以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明の負極活物質は、Si−N結合を有する層状シリコン材料を含むことを特徴とする。
本発明のSi−N結合を有する層状シリコン材料の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある。)は、CaSi2と、ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩とを混合し、前記ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩の分解温度以上の温度で加熱することを特徴とする。
以下、Si−N結合を有する層状シリコン材料を、本発明のシリコン材料ということがある。
以下、本発明を、本発明の製造方法に沿って説明する。
まず、ハロゲン化アンモニウムとして塩化アンモニウムを採用した場合の本発明の製造方法の反応機構を以下に説明する。
加熱により、まず、塩化アンモニウムが分解し、塩化水素が放出される。
NH4Cl → HCl + NH3
次に、CaSi2が上記放出された塩化水素と作用し、Si6H6で表される層状シリコン化合物となる。
3CaSi2 + 6HCl → Si6H6 + 3CaCl2
そして、系内のSi6H6とNH3とが反応し、Si−N結合を有する中間体Si6H5NH2を生成する。
Si6H6 + NH3 → Si6H5NH2 + H2
ここでは、便宜上、Si6H6とNH3とがモル比1:1で反応し、1モルの水素が離脱する場合の反応式を示した。もちろん、Si6H6とNH3との反応がさらに進行し、例えばSi6H4NHなる中間体が生成するなどして、2モル以上の水素が離脱する場合も当然に想定される。さらに、Si6H6とNH3とがモル比1:2やモル比2:1などで反応し、Si6H4(NH2)2やSi6H2(NH)2、Si6H5NHSi6H5などの中間体が生成する場合も当然に想定される。
そして、中間体Si6H5NH2から水素が離脱する温度条件で中間体Si6H5NH2を加熱することで、Si6H5NH2の水素が離脱して、Si−N結合を有するシリコン材料が得られる。
2Si6H5NH2 → 2Si6N + 7H2↑
ここで、特許文献4や特許文献5の製造方法においては、CaSi2からシリコン材料を製造するために、CaSi2と酸を水溶液中で反応させて層状シリコン化合物を合成する工程、層状シリコン化合物を水溶液中から分離する工程、そして、当該層状シリコン化合物を加熱して水素を離脱させる工程と、少なくとも3工程が必要であった。
しかし、本発明の製造方法では、CaSi2と、ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩とを加熱するとの1工程のみで、シリコン材料を得ることができる。
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
CaSi2は、一般にCa層とSi層が積層した構造である。CaSi2は、公知の製造方法で合成してもよく、市販されているものを採用してもよい。本発明の製造方法に用いるCaSi2は、あらかじめ粉砕しておくことが好ましい。
ハロゲン化アンモニウムとしては、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウムを挙げることができる。
1級アミンハロゲン酸塩は、1級アミンとハロゲン化水素の塩である。2級アミンハロゲン酸塩は、2級アミンとハロゲン酸の塩である。
1級アミンの化学構造はR1NH2であり、2級アミンの化学構造はR2R3NHである。ここで、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、炭化水素基である。R2とR3とは、互いに結合して環を形成していてもよく、当該環の炭素の一部が酸素、硫黄若しくは窒素で置換されていてもよい。
炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケン基、シクロアルケン基、アルキン基、シクロアルキン基、芳香族炭化水素基を挙げることができる。なお、炭化水素の水素は、一般的な置換基や他の炭化水素基で置換されていても良く、炭化水素の炭素の一部が酸素、硫黄若しくは窒素で置換されていてもよい。
アルキル基の炭素数としては、1〜18、1〜12、1〜6を挙げることができる。アルケン基、アルキン基の炭素数としては、2〜18、2〜12、2〜6を挙げることができる。シクロアルキル基、シクロアルケン基、シクロアルキン基の炭素数としては、3〜18、4〜12、5〜8を挙げることができる。芳香族炭化水素基の炭素数としては、6〜18、6〜14、6〜10を挙げることができる。具体的な芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基を挙げることができる。
1級アミンの具体的としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、t−ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ベンジルアミン、1−フェニルエチルアミン、2−フェニルメチルアミン、1−フェニルプロピルアミン、1−フェニルブチルアミン、ジフェニルメチルアミン、ナフチルアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。
