以下、本発明の実施形態について説明する。以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称することがある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
以下、平均値は、何ら規定していなければ、数平均値を意味する。また、粉体(例えば後述する、トナー、トナーコア、複合体粒子、トナー粒子及びトナー母粒子)に関する評価値(形状又は物性などを示す値)も、何ら規定していなければ、数平均値を意味する。数平均値は、相当数の測定対象について測定した値の和を、測定した個数で除算した値である。更に、粉体の粒子径は、何ら規定していなければ、電子顕微鏡を用いて測定された一次粒子の円相当径である。円相当径は、粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径である。体積中位径D50は、コールターカウンター法を用いて、体積基準で算出されたメディアン径である。
本実施形態は、正帯電性トナー(以下、トナーと記載することがある)に関する。本実施形態に係るトナーは、例えば、電子写真方式の画像形成装置で画像を形成するために用いられる。本実施形態に係るトナーは、正帯電された状態で現像される。
本実施形態のトナーによれば、帯電安定性、低温定着性及び耐熱保存性を両立させることができる。ここで、トナーの帯電量分布がシャープである特性、トナーを用いて画像を形成し始める際にトナーを所望の帯電量に帯電できる特性、及びトナーを用いて連続して画像を形成した場合にトナーを所望の帯電量に帯電できる特性を有するトナーを、帯電安定性に優れるトナーとする。
本実施形態のトナーは、トナー粒子を複数含む。トナーは、多数のトナー粒子から構成される粉体である。なお、トナーは、シェル層を備えるカプセルトナー粒子を実質的に含有するが、シェル層を備えない非カプセルトナー粒子が含有されていてもよい。
以下、図1を参照して、トナー粒子1の構造を説明する。図1は、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子1を示す断面図である。トナー粒子1は、複合体粒子5と、シェル層4とを有する。複合体粒子5は、トナーコア2と、複数の磁性粉粒子3とを有する。磁性粉粒子3は、トナーコア2の表面に備えられる。シェル層4は、複合体粒子5を被覆する。シェル層4は、トナーコア2及び磁性粉粒子3の両方を被覆するように備えられる。磁性粉粒子3は、シェル層4に被覆された状態で、トナーコア2の表面に備えられている。以上、図1を参照して、トナー粒子1の構造を説明した。
<1.複合体粒子>
次に、複合体粒子が有する磁性粉粒子とトナーコアとを説明する。
<1−1.磁性粉粒子>
トナーコアの表面には、複数の磁性粉粒子が備えられる。トナーコアとトナーコアの表面に備えられた磁性粉粒子とを、シェル層が被覆する。このような構造を有するトナーは、以下の利点を有すると考えられる。
第一の利点を説明する。通常のトナーにおいては、トナーコアの形状及び粒度分布のばらつき、並びにシェル層を形成する際の重合条件等によって、シェル層の厚さ及び性質が不均一になることがある。シェル層が熱硬化性樹脂(例えばメラミン樹脂)を含有し、熱硬化性樹脂がカチオン性の基(正電荷を有するイオンを形成する基)を有する場合、シェル層は正帯電性を示す傾向がある。シェル層が正帯電性を示すことから、シェル層の厚さ及び性質が不均一になると、シェル層を有するトナー粒子の帯電量が不均一になり、トナーの帯電量分布がブロードになることがある。しかし、本実施形態のトナーにおいては、既に述べたようにトナーコアとトナーコアの表面に備えられた磁性粉粒子とをシェル層が被覆している。シェル層に磁性粉粒子が含有されることにより、正帯電性を示すシェル層の内部の電気抵抗を所望の値に調整できると考えられる。その結果、トナー粒子の帯電量を均一にでき、トナーの帯電量分布をシャープにすることができる。また、トナーを用いて連続して画像を形成した場合であっても、トナーの帯電量が上がり過ぎる(チャージアップする)ことを抑制でき、形成される画像の画像濃度が低下することを抑制することができる。
第二の利点を説明する。シェル層が熱硬化性樹脂を含有するトナーは、通常、トナーの定着時にトナーに熱及び圧力を加えてもシェル層が破壊され難い。そのため、このようなトナーは低温定着性に劣る傾向がある。しかし、本実施形態のトナーでは、既に述べたようにトナーコアとトナーコアの表面に備えられた磁性粉粒子とをシェル層が被覆している。そのため、トナーの定着時にトナーに熱及び圧力を加えると、シェル層の内部に存在する磁性粉粒子がシェル層を破壊する起点となると考えられる。その結果、トナーの低温定着性を向上させることができる。
第三の利点を説明する。本実施形態のトナーにおいては、トナーコアの表面に複数の磁性粉粒子が備えられる。磁性粉粒子がトナー粒子の比較的外縁部に配置されることにより、例えばマグネットローラーを備える画像形成装置を用いてトナーを現像する場合に、マグネットローラーにトナーが保持され易くなる。その結果、形成される画像において、カブリ及びトナー飛散を抑制できると考えられる。
磁性粉粒子の含有量は、100.00質量部のトナーコアに対して、0.50質量部以上3.00質量部以下である。100.00質量部のトナーコアに対して磁性粉粒子の含有量が0.50質量部未満であると、シェル層の内部の電気抵抗を所望の値に調整し難くなる。その結果、トナーの帯電量分布がブロードになる傾向がある。また、トナーを用いて連続して画像を形成した場合に、トナーの帯電量が上がり過ぎ、形成される画像の画像濃度が低下する傾向がある。一方、100.00質量部のトナーコアに対して磁性粉粒子の含有量が3.00質量部を超えると、トナーを用いて連続して画像を形成した場合にトナーの帯電量が低下する傾向がある。電気抵抗が比較的低い磁性粉粒子が多く含有されるためである。
更に、100.00質量部のトナーコアに対して磁性粉粒子の含有量が0.50質量部未満であると、トナーの低温定着性が低下する傾向がある。シェル層を破壊する起点となる磁性粉粒子が少ないためである。一方、100.00質量部のトナーコアに対して磁性粉粒子の含有量が3.00質量部を超えた場合も、トナーの低温定着性が低下する傾向がある。トナーの定着温度で溶融し難い磁性粉粒子が多く含有されるためである。
磁性粉粒子は多面体形状を有する。多面体形状である磁性粉粒子は頂点及び辺を有するため、頂点及び辺から電荷が放出され易い。そのため、多面体形状である磁性粉粒子が備えられるトナー粒子は、球状である磁性粉粒子が備えられるトナー粒子と比較して、帯電量が上がり過ぎない。また、多面体形状である磁性粉粒子がシェル層内に存在することにより、トナーの定着時にトナーに熱及び圧力を加えられると、磁性粉粒子の頂点及び辺のような尖った部位がシェル層を破壊する起点となる。その結果、トナーの定着時にシェル層が破壊され易く、トナーの低温定着性を向上させることができる。
多面体形状の例としては、八面体形状又は六面体形状が挙げられる。八面体形状として具体的には、8個の三角形で囲まれた凸八面体形状が挙げられる。六面体形状として具体的には、6個の四角形で囲まれた凸六面体形状が挙げられる。多面体形状においては、多面体が備える各頂点及び各辺が尖っていてもよい。或いは、多面体形状は、多面体が備える各頂点及び各辺の一方又は両方が曲面状であると共に、多面体の投影像の外周部に直線とみなせる部分が存在する形状であってもよい。
磁性粉粒子の形状は、例えば、後述する磁性粉コア形成工程において、金属の水溶液のpHを適宜変更することにより変更することができる。磁性粉粒子の形状は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製「JSM−880」)を用いて、観察倍率5万倍で磁性粉粒子を観察することにより確認される。
磁性粉粒子の平均ヘイウッド径は、0.010μm以上0.500μm以下である。磁性粉粒子のヘイウッド径(Heywod径)は、磁性粉粒子の投影面積の円相当径である。磁性粉粒子の平均ヘイウッド径が0.010μm未満であると、磁性粉粒子が凝集し易く、後述する複合体粒子形成工程においてトナーコアに対する磁性粉粒子の分散性が低下することがある。そのため、トナーコアの表面に磁性粉粒子が均一に付着し難くなる。その結果、トナーの帯電量分布がブロードになり、トナーの帯電量が上がり過ぎる傾向がある。また、トナーコアの表面に磁性粉粒子が均一に付着し難いために、磁性粉粒子がシェル層の破壊の起点になり難い。その結果、トナーの低温定着性が低下する傾向がある。一方、磁性粉粒子の平均ヘイウッド径が0.500μmを超えると、後述する複合体粒子形成工程においてトナーコアから磁性粉粒子が脱離し易くなり、磁性粉粒子がシェル層内に固定され難くなる。また、磁性粉粒子の粒度分布もブロードになる傾向があり、トナーコアの表面に磁性粉粒子が均一に付着し難くなる。その結果、トナーの帯電量分布がブロードになり、トナーの帯電量が上がり過ぎる傾向がある。また、磁性粉粒子がシェル層内に固定され難く、磁性粉粒子がシェル層の破壊の起点になり難い。その結果、トナーの低温定着性が低下する傾向がある。
磁性粉粒子の平均ヘイウッド径は、0.010μm以上0.300μm以下であることが好ましい。磁性粉粒子の平均ヘイウッド径がこのような範囲内であると、トナーの耐高温オフセット性を向上させることができる。磁性粉粒子の平均ヘイウッド径が0.010μm以上0.300μm以下である場合にトナーの耐高温オフセット性を特に向上させるためには、後述する複合体粒子の摩擦帯電量は−20μC/g以上−15μC/g以下であることが好ましい。
