以下、本発明の分離膜フィルターに好適に用いられる片端封止型筒状セラミックスの一実施例について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一例である分離膜フィルター用片端封止型筒状セラミックス(以下、「筒状セラミックス」という。)10を示す斜示図である。図2は、筒状セラミックス10の幅方向の中心を通る平面上の断面図である。筒状セラミックス10は、断面が円形の円筒部12と、円筒部12の片側端部の開口を封止する半球状の外周面および内周面を有し、半球状内部空間を形成する封止部14とから成る多孔質セラミック基材16と、多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面を被覆する緻密層として機能するガラス層18とから構成されている。多孔質セラミック基材16の封止部14の先端には、表面粗さの小さい平滑な表面構造を有する円筒部12よりも表面粗さの大きい粗い表面構造を有する突起20が形成されている。多孔質セラミック基材16は、粒径0.2〜4.5μm(平均粒径0.7μm)のアルミナ(Al2O3)を主成分としており、円筒部12および封止部14が上記アルミナで形成された単層構造を有する。また、ガラス層18は、二酸化ケイ素(SiO2)、Al2O3、TiO2、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化亜鉛(ZnO)、三酸化二ホウ素(B2O3)、Bi2O3、アルカリ金属、アルカリ土類金属を主成分としている。また、ガラス層18の線熱膨張係数と多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数との差の絶対値が2×10−6/K未満とされている。
次に、筒状セラミックス10の製造工程の一例を図3のプロセスチャートを参照して説明する。混練工程P1では、多孔質セラミック基材16の主成分である粒径0.2〜4.5μm(平均粒径0.7μm)のアルミナ(Al2O3)粉末にたとえばメチルセルロース系バインダなどの成形助剤および水が加えられて混合され混練されることにより、成形素地が調整される。押出成形工程P2では、上記成形素地が押出成形機により押し出されて押出方向の片側が封止されるように成形された片端封止型グリーン成形体が得られる。乾燥、焼成工程P3では、上記片端封止型グリーン成形体が乾燥された後に1250℃で2時間焼成されることにより、平均細孔径0.15μm、気孔率38%の単層構造の多孔質セラミック基材16が得られる。次いで、工程P4から工程P7において、工程P3までで得られる多孔質セラミック基材16の封止部の外側表面に緻密なガラス層18が被覆される。先ず、ガラス層18と同組成となるように二酸化ケイ素などのガラス原料が混合された後、溶融、冷却されることにより、均一化されたガラスが得られる。混合工程P4では、このガラスを粉砕することにより得られる平均粒径1〜5μmのガラスフリットにトルエン、水などの溶媒と、必要に応じて有機バインダ、分散剤、消泡剤が添加され、撹拌混合されてガラススラリーが調整される。ディップ工程P5では、このガラススラリーに多孔質セラミック基材16の封止部14が10秒間浸漬(ディッピング)された後に引きあげられる。乾燥工程P6では、浸漬された多孔質セラミック基材16がたとえば1時間自然乾燥され、多孔質セラミック基材16の封止部の外周側表面がガラス層18を構成するガラスフリットにより被覆される。焼成工程P7では、工程P6を経た多孔質セラミック基材16が800℃〜950℃で1時間焼成され、多孔質セラミック基材16の封止部14の外周側表面が上記ガラスフリットが溶融したガラス層18により被覆された筒状セラミックス10が得られる。
次に、焼成されて多孔質セラミック基材16となる片端封止型筒状グリーン成形体を成形するための押出成形工程P2中の成形素地充填工程、外型脱離工程および円筒部伸長工程を図4、図5および図6のそれぞれを用いて詳細に説明する。図4に示されるように、片端封止型筒状グリーン成形体を押出成形するための押出成形機22は、多孔質セラミック基材16の円筒部12の外周面形状を形成する口金24と、口金24の内部の所定位置に設置され、円筒部12の内周面形状を形成する芯金26と、封止部14の内周面形状を形成する半球状部28を先端に有し、芯金26内部に摺動可能に設けられたピストン30と、封止部14の外周面形状を形成する半球状の凹部32が口金24の開口に対抗するように口金24に対して着脱可能に設けられ、押し出された成形素地Pが封止部成形空間33から外部へ排出される貫通孔34を凹部32に有する外型36と、から構成される。ピストン30は、芯金26内部空間から空気圧が供給されるための空気孔40を備えており、芯金26内部から空気孔40を通じて空気圧が供給されてピストン30の半球状部28が芯金26から離隔する方向へ押し出されるように芯金26内部に摺動可能に設けられている。また、芯金26は、その口金24の開口側端部が芯金26内部方向へ突き出すように形成された段部42を備えており、ピストン30の半球状部28とは反対側の端部に設けられたストッパ44が段部42に当接されることによりピストン30の摺動を規制する。成形素地充填工程では、成形素地Pが、その一部が外型36の貫通孔34を通じて封止部成形空間33から押出成形機22外部に排出されるまで図の矢印方向に押出成形機22内部に押し出され、充填される。次に、図5に示される外型離脱工程では、外型36が口金24から取り外される。このとき、貫通孔34内部の成形素地Pがその一部を封止部14を形取る成形素地Pに残して物理的に破断されることにより封止部14の先端に破断面を有する突起20が形成される。なお、物理的な破断が起こる場所によっては突起29が形成されないこともあるが、いずれにしても封止部14の先端には円筒部12よりも粗い表面構造の破断面が形成されてしまう。最後に、図6に示される円筒部伸長工程では、芯金26内部から空気が供給されてピストン30の半球状部28が芯金26から離隔する方向へ摺動されて封止部14を形取る成形素地Pを押しだすことにより、円筒部12を形取る成形素地Pが伸長される。以上の押出成形工程P2により、多孔質セラミック基材16の円筒部12および封止部14が一体成形され、以後の工程において円筒部の片側の開口に一体的に固着されて開口を封止する封止部の外側表面にガラス層18が形成されて片端封止型筒状セラミックス10が構成される。