2級アミンの具体的としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−i−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−i−ブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジドデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジオレイルアミン、ジステアリルアミン、ジフェニルアミン、フェニルメチルアミン、フェニルエチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、モルホリン等が挙げられる。
ハロゲン化水素としては、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸がある。
本発明の製造方法には、ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩若しくは2級アミンハロゲン酸塩を単独で用いてもよいし、これらの複数を併用してもよい。
さて、一般に、ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩は固体であり、CaSi2も固体である。本発明の製造方法においては、固体のCaSi2とハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩とを、無溶媒で反応させてもよいし、有機溶媒存在下で反応させてもよい。
CaSi2と、ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩との使用割合は、使用するCaSi2のCaに対し、ハロゲン化水素のモル比が2以上であることが好ましい。よって、通常であれば、ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩は、使用するCaSi2のモル数に対して、2倍以上のモル数を使用するのが好ましい。
本発明の製造方法は、大気下で行ってもよいし、加圧条件下で行ってもよいが、シリコン材料の酸化を防ぐためにアルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
本発明の製造方法の加熱温度は、ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩の分解温度以上の温度である。1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩を用いる場合には、これらの炭化温度以上の温度が好ましい。
本発明の製造方法に、1級アミンハロゲン酸塩若しくは2級アミンハロゲン酸塩を用いた場合には、得られるSi−N結合を有するシリコン材料に炭素被覆が設けられる場合がある。例えば、1級アミンハロゲン酸塩としてベンジルアミン塩酸塩を用い、炭素被覆されたSi−N結合を有するシリコン材料を得る場合の反応機構を説明する。
加熱により、まず、ベンジルアミン塩酸塩が分解し、塩化水素が放出される。
C6H5CH2NH3Cl → HCl + C6H5CH2NH2
次に、CaSi2が上記放出された塩化水素と作用し、Si6H6で表される層状シリコン化合物となる。
3CaSi2 + 6HCl → Si6H6 + 3CaCl2
そして、系内のSi6H6とC6H5CH2NH2とが反応し、Si−N結合を有する中間体Si6H5NHCH2C6H5を生成する。
Si6H6 + C6H5CH2NH2 → Si6H5NHCH2C6H5 + H2
ここでは、便宜上、Si6H6とC6H5CH2NH2とがモル比1:1で反応し、1モルの水素が離脱する場合の反応式を示した。
そして、中間体Si6H5NHCH2C6H5から水素が離脱し、かつ、炭化水素が炭化する温度条件で中間体Si6H5NHCH2C6H5を加熱することで、Si6H5NHCH2C6H5の水素が離脱しつつ、ベンジル基が炭化した結果として、炭素で被覆され、Si−N結合を有するシリコン材料が得られる。
2Si6H5NHCH2C6H5 → 2C/Si6N (炭素複合化) + 13H2↑
この製造方法によれば、CaSi2と、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩とを加熱するとの1工程のみで、炭素被覆シリコン材料を得ることができる。
本発明のシリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれる。本発明の製造方法における加熱温度により、本発明のシリコン材料に含まれるアモルファスシリコン及びシリコン結晶子の割合、並びに、シリコン結晶子の大きさを適宜調製することもでき、さらには、製造されるシリコン材料に含まれる、アモルファスシリコン及びシリコン結晶子を含むナノ水準の厚みの層の形状や大きさを適宜調製することもできる。なお、本発明のシリコン材料の層状態は、基本的に原料のCaSi2におけるSi層の配置に由来すると考えられる。
上記シリコン結晶子サイズは、0.5nm〜300nmの範囲内が好ましく、1nm〜100nmの範囲内がより好ましく、1nm〜50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm〜10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子サイズは、シリコン材料に対してX線回折測定を行い、得られたX線回折チャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