磁性粉粒子の平均ヘイウッド径は、例えば、後述する磁性粉コア形成工程において、金属粒子の成長条件(例えば、金属の水溶液の加熱温度、金属の水溶液に通気させる空気の速度、及び金属の水溶液に空気を通気する時間)を適宜変更することにより調整することができる。
磁性粉粒子の平均ヘイウッド径は、例えば、以下の方法で測定される。走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製「JSM−880」)及び画像解析装置を用いて、観察倍率5万倍にて相当数の磁性粉粒子を測定する。測定された全てのヘイウッド径の和を、測定された磁性粉粒子の個数で除算する。これにより、磁性粉粒子の平均ヘイウッド径(数平均ヘイウッド径)が算出される。
磁性粉粒子の体積固有抵抗値は、1×102Ω・cm以上1×108Ω・cm以下である。磁性粉粒子の体積固有抵抗値が1×102Ω・cm未満であると、特に連続して画像を形成した場合にトナーの帯電量が低下する傾向がある。一方、磁性粉粒子の体積固有抵抗値が1×108Ω・cmを超えると、トナーの帯電量分布がブロードになり、トナーの帯電量が上がり過ぎる傾向がある。また、トナーの帯電量が上がり過ぎることにより、形成される画像の画像濃度が低下し易くなる。
磁性粉粒子の体積固有抵抗値は、3.0×105Ω・cm以上4.5×105Ω・cm以下であることが好ましい。磁性粉粒子の体積固有抵抗値がこのような範囲内であると、トナーの帯電量分布をよりシャープにすることができる。
磁性粉粒子の体積固有抵抗値は、例えば、磁性粉粒子の形状、磁性粉粒子のヘイウッド径、磁性粉粒子の表面処理剤の種類及び磁性粉粒子表面処理剤の添加量の1つ以上を変更することにより調整することができる。磁性粉粒子の表面処理剤については後述する。
磁性粉粒子の体積固有抵抗値は、例えば以下の方法で測定される。電気抵抗計(株式会社アドバンテスト製「R6561」)の測定セルに、磁性粉(多数の磁性粉粒子)を入れる。測定セル内の磁性粉に1kgの荷重を1分間かける。続けて、直流電圧10Vを印加して磁性粉の電気抵抗を測定する。測定された電気抵抗の値と、電気抵抗測定時における磁性粉粒子の寸法(厚み)とから、磁性粉粒子の体積固有抵抗値を算出する。
本実施形態のトナーでは、複合体粒子の表面は負帯電性を有する。複合体粒子の摩擦帯電量は−9μC/g以下である。通常、磁性粉粒子に含有される金属は水性溶媒中でその一部が陽イオン化することにより、磁性粉粒子はカチオン性を示す傾向がある。例えば、磁性粉粒子に鉄が含有される場合、磁性粉に含有される鉄の一部が水性媒体中で鉄イオン(Fe2+又はFe3+)として溶出し、磁性粉粒子はカチオン性を示す傾向がある。このような磁性粉粒子を表面に備えるトナーコアに対して、例えばカチオン性の基を有するシェル層(例えば熱硬化性樹脂、より具体的にはメラミン樹脂)を形成する場合、シェル層の形成が良好に進行しないことがある。トナーコアの表面に備えられるカチオン性を示す磁性粉粒子と、カチオン性の基を有するシェル層形成材料(例えば熱硬化性樹脂の材料)とが電気的に反発し、磁性粉粒子を表面に備えるトナーコアに対するシェル層形成材料の付着、及び磁性粉粒子を表面に備えるトナーコアにおけるシェル層形成材料のin−situ重合が進行し難くなるからである。ここで、本実施形態のトナーにおいては、トナー粒子がトナーコアとトナーコアの表面に備えられた磁性粉粒子とを有する複合体粒子を含む。複合体粒子の表面が負帯電性を有し、複合体粒子の摩擦帯電量は−9μC/g以下である。このような複合体粒子は、水性媒体中で適度なアニオン性を示す傾向がある。そのため、アニオン性を示す複合体粒子に、カチオン性の基を有するシェル層形成材料が電気的に引き寄せられ易い。そのため、複合体粒子に対するシェル層形成材料の付着、及び複合体粒子の表面におけるシェル層形成材料のin−situ重合が良好に進行する傾向がある。これにより、複合体粒子を均一な厚さを有するシェル層で被覆し易くなる。その結果、トナーの耐熱保存性を向上させることができる。また、シェル層内に磁性粉粒子が均一に含有され易くなるため、トナーの帯電安定性を向上させ易くなる。
複合体粒子の摩擦帯電量は−30μC/g以上−18μC/g以下であることが好ましい。複合体粒子の摩擦帯電量がこのような範囲内であると、トナーの帯電量分布が特にシャープになる傾向がある。
複合体粒子の摩擦帯電量は、例えば、磁性粉粒子の形状、磁性粉粒子のヘイウッド径、磁性粉粒子の表面処理剤の種類及び磁性粉粒子の表面処理剤の添加量の1つ以上を変更することにより調整することができる。
複合体粒子の摩擦帯電量は、例えば以下の方法で測定される。日本画像学会から提供される標準キャリアN−01(負帯電極性トナー用標準キャリア)100質量部と、複合体粒子7質量部とを、混合装置(WAB社製「ターブラ(登録商標)ミキサー」)を用いて30分間混合する。得られた混合物中に含まれる複合体粒子の摩擦帯電量をQ/mメーター(例えば、トレック社製「MODEL 210HS−2A」)を用いて測定する。
磁性粉粒子に含有される金属の例としては、強磁性金属、複数種類の強磁性金属の合金、コバルト又はニッケルを酸化鉄にドーピングした金属、強磁性金属元素を含まないが熱処理により強磁性を示すようになる合金又は二酸化クロムが挙げられる。強磁性金属の例としては、鉄、コバルト又はニッケルが挙げられる。鉄は、酸化鉄(例えば、四酸化三鉄又はフェライト)の形態で使用されてもよい。四酸化三鉄は具体的にはマグネタイトである。磁性粉粒子には、これらの磁性粉粒子の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。トナー粒子の帯電量を調整し易いことから、磁性粉粒子にはマグネタイトが含有されることが好ましい。
磁性粉粒子の表面は、表面処理剤により処理されていることが好ましい。例えば、磁性粉粒子が表面処理剤でコーティングされていることが好ましい。磁性粉粒子の表面が表面処理剤により処理されることにより、複合体粒子の表面を負帯電性に調整し、複合体粒子の摩擦帯電量を−9μC/g以下に調整し易くなる。また、磁性粉粒子の表面が表面処理剤により処理されることにより、後述するシェル層形成工程で磁性粉粒子に含有される金属の一部が水性媒体中で陽イオン化して溶出することを抑制できると考えられる。その結果、複合体粒子に対するシェル層形成材料の付着、及び複合体粒子の表面におけるシェル層形成材料のin−situ重合が進行し易くなる。
磁性粉粒子の表面が表面処理剤により処理された場合、磁性粉粒子は磁性粉コアと被覆層とを有する。被覆層は、磁性粉コアを被覆するように備えられる。磁性粉コアは、上述の磁性粉粒子に含有される金属を含有する。被覆層は、表面処理剤又は表面処理剤の加水分解物を含有する。
被覆層は、磁性粉コアの表面の少なくとも一部に備えられていればよい。後述するシェル層形成工程で磁性粉粒子に含有される金属の一部が陽イオン化して水性媒体中への溶出することを抑制するためには、被覆層が磁性粉コアの表面の実質的に全体に備えられることが好ましい。なお、被覆層に含有される表面処理剤の一部は、磁性粉コアが有する基(例えば水酸基)又は磁性粉コアに含有される自由水と化学的に結合していてもよい。
被覆層に含有される表面処理剤の例としては、ケイ素化合物又はリン酸化合物が挙げられる。表面処理剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。複合体粒子の摩擦帯電量を−9μC/g以下に調整し易いことから、表面処理剤はケイ素化合物であることが好ましい。
ケイ素化合物の例としては、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン、アリールトリアルコキシシラン又はケイ酸化合物が挙げられる。
アルキルトリアルコキシシランの例としては、n−オクチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン又はデシルトリメトキシシランが挙げられる。
ジアルキルジアルコキシシランの例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン又はジエチルジエトキシシランが挙げられる。
トリアルキルアルコキシシランの例としては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン又はトリエチルエトキシシランが挙げられる。
アリールトリアルコキシシランの例としては、フェニルトリメトキシシラン又はフェニルトリエトキシシランが挙げられる。
ケイ酸化合物の例としてはアルキルシリケートが挙げられ、より具体的にはメチルシリケート又はエチルシリケートが挙げられる。表面処理剤としてアルキルシリケートが使用される場合、アルキルシリケートが磁性粉粒子の表面で加水分解してシリカが生成していてもよい。そのため、磁性粉粒子の被覆層は、表面処理剤の加水分解物であるシリカを含有していてもよい。アルキルシリケートは、例えば加熱により加水分解される。
表面処理剤としてはアルキルトリアルコキシシラン又はアルキルシリケートが使用されることが好ましい。表面処理剤としてアルキルトリアルコキシシランが使用される場合、磁性粉粒子の被覆層はアルキルトリアルコキシシランを含有する。表面処理剤としてアルキルシリケートが使用される場合、磁性粉粒子の被覆層は、アルキルシリケートの加水分解物であるシリカを含有する。表面処理剤としてはアルキルトリアルコキシシラン又はアルキルシリケートが使用されることにより、複合体粒子の摩擦帯電量を所望の値に調整し易くなる。
表面処理剤としてはn−オクチルトリエトキシシランが使用されることがより好ましい。この場合、磁性粉粒子の被覆層は、n−オクチルトリエトキシシランを含有する。表面処理剤としてn−オクチルトリエトキシシランが使用されることにより、連続して画像を形成した場合であっても、形成される画像の画像濃度を向上させ易くなる。