このように押出成形機22により円筒部および封止部が一体成形され、乾燥、焼成工程P3を経て得られる多孔質セラミック基材16の表面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率500倍で観察した。図7は、筒状セラミックス10の円筒部12の表面構造を示すSEM写真であり、図8は、筒状セラミックス10の封止部14の突起20以外の部分の表面構造を示すSEM写真であり、図9は、筒状セラミックス10の封止部14の突起20の表面構造を示すSEM写真である。図7および図8に示されるように、円筒部12および封止部14の突起20以外の部分の表面構造は平滑である。一方、図9に示されるように、封止部14の突起20は、外型36の貫通孔34から排出された成形素地Pが外型36が口金24から取り外される際に物理的に破断されて形成されるものであり、円筒部12と比較して平滑ではない。このため、多孔質セラミック基材16の封止部14の一部である突起20および突起20の表面構造の円筒部12と比較しての不平滑性から、多孔質セラミック基材16の外側表面へ分離膜を形成する際、突起20にて均一な膜形成が局部的に妨げられ、分離膜フィルターの基材として用いられる場合には分離性能の劣化を発生させる恐れがあった。このことから、筒状セラミックス10には、多孔質セラミック基材16の突起20を覆うように封止部14の外周側表面にガラス層18が形成されている。
このように構成された筒状セラミックス10は、その封止部14の外周側表面に、たとえば図10に示す、二酸化ケイ素(SiO2)、Al2O3、TiO2、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化亜鉛(ZnO)、三酸化二ホウ素(B2O3)、Bi2O3、アルカリ金属、アルカリ土類金属を主成分とするガラス層18が形成されているため、筒状セラミックス10の表面に欠陥のない均一な分離膜を形成することが可能となり、局部的な分離膜のリークなどの発生による分離膜フィルターの著しい分離性能の劣化を抑制することが可能となる。また、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラス層18の線熱膨張係数との差の絶対値が2×10−6/K未満であるため、800℃から950℃における焼成工程P7においても、ガラス層18のひび割れやガラス層18の多孔質セラミック基材16の内周側表面からの剥離が生じない。このため、分離膜フィルターの分離性能の低下が一層抑制される。
続いて、筒状セラミックス10の封止部14の外周側表面に被覆されたガラス層18の効果を検証するために本発明者等が行った試験について図10から図23に基づいて詳細に説明する。
先ず、多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面に形成されたガラス層18の封止性を評価するため、多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面を被覆するガラスの組成を種々変えて封止性評価試験に供する筒状セラミックスを以下のように準備した。先ず、多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面を被覆するガラスAからガラスGのガラスフリットを調整した。すなわち、図10に示されるようなガラスAからGの各ガラス組成となるように、予め各ガラス原料が混合、溶融されて均一化されたガラスを粉砕し、平均粒径1〜5μmのガラスAからガラスGの各組成を有するガラスフリットとした。このガラスフリットを用いて前記混合工程P4と同様の方法で調整したガラスAからGのガラススラリーに、前記ディップ工程P5において多孔質セラミック基材16の封止部14を10秒間浸漬した後に、前記乾燥工程P6、図10に示されるガラスAからGの各ガラスの被覆時の焼成温度により前記焼成工程P7を実行した。これらの工程により、ガラスAからGによりアルミナを主成分とする多孔質セラミック基材16の封止部14が被覆された、封止性試験に供する筒状セラミックスを作製した。
作製した筒状セラミックスの多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面を被覆するガラスAからGのガラス層の線熱膨張係数を以下のように測定した。前記ガラスAからGの各ガラスのガラスフリットを直径約5mm、長さ10〜20mmの円柱状に成形した後に焼成し、ガラス試験片を形成した。この作製したガラス試験片を示差熱膨張計(TMA8310 Rigaku製)に供して、ガラス試験片の圧縮荷重法による30℃から500℃の平均線熱膨張係数を測定し、ガラスAからGの線熱膨張係数を図10のように評価した。
また、作製した筒状セラミックスの多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数を以下のように測定した。混練工程P1、押出成形工程P2および乾燥、焼成工程P3により、多孔質セラミック基材16が形成される粒径0.2〜4.5μm(平均粒径0.7μm)のアルミナを主成分として、外径5mm、内径3mm、長さ10〜20mmの円筒状の多孔質セラミック試験片を作製した。作製した多孔質セラミック試験片を示差熱膨張計(TMA8310 Rigaku製)に供して、多孔質セラミック試験片の圧縮荷重法による30℃から500℃の平均線熱膨張係数を測定し、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数を図11のように評価した。
図12は、筒状セラミックスの多孔質セラミック基材16の封止部14に形成されたガラスAからGのガラス層の封止性評価試験を説明する図である。封止部14以外の外側表面がエポキシ樹脂で被覆されるとともに、封止部14と反対側の端部の開口がステンレス管46が挿し通されたステンレス製の治具48を用いてエポキシ樹脂50で封止された筒状セラミックスを、耐圧容器52内にステンレス管46の一端部の開口が耐圧容器52外部と練通された状態で、設置した。常温において、外圧との差圧が0.3MPaとなるように筒状セラミックスの外表面から窒素(N2)ガスを0.4MPaで加圧し、ステンレス管46内部を通り、耐圧容器52外部へ抜けるN2ガスリーク量を測定することによる封止性評価を行った。
図13は、筒状セラミックスのガラスAからGのガラス層の上記封止性評価試験の結果および多孔質セラミック基材16とガラス層との線熱膨張係数の差を、筒状セラミックスに形成されたガラス層ごとに示した図である。下段は、多孔質セラミック基材16とガラスAからGにより構成される各ガラス層の500℃における線熱膨張係数(×10−6/K)の差の絶対値であり、すなわち図10のガラスAからGのガラス層の線熱膨張係数と図11の多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数との差の絶対値を示している。また、上段における○印は、ガスリークが生じていないことを示し、それに対して、×印はガスリークが生じていることを示している。