本発明の製造方法により、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する本発明のシリコン材料を得ることができる。この構造は、走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。本発明のシリコン材料を、リチウムイオン二次電池の活物質として使用することを考慮すると、リチウムイオンの効率的な挿入及び脱離反応のためには、板状シリコン体は厚さが10nm〜100nmの範囲内のものが好ましく、20nm〜50nmの範囲内のものがより好ましい。また、板状シリコン体の長軸方向の長さは、0.1μm〜50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長軸方向の長さ)/(厚さ)が2〜1000の範囲内であるのが好ましい。本発明の製造方法にて得られる本発明のシリコン材料の積層構造は、特許文献4及び特許文献5で得られるシリコン材料の積層構造と比較して、整然としている。
一般に有機化合物は400℃付近から炭化する。そして、加熱温度が高ければ高いほど、導電性の高い炭化物が得られる。また、ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩の分解温度は、一般に、有機化合物の炭化温度よりも低い。
また、窒素を含むシリコン化合物は1500℃以上の温度で加熱することによって、Si3N4などとして結晶化する場合がある。このような結晶構造を取った場合、電気化学的に不活性になることが知られている。
これらの事項を総合すると、本発明の製造方法の加熱温度としては、300〜1500℃の範囲内が好ましく、500〜1300℃の範囲内がより好ましく、600〜1200℃の範囲内がさらに好ましい。
また、本発明の製造方法においては、ハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩の分解温度以上の温度で加熱する工程、並びに、中間体の分解温度以上すなわち水素離脱温度及び/又は炭化水素の炭化温度以上の温度で加熱する工程を含む2段階以上の多段階加熱条件としてもよい。
さらに、本発明の製造方法においては、加熱条件を、原料に付着した水分を除去可能な温度で加熱する工程、または、シリコン材料に含まれるシリコンの結晶状態やシリコン材料の厚みを加熱して調製する工程を、別途含む3段階以上の多段階加熱条件としてもよい。
具体的な多段階加熱条件としては、100〜200℃の範囲内で加熱する水分除去工程、100〜350℃の範囲内で加熱するハロゲン化アンモニウム、1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩の分解工程及び中間体製造工程、400〜1500℃の範囲内で加熱するシリコン材料製造工程を選択することができる。
本発明の製造方法により得られたシリコン材料は、粉砕や分級を経て、一定の粒度分布の粒子としてもよい。本発明のシリコン材料の好ましい粒度分布としては、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合に、D50が1〜30μmの範囲内を例示できる。
本発明の製造方法により得られたシリコン材料は、比誘電率5以上の溶媒で洗浄する洗浄工程に供されるのが好ましい。洗浄工程は、シリコン材料に付着している不要な成分を、比誘電率5以上の溶媒(以下、「洗浄溶媒」ということがある。)で洗浄することにより除去する工程である。同工程は、主に、ハロゲン化カルシウムなどの洗浄溶媒に溶解し得る塩を除去することを目的としている。例えば、塩化アンモニウムを用いた製造方法の場合、シリコン材料には、CaCl2が残存していると推定される。そこで、洗浄溶媒でシリコン材料を洗浄することにより、CaCl2を含む不要な成分を洗浄溶媒に溶解させて除去できる。洗浄工程は、洗浄溶媒中にシリコン材料を浸漬させる方法でもよいし、シリコン材料に対して洗浄溶媒を浴びせる方法でもよい。
洗浄溶媒としては、塩の溶解しやすさの点から、比誘電率がより高いものが好ましく、比誘電率が10以上や15以上の溶媒をより好ましいものとして提示できる。洗浄溶媒の比誘電率の範囲としては、5〜90の範囲内が好ましく、10〜90の範囲内がより好ましく、15〜90の範囲内がさらに好ましい。また、洗浄溶媒としては、単独の溶媒を用いても良いし、複数の溶媒の混合溶媒を用いても良い。
洗浄溶媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ベンジルアルコール、フェノール、ピリジン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジクロロメタンを挙げることができる。これらの具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換したものを洗浄溶媒として採用しても良い。洗浄溶媒としての水は、蒸留水、逆浸透膜透過水、脱イオン水のいずれかが好ましい。
参考までに、各種の溶媒の比誘電率を表1に示す。
洗浄溶媒としては、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、アセトンが特に好ましい。
洗浄工程の後には、濾過及び乾燥にてシリコン材料から洗浄溶媒を除去することが好ましい。
洗浄工程は複数回繰り返してもよい。その際には、洗浄溶媒を変更しても良い。例えば、初回の洗浄工程の洗浄溶媒として比誘電率の著しく高い水を選択し、次回の洗浄溶媒として水と相溶し、かつ沸点の低いエタノールやアセトンを用いることによって、水を効率的に除去できるとともに、容易に洗浄溶媒の残存を防ぐことができる。
洗浄工程の後の乾燥工程は減圧環境下で行うことが好ましく、洗浄溶媒の沸点以上の温度で行うことが更に好ましい。温度としては80℃〜1100℃が好ましい。
上述した反応機構における反応式では、本発明のシリコン材料をSi6Nや炭素被覆Si6Nで表したが、実際に得られる本発明のシリコン材料には、原料由来の不純物や製造工程や洗浄工程に由来する不純物が混入される。