表面処理剤の含有量は、100.00質量部の磁性粉コアに対して、0.01質量部以上2.00質量部以下であることが好ましい。表面処理剤の含有量がこのような範囲内であると、磁性粉の磁性を維持しながら磁性粉の表面に負帯電性を付与できると考えられる。
磁性粉粒子がトナーコアの表面に接触するように、又は磁性粉粒子の一部がトナーコアに埋没するように、磁性粉粒子はトナーコアの表面に備えられることが好ましい。磁性粉粒子がトナーコアに完全に埋没しないようにトナーコアの表面に備えられることで、シェル層の内部の電気抵抗を調整し易くなり、トナー粒子の帯電量が上がり過ぎることを抑制し易くなる。また、シェル層内に存在する磁性粉粒子がトナーの定着時にシェル層が破壊される起点となり、トナーの定着性を向上させ易くなる。
<1−2.トナーコア>
トナーコアは、例えば結着樹脂、着色剤及び離型剤のうちの1種以上を含有する。ただし、トナーの用途に応じて必要のない成分(例えば、結着樹脂、着色剤又は離型剤)を割愛してもよい。
(結着樹脂)
結着樹脂は、トナーの調製に用いられる結着樹脂である限り、特に限定されない。結着樹脂としては、トナーの定着性を向上させる観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の好適な例としては、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂、スチレンアクリル酸系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ビニルエーテル樹脂、N−ビニル化合物樹脂又はスチレンブタジエン樹脂が挙げられる。
結着樹脂として熱可塑性樹脂が使用される場合、熱可塑性樹脂の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、熱可塑性樹脂に、架橋剤又は熱硬化性樹脂を添加してもよい。結着樹脂内に部分的に架橋構造を導入することにより、トナーの定着性を確保しながら、トナーの保存安定性、形態保持性及び耐久性を向上させ易くなる。
結着樹脂中での着色剤の分散性及びトナーの低温定着性を向上させるためには、トナーコアが、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含有することが好ましい。ポリエステル樹脂は、例えばアルコールとカルボン酸とを縮重合又は共縮重合させることにより得られる。
ポリエステル樹脂の調製に用いられるアルコールの好適な例としては、ジオール類、ビスフェノール類又は3価以上のアルコール類が挙げられる。
ジオール類の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
ビスフェノール類の例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
3価以上のアルコールの例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
ポリエステル樹脂を合成する際に用いられるカルボン酸の例としては、2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸が挙げられる。
2価カルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸が挙げられる。アルキルコハク酸の例としては、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸又はイソドデシルコハク酸が挙げられる。アルケニルコハク酸の例としては、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸又はイソドデセニルコハク酸が挙げられる。
3価以上のカルボン酸の例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸又はエンポール三量体酸が挙げられる。
アルコール及びカルボン酸は、各々1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。更に、カルボン酸をエステル形成性の誘導体に誘導体化して使用してもよい。エステル形成性の誘導体の例としては、酸ハライド、酸無水物又は低級アルキルエステルが挙げられる。ここで、低級アルキルとは、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を意味する。
ポリエステル樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の水酸基価は、15mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は、例えば、JIS(日本工業規格)K0070−1992で規定される方法又はこれに準拠する方法に従って測定される。
ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は、例えば、ポリエステル樹脂を製造する際のアルコールの使用量とカルボン酸の使用量とを適宜変更することによって調整される。また、ポリエステル樹脂の分子量を上げると、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は低下する傾向がある。
結着樹脂の軟化点は、80℃以上150℃以下であることが好ましい。結着樹脂のガラス転移点は、30℃以上60℃以下であることが好ましい。結着樹脂の軟化点及びガラス転移点がこのような範囲内であると、トナーの高い定着性を維持しながら、トナーの保存安定性、形態保持性及び耐久性を向上させ易い。
(着色剤)
トナーコアは、着色剤として黒色着色剤を含有してもよい。黒色着色剤としては、例えば黒色顔料又は黒色染料が挙げられる。黒色顔料の具体例としては、カーボンブラックが挙げられる。後述するイエロー着色剤、マゼンタ着色剤及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された黒色着色剤が使用されてもよい。
(離型剤)
離型剤は、例えばトナーの定着性及び耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーの定着性及び耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の使用量は、100質量部の結着樹脂に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、1質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
離型剤の例としては、脂肪族炭化水素ワックス、脂肪族炭化水素ワックスの酸化物、植物ワックス、動物ワックス、鉱物ワックス、脂肪酸エステルを主成分とするワックス又は脂肪酸エステルの一部若しくは全部が脱酸化されたワックスが挙げられる。脂肪族炭化水素ワックスの例としては、エステルワックス、ポリエチレワックス(例えば、低分子量ポリエチレン)、ポリプロピレンワックス(例えば、低分子量ポリプロピレン)、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス又はフィッシャートロプシュワックスが挙げられる。脂肪族炭化水素ワックスの酸化物の例としては、酸化ポリエチレンワックス又は酸化ポリエチレンのブロック共重合体が挙げられる。植物ワックスの例としては、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう又はライスワックスが挙げられる。動物ワックスの例としては、みつろう、ラノリン又は鯨ろうが挙げられる。鉱物ワックスの例としては、オゾケライト、セレシン又はペトロラタムが挙げられる。脂肪酸エステルを主成分とするワックスの例としては、モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスが挙げられる。脂肪酸エステルの一部若しくは全部が脱酸化されたワックスの例としては、脱酸カルナバワックスが挙げられる。これらの離型剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
<2.シェル層>
複合体粒子は、シェル層によって被覆される。複合体粒子がシェル層で被覆されることにより、トナーの耐熱保存性が向上する傾向がある。また、磁性粉粒子は電気抵抗が低いために、複合体粒子中の磁性粉粒子がシェル層で被覆されることにより、トナー粒子を所望の値に帯電できる傾向がある。更に、磁性粉粒子は吸湿性が高いために、複合体粒子中の磁性粉粒子がシェル層で被覆されることにより、高温高湿環境下で画像を形成した場合であっても、形成される画像の画像濃度が向上する傾向がある。加えて、複合体粒子中の磁性粉粒子がシェル層で被覆されることにより、トナー粒子の流動性が向上する傾向がある。
シェル層は、熱硬化性樹脂を含有する。シェル層に含有される熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂のモノマーを重合又は共重合させることにより得られる。シェル層が熱硬化性樹脂を含有する場合、通常、トナーの定着時にトナーに熱及び圧力を加えてもシェル層が破壊され難い。しかし、本実施形態のトナーでは、既に述べたように、トナーの定着時にトナーに熱及び圧力を加えると、シェル層の内部に存在する磁性粉粒子がシェル層を破壊する起点となると考えられる。そのため、シェル層が熱硬化性樹脂を含有する場合であっても、トナーの低温定着性を向上させることができる。