また、上記封止性評価試験に供した筒状セラミックスのガラスAからGのガラス層の表面状態をSEMにより観察した。図14は、封止部14の外側表面がガラスAのガラス層により被覆された筒状セラミックスのガラス層の表面状態を示すSEM写真である。また同様に、図15から図20の各図は、ガラスB、ガラスC、ガラスD、ガラスE、ガラスFおよびガラスGのそれぞれのガラス層により封止部14が被覆された筒状セラミックスのそれぞれのガラス層の表面状態を示すSEM写真である。
図13において、筒状セラミックス10に求められる、500℃における線熱膨張係数が7.1×10−6/℃である多孔質セラミック基材16との線熱膨張係数の差の絶対値が2.0×10−6/℃よりも小さくなるような線熱膨張係数を有するガラスA、B、C、D、Fのガラス層18により多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面が被覆された筒状セラミックス10においては、ガスリークが観察されなかった。これらガスリークが観察されなかったガラスA、B、C、D、Fが封止部14の外側表面に形成された筒状セラミックス10のガラス層18の表面において、ガスリークの原因となるひびなどは観察されなかった。一方、筒状セラミックス10に求められる、500℃における線熱膨張係数が7.1×10−6/℃である多孔質セラミック基材16との線熱膨張係数の差の絶対値が2.0×10−6/℃よりも小さいという条件を満たさない線熱膨張係数を有するガラスEおよびGのガラス層により多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面が被覆された筒状セラミックスにおいては、ガスリークが観察された。これらガスリークが観察されたガラスEおよびGが封止部14の外側表面に形成された筒状セラミックスのガラス層の表面においては、ガスリークの原因となる無数のクラックが観察された。以上の結果から、800℃から950℃の焼成温度における焼成工程P7において、多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面に緻密層としてのガラス層を封止性を担保しつつ形成するためには、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラス層18の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃よりも小さいことが必要であり、上記線熱膨張係数の差の絶対値が大きいほどガラス層に作用する、その表面にクラックを発生させる原因となる内部応力が大きくなることから、より好適には、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラス層18の線熱膨張係数との差の絶対値が1.0×10−6/℃未満であることが望まれる。
続いて、多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面に形成されたガラス層18により筒状セラミックス10に分離膜が良好に成膜されるかを評価するために、筒状セラミックス10に分離膜が成膜されて構成される分離膜フィルターの分離性能を評価する試験を行った。先ず、分離膜が成膜される分離膜用基材として、封止部の外側表面にガラス層が形成された多孔質セラミック基材16、多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面にガラスAのガラス層18が形成された筒状セラミックス10、および一端側が封止部により封止されておらず両端が開口の円筒状セラミック多孔質基材を用意した。円筒状セラミック多孔質基材は、多孔質セラミック基材16と同様の原料である粒径0.2〜4.5μm(平均粒径0.7μm)のアルミナを主成分とした混練物を押出成形機により円筒状に成形した後、乾燥、焼成させて作製した。次に、これら3種の分離膜用基材を、MOR型ゼオライト種結晶(HSZ-600H0A,東ソー製)を粉砕した懸濁液(1.8g/L)に浸漬した。ゼオライト種結晶を担持した分離膜用基材を20分間以上室温にて放置した後、70℃で20分間乾燥した。次に、これらの分離膜用基材を反応合成液(SiO2:Al2O3:Na2O:H2O=3600:15:1000:96000(mol組成))に浸漬した状態で、180℃で6時間水熱合成を行うことにより、多孔質セラミック基材16、筒状セラミックス10、および円筒状多孔質基材の外側表面にゼオライト膜を形成した。ゼオライト膜が成膜された上記3種の分離膜用基材を純水で煮沸洗浄した後に、110℃で3時間乾燥し、分離膜性能評価試験に供する分離膜フィルターとした。
上記分離膜フィルターを以下の条件の酢酸/水の蒸気透過試験(VP試験)に供して分離膜の性能を評価した。
[試験条件]
・膜面積:6.3×10−4m2
・酢酸/水=77wt%/23wt%
・反応温度:125℃
また、分離係数を下記の式に従って求めた。(水/酢酸)分離係数=(透過側水濃度/透過側酢酸濃度)/(供給側水濃度/供給側酢酸濃度)。この分離係数が大きいほど、分離膜により酢酸が透過されず水のみが透過される、すなわちゼオライト分離膜の分離性能が高いことが示される。
また、酢酸/水の蒸気透過試験に供した多孔質セラミック基材16に成膜されたゼオライト膜の表面状態をSEMにより倍率3000倍で観察した。図21は、円筒部12上に成膜されたゼオライト膜の表面形状を示すSEM写真であり、図22は、封止部14の先端に形成された突起20上のゼオライト膜の表面形状を示すSEM写真である。また、酢酸/水の蒸気透過試験に供した筒状セラミックス10のガラスAのガラス層18の境界付近のゼオライト膜の成膜状態をSEMにより観察した。図23は、酢酸/水の蒸気透過試験に供した筒状セラミックス10の多孔質セラミック基材16の外側表面に形成されたガラス層18の環状端面付近を多孔質セラミック基材16の長手方向に切断して示す断面図である。
