磁石51及び52のそれぞれに供給される励磁電流が制御される。
ステップS16でその別の照射位置にイオンビームを照射し、ステップS17の判定が「Yes」になったとき、ステップS17で入射用電極18への電圧の印加を停止する。
ステップS19の判定が「Yes」になったとき、全ての層へのイオンビームの照射が終了したかを判定する(ステップS20)。層判定装置92が、全ての層へのイオンビームの照射が終了したかを判定する。イオンビームの照射が行われていない層が残っているため、ステップS20の判定は、「No」になり、ステップS12〜S14,S7及びS15〜S20の各工程が、繰り返して順次実行される。ステップS12では、2番目に深い位置にある層が設定される。この層に照射されるイオンビームに必要なエネルギーは、219MeVである。
繰り返されたステップS13では、前述の220MeVのイオンビームが移動するビーム周回軌道78に合せられた他の磁極32A,32Bのそれぞれの入射用電極18側の角が、その前のステップS13と同様に、219MeVのイオンビームのビーム周回軌道78に位置決めされる。このときのマスレスセプタム12の移動量は、前述の220MeVのイオンビームが移動するビーム周回軌道78に磁極32A,32Bを位置決めするときよりも大きくなる。これらの他の磁極32A,32Bが、ステップS14において励磁される。
ステップS15及びS16では、入射用電極18に電圧が印加されたとき、イオンビームが各ビーム周回軌道78に沿って周回し、励磁された他の磁極32A,32Bの作用により、219MeVのイオンビームが周回するビーム周回軌道78からこの219MeVのイオンビームが蹴り出される。蹴り出されたイオンビームが、照射装置7から患部の2番目に深い層の照射位置に照射される。ステップS17の判定が「Yes」になったとき、ステップS18が実行されてその照射位置へのイオンビームの照射が停止される。
ステップS19の判定が「No」になったとき、ステップS15〜S19の各工程が、ステップS19の判定が「Yes」になるまで繰り返される。ステップS19の判定が「No」になったとき、ステップS12〜S14,S7及びS15〜S20の各工程が、ステップS20の判定が「Yes」になるまで、繰り返して順次実行される。ステップS12〜S14,S7及びS15〜S20の各工程が繰り返されるとき、ステップS12ではより浅い層が設定され、この層に到達するイオンビームのエネルギーも順次低くなる(例えば、220MeVから始まり、1MeVごとにエネルギーを低減する)。ステップS13及びS14では、これらのエネルギーの低いイオンビームが周回するビーム周回軌道78に、マスレスセプタム12の対向する一対の磁極32A,32Bの位置決めが行われ、その後、これらの磁極が励磁される。180MeV及び160MeVのそれぞれのイオンビームを加速器4から出射するときには、220MeV及び200MeVの各イオンビームを出射するときに励磁された一対の磁極32A,32Bの、入射用電極18側で隣に位置する他の一対の磁極32A,32BがステップS14でそれぞれ励磁される。ただし、160MeVのイオンビームを出射するときには、180MeVのイオンビームを出射する場合に比べてステップ13における磁極の位置決め時におけるマスレスセプタム12の移動量が大きくなる。
ステップS20の判定が「Yes」になったとき、患部へのイオンビームの照射が終了する(ステップS21)。
以上により、患者56の患部の、イオンビームの照射による治療が終了する。
本実施例では、鉄心14A,14Bは、中間面77において最外周のビーム周回軌道を形成するのに適した円形であるが、他の形状であっても実施可能である。また、環状コイル11A及び11Bも円形であるが、これらは、他の形状、例えば、リターンヨークのベース部に形成される各磁極を取り囲むクローバー形状にしてもよい。
一般的なサイクロトロンでは、最外周に形成された、最も高いエネルギーを有するイオンビームのビーム周回軌道からしかイオンビームを取り出すことができなかった。しかし、本実施例によれば、加速器外周部にビーム軌道間隔が狭くなるビーム軌道偏心領域を形成することで、異なるエネルギーを有する複数のビーム軌道78がセプタム電磁石19、及びビーム出射経路20の入口に集束して形成されるため、最も外周に位置する最も高いエネルギーのイオンビームが周回するビーム軌道78のみならず、このビーム周回軌道76の内側に形成される複数のビーム周回軌道78から、異なるエネルギーを有するそれぞれのイオンビームを、随時、選択的に取り出すことができる。このため、本実施例は、エネルギーが異なる各イオンビームを加速器4から効率良く出射することができる。
