JP6432371B2 - 蓄電装置用の負極電極 - Google Patents

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Description

本発明は、蓄電装置用の負極電極に関する。
リチウムイオン二次電池等の蓄電装置用の負極電極は、例えば、金属材料により形成された集電体と、リチウムを吸蔵及び放出する負極活物質と、負極活物質を結着させるバインダーとから構成される。近年、充放電容量が大きい負極活物質として、ケイ素酸化物等のシリコン系の負極活物質が注目されている。シリコン系の負極活物質は、電気を流し難い性質を有することから、シリコン系の負極活物質を用いる場合には、集電体と負極活物質との間、及び負極活物質間の導電性を高めるために、黒鉛粒子等の導電助剤を更に含有させることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
特開2004−319170号公報
この発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、シリコン系の負極活物質を用いた負極電極について、導電助剤として、リチウムに対して不活性な金属粒子からなるコアと、コアの表面に形成された炭素コーティング層とを有する導電助剤を用いた場合に、黒鉛粒子等の従来の導電助剤を用いた場合と比較して高いサイクル特性が得られることを見出したことに基づいてなされたものである。その目的は、サイクル特性に優れた蓄電装置用の負極電極を提供することにある。
請求項1に記載の発明は、蓄電装置用の負極電極であって、シリコン系の負極活物質と、前記負極活物質を結着させるバインダーと、前記バインダー中に含有される導電助剤とを備え、前記バインダーは、JIS K 6854−1に準拠した90度剥離試験にて測定される銅箔からの剥離強度が0.5〜5.0N/cmであり、前記導電助剤は、リチウムに対して不活性な金属粒子からなるコアと、前記コアの表面に形成された炭素コーティング層とを有することを特徴とする。
上記蓄電装置用の負極電極において、前記バインダーは、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びカルボキシル基を含有するビニル系ポリマーと芳香族多官能アミンとが縮合してなる高分子化合物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
上記蓄電装置用の負極電極において、前記バインダーは、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーと、下記一般式(1)に示す芳香族多官能アミンとが縮合してなる高分子化合物であることが好ましい。
(Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。)
この場合、高分子化合物は、前記カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーと前記芳香族多官能アミンとが、150℃〜230℃の熱処理により縮合してなることが好ましい。
上記蓄電装置用の負極電極において、前記バインダーは、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーにより構成される鎖状構造と、前記鎖状構造内又は鎖状構造間におけるカルボン酸側鎖同士を接続する架橋構造とを有し、前記架橋構造は、下記一般式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも一種の架橋構造であることが好ましい。
(polyは、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーにより構成される鎖状構造を示し、Xは、下記一般式(5)に示す構造である。)
(Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。)
この場合、前記架橋構造として、少なくとも一般式(2)及び一般式(4)の架橋構造を有する、又は少なくとも一般式(3)の架橋構造を有することが好ましい。
上記蓄電装置用の負極電極において、前記導電助剤として、銅からなる前記コアを有する導電助剤を備えることが好ましい。
上記蓄電装置用の負極電極において、前記負極活物質は、層状シリコン化合物を熱処理することで製造され、ナノサイズのシリコン結晶子を含む負極活物質であることが好ましい。
本発明によれば、蓄電装置のサイクル特性を向上させることができる。
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の蓄電装置用の負極電極は、金属材料により形成された集電体と、負極活物質と、負極活物質を結着させるバインダーと、バインダー中に含有される導電助剤とを備えている。
(集電体)
集電体としては、負極電極の集電体として用いられる公知の金属材料を用いることができる。集電体として利用できる金属材料としては、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、モリブデン、ステンレスが挙げられる。
(負極活物質)
負極活物質は、シリコン系の負極活物質である。シリコン系の負極活物質としては、例えば、SiB、SiB、MgSi、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<V≦2)、SnSiO、LiSiOが挙げられる。これらのなかでも、SiO(0<V≦2)が特に好ましい。