シェル層に含有される熱硬化性樹脂は、カチオン性の基を有することが好ましい。カチオン性の基を有する熱硬化性樹脂は、カチオン性の基を有する熱硬化性樹脂のモノマーを重合又は共重合させることにより得られる。ここで、結着樹脂としてアニオン性を有する樹脂(例えばエステル結合又は水酸基を有する樹脂)を使用する場合、トナーコアは水性媒体中でアニオン性を示す傾向が強くなる。また既に述べたように、複合体粒子(トナーコア及び磁性粉粒子)の表面は負帯電性を有するため、複合体粒子は水性媒体中でアニオン性を示す。そのため、熱硬化性樹脂のモノマーがカチオン性の基を有することにより、後述するシェル層形成工程が水性媒体を用いて行われる場合に、カチオン性を示す熱硬化性樹脂のモノマーを、アニオン性を示す複合体粒子(磁性粉粒子及びトナーコア)の表面に引き付け易くなる。つまり、水性媒体中で正極性に帯電する熱硬化性樹脂のモノマーが、水性媒体中で負極性に帯電する複合体粒子(トナーコア及び磁性粉粒子)に電気的に引き寄せられ易くなる。そして、例えばin−situ重合により、複合体粒子の表面にシェル層が均一に形成され易くなる。その結果、既に述べたように、トナー粒子の帯電量を均一にでき、トナーの帯電量分布をシャープにすることができる。また、トナーを用いて連続して画像を形成した場合であっても、トナーの帯電量が上がり過ぎる(チャージアップする)ことを抑制でき、形成される画像の画像濃度が低下することを抑制することができる。
熱硬化性樹脂が有するカチオン性の基の例としては、窒素含有基(例えば−NH−又は−N=)が挙げられる。カチオン性の基を有する熱硬化性樹脂としては、例えば窒素含有熱硬化性樹脂が挙げられる。窒素含有熱硬化性樹脂の例としては、メラミン樹脂、尿素樹脂又はグリオキザール樹脂が挙げられ、メラミン樹脂が好ましい。
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合物である。メラミン樹脂の形成に使用されるモノマーは、メラミン及びホルムアルデヒドである。尿素樹脂は、尿素とホルムアルデヒドとの重縮合物である。尿素樹脂の形成に使用されるモノマーは、尿素及びホルムアルデヒドである。グリオキザール樹脂は、グリオキサールと尿素との反応生成物と、ホルムアルデヒドとの重縮合物である。グリオキザール樹脂の形成に使用されるモノマーは、グリオキサールと尿素との反応生成物及びホルムアルデヒドである。
熱硬化性樹脂のプレポリマーを使用して、シェル層を形成してもよい。例えば、メラミン、尿素又はグリオキサールと尿素との反応生成物を、プレポリマー(以下、初期重合体と記載することがある)の形態で使用してもよい。ここで、プレポリマーとは、モノマーの重縮合反応を、その重合度がポリマーの重合度に到達する前の段階で停止することにより得られる中間生成物を意味する。
誘導体化された熱硬化性樹脂のモノマーを使用して、シェル層を形成してもよい。例えば、メラミン、尿素及びグリオキサールと反応させる尿素は、公知の変性を受けていてもよい。例えば、熱硬化性樹脂のモノマーを、熱可塑性樹脂と反応させる前に、ホルムアルデヒドによりメチロール化してもよい。
既に述べた熱硬化性樹脂のモノマー、熱硬化性樹脂のプレポリマー及び誘導体化された熱硬化性樹脂のモノマーを、包括的に「熱硬化性樹脂の材料」と記載することがある。熱硬化性樹脂の材料は、カチオン性の基を有することが好ましく、窒素含有基(例えば−NH−又は−N=)を有することがより好ましい。熱硬化性樹脂の材料がカチオン性の基を有することにより、水性媒体中で正極性に帯電する熱硬化性樹脂の材料が、水性媒体中で負極性に帯電する複合体粒子(トナーコア及び磁性粉粒子)に電気的に引き寄せられ易くなる。そして、複合体粒子の表面における熱硬化性樹脂の材料のin−situ重合を進行させ易くなる。
熱硬化性樹脂の材料は、複合体粒子中のトナーコアが含有する結着樹脂の官能基と反応し得る官能基を有することが好ましい。例えば、結着樹脂がポリエステル樹脂である場合、熱硬化性樹脂の材料は、ポリエステル樹脂が有する水酸基及びカルボキシル基と反応し得る水酸基を有することが好ましい。以下、図2及び図3を参照して、複合体粒子5と熱硬化性樹脂の材料との反応について説明する。理解を容易にするために、図2及び図3では、複合体粒子5中のトナーコア2が含有する結着樹脂がポリエステル樹脂であり、熱硬化性樹脂の材料が水酸基を有し、形成される熱硬化性樹脂がメラミン樹脂である場合を例に挙げて説明する。
図2で示されるように、複合体粒子5はトナーコア2とトナーコア2の表面に備えられた複数の磁性粉粒子3とを有する。トナーコア2は結着樹脂としてポリエステル樹脂を含有する。そのため、トナーコア2の表面にはポリエステル樹脂の水酸基、及びポリエステル樹脂のカルボキシル基が有する水酸基が露出している。図2で示される化合物は、熱硬化性樹脂の材料としてのメチロールメラミンである。メチロールメラミンは水酸基を有している。熱硬化性樹脂の材料が重合又は共重合することにより、シェル層4(図1参照)が形成される。この熱硬化性樹脂の材料の重合又は共重合と共に、シェル層4を形成する際に、次の反応が進行すると考えられる。詳しくは、トナーコア2の表面に露出する水酸基がメチロールメラミンの水酸基と脱水縮合し、エーテル結合が形成される。また、トナーコア2の表面に露出するカルボキシル基が有する水酸基がメチロールメラミンの水酸基と反応して、エステル結合が形成される。その結果、トナーコア2を有する複合体粒子5と、シェル層4とが強固に結合すると考えられる。
トナーコア2を有する複合体粒子5とシェル層4との間の結合は、熱硬化性樹脂の材料の重合反応がある程度進行した場合であっても、形成されると考えられる。図3で示される化合物は、熱硬化性樹脂の材料としてのメチロールメラミンが重合したメラミン樹脂の一部である。図3で示すように、重合反応がある程度進行した場合であっても、生成したメラミン樹脂の末端が有する水酸基が、トナーコア2の表面に露出する水酸基と脱水縮合し、エーテル結合が形成されると考えられる。また、生成したメラミン樹脂の末端が有する水酸基が、トナーコア2の表面に露出するカルボキシル基が有する水酸基と反応して、エステル結合が形成されると考えられる。その結果、トナーコア2を有する複合体粒子5と、シェル層4とが強固に結合すると考えられる。以上、図2及び図3を参照して、複合体粒子5と熱硬化性樹脂の材料との反応について説明した。
<3.外添剤>
シェル層で被覆された複合体粒子の表面には、必要に応じて外添剤を付着させてもよい。なお、外添剤を付着させる前の粒子(シェル層で被覆された複合体粒子)を、トナー母粒子と記載することがある。
外添剤としては、例えば、金属酸化物(例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム又はチタン酸バリウム)、炭化珪素又はシリカが挙げられる。シリカの具体例としては、コロイダルシリカ又は疎水性シリカが挙げられる。また、外添剤は、必要に応じて、表面処理剤(例えば、アミノシラン、シリコーンオイル、ヘキサメチルジシラザン、チタネートカップリング剤又はシランカップリング剤)により表面処理されていてもよい。
外添剤の粒子径は、0.01μm以上1.00μm以下であることが好ましい。外添剤の含有量は、100質量部のトナー母粒子に対して0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
<4.二成分現像剤>
トナーは、所望のキャリアと混合して二成分現像剤において使用してもよい。二成分現像剤を調製する場合、磁性キャリアを用いることが好ましい。なお、トナーは、一成分現像剤において使用されてもよい。
キャリアの一例として、樹脂で被覆されたキャリアコアが挙げられる。キャリアコアは磁性粒子によって形成される。キャリアの別の例として、樹脂中に磁性粒子を分散させた樹脂キャリアが挙げられる。
磁性粒子の具体例としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、若しくはコバルトの粒子;これらの材料とマンガン、亜鉛若しくはアルミニウムのような金属との合金の粒子;鉄−ニッケル合金の粒子;鉄−コバルト合金の粒子;セラミックスの粒子;又は高誘電率物質の粒子が挙げられる。セラミックスの粒子として使用されるセラミックスとしては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛又はニオブ酸リチウムが挙げられる。高誘電率物質の粒子として使用される高誘電率物質としては、例えば、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム又はロッシェル塩が挙げられる。
キャリアコアを被覆する樹脂及び樹脂キャリアに含有される樹脂の例としては、アクリル酸系重合体、スチレン系重合体、スチレン−アクリル酸系共重合体、オレフィン重合体(例えば、ポリエチレン、塩素化ポリエチレン又はポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン又はポリフッ化ビニリデン)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂又はアミノ樹脂が挙げられる。これらの樹脂の1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
キャリアの粒子径は、20μm以上120μm以下であることが好ましく、25μm以上80μm以下であることがより好ましい。キャリアの粒子径は、例えば、電子顕微鏡により測定される。
トナーを二成分現像剤において用いる場合、トナーの含有量は、二成分現像剤の質量に対して、3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