酢酸/水の蒸気透過試験の結果、封止部14の外側表面にガラス層が形成されていない多孔質セラミック基材16にゼオライト膜が成膜された分離膜フィルターの分離係数は25、筒状セラミックス10にゼオライト膜が成膜された分離膜フィルターの分離係数は23000、両端の開口が封止されていない円筒状セラミック多孔質基材の分離係数は25000であった。分離係数の小さい多孔質セラミック基材16を分離膜用基材とした分離膜フィルターの円筒部12上のゼオライト膜は、図21に示されるように均一に成膜されている一方、封止部14の突起20上のゼオライト膜は、図22に示されるように均一に成膜されていない。このことから、封止部14の外側表面にガラス層が形成されていない多孔質セラミック基材16は、封止部14の先端に突起が形成されていること、および突起の表面構造が円筒部と比較して粗いため、均一なゼオライト膜を形成できず局部的な分離膜のリークなどの発生により分離膜フィルターの性能劣化を引き起こしている一方、筒状セラミックス10は、封止部14の突起20がガラスAのガラス層18により被覆されているため、ゼオライト膜が均一に成膜されて分離膜フィルターの分離性能の低下が抑制されたことが示された。また、図23に示されるようにガラスAのガラス層18の環状端面すなわちガラス層18と多孔質セラミック基材16の境界においても連続的に均一なゼオライト膜が形成されており、多孔質セラミック基材16の封止部14へのガラス層18の形成の、均一なゼオライト膜の成膜に及ぼす影響は小さいことが示された。
上述のように、本実施例の筒状セラミックス10によれば、多孔質セラミック基材16の円筒部12の片側の開口に固着されて開口を封止し、円筒部12に対して表面構造が異なる破断面を有する突起20が形成された封止部14の表面に緻密なガラス層18が形成されている。このため、筒状セラミックス10の表面に欠陥のない均一な分離膜を形成することが可能となり、局部的な分離膜のリークなどの発生による分離膜フィルターの著しい分離性能の劣化を抑制することが可能となる。
また、本実施例によれば、多孔質セラミック基材16がアルミナを主成分として形成される。このため、分離膜フィルターの分離性能を担保するのに適切な多孔性を有するとともに分離膜が成膜されるのに十分な機械的強度を有する筒状セラミックス10を提供することができる。
また、本実施例によれば、筒状セラミックス10の封止部14の外側表面を被覆する緻密層はガラスを主成分とするガラス層18である。このため、ガラス層18の封止性、耐食性により、高酸性または高アルカリ性条件下でも使用可能な分離膜フィルターに適用できる片端封止型多孔質セラミック基材10を提供することができる。
また、本実施例によれば、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラス層18の線熱膨張係数との差が、2×10−6/K未満、好ましくは1×10−6/K未満である。このため、多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面にガラス層18を形成するための焼成工程P7において、ガラス層18のひび割れや多孔質セラミック基材16からの剥離が抑制されることから、筒状セラミックス10に分離膜が成膜されて成る分離膜フィルターの性能劣化を一層抑制することができる。
また、本実施例によれば、ガラス層18の組成は、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2、ZnO、B2O3、Bi2O3、アルカリ金属、アルカリ土類金属を主成分とするものである。このような組成のガラス層18の線熱膨張率は、多孔質セラミック基材16の線熱膨張率との差が、2×10−6未満に調節され得るため、焼成工程P7においてガラス層18のひび割れや多孔質セラミック基材16からの剥離が抑制されて、分離膜フィルターの性能劣化を一層抑制する筒状セラミックス10を提供することができる。
また、本実施例によれば、筒状セラミックス10は、多孔質セラミック基材16の円筒部12と封止部14とが押出成形によって一体成形される。このため、多孔質セラミック基材16の円筒部12と封止部14とを接合する工程が不要となる。これにより、円筒部12と封止部14との接合部分からの被処理流体の処理済み流体への漏れの発生をなくすことができ、また、円筒部12と封止部14との境界の強度を担保することができる。
次に本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
本実施例の筒状セラミックス10は、用いられる原料の主成分であるアルミナの粒径および、押出成形後の焼成温度が異なる以外は、前述の実施例1の製造工程P1からP7と同様の工程で形成される。すなわち、粒径0.7〜1.4μm(平均粒径3.0μm)のアルミナにメチルセルロース系バインダなどの成形助剤および水が加えられて混合、混練されることにより調整される成形素地を押出成形機22に投入し、押し出して図2の多孔質セラミック基材16と同様の片端封止型筒状グリーン成形体を得た。この片端封止型筒状グリーン成形体を乾燥した後、1400℃で2時間焼成することにより、平均細孔径0.8μm、気孔率40%の単層構造の多孔質セラミック基材16が得られる。混合工程P4から焼成工程P7において、この多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面にガラス層18を形成して、本実施例の筒状セラミックス10が構成される。
筒状セラミックス10の多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面に形成されたガラス層18の封止性を評価するため、前述の実施例と同様の方法でガラスAからGのガラス層で封止部14を被覆した筒状セラミックスを封止性評価試験に供した。また、多孔質セラミック基材16の30℃から500℃の線熱膨張係数を前述と同様の方法で測定した。多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数を図11に、封止性評価試験の結果を図13にそれぞれ示す。
図13において、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラスA、B、C、DおよびFのガラス層18の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃未満である筒状セラミックス10では、ガスリークが観察されず、ガラス層18の表面にはガスリークの原因となるクラックが観察されなかった(図示せず)。それに対して、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラスEおよびGのガラス層の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃以上の筒状セラミックスでは、ガスリークが観察され、ガラス層の表面には無数のクラックが観察された(図示せず)。
上述のように、本実施例の筒状セラミックス10によれば、前述の実施例1と同様の効果を得ることができる。