また、シリコン系の負極活物質として、層状シリコン化合物を熱処理することで製造され、ナノサイズのシリコン結晶子を含む負極活物質を用いることもできる。こうした負極活物質としては、例えば、国際公開2014/080608号、及び非特許文献(Materials Research Bulletin,vol.31,No.3,pp.307−316,1996)に開示される負極活物質が挙げられる。
シリコン系の負極活物質は、上記の物質のうちの一種のみであってもよいし、二種以上であってもよい。また、シリコン系の負極活物質に加えて、その他の負極活物質が更に含まれていてもよい。その他の負極活物質としては、蓄電装置の負極活物質として用いられる公知の物質、例えば、炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、及びリチウムと合金化可能な元素を有する化合物を用いることができる。
(バインダー)
バインダーは、集電体に対する剥離強度の高い高密着バインダーである。高密着バインダーは、JIS K 6854−1に準拠した90度剥離試験にて測定される銅箔からの剥離強度が0.5〜5.0N/cmの範囲であるバインダーである。高密着バインダーとしては、例えば、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド等の樹脂バインダーが挙げられる。
カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方と他のビニル系モノマーとの共重合体が挙げられる。他のビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ブテン、イソブテン、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の等のビニル基、ビニレン基、又はビニリデン基を有する化合物が挙げられる。
また、高密着バインダーとして、(A)カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーと、(B)芳香族多官能アミンとが縮合してなる高分子化合物を用いることもできる。
(A)カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方と他のビニル系モノマーとの共重合体が挙げられる。他のビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ブテン、イソブテン、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の等のビニル基、ビニレン基、又はビニリデン基を有する化合物が挙げられる。これらの他のビニル系モノマーのうちの一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。なお、以下では、(A)カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーについて、単に(A)ビニル系ポリマーと記載する。
(A)ビニル系ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、10,000〜2,000,000の範囲であることが好ましく、25,000〜1,800,000の範囲であることがより好ましく、50,000〜1,500,000の範囲であることが更に好ましい。
(B)芳香族多官能アミンは、分子構造内にベンゼン環等の芳香環構造を有し、当該芳香環に2つ以上のアミノ基が結合した化合物である。(B)芳香族多官能アミンとしては、例えば、下記一般式(1)に示す構造を有する化合物が挙げられる。
一般式(1)において、Yは炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子である。また、各ベンゼン環におけるYの結合位置は、アミノ基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。
Yが直鎖アルキル基及びフェニレン基である場合において、当該構造を構成する炭素原子には置換基が結合されていてもよい。例えば、直鎖アルキル基を構成する炭素原子に結合される置換基としては、メチル基、エチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。これらの置換基は、一種のみが結合されていてもよいし、二種以上が結合されていてもよい。また、一つの炭素原子に結合される置換基の数は、一つであってもよいし、二つであってもよい。また、直鎖アルキル基及びフェニレン基を構成する炭素原子に結合される置換基は、アミノ基、又はアミノ基を含む置換基であってもよく、この場合には、3以上のアミノ基を有する多官能アミンとなる。
一般式(1)において、R1,R2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。R1がメチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である場合において、R1の結合位置は、アミノ基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。R2についても同様である。
一般式(1)に示す構造を有する化合物の具体例について記載する。