本発明のシリコン材料を組成式で示すと、SiNsCtOuCavXwとなる。Xはハロゲンである。なお、不可避不純物の規定は著しく困難であるから、上記組成式にはその規定はしていない。本発明のシリコン材料に不可避不純物が含まれる場合があるのは当然である。
本発明のシリコン材料がハロゲン化アンモニウムを用いて製造された物の場合、 s、t、u、v、wはそれぞれ0<s<1、0≦t<1、0≦u<1、0≦v<0.5、0≦w<1を概ね満足する。そして、s、t、u、v、wはそれぞれ0<s<0.5、0≦t<0.2、0≦u<0.4、0≦v<0.1、0≦w<0.4の範囲内が好ましく、0.01<s<0.4、0≦t<0.1、0≦u<0.3、0≦v<0.05、0≦w<0.3の範囲内がより好ましく、0.05<s<0.3、0≦t<0.08、0≦u<0.25、0≦v<0.04、0≦w<0.25の範囲内がさらに好ましい。
本発明のシリコン材料が1級アミンハロゲン酸塩又は2級アミンハロゲン酸塩を用いて製造された炭素被覆シリコン材料の場合、s、t、u、v、wはそれぞれ0<s<1、0<t<2、0≦u<1、0≦v<0.5、0≦w<1を概ね満足する。s、t、u、v、wはそれぞれ0<s<0.5、0<t<1.5、0≦u<0.3、0≦v<0.3、0≦w<0.4の範囲内が好ましく、0.01<s<0.4、0.05<t<1、0≦u<0.25、0≦v<0.25、0≦w<0.3の範囲内がより好ましく、0.02<s<0.3、0.1<t<0.7、0≦u<0.2、0≦v<0.2、0≦w<0.25の範囲内がさらに好ましい。
本発明の製造方法で得られるシリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の負極活物質として使用することができる。
以下、本発明のシリコン材料を負極活物質として具備する二次電池を本発明の二次電池といい、本発明のシリコン材料を負極活物質として具備するリチウムイオン二次電池を本発明のリチウムイオン二次電池という。そして、本発明の二次電池について、本発明のリチウムイオン二次電池を例にして、以下説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、具体的には、正極、本発明のシリコン材料を負極活物質として具備する負極、電解液及びセパレータを具備する。
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
正極活物質としては、層状化合物のLiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS2などの金属硫化物、V2O5、MnO2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましく、1:0.01〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.03〜1:0.1であるのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
結着剤は、活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースを例示することができる。これらの結着剤を単独で又は複数で採用すれば良い。
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.001〜1:0.3であるのが好ましく、1:0.005〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.01〜1:0.15であるのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。集電体については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
負極活物質としては、本発明のシリコン材料を含むものであればよく、本発明のシリコン材料のみを採用してもよいし、本発明のシリコン材料と公知の負極活物質を併用してもよい。
負極に用いる導電助剤及び結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を混合し、スラリーを調製する。上記溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
電解質としては、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2等のリチウム塩を例示できる。
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3などのリチウム塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
(実施例1)
以下のとおり、実施例1の炭素被覆シリコン材料及びリチウムイオン二次電池を製造した。
CaSi2とプロピルアミン塩酸塩をモル比1:2で混合し、混合物とした。アルゴン雰囲気下、当該混合物を電気炉内に配置した。電気炉の温度を200℃に設定し、前記混合物を200℃で1時間加熱した。次いで、電気炉の温度を300℃に設定し、前記混合物を300℃で1時間加熱した。さらに、電気炉の温度を900℃に設定し、前記混合物を900℃で1時間加熱して焼成体とした。
得られた焼成体を水で洗浄した後に、アセトンで洗浄し、次いで減圧乾燥して、実施例1の黒色の炭素被覆シリコン材料を得た。