また、本実施例によれば、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラス層18の線熱膨張係数との差が、2×10−6/K未満、好ましくは1×10−6/K未満である。このため、多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面にガラス層18を形成するための焼成工程P7において、ガラス層18のひび割れや多孔質セラミック基材16からの剥離が抑制されることから、筒状セラミックス10に分離膜が成膜されて成る分離膜フィルターの性能劣化を一層抑制することができる。
次に本発明の他の実施例を説明する。図24は、二層構造の筒状セラミックス54の中心を通る平面上の断面図である。筒状セラミックス54は、前述の実施例2の多孔質セラミック基材16と同様の内層56と、その外側表面に形成された平均細孔径が多孔質セラミック基材16よりも小さいアルミナを主成分とする外層58とから成る二層構造の多孔質セラミック基材60と、二層構造の多孔質セラミック基材60の内層56の封止部14の外側表面に形成された外層58の一部分にあたる外側表面に形成されたガラス層18とから構成される。筒状セラミックス54の多孔質セラミック基材60は、以下のようにして得られる。先ず、実施例2の平均細孔径0.8μm、気孔率40%の多孔質セラミック基材16を封止部14が下側になるように、粒径0.2〜4.5μm(平均粒径0.7μm)のアルミナと有機バインダなどと水とを混合、撹拌することにより調整されるアルミナ粒子のスラリー中に30秒間浸漬した。その後、上記スラリーがケーク層として均一に被覆された多孔質セラミック基材16を乾燥させ、1250℃で2時間焼成することにより、平均細孔径0.15μm、気孔率38%のアルミナを主成分とする多孔質膜が外層58として形成された二層構造の多孔質セラミック基材60が得られる。混合工程P4から焼成工程P7おいて、この多孔質セラミック基材60の内層56の封止部14の外側表面にあたる外層58の一部分にガラス層18を形成して、筒状セラミックス54が構成される。
筒状セラミックス54の多孔質セラミック基材60の内層56の封止部14の外側表面にあたる外層58の外側表面に形成されたガラス層18の封止性を評価するため、前述の実施例1および2と同様の方法でガラスAからGのガラス層で外層58の外側表面を被覆した筒状セラミックス54を封止性評価試験に供した。また、二層構造の多孔質セラミック基材60の30℃から500℃の線熱膨張係数を以下の方法で測定した。すなわち、実施例2の多孔質セラミック基材16の原料である粒径0.7〜1.4μm(平均粒径3.0μm)のアルミナを主成分として、外径5mm、内径3mmの円筒状の多孔質セラミックスを作製し、粒径0.2〜4.5μm(平均粒径0.7μm)のアルミナを主成分とするスラリーに浸漬、乾燥、焼成することにより、外径5mm、内径3mm、長さ10〜20mmの二層の円筒状の試験片を作製し、得られた試験片を示唆熱膨張計に供することにより、多孔質セラミック基材60の線熱膨張係数を図11のように評価した。また、封止性評価試験の結果を図13に示す。
図13において、多孔質セラミック基材60の線熱膨張係数とガラスA、B、C、DおよびFのガラス層18の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃未満である筒状セラミックス54では、ガスリークが観察されず、ガラス層18の表面にはガスリークの原因となるクラックが観察されなかった(図示せず)。それに対して、多孔質セラミック基材60の線熱膨張係数とガラスEおよびGのガラス層の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃以上の筒状セラミックスでは、ガスリークが観察され、ガラス層の表面には無数のクラックが観察された(図示せず)。
上述のように、本実施例の筒状セラミックス54によれば、前述の実施例1および実施例2と同様の効果を得ることができる。
また、本実施例によれば、筒状セラミックス54の多孔質セラミック基材60が内層56と平均細孔径が内層よりも小さく緻密な外層58との二層構造である。このような筒状セラミックス54の内層56の封止部14の外側にあたる外層58の外側表面の一部分に緻密なガラス層18が形成されることより、単層構造の筒状セラミックスよりも分離性能が向上された筒状セラミックス54を得ることができる。
次に本発明の他の実施例を説明する。図25は、二層構造の筒状セラミックス62の幅方向の中心を通る平面上の断面図である。筒状セラミックス62は、円筒部64と、円筒部64の片側の開口を封止する封止部66とから成る、主成分がアルミナの多孔質セラミックスである内層70と、内層70と同様に円筒部72と封止部74と、主成分がアルミナの多孔質セラミックスである外層78と、を備える二層構造の多孔質セラミック基材80と、外層78の封止部74の外側表面に形成されたガラス層18とから構成されている。また、円筒部64および円筒部72に対して表面構造が異なる破断面を有し、内層70の封止部66の先端および外層78の封止部74の先端から内層70を内側にしてそれぞれ円筒部64および円筒部72から離隔する方向へ突き出すように突起81が外層78の封止部74の先端に形成されている。
筒状セラミックス62は、以下のように構成される。先ず、粒径15〜50μm(平均粒径35μm)のアルミナ(100mol%)に焼結助剤として平均粒径0.6μmのカオリナイト(Al2Si2O5(OH)4)(3.1mol%)および平均粒径0.5μmのイットリア(Y2O3)(1.3mol%)を添加し混合するとともに、成形助剤としてメチルセルロース系バインダなどおよび水を加えてニーダーで混練し、成形素地Aを得た。同様に、平均粒径7.0μmのアルミナに焼結助剤を添加し混合するとともに、成形助剤としてメチルセルロース系バインダなどおよび水を加えてニーダーで混練し、成形素地Bを得た。次に、二層構造の多孔質セラミック基材を押出成形により一体成形する押出成形機82に、多孔質セラミック基材80の内層70用の成形素地Aおよび外層78用の成形素地Bを供給し、押し出して、二層構造片端封止型グリーン成形体を得た。得られた二層構造片端封止型グリーン成形体を乾燥し、1450℃で2時間焼成することにより、平均細孔径9.3μm、気孔率40%の内層70の外側表面に平均細孔径1.4μm、気孔率40%の外層78が形成された二層構造の多孔質セラミック基材80を構成した。混合工程P4から焼成工程P7において、この多孔質セラミック基材80の外層78の封止部74の外側表面にガラス層18を形成して、筒状セラミックス62が構成される。