本実施例によれば、中心が互いに偏心している複数の環状のビーム周回軌道78が入射用電極18またはイオン注入口またはイオン入射部109とビーム出射経路20の入口の間で密になって入射用電極18を基点にしてビーム出射経路20の入口の180°反対側でそれらの環状のビーム周回軌道78の相互の間隔が広くなっている軌道偏心領域が、入射用電極18(またはイオン注入口またはイオン入射部109)の周囲で、ビーム周回領域76内に存在してビーム周回軌道78が形成される、中間面77に形成されているので、ビーム周回軌道偏心領域内の、入射用電極18を基点にしてビーム出射経路20の入口の180°反対側では、異なるエネルギーを有する各イオンビームのそれぞれのビーム周回軌道78の相互の間隔が広くなり、異なるエネルギーの各イオンビームを該当するビーム周回軌道78から効率良く離脱させることができる。このため、エネルギーが異なる各イオンビームを、加速器4のセプタム電磁石19に形成されるビーム出射経路20を通してビーム輸送系13のビーム経路48に効率良く出射することができる。さらに、本実施例では、エネルギーの異なる各イオンビームを、それぞれ連続して加速器4から出射することができる。
本実施例では、入射用電極18を中心する同心の複数の環状のビーム周回軌道78が形成される軌道同心領域が、中間面77において、軌道偏心領域の内側に形成されるので、イオンビームを出射するビーム出射経路20の入口付近でのビーム周回軌道78の集約度合いが緩和され、この結果、その入口付近での磁場勾配がより小さくなる。異なるエネルギーを有する各イオンビームが、該当するビーム周回軌道78をより安定に周回することができる。
イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)が環状コイルの重心とは径方向に異なる位置に配置されるので、イオン入射部(または入射用電極18またはイオン注入口)の周囲に形成される複数の環状のビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔は、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)よりビーム出射経路20の入口側の領域よりも、イオン入射部(または入射用電極18またはイオン注入口)を基点にしてビーム出射経路20の入口の反対側の領域で広くなる。このため、ビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔が広くなる、ビーム出射経路20の入口の反対側の領域においてビーム周回軌道78から容易にイオンビームを離脱させることができ、各環状のビーム周回軌道78を周回するエネルギーの異なる各イオンビームを効率良く出射することができる。
イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)が鉄心の中心とは径方向に異なる位置に配置されるので、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)の周囲に形成される複数の環状のビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔は、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)よりビーム出射経路の入口側の領域よりも、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)を基点にしてビーム出射経路20の入口の反対側の領域で広くなる。このため、ビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔が広くなる、ビーム出射経路20の入口の反対側の領域においてビーム周回軌道78から容易にイオンビームを離脱させることができ、各環状のビーム周回軌道78を周回するエネルギーの異なる各イオンビームを効率良く出射することができる。