Yが直鎖アルキル基である多官能アミンとしては、例えば、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−エチレンジアニリン、4,4’−ジアミノ―3,3’−ジメチルジフェニルメタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、9、9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンが挙げられる。Yがフェニレン基である多官能アミンとしては、例えば、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンが挙げられる。なお、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンは、3つのアミノ基を有する三官能アミンである。Yが酸素原子である多官能アミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが挙げられる。
また、一般式(1)に示す構造を有する化合物以外の(B)芳香族多官能アミンとしては、例えば、1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、3,4−ジアミノトルエン、3,4−ジアミノ安息香酸、3,5−ジアミノ安息香酸、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレンが挙げられる。なお、上記の芳香族多官能アミンのうちの一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
(B)芳香族多官能アミンの配合割合は、(B)芳香族多官能アミンのアミノ基の数に応じて設定される。すなわち、(A)ビニル系ポリマーにおけるカルボキシル基の数が、(B)芳香族多官能アミンにおけるアミノ基の数よりも多くなるように上記配合割合は設定される。換言すると、(B)芳香族多官能アミンにおけるアミノ基1当量に対して、(A)ビニル系ポリマーにおけるカルボキシル基が1当量以上となるように上記配合割合は設定される。なお、(A)ビニル系ポリマーのカルボキシル基の数と(B)芳香族多官能アミンのアミノ基の数との比率(カルボキシル基/アミノ基比率)は、1.5/1〜15/1の範囲であることが好ましく、2/1〜10/1の範囲であることがより好ましい。
上記高分子化合物は、(A)ビニル系ポリマーと(B)芳香族多官能アミンと溶媒との混合物を加熱処理することにより得られる。上記溶媒としては、(A)ビニル系ポリマー及び(B)多官能アミンが溶解する溶媒を適宜選択して用いることができる。特に、溶解性向上の観点においては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、γ―ブチロラクトン、エタノール、プロパノール等の非水溶媒を用いることが好ましい。上記加熱処理における加熱温度は、例えば、150〜230℃の範囲であることが好ましく、180〜200℃の範囲であることがより好ましい。
(A)ビニル系ポリマーと(B)芳香族多官能アミンとが縮合してなる高分子化合物は、(A)ビニル系ポリマーのカルボキシル基と、(B)芳香族多官能アミンのアミノ基との間にアミド結合及びイミド結合の少なくとも一方が形成されて、(A)ビニル系ポリマー同士が架橋された構造をなしている。つまり、高分子化合物は、(A)ビニル系ポリマーにより構成される鎖状構造と、その鎖状構造内又は鎖状構造間におけるカルボン酸側鎖同士を接続する架橋構造とを有している。そして、その架橋構造は、下記一般式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも一種の架橋構造である。
一般式(2)〜(4)において、「poly」は、(A)ビニル系ポリマーにより構成される鎖状構造を示している。なお、イミド構造を有する一般式(3)〜(4)において、一つのイミド構造を構成する二つのカルボニル基は、それぞれ異なる鎖状構造に結合されるカルボニル基であってもよいし、同一の鎖状構造に結合されるカルボニル基であってもよい。例えば、イミド構造を構成する二つのカルボニル基が、同一の鎖状構造における隣接する炭素に結合されるカルボニル基である場合、イミド構造としてマレイミド構造が形成される。
また、一般式(2)〜(4)において、Xは、(B)芳香族多官能アミンに由来する構造であり、例えば、(B)芳香族多官能アミンが一般式(1)に示す多官能アミンである場合、下記一般式(5)に示す構造となる。
一般式(5)において、Yは炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子である。また、各ベンゼン環におけるYの結合位置は、アミノ基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。なお、一般式(5)におけるYは、一般式(1)におけるYに準じた構造となる。
一般式(5)において、R1,R2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。R1がメチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である場合において、R1の結合位置は、アミノ基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。R2についても同様である。なお、一般式(5)におけるR1,R2は、一般式(1)におけるR1,R2に準じた構造となる。
また、上記高分子化合物は、その架橋構造において、アミド結合部及びイミド結合部の両方を有するものであることが好ましい。つまり、架橋構造として、少なくとも一般式(2)及び一般式(4)の架橋構造を有している、又は少なくとも一般式(3)の架橋構造を有していることが好ましい。