図26は、筒状セラミックス62の多孔質セラミック基材80の押出成形工程を詳細に説明する押出成形機82および成形素地A、成形素地Bの断面図である。押出成形機82は、図26中の矢印で示される成形素地Aおよび成形素地Bの押出方向の上流側に設けられた、内筒内部に内層70を形成する成形素地Aおよび内筒と外筒との間に外層78を形成する成形素地Bのそれぞれが投入される内筒および外筒の図示しない二重管と、上記押出方向の下流側に設けられた、外層78の円筒部72の外側表面を形成する一重管とを備えた口金84と、内層70の円筒部64の内側表面および内層70の封止部66の内側表面を形成する、一端部に半球状部85を有する長手状部材であって、口金84の一重管内部に設定される芯金86と、外層78の封止部74の外側表面を形成する半球状の凹部32および押し出された成形素地Aおよび成形素地Bを押出成形機82外部へ排出する貫通孔34とを有し、上記凹部32が口金84の開口に対抗するように着脱可能に取り付けられた外型36とから構成される。この押出成形機82の口金84の二重管の内筒内部に成形素地Aが、内筒と外筒との間に成形素地Bが図26の矢印方向へ押し出されると、二重管により成形素地Bを外側にして二層構造とされた内層70と外層78の円筒部64、72が芯金86と口金84の一重管との間に形成される。更に成形素地Aおよび成形素地Bが押し出されると、芯金86の半球状部85と外型36の凹部32との間において成形素地Bを外側にして内層70の封止部66および外層78の封止部74が形成されて、そのまま外型36の貫通孔34を通じて成形素地Aおよび成形素地Bが押出成形機82外部へ排出される。この状態で外型36が口金84から取り外されると、貫通孔34内部に押し出されていた成形素地Aおよび成形素地Bがその途中で破断されて、外層78を形成する成形素地Bに対して内層70を形成する成形素地Aを内側にして内層70の封止部66および外層78の封止部74のそれぞれの先端から突き出す突起81が形成される。この突起81の破断面は成形素地Aおよび成形素地Bが表面に現れており、外層の円筒部78と比較して表面構造が粗く、平滑ではない。このように口金の二重管の内筒内部および内筒と外筒との間に異なる性質の成形素地Aおよび成形素地Bが各別に供給されて押し出され、押出成形機82中で合流一体化されることで二層構造を有する片端封止型筒状グリーン成形体が得られる。
筒状セラミックス62の多孔質セラミック基材80の外層78の封止部74の外側表面に形成されたガラス層18の封止性を評価するため、前述の実施例1から3と同様の方法でガラスAからGのガラス層で外層78の外側表面を被覆した筒状セラミックス62を封止性評価試験に供した。また、二層構造の多孔質セラミック基材80の30℃から500℃の線熱膨張係数を以下の方法で測定した。すなわち、成形素地Aを内層、成形素地Bを外層として、外径5mm、内径3mm、長さ10〜20mmの二層の円筒状の試験片を作製し、得られた試験片を示唆熱膨張計に供することにより、多孔質セラミック基材80の線熱膨張係数を図11のように評価した。また、封止性評価試験の結果を図13に示す。
図13において、多孔質セラミック基材80の線熱膨張係数とガラスA、B、C、DおよびFのガラス層18の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃未満である筒状セラミックス62では、ガスリークが観察されず、ガラス層18の表面にはガスリークの原因となるクラックが観察されなかった(図示せず)。それに対して、多孔質セラミック基材80の線熱膨張係数とガラスEおよびGのガラス層の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃以上の筒状セラミックスでは、ガスリークが観察され、ガラス層の表面には無数のクラックが観察された(図示せず)。
上述のように、本実施例の筒状セラミックス62によれば、前述の実施例1から実施例3と同様の効果を得ることができる。
また、本実施例によれば、筒状セラミックス62の多孔質セラミック基材80が内層70と平均細孔径が内層よりも小さく緻密な外層78との二層構造である。このような筒状セラミックス62の外層78の封止部74の外側表面に緻密なガラス層18が形成されることより、外層78の円筒部72と比較して表面構造が粗く、外層78よりも平均細孔径の大きい内層70が表面に現れている破断面を有する突起81がガラス層18により覆われて、分離膜の良好な成膜が可能となることから、単層構造の筒状セラミックスよりも分離性能が向上された筒状セラミックス62を得ることができる。
また、本実施例によれば、筒状セラミックス62は、多孔質セラミック基材80の内層70の円筒部64および封止部66、外層78の円筒部72および封止部74とが、口金84の内筒および外筒を設けた二重管の内筒内部に成形素地Aを、内筒と外筒との間に成形素地Bを各別に供給して押出して、押出成形機82内で合流させることで一体成型された二層構造片端封止型筒状グリーン成形体を得る押出成形によって一体成形される。このように構成された筒状セラミックス62は、その二層構造の気孔率や平均細孔径が適切に調節されて、単層の筒状セラミックスよりも分離膜フィルターの分離性能を一層向上することができる。
次に本発明の他の実施例を図1を利用して説明する。本実施例の筒状セラミックス10は、用いられる原料および押出成形後の焼成温度が異なる以外は、前述の実施例1の筒状セラミックス10の製造工程P1からP7と同様の工程で形成される。すなわち、粒径0.5〜50μm(平均粒径17μm)のムライト(3Al2O3・2SiO2)にメチルセルロース系バインダなどの成形助剤および水が加えられて混合、混練されることにより調整される成形素地を押出成形機22に投入し、押し出して図2の多孔質セラミック基材16と同様の片端封止型筒状グリーン成形体を得た。この片端封止型筒状グリーン成形体を乾燥した後、1550℃で2時間焼成することにより、平均細孔径3.2μm、気孔率35%であり、ムライトを主成分とする単層構造の多孔質セラミック基材16が得られる。混合工程P4から焼成工程P7において、この多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面にガラス層18を形成して、本実施例の筒状セラミックス10が構成される。
筒状セラミックス10の多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面に形成されたガラス層18の封止性を評価するため、前述の実施例1と同様の方法でガラスAからGのガラス層で封止部14を被覆した筒状セラミックス10を封止性評価試験に供した。また、多孔質セラミック基材16の30℃から500℃の線熱膨張係数を前述の実施例1と同様の方法で測定した。多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数を図11に、封止性評価試験の結果を図13にそれぞれ示す。