<5.トナーの製造>
本実施形態のトナーの製造方法は、複合体粒子形成工程及びシェル層形成工程を含む。トナーの製造方法は、必要に応じて、磁性粉形成工程、トナーコア形成工程、洗浄工程、乾燥工程及び外添工程の1つ以上を含んでいてもよい。以下、トナーの製造方法の一例を説明する。
<5−1.磁性粉形成工程>
磁性粉形成工程は、表面処理工程を含む。磁性粉形成工程は、必要に応じて磁性粉コア形成工程を含んでいてもよい。
(磁性粉コア形成工程)
磁性粉コアを形成工程では、金属の水溶液を塩基性条件下で加熱する。加熱された金属の水溶液に空気を通気させる。これにより、金属を酸化させる。酸化された金属を粉砕する。その結果、磁性粉コアが得られる。
金属の水溶液を加熱する際に、金属の水溶液のpHは塩基性物質を用いて12.0以上13.0以下に調整されることが好ましい。金属の水溶液の加熱温度は、70℃以上100℃以下であることが好ましい。金属の水溶液に通気させる空気の速度は、50L/分以上200L/分以下であることが好ましい。金属の水溶液に空気を通気させる時間は、30分以上600分以下であることが好ましく、200分以上250分以下であることがより好ましい。酸化させた金属の粉砕は、例えば粉砕機(例えば、株式会社奈良機械製作所製「ハンマーミル(HM−5)」)を用いて行われる。
得られた磁性粉コアに対して、必要に応じて、洗浄、ろ過、乾操の1つ以上の操作が実施されてもよい。
(表面処理工程)
表面処理工程では、磁性粉コアの表面を表面処理剤で処理する。これにより磁性粉粒子が得られる。表面処理工程で得られる磁性粉粒子は、磁性粉コアと、磁性粉コアを被覆する被覆層とを有する。形成される被覆層は、表面処理剤又は表面処理剤の加水分解物を含有する。
表面処理剤が、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシラン又はアリールトリアルコキシシランである場合、表面処理剤による処理は、表面処理剤と磁性粉コアとを例えば混合機(具体的にはホイール型混練機)を用いて混合することにより行われる。混合時間は、5分以上5時間以下であることが好ましく、30分以上2時間以下であることがより好ましい。
表面処理剤がケイ酸化合物である場合、表面処理剤による処理は、表面処理剤(例えば液体状のケイ酸化合物)に磁性粉コアを浸漬させることにより行われる。浸漬時間は、次に、得られた磁性粉コアを、表面処理剤を用いて表面0.1秒以上30分以下であることが好ましい。浸漬させる温度は、例えば0℃以上50℃以下である。
表面処理剤に浸漬された磁性粉コアは、必要に応じて加熱されてもよい。加熱温度は、100℃以上300℃以下であることが好ましい。加熱は減圧下で行われてもよい。
<5−2.トナーコア形成工程>
トナーコアは、例えば、凝集法又は粉砕法により形成される。
トナーコアが凝集法により形成される場合、トナーコア形成工程は、例えば、凝集工程及び合一化工程を含む。凝集工程では、トナーを構成する成分を含む微粒子を水性媒体中で凝集させて、凝集粒子を形成する。合一化工程では、凝集粒子に含まれる成分を水性媒体中で合一化させてトナーコアを形成する。凝集法によれば、形状が均一であり、粒子径の揃ったトナーコアが得られ易い。
トナーコアが粉砕法により形成される場合、トナーコア形成工程は、例えば混合工程、混練工程、粉砕工程及び分級工程を含む。混合工程では、結着樹脂と着色剤と離型剤とを混合して、混合物を得る。混練工程では、得られた混合物を溶融し混練して、混練物を得る。粉砕工程では、得られた混練物を粉砕して、粉砕物を得る。分級工程では、得られた粉砕物を分級して、トナーコアを得る。粉砕法によれば、比較的容易にトナーコアを調製できる。また、後述するシェル層の形成工程で、加熱によりやや軟化したトナーコアが表面張力によって収縮することで、トナーコアが球形化する傾向がある。従って、トナーコアを粉砕法で製造する場合であっても、トナー粒子の平均円形度を向上させ易い。
<5−3.複合体粒子形成工程>
複合体粒子形成工程では、トナーコアの表面に複数の磁性粉粒子を付着させる。これにより、複合体粒子が形成される。トナーコアの表面に複数の磁性粉粒子を機械的に付着させることが好ましい。トナーコアの表面に磁性粉粒子を付着させる方法としては、混合機(例えば、FMミキサー又はナウターミキサー(登録商標))を用いて、トナーコアと磁性粉粒子とを混合する方法が挙げられる。混合条件は、磁性粉粒子がトナーコアの表面に完全に埋没しないように条件に設定されることが好ましい。
複合体粒子形成工程における磁性粉粒子の添加量は、100.00質量部のトナーコアに対して、0.50質量部以上3.00質量部以下である。また、複合体粒子形成工程で得られる複合体粒子の表面は負帯電性を有する。複合体粒子形成工程で得られる複合体粒子の摩擦帯電量は−9μC/g以下である。
<5−4.シェル層形成工程>
シェル層形成工程では、複合体粒子の表面で熱硬化性樹脂の材料を重合又は共重合させる。これにより、複合体粒子を被覆するようにシェル層を形成する。その結果、トナー母粒子が得られる。
シェル層を形成する際には、シェル層の形成に用いる溶媒に対する、結着樹脂の溶解及びトナーコアに含有される成分(例えば離型剤)の溶出を防ぐことが好ましい。このため、シェル層の形成は水性媒体中で行われることが好ましい。
水性媒体とは、水を主成分とする媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水又は水と極性溶媒との混合液が挙げられる。水性媒体中に含有される極性溶媒の例としては、メタノール又はエタノールが挙げられる。水性媒体における水の含有率は、水性媒体の質量に対して、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが一層好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
シェル層の形成は、例えば、熱硬化性樹脂の材料を含む水性媒体に、複合体粒子を添加することにより行われる。水性媒体中に複合体粒子を添加した後、水性媒体中で複合体粒子を分散させる。
分散方法としては、分散液を強力に攪拌する装置を用いて、複合体粒子を水性媒体中で機械的に分散させる方法が挙げられる。分散液を強力に攪拌する装置としては、例えば、混合装置(例えば、プライミクス株式会社製「ハイビスミックス(登録商標)」)が用いられる。
熱硬化性樹脂の材料を含む水性媒体に複合体粒子を添加する前に、水性媒体のpHを、酸性物質を用いて4程度に調整することが好ましい。水性媒体のpHを酸性側に調整することで、熱硬化性樹脂の材料の重縮合反応が促進され易くなる。複合体粒子は、pH4の水性媒体中でアニオン性を示すことが好ましい。これにより、複合体粒子中の磁性粉粒子に含有される金属の一部がイオン化してpH4の水性媒体中へ溶出することを抑制できると考えられる。その結果、複合体粒子に対して、均一なシェル層を形成し易くなる。
必要に応じて水性媒体のpHを調整した後、水性媒体中で、熱硬化性樹脂の材料と複合体粒子とを混合する。これにより、複合体粒子の水性分散液を得る。得られた水性分散液中で、複合体粒子の表面において熱硬化性樹脂の材料の重合反応を進行させる。
シェル層を形成する際の水性媒体の温度は、40℃以上95℃以下であることが好ましく、50℃以上80℃以下であることがより好ましい。このような範囲内の温度でシェル層を形成すると、シェル層の形成を進行させ易い。
複合体粒子の表面でシェル層を形成する際の温度は、40℃以上95℃以下が好ましく、50℃以上80℃以下がより好ましい。このような範囲内の温度下でシェル層を形成することで、シェル層の形成が良好に進行する。
複合体粒子を被覆するようにシェル層が形成されることにより、トナー母粒子を含む水性分散液が得られる。トナー母粒子を含む水性分散液を常温まで冷却する。その後、必要に応じて、後述するトナー母粒子の洗浄工程、乾燥工程及び外添工程から選択される1つ以上の工程を行う。その結果、トナー粒子を含むトナーが得られる。
<5−5.洗浄工程>
トナー母粒子は、必要に応じて、水を用いて洗浄される。洗浄方法の例としては、トナー母粒子を含む水性分散液から、固液分離(例えば、濾過)によりトナー母粒子のウェットケーキを回収し、得られるウェットケーキを、水を用いて洗浄する方法が挙げられる。洗浄方法の別の例としては、分散液中のトナー母粒子を沈降させ、上澄み液を水と置換し、置換後にトナー母粒子を水に再分散させる方法が挙げられる。
<5−6.乾燥工程>
トナー母粒子は、必要に応じて乾燥されてもよい。トナー母粒子を乾燥させる方法としては、乾燥機を用いる方法が挙げられる。乾燥機の例としては、スプレードライヤー、流動層乾燥機、真空凍結乾燥器又は減圧乾燥機が挙げられる。乾燥中のトナー母粒子の凝集を抑制するためには、スプレードライヤーを用いる方法が好ましい。スプレードライヤーを用いる場合、トナー母粒子の分散液と共に、シリカのような外添剤の分散液を噴霧することによって、トナー母粒子の乾燥と同時に、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。
<5−7.外添工程>
トナー母粒子の表面には、必要に応じて外添剤を付着させてもよい。トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる方法としては、例えば、外添剤がトナー母粒子表面に埋没しないように条件で、混合機(例えば、FMミキサー及びナウターミキサー(登録商標))を用いて、トナー母粒子と外添剤とを混合する方法が挙げられる。
トナーの製造方法は、要求されるトナーの特性に応じて任意に変更されてもよい。また、必要のない操作及び工程は割愛してもよい。なお、外添工程を割愛する場合には、トナー母粒子がトナー粒子に相当する。