また、上記高分子化合物は、フリーのカルボキシル基に(C)第3化合物が縮合されて、(C)第3化合物に由来する末端構造を有する化合物であってもよい。(C)第3化合物としては、亜リン酸、亜リン酸エステル、及びトリアルコシキシランから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。亜リン酸エステルとしては、例えば、亜リン酸ジメチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリエチル等の炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基を有するリン酸アルキルエステルが挙げられる。トリアルコシキシランとしては、例えば、一般式(6)に示す構造を有する化合物が挙げられる。
一般式(6)において、R3〜R5は、それぞれ独立して炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基を示す。一般式(6)に示す構造を有する化合物としては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシランが挙げられる。
(導電助剤)
導電助剤は、集電体と負極活物質との間、及び負極活物質間の導電性を高めるために、バインダー中に含有される粒子である。導電助剤としては、リチウムに対して不活性な金属からなるコアと、コアの表面に形成された炭素コーティング層とを有する粒子が用いられている。
コアを構成する、リチウムに対して不活性な金属としては、例えば、銅、ニッケル、コバルト、銀、金、鉄、マンガン、クロム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブが挙げられる。上記金属の中でも銅が好ましい。また、上記金属の中でも、集電体を構成する金属と同じ金属であることが好ましい。
コアの粒径は、例えば、メジアン径(d50)で0.1〜20μmの範囲であることが好ましく、0.5〜10μmの範囲であることがより好ましい。
炭素コーティング層は、コアの表面の疎水性を高めるために設けられている。炭素コーティング層としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボンコートが挙げられる。炭素コーティング層の厚さは、例えば、10〜70nmの範囲である。
本実施形態の負極電極における負極活物質、バインダー、及び導電助剤の割合は、各構成として用いた物質に応じて適宜設定することができる。例えば、負極活物質の割合は、負極活物質、バインダー、及び導電助剤の総質量を100質量部としたとき、1〜90質量部の範囲であることが好ましく、5〜80質量部の範囲であることがより好ましい。バインダーの割合は、負極活物質、バインダー、及び導電助剤の総質量を100質量部としたとき、1〜20質量部の範囲であることが好ましく、5〜15質量部の範囲であることがより好ましい。導電助剤の割合は、負極活物質、バインダー、及び導電助剤の総質量を100質量部としたとき、1〜50質量部の範囲であることが好ましく、10〜30質量部の範囲であることがより好ましい。
本実施形態の負極電極は、例えば、以下のようにして作製することができる。
まず、負極活物質、バインダー、導電助剤、及び溶剤を混合してスラリーを調製する。このスラリーを集電体に塗布して、集電体の表面にスラリーからなる負極活物質層を形成する。その後、負極活物質層を乾燥させることによって本実施形態の負極電極が得られる。また、必要に応じて、負極活物質層に対して、加熱処理等の他の処理が更に行われる場合もある。
なお、溶剤としては、負極電極の作製時に用いられる公知の溶剤から、負極活物質及びバインダーの種類等に応じて適宜選択して用いることができる。溶剤の具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトンが挙げられる。
本実施形態の負極電極は、電解質として非水電解質を備える非水系の蓄電装置に好適に用いることができる。蓄電装置としては、例えば、二次電池、電気二重層コンデンサ、リチウムイオンキャパシタが挙げられる。また、こうした蓄電装置は、電気自動車及びハイブリッド自動車のモータ駆動用の非水系二次電池や、パソコン、携帯通信機器、家電製品、オフィス機器、産業機器等に利用される非水系二次電池として有用である。
次に、本実施形態の作用及び効果について記載する。
(1)本実施形態の蓄電装置用の負極電極は、シリコン系の負極活物質と、負極活物質を結着させるバインダー(高密着バインダー)と、バインダー中に含有される導電助剤とを備えている。導電助剤は、リチウムに対して不活性な金属粒子からなるコアと、コアの表面に形成された炭素コーティング層とを有している。上記構成によれば、シリコン系の負極活物質を採用した場合における蓄電装置のサイクル特性を向上させることができる。
すなわち、シリコン系の負極活物質は、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化が大きい。そのため、負極活物質の体積変化により生じた応力はバインダーのみならず、導電助剤に対しても大きく作用し、その結果、負極活物質の体積変化を干渉すべく導電助剤が変形する場合がある。