図13において、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラスA、C、D、FおよびGのガラス層18の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃未満である筒状セラミックス10では、ガスリークが観察されなかった。それに対して、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラスBおよびEのガラス層の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃以上の筒状セラミックス10では、ガスリークが観察された。
上述のように、本実施例の筒状セラミックス10によれば、前述の実施例1と同様の効果を得ることができる。
次に本発明の他の実施例を図1を利用して説明する。本実施例の筒状セラミックス10は、用いられる原料および押出成形後の焼成温度が異なる以外は、前述の実施例1の筒状セラミックス10の製造工程P1からP7と同様の工程で形成される。すなわち、平均粒径10μmのイットリア安定化ジルコニア(100wt%)に平均粒径1μmのイットリア安定化ジルコニア(50wt%)が添加されて混合されるとともに、メチルセルロース系バインダなどの成形助剤および水が加えられて混合、混練されることにより調整される成形素地を押出成形機22に投入し、押し出して図2の多孔質セラミック基材16と同様の片端封止型筒状グリーン成形体を得た。この片端封止型筒状グリーン成形体を乾燥した後、1550℃で3時間焼成することにより、平均細孔径1.2μm、気孔率36%であり、イットリア安定化ジルコニアを主成分とする単層構造の多孔質セラミック基材16が得られる。混合工程P4から焼成工程P7において、この多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面にガラス層18を形成して、本実施例の筒状セラミックス10が構成される。
筒状セラミックス10の多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面に形成されたガラス層18の封止性を評価するため、前述の実施例1と同様の方法でガラスAからGのガラス層で封止部14を被覆した筒状セラミックス10を封止性評価試験に供した。また、多孔質セラミック基材16の30℃から500℃の線熱膨張係数を前述の実施例1と同様の方法で測定した。多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数を図11に、封止性評価試験の結果を図13にそれぞれ示す。
図13において、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラスA、B、C、DおよびEのガラス層18の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃未満である筒状セラミックス10では、ガスリークが観察されなかった。それに対して、多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラスFおよびGのガラス層の線熱膨張係数との差の絶対値が2.0×10−6/℃以上の筒状セラミックスでは、ガスリークが観察された。
上述のように、本実施例の筒状セラミックス10によれば、前述の実施例1と同様の効果を得ることができる。
次に本発明の他の実施例を説明する。図27は、筒状セラミックス88の幅方向の中心を通る平面上の断面図である。筒状セラミックス88は、円筒部90と、円筒部90の片側の開口を封止する封止部92とから成る、主成分がアルミナの単層構造の多孔質セラミック基材94と、封止部92の外側表面に形成されたガラス層18とから構成されている。封止部92は、円筒部90と比較してその細孔構造が緻密である。
筒状セラミックス88は、多孔質セラミック基材94を成形する押出成形工程P2において用いられる押出成形機96およびその押出成形機96を用いた押出成形方法が異なる以外は、前述の実施例1の筒状セラミックス10の製造工程P1からP7と同様の工程で形成される。したがって、単層構造の多孔質セラミック基材94の押出成形工程P2を図28から図30を用いて詳細に説明する。
図28は、押出成形工程p2の成形素地充填工程を詳細に説明する押出成形機96および成形素地Cの断面図である。押出成形機96は、円筒部90の外周面形状を形成する口金98と、円筒部90の内周面形状を形成する芯金100と、封止部92の内周面形状を形成する芯金100の先端に設けられた半球状の多孔体から形成された先端型102と、封止部92の外周面形状を形成する半球状の凹部104が口金98の開口に対抗するように設けられた多孔体から成る外型106と、外型106を口金98から着脱可能に収容する外型ホルダー108とから構成されている。芯金100の内部と外型ホルダー108にはそれぞれ空気孔110、112が設けられており、先端型102と外型106の凹部104により構成される封止部形成空間114には、芯金100内部の空気孔110および外型ホルダー108の空気孔112を通じて空気が吹き込み可能とされるとともに、封止部成形空間114から空気が吸引可能とされている。この押出成形機96において、先ず、矢印で示される封止部成形空間114から芯金100内部および外型ホルダー108外部方向へ空気が吸引された状態で、封止部成形空間114へ向けて成形素地Cが充填され押し出される。次に図29において矢印で示されるように、封止部成形空間114から芯金100内部への空気の吸引が維持されつつ、外型ホルダー108の外部方向から封止部成形空間114へ向けて空気が吹き込まれるように圧力がかけられた状態で外型106および外型ホルダー108が口金98から取り外される。最後に図30に示されるように、芯金100内部から先端型102を通じて封止部92を形成する成形素地C方向(矢印方向)へ空気が吹き込まれるように圧力がかけられて所望長さの円筒部90とされた多孔質セラミック基材94が得られる。このように押し出される際に押出方向に成形素地Cの逃げ場のない押出成形機96を用いて形成された多孔質セラミック基材94は、押出成形工程P2の成形素地充填工程において、成形素地Cが封止部成形空間114へ押し出される際に封止部92の先端付近を最高として局部的に高圧が加わるため、封止部92の先端はそれ以外のたとえば円筒部90と比較して緻密な細孔構造となっている。