本発明の実施例について説明する。しかし、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
<1.磁性粉の製造>
まず、表1に示す磁性粉(多数の磁性粉粒子から構成される粉体)A〜Mを製造した。
(磁性粉Aの製造)
まず、磁性粉コアを形成した。詳しくは、鉄イオン(Fe2+)を1.5mol/Lの濃度で含む硫酸第一鉄20Lと、3.40Nの水酸化ナトリウム水溶液20Lとを混合した。混合液の温度を90℃まで上昇させ、pH12.5の水酸化鉄(Fe(OH)2)を含む第一鉄塩水溶液を得た。得られた水溶液の温度を90℃に設定し、100L/分の速度で空気を220分間水溶液に通気させた。これにより水酸化鉄を酸化させ、磁性粉(マグネタイト)を得た。得られた磁性粉を水で洗浄し、ろ過し、乾操させた。乾燥させた磁性粉を、粉砕機(株式会社奈良機械製作所製「ハンマーミル(HM−5)」)を用いて粉砕することにより、八面体形状の磁性粉A用の磁性粉コアを得た。
次に、得られた磁性粉コアを、表面処理剤を用いて表面処理した。表面処理剤としてn−オクチルトリエトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「A−137」)を使用した。磁性粉コア10kgと表面処理剤15gとを、ホイール型混練機(株式会社松本鋳造鉄工所製「サンドミル」)を用いて1時間混合した。これにより、磁性粉コアを表面処理剤でコーティングした。その結果、磁性粉コアを被覆するように被覆層が形成され、被覆層には表面処理剤としてのn−オクチルトリエトキシシランが含有されていた。これにより、磁性粉Aが得られた。磁性粉Aは八面体形状であった。
(磁性粉B〜E、H、I、K及びLの製造)
以下の点を変更した以外は、磁性粉Aの製造と同様の方法で、磁性粉B〜E、H、I、K及びLの各々を製造した。水酸化鉄の酸化反応において、水酸化鉄の粒子の成長条件(例えば、第一鉄塩水溶液の温度、並びに第一鉄塩水溶液に空気を通気させる速度及び時間)を適宜変更した。これにより、磁性粉Aの平均ヘイウッド径(0.300μm)から、表1に示す磁性粉B〜E、H、I、K及びLの平均ヘイウッド径に変更した。磁性粉の平均ヘイウッド径を表1に示す値に変更すること、及び表面処理剤(n−オクチルトリエトキシシラン)の添加量を適宜変更することにより、磁性粉Aの体積固有抵抗値(4×105Ω/cm)及び摩擦帯電量(−21μC/g)から、表1に示す磁性粉B〜E、H、I、K及びLの体積固有抵抗値及び摩擦帯電量に変更した。
(磁性粉Fの製造)
以下の点を変更した以外は、磁性粉Aの製造と同様の方法で、磁性粉Fを製造した。第一鉄塩水溶液のpHを磁性粉Aの製造における12.5から適宜変更することにより、磁性粉の形状を、磁性粉Aの八面体から磁性粉Fの六面体に変更した。磁性粉の形状を六面体に変更すること、及び表面処理剤(n−オクチルトリエトキシシラン)の添加量を適宜変更することにより、磁性粉Aの体積固有抵抗値(4×105Ω/cm)及び摩擦帯電量(−21μC/g)から、表1に示す磁性粉Fの体積固有抵抗値及び摩擦帯電量に変更した。
(磁性粉Gの製造)
まず、磁性粉コアを形成した。磁性粉A用の磁性粉コアの製造と同様の方法で、八面体形状の磁性粉G用の磁性粉コアを得た。次に、得られた磁性粉コアを、表面処理剤を用いて表面処理した。表面処理剤としてエチルシリケート液(濃度100%)を使用した。磁性粉コア10kgを、エチルシリケート液20Lに5分間浸漬させた。浸漬後、エチルシリケート液から磁性粉コアを取り出した。取り出した磁性粉コアを、減圧下で30分間、230℃で加熱した。これにより、磁性粉コアの表面にシリカ膜を形成した。つまり、磁性粉コアを被覆するように被覆層(シリカ膜)が形成され、被覆層には表面処理剤の加水分解物であるシリカ(SiO2)が含有されていた。これにより、磁性粉Gが得られた。磁性粉Gは八面体形状であった。
(磁性粉Jの製造)
まず、磁性粉コアを形成した。鉄イオン(Fe2+)を1.8mol/Lの濃度で含む硫酸第一鉄1.8Lと、1.346Nの水酸化ナトリウム水溶液2.8Lとを混合した。混合液の温度を90℃まで上昇させ、水酸化鉄(Fe(OH)2)を含む第一鉄塩水溶液を得た。得られた水溶液に、水溶液の温度90℃及びpH6.8の条件下で、15L/分の速度で空気を180分間通気させた。水溶液のpHが降下し始めpHが6.0となった時に、4Nの水酸化ナトリウム水溶液0.4Lを水溶液に加えた。これにより、水溶液のpHを12.0に調整した。水溶液の温度90℃及びpH12.0の条件下で、15L/分の速度で空気を60分間水溶液に通気させた。これにより水酸化鉄を酸化させ、磁性粉(マグネタイト)を得た。得られた磁性粉を水で洗浄し、ろ過し、乾操させた。乾燥させた磁性粉を粉砕することにより、球状の磁性粉J用の磁性粉コアを得た。
次に、得られた磁性粉コアを、表面処理剤を用いて表面処理した。表面処理剤としてn−オクチルトリエトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「A−137」)を使用した。磁性粉コア10kgと表面処理剤15gとを、ホイール型混練機(株式会社松本鋳造鉄工所製「サンドミル」)を用いて1時間混合した。これにより、磁性粉コアを表面処理剤でコーティングした。その結果、磁性粉コアを被覆するように被覆層が形成され、被覆層には表面処理剤としてのn−オクチルトリエトキシシランが含有されていた。これにより、磁性粉Jが得られた。磁性粉Jは球状であった。
(磁性粉Mの製造)
まず、磁性粉コアを形成した。磁性粉A用の磁性粉コアの製造と同様の方法で、八面体形状の磁性粉M用の磁性粉コアを得た。次に、得られた磁性粉コアを、表面処理剤を用いて表面処理した。表面処理剤として3−アミノプロピルトリエトキシシランを使用した。磁性粉コア10kgと表面処理剤15gとを、ホイール型混練機(株式会社松本鋳造鉄工所製「サンドミル」)を用いて1時間混合した。これにより、磁性粉コアを表面処理剤でコーティングした。その結果、磁性粉コアを被覆するように被覆層が形成され、被覆層には表面処理剤としての3−アミノプロピルトリエトキシシランが含有されていた。これにより、磁性粉Mが得られた。磁性粉Mは八面体形状であった。
<2.磁性粉の物性値の測定>
得られた磁性粉A〜Mの各々について、形状、平均ヘイウッド径、体積固有抵抗値及び摩擦帯電量を以下の方法で測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1中、形状、平均ヘイウッド径及び体積固有抵抗値の測定対象は、磁性粉である。表1中、摩擦帯電量の測定対象は、後述する複合体粒子形成工程後、シェル層形成工程前の複合体粒子であり、トナーコア100.00質量部と磁性粉2.00質量部との複合体粒子である。
(形状及び平均ヘイウッド径の測定)
走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製「JSM−880」)を用いて、観察倍率5万倍で測定試料(磁性粉)を観察した。測定試料に含有される300個の磁性粉粒子を無作為に選択し、各磁性粉粒子のSEM写真を撮影した。得られたSEM写真から、磁性粉粒子の形状を確認した。また、画像解析装置を用いてSEM写真を画像解析することにより、300個の磁性粉粒子のヘイウッド径を各々測定した。測定された全てのヘイウッド径の和を測定された磁性粉粒子の個数(300個)で除算した。これにより、磁性粉粒子の平均ヘイウッド径(数平均ヘイウッド径)を算出した。
(体積固有抵抗値の測定)
電気抵抗計(株式会社アドバンテスト製「R6561」)の測定セルに、測定試料(磁性粉)5gを入れた。測定セルの上部及び下部に、電気抵抗計の電極を各々接続した。測定セル内の測定試料に1kgの荷重を1分間かけた。続けて、電極に直流電圧10Vを印加して、測定試料の電気抵抗を測定した。そして、測定された電気抵抗の値と、電気抵抗測定時における測定試料の寸法(厚み)とに基づいて、測定試料の体積固有抵抗値を求めた。なお、体積固有抵抗値の測定は、温度20℃、湿度50%RHの環境下で行った。
(摩擦帯電量の測定)
日本画像学会から提供される標準キャリアN−01(負帯電極性トナー用標準キャリア)100質量部と、測定試料(後述する複合体粒子形成工程後シェル層形成工程前の複合体粒子)7質量部とを、混合装置(WAB社製「ターブラ(登録商標)ミキサー」)を用いて30分間混合した。得られた混合物中の測定試料の摩擦帯電量をQ/mメーター(例えば、トレック社製「MODEL 210HS−2A」)を用いて測定した。
<3.トナーA−1の製造>
以下の方法でトナーA−1を製造した。
(トナーコアの形成工程)
トナーコアの原料として、以下の結着樹脂、着色剤及び離型剤を使用した。
結着樹脂 :ポリエステル樹脂(日本合成化学工業株式会社製「ポリエスター(登録商標)HP−313」)
着色剤 :カーボンブラック(三菱化学株式会社製「MA−100」)
離型剤 :エステルワックス(日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP−4」)
結着樹脂90質量部、着色剤3質量部及び離型剤7質量部を、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−10B」)を用いて攪拌し、混合物を得た。混合物を、2軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM−26SS」)を用いて溶融しながら混練した。得られた溶融混錬物を、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)16/8型」)を用いて粗粉砕した。得られた粗粉砕物の粒子径は2mm程度であった。粗粉砕物を、粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミル RS型」)で粉砕した。得られた粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。これにより、トナーコアを得た。得られたトナーコアの体積中位径D50は、7.0μmであった。