ここで、導電助剤が従来の黒鉛粒子であると、導電助剤の上記変形は割れや裂けを伴う変形となり、変形後の導電助剤の表面に活性の高い新生面が形成される。そして、この導電助剤の新生面が蓄電装置の電解質と反応して化学的な変化を起こすことにより、導電助剤の電気抵抗が上昇してしまう。また、蓄電装置の電解質についても、導電助剤の新生面との反応によって分解が促進される。こうした導電助剤の電気抵抗の上昇を伴う劣化、及び電解質の分解が蓄電装置のサイクル特性を低下させる要因となる。
これに対して、導電助剤が、リチウムに対して不活性な金属粒子からなるコアと、コアの表面に形成された炭素コーティング層とを有する導電助剤であると、導電助剤の上記変形は、コアを構成する金属の展性に基づく延びを伴う変形となることから、変形後の導電助剤の表面に活性の高い新生面が形成され難い。そのため、導電助剤の新生面と蓄電装置の電解質との反応に基づく導電助剤の劣化や電解質の分解が抑制される。
このように、本実施形態の上記構成によれば、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化の大きいシリコン系の負極活物質の性質に起因して生じる、導電助剤の劣化や電解質の分解が抑制される。その結果、蓄電装置のサイクル特性が向上する。
(2)また、本実施形態の上記構成においては、導電助剤の表面に炭素コーティング層が形成されて、導電助剤の表面の疎水性が高められている。そのため、シリコン系の負極活物質と、バインダーと、導電助剤と、溶剤とを混合したスラリーを調製する際に、バインダー中に導電助剤が分散しやすく、バインダーの凝集が抑制される。これにより、負極電極におけるバインダーの偏りが抑制されて、負極活物質間に適切な量のバインダーを介在させることが容易になる。
負極活物質間に介在されるバインダーの量が少ない場合、負極活物質の体積変化に対してバインダーが追従できずに分断されて、負極活物質間の結着状態が悪くなりやすい。こうした傾向は、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化の大きいシリコン系の負極活物質を用いた場合には特に顕著である。そして、負極活物質間の結着状態の悪化は、蓄電装置のサイクル特性の低下の要因となる。そのため、負極活物質間に適切な量のバインダーを介在させることができる上記構成によれば、負極活物質間の結着状態の悪化に起因する蓄電装置のサイクル特性の低下を抑制することができる。
なお、参考として、炭素コーティング層に代えて、合成樹脂等のポリマーからなるポリマーコーティング層を導電助剤の表面に形成した場合においても、導電助剤の表面の疎水性が高められて同様の効果を得ることができる。この場合、ポリマーコーティング層を構成するポリマーは、特に限定されるものでなく、負極電極の作製時に用いられる溶剤に溶け出さないものを選択すればよい。なお、ポリマーコーティング層の厚さは、例えば、10〜70nmの範囲である。
(3)バインダーとして、高密着バインダーを用いている。
上記構成によれば、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化の大きいシリコン系の負極活物質を用いた場合においても、負極活物質の体積変化により生じた応力がバインダーに作用したときに、負極活物質及び集電体からバインダーが剥離し難くなる。これにより、集電体に対して負極活物質を結着させた状態を好適に維持することが可能となり、その結果、蓄電装置のサイクル特性が向上する。なお、高密着のバインダーであるほど、導電助剤として無機フィラー(例えば、銅粉末等)を添加してスラリーを調製する際に凝集が起こりやすい傾向があるが、本実施形態においては、表面に炭素コーティング層が形成された導電助剤が用いられていることから、高密着バインダーであっても、その凝集が抑制される。
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
導電助剤を異ならせた実施例及び比較例の負極電極を作製した。そして、各負極電極を用いてリチウムイオン二次電池を作製するとともに、各リチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。
[実施例1]
(シリコン系の負極活物質)
シリコン系の負極活物質として、層状シリコン化合物を熱処理することで製造され、ナノサイズのシリコン結晶子を含む負極活物質を作製した。
0℃で氷浴したフッ化水素を1質量%の濃度で含有する濃塩酸20mlに、CaSi5gを加えて1時間撹拌した後、水を加えて更に5分間撹拌した。反応液を濾過して得られた黄色粉体を水及びエタノールで洗浄し、これを減圧乾燥することにより、層状ポリシランを得た。得られた層状ポリシランをアルゴン雰囲気下で500℃に加熱することにより、層状ポリシランから水素が離脱したシリコン材料を得た。このシリコン材料をシリコン系の負極活物質として用いた。
(導電助剤)
導電助剤として、リチウムに対して不活性な金属粒子からなるコアと、コアの表面に形成された炭素コーティング層とを有する粒子を作製した。
粒子径5μmの銅粉末(高純度化学社製)を粒子流動させながら、スパッタダウン法によるコーティング処理(真空度1.45Pa、アルゴンガス流量0.6cm/分)を行うことにより、銅粉末の表面に黒鉛を蒸着させて、炭素コーティング層としてのダイヤモンドライクカーボン層を形成した。なお、上記粒子径はメジアン径(d50)であり、以下に記載する粒子径も同様である。また、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した炭素コーティング層の厚さは、30〜50nmの範囲内であった。
(バインダー)