高周波加速電極9C及び9Dの、その内面の位置から環状コイルの内側に向かって伸びている部分のそれぞれの先端部が、環状コイルの重心とは径方向に異なる位置に配置されるので、高周波加速電極9C及び9Dのそれぞれの先端部が配置されるその位置の周囲に形成される複数の環状のビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔は、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)よりビーム出射経路20の入口側の領域よりも、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)を基点にしてビーム出射経路20の入口の反対側の領域で広くなる。このため、ビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔が広くなる、ビーム出射経路20の入口の反対側の領域においてビーム周回軌道78から容易にイオンビームを離脱させることができ、各環状のビーム周回軌道78を周回するエネルギーの異なる各イオンビームを効率良く出射することができる。
磁極(凸部)7A〜7Fは、鉄心の重心とは径方向に異なる位置に向かって、鉄心外周から径内周方向に伸びるように設置されているので、磁極7A〜7Fのそれぞれの先端部が配置される、鉄心の重心とは径方向に異なる位置の周囲に形成される複数の環状のビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔は、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)よりビーム出射経路20の入口側の領域よりも、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)を基点にしてビーム出射経路20の入口の反対側の領域で広くなる。このため、ビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔が広くなる、ビーム出射経路2の入口の反対側の領域においてビーム周回軌道78から容易にイオンビームを離脱させることができ、各環状のビーム周回軌道78を周回するエネルギーの異なる各イオンビームを効率良く出射することができる。
本実施例によれば、複数のビーム周回軌道78が、ビーム出射経路20の入口において集束しているので、それぞれのビーム周回軌道78から離脱されたエネルギーの異なる各イオンビームがビーム出射経路20の入口に入射されやすくなり、エネルギーの異なる各イオンビームを効率良く出射することができる。
本実施例によれば、磁極7A〜7Fによって形成される環状のビーム周回軌道78の中心が、環状コイルの重心の位置と異なっているので、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)の周囲に形成される複数の環状のビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔は、ビーム出射経路20の入口側の領域よりも環状のビーム周回軌道78の中心側の領域で広くなる。このため、ビーム周回軌道78の隣り合う相互の間隔が広くなる、ビーム周回軌道78の中心側の領域においてビーム周回軌道78から容易にイオンビームを離脱させることができ、各環状のビーム周回軌道78を周回するエネルギーの異なる各イオンビームを効率良く出射することができる。
本実施例によれば、中間面77内で最も磁場強度が高い領域が、第1磁場領域において最外周のビーム周回軌道78よりも、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)側に形成されるので、エネルギーが異なる各イオンビームを効率良く出射することができ、さらに、中間面77に形成される環状の複数のビーム周回軌道78のうち外周部に位置するビーム周回軌道を周回するイオンビームの安定性が向上する。
本実施例によれば、一対の鉄心14A,14Bのそれぞれが、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)の周囲においてイオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)から放射状に伸び、先端がイオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)に向かい合っている磁極7A〜7Fを形成しており、さらに、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)の周囲においてイオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)から放射状に伸びる凹部29A〜29Fを形成しており、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)の周囲において磁極と凹部が交互に配置され、環状コイル11A,11Bが、鉄心14A,14B内にそれぞれ配置された磁極7A〜7F及び凹部29A〜29Fを取り囲んでいるので、イオン入射管3Aを通してのビーム周回領域76へのイオンの入射を安定に行うことができる。