(複合体粒子形成工程)
トナーコア100.00質量部と磁性粉Aの2.00質量部とを、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−10B」)を用いて、5000rpmの回転速度で5分間混合した。これにより、トナーコアの表面に磁性粉を付着させた。その結果、複合体粒子が得られた。
(シェル層形成工程)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、イオン交換水300mLを入れた。ウォーターバス(アズワン株式会社販売「IWB−250型」)を用いてフラスコの内温を30℃に保持した。次いで、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内の液のpHを4に調整した。pH調整後、熱硬化性樹脂の材料である水溶性メチロールメラミン(日本カーバイド工業株式会社製「ニカレヂン(登録商標)S−260」)2mLをフラスコ内に添加した。次いで、フラスコの内容物を攪拌し、熱硬化性樹脂の材料をイオン交換水に溶解させた。これにより、熱硬化性樹脂の材料の水溶液を得た。
得られた熱硬化性樹脂の材料の水溶液に、複合体粒子300gを添加した。フラスコの内容物を、200rpmの速度で1時間攪拌した。次いで、フラスコ内に、イオン交換水300mLを追加した。その後、フラスコの内容物を100rpmの速度で攪拌しながら、フラスコ内温を1℃/分の速度で70℃まで上げた。昇温後、フラスコ内温70℃、速度100rpmの条件でフラスコの内容物を2時間攪拌した。その後、フラスコ内に、水酸化ナトリウムを加えて、フラスコの内容物のpHを7に調整した。次いで、フラスコの内容物を、常温まで冷却した。これにより、複合体粒子を被覆するように、メラミン樹脂のシェル層が形成された。その結果、トナー母粒子の分散液が得られた。
(洗浄工程)
得られたトナー母粒子の分散液をブフナー漏斗で濾過し、トナー母粒子のウェットケーキを得た。次いで、トナー母粒子のウェットケーキをイオン交換水に分散させて、分散液に含まれるトナー母粒子を濾過した。これにより、トナー母粒子を洗浄した。トナー母粒子のイオン交換水による洗浄操作を、同様の方法で5回繰り返した。これにより、洗浄後のトナー母粒子のウェットケーキを得た。
(乾燥工程)
洗浄後のトナー母粒子のウェットケーキを、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを、連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)に供給することにより、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた。コートマイザー(登録商標)による乾燥は、熱風温度45℃、ブロアー風量2m3/分の条件で行った。
(外添工程)
乾燥させたトナー母粒子100.0質量部、外添剤としての正帯電性シリカ粒子(キャボット社製「CAB−O−SIL(登録商標)TG−308F」、表面が疎水化処理されたフュームドシリカ粒子)1.5質量部及び外添剤としての酸化チタン粒子(テイカ株式会社製「MT−500B」)1.0質量部を、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−10B」)を用いて、回転数3500rpmで5分間混合した。これにより、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させた。その結果、トナーA−1が得られた。
<4.トナーA−2〜A−9及びB−1〜B−9の製造>
以下の点を変更した以外はトナーA−1の製造と同様の方法で、トナーA−2〜A−9及びB−1〜B−9を製造した。複合体粒子形成工程で使用する磁性粉の種類を、トナーA−1の製造における磁性粉Aから表2に示す種類の磁性粉に変更した。複合体粒子形成工程における磁性粉の添加量を、トナーA−1の製造における2.00質量部から表2に示す添加量(含有量)に変更した。
<5.キャリアの製造>
後述する帯電量分布、帯電量、画像濃度、低温定着性及び耐高温オフセット性の評価で使用するためのキャリアを製造した。詳しくは、キャリアコアとして、フェライト粒子(パウダーテック株式会社製「F51−50」、粒子径50μm)を使用した。エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製「jER(登録商標)1004」)2kgを、アセトン20Lに溶解させた。得られた溶液に、ジエチレントリアミン100gと無水フタル酸150gとを添加し混合した。得られた混合液を、流動層コーティング装置(フロイント産業株式会社製「スパイラフロー(登録商標)SFC−5」)を用いて、80℃の熱風を送り込みながら、キャリアコア10kgにスプレーした。その結果、キャリアコアが未硬化の有機層(流動層)で被覆された。未硬化の有機層(流動層)で被覆されたキャリアコアを、乾燥機を用いて180℃で1時間加熱した。これにより、流動層を硬化させた。これにより、キャリアコアとキャリアコアを覆う樹脂層(コート層)とを有するキャリア粒子(キャリア)が得られた。
<6.帯電量分布の評価>
トナー(トナーA−1〜A−9及びB−1〜B−9の何れか)5gと、上述のように製造したキャリア10gとを、容量20mLのポリ容器に入れた。ボールミルを用いて、100rpmの回転速度で10分間容器の内容物を攪拌し、混合物を得た。得られた混合物を、帯電量・粒子径分布測定機(ホソカワミクロン株式会社製「イースパートアナライザEST−3」)の測定部に流した。測定部を通過する混合物に含まれる3000個のトナー粒子について、各トナー粒子の帯電量Qと粒子径dとを、レーザードップラー法を用いて測定した。測定された各トナー粒子の帯電量Qと粒子径dとから、各々のトナー粒子について、粒子径あたりの帯電量(Q/d)を算出した。横軸に粒子径あたりの帯電量(Q/d)を、縦軸に対応する帯電量(Q/d)を有するトナー粒子の個数をプロットした。これにより、帯電量分布曲線を得た。得られた帯電量分布曲線から、トナーの帯電量分布の最頻値の1/4の頻度の幅を求めた。以下、トナーの帯電量分布の最頻値の1/4の頻度の幅を「Q/d分布幅」と記載することがある。Q/d分布幅の単位は「femtC/μm」である。トナーのQ/d分布幅が小さいほど、トナーの帯電量分布がシャープであることを示す。Q/d分布幅が0.80femtC/μm未満であるトナーを合格とした。
<7.二成分現像剤の製造>
トナー9質量部と、上述のように製造したキャリア100質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、二成分現像剤を得た。得られた二成分現像剤を、以下の帯電量、画像濃度(ID)、低温定着性及び耐高温オフセット性の評価に用いた。
<8.帯電量及び画像濃度の評価>
得られた二成分現像剤を用いて、トナーの帯電量及び画像濃度の評価を以下の方法で行った。これらの評価は、温度20℃且つ湿度50%RH(相対湿度)の環境下で行った。
まず、得られた二成分現像剤と評価機とを用いて、用紙に画像を形成した。詳しくは、評価機として、カラープリンターFS−C5016(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製)を用いた。用紙として、評価用紙(モンディ社製「ColorCopy(登録商標)」、A4サイズ、90g/m2)を使用した。二成分現像剤150gをブラック用の現像装置に投入した。また、補充用のトナーをブラック用のトナーコンテナに投入した。
(初期の画像濃度及び帯電量)
次に、二成分現像剤と評価機とを用いて、1枚の用紙に画像Iを形成した。画像Iは、パターン画像部(印字率8%)、ソリッド画像部(大きさ20mm×30mm)及び白紙画像部を含んでいた。形成された画像を、初期の画像濃度の評価用サンプルとした。初期の画像濃度の評価用サンプルにおけるソリッド画像部の画像濃度(初期の画像濃度)を、反射濃度計(X−Rite社製「RD914」)を用いて測定した。測定された初期の画像濃度を表2に示す。初期の画像濃度が1.20以上であるトナーを合格とした。
1枚の用紙に画像Iを形成した後のトナーの帯電量(初期の帯電量)を、吸引式小型帯電量測定装置(トレック社製「MODEL 212HS」)を用いて測定した。詳しくは、1枚の用紙に画像Iを形成した後に、現像装置から二成分現像剤を取り出した。取り出された二成分現像剤の0.10gを、測定装置の測定セルに投入した。投入された二成分現像剤のうちのトナーのみを、篩を介して10秒間吸引した。吸引されたトナーの総電気量及び質量を、測定装置を用いて測定した。そして、式「吸引されたトナーの総電気量(μC)/吸引されたトナーの質量(g)」から、二成分現像剤中のトナーの帯電量(μC/g)を算出した。算出されたトナーの初期の帯電量(μC/g)を表2に示す。初期の帯電量が20μC/g以上30μC/g未満であるトナーを合格とした。
(3万枚印刷後の画像濃度及び帯電量)