負極活物質として実施例1の炭素被覆シリコン材料70質量部、負極活物質として天然黒鉛15質量部、導電助剤としてアセチレンブラック5質量部、バインダーとしてポリアミドイミド10質量部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを混合し、スラリーを調製した。上記スラリーを、集電体としての厚さ約20μmの電解銅箔の表面にドクターブレードを用いて塗布し、乾燥して、銅箔上に負極活物質層を形成した。その後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。これを200℃で2時間真空乾燥し、負極活物質層の厚さが20μmの負極を形成した。
上記の手順で作製した負極を評価極として用い、リチウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製した。対極は厚さ500μmの金属リチウム箔とした。
対極をφ13mm、評価極をφ11mmに裁断し、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルター及びCelgard社製「Celgard2400」)を両極の間に介装して電極体とした。この電極体を電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に収容した。電池ケースに、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解した非水電解液を注入し、電池ケースを密閉して、実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
(実施例2)
プロピルアミン塩酸塩の代わりにベンジルアミン塩酸塩を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の黒色の炭素被覆シリコン材料及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例3)
プロピルアミン塩酸塩の代わりに塩化アンモニウムを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の褐色のシリコン材料及びリチウムイオン二次電池を製造した。なお、塩化アンモニウムには炭素が存在しないので、実施例3のシリコン材料は基本的に炭素被覆されていない。
(実施例4)
プロピルアミン塩酸塩の代わりに臭化アンモニウムを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の褐色のシリコン材料及びリチウムイオン二次電池を製造した。なお、臭化アンモニウムには炭素が存在しないので、実施例4のシリコン材料は基本的に炭素被覆されていない。
(評価例1)
実施例1及び2の炭素被覆シリコン材料、実施例3及び4のシリコン材料につき、蛍光X線分析装置、酸素窒素分析装置EMGA(株式会社堀場製作所)、及び、炭素硫黄分析装置EMIA(株式会社堀場製作所)にて、組成分析を行った。結果を表2に示す。表2の数値は質量%である。
表2の結果から、実施例1及び実施例2の炭素被覆シリコン材料には、シリコンが主成分として存在し、さらに、窒素及び炭素が明確に存在することが裏付けられた。実施例3及び実施例4のシリコン材料には、シリコンが主成分として存在し、さらに、窒素が明確に存在することが裏付けられた。なお、実施例3及び実施例4のシリコン材料から炭素が検出されたが、当該炭素は、アセトン洗浄時のアセトンが残留したか、又は、アセトン洗浄時に活性なシリコン部位とアセトンとが反応して生成した炭素含有物に由来すると推定される。各実施例で観測されたOは、原料、水洗浄、アセトン洗浄又は大気由来と考えられる。
(評価例2)
実施例1及び実施例2の炭素被覆シリコン材料を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。得られたSEM像を図1及び図2に示す。
図1及び図2から、整然とした層状構造、及び、層状のシリコン材料に薄く炭素被覆が為された様子が観察される。観察される層間は、原料として用いた層状のCaSi2からCaが離脱した空間と推察される。
(評価例3)
実施例1の炭素被覆シリコン材料につき、赤外分光光度計にてIRスペクトルを測定した。参考例として、特許文献4に記載のシリコン材料についてのIRスペクトルも測定した。結果を図3に示す。
実施例1の炭素被覆シリコン材料のIRスペクトルからは、Si−N結合に由来する800cm−1付近の吸収が観察された。本発明のシリコン材料がSi−N結合を有することが裏付けられた。他方、参考例のIRスペクトルからは、Si−N結合に由来する吸収が観察されず、1000cm−1付近のSi−O結合に由来する吸収が観察された。
(評価例4)
実施例1〜実施例4のリチウムイオン二次電池について、温度25℃、電流0.2mAで評価極の対極に対する電圧が0.01Vになるまで放電を行い、次いで温度25℃、電流0.2mAで評価極の対極に対する電圧が1Vになるまで充電を行った。この時の(充電容量/放電容量)×100を初期効率(%)として算出した。
さらに、各リチウムイオン二次電池について、温度25℃、電流0.2mAで評価極の対極に対する電圧が0.01Vになるまで放電を行い、10分後に温度25℃、電流0.2mAで評価極の対極に対する電圧が1Vになるまで充電を行い、そして、10分休止するとのサイクルを、30サイクル繰り返した。100×(30サイクル後の充電容量)/(1サイクル後の充電容量)の値を容量維持率として算出した。なお、評価例4では、評価極にLiを吸蔵させることを放電といい、評価極からLiを放出させることを充電という。
以上の結果を表3に示す。
表3から、いずれのリチウムイオン二次電池も充放電容量を示すことが確認され、充放電サイクル後でも容量が維持されることが確認された。特に、実施例2及び実施例4のリチウムイオン二次電池における、初期効率及び容量維持率は著しく優れていた。本発明のシリコン材料が活物質として機能することが裏付けられた。