本実施例では、凹部29D(第2凹部)にビーム出射経路20の入口が開口しているので、環状のビーム周回軌道78から離脱したイオンビームの、ビーム出射経路20の入口への入射が容易になり、各環状のビーム周回軌道78を周回するエネルギーの異なる各イオンビームを効率良く出射することができる。これは、軌道偏心領域内に形成されるそれぞれの環状のビーム周回軌道78が凹部29Dにおいてビーム出射経路20の入口側に集束されているからである。
本実施例では、磁極7A〜7Fのそれぞれが折れ曲り点を有し、及び磁極7A〜7Fのそれぞれの折れ曲り点から環状コイルの内面に対向する端面までの部分が凹部29Aに向かって折り曲げられているので、偏心した複数のビーム周回軌道78が存在するビーム偏心領域が形成され、ビーム周回軌道相互間の間隔が広くなり、各環状のビーム周回軌道78を周回するエネルギーの異なる各イオンビームを効率良く出射することができる。
本実施例では、ビーム電流測定装置98が凹部29Aに配置されているので、このビーム電流測定装置98による測定により、各ビーム周回軌道78を周回するそれぞれのイオンビームのエネルギー及び各ビーム周回軌道78の環状コイルの半径方向における位置のそれぞれの情報を得ることができる。各イオンビームのエネルギー情報及び各ビーム周回軌道78の位置情報を用いることによって、患部に含まれる設定された層に照射されるイオンビームのエネルギーに対応したビーム周回軌道78の位置情報を得ることができ、この位置情報により、マスレスセプタム12の励磁すべき対向する一対の磁極32A,32Bを特定することができ、この励磁すべき対向する一対の磁極32A,32を、設定された層に照射されるエネルギーのイオンビームが周回するビーム周回軌道78に精度良く位置決めすることができる。
また、ビーム電流測定装置98のビーム電流測定部15を、移動装置17Aを用いて、凹部29A内において中間面77に沿って、イオン入射部109(または入射用電極18またはイオン注入口)に向かって移動するので、広範囲において、それぞれのビーム周回軌道78に対する各イオンビームのエネルギー情報及び各ビーム周回軌道78の位置情報を得ることができる。
凹部29Aに配置されたビーム電流測定装置98によって測定されたビーム周回軌道78の位置が所定の位置に存在しないとき、磁極7A〜7Fにそれぞれ取り付けられたトリムコイル8A〜8Fにそれぞれ供給される励磁電流を、コイル電流制御装置94によって調節するので、所定の位置に存在しないビーム周回軌道78が形成された場合でも、このビーム周回軌道78を所定の位置に形成することができる。
本実施例では、前述したように、一対の鉄心14A,14Bのそれぞれにおいて、中心軸Cに垂直な平面で一点鎖線Xの両側のそれぞれの領域で、先端が入射用電極18に対向している高周波加速電極9Cを真空容器27の周方向において隣り合う磁石7Cと磁極7Eの間に、先端が入射用電極18に対向している高周波加速電極9Dを真空容器27の周方向において隣り合う磁石7Dと磁極7Fの間に配置し、高周波加速電極9Cの折れ曲り点24M,24Nから高周波加速電極9Cの、環状コイル11Aまたは11Bに対向する端面までの部分、及び高周波加速電極9Cの折れ曲り点24M,24Nから高周波加速電極9Cの、環状コイル11A及び11Bのいずれかに対向する端面までの部分が、凹部29Aに向かって折り曲げられているので、入射用電極18に近いビーム周回軌道78と環状コイル11Aまたは11Bに近いビーム周回軌道78の間に存在する各ビーム周回軌道78を周回する各イオンビームを容易に加速することができる。さらに、本実施例は、高周波加速電極9A及び9Bが、磁極7Aと磁極7Cの間及び磁極7Bと磁極7Dのそれぞれの間で、これらの磁極の折れ曲がり点と環状コイル11A及び11Bのいずれかに対向する端面の間にそれぞれ配置されているため、高いエネルギーを有するイオンビームの各ビーム周回軌道78をそれぞれ周回するイオンビームも、容易に加速することができる。
本実施例では、中間面77内で凹部29Aにビーム電流測定部15を配置し、このビーム電流測定部15を移動装置17によって中間面77において一点鎖線Xに沿って移動させ、位置検出装置39によって移動されるビーム電流測定部15の中間面77内での位置を検出するので、前述したように、各ビーム周回軌道78におけるビーム電流値及びこれらのビーム周回軌道78の位置を精度良く検出することができる。
マスレスセプタム12を一対の鉄心14A,14Bのそれぞれの凹部29A内に配置しているため、マスレスセプタム12を鉄心14Aと鉄心14Bの間に容易に配置することができる。