上述のように、本実施例の筒状セラミックス88によれば、多孔質セラミック基材94の円筒部90の片側の開口に固着されて開口を封止し、円筒部90に対して細孔構造が異なる部分を有する封止部92の表面に緻密なガラス層18が形成されている。このため、筒状セラミックス88の表面に欠陥のない均一な分離膜を形成することが可能となり、局部的な分離膜のリークなどの発生による分離膜フィルターの著しい分離性能の劣化を抑制することが可能となる。
また、本実施例の筒状セラミックス88によれば、前述の実施例1と同様の効果を得ることができる。
次に本発明の他の実施例を説明する。図31は、筒状セラミックス116の幅方向の中心を通る平面上の断面図である。筒状セラミックス88は、円筒部12と円筒部12の片側の開口を封止する封止部14とから成る、主成分がアルミナの単層構造の多孔質セラミック基材16と、封止部14の外側表面および封止部14とは反対側の開口の表面に形成されたガラス層18とから構成されている。また、封止部14の先端には、円筒部と比較して表面構造が粗い破断面を有する突起20が形成されている。
筒状セラミックス116は、ディップ工程P5において多孔質セラミック基材16の封止部14に加えて封止部14とは反対側の端部がガラス層18を構成するガラススラリーに浸漬される以外は、前述の実施例1の筒状セラミックス10の製造工程P1からP7と同様の工程で形成される。
上述のように、本実施例の筒状セラミックス116によれば、前述の実施例1と同様の効果を得ることができる。
また、本実施例の筒状セラミックス116によれば、多孔質セラミック基材16の封止部14とは反対側の開口の表面にガラス層18が形成される。このようにすれば、筒状セラミックス116の開口の表面に形成されたガラス層18が接合剤として機能することにより、上記開口を封止する封止部材が接合されるため、封止部材による封止の際に開口側端部へ締付力を付与することが不要となりそれによる筒状セラミックス116の破損を防ぐことができる。また、筒状セラミックス116の多孔質セラミック基材16の線熱膨張係数とガラス層18の線熱膨張係数との差が2×10−6/K未満であるため、多孔質セラミック基材16の表面への分離膜形成工程における焼成時に、多孔質セラミック基材16と封止部材との接合部においてガスや液体などの漏れの原因となるガラス層18のひび割れなどを好適に防ぐことができ、分離膜フィルターの分離性能を一層向上することができる。
次に本発明の他の実施例を説明する。図32は、筒状セラミックス118の幅方向の中心を通る平面上の断面図である。筒状セラミックス118は、円筒部12と円筒部12の片側の開口を封止する封止部14とから成る、主成分がアルミナの単層構造の多孔質セラミック基材16と、封止部14の外側表面に形成されたガラス層18と、封止部14とは反対側の端部に接合された円筒状のセラミック緻密体120から構成されている。また、封止部14の先端には、円筒部12と比較して表面構造が粗い破断面を有する突起20が形成されている。
筒状セラミックス116は、混合工程P4から焼成工程P7において多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面にガラス層18が形成されることに加えて、多孔質セラミック基材16の封止部14とは反対側の端部にセラミック緻密体が接合される以外は、前述の実施例1の筒状セラミックス10の製造工程P1からP7と同様の工程で形成される。したがって、多孔質セラミック基材16へのセラミック緻密体120の接合方法について、以下説明する。
ディップ工程P5において、混合工程P4で調整された多孔質セラミック基材16の封止部14の外側表面がガラス層18と同組成のガラスフリットから成るガラススラリーに浸漬されるとともに、上記ガラスフリットに適切なバインダまたは溶剤を加えて混合し調整したガラスペーストが多孔質セラミック基材16の封止部14とは反対側の環状端面に付着(塗付)された後に、円筒状のセラミック緻密体120がその環状端面が多孔質セラミック基材16のガラスペーストの付着した環状端面と当接するように多孔質セラミック基材16と組み合わせられる。乾燥工程P6を経て、焼成工程P7において多孔質セラミック基材16とセラミック緻密体120とが組み合わせられた状態で800〜950℃で1時間焼成されて、多孔質セラミック基材16の封止部14の外周側表面が上記ガラスフリットの溶融したガラス層18により被覆されるとともに、多孔質セラミック基材16の環状端面に付着したガラスペーストが溶融、固着することにより多孔質セラミック基材16にセラミック緻密体120が一体に接合された筒状セラミックス118が得られる。
上述のように、本実施例の筒状セラミックス118によれば、前述の実施例1と同様の効果を得ることができる。
また、本実施例の筒状セラミックス118によれば、多孔質セラミック基材16の封止部14の反対側の端部に円筒形状を呈するセラミック緻密体120が接合される。このようにすれば、多孔質セラミック基材16の開口の強度を損なうことなく、セラミック緻密体120を介して封止部材を接合することができ、封止部材による封止の際の締付力を多孔質セラミック基材16の開口側端部へ付与することが不要となりそれによる筒状セラミックス118の破損を防ぐことができる。これにより、分離膜フィルターの分離性能の低下を抑制することができる。
以上、本発明を表及び図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
たとえば、前述の実施例1、4、5の筒状セラミックス10の多孔質セラミック基材16はそれぞれ主成分がアルミナ、ムライト、イットリア安定化ジルコニアであったが、これに限定されるものではなく、たとえば、シリカ、チタニア、窒化珪素、炭化珪素を主成分として多孔質セラミック基材が形成されていてもよい。
また、前述の筒状セラミックス10、54、62、88、116、118は、押出成形機により円筒部と封止部とが一体成形された多孔質セラミック基材の封止部の外側表面にガラス層18が形成されて成るものであったが、これに限定されるものではなく、たとえば、押出成形により円筒部のみを成形した後に封止部を手作業で成形する方法、プレス成形法により封止部を成形する方法、別途準備した封止部を接合剤により円筒部の片側端部に接合する方法などで構成された多孔質セラミック基材の封止部の外側表面にガラス層18が形成されても、分離膜を良好に成膜できるのに加えて、円筒部と封止部との接合部の接合強度を高めて接合部におけるリーク発生などを抑制することができる。
また、前述の円筒部12、64、72、90は、断面が円形であったが、断面が楕円や多面形であっても差支えない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。