バインダーとして、ポリアミドイミドを用いた。また、銅箔上に厚み50μmのポリアミドイミド層を形成したフィルムに対して、JIS K 6854−1に準拠した90度剥離試験を行うことにより、ポリアミドイミドの銅箔に対する剥離強度を測定した。その結果を表1に示す。なお、ポリアミドイミド層を形成には、ポリアミドイミドのNMP溶液を用いた。
(電極シートの作製)
シリコン系の負極活物質70質量部、アセチレンブラック5質量部、導電助剤15質量部、バインダー10質量部を混合するとともに、この混合物にNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を加えてスラリーを調製した。30μmの電解銅箔(集電体)の表面に、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮しつつ密着接合させた後、真空中(減圧下)にて160℃、2時間の加熱処理を行うことにより、実施例1の負極電極としての電極シートを得た。
[比較例1]
導電助剤を、粒子径10μmの黒鉛(コーティング無し)に変更した点を除いて、実施例1と同様にして、比較例1の負極電極としての電極シートを作製した。
[比較例2]
導電助剤を、粒子径5μmの銅粉末(コーティング無し)に変更した点を除いて、実施例1と同様にして、比較例2の負極電極としての電極シートを作製した。
[実施例2]
バインダーを、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーと芳香族多官能アミンとが縮合してなる高分子化合物Aに変更した点を除いて、実施例1と同様にして、実施例2の負極電極としての電極シートを作製した。
(バインダーの作製)
重量平均分子量80万のPAA(ポリアクリル酸)をNMPに溶解させて、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.1g(0.5mmol)をNMP0.4mlに溶解させたアミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理することにより、バインダーのNMP溶液を得た。なお、このバインダーは、電極シートの作製時における160℃、2時間の加熱処理によって縮合して目的の高分子化合物Aとなる。
また、高分子化合物Aについても、上記と同様にして銅箔に対する剥離強度を測定した。その結果を表2に示す。
[比較例3]
導電助剤を、粒子径10μmの黒鉛(コーティング無し)に変更した点を除いて、実施例2と同様にして、比較例3の負極電極としての電極シートを作製した。
[比較例4]
導電助剤を、粒子径5μmの銅粉末(コーティング無し)に変更した点を除いて、実施例2と同様にして、比較例4の負極電極としての電極シートを作製した。
[参考例1]
バインダーを、ポリフッ化ビニリデンに変更した点を除いて、実施例1と同様にして、参考例1の負極電極としての電極シートを作製した。また、ポリフッ化ビニリデンについても、上記と同様にして銅箔に対する剥離強度を測定した。その結果を表3に示す。
[比較例5]
導電助剤を、粒子径10μmの黒鉛(コーティング無し)に変更した点を除いて、参考例1と同様にして、比較例5の負極電極としての電極シートを作製した。
[比較例6]
導電助剤を、粒子径5μmの銅粉末(コーティング無し)に変更した点を除いて、参考例1と同様にして、比較例6の負極電極としての電極シートを作製した。
(リチウムイオン二次電池の作製)
各例の負極電極を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。
電極シートを直径11mmの円形に裁断してなる負極電極(評価極)と、厚さ500μmの金属リチウム箔を直径13mmの円形に裁断してなる正極電極との間にセパレータを挟装して電極体電池とした。電池ケース内に、電極体電池を収容するとともに非水電解質を注入して、電池ケースを密閉することにより、リチウムイオン二次電池を得た。なお、セパレータとしては、ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルター及びセルガード社製celgard2400を用いた。非水電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:1で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1Mの濃度となるように溶解させた非水電解質を用いた。
(電池特性の評価)
各例の負極電極を用いて作製したリチウムイオン二次電池について、その電池特性を評価した。
リチウムイオン二次電池に対して、直流電流0.2mAで負極電極における正極電極に対する電圧が0.01Vになるまで放電を行い、放電が終了してから10分後に、直流電流0.2mAで負極電極における正極電極に対する電圧が1.0Vになるまで充電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とするとともに、充電容量を初期充電容量とした。そして、下記式に基づいて初期効率を算出した。その結果を表1〜3に示す。
初期効率(%)=(初期充電容量/初期放電容量)×100
また、上記の放電及び充電を1サイクルとして規定サイクルの充放電を行い、下記式に基づいてサイクル特性を算出した。その結果を表1〜3に示す。
サイクル特性(%)=(規定サイクル後の充電容量/初期充電容量)×100