続いて、二成分現像剤と評価機とを用いて、3万枚の用紙に画像Iを連続して形成した。3万枚目に形成された画像を、3万枚印刷後の画像濃度の評価用サンプルとした。3万枚印刷後の画像濃度の評価用サンプルにおけるソリッド画像部の画像濃度(3万枚印刷後の画像濃度)を、反射濃度計(X−Rite社製「RD914」)を用いて測定した。測定された3万枚印刷後の画像濃度を表2に示す。3万枚印刷後の画像濃度が1.20以上であるトナーを合格とした。
3万枚の用紙に画像Iを形成した後のトナーの帯電量(3万枚印刷後の帯電量)を、初期の帯電量の測定と同様の方法で測定した。得られたトナーの3万枚印刷後の帯電量(μC/g)を表2に示す。3万枚印刷後の帯電量が20μC/g以上30μC/g未満であるトナーを合格とした。
<9.低温定着性の評価>
調製した二成分現像剤を用いて、評価機及び定着治具により用紙に画像を形成した。評価機として、カラープリンターFS−C5016(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製)から定着装置を取り外した評価機を用いた。用紙として、評価用紙(モンディ社製「ColorCopy(登録商標)」、A4サイズ、90g/m2)を用いた。調製した二成分現像剤を評価機のブラック用現像装置に投入した。補充用トナーを評価機のブラック用トナーコンテナに投入した。
評価機を用いて、トナー載せ量1.8mg/cm2の条件で、大きさ20mm×30mmのソリッド画像(未定着画像)を用紙に形成した。続けて、定着治具を用いて、未定着画像を用紙に定着させた。定着条件は、線速280mm/秒及び定着温度150℃であった。
続いて、トナーを定着させることができたか否かを、以下の折擦り試験で確認した。詳しくは、定着装置に通した用紙を、画像を形成した面が内側となるように半分に折り曲げた。折り曲げた用紙を、布帛で被覆した1kgの分銅を用いて、折り目上を5往復摩擦した。続けて、紙を広げ、紙の折り曲げ部(ソリッド画像が形成された部分)を観察した。そして、折り曲げ部のトナーの剥がれの長さ(剥がれ幅)を測定した。測定された剥がれ幅を表2に示す。剥がれ幅が1.0mm未満であるトナーを合格とした。
<10.耐高温オフセット性の評価>
耐高温オフセット性の評価には、低温定着性の評価と同じ評価機、定着治具及び用紙を使用した。評価機を用いて、トナー載せ量1.8mg/cm2の条件で、大きさ20mm×30mmのソリッド画像(未定着画像)を用紙に形成した。続けて、定着治具を用いて未定着画像を用紙に定着させて、定着画像を得た。定着時の線速は100mm/秒であった。定着治具の定着温度を200℃から5℃ずつ上昇させて、定着画像にホットオフセットが発生しない最高温度(オフセット未発生温度)を測定した。ホットオフセットが発生したか否かは、定着画像を肉眼で観察することにより確認した。なお、ホットオフセットが発生すると、定着画像における定着治具のヒートローラーの2周目に対応する部分に、トナーが用紙に転移する画像不良が確認される。測定されたオフセット未発生温度を表2に示す。オフセット未発生温度が210℃以上であるトナーを合格とした。
<11.耐熱保存性の評価>
トナー10.00gをサンプル瓶に秤量し、50℃に設定された恒温槽(三洋電機株式会社製「CONVECTION OVEN」)内に100時間静置した。続いて、サンプル瓶を恒温槽から取り出し室温で一晩静置した。これにより、耐熱保存性評価用のトナーが得られた。その後、耐熱保存性評価用のトナーを、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製「TYPE PT−E 84810」)を用いて篩別した。具体的には、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)のマニュアルに従い、レオスタッド目盛り2.5、時間20秒の条件で、26メッシュの篩を用いて、耐熱保存性評価用のトナーを篩別した。篩別後に、篩上に残留したトナーの質量(篩残トナー質量)を測定した。測定された篩残トナー質量を表2に示す。篩残トナー質量が0.20g以下であるトナーを合格とした。
表2中、「Q/d分布幅」はトナーの帯電量分布の最頻値の1/4の頻度の幅を示す。「ID」は画像濃度を示す。
トナーA−1〜A−9に含有されるトナー粒子は、複合体粒子と、複合体粒子を被覆するシェル層とを有していた。複合体粒子は、トナーコアと、トナーコアの表面に備えられた複数の磁性粉粒子とを有していた。シェル層は、熱硬化性樹脂を含有していた。磁性粉粒子の含有量は、100.00質量部のトナーコアに対して、0.50質量部以上3.00質量部以下であった。磁性粉粒子は多面体形状を有していた。磁性粉粒子の平均ヘイウッド径は、0.010μm以上0.500μm以下であった。磁性粉粒子の体積固有抵抗値は、1×102Ω・cm以上1×108Ω・cm以下であった。複合体粒子の表面は負帯電性を有し、複合体粒子の摩擦帯電量は−9μC/g以下であった。そのため、表2で示されるように、これらのトナーでは、Q/d分布幅が狭く、初期及び3万枚印刷後の帯電量が何れも20μC/g以上30μC/g未満であった。つまり、これらのトナーは帯電安定性に優れていた。また、これらのトナーは、低温定着性及び耐熱保存性も優れていた。
トナーB−1では、磁性粉粒子の体積固有抵抗値が1×102Ω・cm未満であった。そのため表2で示されるように、トナーB−1では3万枚印刷後の帯電量が低下していた。
トナーB−2では、磁性粉粒子の体積固有抵抗値が1×108Ω・cmを超えていた。そのため表2で示されるように、トナーB−2ではQ/d分布幅が広く、3万枚印刷後の帯電量が上がり過ぎていた。トナーB−2では、帯電量が上がり過ぎたために3万枚印刷後の画像濃度が低下していた。
トナーB−3では、磁性粉粒子が多面体形状ではなかった。そのため表2で示されるように、トナーB−3ではQ/d分布幅が広く、3万枚印刷後の帯電量が上がり過ぎていた。その理由は、球状の磁性粉粒子が多面体形状の磁性粉粒子と比較して電荷を溜め易かったためと推測される。トナーB−3では、帯電量が上がり過ぎたために3万枚印刷後の画像濃度が低下していた。また、トナーB−3は低温定着性も劣っていた。その理由は、球状の磁性粉粒子が、多面体形状の磁性粉粒子と比較してシェル層を破壊する起点になり難かったためと推測される。
トナーB−4では、磁性粉粒子の平均ヘイウッド径が0.010μm未満であった。そのため表2に示されるように、トナーB−4ではQ/d分布幅が広く、3万枚印刷後の帯電量が上がり過ぎていた。その理由は、磁性粉粒子の平均ヘイウッド径が0.010μm未満であったために、複合体粒子形成工程におけるトナーコアに対する磁性粉粒子の分散性が悪く、トナーコアの表面に磁性粉粒子が不均一に付着したからと推測される。トナーB−4では、帯電量が上がり過ぎたために3万枚印刷後の画像濃度が低下していた。また、トナーB−4は低温定着性も劣っていた。その理由は、トナーコアの表面に磁性粉粒子が不均一に付着したために、磁性粉粒子がシェル層を破壊する起点になり難かったからと推測される。
トナーB−5では、磁性粉粒子の平均ヘイウッド径が0.500μmを超えていた。そのため表2に示されるように、トナーB−5ではQ/d分布幅が広く、3万枚印刷後の帯電量が上がり過ぎていた。その理由は、磁性粉粒子の平均ヘイウッド径が0.500μmを超えていたために、複合体粒子形成工程においてトナーコアから磁性粉粒子が脱離し易く、磁性粉粒子がシェル層内に固定され難かったからと推測される。トナーB−5では、帯電量が上がり過ぎたために3万枚印刷後の画像濃度が低下していた。更に、トナーB−5は低温定着性も劣っていた。その理由は、磁性粉粒子がシェル層内に固定され難かったために、磁性粉粒子がシェル層を破壊する起点になり難かったからと推測される。
トナーB−6では、複合体粒子の摩擦帯電量が−9μC/gより大きかった。そのため表2に示されるように、トナーB−6ではQ/d分布幅が広く、初期及び3万枚印刷後の何れの帯電量も低かった。また、トナーB−6は耐熱保存性も劣っていた。その理由は、複合体粒子の表面の負帯電性が低いために、熱硬化性樹脂によるシェル層の形成が良好に進行しなかったからと推測される。
トナーB−7では、複合体粒子が磁性粉粒子を有していなかった。そのため表2に示されるように、トナーB−7ではQ/d分布幅が広く、3万枚印刷後の帯電量が上がり過ぎていた。その理由は、トナー粒子が磁性粉粒子を有していないため、シェル層の電気抵抗を調整し難かったからと推測される。トナーB−7では、帯電量が上がり過ぎたために3万枚印刷後の画像濃度が低下していた。また、トナーB−7は低温定着性も劣っていた。その理由は、トナー粒子が磁性粉粒子を有していないために、トナーの定着時にシェル層が破壊され難かったからと推測される。
トナーB−8では、磁性粉粒子の含有量が100.00質量部のトナーコアに対して0.50質量部未満であった。そのため表2に示されるように、トナーB−8ではQ/d分布幅が広く、3万枚印刷後の帯電量が上がり過ぎていた。その理由は、磁性粉粒子の含有量が少ないために、シェル層の電気抵抗を調整し難かったからと推測される。トナーB−8では、帯電量が上がり過ぎたために3万枚印刷後の画像濃度が低下していた。また、トナーB−8は低温定着性も劣っていた。その理由は、磁性粉粒子の含有量が少ないために、トナーの定着時にシェル層が破壊され難かったからと推測される。
トナーB−9では、磁性粉粒子の含有量が100.00質量部のトナーコアに対して3.00質量部を超えていた。そのため表2に示されるように、トナーB−9ではQ/d分布幅が広く、3万枚印刷後の帯電量が低かった。また、トナーB−9は低温定着性も劣っていた。
以上のことから、本発明のトナーによれば、帯電安定性、低温定着性及び耐熱保存性を両立できることが示された。また、本発明のトナーの製造方法によれば、帯電安定性、低温定着性及び耐熱保存性を両立できるトナーを製造できることが示された。