マスレスセプタム12を凹部29Aに配置しているため、マスレスセプタム12がビーム周回軌道偏心領域内のビーム周回軌道78の相互の間隔が広くなる位置に位置することになり、マスレスセプタム12によって、異なるエネルギーを有する各イオンビームをそれぞれのビーム周回軌道78から効率良く離脱させることができる。これにより、エネルギーが異なる各イオンビームを加速器4から効率良く出射することができる。
マスレスセプタム12は、複数対の対向する磁極32A,32Bを有しているので、患部の設定された層に照射するイオンビームのエネルギーに基づいて、ビーム周回軌道78に位置決めして励磁すべき一対の磁極32A,32Bを容易に特定することができる。
マスレスセプタム12を環状コイルの半径方向に移動する移動装置17が設けられているので、マスレスセプタム12の励磁すべき一対の磁極32A,32Bを、患部の設定された層に照射すべきエネルギーを有するイオンビームが周回するビーム周回軌道78への位置決めの調節を行うことができる。このため、一対の磁極32A,32Bの該当するビーム周回軌道78への位置決めを精度良く行うことができる。
サイクロトロンを用いた粒子線照射装置は、患部に照射するイオンビームのエネルギーを変えるために、ビーム輸送系に厚みの異なる複数の金属板を有するデグレーダを設けている。これに対し、本実施例の粒子線照射装置1は、前述したように、加速器4からエネルギーの異なるイオンビームを出射することができ、デグレーダが不要になる。または、その利用を大幅に低減することができる。このため、粒子線照射装置1では、デグレーダによるイオンビームのビームサイズの増加、デグレーダの金属板を透過する際に一部のイオンが散乱することによるイオン数の減少、及び、デグレーダの放射化による放射性廃棄物の増加を防止することができる。
本実施例では、イオンビームが周回するビーム周回領域76を真空に保つために、一対の鉄心14Aと鉄心14Bを互いに対向させて結合して真空容器27を形成している。このため、本実施例で用いられる加速器4は、後述する実施例8及び9のように、互いに対向する鉄心14と鉄心14Bとの間に真空容器を配置して構成される加速器に比べて小型化することができる。
本実施例では、前述したように、エネルギーが低いイオンビーム(70MeV以下のイオンビーム)が周回するビーム周回軌道78では、イオンビームが2台の高周波加速電極で9C及び9Dによって加速される。また、ビーム周回軌道78が偏心しているために、安定で細かな軌道制御が必要で、かつ高エネルギーであるために更なる加速に高い高周波加速電圧または長い加速時間が必要な、エネルギーが高いイオンビーム(70MeVを超えるイオンビーム)が周回するビーム周回軌道78では、イオンビームが4台の高周波加速電極9A〜9Dにより加速される。
磁極の折れ曲がり点と環状コイルの内面との間に配置される高周波加速電極、及びイオン注入口から環状コイルの内面まで伸びている高周波加速電極は、それぞれ1つでも、またそれぞれ3つ以上でも、上記した機能を発揮することができる。ただし、前述した軌道偏心領域をビーム周回領域76内の軌道面である中間面77に形成するために、高周波加速電極9A〜9Dのうち高周波加速電極9A及び9C配置及び形状を、中心軸Cとビーム出射経路20の入口を結ぶ直線(一点鎖線X)に対して、高周波加速電極9B及び9Dの配置及び形状と対称にすることにより、周回するイオンビームの安定性が得やすくなる。
鉄心14A、14Bは、水平方向に円形であり、一般的にその中心は加速器4の構造上の中心を意味する。また、環状コイル11A及び11Bは円形のメインコイルであり、一般的にその中心及び重心も同様に、加速器4の構造上の中心を意味する。さらに、本実施例の加速器4では、前述のイオン入射部は、鉄心の中心とも、環状コイルの重心とも異なる位置に設置され、ビーム出射経路20の入口側にずれた位置に設けられている。
通常のサイクロトロンの場合、ビーム周回軌道は加速器の構造上の中心を起点として、同心円状に形成されるため、イオンは加速器の構造上の中心に入射される。厳密には、イオンは、中心点そのものではなく、最内周のビーム周回軌道に入射される。仮に、イオンが入射されてこのイオンを最内周のビーム周回軌道に導く、最内周のビーム周回軌道よりも内側の領域を、イオン入射部と定義したとき、通常のサイクロトロンでは、このイオン入射部は加速器の構造上の中心に位置している。これに対して、本実施例で用いられる加速器4では、イオン入射部は、鉄心の中心とも、環状コイルの重心とも異なる位置に設置され、ビーム出射経路20の入口側にずれた位置に配置される。