表1〜3に示すように、バインダーに関し、ポリアミドイミド及び高分子化合物Aは、銅箔に対して0.5N/cm以上の高い剥離強度を示した一方、ポリフッ化ビニリデンは低い剥離強度を示した。また、ポリアミドイミド及び高分子化合物Aをバインダーとして用いた実施例1及び実施例2は、ポリフッ化ビニリデンをバインダーとして用いた参考例1と比較して、高いサイクル特性を示した。これらの結果から、剥離強度の高い高密着のバインダーを用いた場合には、シリコンの体積変化等に伴う電解銅箔からの剥離を効果的に抑制できることが示唆される。
表1及び表2に示すように、高密着バインダー(ポリアミドイミド又は高分子化合物A)を用いた場合において、表面に炭素コーティング層を形成した銅粉末を導電助剤として用いた実施例1及び実施例2はそれぞれ、黒鉛を導電助剤として用いた比較例1及び比較例3と比較して高いサイクル特性を示した。なお、評価試験後の比較例1及び比較例3の負極電極から導電助剤である黒鉛を回収したところ、電気抵抗の上昇を伴う黒鉛の劣化が確認された。一方、評価試験後の実施例1及び実施例2の負極電極から回収した導電助剤には、電気抵抗の上昇を伴う劣化は確認されなかった。
また、炭素コーティング層を形成してない銅粉末を導電助剤として用いた比較例2及び比較例4はそれぞれ、黒鉛を導電助剤として用いた比較例1及び比較例3よりも更に低いサイクル特性を示した。なお、比較例2及び比較例4については、スラリーの調製時にバインダーの凝集が確認された。
表3に示すように、密着性の低いバインダー(ポリフッ化ビニリデン)を用いた場合においては、表面に炭素コーティング層を形成した銅粉末を導電助剤として用いた参考例1は、黒鉛を導電助剤として用いた比較例5、及び炭素コーティング層を形成してない銅粉末を導電助剤として用いた比較例6のいずれに対しても低いサイクル特性を示した。電解銅箔に対する密着性の低いバインダーを用いた場合には、充放電中のシリコンの体積変化によって電解銅箔からの電極剥離が起こるために、導電助剤による電極性能の改善効果は認められないと考えられる。
これらの結果から、シリコン系の負極活物質を採用した負極電極において、リチウムに対して不活性な金属粒子からなるコアと、コアの表面に形成された炭素コーティング層とを有する導電助剤を用いた場合に得られるサイクル特性の向上効果は、黒鉛、及び炭素コーティング層を形成してない銅粉末等の他の導電助剤を用いた場合、及び密着性の低いバインダーを用いた場合には得られない特有の効果であることが確認できる。

Claims (8)

  1. 蓄電装置用の負極電極であって、
    シリコン系の負極活物質と、
    前記負極活物質を結着させるバインダーと、
    前記バインダー中に含有される導電助剤とを備え、
    前記バインダーは、JIS K 6854−1に準拠した90度剥離試験にて測定される銅箔からの剥離強度が0.5〜5.0N/cmであり、
    前記導電助剤は、リチウムに対して不活性な金属粒子からなるコアと、前記コアの表面に形成された炭素コーティング層とを有することを特徴とする負極電極。
  2. 前記バインダーは、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びカルボキシル基を含有するビニル系ポリマーと芳香族多官能アミンとが縮合してなる高分子化合物から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の負極電極。
  3. 前記バインダーは、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーと、下記一般式(1)に示す芳香族多官能アミンとが縮合してなる高分子化合物であることを特徴とする請求項1に記載の負極電極。
    (Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。)
  4. 前記高分子化合物は、前記カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーと前記芳香族多官能アミンとが、150℃〜230℃の熱処理により縮合してなることを特徴とする請求項3に記載の負極電極。
  5. 前記バインダーは、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーにより構成される鎖状構造と、前記鎖状構造内又は鎖状構造間におけるカルボン酸側鎖同士を接続する架橋構造とを有し、
    前記架橋構造は、下記一般式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも一種の架橋構造であることを特徴とする請求項1に記載の負極電極。
    (polyは、カルボキシル基を含有するビニル系ポリマーにより構成される鎖状構造を示し、Xは、下記一般式(5)に示す構造である。)
    (Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。)
  6. 前記架橋構造として、少なくとも一般式(2)及び一般式(4)の架橋構造を有する、又は少なくとも一般式(3)の架橋構造を有することを特徴とする請求項5に記載の負極電極。
  7. 前記導電助剤として、銅からなる前記コアを有する導電助剤を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の負極電極。
  8. 前記負極活物質は、層状シリコン化合物を熱処理することで製造され、ナノサイズのシリコン結晶子を含む負極活物質であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の負極電極。
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